本部

【愚神共宴】連動シナリオ

【共宴】歌の果てを見たか

鳴海

形態
イベント
難易度
やや難しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
25人 / 1~25人
英雄
25人 / 0~25人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2018/04/09 17:53

掲示板

オープニング

●まどろむ歌姫

「ほう、ヘイシズ、やってくれたではないか」
 けだるげに視線をそらす水晶の乙女。暗く光ささぬ居城は彼女にとっての居心地の良さを最大限に追求してある。
 それこそ彼女の根城、水中神殿。
 太古の昔、何かしらの文明が作り出したその遺跡を彼女は根城としていた。
 人間たちの手が入りにくい場所、恰好の隠れ家。しかしその居城も今では丸裸である。
 それは全て、リンカーたちの決死の調査の末である。
「秘蔵の船団を持ち出してきおったか……ふむ、万が一リンカーたちが攻めてこようとも、砦を突破することは難しいと思っておったが」
ガデンツァが眺める水晶のモニターに映し出されたのは、地平線を埋め尽くす船団。そしてその船団の先頭を切るのはリンカーたちである。
彼らはついに、神出鬼没のガデンツァその根城を発見し、攻め入るに至った。
 彼らの士気は高い。
 その光景をガデンツァは眉をひそめながら眺めている。
「ふむ、おぬし、どうみる?」
 そう語りかけてガデンツァは部屋の隅に視線を投げる。
 その時ガデンツァは額をおさえた。何度同じことを繰り返すのだと。
 もう傍らに常に立ち。語り合える従者はいないのだと察する。
「一人での迎撃は骨が折れそうじゃな」
 一人ぼっちの居城でガデンツァただ敵の脅威を分析する。
「来るがいいH.O.P.E.よ。しかしあなどるなかれ、おぬしらが相手にするのは心砕く終末の歌姫じゃぞ」
 告げるとガデンツァの居城の形が変化した、迷彩をきり、壁にはえる無数のスピーカー。
 そしてそこから流れ始めたのは、彼女の歌。
 不穏を奏でる黄泉への導。そう表現するのにふさわしいおぞましい曲であった。

●従魔船団

 今回はガデンツァに対して奇襲を仕掛けた形になります。
 長年積み立てた彼女への対策が、やっと日の目を見ることになるでしょう。
 今まで抱き続けた思いを胸に、ガデンツァを討ち滅ぼすために出撃してください。
 今回、彼女を悪性愚神と定めた善性愚神たちは彼女を滅ぼすために結託し、力を貸してくれています。
 ヘイシズ自身が出てくることはなかったのですが『【東嵐】発進、希望の船。その名は……』にて登場した船団従魔を貸してくれました。
 さらにアルター社からも装備の貸し出しがあるようです。
 確認してみてください。


● 推奨装備および特別装備
 今回は以前より開催されていたガデンツァ対策委員会より、有益な情報を抜粋してお届けします。さらにアルター社からガデンツァに有効だと思われる装備を貸し出していただいております。

・ 水に干渉できる属性を持つAGWについて
 トリアイナを初めとする、水に干渉するAGWはルネに有効で大幅に霊力を奪い取ることが、もしくは大ダメージを与えることができます。
 ルネ対応を主とするリンカーはそれを意識すると戦いやすくなるでしょう。

・水龍の刻印について
 アルター社からパワードスーツが貸し出されます。
 このパワードスーツは装備することによって、物理攻撃力、両防御力、生命力を二割増しにすることができます。
 さらに、ルネの再生能力が発動したときに、その水を吸い上げ回復を阻害することが可能です。
 人数分用意されていますが駆動音がうるさいので、ガデンツァの居城に潜入する場合、向かないかもしれません。

・水龍の紋章
 すでにパワードスーツを装備している場合。もしくは駆動音などを警戒する場合の第二の選択肢です。
 これは皮膚表面に特殊なペイントを施すことによって水を操れるようにする装備です。
 これにより、ルネを水晶状態から水の状態に戻して、なおかつその水の霊力を奪えるようにします。
 さらにALブーツ無しで水上を移動することが可能になります。
 ただし、これを装備して攻撃すると1生命力が奪われます。

・天翔機
 これは参加メンバーの総数割る2しか配布されません。
 空を飛ぶことができる装備です。量産型なのでステータス的補正はないのですが。空を飛べるというのは大きなアドバンテージです。
 これはパワードスーツと同時装備できません。

● 増援について


《ケントゥリオ級従魔『戦艦』》 八隻
 まるで壁のように行く手を阻む巨大戦艦。超弩級と言っていいほど大きく。攻撃性能が高い。広範囲を一度に爆撃できる。
 しかし小型の獲物に狙いを済ませることが苦手であり、命中精度は低い。
 今回の作戦においてガデンツァの居城を狙うのはこの戦艦の役割である。
 ルネは最優先でこの戦艦を迎撃してくると思われる。

《デクリオ級従魔『小型船舶』》 十八隻
 リンカーが主に登場する船舶。この船自体には攻撃力はないが移動力が高く、リンカーをなるべく傷なく送り届ける用途で配備されている。
 沙羅に機雷従魔をターン終了時に三体生成する能力がある。

《ミーレス級 機雷従魔》
 攻撃方法は突進による自爆。ALブーツと同程度の起動性能を持つ。リンカーとそれ以外の識別は可能であり、そのせいかリンカーを気にせず自爆することがある。


● ルネについて

 ちなみに、全てのルネとガデンツァは神経を接続しているので、ガデンツァに話しかけると言葉が返ってきます。
 大変そうですね。

・航空爆撃型ルネ 25体
 上空50Mまで飛行できるルネです。相当な長射程武器が必要となるでしょう。
 上空から爆弾を落としてくるのですが、制度はよくなく、シャドウルーカーであれば難なく避けられるでしょう。
 攻撃範囲は9SQ程度の範囲です。
 さらに近づく敵には機銃で攻撃してきます。

・水上走行ルネ 50体
 これがメインの戦力です。
 背中からホルンの様な砲塔が突き出しており、これで射程20~40SQの射撃を行い。
 その手の鞭で1~10SQの攻撃を行います。
 最大の脅威は、水がある限り再生する点ですが、それはトリアイナや水龍装備で無効化してください。

・クリスタルフォートレスルネ 10体
 ガデンツァの居城を守るルネです。
 防御力が高く。自身を中心に10SQ程度カバーリングできます。
 再生能力を持ち、接近して誰かが特攻攻撃を行う必要があります。
 
・砲塔型ルネ 5門
 単独で直径50センチの砲弾を飛ばしてくるルネです。
 神殿の外壁に張り付いており、貝の様なシールドと巨大な砲塔が特徴です。
 戦艦従魔を狙っており、その威力は二~三で戦艦を鎮めるほどですが。リンカーでカバーリングは可能でしょう。
 命中精度が高いリンカーであれば打ち落とすことも可能ですが。
 至難の業となるでしょう。

 

解説

目標 ガデンツァ討伐

 今回ガデンツァを討伐するためにガデンツァの居城を強襲します。
 今回この、歌の果てシナリオでは。もう片方の『悪唄断絶』の潜入をサポートするシナリオになります。
 こちらのしなりの頑張り次第で、ガデンツァの対応力が変わったり、ルネが参戦する数が決まります。
 二つのシナリオは連動している物とあつかい、お互いのPCは直接の描写はないのですが、無線機などで意思疎通が可能とします。

 

● ガデンツァの居城について。
 ガデンツァの海底神殿は戦艦従魔の爆撃によってシールドを破壊されつつあります。
 今回はその居城めがけて、海上4KMに渡る距離を走行していただきます。
 ガデンツァは従魔迎撃に気をとられていますが、その隙にリンカーたちを送り込み。
 二面作戦を展開します。
 ガデンツァがリンカーとの直接対決で手一杯になればルネを突破して、総戦力でガデンツァにあたれますし。
 ルネの指揮に気をとらせつつ戦うのであれば大幅な戦力ダウンを期待できます。
 それにあたってまず、敵の戦力について確認してみましょう。


