本部

浮上せしモノ

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/07/16 19:55

掲示板

オープニング

●謎の失踪
 早朝。
 愛犬と散歩をしていた男性が、砂浜に打ち上げられた漁船を発見した。男性は警察に通報し、警察官が船の内部を調べた。船内は荒らされた状態であり、壁や床に多量の血が飛び散っていたが、遺体はなかった。
 海上保安庁によると、漁船の所有者の男性とその息子は、三日前にその船で漁に出てから連絡が取れなくなっており、捜索が行われていた。
 警察は殺人事件として捜査を始めたが、捜査は一向に進展しなかった。

●闇に蠢く
 それは、夜の闇に紛れて行動し、着々と力を蓄えていった。獲物は、犬や猫、一人暮らしの老人……。それは、やがて人間を操る力を手に入れた。

 漁船が見つかってから、一週間が経過した。

●浮上せしモノ
 H.O.P.E.敷地内のブリーフィングルームで、職員が説明を始めた。
「A市の駅前の広場に、従魔が出現しました。デクリオ級従魔だと思われます。従魔は洗脳の力を持っていて、自分の周りに人間を呼び寄せています。これが現場の映像です」
 ホログラムに、駅前の広場が映し出された。中央に丸い人垣ができている。人数は、二十人くらいだろうか。皆、ぼんやりした顔をしている。
「人垣の中心にいるのが従魔です。映像を拡大します」
 エージェント達の中には、思わず小さな悲鳴をもらす者もいた。
 これは一体なんなのだろうか。
 その従魔は、悪夢から生まれてきたような姿をしていた。
 真っ赤な円錐形の体。体の真ん中あたりには、大きな丸い目が複数あり、ぐるりと体を一周している。上の部分からはくねくねした紫色の触手が何本も伸びている。
 触手は、近くにいる男性の体に巻きついて男性を引き寄せた。触手の根元の皮膚が割れて、ずらりと並んだ鋭い牙がむきだしになった。従魔は男性の肩に噛みついた。男性が悲鳴を上げた。
 職員は、顔を背けてホログラムを消した。
「これ以上の被害が出る前に、早急に従魔の討伐、よろしくお願いします」

解説

●目標
 従魔の討伐

●登場
 デクリオ級従魔。
 体長約1.5m。
 円錐形の体。複数の目と触手。触手の中央に、牙の生えた口。
 触手は伸縮自在で、最長で約2mまで伸びる。
 体の表面はぶよぶよしており、それを波打たせて移動する。
 触手で締めつける。
 鋭い牙で噛みつく。
 従魔との距離が6m以内になり、従魔を直視すると、BS「洗脳」を受ける。

●状況
 晴天。午後5時頃。
 A市の駅前広場。
 従魔の周囲に、洗脳された約20人の一般人がいる。
 駅前広場には、他にも約50人の一般人がいて、従魔に気づいた人もいれば、気づいていない人もいるという状況。
 男性は、従魔に噛みつかれて重傷。

リプレイ

●それぞれの思い
 従魔に襲われている一般人を一刻も早く救い出すために、エージェント達は手短に話し合って戦闘の方針を決めた。
 皆月 若葉(aa0778)と迫間 央(aa1445)の提案で、味方内での通信機での連絡手段を確認し、情報共有を図ることにした。

「やれやれ、我らが盟主殿も人使いが荒いね?」
 スアロー クラツヴァーリ(aa1675)は、飄々と言った。スアローは、騎士崩れの青年である。ある目的のために、とある人物の私兵をしているらしい。
『ふん……騎士というのはお喋りが過ぎる生き物なのか?』
 隣で呟いたのは、英雄の粉砕の呪い(aa1675hero001)であった。粉砕の呪いは、スアローより年上の傭兵崩れの男性であった。

