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掲示板
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相談卓
最終発言2018/02/25 20:24:34 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/02/22 13:52:52 -
質問卓
最終発言2018/02/24 12:59:30
オープニング
● 最終決戦
研究所の資料、およびBDから新たに得た情報から、敵の隠れ家がいくつか明らかになった。
その一角に潜入することができ、その間にもドラマがいくつかあったのだがそれらはすべて別の機会に語ることとしよう。
何せ今回は時間が無いのだから。
リンカー一行は南アメリカ密林奥にある軍事施設にたどり着いていた。
そこにADがいるのはとあるリンカーの調査によって明らかになっている。
さらに現在ADはガデンツァ勢力との戦闘により手が離せないでいる。
つまり。
今、敵城はほとんどの無防備という事である。
実際、司令室までは何の妨害もなくたどり着けた。
そのモニターに囲まれた一室。玉座に座っていたのは全ての黒幕、Absorb・D。
「ついに、我らの全てが明らかとなったか」
Aは君たちを見つめ溜息をついた。
「いや、組織は半壊。施設もほとんどが落城。残るは資金のみ、それでは壊滅も時間の問題だった」
告げるとAはモニターの画面を塔との戦闘から切り替える。そして映し出したのは無数の愚神、従魔の映像。
「我々はこの世界に現れた愚神のほとんどを観察している」
そしてとある信実にたどり着いた。そうADは告げる。
「生存戦略として我々は愚神を囲い、それを飲み込まなければいけない」
だがADは全ての事実を語りはしない。
君たちは知っているはずだ、彼から真実を聞き出す方法。
さんざんやってきたはずだ。それをまた繰り返す必要がある。
「愚神兵器の開発……」
「そのために人類すべてが愚神と同質のものになる必要がある、お分かりいただけるかな?」
「人類すべてが強くなれば、君たちの言う悲劇は訪れない」
「さあ、強くなろう、それこそわが提案」
「ただ……」
その時ADの体から力が抜けた。
その体が揺らめいて、四つに割れるような錯覚を見た。
直後、魂としか言いようがない光が、ADの体からほとばしり。
そして、それは四体の愚神としてそこに顕現した。
「それをわれわれは許さない」
告げた愚神は四柱。
突如ひろがるドロップゾーン。
彼らは心を決めたようだ。背水の陣。何かを失うことが確定であれば。
彼らは一方的に失うことを許しはしないだろう。
● 四柱の愚神
ADの体に入って、ADをコントロールしていた愚神は多数いるようです。
ADはその性質上、体内に多数の愚神を住まわせることが可能で。ADもそれを許していたと言います。
彼の目的は判然としませんが、そもそも目の前の愚神を片付けない限り問い詰めようもありません。
と言っても今回全ての愚神を相手にする必要はないようです。
というのが、この愚神たちそれぞれ戦うことがあまり得意ではないようで。互いをサポートしあうことで戦闘力を水増ししているのです。
ですから、リンカーが手を出さなければ戦う候補には上がりませんし。
傍観していてくれるでしょう。
なので、今回は戦う相手を自分で選ぶ形です。
もちろんデクリオ級。今となっては雑魚扱いですがレベルの低いリンカーにとっては脅威となるでしょう。
今回の依頼で最も重要なのは、自分の力量を自分が把握できているか、です。
『個人のアヴァラエル』
もっとも人に近い愚神、180センチの身長で身体能力も一般人男性程度しかない。
ただその能力はリンカーにとって多大な影響力を与える、彼の支配するドロップゾーンでは共鳴できないのだ。
基本攻撃はナイフによる刺突だが、自身の周囲に防壁を張り巡らせる能力があるため、物理防御力は高め。
正確には共鳴できるが、共鳴してもステータスが上がらない。
そのため、この愚神を倒さないままでは本来の強さが発揮できない。
ただし、リンクレートが7を超える場合。
もしくは英雄と能力者の絆を強く意識する発言、行動をすることによって、影響を振り切ることができる。