リプレイ

プロローグ
 『阪須賀 槇( aa4862 )』は空から陣形を見つめている。点在する愚神戦艦、その指揮権を握っているのが自分だと思うと何とも言えない興奮に包まれる。
「このまま速度を維持して突撃だお。敵の攻撃に備えるお」
 『阪須賀 誄(aa4862hero001 )』は冷静に距離を測っていた。射程距離に収まるまで約三分。 
 それを全員に伝達する。
 それに頷く『無明 威月( aa3532 )』。
 彼女は阪須賀指揮の編隊にある支援艦の構築に従事していた。
 威月は最後尾に位置し、この戦艦だけは補給地点として機能させる。さらにガデンツァに対しての切り札といても。
 そのための準備が間に合わず威月は大慌てだった。
――おい、大丈夫かよ。
 『青槻 火伏静(aa3532hero001 )』が苦笑いを浮かべる。
 事前に回復材大量のコンテナの管理、野戦ザイル、電源、ロングケーブル等の物資を甲板に並べたり接続したり。
 ここも一種の戦場だった。
――こっちは問題ねぇぞ。兄弟!
「おう、じゃあ手はず通り、みんなやるお!」
 インカム越しの誄の声。それに耳を澄ませながら『御神 恭也( aa0127 )』は甲板の上から、迎撃用に沸き立つルネを眺めている。
 『不破 雫(aa0127hero002 )』はそれをいぶかしんだ。
「奇襲を受けた割に混乱が少ないな…………一筋縄ではいかない様だな」
――此方の意図を悟られない様に注意をしましょう。
 次いで恭也は全身に霊力を回す。するとその体の表面に描かれた紋章が水色の光を放ち、恭也の顔を浮かび上がらせる。民族的な紋章は水を支配する術式の現れ。
 今回リンカーのほとんどは紋章、もしくは刻印と呼ばれるパワードスーツを身に纏っていた。
「まさかアレの支援砲撃を受けることになるとはな」
 そうでないものは空へ。『月影 飛翔( aa0224 )』は慣れ親しんだ空中を舞う感覚を楽しみながら船団の先端を浮遊する。
 そんな飛翔へ『ルビナス フローリア(aa0224hero001 )』が言葉をかけた。
「今は使えるものは全部使うべきときかと」
「ああ、表側として派手に気を惹くとしようか」
 飛翔は気合十分にAGWを抜く。その霊力の輝き、そして大きく広げた翼の輝きがまるで勝利の象徴のようにリンカーたちを導いた。
 その舞い散る光を受けて『餅 望月( aa0843 )』はいつもの調子をクズることなくつぶやく。
「うわー、すごい数のルネだなぁ」
――ガデンツァの居城は海にあったんだね。
 そう告げたのは『百薬(aa0843hero001 )』。
「百薬が飛ばなくても行ける所で良かったよ」
 その言葉に抗議の声を上げる百薬。それを無視して、望月はスマートフォンをポケットに滑り込ませ、そしてイアフォンを外した。
 決して、海風に吹かれながら音楽に酔いしれたかったわけではない。
 画面越しに望月は完成した楽譜を眺め、そしてそこから再現された音源を聴いていたのだ。
 大丈夫、最近歌を歌う機会が多かったおかげで、多少の練習で音程がとれるようになっている。
 あとはスマホで再生しながらであれば、合わせて歌うのは問題ないだろう。
「最低でも時計を合わせて正確な開始時間とメトロノーム機能だけあればなんとかできるから、よろしくね」
 そうインカム越しに歌を担当するメンバーに告げると、望月は背後の『鐘 梨李( aa0298 )』を振り返る。
「…………絶対に大丈夫。私達なら」
――そうだな。自信持ってけ!
 『コガネ(aa0298hero001 )』の激励。それに梨李は頷きピンク色に染まった髪を風に揺らした。
 直後、船を横面に殴るような衝撃が加わり、望月は甲板のポールに腕をからめた。大量の海水が流入し、梨李の足を滑らせるも、素早く望月はその手を取って体制を立て直させる。
 始まったのだ、戦いが。
 空気を叩くような砲撃音がこちら側からも発せられるが、これはお互いにまだ牽制の試合。
 本番は数分後のルネとの接触。
「しばらく隠れてて。私達がタイミングを掴む」
 告げると望月は甲板から飛び、海へとダイブする。
 彼女が使用するのは自前のアサルトユニット、そしてトリアイナ。
 アルター社のAGWには触れないようにしておいた。
――強そうだよ?
 百薬が問いかける、しかし。望月は首を振った。
「まとめて洗脳とか爆発とかだと死ななくても大変だし、フォローできるようにね」
 何かを心配するようにつぶやく望月。
 そのまま地面を蹴ると霧状となった水が背後の水面に叩きつけられ大きな水しぶきを上げる。そして加速。
――自前で海の上のマーメイドだね。
 それに並んで走るのが『雪室 チルル( aa5177 )』。
「大規模戦闘よ! 一番槍はあたいが頂くよ!」
――それは良いけど、今回水の上で戦うんだけど大丈夫?
 『スネグラチカ(aa5177hero001 )』が問いかけるとチルルは胸を張った。
「あ、当たり前じゃん! あたいなら水の上だろうが溶岩の上だろうが平気だし!」
――本当? なら良いけど……
「くっそ、ガデンツァのババァ判断がはぇーお」
 歯噛みする槇。
――けど、兄者で無かったらあの混乱の内にもう二~三回は攻撃されてるよ。
 槇は眼前の船にまとわりつくルネを見る。ガデンツァはルネの回復力を頼りに吹き飛ばしてこちらに送り込んできたのだ。さながらルネの弾丸である。
「航空部隊くるお!」
 紋章を光らせ槇は銃を構える。
 次の砲塔型ルネによる砲撃は通常通りの弾薬だろう。それを受ければまずい。
 そう槇はルネの砲撃に合わせて前に出るそして。ありったけの弾丸をばらまくべく腕を前に、翼による体勢制御のみで狙いをつけてそして撃つ。
「この戦い負けられねえお!!」
――そうだよな、隊長!
 戦場に吹き荒れる互いの暴虐の嵐。しかしそれはまだ陰惨な戦いの序曲にすぎないのだ。

