本部

【異界逼迫】連動シナリオ

【界逼】たとえば臓腑が焼け付くような

ガンマ

形態
ショートEX
難易度
難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2018/07/18 19:56

掲示板

オープニング


 大英図書館の館長室において、キュリス・F・アルトリルゼイン(az0056)は表の仕事をこなしていた。
(古墳から発見された地図ですか。希少性からいって仕方ない金額ですね)
 机に向かい、各部署からあげられた申請書に目を通して可否を決めていく。
 英雄のヴォルフガング・ファウスト(az0056hero001)は来客者用のソファで菓子を摘まみながら、ファッション雑誌の記事に目を輝かせている。
 もうすぐ昼食の時間といったところで、机の片隅にある固定電話が鳴り響いた。表向きの秘書を介さないH.O.P.E.ロンドン支部との直通回線だ。
「詳細はそちらに出向いてから。それでは」
 話し終わって受話器を置いたキュリスに、ファウストが「大急ぎで、どうかしましたの? 世界が滅びそうだったりするのかしら?」と訊ねる。
「そうでなければよいのですが」
 キュリスの返答に、からかった風のファウストは真顔になっていた。
 キュリスが書架の本を一部入れ替えると、奥に引っ込んでいく。さらに横移動し、エレベータの出入口が現れる。
 H.O.P.E.ロンドン支部は大英図書館の地下深くに存在していた。降りたキュリスとファウストは、執務室へ向かわずにブリーフィングルームへ。中央にあるテーブル上にはホログラムイメージが浮かぶ。地中海周辺の地図である。
「早速、本題に入らせて頂きます。ご存じの通り、地中海周辺でテロが起こるというプリセンサーの報告が相次いでいます。これまで曖昧だったのですが、ここ二、三時間ほどで確定的なものに変わっていまして――」
 職員の一人が状況を説明した。
「確度の高い前兆ですね。警戒態勢を引きあげましょう。本部にも連絡を……、いや私がしたほうがよさそうですね」
 キュリスはテレビ電話を通じて、自ら本部とやり取りする。終わったあとで、職員が戸惑いながら口を開いた。
「あの、支部長。マガツヒの首領『比良坂清十郎』は、本当に『過去機知』が使えるのでしょうか。私もプリセンサーの端くれなのですが、どうしても信じられません」
 職員が語った『過去機知』とは非常に稀なプリセンサー能力だ。過去に起こった事実をつぶさに知ることができるといったものである。
「私も完全に信じたわけではありませんが、その想定で動くつもりです。そうでなければ説明しづらい行動が、マガツヒにはありますので」
 キュリスはそう答えて廊下を歩きだす。
「キュリスちゃん、そんな恐い顔をしていると、お肌に皺が増えてしまいますの」
「それでこの事態を収束できるのであれば、安いものです」
 執務室の扉を閉じたとき、キュリスはファウストに軽く肩を叩かれた。
(やはり比良坂清十郎の真の目的は、古代遺跡の破壊にあるのでしょうか)
 テロの発生が疑われる地域の多くには、古代遺跡が存在している。キュリスは共闘することとなったセラエノのリーダー、リヴィアの言葉を思いだしていた。


●いこういこう
 私は世界平和を望んでいる! 人類をこの上なく愛している。然らば何故と問われるならば人は悪がなければ生きていけないからだ。害していいものを害するのは快感だ。団結だ。崇高だ。安全地帯より集団で正論の剣を突き立てるのは幸福だ。悪がなければ人は黒々とした衝動をどう昇華すればいい? 自分が正当と実感が得られるのは最高だ。悪がなければ人はどう生きればいい? 悪のない世界など無だ、停滞だ、人々に正義というものを思い知らせてやる! 幸福の花は不幸の土から芽吹き咲くのだ! 耕さねばならぬ。人類は手と手を取り合い平和を謳歌すべきなのだ。隣人に愛を。無尽蔵なルサンチマンを撒き散らさぬよう理性と秩序を以て律せねばならぬのだ。それこそが理想社会。全ての人間に善あれ。何度でもだ。思い知れ。思い知れ。思い知れ。謳歌すべきなのです。

「どうしてポンペイ遺跡に来たと思います?」
「なんでー?」
「それはねー……内臓が無いぞうで、“お腹が痛い(ぽんぽんがペイン)”、すなわちぽんぺだからです。ぽんぺい」
「はーん」
「しかし内臓がないぞうでも清十郎たんの為ならテロリズムしちゃうのが我々マガツヒ星人なのだ」
「宇宙人だったのー?」
「ものの例えですだよーん。……んー、今日はポンペイ休日かな? 人がいない」
「ごはんー」
「あっ、分かった。H.O.P.E.にバレたなさては」
「バレた?」
「H.O.P.E.プリセンサーの尽力ですね。いやあ素晴らしい、正義のヒーロー!」
「じゃあエージェントくるの?」
「そうなりますね!」
「わーい」
「わくわくですね! 勝てるかなぁ……ドキドキする」
「じゃあちょっと本気だそっか?」
「えっ、出せるんですか?」
「いいよー」
「変形を二~三回残すのは悪の嗜みですからね!」
「ねえエネミー」
「はい?」
「今日もいーっぱいブチ壊そーねっ!」
「はーい♪」
「壊せないなら君を壊します! 君を壊します! 壊して食べます! 食べます!」

 シャングリラにとってエネミーはいい宿主だ。
 ひっついているだけでエサを運んできてくれる。もしもの時はエサにもなる。
 そして今まで“世話”を焼いてきてくれた分、《完璧な楽園》はその邪悪さを増していた。

「どうして血が?」
「すぐによくなる」
「そですか! じゃあ……」

 ――レッツ世界平和!
 

解説

●目標
 敵戦力の撃退

●登場
マガツヒ上位構成員『エネミー』
 アイアンパンク(生命適正)、機械化部位は顔面。性別不詳。使用AGWはマチェット。
 憑依しているのは愚神『シャングリラ』。
 背面よりライヴスでできた愚神の上半身が突き出ている。
 全身から出血中、「減退」状態。

愚神『シャングリラ』
 機械仕掛けの人型めいた外見。
 数多の腕にチェーンソーめいた武装を持ち、与えるあらゆるダメージに「減退1」が付与される。この減退の数値は累積する。(つまり3回ダメージを与えられると減退3になる)
 能力はバランス型。凶化されている。
・その果ては凪
 捕捉している「出血している存在」からライヴスを吸収しており、能力強化・生命のリジェネレートを行っている。この効果はエネミーと共有。
・掌上にて
 超常的捕捉能力。「不意打ち」無効。命中回避上昇。左記効果のみエネミーと共有。
 攻撃の射程を長大にしつつ、複数対対象・範囲攻撃にする。
・幸福な大団円
 自身及びエネミーにバッドステータスが付与されるほど、生命を除く全能力値が激増。
・完璧な楽園
 毎ラウンドのファーストフェーズに、自身・エネミー含む戦域全対象に「暴走」付与。特殊抵抗で抵抗可。
 同時に、既に暴走状態の者のリンクレートを1下げる。
 タイミング:クイックでリンクレートを-1すれば暴走から回復できる。
・etc……

