本部

広告塔の少女~作戦想定コードG~

鳴海

形態
ショートEX
難易度
普通
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
14人 / 4~15人
英雄
14人 / 0~15人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/06/15 15:36

掲示板

オープニング

● 奴は生きている

 ガデンツァの歌は排除された。世界に残されていたガデンツァの置き土産。
 しかしそれは本当にガデンツァの最後の抵抗だったのか。
 それは違うとH.O.P.E.は判断した。
 まず、ガデンツァにしては強引なやり口であること。
 そしてルネがいなくなっていること。
 これらの点から見て、ガデンツァは全人類を洗脳しようとしたわけではなく、歌を媒介に霊力を盗んでいたのではないかとH.O.P.E.は睨んだ。
 彼女が復活しようとしている。
 ガデンツァの復活を防ぐためH.O.P.E.は現在捜索を続けてはいる。
 しかし捕まらない。もともと暗躍が主な愚神である。見つかるはずもない。
 であれば手をこまねいているしかないのか。
 違う、我々には技術とデータがある。
 ロクトは言った。
「ガデンツァを想定した模擬戦を行いましょう」
 ガデンツァの脅威はルネにある。しかし復活した直後にルネを操る余裕も力もないはず。であればガデンツァが行動を起こした時即座に叩くことができれば勝てる。
 それでなくともガデンツァの奇襲を退けられる訓練は必要だ。
「グロリア社が多額な投資をしてガデンツァを再現するわ。ただAIでは彼女の思考をトレースするのに限界がある」
 告げて用意したのが、室内に用意された大型戦闘施設、ここでならガデンツァの力をリンカーを媒体に再現することが可能である。
「と言ってもガデンツァの変身技能、身体変化は真似できない。あくまで戦闘能力とスキルだけだけど」
 告げるロクトの表情は相変わらず重たい。
「次こそ、次こそ彼女を」
 そうロクトは表情に明らかな焦りをうかべる。
 その隣に遙華が立つことはなく。
 君たちはその光景を不審に思う事だろう。

●模擬戦に関して。
 今回は十五人の募集ですが。想定としては十二人集まればという感じです。
 二人がガデンツァ役。そして五人の班を二つ作って模擬戦闘を行っていただきます。
 人数が12人を上回っても、双班に分かれるようにしてください。
 戦闘フィールドの細かい指定はガデンツァ役が相談卓で決めることができます。
 話し合って決めていただければと思います。


 この模擬戦はガデンツァ戦闘になれる。という意味もありますが。
 少人数で遭遇してしまった場合どう生存するか。
 という点に重点を置いています。
 現在、ガデンツァを倒すためのリンカーを確保することは可能であり、ガデンツァを逃がさなければ増援をかけて倒すことができる環境にあるからです。
 またイミタンドミラーリングに関しては再現ができませんでした。
 破る方法について考案は急務です。



●使用可能スキル

 下記の能力に関してガデンツァ役のリンカーはすべてが使用可能です。
 今回ガデンツァ役のリンカーは全てのステータスがまず二割上昇します
 またガデンツァのスペックによせるために、魔法攻撃力が+700、イニシアチブが+10されます

《シンクロニティ・デス》
 至近距離単体技、超強力な物理、魔法ダメージが同時に発生する。
 振動させることによって分子レベルで分解、内部から破壊する。
 ただし、相手に合わせて振動を微調整しているために、見た目よりかなり繊細な技。カバーリングされると無効な上に、地肌に攻撃が届かなければ無効。

《ドローエン・ブルーム》
 自身中心範囲魔法攻撃
 広範囲を歌によって攻撃する、ノックバック効果を持つ。
 かなり使い勝手がいいが、飛距離は短いという弱点を抱える。

《アクアレル・スプラッシュ》
 遠距離複数選択型魔法攻撃。
 下から水の柱で突き上げる、同時に複数の敵を攻撃することができる。
 甲高い音が鳴るのでなれると回避は楽。

《ディソナンツ》
 特定状況下でリンカーの共鳴を妨害する。またリンクレートを下げる効果もある

《ヴァリアメンテ》
 邪英化スキル、実は音だけで邪英化させることができるので、周囲のリンカーを一気に邪英化させることができるがリンクレートが0である必要がある。《ディソナンツ》前提の技。


 また今回、ドローエン・ブルーム・フルオーケストラ。シンクロニティ・デス・レクイエム。について詳細が不明なので再現はできませんでした。
 しかし、ガデンツァ側がそのスキルの詳細を決定して、疑似的にそう言う技だとして使うことは可能です。

● 疑念
 さらに今回はガデンツァの模擬戦だけがシナリオの主旨ではありません。
 成功判定には含まれませんが、遙華とロクトと会話することもできます。
 特にロクトについては下記の情報を皆さんに与えたいようです。
 下記の情報については重要かつ、繊細なために。キャラクターに落し込むにはロクトの口を割らせる必要があるということを理解しておいてください。
 ただPL様方には先にどんな情報が出るのかを示しておきます。
 
**PL情報*************************
・ガデンツァの居場所について

・次の襲撃について

・ガデンツァの秘密について

 ロクトは分け合って公衆の面前もしくは、第三者に情報が漏れそうな情報のやり取りはできません。しかしロクトからその特定の誰かに向けて情報を送るということも制限されています。
**************************ここまでPL情報

 今回ロクトから情報を聞き出す手段を考案するのはかなり難しいと思います。
それに一手段では大量の情報を送れないために、ひとつの手段で聞けるのは一つです。

解説


目標 ガデンツァ戦を見すえた戦闘訓練。
 
 今回はロクト主導の元戦闘訓練を行っていただきます。
 今回はガデンツァになれる部屋。ですがダメージがほぼ存在しないことから、実際にガデンツァ並のステータスになれるわけではありません。
 ダメージはシステムの方で管理されわかりやすいように配布された腕時計の様な端末で確認できます。
 攻撃もダメージも張りぼて、と言った方がわかりやすいでしょうか。
 訓練なので、訓練後の治療もふくめてグロリア社が負担し、生命力は消費されませんがどれだけの生命点を失ったか報告することは可能です。報告希望の場合プレイングに記載してください。
 また今回は遙華は登場しない可能性があります。

 そして今回の戦闘終了条件ですがリンカー側、もしくはガデンツァ側が倒れるまでやります。




● 遙華について

 遙華はショックで部屋に引きこもっているといいます。
 遙華の執務室、家。については皆さんが知っている情報として扱います。
 会いに行くかどうかは任せます。

リプレイ

プロローグ


『榊原・沙耶(aa1188)』は『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』に内緒で、シミュレーション前に独房を訪れる。BDそしてADの引きこもる独房に。
「これが今の状態よ。一触即発って感じねぇ」
 告げる沙耶はいつもと変わらず飄々としている。
「それと…………」
 そう言いよどむ沙耶にBDが視線を向けた。
「まぁ何度目になるのかしらね。仲が良いと思われても嫌なんだけど。ワイスキャンセラーって力になるかしらぁ」
「どういう意味だ?」
 首をひねるBD、それに沙耶はばかげた妄想をきかせる。
「ワイスキャンセラーを使って、従魔に完全に変わってしまうまでの間。力は増すのかしらぁ」
「自殺行為だ」
「私の目論見は当たってるのねぇ」
「お前達としては禁じてなんじゃないのか?」
「倫理観はどうでもいいわぁ」
 きっぱり言ってのける沙耶。
「この間特効薬が完成したの」
「乱用者に対して効くのかそれは?」
「わからないわ」
 告げる沙耶の手の中にはその特効薬が握られていた。
「今まで散々言われてきた相手が、もし失敗したら化物になるの。貴方達も見たいでしょう?」
 その言葉にBDは眉をひそめる。

