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最終発言2018/06/26 22:20:10 -
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最終発言2018/06/27 09:33:39 -
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最終発言2018/06/27 04:48:51
オープニング
●白き夜
倫敦、霧の都。
――街の一区画に突如として霧が発生。
――その霧にはライヴスがこめられていることが確認され……
――解析の結果、それは愚神十三騎が一、ノウ・デイブレイクのものであると判明する。
「ご協力感謝します。ロンドン警視庁刑事、ジェンナ・ユキ・タカネです」
到着したエージェントにジェンナ・ユキ・タカネ(az0051)が敬礼する。周囲は騒然、パトカーの警光灯が夜を明滅させ、黄色い「KEEP OUT」のテープが霧の区画を封鎖していた。そのただならぬ状況を映すかのように、ジェンナが手短に説明を行う。
あの霧の中には多数の従魔が確認されている。
そして、霧の中には多くの市民が取り残されている。詳細な数や安否は不明。
なによりあの霧がノウによるものならば、かの愚神があの中にいるのだろう。
「本作戦は二つの部隊に分けて行います。部隊Aは従魔の掃討及び市民の救助、部隊Bは愚神ノウの索敵及び撃退。救助された市民の対応、周辺封鎖や警戒などに関しては“警視庁(ヤード)”の方で行います」
ジェンナは君達と共に霧の区画へ向かいながら、相棒であるレター・インレット(az0051hero001)と共鳴を果たした。今一度、君達を凛と見やる。込み上げてくるノウへの怒りを、心の奥に圧し込めながら。
「――全力を尽くしましょう。“倫敦(私達の町)”を護るために」
●スマートフォン越しの悲鳴
時遡り、霧発生直前。その時、ユキとレターは聞き込みを終えて本部に帰るところだった。聞き込みといってもあらかた解決している事件である。新しいことを見つけるというよりは確認の意味合いが強い。犯人に腕のいい弁護士がついた際のダメだしに使うぐらいの証拠である。
「ユキ。スマホ鳴ってる」
「わかってる」
ユキはスマホを取り出した。電話の主はユキとレターの友人、ブルームだった。
「もしもし、ブルーム?」
「あ、ユキ。今、仕事?」
「仕事だけど、もうすぐ終わるわ」
「じゃあ、1時間後に遊びに行っていい? 美味しいさくらんぼのパイの」
話はそこで途切れた。
「ブルーム?」
「なにこれ……」
「ブルーム!? 返事して! ブルーム!!」
「霧が……」
「霧? ブルーム、今どこ」
返事は悲鳴だった。ユキの顔色が変わる。
「鷹の目」
ライヴスの鷹が空を舞う。鷹は数秒で霧の場所を捉えた。レターが通信機に手を伸ばす。
「ロンドン警視庁、レター・インレット。応援要請。正体不明の霧を確認。愚神、もしくは従魔の可能性濃厚。HOPEに解析依頼を。併せてブルーム・ヒルトップのスマートフォンのGSPで彼女の居場所特定を。場所は」
場所を聞くなり、ユキが走り出す。通信を切って、レターがユキの腕を掴んだ。
「どこ行く気?」
「決まってるでしょ」
静かな声だったが、冷静でないことをレターは見抜いていた。
「得体の知れないもんに突っ込んでどうにかなるって本気で思ってるわけ? リンカーは万能じゃないのよ」
「あの中にはブルームがいるわ」
「まだ決まってないし、今ここで慌てて何かしたって事態が好転するわけじゃない。まずはHOPEの解析を待って、それから作戦を練ればいい。いつものあなたならそう言うでしょうね」
「レタ」
「ヤードに帰るわよ。そしてさっさと終わらせる」
「わかってる」
ユキは堅い表情で頷いた。
十数分後、全ての元凶がノウ・ディブレイク――ユキとレターにとって因縁浅からぬ愚神とわかる。ブルーム・ヒルトップが霧の中にいる可能性が高いことも。
「ノウ・ディブレイク」
ユキの握り締めた拳が震える。レターはそれを黙って見ていた。
そして――
「ご協力感謝します。ロンドン警視庁刑事、ジェンナ・ユキ・タカネです」
