本部

【愚神共宴】連動シナリオ

【共宴】悪唱断絶

鳴海

形態
ショートEX
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
15人 / 4~15人
英雄
15人 / 0~15人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2018/04/12 22:28

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-

掲示板

オープニング

●居城潜入
 リンカーたちは潜水艇の中で息をひそめるように集中していた。
 これはグロリア社最新式の潜水艦。
 従魔、愚神にむけ高いステルス機能をもち、この潜水艦で陽動部隊が神殿に穴をあけたところ狙って潜入。素早くガデンツァを包囲して倒す。
 というシナリオである。
 ただ、潜水艇は三機しか確保できなかった。
 三つのグループに別れリンカーたちは突入することになる。
 作戦はそれぞれのグループにゆだねられる。
 ガデンツァの居城にはルネの配備も警戒されており。
 なるべく戦力を消耗せずガデンツァの元にたどり着く必要がある。
 なにせ相手はトリブヌス級愚神なのだから。
 それにたった十五人で挑む恐怖。
 そしてそれに対しての対抗手段として手渡されたのが一つの水晶と二冊の楽譜、ただそれだけ。
 本当に大丈夫か。そんな思いを振り切るような歌声が戦艦の中に響き始める。
 鍵は歌が握っている。
 

●ルネ蘇生計画
 遙華は従魔戦艦の内部。司令室でソワソワしつつ席に座っていた。
 そこにはずらっと作戦に参加するリンカーたちが揃えられている。
 遙華は彼らに話さなければいけないことがあると、ここに集めた。
「今回の作戦はガデンツァ討伐も目標のひとつだけど。私たちとしてはもっと優先したい目標が存在するわ」
 そう静かに指を組むと遙華は、その中の数人の顔を一瞥すると、意を決したように告げる。
「ルネの帰還よ」
 ルネ、それはかつて愚神を倒すための命を捧げた英雄。
 彼女が歌ったホロビノウタは希望の音と名前を変えて、今でも様々なアーティストに歌われている。
 その死んだはずの英雄ルネを蘇生できるかもしれないと。遙華は言った。
「このルネの破片の中に彼女のデータが残っている」
 そう指で小さな水色の水晶の欠片を弄ぶ。
「ガデンツァとルネの根本は同じ、情報生命体だと言った。エリザもそれに関しては保証してくれている、ルネとガデンツァは肉体にその精神というデータをインストールすることで成り立っていた。」
 ガデンツァがもともと住んでいた世界では音と科学が融合しており、水晶の中に思いを封印することが可能らしい。
 そのルネの残留思念を強力な霊力を持ちつつ、記憶媒体として使えそうな水晶と同化させれば。ルネが戻るかもしれない。
 そう遙華は仮説を組み立てた。
「だからこれ、あなた達に託すわね」
 そう遙華は水晶の欠片をリンカーに手渡す。
 これはリンカーへの願いであると同時に、ガデンツァへの切り札。
 ガデンツァのイミタンドミラーリングを打ち破る唯一の方法であると彼女は告げた。

● ガデンツァの居城について。
  ガデンツァの海底神殿は戦艦従魔の爆撃によってシールドを破壊されつつあります。
 今回はその居城に侵入していただきます。
 ガデンツァは従魔迎撃に気をとられていますが、その隙にリンカーたちを送り込み。
 二面作戦を展開する予定です。。
 ガデンツァがリンカーとの直接対決で手一杯になればルネを突破して、総戦力でガデンツァにあたれますし。
 ルネの指揮に気をとらせつつ戦うのであれば大幅な戦力ダウンを期待できます。
 それにあたってまず、敵の戦力について確認してみましょう。

●【ガデンツァと戦術】

・ガデンツァのステータス
 ステータス:物攻F 物防B 魔攻S 魔防A 命中A 回避C 移動C 生命A 抵抗A INT S


《シンクロニティ・デス》
 至近距離単体技、超強力な物理、魔法ダメージが同時に発生する。
 振動させることによって分子レベルで分解、内部から破壊する。

《ドローエン・ブルーム》
 自身中心範囲魔法攻撃
 広範囲を歌によって攻撃する、ノックバック効果を持つ。
 かなり使い勝手がいいが、飛距離は短いという弱点を抱える。

《アクアレル・スプラッシュ》
 遠距離複数選択型魔法攻撃。
 下から水の柱で突き上げる、同時に複数の敵を攻撃することができる。
 甲高い音が鳴るのでなれると回避は楽。
《ヴァリアメンテ》
 邪英化スキル、実は音だけで邪英化させることができるので、一気に大量の邪英を生むことができる。

《???》
 特定状況下でリンカーの共鳴を妨害する。またリンクレートを下げる効果もある
・リンクレートが0であること。
・どちらか片方の心が安定していないこと。
・自身の歌が響いていること


《イミタンド・ミラーリング》
 変わり身の術、一定の体力を持つ変わり身をその場におき、自分は別の場所へと転移する。
 
 基本的には、水音、風音による中距離を維持した戦闘を得意とする。
 近づいてきた敵には死音にて攻撃するが、高レベルリンカーですら一撃で戦闘不能になるので、注意が必要。
 さらにまだ隠し手を用意している様子。

 そして今回彼女のスキルの中で脅威となるのが『イミタンドミラーリング』です。
 偽物の体とすり代わり敵の攻撃を避けるイミタンドミラーリングですが、それを打ち破る秘策が遙華にあるようです。
 それが『ルネの結晶』です。
 これを誰か一人がもってガデンツァに接触していただくことになります。
 この水晶は傷ついたガデンツァに叩きつけることによって、ガデンツァの意識を消滅させ、英雄ルネをその体によみがえらせることができる可能性があります。






解説

目標 ガデンツァ討伐

 今回はガデンツァと直接戦闘です。

●神殿内部と戦闘方針
 神殿内部はなんと空洞です。水の中で戦う必要はないので安心してください。
 どうやら、この城自体、ルネの制御にかかわっていて穴などあけられないようですね。
 潜入したならガデンツァと戦うことになりますが。
 彼女の事です。撤退の事や外のリンカーの排除方法などいろいろ考えていると思います。
 それを先読みして潰していけるかどうかも重要なポイントです。
 神殿内部の構造としては。
 戦闘フィールドが、四方50メートルの四角。
 天井はピラミッドのように射角30度程度で上に伸びています。
 天井はそこそこ高いのではないでしょうか。

●《???》について
 今回初登場になるスキルです。
 これは前回の調査シナリオで詳細が明らかになっており、危険なスキルであると言えます。
 このスキルを妨害するために開発された歌を皆さんはすでに持っています。
《解け合うシンフォニス改(課題)》です。
 これは一人が高音、一人が低温と分け、二人で声を重ねることでガデンツァの歌に対抗する者です。
 謳っている間は、ステータスが一割程度下がりますので、注意が必要です。
 さらにそのほかの歌にもさまざまな効果が期待できます。
 皆さんはどんな歌を歌いますか?
 

