本部

それ行けサンダーバード

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/05/31 20:29

掲示板

オープニング

●雷落ちる町
 地球温暖化が叫ばれ、世界各地で天候不順が発生して久しい。"過去に例を見ない"ハリケーンなどしょっちゅうだ。地球の気流が変動し、予測のつかない天候を各地にもたらしているのだ。
 カリフォルニア州の端っこに位置するヴィンソンの町は特にひどい。どうひどいかというと、尋常じゃない数の雷が落ちる。昨日だけでも二十発は落ちた。避雷針を立ててなんとかやり過ごしているが、危なくて外出できない。
 奇妙なのは、雲があろうがあるまいが、関係なく雷が落ちる事だ。一昨日は雷が十七発落ちたが、空は快晴、雲一つなかった。
 こんな日々がもう一ヶ月は続いている。経済的損失も馬鹿にできないレベルになってきた。他に打つ手も無く、町役場の人々はH.O.P.E.に助力を求めることにした。

「……というわけで、先日派遣したエージェント達が調査した結果がこれです」
 言うと、オペレーターはスクリーンに映像を映し出す。青い羽根を持った巨大な鳥が、岩場に開いた口から翼を広げて飛び立とうとしているところだ。羽ばたいた瞬間、翼が燐光を放ち、周囲に電撃を放った。
「ヴィンソンで発生した落雷現象は、廃坑になった霊石採掘場に住み着いたこの従魔が引き起こしていたようです」
 エージェント達は鳥に攻撃を仕掛けようとするが、次々に放たれる雷に矢弾が弾かれてしまう。近づこうとしても、空高くに飛び上がってしまった鳥には攻撃は届かない。エージェント達は、次々と降り注ぐ雷を躱すのが精一杯だ。
「この通り、ライヴスを伴う雷を活用した非常に堅い防御を行う従魔です。ドロップゾーンを構築している様子はありませんが、討伐の困難性を鑑み、本部はこの従魔をケントゥリオ級として認定しました。これを攻略するには、雷による防御を何らかの方法を用いて突破する事が重要になってくるでしょう」
 結局映像を撮影していたエージェント達は、状況の不利を解決できずに撤退する事になってしまった。その様子を見つめながら、オペレーターは説明を始める。
「少し危険な手になりますが、誰かがこの雷を一手に引き受け、その隙に遠距離攻撃を叩き込んで従魔を空から引き摺り下ろす、という作戦が一つ考えられます。ですが、負担が一人に集中するため、これはあくまで最後の手段程度に考えておくのが賢明だと思われます」
 オペレーターはホワイトボードを引き寄せると、マーカーを取って名前を記していく。“Thunderbird”、と。
「今回の従魔の名前は、アメリカ先住民の伝説に擬え、“サンダーバード”と名づけました。決して某人形劇からとったわけではありません。それだけはお忘れなきようお願いします」

●Are Go
 君達は装備を整え、落盤の危険性から放棄された霊石採掘場へと向かった。乾燥した空気が、少女の肌をひりつかせる。男の髪を痛めつける。しかし引き受けた以上は我儘も言っていられない。素早く叩き落として、素早く帰る以外に道は無い。
 来るぞ。
 誰かが呟く。それから5、4、3、2、1。廃坑の入り口が蒼く輝き、巨大な鳥が飛び出した。

解説

メイン サンダーバードの討伐
サブ サンダーバードに射程1の攻撃を命中させる

BOSS
☆ケントゥリオ級従魔サンダーバード
 根本的な戦闘力自体はデクリオ級に近いものの、その防御力からケントゥリオ級として認定された従魔。その名前の由来はネイティブアメリカンの伝説から。……ネイティブアメリカンの伝説から。
○ステータス
 両防御C、その他D以下、飛行(最大高度20sq)
○スキル
・サンダーバリアー
 雷を周囲に放って遠距離攻撃を撃ち落とす。
 [リアクション。防御判定に勝利した場合、3sq以上離れた位置からの攻撃を無効化する。プレイングによって無効化可]
・サンダーショット
 収束した電撃で地面の敵を攻撃する。何故か刀剣類に優先して飛んでいく。
 [アクティブ。物理、射程10~20。剣、大剣、刀、槍、斧装備時、回避を半減して回避判定を行う]

