本部
掲示板
-
相談卓
最終発言2018/05/18 20:09:53 -
質問卓
最終発言2018/05/17 21:52:59 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/05/17 19:15:16
オープニング
●正義の暴走
愚神集団「シュドゥント・エジクタンス(ある筈のない存在達。以下SEと略)」への討滅部隊派遣は失敗に終わり、救援として『あなたたち』が派遣された。
その結果愚神エンヌは討たれ討滅部隊は救出された。
だがここから事態が急変する。
SEの黒幕はH.O.P.E.とアルター社内にいた過激思想派と判明すると共に、彼らによってSE討滅部隊がヴィラン認定され、過激思想派の息のかかったリンカー達がその討伐部隊として出撃した。
もちろん正規の手続きによるものでなく、SE討滅部隊のヴィラン認定は即時解除される。
だが黒幕が派遣した討伐部隊は交信を途絶していまだ連絡に応じておらず、それらの情報は無線を介し『あなたたち』に伝えられていく。
そのころ現地では、負傷したものの生き残ったSEのラカオス達の案内で『あなたたち』は、周囲を高い壁と鉄条網で囲われた施設に到着していた。
ここで無線を介し、H.O.P.E.の会長ジャスティン・バートレット(az0005)から『あなたたち』に緊急通信が入る。
『情報部の報告によると、そこは『グライヴァ―・チルドレン(愚神の子供達。以下GCと略)研究所』という名の施設のようだ。過激思想派が密かに建設したらしく、GCとされた人間達への非人道的行為が行われていた模様だ』
建物周囲を見渡すと施設は物静かで、あちこちから書類を燃やす煙があがっていた。どうやら中にいた職員達は危険を察知し逃げたらしい。
『彼らは強い英雄を生む為の踏み台として制御可能な敵が必要だった。その為に彼らはH.O.P.E.が有する特権を悪用した』
H.O.P.E.には愚神と取引をした人間を罰したり、愚神がらみの行動は超法規的措置で赦される特権がある。
SEの黒幕達はGCを愚神と認定することで、GCの家族を愚神と取引をしたとして殺し、GCを集め管理処分することを超法規的措置で認めさせた。
『そんな超法規的措置など本来ならあってはならない。彼らの理念は、人々の希望であるべくの我々のそれとは大いにかけ離れ、暴走している』
それが今回の一件におけるジャスティンの、H.O.P.E.の見解だ。
GCやGC研究所を生み出した過激思想派の所業は、絶対に認められない。
これまでは組織上層部やジャスティン会長達にも知られぬよう、自分達の行動を秘匿してきたようだが、ここまで判明した以上は看過できない。
「彼らはH.O.P.E.の名を被り、歪んだ正義を掲げる暴徒だ。どうか彼らを止めてくれ」
ジャスティンとH.O.P.E.は彼らを倒すべき『悪』と断じ、無線越しながら『あなたたち』に彼ら過激思想派の陰謀を阻止し、既に出発した討伐部隊をヴィランとして撃破するよう依頼し、通話が切れた。
「私からも説明します」
そう言ってラカオスは話しだす。
「私が名乗るラカオスと泉津槐はそのH.O.P.E.とアルター社にそれぞれ強制された管理名です。私の本名は冷泉(れいぜい)愛結(あゆ)と申します」
ラカオスこと愛結の顔から表情が消え失せ、人形と思えるほど精気のない顔で呟いた。
「誰も悪くなかったんです」
●正体
愚神の本当の狙いは不明ながらも、人間に憑依し人間の女性との間に『彼女』をなした。
女性は『彼女』を産んだだけだ。
『彼女』の父親は愚神としてH.O.P.E.過激思想派に討たれた。
母親も『この子だけは生かしてほしい』と過激思想派に願い、『彼女』という災厄を生んだ責任をとり殺された。
そして過激思想派が残った『彼女』を人間扱いせず爆弾や監視端末で縛り付け、非人道的な所業を加え使役し続けたのは、制御可能な敵役が必要な過激思想派からの『優しさ』だった。
そうやって『彼女』の周りにいた人間達は、彼女という1人の人間の意志を一切考慮する事なく、それが人間の『優しさ』だと押しつけ全てを奪った。
慈しんでくれる。叱ってくれる。甘えさせてくれる。自分の成長を見守り、優しく包み、愛してくれるもの――家族を。
彼女という1人の人間としての人生、体、意志すらも。
だから彼女は決意した。
こんなに寂しく悲しく、辛いものが人間の『優しさ』ならば。
そんなものは欲しくない。
人間達がそう望むなら。私は『愚神』を名乗り、そう振る舞おう。
それがラカオスを強いられた人間、冷泉愛結の正体。
「貴方がたは、私のことを何をやっても許される道具だと思っていますから、私はそれに応えるだけです」
彼女の顔が笑みの形を作り、自嘲の響きが声にこめられる。
「それがH.O.P.E.の本意でなく、過激思想派の暴走だとしても。私から見ればどちらも同じH.O.P.E.です」
彼女が露わにしたのは『H.O.P.E.への不信』だった。
●10分
そこまで告げたところで、愛結の体から警告音と機械的な音声が響きだす。
『H.O.P.E.より警告。愚神を爆破処理します。周囲の方々は直ちにこの愚神から10m以上離れて下さい。正義執行まで、あと10分』
警告音はなおも鳴り響く中、それすら掻き消す笑い声が周囲に響き渡った。
愛結が大声で笑っていた。涙を流しながらも楽しそうに。嬉しそうに。
「これで私はH.O.P.E.に従う必要もない。やっと私は『ラカオス』から、泉津槐から解放される! この10分間だけ私は人間、冷泉愛結に戻る事ができる!」