リプレイ

プロローグ

「ふふふ、はははははは! そうか! ヘイシズ。我に見切りをつけたという事か」
 神殿内部の構造は複雑ではなかった。侵入さえできてしまえばその高笑い、甲高い声でどこにどう進めばたどり着けるか分かる。
 突入したリンカーたちはその声を頼りに薄暗い廊下をゆっくりと歩いていた。
 ガデンツァンの事だ、神殿にトラップが仕掛けられていてもおかしくないのだから。
――これで最後になると良いが……蘿蔔は大丈夫かな?
 そう『レオンハルト(aa0405hero001)』は曲がり角に姿をひそめる蘿蔔に声をかけた。『卸 蘿蔔(aa0405)』は通路の奥をうかがいつつクリアリング後続のリンカーたちの安全を確保する。
「ん、大丈夫頑張ります。これ以上誰も苦しまないように」
 告げると蘿蔔は音もなく光の漏れる一室の前に移動する。
 そして後をついてくる 『蔵李・澄香(aa0010)』と『小詩 いのり(aa1420)』をみた。彼女たちの表情は暗い。それも当然だろう。明るくなれるはずがない。
「みんな気を付けて、そこ踏まないで」
 静かな声で告げる澄香。その視線の先には他の人物には見えないが魔方陣の様な物が敷かれている。
「たぶん攻撃用というよりは侵入者感知用だと思う、無力化しておくね」
 告げる澄香の手が震えていた。ガデンツァとの最終決戦なのだ。心中は複雑だ。
 そんな澄香に『クラリス・ミカ(aa0010hero001)』は声をかける。
――澄香ちゃん、そんな浮かない顔をしていてはアイドルが台無しですよ。
「うん、わかってる……」
――みんなが心配するでしょう。
「…………そうだね、ごめんね」
 告げると澄香はいのりの手を取ってじっと蘿蔔を見つめる。蘿蔔はその視線を受けて頷き壁からそっと顔を出した。
 そこはガデンツァの根城。この神殿の中枢。
「しばらくぶりじゃなぁ、リンカーたちよ」
 そして、蘿蔔が顔を出したその時、ガデンツァから声が発せられた。
 しかしその声は蘿蔔たちに向けられたものではない。
 蘿蔔がいる地点と反対側、そこに『八朔 カゲリ(aa0098)』と『黛 香月(aa0790)』の姿が見えた。
「待っていたぞ。お前の首を叩き落とすこの日をな!」
 告げるとガデンツァは香月の言葉を鼻で笑った。
「できると思うておるのか? 何せわらわの首はほれ、繋がるからのう」
 そんな冗談すら五月蠅い、そう香月は首を振る。
 香月の体をこのようにした『奴』を想起させて止まないガデンツァ。
 今こそその息の根を止める日が来たのだ。
 そう思うと香月の柄を握る手にも力が入るというものだった。
 彼女にとっては慰みの一角に過ぎなくとも、この戦いは絶対に負けられない。
「だったら、何度でも砕くだけです」
――ここまできて俺達がお前を生きて逃すと思うな。
 『煤原 燃衣(aa2271)』が告げる。ゆらりと殺意の炎を上げ『ネイ=カースド(aa2271hero001)』の言葉に頷いてファイティングポーズをとった。
――切群生蒙光照――さあ莫迦娘よ、裁定の刻だ!
 『ナラカ(aa0098hero001)』は面白がるように告げる。
「裁定? 面白い。太陽を抱く鶏風情が、終末をもたらしてやろう」
――いいのか? 加減はできないぞ。
 翻す天剱に一つ目の光を灯すカゲリ。
 今回は出し惜しみ無しで、全力を出していく。そんな気迫がうかがえた。
 次いで静謐な神殿に息を吸い込む声が聞えた。
 そして響いたのは彼女の歌声。今までに聞いたことが無い旋律。
 ディソナンツが神殿内部に強く反響する。
――なめるなよ。
 対してナラカが口にするのは戦いの最中であっても友を鼓舞するための歌。
『生ある限り、希望あり』
 前進する意志の肯定であり、諦めない事を謳う歌である。光は常に万象を照らし、その道を示すものなれば。
 その二つの音が混ざり合い屈折しあい、お互いにマウントをとろうと旋律が音を食い合う。
 最後の戦いが始まった瞬間だった。

