本部

夢に問われて問わず語りを

若草幸路

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
0人 / 0~0人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/09/16 17:14

掲示板

オープニング

●魂は共にあり、されど同一にあらず
 能力者(リンカー)と英雄(リライヴァー)の眠りは別々だ。同床異夢――数々の例外はあれど、究極的には別の存在であるというその事実は、意識するしないにかかわらず、リンカーを励ましもし、苛みもする。いかに愛し愛され憎み憎まれ、共に歩み、その魂に誓い合い共鳴し力を行使しようとも、本質的にはその深奥が重なることがないのは、喜びだろうか、哀しみだろうか。

 そんなことはあまり気にも留めずに戦った、とある任務のあと。ふと訪れた深い眠りは、リンカーの魂を、リライヴァーの力すら及ばぬ夢の深淵へといざなった。
 
●夢が問う問う君を問う
 あなたの意識が覚醒すると、すぐにこれは夢であるとわかった。木漏れ日のある森の奥を思わせる薄暗くほの明るい場所に、淵があった。
 そのほとりに、ひたと見つめてくるものがいる。あなたが誓約を交わしたリライヴァーではないが、同じぐらいに重要な誰かの顔かたちだ。

 ――目の前にいるその姿が口を開き、己の心を問うてきた。

解説

●今回のシナリオについて
 夢の中で「なぜ戦うのか」を、リンカーにとって大事な人(※英雄以外)が問うてきますので、思い思いに語って下さい。実質的に自問自答です。
 また、問いかけてくる存在は、現実の人物がどうであれやや否定的なニュアンスで問うてきます。
 (例:「つらくはないのか」「お前はそれでいいのか」)

●注意点
 ▽今回、英雄の参加はできません。そのため、英雄への言及は個人名が出ない形にぼかされます。
 (例:「○○が」→「誓約を交わした英雄が」)
 ▽他PCへの言及も、同時参加ではない場合、個人名が出ない形にぼかされます。
 (例:「(親友関係にある)○○が」→「親友が」)

リプレイ

●淵には焦燥
 ふう、と木霊・C・リュカ(aa0068)は息をついた。この静寂はひさかたぶりだ。独りでいることも、きっと。ぼんやりとした光景の中、耳に響く音がある。水音、かざぐるまのからからと回る音、そして、茫漠とした姿。
 ああ、おそらく彼女だ。おそらくというのは、記憶にある顔がはっきりとした像ではないからだ。しかしリュカはそれが彼女――南ハル子である、ということに確信を持っている。
 ほろ苦い記憶と、リンカーとして在るかぎり繰り返し立ち現れる問いを遺していった人。
「ふふーふ、我ながら粋な人選だ」
 リュカはそのまま、声のする方へ歩み始めた。自由の利かない視界を白杖と触覚で補いながら淵に近づき、屈んで手を伸ばすとひやりとした触感がある。これが夢ならひょっとして、と少しすくって呑んでみる。果たせるかな、涼やかで甘い酒精が味覚をくすぐった。隣の姿を見やり、ふわりと微笑んでみせる。
「素面で語り合うなんて、気恥ずかしすぎるじゃない?」
 そのまま酒をもうひとすくい呑み、ぽつりぽつりと語り出す。相槌の声もぼんやりとしていた。人は声から忘れていくというの本当らしい。
 善性愚神にせよマガツヒの暴れぶりにせよ、最近は一筋縄ではいかないことばかりで、どうにもこうにも辛くなること。
 けれど、その荒波をかきわけて前進する少女が、相棒が、友がいること。
 彼らの輝きにもともとぼんやりとしている視界は眩むばかりで、それに比べて自分は変わり栄えがしない、ということ。
「俺だけだよ、まだここにいるのは」
『お兄さん』
 飛び上がるほどに驚いた。声が鮮明に像を結んだのだ。そのままあの日のような口ぶりで、ハル子は問うてくる。
『そのままで居ちゃいけないの?』
 その言葉に、リュカはゆるやかにかぶりを振った。そういわれてしまえばそれだけの話だ。けれど、それだけではいけない。
「置いてかれたく、ないんだ」
 皆の物語に触れるのは大好きだ。けれど、それは結局語り部であり傍観者。もう今のリュカには、それでよしとはできなかった。
「皆と一緒に……物語の中に、居たいなぁ」
 嘆息して、空を振り仰ぐ。覚醒に向かう酩酊で揺らぐ視界の中、ハル子の姿はいつのまにか消えていた。