「狭き門より入れ。その門は二人では潜れない」
一人であることの試練を与える愚神。
ただ、二人で強くなることもあると示せれば彼の意表をつけるだろう。
『全域のスローン』
この世界すべてを観察する目を持つ愚神。
ガデンツァの監視などもこの愚神が担っているようだ。
彼の能力は監視と認識共有。
周囲に無数の目を浮かべた……頭を黒い布でぐるぐる巻きにした男。
全身を縛っているが、目からビームを放って攻撃してくる。
攻撃は魔法攻撃である。
命中がべらぼうに高い以外に特出した点は存在しない。
彼を倒すと塔への干渉が消える。
「全知にいたるためにまず、全域に私は手をかけた。私はすべてを知るための力を望む」
全てを知ろうとする愚神。彼の知らないことはないという。リンカーの行いに関しても詳しく知っている可能性、リンカーの作戦を看破している可能性がある。
『天啓のアグロ』
アグロは背中に翼を湛えた天使として降臨する。
もっとも戦闘能力が高く、自身の天才的なひらめきによって、幸運を引き寄せたかのように致命的、あるいは奇跡的行動を起こす。
つまり判定で有利な愚神である。
通常攻撃は手に携えた槍の刺突。および槍から発射する熱光線である。
飛行能力を有する。
「神を信じるか、ならば授けよう、貴様の生きる道だ。私を崇めよ」
天啓とは天上の神から教えが降ることをさす。
アグロはそれを誰にでもやってしまうのだ。
正しい行動、間違っている行動限らず、他人の直観に干渉する。
人の脳内に直接情報を埋め込むことによって瞬間的判断を誤認させるのだ。
『囚役のジフェイタス』
その身は軍服に包まれた女性、身長は低めだが常にサディスティックな笑みを浮かべている。
その手のウィップと短刀が武器。
鞭で拘束し、短刀で切り裂くのが基本スタイル。
さらに彼女は拘束することに長けている。
動きを封じられて接近を許せばいつの間にか手錠がされている。
手錠の能力は単純に両手をつかわせない……以外に自分と手錠を繋いで遠ざかることを防ぐ能力もある。
地味だが真の能力はそのドロップゾーンにあるため仕方ないだろう。
「私が管理する監獄に脱獄は許されないわね」
囚役とは彼女自身をさす言葉ではない。
彼女は永遠に囚人を繋いでそれを眺めることを至上の幸福とするが。
はたして彼女にとって、どこまでが監獄なのだろう。
● 相互作用について
愚神がお互いにサポートしあっているといいましたが、お互いのサポート効果について書き加えていきます。
これはその愚神が存在する限り、四人の愚神全員に及ぶ、付加効果です。
『個人のアヴァラエル』
愚神の攻撃でリンクレートが下がるようになる。
ただし、特殊抵抗が高ければその効果を受けないことがある。
『全域のスローン』
全愚神の回避能力を二倍にする。
『天啓のアグロ』
愚神全員のクリティカルする可能性が二倍になる。
『囚役のジフェイタス』
この研究所から出られない。つまり撤退が許されない。
解説
目標 愚神一体でも撃破する。
今回は最悪四体の愚神との同時戦闘の可能性がありますが。
正直四体同時に戦うことは想定していません。
二体、もしくは三体を同時に相手して、倒す順番を工夫するという作戦が重要となります。
今回戦わなかった愚神は次回に持ち越しです。
今回頑張ると、次回の難易度を下げることができます。
●戦場について
研究所は広く、皆さんは地下一階にいます。
一つの階層が六つの部屋、大ホールという形で構成されていて。
三階建てデス。
一つの部屋は学校の教室程度、大ホールは体育館程度を想定してください。
ただし、撃ち捨てられた機材、弾薬、爆薬。
など、軍事施設、研究施設におかれてそうな物が無造作に投げ捨てられているので、それにも注意が必要でしょう。
戦うにしても、皆さんがスタートする地下大ホールは二体の愚神を相手取るには狭いと思うので移動する必要があるでしょうか。
● 最後に。
この戦い少し様子がおかしいです。
というのが、彼らはお互いに力を貸し合っているようですが連携ができていません。
そのあたりに付け入るすきがありそうですが。
付け入られる隙にもなりそうです。
それでは、二度頭の痛いシナリオですが、よろしくお願いします。
リプレイ
プロローグ
「ええ、そうねぇ、そんな感じでお願い。彼まだ何かたくらんでいそうだし」
