本部

【白刃】 白猿

火歩亭

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2015/10/30 23:40

掲示板

オープニング

●H.O.P.E.
「……老害共が、好き放題に言ってくれる」
 H.O.P.E.会長ジャスティン・バートレットが会議室から出た瞬間、幻想蝶より現れた彼の英雄アマデウス・ヴィシャスが忌々しげに言い放った。
「こらこらアマデウス、あまり人を悪く言うものではないよ」
 老紳士は苦笑を浮かべて相棒を諌める。「高官のお怒りも尤もだ」と。

 愚神『アンゼルム』、通称『白銀の騎士(シルバーナイト)』。

 H.O.P.E.指定要注意愚神の一人。
 広大なドロップゾーンを支配しており、既に数万人単位の被害を出している。
 H.O.P.E.は過去三度に渡る討伐作戦を行ったが、いずれも失敗——
 つい先ほど、その件について政府高官達から「ありがたいお言葉」を頂いたところだ。

「過度な出撃はいたずらに不安を煽る故と戦力を小出しにさせられてこそいたものの、我々が成果を出せなかったのは事実だからね」
 廊下を歩きながらH.O.P.E.会長は言う。「けれど」と続けた。英雄が見やるその横顔は、眼差しは、凛と前を見据えていて。
「ようやく委任を貰えた。本格的に動ける。——直ちにエージェント召集を」
 傍らの部下に指示を出し、それから、ジャスティンは小さく息を吐いた。窓から見やる、空。
「……既に手遅れでなければいいんだけどね」
 その呟きは、増してゆく慌しさに掻き消される。


●ドロップゾーン深部
 アンゼルムは退屈していた。
 この山を制圧して数か月——周辺のライヴス吸収は一通り終わり、次なる土地に動く時期がやって来たのだが、どうも興が乗らない。
 かつての世界では、ほんの数ヶ月もあれば全域を支配できたものだが、この世界では——正確には時期を同じくして複数の世界でも——イレギュラーが現れた。能力者だ。
 ようやっと本格的な戦いができる。そんな期待も束の間、奴らときたら勝機があるとは思えない戦力を小出しにしてくるのみで。弱者をいたぶるのも飽き飽きだ。

「つまらない」
「ならば一つ、提案して差し上げましょう」

 それは、突如としてアンゼルムの前に現れた。異形の男。アンゼルムは眉根を寄せる。
「愚神商人か。そのいけ好かない名前は控えたらどうなんだ?」
 アンゼルムは『それ』の存在を知っていた。とは言え、その名前と、それが愚神であることしか知らないのであるが。
「商売とは心のやり取り。尊い行為なのですよ、アンゼルムさん」
「……どうでもいい。それよりも『提案』だ」
 わざわざこんな所にまで来て何の用か、美貌の騎士の眼差しは問う。
「手っ取り早い、それでいて素敵な方法ですよ。貴方が望むモノも、あるいは得られるかもしれません」
 愚神商人の表情は読めない。立てられた人差し指。その名の通り、まるでセールストークの如く並べられる言葉。
「へぇ」
 それを聞き終えたアンゼルムは、その口元を醜く歪める。
 流石は商人を名乗るだけある。彼の『提案』は、アンゼルムには実に魅力的に思えた——。

●白猿と僧兵鬼
 モミジの葉がひらひらと舞い落ちる山の一本道。静寂に包まれた木々の間から、水の流れる音が聞こえる。
 むき出しの岩肌を削り、刻まれた凡字。
 朽ちかけた明王像。
 そして、廃寺。
 生駒山周辺でかつて起きた戦闘の影響は、こんな山奥にまで及んでいた。

 シャァーン、シャーン、錫杖が山中にこだまする。
 歩いているのは4人の僧兵だ。
 廃寺の門をくぐり、中にはいる。寺の奥にある滝の前で、歩みを止めた。背丈はゆうに3mは超えている。
「キィィ、キィィィ!」
 滝の上流、崖縁で一匹に白猿が僧兵を見下ろしけたたましく鳴く。
 僧兵は鷹揚に仰ぎ見る。
 皆、人間ではない。
 鬼だ。僧兵の格好をした一つ目の鬼だ。
 突然、白猿は崖を飛び降り、松の木に飛び乗った。
「キィィ!」
 白い毛に覆われたその猿は、金色の瞳をぎらつかせ、鋭い牙を誇示するように雄たけびをあげた。