第一章 最終決戦

(代わりに死神どもを送り込んでやるよ)
 『彩咲 姫乃( aa0941 )』は風のように海上を走る。 
(自分とこの隊長とか諸々知り合いを指して死神扱いはかなり頭ぶっ飛んだ発想デスニャ)
 『朱璃(aa0941hero002 )』のひそひそとした声も置き去りに大きくルネを迂回して、砲塔ルネまで姫乃は走った。
 その姿は海に溶け込むように迷彩で隠されている。
 シールドに守られた砲塔型。その隙間に入り込む機会をうかがう。
 会場を揺らす砲撃。
 そのチャンスが来るのも近いだろう。
「犠牲になったのはナイアだけじゃない」
 そう静かに告げる姫乃。
――犠牲者名簿ではむしろ新参デスね。
「それでも願う。――これから夢を追う人たちに少しでも安らかな道を」
――無視デスか。
 味方がこちらに向かっている、空にも多数の天翔機が展開された。
 戦いの開幕は近い。
 それを姫乃は冷静に分析して待機する。暗殺者の仕事の半分は待つことだと心得ている。
 本当はガデンツァの顔面を殴り飛ばしてやりたい気持ちを抑えてだ。
 それと気持ちを同じくする者が到着しつつある。
「……本当はあのクソババァをぶっつぶしてやりたがったが……それはみんなに任せるって決めたんだ…………」
 迫りくる眼前のルネ。彼女たちは歌を合わせながらリンカーたちへと一直線に向かっていた。
 そのルネと接触する第一陣に『楪 アルト( aa4349 )』は選ばれていた。
 今回は『‐FORTISSIMODE-(aa4349hero001 )』と共鳴。
 アルトは今最前列の戦艦、その船頭に立ち両足を固定。
「……あたしはあたしですきに憂さ晴らしさせてもらうぜ!!」
 その火力を遺憾なく発揮するために紋章を輝かせ、全ての砲塔を開いた。
「……ま、先手はいただかせて貰うけどなぁ! 挨拶代わりだぁ!」
 弾丸のバーゲンセール。とばかりにうち放たれるミサイル。それはレプリケイトショットにて空中で複製。空を覆い尽くす弾頭の群がルネ達を容赦なく爆撃した。
 それに対応しようと迫る爆撃ルネ。
 それに対してのカウンターもすでに用意してある。
 『月鏡 由利菜( aa0873 )』はその刃にて迫るルネを真っ向から押しとめる。
 そして返す刃でルネの翼を切り裂いた。
「さすがに一撃とはいきませんか」
――ああ、だが私たちの本領は責めることではない。護ることだ。
 『リーヴスラシル(aa0873hero001 )』が告げる、次いでアルトめがけ放たれたルネの砲撃をフロッティにて切り裂いた。
 それに続き空中部隊も次々とルネとコンタクトを果たす。
(…………火蛾魅どノ…………)
 戦場にいる塵へ一瞬意識を向ける『鬼子母 焔織( aa2439 )』。しかし焔織はすぐに意識を切り替えて周囲のルネへと高らかに告げた。
「……水晶の乙女よ」
 その時一体のルネが歌を病めた。
「貴方は己を知らヌ。滅びこそ我が定めなど勘違いであるコトを知らヌ」
「ほう」
 ルネの表情がにたりと歪む。
「定めの『くびき』より解脱し得る自由を知らヌ」
 『青色鬼 蓮日(aa2439hero001 )』は焔織の啖呵に何も言わない。ただじっと相手の反応を待つのみ。
「その無知が、貴方を穢し、歪め、台無しにシタことを知らヌ」
「わらわを台無し?」
「……貴方は何故、愛されヌかを知らぬ」
「黙るがいい。いつ我が」
 砲塔ルネが焔織へ照準を合わせる。そして。
「愛を望んだ」
 放たれた弾丸は確実に焔織を捕える。
 しかし、それを二方向からの弾幕が遮った。槇とアルト。
 焔織は爆炎を振り払って一歩前に、そしてルネへと言葉を叩きつける。
「では、何故アナタは苦シム!!」
「苦しんでいるように見えるのであれば、それはお主らが苦しいからじゃ!! 我に都合のいい妄想を当てはめるな、けがらわしい」
――こいつの言ってることは間違っちゃいない。その結果が今の煩悩の焦げ漂う貴様だ。
 告げたのは蓮日。
――お前は最早、滅びの乙女に非ず。
「ではなんと心得る」
「偽物……」
 焔織は断定する。ガデンツァを単なる模倣者と。
――最早、何者にも非ず。
 迫る爆撃ルネ。まるで特攻を命じられたかのように全ての機能を無視して焔織へと突っ込んだ。その風切り音に遮られないようにと蓮日は声を張り上げる。
――せめて、子らの安寧の為に去ねッ!
 それもまた由利菜によって防がれる。
 その動きが止まったルネへアルトは爆撃を叩き込んだ。
 彼女の制圧力はすさまじい。高い命中精度と常時複数を攻撃する面攻撃力により、水上のルネ達は足を前に進められない。
「まだまだだぞ!!」
 歌を変える。アルトは高らかに仲間を鼓舞する歌を戦場に響かせる。
 ガデンツァの奏でる絶望の曲など知ったことか。
 やっと掴み取った安寧と。笑いあえる仲間の笑顔。自分の居場所のために。
 アルトはLpC PSRM-01に全霊力を注ぎこむ。
「大特価出血サービスだ。受け取れ!! くそばあああ!!」
 放たれた雷光にも似た輝きは最前列のルネを食い破りそれを破壊した。
 そんなアルトの乗った船へ接近する影がある、初手で撃ち込まれた水上走行ルネが、その手を杭状にして戦艦へと張り付いたのだ。
 だがその体は次の瞬間には水上に叩きつけられている。
 ルネは首をかしげる。なぜ接近に気が付けなかったのだろう。
 そう突如現れた『九字原 昂( aa0919 )』を眺めた。
――随分とまぁ、手厚い支援をしてくれるもんだ。
 『ベルフ(aa0919hero001 )』はもがくルネを見つめて告げる。
 その首を絞めるように握った昂の腕。それに刻まれた紋章がルネの霊力を吸い上げていく。 
「その分攻略が楽でいいんじゃないかな?」
――タダより怖いものはないが…………まぁ、今はこれで良いか。
「そうだね……それにっ」
 その時だ。唐突な眩暈が昂を襲った。半身が水に沈み握力が緩む。するとルネは素早く戦線を離脱。後発の本隊へと戻っていく。
――おい、どうした。
「疲れてるのかな、眩暈が……」
 昂は首を振る、ここで自分が休んでいるわけにはいかない。
 自分には砲塔ルネを破壊するという任務があるのだから。
「初動を狂わされたけど、船に張り付いたルネの除去は完了したよ」
 告げると昂は海の青に紛れて進軍する。
 敵の集団は迂回して真っ直ぐに砲塔ルネへと。
 それぞれのリンカーが自分の役割のために動き始めたころ。
 戦場の真ん中ではついにリンカーとルネの本隊がぶつかっていた。
 チルルは水上をパワードスーツの力で駆ける。飛行型、水上型。砲塔型。それらへの対処は盤石なためチルルはクリスタルフォートレスを狙うことにする。
「敵の戦力が一通り減ってきたところで作戦開始として、盾を構えながら一気にクリスタル型まで突っ込んで、攻撃と同時に水の再生能力を阻害していくよ」
――でも思ったよりルネの層が分厚いよ。
 スネグラチカが心配そうに告げると。チルルは胸を張る。
「そこは、仲間を頼るのよ」
 次いでチルルの隣を飛び出していったのは『橘 由香里( aa1855 )』。
 薙刀を構えるようにトリアイナを握り。全速力でルネに突っ込んだ。
 そのホルンによる遠距離攻撃を、水を蹴り回避。
 もう片方の足で水を反発させて一気に懐へ。
 トリアイナの柄でルネの鞭攻撃を手を振るう前に叩いて無効化。
 バックステップすると同時にトリアイナを振るってルネを大きく切り付けた。
 切断面は深く。ルネの回復を許さない。それどころかトリアイナの切っ先には同大な霊力がまとわりつく。
「トリアイナ握るのも久しぶりね。ガなんとかと直接の縁はないけれどルネ相手ならいろいろ合ったわね。……色々と」
 告げると『飯綱比売命(aa1855hero001 )』が楽しそうに告げた。
――ま、過去は過去じゃ。次に道を切り開くのは自分自身よ。
「じゃ、サクサクと狩りましょうか」
――敵の潜水艦を発見じゃ!
「違うでしょ!?」
 言いながら由香里は振るわれた鞭をトリアイナで防御。すると鞭はトリアイナに絡みつき膠着状態が生まれる。
 それを解こうと由香里は有る指示を戦艦従魔に出した。
 支援砲撃である。それがルネと由香里の間に落ちた。
 あがる水しぶきと爆風。
 それを隠れ蓑に由香里は前方へ加速。風魔の小太刀にて鞭を断ち切り、ルネの背後に回って。そして。
 トリアイナを深々とルネの腹部に突き立てた。
 ルネの動きが止まる。驚愕の表情で振り返る。由香里の手に握られたトリアイナはまるで木の幹のようにずるずるとルネの霊力を吸い上げた。
「ハァイ、まどろみと小夜子の借りを返しに来たわ。ま、私は露払いだけどね。せいぜいおちょくってあげるから、存分にイライラしなさい?」
 告げると足の裏をルネの腰に押し当てて蹴りつけトリアイナを引き抜いた由香里。
――時に分離して酒飲んだりすると酒もこやつに吸収されてしまうのかのう。それは勿体ないのう。
「ですって。こんな決戦じゃなくてもっと前に試せば良かったわね」
 ルネは水に溶けるようにその身を散らす。再生力が武器のルネを再生させることなく倒したこの由香里の武功は戦場に瞬く間に知れ渡り、自分らの攻撃が有効であることを知らしめる。
「負けてられませんね」
 その勢いに『禮(aa2518hero001 )』が続く。
――ここは人魚の戦場だ。任せたよ、禮。
 『海神 藍( aa2518 )』の言葉に禮は頷くと、ダイビングフォームをとって水の中へ。
 海中で体を翻すと、その水龍の紋章にて体の周りに水を集めた。
 禮のシルエットが人魚のように変わっていく。
 そのまま禮は水中を高速で走り、ルネを水の中に引きずり込んでは戦いを挑むということを繰り返した。
 戦闘開始から十分程度が経過したが、現在6対4程度でリンカーが有利である。
 このまま押し切ることもできるかもしれない。そう戦場を管理する槇は胸に期待を抱く。
 しかし、水上のルネに戦力が多く割かれるようになってしまったために、砲塔ルネの砲撃を防御する人間が減ってしまった。
 その弊害が出て、後ろの戦艦にルネの砲撃が直撃してしまう。
「被害はどうなってるお!」
 損傷は軽微。しかし装甲がおじゃん。同じ場所に砲撃を受ければ甚大な被害になるだろうとのこと。
 やはり砲塔ルネの攻撃力は侮れなかった。
「くぅ、対砲塔班はまだかお」
 対砲塔ルネ班は苦戦していた。当然砲塔ルネを守るべく多数のルネが周辺に配置されていたからである。
「さっさと行きぃ」
 そんな対砲塔班を動かすために『弥刀 一二三( aa1048 )』が動いた。
 今回は念願の男性姿での共鳴。盾を構えてルネを攪乱し、仲間をカバーリング。無理やりに道をこじ開ける。
 その無茶な動きのせいで一二三の体は開幕直後からぼろぼろである。
「このままいったら弥刀さんが危ないよ!」
 チルルが振り返り一二三の身を案じる。しかし。一二三はその背だけ見せて振り返らない。
「うちかて、無策やありまへん」
 告げると一二三は口にチョコを含む、海上で佇む一二三へ大量のルネが殺到する。
 チルルは彼が死んだと思った。しかし彼もトップリンカーである。ここで倒れるわけが無い。
 支援砲撃が一二三を中心にして無数に叩きつけられた。上がる水しぶき、爆炎。
 その水を浴びながら冷えた目で、一二三は残るルネを観察している。
 次いで、水しぶきがやんだとき、海水の中からルネが続々と再生してくる。
 砲撃には吸水効果がないためにルネを殺し切ることができないのだ。
 ただ、その爆撃によって足止めすることは可能である。
 そんな海面からルネが生えてくる状況を眺めて一二三は告げる。
「……なんちゅーか……この女、ルネ好き過ぎて怖いんやけど……」
――これが変質者、というやつか……ある意味人に近い愚神そうだな。
 何か勘違いしている『キリル ブラックモア(aa1048hero001 )』は一二三にそう言葉を駆けた。
「いや、ホンマ怖いわぁ、はやく終わりにしたろ」
 告げた一二三もおそらく重大な勘違いをしているのだが、それを訂正する機会には恵まれないことだろう。
 とりあえず、一二三はこれからこの大量のルネの中に孤立してしまった状況を何とかしなければならないのだから。
「くっ……あなたの犠牲、無駄にしないから!!」
 チルルがヒロインっぽく叫ぶとスネグラチカが、まだ死んでないよと優しく言った。
 だがおかげで砲塔ルネまで距離が近い。五門ある一門をまずは全員で破壊する。
「味方戦艦の砲撃のタイミングに合わせて突っ込んで攻撃、阻害している間に味方戦艦の砲撃で打ち倒すって流れが理想だね」
 告げるチルルのインカムの向こうで砲撃へのカウントダウンが始まっている。
 タイミングを合わせられなければ、へたをするとルネの砲撃を直で受けてしまう可能性がある。
 ここのタイミング合わせはとても重要だ。
――出来る限り敵陣がフリーな状態になっているところで突っ込むのが理想だね。
 敵の指揮がゴタゴタしている状態ならなお良いけど。
 直後放たれる砲撃、それを恐れずチルルは砲塔ルネへと切りかかった。だがそれを水上走行ルネが防ぐ。
 しかしこれは囮なのだ。
 本命は、背後から浮上するように現れた昂。
 まったく誰にも気が付かれることのなかった刃は見事砲塔ルネの喉笛をかき斬り、その霊力をあふれさせた。
 その致命的な一撃にて砲塔一門は機能を失う。
「雪室さんは一緒に来てください。次は潜伏からの奇襲は効かないと思います。なので妨害を中心に立ち回ります」
 砲塔を一つ無力化しただけでもかなり防衛のしやすさは変わるはずだ。
 もう一つの砲台は破壊ではなく妨害での無力化を狙う厳しい戦いだが、砲塔二門を封じることができれば戦艦の進軍速度はかなり早くなる。
「可能であれば砲身の切り飛ばしを狙い、命中精度を低下させられないか試します」
「了解だよ!!」
 もし、砲塔ルネが戦艦を砲撃しようとするのならば、猫騙で行動遅延をかけて味方に始末してもらうことも視野に入れ二人は次の砲塔へと走った。
 ノーシ「ウヴィーツァ」を砲塔内部に射出して暴発を狙えれば楽なのだが、そうともいかなそうである。
「お! ずいぶん元気がなくなってきたじゃねぇか!!」
 そんな敵の砲撃の弱まりを感じて、アルトは一歩足を前に出した。戦闘から引く気は全くないらしく、ぼろぼろの体に鞭打って戦場に立つ。
「もう少し待ってろよ、そしたらあたしもでけぇ支援ぶっ放してやる。それまでは」
 戦艦に群がろうとする敵を複製した二丁のガトリングでぶち抜いて落としていく。
 上空から迫る敵にはブレイジングソウルに持ち替えて翼を狙った。
 そして上空に熱のカーテンを敷き詰めるべくカチューシャ。
 もはや破壊の権化としての本性を隠そうともしない。
「そして! 聞こえるぜ! 陰気くせぇうたが!!」
 次いで構えたのはアンチマテリアルミサイル。
 それを制御するのはなんと、アルトの歌と鍵盤で。
「塗り替えられたくなきゃ!! あたしの歌に……ついてきやがれぇ!! 」
 放たれた弧を描いて海中神殿へ。そしてそのクリスタルフォートレスに命中すると、一際強く水柱をあげた。


