本部

ピーピングジョンを捕まえろ!

たぬき屋

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~8人
英雄
6人 / 0~8人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2018/06/13 20:10

掲示板

オープニング


 人里離れた山奥の旅館。先ほどまで廊下に響いていた友人たちの笑い声が、突如悲鳴へと変わる。
 慌てて現場に駆け付けた女性の目に入ったのは、見晴らしのいい崖から飛び出して、猿のように岩から岩へと飛び移り逃げていく黒い影。
 そして彼女は、一目で友人に何が起こったのかを理解した。
(楽しい旅行のはずが、どうしてこんなことになってしまったのだろう……)
 仲良し女友達4人で出かけた慰安旅行。忘れ物をして部屋に一人戻ったおかげで難を逃れた彼女は、先に露天風呂に向かった友人たちに起った悲劇に涙を零すのだった。


「はぁ……ウチももう終わりか……」
 旅館の主人は頭を抱えて唸っている。彼を悩ませているのはもちろん奴、ピーピングジョンだ。
 ジョンは3か月前からこの旅館に出没するようになった覗き魔である。
 女湯や着替えを覗いていくだけのセコいヴィランではあるが、逃げ足が異常に早く、また神出鬼没でどうしても捕まえることが出来ない。
 以前にエージェントに依頼したこともあったのだが、追跡は振り切られ、ねぐらも発見できないという散々な結果に終わっていた。
 そんなこんなで旅館は覗き被害を受け続け、100年続いた旅館も度重なる風評によってめっきり客足が少なくなっていたのだ。
 先ほど怒って帰ってしまった女性4人のグループも、もう二度とうちの旅館は利用してくれないだろう。
「あと一度。あと一度だけ依頼して、何の成果もあがらなかったら廃業しよう」
 主人は一人呟くと、決意を決めたように電話機に向かったのであった。


「……というわけで、彼の捕縛が今回の依頼です」
事のあらましを説明し終えたオペレーターが、端末から顔を上げた。
「ピーピングジョンは逃げ足が非常に速く、追跡は難しいと思われます。よって、ねぐらを先に探し出すか待ち伏せをしての捕縛が望ましいです」
「俺が依頼に失敗した前任者、っつーやつなんだが……全く獣みたいなやつだったぜ。一度は追い詰めたんだがあっという間に撒かれちまった」
 それまで壁にもたれて話を聞いていた男が、一歩前に進み出て頭を掻く。
「周囲の森もくまなく調べたつもりなんだが、ねぐらも見つからなくてなぁ。これ、置いておくから活用してくれ。……言っておくが、ナメてかかると手こずるぜ」
 男は苦い記憶を思い出したのか、調査メモをデスクの上に置くと、さっさと部屋から出て行ったのだった。

●調査メモ
・ピーピングジョンは中肉中背の男で、至って健康体。
・逃げ足が非常に早く、まともに捕まえるのは難しいと思われる。
・旅館は山の中腹の切り立った崖の上に建っており、周囲には森が広がっているのみで他に施設などはなく、旅館以外での目撃証言もない。
・このような何もない場所でどうやって生活しているのだろうか?
・周囲の森を詳しく調べたが、ねぐらや生活痕などは発見できず。
・働く悪事はといえば覗きをするくらいのもので、追い詰めても反撃してくる気配はなかった。ひょっとしたら戦闘を嫌っているのかもしれない。

解説

 今回の依頼の目標は、100年続いた老舗旅館の危機を救うことになります。
 そのためには、ピーピングジョンの覗き被害を何とかする必要があります。
 ジョンを捕えるならねぐらの場所を推理して先手を取るか、ジョンが現れそうな場所に罠を張って待ち伏せするのがいいと思われます。
 戦闘になることはないと思われますが、非常に逃げ足が速い相手のため、正面切って捕まえようとするのは避けた方がいいかもしれません。

