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【SE】貴方達も人を傷付けて平気でしょ?
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最終発言2018/04/24 15:32:28 -
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最終発言2018/04/24 15:05:30
オープニング
●討滅部隊の錯誤
H.O.P.E.討滅部隊は、眼前に広がる光景に戦慄していた。
部隊のリンカー達の大半が、目を見開き、ガチガチと歯を鳴らしている。
討滅部隊のいずれも返り血を浴び、周囲にあるのは彼らによって切り刻まれ、打ち砕かれ散乱する子供の遺体ばかり。
「そんな……全部、ただの、にん、げん……?」
討滅部隊はここに転がる人間達を全て愚神や従魔だと聞かされていたので、攻撃し討滅した。
だが結果は愚神や従魔など1体もいなかった。いたのはいずれも全身に拘束具をつけられた人間の子供達。
「ぜ、全部愚神や従魔が憑依してるって聞いてたんだ! ひょ、憑依されてない人間ばかりだなんて聞いてない!」
「知らなかったんだ! 知らなかったんだよぉぉ!」
討滅部隊のリンカー達は絶叫し、あるリンカーは自分達の身にこびりついた返り血を必死に拭い、別のリンカーは頭を抱え、別のリンカーはこの任務についたことを本気で後悔し慟哭する。
だがいくら叫ぼうが泣こうが眼前に広がる光景は変わらない。
対愚神集団『シュドゥント・エジクタンス(ある筈のない存在達。以下SEと略)』討滅部隊は、愚神と人間達を間違え、人間達を殺戮した。
その後ろから霧深い空間が突如広がり、嘆く討滅部隊を飲みこんだ。
●追われる者達の反撃
討滅部隊の追撃を振り切ったものの、負傷したラカオスの両脇に、一瞬の揺らぎと共に2体の愚神が現れる。
「あの子達は? エンヌの容体はどうですか? 」
ラカオスの問いに、愚神ループスが緩く首を横に振る。
「エンヌは負傷が酷くて動けそうにない。追手をドロップゾーンに取り込んで閉じこもっている。『あの人間達』は貴方達を監視してる連中の思惑通り、私達愚神とみなされて全員追手に殺された」
愚神マニブスがエンヌや『ある人間達』の状況を説明する。
「H.O.P.E.も愚かね。いまだに私達と貴方達『人間』の違いがわからないなんて」
「彼らH.O.P.E.は愚神と断じた相手は『違うのが混じっていようが』絶対的な悪、討滅すべき悪でなければいけないそうです」
だが自分にはそれをH.O.P.E.に伝えることはできない。過去に愚神ニア・エートゥスがH.O.P.E.エージェント達に渡した『人間達を選別し管理処分する』用途の機器や爆弾を、このラカオスという人間はその身体に埋め込まれている。
「貴方達『グライヴァー・チルドレン(愚神の子供達)』とやらは、――にどこまで監視されているの?」
「都合の悪い行動や話をしたり、反抗する意思を見せれば私に埋め込まれたマイクロチップから情報が伝わって――に爆破処理されますね。今私が大丈夫なのは、貴方がたに伝わったところで愚神の話は嘘だと――がエージェント達に嘘を吹き込めるからでしょう」
「エンヌからの伝言。『この身に宿る怨念を解放していいなら、協力する』」
「わかりました。では……」
マニブスの言葉を受け、ラカオスはループスとマニブスに幾つかやり取りし、1人の人間と2体の愚神は迫りくる討滅部隊を迎え入れる為動く。
