本部

エイプリルフールIFシナリオ

【AP】君がここにいてくれたならば

東川 善通

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2018/04/21 12:18

掲示板

オープニング

 この【AP】シナリオは「IFシナリオ」です。
 IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
 シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。

「おかえりなさい」
「おう」
 権堂 龍士(az0119)と眞魚(az0119hero001)が帰宅すると彼らを迎えてくれたのは赤い髪の綺麗な女性だった。龍士は彼女を一瞥し、一言だけ言うとその横を通り過ぎる。
「卯月さん、ただいま戻りました」
 その点、眞魚は女性――卯月に丁寧に挨拶を返す。
「りゅーちゃんには目を合わせて挨拶するように言っておきますね」
「あら、いいのよ。男の子は一度は通る道なんだろうし、眞魚さんは気にしなくて大丈夫よ」
 それにああいうところは昔の旦那にそっくりなんだからと卯月は楽しそうに眞魚に話す。すると遠くから「ぶえっくしょん」と大きいくしゃみが聞こえてきた。
「あれはどっちがくしゃみしたのかしら」
「どちらともじゃないでしょうか」
 和尚とりゅーちゃん、変なところで息ピッタリなのでと付け加えるとそうねと卯月は笑う。
「ところで、眞魚さんもりゅーちゃんも怪我はしてない?」
「はい、ご心配ありがとうございます。この通りけがもなく無事に戻ってまいりました」
「それはよかったわ。こうして、元気に帰ってきてくれるのは母として凄く嬉しいわ」
 いろいろ勉強になるから旅に出るのは反対しない。でも。必ず、元気に帰ってきて欲しい。母としてはそれが一番の願いよと語る卯月。
「あ、勿論、眞魚さんもよ。あなたも今では私の子なんだから」
 そういって微笑む彼女に眞魚ははいといって頷いた。夕食時、卯月が手伝ってと龍士に声をかければ「なんで俺が」と文句を口にする。しかし、眞魚が手伝おうしたため、それを止めるために渋々承諾。嬉しそうに調理をする卯月の隣で包丁を握る龍士。眞魚はそんな二人を眺めていた。
「おふくろ、これでいいか」
「ええ、ありがとう。りゅーちゃんは本当、器用ね」
「いい加減にその『りゅーちゃん』って呼ぶのやめろ。ガキじゃねぇんだから」
「あら、いくつになってもあなたは私の子供よ」
 だから、やめませんという卯月にくそっと不貞腐れながらも龍士は手を動かしていた。その様子を見て、眞魚と卯月はくすくすと笑うのだった。

 それは穏やかな時間。それはもしかしたら、あり得たかもしれない一幕。
 今、ここに君が、あなたが、あの人がいたら、どんな時間を過ごすだろうか。

解説

 亡くなった方がもし、今、この世界に生きていたら、あなたはどう過ごしていますかという話です。
 亡くなった方は人や動物など問いません。

 リプレイでは一幕を切り取る形になりますので、ほぼプレイング重視になります。
 他者絡みに関してはプレイングに○○と△△する(例:康<対面禁止の脱出に登場したアズラルアンカーのリーダー>が龍士の家に突撃してくる)などと記載がない限り絡みはないものと思ってください。

