本部

魔塔 二つの悪性

鳴海

形態
ショートEX
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
14人 / 4~15人
英雄
14人 / 0~15人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2018/02/28 18:25

掲示板

オープニング

*注意 数日後にDの本拠地に乗り込むシナリオがリリースされる予定です。D関連としてはそちらの方がD要素強めです*

● 再起動

 塔の周りにドロップゾーンが展開された。
 その報告を聴いたリンカーたちは驚いただろう。
 今まで塔の内部がゲーム空間のように変わってしまったことはあった。しかし塔の外にドロップゾーンが浸蝕してきたのは初めてである。
 それもそのはず。
 今回はドロップゾーンの外側に迎撃用のドロップゾーン。
 ドロップゾーンの内側には英雄を邪英化させるために特化したドロップゾーンが展開されているためだ。
 迎撃とは、もちろん君たちに対する迎撃ではない。
 Dと呼ばれる組織に向けた迎撃である。
「ヤらせはしない」
 ADはモニター越しにその様子を眺めていた。
 組織Dの自慢である、改造リンカーの少年兵たち。
 それを差し向け塔の攻略を目指すが、塔の周囲はルネと呼ばれる水晶色の少女で埋め尽くされており、これが改造リンカーたちを迎撃していた。
「邪英化完了までの推定時間は30程度。CD、それまでに」
 その少年兵たちに指示を出すのはAD。敵の状況を見て戦力の投下も行っている。
 長く続く戦いだ。H.O.P.E.にそろそろ気づかれることはわかっている、それでも引くわけにはいかない。
 そんなADの気持ちが伝わったのかCDは生唾を飲み込む。
「期待しているぞ、我が息子」
 次の瞬間ADは通信を切る。緊張が途切れたのかADは激しく咳き込んだ。
 その手の中にはどろりとした血がこびりついており。
 それを払うとあたりに血が飛び散ることになる。
「時間はない」
 いま、あの英雄をガデンツァ側に奪われてしまえばこちらの計画は全て台無しだ。
「最高の肉体、最高の精神、至上の神が出来上がるのであれば、私は。私は」
 それをとあるリンカーは見つめていた。
 前回、敵の本拠地に乗り込むと言って姿を消した女性。
 彼女はきっちりDの尻尾を掴んでいた。
 そして、物語は佳境へと向かう。

● 戦略としての
 今回は三つ巴の戦いが予想されます。
 今現在D勢力と、ガデンツァ勢力は戦力が拮抗しており、リンカーがどちらの勢力を削るかによって戦況が傾いてしまう事でしょう。 
 ただ、D勢力の切り札に関しては、とある女性リンカーが持ち返ったデータが存在するのでそれからある程度予測可能です。資料はまとめましたので参考にしてください。
 戦場の広さは海も含めると広大なのですが。塔を中心として半径80M程度の円状の空間にルネも少年兵も集まっているようです。


●D勢力および切り札
・少年兵の種類について
 戦場に合計30人存在しますが、ラウンドの終わりに五名ランダムで追加されます。

 狙撃兵
 射程75前後の狙撃ライフルを操る狙撃兵です。高火力でさらに、防御力をマイナスしてくる弾丸を放ちます。
 防御能力、接近戦能力が皆無です。

 狂化兵
 凶暴化した少年兵です。俊敏性に富み接近戦を得意とします。
 武装は大剣か槍で、攻撃は射程3程度までなら届くようです。
 
 機動兵
 頑丈に武装した高機動部隊です、主に前にでて、敵の攻撃を受けつつ制圧射撃を担当します。
 ステータスにとげが無く、万能ですが器用貧乏と言えるでしょう。
 射程が5~30SQ程度のアサルトライフルを装備。
 接近戦には黒塗りのナイフで対応します。
 常に三人一組なのが特徴です。

・明らかになった切り札を紹介します
 CDの存在
 コレクターと呼ばれる少年。少年は他者の力を借り受け保管する力を持つが、その能力の真価は精神性の学習にあるようだ。
 それがどの様な意味の言葉かはいまいちつかめない。
 基本的にシャドウルーカーの様な立ち回りにくわえ、ドレッドノートの様な火力を有する。
 しかし攻撃に対して脆弱であり、いかに攻撃をあてるか、というのが重要。
 
 ペインキャンセラー・リゲインの存在
 前回のシナリオで明らかになった、人間を従魔、愚神に変えてしまう薬。理性蒸発と共に、多大な戦闘能力強化が見込める。

 宝石砕き
 まったくの謎に包まれた切り札。
 スキルなのか、設備なのか、まったくわからない。


●ガデンツァ勢力および切り札。
 ルネ側の戦力は二種類です。
 このルネが、無限に湧き続けます。
 具体的にはフィールドに十体合計で存在し。一体でも倒れればランダムにどちらかのルネが補充されます。

・ウィンドハープ・ルネ
 背中に二つのハープを背負ったルネです。移動しながら自身中心に範囲攻撃を仕掛けられるのが強みで。吹き飛ばし効果がある魔法攻撃を放ちます。
 また魔法防御力が高く、常に地上2メートル程度の高さを浮遊しています。

・ソード&ヴァイオリン・ルネ
 長身のルネです。攻撃に対して脆弱な代わりに、弦による斬撃はたやすくリンカーに致命傷を負わせるでしょう。
 また、ヴァイオリンの音は指向性をもち、ランチャーのように音の塊を発射します。
 とても攻撃的なルネです。


 斬り札について計三つという事しか明らかになりませんでした。
・????
・????
・????

 戦場は100M四方の四角い箱です。特に介入がなければ戦場が変わることはないでしょう。

解説

目標 戦いを収める


*****************下記PL情報*******

● 最後の竜人
 最後に、もしルネとDの勢力を突破し塔の内部に突入できた場合。
 英雄『グラノゼーテ』の邪英化儀式に出くわすでしょう。
 それは中心の球体に半裸の男性が格納されている光景で。
 おそらく周りの魔法陣。床や四方の壁に刻まれたそれか、球体本体に攻撃し続けることで儀式をキャンセルできます。
 ただし、そのグラノゼーテを守る形で、黒鋼の守護者が姿を現すでしょう。
 今まで散っていたラジェルドーラのパーツの残りを体に組み込んだ、ラジェルドーラの集大成です。
 しかし理性はなく、その優れた武力を皆さんを倒すためだけに使う事でしょう。
 彼の事はラジェルドーラ・ネガとでも呼びましょうか。

・ラジェルドーラ・ネガの戦闘力について
 使用する武装は旗と双銃。そして徒手空拳です。
 旗は攻防一体の武器ですが。防衛を忘れてしまっているようです。
 非常に攻撃的に使ってくるでしょう。さらにこの旗は全身に突き刺さっている14の杭を引き抜いて、血を纏い旗とするので注意してください。
 双銃は中距離戦用の武装です。
 徒手空拳は、単純に言えば肉弾戦で。以前は柔術も取り込んだ合理的なものだったのですが。いまやただ相手を殺すためだけの武術となっています。

 さらに気にすべきなのはラジェルドーラの変形機能です。
 今回、龍形態になることはできないようですが。
 その核から高密度のエネルギーを発射する。という行為はしてくるようです。
 しかも連発できる様子。
 そのたびに自身の体に多大なダメージが蓄積しますがお構いなしのようです。