●状況
 イタリア・ナポリ近郊、ポンペイ古代都市遺跡、野外闘技場跡地。
 広い。時間帯は日中。
 プリセンサーの予知によってエネミー襲来を察知、遺跡及び周辺を閉鎖。戦域はPCと敵以外は無人。

※危険!
 PC半数以上戦闘不能で撤退となります。

リプレイ

●そこは地獄の釜の中01

 遥か、ヴェスヴィオ火山が見える。
 かつてこの都市を焼き滅ぼした火の山が。

「このポンペイ遺跡が、レイライン上に存在する要石の役割を担っていると比良坂清十郎は考えているわけね」
 静まり返ったポンペイ遺跡を見渡し、大宮 朝霞(aa0476)が言った。「なるほど」と相槌を打ったのはニクノイーサ(aa0476hero001)だ。
「それでこの遺跡をマガツヒが破壊したがっているわけか。勉強熱心だな、朝霞」
「依頼を受けるにあたって、当然の心構えね」
「大学の講義も同じぐらいがんばった方がいいぞ?」
「……はい」
 図星を突かれては朝霞はそう答える他にない。これ以上痛いところを責められる前に、朝霞は相棒へキリッと振り返った。
「というわけでニック、変身よ!」
「おう露骨に話題そらしたな。……ギャラリーなんていないじゃないか」
「誰も見てない所でも手を抜かないのがヒーローなの! 変身! ミラクル☆トランスフォーム!!」
 ポーズを決めて、キラキラをまとって、『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』に変身だ。

 さて、接敵は間もなく。
 H.O.P.E.プリセンサーの活躍によって今回の事件は事前に察知できたため、今日のポンペイ遺跡に観光客はいない。完全な無人だ。こうして見ると、ここは遺跡であるが廃墟なのだと思い知る。
 そして一同は、この先の野外競技場に何がいるのかを知っていた。

「またあの面倒な奴か……」
 マガツヒのヴィラン、エネミー。それと交戦したことのあるバルタサール・デル・レイ(aa4199)は、一筋縄ではいかないだろう案件に溜息を吐く。されど紫苑(aa4199hero001)は楽し気に、
「エネミー、あの子は素直で純粋だから、僕は好きだな」
「……ま、好きにしてくれや」
「もちろん☆」
 しかしながら油断のならない相手だ。零月 蕾菜(aa0058)はニロ・アルム(aa0058hero002)へ振り返る。
「ここまで目に見えて危ない相手も久しぶりですね……ニロ、大丈夫?」
「ん! だい、じょ~ぶ! めぇさまして、がんばる!」
「うん、がんばろうね」
 緊張を解きほぐすように、二人は笑みを交わし士気を高めた。
 魂置 薙(aa1688)もまた、強張りそうな心臓を深呼吸で落ち着ける。
(逃がせば誰かの日常が奪われる……)
 させない、そんなことは。絶対に、ここで終わらせる。
「エルル。絶対に、生きて戻るよ」
「当然じゃ。共に帰るぞ」
 隣の淑女、エル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)は悠然と笑み、相棒の想いに応えてみせた。
「――、」
 志賀谷 京子(aa0150)はそんな仲間達を見渡して。「今までは相手のペースに乗らされてた」と自らを省みる。今日はいつものわたしでいこう。そう決意すれば、アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)が言葉を投げかけてきた。
「で、どうします?」
「ぶっ倒して、臭い飯をご馳走する。特別な悪になんて、してやらない」
「ええ、わたしたちの全力を見せませんと」
 交わす視線。ややの後、京子は苦笑のように微笑んだ。小さな声で英雄にだけ、こう続けた。
「……アリッサ、怖気づいたら、叱ってね」

 また一歩、エージェント達は戦いへと近づいて行く。

 開戦の寸前、シルミルテ(aa0340hero001)が一同へ呼びかけた。
「今まデのエネミーちゃんッテ悪役ヒーロー云々モあるケド、テロ行為で建物とかヲ壊スコトよりモ“人ヲ壊ス”コトニ御執心ダッタ印象ガあルのネ。デモ今回、壊す為ノ人……んー……観客が居ないのニ、マダその場に居るって言うのガ違和感かナ」
 エネミーはこの先にいるはずなのに、破壊の音などは聞こえない。遺跡を壊している様子もない。つまりエージェントを待っているのだろうか。
「モシかしてワタシ達トの戦闘の方が主目的? か、ソノ為の手段? かモシれなイ。エネミーちゃんを倒スコトも大事だケド、各々ノ身の安全を守ルコトが、ミンナの大事ナ人ヲ守ルコトに繋がル重要事項だト思うノ」
 時鳥 蛍(aa1371)とグラナータ(aa1371hero001)はその言葉を聴きつつ、同様に疑問を抱く。
 今回は予知があったとはいえ、今までのように一般人が存在しない戦場――マガツヒの中でも“はぐれ者”なエネミーが、他の構成員と同様に歴史的建造物に襲撃をかけていること……。
「破壊すると言っても、こんな大きな遺跡をエネミー一人で壊せるわけはないと思うのよ」
 共鳴した朝霞も思案気な顔だ。『つまり?』とライヴス内でニクノイーサが問えば、
「遺跡にある何かを破壊するつもりだと思う。それが何かはわからないけど……」
『それはエネミーに聞けばいいさ』
「そうね! エネミーをやっつけて聞き出そう!」
 意気込むその声に、蛍も小さく頷いて同意を示す。エネミーは数多の一般人巻き込む事件を平気で起こす、悪趣味極まりない外道だ。ここで撃破したい。
(とは、いえ、“いのちだいじに”……)
 佐倉 樹(aa0340)はそう思いつつ、戦闘に備えてシルミルテと共鳴する。同部隊の衛生兵によるゲンコツ制裁は、そこらのトリブヌス級愚神より怖いのだ。
 八朔 カゲリ(aa0098)は、そしてナラカ(aa0098hero001)は、そんな仲間達を俯瞰し、肯定する。思案も、決意も、緊張も、人の心から湧いた現象ならば。
 我も人、彼も人。ゆえに対等とは基本に置くべき道理である。それがカゲリの心だ。それはエネミーに対しても同様、その主義主張を理解した上で、己が意志を貫き踏破するのみである。
 遍く照らす善悪不二の光。それがナラカの在り様だ。普遍を見通し、万象を俯瞰する。それは今回においても同様である。

