本部

其は共闘ではない

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2018/03/20 20:26

掲示板

オープニング

●追憶
 あるところに一人の少年エージェントがいた。
 平凡な少年だった。
 父と母、祖父と祖母。妹が二人と弟が二人。
 大切な人たちを守るために剣を取り、そして死んだ。
 大きな戦いの中での死だった。
 その死は数字としてカウントされ、一部の人間は哀しみ、その他大勢の記憶からは消し去られた。
 少年の名は、名執蓮といった。

●平和
 あるところに、平和な村があった。
「ヨシさんや、そろそろおにぎりにするかねぇ」
「えぇそうですねぇ、そうしましょうかねぇ」
 そこに住むのは初老を通り過ぎた老夫婦や、田舎暮らしに慣れ親しんだ老人ばかり。
 付近は山や森に覆われ、唯一町に繋がるバスも一日片手で数えられるほどしか走っていない。

 そんな村から20kmほど離れた場所に、また別の村があった。
「おぉ、そろそろ雨が降るんべか」
「したらもうじき切り上げっべなぁ」
 和やかなその村もまた老人が多く住む村で、車を持つ家庭は少なく、乗り合わせで町に向かうようなそんな村だった。

 そしてその両方の村を、遠くから少女が眺めていた。
「狙われるのは、どちらかの村なのです?」
 答えるように、スピーカー型の従魔がキィと鳴く。
 少女は少し考えてから、空を見上げた。
「レン……貴方が戦えと、生き残れと言ったから、私は戦うですよ」

●齎される
 緊急連絡としてエージェント達に招集が掛けられた。
 そして、オペレーターが通話を繋ぐ。
 相手は――。

『こんにちは。いめ、と言うですよ』
 舌足らずな幼い声が、笑う。
『今日、村を二つ、従魔が襲うですよ』
『片方はいめが抑えてあげるです。貴方達はもう片方の村を助けるといいですよ』
『大したことない相手ですが、全員でいかないと住民が危ないかもですよ?』

解説

●目的
・住民の救出
(・従魔の討伐)

●場所
・A村
 住民の数は20人程度
 襲い来る従魔の数は100体程度
 エージェント達が対応する予定の村
 B村と行き来するには1時間以上の時間が掛かる
 村の中には住民全員が入れる公民館があるが、耐久力は低い
 他にあるものは家屋、畑、牛小屋など

・B村
 いめが抑える方の村
 住民の数はA村と同等
 襲い来る従魔の数はA村と同等
 A村と行き来するには1時間以上の時間が掛かる
(A村の従魔を対処してからB村に向かっても戦闘は終わっている)

●登場
・推定デクリオ級愚神『いめ』
 白髪に赤眼、外見年齢は7歳ほど。真っ赤なドレスを着た少女の外見をしている
 『鳴魔』というスピーカー型の従魔を使役している
 B村にて『紙魚』の対処。A村に向かうことは無い

・ミーレス級従魔『紙魚』
 飛行性を持ち、全長1m程度。動きが素早いが、攻撃能力や知能は低め
 雑食で、人も牛も豚も木も何もかもを喰らいつくすという報告が上がっている

●状況
・エージェント達が村に到着し、約30分後に戦闘開始(従魔の大群到着)
・村の住民は従魔が来るとは知らない
・A村に向かわずB村に向かうことも可能だが、その場合A村の住民に被害が出る可能性あり
・B村はいめ一人で対処可能(住民被害無し)

