本部

【愚神狂宴】連動シナリオ

【狂宴】Sophia

影絵 企我

形態
イベントショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/07/01 11:30

掲示板

オープニング

●The Sin
 カレウチェに金属の肉体を持つ従魔が無数に憑りついて完成した、従魔空母ソフィア。無数の霊石が寄り集まったエンジン状の器官を得たそれは、大洋を割って悠々と進む。広い甲板の上に立った狼とハイエナは、武器の手入れをしながら水平線の彼方を見つめる。
「この景色を見ていると、昔を思い出してしまうな」
「俺達も必死だったよな。世界に住む人々を愚神から守ろうってんで、随分と気張ったもんだ」
 剣の刃を磨き、銃口の埃を取りながら、狼とハイエナはぽつぽつと語り合う。
「だが、全ては無駄だった。……誰もが我々を裏切った」
「俺達はまだいい方だろうよ。宰相がいてくれたからな。欲かいて戦った奴は自業自得だが、親や奥さん人質に取られたり、金や住処を取り上げられたり、そんなんばっかりだったろ」
 ハイエナはその顔を曇らせた。銃を握る手にも力が籠る。狼も嘆息した。
「人間にとって能力者は武器に過ぎない。戦いが日常なら、銃が傍にあるのも当然の事だ。だが、戦いが終われば銃は異物になる。その銃に存在意義を与えようとしたその時、争いはまた生まれるのだろう」
「……見てらんなかったよな。皆優しいからな、自分がその時抱いている憎悪から、何とか目を背けようとしてやがった。もう誰も、ああはなってほしくねえって思ったよ」
 燦燦と降り注ぐ光が、海を星空のように輝かせる。その光の一つ一つが、彼らには恨みを抱えて散っていた仲間達の魂と見えた。
「だから宰相は愚神になる事を、己が罪と罰を背負う事を選んだのだ。彼らが本当の意味で絶望する前に、一つの舞台の幕を引くためにな」
「違いねぇ。……宰相だったら、逃れる事だって出来たかもしれないのにな」

●The Good Deeds
 ヘイシズからの挑発的な通信を受けたH.O.P.E.は直ちに行動した。エージェントを招集し、ブリーフィングルームに集めながら、ヘイシズが率いる艦隊と対抗するため、米軍に船舶貸与の約束を取り付け、グロリア社、それからロバート・アーウィン率いる新生アルター社からAGW供与を受ける。研究班にヘイシズへの対抗策の準備を急がせる。
 戦いまでのタイムリミットは刻一刻と迫っていた。

「今回の作戦は、ヘイシズによるドロップゾーン展開の阻止です」
 ブリーフィングルームに集められた君達を前に、オペレーター役を任された澪河 青藍(az0063)が説明を始める。スクリーンにはハワイ周辺の海図が映し出され、その中にはヘイシズを示す赤い点も写っていた。
「ヘイシズの目標はハワイ・ホットスポット。この地点は風水学では龍脈と呼ばれてきた地点の一つであり、現在では実際にライヴスがマグマに混じって常に噴出を続けている事が確認されています。ヘイシズの目的は、このライヴスを利用して自らの能力を強化し、全世界を彼の意志の下で統制する事……としています」
 最後に澪河は言葉を濁す。顔色も曇らせ、彼女は付け加えた。
「ただ、皆さんもお分かりの通り、彼は自らの意志を極限まで明かさない傾向にあります。これも本心であるかどうかは定かではありません。これから愚神側がどう動いてくるかも含め、彼やその部下の言動についてはなるべく注意を払っておく必要があるかもしれません」
 そこで話を切った彼女は、スクリーンの映像を変える。哨戒機が飛び抜け、上空からヘイシズの船団を映した。巨大な空母を取り囲むように、数隻のカレウチェが随行している。
「現在、ハワイの米軍基地には数隻のイージス艦が停泊しています。私を含むエージェント五十余名はこれに乗り込み、グロリア、アルターの二社から提供される砲門型AGWを用いて護衛艦型カレウチェに対する攻撃を行う手筈となっています。皆さんには、私達が水上で気を引いている間に、VTOLからの降下で直接空母に乗り込んでいただく事になります」
 スクリーンは再び地図を映した。敵を示す赤い点と、味方を示す青い点がぶつかり合っている。
「今回の注意点ですが、ヘイシズとの戦いに決着がつく前に空母を沈めないように気を付けてください。船が沈没となると、戦いを続行する事が困難になってしまいます。沈める場合は、必ずヘイシズが撃破された事を確認してからにしてください。お願いします」
 澪河が言い終わると、スクリーンはブランクになった。
「次は仁科から、ヘイシズの能力についての解析結果を説明してもらいます――」

●The Hope
 イージス艦が洋上を走る。その後を追うように、VTOL機も君達を乗せて飛び立った。みるみると高度を増し、ヘイシズの篭る本丸を目指して突き進む。

