本部
天空の里で涼みませんか
掲示板
-
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/07/31 00:48:25
オープニング
●カンカン照りの太陽
「あつい」
暑さに耐えるのもまた修行とも言いたい。言いたいけれど、流石に暑い。日陰で休んでいるにもかかわらず暑すぎる。このまま我慢していたら、茹でガエルになってしまうとすら思えてくる。
「宿が恋しいです」
空気調整をされ、居心地の良かった宿。今すぐにでも舞い戻りたい。
「おらよ」
「わぁ、りゅーちゃんが仏様のようです」
「ったく、それ食ったら、出発するぞ」
コンビニで買ったらしいボトル型アイスを眞魚(az0119hero001)に投げ、権堂 龍士(az0119)も同じアイスを片手に腰を下ろす。流石に彼も暑いのかトレードマークであるスカジャンはサイドバッグにしまい込まれていた。
「りゅーちゃん、この先の予定は」
「特には決まってねぇが、どうした?」
「ここ、ここに行きませんか?」
アイスを食べる手を止め、コンビニの窓ガラスに貼られたビラを叩く眞魚。
「祖谷、か」
「はい、今、暑いですし、涼みたいです!」
「……まぁ、暑さをしのぐには丁度いいか」
涼し気な渓谷の風景の観光案内に龍士自身もかなり暑いと思っていたのだろう、眞魚の言葉に賛同する。
「あ、かかしづくり体験もできるそうですよ」
やりたいと込められた言葉に龍士は好きにしろとだけ答える。それに了承は得たと眞魚はどんなのを作ろうかと思案し始めた。
「おら、とっととアイス食え。いくぞ」
「あー、待ってください。今、食べます」
日向よりはマシではあるが、僅かな時間でジュースになりかけているアイス。それを「アイスがもう溶けてます」と騒ぎながらも飲み干す眞魚。そんな眞魚を見て、棒アイスではなく、ボトル型を選択してよかったと龍士は自分を褒めた。
その後、くっつかれると暑さが増すということもあり、眞魚を幻想蝶に入れ、祖谷へと向かう。
一方で龍士と眞魚が目にしたビラは旅館、空港などにも掲示されており、目にした君たちも涼しさを求め、祖谷へと足を向けた。
解説
祖谷を満喫しましょう
※一般の観光客の方や集落の方もいますので、迷惑のかからないように。
●川遊び
流れが急なところもあるが、のんびり遊泳できる水溜まりもある。石でダムを作ってそこで飲み物や野菜、果物を冷やしておくことができる。
大きめの石もゴロゴロしているため、はしゃぎ過ぎによる転倒にはご注意を。
●かかしづくり
自分の思うままにかかしを作ってみよう。こちらに参加する場合は出来栄えをプレイングに記載をお願いします。尚、眞魚が作成するとどうやったらこうなる(化け物風味)という出来栄えになります。
●NPC
権堂龍士:川に足をつけて、涼んだり、川虫で釣りをしたりしているかもしれません。
眞魚:かかしづくりを体験。出来栄えは前述。川にも突撃して、はしゃぎます。
リプレイ
●川へ続く道
土を踏みしめる感触。葉の擦れる音。森の香り。
微かに聞こえてきた川の音に、狐杜(aa4909)は目を細めた。
「川遊びか。懐かしいね。ハネズは何をしたいかな?」
視線を向けられた朱華(aa4909hero002)は考えるように小首を傾げ、名前と同じ朱華色の髪がさらりと揺れた。