リプレイ

●幕間:A
 A村に向かう車内。ブリーフィングの済んだ車内で、ぽつぽつと声が響く。
「あの女、一体何を企んでいるというのだ?」
 黛 香月(aa0790)。愚神に人生を捻じ曲げられた彼女にとって、愚神は絶対に滅ぼすべき仇敵だ。しかしそれが何故、H.O.P.E.に手助けするのか。不可解でたまらない。
 いめ自身謎に包まれている部分も多く、素性が分からない以上は気安く心を許すわけにはいかない。だが善性愚神との共闘が採られてしまった以上、迂闊に敵対行動を取るわけにもいかない。
 今はまだ、事を起こす時ではない。相棒の清姫(aa0790hero002)と共に、善性愚神の動向を注視するスタンスを取る。
「いめは村が襲撃されるって情報をどうやって得てるんだ? それも二ヶ所だ」
 隣に座るまほらま(aa2289hero001)に呟いたのはGーYA(aa2289)。これまで数度いめと関わってきたジーヤだが、いめへの疑問は尽きない。
『プリセンサーみたいな能力も持っているのかしらねぇ……いめが気になる?』
「誓約時の記憶みて《あなたも奪われているのか》と聞いてきたし《リンカーには、英雄には、絶対に理解出来ない》って感情を返して来たから」
 以前の任務で交わした会話を思い出しながら。
「理解は出来なくても知る事はできるだろうって思ってさ、もっと話してみようと思う」
 とはいえB村に人を割くのは厳しい。見て見ぬふりは出来ないが、いめがどうやって従魔に対応するつもりなのかも気がかりだ。B村に単身向かったクレアにいめの戦い方や村人との関わりを見て欲しいと言伝を頼んでいるが今はまず、こちらの村を守らなくては。
「自分で従魔に村を襲わせて、エージェントに知らせて、守らせるって、何がしたいんだろう??」
『人の心とは複雑なものですよ、お嬢様』
 プリンセス☆エデン(aa4913)の声に反応したのはEzra(aa4913hero001)。しかし答えが気に入らなかったのかエデンはむっと頬を膨らませる。
「人じゃなくて愚神だよー!」
『……左様でございますね』
 ごーいんぐ・まい・うぇいなエデンの言葉は続く。
「よくわっかんないなー。もっと単純に、言いたいこと言えばいいのにね」
 彼女の言葉に、執事役を務める英雄は微笑を零す。もしかしたら深く考えていないのかもしれないが、それはそれだ。
「ともかく、敵をやっつけて、村を守らないと!」
『かしこまりました』

「いめ? 愚神……よね」
 ぽつり。囁くようなフィアナ(aa4210)の声に反応を返すのは、彼女の英雄のドール(aa4210hero002)だ。
 愉し気に『らしいなぁ?』と言って、緊張感も無く笑う。
 一度敵として立ったならば味方と変わる事など有り得ない。例え如何な理由があったとしても、そこに立つならば同情も理解も捨てるべきである。常に誰かの希望と光たらんとする旗持ちとして、そこが境界線だ。
 しかしいめに関してはまだ、謎が多い。
「一体……いいえ、それは皆を守れてからね」
 先ずは、今から向かうA村の住民を守る事。終える前から気移りするなど愚の骨頂と気を引き締める。
「あの嬢ちゃんが何を考えてるか分からんが……俺達の仕事に専念するしかねえな」
 通信機での通話を終え、百目木 亮(aa1195)が呟く。事前に連絡先を交換した亮は、万が一村に被害が出た際の補填を上層部に掛け合い、確約を得ていた。勿論、補填など無いのが一番ではあるが。
『大した事はないと言っておったが、数は暴力となり得る。気が抜けぬ戦いとなりそうじゃ』
 顎髭を撫でて言うのはブラックウィンド 黎焔(aa1195hero001)。相手はミーレス級だが数が多く、守らなければならない防衛線がある。いくら歴戦のエージェントといえど、楽な任務では無いだろう。
「ああ、俺達にできることをしようや、爺さん」
 亮から離れた位置、カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)と言葉を交わす御童 紗希(aa0339)の姿がある。
「いめって愚神がB村を助けてくれるって言ってるって本当?」
『らしいな』
 言葉をそのまま信じるのなら。確証は無いし鵜呑みも出来ない。
「でも一部の愚神は善性愚神だっていってるよ?」
 御童の言う通り、善性愚神と名乗る愚神が現れ、共闘宣言を出している。しかも本部内でお茶会を開くという異常事態まで発生した。
『何を以って善性と言ってるのかが問題だ』
 人間にとっての善か。愚神にとっての善か。言葉は曖昧で、名前を変えただけでは信用に値しない。
『だが今はこっちの従魔の殲滅に集中だ』
 車が停まり、扉が開く。緑が広がる、独特の澄み渡った空気。ここを血で濡らすわけにはいかないとエージェント達は車を降りていく。