 また、ジョンを捕まえられなくても覗き被害を防ぐことが出来れば依頼は達成となります。
 何かいいアイディアが思いつけば、そちらの方向で攻めてもいいかもしれません。

リプレイ


『これだけ覗きがバレてて、まだ同じ個所で覗きを続けているとはな』
「覗きが原因で客足が減って、覗きをする対象が減っているのにね」
『こういう手合いはそうとなれば、別の場所に移るだろうな』
 既に日が傾きかけている旅館の周りを地図を広げて歩き回る影が二つ。九字原 昂(aa0919)とベルフ(aa0919hero001)である。
「こっちの調査は終わりました。あとはお願いします」
 拠点代わりの従業員寮に戻ってきた昴から地図を受け取ったのは、御神 恭也(aa0127)。
「こちらは何も収穫なしだ。何か情報が出てくればよかったんだが……。そうなるといまいち相手の動機が読めんな」
『個人の特殊性癖から行っていることなのかもしれないですね』
 不破 雫(aa0127hero002)が、恭也の疑問に過程を述べる。
 何れにせよ犯人の情報も手がかりも見つからない以上、あとは出たとこ勝負をするしかない。
 罠を手に露天風呂へと向かおうとする恭也に、ヴィクター・M・メルキオール(aa5141hero001)が声をかけた。
『私も行くよ。事前にジョンが使いそうなルートを調べておいた。追いかけるのが難しい相手なら、追い込んだときに逃げられる状況をまず生まないことだ』
「やっぱり囮作戦しかないみたいだね……」
 昴の作った地図を持って寮を出て行った二人を見送りながら呟いたのは恋條 紅音(aa5141)である。
 それを聞いた御童 紗希(aa0339)は心底嫌そうな顔を見せた。
「私はそういうのはちょっと……」
『まーまー、姐さんは索敵でもしててくれればいいっすから。囮作戦のほうは自分に任せるっす』
「……そういうことなら」
 スワロウ・テイル(aa0339hero002)の言葉に頷くと、紗希はモスケールを取り出す。
「ボクも囮になるよ。覗き魔なんて女性の敵はきっちり捕まえて懲らしめてやらないと!」
『まぁ落ち着きなはれ。心はホットに頭はクールに。冷静さを欠いたら捕まえられるもんも捕まえられませんえ』
 続いて名乗りを上げたのはアンジェリカ・カノーヴァ(aa0121)と八十島 文菜(aa0121hero002)だった。
 ぐっと拳を握るアンジェリカは、気合十分のようだ。
「私とノーニも囮役をやらせてもらうわ。ジョンが現れるまでは露天風呂を楽しませてもらうけれど」
『……任務中にそういうのはよくないのでは』
「役得よ、役得。任務はきちんとこなすわ」
 お風呂セットを抱えた鬼灯 佐千子(aa2526)とノーニ・ノエル・ノース・ノース(aa2526hero002)に続いて、雫も志願する。
『私もご一緒させていただきます。水着は着させてもらいますが』
 その時、紗希のモスケールに反応が現れた。
「山頂側の森の中にライヴスの反応があります」
「その位置に人がいるのは不自然ですね。まずジョンの反応と見て間違いないでしょう」
「全く。お風呂を楽しむ時間もないわね」
 昴の言葉に肩を落とす佐千子。
「それじゃあ、囮作戦を始めよう」
 そうして紅音のその一言で、ピーピングジョン捕獲作戦は開始されたのだった。


