本部

マシンガールに気を付けろ

影絵 企我

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/03/17 22:14

掲示板

オープニング

●ブリーフィング
 今日も今日とて、エージェント達が支部のブリーフィングルームに集められる。オペレーターはぺこりと頭を下げると、スクリーンに地図を映しながら説明を始めた。
「プリセンサーによってもたらされた情報によると、アルター社所有の研究所に対して、本日愚神と従魔の一団による襲撃が行われる模様です。アルター社によると、この研究所には先日霊石が運び込まれたらしく、襲撃の目的もまたその霊石を狙ったものではないかと考えられます」
 地図の一点が拡大されていく。街の外れに広がる研究所に向かって、赤い矢印がいくつか伸びていく。南と西を主に攻撃していた。
「研究所の間取りと、プリセンサーによる予知の内容を照合して予測された襲撃ポイントはこのようになっています。研究所内部は精密機械が多く存在するため、内部への侵入は絶対に阻止して欲しいとの事です」
 研究所をぐるりと囲うように青いラインが引かれていく。いわば最終防衛ラインだ。オペレーターはエージェント達を見渡すと、再びぺこりと頭を下げる。
「従魔や愚神についての情報は後ほど送ります。予知は絶対ではありませんので、予知されていない範囲についても警戒は怠らないようにしてください。よろしくお願いします」

●電光石火の闖入者
 アメリカ合衆国、サンフランシスコ州のとある町。小規模な工場が幾つも立ち並ぶ街並みの隅に、その研究所はあった。鋭角を嫌うかのような丸みを帯びた佇まい、チタン白が眩い外壁は、そこだけ近未来の都市から切り取って来たかのような異様な風体である。
「よく来ていただけました。研究員を代表して、歓迎させて頂きます」
 玄関先に立って、研究所長が君達を出迎える。その表情はにこやかだったが、エージェントであっても研究所内には入れさせないという頑なな意志もまた感じられた。君達はその態度に不信感を抱いたり、あるいは当然の事かとも思いつつ、めいめい彼に挨拶する。
「外でのやり取りになってしまい申し訳ありません。社外秘の情報も多くやり取りされるので、外部の人間を中にお招きするわけにはいかないのです」
 君達の不信はもっともだとばかり、所長は素早く言い訳する。その事について何か言いたいと思ったかもしれないが、予知で伝えられた襲撃の時間まで間がない。この場での話は一旦諦め、前以って話し合った持ち場へと動き始めた。

 全員が持ち場に付き終えた頃、愚神と従魔がのこのことやってきた。巨大な蟷螂にも似た姿の従魔を十数体引き連れて、甲殻類か昆虫かという外見の不気味な人型が数体やってきた。君達が武器を構えて彼らを出迎えると、彼らはいかにも驚いたように飛び跳ねる。
「リンカー……! 何故ここにいる」
 問答無用。誰かが遠隔攻撃を叩き込んだ。人型は眼をぎらつかせ、その腕の先から刃の様に鋭い何かを取り出す。背中の翅を震わせ、それは耳障りな声を上げる。
「喩え何者であったとしても、我等を邪魔する事は許さん」
 いよいよ戦いの幕開けだ。突っ込んでくる蟷螂達を、君達は武器を構えて出迎えようとする。
『ハローフレンズ!』
 しかしその時、空から何かが降って来た。一体の蟷螂が顔を上げた瞬間、その全身が地面に叩きつけられた。突然の出来事に皆が固まっているうちに、降って来たそれ――黒いインナーの上から白を基調にした戦闘服を纏った少女はガッツポーズを取る。
『援軍に来ました! 私も頑張るからヨロシクね!』
「あの……やめ――」
 弱り果てた声が聴こえるが、少女はバタバタ動いてその声を遮る。
『うーるーさーいー! 今は私の出番でしょ!』
「お前は一体何なんだ……!」
 完全に出端を挫かれた愚神が、両手に持った武器を擦り合わせながら唸る。顔の半分を覆い隠すバイザーの奥でうっすら目を光らせると、いきなり少女は気を付けをしてしずしずと愚神へ頭を下げる。
『私のコードネームはテラス。正式名称は人類の記憶及び人格に関する情報データベース管理システムのメインプロセッサ。マスターの命により、リライヴァーとして当世界の救援に馳せ参じました。以後お見知り置きを』
 礼儀正しいふるまいを見せたのも束の間、彼女は君達の方へと軽やかにバク転すると、再び戦闘態勢を取る。
『って事で、みーんな私のカラテでぶちのめしちゃうから、覚悟しなさい!』