第一章

「いよいよ決戦みたいね……とはいっても、私自身はそこまで因縁は無いのだけど」
 そう、蘿蔔の隣で『水瀬 雨月(aa0801)』はぽつりと告げた。カゲリ、燃衣、香月の戦闘を一行はひとまず見守る。
「他の人達は積もり積もっているだろうから、面構えが違うわね。」
 そう雨月は『斉加 理夢琉(aa0783)』の肩を叩く。歌を歌うその役目を託された理夢琉は全身に力を入れてじっと状況を観察していた。
――大丈夫だ。うまくいく。
 そんな理夢琉へ『アリュー(aa0783hero001)』が言葉を駆けた。
 蘿蔔と何度も練習した歌。ルネにきかせたいと首から下げた護石を常に握っている。
「ガデンツァは許されないと思う」
 理夢琉がおもむろにそう告げた。
 その裏では香月がガデンツァに銃撃を叩き込んでいた。
 常にアンチマテリアルライフルの最大射程を確保し、狙撃に専念。
 その隙にカゲリと燃衣が近接で攻めるが、ガデンツァはそれを風音によって吹き飛ばし、香月の銃身を水音で上に打ち上げた。弾丸が神殿の壁にめり込む。
「まだだ!」
 香月の全力はこの程度ではない。
 ギアをあげ次弾を装填、ポイントを変えて円を描くようにガデンツァを狙う。ガデンツァは燃衣やカゲリの接触をかわしながらその二人を盾にするように立ち回った。硬質化させた腕で攻撃をそらして。ドローエンブルームで纏めて吹き飛ばす。
 香月の射撃技術では思うようにガデンツァを狙うことができない。
「く……」
「まだまだ前哨戦じゃろ! お主ら三人のみとは思い難い! 焦る必要はない、今日はとことん付き合ってやる」
 ガデンツァはドローエンブルームを手のひらの中だけで使用。
 カゲリの剣によるガードを跳ね上げ無防備になった胸に指を伸ばす。それが鋭く尖り目にも留まらぬスピードで伸びたかと思えば燃衣が割って入って関節をとっていた。
「我に人体構造を利用した技が聞くと思うか」
 次いで燃衣の取った腕は弾け体勢を崩す燃衣。その燃衣の足元から水の柱が突き出てその顎を打つ。
 三人は十分にトップリンカーと言える戦闘力を有している。ただ三人だけでは赤子同然の扱いだった。
 ただ、それに焦り突入のタイミングを間違えば意味がない。
 理夢琉はその時を歯噛みしてずっと待っている。
「ガデンツァは人間や英雄の心を壊す化け物でその行為は許されない。けど。私は思っちゃうんです」
 理夢琉はその場の全員を眺め告げる。
「何か大きな力に従わされてしまった。歌で同調し過去の真実を知りたい。壊す事を運命づけられたガデンツァ、私は彼女を知りたい」
 告げる理夢琉の言葉を誰も否定しなかった。
「うん、そうだね。私達は彼女を知る必要がある。そして終わらせよう。この悲しい戦いを」
 澄香が告げると、準備が整った蘿蔔が小さく息を吸い込んだ。
 それに理夢琉も合わせる。
(データ通りに旋律を……でも違ったのかもしれない。一人残される彼女に 世界は何か残していなかったのか。それがルネさん?)
 歌が響いた、それはガデンツァの謳う歌を包みこむように神殿中に響いた。
「うた……じゃと?」
 ガデンツァが背後を振り返る。歌の聞こえてきた方向。
 見れば雨月が立っていて、その初手。最初の一撃はガデンツァの顔面を焼いた。
「おごあ」
 ガデンツァは魔法耐性が高い。よってダメージはそれほどではないが外界の情報を音と視覚に頼るガデンツァにとってそれは一瞬の錯乱を招くのに十分な攻撃だった。
 カゲリの刃がガデンツァの胸を貫く。
 振り払おうと上げられた腕は香月によって撃ち砕かれた。
 水晶の破片が天剱の光を反射して煌く。三つ目の光がその刃に灯る。
 次いで蘿蔔からの援護射撃。カゲリが離脱する隙を作り、蘿蔔は叫んだ。
「ルネがいなければガデンツァはフルオーケストラを使えないはずです!!」
 蘿蔔は気が付いていた。ガデンツァの戦闘力を補助するルネが存在すること、ここにはまだ姿を見せていないこと。
「スピーカーや何か別の物でも代用できるかもしれませんが、今のところ確認できません」
 それだけ告げると蘿蔔は自分のパートに戻る。
 図星を言い当てられたガデンツァは少しばかり苦い顔をして打ち砕かれた腕を再生させる。
「ほうほう、少し戦いを長引かせてしまった弊害じゃな。じゃが良い」
 ガデンツァはあたりを一瞥する。そこには見知ったリンカーたち。
「じゃがお主らを殺せば我に関するノウハウは失われるじゃろう。そうなれば再びわらわが有利、殺してやろう!!」
 放たれる狂風。それは今まで以上に強い力を持っていて、一般人ならこの風を受けるだけで四肢がバラバラに吹き飛んでいることだろう。
 だがそれを防ぐために『藤咲 仁菜(aa3237)』が前に出る。
「さがって!」
 カゲリと燃衣を盾の裏に引き込んで攻撃から守る仁菜。
――間一髪だったね。
 『リオン クロフォード(aa3237hero001)』がそう告げてあっけらかんと笑う。
「まだいたか」
 ガデンツァは意識を集中。その足元から水を吹きだして盾を弾きあげようとしたがその地点にもう仁菜とリオンはいない。
 仁菜はいったんコルレオニスに持ち替えてガデンツァに相対していた。
 吹き上げられた盾を空中でキャッチ。それを再び装備する。
「追い詰められた気持ちはどうですかガデンツァ」
――さすがに焦っちゃったかな?
「焦り? そうじゃなぁ、さすがに焦っておる。、愚神側の裏切り、ルネの残した楽譜による本拠地の逆探知。今まで起きなかったことばかりじゃ。それに」
 ガデンツァはギロリと仁菜を睨む。
「一度手痛く打ち据えてやったものじゃが。わらわの前に立てるとは、強い心を持っておるようじゃな、へし折りたくなる」
 ガデンツァの殺意を真っ向から受ける仁菜、しかしその心は凪いでいた。
 理由は自分でも詳しく説明できない。
 ただわかるのは恐怖も怒りもないこと。
 あるのは決意だけ。
 ここでそれぞれの思いを遂げて。
 また皆で笑い合える日々に帰ろう。
 誰一人かける人が出ないように、また明日会えるように。
 戦おう、それだけが胸にあった。
「私は【暁】の盾です。貴女の攻撃は私の盾よりこちら側には届きませんので覚悟してください」
 その言葉に燃衣が肩を叩く。嬉しそうな隊長の表情を見れば仁菜は戦場だというのに笑顔があふれた。
 この人たちが好きなんだと思えた。
 外では仲間が戦っている。ここには友達も仲間もいる。
 だったら恐れることは何もない。
 燃衣が動いた。その体に仁菜のリジェネレーションを受け走る。
 ガデンツァはドローエンブルームの構え。
「隊長!!」
 それに対して仁菜が動く。仁菜は高く飛び盾を振り回すように回転、対して燃衣は姿勢を低くして両手をフリーに。
 ガデンツァの放つ風音にタイミングを合わせ仁菜はその盾が地面をえぐるほどの強さでうちたてると、燃衣はその盾を支えて二人がかりで風を耐える。
「ほう」
 ガデンツァはその場から動かない。
――力が戻ってきたな。
 ネイが告げる。解け合うシンフォニスがガデンツァの歌の影響を抑えているのだ。
 だがそれでも弱い。
「これで!!」
 燃衣は伸び上がるようにジャンプ。仁菜の盾を足場に前方へ加速。
 まるで居合抜きのように斧の柄に手をかけてそれを振りかぶる。
「ぶっ飛べ! つぶれて死ね!!」
 まるでバットのように振るわれたそれをガデンツァはその身にうけるとその体が宙に浮いた。
「く!!」
 ガデンツァはその衝撃を四つん這いになって耐える。すると追撃とした側面から回り込んでいたカゲリ、そして澄香の視線を感じる。
「くううう! 吹き飛べ!!」
 その二人を対象に足元から沸き立つ水の柱。
 それを澄香のかわりにいのりが受け。
 カゲリのかわりに『榊原・沙耶(aa1188)』が受けた。
「くう! 沙耶お前もおったのか」
「ヒーラーがそうそう前にでてくるわけないじゃなぁい」
 告げるとカゲリの傷を癒すと後退。
――私たちは私達の役目を全うする。みんな。頼んだわよ。
 『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』が告げるといのりが頷く。
「僕、気づいたんだ。護るって盾を振るってばかりじゃダメなんだって」
 ガデンツァが中央に走ろうと前のめりの姿勢をとった時。
 いのりが盾のかわりに銃を前に出した。
 それは魔銃フラガラッハ。
「なぜ、お主がそんなものを……」
 その言葉に蘿蔔が笑って舌を出す。
「わたしが、上げました、てへっ」
 放たれる弾丸をガデンツァは腕で捕えて受け流す。衝撃で体制が崩れたところにカゲリがショルダータックルからの切り上げ。
――澄香ちゃん、自重している場合ではありませんよ!! 
 そんな戦況を見守る澄香に、クラリスが声をあげた。
「だ……だってこの本」
 本日持参したアルスマギカはとある改造が施されている。
「ごめん! みんな! みんなが頑張ってシリアスしてくれてたところだけど。私。ごめん!!」
 次いで魔本から放たれたのはミニサイズのクラリスミカ。それが……。ダメージコンバートの影響だろうか。周囲に散らばった石の破片や鋭利な水晶の破片を手に取ってガデンツァに突貫した。
 それを持って四方八方からガデンツァをタコ殴りにするミニクラリスミカ。
「ぐお! 物理ダメージじゃと!」
「ガデンツァ、その怒りは何に向けてのものなの? 本当にボクたちに向けられたものなのかな?」
「いた! いたたっ! なんじゃ! なんといったいのり。聞こえん! こやつらのぐぎゃーという奇声でまったく聞こえん」
「澄香!! せめて声だけでもどうにかならないの」
「ご、ごめんいのり!! 昨日こんなこともあるかと思って黙らせる練習したんだけど……」
「もしかしてさっきから大人しかったのは……」
「寝不足とかじゃないよ……。ただシリアスブレイカーするのが目に見えてて、でもみんな、シリアスしたいと思って、でも私攻撃しないわけにいかないし。本当にごめん!!」
 澄香は皆に頭を下げる。
「で、でも頑張って無理なら仕方ないね!」
 いのりは告げる、澄香には甘い子である。
「一匹しか無理だった」
「一匹!」
「しかもその一匹はいのりの頭の上で寝てます!」
「いつの間に!!」
 というか、それは意味ないんじゃ。そう理夢琉は思ったのだがさすがに口には出せなかった。
「ぬおおおおお! お主らさっさとわらわの質問に答えんか!!」
 ドローエンブルムでミニクラリスミカを吹き飛ばすガデンツァ。それと入れ替わりで燃衣とカゲリが突っ込んでくるものだから笑えない。
「ガデンツァ、その怒りは何に向けてのものなの? 本当にボクたちに向けられたものなのかな?」
「お主らに向けられておるとも!! 我々愚神はお主らを滅ぼすために存在するのじゃ! 憎しみ、怒り、殺したいと思うのはごく当然の事じゃろうが!!」
「だからあなたは空っぽだって言うんですよ!」
 燃衣の蹴りをガデンツァは腕で止めると燃衣の体を巻き上げるようにドローエンブルームで吹き飛ばす。燃衣が壁に激突する前に仁菜がその体を受け止めた。
「じゃあさ、善性愚神っていったいどうなってるのかな」
 いのりは続けて問いかける。二度ミニクラリスミカに襲われているガデンツァに。
「知らん! わらわが知ると思うか! わらわこそ聞きたいわ! 突然変異にもほどがある」
 そんな、徐々にシリアルを取り戻していく場で、雨月はガデンツァの目を盗んでコンソールをいじくっていた。
 先ほどガデンツァが神殿の外の戦場を見つめていたモニターと端末である。
 それはこちらの世界の技術が多く流入されていて雨月にも扱えた。
「転移系トラップはなし。他のトラップは解除できそうね。後発隊が突入するのはそろそろだから解除して……」
 隔絶系、分断系のトラップもなし。
 雨月はここで違和感を覚えた。ガデンツァの根城にしては、少し防備が薄くはないだろうか。
 それでいて、外部から攻めてくる敵に対する迎撃は十分。
「まるで、責められることを前提としているような……」
 そんな思い付きを口にしてみる雨月。
「あとは、ガデンツァの撤退用のギミックを」
 告げると雨月の背後からミニクラリスミカが投擲されそのモニターをガシャンと割った。
「何をしておる!」
 ミニクラリスミカを体に張り付けながらガデンツァが雨月を睨んでいた。
「手癖が悪い、泥棒猫じゃな!」
 次いでガデンツァは歩み寄り足元から水の柱を伸ばす。それは雨月の体に突き刺さる。
「え?」
 そう突き刺さる水の柱。アクアレルスプラッシュが今までこのように硬質化することはなかった。つまりこれはガデンツァのスキルではなく基礎能力。
 水の水晶化なのだろう。そして。
「「まずい!」」
 そう仁菜と沙耶が走った時にはすでに遅い。
「シンクロニティ……」
 のばされる腕、それが雨月の口元に差し込まれるとガデンツァの指先がピリリと震えた。
「デス」
 放たれる音は雨月の体内に響き渡る。
 雨月は骨伝導で、自分の血管が内臓が。か弱い水風船のようにぱぁんっと割れる音を聞いた気がした。
 全身に力が入らくなり、そして、雨月は膝を折る。
「まずは……一人」
 ガデンツァがそうほくそ笑んだ。