「かわあそびとかかしづくり、りょうほうやりたいですわ、コト」
「ろうほうだね。それなら、先に川遊びをしようか。この道を真っすぐ行けば着くからね」
正面を指差す狐杜に頷く朱華。
その少し先には、同じように川へ向かう複数の人影があった。
「夏と言えば避暑! 思い出作り!」
「最近、遠出も仕事がらみだったものね」
クーラーBOXを肩から掛け、ワクワクとした表情の荒木 拓海(aa1049)。その表情を見てメリッサ インガルズ(aa1049hero001)がくすりと笑みを漏らす。
2人の後ろを皆月 若葉(aa0778)とラドシアス(aa0778hero001)がついていきながら、ぐるりと辺りを見回した。
「緑豊かでいい所だね」
「あぁ、過ごしやすそうだな」
葉と葉の擦れ合う音は耳に心地よい。
若葉たちの間をすり抜け、魂置 薙(aa1688)が一番前に出ていった。
「ね、早く川、行こう!」
待ち切れず、ともすれば走り出してしまいそうな薙の様子にエル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)が軽く窘める。
「そう慌てるな。川は逃げぬから、ちゃんと前を見て歩け」
窘める──とは言っても、エルの表情は柔らかい。
薙の気持ちはよくわかるし、なによりエル自身も心弾んでいることは事実だ。
「それなら、前を向いて走る! 若葉たちも、早くおいで!」
「よーし、行くか!」
「あ、俺も行くよ!」
残された英雄たちは揃って顔を見合わせ、彼らの後を追いかけた。
●川辺にて
遊ぶ家族連れや釣りの邪魔をしない場所へレジャーシートを敷いて荷物を置く。さあ川へ──の、前に。
「この辺りで、いいかな?」
「うん、石は川の中から持ってこられそうだ」
「うわ、どれも新鮮で美味しそうだね♪」
若葉が拓海のクーラーBOXを覗き見て顔を綻ばせた。そこには昼食だけでなく、熟れたトマトやキュウリなども入っている。
これらを川で冷やす為、囲い場を作るのだ。
追い付いた英雄たちも協力し、石を拾って積み上げていく。さして時間もかからず囲い場は出来上がった。野菜や果物、薙も持ってきたスイカを入れる。
「一回、やってみたかったんだ」
「俺も前に映画で観てやってみたかった!」
そんな声を聞きながら、メリッサは拓海へ視線を向けた。
「冷えるまで散策?」
「そりゃ……先ず泳ぐ!」
バサ、と衣擦れの音。服下にサーフパンツを身に着けていた拓海がさっそく川へ走っていく。
「気持ち良いぞ~、皆も来ないか?」
「うっし、俺も行ってくる!」
「僕も、泳いでくる!」
待ってました! というようにサーフパンツ姿になる若葉と薙。腰まで水へ浸かっていく三人に、メリッサが肩を竦める。
「来ないか、って……水着ないも~ん」
それでも折角来たのだから、とサンダルを脱ぐメリッサ。ショートパンツなのもあって、膝まで水に足を浸した。
「涼しくて気持ちいいわね」
友人のそんな様子を見てエルもスカートの裾をたくし上げ、膝が浸かる程度まで川に足を入れる。心地よい水温にほぅ、と息が漏れた。
(男性陣は楽しそうだの……)
「む?」
はしゃぐ薙たちを見て、エルは瞳を瞬かせた。一人足りない。
視線を動かせば足りなかった一人──ラドシアスがレジャーシートの元で荷物を出している。
声をかけると、ラドシアスの視線がエルへ向いた。