「ふいー……。いいお湯だね、生き返るよ。それにこの見晴らし、絶景だね」
『皆さん任務を忘れてはいませんか? 紗希さんの情報に拠ればジョンはかなり近くまで接近しているということですが』
 共鳴状態ですっかりだらっとくつろいでいるアンジェリカをたしなめる雫に、佐千子が言葉を返す。
「リラックスしていたほうがジョンも油断するかもしれないわ。それに本当にいいお湯よ」
『ホントっす。姐さんも温泉を楽しめばよかったのににゃー』
 こちらも共鳴状態の紗希が、きょろきょろと首を振って周囲の絶景を楽しんでいる。
 とはいえ、今表層に出ているのはテイルの意識のみで、紗希の意識は深層に閉じ込められていた。
 なぜそんなことになっているのかといえば、紗希が囮作戦を激しく拒否したためである。
 裸を見られるのは嫌だと散々抵抗した紗希の意識を、テイルが閉じ込めてしまったのだ。
 そんなテイルの姿は一糸まとわぬ裸体であり、紗希が見たら卒倒してしまうこと間違いなしだ。
 アンジェリカと佐千子、そしてノーニもテイル同様に裸で温泉を楽しんでいたが、雫は水着を着用していた。
 本来は水着での入浴は認められていないが、今回は主人が特別に許可してくれたのだ。
 そうして温泉を楽しむ囮組の傍、植え込みの中にはモスグリーンの目立ちづらい外套を羽織った昴が隠れており、入り口の脱衣所には共鳴状態の紅音が客を装って張っている。
 更には崖下の森の中、逃走経路に使う可能性が高い場所に恭也が潜んでいるという、鉄壁の布陣だ。
 その時、鷹の目を使って周囲を警戒していた雫が、東の森の中を高速で移動する影を発見した。
 雫はすぐさま、湯船に浮かべた桶の中、タオルの下に隠した通信機と囮組に聞こえるようにジョンの出現を報告する。
『来ました。東の森の中200メートル、ジョンの可能性が高いです』
『東?さっきまで北の山の中にいたのに、もうそんなところに移動してるの?』
『山の上から入浴客を確認していたのかと。それにしても森の中でこの機動力……能力の無駄遣いにも程があります』
 紅音の疑問に答えながら、佐千子の差し出した幻想蝶に触れるノーニ。
 幻想蝶から光の粒子が舞い、二人が共鳴する。
「さぁ、来るわよ。皆さん準備はいいかしら?」


「へっへっへ。今日もオレっちの脚は絶好調だぜ。だァれもオレっちを捕まえることはできねえッ!」
 男は地面の上に盛り上がった木の根を蹴って跳躍し、太い木の枝を片手で掴んで空中でほぼ水平になりながら藪を跳び越えると、一抱えほどもある石の上に音もなく着地する。
 山間の小さな村で育った彼にとって、森は庭のようなものだった。
 彼の能力からすればもっと簡単に犯行を行える場所はいくらでもあっただろう。
 だが、あえてこのような場所を覗きのターゲットに選んだのは、自分の脚に自信を持っていて、なおかつそれを見せびらかしたいという欲求が強かったからこそであった。
 彼の能力ならば世のため人のために活躍することも出来たであろうし、もっと重大な犯罪を起こすことも出来ただろう。
 それをしなかったのは、ひとえに彼が女性の体に並々ならぬ興味を持っていたからだった。
 要するに、彼は残念な男だったのだ。
 男は岩から岩へと飛び移り、何の障害も感じていないかのようにするすると崖の上へと登っていく。
 今日は脚が軽い。絶好調だ。
 おまけに、先ほど山の上から確認した限りでは、この崖の上の温泉には裸の女が四人に水着の女が一人。それも、極上の女だ。
 近頃温泉客も減ったのかなかなか覗きのチャンスに恵まれていなかったが、今日はツイている。
 最後の大岩に手をかけ、音もなく崖上に着地する。
 そこで、彼の脳裏にある一つの違和感が浮かび上がったのは、彼の知能の高さというよりは単に偶然からであった。
 もしかしたら野生の勘のようなものだったのかもしれない。
「なんだか匂うぜ……なんだ……?」
 違和感は彼の足を止め、先に進むことを躊躇させた。これがラッキーだった。
 あと数歩前に進んでいたら、佐千子の支配者の言葉が発動していたに違いないからだ。
 それをしなかったのは、温泉側に引き込まずに崖際で発動させてしまうと、もし万が一洗脳し損ねたときに真っ先に崖下に逃げられてしまうからであろう。
 そうしてしばらく続いた膠着状態を打ち破ったのは、この睨み合いに耐え切れなくなったアンジェリカであった。
「此処であったが100年目! きりきりお縄を頂戴しろ!」
 アンジェリカは全裸のまま湯船からざぶりと立ち上がると、幻想蝶からスナイパーライフルを取り出しながら名乗りを上げる。
 それを見て慌てたのは佐千子だった。
「ちょっと、逃げられちゃうわよ!」
「逃がさない! あたしが絶対に捕まえる!」
 異変に気付き脱衣所から飛び出して来た紅音がアンカー砲を放つのと、佐千子が重圧空間を発動させたのは同時だった。
 アンジェリカに見とれていたジョンは重圧空間を咄嗟に回避することが出来ずに地面に叩きつけられ、その彼の眼前10センチに重力に負けたアンカー砲のクローがざっくりと突き刺さる。
 それと同時に、かっこよくスナイパーライフルを構えたアンジェリカも重圧空間に負け、ぐぇっと小さく悲鳴を上げてぶくぶくと湯船に沈んでいった。
「ひいッ! 冗談じゃねぇ!」
 ジョンにとっては絶体絶命の状況だったが、狭い場所での重圧空間の発動ゆえに全員がその影響下にあるのが幸いした。
 誰も飛び掛かってこないのをいいことに、なんとかその場から這って逃げようとするジョン。
 そんなジョンの尻に、雫が放ったダーツの矢のようなデスマークが突き刺さる。
『簡単には逃がしません。地獄を見せてあげます……』
 尻の痛みに悲鳴を上げて思わず後ろを振り返ったジョンの目に、水着姿で鬼のような形相の雫が映る。
 そこでようやくジョンは、先ほど感じた違和感の原因に気付いた。
「オレっちとしたことが抜かったぜ……風呂に水着の女がいるわけねぇ!」
 そのとき、突然体が軽くなる。重圧空間の効果時間が終わったのだ。
 これ幸いと崖から跳んだジョンの背中に、脚にライヴスを纏わせた昂が、マントをはためかせながら目にもとまらぬ速度で駆け寄り、縫止の針を撃ち込む。
「今はこれが限界ですね……。でも、雫さんがデスマークを撃ち込んでくれたので追跡できそうです」
 自らも崖から跳び下り、追跡しようとする昴。その昴の眼前に、肌色の塊が飛び込んでくる。
 スワロウ・テイルだ。
『待つっス! 自分から逃げきれると思ったら大間違いっすよー!』
 すっぽんぽんでジョンを追いかけていくテイルとの遭遇に、さしもの冷静な昴も、真顔のまま硬直するのだった。