●到来前:B
『良いのか、サニタールカ』
「……大丈夫だ。H.O.P.E.のエージェントとしての、最後の仕事といこう」
 言って車から降りるクレア・マクミラン(aa1631)と彼女の英雄であるアルラヤ・ミーヤナークス(aa1631hero002)。
 たった一組で訪れたB村にあったのは見渡す限りの田畑。本当にこの村が従魔が襲われるのかと疑うほど、長閑な風景だった。
 ――ここを焼け野原にするわけにはいかない。
 クレアは貸与されたサイレン付きメガホンを握り締め、大声で叫ぶ。
 自分はH.O.P.E.のエージェントである事、公民館へ避難して欲しい事。繰り返し叫びながら、足の悪い老人を抱えては運び、また引き返す。命を守る為に。H.O.P.E.という組織の在り方を損なわない為に。クレアはただ全力を尽くす。
「ほれ、ほーぷだってよ爺さん」
「避難訓練だべか」
 杖をついている者もいれば耳の遠い者もいる。何が何だか分からない村民達はクレアの行動を見て、それぞれ助け合って公民館を目指す。
 そして二十分が過ぎた頃。公民館には現在この村にいる村民が集まっていた。しかし当然ながら誰もが首を傾げ、何が起こっているのかと訝しんでいる。
 その様子を見て、
「安心して下さい」
 いつもの通り、クレアは言う。
 常に冷静沈着を心掛けている彼女ではあるが、今回は更に意識して、告げる。
 村の付近に紙魚に似た従魔が現れることが分かった事。
 万が一があってはいけないと思い避難をお願いした事。
 従魔がやって来てもこの建物の中に居れば安全だという事。
 時間が無い中、再度。安心して下さいと言って。
「皆さんのことは、私が必ず守ります」

●到来前:A
 エージェント達はすぐに行動を開始した。
 御童やカイ、亮は村長を探し、従魔がこの村を襲いに来ると説明。村民を公民館に集めるよう促す。小さな村の為、放送出来る物は設置されてはいなかったが、すぐに意識を切り替え住民の避難誘導へ。
 必要なのは人数だ。住民がどこにいるか正確に把握できていない以上、村の端から端まで探さなければならない。
「よければこれ、使ってください」
 ジーヤは持参したソリ(歩行困難者用)を仲間に渡し、自身は公民館の防御を固くするために尽力する。公民館の周囲をサバイバルスプーンで掘り起こし、森から切り出した大木で囲む。公民館周辺で待機していた黎焔の協力もあったが、そこで時間は尽きてしまった。しかし、これで僅かでも持ちこたえてくれれば。
 一方。村の車を借りたカイと御堂や百目木とは別に、
「おばぁちゃん大丈夫だよ~ボクがねぇ~悪い奴らをけちょんけちょんにするんだぁ~」
 のんびりと言いながら老人を運ぶのは畳 木枯丸(aa5545)。英雄である菜葱(aa5545hero001)も一緒だ。
「菜葱さんもいるからねぇ~きっと大丈夫だよぉ~」
 発言はおっとり、名前を出された菜葱からも『坊、こんな時にもほんにまいぺぇすじゃのう……』と言われるほどだ。しかし言葉とは裏腹に行動は素早く、話をしながらも公民館への道を急いでいる。
 畳と同じく、フィアナも住民の移動に協力していた。大人数を移動させるなら勿論車が有効だが、村の中は田畑が多い。一般人であれば避けて通るような道も、エージェント達にとっては苦でも無い。
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
 自身を抱えるフィアナに老人は声を掛けた。エージェントと説明されたとはいえ、見目は深窓の令嬢のフィアナである。そんな不安を吹き飛ばすように、にっこりと笑って。
「大丈夫、大丈夫、よっ」
 軽々と抱え、あぜ道を走る。時間が無くても、絶対に傷つけないように。そうしながらも速く。最短の道を選び、公民館に届けた後はまた別の方へと走っていく。
 天城 初春(aa5268)や辰宮 稲荷姫(aa5268hero002)も避難を呼びかけ、フィアナと同じく老人を背負って公民館へと届ける。
 エデンもまた、老人達を公民館へと運んでいた。住民同士の付き合いが深そうだと見当たらない住民の居場所を聞き、遠ければ連絡を取り合う百目木に場所を伝えて向かってもらい、牛や動物のいる家の場所も聞いて……ふと、気付いた。
 もしも耳が不自由な人がいたら?
 この状況に気付かず、家の中あるいは外で畑仕事をしている人がいたら?
 疑問を村長に尋ねれば、そういえばと。
「ヨシさんとこの夫婦はまだ来てないな」
「あぁ、そういえば見ねぇなぁ。どっかで握り飯でも食ってんだべ」
 和やかな、気付かなくても仕方ないという会話。
 危機感の欠如。
 唐突に現れたエージェント。従魔という名称。彼らにとっては日々流れる従魔愚神関係の報道は対岸の火事なのか、焦る様子が無い。
 エデンは咄嗟に時計を見た。時間まで僅かだ。不在の住人が普段どこで畑仕事をしているかを聞き、通信機で場所を伝える。
 まだ間に合う。間に合わせる。

