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【時空戦】タンプル塔から脱出せよ
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自由と平等を掲げて
最終発言2018/08/01 19:46:24 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/07/31 19:14:10
オープニング
●――の情景
かつて自分を羨望の眼差しで見ていた民衆たち。曇った空。白衣。白い帽子。肥桶の荷車。処刑人の足を踏んでしまった。
1793年。10月。16日。
『お赦しくださいね、ムッシュウ。わざとではありませんのよ』
●最後の時空戦
「何故私がお前を運ばなければいけないのだ!」
しかめっ面をしながらアルビヌス・オングストレーム(az0125)は、タイムジュエリーの案内人・ノーリに指示された場所――フランス・パリ3区の区役所前――へと向かっていた。石畳に靴音の音が響く。上空では強い風が吹いているのか、雲の動くスピードも速かった。街灯が明滅している。夜という闇を照らすものなのであれば、さっさと交換すれば良いのに。
『まあまあ、これもその……リヴィアだっけ? 彼女の為になると思えば』
アルビヌスを見上げ、ノーリは言う。その言い方が癪に障ったのか、アルビヌスは顔を真っ赤にして反論する。
「リヴィア様を呼び捨てにするな無礼者! あのお方は世界を変える素晴らしい」
『あーはいはい。分かったよ。……ああ、ここだ。おや、もう君たちも来ていたんだね』
エージェント達の姿を認めたノーリが笑う。
『さて、次の……いや、最後のゲームの説明を始めようか』
「最後だと?」
訝し気なアルビヌスの声にノーリはそうだよ、と頷いた。
『最初に言った通り、ゲームの勝者にボクはついていく。……1793年10月16日。王妃マリー・アントワネットは断頭台の露と消えた。その前に彼女が幽閉されていたのが、かつてここにあった監獄――テンプル塔だ』
目を細め、ノーリは上を見上げる。
まるで今でもそこに塔があるかのように。少し時間をおいてから、ノーリはエージェント達へ目を向ける。
『君たちは、マリー・アントワネットを塔から無事脱出させること。塔の側、出口から10メートルほど行った場所に鉄製の門があるから、そこを彼女が通ったら、君たちの勝ちだ』
その後、アルビヌスを仰ぎ見て。
『君たちはその妨害だ。タンプル塔の最上階に、鉄の扉の小部屋がある。そこにマリー・アントワネットを連れ込んだら、君たちの勝利』
「なるほど……今度こそ、今度こそ、目にものをみせてくれるっ!」
アルビヌスがエージェント達を指さす。
張り詰めた空気の中、ノーリは一つ息を吸って、吐いた。それからこれまでと同じように、翼から腕を出し、指を大きく、鳴らす。
『さあ、過去に行っておいでよ!』
タイムジュエリーが輝き、そこに居る全員を包み込んだ。
解説
エージェントとセラエノの一同はタイムジュエリーによって過去のタンプル塔に跳ばされました。
そこでノーリに言われた役目を果たして下さい。
もちろん、セラエノ側も役目を果たそうとします。
◆跳ばされた過去の日付
1793年1月22日 深夜
◆跳ばされた先で何が起きている?