第二章 集結

 崩れ落ちる雨月の体、雨月は喉を抑えて四つん這いになり激しく咳き込んだ。
 喉に絡む熱い液体が血だと知れるのはそんなに後の事ではなかった。
 手を濡らす赤い液体。しかし。
 それ以外に異変はない。
「何が……」
 そう顔をあげるとその視線の先には小柄な少女が手を差し伸べていた。
「大丈夫? 立てる?」
 そしてガデンツァの腕に突き刺さる剣。
――ギリギリ間に合ったようだね。
 次いで放たれる弾丸は牽制球。ガデンツァを雨月から引きはがしそして部屋の隅へ追い詰める魔弾。
 銃口から揺らめく陰炎を振り払ってそこに『志賀谷 京子(aa0150)』がいた。
 皆を守るように『イリス・レイバルド(aa0124)』が盾になっていた。
 『アル(aa1730)』が太陽の様な笑みで雨月の手を取った。
「ふむ、あちら側に参戦しているとばかり思っていたが、たばかったな! お主ら」
――何をいまさら。
 『アイリス(aa0124hero001)』が告げると、その左右から二人の男女が駆け抜けてくる。
「いよいよこれで最後の戦いか。杏奈の事は、僕達が絶対に守るからね!」
――奥様もお嬢様も仲間の皆様も、誰一人として渡しません!
 告げる『世良 霧人(aa3803)』。そして『クロード(aa3803hero001)』。その言葉に『世良 杏奈(aa3447)』は楽しそうだ。
「ふふふ、でももたもたしてたらおいて言っちゃうからね、霧人!」
 杏奈はあろうことがガデンツァに最接近。それを警戒してガデンツァは後ろに下がる。
「お待たせガデンツァ。前発組の中に私達がいなくて寂しかった?」
 交代で霧人が前に。杏奈はバックステップで下がりながらアルスマギカに光を灯す。
 ダメージコンバートが適応されていればそれは物理ダメージとなる。顔面めがけた狂気の覇道。それを両腕で防ぐと視界が悪くなったことをきっかけに、京子、いのりが狙撃。燃衣とカゲリが背後から迫り、バックアップのために仁菜と沙耶が周囲を固めた。
――いっけぇ!
 『ルナ(aa3447hero001)』の声に鼓舞されるように杏奈はばらりとページをめくる。
「決着をつけましょう。今日こそは貴方を完全敗北させてあげるわ!!」
「また、自分の身を犠牲に、かの?」
 矢で体を損傷させながら近接アタッカーはブルームで吹き飛ばす。あおりを受けた霧人の肩を杏奈が支えて。迫るガデンツァの足をからめ捕るようにアルが攻撃した。
 前のめりになったガデンツァへウルスラグナによる一撃を。
――魔女殿に作っていただいたこの好機。逃すわけにはまいりません。
 『アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)』が告げると京子は頷いてガデンツァを狙うに適切なポジションをとる。
「うん! 私の無茶を聴いてくれたみんなのために、まけられない!!」
 京子はすでに連戦である。他の面々よりハンデがある。
 そんな彼女を気遣ってか、カゲリは風にあおられ京子のそばに着地した。
――遅かったではないか。
「ごめん、働きで返すから許して」
「背中は任せたぞ」
 その言葉に頷くと京子はありったけの矢を撃ち放つ。構える銀晶弓は淡く輝きを放っている。
 ガデンツァは京子にとっても彼女は因縁深い相手だ。
 辛酸をいくつなめさせられたか分からない。
 目の前で命が刈り取られたこと。ラジェルドーラ。
 彼とその契約者の仇をとる……。なんてたいそうなことを言うためではない。
 だが。
「私は、私がしたいことをする! それだけだ!!」
――私はあれが許せません。罪には罰を。それを私がもたらすのもおこがましいかもしれませんが、それでも! 私は!
 霊力を受けた矢が少女の顔を照らし出す。
 これ以上の被害を防ぐため、これ以上の悲劇を防ぐため。
 京子は体に鞭打ってここに立っている。
 香月の火力を十全に生かせるように、敵の行動を阻害するように、鍛え上げた鷹の目と弾道予測でガデンツァの動きを潰していく。
「く…………!」
「未来の危険を刈り取ることに躊躇はしないよ」
――ここで倒します。
 明らかにガデンツァは不利においこまれた。
 もともと単独での戦闘力は高くはない。ルネでそれを補っているが、ルネを回している余裕がない。
 ガデンツァの表情に焦りが浮かぶ。
 アルはそれに胸の痛みにも似た何かを抱いていた。
 驚くことに共感していた。
 敵なのに、ひどいことをしてきたのに。なのに。ガデンツァンの事を怨むことができない。
「ガデンツァ」
 一人戦う終末の歌姫。
 その姿は苛烈であると同時に。寂しくも見えた。
 そんな彼女へイリスは歌をささげる。
『アニマ コクレア》
 螺旋のようにディソナンツと解け合うように調整したアニマ。
 その歌にガデンツァは忌々しげな表情を見せ戦いを続行した。

  *   *

 それは出撃前のブリーフィング後。全員が装備を確認している時間で、アルはふと『雅・マルシア・丹菊(aa1730hero001)』に声をかけたのだった。
「そう言えばねぇ」
「なぁに?」
 雅は手元のリストを眺めると次いでアルに視線を向けた。
「ガデンツァに考えぶつけたこと無かった」
 そう銀水晶を眺めてアルは告げる。
「正気ですか?」
 そう言葉を投げたのはイリス。その表情からさっと血の気が引いていく。
「助けるとかじゃないから安心して」
 そう苦笑いを浮かべるとアルはすぐに銀水晶に視線を戻す。
「もう終わりにしよう」
 そうアルはつぶやいた。
 そんな様子のおかしいアルから視線を外すとイリスは並べられた天翔機を眺める。こちらには数に限りがあるそうだ。だがアルター社から提供された水龍シリーズにはまだまだ余裕があった。
 陽動作戦で使わない人物もいたから。
 それにイリスは手を駆ける。
「余っているなら、いいですよね」
 そうのばした手を。
 春香がとった。
「え? 春香さん」
「行方不明だって聞いてたよ?」
 澄香があわてて春香に駆け寄った。
 そしてイリスの腕を握る手を放させようとするが、ギリギリと言う音が聞こえてきそうなほどに、春香は強くイリスの手首を締め上げて離さない。
 春香は暗い表情を見せていた。
 澄香に非難するような視線を向ける。
「何かあったの?」
 告げると春香は目を見開いて、瞳を泳がせ。もう片方の手で口元を抑えるとやっと握力の異常に気が付いたのか手を放した。
「ごめんね、イリスちゃん」
「大丈夫です、慣れてます」
「春香……これから私達ガデンツァのところに行くんだ。一緒に来ないかい?」
 そう澄香が問いかけると春香はこう告げた。
「行けない。そして、この装備も持って行かないで、使わないで」
 春香の言葉に澄香は驚く。
「どうしたの?」
「いいから、御願い。私の一生に一度のお願いだと思って。聞いてほしい。これは装備しないで」
 場を何故だか剣呑とした空気が包む。それを緩和しようと澄香は春香にとあるものを差し出した。
「特注のね、クリスタロスでルネさんの欠片を複製したんだ。毎日コツコツ作ってたらすごい数になっちゃって。これを今回の作戦のために配ってる」
 そう澄香は小分けにした袋の一つを春香に差し出した。
「呼びかけもしてるんだ」
「知ってるよ」
 澄香の作った映像をみせてもらったから。
 作戦開始当日から協力要請に応じてくれたいくつかのメディアでそれを流し、協力を募るらしい。
「困難に立ち向かう為、希望の音を、どうか歌ってください」
 そう指を組み、目を瞑り。
「私達と一緒に、歌ってください」
 そう精いっぱいの願いを込めて。いのりと一緒に。
「僕も手伝ってるんだよ」
 そう春香の背後から現れたのはいのり。
 ディスペアには連絡済、ECCOや赤原も協力してくれると言っていた。
 あとは自分たちがどれだけうまくできるかだ。
「ガデンツァの歌は強力かもしれない。けど世界中の歌声を集めて、束ねて、唯一無二の滅びの歌に、私達は幾千万の希望の音で挑む、絶対勝てるよ。だって私達の希望の歌なんだから」
 告げると春香は目を見開いて、そして澄香の笑顔から視線を逸らした。
 彼女の笑顔は今の春香には眩しすぎた。
「そして、歪められたガデンツァの心を揺さぶる、だから一緒に来てよ。今は一人でも仲間が欲しいんだ」
 その手を……春香はとることはない。
「ごめん、私いかないと」
 告げると足早に去ってしまう春香。
 その背中を澄香は見送るしかなかった。
「彼女はいったい何を思いつめていたのでしょうか」
 クラリスが告げると澄香はいのりと顔を見合わせる。
 場の視線が二人に向いていた。
 いのりはこの空気はまずいと思ったのか、ぱんっと手を叩く。
「まずは突入前にしっかり準備!」
 そういのりは作業に復帰する。『セバス=チャン(aa1420hero001)』と共に二つの楽譜から得た情報、および研究所の情報、経験を集積、侵入者対策などを纏めた予測マップを作ってみる。
 その段階ではかなりの抵抗が予想されていて、事実、ガデンツァの根城なのだからそれくらいの抵抗が無ければおかしいという満場一致の意見となった。
 ただそれは……。
「イリスちゃんは何してるの?」
 澄香の膝の上で大きく口をあけているイリス。
「ああ。口の中に賢者の欠片を仕込んでいるんだよ」
 グロリア社からもある程度もらえていたのだが、万が一ということもある。
 シンクロニティデスを受けた場合にカウンターで回復できるよう仕込むのだ。
 そしてイリスは歌、そして音をモチーフとした装備で全身を固める。
 これでばっちり準備は整った。
「ついにガデンツァとの決戦だね。皆と一緒ならきっと勝てるよ!」
 いのりがそう全員に声をかけて回っていると、二人メンバーが足りないことに気が付く。
 沙耶と沙羅。二人は密閉されたH.O.P.E.の部屋でとある人物に電話をかけていた。
 相手はAD。彼は特一級の監視体制が敷かれているために面会はできなかったのだ。
 代わりに電話を繋いでもらっている。
「聞きたいことは山ほどあるのよぉ。まずワイスキャンセラーの性能と、あなたの愚神を吸収する力について」
「全て調書にまとまっているはずだが」
「まだ隠しているわよねぇ」
 告げると沙耶は捜査への協力要請を始めた。
 見返りとしては、BDの時と同じペインキャンセラーの相談・治療窓口の相談役に置くことで社会貢献のアピール。
 ただ、これはADに通用するのか怪しいところではあった。
 BDは徹底した個人主義だったが、ADは理想主義だ。
「ああ、例えば愚神まどろみの能力か?」
 沙耶は思わず目を見開いた。
「お前たちの侵攻があまりに早く、こちらとしては実行に移せなかった計画が一つある。それが私、もしくはCDに植え付けた。歌の力、夢の力。破壊の力、そしてルネを一つに束ね、最強の愚神を作り出そうという計画があった」
「それって」
 どこかで聞いた計画だ。そう沙耶は眉根をひそめる。
「他社に愚神の素質として我々が保有している愚神の力を植え付け、ワイスキャンセラーで即座に覚醒させる、膨大な霊力と共にその愚神を束ねトリブヌス級を。そう思っていた」
「思っていた?」
「だが私が消えた時点でCDが奴らの手に落ちることは確実だろう。終わった計画だよ、あの二人だけで完遂できるとは思えない」
 ADは告げる。
「ガデンツァはもう動けないわぁ、だって私達が殺すから」
 その言葉をADは嘲笑う。
「そうか、ではせいぜい期待をせずに待っていよう」
 その時沙羅が沙耶の袖を引いた。
「作戦開始時刻よ、行かないと」
 沙耶は後ろ髪をひかれるような思いをしながらワイスキャンセラーの包みをポケットに忍び込ませる。
(沙耶、私、解るわ。あなた死ぬ気でしょ)
 もしガデンツァとの戦力が圧倒的で全員が囚われるようなことがあったなら。
 自分一人の代償で場を収める。
 それが大人というものでしょ? 
 そう言いたげな背中を沙羅は追いかけた。