解説

メイン 愚神と従魔を研究所へ侵入させない
サブ 敵を一体も逃さず撃破する

BOSS
デクリオ級愚神マンティスマン×4
 甲殻類にも昆虫にも見える人型の愚神。その正体はカマキリ人間。その手から生やした刃で攻撃してくる。
ステータス
 回避B、その他はC~D程度
スキル
 鋸刃攻撃
 鋸にも似た刃で攻撃。癒えにくい切り傷を与える。[命中時、BS減退(1)を付与]
 拘束攻撃
 両手を伸ばして素早く拘束。そのまま噛みついて攻撃する[命中時、BS拘束を付与+5の固定ダメージ]

ENEMY
ミーレス級従魔ビッグマンティス×20
 デカいカマキリ。メスは交尾後オスを食べるらしい。
ステータス
 物攻・魔防B、その他はC以下
スキル
 拘束攻撃
 (マンティスマンのスキルに準じる)
 飛行
 羽根を広げてジャンプ。[4sqの高さまで飛び上がる。翌ラウンドに着地する。]

MAP
□□■■■■■
→☆■■■■■
→☆■■■■■
□□□☆☆□□
□□□↑↑□□
(一マス5×5)
・矢印…マンティスマン×1、ビッグマンティス×4
・☆…PCを配置可能なエリア
・■…敵を侵入させてはいけない領域(外側には塀アリ)

NPC
謎のリンカー
君達が戦わんとした時に突然やって来たリンカー。ころころと性格が変わる様子。その正体は知っている人は知っている。
(以下PL情報)
ステータス
 回避カオブレ(64/10)
スキル
 ストームエッジのみ

TIPS(PL情報)
・MAPにはマンティスマン4体、ビッグマンティスが16体しかいない。残りは北方向から攻めてくるので注意。
・リンカーはお助けキャラ。必要があれば頼ってください。指示がない時は適当にデカカマキリを叩いてます。
・カマキリは一応飛べるので注意。