「ラドは泳がぬのか?」
「ああ。それよりも……」
そう言ってラドシアスが手に持ったのは、釣り具であった。
若葉たちが遊んでいる場所よりやや上流へ向かい、手頃な場所を見つけると腰を下ろす。
離れた位置から聞こえる友人たちの笑い声を聞きながら、しかし目ざとく魚の集まりやすい場所を見つけてラドシアスは釣り糸を垂らしたのだった。
釣り糸が小さく揺れる、それらとは少し離れた場所で。
朱華はゆっくりと水に足を付けた。
「……つめたいですわ」
川の周りに日差しを遮るものはない。ここまでの道より暑く感じたが、足に触れる水が体温を下げてくれる。
両手を皿のようにして川の水を掬ってみる。そっと顔を近づけてみると、自然に流れる水の匂いがした。
柔らかな髪がさら、と顔の横を垂れていく。
不意に、足元をするりと何かが撫でていった。小さな悲鳴をあげて視線を向ければ、魚の影があっという間に下流へ逃げていく。
「ハネズ、大丈夫かい?」
狐杜からかかった言葉に朱華は振り向く。日傘を差して足を水につけた狐杜の表情は、今は朱華へ心配の色を浮かべていた。
「ええ、だいじょうぶですわ」
「そうかい。流れが速い場所や深い場所もあるから、離れすぎてはいけないよ」
狐杜の言葉に朱華は頷き、再び上流からやってきた魚の影を興味深げに観察し始めた。
その様子を見ながら狐杜は水筒を取り出し、蓋を開ける。
冷えた麦茶が喉を潤し、体を冷やしていく感触はとても心地よかった。
(……こうして川で涼むだけに来るのは、本当に久々なのだよ)
流れる水の感触と清涼な風に目を細めていると、川遊びを始めていた朱華が戻ってくるのが見えた。
「ハネズ、水分補給をしようか」
はい、と朱華が狐杜から水筒を受け取り、口を付ける。お尻を隠すほどまで伸びた髪の毛先が濡れているのを見て、狐杜はタオルを取り出した。
「毛先が濡れているね。風邪を引いてしまうのだよ」
優しくタオルで水気を拭う狐杜。朱華はじっとしながらも視線を興味深げにあちこちへ向け、やや離れた場所で釣りをする権堂 龍士(az0119)を見つける。
「コト、あちらへいってみたいですわ」
朱華の示した方を見て狐杜は頷いた。
狐杜の目の届く場所にいるようにする、と約束して朱華は龍士の方へ向かって行った。
やや時は遡り。
水場とはいえ、日差しの強さは変わらず強い。アルセイド(aa0784hero001)はそれに目を細め、川に足を付けたルーシャン(aa0784)に声をかけた。
「水分補給は忘れないでくださいね、ルゥ様」
「ええ、わかったわ」
ルーシャンが頷く。アルセイドとお揃いの蒼グラデーションが入ったワンピース水着は、この暑い日差しの中でとても涼し気だ。
(川で泳いだりするの、初めてかも……)
川面を眺めながら、ほんの少し不安げな表情を見せるルーシャン。だがそれを追い払うかのように小さく頭を振る。
流れもある。少し怖い気もする。でも、アリスが──アルセイドがいてくれるのだから大丈夫だ。
冷たい水を腕や足に少しずつかけ、体を慣らしていく。そろそろ大丈夫か、と思い切って浅い場所で体を浸してみれば、ルーシャンの体を冷えた水が包み込んだ。予想以上に冷たい水に、ルーシャンの目が丸くなる。
けれど、その表情はすぐに綻んでいって。
「気持ちいい……♪」
顔も水の中に入れると、目の前を小魚が通り過ぎていった。
(わぁ……!)
