本部

【甘想】連動シナリオ

【甘想】リア充大爆発! Mk-II

影絵 企我

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2018/02/17 09:46

掲示板

オープニング

●とーきょーナントカ
「ん~、どうしようかなぁ……」
 H.O.P.E.東京海上支部の食堂で、澪河青藍は悩んでいた。何に悩んでいたかというと、慰労会のロケーション探しである。神社で……は祀っている神は喜びそうだがスペースが足りない。夏なら外で祭りの真似事でもしたのだが、今年はどうにも厳冬ムード、喩え静岡でも外に長居しては身体に堪える。居酒屋やレストラン……も考えたが、参加メンバーを見渡したらギリギリ年下の方が多い。守銭奴気味だが年長者の義務には敏感な青藍、この事実に対して躊躇する。
「やっぱこの食堂でオードブル注文しちゃうのが一番楽かなぁ。ね、どう思う」
『別にそれで君が良いと思うのならいいんじゃないのかな』
 紅茶を飲みながら、ウォルター・ドルイットはさらりと流す。何だかんだで面倒ごとは青藍に押し付けていくスタイルだ。青藍はむっとして口を尖らせる。
「なんすかぁ、その適当な態度。こっちは色々悩んでるのに!」
『知らないよ。そんな事言われたって……』

 かくして喧々諤々(?)の議論を交わしていた二人は気付かない。食堂の天井の蓋がぎいっと開いて、其処からスナイパーライフルの銃口が覗いていたことに。
「さぁ踊れ……! 澪河青藍……!」
 引き金を引く。全く油断していた青藍は、その針のように細い弾丸に首筋を射抜かれてしまった。

「はうっ! ……」
 青藍は眼を見開き、びくりと震える。次第にその眼はとろんとしていき、頬も緩んでいく。突然の相方の変貌に、ウォルターは思わず仰け反る。
『せ、青藍?』
「……うなぁー」
 突然青藍は喉を鳴らして伸びをした。いかにも眠たそうな目で周囲を見渡していたかと思うと、いきなりテーブルに突っ伏する。
「みゅう……」
 青藍は両腕を枕にして眠り始める。ウォルターはグロ映画でも見ているような顔でそんな彼女を見つめる。
『え、え? 何だいこれ? コワイ……どうしたの』

「んだよつまらん! バカ姉貴め!」
 いつの間にか、ウォルターの隣にはライフルを杖のように床へ突いた仁科恭佳がいた。頬をぷっくりと膨らませ、蔑みの眼差しを向けている。
『恭佳? ……あ、じゃあこれは恭佳がやったのかい?』
「そう。ちょっと面白いもの出来たから試そうと思ったんだけど、姉さんの正体が内政屋で芋砂で設置キャラ使いでとにかくしゃがむウーマンだってことを忘れてたわ」
『出不精ってレベルじゃないね……』
 眠っている間にゲームのプレイスタイルをディスられる青藍。しかし彼女はみゅーとかにゃーとかヘンな寝息を立てるばかりだ。
『で、これはどういう事なんだい?』
「簡単に言うと、この人類を皆ネコとする最終兵器”M.E.O.W.”の餌食となったのだ。こいつの弾丸を喰らった者達は容赦なくネコとなる。軽い場合でも語尾がにゃーとなり、重い場合は姉さんみたいにネコとしての本能に抗えなくなるのだ」
『はぁ……なるほど』
『ギアナ支部の皆さんにはいろいろと迷惑をかけてしまいました……』
 ヴィヴィアン・レイクはどこか悪びれない調子でそんな事を言う。着々と恭佳イズムに染まっている。ウォルターは溜め息をつくと、冷めかけた紅茶を飲んで尋ねる。
『で、これからお二人は何をなさるおつもりで?』
「決まっている。バレンタインでチョコがどうのこうのと騒いでいる浮かれカップルどもにこの洗礼をくれてやるのだ。このハプニングをカップル達はどう乗り越えるか……これから壮大な実験を行う。邪魔するなよ、ウォルター……」
 イケボを必死に作って恭佳は言い放つ。ウォルターは溜め息をつき、手をひらひらさせた。
『はいはい。せいぜい頑張って』