『一体何処から湧いて出たのかしらね』
 英雄のマイヤ サーア(aa1445hero001)は、淡々と呟いた。ウェディングドレスを纏って央の前に現れた彼女は、央と共にいくつもの戦闘を乗り越え、今は央の婚約者という立場になっている。
「サラリーマンの退勤ラッシュが始まる前に片付けないとな……別の意味でも大混乱だ」
 央は言った。退勤ラッシュのことに気が回ったのは、央が地方公務員であるからかもしれなかった。
 央は、H.O.P.E.のエージェントとして警察と駅員へスマホで通報し、一般人が駅前広場へ入らないようにするための誘導と通行止め等の対応を依頼した。

「早く重傷の男性を救出しないとな。広場にいる他の人達も、従魔から遠ざけないと」
 荒木 拓海(aa1049)は言った。
『そうね』
 英雄のメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は頷いた。メリッサと拓海が初めて出会った時から二人の関係は変化してきたが、今はお互いに頼れる相棒と感じていた。
「行動中に洗脳されたり重傷の男性に攻撃があったりした場合は、作戦を柔軟に変更して、人命第一でカバーしよう」
 拓海は、そう言って負傷者搬送のための救急車と医師の手配を行った。

「なんだかまずい従魔だね」
 餅 望月(aa0843)は、言った。望月は、元気な女の子である。
『癒しの力が必要だね』
 自称天使の英雄、百薬(aa0843hero001)は、背中についた天使の羽根をパタパタさせながら言った。
「うん、急ごう」
 望月は言って、百薬と共鳴した。望月の背中に大きな羽が生えた。

 エージェント達は駅前広場に到着した。従魔に気づいて逃げ出す人もいればそうでない人もいて、日常とは異なるざわついた雰囲気が漂っていた。

「うっわー……何アレ」
 琥烏堂 晴久(aa5425)は、人垣越しに見え隠れする従魔の姿を見て、顔をしかめた。晴久は、術師の家系であるため、性別や本名など様々なことを秘密にしている謎の多い人物だった。
『何処から湧いて来たんだか』
 英雄の琥烏堂 為久(aa5425hero001)は、呟いた。白狐の面に隠されて、その表情は窺い知れない。為久の素顔を知るのは、晴久だけである。為久は、晴久にとって大切な「兄」であった。
「日が暮れる前にやっつけちゃわないとね」
 晴久は、従魔に近寄りたくないので、従魔から離れて行動することにした。

『……目がいっぱいっ!』
 従魔を見て、英雄のピピ・ストレッロ(aa0778hero002)は、ぞわわとなった。ピピは、背中に小さな蝙蝠の羽をつけたかわいらしい子供である。
「引き寄せて……捕食か、見た目通りイソギンチャクのような従魔だね」
 海の底で大人しくしていてほしかったな、と思いつつ、若葉は言った。
「さあ、行こう!」
 若葉はピピと共鳴し、蝙蝠の翼が背中についた中性的な容姿の若者になった。