●幕間:B
 クレアが公民館から出てきた所に、声が掛かった。
「わざわざやってきたのです?」
 どこまでも愉し気な少女の愚神、いめ。
 共にこの依頼に臨むエージェント達からいめの行動確認や謝辞を頼まれてきたものの、クレア自身優先すべきは村民の安全だ。
 だからこそ戦闘中は不干渉とし、背を預ける気も銃口を向ける気も無かったわけだが。
「それが何か?」
 言葉を交わす時間が惜しいと切り上げるように言えば、いめはくすくす笑って「いいえ」と応えた。
「いめは上から山の方を見ているですよ。正面は任せたですよ、エージェントさん?」

●到来前:A2
 公民館には住民全員が集められていた。
 だがそれに安堵している時間も無い。
 黛は住民達にここを動かないようにと厳命し、外へ出る。百目木も車の鍵を住民へと返し、礼を告げて外へ。カイも御堂と共に鍵を返し、B村に知り合いがいないかを確認していた。
 住民の中にはB村に知り合いがいるという者も居たが、返ってきた言葉は一言。「電話番号が分からない」。普段ならば電話帳があり、電話を掛けることも出来たそうだが今から取りに行く時間も無い。B村に対して不安は残るものの、襲撃に備えるべく御堂も共鳴し、意識をカイに切り替える。戦っている最中の記憶は御堂には無く、何が起こったのかも分からなくなる。生々しい記憶は全て、カイが引き取っているから。自身を懸けてでも守るべき存在の為に。
 じわじわと緊張感が増す中、和ませるような香りが公民館を満たした。香りの元はフィアナが幻想蝶の中から取り出したラベンダーのポプリだ。刺繍の施されたそれを住民一人一人に手渡していく。
「あのね、ラベンダーね、紙魚嫌みたいなの。だから持ってたらね、きっと近寄ってこない、わ」
 相手を安心させる、ほわっとした微笑。従魔にどこまで効果があるか分からないとフィアナも理解しているが、住民へのリラックス効果があればいい。
 元より公民館を食わせるつもりも、住民を危険に晒すつもりもない。
 共鳴し、金から銀、銀から灰、灰から黒へと変わる髪を靡かせて。
「大丈夫よ、絶対守るわ」
 決意を秘め、外へ。
 エデンも共鳴を済ませ、きらきらと輝くエフェクトが周囲を舞う。そうして外へ出る手前、住民達へ振り返り。
「安心して! 従魔なんて、あたしがボッコボコにしちゃうから!」