 さて、はて。
 かくして、だ。
 ポンペイ都市、野外闘技場。

「この世は楽しいことがいっぱい フニクリ フニクラ……」

 敵は居た。正義の味方を律儀なまでに待っていた。
『合体して……突き抜けて? えっぐ。えぐいッスよあれ!』
 蛍のライヴス内でグラナータが顔をしかめる。報告書を読んで知っているとはいえ、いざ愚神に憑依されているという現物を目にすると気味が悪い。
「あ! どうも皆さんこんにちは!」
 対してエネミーの言動は常通りだ。ただしその白いスーツは血に濡れていた。返り血ではなかった。
 その「いつもと様子が違う」姿に、共鳴した東海林聖(aa0203)とLe..(aa0203hero001)は違和感を抱く。
『負傷してる……? 倒すチャンスではあるだろうけど。油断しない……』
「あぁ、油断はしねェ……全力で叩き伏せるッ!」
 ツヴァイハンダー・アスガルを構える。
「っはぁ! 久しぶりだなぁ……鉄面皮野郎!!」
 因縁の相手、憎き相手、ぶん殴るべき相手――楪 アルト(aa4349)も聖と想いは同様だ。‐FORTISSIMODE-(aa4349hero001)と既に共鳴を果たし、重厚武装した乙女は鋭く敵を睨み付ける。
「もうあの頃の甘ちゃんのままじゃねぇぜ……てめぇの地獄への片道特別快速、二名まとめて! 今ここで乗せてやるってんだ!!」
 純然たる敵意である。当然だ。目の前の敵はそれだけのことをやってきたのだ。
 そして敵は、浴びる敵意と殺意と怒気にどうしようもなく幸せそうにするのである。
「ああ! 素晴らしい、実に素晴らしいです! その燃え滾る断罪の意志……素敵です!」
 拍手喝采だ。樹はそんなエネミーに隻眼を細める――マナチェイサー起動。ライヴスのパターンを可視化する。
(これは……、)
 シャングリラのライヴスが、前回見た時よりも活性化している。かの愚神は、これまでの事件で散々人命を食らってきた。それを糧に成長したのだろうか。エネミーが出血しているのも、その関係が……?
「ひさしぶりだね、テロリスト。もう血染めなのは、最初からクライマックスな意気込みかな?」
 エネミーが出血している状況については京子も怪訝に思ったことだ。薙も、紫苑も、気になったことである。「ああ」とエネミーはいつも通りの物言いで即答を返してきた。
「まあ、シャングリラがこうしたいみたいなんで。ふふ。それに、悪役だってパワーアップしていかないとネ」
 予めプリセンサーから伝えられていた彼らの能力、幸福な大団円のことを話しているらしい。正義のヒーローと渡り合う為ならば自分が削れても構わない……そんな精神構造ゆえか。エネミーの恍惚も愉悦も、何か愚神のせいでことさらハイにキマっているものにも見えない、本当に、いつも通りなのだ。
(な、んだ、こいつ、……)
 薙はゾッとしたものを覚える。流血状態なのに特に気にしていない様子なのも、それを是としていることも、“そんなことをしてまで”こちらに執着心を見せる気持ち悪さと。
 彼は「エネミーからシャングリラの憑依を解かせたい」と願っている。しかし、エネミーが愚神へネガティブな感情を抱くような気配はカケラも見えない、そんなビジョンすら見えない。
(この者はどこまで正気なのか)
 ライヴス内でエルが眉根を寄せる。彼女の言う通り――そもそも人は、長期の愚神憑依に耐えられるのか? 歪んだ存在と在って影響はないのか? 狂気ゆえに愚神が憑いたのか? 愚神が憑いたから狂気なのか?
(……“エネミー(敵)”等と名乗る者に、正気を問うのもおかしな話か)
 件の“ひとでなし”の顔はすっかり金属で、表情は形作られない。それでも楽しそうにヘラヘラしているのは理解できる。
「エネミー!」
 朝霞はエネミーへビシッと指を突きつけた。
「悪役らしくとうとうと語ったらどう? ポンペイに来た目的とか!」
 毅然とした物言い、ヒロイックにマントを翻すその姿は、まさに正義の味方。
『奴のような悪役はヒーローを際立たせる。エネミーに感謝だな、朝霞』
(不謹慎!)
 ライヴス内の英雄を叱りつつも、朝霞はエネミーを乗せて喋らせようと目論んでいた。はたしてその思惑通り、敵は嬉々とこう話し出す。
「ええ、ご存知の通り、この遺跡を破壊しに来ました! ほら私マガツヒですしね、清十郎さんのお願いは聞いてあげないといけないので。ついでに観光客さんをシャングリラに食べさせてあげようと思ったんですけどねぇ」
 いやはや、H.O.P.E.は凄い。エネミーはウンウンと頷き、続ける。
「まあ! バレてたからって何もせずに帰るのもアレですしね! 折角の機会なんで、ちょっとエージェントの皆々様と遊んでから帰ろうかなって。まだやることもありますし」
「……“まだやること”? このマガツヒのテロは何かの事前準備ってわけ?」
 朝霞が強い語気で問う。「ふふっ」とエネミーは含み笑った。
「まあそういう感じですね。まだまだ序章ですよ! クライマックスがどうなるかはお楽しみに」
 そのやり取りを、樹はつぶさに聴いている。よもやドロップゾーンを展開するつもりではないか――と危惧していたが、それは杞憂に終わったようだ。
『ちなみに比良坂清十郎ってどんな人、エネミー的には。過去見れるってほんとー?』
 紫苑がエネミーへの問いを重ねる。
「清十郎さんですか? 素敵で、可愛いヒトです。私の元カレです。あっ元カレってのは冗談です」
『そっかー。それで、何するつもり? 悪役っぽく犯行声明を出して全人類をビビらせちゃえば!』
「まぁまぁ、その為のお膳立てが今日みたいな感じなので!」
 エネミーは茶目っ気たっぷりに小首を傾げてみせる。
「……なぜ、遺跡を壊す?」
 絞り出すような声で、薙が続いた。「遺跡は人が生きた跡だ、そんなの壊して何になる」と。特にポンペイは墓標のようなものだ、死者の眠りを荒らさせたくはない。
「比良坂清十郎は遺跡を壊して、何をしようとしてる?」
「この世界をガッチャガチャにしてまるっと壊してどうにかしたいんですって! わーお、ハッチャメチャ! 論理破綻! 支離滅裂! 無理心中! 清十郎たゃのそーゆーところダーイスキ! だから私はズッ友なんですよ、そんな悪い悪い彼のね」

 さてと。

 分かりやすい呟きで、エネミーは改まる。
「質問は以上ですかね。では、そろそろ始めますか!」

 ――レッツ世界平和!