リプレイ

●任務に集中
 突如として現れた少女のリンカー。緊張感が欠片も見えないその振る舞いに、真ん前で彼女の様子を見ていた御神 恭也(aa0127)は呆れ切った表情を覗かせる。
「……気勢が削がれたな」
『最近、暖かくなって来ましたからね』
 不破 雫(aa0127hero002)も淡々と評価を下す。難しい任務ではないが、仕事は仕事だ。舞い上がった少女に構っている場合ではない。恭也は右手の先にライヴスで作り上げた鷹を呼び出すと、空高くへと舞い上げた。
 巨大蟷螂が威嚇するように鎌を振り上げると、南部を守るエージェント達に向かってがさがさと押し寄せる。槍を構え、逢見仙也(aa4472)は薄ら笑いを浮かべる。
「何やってるんだかあの愚神。アレは触れてはいけないものだろ、うん」
『そうだ、痛々しいとか考える以前に、認識してはならん』
 武器も構えず、徒手空拳で蟷螂へと殴りかかっていくバカ。それを視界から外しつつ、ディオハルク(aa4472hero001)も相槌を打った。
「『可哀想な類のものだからな』」
 仙也は高く跳び上がると、蟷螂の群れの中へと飛び込み剣戟の雨を降らせた。
「あ、スゴーイ! 私もやるー!」
 それを見ていたアホの子は、ぴょんと飛び退きカマキリの群れへ細かい刃の吹雪を浴びせた。煩いくらい華やかに振る舞う彼女を遠目に、アトルラーゼ・ウェンジェンス(aa5611)は母に訴える。
「……! 母様、あれはこの間の日曜朝の……」
『あれは違うわよアトル。……ひとまず、挨拶くらいはしておきましょうか』
 エリズバーク・ウェンジェンス(aa5611hero001)は傍までやってきた少女に向き直ると、静々と頭を下げる。
『テラス様初めまして、私はエリズバーク・ウェンジェンス、こちらが息子のアトルラーゼです。長いので、お気軽にエリーとアトルとでもお呼びくださいませ』
「よろしくお願いします。テラス様」
 エリーは柔らかに微笑む。アトルはそんな彼女を真似してぺこりと頭を下げた。テラスはスズメのようにぴょんぴょこ跳ねると、二人の顔をチラチラと覗き込んだ。
「ウンウン。よろしくー」
『カラテが得意という事は前衛なのですね。私この通り魔女ですので、打たれ弱くて。頼りにしておりますね』
 そんなやり取りを遠巻きに見つめていた海神 藍(aa2518)。相方のサーフィ アズリエル(aa2518hero002)は、藍にぼそりと囁く。
『妙なこと、ありましたね。にいさま』
「む……」
 予知にこんな出来事が起きるという話は無かった。よしんば予知が外れても、大した事が起きるとは思っていなかった。眉間に皺を寄せた藍は、白い大剣の切っ先をテラスへ向ける。
「……貴様、所属は?」
『え? H.O.P.E.だけど? ま、登録したのは昨日だけどね!』
 きゃぴきゃぴと声を弾ませる。藍はそれでも訝しんでいたが、サフィはすでに笑いを噛み殺していた。
『にいさま? 私見ですが、こんな面白い……、善良そうな方が敵とは思えないのですが』
「……テラス、といったか。その心に正義はあるか?」
 藍がそう尋ねた瞬間、少女は再び背筋を伸ばし、落ち着き払った口調で応えた。
『ありますよ。この世界の希望を記録するために、私はここにいるのですから』
 その言葉に嘘偽りは感じられない。藍は気を取り直すと、刃を蟷螂の群れへと向けた。
『腕が鳴りますね。“斑雪の冬薔薇”のお披露目には相応しいでしょう』
 ライヴスを込めると、白い刀身に刻まれた薔薇の彫刻がうっすら光を放つ。藍は大剣を脇に構えると、背後に立つエリーの方をちらりと見る。
「突貫する。援護は任せたよ」
 言うなり、藍は身を低くして駆け出した。蟷螂の群れの懐へ潜り込むと、大剣を握り直す。
「まずは出端を挫かせてもらおうか!」
 全身を大きく使い、遠心力を使いながら刃を次々敵へと叩きつけていく。一匹の蟷螂は鎌を振り上げ迎え撃とうとするが、いとも容易く叩き折られてしまった。藍が大剣の腹を向けるように構え、サフィが蟷螂達へと啖呵を切る。
『茨の棘、其れは蕾を護るもの。さあ、掛かっておいでなさい』
 押し寄せる蟷螂達。藍は刃を振るって器用に攻撃を受け流しながら、返しで一撃を叩き込んでいく。その様子を背後で見つめ、エリーはアトルにそっと声を掛ける。
『今回がアトルとの初戦闘ね。しっかり戦場を見ておきなさい』
「はい、母様」
 魔導銃を抜き放つと、藍の背後を狙った蟷螂の翅を素早く撃つ。半透明の翅が灼け、蟷螂はその場であたふたと暴れ始めた。その姿を見つめ、また戦場に展開するエージェント達を見渡し、エリーは青い瞳を狂気に塗り潰す。
『十年ぶりの戦場は心躍るわ……』

 効果時間が切れ、鷹が消え去る。敵の位置と状況を割り出し終えた恭也は、通信機で仲間達に知らせていく。
「援軍が来ないなら、目の前の連中を倒せば終わりだが……」
 愚神従魔合わせて、南に十、西に十。それ以外には今のところ見当たらなかった。しかし、長く戦いを積み重ねてきた二人の勘は警戒を求めてくる。
『流石に見通しが甘いと思いますよ?』
「……だろうな」
 こういう時には、必ず隙を突いた増援がやってくるものだ。戦いの始まる前から予測のうちに入っていた。翅を広げ、一匹の蟷螂が跳び上がる。恭也は素早く銃を構えると、蟷螂の薄い羽根を撃ち抜いて地面へと墜落させた。仙也は素早くその方面へ鎌槍を向けると、追い打ちとばかりに刃の嵐を叩き込む。
「どっちかって言うと、この会社の社外秘の方が気になるけどな。ピンポで狙われるとか普通ないだろ。ライヴス関連で何かしてんじゃね?」
『空手とかよく分からん事言ってる奴ばかり記憶に残って、有耶無耶にならんといいがな』
 目を背けてもイヤーとかトーとか馬鹿げたカラテシャウトは聞こえてくる。仙也は肩を竦めると、傍に迫っていた蟷螂男の鳩尾に石突を叩きつけた。
「終わったら、どっちにもちゃんと対応しておかないとなー」