 輸送機の中で、君達は何を思っていただろう。目の前の戦いの事とか、これからの生活の事かもしれない。あるいは、今日の夜食べるご飯の事だったりするのかもしれない。君達に澪河から通信が飛んで来たのは、そんなタイミングの事だった。
「此方はもうすぐ接敵します。皆さんも突入の準備をお願いします。それと……一つだけ」
 澪河の言葉が途切れた。切り出してよいものか迷っている。そんな調子だったが、やがて彼女は話し始めた。
「……以前、ある愚神と戦いました。そいつも元々は人間の希望になろうと努力していました。でも、人間の絶望に感化されて、人間は死ぬ事を望んでいると考えるようになったそうです」
 話しているうちに熱が籠ったのか、彼女は次第に早口になっていく。
「彼は言ったんです。愚神が世界を滅ぼすのは、私達の無意識に潜む破壊衝動が、世界の滅亡を求めたからだって。無限に絶望する者達がこの世界には多すぎるんだって。この世界はその脅威に耐えられないんだ、って」
 次第に言葉も砕けてくる。まるで友人に語り掛けるかのように、語尾を丸めて彼女は話し続けた。
「彼と戦って、倒して……そしてこの事件を通して、最近思うようになりました。世界が良いから希望を持てるんじゃなくて、誰もが希望を持って、初めて世界は良くなるんだって」

「……私達にH.O.P.E.に求められているのは、誰よりも先に、この世界に希望を持つ事なんじゃないかって」

 彼女の話に、君達がどう思ったか。彼女自身は知る由もない。だからこれ以上彼女は語らない。無線機の向こうで恥ずかしげに一つ咳ばらいをすると、ブリーフィングルームでの冷静な口調に戻る。
「すみません、勝手な話を長々。では、どうかご無事で」
 通信が途切れた。同時に、VTOL機のハッチが開く。パラシュートを背負った君達は、一斉にハッチの外へと飛び出していった。




「さあ、行こうぜ」
「彼らの希望が絶望となる前に、我々はこの戦いを終わらせる」

解説

メイン ソフィア動力部の停止
サブ 近衛軍を壊滅させる
失敗条件 ソフィアを沈没させる

☆航空母艦ソフィア
 森蝕戦線で登場したカレウチェを航空母艦に改造。無数の鳥人型従魔が出撃し、H.O.P.E.側を攻撃している。
・脅威度 ケントゥリオ級
・沈没条件
 水密区画および船底を破壊してしまう
・通路及び区画
 ソフィアを構成する従魔は壁や兵士として存在。船を守っている。通路は狭く、二人が並んで走るのがやっと。各区画はおよそ縦横が5sq前後、高さは高くて2sq。
・防衛システム
 ソフィアを構成する従魔が変異。レーザー銃となってエージェントを攻撃する。
・動力部
 船尾に存在。近衛軍が守っている。これを停止させると、ライヴスが不足し防衛システムが停止する。

☆近衛軍×9(狼×6、ハイエナ×3)
 かつての世界からヘイシズに従ってきた愚神達。ヘイシズに忠誠を誓っており、士気は非常に高い。
・脅威度 デクリオ級
・ステータス
(狼)
 物攻B 物防A 魔攻C 魔防A 命中A 回避C 移動A 抵抗C イニD 生命A 
(ハイエナ)
 物攻D 物防C 魔攻A 魔防B 命中B 回避B 移動C 抵抗A イニC 生命B
・武器
 エウノミアー(狼)
 光を放つ剣。[近接、単体物理。範囲1の無差別攻撃を行う事も出来る。]
 エイレーネ―(ハイエナ)
 光を放つ銃。[最大射程15、魔法。一度に3人まで狙うことが出来る。]

☆兵士
 カレウチェから湧いてくる。鉱物質な外見を持つ。
・脅威度 デクリオ級
・ステータス
 両防御B、生命C その他D以下
・スキル
 発生
 [1D3体が発生する。]
 銃攻撃
 [単体、物理、射程1~10]

☆TIPS
・間違っても動力部を破壊しない事。暴発によって船底に巨大な穴が開き、沈没の危機が強まる。
・ソフィアが沈没した場合、甲板上の仲間は戦いどころではなくなる。

リプレイ

 高空のVTOLから、真壁 久朗(aa0032)は迷わず飛び降りる。彼の耳元で、共鳴したセラフィナ(aa0032hero001)は囁いた。
『この世界に希望を持つ事、ですか。……ね、今の貴方は、どう思いますか?』
「……生きていれば、どうしようもない理不尽に遭遇する事もある。漠然と“希望を持て”と言う事は出来ないし、気持ちだけでどうにかなるような状況でもない」
 久朗はあくまで冷静だった。近づく甲板を凛と見据え、意志を固める。
「でも俺は今の暮らしが気に入っているし、脅威に晒される可能性はあれど、異世界との接触で得られた出会いもあるこの世界をそんなに悪いものではないと思っている。だから――」
『……ただ、愛おしい明日を穏やかに過ごす為に。行きましょう』
 セラフィナが言葉を継いだ瞬間、久朗は三点着地で甲板に降り立った。轟音と共に、鉄と木で編み上げられた甲板が僅かに歪む。
 空から、槍を構えた鳥獣達が降ってくる。久朗は全身で槍を振り抜きそれらを撥ね飛ばすと、艦橋に向かって一直線に駆け出した。
「先行する。索敵を頼むぞ、皆月」
「了解です、真壁さん!」
 パラシュートを中空で切り離した皆月 若葉(aa0778)は、そのまま軽やかに甲板へ降り立ち久朗の後を追いかける。起動したモスケールが、すぐさま兵士の出現を探知した。
「艦橋に従魔が二体湧いています。気を付けて!」
 鉄の扉を久朗が蹴破り、その後に若葉は続く。鋼鉄の球体が半分に割れ、中から銃を露出した。若葉は素早く銃弾を撃ち込み、球体を沈黙させていく。
[……来たか。H.O.P.E.のエージェント。……我々を止めるのだな?]
 回線に割り込まれたらしい。若葉は顔を険しくし、無線に向かってきっぱりと言い返す。
「争いが無いのは良い事だけど、希望を抱けない世界に一体何の意味がある? 絶望を抱いてもなお可能性を信じ未来にかける。それが“生きる”って事じゃないかな」
[もし、世界に裏切られるとしてもか?]
「俺はあなた達の言う“世界”ではなく、大切な家族や友人や仲間がいる“この世界”を守りたいんだ」
 若葉の答えを聞くと、敵は無言のまま通信を切った。彼の意志を聞き遂げたラドシアス(aa0778hero001)は、若葉の中からその背中を押す。
『……ああ。行け、お前の想いを見せてやれ』