その後H.O.P.E.に、SE討滅部隊の壊滅とドロップゾーン発見の情報、そして1本の記憶媒体が届き、事態は動き出す。
●『地獄』への招待
手元にある資料を基に、ジョセフ イトウ(az0028)が説明する。
「先日さるエージェントの提案で編成されたSE討滅部隊が対象と交戦し、相手にダメージを与えたものの壊滅したよ」
壊滅した部隊員達は死者こそ出なかったものの、全員捕らえられSE所属の愚神エンヌが展開したドロップゾーンに取り込まれたとの事だ。
「ラカオスも『愚神』とみなされ討滅部隊の攻撃を受けて負傷したらしい。向こうはドロップゾーンおよび愚神エンヌの消滅と引き換えに、自分達の退却を認めるよう要求してきた」
ただしラカオスの話では、エンヌが展開したドロップゾーンでは『地獄』が待っているらしい。
画面に、こちらを怯えた顔で見つめる4、5歳くらいの女の子の映像が映し出される。
「彼女が愚神エンヌだよ。愚神は見かけで判断しちゃいけないっていうのが鉄則だけどね」
ここでジョセフが思い出したとばかりに付け加える。
「ああ、そうそう。追跡調査なんだけど、関連部署の中に非協力的なところがあるみたいで、うまく進んでいない。ただ調査の結果、このエンヌという愚神と今回発生したドロップゾーンに効果的な方法が判明したらしいよ」
その内容は、ドロップゾーン内で以下の文言をエンヌに向け叫ぶことだった。その文言がエンヌの画像の下に追加される。
『血を! 血を! 愚神の血を! 死を! 死を! 愚神に死を!』
『全ては絶対なる正義と偉大なるH.O.P.E.の名のもとに』
「何でもこのドロップゾーンを作った愚神エンヌは人間が怖いそうだよ。だから恐怖を覚える言葉を内部でエンヌにぶつければ、ドロップゾーンを破壊できるって話が非協力的な部署から届いたけど……」
そこでジョセフは皮肉っぽい口調で付け加える。
「なんでその部署、エンヌの弱点知ってるんだろうね。ちょっと胡散臭いから情報部にその部署の内部調査を頼むとするよ」
ここでジョセフは『あなたたち』に助言する。
「でも多分、このエンヌって愚神は本当にリンカーや人間を怖がっている。その理由はわからないけど、依り代になった人間に気持ちが引きずられている可能性もあるから、いろいろ考えて救助や討伐にあたってほしい」
●地獄を作るは『あなたたち』
一面を霧に包まれた空間――ドロップゾーンの中から現れたのは、『あなたたち』達を鏡で映したような、瓜二つの存在達だった。
その存在達は『あなたたち』と同じ声で自分の正体をこう告げる。
「我々はお前達の身に流れる悪意だ。お前達と人がすれ違うとき、そいつの心を凍らせる影だ」
『あなたたち』の姿をしたその存在達は高らかに告げる。
「我々こそお前達の全能感! お前達の支配欲! お前達の殺戮衝動!」
そう叫んだ存在達は、ドロップゾーンの奥へと駆けだしていき、『あなたたち』の姿と声で武器を振るい始める。
霧の向こう――ドロップゾーン内に建てられた夥しい数の磔柱に拘束された子供達が、『あなたたち』の姿をした悪意達に撃たれ、斬られて血しぶきを上げていく。
「我々こそお前たちの運命だ!」
そしてその様子はマニブスが持つ動画撮影用ハンディカメラで逐次撮影され、SEが密かに運営するサイトへと送られていた。
「貴方達も人を傷付けて平気でしょ? 違うと言うなら見せなさい。貴方達の選択を」
●???
どうして――は私達を苦しめるの?
どうして――は私達を殺そうとするの?
どうして――は私達を人間だと認めてくれないの?
……私達、生まれてきちゃいけなかったの?