 ただ、この竜人と縁のあるものがいた場合。ラジェルドーラはこういうでしょう。
「主を助けてほしい」
 そこから別の話に発展させることもできるかもしれません。

*************************ここまでPL情報

リプレイ

プロローグ
 曇天しみいる空に、塩の香りが混じる風。今だ翼は重く羽ばたく気にはなれない。そんな重苦しい空と空気を撥ねるように『雨宮 葵(aa4783)』は外套をなびかせた。隣に『燐(aa4783hero001)』が立つ。
「Dとガデンツァは取引相手って聞いてたんだけどなぁ。交渉決裂しちゃった?」
「ん。目的の相違、かも」
 二人は、いや、リンカーたちはヘリの中にいた。見渡す限りの蒼い海を眺めながらその時を待っている。
 敵から視認されない距離に浮かぶヘリだが、その侵攻方向にはとある島がある。
 愚神によって作り上げられた島。そこでは今人間と、愚神が争いを繰り広げている。
「これは欲望にまみれた戦いなんだ」
 これは単純だ。欲にまみれた分かりやすい答えだ。
「ガデンツァは何をしたい?」
 葵は両手で顔を覆うと、思案にふける。見えないものが見えるまで、葵はそうしているつもりだった。
「両方の勢力が塔を巡って戦ってる感じね。今なら塔に突入できそうな感じ」
『雪室 チルル(aa5177)』が告げると、『スネグラチカ(aa5177hero001)』が指をくるくるしながら答える。
「でも流石にそのまま突っ込んだら両方から袋叩きにされかねないよ?」
「だから頭を使って相手を出し抜く必要があるってことよ」
「チルルには無理じゃない? 他の人と相談した方がいいよ」
 そんなことないーっとチルルがすねるとスネグラチカは小さく笑う。
 そんな少女たちを尻目に『九字原 昂(aa0919)』の視線はヘリ内部のモニターに注がれている。傍らで『ベルフ(aa0919hero001)』が武装のチェックを行っていた。
「さて、どうやら良い具合に争ってるが…………昂、こういう時は…………」
 ベルフがそう問いかけると昂は目を細めながら告げる。
「争う双方の間隙をついて状況をかき回し、双方の目的が達成できない様にする、で良いかな?」
「そういう事だ。争いの焦点を見極めて、そこを掻っ攫え」
 その発言に『麻生 遊夜(aa0452)』はため息まじりにこう答える。
「やれやれ、正面衝突じゃないだけマシだがキツイ仕事だな」
 『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』がそんな遊夜にもたれかかっていった。
「……ん、Dが求めるは……塔内部の何か、ならやるのは……漁夫の利」
 そして奪うべきは、二勢力の争いの種である、ある英雄。
「邪英化させる相手なんて、グラノゼーテ以外考えられないよ」
 『志賀谷 京子(aa0150)』は銃に押し当てていた額を離して頸を振って髪を整える。
「あの時、カデンツァが呟いた名ですね」
 『アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)』のガデンツァという言葉に視線が集まった気がした。
「3体のドーラたち。彼らを倒すために、わたしはうまく使われた気がしてさ、そんなの許せないじゃない?
 だから奴の狙いを御破算にして、巻き込んだことを後悔させてあげなきゃね」
 そして京子は静かにたたずむ『構築の魔女(aa0281hero001)』に視線を向けた。
 彼女だけはすでに『辺是 落児(aa0281)』と共鳴済みである。
「ねえ、魔女さん? 今一度カデンツァとDに双銃の輝きを見せつけてやろう」
 かつて双銃と謳われ、かの愚神を苦しめた。
 そんな二人が今ここに集う。
「えぇ、京子さん。介入させたことを後悔させてあげましょう
 全てを終わらせるために。
「借りを返しにいきましょうか」
 その話の話に遊夜が加わった。
「敵の嫌がることをするのも立派な戦術、精々己の職務を果たすとしよう」
 そう微笑みかけて傾いたヘリの加速度に耐える。
「ま、やることは変わらんしな」
「……ん、ボク達は、狩るだけ」
 次弾装填、臨戦態勢を整えた一行はついに島へと向かう。
 介入開始である。