リプレイ


 それはどこにでもあるような日常。学業を優先し、同級の友人たちとゲームやバラエティ番組の話で盛り上がる。
「……」
 休日、伊邪那美(aa0127hero001)と共に依頼を確認していた御神 恭也(aa0127)は沈黙ののちに、溜息を落とす。
「今月は散財してしまったから、仕事を入れようと思っていたんだが……」
「ものの見事に現地が海外のだけだね……」
 バイトとしてエージェントの活動を行っているのだが、学業のこともあり、海外の依頼を受けることが禁止されている。そのため、ずらりと並ぶ依頼だったが、どれもこれも海外と言うこともあり、請けることができないでいた。
「せめて、夏休みの間だけでも許可してくれないかな。バイト代+海外旅行ができるんだが」
「う~ん、ボクは夏休み中もプールに参加しないといけないから無理じゃないかな……ボクも行きたいけど」
 夏休みの間だけでも説得してみるかと考える。しかし、伊邪那美はプールがある、と零す。英雄と言えど、年齢が年齢と言うこともあり、恭也の両親の意向で小学校に通う伊邪那美。そのため、学業の一環として夏休みにもプールがあることがある。
「……相談するだけでも、してみるか」
 望みは薄いかもしれないが、と言えば、伊邪那美もそれに頷く。勝算というわけではないが、上手く伊邪那美たちが協力してくれればとも恭也は考えていた。娘が欲しかった両親は、伊邪那美のことは勿論だが、恭也のもう一人の英雄である少女のことも実子のように可愛がっている。むしろ、実子である恭也以上に可愛がっているかもしれない。
「そういえば、学校はどうなんだ?」
「学校は楽しいけど、偶にあるテストがねえ……国語とか算数なんかは問題無いんだけど、社会が如何にも苦手だな」
「なんだ、点数が悪くて怒られたのか?」
「微妙かな? 美紗斗ちゃんも一馬ちゃんもボクの答案を見て、何とも言えない顔をしてから次も頑張ろうって言うから」
「ふむ……間違った箇所が最近起こった事象なのか。確かに怒り辛いかもな」
 これ、と渡された答案を見て、恭也は納得する。ここ数年、劇的に変化していく世の中。大事件などが起これば、それがすぐに教科書に載ることもあり、中々覚えていくのは大変である。そのため、怒るに怒れないのだが……。
「まったく、親父達は伊邪那美に甘すぎる」
 とある日にはそう言って怒る恭也の姿があった。
「まぁまぁ、そんなにカッカしないで」
「大体、お前が俺の部屋を散らかしたのが原因だろうが!」
 散らかした張本人は注意を受けただけで片づけするのは部屋の主。おかしいだろと伊邪那美に怒れば、「にゃ~、美紗斗ちゃ~ん、恭也がボクを苛める~」と母の許へと逃げていく。
「おい、待て」
 それを追いかけていけば、「恭也の方がお兄さんなんだから」と美紗斗から注意を受ける羽目になる。とことん、両親は伊邪那美の味方になるため、喧嘩になっても軍配は伊邪那美に上がるのだった。
「……我が家のヒエラルキーで俺は最下位なんじゃないか?」
 ある時、ふと気づいて恭也はそう零すのだった。


 パチパチと暖炉の火が音を立てる。気づいた時には暖かなその部屋に紫 征四郎(aa0076)とユエリャン・李(aa0076hero002)の二人はいた。
「見慣れない場所……、ここ、一体どこでしょう」
 きょろきょろと見渡し、カタカタと鳴る窓に外が気になった征四郎は窓に手をかけた。しかし、それをユエリャンは静かに制する。
「外には出ないほうが良いであろう。此方の雪は、優しくはない」
 その言葉に征四郎が首を傾げ、理由を尋ねようと口を開こうとした瞬間、声をかけられた。
「『  』、夕食の準備ができた。君も此方に」
 現れたのは黒髪の優し気な青年。年齢はユエリャンよりは少し若いだろうか。
「おや、『  』に客人など珍しい。小さな友人さん、シチューは好きかな?」
 そういう青年の『  』は何と言っているのか聞き取ることはできないが彼の視線がユエリャンに向かっていることからユエリャンのことを言っているのだろうと推測。戸惑いながらも彼の問いに頷けば、「では、お皿をあと一組用意しよう」と部屋を後にした。
「ご家族の方、です? 似ていないような気がします」
「……、……李月亮」
 青年の存在に首を傾げた征四郎にユエリャンは声にならない声の後に続いた名前を呟く。その名前はユエリャンだった。
「ユエリャンだ。あれは本来、我輩の名前ではないのだ……我輩が借りていただけで」
 失った記憶を手繰り寄せるように思い出していく。そして、彼が「恩人」で「かけがえのない友人」だったことに辿り着く。
「血は繋がっていないが、家族のようなものだ。そうだった、気がする」
「血のつながりはないのに、家族なのですか?」
「征四郎にとっての我輩やもう一人のような感じであるかな。とはいえ、君には家族が存命だからピンと来ないかもしれぬが……」
 「血の繋がらない家族」と言う言葉に首を傾げた征四郎に自分たちのような関係と言うことを説明する。そして、自然と口に出た言葉にユエリャンは驚く。
「んん、ということは、我輩は本来の家族と決別していたのか」
 自分の言葉から推測。そうだったのかと一人頷いた。
「さて、月亮を待たせるわけにはいくまい」
「そうですね、行きましょう」
 二人は月亮が用意してくれた食卓を彼と共に囲む。ほかほかと湯気の立つシチューに舌鼓を打つ。
「おいしい、です! えっと、あの、おかわり、ありますか……?」
「いいとも。沢山食べなければ大きくなれない」
 美味しく、おかわりの有無を尋ねれば、笑顔で月亮は答える。
「『  』はとても少食だ。少し見習ったほうが良い」
「いや、我輩は……」
 そんなユエリャンと月亮のやり取りもありつつ、和やかに食事は終わった。
「これは夢だ。優しいが叶わぬ夢。彼がここに居てくれたならば、この先の我輩は英雄として召喚されない。そんな気がする」
 彼に何があったのかは思い出せない。だが、そんな気だけは確かに感じた。それと同時にこれは忘れるべきだとも。
「大事な思い出なのに、ですか?」
「大事な思い出だから、である」
 そう静かに告げるユエリャンの横顔に征四郎は自分だけは覚えていようと思うのだった。