第二章 制空権を奪え

 戦場の時は少し巻き戻る、それは戦場中央でリンカーたちが接触した直後の話。
 かなり高高度で野戦ザイルを重たそうに引っ張っているのは『雨宮 葵( aa4783 )』。
 彼女の持つロープの先には無数の機雷従魔が結び付けられていた。
「うわ。暴れないで、飛ぶのにすごく神経を使うんだぞ!」
 そう従魔たちを怒鳴りつけると、従魔たちはブラーンと手足を伸ばして大人しくなった。
 それがなんだか不気味に思う『燐(aa4783hero001 )』である。
 そんな紐のもう片方を握っているのは焔織で、二人で生成される機雷従魔のほとんどをひっかけて空に上がってきたところだった。
「派手に開幕の狼煙をあげちゃうよ!」
 葵は眼下の争いを眺めながら乱戦となっている場所に視線を向ける。
 眼下では戦いが激化している、それは空中も同じで葵の目には蒼く翻る翼が見えた。
「今が好機だな」
 告げて飛翔は空を駆けた。その蒼天を思わせる青い粒子が舞い上がる翼を翻して。
 高高度より戦艦を狙って動く航空ルネへ迫る。
――敵機を確認しました。
「艦上で爆撃される前に潰すぞ」
 そのまま非常はルネをすり抜け下へ抜け反転。仰向けになり蒼天を目に刻みながらその刃はルネの腹部を切り裂いた。
 今まさに放たれようとしていた爆弾のである。
 直後それはルネを巻き込んで爆発、爆破に煽られる飛翔を狙った機銃掃射が二方向から迫るが、飛翔は海面すれすれで体制を立て直し、敵を振り切ると直上方向に加速、頭を押さえる。
「その程度か」
 すでに飛翔にとって空は陸地以上に戦いやすい場である。
 そのまま自身を狙うために集まったルネ達全員へ斬撃をみまう。
 チャージラッシュ。そして怒涛乱舞のコンボである。
 次いで空中で動きを止めたルネ達を蹴って反対方向へ加速すると遅れて爆風が飛翔の加速を手伝った。別の敵の尻を捕え、そのまま追いすがる。