TIPS(PL情報)
・サンダーバリアーもサンダーショットも根本的な性質は同じ。
・討伐した後に残るのは猛禽類。あんまり美味しくはなさそう。
・近接と遠距離のバランスに注意。

リプレイ

●鳥を撃ち落とせ
「おー! リリー、リリー! 見るデスよ! おっきートリさんデェース! すっごぃデェース! あい背中に乗せてくれないデスか?」
 洞穴から飛び出し高空へ浮かぶサンダーバードを見上げ、あい(aa5422)は叫ぶ。巨大な鳥の現物を前に、彼女は眼をきらきらさせている。しかしここは戦場だ。リリー(aa5422hero001)は幻想蝶を振って溜め息を吐く。
『無理に決まってるでしょ……っていうか何で使えそうなもの何も持ってこないのよ。これじゃ私達、ただのバードウォッチングに来たみたいになってるじゃない……』
 リリーは鳥を睨む。しかし、持ってきたのは斧一つ。空飛ぶ鳥には届かない。

「まずはこいつでも喰らってみろ!」
 身の丈とほぼ変わらないサイズのロケット砲を担いだ彩咲 姫乃(aa0941)は、空を舞う鳥に早速攻撃を見舞う。鳥の放った雷撃はその砲弾を炸裂させる。閃光と爆風が広がった。姫乃はその影に紛れると、そそくさと岩陰に身を潜め、イメージプロジェクターでその服を迷彩柄へと変える。
「防御力は流石だが……こいつはどうかな?」
 その手には雷神の武器、ミョルニルが握られていた。雷には雷を、である。当てもなく飛び回る従魔が姫乃の傍に近づいた瞬間、姫乃は岩陰から跳び上がった。短い柄の槌を振り上げると、全身を使って従魔へ向けて放り投げる。
 サンダーバードは空中で一度力強くはばたく。擦れあった羽が雷を起こし、飛んで来たハンマーを一撃で弾き返してしまった。
「やっぱレプリカじゃ駄目かぁ」
 地面に落ちてきたハンマーをキャッチすると、姫乃は、素早く荒れ地を駆け抜け別の岩場に姿を隠す。再び影から外を窺うと、幻想蝶からもう一つのミョルニルを取り出した。
「なら、上手い当て方を考えないとな」

「こっち見るデェース!」
 一方、共鳴はしたが打つ手なしのあいは宝石煌く大斧をぶん回して地上を駆け回る。無邪気な彼女を、リリーは呆れたように窘める。
『そんなもの振り回して走ったら色々と危ないでしょ……しまっておきなさい』
「デス……」
 あいはそそくさと斧を幻想蝶の中へと戻すと、その足で傍の枯れ木に登り、枝の先から鳥に向かって跳び上がる。しかし届くわけはなく、墜落して地面に倒れ込んでしまった。
『仕方ないわね。他の皆が引きずり下ろしてくれるのを待ちましょう』

「……サンダーバードねぇ……なんつーか、安直なネーミングセンスっつーか、まんまっつーか……、つか、略したら雷鳥になってまたべつんもんになっちまうが大丈夫なんかよ……」
 楪 アルト(aa4349)は飛び回る従魔を見上げてお節介な事を考える。荒野の風が吹き荒れて、彼女のツインテールをふわりと揺らした。
「(……ほんとうはあいつを的にしたかったが、ま、たまには肉弾戦もありだよな)」
 アルトは気を取り直すと、その手に幻想蝶を取って空へ掲げた。
「……行くぜピグぅ! お前の全力見せつけてやれぇ! 戦闘形態-バトルモード-!」
 偽極姫Pygmalion(aa4349hero002)がアルトの正面に飛び出し、アルトはその背中に幻想蝶を嵌め込む。その瞬間、ピグの全身が光りだし、テーマソングが流れる。その輝きがアルトの身体をも包み込んだかと思うと、ピグの身体が展開した。その隙間へアルトは飛び込み、ピグの装甲と一体化した。大剣NAGATOを手に取ると、アルトは中段に構えて見栄を切る。
「さあ、覚悟しとけデカブツ!」
 NAGATOを肩に担ぎ直すと、アルトは従魔めがけて駆け出した。