作戦が始まる。ミッションは従魔の掃討及び市民の救助。市民の救助――ブルーム・ヒルトップ等個人名までは記載されていない。
解説
●目的
従魔の掃討及び市民の救助(A部隊)
●状況
ロンドンのとある区画、路地裏。時間帯は夜。戦域は封鎖されており、新たな一般人の迷い込みなどはない。
視界は霧に包まれて劣悪。ちらほらと死体が転がっている……。
●敵情報
ミーレス級従魔『愚者火』
凡そバスケットボール大の光球。1~3m程度の高度を浮遊している。
魔法攻撃力、特殊抵抗が高めだが、他の能力値は低い。数は多いが、個体としては弱い。
射程10・直線無差別の、魔法攻撃属性の光線を発射する。これは他の愚者火に当たると屈折し、複雑な軌道となってエージェントを狙う(回避側に回避低下ペナルティが発生する)
《街中の暗闇》ノウ・デイブレイク
トリブヌス級愚神。事件の首謀者。ライヴスを込めた光を用いて戦う。後述のジェンナ・ユキ・タカネとレター・インレットとは因縁あさからぬ愚神。
*このシナリオではノウ・ディブレイクと戦うことはありません。
●登場人物
ジェンナ・ユキ・タカネ
ロンドン警視庁刑事でリンカー。ロンドン在住のため、犠牲者に知り合いがいる可能性が高い。今回の事件では珍しく前線に出ることになっている。ヤードとしてだけでなく、ロンドンっ子として怒りや焦りを押し殺しながら戦う。
レター・インレット
ユキの相棒で英雄。同じくロンドン在住のため、犠牲者に知り合いがいる可能性が高い。ユキと共に前線に出るが、ユキより冷静。強い感情を押し殺しているユキを危険視している。
ブルーム・ヒルトップ(PL情報)
ユキとレターの友人。ユキに電話している時に事件に巻き込まれる。安否不明。ユキが非常に心配している。
●その他
A部隊の人数が少ないのは「できる限り人員を元凶―ノウ・ディブレイクに割いて欲しい」とのタカネ刑事の要望によるもの。
リプレイ
●それぞれの思い
霧の区画へとエージェントたちが進む。それぞれの思いを抱きながら。
「……どっちも大事だって、私は思うから。……だから、頑張るよ」
御代 つくし(aa0657)の思いは「生きている人も死んでいる人も、全員外に連れ出したい」だ。どちらも変わらず、待っている人がいるはずだから。
「決めたのなら、僕も全力で協力しますよ。一緒に、頑張りましょう」
メグル(aa0657hero001)の思いはつくしとともに。
「……愚神十三騎の余波……やっぱり……俺は……」
茨稀(aa4720)の思いの吐露をファルク(aa4720hero001)が受け止める。
「また十中八九、無茶なこと考えてんだろ? 俺らは俺らで今、出来ることを…ってな」
「分かって、います……」
自分がやるべきことは。
「霧のロンドン……切り裂きジャックを思い出すね」
ルカ ロッシ(aa5159hero001)の視線の先にはわだかまる夜霧。あの中に従魔と無辜の人々がいる。
「ここは私のホームだ。勝手はさせんよ」
モーリス チェスターフィールド(aa5159)の思いも強い。
(ホームと言えば、ジャンナさんもそうだよな)
皆月 若葉(aa0778)は既にリンクしたジェンナを見る。何度か一緒に事件を解決したことがあるものの、リンクしたジェンナの素顔を見るのは初めてだ。顔立ちも髪の色もジェンナのそれだが、目はレターの色。前に会ったときは黒髪だったし、声も違っていた気がするのだが。
「ジェンナたち大丈夫かな……」
ピピ・ストレッロ(aa0778hero002)がぽつりと言う。ユキの様子に何かを感じ取っているのかもしれない。
「心配だけど、俺達は冷静でいないとね」
一人でも多く助けるために。
「こんばんは、インレットさん。それと、」
アリス(aa1651)が珍しく声をかける。それにレターが返事をする前にAlice(aa1651hero001)が淡々と言う。
「ジェンナ・ユキ・タカネ刑事」
ユキだけフルネーム+役職呼びなのは意図的だ。
(何だか感情を押し殺している様だけど、冷静ではないみたい)
ユキに違和感を覚えているのはピピだけではなかった。
「お久しぶりですね。アリスさん」
その意図をユキもレターも正確に汲み取った。あなたは今、誰? なんとして立っているの?