解説
●目標
愚神エンヌの撃破
討滅部隊の救助
登場
『あなたたち』
下記ドロップゾーンに出現する『あなたたち』の姿をした敵達。推定ミーレス級。『あなたたち』と同じ武器やスキルを使うがいずれも当人より弱い。
エンヌ
愚神集団「シュドゥント・エジクタンス(ある筈のない存在達。略称:SE)」所属の愚神。外見は4~5歳の幼女。ある理由から人間達を憎み、恐怖する。現在はドロップゾーンの最奥であるルールを基に造った障壁を周囲に展開し閉じこもる。
PL情報:実はラカオスと同じ分類の人間に憑依し、依り代の人間の抱えていた感情に強く影響されている。
ラカオス
SEの窓口にあたる人間。下記H.O.P.E.討滅部隊には『愚神』と見なされ討滅部隊の攻撃で負傷中。
PL情報:『グライヴァ―・チルドレン(愚神の子供達)』と呼ばれ人間と見なされず使役されている。
ループス
SE所属のケントゥリオ級愚神。ラカオスを守る。
マニブス
SE所属のケントゥリオ級愚神。特殊能力あり。
討滅隊
SE討滅の命を受けたH.O.P.E.エージェント部隊。エンヌ、ラカオスを負傷させるもループス、マニブスに返り討ちに遭い壊滅。全員下記ドロップゾーン内に捕らわれている。
状況
とある山奥のドロップゾーン。ドロップゾーン内部には壊滅して捕らえられた討伐部隊員達と共に、負傷したエンヌがいる。ドロップゾーン内ではラカオスと同類と見なされた子供達が『あなたたち』の姿をした存在達に殺されていく光景が強制的に繰り返し突きつけられる。
エンヌの依り代になった肉体の持ち主が恐怖する内容の言葉をその空間やエンヌにぶつけると、障壁にダメージが積み重なり、最終的には破壊できるルールがあるらしいが……。
PL情報:実際はエンヌの恐怖が増すと障壁はさらに強度を増し、『あなたたち』の姿をした敵が復活する。
使用可能物品は装備・携帯品のみ。無線貸与済み。
リプレイ
●接触
この日、その場所は深い霧に包まれていた。
その霧は愚神集団「シュドゥント・エジクタンス(あるはずのない存在達。以下SEと略)」所属の愚神エンヌが展開したドロップゾーンで、エンヌは今SE討滅部隊と共に閉じこもっている。
(ったく、また不用意に愚神に手を出して事態が悪化したから助けてくれパターン……? ユリナ、ここ最近何度もH.O.P.E.の別働隊に足を引っ張られてヤな感じとかしないの?)
ウィリディス(aa0873hero002)と共鳴した月鏡 由利菜(aa0873)はウィリディスの不満を宥める。
「リディス……これだけ大きな組織であれば、隊員や部隊の思想統一も容易ではありません」
(分かってるけどさ……もうちょっと何とかならないのかなぁ。ともかく、見知った皆が来てくれるから心強いよ)
「そうですね。特に愚神の定義が揺らぎつつある今の状況では」
自分の中で折り合いをつけたウィリディスの言葉に由利菜は頷くと、その仲間達の方へ視線を向ける。
ベルフ(aa0919hero001)と共鳴した九字原 昂(aa0919)は、ベルフの指摘に一部賛意を示していた。
(詳細不明の敵よりも、信用ならない味方の方がよほど性質が悪い)
「まぁ、それでも一応味方……の、はずなんだけどね」
昂の口調は歯切れが悪い。
(少なくとも、偉大なるH.O.P.E.なんて言葉を出してくる輩は信用ならんな)
ベルフが口にした『偉大なるH.O.P.E.』というのは今回の討伐対象のエンヌを弱体化させる文言として教えられたものだが、ベルフも昂もその内容を信じていない。
「それは最後の手段にするよ。エンヌの撃破が目標なのは変わらない」
昂はそう締めくくる中、同じようなやり取りが珍神 無鳥(aa1708hero002)と、無鳥と共鳴した蛇塚 悠理(aa1708)の間でも行われていた。
(いやぁまったく、清々しいほど踊らされてしまっていたようだね!)
「関連部署だっけ。そこに唆されたのかもしれないけど、とりあえずは……救助が先決かな」
無鳥にそう返す悠理だったが、実のところは愚神エンヌへの対処の方を優先するつもりだった。
(だけどその討滅部隊、罪の無い子供を殺めた罰をどう受ける気なのかな?)
悠理は無線を介しジョセフ・イトウ(az0028)に、今回討伐対象となったエンヌが本当に愚神でない場合は保護する旨を打診していた。
結果その回答は『エンヌは愚神で間違いない。依代の女の子の保護なら許可する』だった。
なお今回の討滅部隊派遣はあるエージェントからの進言によるものだが、由利菜や悠理達にそれが知られていないのは、大きな組織ならではの弊害といえた。
珍神 帆鳥(aa2214hero002)と共鳴した宿輪 永(aa2214)は、暗視鏡「梟」で視界を確保しつつも、無線を介し悠理とは別件で情報のやり取りをしていた。
エンヌが愚神であることは確認済みだが、永は以前愚神ニア・エートゥス(az0075)が渡してきた部品を使ってH.O.P.E.を騙り、人間達を選別し管理処分する組織が例の非協力的な部署と繋がりがあるのではと進言し、今ジョセフや情報部が調査を行っている。
(愚神は討つんじゃなかったんですか?)
