本部

【愚神共宴】連動シナリオ

【共宴】語る名は「金の亡者」

雪虫

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
5人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/04/09 18:51

掲示板

オープニング

●解放の狼煙
「急げ! 今の内に首都を落とすんだ!」
 ハワード大佐自らがリンカー特殊部隊を率いて反政府組織本隊へ出立した。連絡を受けたレジスタンスの別動隊が首都中枢へと殴り込む。
 いくらリンカーであろうとも首都を陥落させられればダメージは大きいはず……もっとも、非リンカーがリンカーに立ち向かうのは竹槍で戦車に歯向かうようなものだが、今はアルター社から支援を受け、新型AGWを手にしている。戦車にはなれずとも対戦車砲は装備出来ての戦……のはずだ。
 また、世論もこちらに味方している。反乱は始まってしまったのだ。この機に乗じるより手はないし、この機を逃せばもうチャンスは来ないだろう。女神は二度は微笑まない。首都を攻め落とすなら今しかない。
「怯むな! 走れ走れっ!」
 解放を掲げる戦士達は武器を諸手に雪崩れ込む。彼らが目指すのは大統領府。立ちはだかる兵は少なく、プティングにスプーンを入れるようにあまりに容易過ぎる進軍。だが彼らに疑念はない。ハワード大佐がいないから、強力な武器をアルター社が授けてくれたから……そのように理由はついている。
「大統領府に侵入したと本隊へ連絡しろ! この情報を流せば戦局はより我らに有利に……」
「皆様こんにちはであります。よくおいでになられたであります!」
 その時、二階に続く階段からあまりに場違いな声が響いた。レジスタンス達が顔を上げるとそこには人間が一人立っていた。
 人間、と称したのには理由がある。何故ならその人物は、一見しただけでは年齢も性別も予測する事が出来なかったからだ。適当に切ったと言わんばかりのざんばらな髪。肉感の薄い身体は、少年のようにも見えるし少女のようにも見える。だが子供と言い切るにはどこか濁ったものを感じる。突然現れた人影は……伸びた左側の前髪の奥で、青緑に瞳が光った……にいっと歯を剥き出しながら右手を敬礼の形に上げる。
「マニー・マミーと申します。長ければマニーと呼称頂きたいのであります! まずは一つ質問させて頂きますが、皆様はハワード大佐に歯向かうレジスタンスの皆様でよろしいのでありますか?」
 早口に投げられる言葉は慇懃なようでもあり、しかし同時にまともな教育を受けていない者のそれだった。レジスタンス達は警戒を解かず不審な人影へ銃口を向ける。
「そうだ! 貴様は特殊部隊の人間か! 悪い事は言わん、そこを退け。おとなしく退けば悪いようには……」
 銃声が口上を裂き、すぐに悲鳴が取って変わった。放たれた銃声はマニーの手にある機関銃。地に転がり、痛みに呻く仲間達から視線を戻し、小隊長は腕を振る。
「一斉射撃用意、放て!」
 四十余りのAGWが全く同時に火を噴いた。盛大な火花と爆炎がマニーの身を打ち叩き、十数人がマニーを取り押さえるべく雄叫びと共に駆け上がる。
 だが、閃光が走った。レジスタンス達は斬り刻まれながら吹き飛ばされ、中心には何事もなかったようにマニー一人が立っていた。マニーは左足を上げ、義足の仕込み刀を煌めかせながら、再び右手を敬礼の形に整える。
「ハワード大佐からそれなりのお賃金を頂きましたのでそれなりの働きをさせて頂くであります。主な任務は大統領府の護衛と申し受けておりますが、今回であれば皆殺しもサービスでつけられるのであります!」