『愚神であろうと英雄であろうと、この世界の未来を決める権利はありません。……願う事、奪う事は出来るとしても……ね』
「(ロロー)」
『ええ、一刻も早く船を制圧しなければ』
 辺是 落児(aa0281)と共鳴した構築の魔女(aa0281hero001)は、二丁拳銃を構えて背後から現れた立方体型の従魔を撃ち抜く。稲妻走る手斧を握りしめた荒木 拓海(aa1049)は、魔女と目配せした。
 拓海は斧を振るい、鉄の扉を叩き割る。部屋に配置されていたブリキ人形のような従魔達が立ち上がり、一斉に銃口を拓海へと向ける。斧の刃で銃弾を受けながら、拓海は人形を真っ二つにした。
「魔女さん、カバーを!」
『(……船と拓海さん、流れ弾には気を付けないといけませんね)』
 後から部屋に踏み込んできた魔女は、拓海へと飛び掛かっていく人形の側頭部に銃口を押し付け引き金を引く。爆音と共に人形の頭が吹き飛び、従魔は消え去った。周囲の安全を確かめると、扉を開いて船尾へと続く廊下を進む。
[悪いなぁ、エージェント。そんなにお人好しとは思ってなかったんだよ]
 拓海達にも敵からの通信が乗り込んでくる。拓海は静かに応えた。
「……何度も考え迷ったが、善性愚神の夢は捨てれない。共に生きれるなら、それが良い」
 狼なのかハイエナなのか、低い溜め息が聞こえてきた。拓海はイヤーマフを耳に押し当て、声を低くし昂る感情を抑え込む。
「が、己の世界がそうだったからと、この世界を同一視しないでくれ。守る行為は束縛ともなる。過去を繰り返したくない気持ちは尊重するが、どう行動するかは己で決めてきたんだろう?」
[……どうだかな]
「オレは自分で決める。力で支配しようとするなら、王と同じ侵略者と見る。……貴方と同じ思いをしない為、しても己が選んだ事と自信を持ち続ける為、貴方の考えを拒否する」
[そうかい。じゃあ来いよ。決着つけてくれ]
 通信が切れる。廊下の天井から飛んだレーザー攻撃を受け止めつつ、拓海は苦笑した。
「……当たり前の答えなのに、決めるまで掛かるもんだな」
『迷った時間も力になるのよ、拓海は今その力を感じているでしょう?』
 メリッサ インガルズ(aa1049hero001)は、傍に寄り添うようにして尋ねる。拓海は武器を握り直し、力強く頷いた。
「そうだね。行こう、魔女さんも」
『ええ。任せてください』

「さて、行くかのぉ」
『空母の制圧とは、やれやれ大仕事だぁな』
 ノエル メタボリック(aa0584hero001)と共鳴したヴァイオレット メタボリック(aa0584)は、腰をぼりぼり言わせながら背筋を伸ばす。老化した分、体重は軽量化させた。船への突入も何のそのだ。
「なるほど、なるほど、ヘイシズさんたちを表敬訪問している間に美空達が会場そのものの制圧担当でありますか。うん、頑張るのであります」
『本当にわかってるんですかぁ……』
 ひばり(aa4136hero001)に突っ込まれつつ、美空(aa4136)は作戦行動に意気込む。天井からは、ずん、ずんと大きな地響きが響いているが、今一つ緊張感はない。そんな緊張感のない美空を、壁から湧いてきた昆虫の模型じみた従魔達が狙いを付けようとする。
「失礼な。やるべき事は理解しているでありますよ」
 言うなり、二人は両手の人差し指を突き合わせて共鳴する。よりちんまくなった美空は、ライヴスを噴射するお立ち台のようなものに乗っかったまま徒手空拳で従魔へ突っ込んでいく。従魔達は思わず彼女に向かって銃を撃ちかけるが、銃弾は何故か撥ね返り、ついでに従魔達も体当たりで撥ね飛ばされる。
「ファーwww 馬鹿には見えないンゴねぇwww」
 そう言う美空も見えてない。アクリルよりも硝子よりも透明な棺桶型盾“あなたの美しさは変わらない”。頭空っぽな従魔を奇襲するには持ってこいだ。
『愉快な事をしとるだな』
 美空の頭上を跳び越えると、まごついている従魔の頭上から槍を突き立てる。文字通りの金切り音を立てた従魔は、火花を上げながら消滅した。
「ナイスゥ!」
「やれやれ、顔を合わせるのは初めてぢゃが、何とかなりそうぢゃ」
 二人は昔からの知り合いだし、互いに任務で顔を合わせた事もあったのだが、どうやらすっかり忘れているらしい。
「では、一気に最深部まで突き進むとするかのう」
 槍を構え直すと、足音を高らかに鳴らしながらヴィオはマイクのスイッチを入れる。
「進入完了したぞよ。ここはいわば従魔の体内。居場所も、我々の会話も筒抜けになっていると考えても考え過ぎではないのぉ」
 ヴィオは通信で受け取った情報を試験型ライヴスアイに流し込みつつ、パイプや蔦の絡み合う廊下を見渡す。
「為し得る事を為し得るように成せば、それでも十分勝ち得るじゃろう」