帆鳥の問いに永は細々とした口調ながら、決然と応じる。
「……討つ。……それは……変わらない」
――どんな姿であろうと、愚神ということに変わりはない。
やがてエージェント達は霧の向こうから自分達と同じ姿をした『敵』達が現れる。
「わぁ~ボクとおんなじ人がいる~こ~んにちわぁ~」
『敵』は自分の正体を高らかに告げたが、菜葱(aa5545hero001)と共鳴した畳 木枯丸(aa5545)は、おっとりとした口調で自分と同じ姿の敵に挨拶した後、菜葱に質問する。
「あれってボクのあくいから出来てるんだってぇ? あくいってな~に~?」
(誰かを傷つけたいという気持ちのことじゃな)
「ふ~ん。じゃあボクと同じ太刀筋だから長期戦になりそうだね」
菜葱の回答に、木枯丸は無邪気な口調で応じ、『ボクに似た人を斬るよ~』と『木枯丸』に白夜丸を向ける。
その一方、アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)と共鳴した氷鏡 六花(aa4969)が自分と同じ姿と声の敵、『六花』の主張を即座に否定した。
「全能感……。支配欲……。殺戮衝動……。そんなもの……六花は……抱いたことない……」
(そういう感情を持つ人間もいる事は否定しないけど、六花は違うよね)
アルヴィナも六花の主張に賛意を示す中、終焉之書絶零断章+5を顕現し、六花は心の声を漏らす。
「みんなまとめて同じみたいに言うのはやめて……よ。あなたを傷つけたあの討滅部隊の人たちと……一緒にしないで……」
サピア(aa5623hero001)と共鳴し、現段階で主人格となっている聴 ノスリ(aa5623)は、サピアに『これって本物でしょうか』と問われ思案を巡らせる。
「真偽など何方でも、何が変わるわけでもないというのにね」
ノスリは自分の姿をした敵に子供達が殺される光景が本物であるか訝しんだが、そう言って首を横に振り、自分の姿をした敵――『ノスリ』と対峙する。
今あるのは自分の姿をした敵『ノスリ』が発した言葉への――僅かな怒り。
「……他の言葉は、聞き流してあげても良かったけど……ダメだよ、それは。ああ、うん……ダメだよ……絶対。そんな言葉、嘘でも僕の姿で言わないで」
きみが僕の悪意――なるほど。
きみが僕の全能感――へぇ。
きみが僕の運命――は?
それは断じて認めない。認められない。
(あらあら。ここはノスリさんにお任せしますね)
サピアはノスリに主導権を託し、ノスリは名も無き本と銘したネクロノミコンを開くと、ノスリの周囲に読解不能な文字が現れ笑いさざめく。
「僕の運命は、神様のものだ。他の誰のものでも、当然、僕のものでもない」
そして鏡合わせの両者は激突する。
●対決
まず永の守るべき誓いが発動し、それまで子供達を傷つけていた敵達を引き寄せる。
(あまりにも見るに堪えませんから)
「……相手なら……してやる」
帆鳥も永も、『永』の言動は許容できるものではなかった。
「……衝動なら、覚えがある……かも、しれない……が……な」
永は『永』の言い分を一部認める。
「だが……それを向けるべき相手を……お前達は……間違えた」
≪憤怒≫≪復仇≫ の剣光を煌めかせ、永はそう告げて『永』の双剣と切り結ぶ。
――H.O.P.E.は、偉大でも何でもない。絶対の正義なんて、無い。
永の≪憤怒≫≪復仇≫はひらりと舞い、突きかかる『永』の双剣を受け流し、打ち払って『永』から子供を護る。
(まずおまえの姿をした敵を封じろ。能力が同じなら、早めに無力化するのが得策だ)
「敵が僕と同じ思考なら、死角や隙を突いての一撃離脱に徹するでしょうね」
ベルフの助言に頷き、昂は永の守るべき誓いによって誘導される敵のうち、自分の姿をした『昂』に忍び寄る。
死角から一気に『昂』へ忍び寄ると、昂は縫止を発動し、ライヴスの針を放って『昂』の身に突き立てた。
昂の縫止を受けた『昂』は、一撃を加えて飛びのいた昂に向けスキルを放とうとするも、昂の縫止によって不発に終わる。
『昂』が怯んだその隙に、再び忍び寄った昂の雪村+3が空間に細氷のような輝線の弧を描き、『昂』を斬り下ろす。
肩から脇腹にかけ斬られた『昂』が、空を掴んでのけぞった。その姿が霧に溶け消えていく。
悠理はSA「アルマータ」のステルス機能を駆使して戦場をすり抜けながら、今見せられているこの光景が愚神エンヌが体験した恐怖ではと推測していた。
――ならば恐怖を取り除かなければ、同じ姿をした敵は消えないのでは?