『バリアー付きの鳥ですか……』
「まあ、実際は無差別に電撃を飛ばしているだけという代物みたいですけど。頑張って討伐しましょう」
 晴海 嘉久也(aa0780)とエスティア ヘレスティス(aa0780hero001)は、サンダーバードを見上げながら共鳴する。筋骨隆々の偉丈夫となった嘉久也は、懐からアルスマギカを取り出し、その手を従魔へと掲げた。放たれた雷撃は、しかし従魔の放った雷撃によって弾かれ、打ち消し合う。
「互いにライヴスの作った雷。必ずしも現実の雷と同じようにはならんか」
 嘉久也は呟く。アルスマギカをさらに捲ると、従魔を叩き落すための次なる呪文を探しにかかるのだった。

「(由来は人形劇では無い……ね。わざわざ念押しするような事なのかしら)」
『(職員共はたまによくわからんことを言う)』
 水瀬 雨月(aa0801)はアムブロシア(aa0801hero001)と共に密かにオペレータへのツッコミを入れつつ、飛び回るサンダーバードに狙いを定める。羽ばたく度に、蒼い光が翼の方面を走っている。雨月はネクロノミコンを取り出すと、悠々と飛び回る鳥へ狙いを定めた。
「じゃあまずは、小手調べでもしてみようかしらね」
 慣れた手つきでページをめくると、雨月は指先で魔法陣を描く。黒い魔法陣は周囲の光を吸い込んだかと思うと、次々と漆黒の弾をサンダーバードに向かって撃ち出す。従魔はその攻撃に何か反応するような素振りも見せないが、翼の表面を走る雷は次々と弾け、弾を撃ち落としていく。
「……名前はともかく、一度エージェントを追い返しただけの力は確かにあるようね」
 雨月はちらりと背後を振り返る。氷鏡 六花(aa4969)が、傷だらけの身を押して戦場に立っていた。持ち込んだランスを荒野の地面に突き立て、何やら準備を始めている。
「(無茶はしないと思うけど……少し気は配っておかないとならないわね)」

「……雨月さんは、アバドンとの決戦の時……重体なのに、六花を助けに来てくれた。六花も……少しでも、雨月さんの、役に、立ちたい……」
 そう呟く六花の眼はやはり曇っていた。雪娘に裏切られたあの日からずっとだ。
「……愚神は、従魔は……一匹でも、多く……殺さなくちゃ……」
 六花は何かを呪うように呟く。意識の奥でそれを耳にしたオールギン・マルケス(aa4969hero002)は、ひっそりと唸る。
『(……瀕死の身体に自ら鞭打ち戦場に立つ……か。六花を駆り立てる想いは……かの美しき冬の女神から聞きはしたが……)』
 形振り構わない殺意。その刺々しさは、少女自身までも傷つけているようだった。オールギンは穏やかな声で、宥めるように訴える。
『……六花よ。貴公の身に万が一の事があっては、我は……愛しき冬の女神に、顔向けが出来ぬ。白鯨王の名に懸け貴公を護るが……今は未だ我の力は、嘗てのそれに遥か遠く及ばぬ。故に頼む……六花。無理はせぬと』
 かつて、そして今も愛する女神の想いを胸に抱き、彼は六花に願う。
『どうかこの非力な老体に免じて……約束してくれ』
「……うん。今回は……無茶は、しない……から。一緒に……アルヴィナのところに、ちゃんと……帰ろう、ね」
 白雪色の髪、白蒼のドレスを風に流して、六花は地面に突き立てたランスから離れる。包帯の巻かれた手が痛々しい。先日、善性愚神の首魁にたった二人で挑み――敗北してしまったのだ。
「……ん。気を付けて、ください。従魔が、ライヴスを溜め込んでます……」
 六花は仲間に連絡する。その視線は従魔に注がれていた。