『榊原・沙耶(aa1188)』は護送車の中で受話器片手に何事かを電話の向こうの人物と話していた。
それはH.O.P.E.のBDを管理する独房の管理人である。彼にこれまでのBDの態度から力ずくで脱獄出来る奥の手がある可能性を伝えた。
これを『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』が心配そうな顔をして見あげている。
「やっぱり、私達がついていた方がよかったんじゃない?」
沙羅が告げる。それに沙耶は首を振った。自分たちが行かなければだめなのだ。
その思いに賛同するように『無月(aa1531)』は拳を握りしめる。
「この件を追っている間、色々な事があった……」
思い出すのは事の始まり。少年少女を苦しめる薬から、誘拐、BDとの戦い、苦しむ魂、そして死んでいく少年少女。
死せる魂の慟哭が、目の前の命を救えなかった後悔が、無月の胸に突き刺さる。
「もう、これ以上の命を失わせはしない。今こそ、私の命を賭して、全ての禍根を断つ……!」
『ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)』も頷く。
「それが、ボク達の使命。そして存在意義……!」
ジュネッサがつぶやくと無月は無言で小さく頷いた。
「今回は小鳥遊ちゃんには荷が重いから、私が全面に出て対処するわぁ」
その言葉に沙羅は複雑な表情を見せる。
確かにと納得する部分もあった。
今回の事件は因縁が何かと強すぎる。この場にたまった負の感情から一筋縄でいかないことが、もうわかる。
たとえば『煤原 燃衣(aa2271)』は無言で車に揺られている。
燃衣はあの一件から目に見えて口数が減っていた。態度は変わらない、だが笑顔が殆ど無かった。
今はもう亡き武の墓へ、一方的に告げてきた。
「…………ケリを、付けてきます」
それを『ネイ=カースド(aa2271hero001)』は静かに見守っていた。
(そう、良くある事なんです。
救うべき人を救えなかった事も。
悲しみの涙も、嘆きの声も。
あの子を返してという責め苦も、全て、全て)
『黒金 蛍丸(aa2951)』は隣に寄り添っている。気をはって疲れ果てた『藤咲 仁菜(aa3237)』を『リオン クロフォード(aa3237hero001)』が寄り添っているが、『阪須賀 槇(aa4862)』と『阪須賀 誄(aa4862hero001)』の姿はトラック内になかった。
「蛍丸様」
『詩乃(aa2951hero001)』が不安げな声を漏らす。それに蛍丸は大丈夫だよとだけ言った。
仲間のピンチに駆けつける。それがどんな支えになれるか分からなくてもそばにいるだけで救われる心があると、蛍丸は信じているのだ。
そんな中蛍丸は、一人苛立つ『彩咲 姫乃(aa0941)』へと視線を向けた。
その手元には塔の戦況を写したスマートフォンが握られていて。それを握りつぶさんばかりにかじりついている。
そんな姫乃は本日学生を思わせるスカートとワンピース。
いつものパーカーは血がべったりこびりついて使えないのだ。
それが『メルト(aa0941hero001)』とかぶり、一同はどう扱っていいものか悩んでいた。
しかし姫乃としては少女扱いされたいというのではない。
姫乃は他人の為には恐れ知らずに即断即決できても自分の事には臆病で優柔不断。心の中で自分の歪みを確認することはあってもである。
だから少女で有ることも、今傷ついていることも他人へそれを明言する事はない。
そしてその傷やゆがみを隠し通す余裕は、今日はなかった。
そんな人間がこれからも繋がるコミュニティに対して自分の歪みをさらけ出す意思を見せたのは、どういう心境の変化だろう。
「ここで決着をつける、そして、ナイアに…………」
姫乃が決心と共に顔をあげると敵城は目の前だった。
第一章
Dの居城への潜入は簡単だった。あらかじめ調査されていたというのもあるし、大体の敵が出払っていたというのもある。そのため、接敵は容易であり、ADのもとへはすぐにたどり着けた。
しかし彼から生まれたのは驚きの愚神四体。
「来ます!」
その姿を見た時『卸 蘿蔔(aa0405)』は弾かれたように臨戦態勢を整える。しかし。
「あ、いや――来ない?」
敵が動く気配はなかった。