 それは突然の襲撃だった。そして、戦えるのは彼らしかいなかった。
「これでみんな逃げられたみたいだね。俺たちも……そろそろ引き時」
「だが、アイツが戻ってないだろ? ……だから、引くわけにはいかない」
 村人たちを逃がし、自分たちもとレイルース(aa3951hero001)が口にするが、彼のリンカー――カッツェは散策に出ていった自身の妹であるマオ・キムリック(aa3951)が戻ってきていないと武器を握り直す。それにレイルースは頷くと目の前の愚神に意識を向けた。

 嫌な予感がする。普段とは違う森のざわめきにマオは急いで村へと戻った。
「……お兄ちゃん!?」
 荒れ果てた村に白いコートを着た見知らぬ人達。そして、座り込むレイルースとその横に倒れたまま動かない人物を見て、マオは悲鳴に近い声を上げる。
「……大丈夫。疲れて寝てるだけ、だから」
 そう言われ、安心からかへなへなと座り込んだマオ。そして、レイルースに話を聞けば、「H.O.P.Eの人達が遅かったら」と恐怖した。
 その後、避難していた村人たちも戻り、荒れ果てていた村も無事に復興。以前と変わらぬ生活を取り戻していた。

「ふふ、今日もいい天気だねぇ、ソラさん」
 森の中にある少し開けたお気に入りの場所。優しい風がマオの頭を撫で、木々の葉を揺らし、小鳥がさえずる。ここに来るのがマオの日課だった。
 そして、草の上に寝転がり、のんびりするのが大好きなマオ。スッと手を天に伸ばせば、そこにソラさんと親しむ青い鳥が止まる。
 ソラさんに他愛のない話をしていると、穏やかな陽気に自然と瞼が下りていった。
 マオが日課の場所に行っている中、レイルースとカッツェは釣り場に来ていた。
「釣れねーなー」
 耳はぺたんと下がり、尻尾は面白くないと揺れる。
「……誓約」
「ん?」
 カッツェの隣に座っていたレイルースはぽつりと言葉を零す。それにどうしたと彼に視線を向ける。
「君も大切な家族。君もいなきゃダメだから……」
「……」
 二人の間で交わされた誓約は「家族を守る」。だからこそ、レイルースは告げる。
「マオのためにも一人で無茶しないで」
「……だな、気を付ける。レイも心配かけて悪かった」
 大事なことだからとしっかりと告げれば、カッツェは頷く。そして、愚神と対峙した時に最悪生きていなかったかもしれないことや心配させてしまったことを素直に謝る。
「うん、約束」
「あぁ、約束だ……っと、お! キタ!!」
 約束を交わしているとグッグッとしなる竿。それに待ってましたとばかりにカッツェは竿を握り直すと魚と格闘する。
 そして、家に帰る頃には大量の魚がお土産になっていた。
「おぅ、今日は大漁だったぜ!」
「……ただいま」
「おかえりなさい!」
 じゃじゃーんと釣った魚を掲げるカッツェにマオは凄い凄いとはしゃぐ。そして、自分たちで食べる分を避けるとご近所さんに配り回った。
「それにしても、あれは惜しかったぜ」
 あと少しって所で逃げられて、だとか、その後から入れ食いでとカッツェは語り、うんうんとマオは頷き、そんな二人をレイルースは眺める。笑顔溢れる小さな幸せがそこにあった。