一匹、二匹と過ぎ去っていく小魚。川底の石を避けながら器用に泳いでいく。
(おさかなさんみたいに、上手に泳げたら楽しいだろうな……♪)
ぷは、と水面から顔を上げる。パラソルを準備しているアルセイドと目があって、手を振ると優しく微笑まれた。
再び水の中に顔を付けるルーシャンを見て、アルセイドは瞳を和ませる。
どうやら、水中にはお気に召すものがあったようだ。
(さて……ルゥ様が遊んでいる間に、果物や飲み物を川で冷やしておこう)
手際よく石で囲いを作り、そこにスイカや炭酸水、密閉容器に入れた白玉などを浮かべていく。
冷えた頃合いに、これらでルーシャンのためおやつを作るのだ。
アルセイドを横目に、ルーシャンは川辺に腰かける龍士を見つける。
「……龍士お兄ちゃん、何してるの?」
「釣りだ」
「お魚釣れるの! すごい!」
先程水の中で見た小魚はすいすいと泳いでいた。あっという間に下流へ泳いで行ってしまう魚達を、龍士は釣るというのだ。
「一緒に見てていい?」
目を輝かせるルーシャンに、龍士は勝手にしろと短く告げる。
ルーシャンは龍士の傍に膝をつき、釣り糸の垂れた川面をじぃっと観察し始めた。
「……あっ」
(釣り糸、引いてる)
糸の動きを見つめていると、龍士は魚を逃がすことなく吊り上げる。
「わわ、すごーい! 龍士お兄ちゃん釣り上手ね♪」
「そんなことはねぇよ」
言いながら龍士は魚を釣り針から外し、川へリリースする。ルーシャンはその様子を見て首を傾げた。
「おさかなさん、逃がしちゃうの?」
「腹減ってるわけじゃねぇしな」
ルーシャンの言葉に頷いた龍士。釣り針に餌を付ける様子にルーシャンは顔を近づけ、次の瞬間「ふぇっ!?」と悲鳴をあげて身を引いた。
「え、餌は虫なの……」
思わず龍士の背中に隠れてしまうルーシャン。そこへ朱華が興味深げにやってくる。
「つりですの?」
虫は苦手でないようで、幼い手が興味本位で釣り針に近づく。
「おい、怪我するから触んなよ」
こっちにもいる、と出された小さな籠には、龍士が捕まえたのであろう水虫が入れられていた。
「触れるの……?」
「ええ。むしはへいきですわ」
虫を軽くつつく朱華の傍へ、ルーシャンが恐る恐る近づいていく。しかしやはりだめだったようで、龍士の背中へ再び隠れてしまった。
「なにか、つれますの?」
視線を釣り糸へ送った朱華に、龍士は「アマゴが釣れる」と答える。
再び魚を吊り上げる龍士。朱点の散ったこの魚がアマゴだと二人に教えてくれた。
「その魚は食べられる魚じゃろうか?」
龍士に問いかけたのは釣り姿を見かけて向かってきたアヴニール(aa4966hero001)。後からアクチュエル(aa4966)の姿も見える。
問いに頷く龍士を見て、そこから視線は釣り道具へ。
「釣り……かの? 釣りは未経験じゃな。汝は如何じゃ?」
「未経験じゃの。こうして釣り人を見る事も初めてなのじゃ」
双子のような二人の視線は龍士に語る。教えてくれ、と。
少女達の願いを無碍にできるはずもなく。釣り竿を持ったアクチュエルとアヴニールは意気揚々と川面に釣り糸を垂らした。
「揺れたかの?」
「いや、川の流れじゃろう」
なんて言葉を交わしながら、のんびりと魚が掛かるのを待つ。
「……む」
釣り糸を上げたアヴニールは、釣り餌のみなくなっているのを見て小さく眉尻を下げた。
「見た目より難しいモノじゃのう」
龍士はいとも簡単に釣ってみせていたが、実際はそれほど簡単でないようだ。
「然し、釣れるまでの時間もなかなか良いモノじゃ」
苦笑を浮かべたアクチュエルの釣り針には小魚が引っかかっている。
暫し釣りを楽しんだ二人は龍士に礼を言い、離れていった。朱華も「コトのもとにもどりますわ」とまっすぐな髪を揺らして去っていく。