●淵には自律
 エス(aa1517)の意識は、夢とはわかっていながら、まだぼんやりとしている。弱々しい体にむち打つような早さで歩いているのは、追われることを恐れているからだ。
「……そうだ、私は家から……」
 抜け出してきた場所のことを思うと怖気が走った。父の過保護ぶりを嘆くとともに、それ以上の恐怖が首筋をつたう。もっとねばついた、おぞましい何か。思考を巡らせそうになって、慌ててかぶりを振った。
「……それでも、”私達”の父親なんだ」
 ひとりごちながら、恐れを振り払うようになかば走るような歩みを続ける。やがて、見慣れたつくりの窓が見えてきた。
「今日も間抜け面で、外見てるんだろうな」
 幼なじみの顔を想像してくつくつと湧き上がる笑いを噛み殺しながら、記憶通りにすっくと立っている大樹を登り、窓を叩く。
「やあ、開けてくれないか?」
 だが家中の彼は背を向けている。冗談めかして言葉を重ねるとようやく鍵を開けてくれたが、視線をこちらに向けず、やや俯いていた。それに、見慣れた彼ではない。上背のある、双眸が鋭く輝く青年がそこにいる。
 それは眠りに落ちる前の世界、現在の彼に違いなかった。今はもうエスは父から離れていて、彼はエージェントとして活躍している。その姿に、エスの意識が徐々に開かれていった。これは夢、窓は過去、高校のころの思い出、そして囚われている記憶。

 愚神の起こした地下鉄事故に巻き込まれたあの日。
 父に閉じ込められていた日々。
 他ならぬ彼の姿を映像で目にして、自分の人生のために立ち上がった瞬間。

 記憶の奔流に灼かれながら、エスはこちらを見ずに言葉を紡ぐ彼を眺めて微笑む。その一瞬、しかし永遠にも思える時間が、エス自身によって破られる。
「私は自由のために許されざる罪を犯した。――だから、キミとは生きていけない」
 答えを待たず、ようやく顔を上げてくれた幼なじみの唇にそっとくちづけと、ありがとうという言葉だけを落とした。
「さ、新しい世界だ」
 記憶よりもずっとがっしりした手を取ると、世界が白く薄れていった。大樹も地面もなにもかも消え失せ、互いの自由落下する質量だけが鮮やかだ。エスは瞑目し、とびきり優しく彼に呼びかける。

 ――親愛なる友よ。またいつかどこかで、必ず会おう。

●淵には面影
 かつて見慣れていた部屋の窓際に、真壁 久朗(aa0032)は腰掛けていた。背後から声が響く。
『やあ、久朗』
 振り返る気にはなれなかった。そのなれなれしい口ぶりは、ずっと探していた人のものなのに。
『振り向いておくれよジュリエット。色男を待たせておくなんて』
 思わず吹き出しそうになるのをこらえて窓を開けてやる。だがどうしてか、視線を上げて顔を見ることができずにいた。3年、いや6年? それほど歳月をかけて出会えたのに、と逡巡する。
 その思考の中で、ふいに自身のの口が動いた。
「ずっと、どこにいたんだ?」
 一番気になっていたことだ。
 見てもいないのに、幼なじみは笑みを浮かべていると確信できる妙な安心感につられて、久朗はとめどもなく言葉を紡ぐ。
「ちゃんと助けられたのか、ずっと不安だった」
 目の前にいるのが本人であるという確証はなかった。けれど、止められはしない。
「見つけてどうしたいか、何を言いたいかなんて何も考え付かなかったけど、唯一……俺の、やりたいと言える目的だった」
『久朗』
 からかうような、けれどやさしく呼ぶ声に、ようやく視線を声のもとへ向けた。
「……”  ”」
 幼なじみの名を呼ぶ。悪戯っぽい笑みを浮かべた、きらきらと滑らかな正絹の髪を風になびかせるなつかしいひと。いまこの瞬間が止まればいいと、久朗は心から願った。
 けれどこれは夢、目覚めれば記憶に残るかどうかの、曖昧な世界だ。
『私は――』
 幼なじみの紡いだ別離めいた響きにたじろいだ瞬間、視界がホワイトアウトする。夢から落ちる意識に残るのは、繋がれた手と唇へのあたたかな感触、そして頬に流れる熱い何かだけだった。

