本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【界逼】ヨーホー!

ガンマ

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
4日
完成日
2018/09/05 13:29

掲示板

オープニング

●新たな友と新たな不穏

「砲撃用ォオオーーーーーーーー意!!!」

 地中海、宝石を溶かしたような青き海。
 そこに荒々しい怒号が響き、次いで鼓膜が割れそうな砲撃音が響いた。巨大な水柱が遠方に次々と上がる。
「良ーし、ちったぁ効いてるみてぇだな」
 砲撃を行ったのは髑髏の旗を掲げた海賊船――ジャンク海賊団の面々である。彼らはつい先日まではヴィランだったが、H.O.P.E.の私掠船としてヴィランではなくなり、義賊として生まれ変わったのである。
 そんなジャンク海賊団の船長、キャプテン・クラーケンがカトラスの背で自らの肩を叩きながら、君達へ振り返った。
「引き続き船からの砲撃で海竜共の進攻は遅延させてやる。行って来な。俺達とH.O.P.E.の処女航海だ、ぬかるなよ!」

 ――マガツヒ首魁の比良坂清十郎によって、超古代都市スワナリアから“雪崩れ出した”恐竜達。
 狂乱する猛獣らは混沌を生み出していた。このエリアもその一つ。大量の海竜達が地中海を渡り、港町を目指していたのである。
 かくしてH.O.P.E.は新たな協力相手であるジャンク海賊団と共に出撃することとなった。

 マガツヒに奪われた“笛”を奪還し、スワナリアで見つかった謎の女性にそれを使用させることで、海竜は大人しくなるという。その奪還ミッションは別部隊が行う。
 その間、ジャンク海賊団及びこちらのH.O.P.E.部隊で海竜の侵攻を遅延・阻止せねばならない。
 海賊団には船団を広く展開して貰い、最終防衛ラインとして遠方から支援砲撃を行って貰う。船同士は漁船のように特殊繊維の網を展開しており、この網には電気ショックを流すことができる。(尤も、膨大な海竜が引っかかれば船が沈みかねないので足止めには限度はあるが)
 同時にH.O.P.E.エージェントと海賊の混成チームが高速ボートや水上バイクで突撃、砲撃をすり抜けた海竜の引き付けや無力化を狙う。

 いつまで足止めをしたらいいのかは分からない。でも、できるだけ足止めしなければならない。
 海竜の数は“数えきれないほど”。その上、マガツヒの構成員も同行しているという。
 なれど。
 ここで引き下がることは、一同の矜持が、在り様が、赦さなかった。

「ハンティングの始まりだァ!! 野郎共、突撃開始ィッ!!!」

 船長が左手に持った剣を振り下ろす。海飛沫を噴き上げ、高速ボートや水上バイクが海竜の機動力に負けぬ速度で走り始めた。そこに乗る君達の顔に、飛沫の乗った潮風がぶつかることだろう。
 待ち受けるのは牙剥く混沌。
 さあ、武器を取れ。戦いの始まりだ!


●どこか
 暗い部屋だ。そして咀嚼音が響いている。
「今回は出られないんですか?」
 まさか上級構成員の付き人になれるとは。かれこれ日数も経ったが、未だに緊張してしまう。特に相手は、好き勝手している“幽霊部員”であるのに一定の自由を赦されている“特権階級”で……その上、かの愚神十三騎の一騎をその身に憑かせているのだから。
「自分磨き中なんで」
 ベッドに寝ころんだまま、名前のない上級構成員はフランクに言った。「はあ」と付き人は答えた。窓もない部屋は独房のようで、わずかに開いたドアの隙間だけが唯一の光源だ。こんな真っ暗い場所で、電気も点けないで、何をやってるんだろうこの人は? それに、このグチャグチャと響く音はなんだろう。気味が悪い……。
「こうしてるのが一番省エネなんですよ」
 聞いてもいないのに、男だか女だか分からない声で、ベッドの上の存在は言った。愚神に寄生されているのはそれはそれは消耗するらしい。そう、だから“上司”に食事をさせるだけで下っ端は一苦労だ。生きた“なんやかんや”を集め、喰わせねばならないのだから。死体の処理を考えなくていいことだけは気楽だ。
 そこまで考えて、付き人は「んじゃ失礼します」とそそくさと部屋から出た。そういえばさっき“上司”に呼び出された仲間の姿が見当たらない。部屋に入ったきり出てこない。そいつがどうなったか考えないようにした。
「ああ……」
 部屋に残された名無しの悪役がまず思ったのが、シャツのクリーニングが面倒なこと。それから、「気付いちゃったか」「変に逃げ出されたら面倒だな」「最近はCGW作戦でH.O.P.E.の支持率も素晴らしいし」。ベッドから身を起こす。ボタンを外して脱いで、手探りで新調したマチェットを取った。素肌のままベッドから下りる。ぺたぺたと裸足の足音。
「清十郎ちゃんに、新しい子をオネダリしないとなぁ……」