●鬼退治
「やっほー、皆元気? 生駒山周辺がちょっと騒がしくなっているの、みんなは知ってる? 今回みんなに集まってもらったのも、それと関係があるんだ」
 デウスエクス・マキナ(az0001)はリンカーに微笑んだ。
「生駒山周辺の規制、巡回にあたっていた職員が、生駒山へ向かう従魔を発見したよ。白猿と鬼の僧兵なんだって。この従魔たち、生駒山近くの山寺に今はいるらしいの。生駒山に向かうと面倒だから、いまのうちに退治してきたほしいの! 今回、お寺までは私とキャンディが案内するよ」
 マキナの隣に立っていたキャンディ・アリス(az0001hero0001)が、ぺこりとおじぎした。
「はじめまして! みんな、よろしくね!」
 

解説

敵情報
●目標:白猿と僧の退治

白猿:デクリオ級 1体
特徴:全長1m50cmの猿です。身体能力は高く、動きはすばやいです。鋭い牙で襲いかかります。鬼の僧兵のボス。
攻撃:猿まね 近単体攻撃 対象者のスキルを完全にコピーします
   噛みつき 近単体攻撃 ダメージ力は高い 

鬼の僧兵:ミーレス級 4体
特徴:一つ目の巨大な鬼です。動きは鈍いですが、頑丈で魔法攻撃が効きづらいです。錫杖に仕込み刀で襲ってきます。
攻撃:居合い切り 近単体攻撃 ダメージ力は低い
   読経 単体攻撃 ダメージ力は低い + BS洗脳
   閃光 全体攻撃 ダメージ力は低い + BS劣化

場所:生駒山近くの廃寺。
   廃寺:戦国時代に建てられた寺。
滝:高さは約12m、滝つぼはかなり深く水流も早い。この滝は昔、戦国武将が敵の首を刎ねたときに、首を洗っていたといわれる。 