●避難誘導開始
 エージェント達は、手分けをして駅前広場にいる50人の一般人の避難誘導を始めた。
 拓海は、ヘヴンズパレットを掻き鳴らして人々の注意を引いた。ギターの音色が、広場に響いた。
『皆さ~ん、こんにちは~。見えるかしら? こちらで~す』
 メリッサは、恐怖を煽らぬように笑顔で語り掛けた。
「ご協力感謝! H.O.P.E.です。実は……戦闘が始まるので……離れて下さいね」
 拓海も笑みを浮かべて、拡声器で呼びかけを行った。
「駅前広場から出て下さい」
 央も、拡声器を使って駅前広場からの退去を促した。
「皆さん、逃げてください、危険です」
 望月は、広場を歩きながら人々に呼びかけた。
「H.O.P.E.です。今から戦闘が始まります、危険なのでこの場から離れてください」
 若葉も移動しながら呼びかけて、駅前広場から一般人を遠ざけた。
 晴久と共鳴した為久は、黒猫「オヴィンニク」を召喚した。為久は、黒猫に、仲間が洗脳された場合は軽く噛んで洗脳を解除するように、また自分が洗脳にかかったら私を噛めと命じた。
 為久は、黒猫を肩に乗せて避難誘導を始めた。黒のセーラー服と黒タイツの美少女が、黒猫を肩に乗せているのだから、人目を引いた。
『H.O.P.E.の者です。危険ですので早急に広場中央から離れて下さい』
 為久は、人々を慌てさせないよう落ち着いた声音で呼び掛けた。
「……お嬢ちゃん、かわいいね」
 中年男性が為久に近寄ってきた。為久は、黒猫に男性を睨ませた。黒猫の尾の先の炎が大きくなり、瞳がギラリと光った。男性はヒッと息をのんで逃げ出した。
『慌てず、走らないで』
 為久は、一般人が怪我をしないように、かつ迅速に避難できるように呼び掛けを続けた。
 駅前広場にいる人々が、次々に避難していった。
 央は、逃げようとしない人達が従魔の周囲6mにしか存在しない事に着目した。
「確か洗脳の能力があると言っていたな……」
『周囲6m程度。それが能力の効果範囲かしらね。何がトリガーなのかは特定できないけれど』
 マイヤは、冷静に状況を分析した。
「あの悍ましい見た目からして視界情報を警戒すべきか」
 央は、通信機を使用して、従魔の情報を仲間と共有した。次に、央はマイヤと共鳴し、VR-RPGデータリンクを装着して仮想世界での視認情報に切り替えた。
 央からの連絡を受けて、拓海もゴーグルの間接的視覚によって洗脳を防ぐことにした。拓海はメリッサと共鳴した。拓海の髪が銀色に変わり少し長くなった。拓海は、VR-RPGデータリンクを装着して、従魔を囲む人垣の方へと向かった。

 仲間が避難誘導をしている間に、スアローは従魔に近づいた。
「さて、いやはや悍ましい存在もいたものだね」
 スアローは、呆れたように呟いた。
『口を噤めないのか? そろそろ準備が整うぞ、若造』
 粉砕の呪いが言った。
 粉砕の呪いと共鳴したスアローは、ライヴスシールドを使用して、従魔を直視せずになるべく長く耐えられるように準備した。
 従魔に噛みつかれて洗脳が解けた男性は、必死に触手から逃れようと身をよじって地面に落ちた。
「……はぁはぁ、助けて……」
 男性は、か細い声でスアローに助けを求めた。
 男性の足に従魔の触手が絡みつく寸前、スアローはハイカバーリングを使用した。従魔の触手は、ライヴスの盾に絡みついた。ライヴスの盾は、従魔の攻撃を無効化して消滅した。
 一般人の安全確保のために従魔の気を引き一点に留めようと、スアローは守るべき誓いを使用した。従魔がスアローに迫る。従魔の触手が、スアローの左腕に絡みついた。スアローは、従魔を直視しないように気をつけながら触手に攻撃し、触手を引きはがした。
「自身の思考に違和感があれば申し出ないといけないね」
 洗脳される時にどのような感情が湧き起こるのかはわからなかったが、従魔を気持ち悪いと思わなくなったら終わりだろうとスアローは思った。
(当たり前だ、同士討ちなぞ起こすなよ?)
 粉砕の呪いの忠告に、スアローは頷いた。