(仮にそうだとして、何をするつもりだい?)
「俺達は正義の味方じゃない。でも、あの子供達は俺達が護るべき相手だ。それなら、やることなんて決まってるよね」
帆鳥の疑問に悠理はそう答えると、自分と同じ姿をした敵に向かい、一気に間合を詰めると縫止を発動する。
不意を突かれた『悠理』は、悠理のライヴスの針を受けてスキルを封じられるも、悠理の雷切に似た刀を落雷のように近くの子供へ振り下ろす。
そこへ悠理の雷切が強引に割り込んで『悠理』の刀を跳ね上げ、悠理は子供の前に立ちはだかる。
(その姿でそんな真似をされるのが問題なんだよ)
「俺は君たちを傷つけたり、殺したりしないよ」
そう背後にいる子供に声をかけると、悠理は正面に向き直り、鳥の鳴き声にも似た風切り音を置き去りにして互いの刀が激突し、渡り合う。
その近くでも、『ノスリ』の姿をした敵が子供に向け、異形の触手めいた槍を射出したが、突如子供の前に【名も無き本】の群れが現れると盾状に敷き詰められて展開し、『ノスリ』の攻撃を防ぎ止める。
ノスリのインタラプトシールドだ。
「《きみ》の思う儘になんて何一つさせてあげない」
僅かに怒気を口調に滲ませ、ノスリは『ノスリ』に歩み寄っていく。
「きみの魂の怒りが『僕』を強くするんだ」
(詰まらないですね。色々仰られてますが、この敵達の意志は全て同じ方向に向いているようです)
サピアも『敵』が掲げる感情に当初興味を持ったが、単一方向に向いているとわかると興味を失ったようだ。
「人を傷つけて平気かと問われれば、きっと、多分、平気かも。けれど其れは神の意志があればこそ。でなくば否。誰が好き好んでそんな事しなくてはいけないの」
――だからこれ以上、僕の後ろに《きみ》の攻撃なんて通さない。
ノスリの言葉通り、『ノスリ』の攻撃がノスリのインタラプトシールドに防がれる中、『六花』の姿をした敵が子供やノスリに向け、業火を炸裂させた。
「……やめてっ、酷いこと……しないで!」
子供達を傷つける『自分の姿』に六花はそう叫ぶと、ゴーストウィンドを発動した。
六花より放たれ、六花が『雪風』と呼称するゴーストウィンドが吹雪めいたライヴスを纏う不浄の風となって、範囲内にいた『六花』と『ノスリ』を絡め取り、急速にその身を朽ちさせ消していく。
(六花、子供達なら大丈夫よ。仲間達が護ってくれたわ)
アルヴィナの指摘通り、『六花』が直前に放ったブルームフレアらしき攻撃から子供達をノスリがインタラプトシールドで、永がハイカバーリングで、悠理がその身で子供達を護っていた。
六花のゴーストウィンドから外れた位置で、木枯丸と『木枯丸』のストームエッジの応酬が続く。
互いに負傷を蓄積させていたが、不意に『木枯丸』が一気に木枯丸のもとへと迫る。突きあげた大太刀が霧を弾き、ただ一瞬をめがけているようだ。
(やはりおんしのように、身を捨てて諸共に仕留めにきたようじゃの)
「ボクと同じ太刀筋なら捨て身で来ること多いからねぇ。相手の手札を見極めた上での攻勢をするよ~」
対する木枯丸は菜葱の指摘にそう応じ、身の丈以上もある白夜丸を【SW(刀)】EMスカバードに納め、同じく地を蹴り飛ばし、間合いを急速に詰めていく。
そしてかけ違う一瞬。
(坊、今じゃ。後の先で仕留めよ)
菜葱の合図と共に、木枯丸はロストモーメントを発動した。
唸りを上げて振り下ろされる『木枯丸』の大太刀を、木枯丸は薄紙一枚で躱す。『木枯丸』の斬撃が木枯丸の頬をかすめた瞬間、極端な右半身になって思うさま体を接近させた木枯丸の【SW(刀)】EMスカバードより刀光が迸り、翻った白夜丸が袈裟懸けに『木枯丸』を断ち割った。
『木枯丸』は横ざまに転倒し、霧に溶けるように消えていく。
仲間達が自分の姿をした敵と戦う中、由利菜は負傷した仲間のもとに駆けつけては、ケアレイやクリアレイを駆使して治療して回っていたが、そこに『由利菜』が追いすがる。
「『私』は貴方です。『私』を否定できません」
そう言って横合いから突き出された『由利菜』の三叉の槍を、由利菜の神槍「トリシューラ」+3が弾く。宙に散った火花に『由利菜』の顔が照らし出された。
(これもユリナの言う、罪の意識を植え付けようとする何かなの?)