●気を引き締めて
「ふふっ、久々のお仕事……お姉さん滾ってきちゃいそうだわぁ♪ ……でも、この防衛線は、ちょっとお姉さん不向きかしらね……」
 羽跡久院 小恋路(aa4907)は、腰をくねらせしゃなりしゃなりと戦場を歩く。どこに居ても振る舞いの変わらない主に、白兎子爵(aa4907hero001)は溜め息をついた。
『……向き不向きだけで仕事を選ばないでください。そうでないとあなたはいつも疚しいことばかり……』
 少年少女へ向ける慈愛は確かだが、そこに媚態まで添えるものだから色々と危ない。今も悩ましく髪を払い、戦場を流し目で見渡している。
「はいはい、いーじゃないの。せっかくの仕事選び……楽しいもの選んだ者勝ちじゃない♪」
 そう言うと、小恋路はワールドクリエーターを西寄りの戦場に突き立てた。うっすらと桃色の光を帯びたライヴスが、地へ空へと広がっていく。それから小恋路はモスケールを背負い込む。画面に映る敵影を確認し、小恋路は通信機にデータを送る。
「……これでお姉さんのお仕事の七割がおしまいね。あとは……みんなが頑張るのを、見守りましょうか♪ なんてね♪」
 アクリルグラスに葡萄ジュースを注いで飲み干す。ねっとりとした笑みを、彼女は戦うリンカー達に送っていた。

「これでもくらえっ!」
 テラスの騒がしい掛け声は西側にも聞こえる。戦いを始めた水瀬 雨月(aa0801)は、白い魔導書をぱらぱらとめくりながら首を傾げた。
「(データベース……なんか最近聞いたような。気のせいかしら)」
『(気のせいにしろ何にしろ……耳障りで眠れないな)』
 アムブロシア(aa0801hero001)は不満げだ。敵は片手間で捻れるようなものばかり、普段なら全てを雨月に任せて眠っている所だった。雨月は周囲に白く燃え盛る火の玉を浮かべ、
「あんな気軽に飛び込むなんて私には出来ないわ。結構手慣れてるのかもしれないわね」
 言いながら、雨月は腕を振るって火の玉を飛ばす。三体並んで跳びあがろうとした蟷螂の群れにぶち当たり、蟷螂は揃って地面に墜落した。
 月鏡 由利菜(aa0873)は聖剣を抜き放ち、静かに一歩踏み出す。トップエージェントの纏う覇気に、二体の蟷螂男は思わず身構えた。
「防戦一方では押されます。研究所へ近づかれる前に、こちらから踏み込みましょう」
『攻めの姿勢だな。……今回は実戦経験が少ない者も参加している。手本を見せなければな』
「“攻撃は最大の防御”……適性を活かした戦い方は、リンカーの基本ですからね……!」
 リーヴスラシル(aa0873hero001)の言葉に、由利菜は頷く。剣の柄を短く持つと、鎧にライヴスの輝きを纏わせ飛び出した。
『聖なる誓いの証、今ここに! ホーリー・スウェア!』
「来るか……」
 二人の放つ輝きに引き寄せられ、二体の怪人と三体の蟷螂が押し寄せる。二人の狙い通りだ。剣にも光を宿らせると、由利菜は鎌を振り上げた愚神従魔を鋭く見据える。
「熾天の羽は剣に宿り、仇為す者達を切り裂かん!」
 由利菜が唱えた瞬間、光は紅色へと変わり、天使の羽のように広がる。鋸刃の鎌が彼女へ届く前に、由利菜は敵を素早く薙ぎ払った。
「羽よ散れ! セラフィック・ディバイダー!」
 凛とした叫びと共に、光が散る。鎌を斬り落とされた蟷螂達は、ひっくり返ってもがき苦しむ。傷口から濁ったライヴスを溢れさせ、顎をがくがくさせている。胸元に傷を作った怪人達も、呻きながら後退りする。
「……おのれ」
 怪人は由利菜から間合いを取りつつ、遠くで構える雨月達の様子を窺う。すました顔で彼女は氷で作った短剣を飛ばした。咄嗟に怪人が頭を庇うと、隙の出来た胴体に一発の銃弾が突き刺さる。どす黒い液体が噴き出し、それを見たルカ ロッシ(aa5159hero001)は鳥肌を立てた。
『あー、気持ち悪い!』
「昆虫は小さいほうがいいよねえ」
 モーリス チェスターフィールド(aa5159)は呑気に応える。その間に、蟷螂は翅を広げ、羽音を唸らせ飛び上がった。ルカは蒼褪めた顔をすると、素早く拳銃を構えて蟷螂の羽を狙う。
『うわっ、飛ぶのは無しだって!』
「飛ばれると小さいのでも嫌だよね」
 またしてもモーリスは適当な事を言い始める。ルカは苛立ち、眉間に皺を寄せた。
『じーさんうるせえ! 暇なら自分でやれよ!』
「ルカくんは戦い慣れしてないんだから、ちゃんと経験積みなさい!」
 モーリスはぴしゃりとルカを諫める。堂々として、まるでそれが当然かのような物言い。ルカは思わず言葉に詰まる。理不尽な気分はしっかりと残っていたが。
『あれー……これ俺が怒られんの?』
 口を尖らせつつも、押し寄せる蟷螂三体に向かってルカは引き金を引く。マグナム弾が、激しいマズルフラッシュと共に突き刺さる。しかし、蟷螂は構わずルカへと突っ込んだ。思わずルカは両手で身を庇おうとするが、突如現れた棺型の盾が蟷螂の刃を受け止めた。ルカは目を丸くし、背後を振り返った。
『悪い! 助かっ――』
「ふふっ♪ 可愛い可愛い味方はお姉さんがみぃーんな……守ってあげたいわぁ♪ あぁん、もっと出来ないものかしら……」
 小恋路はすっかりハイになっていた。顔に手を当てうっとりしている。
『……無茶を言わないでください。というより……』
 白兎は言葉を詰まらせる。小恋路が見れば、年下の青年ルカが言葉を失い硬直していた。小恋路はウィンクを送る。ルカは飛び上がると、慌てて戦場へと向き直った。