●到来後:A
 共鳴しジャングルランナーを装備した天城も公民館の屋根の上へと到着し、弓を構えて準備を終える。
「さて、被害が出ぬように頑張るといたすでござる」
『お初、油断するな。数が多いようじゃからな』
 天城が辰宮の声に応える前に――それらはやってきた。
「わはぁ、紙魚があんなにいるねぇ~ホウ酸団子で倒せないかなぁ~」
 畳ののほほんとした声が指し示す従魔。紙魚を巨大化させたようなそれらは着実に公民館へと近づいてきている。
 それを見て、打って出たのはエデンだ。射程に入るまで手をこまねいていては、村が好き勝手食い荒らされてしまう。極獄宝典を開き、射程に入った従魔を一体ずつ倒していく。数は多いが纏まりが無い。まだ範囲攻撃を行なう時ではないと判断する。
 カイは長距離の射程を持つヘパイトスに換え、エデンが囲まれないように周囲の従魔を蹴散らしていく。取り回しはしにくい武器だが、道路側の従魔の注意は今エデンに向かっている。飛び掛かろうとした従魔は微調整で撃ち落とし、即座にカチューシャへと武器を換えてフィアナや黛に通信を送る。
『山側の敵を狙ってくれ。正面はこっちで引き付ける』
 早い段階で数を減らし、持久戦に持ち込ませないように。意図は正しく伝わり、黛はエクストラバラージで命中率を上げ、大量に押し寄せてきた従魔にストームエッジを叩き込む。取り逃した数体は、
「さぁ、掛かって来なさい?」
 公民館の一角に位置取りをしていたフィアナによって切り裂かれ、吹き飛んで地に落ちる。その様を見たからか、背の羽を広げて飛びかかろうとする複数の従魔に笑みさえ零して見せるフィアナ。
 もしも飛んで如何にかなると思っているのなら。
「甘いわよ」
 召喚されるのは刃。鞘から引き抜かれたウルスラグナと似た、勝利の剣。それらは過たず従魔を引き裂き、大地へ突き刺さった。フィアナは従魔の最期を見届けた後、次の敵へ再び剣を振るう。此処が手薄になっては意味が無いと、仲間達なら大丈夫だと信じて目の前の敵を見据える。
 敵の位置の確認をしながら、どの部分の攻撃が薄いかジーヤは思考を巡らす。視線の先では霙(aa3139)が、二又となった尻尾を揺らし舞うように従魔を倒している。建物の影や壁面に隠れ、射撃組が攻撃しにくい部分を攻撃しているのかもしれない。
 中空に浮かぶ従魔は射撃組の格好の的だ、それよりもその場にへばりつき、喰らおうとしている従魔を霙は薙ぎ払う。構えるのは無名の大刀。名の無い――名が付けられない武器をスカバードから抜刀し、更に1体。倒した従魔を数えればそろそろ8体になろうか、と周囲を確認した霙だが誰かがクレアから通信を受けた様子は無い。
 そろそろ、B村に移動すべきか。クレアが「つよい」ということは知人経由で知っているが、いめの能力も性質も分からない。万が一があってはいけない。ゆらりと尻尾を揺らし、ブリーフィング時にも発言はした、大丈夫だろうと墨色(aa3139hero001)からの声も受けて霙は戦線を突っ切る。その際に近付いてくる敵は払い落し――霙、一時戦線離脱。
 残るエージェント達の数は8、相手取る従魔の数は誰も把握しきれていない。今何体倒しているのか、あと何体なのか――襲い来る敵の数は本当に百体なのか。例えミーレス級といえど思考に捕らわれている余裕など無い。
 山側を見る黛は再びエクストラバラージを使用。味方を巻き込まぬよう注意しながらウェポンズレインで漆黒の雨を降らせる。
 同じく山側のフィアナも逃げた従魔の行先にレーギャルンの衝撃波をぶつけて誘導し、直線上に並んだ所でライヴスキャスターを放つ。弱った従魔は1体また1体と消えていく。
 道路側で(彼女の武器は本であるが)勇ましく斬り込んでいたエデンは背後からの援護射撃を受けつつ、サンダーランスを構える。正面にあるのは敵の姿だけ、家屋を巻き込まないよう注意を払い――放つ。直線上の敵を貫く雷の槍。ばらけた従魔をブルームフレアで焼き尽くせば、火炎を逃れた敵の影が見えた。
 それが作戦通りとも知らず。
「やっちゃって!」
 直後、カイのカチューシャによる爆風で従魔は消し飛ばされ、消滅した。

 屋内。
 未だ従魔の侵入は無い中、響き渡る轟音。音は遠いが、住民達は既に知っている。この戦闘は自分達の村の中で起きている事なのだと。
「…………」
 和やかな空気だったからこそ、不安は募っていく。本当に大丈夫なのか。自分達は、家に残してきた『家族』は、この村は、護られるのか。
 手元に残されたラベンダーのポプリを抱え込み、大丈夫きっと大丈夫だと心の中で繰り返す。
 希望を信じよう。
 きっと自分達を――この村を護ってくれると、信じよう。

●到来後:B
 ――遠くから、音が聞こえる。
 屋根の上で神経を研ぎ澄ませていたクレアの耳に届いた、微かな音。
 それらは木々の間を縫い、地を這い、こちらへと向かっている。
 逃げ場を無くそうとでも言うのか、村を囲むように迫り来る敵。
「さぁ来い、ミーレスなど全て灰に変えてやる」
『Ураааааааа!!!!!!!』
 全てを叩き潰すと共鳴しメルカバを展開すれば、内でアルラヤが雄叫びを上げる。
 まるでその声に呼び寄せられたかの如く、真っ白な塊――紙魚によく似た従魔の大群が地を埋め尽くしていく。
 だがそこは既に、射程内だ。
 アルラヤによる誤差の修正、ストライクを併用して放たれたメルカバの弾丸は従魔を正確に撃ち抜き、数を減らす。
 所詮はミーレス級、などと気を抜かない。
 目の前の敵を落とし、時折いめが見ていると言った山側も視認しながら、冷静にその時を見極める。
 そして――従魔が一定のラインを超えた、瞬間。
 クレアは即座にメルカバをパージし、慣れた手つきでヴァンピールに換装。視線は迫り来る従魔に当てたまま、手元も見ずに装備を整える。
 狙うのは各個撃破では無く複数体の撃破。点では無く面を意識し、一度の引鉄でより数多の敵を。思考を巡らせながら狙いを定め、一度、また一度。
 トリオも使用して撃ち込まれたロケット擲弾は着弾と同時に周囲の従魔も巻き込むが、蒸発して消えた従魔の穴を埋めるように別の従魔が公民館へと近づいてくる。それに焦る事も無く、公民館に最も近い従魔を見極め、引鉄を引く。
『サニタールカ』
(分かってる)
 射撃の精度が高いと言えど減らせる数には限りがある。その間に歩を進められては追いきれない。幸い山側からの敵影は未だ見えないが、正面を落とされては意味が無い。
 さぁ、どうするか。