●そこは地獄の釜の中02
 ふざけるな――京子は強くそう思った。
 エネミーの話はつまりこうだ。「今日はまだ前哨戦なので、ほどほどに楽しんで帰る」。
(のうのうと……生かして、帰すものかッ!)
 あれは呼吸のように人を殺す。あれは生きているだけで人を悲劇に陥れる。エネミーの言葉は、京子にとっては愚弄に他ならなかった。手が白み筋が浮かぶほどに銀晶弓「ナランハルフト」を握り締める。
 そして寸の間遅れで気が付くのだ。この魂が煮えたぎるような、ライヴスすらも乱れる激情。感情をかき乱すノイズ。それはかの愚神シャングリラによってもたらされたものなのだと。
 深呼吸を一つ。アリッサとの絆を強く意識して、絆を糧にライヴスを落ち着かせる。
『エネミー。あなたは悪ですらない、ただの巨大な虚無だ。今日こそ終わらせましょう』
 二人を繋ぐ絆は、二人の心を鎮めてくれる。京子はアリッサと共にナランハルフトに矢を二本つがえ、引き絞った。先手必勝、射撃に最適な位置取りから放たれたそれは敵共を容赦なく射抜く。それは敵共の初動をわずかに、しかし確かに阻害した。
 それを誰よりも早く――誰よりも遠方にて布陣しているのにも関わらず――察知したのはアルトだ。野外競技場の客席、かつては暴力のぶつかり合いに歓喜を滾らせていたのだろう場所に、腕組みした乙女は仁王立つ。
「火薬庫展開――」
 身長一七〇〇ミリメートル、砲身一〇〇〇ミリメートル。設置型アンチマテリアルミサイル、担ぎ型射出式対戦車刺突爆雷を設置、フル展開。その兵器の特性上、アルトの移動力の一切は失われる、即ち固定砲台だ。だがそれは「動けなくなる」のではない、「ここは退かない」という絶対不退転の決意である。

「――最大火力――目標捕捉――ブッ飛びやがれぇええええええええッッ!!!」

 出し惜しみなどしてやらない。暴力性に暴走する魂が叫ぶがまま、本能を剥き出しに、攻撃性をそのままに、初手からフルバーストだ。英雄フォルテシモードの力を借りて大展開した刺突爆雷を一斉射する。まさに火の雨、連鎖的に起きる爆発がポンペイの空気を震わせる。
「ははーー!」
 爆煙を唸る刃を振り払い、大口を開けて笑うのは愚神シャングリラだ。流石に流石、ワンパンで落ちてくれれば楽なのだが、そうもいかない。機械仕掛けのように見える数多の腕を一斉に振り被るその姿は大樹にも似ているか。
(……広い!)
 咄嗟に魔術型パイルバンカー――杭打ち器の名はあれど大盾として機能しているそれ――を構える蕾菜であるが。愚神の攻撃範囲は途方もなく広く、無差別的で、全方位的で。前衛にいる手近な仲間を護れこそすれど、彼女の身は一つ。全員を同時に護ることはできない。
「各員備えて、」
 その声は愚神の歪んだ気に当てられて攻撃性を剥き出しにした者には届かず、言下には破壊音に全てがかき消される。シャングリラはエージェントだけではない、建物すらもえぐるように破壊する。チェーンソーががなる音と、土煙。
「血、血、血、血、血! ききき! き。き。キ!」
 裂けた肌。剥き出しの肉。破れた血管。吹き出る生命。愚神の舌なめずり。歪な嗤い。絶対捕食者。
 蛍はゾッとしたものを覚える。込み上げる不快感は吐き気にも似ている。殺さなければ殺される。殺さなければ殺される。殺さなければ殺される! 殺さねばならない! アレを! 今すぐに!
「……ッ!」
 理性を砕き、破壊に殉ずる、その名前は完璧な楽園。避けねばならぬ冷静であらねばならぬという理屈すや意志らも圧砕する。いかに高潔、いかに鋼鉄、いかに抵抗力が高いエージェントも、時間が長引けばいずれ狂気に飲まれよう。
 かくして柘榴の騎士の心に、恐怖と共に湧き上がるのは怒りだ。あの敵は親友を泣かせた。親友の命を危機に追い込んだ。ならば“前に立つ(殺す)”理由としては十二分。
「あなたに一太刀浴びせたいというのは、完全に私怨です」
 暴走するライヴスと思想のまま、蛍はエネミーへと踏み込んでいく。その後ろを取ろうとすれば、必然的に相対するのはシャングリラだ。構うものかと言わんばかりに聖剣コールブランドを叩きつける。一撃目は華奢な腕に見合わぬ膂力で態勢を崩させ、二撃目もまた、火山のごとく噴き上がる鬱憤を乗せて叩きつける。
「すぐによくなる」
 肩口に深々と剣がめりこんだまま、シャングリラがぬうと顔を寄せてきた。
「きもちいいだろう?」
 その声は蒙昧のようで深淵である。
「誰かのせいにして、爆発して、突き立てて、何度でも、頭カラッポにして、きもちいいだろう?」
 と、その時だ。横合いから、樹が童話「ワンダーランド」より召喚したトランプ兵が、愚神に槍を突き立てた。それでも完璧な楽園は、空を仰いで笑うのだ。

「すぐによくなる。すぐによくなる」

 暴走。敵味方の分別や、言葉のやり取りこそできる。作戦を忘れるほどの理性崩壊こそ起きていない。
 されども。
 なってしまえば、もう防御も回避も何もない。
 なってしまえば、クリアレイなどや、絆を代価にするしか治せない。
 それは心を冒す毒。

 意志や気合では、どうにもならない。

「ちッ……不愉快なことしやがるッ……! 行くぜ、ルゥ!」
『……油断しない……』
 撒き散らされた破壊に、聖の白い戦装束は赤く染まり。その心もまた、敵の排斥使命に轟々と燃え滾る。その暴走する意志を表すかのように、握り締めた刃のライヴスまでも禍々しいほど黒くのたくっていた。
 エネミーが宣言した通り、この戦いはまだマガツヒ――そしてエネミーとの“前哨戦”。エネミーも途中で撤退する旨を宣言している。ならば短期決戦になろう。
(逃がすものか……!)
 破壊的に剣を叩きつける。脳を過ぎるのは、幾つもの死。幾つもの血。
(赦すものか……!)
 ごり押しと言わんばかりの剣圧でエネミーを後退させ、その間隙を貫くようにもう一閃。
「テメェとの因縁も、今日こそココでケリを付けてやるぜ……!」
「グッド殺意! しかし、ほんと、ごめんなさいね。まだやることがあるんですよ」
 切り裂かれたら切り裂き返す。マチェットで聖を傷付け、蹴り飛ばし、聖と同じぐらいに白い服を真っ赤にして、エネミーは軽々と言う。
「どうせならクライマックスの大舞台で、貴方に断罪されたい……きっとすっごく、すっごくすっごくヒロイックで、すっごくすっごく素敵ですよ! 最期はきっと、リンクバーストして下さいね! 必殺技でやられてこそ悪役ですから!!」
 まくしたてるその言葉は、暴走していて頭がパァになっているからではない。元々そう思っているのだ。
(せめてエネミーの思考が危なくなければ、あの憑依を何とかするだけでいいんですが……)
 蕾菜は思う。エネミーは「愚神に操られている可哀想な人間」でもなければ、「哀しい過去から悪に落ちざるを得なかった人間」でもない。根っからの邪悪、どこまでも悪役、情状酌量の余地もない悪人。
『ん、それでも……』
「ええ。……あくまでも、殺すつもりはありません」
 守るべき誓いを立てながら、乙女は凛と答える。尤も、敵の命を優先することで仲間が危険に晒される、作戦失敗に繋がるのであれば、容赦をしない決意も固めているけれど――自分達が殺めるのは、愚神だけに留めたい。
 それは薙も同じ思いだ。シャングリラへ雷斧ウコンバサラを一気呵成に二度振り下ろす。暴走する愚神はまるでノーガードで、面白いぐらいに攻撃が当たる――それがいっそう気持ち悪い。エネミーもだが、傷付くことを全く恐れない。痛みに全くたじろがない。
「どうして……」
 絆を代価に冷静を保ちつつ、薙は思わずと問うた。
「いいですか? 敵たるもの、正義の味方の攻撃はライフで受けるべきです」
 流暢に答えたのはエネミーだ。
「確定回避とか、膨大な無効スキルとか、軸合わせとか、タイミング潰しとか、行動不能ばらまきとか、そういうの攻略のストレスじゃないですか? ライフです、ライフで受けるのです! ライフで受けることで、ほら、皆様のカッコイイ攻撃がね! 見れるじゃないですか! かわすだなんてとんでもない! ええ、なのでこれからも引き続き皆様を受け止めますよ、この“生命(ライフ)”を以て」
 言葉の最中にも、朝霞が振るうハートの杖がエネミーを魔法的に殴打する。やはりエネミーは悲鳴の一つも上げない。これだけ数々の攻撃を直撃しておいて、なお平然と立っているなど、並のヴィランではできないことだ。これも愚神が憑依しているがゆえか。そして数々のライヴス性攻撃に、愚神の憑依が解ける気配もない。
「愚神、は、……愚神は依代を食べるんだよ、人間を食べるんだよ」
 それでも薙は、震えそうな声で絞り出す。
「食べられたら、その人は取り返せなくなる。……死ぬんだよ」
 断っておくが、薙はエネミーに対して好意的な感情は一切持ち合わせていない。エネミーは裁かれるべき大罪人だ。邪悪すぎる犯罪者だ。それでも人間だ。人間が愚神に食われるかもしれないのならば、薙はそれを見過ごすことはできなかった。