   *   *

 対して『卸 蘿蔔(aa0405)』はロクトと接触をしていた。
「今音ゲーを作ってるんです。スマホで遊べるやつ。操作は簡単、このボタンをタイミングよく押すのです!」
 画面に表示されている六つのボタン、それをロクトの顔面に押し付けながら蘿蔔は言った。
「難易度ロクトも実装したいので、ぜひ一曲コマンド設定をどうかお願いします」
「え、ええ、解ったわ。ちょっと貸してくれる?」
 するとロクトは画面に流れてくる音階を、ボタンでうちこんでいく。
「曲が暗いわね」
「えへへ、ありがとうございます」

――ありもしない出口を手探りで探し、暗闇からそらすように瞳を閉じた
  再び開いた時、光を見つけられると信じて

「別の曲なかったのかよおい」 
 そう『ウォルナット(aa0405hero002)』から突っ込みを食らう蘿蔔。
「これが一番最適だったんですよ」
 告げる蘿蔔の目論見としては歌詞と6つのボタンから点字や、換字式暗号で残してもらえないか試みる。
 しかし。
「ごめんなさい、私には『難し』かったわ」
 そう告げると、成績があまりよろしくないリザルト画面が表示されていた。
「ああ! あと、すみません、もう一つだけ」
 蘿蔔はあわてて、去ろうとするロクトに追いすがりイラストを手渡した。
 イラストには番号がついている。
「衣装。どれがいいのかなって思って、選んでもらえますか?」
 モノプロアイドルとディスペア。各10個候補を作り順番に並べ好きなのを一枚か二枚ずつ選んでもらいたいとロクトに説明する蘿蔔。
「ええ、解ったわ。じゃあ選んでお返しするわね」
 告げるロクトの背中を見送る蘿蔔、戦いは番外にまで及んでいることを改めて実感した。

 第一章 対峙

「おーおー、揃ってるねェ! 希望とかアリもしねー幻見てる甘ちゃんどもがヨォ?」
 対して演習場、遅れてやってきたガラの悪い男は知った顔を見つけると鼻歌交じりにそう声をかけた。
『無明 威月(aa3532)』は思わず身構える。
「とぉくに【暁】ィ……目玉も脳みそも溶けきってるテメーらはヨ」
『火蛾魅 塵(aa5095)』は楽しそうに告げると『人造天使壱拾壱号(aa5095hero001)』はその場に座り込んだ。
 その姿を見て毛を逆立てさせる『藤咲 仁菜(aa3237)』
 今にも臨戦態勢をとろうとする仁菜を『九重 依(aa3237hero002)』がなだめた。
「落ち着け。挑発にのるな」
「了解。落ち着いてぶっ飛ばすね。」
(ぶっ飛ばすと言ってる時点で落ち着いてないだろ)
 そうやれやれと首を振る依、そして仁菜の視線などなんのそのである塵。
「ああ、お久しぶりですね火蛾魅さん」
 そうにこやかにあいさつする『黒金 蛍丸(aa2951)』に嫌そうな視線を向けて、塵は必死に無視している『阪須賀 槇(aa4862)』の背後『阪須賀 誄(aa4862hero001)』に声をかけた。
「オイ、誄っちぃ! 姫野ォ! 悪いこたぁ言わねぇ……クソガキどもは見限ってこっち来いよ」
「あ?」
 朝っぱらからテンションの低い『彩咲 姫乃(aa0941)』はそう塵ににらみを利かせる。
「なぁ…………蛍丸、威月、仁菜ァ……!クソガキと同じ甘党のお子ちゃまがヨォ……」
「いい…………かげんに」
 そう拳を握りしめたのが威月である。
「下らねェ正義なんぞ抱えて、なのに簡単に感情に身ぃ任せる。正しく口ばーっかの隊長のお仲間どもがよ!?」
「……貴方に、何が分かるのですか……」
 告げる威月の言葉は悲痛に染まっていた。
「大切な者を失い……されどその人に笑われぬ様にと毎日をもがく、隊長のことが……私たちのことが……」
「あ? 別にわかるとか、解らねぇとかの話じゃねぇぞ。くそよぇー、あめーって話だよ、ドブス」
 そう指をたてて舌を出して塵は告げる。
「そんな…………堕落した姿の、貴方に……何が…………!」
「わかるね!! コイツ等と居たら奴にゃ絶対ェ勝てねぇ。まーた大事なヤツが死ぬぜぇ?」
 身をすくませる威月。だがここでひいてはいけない。
 威月は彼の行動をここ最近ずっと見てきた、暁の仲間内では一番多く…………。
 彼は人を傷付けるコトを楽しみ、己以外の全てがどうでも良い。そんな存在に負けられない。
 そんな風に勇気を奮い立たせる威月の背中を誄がおした。
「……塵さん。なんかお誘いは光栄だけど」
 誄は真っ直ぐ塵の目を見て告げる。
「バカにすんなよな」
 その言葉に威月も仁菜も誄を見た。
「暁があったから俺らもここまで来たんだ。隊長はいつだって人の為に動いた、人の為に怒った。
 そんな、隊長率いる暁だから、同じ気持ちの兄者が居るから、俺はここでこうしてるんだよ」
 その言葉に微笑む蛍丸。
「よかったですね、兄さん」
「一人ぼっちのあんたに、守る者もないあんたにはこっちの気持ちは分からないよ」
 その言葉に頷いて威月は告げる。
「私では貴方に敵わないでしょう…………ですが、私『たち』は負けません……!」
 人間というものに一切の期待をしていない、未来など無いと思っている彼には。
「私は証明します、人の力を…………貴方に…………」
――……さぁ来いよ、悪党がヨ。
『青槻 火伏静(aa3532hero001)』は揺らめく炎のように体を溶かして威月と共鳴、塵に向き直る。
「さーて遊ぼうぜ暁ィ……テメェらが口だけ連中ってのヨ、この場で暴いてやるぜぇ……!」
 そんな様子を遠くから眺める『斉加 理夢琉(aa0783)』と『アリュー(aa0783hero001)』
 もう片方の班は平和である。やる気満々な神様を除いては…………だが。
「火蛾魅班、実験前から戦闘オーラ全開だな」
 告げたのはアリュー。
「模擬戦かあ…………」
 そうけだるそうに告げたのは『小詩 いのり(aa1420)』だった。
「ん、ビリビリくるね。ナラカさんからは静かだけどなんて言うか……こう、えっと」
 そう、手をわたわたさせて何事かを告げようとする理夢琉の顔面に何かもちもちしたものがぶつかった。
 それはゆっくり杏奈。
「ダメージは数値だけなのね。重体になる心配は無くて良かった♪」
(ガデンツァ、ここの様子も見てるのかしら……)
 そうあたりを見渡す『ルナ(aa3447hero001)』を抱き上げて『世良 杏奈(aa3447)』は理夢琉の顔に張り付いたまんじゅうをはがす。
「そんな、実験体なんてひどいです」
 そんな理夢琉の頭をアリューはぽんぽんと撫でる。
 しかし視線は準備のために走り回るロクトに注がれていた。
「それはまあそれとして頑張るけど、どうにもロクトさんが怪しいなあ」
 そんなアリューにいのりがそう言葉をかける。
「ああ、そうだなロクトの雰囲気もどこか違う気がする」
『セバス=チャン(aa1420hero001)』が小さく頷くと屈んでいのりの耳元に手を沿える。
「これは少し手を打つ必要がございますな」
 それに頷くいのり。
「だね。澄香と協力してロクトさん対策を万全にしておこうっと」
 ただでさえまた遙華に会えなかった。
 ミッション前に家に寄ったがそこにも誰もいなかった。
「遙華…………。いのりだよ。大丈夫…………な、訳ないか。でも、ボクはキミと痛みを分かち合いたいよ」
 そう告げてドアノブをひねると鍵はかかっていなく、家はもぬけの殻で。
 それはロクトには報告していない。
「ほんとうは、こんなことしてる場合じゃないっておもう」
 不安げないのりをよそに演習は始まる。
 先ずは『ナラカ(aa0098hero001)』を敵役とする演習から。