●お見通し
「あらあら、いらっしゃい♪ お姉さんで良ければいくらでも相手になってア・ゲ・ル♪」
 盾を構え、小恋路はのこのこ近寄ってきた蟷螂の鎌を弾き返す。盾から滲み出したライヴスが、鎌に染み込みひび割れさせていく。その間にも、モスケールで周囲の警戒は怠らない。
「みんな、北に新手が来ているみたいよ?」
 工場の北に不自然な影を見つけ、小恋路は報告する。報告しつつ、彼女は悠々と銃を構えて目の前の敵を迎え撃つ。
『……女王陛下は向かわれないのですね』
「今からお姉さんが急いでもきっと間に合わないしぃ……とりあえず、お姉さんはこの辺りの敵のお片付けね♪」

「……だったら、私が行こうかしら」
 雨月は氷を研いで刃を作り、目の前へ迫った蟷螂を一刀の下に切り伏せる。砕けた氷の欠片が、雪華のように舞い散った。そのまま雨月は箒を作り出すと、すいと飛び出し工場の上空を横切っていく。確かに、蟷螂が四体、かさかさと工場の塀へ迫っていた。
「見逃すわけにはいかないわね」
 白い魔導書を開き、氷の翼を広げる。蟷螂の足元が揺らぎ、巨大な氷の華が飛び出した。鋭く突っ込んだ鳥型の結晶体は、その華を粉砕する。舞い散った氷の花弁が、虫を悉く斬りつけた。

「クレッセント・モーメント!」
 由利菜は居合のように剣を抜き放ち、衝撃波を飛ばす。怪人は心臓を貫かれ、血を吐きながらその場に斃れた。中段に構え、彼女は飛び去る雨月を見上げた。
『ここの敵は早めに片付けておきたかったが……』
「水瀬さんだけに任せてしまうのも申し訳ないですね」
 二人は戦場を見つめる。敵の数は片手で数え切れるが、西側を向いているメンバーは手練れとするにはまだ経験が足りない。北に向かう踏ん切りがつかなかった。
 その様子をに見つめていたエリーは、杖を振りかざして西の敵へ光線を撃ち込む。その素早いカバーは、今日が初めての戦いとは見えない。
『私もカバーに入りましょう。北の敵は任せましたよ』
「……わかりました。今回はメディックがいません、皆様、くれぐれも注意を!」
 由利菜は頷くと、剣を弓へ持ち替え、一直線に北を目指した。その背中を見送り、エリーは陰鬱な笑みを浮かべる。
『この程度の戦局……慣れっこなのよ』
 ふとエリーは魔導銃を頭上へと向ける。放たれたライヴスの塊は、飛び上がる蟷螂の頭を穿って地面へと叩き落とした。縮こまってもがく蟷螂を足蹴にし、彼女は首を傾げる。
『あら? 空は魔女の領域ですよ。虫けら如きが図々しいのではないですか?』
「……母様と僕の邪魔をするなら、全て駆除します」