第三章 最後の……。

 そして沙耶は前に出る。燃衣の拳に反応してクロスカウンターめいた動きを見せるガデンツァ。腕が交差するその瞬間。沙耶は燃衣を吹き飛ばしガデンツァの攻撃の盾となる。
「シンクロニティ……ぐぬ」
――それはもう手が割れているわ、観念しなさいガデンツァ。
「であればごり押すまで!!」
 風が吹き荒れるそれを燃衣は地面に腕を突き刺して耐えた。風の威力を吸収、逃がすことができずに体がぼろぼろになっていく。
「ああああああああああああ!!」
「煤原さん!!」
 沙耶を吹き飛ばしたガデンツァは怒りのままに燃衣へ向かう。仁菜が盾として前に出て香月と京子の狙撃がガデンツァを押しとどめる。
 その背後では燃衣が蹲って荒い息をついていた。
「これを」
 霧人が手渡すのは賢者の欠片。気休めだが何もないよりはましだ。
 ありがたく燃衣は霧人から欠片を受け取る。
「あまり無茶しないで」
「霧人! ごめん、あんまり持たないかも」
 杏奈のラブコールに一瞬振り返るも霧人は燃衣に肩を貸して立たせる。
「ほんとうですよ隊長!!」
 その燃衣の姿を見て仁菜は怒りの声を上げる。
「無茶ばっかりしないでください。私がいるでしょう?」
「その仁菜さんにはこれからもっと無茶をお願いします。行けますか」
――ここで首を振ったら、隊長死んじゃうでしょ?
 リオンが悪戯っぽく告げると燃衣は困ったような笑みを浮かべた。
「違いありません」
「生半可な気持ちで【暁】の盾を名乗ってない……ダメージは全部。私にまかせて」
 自分に唱えるように言い放った仁菜の言葉。
 霧人は二人の言葉に頷いて立ち上がる。
「ガデンツァを攻略します」
「できるか! か弱き人間ども、滅ぼされることを運命づけられた種族よ」
 霧人と仁菜が左右に走る。燃衣から見てVの字にその中央を駆け抜ける。
 足元から吹き上がる水しぶきも、吹き荒れる風も、仲間が盾になって防いでくれた。
 ガデンツァへ最接近。
 地面を転がっていた仁菜は脚力にまかせて立ち上がると、左回りに燃衣とガデンツァの間に入れる軌道を描いて走る。
「トリブヌス級とはいえ。攻撃を連発することはできない! さらに一人吹き飛ばしたとしても波状的な接近を許してしまえば意味がない。つまり、僕が張り付いている間は、風音は使えない!!」
「では死の音はいかがじゃ! ささくれだったお主の心も凪いだ湖面のように変えてくれよう」
 ガデンツァの拳をそらす燃衣。
「冗談!!」
 燃衣は思い出す、今まで戦ってきた強者。そして仲間たちとの研鑽。
 何より、弟分と真剣になぐり合った時のことを思い出す。
 それと比べればガデンツァの拳など。
「蠅でも止まってんじゃねえか! おらあああああ!」
 右手でガデンツァの拳を打ち払い。反動でがら空きになった胸に掌底。
 体重を後ろにずらされたガデンツァは、その体が人間を模している以上、後退の一択しかない。
「バカめ!!」
 次の瞬間、ガデンツァの腰から柱が生えた。形状変化による体勢制御。それを許す京子ではない。
 ガデンツァのその柱を撃ち飛ばすと、ガデンツァは後ろにバックステップ。
 それを追うように燃衣は左手に霊力を込めて爆破。
 加速。
「くう!」
 ガデンツァの肩から無数に腕が生えた。計十本。もともとあった二本とそれで燃衣の接触を狙うが。
「甘い!」
 初手、2本の腕は爆破することで無理やり突破。そのまま燃衣は別の腕をつかみぐるりとひねると別の腕に巻きつけて動きを止める。
 身を屈めるように懐に飛び込みながら肩と手のひらでガデンツァを押し上げるような動き。
 中国由来の武術だったが、見よう見まねで成功させた。
 そのまま拳を突き上げ一撃。するりと背後に抜けて振り返りざまに背中に一撃。
 地面に膝をついたガデンツァ。
「わらわに土をつけるとはなぁ!!」
 振り返って打ち出した拳、それはやわらかな感触に受け止められた。
 いたのは杏奈。
「く……」
「どうしたのガデンツァ? シンクロニティデス、しないの?」
 杏奈は優しくその手を包みこむ。
 顔をしかめるだけで何も言わないガデンツァ。
 あの時、杏奈から反響した音で全身をひび割らせた恐怖が蘇っているのは、誰の目にも明らかだった。
「来なさいガデンツァ、怖いの? クルシェちゃんの家で戦った時に受けたアレでビビッちゃったのかしら♪」
「来いよガデンツァ、歌なんか捨ててかかって来い!」
 不意な声に戸惑い下を見て見ればそこには生首だけの杏奈。
 それがガデンツァの腹部に突撃すると、杏奈はガデンツァの腕をとって関節を決めた。
 物理職にめぐまれなかった彼女ではあるが。父から一通りの武術を叩き込まれている。
 そのわずかな拘束時間。 
 左右から燃衣。そして香月が迫った。
 燃衣は斧に持ち替え、香月は神斬を携えている。
「私は人間だ、私は私だ。たとえ貴様が私に如何なる術を施そうと、そんなもの簡単に捻り潰し、私は私として生きてやる……生き続けてやる!」
 その言葉に『アウグストゥス(aa0790hero001)』は頷いた。
「この世から愚神を葬り去るその日までな」
 その強い意志が血に染まった瞳が、らんらんと輝いて霊力を高める。
「もはやこの世界は貴様が愚神として生きることを拒んでいる。原初の姿に還れ、永遠にな!」 
 香月の一撃。
「……《虐鬼王斧》ッ!」
 そして燃衣の一撃が、脇腹からえぐるようにガデンツァの両腕を吹き飛ばした。
「ぐああああああああああああ、うううううう」
 仕留めたか……そう動きを止める二人ではない。
 むしろ大技の勢いも殺し切らないうちに二人は全力で攻撃を叩き込んだ。
「おおおおおお!」
 香月は柄にもなく声を上げる。肉体の限界は近い。回復があろうともガデンツァの攻撃を数十発受けている。味方の回復が無ければとっくに三回死んでいる。
 そんな体に鞭打って香月は攻撃に攻撃を重ねる。
「一気呵成」
「疾風怒濤」
 刃の刃こぼれも、悲鳴をあげる関節も気にしない。
 ガデンツァの水晶の体、それを削るように攻撃を繰り返す。
「ボクの心は……お前と同じで醜く穢れ汚れている」
 血まみれの拳を振り上げて燃衣が告げた。
「ボクは復讐者だから。それは今も変わらない」
 口の中に滲む血を吐き捨てて燃衣は叫んだ。
「だけどお前の行動には先が無い。始めのボクと同じく『それが役割だからやるだけ』の愚かな存在。ボクはこの先へと征く、確かな意志を以て」
「はははははは!! それが自由意志だと勘違いしておるのか! 操られているだけだと気づきもせずに」
「もう僕たちはお前に操られたりしない! 惑わされもしない!!」
「誰がわらわにと言った」
 その時ガデンツァの胸の部分に顔が現れた。そしてその唇が妖艶に言葉を紡ぐ。
「世界に、お主らは欺かれておる。心に傷を負う前に、わらわがお主らを殺そう!!」
 その言葉に燃衣は目を見開くもお守り袋を握りしめ、そして叫んだ。
「お前は此処で消え失せろ!」
《イミタンド・ミラーリング》
 次いでガデンツァの体がはじけ飛んだ。
「………………」
 アルはその様子をじっと眺めている。
――どう? アル。わかる。
(わかる……けど、今はまだその時じゃない)
「私達が操られているってどういう意味かしらぁ。世界に欺かれているって」
「そう、我がスルスルと話すと思うのかの?」
 神殿内部にガデンツァの声が響く、本体はいない。
 どこにも姿が見えない。
「だが、時期にこの世界は滅ぼされる。混沌の十三騎相手によくぞここまでもったものじゃが。そう言う世界があっても良かろう」
「ねぇ、君の世界をほろぼしたのは、だれ?」
 そう問いかけたのはアルだった。