解説

『●どこか』はPL情報です。

●目標
 笛の奪還が完了するまで海竜の進攻を押し留める。
 マガツヒ構成員の無力化

●登場
海竜*無数
 海竜と呼称しているが、実際は古代の獰猛な海洋生物達の群れ。
 いずれも超巨大。甲冑魚、サメやワニのような海生爬虫類、クジラのような生物、首長竜など。
 攻撃手段は噛みつき、体当たりなど。
 従魔ではないためライヴス的攻撃は用いないので、共鳴していればノーダメージ。ただし噛みつかれると振りほどくまで拘束状態になり、体当たりされれば吹っ飛ばされる。
 市民の命が優先であるため、生死は問わない。

マガツヒ構成員*6
 二人一組で水上バイクに乗っているリンカー。英雄クラス様々。
 遠距離攻撃タイプと近接攻撃タイプで組んでいる。
 銃器や魔法による遠隔攻撃、接近すれば武器による白兵戦を行う。
 基本的に海竜からは狙われないが、共鳴の解けた気絶状態などで海に落ちると食い殺される可能性。

ヴィークル
 PC達が乗る高速ボートや水上バイク。
 ボートは複数名が乗船可能、バイクは二人乗り。
 運転手は基本的に海賊がやってくれる。
 海賊達が改造したのでそこそこ丈夫。非AGWの機銃が付いている。通信機も搭載。
 特にプレイングで指示がなければバイク搭乗。
 他のPCと共にボートに乗る場合は誰と乗るのかプレイングに記載すること。

ジャンク海賊団
 拙作『【界逼】海賊に告ぐ』で協力関係になりました。
 全員リンカー。各ヴィークルにはバトルメディックの者が最低一人は付く。
 運転、機銃斉射、牽制、敵妨害、回復などお任せあれ。海賊団だけが乗ったヴィークル部隊もいる。
 プレイングで指示があれば基本的に従ってくれる。
 なおクラーケンは後方の船団で指揮を執っている。

●状況
 地中海、日中、快晴。
 ヴィークルに搭乗して突撃し、海竜達と接触する直後からリプレイ開始。
 なおリプレイにエネミーは登場しません。

リプレイ

●海戦!01

「燃える! すごい! 特撮みたい……」

 大宮 朝霞(aa0476)は荒々しい光景に目を輝かせた。
「現実だ。現実だから必ずヒーローが勝つ保証はないぞ? 気を引き締めろ、朝霞」
 その真後ろで、共に水上バイクに乗っているニクノイーサ(aa0476hero001)が言う。「わかってるわよ!」と唇を尖らせた朝霞は、バイク上ゆえにちょっとコンパクトめにビシィとポーズを取ると、
「変身、ミラクル☆トランスフォーム!」
 共鳴し、聖霊紫帝闘士ウラワンダーに変身だ。