 深紅の雷が飛ぶ。蒼白の雷が弾け、ぶつかり合った雷は空中で火花になって消えた。特注魔導書『アルマギノミコン』を片手に、世良 杏奈(aa3447)は不満げに口を尖らせる。
「地上から攻撃しても当たりにくいわねえ……、直接行っちゃいましょうか♪」
『直接って……、杏奈何するの?』
 今日も今日とて、ルナ(aa3447hero001)は杏奈の悪戯っぽい物言いを訝しむ。こんな時は結構とんでもない事を始めるのだ。
「決まってるでしょ、ルナ」
 杏奈はその手を伸ばすと、ライヴスを集めて薔薇の箒を作り出す。颯爽と跨った杏奈は、地面を蹴って宙へと飛び上がる。
「空から行くのよ!」
『ええー! 待ってよ! こんなに雷鳴ってるのに!』

「はい、どーん」
 杏奈とルナが騒ぐのも構わず、逢見仙也(aa4472)は荒野に長い槍を突き立てる。特に意味は無い。上手い事避雷針になってくれればそれでよし、といったくらいだ。ディオハルク(aa4472hero001)は唸る。
『本当の雷は金属だろうが何だろうが関係なく落ちるがな』
「とにかく背の高いものに落ちるってねー。まあ従魔のスキルだからなんでしょ」
 サンダーバードの放った雷が、早速槍に落ちてくる。やり過ごした仙也は、槍を戻して大剣を抜き、従魔の足元目指して駆け出した。
「まあ、下からばら撒いてれば何とかなるでしょ」
 仙也は大剣を上段に構えると、その身の周囲に刃を大量に複製する。そのまま大剣を振り抜いた瞬間、宙に浮かぶ刃は次々に従魔を目指して飛んでいった。

「よし、俺もここに便乗しとくか!」
 姫乃が再び岩陰から飛び出す。力いっぱいライヴスを込めた真打のミョルニルを空へと向けて投げ放った。仙也の放った刃に紛れ、雷槌は従魔を目指して飛んでいく。
「今回のは本命だ! レプリカつっても、それなりに強化してれば何とかなるだろ!」
 姫乃はしたり顔で叫ぶ。二振り持っているのは予備の為らしい。お金が無いから思うように強化をグロリア社で要求できなかっただとか、そういうわけではないらしい。

「あいつの最大高度はおーよそ20くれぇ、あたしのピグが真っ直ぐ上に飛びゃあ何とか届く! そこで準備しとけ!」
 手持無沙汰にしているあいに向かって言い放つと、アルトはジェットブーツを吹かして空高くまで飛び上がった。吹き荒れる風を切り、見る間に間合いを詰めていく。
 サンダーバードは高らかに鳴いた。全身に再び稲光が走る。視界の端でそれを捉えたアルトは、握りしめるNAGATOを鳥に向かってぶん投げた。
「雷ならこいつに全部流しとけよ!」
 刹那、蒼い雷が弾けた。放たれた光はアルトの投げつけたNAGATOに流れ込む。従魔が溜め込む電気と化したライヴスは、巨大な刃が全て呑み込んでしまった。
 更に、その雷は、仙也の放った大剣の複製に次々と伝わっていく。ついには、地上に突き立てられ、六花が地面に突き立てていたランスへ全ての雷が流れ込んでいった。何故か剣戟に良く飛ぶライヴスの雷。その特性を上手く利用した形である。
 翼に溜め込んだライヴスを全て放散してしまったサンダーバードは、ただのデカい鳥になって空中を彷徨う。左の翼に、打ち落としを免れた仙也の刃が突き刺さった。後を追うように飛んで来た雷槌は、仙也の刃をさらに深々と打ち込む。