「ガデンツァがいた世界を滅ぼしたのって、愚神達の話にちょこちょこ出てくる”王様”って存在なのかな?」
 そう霧人は杏奈に問いかけた。
「どうかしら」
 杏奈のかわりにクロードが言葉を継いだ。
「おそらくそうだと思います。”王様”が世界を侵食し、ガデンツァが世界を壊す役目を果たす前に「全てに破壊をもたらせ」と命じた。そしてそれに応じてしまったガデンツァは、愚神となって幾多の世界を壊して回っていた、……という事でしょうか」
「王の力は絶大じゃ、なすすべなく世界は飲み込まれる」
「だったら……」
 沙耶は一瞬何かに思い立った。だったら何かがおかしい。
 ただ、その違和感は言葉にする前にどこかに消えてしまう。
 沙耶が十分な考察をする前にガデンツァが怒り始めてしまったから。
「……こう考えると、ガデンツァも被害者なんだよなあ。」
 霧人の言葉に。
「なに? 被害者! バカを言え。わらわはこうして最上級の栄誉を賜った。お主らを滅ぼし、この世界を献上できる、栄誉をなあああああ!」
 次の瞬間。ガデンツァが床から生えてきた。狙うのは燃衣。
「させない!」
 霧人が盾に入る。シンクロニティデスは音色を個人に合わせて調節しなければならないという、人外めいた技術力を要求される。それ故に咄嗟にカバーリングされた場合、音がずれるのだ。
 だが今回はそのカバーリングを読んでいた。
 それに気が付いた霧人は咄嗟にライブスシールドで身を守る。
 しかしそれもまた囮。
「煤原さん!!」
 仁菜がガデンツァを抑えている間に、別のガデンツァが燃衣の背後に迫る。
 燃衣が最後に見た光景は。
 膝をガデンツァの水晶によって貫かれる仁菜と。
 そして背中を伝う冷たい感触。
 抱きしめられているのだ。ガデンツァに、これでは逃げられない。
「シンクロニティ……」
「みなさん……」
 燃衣は告げる。
「あとは頼みましたよ」
 血みどろの、肉塊となる前に。その希望を、望みを、意志を仲間に託す。
 直後、ぐしゃりとやけに安っぽい音がして。燃衣が崩れ落ちた。まるで果物を潰したように全身から血を溢れさせ。そして床に転がった燃衣は動きを止めた。
「いやあああああ! 隊長!!」
 仁菜が駆け寄る。それを風で吹き飛ばすと。
 アルと雨月が走った。
「お願いできる?」
「大丈夫。私を信じて」
 雨月はガデンツァの前に出る。わざとシンクロニティデスを受けるも、一撃では死なないことを体感で解っている。
 そのカウンターで霊力浸透。ガデンツァと雨月自身をまとめて凍らせる。
「零に還れ」
 雨月の目がらんらんと輝いた瞬間。特大の氷の華が二人を包んだ。
 その間にアルは燃衣を奪還。沙耶に託すと今度は仁菜目指して走った。
 ガデンツァはよろめきながら雨月の拘束を突破。
 ガデンツァは二体のガデンツァ。
 いや、ルネを手招きすると水の塊のようにして自分の周囲に侍らせた。
「ルネと材質は同じ。コアさえあれば生み出すことなど造作も! ない!」
 材質はガデンツァもルネと同じ。その言葉を聞いて澄香は首からぶら下げたそれをギュッと握りしめる。
「澄香」
 いのりが手を差し出した。澄香はその手を握る。
「私たちの推測は間違いじゃない、絶対取り戻そう、いのり」
「ルネを自由にさせるのはまずいですよ!!」
 告げてカゲリとイリスがルネを抑えにかかった。
 ガデンツァは澄香をじっと見つめている。
 その脇に立ったのは京子と香月。
「澄香は下がってて」
 いのりが前に出た。
「最終決戦といこうではないか……ぐ」
「やっと、やっとこの歌の歌い方がわかってきました」
 蘿蔔は告げる。
 理夢琉と手を取って、神殿の中央で二人は声を重ねて歌う。
 先ほどから歌は響いていたけれど。今やっとその歌の事を理解したのか。
 祝福めいた光が二人を覆っていた。
 理夢琉と蘿蔔は見た。
 外の戦場で仲間が必死になって戦っていること。
 友達が、ディスペアのみんなが、そして世界中のみんなが謳ってくれていること。
 光り輝く海。
 ルネの声。
 助けて、助けて。
―― 一音一音、大事にな。
「はい。私も皆さんを守る為に……」
 レオンハルトの言葉に頷くとよりはっきりと、蘿蔔は声を響かせる。
 この歌は確かにガデンツァの歌を食い破り、そして逆に全員のリンカーの力を増していた。
 神殿の天井が光り始める。
「アリューテュス。私の英雄、力をかしてね」
――理夢琉。俺が俺で有るための希望だ、信じ守る。
 お互いの霊力でいっぱいに満たした一心同体の指輪を理夢琉は撫でる。
 そして歌は充足され溢れ出る、それは愛。それは気遣い、それは優しさ。
 リンカーたちの心を満たす。二人の背中から羽が生えた。
 リンクバースト、二人は自然な形で霊力を昇華させた。
「わらわを否定する、歌……か」
 ガデンツァがぽつりと告げると蘿蔔は首を振る。
「貴女の罪は許せません。でもガデンツァ……私は貴女とも一緒に歌いたいです」
「何をバカな」
「でも本心です、自分でも、えっ……って思うけど。でも私は今本心を言ってます」
――蘿蔔……。
「私たちはあなたの生まれを知りました、愛するものを壊す為に生まれた孤独は計り知れなくて」
 蘿蔔は思うのだ。それがルネ達の救いだとしても、彼女の事は誰が救ってくれるのだろうと。
 もう手おくれだけどそれでも破壊以外にも道はあるのだと知ってほしい。
「貴女にも心があるのですから」
「いや、だとすれば、わらわは裁かれるべきなんじゃ。許されるべきはお主らで。救われるべきもお主らじゃ」
「え?」
 蘿蔔、理夢琉は弾かれたように顔をあげた。
 ガデンツァは光の中微笑んでいた。
 その中でまるでマナのように、旅人祝福する白い雲のようにリンカーたちを癒す雨が降る。
 いのり、仁菜、沙耶三人が、理夢琉と蘿蔔の歌に音を沿えていた。
 同時にケアレイン。
 リンカーたちの傷を癒していく。
 その中でイリスはルネを相手取っていた。
 ジャンヌ、エイジス、ティタンはどんな角度から、どんなタイミングで攻撃されても防御をかいくぐられないように編み出した防御結界。
 ルネの手刀を盾で受け。流し、体勢を崩したところではじきあげ、盾で腕を抑える。
 剣で切り付け盾で殴り飛ばし。
 距離があいたならファング、盾突きで怯ませる。
 次いで放たれたルネの拳。急増のため、シンクロニティデスを放つしか能がないのだろう。
 それを見切ったイリスは、盾でルネの攻撃を止めてイリスは刃を突き出す。
「煌翼刃・螺旋槍」
 螺旋を描く一撃にルネは肩を破壊されて後退。
「さぁ、終りにしようか、小娘」
 そんなひかりに包まれる神殿で極めて強い光を放つものがいた。
 カゲリ……いや、今はスイッチしたためナラカだ。
 ナラカはリンクバースト。浄化の炎を携えた刃でルネを浄化の牢獄に閉じ込める。
「さて、次はお前だ」
 ナラカが刃を掲げて見せる。
 その様子を見て沙耶はポケットの中の薬に手を伸ばす。
「アルちゃん」
 沙耶が言葉をかけるとアルは振り返った。
「うん」
「次にイミタンドミラーリングを使って、逃げられそうなときは私に教えてくれるかしらぁ」
「何をするの?」
「奥の手をね……」
――沙耶!
 沙羅は不安げに言葉を揺らす。
「やらなくて済めばしないわ」
 ただ、戦況は思わしくない。ガデンツァの増援そして味方の消耗の激しさ。
 京子は足を打たれて蹲り、燃衣は虫の行き。カゲリとイリスは驚異的なことに単独でルネを相手取っている。
 であれば、自分ができることは。
「私が行く!!」
 沙羅は沙耶から無理やり主導権を奪取。
 ガデンツァの前に立つ。
「散々殺す殺すと言われ続けてきたし。今日は私とアンタ、どちらかが死ぬまで付き合ってやるわ!