残ったルーシャンもアルセイドの声に呼ばれる。
「ルゥ様、おやつができましたので……あぁ、お友達も一緒ですね」
「ええ」
頷いたルーシャンはそうだわ、と龍士をおやつに誘った。
お腹が空いていなくてもおやつなら食べられるだろう。
「皆で食べたらきっと美味しいの! 眞魚ちゃんも誘うね♪」
眞魚(az0119hero001)を探せば、川を訪れていた子供達とはしゃぐ姿がすぐ見つかる。
「沢山あるので、是非どうぞ」
アルセイドが柔和な微笑みを浮かべて三人の前に出したのはフルーツポンチソーダ。スイカの皮が器にされている。
照りつけるような日差しも、口内に残るしゅわしゅわした感覚も、とても夏らしい。
おやつの時間を過ごして、龍士たちと別れたルーシャンは小さく欠伸を漏らした。
たくさん遊んで疲れているところに、気持ちのいい川風が吹いている。ふわふわとした意識の中、誰かに布をかけられる感覚があった。
(タオルケット……アリスだわ)
うたた寝するルーシャンにそっとタオルケットをかけ、アルセイドは小さく微笑んだ。
「……貴女が沢山笑顔でいられる一日で、本当によかった」
その言葉が聞こえたのだろうか。微睡むルーシャンは小さく笑みを浮かべた。
一方、龍士たちの元を去ったアクチュエルとアヴニールは川に足を付けていた。
「川が近くなだけで涼しいのう」
「うむ。こうして、足を川に浸けているだけも気持ちがいいのじゃ」
海もいいけれど、川も悪くないものだ。
釣りというものも初めてだった。海なら沖に出なければならなかっただろう。
「釣りと言うのも楽しいモノじゃったの」
「魚との駆け引きも楽しいが、待つ時間が何より楽しかったの」
アクチュエルはアヴニールの言葉に頷いて、川の中の魚を思い浮かべた。
流れへ身を任せ、あるいは逆らって泳ぐ魚。流れに逆らうのなら強く泳がなくてはならない。
(我らは、ただ流されているだけじゃろうか……)
流れに逆らえないのか。流れは止められないのか。
否、流されることが正しいとすれば──。
「難しい顔をしておるの」
アヴニールの言葉に、アクチュエルはいつしか伏せていた瞳を開いた。
「ん……そ、そうかの」
「川は澄んでおるの」
唐突な言葉にアクチュエルはアヴニールを見る。
「汝の顔も我の顔も映し、流れで歪む」
視線を川面へ向けると、映っていたアヴニールの一部分がブレていた。
「然し、我は我。汝は汝じゃ。それは変わらぬ。真に己を失わぬ限りは、じゃ」
「……川は流れ、海になる……永遠の川などない、という事かの?」
「すべては己が感じるままじゃ」
アクチュエルはふっと肩の力を抜けるのを感じた。
「……汝は強いの」
「そんな事は無いと思うがの」
くすり、と笑ったアヴニールが立ち上がる。
「頭より体を動かす方が気持ち良い。もう少し二人で川を堪能じゃ!」
「……うむ。そうじゃの!」
彼女らの進む軌跡を描くように、跳ね上げる水飛沫が二つ。
場所は戻りて。
「あ」
踏んづけた石がグラリと。更に足が滑り、薙の体もグラリと。
「「わーーー!!」」
大きな水しぶきに、たまたま河原を駆けていた子供達から歓声が上がった。
「大丈夫? 滑るから気をつけて」
「ん、ありがと」
苦笑と共に若葉が差し出した手を握る薙。立ち上がった薙の耳に聞こえてきたのは、拓海の「逃げられた!」という声だった。
「拓海さん、どうしたの?」
聞けば、小魚を囲い場へ追い込んだのだが隙間から逃げられたのだと言う。
「こうなったら……石をもっと細かく積もう!」
「僕も、手伝うよ」
「あ、俺も! 追いつめてから、出入り口を素早く石で塞いだらどうかな?」
作戦会議も交えながら三人は囲い場の石を積み直していく。
こうして、小魚捕獲作戦は開始された。