「月鏡と、水瀬か……実力的には十分過ぎるくらいだな」
『私達はこの場に留まり、一気に仕留めてしまいましょう』
 恭也は目の前の群れにライヴスで編んだ網を投げつけた。恭也の傍を抜けようとしていた蟷螂は、纏めて地面に倒れ込む。それを乗り越えようとしていた怪人には、縫止の針を投げつける。針は怪人の首筋に突き刺さり、怪人の身体は石像のように固くなる。
 それを見た仙也は、すかさず槍を振り下ろす。宙に大量の刃が浮き上がり、連なる氷柱のように輝きを放ちながら怪人達に降り注いだ。全身隈なく貫かれた彼らは、次々に消滅していく。
「まあ、デクリオ級にミーレス級じゃ大したことないよなー」
『肩慣らしにもなりはしないな』

『イヤーッ!』
 テラスは楽しそうに全身を振り回し、蟷螂の頭を蹴り飛ばす。隣で見ていたサフィは、興味津々に呟く。
『あれがカラテ! ……でも、この間テレビで見たものと違いますね』
「……サフィ、この間見たのはカポエイラだ。オレンジ色の方の機体が言っていただろう?」
 テラスが指を鳴らすと、刃が次々に浮かび上がる。藍は身を翻すと、ジャングルランナーで咄嗟に後ろに飛び退いた。
『止めはヨロシク!』
 テラスの放った刃の嵐が、怪人達に襲い掛かる。藍は大剣を霞に構えると、再びジャングルランナーを起動した。放たれた光に引き寄せられるように、よろめく怪人の懐へ飛び込む。
「はぁッ!」
 大剣の切っ先がバリスタのように突き刺さる。怪人は顎を開いて体液を吐き出すと、もがきながらその場に斃れた。

「(アルター社は近頃殊に良くない話を聞くね。愚神と繋がってるとか何とか)」
 ルカに怪人の脚や腕を狙わせながら、モーリスはぼんやりと考える。
「(今回の襲撃の理由も、アルター社は分かってて隠してたりして。……いやいや、歳を取ると疑り深くなっていけないね)」
 誤魔化すように独り言ちてから、彼はルカに尋ねた。
「(という事で、聞いてみてくれないかね、其処の方に)」
『俺が聞くのかよ!』
 ツッコミを入れつつ、ルカは怪人の太ももに銃弾一発撃ち込む。体勢を崩してその場に膝をついたそれに向かって、ルカは素早く迫る。
『なあ、霊石を奪いに来たって聞いたけど、ホントにそれ狙い?』
 満身創痍の怪人は、肩で息をしながら、どこか譫言のように呟く。
『ここには霊石が大量にある……。我々の力を強化するには十分な程の霊石が……』
「(ふうん……あまり大きな研究室には見えないんだけどねえ、ここ)」
 モーリスの勘は――この場の皆も思っている事ではあるが――研究室が、アルター社そのものさえも怪しいと言っていた。
『さあ、派手に蹴散らしますので、避けてくださいね』
 遠くから、高く跳び上がったエリーが蟷螂達に向かって狙いを定める。ルカは銃を上げ、素早く後背へと駆け戻った。
『……ふふ。いつかは……』
 エリーは独り怪しく呟きながら、刃の雨を怪人へ向けて降らせる。強烈な面攻撃を受けた怪人は、断末魔の言葉も無く消滅した。

『行くぞ。奴らを研究所に入れるな』
 平野を駆け抜けた由利菜は、矢を番え、全身で弓を引く。蟷螂は上空を飛び回る雨月に気を取られ、由利菜には一切気付いていなかった。
「射貫け、レインディアボウ!」
 天へと向けて矢を放つ。高い弧を描いた矢は、蟷螂の脳天を穿ち、そのまま地面へと縫い付ける。鎌を振り上げ一頻りもがいた蟷螂は、そのままぐたりと崩れ落ちた。
 雨月は箒を降りて地面に立ち、黒々とした風を纏わせる。
『(折角私が起きているんだ、そろそろ片を付けろ)』
「そうね。……言われなくともそうするわ」
 魔導書を捲り、雨月は蟷螂の群れに向けてその手を突き出す。逆巻く風が躍り、蟷螂を引き裂いていく。
 由利菜は腰に差した剣を抜き放ち、風に巻かれる蟷螂の群れの中へと突っ込む。
「これで……とどめです!」
 身を翻し、剣を振り抜く。両断された蟷螂が、ごろりと地面に転がり、そのまま消滅した。