 私はもう逃げも隠れもしない、アンタも芋引いて逃げるんじゃないわよ!」
 告げてガデンツァのシンクロニティデスに対してライブスミラーで対抗する。
「わらわとて! 逃げるつもりなど毛頭ない!!」
 次いで京子が蹲ったままに矢を放つ。
 その矢を間一髪で回避したガデンツァはふらつく足で体を支えて沙羅にもう一度死音を叩きつけた。
「何度までもつかの?」
「何度だって!!」
 リンクバースト。沙羅は再度ミラーを形成。
 それに驚き動きを止めたガデンツァの腕を、先ほど通過した矢が射抜いた。
「ちぃ!」
 それを蹴り飛ばしてガデンツァは新たに腕を再生。沙羅に攻撃を叩きつける。
「これで!!」
 蘿蔔はその隙にダンシングバレットを、カゲリを狙うルネを撃ち飛ばし、ガデンツァをさらに狙う。
 ここにきての集中攻撃。
「煌翼刃・霞桃花」
 イリスの極限まで薄く圧縮して切断力を高めた光刃が背後からガデンツァの体を貫いた。
「があああ! くそ! ルネは」
 それを確認している暇など無い。イリスのすぐ背後に、死に体の男が立っていたから。
「むごたらしく……死ねよ」
 斧を握る燃衣。顔面全体を自分の血で濡らしているがその足取りは確か。
 そのまま燃衣は斧を振りかぶり、そしてイリスの頭上すれすれを通す形で横腹に斧を突き立てた。
「あっがああああ!」
 その時ガデンツァはスキル使用のために霊力を集中させた。
 その姿を見て澄香は告げる。
「ここで私達を殺さないで良いの?」
「……」
「私たちがいる限り、貴女の歌は響かないのに」
「わらわがいる限り、何度でもお主らに絶望を与えられる。であれば、ここで没する事こそ最も避けねばならぬこと!」
《イミタンドミラーリング》
 その時アルが叫んだ。
「今度は逃さない!!」
 告げるとアルが天井から降ってきた。細かな水晶片をまき散らしながら中央に。
 その手でガデンツァの首根っこを拘束しており、意識が移ったばかりのガデンツァはアルを跳ねのけようと。
 身をよじらせる。
「ねぇ、ちょこっとだけお話に付き合ってくれる?」
 ガデンツァは目を見開いた、そう切り出したアルの表情が穏やかだったから。
「ルネの番組見てからずっと関わって、言動を見てきた」
 それは、惨状も君の過去の断片もという意味だ。
「でもさ、頑張っても出来なかったんだよねぇ。
 君を敵と認知しても、怨むことが。皆と同じように執着するのが。
 一時期ちょっと無理して憎もうと恨もうと必死になってみたこともあるけど、やっぱ無理だった」
「なぜ、何故それができぬ」
「それはね」
 自分でもわからなかった、けれどついさっき、わかったんだ。
「歌を愛する者を嫌いになれなかっただけだ」
 次いでアルは女郎蜘蛛で拘束を狙う。
「な……ダウンロードが」
 あわててガデンツァは自分の一部を切り離す形でアルの拘束から逃れる。
「じゃがな、わらわも考え無しにミラーリングをしたわけではない!」
 告げるとガデンツァの背中から無数のスピーカーが生えた。
「わらわの予備ボディーをルネに改造した。これで」
「それは私達も同じ」
 澄香が告げる。
「これで終りにしよう、ガデンツァ!!」
 その言葉に応じるようにアルが素早く体制を立て直してガデンツァの懐に組みつく。
 それでも止められない、ガデンツァの最後の攻撃は。
「シンクロニティ・デス・レクイエム!!」
 次いでスピーカーから発せられたのは、甲高い。モスキート音に似た音圧。
 しかしそれは恐るべきことに。
 シンクロニティデスが無限に束ねられた殺戮の音域なのだ。
「負けないで澄香!!」
 その音圧の中では命がガリガリ削れていく。それをいのりが支え、澄香の背を腕で支え。二人は手を合わせて拳を突き出した。
「思い出して、貴方が生まれた時の気持ちを」
 澄香が、支配者の言葉を使うことはめったにない、それは彼女の気性ゆえだろうが。
 この日は違った。届いてほしかった、自分の歌が、自分達の歌が、ルネに、ガデンツァに。
「ルネさん、帰ってきて!!」
 告げるいのり。
 澄香の体を庇いながら、肌の上にうっすら血の玉が浮かんでいくのを眺める。
 たとえここで命が危うくなっても相棒を守る。
 大切な人を守る。
 そんな意志。
 しかし、その思いを抱いているのはいのりだけではない。
「とどけええええ!」
 その手に小さな手が重ねられた。花の様な香りがふわりと舞う。
 イリスが歌を歌いながらその手を重ねていた。
 『聖域の音』だ。
――Wハルカから聞き出したルネさんとの想い出を妖精の言葉で歌へ昇華したものだよ。
 少しだけ三人の体は前に進む。あと少し、あと少しなんだ。
 澄香は歯噛みする、口の中にあふれる鉄の香り。崩れそうになる両足。 
 それを支えるように二人の仲間が寄り添った。
 蘿蔔と沙羅、そして理夢琉。
「私は壊してしまう恐怖を知っている。でもアリューと、仲間がいてくれるだから!」
――俺は偽物だと不安だった でも!
「歌いましょう! すみちゃん、私怖くないです。みんなとなら」 
 蘿蔔の声に頷いて。アイドルたちは血まみれの喉で声を重ねる。
「ほら、行ってきなって」
 そう京子はぼろぼろの体を地面に横たえてナラカに告げた。
「私は大丈夫だからさ」
 告げるとナラカは京子を一瞥。
「感謝する」
 その霊力を翼へと変えて両手をそのアイドルたちの手に重ねた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「出力を最大にする!!」
 ガデンツァの言葉に一瞬希望の歌が萎えた。
 だが。だがそれを。
「それを、待ってたわ!」
 直後爆発するように霊力が花開く。
 数は二つ。
 一つは杏奈で、霧人を盾にガデンツァの元までたどり着き。
 その視線と視線がぶつかると杏奈はにたりと笑った。
 もう片方は仁菜で、その極光はあまねくすべて膝の上で眠る燃衣とこの場の全て、全員に注がれている。
「ごめんねリオン。まかせるよ!」
 リンクレートを消費して、ケアレインを連打するという所業。
 それはへたをすれば邪英化してしまうリスキーな行為。しかし。
――お前なんかにやる命は1つもない! 今度こそ皆で帰るんだ!!
「もう守れないなんて絶対嫌! 何があっても諦めない!」
「そう、私も何度だって受けてあげる。あなたの歌」
 杏奈は一瞬、アイドルたちの前に盾になるように身をさらすとその歌を全身で受ける。
 精確には装備したアミュレット。リベリオンにて。
 その音色はガデンツァに返りガデンツァをひび割らせる。
「私が前と全く同じ手を使うと思った? 残念だったわね、トリックよ♪」
「であればもう一度殺すまで」
 スピーカーから放たれる音と。自身の腕から放たれる音。
 それは別だ。そうガデンツァは左手を杏奈に突き立てる。
 右手はふらりと迫ってきた燃衣。
「お主!!」
「私のターンは終了してないわよ! まだまだこれからなんだから!」
 これで、これで本当に、本当の切り札まで使ってしまった。
「もおおおおお、みんな大好きだよ!!」
 最後に、最後の最後にアルが血まみれの体で、足を滑らせながら、小さくまとまったアイドルたちの背中にタックルした。
 前かがみになっていたガデンツァの胸に、ついに澄香の拳が届く。
 その拳に握られていたのは。
「ルネの……自我データ。じゃと。まずい、ダウンロードも、ふかん、ぜん」
 その石は、意志は。希望の音とシンクロし、呼びさまされる。
「もう壊さなくて良いんだよ。
 独りで泣かなくて良いんだよ
 傍にいるから」
 蘿蔔が告げた。その言葉に澄香はたった一つ言葉を捧げたくなった。
「おやすみなさい……」
 澄香の声に蘿蔔は言葉を重ねる。