「くそっ、振り切れねぇ! どうせ追いかけられるなら巨乳ちゃんがよかったぜッ!」
 背後から迫る全裸でぺったんこの女。
 更にその後ろからはアンジェリカが追いかけてきている。
 昴は、裸の女性たちと行動を共にするのは後々のためにもよくないと判断したのか、雫のデスマークを頼りに少し離れた位置を並走し、逃げ道を制限していた。
 全裸の美女たちに追いかけられるなど、男にとっては夢のような状況だったが、逃げるのに必死なジョンにはそれを楽しむ余裕もない。
 あんなにも軽かった脚は、腿に撃ち込まれた針の影響かずっしり重く、機動力が阻害される森の中ということもあって後ろの女たちとの距離が縮まることはないが、引き離すことも出来そうにない。
 だがそれでも、森はジョンの庭である。
 引き離せないのなら撒いてやろうと、藪に飛び込もうとするジョン。
 その彼の眼前の木の幹に、アンジェリカの放ったライフルの銃弾が命中し、木片が爆ぜた。
「アブねぇ!」
 ジョンは慌てて方向転換すると、小道に逃げ込む。……と同時に何かに引っかかる感触。
 その瞬間、ジョンの上体に向けてウレタンが噴射された。
 メルキオールの読み通りのルートを通ろうとしたジョンが、恭也の仕掛けたワイヤートラップにかかったのだ。
「ぢぐじょぉ……オレっちが何したっていうんだよぉ!」
 半べそでよろよろと木にもたれかかるジョン。何をしたのかと問われればもちろん覗きをしたのであるが、今は彼の頭からそんなことは吹っ飛んでしまっている。
 そんな彼の真後ろに、ジャングルランナーを使って飛んできたテイルが突然出現し、あつあつおでんをぶちまけた。
「あっぢぃ!あちっ!あち!」
 背中にこんにゃくが入り、その場でぴょんぴょんとジャンプするジョン。
 更に追撃とばかりに女郎蜘蛛の糸が投げかけられた。
 それでももがきながら這って逃げようとするジョンの体にテイルが巻き付き、関節を締めあげる。
『恥という枷から解き放たれた女の真スペック甘く見んな!』
 拘束されているうちにアンジェリカも追いつき、大好きな女体に囲まれ、とうとう覗き魔は観念したのであった。