「そうだとしましても、このような『私』は認められません!」
ウィリディスの疑問に由利菜はそう答え、疾風の切り返しを見せた由利菜の神槍「トリシューラ」が真紅の豪風を纏って繰り出された。
敵の身体を違いなく貫いた手応えが由利菜の手に伝わり、胴を貫かれた『由利菜』が縫い止められたように停止する。
「治療の邪魔です。ここで消えて下さい」
そう言って由利菜が神槍「トリシューラ」を引き抜くと、『由利菜』は粉々に砕け、霧に消えていく。
そして永、悠理と戦う敵を射程に捉えたアルヴィナが六花に報せる。
(残りの敵が全て射程内に入ったわ)
「もう傷つけさせない。残り全部、六花が片づけるよ」
アルヴィナの合図と共に六花は『氷炎』と呼称するブルームフレアを発動する。
『永』と『悠理』の近くに凍気を思わせる氷炎の花が咲き、氷炎に包まれ蝕まれた敵達は砕け散り、霧へと溶け消えた。
全ての敵が倒されると共に、それまで永、悠理、ノスリ達が護っていた子供達の姿も消えていく。
やはり悠理が予想したように、エンヌの恐怖で創られたもののようだ。
そして入れ違いに愚神マニブスと、周囲に透明な障壁を展開し、膝を抱えて座り込む女の子――愚神エンヌが姿を見せた。
「これが本題。『グライヴァー・チルドレン(愚神の子供達。以下GCと略)』の彼女達を、どうするの?」
マニブスはここで依代となった女の子の正体を告げた。
●救い
最初にそれを聞いたのは六花だった。
「……ねぇ。GC……って……どういうこと……なの?」
「人間に憑依した愚神と人間との間で産まれた子供達のこと。この名称は貴方達H.O.P.E.がつけたものだけど」
エンヌの代わりにマニブスが答える。
「人と愚神の間には……人と英雄と、同じように……子供が授かる……っていうこと?」
(その形なら、子供が授かる事は可能よね)
アルヴィナは納得したが、六花もアルヴィナも、この場にいるエージェント達も心当たりはなく、やがてエンヌらしき泣き声が届き始める。
(……ああ……ノスリさん、変わって頂いても……?)