マキナ達に指示や作戦がございましたら掲示板で皆さんで相談のうえ、プレイングに書いてください。
特になければ援護を中心に動きます。  

時間:午前11時頃
天気:晴れ

リプレイ

●赤い季節
 秋の空、ひつじ雲が流れゆく。山の中腹ほどにある倒木に腰をおろし、空を眺める佐藤 咲雪(aa0040)は目を細め、そっと呟いた。
「……ねむい」
 とたん、彼女の隣に立つアリス(aa0040hero001)の頬が引きつり、拳がふるふる震えだす。そんなアリスに気づくことなく、肩ごしの風に髪が乱れることも厭わず咲雪はあくびをした。
「……めんどくさい。明日じゃダメ?」
 ゴン、鈍い音が響きわたる。とうとうアリスの鉄拳が咲雪に振り下ろされたのだ。
「ダメに決まっているでしょう。マキナ様が生駒山へ行かれると厄介って言っているんだから、とっとと働く」
「痛い」
 回避に優れた咲雪でも、毎回、アリスの鉄拳だけは避けられない。半分涙目で彼女はアリスを見上げた。
「ま、まあまあ……。こんなに気持ちいい天気ですからね。眠くなるのも分かります。あっ、ほらトンビも鳴いて…………鳴いてないや」
 困ったように眉をひそめる九字原 昂(aa0919)は小首をかしげた。
「おや、トンビがいるのかい?」
 そう言って昴に声をかけたのはアイリス(aa0124hero001)だ。日傘をくるくると回し微笑む。
「ほら、イリス。鳥がいるみたいだよ。ねぇってば、隠れてないで出ておいでよ」
 アイリスは背後にむかってクスクスと笑いながら囁く。アイリスの背中に生える妖精の羽。それに挟まれるように隠れていたイリス・レイバルド(aa0124)が、上目遣いでアイリスに視線を投げる。
「で、でも……」
 黄金結晶の羽は、どこかおとぎ話に登場する蜂蜜の迷路のようで、中に潜むイリスを幻想的に包みこんでいる。 
「イリスちゃん、大丈夫だよ」
 羽に近づきながら昴は柔和に微笑むと、そっと手を差し出した。黄金結晶の羽が花咲くように開く。ネコ耳フードをかぶった少女は、おそるおそる昴の手をとり、はにかんだ笑みを浮かべた。
「……うん」
 少し離れた場所にいるベルフ(aa0919hero001)は、銀杏の木に背を預け昴たちのやり取りを静かに見守っていた。
「心あたたまるねぇ、そう思わないか?」
 周囲には誰もいない。だが、ベルフはさも近くに人が居るように話しつづける。
「北風と……なんだっけか? 以前、昴が話していた童話があったんだが。まぁ、いい。北風の俺たちじゃ、あの少女の笑顔は一生見れんだろうな」
 と、自嘲気味な笑みを浮かべた。
「……おや? あなたが北風ですとな? わたくしはてっきりトルネードだと思っていましたよ?」
 ベルフの頭上からおどけた声がした。と、同時に高い木から音を立てることなく、静かにピエロが地面に着地した。ディオ=カマル(aa0437hero001)だ。
「しかし、よく分かりましたねぇ。わたくしがそばにいることに」
「こちとら密偵と暗殺が本業でね。……ところで、おまえさんとこのトルネードが暴れ始めたぞ」
 ベルフは火乃元 篝(aa0437)を指さす。
「……おやまぁ」
 仁王立ちで仲間のまえに立ちふさがる篝。
「さぁ、活動の開始だ!」
「……」
 ディオからおどけた雰囲気が消える。
「少女よ! 元気がでたか!」
「……あるじ」
「元気が出たなら我が組織に入るがいいぞ! いくぞー1、2、……」
「あ~る~じー!!」
 最後まで言わせない。ディオはすぐさま篝の側まで駆けつけその口をふさいだ。
「ま、まだですか? 案内人はまだ来ないのですか?」
 ディオは篝を背後から羽交い絞めにして、振りかえる。そこへようやくデウスエクス・マキナ(az0001)が姿を見せはじめた。
「み、みんな待ってぇ~」
「ほら、マキナ。頑張れ! 今日はいい天気だし、ピクニック日和なのよー!」
 言峰 estrela(aa0526)に手をひっぱってもらい、皆のいる山の中腹に辿りついた。
「ふぇ~……ありがと~」
 ぜぇぜぇと手を地面につけ息を整えるマキナ。彼女たちのそばにキュベレー(aa0526hero001)が歩み寄り、
「ピクニックとは……、討伐前にあとの話か? 随分と暢気だな……」
 と呆れた様子で言った。
「えー? だって今日はマキナちゃんからのお誘いのピクニックなんでしょー? えっ、違う?」
「はうぅ~」
 マキナも何か言おうとするが、呼吸が間に合わない。そんな彼女の息が整うのを手助けするように月鏡 由利菜(aa0873)がマキナの背をさする。
「ほら、喋ると咳き込んじゃいますよ?」
「はうぅ。ありがと~」
 集まる仲間を見渡し、リーヴスラシル(aa0873hero001)が仕切りなおす。
「まぁ、これで全員揃ったな。マキナ殿、その廃寺まではあと少しなのか?」
「うん! ここからはちゃんと案内するよ! あっ、それと由利菜とリーヴスはありがとね。任務終えたばかりなのにこっちもお願いしちゃって」
 他の任務を終えたばかりの由利菜とリーヴスに、マキナは今回の任務参加を急遽頼んだのだ。
「愚神を討伐するためなら……。で、できるだけ頑張りますわ」
 由利菜は頬を赤く染めながらも、強い意志を見せた。
 
●廃寺へ
「ここだよ! この先に敵はいるよ!」
 廃寺の手前でマキナは立ち止まり、仲間を見渡した。
 任務に参加したエージェントは皆、静かに頷いた。
 緊張した空気が周囲に張り詰める。
「ん~……おっけ~ぃ」
 ただ一人、咲雪を除いて。
「咲雪、あんたって子は! もっとやる気だす!」
 アリスは相棒の首根っこを掴み共鳴を始めた。眩い光りの粒がきらめく。波紋がひらがるように光りは次々と増えていった。エージェントが共鳴を始めたのだ。
「では、もう一度戦場へ参りましょう」
 光りの鎧を身に纏った由利菜が深く息を吐き、決意を新たにした。
「あっ、由利菜。ちょっと待って!」
 マキナがそんな彼女を呼び止め、幻想蝶からブラッディランスを取り出し、由利菜に渡す。
「グロリア社から、由利菜に渡すよう指示されていたの。すごいね。その槍……」
「血の魔槍……。わ、私にSランクのAGWを制御できるでしょうか?」
 動揺とわずかに緊張が混じる声色で、由利菜は槍を受け取る。
(他の者が扱えて、私達に扱えぬはずがない)
 由利菜を安心させるラシルの言葉に、彼女も頷いた。