●洗脳された人々の救助
 従魔とその周りの人々を除いて、駅前広場から人がいなくなった。央が事前に駅員に依頼していたので、駅から出てきた人が駅前広場に来ることはなかった。
 為久は、街灯の上に立って広場を俯瞰し、重傷者の位置を確認し、仲間に伝えた。
 スアローと従魔が戦っている傍の地面に、男性がうつ伏せに倒れている。周りにいる人々が無表情にそれを見ているのが不気味であった。
(どうか無事でいてください)
 若葉は祈りながら、男性にエマージェンシーケアを使用した。ライヴスの弾丸が、人垣の隙間を通り抜けて、倒れている男性に命中した。男性が呻きながら寝返りを打った。一命はとりとめたらしい。
 若葉はほっと胸をなでおろしつつ、拓海が放つ予定のストレートブロウの軌道上にいる一般人に近づいた。吹き飛ばす為の空間を確保するためである。若葉が、学生服を着ている少年を避難させようとすると、少年は暴れ出した。若葉は、セーフティガスで少年を眠らせた。
『触手に気をつけて!』
 為久は、従魔の触手が少年と若葉のほうに迫ったのを見て警戒を促した。
 スアローは、地面に横たわる少年を踏まないように注意しながら、触手を攻撃した。
 拓海は、少年を巻き込まないように従魔に接近し、ストレートブロウの軌道上の一般人を扇状に避難させるために、女性を抱えて全力移動で射程外へ移動した。従魔から十分に離れた場所で、女性の頬を軽く叩いて洗脳を解いた。
「大丈夫ですか? 戦闘中なので、駅前広場から離れて下さい」
 拓海が話しかけると、女性は悪夢を振り払うかのように頭を振った。拓海は、洗脳されている人々のところに戻り、一般人のピストン搬送を行った。
『みなさん、避難誘導する人の指示に従って下さい』
 為久は、拡声器で洗脳を解除された人々に声掛けを行った。

「それで、僕はどう戦うべきかな?」
(守る戦いはお前の領分だろう?)
「ははっ、違いないね」
 スアローは、粉砕の呪いに笑顔で言いかえした。
 スアローは、従魔が動く必要がないように触手の攻撃可能範囲内に身を置き、自身が標的となるようにした。従魔の注意が自分に向いている間に、一般人の避難を行ってもらうためである。
「準備が整うまでは耐えきって見せようか!」
(無様な姿をさらさないようにな? 若造)
 スアローは、蛇腹剣を鞭のように使用し、触手の進路を塞ぐように振るった。また、洗脳の進行を遅らせるために、自身の視野と従魔を塞ぐ軌道も織り交ぜた。

「退避完了、拓海さんよろしくお願いします」
 若葉は、眠っている少年とその他の一般人を安全に退避させてから、仲間に伝えた。
「了解。琥烏堂さん、スアローさん頼む!」
 拓海は、仲間に呼び掛けた。拓海の呼び掛けに応えて、為久とスアローは行動に移った。
『覆い隠せ』
 為久は、従魔の視界を遮るように幻影蝶の鴉鳳蝶を纏わせた。
 スアローは、戦っていた従魔から離れると同時に、倒れている男性を抱き上げて少し離れた場所に退避した。
 拓海は、二人の行動に合わせて、ストレートブロウを使用し、空けた方向へ従魔を吹き飛ばした。
 特に深く洗脳されていたらしい二人の一般人が、悲痛な叫びを上げて従魔を追いかけようとした。
 従魔は、その二人のほうに触手を伸ばした。
『危ない!』
 為久は、警戒の声を上げて、呪符「白冷」の弾丸で触手を撃ち、従魔の攻撃を阻止した。
 若葉は、二人の一般人の身体を押さえて従魔に近づかないようにした。
「拓海さん、もう一回お願いします」
 若葉は、拓海に声をかけた。
「流石、痒い所に手が届くっ」
 拓海はそう言って、再びストレートブロウを放ち、従魔を更に押し出した。
「助けてやって……従魔は抑えてくる」
 拓海は、洗脳された人々の救助を望月に任せて、従魔に接近した。
「うん、任せて」
 望月は応えると、できるだけ多人数にケアレインとクリアプラスを使用した。洗脳を解かれて正気に戻った人々は一瞬ぼんやりしていたが、離れたところにいる従魔の姿に気づいた。
 一人の女性が口を大きく開けた。女性が悲鳴を上げそうだと察知した若葉は、セーフティガスでその女性を眠らせた。若葉は、倒れかかる女性をキャッチして、女性が地面に頭を打ちつけないようにした。若葉は、女性を抱えて安全な場所に避難させた。
 望月は、人々と従魔の間に割り込み、従魔を背にして立って避難を呼び掛けた。
「後ろは私たちに任せて、できるだけ全力で離れてください」
 望月の言葉を聞いて、人々は最初はゆっくりとだったが、次第に急いで避難を始めた。