●中立の希望
 救援要請の連絡を受け、エージェント達は現場へ急いだ。何かあるまで動いてはいけない。何かあってから動け。それが、今回の任務の最重要注意事項。
「任務はあくまで『レジスタンスの救出』だ。リンカーが非リンカーを攻撃している。故に救援に入る。『それだけだ』。『それまでは動いてはいけない』。攻め込むレジスタンスの援護はもちろん、同行さえもしてはならない。何故ならそれをした時点で過剰な政治介入と見做される危険が高くなる」
 現在リオ・ベルデは暴動の真っ最中だ。リンカーであるハワード大佐の政権に反旗を翻した非リンカー達のレジスタンス。リンカーが非リンカーに攻撃を加えたのであれば、その時はH.O.P.E.の領分になる。ヴィランズから人々を守る、通常任務と同じになる。
 だがリンカーが非リンカーに攻撃を加えていない限りは、これはただの内乱だ。H.O.P.E.は中立的組織。国家間の問題に介入する事は許されない。
 だから任務はあくまで『レジスタンスの救出』。非リンカーの救出。リンカーが非リンカーに攻撃を加えるまでは、動いてはならない。何もしてはならない。国家間の問題に介入する事は許されない。
「現場に着いたらレジスタンスを連れて脱出しろ。それ以上の事はするな。例えレジスタンス達に請われたとしても、首都陥落の手伝いまで肩入れしたりしてはならない。
 また、リオ・ベルデ軍のリンカーにも必要以上に攻撃するな。これもまた政治介入と見做される危険性がある。攻撃行動は最小限、レジスタンスを救出するのに必要と見做される範囲までだ」
 言いながらオペレーターは苦々しさを瞳に浮かべた。なんて歯痒い指示だろう。だが彼らが大義名分として掲げる“ハワード大佐の罪”が確証されていない現状、H.O.P.E.は『中立的立場』としての介入しかしてはならない。一歩間違えばリンカーは簡単に軍事兵器の代わりにもなる。国家間の均衡を崩す暴力装置になり得てしまう。そうならないために、世界にリンカーの存在を受け入れてもらうために、H.O.P.E.は中立的立場を崩す事は許されない。
「それから、レジスタンス達はアルター社から配布された新型AGWを所持しているが、出来るだけ使わせるな。情報提供者が愚神……善性愚神を名乗り出したヘイシズというのが気掛かりだが、どうも裏があるようだ。そうでなくても非リンカーに長時間所持させた場合の影響が考えられる」
 エージェント達はそれぞれに分かれた。ある班は東の路地へ。ある班は西の区画へ。そしてあなた達は大統領府へ。
 解放を叫ぶ声はまさに狂乱。

●場所
 大統領府
 首都サン・ニコラス中央部に建立している。レジスタンス達は建物の内部におり、エントランスホールで足止めされている

●注意事項
 積極的に敵兵を攻撃すると過剰な政治介入と見做される危険性が高い

解説

●任務
 レジスタンスの救出

●敵NPC
 マニー・マミー
 特殊部隊の一員と見られるリンカー。ハワード大佐に大統領府防衛を任されている模様。階段に立ち、内部に侵入しようとする者、銃を向けてくる者を優先的に撃っている。大統領府の外に出た人間を追ってくることはないが、内部にいる人間には容赦なく攻撃を加える
 左手の機関銃で遠距離攻撃、両義足の仕込み刀で近距離攻撃を行う。左目と両脚に機械化が見られているのでアイアンバンクと思われるが……

 リンカー兵×2
 全身を装甲で覆った兵士。片腕にコンバットナイフ、もう一方の片手にサブマシンガンを装備。戦闘開始3ターン目に上階から降ってきて、レジスタンス達を強襲する

●NPC
 レジスタンス×50
 全員アルター社から配布された新型AGWを所持。一見すると立派な銃だが、煙幕弾程度の効果しかなく、下手に撃たせると敵味方共に視界を奪われ、さらに敵の注意を引き付ける事にも繋がる。レジスタンス達は武器の威力を信じている
 PC達到着時は15人が銃弾により、10人が刀傷により重傷。残り25人が軽傷を負いつつマニーに銃を向けている。PC達にマニー撃破と首都陥落の手伝いを切願してくる
「H.O.P.E.は希望だろ? 助けてくれよ……ここまで来ておいて助けてくれないなんてねえだろう!」
「頼む、あいつを倒してくれるだけでいい。そうすれば俺達はこの国を取り戻せるんだ」
 