第二章 演習A

「さて、始めようか」
 告げるのはナラカ、声高らかに。
 フロアの中央、脚光を浴びるメイン舞台でその体に身に纏うクリスタルの装飾と余裕の笑みを揺らしている。
 そこはライブ会場だった、超満員のお客さんたちはグロリア社で用意されたエキストラ。
 ナラカが要求したシチュエーションは大量の人間を巻き込まざるおえない状況。
 これにどう対応するかを観たいのだ。
「さぁ、如何に立ち向かう? 私が演じるガデンツァに」
 告げるとまず『イリス・レイバルド(aa0124)』が走った。
――無論…………。
「正攻法で」
 ナラカはその突進を近づけまいと風音によってイリスを吹き飛ばす、イリスは盾と翼をうまく使って滑空。暴風の中でもなんとか体制を立て直し着地。
 その着地を狙ってナラカは足元からアクアレルでイリスの体を打ち抜いた。
 その光景にナラカは笑みを浮かべる。
 その表情がなにを意味する者か、大体を察して『八朔 カゲリ(aa0098)』はナラカの中でため息をついた。
 今日のカゲリもナラカを全力で見守るスタイルである。
「うーん、やっぱりそうよね」
 その光景を眺めながら杏奈がため息をついた。
――どうしたの? 杏奈?
「風で吹き飛ばしながら水で攻撃した方が確実だとおもうの」
――そう?
 首をひねるルナ。
「人数が多ければこの先鋒は通用しないかもしれないよ」
 告げるナラカ。
「そうね、じゃあみんなで責めましょうか」
「うん! 行くよ! いのり」
「わわわ、まって澄香」
 杏奈の声に頷いて動いたのはいのりと『蔵李 澄香(aa0010)』のコンビ。
 いのりが前衛。澄香が後衛。
「ナラカさんノリノリだったけど、今回の模擬戦の意義分かってるかなあ」
 告げながら盾を構え身を低くしてドローエン・ブルームを受け流すいのり。
 その背後から澄香はナラカへ爆炎をお見舞いしていく。
 しかしガデンツァの高い魔法防御の前にはマッチの火同然である。
「さぁ! 先ずはこの風と水の試練を突破して見せよ」
「これ! ボクらへの試練とかじゃなくて、ガデンツァ攻略の糸口を見つけるためだからね!!」
 そんな声もナラカの風にかき消される、特に今はなったドローエンブルームの収束攻撃。ドローエン・ブルーム・フルオーケストラは霧散しがちなエネルギーを一点に集めた攻撃ゆえ、いのりでもかなり痛い。
「うう」
「けど、敵は一人じゃないのです」
 復帰したイリスが駆けあがる。
 ナラカはそれに対して水で攻撃をしようとするが、水を操るその腕の動きを読まれ蘿蔔の斬撃を受ける。
「いつのまに!」
「ナラカちゃんが高笑いしているあたりからです」
 それより大きいのはウォルナットの影響だろう。蘿蔔は後衛。その先入観が今の隙を作り出した。
――普段と違うからこそ見える事もある。
 告げたのはウォルナット。
「ナラカさん…………生き生きしてますね」
 いったん距離をとる蘿蔔、その足元から水の柱が突き出てきた。
 その眼前に肉薄するのはイリスでイリスの剣による攻撃をナラカは腕でそらして捌く。
「ガデンツァはそんなことしません!」
――いやいや、彼女も成長するかもしれない。
『アイリス(aa0124hero001)』がそうしたりと告げる。
「それにしても、死音は警戒しなくてもいいのかな!」
 ナラカが振り上げたその腕。
 それを魔術弾ではじく澄香。
「それは受け慣れてます!」
 どれだけ精神、肉体的に傷つこうとも微塵も怯まない。それは最初からできたわけではなく、今まで全ての積み重ね。
 自分がくじければ仲間が危ないのだ。蹲っているわけにはいかない。涙が必要なら家に帰ってから泣け。
 それはイリスが自分自身に課した使命。
――三重結界はどうかな?
 アイリスがそうナラカに問いかける。
 イリスが身に纏う防御は盾だけではない。ジャンヌ、エイジス、ティタン、妖精の加護三重結界。
 意識の死角からの攻撃を潰すフォートレス。
「イリスちゃん、あまり無理しないで」
「はい、スイッチお願いします」
 体勢を立て直すようにイリスが一歩下がりいのりが盾で突貫する、ナラカの指はいのりにはじかれ。反射的に放たれた風音からイリスを守って代わりに吹き飛んだ。
 追撃のために走るナラカ。
 その目の前に火炎弾が着弾。杏奈の足止めと共に理夢琉が接近しながら魔術で攻撃を。
「く…………前が」
 ダメージはさほどではないが視界を覆われるのはかなり厳しい。
 アクアレルスプラッシュで断続的な魔法攻撃に茶々を入れ。イリスへと拳を突き出す。
 それをいのりが庇おうと間に入るが。
「音色はいのりの音で調整済みさ」
「く…………」
 もうキャンセルはできない、いのりが激痛を覚悟したその時、体を横からかっさらったのが理夢琉である。
「大丈夫ですか!」
 空中を素振りするナラカの腕。
 代わりにナラカへ氷の狼たちが群がった。
「歌は聞いてくれる人がいなきゃダメなのに! 旋律は聞いた人の心によってオリジナルの歌になり重なり絆になって、希望を謳うんだ。
 絆をつなぐ、それができない愚神にはわからないでしょう? ガデンツァ!」
「よい! その決意今は私が受け止めよう」
 告げるナラカは空中に風を放つ、それを理夢琉は煽られながらも逆に利用して距離を放つ。
 ナラカの顔面に飛ぶ魔法弾。
 その隙にイリスが迫る。
「アクアレル!」
 下から突き上げる水の柱にイリスはものともしない、そのまま突き進む。
「まだです!」
 意表をつくことが得意なのであれば、意表をつけないほど防御を固める。
 それがイリスの回答だ。
「素晴らしい! しかし純粋なパワーの前にはひれ伏さざるおえないだろう?」
 そうナラカはイリスの目の前に手をかざす、そして。
「ドローエン・ブルーム・フルオーケストラ」
 小さな体が空にまう。
「イリスちゃん!」
「よそ見をしている暇があるのかな? いのり」
 告げるナラカは全身に身に着けた水晶をスピーカーに変える。そして。
「シンクロニティ・デス・レク」
「ちょっとまって!」 
 なんと杏奈が割って入った。
「なんだ、興ざめではないか。もう少し入りようがあるだろうに」
「これをみて」
 そう杏奈はナラカの目の前にリベリオンを突き出す。
「コレを身に付けてる間は、私にシンクロニティ・デスは極力撃ってこないと思うのよね、アジトで受けたのは無差別なレクイエムの方だったし」
 しかもレクイエムでもダメージ反射効果は発動する。ガデンツァにとって防御力無視のダメージはかなり痛いと思われる。他の愚神に比べ撃たれ弱いからだ。
「他のスキルでチマチマ削りながらダメコン通常攻撃を受け続けるのと、最初の方でシンクロニティ・デスで潰して反射大ダメージ受けるのって、ガデンツァにとってはどっちの方が良いのかしら?」
「うーん、それは難しいが」
 ナラカは思う、今までのガデンツァを思い描く。
「彼女に理性が働いていなければ関係ないのではないかな?」
「ですよね~」 
 放たれるシンクロニティ・デス・レクイエム。
 前回の戦いであれば射程は25SQ程度。しかしロクトの見解であればガデンツァと接続されているルネが多ければ射程はさらに伸びるだろうとのこと。
 巻き込まれたいのり、イリス、杏奈は息も絶え絶えにその場に崩れ落ちる。
 杏奈はこの時点で生命力切れ。と思われたがまだたてる。
「まあ、潰しても奇蹟のメダルがあるし、リンクバーストも出来るけどね!」
 奇跡のメダルの効果である。
「まだたてるか」
 理夢琉と澄香の追撃。
 それを後退しながら回避すると人ごみの中に紛れる。
「さぁ、この状況ならどうする?」
 他の人間はともかく澄香は人をたてにされると攻撃することができない。
「卑怯です! ガデンツァ」
 ノリノリの理夢琉はもはやナラカをガデンツァとして見ている。
 それが楽しいのかナラカは理夢琉をギラリと睨みつけた。
「であれば、どうする?」
「え?」
「許せない、その気持ちはわかる、だとすれば汝らはどうする?」
 ナラカは告げると息を小さく吸い込んだ。
「私はこうする」
 放たれたのはガデンツァの隠し玉、ディソナンツ。リンクレートを低下させながら。ナラカはアクアレルスプラッシュでリンカーたちを攻撃した。
 度重なるダメージ、リンクレートは落ちなすすべもない。
 そんな中上空から迫る理夢琉をナラカは風音で叩き落とす。
 観客があけた穴に理夢琉は落ち。それをナラカが見下ろしている。
 リンクレートは零。アリューが分離され理夢琉の隣に転がった。
「ふむ…………やはり人質を取られると弱いか」
 そう分析するナラカはアリューに歩み寄りそしてその目の前にしゃがみ歌を謳い始めた。
 ヴァリアメンテ、リンクレートを0としたものを支配下にくわえる歌である。
「聞いちゃだめ、アリュー」
 そう理夢琉はアリューにすり寄り耳をふさぐ。
「行かないで、私たちはもう」
 離れ離れにならないと誓ったから。
 告げる理夢琉はアリューに唇を押し付けて歌を謳う。骨伝導で響かせようと『うさぎの子守唄』を壊れる前の理夢琉の母が謳ってくれたうただ。
「音を遮断して、邪英化に抵抗…………できるの?」
 それを見守る杏奈がつぶやいた。
「私は、もう絆を壊されたりしない、絆を壊したりしない」
 それは仲間とも、そして英雄とも。
「「絆を信じ共に戦う」」
 目覚めたアリューと言葉を重ね、二人はディソナンツで下げられたレートを回復する。
「邪英化中に…………歌が変わった直後にレートをあげる?」
 そんな手があったとは、そう驚愕でナラカは目を見開いた。
「理夢琉、君は優しい」
 アリューが立ち上がる。
「だから、何度も傷つくことになるだろう。けど…………」
 アリューは想像する。
 もし理夢琉が。もし自分が友人を助けられず自らの手で殺し……てしまうことになったら?
『嫌あぁあああぁぁ!!』
 泣き叫ぶ理夢琉が目に浮かび、アリューは目を開く。
「理夢琉を壊させはしないその魂を守る!」
 次の瞬間霊力の風が吹き荒れて二人は共鳴。
 光沢ある銀の長い髪に細めの兎のような長い耳が風になびき。金と翡翠の鋭く光る瞳の獣人形態へ。
 アリュー主体の共鳴姿である。
 アリューはそのまま一気に間合いを詰めるとゼロ距離で霊力浸透。
 そして一歩距離をとってからのフロストウルフでナラカを凍てつかせた。
「だが! 根本的な解決になっていない。一撃加えた程度で」
「その隙を待っていました」
 背後から浮上するように現れたのは蘿蔔。
「ああ、蘿蔔いたのか、気付かなかった」
 ずっと監視していたのだ、息をひそめ鷹の目で敵を観察、細かな動作から行動を予測、そして出てきた。
――リアルステルス機能が初めて役に立ったな。
「ウォルはちょっと黙っててください」
 そのまま蘿蔔は突進してナラカを弾き飛ばしステージのふちへ体を叩きつける。
 反撃しようと風を放つ前に壇上から躍り出たいのりとイリスがナラカの動きを封じる。
「しかしいのり。相棒がピンチだが、どうする?」
 ナラカは腕を澄香に向けている。
「まもるよ、絶対に」
「うん、いのり、信じてる」
「では見せて見ろ。シンクロニティ…………」
 放たれた死をもたらす音をいのりは一人で受け止める。
 その空気を伝う音の波が一瞬いのりに衝突して減衰した時を見計らって蘿蔔は縫止を放った。
「く…………」
「今です!」
 音がやむ。全てのスピーカーをがんじがらめにしてまま蘿蔔が告げると澄香は姿を銀色の修道女に変えながらその手のパイルバンカーを装填。
「これで!」
 澄香は拳を叩きつけるようにナラカの腹部を叩く。そのままその小さな体を天へと持ち上げてパイルバンカーを放つ。
 衝撃で空中に浮かぶナラカにイリスが迫った。
「煌翼刃・天翔華!!」
 変化した翼は四枚の刃に。一瞬で放たれる斬撃に、ナラカに設定されたHPが切れた音がした。
 演習終了である。
「なるほど、なってみて分かったが、戦いにくい構成だ」
 ナラカはふむふむとつぶやく。
「どういうこと?」
 いのりが手をかしナラカをたたせた。
「スキル一つ一つは確かに高性能だが…………。実際に使ってみると使いにくいんだ。なんというか…………持て余す」
「ガデンツァもスキルをうまく扱えてないってこと?」
「それもあるが。むしろガデンツァと同じスキルを持っている個体が複数いて初めて機能するように思う」
 そうガデンツァの分析に入る仲間たち、それを置いて澄香は演習室の扉の方を見つめていた。
――澄香ちゃん。
 そう澄香だけに聞こえるように告げた『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』
「うん、どうだった?」
――ロクトさんに怪しげな反応はありません。ただ。
「ただ?」
――グロリア社に微量な霊力を感知、もしかして彼女はこれを伝えたかったのでは。
 わからない、そう澄香は首を振る。
「でも、対策は撃とう」
 隣にイリス、アイリスが並び立つ。
「さて、動きがあるまであえて触れずにおいたが」
「…………」
「触れないわけにはいかないだろうね」
 その言葉に澄香が頷くと、二人はふよふよと羽ばたきながら部屋を後にした。
「二重スパイとかそういう複雑な立場かもしれないが。この際立場や動機とかはどうでもいいさ」
 告げるアイリス。
「うん、でも遙華さんを特別視しているのはかたいと思う」
 頷くイリス。
 遙華さんとガデンツァが近くにいた危険性。そしてロクトさんがそれを見過ごせない可能性に賭けて行動を開始する。
「ここは探りを入れてみるか」