 ――それはほんの一握、一筋の希望だった。

 対する、敵は。
「うーん、その優しさプライスレス……しかしながら、ダメですよ、私はそういう、優しいとコロッとほだされちゃうような生温い敵じゃないんです。ちなみに可哀想な過去設定とか救われたい願望とか素顔は美少女設定とかガチでないので! 私は悪役、ただの敵役。正義の前に君臨し続け、正しさの証明の為に必要なリソース」
「その為なら、死んでもいいってことなの?」
「イエス! 世界は美しい!」
「そんなのって、」
「間違ってますよ? ええ、だからこそ、皆様の勝利で、悪を否定すべきなのです! 悪役の言ってることが正しいなんてありえない! 正義の味方にこそ真の正義はあるのですよ、ヒーロー!」

 ――目の前にいるこれは、本当に人間なのだろうか?

 そんなことを思ってしまうほど、エネミーと言葉が通じない。会話はできるのに、何というべきか――根本的なところで、一切の理解が生じない。言葉尻にしてもそうだ。悲壮感や自暴自棄感は一切なく、自信と誇りと喜びに満ちている。
『薙……臆するなよ』
「わかってるよ、エルル……!」
 人間を殺したくはない。
 きっと、その想いを高潔と称賛する声もあろう。甘い、邪悪にかける慈悲などない、と叱咤する声もあろう。
 善悪、三者三様、十人十色、千差万別。カゲリのライヴス内より情景を眺めるナラカは仲間を、そして敵すらも是としている。さしずめエネミーは奇貨といったところか。
『成すべきことが悪であろうと、そこに確かな意志があるなら言祝ぐべき輝きである』
 ナラカは言う。その嗜好とは異なれど、重んじるは絶対値だ。エネミーの言う性悪説に関しても、言いたいことは分かる。元より人とは自然と悪へと傾くもの、その方が楽だから。
『なればこそだ。その言を――人の弱さの肯定を、堕落に結する末路を、認める訳にはいかんな。正道とは常に痛苦を伴うものなれば、ただただ甘たるしい腐敗のどこに善があろう?』
 否、と光を担いし裁きの神は断ずる。その想いはカゲリという体を通じて、鎖鞘レーギャルンより抜き放たれる天剣「十二光」の居合切りを以て表現される。
『さて、はて。あれが帰る前に、“十二回目”は訪れるだろうか』
 ナラカは試すように、あるいは誘うようにともとれる声音を以て、ライヴスを通じて誰とはなしに呟いた。カゲリは黙したまま剣を構えている。正直――今回の戦いで天剣を解放するのは難しいか。事前準備が要る上に、此度の戦場では絆の値が消費物になっている。邪英化すればあるいは愚神も敵も屠れようが、それではこのポンペイ遺跡が無事では済まないだろう。となれば遺跡破壊を目論んでいたマガツヒ共の思う壺だ。

「ィ――――イィ――ィ――――!」

 そして、つんざくような。金切声のような。軋む金属のような。完璧な楽園の笑い声は、それが振るう幾つもの凶器に掻き潰される。野外競技場が瓦礫の廃墟に変わっていく。幾ら、何度、エージェントの攻撃が直撃しても。地面ごと薙ぎ払われた鋸が人類を挽くように轢き潰し、また血を散らし、そして啜る。
 エージェント達に取り囲まれ、敵が野外競技場の中央から動く様子はない。が。
「このままじゃポンペイ遺跡が……!」
 防御姿勢を取れど、災禍のようなチェーンソーは朝霞の肉を無残に抉った。誰も彼もあちらこちらに出血がある。
『なんて暴れっぷりだ……』
 ニクノイーサが眉根を寄せる。シャングリラの攻撃はあまりに無秩序が過ぎる。愚神が暴走のままに腕を振り回しているだけで、無機物有機物問わず周りの全てが壊れていく。
「でも……ウラワンダーは、絶対に屈しないわ! ウラワンダー☆ミラクルキュア!」
 朝霞はヒロイックに掌を天にかざした。キラキラ煌く光――降り注ぐのは癒しの力。そのまま彼女は、下ろす手で敵を指差す。ウラワンダー・ゴーグルの奥から、キッと凛々しい眼差しを向けて。
「エネミー! 盾役として真っ向から勝負してやるわ! ヒーローだもの!」
 その手にあるのはウラワンダー☆ソード。可愛らしいファンタジックな外見に反して重量と防御性能は折り紙付き。そして防御性能は武器だけではない、本人もまたそうであるとニクノイーサは知っている。
『頑強だしな。肉体が』
「……女の子にむかって」
『スキルの話だぞ』
 防御に適性のある朝霞の肉体は頑健だ。それは出血を抑え、体力の消耗を防いでくれている。
「いいですね……高潔な正義のヒロイン! ウラワンダーさんファンですサイン下さい握手して下さい!」
 言いながらエネミーがマチェットを振り上げる。朝霞はウラワンダー・ガントレットを介した絶対零度のライヴスを以てそれを防御してみせる。
「サインも握手も、お断りよっ!」
 強く強く、押し返す。……今でこそ何とか暴走せずに済んでいるが、暴走状態になれば防御行動もままならない。朝霞は深呼吸をし、気持ちだけでもと心を律する。
 と、エネミーとシャングリラの頭部へ襲いかかったのはあまりに鋭い二射だ。バルタサールのアサルトライフル「ミストフォロスDRD」による射撃。後方なれど戦域全体が対象ともとれる愚神の攻撃におびただしく出血しているが、眼光は爛々と――愚神の気に当てられ、牙のような殺気に金色だ。
『ああ。そういえばこうして戦うのは、電車で会って以来だね、エネミー。残念ながら今回は無辜の人々はいないよ』
 言葉を紡ぐのは紫苑。あえて憎々しげに、わざと侮蔑を込めて、頭部を撃たれてもなお怯む気配すら見せない敵に言い捨てる。
『世界の幸福の為に、悪を阻みにきたよ。今回はどんな不幸を起こすつもりで来たの? あ、もしかして陽動とか? あっくどーい。』
 朗々と言葉を紡ぐ英雄。世界の幸福のため――心にもない台詞だ、とバルタサールは思うが、茶々は入れない。エネミーの良い所は、声をかければ必ずと言っていいほど返事をしてくれるところで、かつ饒舌なところだ。その間に回復をするなど体勢を整えることができる。そんな思惑通り、敵役は嬉々と回答を始めるのだ。
「秩序の為の混沌。陽動ではないですね、メイン行動です」
『秩序の為の……? それってどういうこと? ほら、悪役って、ぺらぺら自分からネタばらしするじゃない。あ、アルター社についてはご明察だったね、さすが悪役!』
「あんまり喋ると、清十郎さんが怒っちゃうカモなので……ああ、やっぱりアルター社はクロでしたか。でも皆様のおかげでこれからはクリーンな会社として頑張っていく! いやあ、正義のヒーロー、流石でした」
 それは嫌味ではなく心からの称賛だ。『褒められてるよ』とライヴス内で紫苑がバルタサールにくつくつ笑う。バルタサールは「知ったことか」と言わんばかりの無言で、次弾を装填した。