「どこに落す?」
 葵がそう尋ねると焔織が告げた。
「決まっているでショウ。御城にですよ」
 そのために二人は雲の上まで高く高度を取り。そして着弾地点の計算は槇に肩代わりしてもらう。
「3.2.1」
 葵のカウントダウンでザイルを話せばその機雷従魔は直下方向へ加速度を増し、アルトの砲撃に合わせて神殿へと激突するのだった。
 度重なる爆撃がガデンツァの城を揺らす。
 だが一手足りない。
「デハ、逝って参リマス」
 告げる焔織は神殿へと頭を向ける。そのまま加速し重力を味方に付けた特攻。
 音速に迫る勢いのリンカーが激突すればバリアと言えどただでは済まないだろうが。
 それは焔織もただでは済まないだろう。
「はあああああああ!」
 焔織は直前で身を起こす。するとその手に泉女神の斧槍を構えそして力をため込む。もはや隕石のように色を変えながらも鬼神のごときその一撃は最後の詰としてガデンツァの神殿へ突き刺さる。
「……色不異空、空不異色、色即是空、空即是色……ッ」
 まだだ、まだ終わらない。肌が焼け。骨がきしみ。意識が何度も飛びそうになりながら。焔織は血にまみれた刃を食いしばって唱える。
 そして直ちに怒涛乱舞。
「……オンッ! ……ドドマリギャキティソワカ…………!」
 そのままルネ一体を叩き割ると衝撃で神殿の護りに隙ができた。
 砕ける焔織の翼。その体はゆっくりと海へと落ちていく。
「あとハ。マカセ……ました。よ」
 隊長。そう告げる前に焔織は海に沈んだ。
「この機会を逃してはいけません!」
 告げるのは『構築の魔女(aa0281hero001 )』。
 すでに『辺是 落児( aa0281 )』と装備した彼女は翼を纏い、神殿上空でその腕を振るっていた。
「今、この混乱状態なら航空ルネを刈り取れます」
 その背に背を合わせるよう飛んできたのは『志賀谷 京子( aa0150 )』。
 京子は構築の魔女の言葉に頷くと告げる。
「何にしても制空権を抑える必要があるからね」
――ええ、頭を抑えて確実に落とすとしましょう。
 『アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001 )』が告げると京子は羽ばたく。
 構築の魔女と京子は対となるように空を駆ける。時にまじりあい、時に片方が片方の動きの起点となれるように立ち回り、拘束で動きながらも的確にルネ達を射抜いていく。
 構築の魔女は海面すれすれの飛行を。京子は高高度の飛行を好んだ。
 構築の魔女と京子で敵を上下に挟み撃ち。穴だらけにして撃墜する戦法を好んだ。
「対処できますか? この状況に」
 構築の魔女はわざとガデンツァの思考の妨げになるように飛行している。
 そんな二人のコンビネーションを崩す必要があると思ったのか、京子へ航空ルネが殺到した。
 そのルネ達を引き連れるように京子は空へと上る。酸素も薄い超高高度、ルネ達は限界高度の関係で手が出せない。
「上がってこれないならさ、ドッグファイトに付き合う必要もないよね」
 そこから射撃を。下方に向けて加速を。すれ違いざまににやりと笑い。
 追いかけてくるルネ達の翼を撃ち抜けば。ダメージに耐え切れずルネ達はコントロールを失って海へ落ちて行った。
 直後海上で炎の華が咲く、先んじて京子はルネの爆雷を撃ち抜いていたのだ。
「抱え込んでる爆弾ごと、沈んじゃえ!」
「京子さん」
 そんな京子へ構築の魔女の通信が飛んだ。
 構築の魔女は今居城の位置と従魔戦艦の位置から砲型の射線を予測。砲弾を撃ち落として砲塔ルネを牽制しているところだった。
 ついでに航空ルネから落とされた爆弾も銃で打ち抜いて爆破する。構築の魔女からするとたやすい芸当だった。
「京子さん、本当は行きたいのでは?」
 京子はなるべく爆弾を誘爆させされるように次々とルネを狙って弾丸を放つ。傷ついた敵を確実に落とすことを優先し離れた敵は無視して。
「別に私は」
 そのまま空中で構築の魔女と合流すると、砲塔ルネへと二人で狙いを定める。
「すべてが目であり手であるというのは恐ろしいですね」
 そして砲塔が展開された。放たれる砲弾が京子にはスローに見える。その弾丸越しに砲塔を狙うことなど、お茶の子さいさいである。
「あれだけ大きい穴、狙えないって言えないよね」
――結果で証明するとしましょうか。
「弱い部分に攻撃を集中されたら防ぎきれないかもしれませんし」
 構築の魔女、そして京子の放った弾丸は跳弾し、砲塔内部へ、そして装填されていた次弾を貫いてその雷管を刺激、そして。
 砲塔ルネは内部から大爆発を引き起こした。
 次いでその構築の魔女の下を潜水艇が進んでいると報告があった。
「さて、思惑が絡まりあっていますね」
 構築の魔女は考える。この状況もっとも狙いたい戦果は何か。
 端的に言おう。構築の魔女は従魔船団を信用していないのだ。
 だから従魔船団とガデンツァが相打ちになってくれることを望んだ。
 しかし。
 現在ガデンツァも倒せるかどうか怪しい状況である。
 次いで爆発音が響く。葵が二回目の爆雷投下を成功させたのだ。
 それによって防壁には穴ができている。
「行ってください」
 構築の魔女は京子に告げた。
「でも、みんなが」
「こちらは大丈夫。それに京子さんが行ってくれた方が私は安心できますから」
 告げると構築の魔女は振り返って銃身を差し出す。
 それに京子は銃身をこつんとぶつけた。
「わかった。やってみせるよ、だから、みんな無事で」
 告げると京子は水の中へと一直線に飛び込む。それを妨害させまいと構築の魔女は弾丸をばらまいた。
「それ!」
 葵は敵をかく乱しようと砲塔ルネ、そして周辺に護衛として張り付いていたルネをまとめて切り上げた。
 水上を走って葵に迫るルネにはカチューシャを。それで視界を奪われているうちに接近してルネを一体切り伏せた。
「鳥に空で戦闘をしかけるとか喧嘩売ってるよねー」
 葵は刃を大きく振ってわざと挑発して見せる。
――ん。生意気な奴は、全部……倒しちゃおう。
 そんな葵に群がるルネだが葵は空に逃げることをしない。
 代わりに水中を漂っていた焔織がルネの足を引っ張って水の中に引きずり込む。
 そのまま焔織はルネを剣の錆にすると葵に寄り添うように水上に立った。
「そう言えばこんな物を拾ったのですが」 
 そう焔織は葵に水晶の欠片をみせた。
「あ。それイミテーションなんだ」
 葵は告げると焔織から水晶を受け取り、水の中に投げた。
「ばらまいてるんだ、だからそのままでいいの」
 告げると葵は空を見た。いつの間にか空には、リンカーでもルネでもないものが浮かんでいる。
 エンジェルスビットと呼ばれる飛行型スピーカーだ。
 それが接続されているのは誰か。それを葵は知っている。
「みんなを守るよ」
「承知!」
 焔織は告げるとルネに切りかかる。その動きをサポートするように葵が小刀で敵を切り付け背後に回る。