 赤いモミジの葉がひらひらと舞い落ちる寺門に、足音を忍ばせ侵入する。
 一つ、二つとモミジの葉は滝つぼに落ちていく。その赤色は、まるで首を切り落とされた侍の血のようでもあった。
「おおぅ! 白いぞ……あれは、チンパンジー!?」
 松の木に居座る白猿が芸を始めるのではないかと、篝は心のすみで期待する。
(いや、違うから。あーるーじー!!)
「猿回しは……」
(聞いてー!!)
 ディオの突っ込みすら耳に届かない。すでに制御不能に陥りかけている篝。黄金色の武具の幻影を手足に纏い、勢いのまま敵陣へ突っ込んだ。
(今回は猿だね。相手は動物型だが、戦うのは大丈夫かい、イリス?)
 アイリスはイリスに問いかける。
(うん。大丈夫だよ、お姉ちゃん。きっと、あれはそういうものじゃないと思うから)
 四枚羽の比翼連理のオーラは輝きを増す。盾と剣を構え、篝の後を追うようにイリスも敵陣へ向かった。
 次々とエージェントが寺門をくぐり駆け出す。ただ、エストレーラだけは足を止め後ろのマキナを窺い見た。ちょうどマキナは幻想蝶から小さな武器を取り出してる。それを確認するとホッとした様子で、
「ピクニック、楽しみだね」
 とマキナに笑いかけた。
「うん。戦争前の戦士の休息って感じ~。英気を養わなきゃね!」
 マキナもエストレーラに微笑み返す。

 落ち葉を踏みつける音に、ようやく敵は不穏な気配に気づいた。
 白猿は松の木を揺らし威嚇の怒号をあげる。僧兵は笠の隙間から一つ目を怒らせ、錫上を構える。
「グルルルゥ! グオオォー!」
 僧兵たちがわめき散らすも、最後まで聞かずエストレーラが仲間に手を振る。
「オッケー! こっちは準備できたよー!」
 いつの間にかエストレーラは僧兵たちの背後をとっていた。
「エストレーラさん、なかなかやりますね。同じシャドウルーカーとして負けてはいられません」
 不敵な笑みを浮かべ昴も大きく跳躍した。空中で一回転し上体を捻るころにはすでに昴の持つ武器が白猿の額を切っていた。
「ギィィイイィ!!」
 松の木を大きく揺さぶり、牙を剥き出しにする白猿が昴の後を追う。
 白猿と僧兵、敵はリンカーの作戦通りに分断されていく。
(イリス、昴さんが白猿を誘導し始めたね。先回りして白猿を待ち伏せしよう)
(うん!)
 タッタッタッ、すばやく僧兵のあいだを走り抜ける。大柄な僧兵の何体かは小さなイリスに気づかなかった。が、1体、笠の隙間から一つだけの大きな目をぎろりと動かし、少女の動きを追う鬼がいる。
 シャラン、錫上の上についた鈴が鳴る。
 居合い斬りの構えに入る。
「ふん!」
 居抜こうとした矢先、鬼の僧兵の目の前に咲雪が立ちふさがった。
「ぐうぅ」
 間合い、呼吸、それらを狂わされた僧兵は唇を噛みしめた。
(敵攻撃軌道予測。0.2秒後に指定範囲に攻撃の可能性)
(……ん)
 鬼の僧兵は、とっさに標的を咲雪に変え、刃を振る。
 ヒュッ! 鋭く空気を切り裂く細い刃。が、咲雪はしなやかに身をひるがえし攻撃を避けた。
「……遅い。避けるの、簡単」
 咲雪は分身し、一気に僧兵を攻撃する。
「ふぐぐぅぅ!」
 狼狽した僧兵はよろめき、地面に膝をつく。
「きさまはつまらん!」
 そんな僧兵に対し、篝は血色の刃を怒涛のごとく振る。
「がぁぁぁ!」
 周囲の僧兵にもダメージを与えながら、1体、僧兵を倒した。