第一章 突入
 戦場は混沌を極めていた。響くのは甲高くなる鈴のような無機質な音と、少年少女の断末魔。
 お互いがお互いを相手に、永遠に終わることのない殺戮の舞踏を踊っている気分だ。
 こんな戦場に立たせられれば誰でも思うだろう。
 いっそのこと、殺してくれ。
 そう少年少女が思い始めた矢先。空から太陽とも違う光を感じて誰かが顔をあげた。
 そこには天使がいた。
 正確には『イリス・レイバルド(aa0124)』だ。彼女が祈るように両手を組んでその翼で滑空しながら地上めがけて落ちてきていた。
 歌が響く、その翼からしみいるような歌を戦場に向けるのは『アイリス(aa0124hero001)』。
 アイリスはイリスに短く指示を飛ばすと、イリスは体制をかえ落下速度を増した。
 その陰に気が付いたルネ。それに猛禽を思わせるモーションで飛びかかると、その体を盾で殴り砕いた。
 破片が硬い地面をばらばらと転がりルネは物言わぬ無機物となる。
 そのままイリスは落下の勢いを四つん這いになって止め、起き上がる勢いで刃を振るう。
 ルネをいったい吹き飛ばし上空に向けて叫んだ。
「クリア!」
 着地地点の安全を確保したのち、リンカーが続々と効果を始める。
――イリス、今回は相手の思惑が見えない。切り札も分からない、用心するんだよ。
「うん、でもお姉ちゃんと一緒なら大丈夫!」
 イリスは盾でルネの攻撃を弾くと距離をとろうとするルネの膝を砕いて、倒れ伏すルネを踏みつけた。
 斬りかかるルネの刃を盾で弾きあげ。踏みつけたルネの首を縦で切断。そのまま円を描くように回転して目の前のルネを切りつけた。
――宝石砕きもガデンツァを連想するが……どうだろうね、他にクリスタルと言えば……。
 アイリスは思い出す。かつて行われていたこの塔でのゲーム。
 そのゲームでは封印石やセーブクリスタルと言ったギミックが重要だった。
――それか?
 イリスの周囲に続々と仲間たちがおり始める。戦場の中心でリンカーは分かれ左右に走り。目的を遂行せんと駆ける。
「そんなわけで作戦開始よ」
 そうチルルは雄たけびをあげて迫る狂化兵の体験をいなしながら、仲間の道のためその敵を縫いとめる。
「作戦の基本方針をおさらいします」
 昂の声が全員のインカムの向こうから響く。昂は少年兵の大剣を足場に飛び、空中へ攻撃を避けながら告げる。
「D勢力とガデンツァ勢力の双方の目的達成を妨害しつつ、隙あらば塔に戦力を突入させ、争いの焦点になる物事の妨害、あるいは奪取を試みます」
 その着地を襲おうとしたルネをチルルが蹴り飛ばすと、その後の言葉を続ける。
「作戦としてはまずはガデンツァ勢力をD勢力に削ってもらうために、若干D勢力に加担する形で押し込み気味にさせて、油断した所をCD対応がCDを狙いに行って、CD対応に呼応したD勢力をそのまま押さえ込みつつ敵を引きつけ、その後突入部隊が敵陣を突破して塔への侵入を目指す流れね」
 あわあわと一気におさらいしたため、チルルは若干混乱し始める。
――わわわわ、チルル! 後ろ。
 慌てふためくスネグラチカの声に反応して振り返ると少年兵が槍を突き出す寸前だった。
 しかし、少年兵はそのモーションのまま固まって動かない。
 昂が動きを止めたのだ。
「要点をまとめると……」
 昂は装甲の隙間から突き入れた刃をねじって見せる。緊張と苦痛が混じった声を少年兵が上げた。
「序盤はD勢力への対処を優先的に行いつつ、双方の戦力や作戦目的を威力偵察」
「そう! それ!」
 昂が少年兵を切り伏せると二人は背中を合わせてその場に立つ。
 リンカーはあらかた送り出した。あとは自分たちがここを脱するだけである。 
「CDの対応はこちらで行います。結果戦況に大きな変化が起きれば、その隙をついて塔内部に突入を」
「塔への突入後は儀式の妨害と英雄の確保を優先して行うよ」
 チルルは告げると前方にかける。振り返ってウルスラグナを振るい、敵の斬撃を受け止める。
「後は適宜嫌がらせ担当がちょこちょこと各勢力の足を引っ張るよ」
 それは自分だとばかりに戦場で飛び回るチルル。
――最悪でもD勢力への時間稼ぎさえできちゃえば、後は突破と儀式の妨害だけでも十分戦闘を終結させることができそうだね。
 スネグラチカが言った。
「双方の勢力の目的達成の妨害が達成できれば、無理な交戦はせずに退却も視野に入れます」
 昂のその言葉に頷いて、真っ先に動き出したのは小隊【戦狼】である。
「志賀谷さん危ない!」
 そう駆け抜ける京子の脇に入ったのは『柳生 楓(aa3403)』。
 その身を挺して京子へ放たれた弾丸を庇う。
 どこかに狙撃主がいるようだ。
 うかつだった。そう京子は自分を叱咤する。
「柳生さんありがとう。大丈夫?」
「これくらいならへっちゃらです」
 そう微笑む楓に『氷室 詩乃(aa3403hero001)』は胸をかき乱された。
(まだ戦える精神状態じゃないのに……)
 次いで楓は前方から迫るルネの集団を発見する。
 楓は反射的に京子より前に出た。ルネは遠距離攻撃の手段を持ち合わせている。
 盾を構えてやり過ごそうとしたとき。
――いいや、護るべきではない、ここは攻めだ。
 そう『ナラカ(aa0098hero001)』が告げると『八朔 カゲリ(aa0098)』が暗き灯りを引っ提げて前に出た。
 二人、どちらを狙うか迷ったルネを京子が足を止めることなく狙撃。
 武器を取り落したルネへとカゲリの天剱が、楓の断罪之焔が両脇から迫る。
 その連携にてルネを破壊した二人はそのまま加速度を維持、敵陣中央を突破する。
――よい、覚者よ。誰よりも早く塔へ。
「楽しそうで何よりだ」
 皮肉めいたカゲリの発言を受けてナラカは動じない。むしろこの戦場を満たす仲間という輝きを見つめているだけで子供のようにはしゃぐ。
 そんなナラカをよそにカゲリは順調に力を蓄えていく。 
 リンクコントロール。そしてその刃の暗き灯り。
 塔の門まであとすこし。
「切り札の情報、一つも出てないんだね」
 そう複数のルネを腕力にまかせて吹き飛ばすのは『大門寺 杏奈(aa4314)』。
 彼女は海側から上がってきたようだ。同時に二方向から放たれた奇襲によってルネ達はわかりやすく動揺する。
 そんなルネ達の中を輝きの乙女は闊歩する。
――恐らく今回の戦いで出してくる可能性が高いですわ。気を引き締めていきましょう。
 『レミ=ウィンズ(aa4314hero002)』の言葉に杏奈が頷くと最大加速。
 ジャンヌの光を振りまきながら、ソードルネへと迫る。
 反射的に伸ばされた刃。
 その刃をクリスタルフィールドによって減衰、僅かに角度をつけて刃をそらして懐へ。
 その移動速度を生かしたまま杏奈は盾を腰に引き寄せて体当たり。
 ルネの体がくの時に折れ曲がるが。そのまま杏奈は両足で地面を掴んで腰を回転させる。
 するとるねが砲弾のように吹っ飛んで別のルネを巻き込んで倒れた。
 次いで背後から風切音。ハープルネの風音だ。
 それを受ける杏奈は全身をつめで引っかかれるような痛みを感じるがこれはこれで好都合。
 その風に翼と盾でうまく乗り、空を走る。
「はああああああ!」
 そのまま着地地点のルネを大量に吹き飛ばしてイリスと合流。二人も塔を目指した。
 そんな息のあった戦術をみせるリンカーたち。混乱極める戦場でそれほど自在に動けるのは当然サポートあってのこと。
 そのサポート役には暁の面々が抜擢されていた。
 小隊【暁】の面々は実は混乱に乗じて船で接近、上陸するのは少し待って情報収集に努めていたのである。
 そして杏奈とは別行動。側面からCD陣営の奥地へと足を延ばす。
 そんな暁陣営の戦闘を務めるのが。『火蛾魅 塵(aa5095)』である。
 彼はさっそくのした少年兵の懐をまさぐってペンシルタイプの注射器を持ちだす。
 そしてその右手に霊力を灯す。すると。
「…………お願い……します……子供たちは……殺…………さない、で……下さい」
 『無明 威月(aa3532)』が止めにはいった。
「おう、嬢ちゃん。いい加減にしろや」
 冷えた声を出しながら塵は威月を見つめる。そのまま右手を持ち上げて、威月を見たまま魂毒焔を放った。
 こちらに銃口を向けていた少年兵たちがもがき苦しみその場に倒れる、その光景にショックを受ける威月である。
――おい、てめぇ、戦場で勝手な真似するんじゃねぇ。
 見かねた『青槻 火伏静(aa3532hero001)』が声を荒げるも塵は悪びれる様子が無い。
「おいおいおい! お前等よ。現実をみてくださぁい。こいつら見たらわかんだろ? ぼろぼろなんだよ!」
 告げると塵は少年兵の装備を剥ぎ取り上着を引き裂いた。
 それから視線をそらす威月。
「ミロ」
 無機質な塵の声。それに導かれるように威月が視線をあげると、その少年の体が目に入る。
 薬物の投擲のあと、過激な訓練の打撲痕。縫い合わせた痕。目は虚ろで呼吸が荒い。薬を求めて、その視線は塵の手元に寄せられている。
「生きてても意味ねぇからさ! 消毒してやるよ。せめて死ぬ時くらいには綺麗にナァ!!」
「……ソノ辺りで、塵屑(トラッシュ)どノ!!」
 そう塵の手首をひねりあげる何者かがいて、子供が地面に落ちる。
 『鬼子母 焔織(aa2439)』が塵を睨んでそこにいた。
「お久しブリでス、皆さン。只今、帰りまシタ」
――あぁああ子供こども子供! ぺろぺろさせてぇええ!
 そう叫んだのは『青色鬼 蓮日(aa2439hero001)』だが、共鳴しているため地面に転がっている子供はぺろぺろできない。
「青色鬼さん!」
 威月が嬉しそうな声を上げる。実際かなりの年月会えずにいた。
 焔織曰く長らく姿を見なかったのは世界中を回り、見分を広めるため。らしかった。
「確カニ世界ノ闇を前に弱者……子供など無力、その事は《自分が一番知っている》」
 告げる焔織の表情は真剣だった。
――だがなぁ魔人どのや? 子供っつーのは究極の《光》なのだよ。
 蓮日は告げる。
――心せいよ? この戦で無闇に子らを殺む事あれば……キミの次の敵はこの《鬼子母人》ぞ!
 その言葉に舌打ちすると塵は踵を返して歩き去る。
「参りまショウ、威月どノ」
 焔織が威月を振り帰ってそう言った。
(ああ、やっぱりだめです)
 威月は俯いて拳を握りしめる。
 彼を抑えるためにこの場にいて、それは自分の弱さを克服する為でもあって。何とか見返したいという思いもあって、でもその目標に届きそうに薙いでいる。
(けれど……)
 諦めるわけにはいかない。だって彼という存在は悲しすぎるから。
「そちらの状況はどうですか?」
 杏奈からの通信が入り威月は努めて明るい声を出す。
「杏奈さんも、負けないで……『その背に暁を刻め』……です」
 その間も塵は酔ったように歩きまわる。
「台無しにしてやんよ……綺麗に飾った水晶も、ドブ沼の奴等も全部よぉ?」
 そう塵は獲物を探す。
 この場合の獲物とは少年兵ではない。
 ルネ達だった。基本方針は本来、D勢力に加担しルネを減らすことなのだから。
「嘆きに沈みな!」
 周囲に立ち込める亡者嘆叫がルネ達を蝕む。突然の攻撃に周囲のルネは混乱し、逃れようと統率を乱した個体から焔織が刈っていく。
「……門開き、八極が遠方まで貫け……八極の極意、ゴロうじろう」
 すり足で歩み寄る焔織、腰に力をため拳を引き絞り放つ。
 その重心を低くした体制のままにもう一歩前へ。そして焔織はもう片方の拳を放ち、ルネの腰を粉砕した。
 その背後から刃を構えたルネが突っ込んでくる。
 それを阻止するのは威月、ソードルネの刃をいなした後に半歩離れてダズルソードの斬撃を浴びせる。
「だい……じょう……きゃ!」
 威月が焔織に手を貸そうとした瞬間ハープルネからの遠隔攻撃。
 地面をえぐり飛ばす威力の砲撃で二人は吹っ飛ぶがすぐに体制を立て直した。
 威月は自身にリジェネを付与しつつ、大規模作戦でしかお目にかかれないような軍勢を前にため息を漏らす。
「…………暁が隊員……無明 威月、参ります……!」
 突っ込んでいく威月。
 ただ、焔織は成功法では任務達成は難しいと考えてこんな物を持ってきていた。
 その手に握っているのは先ほど少年兵からはぎ取った上着と装備。
 先ほど塵が倒した少年兵からはぎ取っておいたのである。
 それを纏う焔織。
――ぷっはは! 外つ国人の背丈だとお前も子供だなー!
「フザけている場合では無いでスよ、蓮日さマ」
 その作戦は塵も気に入ったようで。塵は共鳴を変化『人造天使壱拾壱号(aa5095hero001)』形態にして、先ほどはぎ取った少年兵の衣装を身に纏う。
 そしてルネの数が減ったことを確認すると反転。今度はDの本拠地をめざし進むことにする。