●その他
・プレイングの出し忘れにご注意下さい。
・英雄が二人いる場合は英雄の変更忘れ/装備・スキルの付け忘れにご注意下さい。
・装備されていないアイテム・スキルはリプレイに反映する事が出来ません。
・能力者と英雄の台詞は「」『』などで区別して頂けるとありがたいです。

リプレイ


 また一人が血を撒き散らして階段から転がり落ちた。立ち塞がるマニーを見上げ反抗者達は咆哮する。
「もう一度、放てっ!」
 舞い上がる火花と爆炎。効いているはずと信じ込みレジスタンスは突撃する。真っ先に飛び出す胴へ向け、マニーは再び引き金を引き――
「まぁ何と言うか、色々とお膳立てが出来過ぎじゃねぇか」
 銀色の突風が吹き、反抗者の身代わりに弾丸を受け止めた。赤城 龍哉(aa0090)の呟きにヴァルトラウテ(aa0090hero001)が声を続ける。
『大佐とやらが智慧者なのか、或いは優秀な参謀が付いているのかもしれませんわね』
「勝手にキャスティングされるとか迷惑な話だぜ」
 新参者の出現にレジスタンスは呆然としたが、「助けだ、助けが来たぞ!」と歓声を張り上げた。しかし龍哉とヴァルトラウテは即座にそれを否定する。
「悪いが助太刀じゃねぇんだ」
『私たちが来たのはあなた方の撤退支援のためですわ。怪我人を連れて今のうちに退いてくださいな』
 大統領府までに妨害が無く、ここにはマニー・マミーが配置されていた。
 奇襲が奇襲にならなかった時点でこの作戦は失敗だ。
「こいつを突破すればと言うが、奇襲がバレてた時点でこの後に何もないとどうして思う? 本当に国を取り戻したいのなら、尚更此処で仲間を無駄死にさせるな」
 背後へと言い切って龍哉はマニーに瞳を向けた。まずはレジスタンス連中を速やかにここから退かせる事だ。
「てな訳でな。これ以上の手出しは無用に願うぜ。ヴィランらしく一般人を襲おうって事なら相応に対処させて貰うが」
『その場合、あなたが貰った礼金では見合わない事になると思いますわ』

「(すっかり巻き込まれてる感じだけど)」
 十影夕(aa0890)はまずは止めるため、AGWを撃たせぬために敵とレジスタンスとの間に入った。
 目的はレジスタンスを無事に撤退させる事。
 進軍には協力しない。
 けど政府側の制圧にも協力しない。
 周囲に注意を払いつつ重傷者の傍に膝をつき、優先して励ましながらケアレイの光を当てる。
「助けに来たよ、大丈夫! 銃なんか置いて手伝ってよ! きみたちの仲間でしょ! きみたちの希望は借りてきたアルター社の銃? 手駒にできるH.O.P.E.のリンカー?
 違う、責めたいわけじゃないよ。ただ落ち着いて希望の在処を見つめ直してほしい。今は武器を収めて逃げて」
 動ける者へ必死に声を張り上げて、怪我人を後方へ下げるように指示を出す。仲間の救助を促すついでに集団自体を後退させる作戦だ。
「(上手くいけばいいけどな……)」

「(頑張んないと……だな)」
『(大丈夫……落ち着いて行きましょう)』
 響く藤堂 茂守(aa3404hero002)の声に呉 琳(aa3404)は頷いた。歩けぬ者に肩を貸し虎噛 千颯(aa0123)の元へ連れて行く。
「しっかり。チハヤが治してくれるからな」
 千颯も同じく重傷者を集めていたが、その表情はどこか険しさを帯びていた。白虎丸(aa0123hero001)はそんな千颯を内側から見つめていた。