『あだだだだ! 姐さん痛いっス! ギブ、ギブ!』
 日もすっかり落ち、月が地面に影を落とす。森の中にひっそりと佇む静かな旅館に、似つかわしくない悲鳴が響き渡る。
 嫌がる紗希を無視して囮になるばかりか、全裸で大捕り物を演じてしまったテイルが、激怒した紗希に卍固めのお仕置きを受けているのだ。
 肝心のジョンはと言えば、一度観念したあとは大人しいもので、ワイヤーで縛り上げられ旅館に連れ帰られていた。
 なお今は、つい先ほど紗希に向かって菩薩のような笑みを浮かべ、
『ふ、オレっちが間違ってたぜ……。ぺたんこも悪くねぇもんだな』
 などとのたまったために思いっきりぶん殴られ、今は二人の足元の畳の上に転がっている。
 ジョンを連れて旅館に戻った時点ですでに遅い時間だったこともあり、主人にお礼として一晩無料で泊めてもらえることになったため、捕獲作戦に参加したメンバーはそれぞれ思い思いに夜を過ごしていた。
 別室で報告書を作成しているのは恭也と雫だ。
「それにしても、屋根裏に潜んで客の状況を把握していたとはな……。作戦会議を従業員寮でやっていてよかった。そっちは何かわかったか?」
『どうやらアルバイトの後や休みの日にやってきて、持ち込んだ食料や厨房からくすねたものを食べながら泊まり込みで獲物を物色していたようです』
「なるほど、フリーターか。それなら時間も余っているだろうな。しょっちゅう現れていたのも頷ける……」
『何が彼にそこまでさせたのでしょうか?』
「さあな。覗きなどをするやつが考えることはいまいちわからん。一度切り上げてそろそろ飯を頼むか……」
『そうですね。流石にお腹が空きました』
 恭也はそういって端末を閉じると、肩を叩きながらのそりと立ち上がる。
 雫も、その後について立ち上がり、恭也を追いかけて行くのだった。
 同じころ、昂とベルフのコンビ、そして佐千子とノーニの四人は、旅館の従業員たちと会議をしていた。
「とりあえず、今回は犯人を捕まえましたけど、防犯対策の強化は急務ですね」
「そうだな……。まさかあんなところまで覗きに来る人間がいるとは思ってなかったよ」
 昴の言葉に、旅館の主人がため息を吐く。
『一先ず、赤外線センサーなどを設置してみては?』
『防犯カメラなんかもいいかもしれないな』
「うぅむ……。今回の騒ぎもあったし、うちも余裕がなくてね。あまり大規模なものは……」
 ノーニとベルフの提案に、主人がうなる。
「そうなると、有刺鉄線や逆茂木みたいなコストがかかりづらいものに頼るしかないかもですね」
 顎に手を当て、考え込んでしまう昴。しばらく沈黙する面々。
 そこでようやく、佐千子が口を開いた。
「それならいっそ、混浴にしてしまうというのはどうかしら?もっとも、これは私のアイディアではないのだけれど」
 佐千子の提案に、昴と主人が大きく頷いた。
「なるほど。覗きを防げないなら覗く意味をなくしてしまおうというわけですか。それは妙案かもしれないですね」
「確かに、それならコストもかけずうまく行けば宣伝になるかもしれないね。いいかもしれない。防犯装置の類は、経営を立て直してから設置することにするよ」
 佐千子は、話が纏まりそうなのを見ると悪戯っぽく笑って、更にもう一つ提案を付け加える。
「それからもう一つ。H.O.P.E.エージェント向けの優待プランを組むのはどうかしら?これならお金をかけずに防犯対策を強化出来て、人も呼べるし宣伝にもなると思うわ」
「まったく、敵わないな。わかった、後日H.O.P.E.と相談させてもらうよ」
 ちゃっかりと自分たちの得にもなる提案をする佐千子に、旅館の主人は頬をかきながら返事をしたのだった。
 四人が会議をしている間、月下の露天風呂を楽しんでいたのはアンジェリカと文菜だ。
 任務も無事成功に終わった今、二人は思う存分温泉を満喫していた。
「夕方も見晴らしよかったけど、夜は夜でまたオツなものだね」
 アンジェリカが湯船に落ちた月をすくい上げ、顔の前でゆらゆらと揺らす。
 そんなアンジェリカから視線を外し、月を見上げていた文菜がぽつりとつぶやく。
『良い温泉やし今度はプライベートで寄せてもらいましょか』
「そうだね。また来たいな」
 アンジェリカも文菜に倣って、同じように月を見上げるのだった。
『美しいな……。こんなところまで来た甲斐はあった』
「本当だね。お料理もおいしいし」
 空に浮かぶ青い月からテーブルに並んだご馳走に目を戻した紅音は、椀によそったしゃぶしゃぶ肉にかぶりつく。
『ふぅ……やはり紅音は花より団子だな』
「失礼な。あたしだって綺麗なものは好きだよ?」
 呆れたようにため息を吐くメルキオールに、紅音は頬を膨らませて反論する。
 だがその箸にはすでにシイタケが掴まれており、説得力はまるでない。
 しかし、彼らの前に並ぶご馳走の前では、紅音の態度も仕方のないことだろう。
 皿の上には赤くて大きな肉が並んでおり、鍋の中では湯がぐらぐらと音を立てて煮えている。
 大皿の上にはシイタケや白菜、葱などが山のように積まれており、更にはブリまでもが並んでいた。
 おまけにシメには雑炊まで頼めるようで、任務をこなして腹ペコだった紅音が我慢出来るはずがない。
「きみも食べなよ。あたしが全部食べちゃうよ?」
『やれやれ、紅音が言うと冗談に聞こえないな』
 紅音のその言葉に、全部食べられてはかなわんと、漸くメルキオールも箸を手に取ったのだった。