第二章 人と愚神と正義

 戦場を切り開く作業は思いのほか進んでいる。練度が高いというのもあるが、チームで進んでいるというのが功を奏したのだろう。ルネ達、少年兵たちを含めた乱戦にうまく対応できている。
 そんな戦闘開始から15分立ったくらいだろうか。
 塵がふと視線を持ち上げる。そしてぽつりと告げた。
「お? 面白れぇ気配だ」
「どうしタのですか? いったい」
 焔織がそう塵に尋ねると塵は無言でそのお面を焔織に渡す。それは古びた、けれど綺麗に磨かれたお面。どこにでもありそうなお祭りで買える屋台のお面だった。
「預かっててくれよ」
 告げると塵は塔へ向かって歩き出す。
「大事なものなんだ」
 そう告げる彼の横顔はさみしそうだったという。

  *   *

「そこどいて!」
 葵は速力そのままに突き出た岩盤を蹴って空へ。ルネが密集している地点を眼下に収めるとそこにカチューシャを撃ち放った。
 反動でわずかに滞空する葵。直後爆風が葵の前髪を揺らした。
 その後着地。四つん這いに手をついて、そのまま体を回転。刃を握り円を描く動作で、振り上げるように周囲のルネ全員を切りつけた。
 その直後、ハープルネからの遠距離攻撃が飛ぶが、これをイリスと杏奈が防ぐ。
 葵は二人を飛び越えるとハープルネに素早く近づきメーレブロウで対処。
 刃を引き抜く。
「こっちはもう少しで塔までつくよ、そっちはどう?」
 そう葵がインカム越しに昂へと問いかける。
 昂は狙撃兵への対処に向かっていた。
 真正面に捕えれば雑兵の命中力では昂を捕えることはできない。
 確実に一体一体的確に処理していく。
 その間に戦場をコントロールしているのは遊夜。
「と言う訳で、ちょっと苦戦して貰おうか」
――……ん、あの子達の……お相手してて、ね?
 あえて敵の陣形を切り崩し、少年兵をルネらに当てて掛かりきりにさせる。
 そして戦場の混乱を混ぜ返しつつ状況が動くのを待っている。
「双方ともに切り札が複数ある、追いつめられたら切るはずだ」
――……切らないなら、突入チャンス……切ったら、もう片方も……切り札で、大混乱。
 そう遊夜は敵の切り札、というか総大将であるCDをスコープ越しに眺める。
 次いで戦場を見るとルネ側がかなり押されていた。
「あくまで希望的観測だがやられっぱなしにはしまい」
 遊夜としては衝突に巻き込まれないように戦力を温存し、指示に従い敵勢力を削る方針だ。
「こちらは有限、手玉無限の奴ら相手じゃジリ貧だ」
――……ん、こっそり……確実に、獲物を狙う。
 告げると遊夜は海へ視線を走らせる。増援のボートが到着しようとしていた。それを昂に伝える。
 すると昂は停泊した船を狙い動いた。乗っている全員を女郎蜘蛛で縛り、航行能力を奪って船に乗せて送り返したり。
 そんな妨害工作に集中していると、いらだちの声を上げるのはCDである。
「くそ! 何やってんだよ! イレギュラーぐらい自分で対処しろよ!」
 そう苛立ち交じりに告げると、ヨーヨーを取り出し冷たい表情になった。
「無理か、そういう風にトレーニングしたもんな」
 そう踵を返すと自ら対処するべく昂のもとへ向けて走ろうとした。
 その矢先。CDは顔面を弾かれたようにそらすと、その脇を弾丸がかすめた。
 頬に一筋血が伝う。
「なんで頭をふっ飛ばさなかったんだよ」
 そうCDが見据える先には遊夜がいる。
「子供を殺す趣味はないんでね」
 CDはこの時初めて実感した。包囲されている。
「いいぜ、やってやろうじゃん!」
 そしてCDは本気の牙をむく。