●こだま
 激しい地響きとともに僧兵の頭は地面にめり込み、息絶えた。
(あるじ、やりましたねぇ)
 ほくそ笑むディオ。
(さぁ、敵はまだまだいますよぉ。張り切っていきましょう)
(言われるまでもない!)
 篝は、次の獲物を求め駆け出した。

「がああぁあぁぁ!!」
 僧兵達は一つ目をひん剥き、怒りの咆哮をあげた。
 ドン、シャラン。2体の僧兵が錫上を地面に突き刺し、数珠を握りしめる。
(レーラ、やっかいだ。僧兵達は読経を唱えるつもりだぞ)
(そのようだね。でも、ワタシたちなら……)
 エストレーラの表情が厳しくなる。
 白虎の爪牙が陽の光を浴びて、キラリと反射した。
 一瞬、僧兵が眩しそうに目を細めた。そのほんのわずかの隙に、エストレーラはいなくなった。
 彼女のいた場所は土煙と紅葉が舞い上がるだけ。
 僧兵は、読経を唱えながらエストレーラを探す。目をつぶったわけでもない。ただ、一瞬、気がゆるんだだけ。それなのに彼女は消えた。
「ぐわぁぁ!」
 突然、1体の僧兵が前に吹き飛ぶ。二転三転と転がりながら倒れた。倒れた僧兵の上を次々と複数のエストレーラが攻撃しては消えていく。
 唖然とする残りの僧兵。
 そんな敵を前にし、分身が消え一人だけになったエストレーラが悠然と微笑んだ。
(エストレーラ殿がつくったチャンス、逃がすな。残りの従魔の読経……あの心を乱す読経の詠唱は絶対に潰すぞ。ユリナ!)
(はい!)
 ブラッディランスが血を求めるようにぎらつく。由利菜もまた、この武器の影響かみょうに気分が高揚する。
 ランスの攻撃範囲に僧兵が入った。
 僧兵は由利菜の攻撃にそなえ構える。と、その動きを見越していた由利菜はランスの柄を地面に突き刺し反動を利用し、体を捻った。ライヴスを纏ったランスの刃が1体の僧兵の頭上に襲いかかる。
 僧兵は由利菜の動きについてくることもできず、あっという間に頭部が空中を舞う。頭を失った身体はよろめき崩れ倒れた。
「うわーい! やったぁ!」
 嬉しそうに拍手するマキナ。白猿の動きを阻止するマキナもすぐ近くの僧兵戦圧勝に喜ぶ。
(わ、私たち、強いね!)
(うんうん。強いのはウチらじゃないよ。エージェントの皆だよ!)
(あっ、そか。じゃぁ、私たちも張り切っていこー!)
 とは言うものの、依頼に参加するのはこれが初めてなマキナとキャンディ・アリス(az0001hero001)。緊張のあまり指先が冷めたくなり、どんどん視界が狭くなっていく。
「あぶない!」
 昴の声に、マキナは驚き振りかえった。
 いつの間にか白猿が目の前で牙をむいている。
「ギイイィィ!」
(スキルを使っちゃだめだよ! コピーされちゃう!)
 キャンディの言葉に従い、マキナは白猿にアッパーを打ち込んだ。鋭利な角度から的確に相手の弱点と思われる場所を狙った。鈍い音がする。が、ダメージはほんのわずかのようだ。
(マキナ! ここは一旦、逃げて!)
 後ろへ大きく跳躍し逃げるマキナ。それを追う白猿。
「きゃー!」
 慌てるマキナの腕を昴がとる。
「えっ?」
 驚くマキナに対し、昴はにっこり微笑んだ。と、同時に追われながらも軽い足さばきでマキナを連れて逃げる。白猿がマキナに攻撃をしかけようとしても、昴のリードでマキナは攻撃を軽くかわす。
 まるでダンスを踊っているような足どりだった。
(どう思う?)
 昴がベルフに尋ねる。
(存外、身のこなしが早い奴だな。振り切られるなよ)
(ベルフより遅いなら何とでもなるさ)
 昴の瞳に鋭い光が宿る。白猿はマキナと昴を追いかけることに夢中で、背後にイリスがいることに気づかない。昴はマキナの頭越しにイリスと視線が合わせた。
 小さく頷くイリス。
 ライオンハートを大きく振りかぶり、剣を白猿めがけて振り下ろす。獅子の幻影とともに野獣の咆哮が白猿を襲う。
「ガァァァァ!!」
 白猿はダメージを負いながらも、イリスのほうへ身体をひるがえす。が、その隙に昴が胴をおもいっきり殴った。
「……っ!」
 大きく開いた白猿の口から涎が滴り落ちる。悲鳴にならない悲鳴をあげ、金色の瞳を見開いた。
(うまいぞ。昴)
 ベルフの口調はどこか誇らしげだった。