*    *

「あら、どうしたのかしら? 演習が始まってしまうけど」
 そう告げたロクト、その背中を仁菜はじっと見つめていた。
「ロクトさん、あのね」
 仁菜は信じる。自分が潜伏を使ってここに現れた意味。そして振り返ったロクトにメモを見せた、そこにかかれていたのはこんな言葉。
『独り言のように、ばれないようにガデンツァの情報を』
 その言葉にロクトは首を振ると。告げる。
「あの子が奪われてしまったのは。そのせい、沢山の人が手を差し伸べたけどでも、それは……無理だった」
 仁菜は知っている、蛍丸や理夢琉が接触を図ったがすでにすべてはぐらかされていること。
 理夢琉は現在接触している仁菜を思いながらタオルをかぶり体をクールダウンさせている。
 そんな彼女が抱くのは。
「話をはぐらかされるのは監視されてるのかな」
 彼女の苦悩。
「奪われたって……」
 仁菜は驚愕に目を見開く、あの子というのはおそらく遙華。そして奪われたというのは。
「なに? そんな顔をして、昨夜見たドラマの話よ。あなたすきでしょう?」
 告げるロクトはすれ違いざまに、いつもとは別の香りを漂わせた。
 しかしそれに仁菜は気付けない。
「無駄よ」 
 そして廊下に出たロクトは背後に佇む杏奈に一言そう告げた。
「あなたも気が付いているでしょう?」
「そうね」
 幻影蝶をロクトに放つことはできる、しかしグロリア社に以前きたときは違う霊力の名残が観測されている。
 今ロクトに幻影蝶を放ったらどうなるか、それは想像できない。
 杏奈はメモを握りつぶした。
「ごめんなさい」
 ロクトが振り返る、彼女のそんな弱気な表情を杏奈は初めて見た。