ルイ16世が処刑されました。
マリー・アントワネット及び彼女の家族は裁判が始まるまで、タンプル塔に幽閉されています。
◆注意点
タンプル塔の構造は以下の通りです。
・地上六階建ての鉄塔。一辺約5メートルほどの正方形の建物。
・マリー・アントワネットが幽閉されているのは、3階の小部屋。
なお、塔には彼女以外にも以下の人物が幽閉されています。
・マリー・テレーズ王女(アントワネットと同室)
・ルイ・シャルル王太子(アントワネットと同室)
・王妹エリザベート(アントワネットと別室)
・塔の外壁に階段はありません。
・全ての窓は厚い布で覆われています。
・階段は塔の西側にあります。
・エージェントは4階から、セラエノは2階からのスタートです。
・共鳴はできません。英雄は個人のパートナーとして存在します。
・アイテムの持ち込みは可能ですが、ライヴス技術を用いたものは使用できません。
リプレイ
●過去へ向かう途中、それぞれの想い
「初めて、こちら側が、史実を変えることになるのでしょうか」
紫 征四郎(aa0076)の呟きに、ユエリャン・李(aa0076hero002)がふむ、と反応する。
『そうであろうな。……しかし、一連のこの物語はなんのために』
「征四郎も気になっているのです。ノーリは、何を考えているのでしょうか」
海神 藍(aa2518)は今から跳ばされる時代に想いを馳せていた。
自由と平等を掲げ、ギロチンが血を啜り続けた時代。
少なくとも、そこに友愛はなかった。
それ故、ルイ・シャルル王太子はあのような痛ましくも残酷な結末を迎えた――。
「……彼を救うぞ、禮」
その言葉に禮(aa2518hero001)は大きく頷く。
『ええ兄さん、護りましょう。たとえすべてが、泡沫の夢なのだとしても』
「……ルイ十六世の処刑は今王妃や子供達へ伝えるべきではないと思いますが……」
月鏡 由利菜(aa0873)の言葉にリーヴスラシル(aa0873hero001)は同意した。
『ただでさえ王妃や子供達は衰弱しているはずだ、知ってしまえば立ち直れないだろう。だが、当人達が既に知っているなら……』
「……それでも、心の支えとなることは必要です」
ぎゅっと由利菜は手を握った。その力強さにリーヴスラシルは彼女の決意を感じ取る。
「ラシル。助けましょう、マリー王妃を……いいえ、皆さんを」
『ああ。その為に力を尽くそう』
●タンプル塔・四階
三階へと降りていく仲間達とは逆にマリアンヌ(aa5176hero002)は四階の探索を始めた。それを見た柳生 鉄治(aa5176)は慌てる。
「おい、どこに行くんだ!?」
『4階だって探さないとダメでしょ。セラエノはまだ来てないわ。大声出して一家を呼びなさい』
「反応があればそこに向かうって訳か。……おーい誰か居るかー?」
鉄治の声に奥の部屋から微かな声がした。その部屋にマリアンヌは近づく。
『鉄治。扉を開けなさい』
「そんくらい自分で」
『鍵が見えないの? 壊せってことよ』
マリアンヌに指摘され、鉄治は納得した。向こうに誰か居ることを懸念し、扉から離れるように叫ぶ。そうして何回か扉に体当たりをして、鍵を吹っ飛ばした。
中に居たのは一人の貴婦人。ブロンドの髪は汚れてもなお、その輝きを失っていない。
「……貴方たちは何者ですか?」
『ふぅん。エリザベートね、あんた』
マリアンヌは彼女を見つめた。どう対応していいか分からず貴婦人――エリザベートは困惑している。その様子を見ていた鉄治が口を出した。
「あー、お前の姉ちゃんから聞いたことないか? 何年経っても同じ姿の大道芸人とか……」
『あ゛?』
マリアンヌはすかさず鉄治を睨みつけた。と、階下から激しい音が聞こえてくる。セラエノと接触したのだ。今一度、マリアンヌははエリザベートを見る。彼女の表情は先程よりも更に緊張の色合いが濃くなっていた。