●到来後:A2
 屋根の上から北側を護る天城は弓での戦闘を続けていた。同じく北を護る百目木のフリーガ―ファウストでの攻撃もあり、従魔は公民館へ近づけていない。この調子なら刀に持ち替える必要も無さそうだが、油断は出来ない。
 各々が冷静に事を成す中、南側を担当する畳はちょこまかと移動し、敵が固まっている所を見つけては攻撃を仕掛ける。同時にエクストラバラージを使用し、現れた大量の剣は斬り込んだ畳を護るかのように、彼の周囲に降り注ぐ。
 どれだけ多くの敵を斬れるか挑戦する。それを目的に掲げてやってきた畳は再度敵に斬り込んで今度はストームエッジを使用。嵐のように舞う剣を繰りながら、素早く敵を斬り落としていく。
 南側を護るジーヤも畳に群がる従魔をカチューシャの範囲攻撃で焼き払い、周囲に注意を向けた。射撃に長けたエージェントが多いのもあり、どの場所もまだ余裕がありそうだ。エージェントが一人欠けた状態であってもこの調子ならば。
 と、その時。ジーヤは今まさに飛び立とうとしている紙魚を見つけた。咄嗟にカチューシャをパージ、イグニスを構えるが、畳も従魔を補足していたようで――逃がすかと近づいた……ように見えた。ジーヤには。
『坊……アレを本当にやるのかや?』
 唯一、菜葱だけが知っている。畳が戦闘開始からずっと、紙魚の上に筋斗雲のように乗れないか狙っていることを。
「うん!」
 声を合図にして、畳は従魔の上に飛び乗った。しかし想定外だったのは耐久度、さらに言えば……耐荷重。
 乗れた直後、従魔は思い切り地に落ちていた。めり込んでいた。いかに従魔といえど400kgには耐えられなかった。
 そして、落下してバランスを崩した畳を今が好機と従魔が取り囲む。
「大丈夫ですか!?」
 届かない距離を移動して埋め、畳に群がる従魔をイグニスで燃やしていく。畳は多少怪我はしているものの、どうやら無事のようだ。退避を援護しつつ、ジーヤと共に公民館付近へと戻る。
 そうしている間にも紙魚は駆除されていき、連絡を取り合っていたカイはカチューシャで従魔を多数撃ち落としながら、まだ敵が多い方面のカバーへと向かう。

 敵が押し寄せてきているのは天城と百目木が担う北側だ。確実に敵を減らせているものの多数を薙ぎ払う攻撃方法が無く、従魔もそれを察したのか数で攻め込もうとしている。公民館から少し距離を取って戦っていた百目木もじりじりと後退し、ブレイジングランスに持ち替えて従魔を薙ぎ払う。
 飛んだ従魔は天城が、地を這う従魔は百目木が。打合せなくとも自然と出来上がっていた役割が、追いつかなくなっている。
(どうしたもんかね)
 数度従魔からの攻撃を受けた百目木だが、かすり傷程度で済んでいる状態だ。しかしこれはリンカーだからの話。一般人や普通の家屋では一たまりも無いだろう。ジーヤが大木で囲んでいたとしても、確実な防御では無い。
 あと数歩下がればそこに公民館がある。絶対に攻め込まれてはいけない場所だと再び槍を構え直す百目木。
 その頭上が、一瞬暗く――黒くなる。視界の端を掠めたのは黒い外套。弓から刀に持ち換えた天城が屋根から地面に飛び降りる。
 身に着けていたジャングルランナーを脱ぎ捨て通常の装備に換装し、近付いていた紙魚の動きを女郎蜘蛛でその場に縫い止め。
「百目木殿は公民館の防衛を!」
「ああ、分かった」
 公民館へ戻りながら陰陽玉に持ち換え、百目木は公民館のカバーへと入った。こちらに敵が集中しているということは他の方面が薄くなっている、あるいは既に敵がいない可能性も。
 ならば。
『もう少しだ!』
 通信機からカイの声が響く。
 ――戦闘開始から約一時間。
 地を這い宙を飛び、この場所を喰い荒らそうとしていた従魔の姿は、ようやく見えなくなっていた。