そして涙に濡れた晴れやかな笑顔のまま、ラカオスが愚神達を呼ぶ。
「マニブス。ループス。今までありがとうございました。私が死ぬまでの間に『人間達』に全部ばらしてくれませんか」
マニブス、ループスは頷くとループスは愛結を抱え、マニブスが中央施設に到達し、ある機械を操作する。
「命令コード変更。●●●●とのリンク切断。情報集積ポイントを変更。始めます」
その意味がわかった頃には、ネットワークに愛結や彼女と同じGCがH.O.P.E.やアルター社の過激思想派達より受け続けてきた『全て』がばらまかれた。
マニブスがハッキングした範囲のネットワークがパニック状態となり、近隣のH.O.P.E.支部には真相を求める各機関からの問い合わせが殺到した。
そんな状況の中、愛結や『あなたたち』のいるGC研究所に、ヴィラン認定されたとは知らない討伐部隊が到着する。
「我々はH.O.P.E.。『悪』を討滅し世と人々を守る盾と剣。正義の名のもとに、災厄を滅し浄化せよ」
彼らの目的は、この施設にいる全ての命と証拠の抹消だった。
●監察動く
同じころ、独自の手段で情報を入手した愚神ニア・エートゥス(az0075)とその手勢も研究所に辿り着いていた。
「可能な限り、過激思想派がやらかした所業のデータと証拠を収集して下さい」
ニア達もまた施設内へとなだれ込む。
H.O.P.E.の名を被った過激思想派、SE、『監察』が『暴走の証拠』を奪い合う三つ巴の争いが始まる。
解説
●目標
討伐部隊の撃破
ラカオス及び施設内にある証拠確保
元SE討滅部隊員の人的被害拡大を防ぐ
失敗条件
ラカオスの死亡
元SE討滅部隊員が半分以上死亡する
登場
ラカオス
本名は冷泉(れいぜい)愛結(あゆ)。全身に記録装置や爆弾を埋め込まれている。
現在その爆弾が起動し、爆発まで残り10分。
協力してもらう場合、過去ラカオスが人間達より『一生分』浴びた悪意や不信の解決が必要。その際言葉だけでなく具体的行動が必須だが非常に難しい。
SEの愚神達
マニブスとループス。下記中央施設にラカオスと共にいる。下記過激思想派の所業をH.O.P.E.の行為として情報拡散中。
討伐部隊
過激思想派より派遣されたリンカー達。40人程度。銃や刀、槍で武装。建物内の証拠と命の抹消を優先。既にH.O.P.E.よりヴィラン認定されている。
ニア・エートゥス
『監察』の二つ名があるトリブヌス級愚神。従魔ムンギア達を多数率いる。今回はラカオスを含めた証拠収集が優先。
状況
GC収容施設。施設の壁は脱走予防の為、AGWでも壊せないほど頑丈。無線貸与済。
H.O.P.E.とアルター社がラカオス達GCに対し行った非人道的所業の証拠が残存中。先のSE討滅部隊員達20人と愚神エンヌの依代だった女の子もここに避難中。現在討伐部隊とニア勢が施設両端から扉を破壊し侵入開始。
以下施設の大まかな見取り図
討伐部隊
ABCDEFGHIJKLM
□□□□□↓↓↓□□□□□1
□&&□/////□@@□2
□□/□/□□□/□□/□3
□////□中□////□4
□□/□/扉/扉/□□/□5
□@@□/□□□/□&/□6
□@@□/////□&&□7
□□□□□↑↑↑□□□□□8
ニア勢
中;中央施設。SEがいる
扉:開閉は容易
@:元SE討滅隊員(依代だった女の子含む)
&:人体実験を含む資料群
リプレイ
●10分
この日、『グライヴァ―チルドレン(愚神の子供達。以下GCと略)研究所』は常にない喧騒に包まれていた。
建物の外では、この建物と中にいる全ての命を屠るために遣わされた討伐部隊が、入口をこじ開けるべく扉を攻撃し続け、建物の反対側では、トリブヌス級愚神ニア・エートゥス(az0075)が暴風を顕現して扉を削り続けている。
「……私たちは、私たちに出来ることを。資料、取りに行こう!」
「えぇ。僕達は僕達に出来る事を」
御代 つくし(aa0657)とメグル(aa0657hero001)はお互いにそう言い交すと共鳴し、討伐部隊が迫る側の方面からGC研究所にある証拠の数々の回収にかかる。
途中で避難させた元討滅部隊員に、ある女の子を託しながら。
「その子を護って下さい。私たちはリンカーだけど、その子は普通の子です! リンカーの攻撃を受けたら死んじゃうかもしれないんです!」
つくしが託したのは愚神集団『シュドゥント・エジクタンス(ある筈のない存在達。以下SEと略)』所属の愚神エンヌに憑依されていた女の子だ。
今この研究所に攻め寄せている討伐部隊はその子にGCの烙印を押し、世界の悪とした。
だがつくしやここに集ったエージェント達はその子を人間として尊重している。
戸惑う元SE討滅部隊員を、つくしは一喝する。
「ここで全部無くなっちゃったら、あなたたちは濡れ衣を着せられたままになっちゃうんですよ! そんなの許せるわけないじゃないですか!」
つくしの指示に討滅部隊員達が動く中、38(aa1426hero001)と共鳴したツラナミ(aa1426)もライヴス通信機「雫」で連絡を取り合い、証拠と資料を確保して回る。
(さて、と……。こういう派手な仕事は俺より適任な奴等がいるだろうと常々思うわけだがどう思う?)
(やると決めたのは、ツラナミだから。さっさと動く)
38に尻を叩かれ、ツラナミはやる気なさげに応じる。
(……あー、だる)
思考とは裏腹に、ツラナミは潜伏を駆使して身を潜めながら、収集活動を淀みなく進めている。
なおツラナミは討伐部隊とニア勢が建物内に突入次第、両者をぶつけ合わせる予定だ。
(ツラナミ、彼女の方はどうするの?)