第三章 演習B
 場所は公園。VBSの機能で再現したフィールドだが戦う場所としては十分だ。
 ただ蛍丸の目に、一般人が配置されていることが気になった。
「で? だれがガデンツァやるんだお?」
「俺に決まってんだろ!!」
 そう槇の言葉に霊力を爆発させる塵。
 もはややる気満々である。
 あまりに早い臨戦態勢に陣形を作ることができない塵。
「お前らの無力、とことん骨身に刻んでやるぜ!!」
「やば」
 告げて放たれるアクアレルは、地面を突き破って誄や仁菜に突き刺さる。
 後衛から潰す、それは兵法において常套手段である。
 だがそれも、ほぼ同時に放たれたフラッシュバンの影響でそれる。
「あとすこし、あとすこしで」
 肩口を切り裂かれた槇は仁菜の回復を受けながら後退。
 代わりに前に出たのは蛍丸。そして姫乃。
「あめぇ!」
 近づく敵へ風を送る塵。
 それを姫乃は蛍丸を踏み台にして上空に回避。蛍丸は槍を地面に突き立てて風をやり過ごした。
「いける……」
 ダメージは受ける、しかしノックバック効果は対処可能だ。不意打ちでもない限り後退はしないだろう。
「大事なやつが死ぬ、か」
 側面からの攻撃、姫乃は塵の攻撃と攻撃の合間を縫って牽制しつつ意識をかき乱すように動いた。
――ご主人?
『朱璃(aa0941hero002)』が首をひねった。先ほどの言葉、気にしているのだろうか。
「痛いとこつきやがるなーおい
 でも逆に聞くぜ、甘党のお子様じゃなければあの時にあいつを救えたのか?」
「あいつだぁ?」
 それはナイアという少女。親友だった。目の前で奪われた。
 他でもないガデンツァに。
「悪党だったら何とかできたのか?」
「むりだろーな」
 無責任に姫乃を鼻で笑って塵は告げる。
「ああ! そうだなできてねーよ。
 そんな表面的な肩書きが違った程度でどうにかなってた状況じゃなかった。
 完全に俺自身の、全員の油断をつかれたんだ」
 その気迫でギアが上がる。姫乃は今日かされた塵に速度を追いつかせていく。
「それによ、俺は普通に甘党のお子さまなんでな。
 無理もやめたし悪ぶる必要もない。
 お姫様だって抱えてるんだ、洗わなきゃ触れない手でなんて生きたくない」
 その言葉に顔をしかめたのは塵。
「だからな『悪いけどお断りさせてもらうわよ』女の俺もそう言ってる」
「は! 余裕じゃねぇか! 貪欲じゃねぇとな、また奪われるぞ、糞女」
 告げる塵の顎を思いきり蹴り上げる姫乃。
 共鳴していなければ舌を噛んで噛みちぎっていたかもしれない威力だ。
「てめ……」
「あんたも余裕だな!! 口ばっか開いてると舌かむぜ、”また”な、クソ野郎!!」
 次いで塵は風音の構え。それを警戒して姫乃は半歩下がって蛍丸の背後に隠れる。
「あんまり影響を受けてはいけませんよ」
 苦笑いのまま蛍丸は地面に槍を突き刺して風を耐える。
「ちっ、前衛はタフだなぁおい」
 だったら。そう水音を発するじんだが、それは今度は沙耶に阻まれた。
「何枚盾がいやがるんだよ!」
「ガデンツァはバトルメディックやブレイブナイトを嫌っていたけど、確かに有効かもねぇ」
「ちなみに今回私は盾じゃないよ」
 上空から飛来したのは仁菜。その手には刃が握られている。
「な!」
 そのまま着地すると左右にフェイント。
 のちに背後に駆け抜けると威月をたてにドローエン・ブルームを回避。
「く……」
 姫乃と交差するように駆け抜け斬撃。
 怯んでいる隙に威月がケアレインで全員を癒した。
――どうしたぁ悪党! 滅びの乙女の力ぁ借りてもその程度かあ!?
 威月の言葉に塵は睨みをきかせる。
「これだけじゃねぇってのはお前らがよくわかってるだろうがよ!」
 外部からの支援射撃、槇を一瞥するとアクアレルスプラッシュを放つ。その間に身に着けた水晶機器から歌を流した。ディソナンツ、油断すれば一気にリンクレートを持って行かれてしまう。
 それは槇のフットワークだと確実には回避できない。
 沙耶がダメージを受け持つ。
「大丈夫かお?」
 そう顔色をうかがう槇だが沙耶は何かタイミングを見計らっているように静かである。
「ええ、それにダメージをある程度受けている状態でのデータがほしいのよぉ」
「余裕だな! もうちょいいじめてやるぜ」
 次いでアクアレル特有の甲高い音が離れた位置でなった。
 それを察した沙耶と威月が一般人を庇うために動く。
「ははははは! よえー奴護って。無様に死にやがれ!」
「そっちばっかり構ってないで私の相手もして?」
 そう仁菜が座って目で塵を後ろから覗き込んだ。急接近からの一刺し。
 であった目は座っていて恐ろしい。
 刃には毒が塗られているようだ。嫌な感覚が背中を伝って脳に走る。
「てめぇ」
 拳を振るうとそれを仁菜はとる。 
 向けられた手のひら。そこから放たれるシンクロティ・デス。
 それを一瞬飛盾で防ぐと姫乃がダイビングして仁菜の体を吹き飛ばした。
 二人は地面を転がりながら立ち上がり。走り出す。
 左右に別れて挟撃を目指す。
「ちっ」
 塵は歯噛みする。蛍丸の攻撃を受け流しながら仁菜と姫乃を見た。
 二人は風音の範囲ギリギリを旋回しており、意識が外れたとたんに奇襲するつもりだ。
「だったらこっちもよ、別の手うたせてもらうわ」
 次いで召喚したのはルネ。
 と言っても小さい妖精のようなサイズだが歌は奏でてくれる。
 そのルネ達から発せられるディソナンスはじわりじわりとリンカーたちの力を奪っていく。
「おら! シンクロニティ」
 死音にはシャッフルカバーでの対応を。暁はガデンツァを仮想的に据えている。そのあたりの対応も完璧で、蛍丸と威月でお互いを護りあいながら塵に波状攻撃を仕掛けている。
 だが時間がかかればディソナンツの影響もありリンカー側が降り。
 その時、塵はルネを周囲等間隔で配置。
「ドローエン・ブルーム・フルオーケストラ」
 爆風が不意を衝いて放たれた。
 威月と蛍丸は吹き飛ばされる。フルオーケストラの出力ではさすがに踏ん張れない。
 さらに近接アタッカーが吹き飛ばされたことによって塵は後衛への攻撃を再開する。
 アクアレルスプラッシュで槇の意識を削いでいく、そのおかげで遠距離から一方的に殴られることはないが、代わりに塵は姫乃や仁菜の一撃離脱戦法への対処ができない。
 姫乃はそれにさらにフェイントを交えた移動で敵を牽制する。
 戦いとは読みあい、戦況は膠着した。
「けど、さすがに風音は連発できねぇみたいだな」
 姫乃が真正面から迫る。
「風速程度にッ!」
――遅れを取るわけにはいかねーデスニャ。
 風はやんだ、であれば姫乃を止めるものはない。姫乃は放たれた矢の如く一気に距離をつめる。この刹那の速さこそが最大の武器。
 追撃として放たれる風音を蛍丸が止め。
 姫乃が一撃加えて逃げようとする、しかし。
「いらっしゃーい」
 姫乃の腕を掴んで右手を顔面に押し付ける塵。
「セクハラだ!!」
 仁菜が叫ぶも気にせずシンクロニティデスを放つ。
「ちぃ!」
 あくまでデータ、あくまで再現。痛みは現実の比ではない。死ぬほどの痛みではない。
 しかし。
(お前はもっと痛かったよな。ナイア)
 次の瞬間姫乃は逆に塵の腕に絡みついていた。
「なるほどなぁ。そう言うのもありか、けどよ」
 塵はドローエンブルーム、しかもフルオーケストラにて、最大出力を腕にしがみついた姫乃に放つ。
「範囲攻撃って一見便利そうだけどさ。使うと回り見えづらくなるよな」
 にやりと笑う姫乃。
「で、ガデンツァって視覚に頼ってんだろ?」
 上空から迫る仁菜。飛盾を足場にして方向を修正。
 ただそれだけではなく腕に装着後、リーチのかさましに。そして。
――まー信頼を置く技の後が攻撃ちゃんすってのはありますニャ。
 その盾で仁菜は塵の顔面をぶん殴った。
 思わずガッツポーズを決める威月。
「てめ……」
「これ、使えるかも」
 ぽつりとつぶやく仁菜。
 ただ、まぁ上空に逃げようとするたびに蛍丸が足台になっているのだが。
「みなさん元気ですね」
 それでも気にしない蛍丸である。器が広い。
「けど、上にも風を打たれたら終わりなんだよなぁ」
 姫乃が告げる。
「そのあたりの調整ってあいつできんのかな」
――どうですかにゃー、それにふっ飛ばして一掃する風圧もあるデスニャ。
「そこ含めて適正距離を見極める」
 最悪縫止でスキルの封印を行う、特殊抵抗も高い相手だがシャドウルーカーも多い。
「デスマークはミラーリング後も追跡可能。あと対策が必要なのは」
「これだ!」
 起き上がった塵は音量を最大に上げる。
「くらえ! 死音爆鳴!!」
 勝手に技の名前を変えて叫ぶ塵だが。実際のところ撃っているのはシンクロニティ・デス・レクイエム。
 ディソナンツも同時に垂れ流していて、もはや耳の痛い音の塊である。
「もれぇよ、絆なんてもんはよ」
 塵は静かなトーンで死音に溶け行くリンカーたちを眺める。
「力に対抗できんのは力だけだぞ、いい加減目……さませや」
 告げる塵は出力をさらに強めた。膝をつくリンカーたち。
 その歌へ、包みこむように別の歌が干渉した。
「甘ちゃんでいいんだよ」
 仁菜は謳う、それは『夜明けの音~radiant~』と名付けられた歌。
 それは死をもたらす歌から死を奪うための歌。
「んな歌意味ねぇよ!! ぐちゃぐちゃにさけろ!」
「きっと皆が1人で立てるくらい強かったら【暁】はうまれなかった!!」
 仁菜は考えていた、自分が身を挺して庇える人間は一人。
 それは誰にするつもりか。隊長? 阪須賀兄弟? ほかのだれか?
 違う、そんな、その程度の決意じゃ誰も守れない。
「悩んでる時に手を引いてくれる人がいて、出来ない事を手伝ってくれる人がいて
 皆がいるから戦場で立っていられる、それが【暁】なんだから」
 自分は暁の守護者。ならば、全員を守る。
 全員から死の恐怖を取り除く。
 そのために仁菜は『マイク「カンタービレ」 』に乗せて思いを、歌を届ける。
「チッ。霊奪か! てめえ!」