「ヤードを代表して――ご協力、心より感謝します」
ロンドン警視庁の刑事として。
「だけどロンドンに住んでいる」
アリス(aa4688)の言葉にジェンナの肩が揺れる。
「知り合いがいる可能性があるのでは?」
葵(aa4688hero001)が続ける。
「可能性はあります」
「隠したって仕方ないって」
レターが言う。ジェンナは立ち止まった。
「隠しているつもりはありません」
「あの中にジェンナさんの知り合いがいるの?」
若葉の言葉に「ブルーム・ヒルトップ。私の友人です」ユキはスマートフォンを出すとみんなに見せた。ショートカットの女性が微笑んでいる。
「彼女との通話中に事件が発生しました。彼女は『霧が』と言い、その後悲鳴を上げて返事をしなくなりました。GSPは彼女があの中にいることを示しています」
ユキの表情は変わらない。だが、スマートフォンを掴む指先は白い。
「心配する気持ちは分かる」
獅堂 一刀斎(aa5698)が口を開いた。
「勿論できれば助けてやりたいが、今は一刻も早く一人でも多くの人間を救出することが最優先だ」
「特定個人に肩入れはせず、しかし見捨てるつもりは微塵も無い」
比佐理(aa5698hero001)が続ける。
「当然です」
ユキは冷静に言った。
「肩入れは必要ありません」
強がりではない。ロンドン警視庁の捜査官としての言葉だ。
「左右二手にわかれるんでしたね。私たちは」
「待って」
荒木 拓海(aa1049)が言う。
「ブルームさんの方向とそうでない方向に分かれましょう。ジェンナさんはブルームさんの方向へ」
「しかし」
「一緒に行かせて下さい。悲鳴がしたなら従魔遭遇中の可能性がある……それに最後に話したのはジェンナさんだ。貴女が助けに来てくれると信じ待ってると思う」
「それにこの霧……闇雲に探しても効率が悪いわ。居場所が判るなら先に救助して、更に他の人も救けましょう」
メリッサ インガルズ(aa1049hero001)が言う。
「おぅ全員助けるぞ!」
皆が肯く。ユキを除いて。まだ、迷っているのだ。
「今、俺達にできる最善を尽くしましょう」
若葉が言う。
「わかりました」
ユキはエージェントたちを見回した。
「よろしくお願いします」
エージェントたちは霧の区画へ。戦いが始まる。
●作戦開始
「HOPEのエージェントです! どなたかいませんかー!」
つくしはメグルと共鳴し、区画の端まで向かいながら呼びかける。
「この声が聞こえてたら、その場から動かずに待っていてくださいー!」
呼びかけながらも従魔が音に反応する可能性を考慮し、普段より冷静に行動する。
「『……梟……お前なら……多少の視界不良でも動くものなら補足出来る…だろう』」
そのそばで茨稀とファルクの言葉とともに鷹の目が発動する。
「『光ならもっと分かり易いだろうが、な』」
霧の中を動くものを中心に捜索する。判断基準は光≒敵/動くだけ≒要救助者だ。
「こちらはアリス」
通信機を通して葵とリンクしたアリスがエージェントたちに呼びかける。
「今から放送を行う」
事前に、ユキから聞いていた。日本でいう所の公民館(公共放送施設)的なモノが在るかどうか。答えは「yes」正確に言えば民間のものだが、ともかく一区画にいる人々に呼びかけることはできる。
「こちらモーリス チェスターフィールド」
既にルカと共鳴したモーリスが答える。
「狙撃準備完了」
万が一、声に従魔が反応した場合に備えてモーリスたちは放送場所が射程圏内にある場所に陣取っている。
「今、気づきましたが、アリス殿が3人いますね」
「こっちの事は黒い方とでも適当に呼んでくれていい」
比佐理の言葉に“黒いアリス”が言う。
「了解。双子ちゃんの方は黒いアリスね。もうリンクしてるしその区別でいいでしょ」
レターが言う。
「増援のリンカー、だ。直ぐに助け、る。ある程度の安全が保てたらば、再度放送を行、う」
アリスが放送を始める。その声に反応したかはわからない。だが、光球が数体姿を現した。従魔だ。
「放送を続けてくれ」