「お嬢さんの対応は味方に任せる。俺の仕事じゃあないんでね」
38の指摘に、ツラナミは一瞬中央制御室に視線を向け、そう答えるにとどめた。
その中央制御室では『愚神』ラカオスを強制されていた冷泉(れいぜい)愛結(あゆ)が自らの正体を暴露していたが、既に自爆装置が発動し『爆破まであと10分』と耳障りな警告音を発している。
「10分か……短い、な」
宿輪 遥(aa2214hero001)と共鳴した宿輪 永(aa2214)は眼前の愛結に与えられた猶予をそう評する。
冷泉愛結として生きられるのが、わずか10分とはあまりにも短すぎる。
(……させない。絶対に、ここで死ぬなんて、させない……)
彼女はまだ解放されているわけじゃない。冷泉愛結として生かされていない。
現に爆弾で命を管理されているじゃないか。
その想いは遥も、そして永も同じだった。
SE――ある筈のない存在達。だがこれまで長らくSEや愛結と関わり続けた永と遥は、その呼称に込められた意図を認識していた。
『ウィー・アー・シュドゥント・エジクタンス(私達は存在してはならない)』。
それがSEの正式呼称であり、H.O.P.E.の名を被っていた過激思想派が愛結たちGCに課した運命。
「ある筈のない存在達というのは、そういう意味だったんだな」
だがその意味通りに終わらせるつもりは、永も遥もない。
『浄化まで、あと●分。全ては偉大なるH.O.P.E.と正義の名のもとに』
愛結の体より響く警告音とアナウンスが過激思想派の暴走を喧伝し、共鳴を終えたライガ(aa4573)はそのアナウンス内容を『ハッ、いけ好かねぇな』と吐き捨てた。
「連中の思惑通りにさせるのは癪だな……」
だからライガは愛結に告げる。
「お前も俺様の様に己を誇って、生きるか死ぬか、好きに選べ。過激思想派だったか? そんな屑共の言葉を真に受けて生きるってのが、俺様としてはいけ好かねえぜ」
尊大なライガでも『愛結の生死など知ったことではない』『恨み事で左右されるなんざ、ちっぽけ過ぎるんだよ』と言い放つことは愛結を傷つけて感情を硬化させ、仲間達の救命活動を失敗させてしまうと判断できるだけの分別はあった。
ライガの言葉には過激思想派の思惑に抗って生きるよう奮起を促し、仲間達が必ず救うという意図も込められていた。
「愛結さん、私達H.O.P.E.は貴女をきっと守ってみせます。貴女がいままでみてきたモノがH.O.P.E.なら、いまから私達がみせるモノも紛れもないH.O.P.E.です!」
大宮 朝霞(aa0476)は愛結の手を取り、そう訴えかける。
「だそうだ。人としての生をせっかく取り戻したんだ。それがたったの10分というのはもったいないぜ」
そう言い添えるニクノイーサ(aa0476hero001)だが、朝霞もニクノイーサも、言葉だけで愛結の不信を取り除けるとは思っていない。
だからこれから行動で守ると示す。
「いくわよ、ニック! 変身、ミラクル☆トランスフォーム!」
そして朝霞はニクノイーサと共鳴し、『聖霊紫帝闘士ウラワンダー』と称する姿となって、これからやってくる討伐部隊やニア達の迎撃に向かう。
「手短に自己紹介するわ。志々 紅夏よ。よろしく、アユ」
保志 翼(aa4282hero001)と共鳴した志々 紅夏(aa4282)も愛結に挨拶し、一気にまくしたてる。
「あんたは自分を道具と言うけど、私にはあんたが人にしか見えない。H.O.P.E.だからって全員が同じ思考とかないわ。私の心は私だけのもの。あんたの心があんただけのものなのと同じ。今度温泉入ったりパフェ食べたりしましょ」
そこまで言ってから紅夏は愛結に指を出す。
「最後まで諦めない奴が未来を掴むのよ。正義や希望のお仕事じゃなく、あんた自身の意思。生きたいか逝きたいかの話。私達はあんたが未来を掴めると約束する」
そう言って紅夏は愛結の指を取って指切りしたあと、傍にいる愚神ループス、マニブスに提案する。
「停戦しましょ。終わったら考えないといけないけど。お互い悪い話じゃないと思うわよ」
マニブスがハッキングの手を止めて頷き、ループスも機器から手を引くのを確認した紅夏は『私はバカ共の相手してくるわ』と言い残し部屋の外に飛び出す。
SEとの停戦が成立したところで、迫間 央(aa1445)は、愛結に1枚の名刺を見せる。
「久しぶりだな。お前は覚えていないかも知れんが……お前から貰ったSEの名刺、今でもまだ持っている」
それは央が初めてラカオスやループスと対峙した時、ラカオスが差し出したものだった。
「改めてはじめまして冷泉愛結。俺は迫間央、社会を支える歯車、公務員だ」
あのときの央達の尽力によってシャレーク(az0045hero001)と真継優輝(az0045)は救われ、共にエージェントの道を目指し、今は救援として建物内を駆けまわっている。
「10分だけなんて悲しい事言うな、これから何年でも何十年でもお前は自分の時間を取り戻していい」
そのために、必ず救うと央は誓い、マイヤ サーア(aa1445hero001)も愛結に約束する。
「今までのあなたが受けてきた仕打ちを考えれば『信じて』なんて言えないけど、央は約束を違えないわ」
「事務屋とは言え俺も社会を支える職に就く者。この社会が生んだ、社会が救えなかった被害者であるお前が望むなら、俺は償う方法を探そう」
央はそう言うとマイヤと共鳴し、愛結の自爆装置と立ち向かう。