「今こそ好機!」
 嘉久也はアルスマギカを再び捲ると、素早く呪文を唱えていく。地面に浮かび上がった魔法陣が鉄のような輝きを帯びたかと思うと、銀一色の槍が中から飛び出してくる。その石突からは長い長い鎖が垂れ下がっていた。嘉久也はその槍を直接手に取ると、大きく一歩踏み込み、擲つ。先程の放電で全ての電力を吸い出されていた従魔は、その一撃を撃ち落とす事が出来ない。右の翼の中央を貫かれてしまった。
「本命の人の邪魔はしないようにしないと、ね」
 畳み掛けるように、雨月はその手を眼前にかざす。描き出された魔導書が雷を帯びたかと思うと、轟音と共に雷の槍が生み出され、一直線に飛び出した。その一撃も防御が間に合わず、従魔の胸元に直撃した。バランスを崩した従魔はその場で動きを止める。空中を突き進む杏奈とアルトは、それを見逃さない。
「アルトちゃん! ここで一気に決めるわよ!」
「オーライ! 任せとけ!」
 真っ先に動いたのは杏奈だった。箒から飛び降りると、魔導書を開きながら、ありったけの魔力を爪先へと込める。魔力が集まり、光を呑み込む闇と化す。
「喰らいなさい! リーサルダークキック!」
 片足のミサイルキック。背骨を叩き折ってやるとばかりに、杏奈はその一撃を鳥の首に叩き込んだ。喉を詰まらせたような鳴き声を上げると、バランスを崩して地上へ真っ逆さま。
「っしゃあ! ダメ押しだ!」
 アルトは両腕で鳥の頭を抱え込むと、一緒に地上へ降っていく。20メートル、10メートル、5メートル。地面が間近に見えた瞬間、アルトは背部のスラスターを噴かした。落下速を緩めると同時に、アルトは従魔を手放す。従魔は態勢を立て直せないまま、地鳴りがするほどの勢いで地面に叩きつけられた。
「さあみんな! 飛び上がる前に一気に片付けちゃいましょう!」
 颯爽と地上に舞い降り、杏奈はキメポーズを取りながら叫ぶのだった。