 戦況は、エージェント有利に進んでいた。しかし、最後まで残った僧兵がエージェントのわずかな隙をついて閃光を放った。
 眩い光りがエージェントを包み込む。

●そして、
「……つっ!」
 咲雪は目がくらむも、アリスの予測演算に体を預けるように素直にアリスの言葉に従いダッシュする。
(敵までの距離、直進で約4m。数秒後出現。……3秒前、2、1、0)
 左足に力を入れ踏ん張る。地面につま先がめり込んでいく。咲雪はジェミニストライクをしかけた。重い打撃音とともに敵の破壊される音が響きわたる。
「ぐぁぁぁ!」
(敵、致死量のダメージ。回復不能)
 地響きをたて敵が倒れていく。
(やったわね。咲雪!)
(ん、…………ねむい)
(って、おい!)
 瞬きを何度か繰り返し、舞い落ちるモミジを眺める咲雪を、アリスはせっつき白猿のもとへ追いやった。
 
 激しい水しぶきをたて流れ落ちる滝つぼの近くで牙を剥き出しにする白猿。
 配下の僧兵が全滅したことで、金色の瞳を光らせ、苛立たしげに地面の上を飛び跳ねる。
 それを見た篝は、腕を前に組み頬を膨らませた。
「猿回しがいないぞ。まったく放し飼いはいかんというのに!」
(それ一体何のメタファーなの!?)
 すかさずつっこみを入れるディオ。白猿もまた篝を平手で殴るように襲いかかってきた。
 篝は猿の動きを真似るようにスピードを加速していく。
(あるじ、ここは一旦、滝つぼから敵を離すことにしましょう)
 篝が頷き、方向を変え滝から徐々に離していく。十分、距離をおいたところで篝は猿を地面に縫いつけるように、フルンティングを地面に突き刺した。
「栄光は枯れ果て……今、汝らこそが斜陽する!」
「ぎゃあぁぁ!」
 左手の平を大きな刃でさされた白猿は、必死にもがく。
(この状況ならスキルを使っても、真似はできまい)
 ラシルは判断した。ユリナの持つブラッディランスにライヴスが集まる。
 地面を蹴り、大きく飛躍するとユリナはランスを振りかざす。
「真似事で私たちを越えられん!」
「がぁぁあ!」
 由利菜たちの攻撃でダメージを負った白猿は、フルンティングから左手を力いっぱい引き抜く。
 鮮血が飛び散り庭を赤く染める。
「があぁぁ……」
 白い毛が赤くなる。小刻みに震えだした白猿は、目にとまらぬ速さでエージェントめがけて突っ込んできた。
 右腕で地面を蹴る。大きく口を開け襲い掛かったのはイリスだった。
(お姉ちゃんの教え一つ! 体格差なんて力と技術で押し切れ!)
 シルバーシールドで攻撃に備える。鋭い牙が盾に突き刺さる。イリスを羽交い絞めにしようと白猿はもがくが、体の小さなイリスは盾にすっぽり隠れてしまっていた。
(戦いにおいて大きいということがメリットだけではないことを教えてあげよう。ねぇ、イリス)
(うん!)
 イリスは反撃のチャンスをじっと窺う。
 白猿は、目の前の少女を襲うことにしか頭にないようだ。無防備な背後にエストレーラが近づいていることに気づかない。
(紅葉の赤と血色に染まる庭、なかなか風情があるな)
 キュベレーは小さく笑った。つられてエストレーラも笑みを浮かべる。
 ふわり空を舞うようにエストレーラが華麗に跳躍する。そのまま彼女は白猿の頭部に着地し、頭を思いっきり踏みつけると、また空に舞い上がった。
「ぐふっ!」
 猿は動きをとめ空を見上げた。
(イリス、相手はすでに限界間近だろう。ここまで削られれば遠慮は無用だ)
 待ちに待った攻撃のチャンス、イリスは叫んだ。
「ライヴスブロー! 高めた絆で全てを断ち切る!」
 白猿は大きく後ろへぶっ飛んだ。
「この黄金の翼がボクたちの絆の形だ」
 肩で息を切らせるイリス。そんな彼女の背に四枚羽のオーラが光り輝いた。
(奴さん、もうダメだな。昴、トドメさしてやれ)
 昴はライヴスを纏った逆鱗の戦拳で白猿に毒刃を放った。
「がぁああ!」
 白い体は吹き飛ばされ、滝つぼに落ちる。激しく叩きつける水とともに滝つぼ深く沈んだソレは、数秒後、ようやく浮かびあがった。ぷかり、ぷかり、水中をただよう白猿の体。その目は見開き空を見上げるが、すでに光りは失っていた。
(見事だ。昴)
(先生の教えがいいからね)
 昴は普段の柔和な表情に戻り、笑みを浮かべた。