そして建物北側の扉が叫喚をあげて倒壊し、ほぼ同時に南側の扉も欠片を宙に舞わせて粉砕され、それぞれこじ開けられた空間から討伐部隊とニア率いる従魔勢が建物内へと押し寄せてきた。
(六花。討伐部隊は総数およそ40。ニア達は恐らくその倍以上はいるわ。散開される前に衝突させましょう)
「……ん。誘導してから、愛結さんを護り抜く」
それぞれの動向はアルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)と共鳴した氷鏡 六花(aa4969)がマナチェイサーを駆使して捕捉し、ライヴス通信機「遠雷」を介して逐次味方に報告される。
連絡後六花は愛結のもとに駆けつけ、央と共同で愛結の自爆装置を解除する作業にとりかかった。
そしてライガは六花と入れ替わる形で討伐部隊やニア勢を確認し、不敵な笑みで言い放つ。
「絶望の時間が始まるぜ、有象無象」
ここにエージェント達の3正面作戦が始まる。
●其は盾
まず建物北側で朝霞、つくし、紅夏が討伐部隊と対峙する。
「きいてください。貴方達はヴィラン認定されました。少しでもH.O.P.E.の誇りがあるなら、私達に協力して」
朝霞が無駄とは思いながらも討伐部隊へ戦闘停止をもちかける。
(朝霞。多分聞く耳を持たないだろうから、あの連中が武器を構えたら仲間を庇え)
(そのつもりだよ、ニック)
ニクノイーサと朝霞が心中でそう言いあう中、討伐部隊員が胸をそらし傲然と言い放つ。
「ここにいる者達は存在自体が邪悪だ。そんな話など信じるものか。我々は救世主。我々こそ悪を討つヒーロー。我々は間違っていない。我々がやることは全て正義だ!」
「ハッ、そんなに悪が好きなら鏡で自分のツラ眺めなさいよ、悪党共!」
幾分本音も混じった紅夏の挑発に、紅夏の内にいる翼は沈黙して応えず、討伐部隊員達が気色ばむ。
「あんた達もうヴィランだから正義の味方じゃないの、討伐される悪よ! 嘘だと思うならH.O.P.E.に聞いてみたら? それと、あの大物愚神を討伐しない限りあんたらは終わりよ」
そこまで言い切って紅夏は小柄な身を半転させ、後方よりやってくるニア達を指し示す。
「ここにいるのはただの『人間』です! あなたたちが言う『悪』なんてどこにもいない! それでも剣を握るなら、ちょっと痛いのは覚悟してくださいね!」
(相手もリンカーです、多少手加減は無くても大丈夫でしょう。……止めだけは刺さないよう、気を付けて下さい)
つくしは最後通牒を討伐部隊に突き付け、メグルはそんなつくしに『やりすぎ注意』と釘を刺す。
「我々を否定するお前達こそ悪だ! 正義の敵だ! 正義の一撃をくらえ!」
討伐部隊員の言葉に呼応して機銃の発射音が鳴り渡った。
H.O.P.E.の制服を纏う討伐部隊員達の構える銃器型AGWが吼えたけり、朝霞やつくし、紅夏たちに弾丸状ライヴスが殺到する。
朝霞が討伐部隊の放つ弾雨の前に立ちはだかると、空中にハートマークのエフェクトを撒いたレインメイカー+3を構え、急所を庇う。
朝霞の掲げたハートマークのオブジェつきという可愛らしい形状に改造されたレインメーカーは、討伐部隊員達の銃撃を弾き飛ばし、他の仲間への銃撃を体を張って防ぎ止めた。
「GC研究所もこの討伐部隊も……。こんなことが許されていいわけない!」
(同感だ。ここからはお仕事の時間だ)
迎撃までの間に確認できた、GCへの所業を示す証拠の数々は、朝霞とニクノイーサにとっても容認できないものだった。
討伐部隊の放った弾丸状ライヴス達が建物内の壁や床に弾着の火花や破片を散らす中、ツラナミが弾雨の隙間を縫うように動き、時には潜伏を駆使して姿を消し、玻璃「ニーエ・シュトゥルナ」を駆使した不意打ちも行い、討伐隊員達を翻弄する。
「こっちはダメだ。一度――」
ライヴス通信機「雫」で仲間と連絡を取るふりをしながら、自分に向けられる銃撃をひらりひらりと躱し、討伐部隊員達をニアや従魔達のもとへと誘導する。
その討伐部隊に向け幾条もの光が空間に煌めく。ライガのストームエッジだ。
「俺様に目を付けられた不幸でも悔いて地に伏せな」
ライガの尊大な口調と共に放たれた、ウルフバート状のストームエッジが機銃型AGWを咆哮させていた討伐部隊員の体を引き裂き、討伐部隊員は声にならない悲鳴を上げ、鮮血を撒いて倒れ伏す。
(つくし。ここで敵を混乱させる一手を打ちましょう)
「少しその辺で転がってて下さい!」
そこへメグルの助言を受けたつくしの宣言と共に、ブルームフレアが討伐部隊員達へと放たれ、討伐部隊員達のただ中に火焔の花が咲いた。
業火が噴き上がり、その場にいた討伐部隊員達が炎に包まれ、炎を背負った討伐部隊員達がまとめて戦闘不能になって転倒する。
ツラナミと連絡を取り合い、討伐部隊員達に混乱が生じたと見た紅夏は、守るべき誓いを発動する。
「あんた達をこの先に向かわせるわけにはいかないのよね」
紅夏より拡散されたライヴスが討伐部隊員達やムンギアら従魔達の意識を絡め取り、紅夏へと攻撃を向けさせる。
そこへライガがウルフバートによるインタラプトシールドを紅夏へと発動した。
「シシ、防いでやるから上手くやりな!」
ライガの召喚した無数の武器はモザイク状の盾となって紅夏への攻撃を防ぎ、インタラプトシールドを突破した攻撃も紅夏のクロスガードで防がれる。
「今よ、ツラナミ。ひっかき回して」
『了解だ、紅夏さん』
その間に紅夏のライヴス通信機「雫」を介して連絡を受けたツラナミが、イメージプロジェクターで自分の姿を討伐部隊員と同じ制服姿に変装し、紅夏の引き寄せた敵達のもとへ忍び寄る。