――先の見えない絶望の暗闇。
 前に進めない挫折の暗闇。
 君が1人で越えられないなら共に歩こう。
 絶望が世界の全てじゃない。
 光輝く未来を一緒に作ろう。
  
 しかも奪ったのはシンクロニティ・デスの使用回数ではない。
 ディソナンツ。常時発動型のスキルだが一度妨害されれば再使用までに時間がかかる。
 仁菜は危険だ。そう判断し振り返る塵。その肩を槇が穿った。反動でよろめく塵。その好機を逃さず威月が鯉口を切った。
『あなたの主義主張なんて容易く食い破られます』
 口ぱくでそう告げた威月、塵は唇を読んでその言葉を知る。
「いいぜ、ここからが本番だ!!」
 しかし決定打がリンカーたちにないのも事実、それをいいことに塵は奥の手を出そうと身構えるその時。
「もうそろそろ私のやりたいことやってもいいかしらぁ」
 告げると沙耶が躍り出る。一般人は全員下がらせた。
 ここから先は本当に何が起こるか分からない。
「あ? なんだせっかく楽しく遊んでたってのによ。水差すつもりか?」
 塵が問いかける。他のメンバーも戦闘を中止して沙耶を見た。
「そんなことないわぁ。むしろおもしろくしてあげる」
 静かに重たく告げた沙耶はポケットからケースを取り出す、入っているの日本の注射器。
 片方を手に取り、液を少し出して。腕にそれを突き立てると。
 沙耶の霊力が変質した。
 次いで仁菜にケースをパスする。
「これって」
 ワイスキャンセラー。
 その特効薬。完全に変質してしまう前なら効果があるのは実証済みだから。
「これで力が増すのか、実験よ」
「おいおいおい、その空の注射器に入ってたのは……もしかして」
 ゆらりと沙耶のシルエットがとけた気がした。そしてその目がらんらんと輝く。
「みなさん気を付けてください」
 蛍丸が告げた。
「もしかすると、演習どころじゃないかもしれません」
 次の瞬間沙耶は跳躍した。
 本来彼女のクラスではありえない膂力と腕力で襲い掛かる。
 そこまでは沙耶の記憶も確かだった。
 だが次に意識が戻った時VBSルームはぼろぼろになっており、威月が沙耶の顔を覗き込んでいた。
「失敗?」
 ロクトが意識の戻った沙耶に歩み寄る。
 頷いてロクトは告げる。
「確かに、飛躍的な戦闘能力増強は見込めたけど」
 制御ができない。
「私も、意識が無いわ」
 沙羅が言った。サラは血で胸のあたりを赤く染めていたが、単純な喀血というわけではないらしい。
「愚神の命令に屈したと思う?」
 沙耶の問いかけにロクトは首を振った。
「わからない。けど以前ワイスの影響下にあった人間は愚神に操られるということはなかったわ。だから影響下にあるわけではないと思うけど」
「私と、三船さんたち、なにが違ったのかしら」
「それは……」
 沙耶とロクトの間で議論が進められる、その間。暁メンバーは別室に集まり今日の戦闘の振り返りをしていた。
「やはり、風音は特殊抵抗が高ければ耐えることができそうですね」
「あとは純粋に防御力が高くてもノックバックは発動しないみたいだお」
 そう槇がキーボードに内容を打ち込んでいく。
「物理攻撃のききはやはりいいみたいだおね」
「斬撃、打撃の違いも特になさそうです」
 そんな兄のタイピングを見ながら誄は仰向けになって告げた。
「とにかく、決め手に欠けるんだよ。短時間を生き延びる為には」
 今回Bチームは惜しくも戦闘開始から29分で壊滅した。
 最初にガデンツァと戦った時は遭遇から五分で半壊させられたのでそこからかなり成長したと言えるが。それでも。
「あと、塵さんがやったみたく、何となく直接戦闘はもう脳筋って考えない方が良い気がしますよっと」
 あちらはすでにこちらに対して油断してはいない。だから自分の特性と相手の特性を理解した戦い方をしてくるだろう。
「要点としては『敵の攻撃をスカす』『認識を阻害する』『攻撃力よりイニシアチブSを先に何とかする』だぞっと」
 それがある限り先手でこちらの陣形を崩され永遠と後手に回り続ける。
「あと、すこし、あと少しだお」 
 槇は自分に言い聞かせ獲るように告げた。
「他に、道具や設置物に頼るという手がありますよ」
 こちらでタイミングを計るのではなく、自動で視界つぶしを行えれば楽だろうという発想。
「そうするとガデンツァをこちらの陣地におびき寄せる必要が出てくるのでは?」
 告げる蛍丸。
「死音はどう思うお?」
「リンクレートとは関係はなさそうです。ただ、共鳴を解除することによって波長が変わればシンクロニティデスは回避できるかもしれませんが。相手が即座に追加で行動した場合。確実に死者がでる」
 考え込む二人である。
「アルター社の商品だけど、水龍装備は?」
 誄が問いかけた。
「それに関しては今遙華さんと話してこようと思っています」
 ただ、蛍丸は知らないが今遙華は行方知れずとなっている。このことはまだ、一部の人間しか知らない。
「おう、言ってくるお。策は多い方がいいお」
 告げると槇は拳を月だす。
「足りないものは増やす! 王道だお! 戦争は数だよ兄者!」
「あんたが兄者だろいい加減にしろ」
 そう、頭をぺちりと叩く弟、誄である。
「蛍丸様。そろそろ」
 告げる『詩乃(aa2951hero001)』に連れられた蛍丸は部屋を後にする。廊下でちらりと威月の背中が見えたが、声は駆けずに蛍丸は遙華の執務室に向かう。