   *   *

 同時刻ルネ側では一つ変化が起きた。まず断続的なエンジン音が聞こえ、空に雲がかかる。
 それを眺めていたのは構築の魔女。
 彼女はメルカバの制圧力を生かすべく殿を務め、ルネ達を撃ち飛ばしていた。
「あちらも切り札を切ったようですね」
 そう告げると京子が振り返る。
「けど、あっちに飛んで行ったみたい。D側に対してだろうね」
「なるほど、てっきり私達への対処かと……共闘ではなく潰しあいであることを忘れずにですね」
 MRLによる爆撃でルネを眼前から吹き飛ばす。よけられない攻撃に対してはクリスタルフィールドで対応した。
 水分子の振動を減衰させるルネ対策。空気の振動数を減衰させる音響対策。
 大丈夫、これが科学なら分析は可能。
「双銃の片割れとして遅れるわけにはいきませんね……!」
 告げると構築の魔女は京子へと迫るルネに弾丸を浴びせる。
 それは塔の方面から沸いてきた新たなルネ。
「進行方向……2時の方向にさらに予兆あり! 気を付けてください」
「予兆って増援?」
 入り口近くに存在する巨大な砂時計の様なアイテム。それの砂……水晶だろうか。
 それが落ちきるとなんと、戦場のルネの破片が集まって再構築されている。
 無限の兵力の正体はこれだったのだ。
「破壊……しますか?」
 構築の魔女は迫るソードルネの刃を砲塔で受け押し返し、その右足を打ち抜いた。
 もがくルネの右腕は京子が打ち抜いて無力化する。
「今は、少しの時間が惜しいよ。いこう、魔女さん」
 告げると再生中のルネをすり抜けて塔の内部へ、それにカゲリや杏奈も続く。
 構築の魔女もメルカバをパージ、殿を務めながら内部へ走った。
 葵を追い抜いて。
「あなたはどうするんですか!?」
 杏奈が駆け抜けざまに振り帰り、そして葵に問いかけた。
 すると葵は首を振ってこう告げる。
「私、ここで待ってるよ」
 葵が見据えたのは一見普通のルネ。しかし。歩みがゆったりとしている。他のルネのように積極的に誰かを倒そうという意志が感じられない。
「砲塔をやったのは、お主か?」
 葵は先ほど戦場を離れていた。アサルトユニットを装備し、潜伏しているであろう船を捜したのだ。
 そうすれば案の定。島の影に潜伏しており、それには砲台が備え付けられていた。
 ただ、敵にとっては誤算だったらしく、その狭苦しい海域内では満足に動くことができなかった。
 結果船体に穴をあけられ船は沈むこととなったのだ。
「ルネのふりしたって駄目だよ、ガデンツァ!」
 次の瞬間、そのルネの身長が伸びる。それと同時にガデンツァの腕も伸び葵へと迫った。
 だがその音を遮る咆哮があった。
 次いで放たれる死面蝶。
 それがガデンツァを包み、葵はなんとかその指先を回避する。
「なぁ、分かるか? 力が無きゃ何も出来ねーんだよ。そうだろ紅孩児?」
 誰もいない。塵の周りには誰も。声も届かない。
 当然だ、彼は使ってしまったのだから。ペインキャンセラー・リゲインを。
「……もっとだ。俺に力を寄越しやがれ」
「ほう、人語を解さぬ魔獣となり果てたか」
 ガデンツァは二人のリンカーに挟まれてなお笑みを絶やさない。
「ふむ、塔の中に入られてしもうたか。しかし。それはそれで一興、嘆きの音がきけるやもしれん」
 そしてガデンツァは優美に指を広げると二人を挑発した。
「好きなようにかかってくるがいい、まぁお主らでは役者として不足しておるがな」

    *   *

 塔の内部に侵入を果たした瞬間。
 それは動いた。
 鋼鉄の戦士。竜人。
 その黒く反転した姿。
 レジェルドーラ・ネガは一行を威嚇し。そして旗を振り上げた。
「っ……ラジェルドーラ!!!」
 杏奈が苦い顔をしてその旗を真正面から受け止める。
 ここで杏奈は断言した。以前に戦った時よりも数段パワーが上がっている。
 自分も成長しているはずなのに、押し切られる。
「貴方の王は……主はこれに関わってるっていうの!?」
 軋む足、軋む腕。それでも耐えて杏奈は問いかける。
「くっ……それでも立ちはだかるなら……!!」
 杏奈はその旗を弾く、しかしドーラが左手に携えた旗で薙ぎ払われそうになる。
 それを受けたのはカゲリ。
 そしてその隙に駆けるのは。構築の魔女と京子。
――いいぞ、ずいぶんと状況が贅沢だな。
 直後ラジェルドーラが吠えた。結果体に突き刺さっていた杭のような旗の柄があたりに転がり。
 それを拾うと振り回し地面に叩きつけた。
――ルネに、ドーラに、D。そして数多の試練を乗り越えんと走る仲間たち。
 これは観察のし甲斐がある。
「少し黙ってろ」
 ナラカはカゲリの言葉をきかずに、ずっと脳内で喋っていた。
 彼女曰く、状況から何まで面白いの一言らしい。混迷を極めれば極めるほど試練としての意義はあると。
 ただそれだけではない。
 彼女は信じているのだ。仲間が、自分が信じる者達が。
 あのものから、宝物を奪い取ることを。その瞬間を思えば痛快だろうと。
 だから彼女としては期待せずにはいられないのだ。
 この大きな戦場をかける物全ての輝きをその目で見届けんと目を光らせているのだ。
 信じているのだ。皆なら、必ずや良い未来を得られるのだと。
――莫迦娘にも、光り輝く様を魅せてやらねばなるまいて。
 ドーラの振りかざす旗へ杏奈は再度挑んだ。
 一本目の刺突を盾でそらし。二本目は真っ向から盾で受けた。
 そらした旗の布部分が翻る音を感じて退避。
 一度布に巻き込まれたことがある杏奈としてはあの時の記憶がよみがえって気が気ではない。
 その注意をひきつけている間に構築の魔女が動く。
「『武力王』の配下が暴力に振り回されるのですか!?」
 空ぶった旗の柄を踏み台に飛んだ。それを見あげ走る京子。
 彼女を信用して上空からの乱射。
 正常な彼であればそれを旗で防いだだろう。しかし今のドーラは狂気に落ちている。
 ダメージを受けながらドーラは旗を投げた。
「そんな!」
 その傍の直撃を銃身でそらすも、構築の魔女は布部分に巻き込まれて天井に叩きつけられる。
 背後に回った京子は一瞬魔方陣の中心を見つめる。
 そこに吊るされている男は苦悶の表情を浮かべながらもまだ抗っているようだった。
 苦い顔をして京子はラジェルドーラへと振り返る。
「ラジェルドーラ、……あなたが最後の一体ね」
――狂わされているのでしょうか?
 アリッサが問いかけた。
「かもね。でも、あなたの兄弟のことはよく知ってる。あなたの魂もそんなヤワじゃないでしょ?」
 その京子の言葉にドーラは鋼の軋む音しか返さない。
 それに悲しげな視線を送ると、京子はキッと唇を引き結んだ。
「きみがやられて嫌なこと、全部覚えてる、手加減するつもりなんて、さらさらないから!」
 あの時よりも切実に、勝ちたい。そう京子は思った。
 あのドーラに勝てたのだから。
 このドーラには絶対負けられない。そう思った。


第三章 秘策と看破


 『鬼灯 佐千子(aa2526)』はダクトの中で一つため息をついた。この研究施設が広いのは見つからなくていいが、気を抜くわけにはいかない。
 『リタ(aa2526hero001)』と三日に渡る共鳴は一度も解除できていなかった。
 彼女の継続した任務としては、敵の情報を探る事。
「今、戦いが始まったみたいね」
 そうインカム越しの通信を聴いていて佐千子は思った。
 情報は伝えられるだけ伝えている。あとはそれを彼らがどうするか。だ。
――それにしても驚いたな。
 リタがつげる。持ち返った情報を確認するために佐千子はスマートフォンを眺めていたのだが、そこには『全域のスローン』が得た視覚情報も混じっていた。
 彼は本当にH.O.P.E.やガデンツァの全てを監視している。
「ガデンツァの、本拠地のデータ。そして……」
 宝石砕きの概要。
 それはガデンツァの邪英化術式を砕くための術。
 つまりこれでグラノゼーテを救出できるだけにとどまらず、ヴァリアメンテを封じられる可能性が出てきた。
 まぁどちらにせよ、H.O.P.E.の手の届かない場所に持って行かれては意味がないのだが。
 それだけ情報を頭で整理すると佐千子は狭いダクトで仰向けになった。
――見張りは任されよう。
「うん、御願い」
 佐千子はリタの提案に乗ると目を瞑った。
 スパイの仕事の大半は待つことであるが。ほとんど寝ずに好機を待つのには本当に体力が必要だった。
「ああ、この戦いも」
 もうすぐ終わればいいのに。
 そう佐千子は目蓋を下ろす。
 蘇るのは燃え盛る森の中の畑。
 あの場所からずいぶん。遠くまで来てしまったものだ。