●止めはスマートに
「Death!」
 あいが身に纏うELスーツが光を放つ。超過駆動が始まった瞬間、あいは空高く跳び上がった。振り上げた鎌の切っ先を、立ち上がろうとする従魔に振り下ろす。翼の付け根に突き刺さった鎌は、どす黒い血に濡れていく。高まるテンションに合わせ、あいは叫ぶ。
「飛べない鳥なんてただの焼き鳥なのDeeeeath!」
『……まだ焼き鳥にはなってないわよ……まあ、なったとしても食べる気にならないけど』
 リリーは丁寧にツッコミを入れていく。しかしあいは呑気に首を傾げた。
「デス? リリー焼き鳥嫌いだったDeathか?」
『……もう、さっさと斃しちゃって』
「Death!」
 あいはこくりと頷くと、再び大上段に鎌を振りかぶった。隣では、天から落ちてきたNAGATOをキャッチし、アルトが鳥の翼に狙いを定めていた。
「っは! てめえはもう二度と飛ばさせやしねぇ! 観念しやがれってんだ!」
 トップギアもオーバードライブも、纏めて乗せた疾風怒濤でサンダーバードを斬りつける。袈裟斬りから入って、突きを見舞い、渾身の力を込めて切り上げる。風切羽はすっぱりと折れ、バランスを崩した鳥はまたしても地面へ倒れ込んだ。
「っしゃあ! 今度の今度こそ、こいつのパワーを喰らわせてやる!」
 遠くへ落ちたミョルニルを引っ掴み、姫乃は電光石火の勢いで鳥へと殺到した。踏み込む前にその身を翻し、遠心力をミョルニルのヘッドに乗せる。
「焔の如く焼き尽くす!」
 雷を帯びたハンマーは白熱していく。紅蓮のオーラを纏いながら鳥の背中に乗り上げた姫乃は、そのままハンマーを三回連続で振り下ろした。
「一つ! 二つ! 三つ!」
 一撃振り下ろす度に、羽は焦げ付き、骨が砕ける。容赦の無い一撃を受けて、鳥は何かを吐き出すような声を上げた。激しく羽ばたくと、周囲のエージェント達を振り払う。しかし、度重なる攻撃で既に羽根はボロボロ、雷が起こる気配は無かった。
「地上に降りても油断は出来んと思ったが……杞憂だったかもしれないな」
 放電索を取り付けた盾を構え、嘉久也は悠々と鳥の正面へと踏み込む。鳥は、反射的に首を伸ばして嘉久也を啄もうとする。彼は盾を振り上げて嘴を弾き返すと、返しの一撃で盾の縁を脳天に叩きつけた。武道を極めた者の、腰が入った強烈な一撃である。
 頭蓋が割れ、どす黒い血がだらだらと溢れてくる。従魔はふらつき、その場に座り込んだ。
「行きましょうか、世良さん」
「ええ! 二つの妖しい魔導のコラボレーションね!」
 一通りそれを眺めていた杏奈と雨月は、二人並んで炎を放った。片や鮮血にも似た紅蓮、片や宇宙の果てにも似た漆黒。二つの炎は混ざりあい、空へ飛ぼうと躍起になる従魔を包み込んだ。羽根が燃え上がり、周囲は焦げた臭いに覆われる。
『伝説の生物の名を与えられようと、所詮従魔は従魔か』
「まあいいじゃん? 伝説の生き物を破って蹂躙していくってのは、人間として楽しいもんだし」
 瀕死の従魔に向かって、仙也は刃の雨を投げ込む。刃は次々と突き刺さり、サンダーバードを展翅板の上に乗せられた蝶のようにしてしまった。最早抵抗する体力も無いらしい。
 あいはライヴスを溜め込んだ鎌を担ぐと、ぐったりする従魔の目の前に陣取る。超過駆動も終わりに近づき、スーツの至る所から煙が噴いている。鎌もどす黒いオーラを纏い、その姿はまるで地獄から飛び出してきた魔女のようだ。
「こいつで止めDeeeaath!」
 柄を長く長く持ち、あいは全体重を乗せて従魔の脳天に鎌の一撃を叩きつけた。頭蓋が真っ二つに叩き割られ、脳漿が周囲に飛び散る。その瞬間に従魔は息絶えた。

 その身体は光に包まれ、後には羽根の先が蒼く変色し、図体が幾回りも巨大化したワシの亡骸が遺されるのだった。

●その肉の味は……
「あおーくひかーる……」
『ダメ! 大変な事になるわよ』
 あいは何やらすれすれな発言をしようとしたらしい。血相を変えたリリーがあいの口を塞ぐ。一度は黙り込んだあいだったが、尖った指で器用に剥ぎ取った羽根を、彼女は頭の上に載せた。
「デェース! こーゆーコスプレあるデスよね! 似合ってるデスか?」
 アメリカ原住民のコスプレ、というにはどうにも見栄えが悪い。そもそも血がついている。リリーは溜め息を吐き、あいが頭に乗せた羽根を引き剥がす。
『……そんなもの直接着たりなんかしたら血がつくわよ』
「デス?」