    *    *

 そんな一行の思惑と努力には関係なく、塵は施設屋外にいた。
 やることをやったらさっさと退散するのが彼の性分であるが。
 最近そうやって立ち去ろうとすると後をつけてくる輩がいる。それが威月である。
「…………なぜ、この様なお膳立てをする、依頼に? そもそも、そんな人では、無いでしょう……?」
 そうたどたどしく塵の背中に語りかける威月。
 それに対して塵は軽蔑の視線と嘲りの表情を浮かべる。
「自分で考えられる脳みそもねぇみてぇだから教えてやる。お前らが『間違った』ところをみてぇんだよ俺は」
「嘘です」
「……御前に何がわかる」
 踵を返す塵。そのまま手を振り吐き捨てるように告げ歩き出した。
「……話にならねーな。テメェらは何もしねー方が現場の為だぜ」
 その背中に火伏静は悪態をついた。
「ッチ……捻くれもんがよ。捻くれんならもう少し誄を見習って欲しいモンだ」
 そして威月の気配がなくなるまで歩くと、流れる川に向けて告げる。
「……どーせ見てんだろ? クソババアがよ」
 そこに移る塵のシルエットが歪んで見えた。


第四章 疑惑

 一行はその後H.O.P.E.のミーティングルームに集まり今日の演習の振り返りをしていた。
 グロリア社でそれをやらなかったのは聞かれたくない話があったためだ。
 グロリア社に潜む何者か。
「おそらく、ガデンツァです」
 蛍丸はそう重たくつぶやいた。
「いいのか、あんなに自分の手を見せて」
 告げるのは依、あの場にガデンツァがいるとは思えない……思っていなかったが、今全員の話を総合的に聴くとまずい気がしてきた。
「いいの。これでガデンツァは私の対処を考えてくれるでしょ?」
 そう仁菜は不安な表情を隠さず告げる。
「メディックでもルーカーでも戦える、ガデンツァは私を見た時どっちだって考えないといけない。
 防御も歌も、ちょっとだけど攻撃も出来ると見せつけたのだから。
「戦場で一番怖い敵は何をしてくるのか分からない敵だから」
「それはいいが……」
 問題はグロリア社、そして遙華。そしてロクトである。
 いのりが是認に告げる。
「まず僕らは、遙華とロクトさんを通さずに、グロリア社の上層部とHopeに、今回の依頼で澄香が開発をしようとした技術の社外預かりができないかを……じいやに交渉して貰おうかな」
 その言葉に全員がいのりと、そして隣で項垂れる澄香を見る。
「ロクト様には少々疑義がございます」
 セバスが言葉を継いだ。
「得たデータや開発したいガジェットのデータは、グロリア社にあるものは全部偽物にしておきとうございまして。
 まずはHopeの信頼できる上役に交渉しまして、そこからグロリア社に直接的に交渉して頂きましょう」
「それでなんとかなるの?」
 理夢琉がすがるような表情を澄香に見せた。
「いなくなった遙華さんは……」
「遙華の拉致はもうH.O.P.E.に掛け合ってるよ、H.O.P.E.の中のガデンツァのスパイは全員摘発してるからこれは大丈夫だと思う」
「ガデンツァにこっちが干渉しようとしてるとばれるのでは?」 
 アリューの言葉にはセバスが返答した。
「建前としては、ガデンツァという敵の性質から見て、秘密裏に進めないと犠牲者が出るから、でいかがでしょうか」
 不安げな表情をさらす一同、それを励ますようにセバスは言葉を続ける。
「対策の対策に時間をかけさせるのも立派な戦略であり、途中でデータがブラフと知られても、本物の所在に対しての思考ロスの時間も作れます。
 敵は絡め手が大得意なガデンツァです。思考誘導は二重三重にしておきませんとね」
「それに、絶望するにはまだ早いと思います」
 告げる蘿蔔。
「協力者もいますから」
 それは蘿蔔たちが遙華の自宅を訪れた時の話。
 自宅はもぬけの殻だった。当然だ。遙華は現在拉致されているのだから。
 けれど収穫が無かったわけではない。
 遙華の自宅、その居間のPC。おそらく日常使いのものなのだろう。古いデスクトップは電源がついていた。
 そしてそのPCに映し出されていたのは。
「エリザ……さん?」
 遙華が大事に大事に育てていたAIのエリザ。世界最初のAI『ELIZA』から名前を与えられた彼女はPC画面の向こうで蘿蔔、そしてあとから訪れた蛍丸に手招きした。
 画面に表示されたのはメッセージ。
『彼女に伝えたいことは?』
 その言葉に二人は安堵した。遙華はまだ生きている。
「では、こう伝えてください」

「私は…………何があっても遙華の味方で、遙華を守るよ
 この前言ったこと覚えてる?
 遙華の力が必要になるって…………他でもない、遙華だけが頼りなんです。
 皆を助けて…………」