「報告書、読ませていただきました。一度失敗している依頼だけに、捕まえることが出来てほっとしました」
 帰還してから数日、メンバー全員が本部に呼び出され、由良 雪乃から事後報告を受けていた。
「ピーピングジョンは、本部に護送された後も大人しくしているようです。もう女の裸は良いんだだとかオレっちは改心しただとか満足げな様子でしゃべっているようですが、いったい何があったのでしょうか?報告書を読む限りでは突然の改心の原因が見つからず、上も頭を抱えているようです」
 紗希の名誉のためにも、すっぽんぽんでの大捕り物のことを話すわけにもいかず、一同は視線を泳がせる。
「……まぁいいでしょう。それから、旅館からお礼状も届いていますよ」
 雪乃は皆の様子に訝しげに首を傾げながら、机の上の端末を操作する。
「どうやら混浴にしてみたところ予約の量が少しずつ増えているようです。また、男湯と女湯の仕切りも取っ払ったので、以前より開放的になったと評判みたいですよ。この分なら防犯対策の強化も近いうちに出来そうとのことです」
 雪乃はそこまでしゃべって顔を上げ、メンバーの顔を見回した。
「また、H.O.P.E.との提携も決まったようです。平日の人の少ない時間に限り、無料で露天風呂を使うことが出来るみたいなので、皆さんももう一度訪れてみては如何でしょうか?湯あみ着着用なので、女性にも安心ですよ」
 どうやら紅音の湯あみ着を用意したらどうかというアドバイスが良かったらしく、女性客にも評判らしい。
「私も皆さんの話を聞いて行ってみたくなってしまったので、このあと仕事が終わったら遊びに行ってみるつもりです」 
 そう言いながらデスクの下をごそごそと漁って、巨大なリュックを取り出して見せる。
 リュックはぱんぱんに膨らんでおり、恐らく泊ってくるつもりなのであろうことが見て取れた。
「それではこれにて依頼完了となります。皆さん、お疲れ様でした」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 希望を胸に
    アンジェリカ・カノーヴァaa0121
    人間|11才|女性|命中
  • ぼくの猟犬へ
    八十島 文菜aa0121hero002
    英雄|29才|女性|ジャ
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 久遠ヶ原学園の英雄
    不破 雫aa0127hero002
    英雄|13才|女性|シャド
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • 赤い日の中で
    スワロウ・テイルaa0339hero002
    英雄|16才|女性|シャド

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 魔女っ娘
    ノーニ・ノエル・ノース・ノースaa2526hero002
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • エージェント
    恋條 紅音aa5141
    人間|18才|女性|防御
  • エージェント
    ヴィクター・M・メルキオールaa5141hero001
    英雄|27才|男性|ブレ
前に戻る
ページトップへ戻る