●バレンティノ・バッカーノ
 かくしてバカ騒ぎが再来した。東京海上支部のあちこちで、語尾がにゃーに変わったイタイ女やキモイ野郎であふれかえる。無邪気に鳴きながらそこらを飛び回るロリやショタ。いつチョコレートを渡そうか、渡されるかとそわそわしていた空気が一瞬にしてぶち壊れる。
「はっはっは! 止めてみろこの私を!」
 スナイパーライフルを構え、ゴミ箱やら天井やらから飛び出して仁科恭佳は跳ねまわる。今まさに支部は大混乱へと突き進んでいた。

 彼女を止めてバレンタインの危機を救うか。それとも彼女と一緒にノリに任せて暴れるか。んなもん知るかとイチャイチャワールドを展開するか。判断は君の手に委ねられている。

解説

メイン バカを止めろ
サブ1 いや、ノリと勢いに任せて暴れろ
サブ2 想い人の新たな魅力を発掘せよ

BOSS
仁科恭佳
 タナトス戦で得たデータを元にどうでもいい発明品を作った天才的バカ。才能の無駄遣い。人生楽しそう。気に入らなかったらお仕置きしてもいいし、ほっといても良い。そのうち誰かに天誅される。
ステータス:命中ジャクポ(40/20)
武器:M.E.O.W
MAKE EMOTION OVERCOME WEAPON。感情を弱体化させる兵器、と書けば聞こえはいいがその実態はOPの通り。でもその技術は本物。[MS権限で回避不可とする。命中時、ネコ(1D4)のデバフを付与する。付与されるPCは選択可能。]

以下PL情報
ネコ(1D4)……色んな意味でネコになる。ダイス目は指定可能。
1:効果なし。君が唯一の良心だ。
2:私はネコ。とりあえず語尾がにゃーとかになる。それだけ。
3:私はネコ。語尾がにゃーになるのはもちろん、煮干し食べたくなったり猫じゃらしに思わず反応する。
4:私はネコ。ネコとしての本能が覚醒。高い所に登ったり、人としての常識を外れた行動に出る。
※解除する場合はハリセンとかでぶっ飛ばそう。平手でもいいが、中途半端にやると強度が下がるだけだぞ。

NPC
澪河青藍
ネコ強度4。しかし本質的に出不精なせいで暖房の利いた食堂でぐっすりしてるだけの子に。
ウォルター
青藍観察中。騒ぎがあまりにも大きくなったら叩き起こして恭佳討伐へと向かうはず。

TIPS
・恋愛ロールは皆さんにお任せ。打ち合わせの上で上手い事やってください。
・お邪魔ロールも皆さんにお任せ。了承を取ったうえでやってください。
・皆一回は撃たれます。英雄も能力者もダメになるか、片方だけか、どちらも大丈夫かはお任せ。
・ネコ化した恋人をかわいいと思うか無理すんなと思うかは貴方次第。
・カップルたちに水差す選択をした場合、青藍達の粛清対象の一人となるので注意。

リプレイ

●取引
「お初ですね」
「い、いきなり何の用だお?」
 阪須賀 槇(aa4862)は美少女を前にして戸惑う。いつもは声をがたがたにしてしまうのだが、本日は普通。隣の阪須賀 誄(aa4862hero001)は首を傾げた。
『(兄者にしては珍しい……?)』
 理由はすぐ分かった。彼女は昏い顔で二人にライフルを突き出してきたからだ。
「これで“今日”を滅茶苦茶にしてやろうぜ」
『(OK、把握。コイツ喪女だ)』
 槇は銃を押し付けられる。
「こ、これは……! 何なんだお?」
「撃ってみな。安心しろよ。ただのジョークだから」

「ちょこ、楽しみ、なの」
『(お嬢は良いよな。……バレンタインデーはチョコレートの日か)』
 芸能課で次回のライブについてのやり取りを終えた泉 杏樹(aa0045)と榊 守(aa0045hero001)の二人は、片やウキウキ、片やとぼとぼと廊下を歩いていた。
 そこへ微かな銃声が二発。針が首に刺さり、二人はくらりと崩れた。杏樹は不意に口元を緩めて微笑む。
「ちょこ……食べたい、にゃん」
 何が起きたかわかってない御嬢様。微かな甘い匂いにとてとて歩き出す。取り残された守。彼は急ににやつくと、両手を天へ突きあげた。
『にゃーっ!』
 守は明後日の方へ走り出した。お前の未来はどっちだ。