   *   *

 戦場に断続的な金属音がこだまする。
 それと地面を踏みしめる、ざざっと言う音。
 細かくステップを踏みながら少年はステップを踏み。白い少女を追い詰めている。
 チルルはCDと相対していた。
 遊夜の射撃に合わせてCDに最接近、捕えようとしたのだが。さすが敵の大将クラスである。
 なんと遊夜の弾丸を避けチルルに対応。ヨーヨーの糸でウルスラグナをからめ捕り。
 そのもう片方のヨーヨーでチルルの顔面を殴りつけた。
 そのチルルをフォローするために昂が背後に接近、背後から縫止による行動阻害を狙うが、CDは反射的に振り返って昂へとナイフを突き立てた。
「これは……縫止」
 CDの攻撃に対して驚きの表情を見せる昂。そのあいだに少年兵たちが集まり射撃姿勢を作っていた。
 飽和射撃、面制圧。
 弾丸が昂に降り注ぐ。
「くそっ、数が多すぎる!」
 ルネ側に注力した影響だろう。少年兵たちに余力が出てきた。手の空いた少年兵たちはCDに加勢しようと集まり始めるが。
 それを妨害するのが遊夜である。
 へパイトスにて相手からは触れられぬ距離から弾丸を当てていく。
――……ん、殺しちゃだめ。
 ユフォアリーヤが言うように、少年兵たちへの攻撃は致命傷を避けて行われていた。
 膝や腕と言った関節を狙って戦闘能力を奪っていく。
 そんな戦況に焦っているのは遊夜たちだけではない。少年兵たちもだ。 
 中でもリーダー格の少年が懐から薬剤を取り出すとそれに全員が習う。
 少年たちは戸惑いと決意の表情を交互に繰り返しながら。
 もう人間には戻れない。そんな思いつめた表情でそれを腕に打ち込もうとした。その瞬間。
「自分の事は大切にしてください」
 そう楓が少年の手を取った。
 いつのまに……そう戸惑う少年兵だったが。
 その混乱が静まる前に楓は動いた。
 背後の少年に肘鉄。目の前の少年からペインキャンセラーを叩き落とし。足を踏みつけ顎を打ち抜いた。盾で右から迫るナイフを弾き。踏込み盾のふちで殴り飛ばすと。
 少年の手から転がるペインキャンセラーを悠々と踏み潰す。
 背後に敵の気配。
 それに対して回し蹴り。
 豊かな髪が風になびき、地面の上で足をそろえると一つにまとまった。
 だが、まぁ、火力が足りなくて行動不能までは持っていけなかったのだが。
「まだ薬を持っているなら、容赦しません」
 そう断罪之焔を鞘から抜き放つと膨大な熱量があたりに広がった。
 急速に空気が乾いていき、感想で楓の唇が切れて赤く染まった。
 そして視線を一瞬CDに向ける、彼は戦っていた。
 彼は強い。おそらくデクリオ級愚神くらいならば一人で倒せるだろう。
 だがそんな強さ、何を代償にして得たというのだ。
 彼はあんなに小さな子供なのに。
 チルルはそんなCDのヨーヨーを盾ではじいた。
 しかし、はじいたと思ったら盾をからめ捕られている。
「強い!」
 残念だがチルルが相手取るにはレベルが違う相手だった。だが彼の注意を引き続けることはできている。
 彼にはチルルが突破しなければならない強敵と映っている。
 チルルは盾を放棄して刃で切りかかり、それに昂が合わせるも、CDはその双撃を回避。潜るようにチルルの脇に躍り出ると、回し蹴りを放つ体勢のまま空中で止まった。
 見れば足のつま先から血が噴き出している。遊夜の弾丸だ。
 痛みで一瞬動きを止めるCD。
 それにトドメの一撃を放つ遊夜だったが、それは回避された。
「流石、簡単には当たってくれねぇか……」
 そして遊夜に向けて駆けだすCD。
「なら、これならどうかな?」
 放たれた弾丸は物理法則を越えてCDに襲い掛かる。
 ありえない角度での跳弾。そしてそれがCDの腕に命中すると大きく体勢を崩した。
――……ん、そこはボク達の……射程内、逃がさない……よ?。
 盛大に地面を転がるCD、そんな彼の胸ぐらをつかみあげたのは焔織。
 焔織の目は淀んでいた。
 まるで、目の前のターゲットを葬るときの彼の様な目。
「なんだよ、お前。はな……ぐほっ」
 CDがなにも言いきらないうちに焔織はその体を殴り飛ばす。
 地面に転がるCDを一瞥し焔織は振り返った。
 そこには威月が立っていて。少年兵を牽制しながらこちらにじりじりと押し込まれている。
「たしカ、あなたハ多数の能力ヲ保有できるノデシタネ」
 威月が押し切られてこちらに走ってきた。それを追う少年兵たち。立ち上がるCD。
「それが何だっていうんだ?」
「ええ、キャパシティというものがアルト聞きまして」
 次の瞬間焔織は身を翻した。そして。
「無明さん、頭ヲ下げて!」
「…………オン! ドドマリギャキティソワカ……ッ!」
 放たれた回し蹴りは炎の様なオーラを纏い追いすがってきた少年兵ごとDを狙う。
 しかしDは間一髪のところで背後に退避。
 それに焔織は顔をしかめた。
 佐千子からの報告にあったのは、CDに関する耐久試験のデータだった。
 CDは多数の能力をその体で受け止める触媒として体が改造されている。
 それは愚神の技術によってのものだったが、まだまだ彼は人間の域をでない。
 そのために父親のように無尽蔵な能力取得とはいかず。能力を獲得するのに気にするべき許容量が存在するらしい。
 さらに彼は受けたスキルを全て吸収してしまうらしく。
 結果、彼が能力を削除する暇を与えずにスキルを叩き込み続ければパンクさせられる……らしいのだが。
「スミませン、子供たち。今は……寝ていて下さイ」
――…………赦せ! キミらはこの後に必ず助ける!
 子供たちの軒並み昏倒させた蹴りも当たらなければ無力。
 追撃のために威月がパニッシュメントを放つもCDはその攻撃を回避。
「可能であればスタン狙いでチャンスを作っていくんだけど!」
 そうCDの後ろから殴り掛かるチルル。しかし攻撃はあえなく避けられる。
――敵の数が増えてきたら遅滞戦闘に切り替えていこうね。
 CDが倒せなくても少しでも時間を稼がなきゃ、突入部隊が挟み撃ちになりかねないだろうし。
 そう告げるスネグラチカの声にあたりを見渡す。確かに先ほどより少年兵が多くなってきた。
 だがそんな少年兵たちにCDは重苦しくこう告げる。
「撤退だ……」
「逃がすとおもってるんですか?」
 昂が問いかける。
「少なくとも交戦はやめる。そうなった場合、塔の中にいるお仲間は大丈夫かな?」
 CDが告げると全員が考え込んでしまう。
「それに、ガデンツァも出たみだいだけど?」
 その言葉にはじかれたように反応したのは楓。
「志賀谷さん、カゲリさん」
 楓が思わず塔へとはしった。彼女にとって最優先は敵を倒すことではなく、護る事だから。
 無力化された少年兵たちが逃げ帰るのと逆走して楓は走るとその殺意のやり場を失ったルネと出会う。
 楓はルネ達を傷だらけになりながらかいくぐり、塔のたもとを目指した。
「そうですネ、いささかコチラも力を使いすぎマシタ」
 焔織は告げると楓に習い撤退支援に向かう。
 CDを捕えるのは今回では無理だと、全員が思った。
 きっとあの場のメンバーとCDだけなら何とか捕獲もできただろうが、少年兵にガデンツァ勢力。さらに離れた仲間という複雑すぎる状況がそれを許しはしないだろう。
「殿を務めマス、ケガをした少年タチも可能な限リ確保ヲ。ルネに殺されないように」
 その焔織の提案に昂も乗った二人は負傷兵、リンカーたちの撤退する道を作るために前線に赴く。 
――芸達者なやっちゃ。
「子供の頃、仕込まれタのデ」