 パラシュートも広げず、迫間 央(aa1445)は一条の雷のように甲板へ落ちる。着地の瞬間、猫のように柔らかく全身を折り曲げ、落着の衝撃を甲板に流しつつその上で受け身を取る。そのまま立ち上がって駆け出すと、久朗達の後に続いて艦橋に突入する。
「あの人数でヘイシズに群がる……か」
『勝って当然の作戦ね』
 H.O.P.E.の定めた作戦に思う所を覗かせるマイヤ サーア(aa1445hero001)。しかし、時計の針は進み続ける。二人は今更振り返るつもりも無い。
『……私達の意志は前に示したわ。今更よ』
 階段の手すりを伝って滑り降りる。鋼鉄の壁が剥離し、ブリキの兵となって従魔が襲い掛かる。忍刀を抜き放った央は、素早く懐へと潜り込み、手にしたショットガンを天井へ向けて切り上げる。そのまま、無理矢理そばをすり抜けた。
 兵は央の背中を追いかけようとしたが、階段の影から飛び出してきた逢見仙也(aa4472)が忍者刀をその頭にぐっさりと突き立てる。ブリキは易々と裂け、兵隊はその場に崩れ落ちる。
「重い一撃……だな、自分で仕留めなくていいのは楽でいい、その調子で頼むぞ」
「俺もがら空きの隙にぶっ刺すだけでいいから楽だわ。前はその調子でよろしく」
 央は頷くと、パイプや蔦の影を映り歩きながら先行する。しかし、一直線の通路では完全には隠れきれない。彼の姿を僅かに捉えた球体状の従魔が、部屋からごろごろと飛び出してくる。
「スイッチ・オン……」
 それこそが央の狙い。忍刀を素早く鞘へ納めると、左手に嵌めた籠手にライヴスを流し込む。
「アガートラム!」
 叫ぶと同時に、光弾が炸裂する。球体は部屋の奥まで吹っ飛び、潰れて動かなくなった。
『掌を向けるだけでいいのだから、こういう戦い向けよね』
 央は部屋へ飛び込んでいく。外套を靡かせながらその後を追いかけ、仙也はひっそりと笑いながら呟く。
「さてさて、いよいよ宴酣。会場を壊さないように、一人潰れないように楽しみますか」
『どいつもこいつも、獅子の繰り言に踊らされて必死になっているな。どこまで奴は本気でいるかもわからんというのに』
 ディオハルク(aa4472hero001)はうんざりしたように唸る。武器を手斧に変形させつつ、仙也はさらりと応えた。
「まあ、遠慮なくやればそれでいいんじゃね」

 黒羽織を着込んだ黒豹の獣人、獅堂 一刀斎(aa5698)。その肩から霊体のような形を取って現れているのが少女人形の比佐理(aa5698hero001)である。比佐理は日暮仙寿(aa4519)に向かってぺこりと頭を下げた。
『獅堂一刀斎と、その傑作たる人形、比佐理でございます。宜しくお願い致します』
『黒豹のワイルドブラッドと人形の女の子、なんだね。よろしく!』
《同じシャドウルーカーとして、宜しく頼む》
 不知火あけび(aa4519hero001)と日暮仙寿(aa4519)はその言葉に応じると、小烏丸を素早く抜いて一刀斎と共に駆け出す。仲間達が通った後だが、艦橋の鉄板が剥がれて次々に護衛の従魔が湧いてくる。
『来るよ、仙寿様!』
《この広さなら問題無い》
 仙寿は身を屈め、飛び交う銃弾を躱しながら兵士を次々に切り裂いていく。後に続いて飛び込んできた一刀斎は、爪の先から三本のワイヤーを伸ばして立方体型のブリキの兵士を切り刻んだ。
『艦橋内に現在敵はおりません。そのまま進撃できます』
「うむ……上で戦っている仲間の事もある。艦橋まで急がなければな」
『くれぐれも慎重にしてください。危険なのは元々ですが、怪我をなされては困ります』
 脳裏で比佐理との会話を手早く済ませると、一刀斎は仙寿と目配せする。
《先に渡しておく。いざという時には使え》
 仙寿は新米の一刀斎に賢者の欠片を投げて寄越すと、船尾の動力室を目指した。ネズミ捕りの猫よりも疾く、二人は船内を駆け抜けていく。