『ほら。あんた、自分がどうなりそうなのかわかってるでしょ? 現に階下がうるさいでしょう? ……あんたの大好きなお姉さまは家族一緒じゃないと嫌だって。さ、ここを出るわよ』
マリアンヌの毅然とした態度に何かを感じ取ったのか、エリザベートは一つ、確かに頷いた。
『あとは、念には念を、と』
マリアンヌは部屋を出て、階段に近づいた。持っていた紹興酒二本を上へ放り投げる。
『ま、こんなものよ』
「景気よく良すぎだろ」
『よーく滑るわよ』
ふふ、と胸を張るマリアンヌ。鉄治は彼女が仕掛けたもう一つの罠を見て、息を吐きだした。
「階段にヴァイオリンの弦まで張りやがって。クソ陰険だな」
『あ゛?』
その頃、凛道(aa0068hero002)は各部屋の窓を覆う布を集めていた。カーテンと呼ぶには粗末な布だが、トランポリンの代用としては申し分ない。託されていたスマートフォンを適当な場所に置く。窓を覆う厚い布を切り裂き、その下を覗いて、三階にも同じ位置に窓があることを確認した。後は念のため、廊下にあった松明を拝借しよう。
『これならいけるでしょう』
凛道は眼鏡のブリッジを押し上げた。
●タンプル塔・3階
「グリューリア! マルトノ! レハール! マリー・テレーズ王女を確保しろ! 子供を人質にとれば、マリー王妃はこちらの言うことを聞くはずだ!」
二階から三階を見上げ、アルビヌスは部下たちに命じた。こちら側に上がってくる三人の姿を禮は捉え、多量のロケット花火と、ねずみ花火に火を付ける。
『ブルームフレア!』
「ただの花火にセラエノが動じるとでも?」
ふふ、と不敵に笑いグリューリアが花火を乗り越えた。彼女の表情に藍はぞくりとする。すぐに気を取り直して、これだけ派手な音を出したのだから、衛兵が駆け付けてくるだろうと考えた。しかしその考えは外れた。衛兵が居ないのか、それとも居眠りでもしているのか。真相は定かではないが、こちらにやってくる気配が一切感じられない。
グリューリアの行く手を遮ろうと獅堂 一刀斎(aa5698)は彼女の前に立ちはだかった。ディバイドゼロを勢い良く抜く。
「……ライヴスが使えぬ此処ではただの剣に過ぎぬが。貴様らの足止めには充分だ」
「征四郎もそう思うのです!」
「お兄さんもね! 見えなくても、振り回せばあたーる!」
釘バットを手にした木霊・C・リュカ(aa0068)が一刀斎の隣に並ぶ。その後ろには征四郎も居た。仲間達がセラエノと対峙している間に比佐理(aa5698hero001)はマリー王妃の姿を探した。狭い塔の中だ。部屋数はそんなに多くない。
不意に上から女性の声が聞こえてきた。リュカのスマホからの声。それを聞いたアルビヌスがふん、と鼻を鳴らす。
「機械音声になど騙されるものか!」
アルビヌスが声を張り上げる。一刀斎とリュカの攻撃からグリューリアを守るようにマルトノが彼女をカバーリングした。その隙にグリューリアは二人を飛び越える。
「ここで諦めて下さい!」
征四郎がグリューリアに攻撃を仕掛ける。それは掠ったが、彼女の足を止めるには至らなかったようだ。続けてやってきたレハールの対応に二人は追われる。
グリューリアは比佐理の動きを良く見ていた。彼女が探していない部屋。あそこにマリー王妃が居る。しかしそれは由利菜と比佐理、そしてユエリャンも同じだった。グリューリアよりも早く、王妃達の部屋へと飛び込む。グリューリアは激しく舌打ちをして、扉をこじ開けようとしたが、中でユエリャンが抑えているのだろう。扉は中々壊れない。
「っ、面倒なことを! やってしまえ!」
「させるものか!」
一刀斎はアルビヌスに攻撃を仕掛ける。しかしそれはマルトノのカバーリングに阻まれた。
リヴィアの為に懸命に尽くすその姿。
自分が比佐理を思うのとよく似ている、いやきっと一緒なのだ。