 光の中、澄香の両手が彼女の方に届いた。
「「おかえりなさいルネさん」」
 そして極光と響く音色の中。
 全てがなにも、解らなくなっていって、そして。


 エピローグ

 次いで目覚めた時は潜水艦の中に全員がいた。
 全身ぼろぼろで身じろぎしようものなら激痛が走る。
 その痛みで目をあけた澄香は幸福そうに眠りにつくいのりの表情を間近で確認する。ふよふよと頭を乗せる何ものかが柔らかいのはそう言う事だろう。
 戦った後のご褒美である。
「みんな、動かないで」
 その言葉に澄香は視線をあげると遙華がいた。
 彼女は仁菜を膝に抱えてその傷の具合を見ていた。
「外的な傷はそれほどでもない……けど、クラッシュしてる。しばらくは霊力の乱れで動けないわよ、無茶をして」
「へへへへ」
「でも、あなたがいなければ、燃衣は死んでたわよ。あとで説教してあげなさい」
「はーい」
 次いで、澄香の真剣な瞳に気が付いたのか。潜水艦の尾の方へ視線を向ける。
 するとそこには、透き通る体の、水色の、いつか見た。ずっと見たかった。
 その姿があって。
「るね……さん」
 先ず真っ先にその姿に飛びついたのは理夢琉だった。
「お帰りなさいルネさん!!」
 全身の傷が開くのもお構いなしにルネにすり寄る理夢琉。
「ずっと、私の事、思ってくれてたんだね」
 ルネは穏やかな表情で告げた。
「ありがとう。そして、助けてくれてありがとう」
 そう涙をこぼしてルネは言う。
「私、みんなの世界に、いていいんだね。ありがとう、みんな、ありがとう」
 そう涙するルネを抱きかかえる理夢琉。
 それを全員が眺めた。
「ルネさん」
 全身の痛みで動けない蘿蔔も涙ぐんでいた。
「大人しくしてろ」
 そうカゲリに蘿蔔は引き寄せられる。蘿蔔もまた膝枕である。
「えへへへ、あったかいです」
「今回は頑張ったからな」
 カゲリの意志は揺るがない。それはまるで総てを認めながら尚と己を貫く意志力は劫火が如く。
 ただ今回に限っては他のメンバーも揺るがない意志を持って戦いに臨んでいた。
 それは蘿蔔も同じ。
 今回は本当に、よく頑張ったそう思うカゲリであった。
「あれ……でも私の方が傷の具合軽くありません? これひょっとして逆なんじゃ」
「ガデンツァはどうなったの?」
 アルが告げると杏奈が告げる。
「戦いの後、消えたよ」
 杏奈は最後の最後まで立っていた者の一人だ。だがその後にすぐ遺跡が崩れて気を失ってしまった。
 そのわずかの間にルネへと代わるガデンツァに杏奈は問いかけることができた。
「愚神達が言ってる”王様”は、自分の世界と他の世界との境界を完全に壊して、いずれは全部の世界を繋げようとしてるんじゃないかしら。世界融はその始まり。小さな存在が行き来できるような小さな穴を開けて、愚神を送り込んだのね」
『いい読みをしておる』
「そう告げて彼女は消えたわ」
 そう杏奈が告げると理夢琉が声をあげた。
「私、ガデンツァの事も覚えていたいです」
「それはデータに残すという事?」
 遙華が問いかけると理夢琉は首を縦に振った。
「誰かも考えているかな わからない だから。水晶の森で作った水晶……」
 そう差し出した水晶に理夢琉は願いを込める。
 その水晶は見る見るうちに黒くよどんでいった。
「共宴で倒される愚神として名前があるのなら その全てをこちら側に」
 理夢琉は決意する。大きな力になんか渡さない。彼女も私に影響を与えたオリジナルなのだから。
「言いそびれちゃったか」
 ばつが悪そうにアルは頬をかいた。
 彼女に最後に言いたかった言葉があるのだ。
『これは個人的なちょっとした願いなんだけど……』
 代わりに思いを海の底へ。
『百万が一、次があるのならば。キミとは英雄とリンカーとして会いたいなぁ」
 そして最後に攻撃を受けた招魂の盾を抱きしめる。
(覚えておきたいんだ、貴女の本当の姿)
「……またね」
 潜水艦は浮上する。次いで聞こえてきたのはその装甲にも遮られない歓声。
 世界を狂わせ続けてきたガデンツァ、それを確かに倒したのだ。
 そんな実感がリンカーたちの中にこみ上げてきた。

   *   *
 
 その後のリンカーも忙しかった。
 いのりは何やらセバスと走り回っている。
「体がガデンツァである以上警戒されるから、情報の出し方をグロリア社やH.O.P.E.と決めるんだって」
 告げてからいのりは何かに思い至ったように笑う。
「そっか。まだ道は続くんだもんね」
 沙耶は再度ADヘ連絡を取っていた。
「ガデンツァを討伐したか」
「ええ、おかげさまで」
「ワイスキャンセラーは使わなかったのだな」
「ええ、おかげさまで」
「さぞかし面白い愚神が出来上がっただろうにな」
「ええ、そうね、それは残念ねぇ」
 最後にADは告げる。
「ここからが本当の困難の始まりだな」
 その言葉に問いを投げる前にADは電話を切った。
 最後に燃衣は廊下を闊歩していた。
 全身に包帯をグルグルにまいて。そして食堂までの道のりを歩いていた。
 その背後でネイは思案にふける。
「ガデとルネ、元は一つの存在だった。
 復活の結果、もし真なる滅びの乙女「erisu」に融合したら。
 ……それは善か? 味方か? 不意の一撃に注意」
「気にしすぎじゃないですか?」
 そう燃衣は暁食堂の扉を開ける、そこにはすでに仲間たちとルネがそろっていて。
 そんな光景に燃衣は笑みを浮かべるのだった。

 失うばかりが物語ではない。
 取り返せるものもあるのだ。
 そう燃衣は新たに思い直し、そして、食卓に着いた。

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結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730

重体一覧

  • トップアイドル!・
    蔵李 澄香aa0010
  • 燼滅の王・
    八朔 カゲリaa0098
  • 深森の歌姫・
    イリス・レイバルドaa0124
  • 双頭の鶇・
    志賀谷 京子aa0150
  • 希望を歌うアイドル・
    斉加 理夢琉aa0783
  • 絶望へ運ぶ一撃・
    黛 香月aa0790
  • 語り得ぬ闇の使い手・
    水瀬 雨月aa0801
  • 未来へ手向ける守護の意志・
    榊原・沙耶aa1188
  • トップアイドル!・
    小詩 いのりaa1420
  • 銀光水晶の歌姫・
    アルaa1730
  • 紅蓮の兵長・
    煤原 燃衣aa2271
  • その背に【暁】を刻みて・
    藤咲 仁菜aa3237
  • 世を超える絆・
    世良 杏奈aa3447
  • 心優しき教師・
    世良 霧人aa3803

参加者

  • トップアイドル!
    蔵李 澄香aa0010
    人間|17才|女性|生命
  • 希望の音~ルネ~
    クラリス・ミカaa0010hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 白い死神
    卸 蘿蔔aa0405
    人間|18才|女性|命中
  • 苦労人
    レオンハルトaa0405hero001
    英雄|22才|男性|ジャ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 偽りの救済を阻む者
    アウグストゥスaa0790hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • トップアイドル!
    小詩 いのりaa1420
    機械|20才|女性|攻撃
  • モノプロ代表取締役
    セバス=チャンaa1420hero001
    英雄|55才|男性|バト
  • 銀光水晶の歌姫
    アルaa1730
    機械|13才|女性|命中
  • プロカメラマン
    雅・マルシア・丹菊aa1730hero001
    英雄|28才|?|シャド
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • 心優しき教師
    世良 霧人aa3803
    人間|30才|男性|防御
  • 献身のテンペランス
    クロードaa3803hero001
    英雄|6才|男性|ブレ
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