むしろ愚神同士がお互いを眺め牽制しあっているようにも見えた。
――戦闘を避けたい、わけではないようだが…………。
『レオンハルト(aa0405hero001)』が注意深く見守る中、無月は全域のスローンに向けて声をかけた。
「スローンさん、貴方は『全てを知る為の力』とやらを手に入れて何がしたいのだ?」
「決まっている、全てを支配するためだ」
それに無月は溜息をつく。
「愚神と言えばそればかりだな」
しかし対話を望む姿勢は崩さない。
「貴方は、貴方達はこの世界に生きる人々と対等で平和な関係を築き上げたいとは思わないのか? もし、共存を望んでいるのであれば、微力ながら私も力を貸したい」
「お前たちの力など微量、やがて支配されるこの世界の塵でしかない。不要だ」
その言葉に無月は刃を向けた。
「争いは好まないが……全ての禍根を断つが私の使命。戦いが避けられぬのならば、私は人々の愛と想いの為に戦おう……!」
駆ける無月、それに合わせてリンカーが動いた。
「私か、仕方がない、迎撃しよう」
それに対して囚役のジフェイタスはにったり笑い、背中に声を投げる。
「ふふふ、楽しみにしているわね。そしてもう一人」
『逢見仙也(aa4472)』がエアリアルレイブにて一撃を加えた。対象は個人のアヴァラエル。
その斬撃がアヴァラエルをかすめ地面を割る。しかしその手ごたえに仙也は目を見開く。
明らかに力が衰えているのだ。
「一人でなすべき偉業をなすがいい、なせねば伏して死を待つと言い」
それはアヴァラエルの能力、レート減少。および繋がりが弱いリンカーのリンク切断の力。
『楠 セレナ(aa5420)』は慌てふためき、『北条 鞠也(aa5420hero002)』がフォローに入った。
――AD……いや、アヴァラエル。まともな共鳴すら許さないというのか……このままではまともに武器も振るえないだろう。奴を何とかしないとな……それにしてもお嬢様が奴と対峙出来なかったことには感謝しないとな。
「わ、私一人で……何とかしなくちゃいけないのですか!? ど、どうしましょう……」
――落ち着け、出来ないなんて事になったら奴など倒すのは難しい……今は共鳴する事に専念するんだ。
戸惑うセレナ、そのセレナに打ち出された全域のレーザー攻撃を蛍丸が盾で受けた。
「ほう、この試練に対面してなお、つながりを維持しようともがくか」
蛍丸はアヴァラエルの言葉を無視してセレナの無事を気遣う。
「大丈夫ですか?」
「は…………はい、ありがとうございます」
そして蛍丸はアヴァラエルに向き直る。
「誰かを信じるって大切なことです。そして、自分自身を信じることも」
その言葉に仙也は苛立った表情を見せるも、すぐに肩をすくめてそして。
リンクレートを高めた。
「俺は俺として楽しんでるだけで、俺は制約を守っているようなもんだしな。
例えそれが普通じゃなくともサ?」
――己一つで戦うなんて愚神基準で文句を言われてもな。残念ながら俺達は二人で一つのエージェントで、同好の士で、共犯だ。
「狭き門だのなんだのと言いながら自分は中途半端な共闘をしてる奴何ぞお呼びじゃねーよ没個性。目ん玉野郎とか天使擬き並みの人外的特徴と身体能力持ってから出て来いや」
相性は悪くない。仙也はそう算段を付けると、パワーでごり押すつもりで駆けた。
その仙也を中央にセレナと蛍丸が陣を敷く。それに遅れながら仁菜が加わった。
(兄さん……)
そんな中蛍丸は一瞬意識を敵からそらした。
燃衣を思い、その姿を振り返る。
燃衣は集中していた、時を待っているとも言える。
「ちょっと乱戦は避けたいですね」
そんな重苦しい空気をものともせずに蘿蔔は全域を牽制しつつも、天井に銃弾を叩き込む。
――相手はこちらの行動を把握しているようだが。
「知っているというのは強いですが、それだけで勝てるのならば苦労はしません」
――それだけね…………普段通り行こうか。
準備は整った。燃衣が動く。
ネイは思う。これは駆け出しの頃の燃衣だ。ギラ付き、その目に似合う黒い憎悪の炎を燃やす《復讐者》。
――道の正誤など俺は知らん。
ネイが告げる。
――俺は……こいつが憎めるなら、戦えるならそれで良い。
「……ネーさん」
燃衣は拳に炎を宿す。
「ボクは、思い出しました。《自分が何者なのか》を……」
互いの脳をよぎるのは病室での最初の会話。
――……お前、憎いのか?