でも、ここは譲れない。
「アルビヌス、我が命と刃に懸けて……此処は一歩も進ません」
「なにおうっ?」
「同じく!」
藍は消火器で煙幕を作り出す。そして周りの蝋燭の炎も消した。突然の暗闇にセラエノ側に動揺が走る。そこで征四郎は気づいた。ここに跳ばされる前に居た人数よりも今ここにいる人数は少ない。
(まさか)
「ここはお願いします!」
混乱するアルビヌスを突き飛ばし、征四郎は塔の外へと向かった。藍と禮もまた、一刀斎とリュカにこの場を任せ、王妃の元に向かう。藍に気づいたグリューリアとレハールが気配だけでこちらに攻撃してくる。彼らの武器の先端が藍の肩を掠めた。リーヴスラシルが応戦に駆け付ける。グリューリアに体当たりし、彼女を吹き飛ばした。
「くっ、邪魔をするな! 何故、そんなに必死で守ろうとする!」
グリューリアの叫びに、リーヴスラシルは笑った。
『……我が主にとってはここもまた、愛すべき異世界なのだ。お前達は今までの行動を見る限り、ここをただ自分達の欲望を叶える為の舞台装置としてしか見ていない。……ならば、主が同調する筈もない! そして主が、ユリナがこの世界を守るというのであれば、私もその為に力を尽くすまで!』
リーヴスラシルは側にあった棒を構えた。
『AGWが使えない状況だが……棒術は槍術を応用すればいい』
そして、藍と禮を見て。
『今だ、行け!』
「はい!」
二人は王妃の部屋の前に立つ。大声で名乗り、扉を開けるよう頼んだ。すると、扉はすぐに開いて。
「早く」
藍と禮の入室が完了すると同時に比佐理は扉を押さえた。藍は扉を閉鎖しようとしたが、当然鍵のようなものはなく、扉の前に置ける棚などもなかった。外では激しい戦闘音が聞こえる。ここが突破されるのも時間の問題かもしれない。
部屋の中、由利菜がマリー王妃とルイ・シャルル王太子、マリー・テレーズ王女に紅茶入りのクッキーを渡していた。
マリー王妃の姿は激変していた。
頬はやつれ、肩は細くなり。
華麗な宝飾品は何一つ、なかった。
「貴方達は……」
『夜分遅くに騒々しく申し訳ありません。王妃さま。お迎えに上がりました』
「え、ええ……あの方から聞いています。……一部の国民が私たちの救出を望んでいると……まだ、民の心は完全には離れていないのですね……」
「そうです、王妃様」
由利菜はマリー王妃を真っすぐ見つめ、励ましの言葉を紡ぐ。
「……今起きている出来事は、王宮と国民との不幸なすれ違いの結果ですが…あなたの存在を希望とする国民もまた、沢山いることは忘れないで下さい」
その言葉に、マリー王妃は力なく笑った。
「……ありがとう」
『王妃様。”追憶のパヴァーヌ”は覚えておいでですか…? もし無事に脱出できたなら、またお聞かせいたしましょう』
「そうね。是非、聞かせて頂きたいわ」
そんな会話を聞きながら、ユエリャンは慎重に窓を覆う布をめくり、わずかな隙間から外を見た。先程、部屋に入ったらすぐに外を確認した時に二名ほど――ヘッドライトを装着しているのですぐに分かった――がこちらを狙っていることに気づいた。今もまだ、彼らはこの窓を狙っている。体を張って王妃達を守る所存ではあるけれど、なるべく危険は排除したい。
『さて、どうするか。……おや』
ユエリャンは気づいた。
松明を持ち、狙撃手に向かっていく、小さな影。
『征四郎』
ふ、とユエリャンは笑った。
その影はあっという間に狙撃手たちを片付ける。
ユエリャンは窓から布を取り去った。松明を持って地上に降り、四階に居るであろう凛道に向けて松明を振った。凛道が布を持って、飛び降りてくる。
『ふむ、これだけあれば十分であろうよ』
『ユエさん、急いで広げましょう!』
凛道と共にユエリャンは作業を開始した。
●脱出
「塔の屋上からロープを使っての脱出がいいと思っていましたが……この方が良いですね」