 チッチッチ、山の中を鳥のさえずりが響きわたる。
 廃寺での戦いを終え、皆で山の中腹まで引き戻った。山々が見渡せる景色のよい場所だ。
 倒木に腰をおろし、行きと同じように咲雪がぼぅっと紅葉に色づく山を眺めていた。その隣にアリスも腰掛ける。
「……ねぇ、アリス」
「ん?」
「ここから眺める景色は、綺麗な部分しか見えないけど、実際は人の住める場所じゃないんだよね」
「うん。もう何年も立ち入ることのできない焦土と化した地域だよ」
「……そっか」
 ほんのわずかに、咲雪の表情が曇ったことにアリスは気づいた。しかし、アリスは気づかないフリをして彼女といっしょに山を眺めた。

「ねぇ、用意できたよ! 一緒に食べよう!」
 そんな彼女らに仲間が叫ぶ。
 ピクニックの準備が整ったのだ。
「イリス、ここは可愛らしさをアピールしようね。何せ私たちはお弁当を用意していないんだ」
 アイリスはにっこり微笑み、処世術を6歳のイリスに教える。
「お姉ちゃん……」
 恥ずかしがり屋に戻ったイリスはアイリスの背に隠れ、姉を見上げていた。
「イリスちゃん、アイリスちゃん! ほら、こっち来て! ピザ、持ってきたよ」
 マキナは幻想蝶からピザを取り出しみせた。
「へぇ、美味しそうだね」
「えへへ、私のバイト先のスペシャルピザだよ!」
 ピザを昴とベルフにも渡すと、マキナは近くにあった弁当を手に取り、大きな口を開け頬張った。
「うわぁ、このお弁当すっごく美味しい!」
「でしょ! 特製弁当なのだ」
 エストレーラもマキナの隣に座り、一緒に弁当を食べ始めた。
「あの……わ、私、遊びに行ってもいいですか? ……その、ピザ屋に」
 由利菜が頬を染め、マキナに話しかける。 
「あっ、ワタシも行きたい。こんど遊びに行っていい?」
「もちろんだよ! 来て来て~♪」
 その様子をほほえましく見つめる篝は、コンビニパンを齧りながら笑う。
「うむ! 是非とも皆には我が組合に……」
 最後まで言わせない。ディオはパンを篝の口に突っ込む。
「もごもご!」
「は~い、は~い、あぁ~るじぃ~パンですよ~。……しかし、これは今回のみで終るとは限りませんご注意を」
「ああ、動きが活発になってきたってことかな。それとも、なにか狙いが……」
 ベルフはディオの言葉に頷き、遠くにそびえ立つ生駒山に視線を移した。
 皆も、つられてあの山を見つめる。
 
 黒く冷たい不吉な影が、生駒山を包んでいるように思えた。
 

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 魅惑のパイスラ
    佐藤 咲雪aa0040
    機械|15才|女性|回避
  • 貴腐人
    アリスaa0040hero001
    英雄|18才|女性|シャド
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 最脅の囮
    火乃元 篝aa0437
    人間|19才|女性|攻撃
  • エージェント
    ディオ=カマルaa0437hero001
    英雄|24才|男性|ドレ
  • エージェント
    言峰 estrelaaa0526
    人間|14才|女性|回避
  • 契約者
    キュベレーaa0526hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
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