「……憎い。皆を殺した連中全て。そして」
これから現れる、敵の全てが。
「…………殺す。殺してやる……誰かを悲しませる! 《敵》をすべてッ!!」
――……憎いのならば貸してやる、殺せるだけの力を
次の瞬間燃衣は飛び上がり天井に拳を叩き込んだ。
蘿蔔が放った弾丸が切り取り線のように天井を穿っていたので、燃衣の一撃で綺麗に上に穴が開いた。
瓦礫が降るのも構わず立ち尽くす燃衣。
蘿蔔はいち早くその穴から上に上がり挑発するようにスローンへ弾丸を浴びせた。
「君たちがなにを狙っているか分かっている。しかしそれは私の望むところでもある」
そうスローンは蘿蔔の誘いに乗って上へ。
距離の優位を生かしながら蘿蔔は目的の場所へ、スローンを誘導していく。
対してアヴァラエルを抑えるのは沙耶や姫乃、しかし姫乃は普段の速度を出せずにいる。
姫乃の死角からの一撃がアヴァラエルの防壁にはじかれて空にそれた。体勢が崩れたところでアヴァラエルはナイフを叩き込む。
それをそらしたのは沙耶だった。
「なぜリンクを保てる!」
驚きの表情を向けるアヴァラエル。グランガチシールドの側面にてナイフを押さえつけ沙耶は沙羅に告げる。
「調子が出ないなら休んでいるといいわぁ」
そのアヴァラエルへセレナ、仙也が迫る。
アヴァラエルはいったん距離を話すと二人に対応するが、それに追いすがってバニッシュメントを放つ。のけぞるアヴァラエル。吹き飛んだが跳ねるように体制を立て直すと、その刃でセレナを切りつける。
その腕を仙也はインタラプトシールドで遮った。
「心に傷があるうちは、無理なんてしなくていいの。自分が辛いなら、自分のために行動していいの」
沙耶は姫乃に告げる、姫乃は目を見開いたまま沙耶の背中を見つめている。
「くそ! 俺は…………私は」
激しくミョルニルから雷撃をほとばしらせる姫乃。
今まともに戦えないふがいなさに、眩暈がしそうだった。
対して沙耶は姫乃を見守る意味を込めて振り返らない。
仁菜が押されているから、普段ならあの程度の攻撃捌き切れるだろうが半テンポ反応が遅い。
沙耶はそんな彼女たちの心持ちを嬉しくも思い危うくも思う。
「人がつながったとして、どれほどの事が成せるだろうか。お前たちに孤独の素晴らしさを教えてやろう。どこまで行っても個人は個人なのだ」
そうアヴァラエルは仁菜の盾をひいて体制を崩すと、真上から刃を振り下ろす。
「私は……」
迷いの瞳の仁菜、その眼球へぎらつく刃が迫る。
第二章 再起
阪須賀兄弟は家にいた。暗く窓をカーテンで閉め切って、代わりにひどく無慈悲なディスプレイ光ばかりが槇の顔を照らしていた。
「…………」
「兄者、飯だぞ」
そんな兄の世話をかいがいしく見る弟、誄。
しかし、兄はあの一見依頼心を閉ざしていた。
食事を運んでも黙って少し食べて残す槇。
そのたびに自分を責めるように顔を歪ませる。
「…………時に兄者。子供たちの親がさ、手紙くれたぞ」
それに何も言わない槇。
「ダメだった子の親もさ、一生懸命ありがとだって」
「…………」
「……OK、皿貰ってくぞっと」
古く干からびた飯の乗った皿を回収する誄。
そんな日が何日も続いていた。
そして。
「兄者。ADの居場所が分かったぞ」
その日はやってきた。槇に大急ぎで資料を運んだ槇。
だがその傷ついたような視線を受けて誄は押し黙ってしまう。
「…………」
「…………俺たちは、残ろう」
「…………」
言葉にできない思いが槇の中で溢れかえっているのが誄にはよくわかった。だから。
「時に良いよな。俺も少し疲れたよ」
そう、誄が隣に座った時。槇は目を見開き。そして代わりに立ちあがった。
誄は槇の震える手を視界の端に収めてか細く笑った。
「……弟者、行くお」
「……どした急に?」
「漏れは……《悪意》ってヤシが嫌いだお、見たくもねーお」
槇からすれば複雑だろう、自分を許せない思いも他人を許せない思いもあるだろう。
「けど《悪意》にはそんなの関係ねーんだお。むしろ怯えると喜んで全部ブン取りにくるんだお」
ただ、それに付け入られて何もしなければ本当に自分の中の何かが死んでしまう。