言うと同時にトリオで一気に3体沈める。同じ放送を3度続けた後、アリスは他のエージェントたちから情報を集めつつ、地図と合わせて安全な地帯を作るべく、候補を絞っていく。もちろん、自らも従魔を倒しながら情報を取りに行きながらだ。
●救助と分析
「『吹き飛べ……』」
茨稀が放った矢が霧を走る。ライヴスの霧ならライヴスの風で晴れるはず。矢が走ったあと、一瞬だけ視界が開け、すぐに元に戻る。刀を霧に向かい扇風機状に回すと同じように霧が晴れ――
茨稀は駆け出した。今の一瞬で、確かに倒れている男性が見えた。
「『!』」
光球に囲まれる。茨稀は影渡で回避。
「『こんな所で止まってるワケには行かないんで、な……』」
光球をかわし、倒れている男性のところへ駆け寄るが。
(間に合わなかったか)
すでに事切れていた。
「『もう少し……待っていてくれ』」
黙祷の後、オートマッピングシートに印付する。まだ、敵は残っている。次は絶対に。
「誰か居ますか? HOPEです」
拓海はそう声にし、隠れてる人へも救助が来たとアピールしながら、目視可能距離で散開し地図を端から塗潰すように急ぎ進む。同行者は若葉、黒いアリス、ユキが続く。
「血の匂いがする」
若葉が言う。その先には倒れている女性。拓海が脈と瞳孔を確認する。若葉たちの方を向き首を振る。
「間に合わず……すまない……後で迎えに来る」
地図に印付け合掌する。ユキは恐ろしい程無表情にそれを見ていた。
「まだ、遺体が温かい。もしかしたら近くに」
「反応あり」
拓海の言葉が終わるか終わらないか。黒いアリスが呟く。同時に4人の前に数体の光球。反応は若葉と拓海も把握している。
「従魔に遭遇。周囲に人の反応なし。ジェンナさんと若葉はブルームさんGPSへ。荒木と黒いアリスは討伐に分かれます」
拓海が無線で知らせる。
「この狭い道ならどのみち戦わざるを得ませんね」
「通るだけ」
構えるユキに黒いアリスが釘をさす。ユキは答えず、地を蹴った。
「気付いてるだろうが…ジェンナさん、ひょっとしてレターさんも自分が思う以上に動揺してるだろうから離れないでくれ」
拓海が若葉に言う。若葉は黙って肯くとユキに続く。ユキは従魔からの光線を回避しながら従魔の真ん中を突っ切っていく。回避しきれないものはゴットハンドで払う。払った光は他の従魔に当たり、跳ね返った。後ろにいた若葉は盾でその光線を上へと跳ね返す。他の従魔が放った光線も別の従魔に当たり、幾重にも跳ね返る。
(当たると反射するのか)
拓海と黒いアリスが同時に踏み込む。拓海は数体引き連れ別の道へ。黒いアリスはそのままあえて攻撃はせず、回避もしくは防御と並行して入射・屈折角を観察する。
(複雑な軌道なのは理解した。でも)
黒いアリスの手に炎が宿る。
(現実の法則と同様の屈折なら、読める)
ブルームフレアが数体の従魔を灼いたのはその一瞬後だった。それとほぼ同時に、拓海も従魔を全て片付けた。
茨稀の一撃が光球を吹き飛ばす。早期殲滅を目指しているが、闇雲に攻撃するわけではない。敵の光線の軌道を良く読みながら、例え当たっても他光球の居場所確保し、居場所が分かれば即攻撃する。近距離では刀、遠距離は銃と武器を柔軟に変更し、着実に仕留めていく。また、ライヴスの動きで他光球が集まって来ていないか注視し、布陣を把握することで光線の軌道を予測。
「『お前らの手は見えてる』」
もう当たらない。
そこからやや離れたところでつくしがいる。廃墟に数名固まって隠れているのを見つけたのだ。
「安心して下さい、HOPEのエージェントです。助けに来ました」
生者は傷の具合に応じて救急バッグで応急処置、状態悪ければ止血後タオルケットで包む。歩けるようなら共に、歩けない者は抱える。
「歩けますか? 無理はしないでくださいね」
「つくし、遺体は」
メグルの言葉に答えず、死者もブランケットに包み幻想蝶の中へ。
「……やっぱり、置いていけないんです」
「そうですね。行きましょう。霧の外へ」
従魔が来たがつくしはそのまま進む。従魔はつくしに攻撃もできずに消滅していく。茨稀の攻撃によって。