(……エネミーの野郎は居ない、か……)
 Le..(aa0203hero001)と共鳴状態の東海林聖(aa0203)は大海原に目を凝らした。プリセンサーの予報にもエネミーが出る情報は観測されていない。何にせよ、マガツヒの奴等はぶっ倒す。構成員である以上、容赦はしない。それにエネミーの情報を聞き出せるかもしれない。
(……無駄に熱くならなきゃいいけど)
 ルゥはライヴスの奥から相棒を見詰める。船の上ってあまり好きじゃない。溜息を飲み込んだところで、聖が声を張った。
「行くぜ、ルゥ!」
『ん、任せる……海竜って……魚肉……?』
「魚肉……いや、鯨寄りかもな……って、確かに珍味感すげェけどそれどころじゃねーよな?」
『……鯨肉……も、美味しい……。フィッシュステーキ……』
 ちなみに聖は単独で水上バイクに乗っている。実はバイクの免許(普通二輪免許)と水上バイクの免許(特殊小型船舶操縦士免許)は異なるのだが、H.O.P.E.エージェントは超法規的活動が認められているため無免許運転について問題はない。運転も既にコツを掴んだ。なんとかなるだろう。

 さて、今回は何かと特殊な戦況だ。
 特に元ヴィランズだったジャンク海賊団との初共闘。アンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)は気を引き締めつつも、心に余裕を忘れない。
「こんな可愛い女の子と同乗できるなんて、ラッキーだね♪ 頼りにしてるからね!」
「何言うてはりますの、アンジェリカはん。ともかく今日はよろしゅう頼みますえ」
 八十島 文菜(aa0121hero002)は相棒に肩を竦めつつも、高速ボートに同乗した海賊団に頭を下げた。それから共鳴、戦闘態勢。

「本物の海賊さんに会うのは初めて! 一緒に戦えるなんて嬉しいな」
 共鳴姿のプリンセス☆エデン(aa4913)は華のように微笑んだ。
「それにしても……有能なんだね、全部の乗り物にバトルメディック配置できるだなんて! 人材豊富なんだねっ!」
『お嬢様、失礼のないように』
 思ったことがそのまま口から出ているエデンを、ライヴス内でEzra(aa4913hero001)がたしなめる。「うるさいな、わかってるよ!」と少女は頬を膨らませた。

 かくして、戦いの時は目前に迫る。

 辺是 落児(aa0281)と共鳴した構築の魔女(aa0281hero001)は潮風に緋色の髪を翻し、一二〇センチもの砲身を誇る対愚神砲メルカバを勇猛に構える。
「野郎ども覚悟は? 準備は? 愚神とマガツヒのオイタなんざ何でもないわよねぇ!?」
 上品に守るのは海賊の性に合わないだろう。荒っぽく、勇ましく、構築の魔女は声を張る。「おおーーーッッ」と海賊共はカトラス――ではなく現代らしく小銃を持った手を空に掲げた。魔女は口角を吊る。

「一番槍は私が頂くわよ! H.O.P.E.トップエージェントの実力を見せてあげるわ! ――派手にいきましょうか!」



●海戦!02
 数多の巨大海竜共が暴れ泳ぐ海は、天災じゃないかと思うほどに荒れ波打っていた。
 凶暴性を剥き出しにしたそれらは原始的な牙を剥き、目についた者らへと襲いかかる!

「それじゃあ運転よろしくね!」
 伊集院 翼(aa3674hero001)と共鳴したリリア・クラウン(aa3674)は、屠剣「神斬」を抜き放つ。彼女の言葉に応と答えた海賊は水上バイクの速度を一気に上げ、海竜へと向かう。
「なんだか船旅っぽい気分……!」
 華奢な腕に見合わぬ巨大剣を振りかぶりつつ、リリアは心を弾ませていた。リリアも翼も海賊というものを初めて見た、驚いた。だけど仲良くできるだろう。自分の声にこんなにも快く応えてくれたし――「囮として立ち回れるよう接近して海竜の気を惹いて欲しい」という、危険度の高い要請にも応じてくれた。
「なら――ボクらの目的をしっかりこなすだけだよねっ!」
 大上段に構えた神斬を力の限り振り下ろす。ライヴスを込められた斬撃は烈風の如くひょうと飛び、巨大な海竜を真正面から両断する。あまりに鋭すぎる一撃に、一瞬だけ波が裂けたほどだ。