「……うん。まだ、動けそうだね」
(さて、何を優先すべきかだが……)
 スアローは、自分の体力を鑑みて従魔との戦闘に耐えられると判断した。
「とはいえ、倒れるわけにはいかないね」
(他人に背負わせるほど価値のある命ではないからな)
「否定はしないけどもうちょっとオブラートに包んでくれてもいいんだよ?」
(ふん、たいして気にしていないくせによくいう)
 粉砕の呪いの厳しい言葉に苦笑いしながら、スアローは重傷を負った男性を望月に託した。
「餅君、この男性の避難をお願いします」
 そう言ってから、スアローは戦闘に戻った。
 望月は、従魔と一般人の間に入って護衛しつつ、男性を抱えて一般人と一緒にその場を離れた。
 若葉は、洗脳を解除された一般人に広場を離れるように声掛けを行いながら、辺りを見回した。従魔がいる場所へ、ふらふらと近づいていく男性がいた。まだ洗脳が解けていないようだ。若葉は、男性にクリアレイを使用した。男性は意識を取り戻したが、その場に座り込んでしまった。
 従魔の触手が、座り込んでいる男性に向かって伸びてきた。
 若葉は、触手を槍で叩き落として言った。
「ここは危険です、あちらに避難してください」
「……は、はい」
 男性は立ち上がって駆けていった。
 若葉は、広場の片隅で足をくじいて動けなくなっている女性を見つけて声をかけた。
「もう大丈夫ですよ。失礼します……さ、行きますよっ!」
 若葉は、女性を抱え上げて避難させた。

●戦闘
 従魔はずるずると前進しながら、触手を伸ばした。
「従魔は俺が止める。皆は避難してくれ」
 央は、洗脳の解けた人々に避難を促しつつ、ターゲットドロウを使用して従魔の注意を引いた。従魔の触手が央の左腕に絡みついた。央は、絡みついた触手を斬り落とした。
 従魔は、複数の触手を振り回した。
 スアローは、仲間がより攻撃しやすく、かつ直視をしなくてもいいように従魔を一点に留めようと従魔に攻撃を加えた。
 滑らかに動く触手、カッと開いた口、瞬きしない邪悪な黒い目……ふと気づくとスアローは、従魔から目が離せなくなっていた。スアローの心が、冷たい暗闇に満たされていく……。
 スアローは、ふらふらと従魔に近づいていった。
 街灯の上からスアローが洗脳されたことを見てとった為久は、黒猫を放った。黒猫はスアローの手に軽く噛みついた。
 洗脳が解けたスアローは、従魔との間合いを取ろうとしたが、一瞬早く従魔の触手がスアローの胴体に巻きついた。
 為久は、呪符「白冷」の弾丸で従魔の触手を撃った。触手はスアローの体から離れた。
 央は、従魔に肉迫し、ジェミニストライクを使用した。央とその分身との同時攻撃に、従魔は狼狽して動きが止まった。
 拓海は、従魔の目を攻撃した。数個の目が弾け飛んだ。