「当たらないといった」
「こちら皆月。被害者数名発見。応援を」
「俺が行く。1分で着く」
拓海が言う。
「一刻を争う方がいます。ここまで来るようヤードに救急要請しました。ですが、この霧では到着時間が読めません。どなたか誘導と護衛をお願いします」
ユキが言う。
「今、霧の外にいる。護衛は俺が引き受ける」
一刀斎が答える。足をやられて動けない被害者を霧の外へ運んだばかりだ。従魔に遭遇しても戦わず、回避と仲間へと連絡に止め、被害者の救出へ尽力している。
「了解」
「どこから入るか報告を。俺が護衛にまわる」
モーリスが言う。そのそばには遺体。彼もまた間に合わなかったのだ。
『……』
「嫌なものだね」
2人共死体には慣れていて何とも思えない。遺体の位置はすでに地図に記してある。
「A地点だ」
「わかった」
早速、救急車が霧の中へ。一刀斎は救急車に同乗し、道案内。早速、近寄ってきた従魔は――
「邪魔はさせんよ」
モーリスの銃撃で屠られる。一刀斎もぼーっとそれを見ているわけではない。
「どけ」
『黒糸』と『鋼糸』を巧みに使い、従魔を寄せ付けない。
言ったとおり、1分後に拓海と黒いアリスが若葉たちに合流。
「止血は一通り終えたけど、意識不明のひとがいる。呼びかけと人工呼吸もいるかも」
「わかった。後は任せて。若葉とジェンナさんはブルームさんのところへ」
2人が走り出す。拓海は呼びかけと人工呼吸を行い、黒いアリスは近くを警戒する。
●助かる命も助けられなかった命も
「ここがいい」
アリスが言う。避難場所のことだろう。その目の前には数体の従魔。
(注意すべきは挟撃・反射攻撃・味方の流れ弾。上空。流れ弾はないとして)
構えを解かず、地を蹴った。怒涛乱舞が従魔を蹴散らす。
「避難場所が決まった。今、情報を送る」
アリスが通信を入れる。正確には従魔のたまり場を怒涛乱舞で蹴散らして作った場なのだが、場所的にはベストだろう。ある程度広く、警戒紙やすい。
「放送を行った後、そちらへ行く」
「救急車が来たら歩ける被害者を連れてその場所に行く。霧の外に行けるほどじゃないから」
拓海が言う。救急車は思いのほか、早く来た。来るまでに3度従魔に囲まれたが。一刀斎の『黒糸』と『鋼糸』、モーリスの銃撃があれば従魔の攻撃など恐るに足りない。重体者を乗せ、行きと同じように一刀斎が同乗、モーリスが護衛を務める。
「行こう」
救急車に乗せきれなかった人を背負い、拓海が言う。黒いアリスはアリスの放送を聞きながら肯いた。
「ブルーム! どこ? ブルーム!?」
ユキがブルームを呼びながら若葉とともにGSP反応へと急ぐ。焦り、不安、怒り、色んな感情がごちゃ混ぜだろう状態で一人にできない。途中、従魔が現れたが、若葉の攻撃で事なきを得た。
「ブルーム!」
倒れている女性へと駆け寄る。震える手で脈を探る。
「まだ、息はあります。ですが、非常に弱いです」
その声は確かに震えていた。
「いい?」
若葉はユキをどかすと、治療を始めた。自分で止血したようだが、だいぶ血を流したようだ。すぐに輸血がいる。
「治療を終えたら」
若葉が言う。
「ブルームさんを外へ」
「わかりました」
ブルームを幻蝶へ入れる。
「ありがとうございます。あなたたちがいなければきっと私は暴走していました」
「気をつけて」
「はい」
ユキは走り出した。その背を見送って若葉は避難場所へと走り出した。まだ、敵も被害者もいる。これ以上、犠牲は出させない。
つくしが被害者と霧の外へ行ったのを見届けると茨稀は走り出した。女性と光球の間に、間一髪滑り込む。
「『……っ、危な……っ』」
ターゲットドロウで庇うと同時に確実に敵位置を計れることを利用し――次の攻撃に繋げる。
ギィ
悲鳴なのか、単なる音なのか。光球は真っ二つに割れ、消滅した。
「歩けるか? 放送は聞こえたか?」
「はい」
「ここをまっすぐ走れ。放送で言っていた場所に出られる」
女性が走り去るのを確認してから地を蹴る。梟が敵を捉えたのだ。
「此処で待ってい、ろ。必ず護、る」