第三章 歌の真価

 神殿内部は静かだった。
 全てはガデンツァが作業に集中するために音を遮断しているからだ。
 しかしそれはもう無意味である。
(くぅ、シールドに負荷が、ルネがもたん。砲塔に張り付いておるリンカーもさっさと撃退せねば)
 シールドの破壊。絶え間ない神殿への攻撃、ルネへの妨害行動。
 戦場全ての情報がガデンツァの頭の中に流れ込み。今やガデンツァはオーバーフロー状態だった。
「なによりこの歌じゃ!!」 
 ガデンツァは戦場にポツラポツラと響き始めた歌へ怒りの声をあげた。
 この歌のせいでまったく集中できない。
「希望の音、じゃと。笑わせる。滅びをもたらすだけの歌にたいそうな名前を載せたものじゃな」
 あと少し、あと少しで楽譜が埋まったのに。何故こんなことに、ガデンツァは歯噛みする。
 あと一音。音符があと一つあれば。この世界の人間全ての心を砕く歌が完成するのに。
(航空戦力への抵抗がはげしい。空中戦の練度が高いじゃと。計算外じゃ)
 そうガデンツァは拳を握りしめる。
「何が希望か、なにが絆か!」
 ガデンツァは声高らかに問いかける。
「それが何かを救ったか、一度でもすくわれたことがあったかリンカーよ」
 その言葉に答えをもらわぬうちにガデンツァは索敵を開始した。
(澄香と、燃衣……奴らを落せば士気はおのずと下がるはず)
 二人は偶然にも同じ艦に乗っている。それを見つけたガデンツァは戦力を結集させるべくルネ達に指示を出していく。
 その戦艦の甲板をせっせと走り回るのが『内藤 葛( aa4470 )』である。
 葛はクレーンで大型モニターを釣り上げて。それを設置してる。
――オーライ、オーライ。
 『カガミ(aa4470hero001 )』のナビゲートにしたがってそれを設置すると戦艦が大きく傾くのを感じた。
「アイドルのお姉さんのお手伝いするよ。終わったらサインくれるんだって!」
――良かったですね。
 そうカガミが告げると葛は上機嫌である。
 そのモニターに電波を受信して映像を移すための小型端末を設置すると。
 そこに映し出されたのは神殿内部の映像。
 その映像を見て拳突き上げる乙女たちがいた。
「今彼女たちは戦ってる。みんなも戦ってる」
「私達も戦わなきゃいけない時があった。けれど、その時はずっと一人だと思ってた」
「けど、一人じゃないって教えてくれた人がいた。私たちの手を取って代わりに戦ってくれた人がいた」
 甲板に音楽と友に登場したのはディスペアと呼ばれるアイドルグループ。
 クルシェ。小雪。そして梓。
 そしてその三人紹介する桃色の髪の少女がステージの上を楽しそうに駆け回っている。
「さぁ! 再結成されたディスペアの公演だよ! みんなで楽しんでいこうね」
 柔らかで、暖かく、未来を見据えた凛と芯のある声。ディスペアの歌の合間にリンカーたちにエールをくれる。
「私たちなら絶対に大丈夫だよ!」
 完全復活とはいかない、けれど一連の事件を経ても三人の輝きは損なわれなかった。 
 それは、ひとえにリンカーたちが助けてくれたから。
「みんな! 思いを掲げて、私達が後押しする。悪い歌になんて絶対蝕ませない。私たちの歌! きいてください!!」
 謳う曲は『不死鳥の羽音~Rebirth~』。大切な人に託された。何度でも立ち上がるという思いがこもった曲。
 それが戦場に響けば。リンカーたちの中のもやもやとした何かがスッと楽になっていく。
 それがなんだかはわからない、歌の力なんだろうか。
「この作戦はメンバーであった瑠音さんが残した情報があってこそだと伺いました」
 桂は告げる。
「善性愚神に乗っかるわけではありませんが…………少なくとも彼女は敵ではなかった」
 そうその手に水晶を握りしめる。
「一緒に最後まで歌って欲しいって…………」
 瑠音、それだけではない、散って行った人。思いを遂げられなかった人は、たくさんいる。
 それを思って葛は祈りをささげた。
「初対面の私が思うことではないのかもですが…………彼女たちもまた、更に一歩進めることを祈っております」
 そして葛も一緒に曲を口ずさむ。
 戦いは終盤戦。
 歌が満ちるこの海で、ガデンツァの最後の言葉はどのように歴史に刻まれるのか。
 それを冷静に『アトルラーゼ・ウェンジェンス( aa5611 )』は見守っている。
 空、海。そして砲塔ルネや神殿の防壁に攻撃するリンカー。
 アトルラーゼはそれを全て見つめていた。
 戦が長引き、全員の顔に疲れが出始める。苦悶の表情を浮かべているものもいる。
 そんな彼らの心に歌が届いたなら、そう思って胸の前でアトルラーゼは手を抱いて。高らかに声をひびかせる。
 歌は終わっていた。ディスペアの歌はなく無音の空にそのメロディーを徐々に徐々に響き渡らせる。
 するとだ。その歌声があらぬ場所からも響いた。
 それは海から、あるいは誰かのポケットから。
 それは希望の歌の合唱。
「ぼくと皆の歌を響かせるよ!」
 この場に入るすべての人と。
「皆の希望は、いつもここに…………!」
 そう桃色の髪の少女も拳を突き上げる。
「《ガデンツァ…………貴女には決して渡さない。私たちの歌を、未来を!!》
 その言葉にルネの結晶、そのイミテーションが共鳴し、歌を繋ぎ。そしてリンカーたちの中の何かを振り払う。
 その隣に桃色の髪の少女が立った。
 二人はハーモニーを奏でるように声の高さを上下させる。
 だがそんな行いをガデンツァが許すはずがない。
「はははは! お前たちはここで終りじゃ!!」
 海から飛び上がったのは数体のルネ。しかしそれを阻もうと前に出たのは、槇。
 だがおかしい。その手に握っているのは魔本。
 暗い瘴気が舐めるようにルネを迎撃する。
 その間に『麻生 遊夜( aa0452 )』がルネを狙撃。甲板からはじくように海に落した。
「おうおう、釣れたもんだなぁ」
――……ん。大漁大漁、
 『ユフォアリーヤ(aa0452hero001 )』が満足そうにつぶやくと、遊夜は管制室の天辺から降りる。
 その間に砲塔型ルネの砲撃を撃ち落とし着地、ゆっくり立ち上がるとあたりを見渡した。
 この戦艦だけは攻撃させるわけにはいかない。そう背後の梓を一瞥するとすぐに戦場へ向き直る。
 眼下には大量のルネ。それらすべてが一発逆転を狙ったガデンツァから送り込まれた部隊だったが、それは罠だった。
 ガデンツァが自身を追い、執着していたリンカーたちだと思っていたのは全く別の人物で。
 アトルラーゼはその金色の髪と小柄な姿を生かして。
 そして梨李は習った視線運び……演技と。声帯模写を駆使して。
 あのトップアイドルに扮装していた。
「敵を騙すにはまず味方から、ですよね」
 そうウィンクするとハートがはじけるのも彼女らしい。
「その歌を! その歌をやめい!」
「やめません! これは僕が託された歌です!!」
 アトルラーゼは甲板に上がるルネを召喚した盾で弾き飛ばし海へと落とす。
 アトルラーゼはもう正体がばれたとわかったなら自分の歌いやすい旋律で、高さで希望の音を謳い続ける。
 歌はさらに大きくなる、それどころか戦艦の周囲に集められたルネにきかせるように戦艦自体も歌い始めた。持ち込んだサウンザウンドソングや音楽CDをかけ始めたのだ。
 そのあふれる音の波の中で梨李はガデンツァの言葉を思い出していた。
「それが何かを救ったか、一度でもすくわれたことがあったかリンカーよ」
「私は、逃さず見ていた。アイドルの……ルネの番組を」
「なに?」
「応えたくなった。その、命を賭した頑張りに、それだけで十分……じゃないかな」
 直後眩い光が甲板を満たした。 
 その光を発するのは音響く護石と呼ばれる石。
 それを握りしめる威月はじっとルネ達を見つめている。
(…………私はもう…………気が付いたら、誰かが死んでいたなんて、嫌だから…………)
 威月はそれを握り締め、皆の無事を強く願い決して諦めない。
(私の体が動かなくなっても構わない…………今だけでも良い、力を…………!)
 隊長や突入した暁の面々は作戦を開始したのだろう。
(…………皆さん…………隊長……! お願いです……必ず帰ってきて下さい…………!)
 そのために帰る場所を守る、そう威月はありったけの癒しを周囲に振りまいた。
 彼女の声はフィールドとなり船を覆う。
 船を守るために威月は武器を振るう。
 それに桂も習った。
「お恥ずかしながら戦力とは言い難いのですが」
――隣にいてくれるってことが頼もしい……って威月は言いたいと思うぜ。
 そう火伏静は威月の言葉を代弁する。
 葛はそれに頷いて秘薬を口にした。
 アイドルたちを護衛するためにここは突破させられない。
 そうルネ達を海に落すことを最優先に立ち回る。
 威月と連携しお互いの傷を癒しながら。
 そんな中、戦況を見守っていた槇。いや『火蛾魅 塵( aa5095 )』が口を開く。
 その手の中には苦労して捕まえたルネの小型バージョン、戦況を管理するための目としての瑠音がいた。
 そのルネに塵は話しかける。
「……楽しいよなァ? 騙すっつーのぁヨォ?」
「それは、わらわの専売特許のはずなんじゃがなぁ!」
 殺気だったガデンツァの声。
「さぁて。ダベろうや婆さん」
「そんな暇はない」
「なぁ映像でソッチの様子見せてくんね?」
「何を呆けたことを言っておる」
「ちげーよ。甘ちゃんどもがおっ死ぬ所が見てぇんだよォ……クク……」
「であれば、死体を眺めるがよい。誰がどの死体だかはわかるようにしておいてやろうぞ」
「なぁ婆さん、アンタはさ……何で世界を壊してぇのよ」
「知れたこと」
「何で心を壊してぇのよ」
「それもまた知れた事よ」
「壊した先に何が欲しいのよ」
「わかっておらぬな。破壊こそが我欲よ。破壊した先など知らん、破壊する事こそわが彼岸」
 つまんねぇ、そうつぶやくと塵は冷え切った目でルネを見つめる。  
 それはそう、人に非ざる瞳で
「……俺はあるぜ。全部ブッ壊した先に、ヨォ……」
「ほう、それはたいそうなことじゃなぁ」
「逆にテメェはもう破壊の意味すら分からねぇ欠陥品なんだよ」
 その時、ガデンツァは笑いを含んだ声をあげた。
「ほう、わらわを欠陥品と……」
「やっぱテメェに破壊は任せらんねぇ。全てをブッ壊すのぁ……」
 次いで塵はにたりと笑って告げる。

「この俺だぜ」

「わらわからすればお主の破壊は悲鳴にしか聞こえんがなぁ」 
 ガデンツァもきっと顔を見れば今微笑んでいるのだと、塵には分かった。
「ではお主も破壊することを許そう、どんな旋律を奏でるか楽しみじゃ」