「じっと、この時を待っていたお……」
 薬莢をジャキッと排出し、槇は天を見上げて呟く。誄はかける言葉も見つからない。
「我は何か? 我は毒男。我は喪男。我が名は『バレンタイン・バッカジャネーノ』……“せい”なる日の破壊者にして浄化の使徒」
 美少女に敬礼を送り、槇は廊下を闊歩する。目指すはロビー。地獄の戦場。
「漏れ達は耐え続けたお。菓子会社の陰謀によって歪んで穢れたこの夜の不浄に……だが! 今や力はここにある! 我々は満身の力をこめて振り下ろさんとする拳だお! 我々にはもはやただの戦争では足りない!」
 ア●カ作戦発動せんとばかりに喚く槇。かっと眼を見開き、右手を宙へと突き出す。
「大戦争を! 一心不乱の大戦争をッ! そうしてVデーを葬るモナ!」
『“流石”だよな、俺ら。“それ”じゃないって。満足したなら俺もう共鳴解くぞ、兄者』
 冷静にツッコミを入れ、誄は危うい事になる前に離れようとする。しかし――
「ふぁああっばれんたああいんッ!」
『え?』
 喪男はついに覚醒した。誄を無理矢理眠らせ、いよいよ駆け出す。それは誄にしか出来なかったはずの技だったというのに。
「宜しいならば戦争だ……必ず! 壊すモナッ!」

●Love!
「にゃぁん?」
『ニーナどうしたにゃ? ……にゃ?』
 藤咲 仁菜(aa3237)は急に鳴く。突然の事に目を丸くしたリオン クロフォード(aa3237hero001)、口から飛び出たベタな語尾に目を白黒させる。そういえばうなじが痛い。
『(こんなアホな事するのは噂の仁科さんかにゃ……?)』
 仁菜は急に垂れ耳の毛づくろいを始めてしまう。間違いなく兎のはずなのに、その仕草はただの猫。リオンは肩を竦めた。
『ニーナが兎か猫か分からなくなるにゃー……』
「にゃぁー」
 仁菜がリオンにすり寄ってくる。抱きつきはしないが、普段より距離が近い。リオンの胸元に頬を擦り付けている。その仕草は猫と兎を足して二で割らない愛らしさ。リオンは悟った。
『(訂正、これでよい。いつも可愛いけど! さらに! 可愛いにゃ!)』
 リオンはサムズアップ、姿の見えない恭佳に心の中で叫ぶ。
『(仁科さんグッジョブ! しばらく猫ニーナを堪能させていただくにゃ!)』

『コレとこれ、限定品も予約済なの。楽しみだわぁ』
 テーブルにチョコ会社ルイーズのカタログを広げたまほらま(aa2289hero001)は半ばうっとりとして呟く。適当に聞いていたGーYA(aa2289)、ある事に気付く。
「って、全部まほらまのかよ!」
『どうしてそんなに驚いているのかしら……?』
「いや、だって……」
 くれと言ったら男がすたる。ジーヤは口ごもるしかなかった。
 そこへ槇がやってきた。食堂の入り口からスナイパーライフルで狙いを付けると、正確無比に二人の喉元を撃ち抜いた。
「うなあ……」
 二人の思考回路が崩れていく。ジーヤとまほらまは顔を見合わせると、いきなり額と額を重ね合わせた。まほらまがふわりと立ち上がると、ジーヤもそれに従う。腕を組み、肩を擦り合わせて歩き出す。
『みゃあ』
 まほらまはジーヤの横顔へ顔を近づけると、その頬をぺろりと舐める。それを受けたジーヤは満更でもない顔だ。
「うにゅう」
 しかし、ジーヤが蕩けている横でまほらまは何かを見つけた。小躍り、スキップ、そんな足取りで廊下を進む守にゃん。遠くから眺めているだけで、円熟した大人の強さを感じる。まほらまは眼を見開くと、足音を忍ばせひょこひょことその背中を追いかける。
「……」
 ジーヤは口を尖らせた。訝しげに目を細くして、まほらまの傍にするりと歩み寄る。しかしまほらまはすっかり守に興味を奪われていた。