「ちょっと! またソファで寝てたのね!?」
「え? ああ……チャンピオンリーグの中継観てたら……」
 その声にカイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)は目を覚ます。そして、寝ぼけた頭で寝る前は確か、それを観ていたはずと記憶を掘り起こす。
「はい、起きて! 朝食の用意はもう出来てるから」
 また寝てしまいそうなカイに起きるように告げる。そうかと頷くとソファで寝てしまったことで固まった体を伸ばし、彼女が準備してくれたテーブルへと向かった。
「今日はH.O.P.Eからの仕事はなかったんだっけ?」
「ええ。今日は丸一日オフ! だから、どこか行かない?」
 朝食をとりながら、仕事の確認をすれば、マリエルは頷く。そして、オフと言うこともあり、外へと誘う。
「どこ行こうか……」
「そうね……フライパンを買い替えたいのだけど……」
「んじゃ、フライパン見に行くか」
 特に行きたいところがないカイがそう言えば、マリエル自身も出かけようと言ったわりに行きたいところがあったわけでもないようで、キッチンを一瞥してこれかなと言う。それにカイは他に行きたいところがあれば、行った先で変更すればいいと一つの予定として、フライパンを見に行くことを本日の予定として組み込んだ。

「う~ん……もうちょっと大きい方がいいかしら?」
 ショッピングモールに来た二人は予定通り、フライパンを見ていた。こっちの方がいいかしら、あっちの方がいいかしらと大きさを見比べながら呟くマリエル。それにふと、カイは家にあるフライパンを思い返す。
「つか、フライパン買い替える意味あんのか? 今のでも十分――」
「大食感な人を養ってますから」
 じゃないかと続ける前にスパーンと飛んできた言葉。そして、その言葉を飛ばしたマリエルはちらりとカイを見ながら言葉を続ける。
「大きなフライパンが必要なんです!」
 力強く言われたその言葉にカイは「すいません」と小さく呟くしかなかった。
「よし、これに決めたわ」
 家にあるものよりも一回り程、大きなフライパンを買い、丁度いい時間と言うこともあって、そのまま近くのカフェで昼食をとる。
 他愛もない会話を交わし、穏やかな時間が流れる。

「もう! カイったらまたソファで寝てる!」
 その声にカイはハッと目を覚ます。訳が分からない状態でソファの傍の御童 紗希(aa0339)を見た。
「またテレビ観ながら寝てたの?」
 そう言いながら、近くに落ちているチャンネルを拾い、カイを見た紗希は戸惑った。
「……どうしたの? 泣いてたの?」
 そう言われ、自分の頬が濡れていることに気づく。紗希には聞こえない小さな声でかつての公私の相棒の名を小さく呟き、涙を拭う。
「……ちょっと悲しい夢を見てたみたいだ」
 カイのその返事に紗希はそっかと呟くと、「もう、朝食出来てるから」と食卓へ彼を促した。