サピアがそう言うと、ノスリはそれを承諾し、主人格がサピアになった。
「貴女にとって、貴女は人間? 貴女の仰る儘に見ましょう。お話を聞かせて頂けますか?」
実際に人か否かなど、興味はない。
けれども『H.O.P.E.』によって愚神だと判断されている。ならばとサピアはエンヌに呼びかける。
「生まれてきちゃいけなかったなんて、そんなことあるものか」
悠理も自分の意志を伝える。
(ここからはりんかーを助けるために、よくわかんない結界? みたいなのを開けるよ~)
(ならば、障壁を解除させる必要があるじゃろう)
菜葱と短くやりとりをかわし、木枯丸はおっとりした口調でエンヌに声をかける。
「え~んぬく~ん、あ~そびましょ~」
木枯丸の声で、その場の緊張が弛緩する。
「たい焼き買ってきたんだよ~。お茶も用意してきたから食べよ~」
事前にコンビニで購入したたい焼きやお茶を掲げ、木枯丸はエンヌに呼びかける。
(エンヌから聞き出すのは仲間に任せるとしよう)
「今回僕らを試す様な言動を行った理由を聞くのが先です」
ベルフの意志に昂はそう応じ、マニブスのもとへ向かい情報の引き出しにかかる。
そして昂がマニブスから得た情報には、エンヌが人を憎む理由も含まれていた。
依代の女の子の感情が影響している事は予想通りだったが、昂はそれを仲間達に伝えて回る。
永の内にいた帆鳥が何事かを永に頼むと、永は頷いて口を開き、帆鳥の言葉を解き放つ。
『……自分の生まれを肯定するのは、自分ですよ。誰に認められなくとも、自分が認めなければ。自分は此処に居ると、生きていると、ね。貴方を最も知っているのは、貴方なんですから』
そこまで帆鳥が話したところで、永が自身の存念を口にする。
「……俺達は……その子を……苦しめよう……とも、殺そうとも……思っていない」
ここでプシューケーで幻想蝶の幻影を展開した由利菜は、それをエンヌに向けて飛ばす。
「この凄惨な光景を塗り替えるのに少しでも、この蝶が役に立てば……」
由利菜の幻想蝶は障壁をすり抜け、エンヌの傍をかすめ、それに気づいたエンヌが顔を上げ由利菜を見る。
(あたしの考える、人……と言うか、他の生命との絆の繋がりを信じられるか、否かなんじゃないかな)
「絆とはよく使われる言葉故、陳腐に受け取られることも多い。ですが……絆を維持することは非常に難しい。それだからこそ、尊いものなのだと思います」
ウィリディスと由利菜はエンヌからの問いにそう応えたが、マニブスは『絆がないGCは人に非ずと?』と揶揄した。
マニブスに反論しかけた由利菜だったが、ウィリディスからの提案に驚く。
「癒しの力を愚神に使う……!? 本気ですか、リディス?」
(ココロもそうだけどさ……カラダも随分傷ついてる。心と身体の痛みって連動するものだと思うんだよ)
「……責任は私が負いましょう」
ウィリディスの提案に逡巡した後由利菜はそう決断して認め、ケアレイをエンヌへ飛ばす。
由利菜のケアレイは障壁を素通りし、治癒を含んだライブスがエンヌを癒すとエンヌは驚愕し、そのためか障壁も無音のまま消えた。
障壁が消えたと判断した悠理が、ゆっくりとエンヌのもとに近づく。
「君は、本当に愚神なのかな。もしも愚神ではないと言うのなら、保護できるように掛け合ってみるよ」
悠理からの問いにエンヌの回答は、『自分は愚神』だった。
「そうか……ごめんね。君よりも、君の憑代になっている子供を俺は護らなきゃいけないんだ」
悠理は愚神は嫌いだ。許せない。
ただ、怯えている女の子を見てただ殺そうとも思えない。何か出来るならしたいとも思う。
(エンヌを否定するのは依代の女の子を否定するのに等しい状況ですからね)
無鳥が、悠理の心情を代弁した。
「……例外は無い。愚神は……殺す」
それは絶対だ、とエンヌに近づく永は思う一方、もう一つの意志も伝える。
「……ただ、何か言いたいことがあるのなら……それに耳を傾けるつもりは……ある」
このエンヌという存在の意志が人間と愚神、いずれであっても。そう永は考える。
「ボクも愚神だろうが人だろうがそんな違い分かんないけど~泣いてる女の子いたら、いたいのいたいのとんでいけ~ってするんだよぉ」
そこへ木枯丸がやってきて、エンヌの頭を撫でて本当に『痛いの痛いのとんでけ』と呟き、エンヌが固まった。
(坊、何やっとんのじゃ……)
菜葱の呆れを含んだ物言いに、木枯丸はのほほんと応じる。
「え~? だって同い年の女の子だからぁ~」
「大丈夫よ。貴女は人間よ。生きていていいのよ」
いつの間にかエンヌのもとに来たサピアは、依代の女の子が欲しがるだろう言葉を送る。