●少女の正体
『イエーイ! お仕事しゅーりょー!』
 従魔愚神の全滅を確認し、少女はその場で小躍りする。うきうきでステップを踏んでいる彼女を遠巻きに見つめ、恭也は溜め息をつく。見ているだけで疲れてしまいそうだ。
『……キョウは話に行かないのですか?』
「ああ言った手合いは苦手だ。雫に任せる」
『はぁ……』
 一方、容赦無いのが仙也だった。戦う者としての眼は、彼女の体格や身のこなしにどことなく既視感を覚えていた。しかし肝心の名前は何にも出てこない。
「何か最近会ったような気がするんだよな……憶えてないけど。とりあえず撮っとこう」
 仙也がスマートフォンを取り出し、カメラで少女を写し始める。それを見た少女は、ノリノリでポーズを決め始めた。ディオは下らんとばかりに鼻を鳴らす。
『バカだな。こんな英雄に押し負けるとはあまりに悲惨だ。あちこちにデータを回して周知しておかないとな。原本も残しておけよ』
「あいつにも送ってみるかー。あいつなら何かわかるかも」
『撮って撮って! タンパク質の身体なんて初めて――』
「もーいい! やめてくれ!」
 誰かが叫んだ瞬間、共鳴が解けた。白い金属フレームのガイノイドが地面へ投げ出される。そしてそこに立っていたのは小柄で童顔な女性――澪河青藍だ。彼女は耳まで真っ赤にして仙也へ駆け寄る。
「すいません! 私怪しい者じゃないからやめてください!」
「あ、今送っちゃった」
「うそだぁ」
 青藍はその場でがっくりと崩れ落ちる。そのしまらない姿を見て、由利菜は苦笑する。
「澪河さん……だったんですね」
『誓約の形にも種々あるだろうが……少し鍛え直す方が良いかもしれないな』
 ラシルは腕を組む。独自の誓約術を操り、リンカー達を導き鍛える者として、彼女の有様は少し見逃せない。つかつか歩み寄ると、じっと彼女を見下ろす。
『セイラン殿。此度は新米もいる戦場だったのだぞ。これでは示しがつかないだろう』
「ハイ。その通りです……」
 地面に転んでいたテラスを助け起こし、雫は澄ました顔のままテラスを見つめる。
『さて、テラスさん。正式にご挨拶と行きませんか?』
『ウンウン』
 眼を模した二つのライトが機嫌よさそうに明滅する。
『私の名前は不破雫、あっちに居るのが私の契約者である御神恭也です』
『私はテラス。ヨロシク!』
『今日は協力して頂いてありがとうございます。貴方の助力の御蔭で研究所を無事守り切る事が出来ました』
 そこまで言うと、雫は懐から携帯を取り出す。
『同じH.O.P.E.なら、また共闘する事もあるでしょうし、連絡先を交換しませんか?』
『モチロン!』
 テラスは頷くと、彼女のアウターのポケットからスマートフォンを取り出した。その隣では、モーリスが携帯を取り出そうとしていた。
『手伝ってくれてありがとな! 助かったぜ』
 ルカがにっと笑うと、青藍は引きつった笑みを浮かべる。
「まあ……それが今日の役目ですから……」
「これも何かの縁、連絡先を交換しませんか」
 モーリスは青藍に向かって恭しく頭を下げる。困っている青藍と見比べて、ルカはすっかり呆れてしまう。
『息するようにナンパしてんじゃねえよ、歳考えろ』

「ふぅん、機械の女の子だったのねぇ♪ 初めて見たかもしれないわぁ」
 跳ね回るテラスの姿を観察し、小恋路は呟く。抱きしめても固そうだから、とりあえず遠くで見つめるに留めておく。代わりに、彼女はルカやアトリへ眼を向けた。彼女の愛してやまない少年達に。
「……やっぱり、エージェント業っていいわぁ」
『いかなる意味でしょうか』
 白兎は恐々と尋ねる。
「こんなに眼福な環境で戦えるんだもの、お姉さんエージェント止められないわぁ」
 うっとりと呟く小恋路は、常に平常運転なのだった。