『肉食獣の肉はあまり旨いものじゃないんだがな』
「まあ、食えるなら後は調理次第じゃん? まあどう調理するかって話だけど」
 従魔の影響で変質した亡骸を枯れ木に吊るし、仙也はナイフでてきぱきと肉を捌いていく。頸動脈を切って血抜きを済ますと、腹を捌いて何やら得体の知れない雰囲気を醸す臓物を全て取り出し、水で中身を洗い流していく。それから、食べられそうな部分だけを選り抜いて斬り落とし、ドライアイスで冷え切ったクーラーボックスの中に突っ込んでいく。
「ついでにこれも貰っていくか」
 仙也はやたらと硬質化した羽根を、皮ごとべろりと剥がす。ディオハルクはそれを覗き込み、羽根を一枚抜き取った。
『こいつはこれで発電してたのか』
「この性質を再現できるなら、ライヴスを使った発電とか、放電を応用した射出とかで武器に使えるかもしれないし、ちょっと見せとこうと思ってさ」
 羽根もクーラーボックスに押し込んだあたりで、中身がいっぱいになる。仙也は振り返ると、エージェント達に向かって手をひらひらさせる。
「これ以上貰っても食べきれないから、あとは好きにしていいぞー」
 嘉久也とエスティアはそろそろと近づき、屠畜場で吊るされたようになっている元従魔をじっと見つめる。明らかに筋張った肉の付き方だ。普段食べる肉のそれではない。
「……食べるんですか? これ」
『確かに、猛禽類の肉なんて食べる機会はないも同然ですが……』
 絶滅危惧種にも指定されている事が多い猛禽類。そもそも狩り自体が禁止されている事も多い。そんなわけで二人とも鷲の肉など食べた事が無いわけだが、改めてその肉を見ても、食欲は湧いてこない。鼻を突く血生臭さだけで食欲が引いていく。
「美味しいとも思えないんですがね」
『確かに、どんな料理を作ればいいか見当もつかないです……』
 かつての花嫁修業のおかげで料理はそこそこ得意なエスティアだったが、食べられないものを食べられるようにするほどのアイディアは出てこなかった。隣に立った杏奈も、鼻が曲がって鷲鼻になりそうな臭いに思わず顔を顰める。
「ジビエ肉はコンフィとかにするのが良いんだろうけど、作り方はわからないわね……」
『いや、何で食べる方向に話が行ってるの? 食べないよね?』
 ルナは思わずツッコミを入れてしまう。こういうのは悪い流れだ。姫乃はマフラーを口元まで引っ張り上げて近寄ってくる。
「お、喰うのか? 俺は喰わねーけどこいつは喰うぞ」
『オナカスイター』
 幻想蝶からメルト(aa0941hero001)が飛び出してきた。鳥の傍に座り込んだ彼女は手羽先を毟り、骨ごと呑み込んだ。口の中ではゴリゴリと食事らしからぬ音が響く。その肉が筋張っていようが、食べられれば何でもいいのだ。ペロペロキャンディ型の“AGW”も食べてしまった事があるメルトからすれば、食べられなくても構わないのかもしれないが。唖然としている杏奈と嘉久也をちらりと見て、姫乃は肩を竦める。
「まあ、こんな感じだ」
『お腹……壊しちゃいますよ……?』
 エスティアは思わず目を白黒させる。姫乃は肩を縮めたまま首を振る。
「そういう概念がこいつにはねーんだよな……」
「デェース! あいも食べるデェース!」
 あいは近くの枯れ枝を指でパキパキ折ると、目の前にばら撒いた。火を起こそう、という事らしい。しかし肝心の火の起こし方はよくわからず、枝と枝を無闇に擦り合わせていた。
「そんな原始的なやり方しなくても……」
 嘉久也は傍らに歩み寄ると、新聞紙をくしゃくしゃに丸め、ライターで火を点ける。いったん火がついてしまえば、乾燥した枝が燃えるのは早い。見る見るうちに立派なたき火が完成した。
「デス! 早くお肉を焼くデス!」
『よりにもよって丸焼き……? 一番まずそうなチョイスだと思うんだけど……』