「あらあら青藍ちゃん、本当に猫みたいだねえ♪」
 テーブルに突っ伏したままぐだぐだしている青藍の顎を指の背で撫で、杏子(aa4344)はくすりと笑う。何か支部がヤバい事になっているとの報を受け、たまたま近くに来ていた彼女は駆け付けたのだ。
「ブニャー……」
 その斜交いには、頑丈な車いすに座っていびきをかいているヴァイオレット メタボリック(aa0584)もいた。彼女達も一報を受けて駆け付けたはずだったが、本気でステルスしている槇の凶弾を受けてこうなってしまったのである。
『ヴァーフィールドだべ、体型からしてだニャー……』
 そんな妹の姿を眺め、ノエル メタボリック(aa0584hero001)がのったりと呟く。懐から駄菓子を取り出し、妹に差し出す。半分眠っているような状態なのに、彼女は反射的に口を開いて駄菓子を口に含んだ。隣で見ていたウォルターは、そんな二人を見て苦笑する。
『また随分と様子が変わられたようで』
『おら、湯治の旅の間に随分と気長になっただにゃ』
 しみじみと呟くと、湯呑に注いだ茶を一服。
『この苦さこそ、緑茶だにゃ……』
 ほっと息つき、ノエルはウォルターに向かって急須を差し出す。
『ウォルター、おぬしはどうにゃ』
『え? ……いえ、遠慮しておきます』
 お茶の話となると狭量なウォルター、これを拒否。ノエルはそれに難色を示すでもなく、自分の急須にお代わりを注いで飲み始めた。二人のそんなやり取りを見つめていた杏子は、そろそろやるかと立ち上がる。しかし、どんなに周りを見渡してもテトラ(aa4344hero001)の姿が見当たらない。
「ん? テトラ。おい、テトラー?」

『ふむ……アホなのかにゃ、こいつら』
 その頃、あたりめを貪り、テトラは目の前で繰り広げられる守とジーヤの喧嘩を見守っていた。止めに入るでもなく、全く呑気なものである。
「フーッ!」
 ジーヤは拳を固めたピーカブースタイルで守に突っ込んでいく。若さ故の焦りと闘争本能。しかし、守にはその闘志をすっかり見抜かれていた。
『みゃおう』
 次々に繰り出される連続パンチをスウェーにダッキングで躱し切り、お留守になったボディに向かって鋭い猫パンチを叩き込んだ。
「みゅう……」
 一撃で戦意喪失、ジーヤはそそくさと後退りしてその場を離れる。勝負ありだ。口ほどにもない。守は乱れた髪を整え、まほらまに眼を向ける。
『にゃあ』
『にゃあ』
 守のナンパに、まほらまも満更でもない雰囲気を醸し出している。いいのかお前ら。惚れた腫れたの爛れた出来事に興味は無いのか、テトラは空の袋をその場に投げ捨て歩き出す。
『何だ……普段より塩辛く感じるにゃる……にゃる?』

「ねこ……皆ねこみたいになってます……にゃー」
 九重 翼(aa5375)はロビーの中一階で悶え苦しんでいた。いきなりトイレから飛び出してきた槇にУРАА!とか叫ばれながら眉間に針を撃ち込まれ、昏倒してしまったのである。そんな彼を、樹々中 葉子(aa5375hero001)はすっかり面白がっている。
『まあ、本当。……うふふ。ここにもやたら大きくて目の死んでる黒猫がいますね……』
 葉子は翼の顎を撫でる。お花畑になろうとしている心を必死に押さえつけている翼は、その手をどうにか撥ね退けようとした。
「くぅ……それ、嫌です。やめてください。聞いてますか……にゃあ」
 順当に猫の本能が翼の頭を侵食している。葉子は満面の笑みを浮かべた。
『ふふふ。そのように気持ちよさそうなお顔で言われても、説得力がありませんねえ』
「そんな言葉……どこで覚えてくるのです……にゃー!」
 翼は起き上がろうとする。しかし葉子はその肩を押さえつけ、再び寝かせてしまう。
『お耳と尻尾もつけてしまいましょう。首輪は赤と青、どちらがお好きですか?』
 いつの間に手にしていたのか、幻想蝶から葉子はささっと二本の首輪を取り出す。翼は顔を顰めると、今度こそ葉子を撥ね退け、膝立ちになって背負った刀を手に取る。
「それ以上戯言を抜かすなら……いくらお葉でも、斬って捨てます、にゃー!」
『ほーら』
 葉子は構わず、翼に向かって猫じゃらしを振り回す。もう駄目だ。翼は刀を手放し、咄嗟に毛玉に向かって飛びついた。
「にゃああああッ!」