「それが最後の一ピースになれば、なおさら」


第四章 守るべき思い

――サチコ。戦闘において最も重要なものは何だ?
 アイドルライブの警備の最中『リタ(aa2526hero001 )』がそう問いかけてきた。
「…………情報、かしら」
 『鬼灯 佐千子( aa2526 )』は反射的にそう答える。
――肯定する。そして今回、最も多くの情報を集積し活用するのがサカスガ兄弟だ。
「…………なら、2人の護衛が必要ね」
――肯定だ。さらに言えば航空優勢を確保したい。
「なら積極的に相手の航空型や砲塔型への攻撃も行うべきね」
 この歌、指揮。戦場の重要要素すべてを内包した一隻の戦艦を守るために佐千子は動く。
 行動指針は二つ。
1.【航空】指揮官の阪須賀兄弟の護衛。
 そして。
2.航空爆撃型ルネへの攻撃。
 佐千子は一気に上空へと加速した。
 今まで空で戦っていた仲間たちと入れ替わるように姿を現した佐千子はみるみる高度を上げていく。
 その射程が許す限りに高度を上げると、その無防備な背中に狙いを定める、そしてトリガを引いた。
 すぐに攻撃に気が付いたルネ達は佐千子に対応。ミサイルを放つもそれを佐千子はロールして回避。爆風に煽られながら体勢を整えてルネを狙う。
 現在制空権はリンカーが確保している状態だった。ルネの航空部隊は事実上の壊滅状態。僅かに抵抗を続ける航空ルネがゲリラ的にこちらの旗艦にちょっかいをかけに来るが、それも佐千子によって迎撃されている有様。
 ガデンツァの戦力。その完全解体も近い。
 それを察したのか、槇が動いた。
「ッヒョー! 戦艦指揮! テンション上がるお!」
――…………OKケリつけようか、クソババア。
 艦隊を密集。密度の高い砲撃を行うために矢じり型の三角形の陣形をより小さくまとめた。
 後方の最重要戦艦を守るように戦艦は壁となり、そして。最後の猛攻に出る。
「暁の水平線に、勝利を刻むお!」
――ファイア!
 放たれる砲撃が海を揺らし、一列に並んでガデンツァの神殿へと放たれる。
 次弾装填を急がせ他艦と連携。飽和射撃。
 時間差で撃つ事で途切れ目の無く攻撃する。
「いくお! 弾薬を使い切っても構わないお!!」
 その時、危機感を感じたのか、リンカーたちの攻撃を無視して砲塔ルネが戦艦に狙いを定める、すでに二門しかないとはいえ。その攻撃力は脅威。
 故に槇は切り札を切る。
「回るお!」
 三角形の陣形が左右に割れた。両翼が外側へ旋回、拡散して側面を砲塔ルネに向け。そして斉射。
 その混乱で砲塔ルネが右往左往している間に、戦艦は直ちに逆方向へ旋回、集結しつつ逆面を出し斉射。
 一糸乱れる統率から、クリスタルフォートレス、そして砲塔ルネに甚大な被害を与えた。
 戦列が再構築出来次第。次の攻撃に入る。
 そうリンカーたちには告げて、絨毯砲撃の準備に入る槇。
「撃ちぃー方よぉぉーい」
 キリキリと砲門が敵を捕らえ。
「…………ってぇえェェい!」
 それが放たれると海が揺れた。その砲撃と交差する形で砲塔ルネから水色の弾丸が放たれる、それは護衛役として張り付いていた水上走行ルネ。
 それが旗艦に突き刺さると、クリスタル状のそれはほどけて装甲を食い破り館内に突入してくる、やけっぱちの突撃である。
「まずいお!!」
 槇が焦る中カバーに動いたのは遊夜と『葛城 巴( aa4976 )』。いや、共鳴主体はレオン(aa4976hero001 )』。
――……ん、ようやく……ここまで来たねぇ、長かった。
「ここらで決着と行きたい所だ、我らが戦友の為にもここで役目を果たさねばな」
 ユフォアリーヤの言葉に頷いた遊夜はルネの侵入地点にかけていく。
 海上で戦闘していたレオンは、全速力で水上を走り艦に戻る。艦内のルネは三体。
「安心して、この歌を止ませはしないから」
 レオンは告げるとルネの突入した穴から潜り込んだ。
 ルネの姿を見つけると紋章を発動。
 《白鷺》でルネの攻撃をからめ捕ると《烏羽》にて反撃を。ルネの攻撃が戦艦を荒らさない方に、ホルンからの攻撃はなるべくその身で受けた。
「とにかく守ります」
 ルネを縫いとめるように戦う。
「僕自身は、生命力の残りとか気にしてませんから」
 対して遊夜は巴に引き寄せられるルネを狙うべくL字通路にて待機していた。
「これなら狙撃に支障はない、何時も通りだ」
――……ん、システム……オールグリーン。
 揺れる艦内、響く金属音とあたり一帯から感じられる従魔の気配、それら雑音があろうとも遊夜の狙撃を妨害できる者ではない。
――……砲撃は、撃ち落とす、敵は打ち抜く。……ボク達は、外さない……外してあげない。
 そうくすくすと笑うユフォアリーヤの声はルネにとって死神の笑い声に聞こえるだろう。
「狙われないなら俺らも攻勢に出れるわけだけどな」
 放たれる三発の弾丸。それは跳弾し、通路の死角、音だけで捕えたルネを射抜く。
「こっちは終わったぜ」
 告げると遊夜は『鋼野 明斗( aa0553 )』の様子をうかがう。
 彼は別の戦艦を護衛していたのだが敵の移動にあわせてこの戦艦まで移動してきたのだ。
 今は遊夜たちに変わってルネが戦艦に取りつくのを妨害している。
「今はもってますけど、早く戻ってきてください、みなさん」
 そう乗り込んできたルネの腕を刀で切り捨てて告げた。
 次いで吹き飛んだルネに砲撃をするように戦艦に指示、空中でルネがバラバラになると海に落ち。そして再生した。やはり従魔の攻撃ではルネを倒し切れない。
「それにしても、この艦に来たら収まりましたが。先ほどの体調不良はなんだったんでしょう」
 そう『ドロシー ジャスティス(aa0553hero001 )』に問いかけるも首をひねるばかり。
「いえ、なんでもありません、戦いに集中しましょう」
「頼んだぞ、俺は少しやることがある」
 そうインカム越しに告げた遊夜。
 遊夜はルネにあけられた大穴からへパイトスを構える。通常であればとどかない距離。ここから仕返しに砲塔ルネを狙うにはどうすべきか。
「さてさて御立合い! 我らが研鑽の一撃、特と見るがいいさ!」
――……ボク達に、当てれないものは……ないの!
 それを遊夜は瞬時に計算する。
 そして引き絞るように握られたトリガー、放たれる弾丸は一種の芸術のように砲塔ルネに吸い込まれ、大爆発をあげた。
 そんな遊夜を癒す光の雨。ケアレイン。
 アイドルの疲れも、戦場の戦士たちも巴が全て癒していく。
 そして上空から戦場を見下ろす佐千子。その目にも明らかにルネが後退を始めていた。
「どうする阪須賀さん達」
 その言葉に槇は即座に言葉を返す。
「追撃だお。あれを隊長たちの方にやるわけにはいかないお」
 佐千子はヘパイトスに換装。追撃戦を仕掛ける。
 トリオにて足を刈り。アハトアハトにてルネ達を巻き込んで爆破した。 
 逃げ遅れたルネにはフリーガーでのダメ押し。
 ここで全ての幕を引く。そう回復に従事していたリンカーたちも慌てて出撃した。
 最終決戦が始まる。