――行けよ。その正義を以て、世界を駆けろ。

 密林の奥地で刃を交わした男。その最期の言葉が、今でも胸に残っていた。天井から飛んで来たレーザー攻撃を飛び前転で躱すと、区画の扉を守っていた兵士を立ち上がりざまに蹴倒す。
《……行くぞあけび。俺達は、俺達の為すべき事をする》
『うん!』
 仲間達に想いを譲り、ヘイシズと直接相対する事は避けた。それでも心配なものは心配だ。姉のように思っている少女も、妹のように思っている少女も、ヘイシズへ抱く想いのあまり必ずや無茶をする。その確信が彼らにはあった。
(可能な限り早くこの空母を制圧して、援護してやらなければ)



 兵士を蹴散らしながら、十組のエージェント達は船尾へと集う。それぞれ別の区画で体勢を整えながら、武器を構える。
[準備は出来ているな]
 久朗が通信を飛ばしてくる。拓海は手斧の柄を長く持ち、分厚い扉に狙いを定めた。
「ああ、いつでも行ける」
[わかった。……では、行こう]
 瞬間、拓海は全身を大きく使い、電光満ちる斧を扉に叩きつけた。蝶番が悲鳴を上げ、扉が倒れる。それを合図に、区画の影に隠れていた若葉が銃を構えた。
「皆、気を付けて!」
 光の珠が、放物線を描いて飛ぶ。暗闇に潜んでいた獣人達の姿が、僅かに照らされる。誰もが皆、従容としていた目で開かれる扉を見つめていた。
 刹那、光が炸裂した。部屋の全てが白に塗り潰される。
『皆、今だよ!』
 あけびは叫び、仙寿は飛び出す。ライヴスを纏わせた脚で壁を駆け登り、天井に足を着くと、顔を手で覆い隠している獣人達の頭上をすり抜け、背後に守る核へと迫る。歪に輝く実をつけた大樹のような形をしている。
(どう見ても百前後はあるな……)
『(確かに、これだけの霊石を一斉に破壊なんてしたら……)』
(ライヴスが暴発して、この部屋全部が吹き飛んでもおかしくはないな)
 仙寿は鋼鉄の枝を叩き折る。甲高い音を立て、霊石が宙を舞う。その手で掠め取った仙寿だったが、霊石は幻想蝶に収まりきらない。
「その霊石はその辺の石ころとは違うぜ。従魔が精錬した純度の高いもんだ」
 一斉に霊石が蒼い光を放つ。ハイエナは振り返りながら銃を構え、天井の仙寿へと狙いを定めた。
《……お前は、あの時の》
 放たれる深紅の光線。仙寿は素早く躱すと、骸切に手を掛けながら蜘蛛の網を擲つ。ハイエナは躱し切れず、網にその身を絡め取られた。
《追撃だ、一刀斎!》
「承知した」
 一刀斎は仲間達を障壁にしながら一気にハイエナの傍へと迫った。狼がワイヤーを斬り払い、ハイエナは銃を構え直して一刀斎と対峙する。
「美しき比佐理が命を授かったこの世界は……比佐理が生きるに相応しく、美しく在らねばならん。その為にこそ、俺は戦う」
 ハイエナの懐に潜り込んだ一刀斎は、喉笛をワイヤーで切り裂く。
「お前達の主への忠節も、信念も、美しきものだとは思うが……比佐理が居る限り……俺は決して絶望などしない」
「そうか。それは結構な事だ」
 狼は長剣を振るい、一刀斎を背後から斬りつけようとする。
「おっと、そこまで」
 そこへ割り込んだ仙也は、片手半剣を狼へ叩きつける。狼は咄嗟に剣を弾いたが、瞬きも出来ないうちに剣は鎖鎌へと変わり、間合いを切ろうとした狼の腕を絡め取る。それでも狼は鎖を振りほどいたが、鎖鎌は途端に刺々しい手甲に変わり、狼の横っ面を思い切りぶん殴った。
「くっ……」
 床に倒された狼は、仲間に庇われながら起き上がる。
「まあ、やる事は理解できるよ? 上手く行けばお前らの被害を減らせるし、俺達に絶望しかないと思えば、抵抗できるのがむしろ可哀想に見えるんだろうね」
 追撃ばかりに仙也は手斧を持って踏み込む。彼の振り下ろしと狼の切り上げがぶつかり合い、火花が散る。
「けどさ、お前らが同じ立場でも、諦めて何もしませーん、なんて言わないだろうに」
「……そんな事は百も承知だ。それでも、宰相はこの道を選んだ」
 鍔迫り合いを続ける狼。その頭を横から一発の銃弾が撃ち抜いた。狼は床をゴム鞠のように跳ね、そのまま倒れる。
『まずは一人……』
「やってくれたなぁ、てめぇ」
 一人のハイエナは仲間の亡骸を見てへらりと笑うと、拓海の背後に立つ魔女へと銃口を向ける。魔女はもう一方の銃をハイエナへ向けると、その手に向けて一発撃ち込む。乾いた音が響き、ハイエナの手は血に濡れる。銃口はぶれ、放たれた銃弾はあらぬ方向へと飛んだ。
『聞くところによれば、貴方達も愚神と戦ってきたのでしょう』
 動力部の隅からレーザーの銃口が現れ、魔女に向かって一発撃ち込む。咄嗟に飛び退き躱した魔女は、二挺の拳銃を再び構える。
『それなのになぜ、貴方達も愚神となり、他の世界を脅かす道を選んだのです?』
「お前らが世界を恨んで死んじまったら、みんなまとめて愚神になっちまうからさ。身内に対する絶望はライヴスを歪ませ、愚神に変えちまう」
 ハイエナは捨て鉢気味に応えると、魔女に向かって今度こそ光線を撃ち込む。魔女は身を伏せて躱すが、動力室の壁に炸裂して火花を散らせる。赤熱した壁を、魔女は不安げに見遣る。
『(あまり戦闘が長引くと周囲も傷ついてしまう……そこで穴が開いてしまう事の無いようにしないと)』
 魔女の背後を抜け、久朗は銃を構えるハイエナに向かって突進する。放たれた銃弾を白翼の盾で遮り、黒翼の盾でハイエナに一撃加える。頭から血を流してよろめく獣人に、久朗は尋ねる。
「もし全てが上手く行ったとしたら、お前達は何をするつもりだった」
 銃を握り直して身を起こしたハイエナは、ニヤリと歯を剥き出す。
「今ここでやってる事をするだけさ。ここだけじゃない。地球のライヴスの要は他にもある。その点に一つ一つドロップゾーンを打ち込んでいって、この地球全体をドロップゾーンで包む。そうすれば、王がこの世界にやってくる」
 狼は大剣を振り薙ぐ。盾を飛ばして受け止め、久朗は動力部へ回り込むように対峙する。
「君達はもう後戻りは出来ない。我々もそうだった。目の前の脅威を拭い去る事ばかりに必死になって、この世界全体に働く運動力が見えないまま時計の針を回してしまった」