第四章

 葵は口にたまった血を吐き捨てて膝をついた。
 目の前の水晶の乙女。それを睨む。
「来ると思ってたよお姉さん? 残念ながらここにメディックはいないけど?」
「うむそうじゃな」
 興味なさ気に葵を眺めるガデンツァ、その手につるし上げているのは塵だった。
「何でメディックが欲しいの? 何かを作ろうとしてる……いや、何かを取り戻そうとしてるのかな?」
「取り戻す?」
「メディックのスキルがやっかいなら倒してしまえばいい。捕まえたいのはその回復力を何かに利用しようとしてるから?」
「倒しても倒しても湧いてくるじゃろうが。バトルメディック。ゴキブリ並の生命力じゃしな、邪魔じゃ」
 ただそれだけの事。リンカーがガデンツァを対策するのと同じようにガデンツァもリンカーを対策しているのだ。
「じゃが、確かに殺してしまうというのはとても良い手じゃ。わらわも断末魔の悲鳴をとくと聞きたい。しかし、それを聴くだけであれば、何もメディックでなくともよい」
 ガデンツァの瞳にサディスティックな光が宿る。
「ちょうど、ほら。そこに横たわる小鳥。いや、美しい、さぞや綺麗な鳥かごの中で育ったんじゃろうな、うらやましい限りじゃ。殺してよいかの?」
 葵は恐怖をねじ伏せて立ち上がる。仲間たちがあと少しでここにたどり着くのだ。それを信じて今は耐えなければ。
 そうしなければ塵が、塔の中にいる仲間たちが死んでしまう。
「私達から自由を奪えるものなら、やってみるといい!」
 葵は刃を握り直す。そしてガデンツァへと単身立ち向かった。

   *    *

 ラジェルドーラサイドは苦戦していた。
 もともとラジェルドーラは武に自信があるリンカー十人で抑えていたのだ。
 今回人数をねん出したと言っても五人程度が限界だった。
 前回から見て半分の人間でラジェルドーラの相手をしなければならないと知りつつ。
 武勇を誇る者達は諦めずに戦闘を続けている。
「この力……」
――ドーラが以前合体したときのパワーアプを思い出しますわ。
 アリッサの言葉で蘇るのはコアが二つあるラジェルドーラ。
 最終決戦で相対した逢の姿より禍々しいが、なるほど、似通っている。
「記憶もうけ継いでるのかな」
 京子はドーラの旗を回避すると弾丸を浴びせる。それをドーラは旗で回避しながら迫りくるカゲリを迎撃していた。
「記憶があったとしてもあれでは生かしようがないのではないでしょうか」
 そう告げたのは構築の魔女。ドーラに体勢を崩されたカゲリの離脱をサポートすべく正面から顔面を狙っての発砲。
 それにスイッチする形でイリス、杏奈が突っ込んだ。
「煌翼刃・螺旋槍!!」
 えぐるようなイリスの剣技。それに対してドーラは素早く反応。後退ではなく突進で迎え撃つ。
 小柄な二人は吹き飛ばされ、ドーラはその手に銃を握って追い打ちをかける。
「そこは、旗を振りながらの後退でしょ?」
 京子は悲しそうに告げると構築の魔女と共に四肢関節へと弾丸を集中させた。
 体勢を立て直すことなく攻撃に徹したため、再度旗を装備するまでに時間をとられているのだ。さらに関節部分へのダメージがドーラの動きを鈍くした。
 怒り狂ったラジェルドーラは銃を乱射した、その大口径の弾丸は床を砕き壁を粉々にしたが、二人が別々の咆哮に散開したためかすめるだけにとどまった。
 だが狙いのつけ方も、相手を追い込むような計算された弾道もない。
 ただただ相手を倒すだけの暴力に京子は失望の表情を浮かべる。
「こんな戦い方なんて、あなたらしくないな。つまらないよ、こんな武をあなたの王に捧げてたの!?」
 その時ドーラの瞳に淀んだ光が宿って、そしてドーラは吠え猛る。
――厄介だった旗の防御性能を切り捨てているのは弱体化要素だねぇ。
 アイリスの言葉にイリスが身を震わせながら立ち上がった、確かに不意を突かれ、もろにタックルを受けたがそれは敵も同じこと。
 装甲がえぐれ、電気が漏れて焦げ臭いにおいがあたりに漂っている。
――電撃を操ることもできないか……哀れだな。
 ドーラは双銃の片方で京子、片方で構築の魔女を追いまわしながらイリスをじっと見ている。
 その時カゲリ、杏奈、イリスが同時に動いた。
――成程苛烈さは増している、が。
「ならこっちは逆に丁寧に捌いてやるよ」
――技術と戦術という最大の強みを放棄しては駄目だろう?
 アイリスは思う、出力の上昇だけで単調になった愚神との戦闘経験は多い、なので脅威度は減ったと。
 そしてドーラが動く、体から杭を引き抜き真紅の旗へ変換。杏奈に突き出すと、杏奈はそれを盾で見事に抑える。
 その盾を足場にカゲリは前方へ加速。ドーラの懐に潜り込んで斬撃を。
 しかしそのカゲリを大きな手で掴み取ると、ドーラは胸部装甲を開いた。
 エネルギーが充足されていくが、京子が隙間を縫って動力炉を打ち抜いたことにより動きが一瞬止まる。
「茨散華!!」
 イリスの攻撃がドーラの腕を切り裂いた。フレームがはじかれ指の腱とも言うべき人工筋肉が千切れる。 
 カゲリはその場に降り立ち。開き切った胸部装甲を見つめた。
 そのカゲリに旗を突き刺そうとするドーラ。
 ただ一方は京子と構築の魔女の射撃によって、もう一方の旗は杏奈とイリスの盾によって防がれる。
 次いで煌く浄化の炎。
――滅せよ!
 燃えたつ炎は莫大な霊力と共に全ての悪しきを飲み込み食らう。
 天剱が閃いた。
 まるで切り開かれるように胸部装甲は吹き飛び、むき出しになった動力炉もヒビが入る。
 だがこれで終わるドーラではない。
 無理やりの、自分の体に負担がかかるも承知の上の射撃。
――三重結界を振る展開。
「下がってください!!」
 イリスが間に入ってカゲリを守った。
 軋むジャンヌ、エイジス、ティタン。
 だがしかし、防ぎ切った。
 イリスは全身から陰炎を立ち昇らせ、息も絶え絶え、膝立ちで動けないが耐えきったのだ。
 しかし、ドーラ・ネガの恐ろしさはこれからだ。
 再度エネルギー充填。
 対応がイリスでは間に合わない。
――覚者よ!
「こちらも動けそうにない」
 膨れ上がるエネルギーそれがほぼゼロ距離でカゲリに、イリスに叩きつけられようとした瞬間。
 爽やかな香りがカゲリの鼻腔をくすぐった、甘い花の香りの様な。
 それは戦場に場違いなシャンプーの香りで。
「退いてください!」
 次いでイリスとカゲリは首根っこつかまれて後方に投げられた。視界映るのは青と銀を解け合わせたような髪の色。
 楓だ。
 そしてその手にたずされた炎の剣で。
 ドーラのトールカノンを切り裂いた。
「はああああああああ!」
「まってください! まだ」
 構築の魔女が声を上げる、彼女の耳にはドーラに充足音が響いていた。トールカノンに別のトールカノンをぶつけるつもりだ。
 これには楓も対応できない。
――私は宝石の妖精でもあるからね。ああいう限界を超えた輝きには馴染みがある。……その結末もね。
 立ち上がるイリス。
 その刃の切っ先をドーラに向ける。そして。
「はあああああああ!」
 楓の隣でトールカノンを真っ向から切り裂く。
「煌翼刃・天翔華!」
 直後大爆発が全員の視界を遮った。
「みなさん!」
 杏奈が叫ぶ。濛々とたちこめる煙の向こうには何も見えない。
 しかし数瞬の後その煙の中から楓、カゲリ、イリスが姿を現す。
――まぁ、一番の問題は威力が上がっているかどうかだが。
「むしろ、あのときは戦略的につかわれてたからそう言う意味なら、前の方が痛かったよ」
 全員ぼろぼろだが無事だ。トールカノンを防ぎ切ったのだ。
 喜びにわく一同。対照的に京子は煙の向こうに突入した。
 その煙の向こうでドーラを探していると、京子は声を聴くことになる。
「ああ、また、あえたね、小さき武人」 
 それは今まで聞いたことのない、ドーラの穏やかな声だった。
「意識があるの?」
「全ての力を出し切り、消えるまでのこの数瞬。私は私にやっと戻れた」
「ごめん、あなたの兄妹を助けられなかった」
「いいや、いいさ。それより頼みがある」
 鉄の軋む音、そして小爆発。後にドーラはこう口を開いた。
「主を、助けてはくれないか?」
 その言葉に京子は目を閉じ、そしてもう一度顔をあげると。言った。
「あなたの兄弟には間抜けにも襲撃を止められなかった借りがあるからさ。此処で返すよ」
 その背後に構築の魔女が姿を見せる。まるで浮上するように、ゆったりと。
「我が二つ名に懸けて」
 直後二人は煙を裂いて、背中合わせに銃を天に向けた。
 いつの間にか京子は装備を双銃からグラウセールに持ち替えている。
「ここで止めなきゃ、それこそわたしは道化だもの!」
 そしてありったけの霊力を弾丸に込めた。
「引き返せない状態だったら介錯くらいしかできないけど……それでもいいの?」
 イリスがドーラの亡きがらにそう問いかける。
「構わない、その時は君たちの武で我が主を……」
 直後京子が弾丸を放つ。放たれた弾丸は構築の魔女の弾丸と合わさり。空中で無数の鉄片へと分裂し、壁を跳ねまわり、丁寧に施された術式をズタズタに食い破っていく。
 弾丸の嵐、そう表現するにふさわしい攻撃だった。
 そして魔方陣が砕け散ると、王が力なく地面に落ちる、屈強な体を持つ男性だった。
 彼が呻きながらうっすら目をあけると京子を見つめる。
「王よ、今だけはあなたの銃となりましょう。……あとで話、聞いてもらうからね!」
 そして一同は塔を突破するため駆けだした。