「ブランコ岬戦では敵であったジャンク海賊団が今やH.O.P.E.と共闘とは、世界情勢はままならんものであるな」
 ラストシルバーバタリオン(aa4829hero002)と共鳴――搭乗と呼ぶべきか――を果たしたソーニャ・デグチャレフ(aa4829)は独り言ちた。とはいえそれに関して特に感想はない。ましてや一国の軍人たる身の上なれば、お上の命令には絶対服従。亡命の身であらば尚更だ。
 今ソーニャに必要なのはお金、すなわちマニーだ。悲願は祖国奪還。戦争というのはとにかく金食い虫で、金の前ではどんな主義主張も等しく奴隷と化すのである。ゆえに今は心に蓋を。戦いに集中を。
「――撃ェッ!」
 通信機を用いて後方の船団に砲撃支援要請。途端、轟と後ろの遠くで爆音が鳴り――海に幾つもの水柱がドハデに上がった。
「うむ、火力は正義であるな。……さて、では作戦通りに」
 ソーニャは海賊のヴィークル部隊へ指示を飛ばす。「ガッテン!」「おうさ!」と野郎共の声が上がり、各ヴィークルが散開し始めた。
「追い込み漁を始めようか」
 人型戦車英雄ラストシルバーバタリオンと共鳴し、大防盾付三連リボルバー対愚神砲「バッヘルベル・カノン」を肩に担いだソーニャの重量は非常に重い。ゆえに海賊達に運転させる水上バイクを二隻、まるで靴のように片足ずつを乗せ、同じように腕でもバイクを掴んで姿勢を安定させた。
「砲撃開始!」
 巨大砲が雷と吼える。愚神でも従魔でもないただの海竜共の分厚い鱗や皮など、この砲撃の前では薄紙も同然だ。
 仲間達の砲撃の様子は、プルミエ クルール(aa1660hero001)と共鳴したCERISIER 白花(aa1660)が腰のベルトに装着したハンディカメラに良く映っていた。毎度のように、これのコピーデータは後ほどH.O.P.E.に提出する心算だ。
 さて。白花はシトリンイエローの瞳を通して、ライヴス内から情景を見渡す。荒れ狂う海竜の波の中に三つ、マガツヒのヴィランが繰る水上バイクが見える。
(小泉孝蔵はよき客……もしかしたら友人にもなれたかもしれない)
 企んだのが愚神商人とはいえ、直接的に関与したのはマガツヒだ。白花はマガツヒ殲滅への積極的な意志を抱いていた。
 そして白花がそう思うのであれば、プルミエは絶対服従するのみである。プルミエにとって、マガツヒは「白花の獲物を横取りした奴等」だ。敵である。
「本日もこのプルミエにお任せ下さい! 陸上水上空中年中無休、どこであろうといつだろうと、プルミエは完璧に白花様をお護りいたしますわ!」
 黒髪の乙女の姿となった英雄は使命感を帯びた口調でそう言った。戦闘は不得手と自称する白花は、いつも戦闘においてはプルミエに主導権を委ねている。共鳴を果たしたその体は光線銃「トラブルシューター」を手に、仲間のヴィークルへ近付かんとしている海竜に銃口を向けた。ZAPZAPZAP!
 丸焦げになった巨大海洋生物が、ぷかぁと腹を水面に向ける。
 朝霞を乗せた水上バイクはそれをかわし、海を行く。
「聖霊紫帝闘士ウラワンダー、地中海に華麗に参上! ――海賊さん、お名前は?」
 運転を任せる者に問うて見れば、「ジャンです!」と気さくに答えてくれる。
「よし! それじゃジャンさん! 一緒に地中海の伝説になりましょー!」
「応!」
 仲間の攻撃や誘導でターゲットが散り散りになった海竜の合間を縫い、マガツヒ構成員が乗る水上バイクを目指す。青い波の中に燦然と輝くウラワンダーの白マント――目を惹く様相にマガツヒの者も朝霞の存在に気付いたようだ。朝霞の方へ向けられた銃口は、なんの躊躇もなく弾丸を吐き出す!
「撃って来ましたぜ!」
「任せてっ!」
 海賊にそう答えつつ、朝霞はハートのステッキをひと振るい。振り撒かれるハートマークはウラワンダー・ガントレットによる冷気を纏い、不躾な弾丸を叩き落とす。
「海賊さん、多少操縦が荒くなっても平気です。思いっきり突っ込んでください!」
『スキル発動中に限るがな』
 フットガードによってバランスは万全だ。朝霞の要請に海賊は更に水上バイクの速度を上げ、マガツヒの水上バイクへ突撃する。