「任務は大統領府の護衛。内部にいる侵入者は攻撃対象なのであります!」
 龍哉とヴァルトラウテの警告に、マニーはそう言い捨てて機関銃を打ち鳴らした。ナイチンゲール(aa4840)が走り込み、心眼で飛来する弾丸を薙ぎ払う。
「手出しするなら仕方ねえ、警告通りに相応に対処させて貰うぜ!」
 双方に睨みを効かせ場を収めるつもりだったが、そう上手くはいかないようだ。攻撃の意思ありと判断し、迎撃のためにも龍哉はブレイジングソウルを向ける。
「頼む、あいつを倒してくれるだけでいい。そうすれば俺達はこの国を取り戻せるんだ」
「ここはファンタジーじゃねぇ。そんな都合よくはいかねぇよ。アイツを斃すのも、大佐殿を斃すのも、俺らじゃねぇ、ここの国民であるお前さん達がやんなきゃ意味がねぇよ」
 手を伸ばす切願に水落 葵(aa1538)はそう返し、階上に立ち塞がるマニーへと瞳を向けた。「おいアンタ」と注意を引いた上でマニーへと声を投げる。
「鎮圧すんならAGW使ってないで通常武器使え。アンチ・グライヴァー・ウェポンは“対愚神兵器”であって“対人間兵器”じゃねぇんだ。こっちもいちいちかり出されるのも面倒だし、そっちも面倒だろうが。
 そっちも同じだ。せいぜいリンカー部隊に対峙した時程度にしておきな。普段から使おうとすっからあぁいう面倒くせぇのが出てくんだ。愚神から国取り返そうっていうなら別だがそうじゃねぇんだろ? 例の大佐殿から国家を皆の手に"取り戻した"後、国として建て直す為には、ここの国民のお前さん達の手が一つでも多く必要だろ?」
 葵の言葉にレジスタンスは狼狽したがマニーの表情は変わらなかった。マニーが口を開いたに合わせ、上階から武装したリンカー兵二体が躍り出る。
「貴方様の話を聞くのは任務に含まれていないであります!」


「よし、全員揃ったな」
 重傷者二十五名の集合を確認し、千颯は彼ら全員へケアレインを降り注がせた。今すぐ動けるまでには回復させられないが、一命を取り留める応急措置程度にはなる。
「そんじゃ外に運び出して……」
 千颯が言い掛けたその時、上階から飛び降りたリンカー兵が接近した。千颯は構えようとしたが、それより先に夕が聖槍「エヴァンジェリン」でナイフを食い止め、ナイチンゲールが反対側の兵の弾丸を打ち落とす。
 マニーは目の前のエージェントを突破しようと試みたが、葵がグリムリーパーをかざし進行を遮った。合わせて龍哉が捕縛、無力化を狙って釣り竿「黒潮」の糸を投げるが、動く相手を釣り竿で捕縛するのは絶望的至難。ワイヤーに袖を裂かれつつマニーは身を翻す。
 敵の目が味方に向いたと判断し、千颯はライヴスフィールドを展開。そして重傷者達……の中に隠した琳へと白虎丸と共に告げる。
「琳……絶対に無理はするなよ」
『琳殿ご武運をでござる』
「……!」
 千颯からの初めての呼び捨てに琳は目を見開いた。だがそれは一瞬で、前を見据え頷きで返す。
『(……行きますよ)』
 茂守の声と共に潜伏を展開し、脇目も振らず一目散に階段を駆け上がる。琳を少しでもフォローするべく龍哉は一気呵成を仕掛け、マニーが転倒した隙に琳が突破しようとする。
「……! 通さないであります!」
 反応に一拍あったが、転倒によるものか別の理由かは分からなかった。起き上がり追おうとするマニーを葵が鎌で押し留める。
「俺は水落葵だが、あんたの名前は?」
「マニー・マミーと申します」
「マニー、一つ聞きてえんだが、アンタは大佐殿とやらに損得勘定無しの忠誠心で仕えているタイプかい? それとも損得勘定込みかい?」
「何を言っているのか分からないであります」
 マニーは義足の刃を振るい、葵は傷を負いつつマニーから距離を取った。ウェルラス(aa1538hero001)は内からマニーを観察、感情類を読もうとしていた。わずかにしかめられた眉は本心のようにも見て取れる。
『(でも、何を言っているのか分からないのが本心って、どういうことだ?)』
 龍哉は戦況を確認した。新たな兵も気になるが、手を緩めればマニーが琳を追いかねない。自分は主にマニーの足止めに回った方がいいだろう。
 とは言え援護は出来ない、という訳ではない。ブレイジングソウルを使えば階下の敵も射程内。可及的速やかな沈黙を、との意志を以て明言する。
「人道支援中だ。余計な手出しは止めさせて貰うぜ!」