   *   *


 空にはすでに、その蒼天の翼を遮るものはいない。
 飛翔は急転直下。隕石のように下を目指していた。
――砲撃を止めに行きましょう。
 ルビナスの指示を受け奇襲めいた斬撃で砲塔に切れ込みを加えるとその隙間にフリーガーファウストG3を叩きこんだ。
「接近してしまえば!」
――従魔戦艦の砲撃もあります。巻き込まれないようにご注意を。
 一機撃墜。その立ち上る爆炎を眺めながら神殿内の仲間へと思いをはせた。
「後は本命の矢の行方次第か」
――大丈夫。やってくれるはずです。
 その無茶な特攻のために傷ついた体を望月が癒す。
 彼女はルネを捌きつつばててきた味方を回復して回っていた。
「ルネの数を減らせばガデンツァ本体と当たりやすいよね」
 そう望月は歌いながら舞うように。
「えい」
 ルネを背後から突き刺した。
――ライブの客席にいる気分だよ。
「実際は広いだけでまさしく海上もステージだよ」
 そのインカム越しに味方の救援を求める声が飛び、望月はそちらへと急行する。
 しかしだ、望月の胸には一つ違和感があった。
 回復して回るリンカー達の中には、明らかに外部からの傷ではないもので苦しんでいる人物がいた。
「疲れ……が出たのかな?」
 そう欠片を握り胸の前で溶かすように使用。自分の傷を癒す。
 会場を滑るように移動して出会ったのは恭也だった。
 その背に手を当てて傷を癒す。
「突撃軍歌にしては、気分が高揚しないな」
「私の歌の事!」
 望月はショックを受けたように一歩引くが、そうではないと恭也は首を振る。
 ルネの歌だろう、だいぶ弱まっているがまだ戦場に響いていた。
――突撃される方が歌っているので、仕方が無いのでは?
「この歌の影響で戦闘力も落ちてる、もうそろそろ決めたいところだが」
 その恭也の言葉に望月は暗い顔を見せる。
「それは、ほんとうにそうなのかな?」
 恭也はその言葉に後ろ髪をひかれるように振り返るがすぐに加速。ルネの密集地帯へ向かう。
 ルネ達は今戦艦への攻撃に夢中。それ故に後ろから近づくのは簡単だった。
 潜伏によるシリアルキリング。
 先ずはルネ一体の首を跳ね飛ばし、そしてそのままルネの集団を切り抜ける。
「どうやら、全ての敵機に意識を繋げているのか……実質、一人が相手では攪乱は無理か?」
――攪乱までは無理でも、多方向の情報処理を突いて不意打ち位は可能かも知れませんよ。
 実際その通りで、ガデンツァは明らかに戦場の情報全てをコントロールできていなかった。これも二面作戦の成果だろう、あちらが頑張っている証拠でもある。
 次いで潜伏をさらに使用して反転。二度攻撃を仕掛ける恭也。
 繚乱を使用して敵連携を乱す、ルネの数は一桁までに減少していた。
 なぜならすでに戦艦から離れているルネは全て、人魚によって駆逐されたから。
「懐かしいですね、この感覚……兄さん。気分が悪くなったら言って下さいね」
 そうトリアイナを振る禮は水を得た魚だった。
 幻影蝶を水中から敵陣中央に放つと、その混乱に乗じてトリアイナ、いや黒鱗でルネを突き刺し霊力を奪い尽くす。
「人魚の英雄の真価を、ここに」
 すると海上にジャンプして別のルネに襲い掛かる。
 抵抗されるなら海にまた引きずり込む。
 大変に有効な戦術だが、人間相手に使ったのであればホラーだったろう。
 敵の体制が立て直され始めたなら竜宮法典での遠距離攻撃を放ちながらの離脱を選択。
 再び戦場に戻ってきたときには水面下からのブルームフレアでルネ達を巻き上げたのだ。
――ぐぅ……。
「兄さん、どうしたんですか? 歌の影響ですか?」
――いや、違う、なんだか体の中がかきまわされるような気がするんだ。うまく言えないけどね。
 その時、消えゆくルネが笑った気がした。ガデンツァのように。
 その首だけとなったルネに禮は問いかける。
――……本当は殺してほしいのですか?
 禮は思い出していた。あの霧の中。夢の町で。
 ガデンツァはルネ・クイーンを送り込んだ。しかし助けには来なかった。
 藍は代わりがある故と思っていたが、その様子もない。
 あればこのタイミングで使っているだろう。
 なぜならクイーンは統率に秀でていた個体だから。
 クイーンを守っていれば指揮を任すこともでき、防衛は盤石だった。
――”終末を奏でるもの”は、その心の深層では自らの終末を望んでいるのだろうか?
 そう藍は胸の内でそう思った。
「どうじゃろうな、あははははははは」
 そう高笑いして消えるルネ。
 いつの間にか戦場の音は遠く。今城を守るルネはクリスタルフォートレスと呼ばれるルネのみ。
 そのルネに泳いで近づくと禮は告げた。
 人魚の歌で、抗いがたき言葉で。
――さあ、滅びを歌いましょう。……”自害なさい”
「さて、どこまで広がるかな?」
 その歌はルネを伝播するかと思いきやガデンツァは瞬時にその個体のみ切り離したようだ。目の前でフォートレスが一体消えていく。
 同時に水上のルネも数を潰えさせようとしていた。
「こないにルネ作るし変質者丸出しなんやろが! 己にしとけや!」
 一二三の盾がホルンの攻撃を弾く。振るわれようとした鞭は無理やり腕を掴んでそらすと、キリルが告げる。
――変質者の集団か……恐怖増大だな」
「うぐはあっっ!!」
 何事かを想像して恐怖する一二三。
 その一二三が抑えているルネに機雷従魔が近付き爆破。
 その隙をついて恭也がルネの首を刎ね飛ばすと、戦場は静かになった。
 もう歌は聞こえていない。
 穏やかな波の音が唐突に戻ってくる。
 勝ったのだ。
 戦場に誰ともなく上げられたときの声がこだまする。 
 その感性の最中一二三は思った。
「ルネはん復活出来るとええどすな」
 その時である。
 その体が傾いだ。
 体勢を立て直す間もなく一二三は海に吸い込まれ、そして気を失った。

 エピローグ
「これで最後!!」
 そう葵が刃を大仰に振るうとルネが倒れた。
 その翼は健在で彼女の空へのこだわりが見て取れる。
 そんな葵の目の前で構築の魔女は海面に膝を下ろした。
「どうしたの?」
 問いかける葵。
 構築の魔女の手に握られていたのは、依然思いを形にする湖で作った結晶。
「彼女の霊力を観測できないかと思いまして」
 その結晶が突如光を放ちうねり始めた。黒々としたとぐろを巻いて文様が変わっていく。
 それを見て構築の魔女は告げる。
「まだ、準備は整いませんが……」

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
  • 小さな胸の絆
    鐘 梨李aa0298
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
  • 我ら、煉獄の炎として
    鬼子母 焔織aa2439
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 久遠ヶ原学園の英雄
    不破 雫aa0127hero002
    英雄|13才|女性|シャド
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 『星』を追う者
    月影 飛翔aa0224
    人間|20才|男性|攻撃
  • 『星』を追う者
    ルビナス フローリアaa0224hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 小さな胸の絆
    鐘 梨李aa0298
    人間|14才|女性|回避
  • エージェント
    コガネaa0298hero001
    英雄|21才|男性|ドレ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 疾風迅雷
    朱璃aa0941hero002
    英雄|11才|?|シャド
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 終極に挑む
    橘 由香里aa1855
    人間|18才|女性|攻撃
  • 狐は見守る、その行く先を
    飯綱比売命aa1855hero001
    英雄|27才|女性|バト
  • 我ら、煉獄の炎として
    鬼子母 焔織aa2439
    人間|18才|男性|命中
  • 流血の慈母
    青色鬼 蓮日aa2439hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 白い渚のローレライ
    aa2518hero001
    英雄|11才|女性|ソフィ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • 暁に染まる墓標へ、誓う
    無明 威月aa3532
    人間|18才|女性|防御
  • 暗黒に挑む"暁"
    青槻 火伏静aa3532hero001
    英雄|22才|女性|バト
  • 残照と安らぎの鎮魂歌
    楪 アルトaa4349
    機械|18才|女性|命中
  • 反抗する音色
    ‐FORTISSIMODE-aa4349hero001
    英雄|99才|?|カオ
  • エージェント
    内藤 葛aa4470
    機械|6才|女性|回避
  • エージェント
    カガミaa4470hero001
    英雄|18才|?|カオ
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 広い空へと羽ばたいて
    aa4783hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • 新米勇者
    葛城 巴aa4976
    人間|25才|女性|生命
  • 食いしん坊な新米僧侶
    レオンaa4976hero001
    英雄|15才|男性|バト
  • 悪性敵性者
    火蛾魅 塵aa5095
    人間|22才|男性|命中
  • 怨嗟連ねる失楽天使
    人造天使壱拾壱号aa5095hero001
    英雄|11才|?|ソフィ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • …すでに違えて復讐を歩む
    アトルラーゼ・ウェンジェンスaa5611
    人間|10才|男性|命中
  • 愛する人と描いた未来は…
    エリズバーク・ウェンジェンスaa5611hero001
    英雄|22才|女性|カオ
前に戻る
ページトップへ戻る