「にゃうほにゃうほにゃうほ」
 その頃、支部の食堂はさらなるパニックが起きていた。猫なんだか猿なんだかゴリラなんだかわからない咆哮を上げて発奮した狒村 緋十郎(aa3678)がレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)に向かって発情していた。
 獣人化した緋十郎はいきなり上半身の衣服を破り捨て、緋色に染まった毛皮を露わにする。そのままレミアの足元に飛びつくと、ごろごろとレミアにむかって転がり擦り寄っていく。
『……何をしているの』
 レミアは顔を顰めてヒールをマジの勢いで緋十郎の脇腹に叩き込む。しかし鍛え抜かれた緋十郎はどこ吹く風。長い尻尾を揺らしてその尻をレミアの方へと差し出した。
『ええ……』
 周囲もにゃーとかぎゃーとか叫んで収拾つかない状況に陥っているが、それにしても衆目の下には違いない。レミアは白けきった虚無の顔で緋十郎を見下ろしていた。その隙を見逃さず、槇は天井から飛び出し銃口をレミアへ向ける。
「……『撃ってやる』……そんな言葉は吐かないお。そう思った時、その行動は既に! 完了しているモナーーッ!」
 ライヴスの針がレミアのこめかみに撃ち込まれる。突然の事にくらりと倒れそうになったレミアだったが、次の瞬間には眼をギラリと輝かせ、自分に尻を擦りつけようとする緋十郎の背中を爪で切り裂いた。
「ヴニャッ」
 甘美な痛みにきたない嬌声を上げる緋十郎。レミアは甲高い猫撫で声を上げながら、尻尾を掴んで引き倒し、うなじに向かって牙を突き立てる。
「にゃほおおお」

 遠巻きに眺めていたウォルターはそっと目を逸らすのだった。

●夢よ覚めろ
「綱紀粛正!」
「にゃぁっ」
 杏子の右ストレートがおっさんに直撃する。おっさんは錐揉みながら吹っ飛び、壁に強か叩きつけられた。まほらまはその光景を眺め、とうとう興味を失ったのか尻尾を振ってどこぞへ退散してしまった。残されるは杏子と守だけ。
「良い年したおっさんが何やってんだ!」
『何にゃってって……にゃ? 何やってるにゃん……』
 ようやく自分のしている事に気付いた守。赤面すると、守はどこからともなく猫の被り物を取り出してすっぽりその顔を覆い隠す。
『我が輩はまもにゃん。ご婦人を守る猫の執事にして紳士なのにゃ』
 そんな事を言いつつ、ちらりと杏子を見上げる。実年齢60越えと言ってはいるが、見た感じは四十絡みにしか見えない。元教師という伝え聞いた肩書も魅力だ。伸縮タイプのステッキなんかも取り出し、守は杏子へ迫る。しかし当人はつれなかった。
「悪いね。今はテトラの事を捜してるんだ」
 彼女はそそくさと廊下の向こうへいなくなる。それを見送った守、またしても野生の発作に襲われ始めた。
『うにににに……ご婦人方に迷惑をかけるのは辞めるにゃん!』
 守の切ない叫びが廊下に響いた。