「お姉ちゃん、準備できた?」
 柳生 楓(aa3403)が出かける準備をしているとひょこっと顔を覗かせたのは彼女の妹である天音。
「あとはこれをつけるだけです」
「じゃあ、私がつけてあげる」
 天音からもらったロケットペンダントを付ければ、準備が終わると言えば、はいっと元気よく天音が手を挙げる。それに天音は嬉しそうに任せてと胸を叩く。
「ほんと、楓と天音、仲いいよね」
 ペンダントを付け終わり、ぎゅっと楓に抱き着く天音。それを見て、天音の本来の目的と同じように部屋を覗き込んだ氷室 詩乃(aa3403hero001)は二人を見てそう感想を零した。
「詩乃お姉ちゃんとも仲いいよ」
「そうだね。あ、時間、大丈夫かな」
 時間と言われ、時計を見れば、出発予定の時間を少し過ぎていた。それに天音が叫ぶと「お姉ちゃんたち、早く! 置いていくよ!」と先程までべたーとしていたのがウソのようにさっさと玄関まで行くとそこから声を投げかける。楓と詩乃は顔を見合わせ、「行きましょうか」「うん」そう交わし、天音の後を追う。
「ほら、早く早く」
「もう、そんなに慌てなくても何も逃げませんよ」
「でも、遊ぶ時間が無くなっちゃうから」
 早く行こうという天音を宥め、三人揃って家を出る。近所の人から天音と楓がお揃いと言うこともあって「お揃いで仲いいね」と微笑ましいとばかりに声をかけられ、「今度は詩乃お姉ちゃんも合わせて三人お揃いがいいね」とはしゃぐ天音。
「三人一緒もいいですね」
 天音の言葉に頷く楓。どんなお揃いコーデにしようかと話しているとウィンドウに飾られたアクセサリーを天音が見つけ、「あれ、可愛い」と楓と詩乃の手を引っ張って、お店に入る。
「ほら、これが詩乃お姉ちゃんでこっちが楓お姉ちゃん。で、これが私」
 ぴったりでしょと胸を張る天音にいいですねと楓が賛同。「今度、出かけるときは皆でこれつけよっか」と詩乃が提案すれば、うんと力強く頷く。
 アクセサリーショップでお揃いのものを購入後にはファミレスで昼食。
「次はあそこで――」
「天音、そんなに回れませんよ」
「じゃあ、どうしようかな」
 あーでもないこーでもないとこの後向かう先を話し合う。そして、決まれば、先程まで悩んでいた天音が二人より先に行く。
「お姉ちゃんたち、早く!」
「もう、そんなに急いでも何も逃げませんよ」
 そんなやり取りを数回繰り返せば、詩乃が「これで何回目だね」とカウントを取り出す。

「楓お姉ちゃん、詩乃お姉ちゃん、今日は楽しかったね! また時間あるとき来よう!」
「ですね、久しぶりでしたから、なおさら楽しかったです」
「だねー。また今度来ようね」
 あそこに行こう、ここに行こうと天音が二人を振り回す形が多々であったが、それすらも二人は楽しんでいた。
 「今度は三人お揃いで」という天音に楓と詩乃は笑顔を浮かべて頷くのだった。


 新爲(aa4496hero002)はそこに立っていた。
「……あれっ? どうしたんですかこんな所で? もしかして、また迷い込んじゃいました?」
 新爲と同じように立っていた少女。少女は新爲と同じかそれより下くらい。新爲に声をかけられ嬉しそうにする。
「もうもうっ! ダメですよって何度も言ってるのに」
 ぷくーっと頬を膨らませれば、少女はくすくすと笑いながら、新爲の頬に触れてそれを萎ませた。彼女が来てくれるのは本当はちょっと嬉しい。けれど、少女のことを考えれば、新爲がいる方に来ない方が良いということがわかっているから、会えるのは嬉しいという言葉は心の内だけ。
(大丈夫、大丈夫。私は寂しくないですよ)
 自分に言い聞かせるように心の中でそう言葉を唱える。それから、そういえば、と少女に問いかける。
「綺麗なお花は咲きましたか?」
「季節は今何ですか?」
「お歌は上達しましたか?」
「確かお母上にお手紙を書いたと言っていましたね。お友達は出来ましたか?」
 新爲の質問に一生懸命、それでいて楽しそうに話す少女の一言一句逃さないようにと声に言葉に耳を傾ける。何気のない他愛なおしゃべりを交わす。