「はー、終わった終わった。ケントゥリオ級……つっても身体能力自体はデクリオ級だもんな。お前の全力はもう少しつえー奴じゃねえと発揮しきれねえか」
 ピグの背中に乗り、アルトはアイドル仲間が売り出しているジンジャーエールを飲んでいた。ひりっとした辛みとほんのりした甘みが戦いの後の身体に染み渡る。
「……っつーか」
 缶を握りしめ、アルトは恐る恐る木の爆ぜる方を見る。切り分けた肉を長い枝に刺し、あいや姫乃が火で炙り続けている。肉汁が滴り、きつね色に焼け、という料理らしい類の焼け方ではない。ただでさえ硬い肉が余計に固くなって焦げ付いているだけだ。遠目で見ているだけで、アルトは整った顔をくしゃりと顰めたくなる。
「そいつ食うのかよ……お前らの食欲がしれねえ……」
 アルトの視線に気付いたのか、焦げ焦げの肉を手に取ってあいが目の前まで駆け寄ってくる。そのまま、アルトの目の前まで肉を突き出してきた。
「欲しいデス?」
「……いや、いらねーよ。マジで。減ってる腹も減らなくなるぜ……」
「ならあいが貰うデェース」
 そう言うと、勢いよくあいは肉にかぶりついた。特に不味そうな素振りを見せる事も無く、あいは一生懸命肉に齧りついている。アルトは頬を引きつらせながら、ただただ言葉を失う。
 数名のエージェントが見せるそこはかとない悪食力に、アルトはついていけないような気分に陥るのだった。

『彼らは……狩り終えた後の従魔を食しているのか』
 オールギンは、傷の様子を見ている六花の傍で、従魔の肉を取り囲んで何やらしているエージェント達の一団をじっと眺めていた。彼自身も従魔や愚神についてはその名称こそ憶えていたが、実際にそれがどんな存在かまでは憶えきれていなかったのだ。
「……ん。たまに、そうする人が……いるの。敵だったものを、食べようとする……なんて、六花には、よくわからない……けど」
 傷も癒え切らず、心がささくれ立っている六花は、どこかぶっきらぼうに呟く。オールギンはそれを横目に眺めていたが、やがて静かに語り始めた。
『その姿勢は素晴らしい……そう、我は感ずるが。この世に無駄にされるべき命など、一つも無いのだ。全ての生命は、大いなる自然の一部。要らぬものだとそのままうち捨ててしまうよりは、余程いい』
「……でも、従魔も、愚神も人類の敵だから……」
 六花は口ごもった。自分でも、自分が何を考えているのか分からなくなってくる。したい事とすべき事が混ざりあい、くるくる歯車を狂わせていた。
「そちらの方は、初めてかしらね」
 そこへ、静かに雨月が歩み寄る。オールギンは向き直ると、深々と頭を下げた。
『水瀬雨月殿、だな。その活躍は、僅かだが伺わせていただいた。宜しくお願い申し上げる。……貴公の英雄殿は?』
「ええ……私の相方は、いつも戦いが終わったら寝ているから」
 雨月は苦笑した。今日については最初に一言喋ったきり、戦いの間にも寝ていたのだが。強烈な怠惰の意志である。そんなアンブロシアはさておき、雨月は六花の傍に座り込むと、静かに尋ねた。
「りっちゃん。……魔法だとか、呪術だとか、そういった類のものを扱う人間が持っておかなければならない素質って、何だと思う?」
「……ん。……素質、ですか」
 雨月はこくりと頷き、独り言のように語りだす。
「そう。私はね、その素質は、いつでも冷静に、自分を保つ事の出来る心構えだと聞いたわ。自分は何をしたいのか、何を大切にしたいのか、どんな人間でいたいのか。それを見失ったままで魔法を使うと、自分の正気をも削ってしまうらしいわ」
 そこまで言うと、雨月は言葉を切って六花に微笑む。
「……なんて、ね。ガラじゃなかったかもしれないわね。私が言えた義理じゃないけど、あまり無理をしないようにね」
「水瀬……さん」
 立ち上がると、雨月は微笑み去っていく。六花はそれをただじっと見送っていた。

 それ行けサンダーバード 終

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
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  • 絶対零度の氷雪華
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  • 南氷洋の白鯨王
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    英雄|72才|男性|バト
  • 歪んだ狂気を砕きし刃
    あいaa5422
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  • 歪んだ狂気を砕きし刃
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