●到来後:B2
「これはまだ共闘ではない、手は出さずにおこうと思ったですけど」
 投げられた声は上から。攻撃は配下の従魔に任せて見物していたらしい、いめの声だった。
「いめが手を出すまででも無かったですよ」
 遠く、クレアの元へ舞い飛んでくる鳥の姿が見える。
 到着を知らせた鳥は、そのままクレアが視認できる場所に降り立ち、消える。
「間に合いましたね」
 まだクレアには届かない声を零し、全力で駆けてきた霙は周囲の従魔を縫止でその場に固定する。移動し、公民館へ近づきながらも再度縫止を。
 動きが止まった味方を不審に思った従魔達は進行方向を変え、霙へ群がっていくが――それを見逃すクレアでは無い。
 ヴァンピールによる範囲攻撃で数を減らし、逃げ出す従魔は霙が仕留め、慌てて羽を広げた従魔は吸血鬼の餌食となる。
 そうして爆音が鳴り止む頃。
 戦闘開始から約一時間。
 紙魚の姿は消え去り、村には静寂が齎された。

●終幕
 戦闘は終わった。村への被害はあったものの、住民への被害は無い。
 しかしクレアは武装を解かないまま、いめへ問いかける。
「愚神いめ、ここでお前に2つほど問わねばならない。なぜ、この村を救おうとしたのか」
 放っておけば従魔に呑まれ、村ごと消えていたかもしれない。それをわざわざ、何故だと問う。
「いめは、元より人と争うつもりなんて無いですよ?」
 エージェント達がこの任務に臨む前に取り決められた共闘願い。その通りだといめは答える。
「……私はもうロートルだ。頭で事態と本部の判断を理解しても、それを受け入れるための心がついてこない」
 愚神との共闘。愚神との共存。善性愚神を名乗る者の中に連なった名前を思う。
 黒丸に、一つ目。
「だから、これが私の最後の仕事だ」
 彼女が彼女で在る為に、H.O.P.E.エージェントという肩書きではいられない。
 この奇妙な戦いが、人々に希望は此処に在ると示す事が、彼女のエージェントとしての最後の仕事。
「そして、お前の答えが、同胞が紡ぐ未来の希望に続くことを願っている」
 クレアの言葉に、いめは僅かに目を細めた。まるで眩しいものを見るかのような表情の変化を今は思考の外へやり。
「愚神いめ、最後の問いだ。ヘイシズ同様、降伏の意思はあるか?」
「えぇ、貴方が連れて行ってくれるのなら」
 言って、クレアの前を歩くいめに霙から声が掛かる。クレアは降伏の意思を問うたが、いめも善性愚神を名乗るのかとの問い。
「名乗って信頼を得られるのなら、いめはいくらでも名を変えるですよ?」
 どちらとも受け取りがたい答えだが、答える気は無いのかもしれない。善性を名乗らない方がまだ信頼出来ると考えていた霙や墨色にとっては、どこかはぐらかされたような答えだった。

 戦闘が終わりエージェント達がB村へと移動する中、畳はA村に残って刀の手入れを行なっていた。
 彼にとって剣客ではないいめはどうでもいいらしく、手入れを終えた刀を仕舞い、畳は家へ戻っていく老人達の元へと向かう。
「ねぇねぇ~おじいちゃぁん、おばぁちゃん、ボク頑張ったんだよぉ~みんなよりたくさん斬ったんだぁ~」
 歩行を手伝いながら、褒めて褒めてと満面の笑顔。普段から菜葱に褒められている畳だが、それとはまた別なのだろう。
 老人も孫にするように、「頑張ったねぇ」と言って畳の頭を優しく撫でる。