 ――戦いは続く。
 一秒一秒を悪夢めいて長く感じる。それでいて一瞬にも感じる。
 時間が進むごとに戦場は崩れてゆき、エージェントは血と狂気にまみれてゆく……。

「志賀谷、サポート任せたッ!」
 徹底攻勢。聖は切り裂かれた腹部からのおびただしい流血をそのままに、その剣圧でエネミーを押した。
「任せて――」
 京子とアリッサは絆を燃やして正気を保つ。つがえ引き絞る矢は仲間の為、間隙でも敵を阻害するべくと。聖も京子も、互いにエネミー打倒に魂を燃やす間柄だ。寸の間で京子は狙いを敵の四肢に定め、矢を撃ち放つ。
「ひとの嫌がることを進んでしましょうってね!」
『それ悪役のセリフですからね』
 これがそこいらの愚神や従魔であれば、腕や足を狙い撃つその矢は猛威を揮ったことだろう。それほどに京子の射撃は精確無比で、容赦がない。
「ほんっと、……片膝ぐらい突きなさいよ……!」
「膝に矢を受けてしまいまして」
 吐き捨てた京子の言葉にエネミーが答える。敵は膝を貫通している矢を引き抜いてポイと捨てる。途端だ。幾度目か、シャングリラの回転鋸が戦場を切り裂かんと暴れ狂う。
「――ッ……!」
 京子は間一髪、横っ飛びで回避した。それでも凶器が髪を掠め、アリッサの色である金の髪がハラリと散る。
「髪は女の命っていうのにねぇ……」
『無粋な輩です』
 当てるのは得意、避けるのもちょっと得意。呼吸を整えつつ戦場を見渡す。まだ倒れている仲間はいないが、それでも皆が傷だらけだ。
「いのちだいじに」
『だいじニ!』
 樹は特に重い傷を負った仲間の口に賢者の欠片をねじこむ。バトルメディックではないけれど、ヒーラーとしても立ち回る。
(うーん……)
 実際に戦場で見たり、報告書を読んだり。今もそうだが、エネミーとシャングリラに対し、部位狙いが功を奏した結果は得られていない。身体構造が異常……というよりは、周囲の出血より得る糧で補修しながら活動しているからだろうか。いや、シャングリラに限っては「身体構造が異常」なのかもしれないが。
 少なくとも“追い詰めている”ようには――見えない。エージェント達の必殺の意志を弄するかのように。いささか狙いが分散しているか。それでも誰一人として倒れていないのはエージェントの意地、あるいは決意の力ゆえか。
 なんにしても、わずかでも、足止めや意識逸らしは必要だ。……というのは建前で、樹にはエネミーに聴きたいことが――愚神商人と取引をする前から――あった。
「貴女が最初に知った」
『ヒーローってナァに?』
 つばが裂かれた魔女帽子をちょいと被り直し、問いかける。
『仲良クなりタイってワケじゃナいのヨ』
「木属性で火属性を殴っても効率悪いでしょう?」
『相手ヲ少しデモ知った方が効率良ク殴れル! ダカラ……貴女ガ最初ニ知っタ』
「ヒーローってなぁに?」
 魔女の言葉に、エネミーは「ふむ!」と興味深そうな反応を示した。
「皆さん全員がご存知の超有名人ですよ! 彼の登場は世界を変えた。彼こそ皆様というヒーローの創始者! “異能使いの恐ろしい便利屋”を“正義の味方”に変えたスーパーヒーロー!」
「もしかして……会長?」
「イエス! H.O.P.E.会長ジャスティン・バートレット。痺れた……憧れた……世界平和! 素晴らしい……私は昔っからH.O.P.E.一筋の古参ファンです! あっそれと、よしてくださいよ“貴女”なんて。私に性別とかいう設定はないので!」
 相変わらずべらべら喋る。樹とシルミルテはくつくつと含み笑った。
「そう?」
『デも――』
「物事に関するこだわり方と執着の仕方と」
『壊レ方がトッても魔女的!』
 すると、エネミーは照れたような様子を見せる。「いやぁ」と後頭部を掻いて、それからこう言った。
「もし私が死んだら、解剖してみるといいですよ。そうしたら、私が男だったのか女だったのか分かることでしょう。最初に性別がバレるのは貴方が良いです、樹さんシルミルテさん。その時はどうぞよろしく!」
 ヒーローの為に臓器を捧げた。性別を捧げた。顔を捧げた。人生を捧げた。ファナティック極まりないファンである。「約束ですよ」と呪詛めいて締め括った。
「ったくキメェんだよ、メンヘラストーカーかっての! ブログにポエムでも投下してろッ」
 そんなエネミーにアルトは容赦なく顔をしかめる。ぶっ放すのはLpC PSRM-01。壮絶な負荷と超重量と取り回しの悪さを代価に発射されるプラズマカノンの威力は絶大だ。ヴェスヴィオ火山が噴火したかのような衝撃が轟く。

「んなーにが世界平和だ! んなもんあたしの知ったことじゃねぇ! なるようにしかなんねーに決まってんだろ、てめぇなんかいなくたってなんとでもしてやらぁ!!」

 展開した冷却板からもうもうと陽炎を立ち昇らせつつ、アルトは吼える。冷却待ちの間に構えるのは和弓「弓張月」だ。ただしつがえるのは矢ではなくライヴスによるミサイルである。
「てめぇは、いー加減おねんねの時間なんだよぉ!!」