「あ、来たよ」
薙が目ざとく小魚の影を見つけ、拓海が最初と同様に囲い場まで追い込んでいく。囲い場の傍で待機するのは若葉だ。
「いい感じだよ!」
石の隙間を小魚が通り抜け、若葉が石で素早く穴を塞いだ。
成功! とハイタッチする三人をメリッサが写真に取る。エルが囲い場を覗き込み「おや?」と声を上げた。
「葡萄を食べようとしているようだの」
「「「ええっ!?」」」
その後、石を退かされた魚はゆっくりと囲い場から出ていったという。
そして、昼食。
弁当や冷えた野菜を分け合い、すいかもナイフで切り分ける。
川に付けたままの足はひんやりと気持ちがいい。
「ラド、魚釣れた?」
「ああ。その場で食べるのが一番だが……」
ラドシアスが言葉を切り、空を見上げて眉を小さく寄せる。その様子に若葉も上を見て苦笑した。
「火を使ったら余計暑くなりそうだね。皆のお土産かな」
借りている拓海のクーラーBOXなら、暑くてもある程度鮮度を保ったまま持ち帰れるだろう。
「ん、おいしい……!」
「よく冷えてるね……うまい♪」
「こうやって食べる事はあまりないけれど、体も冷えるしいいな」
三人の言葉に、隣でトマトを食べていたメリッサも頷いた。
「このトマト……ドレッシング不要ね」
完熟した赤い果実は驚くほどに甘い。
(ここにいる皆の笑顔が塩代わり……かしらね)
エルも葡萄を一粒摘まんで口に含み、その口端を上げる。
「良く冷えておる」
既に笑顔いっぱいの一同。けれど、まだ半日。時間はまだまだ残っている。
●人に似た
「これも……あっちも、かかし?」
「うっわ、あんな所にもいるよ! ……何体いるんだろう?」
若葉が指をさす。どこもかしこもかかしだらけ。
そんな若葉や薙たちの様子を後ろから眺めていたラドシアスは、ビクッと体を震わせた人物に気づいて視線を向けた。平気な顔をしようとしているが、それがフリなのがよくわかる。
「エルは……案山子が嫌いなのか?」
「嫌いなわけではない。人と見紛う物が気配なくあると、身構えてしまうというだけじゃ」
「エルル、カラスみたい……」
ラドシアスの問いに虚勢を張るエル、それに気づいてやや呆れた声を出す薙。
「……戦いに身を置く者として、意識が向くのは仕方がないのかもしれないな」
「そう、それよ。やはりこれは致し方無いことよな」
渡りに船、と言わんばかりにエルは頷いた。
メリッサは道端に佇む一体のかかしへ近づいて眺め見る。
「どれも凄いわ……リアルすぎない? 動き出しそう」
「ソコが良いんだろう」
体験の施設に入れば、既に先客。狐杜と朱華も体験をするようだった。
すでに材料を受け取った狐杜は小さく首を傾げる。
「どんなかかしを作ろうか」
そう呟いて暫し黙考。案が浮かんだら作業開始。
「ハネズ、これを一緒に巻こうか」
はい、と返事した朱華が新聞紙を持ち、心材に巻きつけていく。だが、その興味はあっという間に他の者が作る様子に移ってしまったらしい。
「ほかのかたのかかしをみてきますわ」
たた、と向かったのは若葉、薙、拓海たちのところ。こちらも胴体となる部分に新聞紙を巻き付けている。
それらを邪魔にならないよう、しかしじぃっと観察し、気がすんだのか朱華は狐杜の元へ戻っていった。
「コト、おてつだいしますわ」
こうしてまた手伝いに戻り、興味が薄れたら他のかかしの観察へ。
もし作業中に朱華色の髪が見えたとしたら、きっと彼女だろう。
薙は手元のかかしを見下ろした。
「……ん、こんな感じ、かな」
若葉をモデルにしたかかし。本人とよく見比べて作ったので、上手にできた方だと思う。見渡せば、どうやら自分が一番乗りのようだ。
ふと、薙は拓海の方を見た。そしてそーっと、気づかれないように。制作に没頭している拓海の横へ、出来上がった若葉かかしを置く。