凛道とユエリャンが作った即席トランポリンを見て、由利菜は言った。そしてマリー王妃を見て脱出しましょうと促す。しかし彼女は首を振って。
「私よりも先に、子供達をお願いします」
それを聞いた比佐理がマリー・テレーズ王女に近づいた。テレーズが後ずさる。
「テレーズ。その方はとても優しいの。大丈夫よ」
「本当? お母様」
「ええ」
テレーズは恐る恐る比佐理に手を伸ばした。その手をぎゅっと握り、比佐理はテレーズを抱える。彼女に怪我をさせないよう細心の注意を払いながら、窓からトランポリンに向けて飛び降りた。
「ルイ・シャルル王太子。こちらへ」
藍がシャルルを招く。彼は一瞬ためらいを見せたが、藍の手を強く握った。先程の比佐理と同じように飛び降りる。彼らが無事に地上に降りたのを確認してから、禮もまた降りる。上から声が聞こえた。
『鉄治、エリザベート抱えて飛び降りなさい!』
「人使い荒すぎんだろ!」
次の瞬間、エリザベートを抱えた鉄治が四階から飛び降りた。
ガン! と大きな音がして由利菜は反射的に振り返った。
扉ごと、リーヴスラシルが吹き飛ばされていた。グリューリアが由利菜を睨む。
『ユリナ! 早く王妃を!』
由利菜はマリー王妃を抱き寄せた。トランポリン目掛けて飛び降りる。
脱出は無事に成功した。
●逃亡
「ユエさん、これで全員です!」
『ふむ。本来であれば、全員に変装を施したかったが、無理であったな』
ユエリャンはシャルルを抱えた。鉄治はエリザベートを、比佐理はテレーズを、凛道はマリー王妃を。そしてあらかじめ方向を確認しておいた門に向かい、光源になるものは全て捨てて、四人は一斉に走り出す。マリアンヌはそれに続いた。ふと、マリー王妃と目が合う。
『何もいりません。全て終わりました、とでも言うつもりだったのかしら』
「いえ、その……貴女に見え覚えが』
『あら、そう?』
「逃がすか!」
マリー王妃を追って、グリューリアとレハールが飛び降りてくる。その二人の前に藍と禮は立ちはだかった。
『兄さん』
「どうしたの、禮」
『兄さんと”肩を並べて”戦うのは、これが初めてですね』
ああ、と藍は笑った。
「偶にはこんなのも悪くない。……いくよ、禮!」
『はい、兄さん!』
鉄パイプと木刀を手に、二人はセラエノに立ち向かう
王妃達が逃げたことを知ったのか、塔の入口からこちらに向かってアルビヌス達が向かってくる。征四郎と由利菜は彼らの前に立ちはだかった。
「セラエノは、なぜタイムジュエリーを欲しがっているのですか? 貴方達は、なにか知っているのです?」
「我々は何も知らない……そう、それはリヴィア様だけが知っていればいいこと!」
アルビヌス自らが征四郎に襲い掛かる。しかしその攻撃は征四郎が軽くいなせるものだった。
「この世界の未来の為に!」
由利菜はマルトノに攻撃を仕掛ける。彼は攻撃を受けきる体力はほとんど残っていないようだった。遅れて、一刀斎とリュカもその戦いに参加する。アルビヌスは何とか、マリー王妃達の後を追いかけさせようとしていた。しかし、そちらに回せる人数が居ない。
門の手前で、凛道はマリー王妃に変装セットと金のJ像を渡した。
『主人から、暫く人目を誤魔化す為の術と、暫くの金子になりそうな物です。どうか、どうか。貴女方の生きるこの先が少しでも良い物で在りますように』
マリー王妃は渡されたものと凛道を交互に見て、そして微笑んだ。
(違う世界、立場とは言え……伝記に書かれている通りの人ならば……)
凛道は同職の彼――シャルル=アンリ・サンソン――のことを思う。
(きっと喜んでくれますよね)
エリザベートは改めて、鉄治とマリアンヌにお礼を言っている。
『そういやあんた、生意気に年上のロイヤルなのが好みだったわよね。エリザベートもらってあげれば?』