「くらえ――ウラワンダー☆アタック!!」

 すれ違いざまのレインメイカーによるフルスイング。マガツヒの運転手の顔面に超直撃。「ぐげっ」と鼻血と前歯が海に舞った。海賊の「ヒュー」という口笛。『えげつないな』とニクノイーサの呟き。
「俺達も続くぞ、ルゥ!」
『……ん』
 聖は水上バイクを片手操縦しつつ、もう片方の手に紅榴と銘打った剣を構えた。朝霞の一撃によってぐらついているマガツヒのバイクへ吶喊――ライトグリーンの光輝を纏う紅榴を振り上げて。
「寝てろ!」
 刀身、ではなく柄の方で、後部座席に乗っていた者の鳩尾を重く重く一撃。悲鳴すら出ないほどの必殺。おそらく聖の洗練された攻撃力であれば、刃の方で攻撃すれば両断すら可能だったろう。だが聖はマガツヒのような殺人集団とは違う、彼の刃は悲劇を生む為に在るのではない。
「ムカつく連中だけどな……」
 本当に倒さねばならない奴は、この程度の雑魚じゃねェし……と独り言ちた聖は、脱力したマガツヒ構成員二名が海に落ちないように支えて抱えた。一応、顔面陥没した方も腹部陥没した方も息をしている。
 コイツらを海竜のエサにするのも目覚めが悪い。通信機で合図すれば、捕虜収容用のボートが近付いてきて、彼らを船内に放り込んで拘束した。

「俺らが言うのもなんですが、」
 収容用ボートの護衛を務める白花、の水上バイク運転手が呟く。
「マガツヒの連中が改心するとも思えねぇや。海竜のエサにしちまった方がよくないっすか?」
 構成員を捕虜にすることに関して海賊団はNOとは言わなかったが、概ね一同の意見としては「あんなサイコパス集団、殺っちまった方が」といったものらしい。
『もし、彼らが宝の地図ないしはそれに類するものを所持していた場合は、すべてアナタ方にお譲りしますのでご安心くださいませ!』
「非常に個人的なものですが少々恨み事がございますの。その分だけ少しお譲りください」
 プルミエと白花はそう諭す。「ウッス」と運転手は肩を竦めた。
 収容用ボートでは、白花の指示通りに海賊達が動いている。気絶している奴らの口に睡眠薬をねじこんで、口に布製の猿轡を噛ませ、自爆や自殺を危惧して身体検査を行い、武器など危険物は没収する。幸いにして自爆用の爆弾などは抱えていなかったようだ。他、妙なアイテムなども所持していないようである。
 諸々の検査結果連絡を受けた白花は「そう、ご苦労様」と言葉を返した。
「なんでマガツヒは海竜に狙われないんだろう」
『海竜に知性があるとも思えないですしね……何か海竜が嫌うものを身に付けているとか?』
 同じく連絡を聞いていたエデンは、エズラと共に首を傾げる。身体検査の結果として妙なものは見つからなかった。となると、おそらく奪われた笛の音の然様なのだろうか?
「何かイイモノが見つかれば、この作戦もぐーっと楽になったのにねーっ」
『今あるもので尽力するしかなさそうですね』
「ん! 海竜なんて、一網打尽にしてやるっ! ……って言いたいところだけど、」
 なにせ数が多い。海竜が巨体に見合った大口を開けて迫ってくる様はホラーである。海賊が繰るバイクが速度を武器に古代生物の攻撃をかわした。すれ違いざま、エデンの極獄宝典『アルスマギカ・リ・チューン』より放たれる魔法弾がその海竜の頭を撃ち抜き沈黙させた。
「そーだ! 海竜でバリケード作っちゃえばいいと思うんだよね。これだけ大きいし! 肺に空気が入ってれば、死んでも浮かぶみたいだし……」
『水中から潜られることもあり得ますが……直線ルートを潰す意味合いでは有効かもしれませんね』
 エデン達の言葉に、構築の魔女も通信機を介して同意を示した。
「ちょうどソーニャさんの方とも連携して、海竜を集めるように誘導しているところです」
 まず大前提として、この海域全ての海竜を倒すことは不可能である。その上で海竜を行動不能にさせて、エデン達の言うように障害物とする心算だ。上手くいけば血の匂いで同士討ちをさせられるやも。
 作戦としては……バイクを矛、ボートを盾、最終防衛ラインを城壁と見立て、海竜の流れを矛で淀ませ――具体的に言うと、主に先頭個体を沈黙させたり、一群を剥離させたり――盾に誘導し押し留める、というものだ。海賊含め仲間達との連絡も密に、突破量の多い部分への援軍支援などの配慮も忘れない。
「キャプテン! 一撃ぶちこんであげるけど、どこがいいかしら!?」
 構築の魔女が通信機越しにキャプレン・クラーケンへと声を張った。
『おう、お前らの目の前のモンを蹴散らしてくれ!』
「OK!」
 さながら海賊のように魔女は答える。「まぁ研究者も社会貢献しているだけの碌でなしですしね」とは心の中の呟きだ。尤もロクデナシなのは一部であると注釈はつけておくが!
 さて警戒していたノウの出現も気配がない。ならばこの任務に集中するだけだ。構築の魔女はマルチプル・ロケット・ランチャー、カチューシャMRLを翼のように展開する。
「古代生物だろうが何だろうが、動物に頭の使い方を教えてあげなさい!」
 海賊達を力強く指揮しつつ――彼らの射撃、砲撃に合わせ、構築の魔女は凄まじい爆音と共にカチューシャを発射した。統率された攻勢は圧巻の一言。
「こっちも頑張ってるとこ魅せないとっ」
『ええ、お嬢様。――魔術準備、できております』
 ライヴス内のエズラとやりとりしつつ、同時にカチューシャの爆風に帽子が飛んで行かないように押さえつつ、エデンは極獄宝典に魔力を込める。この広い海域では誘導に良い場所を見つけるのも難しそうだ。しからば徹底攻勢あるのみ。
「熱いのいくよーっ!」
 海面に浮かび上がる魔方陣、噴き上がるブルームフレアの火柱――。