「それじゃあ、そろそろお帰りなさい。もうこっちに来ちゃダメですよ、ニッタちゃん」
 互いの目に映ったのはにこりと微笑む笑顔だった。


「えっと、これとこれと、それからこれ!」
 並んだ駄菓子に目をキラキラさせて、あれもこれもと手を伸ばす。そうして、小さな手にいっぱい駄菓子を抱え込む子供たち。
「順番に並ぶでござるよ」
 私が先―、僕の方が先だよとお菓子を沢山抱えて言い合う子供たちに白虎丸(aa0123hero001)はこらこらと注意しながら、会計をしていく。そして、買ったそばからお菓子を頬張る子供たちに今度は「ゴミはゴミ箱に、でござるよ」と忙しない。
「白虎丸さん、何か手伝おうか」
「暁輝殿、助かるでござる。では、こちらを――」
 居住スペースである2階から下りてきた暁輝が声をかければ、ありがたいとその助けの手を借りる。そして、いつの間にか混ざって手伝いをする虎噛 千颯(aa0123)。
「みてー、当たったー!!」
「お、じゃあ、もう一個なんだぜ」
 当たったと千颯に見せて喜ぶ子供。その子と同じように喜び、一緒に次はどれにすると対象の駄菓子を覗き込む。
「……眩しいな」
 微笑ましいそんな光景にそう言って、目を細める暁輝。
「うむ、日もだいぶ、傾いてきたでござるからな」
「……ん、あぁ、そうだな」
 夕暮れ時もあり、夕日ががおぅ堂をオレンジ色に染め上げる。そのため、眩しいのも仕方がないという白虎丸に一瞬、何のことかと思ったが、すぐに理解する。とはいえ、同意の際も眩しいと見つめていたのは子供と一喜一憂する千颯の姿だった。

 幼い時から今までずっと一緒。中学の時に暁輝の告白で幼馴染の枠から飛び出して、恋人という関係になってからも、変わらず、一緒。ひょんなことから白虎丸も一緒に過ごすようになったが、特に変わりはない。否、白虎丸が加わったことによって賑やかさは上がったかもしれない。そんな幸せの時間。そう幸せなのだ。だけれど、暁輝の心には小さなそれでいて大きな蟠りがあった。
「千颯、子供が欲しいとか……思うか……?」
 がおぅ堂は白虎丸に任せて、他のことに手を広げようと画策している千颯の大きな背に凭れるようにして、そう尋ねる。
「んー? 俺ちゃんは今のままで十分だぜ。暁輝は?」
「俺は、千颯や白虎丸さんがいるだけで十分だ。これ以上はきっと罰が当たる」
 他愛もない話で盛り上がったり、白虎丸の修行を見たり、駄菓子屋で子供たちと触れ合ったり、それだけで十分幸せであるし、それ以上は望まない。けれど、時折、優しく子供を見守る千颯の姿を見ていると、自分は千颯から普通の幸せを奪ってしまったんじゃないかと暁輝は罪悪感に苛まれていた。
「……千颯?」
 いつの間にか千颯よりいくらか小さい暁輝の体は千颯に抱きしめられていた。彼が何かを不安に思っていることはなんとなくわかっていた。だから、少しでもそれが和らぐようにと抱きしめる。
「暁輝が大好きだから、抱きしめてるんだぜ」
 もっと望んでくれていい、甘えてくれていい、そう思いながら、腕の中のぬくもりをそんな思いで優しく包む。

「……全く、風邪をひくでござるよ」
 抱きしめ合ったまま寝てしまった二人を見つけた白虎丸は二人に毛布を掛けてあげながら、二人の幸せを願うのだった。


「じいちゃん聞いてよ、今度のプロジェクトで重要な部分任されることになっちゃってさー」
 古本屋を営む祖父に木霊・C・リュカ(aa0068)は仕事先のことを語る。祖父はそうかそうかと頷く。
「ま、まぁ良いところだと思うよ。俺のむずかしい部分はちゃんと調整してくれるって言ってるしさ」
 うんうんと頷く祖父に「もう、ちゃんと聞いてよ!」 と多少子供っぽく言えば、「ちゃんと聞いているとも」とぽんぽんと頭を撫でる。
「それで、何の話だったかな?」
「もう! 聞いてないじゃないか」
 むくれるリュカに「冗談だよ。プロジェクトの重要な部分を任されたんだろう」とちゃんと聞いているよと微笑みかけた。