 千颯は夕と交代し飛盾「陰陽玉」を展開していた。防御にのみ徹する千颯に非難じみた声が上がる。
「何やってんだアンタ、早くそいつを倒してくれよ!」
「いや~俺ちゃんほら、盾だから攻撃は出来ないんだよね~」
 口調は飄々としているが時折瞳に険が浮かぶ。攻撃からは守っているが、レジスタンスに対しての興味が千颯には殆どなかった。
「(この程度の事態すら予測出来なかった時点でクーデターは失敗。その程度も理解出来ないってなら今後も無駄に血が流れるだけだ。それで悲しむのは一体誰だろうな?)」
『千颯? お前怒っているでござるか?』
「ん? どうだろうな?」
 白虎丸の問い掛けに、千颯は普段と余り変わらない様返事をしたが、怒っていないなら「どうだろうな」等とは言わないはずである。
『(これは怒っているでござるな)』
 白虎丸は確信を深めた。

 ナイチンゲールもまたカバーリングに撤していた。頭上からの伏兵に引き続き警戒しつつ、飛ぼうとする銃弾をジークレフで叩き落とす。
「それは絶望へ至る仮染の希望でしかない。この状況出来すぎだと思わない? あなた達が何を望んでどう動くか、誰かに全部読まれてお膳立てされてる。私達がここに駆けつけることも、たぶんこの後のこともね。わかんないかな。もしこの場でクーデターが成功したって、今のあなた達じゃ隙だらけですぐに足元掬われちゃうって言ってるの」
 共鳴により表に出た厳しさを、ナイチンゲールは隠す事なく背後のレジスタンスへと告げた。彼らからの返事はない。だがそのまま言葉を続ける。
「それにH.O.P.E.の仕事はリンカーによる非リンカーへの被害を最小限に抑える、つまりあなた達の命を助けること。革命の同志になることじゃない。
 だから……まずは生き延びなさい。ここは私達が食い止めるから。そして本当に国を取り戻したいのなら物事をよく見て、考えて、確かめて。今はそれだけ」
 ナイチンゲールは顔を上げ、マニーへも声を飛ばした。
「そんなわけで“政府のお仕事”の邪魔するつもりはないから。だってレジスタンスがいなくなったらもうやることないでしょ?
 おたくが追撃さえしなければ私達もみんなが逃げ切るまでただつっ立ってるだけで済むし。いいじゃない、ラクにお金が稼げてさ……駄目?」
 戦意がなければ何もしない、そう言ったつもりだが、マニーはナイチンゲールの言葉にムッと顔をしかめてみせた。
「それなりのお賃金を頂きました。それなりの働きをするのであります!」
『応じるつもりはないようだな』
 墓場鳥(aa4840hero001)の言葉にナイチンゲールの目元が歪んだ。マニーの言葉の真意全てははっきりとは分からないが、「応じるつもりはない」、それだけは確かだろう。ならば仕方ない、と愛剣を構え直し、ナイチンゲールは競り合うようにリンカー兵へ刃を押し込む。