 自分達はスーパーなメシアでも、映画のヒーローでもない。
 全てを完璧に護り救えるほど傲慢でもないし、夢に傾倒も啓蒙もない。
 護りたいものを護りたい。たとえそれがエゴイズムとかドライだとか言われようが。

「わたしは正義とか人類の味方とか、そういうたいそれた存在じゃありません」
 蛍もアルトと同意見だった。表情筋は動かず、しかし暴力的なまでの勢いを以て、剣を敵に叩きつけながら。
「身近な大切な人のため――わたしはあなたという存在に対するちっぽけな『敵』であり、あなたはわたしというちっぽけな散財に対する『敵』です」
 だから平然と、「赦せない」というその感情一つだけで剣を握れる。傷を負って、痛くて、血が出て、苦しくて、わだかまる感情に頭も心も煮えたぎっても、「あの子の方が辛かったんだ」と思うだけで、全てがスッとどうでも良くなる。
『……、』
 だけど。グラナータだけは、そんな蛍の状況に危機感を感じていた。もちろん相棒の意志は尊重したい。だけど。暴走する感情に飲み込まれたまま刃を振り回す蛍の姿を見ていられなかった。
『――そういうの似合わないって気があるッスから』
 ここまでだ。グラナータは強制的に、蛍の体から主導権を奪う。
「闇落ちとの戦いは……ヒーローの醍醐味ですからね!」
 流血する一同から命を奪いつつ、エネミーは言う。「正義を疎むタイプのヒーローも大好きです!」と続けた。
『汝の言葉は理解しよう、然し汝が望む世界に人の輝きは宿らぬ』
 完璧な楽園に乱れるライヴス。それすらも余興と言わんばかりに、ナラカの悠然たる態度は崩れない。
『私は信じているのだよ。誰もが頭をあげて前を目指して歩めるものと』
「素晴らしい、素晴らしい!」
 称賛に拍手する体は、カゲリの抜刀による黒焔の刃に真正面から切り裂かれてもなお、ブレることはない。この敵は端から議論は望んでいない、否定され論破されることにこそ興奮と快楽を覚えている。そういう存在なのだろう――と、カゲリは静かに眼前の敵を見澄ましている。暴走に沸き上がる破壊衝動はなんとか押し込め、油断なく剣を構える。劣勢とも優勢とも判別つけがたい混沌。幸いなのは相手が撤退を前提に戦闘を進めていることか――これでもし、相手が“特攻覚悟で身を捨て戦う”状態であったならば……下手をすれば、こちらに死人が出ていたやもしれぬ。

 ――布かれた楽園は絆を焼き尽くしていく。

 でも、こんなのはちっとも、楽園なんかじゃない。薙は肩を弾ませつつ、裂けた右頬から滴る鮮血を手の甲で拭った。体中がべたべたしている。汗か、血か、冷静に判別している暇もない。凄く痛い。愚神に襲われあらゆるものを失った過去が脳裏にちらつく。
「はあッ!」
 それを振り払うように、雷斧をシャングリラへと三度振るう。心の奥から破壊衝動と狂気が何度も湧き上がってくるのを、絆を犠牲に押し退けながら、おぞましい愚神の腕を千切り潰さんと力を込める。
 エルはそんな薙をライヴスの中から見守っている。口には出さないが、無茶だけはしないでくれという祈りは薙にも届いていた。
(わかってるよ、大丈夫)
 戻ってきたらまた一緒に。薙は出発前に友と交わした言葉を強く想う。英雄と誓った約束を強く想う。必ず守る。生きて帰る。死にはしない。死なせない。
 死なせない――蕾菜も想いは同じ。
「っく、……!」
 真っ向から手甲で受け止める愚神の腕。魔術型パイルバンカーの装甲から激しく火花が散る――ぶつかった衝撃波凄まじく、吹っ飛ばされそうになるのを、蕾菜は巧みに受け流した。
「はぁっ、はぁっ……」
 腕がじんじんと痺れる。筋肉が弾けそうなほど疲労している。肺が破れそうなほど息も上がっている。それでも蕾菜の瞳は凛然と前を向き、バアル・ゼブブの戦旗と共に守護の翼を「ここに在り」と翻す。
『あるじ、』
「大丈夫、ニロ。……私はまだ、戦えます……!」
『……うん!』
 その絆を以て、愚神の狂気を退ける。心は清く気高く美しく。――愚神に親を殺された。それでも心を復讐と破壊の鬼にはくれてやらない。理性を蒸発させることはない。天使として、護る者として、死力を尽くして、皆を護る。
「エネミー! 正義の力を受けてみなさい!」
 負けるもんか。心に正義の炎を燃やし、朝霞はウラワンダー☆ソードをエネミーへと思い切り振り被る。
「必殺、ウラワンダー☆アタック!」
 必殺と叫んだが純粋に力尽くで剣を振るう一撃だ。『悦びそうだな、エネミー』とニクノイーサが呟く。案の定、敵はヒロイックな朝霞の姿を間近で見れて興奮している。何を言っても喜ばれるので朝霞はキリッとした表情を崩さないまま徹することに決めた。攻撃、回復、防御……目まぐるしいほど忙しいが、それでもウラワンダーがやらねば誰がやる。
『倒れないねぇ』
 バルタサールの目を通して戦況を見守る紫苑が言う。それは味方に当てた言葉か、敵へのものか、相棒へか。振り回される愚神の腕にバルタサールのサングラスが吹っ飛んだ。露わになった男の目は、不快感を表すかのように、あるいは狙いを定めるかのように細められている。
『お腹空いた……』
(……片付けたら飯だな)
 ルゥと聖も短くライヴス内でやりとりを交わした。エネミーがいつまで戦うつもりなのかは不明だが、これ以上長々と戦うと重体者が出かねない。敵側も相応に消耗している筈だが、相手はこちらの血を啜っているのだ。

 ならば。

「……そろそろ決めるぜ」
 力を貸してくれ、相棒。聖は短く深呼吸をして――その手の武器を、迸る鮮血に染まったかのような巨刃に持ち替えた。それを見たエネミーが驚いた様子を見せる。
「その剣は……まさか! 《闇夜の血華》!」
「やっぱマニアのテメェなら気付くよな。……そうだ。これはアイツの、その英雄の、魂だ」
 集中する。身構える。次の攻撃の為に、ありったけのライヴスを放出し、収束する。
「一緒にあの野郎をぶっ倒すって、約束は今、果たしてもらうぜ――“見てろよ”!」
 亡き友へ捧ぐ。疾風怒濤の勢いを以て踏み込んで、漆黒の瘴気を躍らせて、