 夕飯時にも両親にそのことを報告するも、「それよりも」と早く彼女を連れておいでという両親。
「だぁかぁらぁ、まだ約束しただけなんだってば!」
 一応、将来は見込んでお付き合いをしている女性はいるのだが、まだお付き合いの段階でそうではないというのにからかってくる両親に苦い顔。
「そうか、ひ孫の顔が見れる日も近いな」
 話を聞いていたのかいなかったのか、先走る祖父に「じいちゃん」と悲鳴に近い声が上がる。
 その一方では「母さんやっぱり最初は女の子がいいわぁ」と母が語り、父も「一姫二太郎と言うしな」と本人そっちのけで息子の将来を考える。
 反論したいけれど、先走る両親と祖父に疲れたリュカは大人しく食事を口へと運ぶ。その際、ふと、青紫の青年の姿が見えたような気がした。
『――善性愚神とは……』
『本日、H.O.P.Eエージェントによる救出劇が――』
 テレビからは愚神や従魔、H.O.P.Eやリンカーといった単語が流れている。とはいって、きっと自分にはずっと関連することのない話なのだろうと青年の姿も忘れ、テレビを聞いていた。

 それはそれは不思議な感覚だった。いつもの場所であるはずなのにいつもとは所々様子が違う。
 そこでは幽霊のような存在となっている凛道(aa0068hero002)は女性らしく整えられた花瓶の花や食事時に漂う健康的な食事の香りに男所帯ととはこうも違うのかと感想を抱く。そして、何よりマスターたるリュカも同じはずなのに別人のように思えた。家族と言う存在をほぼ覚えていないため、温かくリュカを取り巻くそれは少々新鮮だった。
「ちょっと、出かけてくるよ」
 白杖を手に出かけるリュカを追って、凛道も出かける。見えていないはずなのに、不思議な力が働くのかリュカの手助けができた。それにリュカは不思議そうにする。そして、時折、見える青年が「マスター」と自分をそう呼んでいる気がした。

 うつらうつらと舟を漕いでいると見覚えがないはずの紫の少女に手を引かれ、「マスター、そちらに段差がありますので」といつも傍にいるように感じている青紫の青年に注意を呼びかけられ、世界を歩く。そんな夢を見る。


 依頼を終え、依頼人に報告まで済ませる。
「元気でなー!」
 大きく手を振って、依頼人の姿が見えなくなったあたりでニッと笑って女性は黒鳶 颯佐(aa4496)を振り返った。
「さって颯佐! 行くぞ!」
「ああ、帰るか」
 彼女の行くぞの意味はこうだろうと頷けば、何言ってんだ、コイツという顔をされる。
「ばっかお前! 大阪に来たら食い倒れだろ!? たこ焼き制覇だ!」
「……ここは大阪じゃなくて兵庫だ」
「なん、だと?! じゃあ、明石焼きだな! 行くぜ!」
 ついてこいと言いつつも颯佐の手を掴み、歩き出した。それに仕方ないなと溜息を零しつつも慣れた様子で彼女の歩幅に合わせ、ついていく。
 あれもこれもと彼女が颯佐を先導する。その後ろでは全くとばかりに苦笑いを零す。
「お、豚まん美味そ! 買ってこーぜ!」
「その両手にあるのは何だ」
「ん? 明石焼きだぜ」
 そういうことを聞いたのではないと溜息を落とすが、彼女はそんなことは知ったこっちゃない。片手にある明石焼きをさっさとお腹の中にしまってしまうと、片手に明石焼き、空いた方には豚まん。
「ほら、颯佐も食えよ! 美味いぜ」
 ずいっと差し出された明石焼きにまったくと苦笑いを零し、受け取る。
 まぁ、こういう日も悪くはないか、晴れ渡る空の下、まだまだ食べようとする英雄を眺め、颯佐は心の中でそう思うのだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 希望の守り人
    マオ・キムリックaa3951
    獣人|17才|女性|回避
  • 絶望を越えた絆
    レイルースaa3951hero001
    英雄|21才|男性|シャド
  • 孤高
    黒鳶 颯佐aa4496
    人間|21才|男性|生命
  • 端境の護り手
    新爲aa4496hero002
    英雄|13才|女性|バト
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