「だから……逆に漏れらでボコっちまうお!」
自分は特別な人間ではない、それはわかっていた。だからこそ、普通の人間代表として、運命に対して言うべきことがある。
「それに……漏れの中で誰かがそーしろそーしろって言ってる気がするお!」
「…………OK。全く兄者は単純だなぁ」
「ぐはっ、でも弟者はいつも元気ですげーお?」
「何言ってんだよ。俺は兄者や仲間と一緒だったら……」
* *
――……なんだって出来るよ
「OK! 漏れら無敵の阪須賀兄弟だお!」
そう弾丸をばらまきながら槇が突撃してきた。
仁菜に迫る刃を撃ち落とす槇。
「阪須賀さん!」
蛍丸が嬉しそうな声を出す。
「蛍丸たそ、だ……だいじぶだお! 戦えるお!」
迎撃に向かうアヴァラエル。それを抑えるセレナと蛍丸。
「「……バカジャネーノ」」
阪須賀兄弟が声をそろえた。
「人類全て愚神になればいい? 脳みそ大丈夫あんた?」
ADに向けて吐き捨てるように告げる槇。
――あんなんトップ以外、最終的に【奴隷】だろ。システム的な意味で。さすがブラック企業党首は考える事が違う。
新たな敵の登場で混乱に陥るアヴァラエル。
そんな槇の背中に蛍丸が告げる。
「少し持たせてください!」
「OK、まかせるお!」
槇が前にでて蛍丸が下がる。
蛍丸が向かったのは姫乃のところ。
姫乃は戦場の真ん中で動けずにいた。スカートの端をギュッと握って、まるで母に置いて行かれた子供のように。
実際彼女は置いて行かれたのだ、親友に。
そんな彼女に蛍丸は手を取って告げる。
「大丈夫ですよ」
その言葉で姫乃はやっと蛍丸を見た。
「僕たちはここにいます。そして彩咲の言葉を待ってますよ」
そして姫乃に聞こえるように仁菜が叫ぶ。
「私達だって、知ってる! 私達はどこまで行っても一人で、誰かになれたりしなくて。だから護りきれないこともあるって知ってる。けど!」
仁菜は知っているのだ。どんなに守りたいと願っても届かないものがあると知っている。
――俺達の誓約はいろんなものを失って、それでも諦めたくないっていう悪あがきだ。
リオンが告げる。
「届かないかもしれない、無駄かもしれない、でも守りたい」
二人の誓約は【守る事を諦めない】だから。
「私はどんなに苦しくてもあがくことをやめたりしない!!」
辛くても苦しくても、失った命を背負って守り手であり続けようそう願った。
ガデンツァへの怒りで何も見えなくなってた仁菜を守ってくれた仲間を。
「今度は私が守りにいくの!!」
そう盾でアヴァラエルの攻撃を打ち払って姫乃を見つめる仁菜。
「ばかだな」
姫乃は告げると姫乃は涙を一つ流して、そして瞳に光を戻した。
「待ってろ、すぐにそいつを三枚におろしてやる。」
姫乃の言葉に蛍丸は笑顔を見せ、仁菜は後退。
仁菜の影に隠れて槇は銃を乱射した。
「援護、行きますよっと!」
「……わ、私一人じゃ……何も出来なかった。お嬢様がいてくださったからここまで頑張れたのです……でも、今はお嬢様がいない……共鳴も出来ない……私は……やっぱり何をしてもダメなんでしょう……」
告げると鞠也が答える。
――……セレナ、本当にそうなのか? お前はこれまでしっかりと仕事をこなしてきたからじゃないか。
「それは……鞠也さんが頑張ってくれたからで……」
――いや、お前が頑張ったからだ。ろくに紅茶も運べないお前が戦いに身を乗り出したのは……お嬢様じゃない。お前の意思なのだ。
「でも、それは……鞠也さんがいたからで……」
――何を寝惚けたことを言っている。私は今もここに居る。そしてお前の意思で誓約を決めたのだろう?ならどうするんだ? その誓約を破るのか?
その叱咤でセレナは顔をあげた。
「私の……私達の誓約……『お嬢様を護ること』……お嬢様の大切なご友人様達も……お嬢様を護るためにも……私は! 戦います!!」
「あぁ、私もセレナと交わした誓約……破る気など毛頭ない! お嬢様の為でも、ご友人様の為でもない。セレナの為に、セレナのお嬢様を、ご友人を、守る!」
――アヴァラエル! 私は1人で戦ってきた。だが、何もなかった。あえて問おう。1人で戦えと吐く貴様には何がある!?