 仲間達のフォローもあり、琳はそのまま大統領府二階へと潜入していた。バレた場合は一旦外に出て窓からの潜入も考えたが、あの状況ではそのまま進んだ方がいいだろうと判断した。
「ここからだよな……」
『えぇ……彼が何を守っているのか……調べがいがある』
 いつも微笑んでいる茂守の固く冷たいとも言える声に、「(茂守もなんか……いつもと違うな!?)」と琳はそれなりの衝撃を受けた。それだけ真剣なのだと受け取り、見習って一層まじめに、と自分を奮い立たせる。
 監視人か監視カメラの存在を危惧していたが、人の気配はまるでなく監視カメラもパッと見はない。とりあえず大丈夫そうだと判断し、身を潜めつつ罠師を使用。罠の類はないらしく、琳は警戒しながらも奥の方へと進んでいく。
「……工場で何を作っているか分らないのに……怖くないのかな? それがいつか自分に向けられる兵器だったら……って……」
 リオ・ベルデには工場が乱立していると聞いた。軍が警備に当たっており何の工場かは分からない。琳が得ようとしているのはハワードに関する情報、アルター社との取引・関係者情報、そして工場で作っている物の情報だった。
『(万が一そうだとしても、私のモノに手を出す結果となるなら……その時は必ず)』
 茂守は咄嗟に浮かんだ言葉を、しかし伝えはしなかった。一拍置き、琳に普段見せている「藤堂茂守」の言葉を告げる。
『居場所を奪われないだけ……家族を護れるなら幸せを選ぶのは当然かもしれません』
(いずれ死が待っていると分かっていても)
『……さ、今は手を動かしましょう』
「……うん」
 大統領府特務室、と書かれた部屋を発見し、琳は鍵師で扉を開錠。そして鍵を閉めようとした……が、部屋の異常さに気付きその光景に硬直する。
 何もないのだ。裏帳簿の類はもちろん、パソコンも、書類も、ファイルも、何も。あるのは机と椅子と本棚程度。近くの部屋も覗いてみたが、完全にもぬけの殻。人っ子一人の気配もない。
「……どういうことだ?」
『とりあえず、合図をして戻りましょう』
 茂守の言葉に、琳はライヴス通信機で千颯へと連絡を入れた。通信機から聞こえてきたのは獣のような咆哮だった。