●淵には約定
 柳生 楓(aa3403)は、決して忘れることなどない姿を見ている。
『どうして戦うの?』
 そう問うてくるのは、かつて失った妹。その表情は読めない。その姿を目の前にして、楓は絞り出すように語る。
「私は……貴方を失ってから、もう誰も死なせたくない一心で戦ってきました」
 守れなかったことを悔いつづけ、その罪科をそそぐために戦っている。自分の見ている誰かが命を失うことを厭い、人々を守っている。
『つらくない?』
 再度の問いとともに、少女が首を傾げた気がした。表情は相変わらず感情を読み取ることができない。楓はぐっと胸を押さえ、しっかりとその瞳を見つめ返して答えた。
「辛いですよ。茨の道であることも理解してます。それでも、歩むことはやめません」
『どうして?』
「あの人と約束したからです」
 英雄の顔が脳裏に浮かぶ。誓約を交わした英雄と共に歩むという僥倖があるかぎり、この贖罪が已むことはなく、また誰かを救うことを諦めることもないだろう。楓はふわりと微笑み、少女に歩み寄ってその頬に触れた。
「……さよならです。会えてよかった」
 別れの言葉は寂寥感に満ち、けれど穏やかに目覚めを運んでくる。視界が夢から離れる刹那、楓は妹が微笑み返してくれたのを見た気がした。

●淵には親愛
 戦う理由を問われて、目の前の相手が大切な親友でないことはすぐに分かった。魂置 薙(aa1688)は携えていた赤椿の御守りに触れながら、微笑んで答える。
「なぜ、って。守りたいものがあるから」
 彼は親友ではないが、けれど親友の姿をしている。だから、うろたえもせず、飾りもせず、ただ思ったことを語ることができた。
「最初は愚神が憎かった」
 そして、それよりも弱い自分を憎んでいた。敵を倒せるならば自身の行く末など気にも掛けなかった。笑えなかったのは、顔の怪我のせいばかりではない。
「でも、今は違う。毎日が楽しい」
 友人たちと共にあるのは楽しく、その喜びが互いを満たす。いつしか、そんな日常の幸福を守ろうと願うようになっていた。手の届く距離は知れているけれど、できることをやり抜いて無事に帰りつきたい。
 そう思えるようになったのは君のおかげ、と薙は柔らかく答える。親友の姿が、再び口を開いた。
『もう憎くないの?』
 発せられた2つ目の問いに、薙は哀しげに首を横に振った。
「……多分、憎しみは消えたわけじゃない」
 楽しいという感情を得た分、埋み火になっただけなのだろう。それは少し怖いものだ。
「でも、一人じゃないから」
 かたわらには友たちが、頼みに思う英雄がいる。この人たちがいるのなら大丈夫だと、今の薙には確信できた。その信念と親愛を胸に、言い切る。
「大切なものを守りたい。だから、王を倒すその時まで戦うよ」
 その言葉に、親友の姿がようやく相好を崩した。陽光が射してくるのを、目覚めの予感とともに薙は感じる。光と風が、日々の暮らしに似て暖かだった。

●淵には矜持
 御神 恭也(aa0127)は、立ち尽くして怪訝な顔をするばかりだ。
「何者からの攻撃とかでは無いようだが……」
 予測とは裏腹に、敵意や悪意は周囲にない。ただ凜と張り詰めた空気だけだ。何度かのまばたきの時、霧深い中から壮年の男が忽然と現れた。
 その姿に、恭也は覚えがある。得物にも、自分に似た面差しにも。
「……親父か?」
『何故、戦う』
 その問いかけに対して、恭也は男を見据えて問い返す。
「真意がわからんな。――此方を害しようとする連中だ、身の安全を図るためには抗うのは当然だと思うが?」
『お前を害そうとしたわけではあるまい』
 恭也の片眉がぴくりと跳ねた。確かにこれまで対峙した敵は、恭也という個を標的としたわけではない。降りかかる火の粉というには、その炎は遠かった。
『安住を得たいならば去れ。その力を振るうことに、楽しみを見いだしてはいないか?』
「自分が安全だからと、他人の危機を座視するような卑怯者になりたくはない」
『では、守るだけではなく打って出るのは何故だ』
 互いに視線を外さず、黙した。ややあって、恭也の答えが返る。
「……そういう事なら、俺はあんたの言う通り、力を振るいたいのかもしれん」
 そこで言葉を切り、すう、と恭也は息を整えた。
「だが」
 ざり、と足元の草と砂利がよじれて音を立てる。
「親父や皆に対して、恥ずべきことはしていない」
『主観だろう』
「それも認めよう。俺は手前勝手な思いで戦っている――だからなんだ?」
 さらにざり、と地面から音。既に恭也は間合いを測り始めていた。
「それで誰かを救えるのなら、どうでもいい」
 回答に対して、男は居合いの構えを取る。恭也も鏡写しのように構えた。夢なのに、足元から手先まで鋭敏に互いの動きを感じ取れる。
『救うと言ったな。その傲岸不遜、押し通すなら力を示せ』
「ああ」
 音が消える。脊髄が炎のように冷たい。息は平静。こんなふうに刀を振るえるのは年に、いや一生にあるかどうかだ。夢ゆえの都合の良さか、それともこれが戦いの中で得ていた境地か。
「超えてやるよ、糞親父」
 抜き放った瞬間、夢の皮膜が裂けた。意識が一気に目覚める中で、恭也は確かな手応えを感じる。勝敗はわからないまでも、矜持を認めさせることはできたらしい。