●従魔退治
 一般人全員の避難が完了し、望月と若葉が戦闘場所に駆けつけた。
 若葉は、まずエマージェンシーケアでスアローの回復を行ってから、従魔から6m以上離れた位置で、ニーエ・シュトゥルナの玻璃を展開した。若葉の周囲に浮かぶ無数の玻璃から次々に光線が放たれ、従魔の目を貫いた。
 従魔は、潰れた目から粘液を滴らせながら、触手を伸ばして拓海の両腕ごと胴体に巻きついた。
 拓海が服の下に巻いて準備しておいた巻物「降雹ノ書」が発動し、氷の弾丸が触手を撃った。拓海は触手から逃れた。
 望月は、賢者の欠片を拓海に使用した。
 従魔の触手が四方八方に伸びる。
 央は、天叢雲剣を振るって触手を切り落としながらカウンターのチャンスをうかがった。
 スアローは、蛇腹剣の刃を触手に絡ませて一気に引き、触手を切り裂いた。従魔を直視しないように注意していたが、ちらちらと視界に入ってくるその姿に視線が引きつけられ、スアローはまたもや洗脳されそうになっていることに気づいた。
「クッ! 洗脳されそうです!」
 スアローの言葉を聞いて、拓海は威力を弱めた氷の弾丸をスアローに当てた。
「ありがとう。従魔から目が離せなくなったら洗脳されますよ。気をつけて」
 洗脳が解けたスアローは、拓海に礼を言って、洗脳される時の感覚を皆に伝えた。
 望月は、従魔を直接見ないようにしながら、槍で従魔の触手を攻撃した。持ち前の精神力と百薬の自動回復能力を頼りに戦う。
(愛があれば、悪い洗脳はされないのよ)
「天使らしいセリフだね」
 百薬の言葉に、望月は微笑んだ。
 従魔の触手が、央に絡みついた。従魔は、央を触手で引き寄せながら大きく口を開いた。鋭い牙が央に迫る。
「剣をとれ、銀の腕……アガートラム!」
 央は、ヌアザの銀腕から放射されるビームを剣状に固定して従魔の口腔に撃ち込んだ。
 従魔は、シューシュー悲鳴を上げて央を放した。
『目を瞑っててくれないか』
 為久は、従魔の目を中心にブルームフレアを放った。
(なんで目?)
 晴久が不思議そうに呟いた。
『少しでも視界を奪えれば隙を作れるだろう』
(そっか。さすが兄様)
 拓海は、仲間の攻撃に合わせて従魔の触手を切り落とした。
 多くの目と触手を失って怒りに燃えた従魔は、触手を鞭のようにしならせて央を弾き飛ばし、空いた空間から逃げ出そうとした。
 若葉は、賢者の欠片を央に使用した。
 拓海は、従魔の死角から従魔の胴体に攻撃したが、ぶよぶよした皮膚で斧が滑った。
 従魔が移動したために若葉との距離が縮まり、若葉は洗脳された。
 望月は、ただちにクリアレイを若葉に放って洗脳を解除した。
『逃がさないよ』
 為久は、従魔にリーサルダークを打ち込んだ。従魔の動きが止まった。
 若葉は、槍で従魔の目を狙った。
 無傷で残っている目は、あとわずかだ。
 従魔の触手が、拓海の方に伸びた。為久のブルームフレアが従魔の目つぶしに有効だったことに気づいていた拓海は、触手を片手で掴んで従魔の動きを止めると叫んだ。
「琥烏堂さん、ブルームフレアを入れてくれ!」
 為久の放ったブルームフレアの猛火が、従魔の目を焼いた。
 従魔は、残っている触手を激しく振り回した。
「う、やばいかも」
 そう呟いてから洗脳された望月に、若葉はクリアレイを放ち洗脳を解除した。
 従魔の死にもの狂いの反撃に対して、央は、繚乱を使用した。収束した影が薔薇の花弁となり周囲に舞った。
 従魔に隙が生じたのを見逃さず、央は叫んだ。
「拓海、若葉……そのまま決めてしまえ!」
 拓海は、従魔の口の中へウコンバサラを振り下ろし、内側から切り裂くように疾風怒濤の連続攻撃を加えた。
 拓海の攻撃に合わせて、若葉は槍で従魔を攻撃した。
 他の仲間も一斉に従魔を攻撃した。
 従魔は、ドサッと地面に倒れた。従魔の体は急速に干からびていき、赤黒い塊になった。従魔は息絶えた。