セレナはその言葉に頷いてニーエ・シュトゥルナを突き立てた。
血を吐いて呻くアヴァラエル。
焦ったのか無理やり槇へと迫るために距離を詰めるアヴァラエル。
それを仁菜が遮った。
「リオンは私の希望なの。」
――ニーナは俺の光なんだ。
だから私たちは一人じゃない、個人であっても一人じゃないんだ。
そう仁菜は告げた。
――一人で戦う愚神には分からないだろうな。
「仲間に、こんなに救われてるんだよ」
次いでアヴァラエルの表情が強く歪む。
「悪りぃけどな。俺も一人じゃねぇんだ。一人でも二人でもなくて、三人なんだよ!」
姫乃が刃を突き立てていた。
「三人で笑ってて、最近一人欠けた……」
その悲痛な声に仁菜も蛍丸も視線を伏せる。
「いい思い出なんて言葉で終わらせたくはない。だから俺は!」
姫乃は太陽と星と月のシンボルを指でなぞった。残ったもののために全力で駆け抜けると、そう胸に刻んだ。
だって、思い出が美しいほど胸を焦がす痛みがあっても、それこそが友情が変わらず残り続いていく確かな証明だと信じられるから。
逃れようと身をよじるアヴァラエル。それを追う姫乃。
「焦げ付くほどの感情を体温に変えて!」
リンクレートが跳ね上がり、封じられていた霊力が一気にあふれ出した。
「お前も俺を全力で感じろ、メルト!」
髪の毛が燃え始める。
そして行く手を遮るのは仁菜。
「後ろに兄者さんが、横に蛍丸さんが、敵の死角に姫乃さんが。仲間を信じているから私はここに立っていられるの」
アヴァラエルの体を盾で押しとどめる仁菜、依りかかるようにアヴァラエルは盾を手に置くが、その脳天を槇が撃ち抜いた。
横たわるアヴァラエル。仁菜はそれに一瞬驚いた表情を向けるが、槇の顔を見るとほっと表情を和らげた。
「さすが頼りになるね、お兄ちゃん」
第三章
「…………ッぉおあぁあアアアア”ア”ア”ッッ!!」
燃衣が咆哮をあげる、レーザー攻撃を雨のように浴びるが、それをものともせずに突き進む。
それは獣の所業だった。
「まて、煤原さん!!」
無月がその脇を並走しながら燃衣の様子を確かめる。無月は燃衣の瞳に深紅に光り、正気を失っているところを眺めると、レーザーをかいくぐって、ジェミニストライクにてスローンに一撃加えた。
「ぐぅ」
唸るスローン。直撃はしなかったものの攻撃がカットされその隙に燃衣が襲いかかる。
右こぶしを避ける。その足を燃衣は払い、地面に転んだスローンへ拳を叩きつける。
しかしスローンは其れもまた転がって避ける。
地面を砕く燃衣の拳、赤黒い幾何学模様が左半身を覆い始める。燃衣の内から怨嗟の声があふれてくる。頭の奥で少女が何事か囁く。
「どっちが愚神か分からないですね」
蘿蔔が援護射撃を。確かにスローンは常にこちらの行動を見ているような攻撃の避け方をする。
だから蘿蔔は味方の攻撃に攻撃を重ねたり、動きを制限するような攻撃方法に切り替えた。
「女の子をじろじろ見ちゃだめですよ」
はじかれたように蘿蔔は照準を空に浮かぶ眼球に、打ち出した弾丸は目玉をえぐり爆散させた。
当てることはかなり難しいが、破壊はできるらしい。
――さてどうする?