(ツラナミ。仲間達が作った機会をしっかり活かすんだよ)
「……あー、わかった」
38からの念押しに、ツラナミは気だるげに応じながらも討伐部隊員に扮して声を張り上げる。
「愚神が来るぞ! ラカオスを奪わせるな!」
「従魔達は周囲に潜伏して奇襲を試みるつもりだ!」
「愚神達は、俺達も殲滅する気だ! 急いで迎撃しろ!」
ツラナミがそんな流言を叫び回ると、討伐部隊員達の動揺を湧き立たせ、ツラナミの繚乱で生じた混乱に拍車をかけ、ついに討伐部隊員達がムンギア達へと襲いかかり、討伐部隊員達と従魔勢の混戦があちこちで沸き起こった。
(大声ってのは出すだけで疲れるもんだ。勘弁してほしいねぇ……)
内心そう思いながらもツラナミの活動は続き、混乱する建物内を駆け抜けたつくしは、途中合流した朝霞に護られながらニアのもとに辿り着く。
「ニア!ココから先には行かせない!」
(朝霞、わかっているとは思うが相手はトリブヌス級。勝ち目はゼロだが幾ばくかの時間は稼げるはずだ)
「愛結さんの起爆装置を解除できるまでもてばいいわ! いくわよ!」
朝霞とニクノイーサは『ウラワンダー☆ソード』と名付けたディフェンダー+5を構え、リジェネーションを自分に付与してニアとの戦闘を覚悟していたが、それをつくしが手で制し前に出る。
「あなたは、何をしにここへ来たんですか」
「ここにある情報と証拠の収集です」
ニアは自分達の目的が過激思想派の所業を示す証拠の収集だと告げる。
(相手はトリブヌス級です。話は通じる敵ではありますが十分注意して下さい)
メグルの忠告に頷きながら、つくしはニアに提案する。
「もしもここの情報を半分でも渡せば、あなたは帰ってくれるんですか」
ニアはつくしの提案に興味を持つ。しばしやり取りした後、つくしは『情報の幾ばくかの提供』と引き換えに、ことが終わるまでニア達は、エージェント達及び救助対象に手を出さない事に承諾させることに成功する。
直ちにその情報はライヴス通信機「雫」を介し仲間達に伝えられ、愛結の救助活動が本格化する。
●再生
仲間達がこれまでの間にかき集めてくれた証拠の数々を確認した央や永、六花達は、愛結とGC、その家族が受けてきた仕打ちの内容に慄然とし、理解する。
愛結はH.O.P.E.を信じていないのではなく、赦さないのだと。
永はケアレイで愛結の負傷を回復させた後共鳴を解き、自爆装置解除が間に合わない事態を想定して、傍にいたループスやマニブスに愛結への憑依を打診する。
「……憑依されること……で爆風を退け……られる……はず」
「オレ達が信頼出来なくても、愚神達なら信頼出来る、だろ……?」
遥もそう言い添えて永の提案を後押しし、その上で愛結に訴える。
「オレ達で、爆弾を解除出来る……かもしれない。……どうか任せて、くれないか」
「“悲しみを軸にして物事を考えるか、未来を軸にして考えるか”……以前、そう言われた……な」
それはかつて愛結が遥を介し、永に示した考え方だった。いま永は、それを愛結に返す。
「それなら、今のお前……は……何を軸にして、考えている…?」
お前の思考の先に、行動の先に未来はあるのか。
たった『10分』で、満足なのか。
遥も覚悟を示す。
「……信頼出来ても、出来なくても、オレは、ハルと……共鳴しない。お前が受けた『一生分の悪意』を、一緒に受ける……よ」
遥は幻想蝶を取り出して愛結に渡そうとするが、それは愛結に止められた。
「お前の人生は、冷泉愛結としての人生は、10分程度で済ませていい、もの……なのか?」
「10分だけで……いいわけないでしょう」
それは永と遥が引き出した愛結の本心だった。頑なだった愛結の心にひびが入り、一部だが愛結の本心が露わになっている。
「何でもするなんて調子のいい事は言えない。だが、恥を承知で頼む。H.O.P.E.が、社会が、世界が……一度だけでいい、お前達に償うチャンスをくれ! お前と同じ境遇の子供達をこれ以上増やさない為に!」
央は愛結に懇願するが、愛結は答えない。それでも央は鍵師で自爆装置の解除を試みる。
何かを解除できた感触が央に伝わるが、依然警告音は続いている。
(央、まずいわよ。自爆装置が複数に分かれてそれぞれ独立しているから、複数回試みないと全て解除できない構造よ)
マイヤの警告を受け、央は愛結に悟られぬよう一度愛結から離れ、仲間達に小声で状況を説明した後、再度鍵師による解除に取り組み、六花も解除に加わる。
六花はマジックアンロックで自爆の解除につながる仕掛けを探し、解除を試みたが魔法的な仕掛けは存在しなかったので、これは不発に終わる。
それでも愛結の体に残るのは機械的な仕掛けのみと明らかにしたことから、六花の行動は無駄ではないが、六花はマジックアンロックを行使し続ける。
「H.O.P.E.が……貴女にしたこと……決して……赦されることでは……ない……です」
六花は苦しそうに言葉を絞り出し、それでも『分かって欲しい』と訴える。
――愛結の知る『優しさ』は違うと。
「……貴女がされてきたことは……『優しさ』なんかじゃ……ない。ほんとの『優しさ』っていうのは……もっと別の……」
そこで六花は言葉に詰まり、優しさとは別の、自分の両親が愚神に殺された話、悔しかったことを話す。
……こんな時、ママとパパだったらなんて云っただろう。
どうしてこんなに六花は、何も知らないんだろう?