 エリザの手の中でメッセージファイルが作られた。
 
「助けにいくって、約束しました。待っててください、遙華さん」
 
 その言葉に頷くと、エリザはどこかに旅立って行った。その体が小さくなりそして。
 一通のメッセージが遙華のメールフォルダに受信された。
 其れこそが遙華の居場所。

 その報告を聞いて、澄香は一層難しい表情を見せた。
「……備えよう」
 澄香はそう全員に言う。
「賛成だお」
 暁作戦参謀である槇は小さく手をあげる。
「スキルに対抗するためのガジェット」
「それは考案済みだお」
「私たちはエンジェルスビットが使える、ディソナンツ、シンクロニティ・デスに対してカウンター機能を埋め込めないかな?」
「できるかもしれないお」
「あとは、ライブスゴーグルにマナチェイサーで解析したデータを詰め込んで。水音がする前に察知できたり」
「あとは、ルネさんのボディ?」
 いのりが不安そうに澄香に問いかけると、澄香は力強く頷く。
「諦めないんだね」
「とうぜんだよ」
 そういって澄香は笑った。
「あとは、理論だけだけど。生命が持つ自殺遺伝子(アポトーシス)のステータスを使って、情報生命体に対する自滅コードを作れないかな?」
「基礎理論が無いから難しいとおもうお。けどやってみる価値はアルト思うお」
「あとはみんなに聞いてほしいんだけど」
 エリザ。という協力者が現れた。それによって澄香の戦略が現実味を帯びてくる。
 一つはルネのバックアッププログラムの技術応用による直接攻撃系。
 二つ目はテクノホーンと幸福の音のデータから精神共鳴での攻撃。
 さらに、振動パターンに変更、聴覚からの攻撃。
「開発に着手するだけでもあっちからしたら対策をしないといけない研究にあたると思う」
 ブラフでも構わない。ガデンツァに隙を作らせたいのだ。
 そのために必要となるのが。ロクトの持つ情報。
「それについては沙耶さんとイリスちゃんがどうにかしてくれるよ」
 告げる澄香はその場にいないメンバーを思う。
「ガデンツァに脅迫されてたなら」
 杏奈は告げる。
「もしそうなら、内容は”遥華ちゃんを危険に晒したくなければ春香ちゃんを差しだせ”とかだと思うわ」
 そうルナを撫でる。

   *   *

「全く、こんな無茶をするためにワイスキャンセラーを貸したわけじゃないのに」
 沙耶はロクト主導での精密検査を受けていた。
 当然だろう、禁薬レベルの薬を投与したのだ、後遺症が無いか調べる必要がある。
 そんな中なぜかついてきたイリスが告げる。
「ロクトさん、実はお姉ちゃんがカクテルを作ってきたんです」
「え? お酒?」
「ああ。実は執務室の方に差し入れと思ってね、ロクトさんはいなかったが。プレイリュード・フィズ。すきだろう?」
 その言葉にロクトは眉根をひそめた。
「言葉を語るのは、口だけではないということ?」
 首をかしげるロクト。こぼれた髪の毛が重力に引かれ地面すれすれで揺れる、その視線はじっとアイリスに注がれていた。
 目が血走っているのはいつもの激務のせいか。
 違うだろう、彼女が仕事で体調を崩すことはない。
 鉄人みたいな人なのだ。であればきっと。
「花も言葉を語る、それと一緒だろう? ところで私もカクテルを勉強したいんだ、お勧めは有るかな?」
 アイリスがそう告げた。
「そうね、たとえば」 
 ロクトは考えながら告げる。
「まずはジントニック、これは定番ね」
 ジントニック、酒言葉は。強い意志、もしくはいつも希望を捨てないあなたへ。
「ちょっと珍しいけどカルーソー、これが好きな人が社内に居てね、地下の研究員なんだけど、紹介してもらって気に行っちゃった」
 カルーソー、酒言葉は。透明。
「…………」
 沙耶は唐突な痛みを感じて腕を見る、沙耶の腕を握るロクトの腕に力がこもっていた。
 長い爪が沙耶の柔らかい肌に傷を作っている。しかも上部に向けられた部分ではなく、地面に向けられた柔らかい部分。
「ブルドックもメジャーね。この会社をイメージしたカクテルとして考案したことがあるわ」
 ブルドックは貴方を守りたいという意味。
「あとは、私は好きではないのだけど、エッグノックこれは遙華にお勧めしたいカクテルね、卵黄が入っているのよ? 珍しいでしょ? あの子にぜひ……飲ませてあげて」
 エッグノックは……守護。それを聞いてアイリスは顔をしかめた。
「沙耶さん、大丈夫? 痛む?」
 そう沙耶の腕に包帯を巻いていくロクト。
 そこで沙耶は思い出した。今はロクトに治療をしてもらっている体なのだ。
「ええ、大丈夫」
 血がにじむ包帯。その血も目立たなくなるくらいに包帯をグルグルとまくとロクトは包帯を結び沙耶を解放した。
「沙耶さんにお勧めしたいのはコザック、でも鮮度が大事。時間に気をつけて」
 コザックの酒言葉は強敵。
「ありがとう信じてくれて。いつかカリフォルニア・レモネードをおごるわ」
 告げるとロクトは片付けがあるからと沙耶とイリス、アイリスを医務室から出した。
 沙耶は腕の痛みを抑えつつH.O.P.E.まで戻ると会議室にたまっている一同の前で包帯をとる。
 そこには数字で日付、そして時刻が刻まれている。
「これが次回の襲撃時間。場所はおそらくグロリア社」
 沙耶は一瞬目を伏せてから、全員に告げる。
「準備は間に合うはずよねぇ」
 全員が頷く。
 再戦の日は近い。

エピローグ

 クラリスはその晩、ロクトが会社から帰るのを見計らって接触した。
「貴女は行動で信頼を示すべきです」
 その言葉にクラリスを一瞥すると、すぐにロクトは車に乗り込んでしまう。
「のってく? もう遅いし」
 クラリスは頷いて助席に乗り込んだ。
 そしてクラリスはロクトに仕事の資料を押し付ける。
「写真を見てもらえればわかるのですが、次の特集の記事で……」
 その記事を運転しながら読み始めるロクト。たいへん危ないが緊急事態なのでクラリスは黙っておくことにする。
「あなたのすんでいる場所って……よね?」
「はい?」
 見当違いの住所を告げられて慌てるクラリス。
「それと蘿蔔さんの依頼の品を届けるために彼女の家に行くわ」
「それと、この資料、遙華に見せたいところね。あの子に見せるために準備をしないと」
 告げるころには目的の場所についているロクトカー。
 クラリスは下ろされると、挨拶もほどほどにロクトの車を見送った。
「この住所とあの子の依頼? たしか数字を選ばせる形式の。そしてその後に」
 遙華という単語。
「まさか、これが彼女の攫われた」
 ロクトは家に帰ることも忘れロクトからもたらされた暗号の解読を行う。
 深夜。時計の針が零時を越えてもクラリスはそれを考え続けた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237

重体一覧

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • エージェント
    ウォルナットaa0405hero002
    英雄|15才|?|シャド
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 疾風迅雷
    朱璃aa0941hero002
    英雄|11才|?|シャド
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃
  • モノプロ代表取締役
    セバス=チャンaa1420hero001
    英雄|55才|男性|バト
  • 愛しながら
    宮ヶ匁 蛍丸aa2951
    人間|17才|男性|命中
  • 愛されながら
    詩乃aa2951hero001
    英雄|13才|女性|バト
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 私はあなたの翼
    九重 依aa3237hero002
    英雄|17才|男性|シャド
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • 暁に染まる墓標へ、誓う
    無明 威月aa3532
    人間|18才|女性|防御
  • 暗黒に挑む"暁"
    青槻 火伏静aa3532hero001
    英雄|22才|女性|バト
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • 悪性敵性者
    火蛾魅 塵aa5095
    人間|22才|男性|命中
  • 怨嗟連ねる失楽天使
    人造天使壱拾壱号aa5095hero001
    英雄|11才|?|ソフィ
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