エピローグ

 威月を含めたリンカーたちが塔のまん前に到着したとき。
 そこは凄惨な光景が広がっていた。
 と言っても、威月が想像していたようなガデンツァがあたりに肉片をばらまいて高らかに笑っているような場面ではない。
 塵がその力の限りを周囲にぶつけ暴走している姿である。
 これに関してはガデンツァも扱いに困っているようで、攻撃せずに塵の攻撃を避け続けていた。
 傍らに転がった葵が威月に視線を向けて手を伸ばした。
 威月はそんな葵に駆けよる、トリアイナを構えてガデンツァとルネを牽制した。
――覚悟はいいかぁ威月ぃ? こっからが……。
「……はい。本番、です…………皆さま、気合を入れやがれです!」
 仲間の帰る道を開くために突破口を見出そうと奮闘する威月。
 直後戦場が混乱することになる。佐千子がD側の通信設備を使って大音量で希望の音を鳴らし始めたのだ。
 これにはガデンツァは顔をしかめた。
「例え英雄(他の誰か)の手を借りたとしても、人類の権利は人類の意志で人類の手により守らなければならない。それが人類としての在り方で、それを為すからこそ人類は人類足りえるのよ」
 そう佐千子は自身が潜入していた拠点を後にする。
「…………正義なんてクソ喰らえ、人間舐めンじゃないわよ」
 そしてH.O.P.E.と合流するためにいったん帰路についた。
 ただ、現在の戦場は荒れている。
 特に暴走状態の塵が包囲され集中砲火を食らっていた。
 それをどうにかするために威月と焔織が走る。
「…………【浄破蒼炎】……!」
 パニッシュメントでルネを吹き飛ばすと、威月は塵に駆け寄るが、彼は仲間の姿が見えていなかった。
 だから焔織は預けられていたそれを差し出す。
「あなたの、無くしたくないものでしょう?」
 その時塵の動きが止まった。
「なんじゃ、もう苦悩をおわらせてしまうのかの? もったいないのう」
 ガデンツァのヤジを無視して焔織は塵にそれを押し付けた。
 それは、塵の恋人が祭りと聞けば必ず被ってた代物。その仮面を持ち上げて微笑みかける姿が、とても、とても好きで。
「…………よォ。あの世はど~よ? 快適かァ?」
 そう塵が言葉を吐いた。
「テメー、そのお面クソダセーから止めろっつったろ、ククク……」
 そして塵が倒れ伏す。
 その倒れた背中に威月は問いかけた。
「…………何故、ですか」

「そうまでして……」

「何を成したいのですか……」

「何処へ行こうと、言うのですか……」

 それに塵は答えない。代わりに指を二本差しだして、何かを挟む動作をした。
「オイ、タバコ出してくれよ。腕が動かねーんだよ」
 威月はポケットをまさぐり煙草に火をつけてやる。
「何処に行きてーか? そーさな……『何人も手の届かねぇ所』……あの世ってか?」
「無事ですか?」
 そんな威月と塵の前に現れたのは杏奈。
 いつの間にかガデンツァ、そしてルネは撤退している。
 遠くにヘリの音。大きな戦いは被害を出しながらもなんとか収束した。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
  • 暁に染まる墓標へ、誓う
    無明 威月aa3532
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 我ら、煉獄の炎として
    鬼子母 焔織aa2439
    人間|18才|男性|命中
  • 流血の慈母
    青色鬼 蓮日aa2439hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • これからも、ずっと
    柳生 楓aa3403
    機械|20才|女性|生命
  • これからも、ずっと
    氷室 詩乃aa3403hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 暁に染まる墓標へ、誓う
    無明 威月aa3532
    人間|18才|女性|防御
  • 暗黒に挑む"暁"
    青槻 火伏静aa3532hero001
    英雄|22才|女性|バト
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 心に翼宿し
    雨宮 葵aa4783
    獣人|16才|女性|攻撃
  • 広い空へと羽ばたいて
    aa4783hero001
    英雄|16才|女性|ドレ
  • 悪性敵性者
    火蛾魅 塵aa5095
    人間|22才|男性|命中
  • 怨嗟連ねる失楽天使
    人造天使壱拾壱号aa5095hero001
    英雄|11才|?|ソフィ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
前に戻る
ページトップへ戻る