『こういう揺れる場所での狙撃、腕がなりますな』
 潮風に和風ゴシックロリータ服を翻しつつ、アンジェリカのライヴス内で文菜が言う。
「文菜さん、やる気満々だね」
 アンジェリカは答えながらもスナイパーライフルのスコープを覗き込み、引き金を引く。命中適性として研ぎ澄まされた射撃精度はまさに精密な機械のよう。針穴すら通す狙撃で、前線の者達が動きやすいように次々と海竜を撃ち抜いていく。
「それにしてもこの海竜達、皆古代の生物なんだね。学術的には貴重なんだろうけど……」
『せやけど、人の命には代えられまへんな』
「うん。悪いけど遠慮なく殺っちゃお!」
 言葉の最中にも、アンジェリカはライヴスによる閃光弾をスナイパーライフルに装填。
「フラッシュバンいくよ!」
 通信機越しに仲間へ伝えつつ、発射――海面上で炸裂する光が、海竜達を強烈に怯ませる。
『アンジェリカはん、十時の方向』
「ん!」
 これだけの敵、息を吐く暇もない。すぐさまアンジェリカは英雄の指示に沿って銃口を向けた。彼方にいるマガツヒ構成員の姿を、乙女はライヴスで超集中させた瞳で捉える。
「そこだッ」
 放つのは必中の弾丸。唸りうねる海竜や波間を縫って、アンジェリカの弾丸は敵性バイクのエンジンを確実に撃ち抜いた。
 それに合わせてに運転手を奇襲したのは、プルミエの突撃銃A.R.E.S-SG550によるテレポートショットだ。ヴィークルも運転手も無力化されたヴィランに、プルミエはこう言い放つ。
「白花様の御命令につき、命までは奪いませんわ。投降されては?」