「貴女が……寂しかった時、誰かに、手を差伸べて欲しかった時……助けてあげられなくて……本当に……ごめん……なさい」
……六花は素直な心でぶつかっている。誤魔化す事もできなければ嘘もつけない。傷つかないはずがない。
(……辛いことだけれど)
けれど、本当はこれが一番いいかもしれないと、アルヴィナは考える。
(一度壊れたものを元に戻すのはひどく困難よね。目に見えない形のないものならなおのこと。でも六花ならきっと『正解』に辿り着ける)
アルヴィナは愛結の不信の根幹を言い当てていたが、六花に向ける眼差しは慈愛が含まれていた。
六花は携帯品よりアゾットダガーを逆手で取り出し、片手で刃を自分に向け、もう片方の手で愛結の手を手繰り寄せ、アゾットダガーの柄に添える。
「貴女が……『一生分』受けた、苦しみ……ぜんぶ……六花の体で……受け止めたい……です」
信じられないのならこのまま刺してほしいと、六花は訴える。
「六花は……私達は……爆発する瞬間まで……爆弾解除を、諦めません。爆発しちゃうなら……六花も……一緒に死にます。その前に……貴女に刺し殺されても……本望……です」
実際そうされてもよかった。
それだけの仕打ちを愛結やGC、その家族は受けてきたのだから。
アルヴィナは六花を制止しなかった。何故なら六花と同様、愛結のことも信じていたから。
「……ふざけないで下さい」
愛結がぼそりと呟いた。
「貴方達は仇ではありません」
愛結の手がアゾットダガーを握る六花の手をゆっくりと横に押しのける。
愛結はH.O.P.E.の破滅を望んでいたが、所属するというだけでその全員を憎むことはできなかった。
いままで助けを求められない状態の中でも、眼前のエージェント達はこれまで自分達を一人の人間として尊重し続けてくれたから。
エージェント達のこれまでの努力は無駄ではなかった。
そもそも前提が間違っている。本当は六花もこの場にいるエージェント達も、程度の差こそあるが愛結と同じ過激思想派の被害者だ。
(どうしようもなく、そうなってしまうことはあるのよね。でもこの心のふれあいは、きっと無駄ではないはずよ)
マイヤはそう願いながら、央の解除作業を後押しし、央も頷く。
「ああ、そうだな。ここで終わらせたりはしない」
響く警告音が減っていく。央の鍵師によって、愛結の自爆装置が解除されていく。
「……どちらも同じH.O.P.E.だ……と、言うのなら。……自らの手で、一発殴りに行かなければ……だろう。お前の手で、お前の……言葉で」
永は愛結の処罰感情を否定しない。愛結の意志を尊重してそう提案する。
「仰る通り私はH.O.P.E.を赦せません。信じるには奪われ過ぎました。もう期待して裏切られたくなかったんです」
そう淡々と話していた愛結だが、『ですが』と続けた。
「……今、貴方達を信じられなければ。……私は私が知るどんな人間達よりも、最低の人間です」
六花の背におずおずと手が回る。指の感触を感じた六花は、小さい体で愛結の身を抱きしめる。
そして耳障りなアナウンスが『我々は正義の』と言ったところで、今まで愛結から発されていた警告音が止まる。
それはこれまで愛結の意志や行動を縛っていた自爆装置が解除され、愛結が覚悟していた死が消えた事を示していた。
「生きて、くれ。ここで死んで、ゼロになるより……きっと、その方が……色んな道が、ある」
それが永の。エージェント達の。そしてGCとして犠牲になった人達が生き残った愛結に願ったこと。
愛結の表情が崩れ、泣き顔に変わる。
「……ありがとう。貴方達が来てくれてよかった……」
限界だった。六花の肩に顔を押し付け、声を殺して愛結は泣く。
諦めていた。けれど憧れていた。
――何者にも脅かされない、人間として生きてもいい日々を。
偽りの優しさで奪われ続けた一つの命が、エージェント達の本物の『優しさ』に出会い、救われてようやく冷泉愛結として『生まれた』瞬間だった。
●懲悪の時
それまで討伐部隊を防ぎ止めていた紅夏、ツラナミ、つくし、朝霞、ライガのところに愛結の自爆を阻止し再共鳴した央、六花、永達も合流し、全員が揃う。
伏して怯え、座して終わりを待てヴィランども。
汝らの眼前に立つは死の待ち人にあらず。
其は不退転の希望にして8組の戦意(ブレイブ)達。
「この裏切り者め! GCと愚神を庇うお前達など世界に仇なす悪だ!」
思うように活動ができない状況に、討伐部隊員の1人が歯軋りしてエージェント達を罵倒する。
「頭沸いてるの?」
紅夏が冷えた目を討伐部隊に向ける。
この建物にこびりつく血の匂いや腐臭が、不愉快だ。
この場所そのものが、不愉快だ。
ここでGCに仕立て上げた人々に理不尽を押し付けたあの連中が、不愉快だ。
(……)
翼は沈黙しているが、その苛立ちが紅夏に伝わってくる。
「あんた達はもう正義の味方じゃないって、言ってもわからないの? じゃあ話はここでおしまいなのよ」
紅夏は唇の端を吊り上げ、告げる。
「蹂躙してやるわ、悪党ども」
紅夏の守るべき誓いが再び放たれ、討伐部隊の攻撃先を制限し、自分のもとへと向けていく。
「裏切ってなどいない。おまえ達のほうが人でなしだ」
(ようやく助けられたんだ。死なせはしない……!)
嫌いな相手に向ける口調で、永は遥と共に討伐部隊へと突っ込んでいく。
討伐部隊よ。独善に酔い人間達を『悪』と貶め奪い続けた悪鬼達よ。
戦おう。これ以上命を踏みにじらせぬよう。これ以上何も奪わせぬよう。
懲悪の時だ、H.O.P.E.の名を被ったヴィラン達!