「……お前達のかつての世界がどうだったのかなんて、俺は知らない。けどかけがえのない存在達に出逢えた。その対価がこの戦いなら、俺は戦い続ける」
「そうか。なら踏み越えてみせろよ。そして果ての果てを見てみるんだな!」
 弾丸がハイエナの心臓を撃ち抜く。天を仰ぎ、血を吐きながら笑い、ハイエナはその場に崩れた。銃口に漂う煙越しにその死に様を見届けた若葉は、銃を構え直して呟く。
「この世界全体に働く運動力……」
『(面倒だな。俺が特別面倒だと思ってきた事だ、これは)』
 ラドは気だるげにする。嘗ての世界の記憶は無くとも、“厭だ”という気持ちは残る。
『(こいつらだけ追っ払って平和になるなら、よっぽど楽に済んだろうが)』
「……こうして戦ってるのは、親の背中を追っかけてきただけだし、戦い始めたら目の前で襲われている人をとにかく助けなくちゃなんないしで、世界がどうこうとかあんまり考えないで来たけど」
 身を屈め、部屋の隅の遮蔽へ飛び込む。狼の振り下ろした一撃をやり過ごした若葉は、その顎に拳銃を突きつける。
「それじゃあ遅いって事なのかな。今からもう動き始めなきゃいけないって事かい?」
「出来るのか? リンカーとしての君達は世界にとって脅威ですらある。しかし人としての君達は結局、世界にとってはあまりにもちっぽけだ」
「やるさ。そうしなきゃ、真の希望を齎す事なんかできないだろう?」
 若葉は引き金を引いた。狼は衝撃に仰け反る。更に追撃のライフル弾が狼の脇腹を撃ち抜いた。美空はスナイパーライフルを下ろすと、再び周囲を飛び回る。
「こっち見るンゴー」
 お立ち台でひたすら悪目立ちしている美空に、動力室に沸いた兵士を引き連れ狼が襲い掛かる。狼は光の加減の僅かな違和感に気付いて剣を止めたが、昆虫型の兵士達は構わず突っ込み、そして弾かれる。透明な壁に阻まれたのである。
「あー、やっぱ脳味噌ないんすねぇ」
 ライフルを取ると、美空は再び兵士に銃弾をお見舞いしてやった。突然の事に惑う兵士達の背後から、蒸気やら何やら吹かして飛び上がったハイスペックばーさんが槍を突き立てる。狼が反撃とばかりに大剣を振り回すが、ノエルは槍を器用に動かし衝撃を最小限に抑えた。
「真心からか、欺こうとしているかはともかく、おぬしらの救いは到底わらわ達にとって必要があるものとは思えんのぅ。特に、ライヴスが歪んでしまうのは良くない」
 良くない。口を突いて出た言葉に、ヴィオの深奥もまた深く頷いていた。
「(そう。私の信仰の対象は、紫鏡様とその主のみ。ライヴスを歪ませればいずれ、そのしっぺ返しが来る)」
 ヴィオは逆関節で駆け抜け、透明な盾を張る美空の背後に回る。美空は突撃で兵士達を撥ね飛ばしながら、自分に注目を集めていた。
「貴方のボスは……そうだな。“聖書か剣か”と決めてるようだ。生き方を変え、共に生きようという意志を感じない。そのボスに自らの意志で追従し奪ってきたのなら、奪われる覚悟も出来てるんだろう?」
 雷の斧を二振りの手斧に持ち替え、拓海はその斧に仕込まれた銃口を狼へ向ける。狼は剣を構えて腰を落とし、その瞳を月のように輝かせる。
「愚問だ。我々は今、何の為に此処に居る」
「……そうだね。だから、俺も勝つ事だけを考えて挑ませてもらう」
 拓海は素早く飛び出した。怒涛のように近衛達の合間を駆け抜ける。その後を追うように、一陣の太刀風が動力室の中を吹き荒れた。その瞬間、近衛達の肉が荒々しく切り裂かれ、肩や脇腹が銃弾に抉られ血飛沫が飛んだ。
 腹を撃ち抜かれた狼は、口から血を零しながらその場に膝をつく。振り返った拓海は、止めの一撃を首筋に叩き込んだ。
 刹那、動力部が突然光を失う。央が最後の霊石を抜き取ったのだ。薄暗闇の中、央は影の中から自らの分身を創り出し、先に床へと飛び込ませる。薄暗がりで目をぎらつかせていたハイエナは、その影に向かって咄嗟に引き金を引いた。銃撃を受けた分身は消え去る。
 央は動力部の上から飛び降りると、霊石をその手の中で握り潰し、溢れたライヴスをその身に覆う。
 背後から忍び寄る霞。ハイエナがそれに気づいた頃にはもう遅い。渾身の袈裟切りがハイエナを肩から腰までばっさりと切り裂いていた。
「お前達が失くした自分の世界の未来と希望。俺達は捨てずに進んで見せる。前にリオ・ベルデであの子を守ってくれた礼は、その結果で示す。だから、後腐れなく逝け」
 断末魔の言葉も無く斃れたハイエナを央は見下ろす。愚神である彼らを許しておくつもりは無かった。しかし、彼らを赦すくらいはいいと思った。
「それが、愚神になっちまったお前達への手向け。マイヤの代わりに俺が果たす復讐だ」
『……そうね。三途の川の向こう側で悔しがるといいわ』
 恨みでも怒りでもなく、その口振りはただ穏やかだった。
 仙寿は飛び降りると、銃を半分下ろしかかっているハイエナと静かに対峙した。小烏丸を抜き、一歩一歩間合いを詰めていく。
『貴方達を信じようとした友人達がいた。憎しみに苦しむ子も、今尚話すに足ると信じる子もいる』
《何故愚神になった。世界に絶望したのか》
 尋ねると、ハイエナは肩を竦めた。
「そんなとこだな。肩を並べる仲間がバタバタ死んでも苦になりゃあしなかったが、そいつらと本気で剣を突き合せたらもう駄目だ」
『……私は何があっても絶望しない。英雄がどんな存在だったとしても……それがどうした! 未来は良いものに出来る! 希望を諦めなければ!』
 そうだ。あけびが笑っている世界が良い。明ける日に希望を抱ける世界が良い。あけびの叫びを聞いて、仙寿は心に強く思う。マスケット銃を構えたハイエナに向かって、仙寿は迷わず飛び出した。
《……お前達は道標を示してくれた。繰り返さぬよう足掻いてみせよう》
 その影はぶれ、二人に分かれる。ハイエナは片方の肩を撃ち抜いたが、黒い闇となってその人影は消え去ってしまう。
《では、さらば》
 仙寿は腰から肩に掛けて刃を切り上げる。ハイエナは一瞬満ち足りた笑みを浮かべると、静かに崩れ落ちた。