 同刻。
「……食らいやがれッ!」
 聖のWアクス・ハンドガンが火を噴いた。一撃粉砕の力を込められた弾丸は破壊の具現、ヴィランが乗るバイクを大破させる。
「他の仲間も言ってるけど、殺すつもりはないわ」
 海へ放り出されたヴィランへ、レインメイカーを手にポンポンしつつ朝霞が言う。
「降参なさい!」
 さもなくばレインメイカーでお仕置きよ! という言葉が言外に引っ付いている。アンジェリカ達に無力化された方も、こちらのヴィランも、観念した顔で手を上げた。

「さて、残るは海竜どものみだな」
 状況を的確に把握しつつ――フリーガーファウストの着弾も確認しながら――ソーニャは一呼吸する。マガツヒ共も海竜に食われることなく、全員無事にお縄である。となれば後は、例の笛の奪還とやらが完了するまで耐久戦だ。
「前線に出る。後方支援よろしく頼む」
 言いながらソーニャは武装を破壊神斧ファルシャに持ち替える。全長一四〇センチの大斧であるが、その巨体が持てばまるで手斧サイズに錯覚してしまう。そしてその鋼鉄の巨体が、アサルトユニット「ゲシュペンスト」によって浮き上がるのだ。巨大ロボ(戦車だが)が斧を手に飛ぶ姿は、全ての男子の浪漫心を鷲掴む。
 海賊共の黄色い声援(?)を受けつつ、ソーニャは海上を滑る。真っ向から海竜が大口を開けてソーニャに襲いかかるが――それはすれ違いざまの弩級の一閃によって、下顎を砕かれるという結果を伴い未遂に終わった。わざわざ海竜共を一匹ずつ完全解体するまでもない、攻撃手段である顎さえ損なわせてしまえば無力化も同然だ。戦争とは効率が重要なのである。

「足止め中でーーす! 攻撃お願いーーっ!」
 一方ではエデンが重圧空間を展開し、海竜達の動きをまとめて押し留めていた。
「了解っ!」
 動きを制限された海竜へは、リリアが軽やかに屠剣を奮い遠距離から攻撃する。
「ゴーゴー!」
 吹き抜ける潮風が心地良い。こちらを狙ってくる海竜共は、怒涛の剣閃を以て瞬く間に斬り捨てる。
「いい調子っ!」
『まあ、でも油断しないようにね』
 ライヴス内の翼の言葉に「はーい!」と快活に返事をしつつ、リリアは剣を構え直した。

「学術的にものすごく貴重な動物たちよね、この海竜軍団」
 ウラワンダー☆ソードで海竜の攻勢を押し留めつつ、朝霞が呟く。するとライヴス内でニクノイーサが片眉を上げた。
『生け捕る気か? そんな余裕はとてもないと思うが』
「そこが正義のヒーローのつらいところね。笛の音でおとなしくなるまでの辛抱よ!」
『正義のヒーローの見せ場でもあるんだろう? 踏ん張りどころだな』
「そういうことよ!」
 答えつつ、揮う刃で海竜をまた一体沈黙させる。バトルメディックとして戦況を常に注視しているが、幸いにして怪我人もいなさそうだ。
 踏ん張りどころ、という想いは聖も同じ。跳びはねて襲いかかってきた海竜の巨体を、水飛沫に目を細めつつも掻い潜る。
「普通の生き物とはクセが違うな……ッ!」
『鰐っぽい……』
「確かに近いか……大きさはケタ違いだけどな」
 などとルゥとやり取りしている間にも、聖の周囲に海竜共が押し寄せる。上等だ、と彼は銃斧にライヴスを流し込む。
「くらえッ! 千照流……汪戦華ッ!!」
 怒涛の勢いを以て展開される斬撃と銃撃。刹那の間に、海竜共が木っ端と砕ける。
 更にその近くで巻きあがった三つの巨大水柱は、構築の魔女のメルカバによる三連射だ。聖の頭上から大雨のように海水が降る。
「つべてっ、しょっぺぇっ」
「おっと、ごめんなさいね」
 構築の魔女が悪戯っぽく笑んだ。

 さてさて、戦いはまだ続く。海に砲声が響き続ける。
 かれこれどれぐらい戦っただろうか――従魔相手でないがゆえに負傷こそないが、いい加減に疲労も見え始めてきた。

 そんな時だ。
 遠く――澄んだ音色が、しかし不思議と鮮明に、大海原に響き渡る。それは笛の音色だ。

「! 海竜が……」
 ヴィークルを護るように射撃を続けていたプルミエだが、海竜が大人しくなったのを見ては引き金から指を離した。戦闘不能になっていた海竜もムクリと元気を取り戻すが、もう襲ってくる気配はない。

 それは作戦成功の合図。笛の奪還が叶った証拠である!