レオンハルトが問いかける。
「ごり押ししましょう」
告げると蘿蔔は散弾銃に装備を切り替えた。そして地面を駆け弾丸を放つのに適切な距離へとポジションをうつす。
直後爆発音。火の手が上がりそれに蘿蔔は意識をとられた。
どうやら施設内の爆薬を無月が使ったようだ。その揺らめく炎の向こうから、燃衣が現れる。その手にはもがく目玉を握っていた。
「見てやがったのか! 皆に死に際を! 嗤ってやがったのかぁあアアアアッッ!!」
その目玉を握りつぶす燃衣。
「そうさな、我が全知に至る全域にとって、見えぬ結末は存在しない。それは羽虫の死も同じこと。しかし神が羽虫の死に胸を痛めることはあるだろうか。ない。私は神なのだから」
そのままレーザーでその身が焦げるのも気にせずに突撃してスローンを殴る。
「るぁあああアアア”ア”ア”ア”ア”ッッ!!」
その耳にもはやネイの声は届いていない。
その拳をスローンはにやりと笑って受ける。
そう言ってもその体の上を滑らせるように攻撃をそらしてダメージをほとんど無力化。
燃衣の腕をつかみ逃れられないように固定する。全ての目が燃衣を見ていた。
「お前の中味もすべて見せてもらうぅぅぅ」
げひた笑いをうかべながら、目玉全てからのレーザー照射。
極光が燃衣を包む。
死んだか。
そう誰しも思っただろう。
しかし。それを許す仲間たちではないのである。
仁菜と蛍丸がその攻撃を遮っていた。
「たった一人で戦うような真似は止めてください」
蛍丸の言葉に目を見開く燃衣。
「ほた……まるさん」
「兄さんは一人じゃないでしょう?」
次いで降り注ぐ弾丸が目玉を襲う。かすめるだけにとどまったが隊列を乱すことに成功した。
――OK…………予測可能。
「……次は回避不可能、だお!」
槇がフラッシュバンを構え待機の姿勢を見せる。
仙也はその構えに頷いて突っ込んだ。
仁菜のケアレインを体にうけながら、混乱に乗じて目玉を刈っていく。
――周りの目玉がレーザー銃の役割と果たすと。スキルで銃を展開した時と似たようなものと言えば良いのやらな?まあ、厳密には違うが。
「どうせどっちも撃つ前に潰せれば無いのとおんなじだろ?」
目玉が規律を取り戻し始める。
「OK行くお!? 《バ〇ス》ッ!」
そこで槇がフラッシュバンを放った。視覚神経に走る激痛で身を悶えさせるスローン。
「貴方は沢山の事を知っているのですね…………それは素直にすごい事だと思います
でも知ることって、誰かに寄り添うためにするべきだと思うのです
人を傷つけるあなた達の言葉を聞いて、何になるというのですか」
放った蘿蔔の弾丸が、スローン自身の目をえぐった。
怒りをあらわに全ての目を蘿蔔に向けるスローン。
「……お前の目指す先に未来は無い」
ただ、それを二人は待っていた。
「人が人で無くなったらそれはもう只の怪物だ」
燃衣が理性ある瞳で傍らの少年を見やる。
「お前の未来に、人の強さは無い!」
蛍丸はそんな燃衣に微笑みかけた。
「…………ごめん、みんな」
炎が風に巻き上がり晴れた時。燃衣の背後に暁メンバーが控えていた。蛍丸と燃衣はその期待に答えるようにスローンを挟む位置に立ち。
そして
「貫通連拳!!」
「貫通連拳・贋!」
渾身の連撃にてスローンを吹き飛ばした。
エピローグ
「終わったのか」
そう燃え盛る研究所に姿を現した姫乃。
彼女は暁全員の顔を見渡して告げる。
「実は俺女なんだよ」
何をいまさら、そう燃衣が告げようとして彼は気が付いた。
姫乃の体は震えている。
「姫乃ちゃん」
そんな姫乃に寄り添うように仁菜が前に出た。
「でも男でもあるんだがな。――変だと思うか?」
目を潤ませた姫乃は力を振り絞って全員を見つめる。そんな視界を覆うように蛍丸が姫乃の頭を撫でた。
そして仁菜も。
「頑張りましたね、二人とも。少し休みましょう。大丈夫ですよ」
それに姫乃は涙をこぼしながら言い返す。
「恋人がいるのに他の女に気軽に触ってていいのか? ――でもありがとう」
(蛍丸さんは私に「もう僕より強い」なんて言うけど。いつまでたっても蛍丸さんにはかなわないなぁ)
そう仁菜はその手の温かさを噛みしめていた。
そんな暁組を尻目に仙也は戦場を後にする。
「……出られる?」
そんな違和感を残しながら。
「ありがとうございました鞠也さん! それと……これからもよろしくお願いいたします!!」
「……あぁ」
セレナは共鳴を解除した相棒にそう頭を下げると幻想蝶からいつもの紅茶セットを取り出して、別室に設置してた。
「……なんでもいいが、もう少し落ち着きをだな……」
そんな勝利の美酒に酔う一行とは別に沙耶と無月は残る愚神たち、そしてADと相対していた。
「これ以上の争いは無意味だ。人は見下す存在ではなく、貴女達の囚人でもない……出来る事なら、最後まで抗う道ではなく、共に生きる道を探して欲しい」
告げると笑いだしたのはAD。
「お前たちは何もわかっていない」
告げると、研究所内に怨嗟の声が響く。それは倒したはずの愚神たちの声。
物語は次のステージへと続く。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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