「んなっ? 馬鹿言うな」
「叔母様!」
門をくぐったテレーズがエリザベートを手招きする。エリザベートはためらうことなく、門をくぐる。その次にシャルルも。
「お母様、早く!」
そしてマリー王妃もまた、門をくぐって。
『ゲームオーバー。……戻ってきなよ、君たち』
●時空戦、決着
気づくと、皆フランス・パリ3区の区役所前に戻っていた。ノーリがこちらを見ている気配に気づいて、リュカは口を開いた。
「黄色の宝石、時間の門番よ。どうか勝利した我々に、貴方の歴史をくれませんか!」
『そんな大げさに言わなくても、約束通りボクは君たちについていくよ。そっちは……残念だったね』
「ああ……ああ、リヴィア様……!」
アルビヌスが膝から崩れ落ちる。マルトノが必死でアルビヌスを励ました。
「帰りましょう、アルビヌス様。大丈夫です、リヴィア様はきっと次のチャンスをくださいますよ」
「そうです、帰りましょう」
グリューリアにも言われ、アルビヌスはふらふらと立ち上がった。肩で大きく息をし、そしてびしっとリュカ達を指さして。
「もし次があるのなら! 今度は負けん! 今度こそリヴィア様に勝利を捧げる!」
アルビヌスはくるりと背を向け、大股に歩きだす。その後ろを彼の部下達は追った。その姿が完全に見えなくなったところで、藍はノーリに話しかける。
「ノーリ」
『何だい』
「タイムジュエリーは決められた過去の一部分にしか跳ぶ事が出来ない筈……君、王妃ではなく”愛のキャベツ”に縁があったのかい?」
『違うよ』
藍の言葉をノーリは否定した。ふ、と表情を緩める。
『ボクが想うのはマリー……マリアだけさ。見てみたかったんだよ、彼女が断頭台の露とならない世界をさ。その世界になら、いつかマリアに届けられるだろう?』
ボクが作った、結婚式の為の曲を――。
そうしてノーリ――時間案内人は消え。
黄色のタイムジュエリーはH.O.P.E.ロンドン支部に届けられた。
●その世界に想いを馳せて
H.O.P.E.ロンドン支部からの帰り道。
由利菜はふと、空を見上げた。オレンジ色の、美しい夕焼けだ。
「あの世界の未来は、分岐した……のでしょうね」
『きっと』
「マリー王妃には幸せになって欲しいです」
『なるさ。私達が守ったのだから』
「なあ、どうなるんだ、あいつら?」
日傘を持ち、自分の後を追う鉄治にマリアンヌはそうね、と返した。
影が長く長く伸びている。何事もなかったかのように、影はやがて短くなって、夜が来る。それは人間がどうあがいても変わらぬこと。
『本人と民衆次第じゃない?』
『少々悪趣味なゲームであったな』
ユエリャンの呟きに、そうだねえ、とリュカが同意する。
「彼女らがあの後、どう生きたか、が知りたいなぁ」
「征四郎も気になります」
『知る術は……ない、でしょうね』
「あの歴史のずれはなんだったんだろう」
ウィスキーを傾けながら、藍は呟く。その席に一刀斎と比佐理も居た。禮は彼が焼いたケーキを頬張っている。
『比佐理さんも食べますか? 兄さんのケーキは絶品です』
「……では、少しだけ……」
比佐理がフォークを手にする。それを見守りながら、一刀斎は口を開いた。
「確かに俺達が知る歴史ではなかった」
とくとく、と藍は一刀斎のグラスにウィスキーを注ぐ。
「てっきり”彼”が聞いて、想像したことだと思っていたのだけれど」
嘘をつくつもりはないが、想像力により話に尾ひれをつける。
そうした性格だと思っていた。
「全ては分からないまま、か。……せめてあの世界のマリー王妃達が幸せであることを祈ろう」
「そうですね」
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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