●日が暮れて
 央は、協力してもらった駅員や警察官に御礼を伝えると共に、ここ一週間程の失踪事件が討伐した従魔による被害である可能性を伝えた。
 拓海は、警察官から被害のあった時間や場所の情報を聞き出し、従魔が潜んでいた場所や移動ルートを推測した。そして、従魔が複数体の可能性も考えてモスケールで従魔の移動ルート近辺のチェックを行った。
 央と警察官が話し合っているところに、チェックを終えた拓海が戻ってきて、他に従魔はいなかったことを報告した。
 央は、ほっとした様子の警察官にH.O.P.E.への報告、負傷者への対処など事後の手続を依頼した。
 為久は、怪我人がいないか黒猫と一緒に広場周辺を見て回った。重傷の男性は既に救急車で搬送されていたが、軽傷の怪我人が数人いたので救護を手伝った。
「被害は最小に抑えられたね……良かった」
 犠牲者がでなかったことにほっとした若葉が呟くと、ピピは顔を曇らせた。
『うん、よかったの……でも』
「……?」
 ピピは、目顔で尋ねる若葉の服の裾をつかんで言った。
『夢に出てきそうなんだよ』
 ピピは、従魔を思い出してぷるぷる震えた。
「大丈夫、大丈夫。怖い夢を見て目が覚めたら、俺を起こして。ピピが眠るまで見ていてあげるから」
 若葉は、涙目になっているピピの頭をポンポンと撫でた。

『浮かない顔だな、若造』
 粉砕の呪いは、スアローに声をかけた。
「2回も洗脳されてしまったからね。皆に負担をかけてしまったな」
 スアローは、戦闘を振り返って反省していた。
「そんなことないって」
 望月は、元気に言った。
「そうだよ。洗脳されたのは、従魔に接近して長時間戦っていたからだよ」
 拓海が言うと、メリッサも『そうですよ』と控えめに微笑んだ。
「スアローさんが、従魔を足止めしてくれていたので助かりました」
 若葉は、笑顔で言った。
「ボクなんて、従魔が気持ち悪いから近くには寄らなかったんだよ」
 そう言って、あははと笑う晴久の頭を、『なぜ自慢げなのだ』と為久は小突いた。
 スアローは、仲間の笑顔を見てだいぶ気が楽になった。
「今回の従魔は手ごわかったから、犠牲者を出さずに無事に討伐できたのは仲間のお蔭だな」
 央が言うと、マイヤは隣で頷いた。

「で、結局あれはなんだったのかな」
『何かは何かだよ』
 望月が呟くと、百薬は適当な返事をした。まあ、それでいいか、と望月は思った。
「海の家かどこかでたこ焼きでも食べに行こうか」
『かき氷もつけてね』
 望月と百薬は、仲間に別れを告げて砂浜へと歩き出した。

「役所も閉庁時間過ぎてるし、このまま上がるとして、良かったらメシでも行かない?」
 央は、拓海と若葉を夕飯に誘った。
「お、行きたい! 一緒する! ……皆も休まないとね、お疲れ様でした!」
 拓海は元気に賛成して、他の仲間に手を振った。
「俺達も行きます。お疲れ様でした」
 若葉もそう言って、手を振った。
 日が落ちて明かりが灯り始めた平和な街を、央達は肩を並べて歩いていった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445

重体一覧

参加者

  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • ひとひらの想い
    赤の従者aa1675
    人間|24才|男性|攻撃
  • エージェント
    赤の遺物aa1675hero001
    英雄|26才|?|ブレ
  • 奪還屋
    琥烏堂 晴久aa5425
    人間|15才|?|命中
  • 思いは一つ
    琥烏堂 為久aa5425hero001
    英雄|18才|男性|ソフィ
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