 B村戦闘終了から三十分程。いめを乗せた車は他のエージェント達の到着を待っていた。
 戦闘終了後に分かった事――いめが敢えて伏せていた事が発覚したからだ。
 戦闘開始が同時刻では無く、B村の方が三十分程遅れて戦闘が始まっていた事。故に霙は戦闘に参加出来た事。ネタばらしをする子供のように、いめは言った。「まさか二組も来るなんて思わなかったですよ」と。
 色々と思う所はあるが、ならば他のエージェントと合流してからの帰還でもいいだろうと話をし、三十分経過した頃にようやくの合流となった。
 御堂やカイは村長に話を聞きに向かい、エデンは戦闘で荒れた場所の片付けを。天城はいめの元へ向かい、頭を下げた。
「いめ殿には誠に感謝を、どのような事情であれ、貴殿のおかげで二つの村が救われました。もし通報がなければ我々は事後報告として村の滅びを聞くこととなっていたでしょう」
 車に乗るいめの姿は住民から死角、天城が誰に頭を下げたのかは分からないだろう。
 しかしエージェントが愚神に対して感謝を述べるという事に、いめ自身驚きで目をぱちくりさせる。
 天城といめが会話をしている間、カイや御堂、ジーヤはクレアにいめの印象を聞いていた。しかしクレアとしてもいめと会話をしたのは数度、あの愚神が住民と会話している姿を見ていない。
 住民の印象も同じく、少女が居た事など気付かなかったらしい。全てクレアと霙のおかげだと、感謝の声も多かったそうだ。
 結局何がしたかったのか、何がしたいのか。片付けを終えたエデンがいめに問い掛けたものの、答えは微笑で終わる。話せる事は無いと、言外に告げるように。
 そして、そろそろ本部へ帰還するかという頃。
「何でってのは聞かれてるだろうから、別の質問いいかい?」
 いめとコンタクトが取れたら聞こうと思っていた事を。
「つっても個人的なもんだが……嬢ちゃんの生まれは愚神か? それとも英雄か?」
 問われたいめは百目木をじっと見返す。聞いたところで何かが変わるわけでもない。しかし聞かずにはいられなかった問いが答えられる前に。
「教えてくれないか? 君の事、愚神の事、邪英がどういうものなのか」
 言って、答えを促すジーヤ。
 理解は出来ないと言われた。それでも、知る事で変わる何かがあるかもしれない。
 善性愚神との共闘話が持ち上がっている今なら、尚更。
「話せる事は少ないのですよ」
 返される微笑。
「貴方達と同じ――私には守りたい誓いがある。それだけなのです」

 村に異変が無いかを探っていた黛はクレアといめを乗せた車が遠く走っていくのを見送る。
「一体奴らの目的が何か、本当に我々と共存する気があるのか、私にはわからん。だが愚神を滅ぼすという決意は帰るつもりは無い、私が死ぬか、奴らが滅ぶその日までな」
 補填があるとはいえ、村には戦闘の爪痕が生々しく残されている。
 従魔がここに来なければ無かったものだ。
『暫くは奴らの動きを気長に観察していくほかあるまい。今度ばかりは軽率な真似は出来んぞ。一時の感情で得体の知れぬ相手に突っ走る貴公ではなかろう?』
 今は、先を見据える時。

 クレアといめ、二人を乗せた車が本部に到着したのは日も落ちかけた頃だった。
 いめが本部のエージェントに引き渡される際、クレアは自身のエージェント登録証も共に差し出した。この登録証を使うことはもう無いだろうという意志。本部エージェントも意志を汲んだのか、お預かりしますと言って受け取った。
「またいつか、戦場でお会いできることを願って」
 貴方の功績を人々は忘れないとエージェントは言う。だからまた、転戦した先のどこかで道が交わった時に。
 誇り高く希望を示した衛生兵の行く末に、幸があらんことを。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • HOPE情報部所属
    百目木 亮aa1195
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913

重体一覧

参加者

  • 革めゆく少女
    御童 紗希aa0339
    人間|16才|女性|命中
  • アサルト
    カイ アルブレヒツベルガーaa0339hero001
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 絶望へ運ぶ一撃
    黛 香月aa0790
    機械|25才|女性|攻撃
  • 反抗する音色
    清姫aa0790hero002
    英雄|24才|女性|カオ
  • HOPE情報部所属
    百目木 亮aa1195
    機械|50才|男性|防御
  • 生命の護り手
    ブラックウィンド 黎焔aa1195hero001
    英雄|81才|男性|バト
  • 死を殺す者
    クレア・マクミランaa1631
    人間|28才|女性|生命
  • 我等は信念
    アルラヤ・ミーヤナークスaa1631hero002
    英雄|30才|?|ジャ
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • Foreseeing
    aa3139
    獣人|20才|女性|防御
  • Gate Keeper
    墨色aa3139hero001
    英雄|11才|?|シャド
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 裏切りを識る者
    ドールaa4210hero002
    英雄|18才|男性|カオ
  • Peachblossom
    プリンセス☆エデンaa4913
    人間|16才|女性|攻撃
  • Silver lace
    Ezraaa4913hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 天より降り立つ龍狐
    辰宮 稲荷姫aa5268hero002
    英雄|9才|女性|シャド
  • 闇を暴く
    畳 木枯丸aa5545
    獣人|6才|男性|攻撃
  • 狐の騙りを見届けて
    菜葱aa5545hero001
    英雄|13才|女性|カオ
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