「情報データベース、のメインプロセッサ、という事は、ロボットなのですか?」
 アトルは好奇心に眼を輝かせながらテラスに尋ねる。テラスは再び目をちかちかさせて頷き、前屈みになってアトルの顔をじっと覗き込んだ。
『そうだよー。ほら、ここのパーツ、見えるー?』
 テラスは手首を曲げてアトルに見せる。白いフレームの継ぎ目から、黒い素体が剥き出しになっていた。あくまで無邪気に振る舞う彼女に、エリーは柔らかな顔をして、しかし少なからず警戒心を向けながら尋ねる。
『テラス様は何故こちらに? 今回の霊石と関係のある方なのでしょうか?』
『別に関係ないよ? ……まあ、アルター社が最近何してるのかがすっごく気になるのはホントだケド……』
 眼を今度は緑色に光らせ、テラスは藍とやり取りしていた研究員をちらりと見る。雨月は青藍に小さく尋ねた。
「澪河さん、またトラブルに見舞われたのかしら?」
『いえ……別に今回は変な予感も無いですし、私個人で気になるところは無いんです』
「まあ、最近は何もかもが怪しく感じられるような状況だものね」
 雨月は訝しげに眼を細め、研究所を見上げる。丸みを帯びた研究所には、窓が一つも見当たらない。
「(本当に、いかにも何か隠しているって雰囲気ね……)」

「うん……まあ、大雑把な情報しか出てこないか」
 研究員からも仲間達からも一歩離れ、仙也はタブレットでH.O.P.E.のデータベースにアクセスしていた。アルター社で進められている研究について調べていたのだ。アルター社が新型AGWの開発に特に注力しているという情報は出てくるし、H.O.P.E.で試供される予定のAGWに関するデータも公開されているが、詳細な情報については明らかになっていない。
『周囲に聞き込みもしたほうがいいだろうな。この研究所で何が起きているかはこの辺の連中の方がよく知ってるだろう』
「そーねー。ついでに何か見てから帰るとするかなー」
 仙也は仕事仲間の様子を一通り見渡すと、そそくさとその場を後にした。

『ねーねー、何してるノー? マキナが作っていたっていう義手、アルター社でリバースエンジニアリングしてるってウワサも聞いた事あるんだケド……?』
 無垢で無学な少女を装い、テラスはぐいぐいと研究者へ迫る。
「それは社の機密情報なんです。こちらの一存では明かせないんですよ……」
『エー?』
 それを横で見ていたサフィは、テラスに並んで静かに研究者へ告げる。
『敵は霊石を狙ってきたものと思われます。霊石が搬入された事が愚神に露見していたのは明らかです。ご注意を』
「は、はい。これからは警備も強化しておきます……」
「(……どうにも、気にかかるな……)」
 詮索はせずに黙り込んでいたが、藍の鋭い視線は研究者を射抜く。蛇に睨まれた蛙のように、研究者は固くなっていた。

 つづく……?

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
  • 柔軟な戦術
    モーリス チェスターフィールドaa5159

重体一覧

参加者

  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 久遠ヶ原学園の英雄
    不破 雫aa0127hero002
    英雄|13才|女性|シャド
  • 語り得ぬ闇の使い手
    水瀬 雨月aa0801
    人間|18才|女性|生命
  • 難局を覆す者
    アムブロシアaa0801hero001
    英雄|34才|?|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • マーメイドナイト
    海神 藍aa2518
    人間|22才|男性|防御
  • 難局を覆す者
    サーフィ アズリエルaa2518hero002
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 悪食?
    逢見仙也aa4472
    人間|18才|男性|攻撃
  • 死の意味を問う者
    ディオハルクaa4472hero001
    英雄|18才|男性|カオ
  • 鎖繋ぐ『乙女』
    羽跡久院 小恋路aa4907
    人間|23才|女性|防御
  • 妙策の兵
    白兎子爵aa4907hero001
    英雄|26才|男性|カオ
  • 柔軟な戦術
    モーリス チェスターフィールドaa5159
    獣人|65才|男性|命中
  • 無傷の狙撃手
    ルカ ロッシaa5159hero001
    英雄|17才|男性|ジャ
  • …すでに違えて復讐を歩む
    アトルラーゼ・ウェンジェンスaa5611
    人間|10才|男性|命中
  • 愛する人と描いた未来は…
    エリズバーク・ウェンジェンスaa5611hero001
    英雄|22才|女性|カオ
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