 回復スキルを使い切り、夕は包帯等を使って止血作業を行っていた。
「大変なの骨が折れるってゆーけど、リアルに折れちゃいそう」
 交戦には協力出来ない。それでも守りたいから自分の身を盾にする。その覚悟はしかし、あまりに歯痒い覚悟だった。
「ただ助けたいってときに、こんなふうにしかできないこともあるんだね……」
 また一人の止血を終え、夕はマニーを振り返った。武器を振るう金の亡者へ言葉の牽制を投げ付ける。
「人を傷付けるリンカーはヴィランだよ? それとも、きみってリンカーでも愚神でもないの?」
「マニーは『商品』であります」
「……商品?」
「それなりのお賃金を頂きましたのでそれなりに働くのであります!」
 夕の問い掛けを断ち切るようにマニーは機関銃を向けようとした。葵が前に立ち塞がりつつ交渉を仕掛けようとする。
「お前さんにゃ攻撃せんからちっと黙ってみててくれ」
「マニーは無賃金では動かないのであります」
 金品が必要か、と葵は金塊を放り投げた。10gと小さいが5万Gで売れる塊。しかしマニーは一瞥だけで律儀に葵へ投げ返す。
「マニーはその程度では動かないのであります!」
 そしてまた銃を向けようとするが、肉薄した龍哉が一気呵成でマニーの重心を打ち崩し、そのまま武器を落とそうと二撃目を左腕へと放った。マニーは銃を握り締め、高威力の一撃を左腕に受けることになる。
 心眼を使い切ったナイチンゲールは直撃攻撃は避けつつも、リンカー兵の死角へ回り武器へとひたすら攻撃を仕掛ける。
 意図はあくまでレジスタンスが撤退する時間を稼ぐ事。琳の調査、マニーとの対話、その全ての為の時間稼ぎ。そのために戦闘を極力長引かせようとする。妨害も攻撃も、そのためだけの手段だった。
 だがそれはエージェント側の見方であり、“リオ・ベルデ兵の撃破を切願しているレジスタンス”の見方は違った。撤退支援だ、失敗だ、革命の同志にはならない、助太刀はしない……口ではそう言っているが眼前にある光景は違う。“エージェント達はリオ・ベルデ兵を攻撃してくれている”。“リオ・ベルデ兵はエージェント達の猛攻に押されている”。現に今にも手の武器を取り落としそうではないか。エージェント達の真意がどうなのかは関係ない。“この状況に乗じれば、大統領府を制圧出来る”――。
「エージェント達に続け! 今なら攻め落とせるぞ!」
 開け放たれた入口から軽傷者達が雪崩れ込んだ。重傷者を下がらせはした。だが彼らの一部は“そこにいた”。百聞は一見に如かず。言葉は目を塞げない。どんな言葉も眼前の光景には敵わない――
「ちっ、状況も理解出来ねぇのかよ! 夕ちゃん!」
 銃を構えるレジスタンスに千颯は夕の名を叫び、夕は無謀を止めるべくセーフティガスを彼らに放った。気絶した暴徒達の前進は止まったが、自力で逃げる事も叶わない。夕は即座にマニー達へと警告する。
「無抵抗の人に攻撃しようとするなら討伐対象だよ」
「武装侵入しておきながら無抵抗を騙るなど、虫がよすぎるのであります!」
 一切の容赦なしとマニーは狙撃銃を向けたが、その細い体を龍哉のストレートブロウが吹き飛ばした。本当は敵同士の衝突を狙いたい所だが、それには距離が遠すぎる。
「チハヤ、今から戻る」
「分かった。琳……気を付けるんだぜ!」
 琳に手早く言葉を返し千颯はレジスタンスを担ぎ上げた。夕もレジスタンスを背負って外に出、残り三人でマニーと敵兵の足止めに徹する。敵一人にエージェント一人が貼り付きなんとか追撃を防ぎきる。最後の一人を運び出し、千颯が声を張り上げる。
「みんな、撤退するんだぜ!」
 その言葉を合図に、残りの三人も背中を向け大統領府から走り去った。侵入者が完全に去るまでマニーは機関銃を撃っていたが、彼らが外に出たと同時に両の腕をだらりと下ろす。
「任務は大統領府の護衛。外部に出た逃亡者は攻撃対象外であります」