「テメェはココで、終わらせるッ! 食らいやがれ、千照流――血華淵!!」

 全てを切り裂く三連撃。友の想いを、英雄の願いを、魔剣の祈りをぶつけるように。
「テメェに“次は”与えねェ!!  コレで……沈みやがれッ!!」
 闇夜の血華は深々と、エネミーの体を切り裂いた。おびただしいほどの血が溢れる。普通の人間なら死んでいる。
「あいててて……う~ん……素晴らしい……なんとドラマティックな……」
 そう。まだ敵は、死んでいない。
「世話が焼けるナー」
 シャングリラが自分のライヴスをエネミーに分ける。致命傷だったそれが、塞がる。
「ッ……ざ、けんなよ……!」
 全力だった。直撃だった。約束だった。なのに。聖は歯列を剥いた。
「死んでました、いやほんと。素晴らしかったです。シャングリラも今ので疲れたみたいです」
「ハラヘッター」
 だがエネミーと愚神がそう言うように、聖の一撃は無駄だった訳ではない。今ので相当なライヴスを消耗したようだ。尤も……エージェントの出血から、また徐々にまかないつつあるのだが。
「そう」
 期待に応えてくれた聖を労うように。あるいはエネミーに敵意を示すように。呟いたのは京子だ。
「だったら、もう一発」
『思い通りにはさせませんよ』
「好き勝手するのは好きだけど、やられるのは嫌いなんだよね……!」
 そう不敵に笑む京子の手にはライヴス結晶。「ナラカさん、いいもの見せてあげるよ」と友へ振り返り、微笑んで――
「いくよ、アリッサ! 初めてだけどよろしく!」
『ええ、京子! 決着を付けましょう!』
 結晶を握り潰す――リンクバースト。

 燦然たる輝きが乙女を包んだ。

 絆を焼かれるこの状況下でのリンクバーストは、正直リスキー過ぎる。
 それでも。切り札を切ることにためらいはなかった。
 ありったけのライヴスを込めて、銀晶弓を引き絞る。
 反応する愚神が乙女を叩き潰そうとした。だが。遅い。

「そこ――だッ!」

 放つ矢は黄昏色。絡む凶器を真っ直ぐに掻い潜り――エネミーの喉を貫いた。
「おげッ……」
 初めて、エネミーが悲鳴らしい悲鳴を上げ、体をふらつかせる。マチェットがガランと落ちて、呆然と喉に刺さった矢を握った。
(もう一発――!)
 京子は次の矢に手を伸ばした。
 だが。
 散々、燃えた絆の力が――尽きる。

 激痛。

「……え?」
 京子は自らの掌を見る。爪は剥がれ、肌はズタズタに裂けていた。亀裂は一瞬で乙女の全身に駆け――刹那である。バーストクラッシュに伴うライヴス暴走。暴風めいて吹き荒れた力が、一同を吹き飛ばす!
「――っ……」
 真っ先に動いたのは樹だ。ライヴス暴走に肌を裂かれながらも、京子が邪英化していないと分かると、倒れゆく彼女の体を抱き留める。破壊の嵐の中、魔女は隻眼で敵達を注意深く見た。
「エネミー、どしよっか? 全部殺そうか」
「……」
 シャングリラの問いに、喉の矢を引き抜きつつ、エネミーは。
「……逃げますよっ」
「えー! まだ戦えるよ? ほんとの本気出せるよ?」
「そしたら私マジで死ぬので! 超痛い! 遺跡破壊のノルマもまあまあ達成しましたしッ」
「なんで! やだ! はらへり! ころす!」
「んもー、もうちょっとやることあるんです! 貴方も愚神なら、こう、世界が良い感じにガシャーンするのは王の為ーとかなんかそういうアレじゃないんですか!」
「はっ……それもそうか」
「よし! 悪役らしくスタコラサッサと逃げますよ!」
 ボタボタ血を流しつつ、愚神と言う生命線に生かされつつ、敵が上空へ飛び上がる。
「クソがッ、タダで逃がすか!」
 アルトは敵の逃亡用に予め残していた刺突爆雷――その最後の一発を構え、発射する。狙いは精確に、威力は十二分に。目の前まで飛んできたそれを、シャングリラはバクンと噛んだ。当然ながら大爆発が起きて、愚神は「ぎえー!」と情けない悲鳴をこぼす。

「このやろー! おーぼーえーてーろー!」

 ドップラー効果をふんだんに用いながら敵はそう言って、空へと逃げて行った。残ったのはエネミーが愛用していたマチェット一つ。
「ッッ……くっそ胸糞悪ィ……!」
 アルトは苛立ちのままに、次弾用と掴んでいた弓を地面に叩きつけた。あれだけ攻撃を受けて。あれだけ切られて。喉に致命傷すら受けて。死ねよ。なんで死なないんだ。苛々した。
 それは聖も同様。届かなかった。至れなかった。あと一歩だったんだろうか、それすらも分からない。もっとこうしていれば。あそこでああしていれば。悔しさばかりが心を炙る。

 もとより敵は“決戦”のつもりではなかった。
 逃げるつもりで戦う敵を完殺するならば、もっともっと綿密で死力を尽くした布陣が必要だったろう。

 とかく。
 敵は去った。
 ポンペイには静寂が戻った。……野外競技場は散々、破壊されてしまったけれど。

 バルタサールは銃を下ろす。何であろうと今が結果だ。見渡せば、エージェント達の戦闘姿勢を解いている。
「ニロ、大丈夫だった?」
 蕾菜は英雄に問うた。ニロはライヴス内で小さく頷く。
 一方で、樹は京子の様子を今一度確認した。重体状態で昏倒しているが、命に別状はなさそうだ。邪英化もしていない。それから……樹がベルトに固定していた、H.O.P.E.に提出用のカメラも無事だった。
 ナラカはカゲリを通して、目を閉じている京子の様子を見守っている。すぐさま朝霞が駆けて来て、流血し続ける京子に応急手当を施した。
 薙はどっと感じる疲労感に膝を突いた。それでも全員生きている。
「終わったっすね、まだ本当の意味で終わりってワケじゃないっすが」
 グラナータは蛍との共鳴を解除した。深呼吸を一回。「帰るっすよ」とだけ、呟いた。



『了』

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

  • 双頭の鶇・
    志賀谷 京子aa0150

参加者

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 料理の素質はアリ
    ニロ・アルムaa0058hero002
    英雄|10才|?|ブレ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • Run&斬
    東海林聖aa0203
    人間|19才|男性|攻撃
  • The Hunger
    Le..aa0203hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • 深淵を識る者
    シルミルテaa0340hero001
    英雄|9才|?|ソフィ
  • コスプレイヤー
    大宮 朝霞aa0476
    人間|22才|女性|防御
  • 聖霊紫帝闘士
    ニクノイーサaa0476hero001
    英雄|26才|男性|バト
  • 暗夜の蛍火
    時鳥 蛍aa1371
    人間|13才|女性|生命
  • 希望を胸に
    グラナータaa1371hero001
    英雄|19才|?|ドレ
  • 共に歩みだす
    魂置 薙aa1688
    機械|18才|男性|生命
  • 温もりはそばに
    エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • Trifolium
    バルタサール・デル・レイaa4199
    人間|48才|男性|攻撃
  • Aster
    紫苑aa4199hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 残照と安らぎの鎮魂歌
    楪 アルトaa4349
    機械|18才|女性|命中
  • 反抗する音色
    ‐FORTISSIMODE-aa4349hero001
    英雄|99才|?|カオ
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