永はスヴァリンを掲げて討伐部隊の銃撃を跳ね返しながら、それまでの戦闘で負傷した味方をケアレイで治療し、戦闘不能で周囲に転がる討伐部隊員達をセーフティガスで眠らせ、優輝と共に拘束していく。
「連中は愚神で邪悪だと皆が言っている! そんな人々のために、我々はあるのだ!」
討伐部隊員の叫びにつくしが反応する。
「みんなって誰? 直接話がしたいから誰なのか言って」
つくしの指摘に討伐部隊は答えない。
「誰もいないんでしょ? あなた達の頭の中にいる都合のいい虚像の人々の意見でしょ? 存在しない他人のせいにしないでよね」
(つくし。さっさと黙らせましょう。彼らの言い分を聞くのは後でもいいはずです)
メグルの指摘につくしは頷くと、ゴーストウィンドを発動し、不浄の風を解き放つ。
つくしより放たれたゴーストウィンドはその不浄なライヴスで範囲内にいた隊員達の身を蝕み、次々と隊員達を戦闘不能にしていく。
この時周囲にある証拠書類や記憶媒体は、朝霞が片っ端から幻想蝶にしまいこみ回収していた。
「今のうちに確保できるものは回収しないとね」
(おいおい、幻想蝶は収納ボックスじゃないぞ)
ニクノイーサが控えめに抗議するが、朝霞の回収作業は止まる気配がなく、朝霞の回収作業や救助対象の防衛をツラナミが駆けまわり、支援していた。
武器を三日月宗近+5に切り替えたツラナミに、刀を上段に構えた討伐部隊員が突進する。斬りこんだ斬撃をツラナミは軽く体をひいて躱し、三日月宗近を一閃する。
斬りこんだ討伐部隊員がツラナミの一刀のもとに背を割られ、悲鳴を上げて倒れこむと、散った血飛沫が討伐部隊の憤激を呼び、次々と刀槍を振りかざした討伐部隊員達がツラナミに殺到する。
(ツラナミ。今ならまとめて倒せるはずだよ)
「あー……じゃあ、これを使えばいいんだろう?」
38の指摘を受け、ツラナミはやる気なさげに応じ、繚乱を発動した。
ツラナミの足元の影より花弁の群れが渦を巻いて周囲へと舞い散り、花弁に絡まれた討伐部隊員達は意識を削られて朦朧となり、ムンギア達は花弁に包まれ、そのまま塵と化し消えていく。
「連中は邪悪だ! 傍にいる人間達を洗脳し毒していく! その証拠にお前達も会長も我らを尊敬せずにヴィラン扱いするではないか!」
討伐部隊の叫びがなおも騒々しく響くが、エージェント達は何の感慨も与えない。
(狂信者によくいるタイプよね。勝手に自分の願望を他人に押し付けて勝手に失望していくから始末に負えないわ)
アルヴィナは氷雪を司る女神と言われているが、その性質上信仰する人間達の心理に通じる部分もあり、その分析は確かだった。今アルヴィナが討伐部隊に見せているのは、敵と断じた相手への冬の厳しさだが。
「……その口で……会長を……六花たちを……語らないで」
拒絶の風を発動し、氷雪を帯びたようなライヴスの風を纏った六花は、背後に愚神エンヌに憑依され、今は救助された女の子を庇いながらも、感情のこもらない声で討伐部隊の主張を切り捨てる。
いま眼前にいる連中をH.O.P.E.だと認めてしまったら、『六花』は自分の信じている【人間】を否定することになる。
六花が改造し、『氷鏡(アイスリフレクトミラー)』と命名された【SW本】リフレクトミラーの効果で複数の氷の鏡が六花の周囲に顕現し展開する中、六花は眼前に迫る討伐隊員に向け終焉之書絶零断章+5のライヴスを解放した。
六花の手の先に魔法陣が現れ、次いで絶対零度のライヴスが氷の槍状に収束して隊員へと射出され、周囲に拡散した『氷鏡(アイスリフレクトミラー)』からも絶対零度のライヴスが乱反射して周囲にぶちまけられた。
まともに六花のライヴスを浴びた討伐部隊員達は、凍結のような拘束を受け一気に生命力を強奪され、戦闘不能となって倒れ伏すも、後続の隊員達がなおも六花に殺到する。
『ヒカガミ。後ろのやつを抱えて少し下がれ』
そこへライヴス通信機「遠雷」を介してライガが六花に警告を飛ばし、六花達の退避を確認したライガはライヴスキャスターを発動する。
「元を断つ……か。爆ぜやがれ」
ライガの周囲に展開したLSR-M110の形状をした無数の武器から、銃声が大気を割れ返らせて轟いた。
風が鳴り、無数の弾丸状ライヴスが唸りをあげて飛び渡り、一塊になったライヴスの嵐に討伐部隊員達が撃ちぬかれ、鮮血の霧をあげて転倒する。
「勘違いするなよ。俺様は別にGCとかに思い入れはないぜ。今回はただ『やったことが仕返しされた』ってだけだ。自分もそうなると思ってなかったのか? それは酷い認識だぜ。だからこういう目に遭うんだよな」
戦闘不能となり意識を失っていく討伐部隊員達に向け、ライガはそう言い捨て背を向ける。
残る討伐部隊員は愛結のもとに向かっていたが、央のターゲットドロウに巻き込まれ、愛結への攻撃を央が庇う。
「愛結を『監察』やおまえ達に渡してやる訳にはいかんからな」
彼女を傷付けるモノを排除し彼女を守る。それが最初の償いで約束だから。
(央が守ると言ったら守るわよ。何せ素戔嗚尊だから。八岐大蛇を倒した伝承のようにね)
マイヤも央の決意を後押しする。
六花はもう一人のGCを護りに行った。ならば俺はここで愛結を護り抜く。
央はエマージェンシーで周囲の奇襲を警戒しつつ、天叢雲剣+5を抜いて討伐隊員達を迎え撃つ。
いざ声高らかに叫べ災厄達よ。
理不尽を打破し、戦慄と共に佇むその影は。
伝承より現世へと現れた驍勇(ぎょうゆう)なり。
穢れのない白刃の軌跡を描き、央の天叢雲剣が横合いから斬りつけた討伐部隊員の刀を弾き、疾風の切り返しを見せた天叢雲剣が討伐部隊員の胸を裂く。
血煙を上げて倒れこむ討伐部隊員を飛び越え、新手の討伐部隊員達が央に押し寄せたところで、央は繚乱を発動した。
央の足元周囲が霞むと無数の花弁が噴き上がり、その花弁の群れが討伐部隊員達を絡め取ると、討伐部隊員の意識と生命力を削りとり、戦闘不能となった討伐部隊員達の山を築いていく。
繚乱で生命力の大半を奪われながらもいまだ踏みとどまる討伐部隊員には、武器をレインメーカーに戻した朝霞が突進し、急速に間合を詰めていた。
(朝霞。こいつで最後だ。仕留めるぞ)
「これで終わらせるよ、ニック」
短くニクノイーサを言い交した朝霞の言葉と共にレインメーカーが舞った。
ハートマークのエフェクトが宙に舞い、打撃音と共に最後の討伐部隊員が宙を舞う。