「やったわジャンさん! これで地中海にもウラワンダーの名が轟いたかな?」
 朝霞は運転手を務めてくれた海賊とハイタッチを交わした。
「私達の勝利よ! 祝杯を上げましょう!」
 構築の魔女の声が、通信機を介して勇ましく響く。掲げられたその手にはヴォトカがあった――。

 作戦は終了、なれど【異界逼迫】の事件はまだ続く。
 されど束の間の祝杯を。今は勝利を祝おう。

 ギターを手にしたリリアの歌――海賊をイメージした即興歌が、平穏を取り戻した海に明るく楽しく響いている。ベースを務めるのは翼だ。海賊達には大ウケだが、アイドル的なライバルの出現にエデンは戦慄していた。ちなみにこの後ソーニャもアイドル「にゃーたん」であることを知って更に戦慄した。

「これ、料理したら食べられんやろか? サメに似たのは牛乳に漬けて臭みを抜いて……」
 船に戻り、共鳴を解除した文菜は海竜達を見渡してそんなことを呟く。
「って食べるのコレ? まぁ食べられなくはないだろうけど」
 アンジェリカはなんとも言えない顔をする。近くにいた聖も、タオルで髪を拭きつつ同じ感想だった。
(なんつーか、肉がぶよぶよしててアンモニア臭そー……)
 量は多いから腹は膨れるだろうが。
 と、まあ。
 それよりも捕らえたマガツヒの尋問だ。

 すべきことはまだまだ、エージェント達を待ち受けている。



●陸上にて
 捕縛された六人のマガツヒ構成員については、白花からの申請で精密な検査が行われた。白花自身の希望もあって、彼女も検査に立ち会った。
 結果としては、彼等は人間であった。愚神などではない。妙な点も見られない。戦力的にも優れていなかった点を鑑みるに、下っ端も下っ端だったのだろう。
 そう、だから、白花が「マガツヒの現状を知る限り教えて欲しい」と尋問を行っても、「何も知らない」と答えるばかりだった。嘘ではなく本当にそうなのだと、白花は彼らの目を見て察する。同時に白花は彼らが酷く怯えていることも感じ取った。
「私が上位構成員でしたら、余分な情報を漏らされる前に処分したいと考えますもの。貴方達の恐怖は、それに由来するものでしょうか」
 先回るように白花が問えば、一同は頷きを返した。
「か、風の噂で聞いたんだ。ヘマした奴や役立たずは、愚神憑きの奴らに食い殺されちまうって」
 やはり、と白花は目を細める。そういったことを危惧して、ずっと彼らの周辺を警戒していたのだから。結果として杞憂に終わったけれど、彼らの怯えようを見ればマガツヒというものが如何に狂気であるかを痛感する。
「ご安心下さい。H.O.P.E.は人類の味方です。貴方達の身の安全は必ず保証しますよ」
 白花は聖母のように微笑んだ。



『了』

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • ぼくの猟犬へ
    八十島 文菜aa0121hero002
    英雄|29才|女性|ジャ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 龍の算命士
    CERISIER 白花aa1660
    人間|47才|女性|回避

  • プルミエ クルールaa1660hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 家族とのひと時
    リリア・クラウンaa3674
    人間|18才|女性|攻撃
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    伊集院 翼aa3674hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 我らが守るべき誓い
    ソーニャ・デグチャレフaa4829
    獣人|13才|女性|攻撃
  • 我らが守るべき誓い
    ラストシルバーバタリオンaa4829hero002
    英雄|27才|?|ブレ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
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