●淵には決意
 マオ・キムリック(aa3951)は、淵から離れ深い森に分け入っている。視線の先に、かつて見慣れていた青年の姿があった。
「……お兄ちゃん?」
『よっ、元気にしてたか?』
 兄が、いた。あの時と寸分変わらぬ明るい笑顔。再会を喜び、ひとしきり抱擁し語らって。そうして互いの音が途切れた時、ふっと棘のある音が場に響いた。
『お前はなんで、戦ってるんだ』
 青年の穏やかな面差しは険しく歪んでいた。命を懸けて守った存在が、あたら命を危険にさらしていることへの憤りがそこにはある。マオは向けられたその感情に対して、体をこわばらせた。
『H.O.P.E.には強い奴がたくさんいるんだろ? お前たちが戦う必要はない』
 その言葉に乗せられた感情は硬く厳しい。マオはうつむくが、しかし決然と顔を上げて言った。
「確かにわたしたちの力はちっぽけだけど……それでも、誰かの笑顔を取り戻す事ができたよ」
 青年の眉間に皺が寄る。それでもマオは主張をやめず、言葉を継ぐ。かつての彼女であれば、これほどにはできなかったろう堅靭さで。
「だから、出来ることを頑張りたいの」
『だけどなマオ』
「それにね」
 遮る言葉には、先ほどとは打って変わってみずみずしい響きがあった。
「H.O.P.E.には、誰かのためにって戦える人がたくさんいる」
 確信と強さが、言葉に宿っている。ひとつひとつを慈しむような響きで、マオは兄に語りかけた。
「その人たちの、お兄ちゃんみたいな人たちの力になりたいから、わたしたちは戦ってるんだよ」
 決意を視線に込め、マオは兄へ言い切ってみせた。その兄の表情はほぐれ、ふっと記憶にあるような快活さが戻ってくる。
『――まったく、その頑固さは誰に似たんだか』
 あきれたように、青年は天を仰ぐ。だがその横顔には、もはや怒りも叱責もなかった。
『だが、決めたのならそれでいい。せいいっぱい生きろ』
「……うん!」
『ただ、1つ忘れるな? オレはお前たちの幸せを何よりも望む。誰かを守るのはいいが……自分たちの事も大切にしろ』
 マオの頭をその大きな手でわしわしと撫でて微笑む表情は、やはり記憶のままで。名残惜しそうに、けれどきっぱりと兄に背を向けたマオが歩み出すと、背後から声がした。
『アイツにもよろしく伝えてくれ。くれぐれもオレの時のような思いはさせるなよ? ああ見えて心配性だからな!』
 その声に、しかしマオは振り返らない。わかった! と元気に応えて、まっすぐ歩む。森は眼前で途切れ、明るい平原が広がる。日射しの中に踏み出す直前、マオはひときわ大きな声を響かせた。
「ありがとう、お兄ちゃん。――頑張るよ!」

●夢の終わりに
 それが夢だと気づくのと同じ滑らかさで、リンカーは目を覚ます。それぞれの問いと答えを、今日という日にたずさえながら。 

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 色鮮やかに生きる日々
    西条 偲遠aa1517
    機械|24才|?|生命
  • 共に歩みだす
    魂置 薙aa1688
    機械|18才|男性|生命
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • 希望の守り人
    マオ・キムリックaa3951
    獣人|17才|女性|回避
  • エージェント
    聴 ノスリaa5623
    獣人|19才|男性|攻撃
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