『……敵影は確認できませんね。これでこちらは片がついた……という所でしょうか』
 周囲を素早く見渡し、魔女は胸に詰め込んでいた息をふっと吐く。透明な棺桶から降りた美空達は、その蓋を開いて隅っこに放り出されていた霊石を掻き集め、棺桶の中に放り込んでいく。
『なるほどー。この霊石は確かに純度が他よりも素晴らしいでありますねー』
「……一つ幾らになるでありますかね」
 ひばりは呑気に霊石を一つ摘まんで見つめる。美空に至っては一個ちょろまかしたいという欲望に駆られていた。それはそれとして、とりあえず幻想蝶に霊石を収めた。少々軽装にしていたおかげで、二つ三つは収まった。
「他に伏兵がいる可能性もある。引き続き船内の警戒と保全に回っておく方が良いだろう」
 部屋を見渡して久朗は呟く。長引いた戦いのおかげで兵士は溢れ切り、すっかり動力室は朽ち木のみすぼらしい外見になっている。裂けた木の隙間から水が入って来てもおかしくない雰囲気だ。
「まあ一匹でも逃したら面倒な事になりそうだし? という事で一足先に行っとくわ」
 使い倒したアジアンウエポンズに纏わりつくライヴスやら血やらを払い除けた仙也は、武器を背負ってさっさと動き出す。その背中を見送り、仙寿は央に目配せした。
《俺達も行こう》
「そうだな。拓海達は近場を見てくれ。俺達は奥から回ってくる」
「わかった。大丈夫だとは思うが、気を付けろよ」