――どれか一言、たった一言だけでも良いから、誰かにそう言って欲しかったと、サピアも思う。
「だから。私がずっと欲しかった言葉を全部あなたにあげましょう」
――誰か一人でもそう言ってくれたなら、私は救われたのに、と思いながら。
最早詮無い事だけれど。
「討滅部隊の人たちが、酷いことをしたのは……謝って済むようなことじゃないけど……六花は……あなたたちが本当に人と愚神の間に生まれた子だったとしても……生きてちゃいけないとか、生まれてこなければ良かったとか……そんなこと、思ったりしない……よ」
六花は自分の感情を止めることなくエンヌに訴える。
自分は愚神とも仲良くしたいし、GCのような存在が今後も生まれるなら、喜ぶ人もいると。
「守ってあげられなくて……ごめん……なさい」
六花はGCのような存在がいたことを知らず、傷つけたことを謝罪し、願う。
「ねぇ……エンヌお願い。憑代の子を……解放して。それと……討滅部隊の人たちも。六花は……できれば……あなたのことも……殺したくない……の」
エンヌは六花達を一切攻撃しなかったが、憑依解除を拒んだ。
やむなく六花が最後の手段であった支配者の言葉を使おうとした時。
エンヌに忍び寄っていた昂の両手よりハングドマンが迸り、エンヌの身に絡みつくと、その身に一撃を入れた。
(自分だけで背負おうとするな。これは俺の判断でもある)
「悪く思わないで下さいね。これが僕の役割ですから」
ベルフと共に、葛藤も痛みも飲みこむと覚悟を決めた昂の一撃と共に、何かが割れる音が響く。
由利菜からケアレイを受けたとはいえ、昂の一撃は負傷の残るエンヌを討つのに十分だった。
エンヌの身から光の粒子が噴き、周囲の霧も急速に晴れていく。
やがてエンヌとドロップゾーンが消えた後、その場には依代だった女の子とSE討滅部隊員達が残された。
●黒幕
「負傷者はこちらへ搬送願います」
愚神エンヌが討たれた後、由利菜は依代の女の子と討滅部隊員救助の為、仲間に手伝ってもらい自分の周囲に彼女らを集め、ケアレインで治療にかかる。
負傷者を運び終えた木枯丸は、『刀のお手入れするよ~』と自分の白夜丸の手入れをし始めた。
そして無線を介し永や悠理がジョセフに救助部隊の派遣を要請すると共に、例の非協力的な部門に関する調査結果を伺う。
結果は『クロ』。
情報部が内偵を進めたところ、その非協力的な部門はSE、更にはアルター社の一部とも繋がりがあったらしい。
H.O.P.E.の一部がアルター社やSEと繋がっていた事も重要だったが、続く内容はより深刻だった。
「……ヴィラン……認定……された?」
通信を受けた永が億劫そうな口調ながら、驚きを含む声を漏らす。
「これが、貴方達GCが人を恐れる理由ですか?」
帆鳥はラカオスに問う。既に永とラカオスの筆談でラカオスもGCである事は判明している。
今回の救出対象であったSE討滅部隊がヴィラン認定され、彼らへの討伐部隊が編成されて出撃し、こちらに向かっているらしいが、正式な命令ではなく、例の非協力的な部門の独断によるものらしい。
「ああ、これは嵌められてしまったようだね」
「消耗させてからまとめて闇討ちするつもりだったのかな?」
帆鳥が大仰に空を仰いで呟き、悠理は不敵な笑みを浮かべた。
なおジョセフや情報部の調査によると、非協力的な部門の人達も遁走し姿を消したようだが、明らかになったことがある。
H.O.P.E.を騙りGCという人間達を選別し、管理処分する組織の正体は『H.O.P.E.とアルター社』の一部だった。
「先に到着するのは救助部隊と討伐部隊、どっちだ?」
ベルフが無線で現状を確認すると、討伐部隊との連絡は未だとれないが恐らく討伐部隊が先、とのことだった。
「どう思う、サピア?」
「これだから人間は面白いですね」
ノスリの問いは複数の意味が込められていたが、問われたサピアは『面白い』と評した。
それまで永との筆談に応じていたラカオスが、エージェント達に告げる。
「私の『処分』が決まる前に、全てお話しします。こちらへ」
そこへループスがラカオスを抱え、マニブスは条件付ながら由利菜が治療した討滅部隊の搬送を申し出て、ある場所――『GC研究所』へと案内する。
「この先は六花も辛い思いをする場所だと思うわ。どうするつもり?」
自分を案ずるアルヴィナに、六花は自分の意志を告げる。
「……ん。六花は――」
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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