アリスは避難場所へ救護した青年を横たえる。アリスの指定した場所へ被害者が集まってきた。一刀斎とつくしが動かしても遜色ない人を運び、拓海と若葉は治療し、アリスが避難所の護衛、黒いアリスと茨稀は辺りの探索と徐々に被害者と従魔を減らしていく。動けない被害者は救急車で搬送する。
「どけ、と言った」
「邪魔です」
もうどんなに従魔が来ても動きがわかっている以上、恐ることはない。たとえ、被害者を背負っている最中でも――
つくしと一刀斎の前に従魔が無残に砕け散る。
そして――
「「「「従魔反応・生存反応なし」」」」
各ポイントでエージェントたちが言う。従魔殲滅・生存者避難完了。
●事件の終わり
エージェントたちが霧から出ると、ユキとレターはリンクを解き、他のヤードたちと事後処理をしていた。野次馬がひどいが、ユキもレターはそちらを身もせず、遺体の身元確認や家族連絡を行っていた。
「ブルームさんは?」
つくしが言う。
「命に別状はないそうですが、まだ、意識不明です」
「よかったですね」
「気にかけていただいて、ありがとうございます。本当に、みなさんのお陰です」
少しは安堵の色が見えるが、まだどこか暗い。仕方ないだろう。
「命があるだけ幸運よ」
レターが言う。
「結構死んだらしいな」
「自業自得だ。こんな夜中に、こんなところにいるから」
どこかの野次馬だろう。
「……!」
刺すような殺気をまとったのはユキ――ではなく、ずっとユキを抑えていたレターの方だった。
「レター・インレット刑事」
レターが声の主へと振り返る直前。その手を握り、彼女を静止したのはユキだった。レターを見、そして少し遠くへ視線を投げる。その先にはAlice。
作戦前、ジェンナ・ユキ・タカネの立ち位置を再認識させるためあえてAliceは呼んだ。「ジェンナ・ユキ・タカネ刑事」と。
「盗作じゃない?」
レターが苦笑する。
「行きましょう」
まだ、仕事は残っている。
「ノウ・ディブレイク」
アリスがぽつりと呟いた。この事件の首謀者は今。
「……ノウ・デイブレイク?……ああ…」
黒いアリスが興味もなさそうに言う。
「そういえば、前に会ったことあったかな」
「そうだったかな」
紅いアリスも言う。
「「……まぁいいや」」
やるべきことをやればいい。愚神なんてどうでもいい。
エージェントの情報やヤードたちの人海戦術で、予想以上の短時間で霧の区画から遺体を運び出すことができた。
「……」
犠牲者を思い、ピピの目に涙が浮かぶ。
「……」
そんなピピを若葉が優しくなでた。
「間違いありません」
硬い声にピピと若葉が振り向いた。遺体のそばにユキが膝をついていた。その顔は恐ろしい程無表情だった。その遺体に布がかぶせられる。
「間違いない?」
警官が言うとユキは黙って頷いた。知り合いだったのだろう。遺体が運ばれ、ユキは大きく息をついた。腰をあげようとした直前、ピピがユキにそっと抱きついた。
「ストレッロさ」
「悲しいって思うの悪いことじゃないよ」
ユキはピピの背中に手を回すと固く目をつぶった。その目からひとしずく涙が伝う。
「ピピ」
震える声がピピのファーストネームを呼ぶ。
「ありがとう」
遠くでファルクのレクイエムが流れる。そのそばで茨稀がうつむき、つぶやいた。
「愚神……そんなものが居るから……」
「……」
「……」
一刀斎と比佐理も弔いの言葉を口にする。
「悔しいね」
拓海がつぶやく。
「ええ。でも」
メリッサが救急車に視線を移す。
「助かった命もあるわ」
「そうだな」
拓海の言葉にモーリスとルカもうなずく。終わったのだ。あの霧の中で誰かが死ぬことはもうない。
とある病室。
「ジェニイ?」
ブルームはうっすら目を開けると、目の前の女性の名前を呼んだ。
「おはよう。ブルーム」
「おはよう。助けてくれてありがとう」
ジェンナ・ユキ・タカネはブルームの手を握った。
「さくらんぼのパイ、たくさん食べましょう」
「食いしん坊」
ブルームが笑う。
「失礼ね」
ユキは笑った。笑いながら大粒の涙をこぼした。