若葉も気付いているようだが、薙の悪戯を拓海へ知らせるつもりはないらしい。
(いつ、気づくかな)
ドキドキしながら離れて様子見すると、やがて拓海が「できた!」と声を上げる。
薙をモデルにしたかかしは心材の時点でバランス調整などにもこだわりがあり、着ている服は拓海が持参した古着。
「ふふ~どうだ? 後姿はまさに薙だろ……つぉっ!!」
「ぶふっ」
隣のかかしを若葉だと思ったらしい。声をかけながら振り向き──この反応であった。
「俺はこっちだよー」
別の場所で手を振る本物の若葉。実に楽しげである。ちなみに、先ほどの吹き出した人物も彼だ。
「上手にできた、でしょ♪」
「……こりゃ負けた」
「ほんと良くできてるね……そっくりじゃない?」
かかしと同じポーズを取ってみせる若葉。本当にそっくりだ。
「素直じゃないわね~。勝ち負けって言ってるけど、あれは怖かった時の反応よ」
「ふふ。拓海殿も驚くのだな」
エルが唇を孤に描く。耳打ちしてはいるのだが、その声量は小さくない。
「リサ~オレにもささやかながらプライドが」
そうは言っても、すでに出てしまった言葉はメリッサにもどうしようもなかった。代わりにこれ以上言うのはやめておく。
「……俺も負けてられないね♪」
二人のかかしを見て触発されたのだろう。若葉がかかしの制作を再開した。
「できたのだよ」
狐杜は満足げにかかしを見下ろした。
角のついたかかしだ。さすがにこの集落では角のついたかかしはいなかったが、狐杜はある人物をイメージしながらこれを作った。
そう、今日はいない第一英雄を。
「ふふ、これを見たら、どのような顔をするだろうね」
嫌そうなしかめ面が思い浮かんで、思わずくすりと笑ってしまう。
朱華はそのかかしを見て、狐杜に似ていると思ったようだった。いそいそとスマホを取り出し、カメラアプリを起動する。
「おしゃしんを、とりますわ」
帰ったら第一英雄に見せるのだ。そして、手伝いをしたことを報告するのである。
カシャ、とシャッター音が小さく鳴り響いた。
若葉も拓海かかしを完成させ、それぞれのかかしをしみじみと眺める。
「僕、こんな感じなんだ」
「そちらの薙も良く出来ておるぞ。これなら怖く……んん」
エルは言いかけて、やめた。話題を変え、並べて写真を取らないかと提案する。
「ね、拓海さん、並んでみて」
そこからは写真撮影の開始だ。メリッサがカメラで同じポーズをした拓海とかかしを撮り、その間に入って「両手に花☆」と両方と腕を組んだ写真を撮ったり。
若葉や薙も同じポーズをさせようという話になり、どんなポーズで取ってもらおうかと本人たちが考え始める。
そんな合間をぬって、拓海はメリッサに声をかけた。
「最近、よく写すね」
「写真を添えて、奥様に報告するのよ☆」
「ぇ……変なことしてないぞ?」
報告、の言葉に拓海の顔が引きつる。メリッサはそれをみてくすりと笑った。
「……そういう時しか写さないと思ってるの?」
日頃の行い良くしたら? なんて、軽いお説教。藪蛇をつついてしまったようだ。
「人って、大人に成っても変わり続けてるでしょ。明日見てもわからないけど……十年たったら違う。それを見つけたくなったの」
メリッサと拓海の付き合いは長い。けれど、その時間の流れでメリッサは変わることがないのだ。
「……沢山見つけてよ。隣で見せ続けるから」
そう告げれば、メリッサは勿論と返して。
若葉と薙のかかしツーショットをおさめ、最後に全員のかかしを撮ろうと一か所に寄せる。
パシャ、と。思い出を作る音がした。
担当:秋雨
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
---|