「ごめん……何も見つからなかった」
「いいや、よく頑張ったんだぜ」
 琳は肩を落としたが、千颯は柔らかい笑みを浮かべ琳の働きを労った。確かに何も見つからなかった。だがそれ自体が情報とも言えるだろう。大統領府を守っていたのはたったの三人。建物の中はもぬけの殻。まるで侵入された時に備えていたようではないか。
「なんでだ……なんで止めたりしたんだ!」
 泣きじゃくる声が聞こえ二人はそちらに視線を向けた。目を覚ました軽傷のレジスタンスがエージェントに非難をぶつける。
「行かせてくれれば良かった! そうしたら今度こそ上手くいったかもしれないのに!」
「それ、俺に向かって撃ってみろよ」
 共鳴を解除しないまま葵は一人へそう告げた。戸惑う男に新型AGWを握らせ、腹に銃口を押し当ててそのまま引き金を引き込ませた。火花と爆炎が上がったが、葵の腹には傷一つない。
「こんな威力じゃ、何度やっても無駄だろうよ」
「そ、それはあんたが丈夫なだけかもしれないじゃないか! あいつらは今弱っている。だから効くかもしれないじゃないか!」
「それ、誰に渡されたの? どんな威力があるって聞いた?」
「ケイゴさんだよ……リンカー相手でも十分に効果があるって……だってアルター社の警備部隊の……」
 千颯の問いにそう言葉が返ってきたが、「騙されたのではないか」、その言葉はレジスタンス達の頭を過ぎった。だが、一度芽生えた『希望』の芽は簡単に潰えはしない。
 それが仮染の希望でも。
「倒してくれなくてもいいんだ! せめて無力化してくれれば、武器を奪ってくれるだけでもいい!」
「確かヴィランって言ってたわよね! だったら討伐対象でしょう? さっきそう言ってたじゃない!」
「もう一度乗り込もう。そして俺達を殺させるんだ。無抵抗な一般人を殺したヴィランだ。そしたらH.O.P.E.が倒してくれる……」
「いい加減にしろ! 無駄に血を流して、誰かを悲しませて、そんな方法しか取れないで国が護れると思ってんのか!」
 隠していた怒りを千颯がとうとう爆発させた。レジスタンス達は呆けた後、涙をだらだら流し始めた。その手の武器を千颯が優しく取り上げていく。
「……赤の他人から渡されたものを、ホイホイ信じちゃ駄目なんだぜ?」
 武器の一つを幻想蝶に入れようとしたが、何故か弾かれ収納は叶わなかった。龍哉は黙したまま散らばった銃を拾い、自分の拳銃と見比べる。パッと見には至って普通の銃としか思えなかった。
 葵は腰に着けていたハンディカメラを隠した後、同じく無言のまま銃の回収を手伝った。撮影した動画の使用目的説明と同意確認を要望しようと思っていたが、今ここで録画を明かしたら何が起こるか分からない。立ち上がらせようにも慰めようにも、適した言葉があるのだろうか。
「やっぱアンタ達は『希望』だな」
 背後で誰かがそう言った。
「『次』や『明日』があるんだって無条件に信じてやがる」


「攻撃行動は『救出のためやむなく』と処理をする。だがあくまで『処理』だ。その事は肝に銘じてくれ」
 全員に述べた後、オペレーターは葵に手を差し出した。
「今回はコピーだけでなくマスターデータも出してもらう。H.O.P.E.を潰そうという輩は大勢いる。悪意ある者が手に入れれば……何が起こるかは分かるな?」
 葵は言われた通りにマスターデータも提出した。映像は文章化された後破棄されるという事だ。
 
 鎮圧に特殊部隊を用いたハワード政権の判断は「致し方なし」との結論が下された。AGWに対抗出来るのはAGWを持ったリンカーだけ、非リンカーとは言えAGWで武装した者を「一般人」と言えるのか……故にハワード大佐の非を問う事は難しかった。
 H.O.P.E.の立場についてハワード大佐は「理解」を示し、「私の不甲斐なさ故手を煩わせてしまった」と陳謝の声明を発表した。
 レジスタンス勢力には大赦が通告された。ほとんどの者はケイゴ・ラングフォードに扇動された……故に罪に問わない。RGWドライブの存在や大統領府の様相など疑惑は多々あれど、証拠不十分でそれ以上の追及は出来なかった。
 提出された新型AGWは解析され、本隊での戦況も併せ、従魔憑きRGWである事が判明した。
 新型AGWは回収され、中核メンバーはアメリカへ亡命、レジスタンスは『仮染の希望』も奪われ瓦解する事になる。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • エージェント
    十影夕aa0890
    機械|19才|男性|命中



  • 実験と禁忌と 
    水落 葵aa1538
    人間|27才|男性|命中
  • シャドウラン
    ウェルラスaa1538hero001
    英雄|12才|男性|ブレ
  • やるときはやる。
    呉 琳aa3404
    獣人|17才|男性|生命
  • 見守る視線
    藤堂 茂守aa3404hero002
    英雄|28才|男性|シャド
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
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