地面に叩きつけられた討伐部隊員が戦闘不能の仲間入りを果たし、ここに討伐部隊は壊滅した。
残るはニア達だが、討伐部隊が壊滅するまでニアや従魔達はエージェント達や愛結達GCに手を出さず、静観していた。
つくしとの約定通り、一部の証拠を入手した後は手出しを控えたようだが、そのニアに六花が近付いて、告げる。
「六花……もう二度と……愚神は信じない……。貴方が何を言おうと……耳なんて貸さない。貴方のことも……いつか必ず……殺してあげる」
六花の宣戦布告にニアは微笑を浮かべ『どうぞご自由に』と述べると指を鳴らす。
その場に一瞬黒色の暴風が吹き荒び、つかの間エージェント達の視界を塞ぐ。
やがて風がおさまった頃、ニアや従魔達の姿は消えていた。
●成果
ニア達が去った後、GC研究所に真継優輝の根回しで派遣されたH.O.P.E.救援部隊が到着した。
このころにはループスとマニブスもいつの間にか姿を消し、エージェント達は到着した救援部隊に元SE討滅部隊と元GCの女の子の保護、撃破した討伐部隊の収容を託し、帰還する。
「これだけやったんだ。ただで済むわけがないよな。関わってた連中の人間関係、しばらく荒れそうだぜ」
帰還したライガは今後をそう予想して見せた。
――俺様としてはどうでもいいが。
「ツラナミにしてはよくやったほうだよ。おつかれ」
「……次はもっと地味な依頼、だな」
38のねぎらいに、ツラナミはだるそうに答えながら両者は帰路に就く。
本人はやる気なさげではあったが、ツラナミは言動と裏腹に各所を駆けずり回って支援し、護り抜いていた。
「ハル。今日の誓約は?」
「……雲外蒼天……だ、な」
遥の本日の『課題』に永はそう答える。
困難を乗り越え、努力して克服すれば青空が望める。絶望しないという意味もある言葉を永は本日の『誓約』とした。
「友達の約束は守るものよ」
――あんたがどう思おうと見捨てないわ。
そう言って、翼を引き連れた紅夏は救われた愛結を迎え入れた。
その冷泉愛結はエージェント達が同伴のもとH.O.P.E.の保護を受け入れ、エージェント達によって無力化された自爆装置や体に残る各装置の摘出手術を受ける。
かなりの時間と根気を要する手術だったが、長期にわたって愛結を苦しめ続けた機械類を全て摘出することに成功する。
爆弾は安全に処理された上で破棄し、残った機器類は情報部が解析を進めている。
過激思想派が残した爪痕は深く、GCやSEに関わる一連の行為は、H.O.P.E.の存続すら揺るがしかねないものだったが、騒ぎを想定以下に治めたのは一番の被害者である冷泉愛結だった。
愛結は『H.O.P.E.を赦したわけではない。責任と罪の精算を果たすまで見届けさせてもらう』という姿勢をいまだ崩していない。
それでも彼女がH.O.P.E.に協力しているのは、これまでや今回関わって彼女らの命を救ったエージェント達への感謝があるためだ。
その証拠にGC研究所で愛結達がネットにばらまいた『事実』によって生じた混乱の収束に愛結自身も協力している。
これによりH.O.P.E.の威信や評判が低下するという、恐らくニアが意図していたであろう事態は回避され、進められているCGW作戦にも影響はなかった。
なおこの後紅夏が事前の約束通り、愛結と温泉に行ったりパフェを食べに行ったかについては記述を差し控えさせていただく。
「これでニアがやろうとしていたことも防ぐことは出来たのかな?」
つくしの懸念は、今回積極的に動かなかったニアの今後に向けられていた。
情報を重要視するあの愚神の性質から考えれば、今回の過激思想派の暴走を示す証拠は格好の攻撃材料の筈だ。
「恐らく過激思想派のことはどう事態が変化してもよかったんでしょう。表面上のダメージはないとはいえ、立て直しには多大な時間と労力がかかります」
メグルはニアの意図を見抜いていたが、同時に厄介な攻め方をしてきたとも思えた。
朝霞は帰還後、GCやGC研究所というものを作った過激思想派に対する責任追及を確実に行うようH.O.P.E.に迫っていた。
「全ては過激思想派の仕業と思っていますが約束して下さい。このまま有耶無耶に済ませないことを」
「ここで責任の所在が不明になったら、冷泉愛結達をまた踏みにじる事になるぞ」
ニクノイーサも朝霞の行動を支援し、言い募る。
H.O.P.E.は朝霞とニクノイーサの要望に応じ、過激思想派の所業や責任を有耶無耶にすることはないと約束した。
そして愛結達GCや愚神の協力者と貶められ殺された人々の名誉回復と、愛結達生き残りへの人権回復もH.O.P.E.が責任をもって進められている。
「これで少しは償いになったかしらね?」
愛結やGCとされた人々の状況を確認したマイヤが央に問いかける。
「本当の償いはこれからだな。だが、そう思いたいところだ」
あの時、愛結に誓った償いは、求められればこれからも果たすつもりだ。
それでも人ができる事は、通り過ぎていく人達の邪魔をしないことくらいかもしれない。
そう思う一方で央はGCとされた人達の幸せを願い、そう応えた。
ループスやマニブスも、『ラカオス』という人間の楔が外れた以上、今後何をするかわからないので放置はできず、依然問題は残っている。
今回過激思想派に謀られたとはいえ、愚神に仕立て上げられたGCを多数手にかけてしまった元SE討滅部隊員達への処遇も、紛糾している。
元凶である過激思想派がしでかした所業に対する責任の所在や罪の精算を済ませるには、なお長い時間が必要となり、SEやGCを仕立て上げ、今は姿を消した過激思想派の確保が急務とされた。
ただエージェント達の奮闘により証拠は多数確保され、情報部の追跡からいつまでも逃げ切れるわけもない。
帰還後、アルヴィナは今回過激思想派の所業によって傷ついたであろう六花を抱きしめて真摯な願いを伝える。
「嘆いてもいい。八つ当たりも許してあげる。だけど六花自身が生きることを諦めないで。六花のおかげで救われた命があって、六花が生きているからこそ、生きていけるという人もいるわ」
今回救えた愛結やGCもその1人だと、アルヴィナは六花に告げる。
アルヴィナの願いに、六花はその耳元に顔を寄せ、アルヴィナにだけ聞こえる音量で自分の意志を告げた。
――歪んだ正義を掲げた者達への断罪の時は近い。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
---|