 甲板での戦いを仲間に託した彼らは、自らの戦いを油断せずに全うした。
 ヘイシズが討伐されたという知らせが彼らに齎されたのは、それから間もなくの事だ。


 主のいなくなった巨大空母型従魔に大量の爆雷を当てて沈めていく。その様をぼんやり護衛艦の甲板に腰を下ろして眺めつつ、仙也はふと呟いた。
「さて、俺以外はいよいよ忙しくなるのか」
『ライヴスが溢れない方法、王の討伐又は封印、そもそも攻め込む方法の模索に残る愚神の調査。……まあ、H.O.P.E.にリンカーが集まっているから、国同士の戦争に駆り出されて邪英化が起きる危険は少ないだろう』
 隣でディオハルクは腕を組んでいる。何が起きようとひとまずは自分の生きたいように生きると決めている彼らは、一歩引いて事態を見ていた。
『まあ、アイツらの世界で起きた争乱、タイミングが良すぎる気がするが』
「扇動者が居たとか? まあ、その場にいなかったとしても、言葉だけ吹き込むとか……」

 同じ護衛艦の上から、同じ景色を見つめ、一刀斎もまた唸っていた。
「……奴らがあれほどまでに忠義を尽くした、ヘイシズの目的は何だ」
 尻尾がススキの穂のように揺れる。悩んでいる時はいつもそうだ。
「自分が討たれる事が“王”の益となり……この世界の人々の為にもなると、そう思える理由は何だ。……周到に見えていた愚神の動きが、ここに来て急に杜撰になったのは何故だ」
 彼の疑問は、思わず口を突いて出る。そんな彼の隣に、仙寿とあけびがやってきた。向き直ると静かに頭を下げる。
「賢者の欠片、助かった」
「ああ。役に立ててくれたようでよかった」
『ヘイシズが言ってたらしいよ。未来がライヴスの形で決まるなら、ライヴスの形が人の意志で決まるなら、未来は人の意志で決まるだろうって』
「綺麗過ぎる三段論法だよな。でも、ヘイシズの能力がそれを証明してる」
「……つまり、人の絶望が世界の絶望を呼び、人の希望は世界の希望を呼ぶと」
 仙寿は物憂げな表情で頷いた。あけびと出会う前の自分を、ほんの少し思い出していた。
「だからヘイシズは人が必ず絶望すると考えていたんだろう。先の見えない未来に希望を抱くのは……結構難しいからな」
 比佐理は仙寿とあけびの横顔を見上げ、それから炎上する空母に目を戻す。爆ぜた木が悲鳴を上げ、粉々に割れながら沈んでいく。
『ヘイシズは、皆が絶望を抱く前に、全て終わりにしたかった、という事でしょうか』

 拓海はリサと共に欄干にもたれ、天へ濛々と昇る黒煙を見上げていた。吹き溜まっていた彼らの絶望が、天へと焚き上げられているかのようだ。
「終わったんだな」
『……ええ。これでヘイシズの作戦は全部終わりよ』
 そばにいた央は、難しい顔をしていた。
「ヘイシズは言っていたそうだな。俺達には高貴ゆえの義務が付きまとうと」
 人類がどうのこうのと言い続けた獅子の言葉を思い出す。獅子が最後に残した言葉を重ねた時、その真意がちらりと垣間見えてくる。拓海は嘆息した。
「……要するに、俺達は常に前を向き続けてないといけないって事か。自分がこの世界でどうしたいのか、考えておかないといけない」
『そうしないと、この世界そのものが未来を見失ってしまいかねない……と。あれは、遠回しに自分を責め続けていたのかしら』
 マイヤの言葉に、拓海は今までにないプレッシャーを感じていた。
「難しいね。敵はまさに自分自身……ってわけだ」

「戻ったら、ひとまず調査を依頼しなければな」
『この霊石が、卓戯事件で回収されたものと関連があるかどうか、ですね』
 セラフィナと久朗は霊石を見つめる。愚神の影響を逃れた石は海のように輝いていた。その背後で、美空は袋に詰め直した霊石を一つ一つ手に取り見つめていた。
「これらもまた武器になるのでありますかね」
『大半はそうだべな』
 杖を突いたノエルも、サイズの大きな石を一つ摘まんだ。
「ぢゃが、多少はこの老体に役立つものを開発して欲しいもんぢゃな」
『では肩を叩きましょーか』
 ひばりは素早くヴィオの後ろに回り込み、肩を叩き始めた。そんな光景を、ラドと若葉は揃って眺めていた。
『結局、奴らは最後まで真っ当に戦って死んだな』
「わからないのはそこだよ。……空母を沈めれば、戦いどころじゃなかったはずだ」
『まあ、そこまでする意味も無かったか』
「これ以上やるべき事が無くなったから、消えたのか? 彼らは」
 若葉は空母を呑み込んでしまった海を見つめ、伝え聞いたヘイシズの言葉を思う。
「人が希望を持てるように、俺達には何が出来るんだろう……」

 思い悩む仲間達を、魔女と落児は遠巻きに見つめていた。敢えて言葉を掛ける事もない。二人はやるべきと信じた事を粛々とこなすだけだ。
『(私は希望を信じましょう。絶望には頼りませんとも)』
 魔女は心の奥で囁く。この世界の未来へと。


 The End

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 譲れぬ意志
    美空aa4136
    人間|10才|女性|防御
  • 反抗する音色
    ひばりaa4136hero001
    英雄|10才|女性|バト
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • 死の意味を問う者
    ディオハルクaa4472hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 黒ネコ
    獅堂 一刀斎aa5698
    獣人|38才|男性|攻撃
  • おねえちゃん
    比佐理aa5698hero001
    英雄|12才|女性|シャド
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