「にゃぁ!」
 一方リオンの腕の中で丸くなっていた仁菜は何かに気付いて目を光らせる。どこから現れたのか、廊下を一匹の鳩が歩いている。獲物だ。
「にゃぁー!」
『わー! それは駄目にゃー!』
 いきなり仁菜は暴れ始めた。腕で足でもみくちゃにされながら、リオンは必死に仁菜を押さえようとする。仁菜が鳩なんかを咥えた日には、小隊一のスクープになってしまう。しかし仁菜は怒ってリオンの腕に齧りついた。
「にゃぁあっ!」
『ヴニャアアア!』
 鑿のように鋭い歯がリオンの腕に食い込む。この暴れ猫(兎)手に負えない。痛みで半ばぼんやりする頭でリオンは考えた。恭佳の悪戯ならAGW、つまりライヴス絡みの攻撃だ。
『それなら……共鳴で解除できるんじゃにゃい?!』

 次の瞬間、共鳴した二人はすっかり元に戻っていた。
「あれ? 私何を……?」
『……よかった』
 リオンは溜め息をつく。しかし安心したのも束の間、食堂の方から聞き覚えのある声が。
「次ッ! 次ニャ! ギコハハハ!」
 色々バグを起こしている叫びだ。仁菜の顔からあらゆる表情が消え失せる。
「……」
『そういえば兄者さん荒れてたなー。もう色々混じってるけど……』
「まったくもう……! 【暁】粛清担当として、きっちり粛清しておかなきゃ……!」

『青藍も一応成人してるし……にゃん』
 被り物したまま、守は青藍に向かってクッキーを差し出す。青藍は寝たまま口だけもごもご動かしてクッキーを食べていた。ウォルターは頬杖ついて溜め息をつく。
『見境無しか……』
「にゃほおお!」
 遠くからいきなり咆哮が飛んでくる。全身の毛を逆立てた緋十郎が飛んでくる。守のナンパオーラを敏感に感じ取ったのだ。再びスイッチの入った守、拳を鳴らしながら迫っていく。
『みぉう』
 二人は飛び出した。片や剛腕直情に任せたパワーファイト、片やフットワーク軽めに猫パンチ、猫キックを織り交ぜた柔軟な攻撃。両者は完全に拮抗していた。
『……みぃ』
 しかし、すっかり置いてけぼりにされていたのがレミアであった。一気に不機嫌となった彼女は、軽やかに跳び上がって緋十郎の背中に一撃を叩き込む。
「にゃひいい」
 緋十郎は嬌声を上げながら食堂の外へとすっ飛んでいく。レミアはふんと鼻を鳴らすと、踵を返していなくなってしまった。取り残された守は、ちらりと老婆達の方を振り返る。流石にゾーン外、守は溜め息をついて食堂の外へと出ていった。
『やれやれ。こんな事ではまともにバレンタインデーが送れぬにゃ』
 ノエルが呟きつつ隣を見ると、妹はテーブルに腹をつかえさせながら菓子を貪り続けている。ノエルは杖を取ると、その頭を鋭く叩く。
『やめんか、見苦しい』
「うむ? ……わらわは何をしとったんかの」
『記憶も残っとらぬのか。仕方ないにゃ……』
 ノエルは呆れつつも共鳴する。紫色のローブに、聖銀の盾を構えた聖職者。彼女達が目標とする者に倣った姿だ。しかし、本物に比べるとローブのサイズにゆとりがない。
『師よ、済まぬ』
 見てくれをこっそり嘆きつつも、ノエルはバカ騒ぎを鎮める為に動き出した。

「シャーッ!」
 その頃、ジーヤは守に負けた腹いせとばかりに緋十郎へと飛び掛かっていた。曰く、緋十郎に睨まれたのが気にくわなかったらしい。レスリングの様に両手で組み合い、額を押し付け押し合い圧し合い、両者一歩も引く気配を見せない。
『みゃぁっ』
 しかしその時、廊下を凄まじい勢いでレミアが走っていく。その前を必死に走るはドブネズミ。薄汚れている。レミアは牙をむいてそれを追っていた。それを見た緋十郎、思わず甲高い声を上げる。
「にゃんっ!」
「フーッ!」
 刹那、ジーヤの回し猫キックが緋十郎のこめかみに直撃した。緋十郎はまたしても壁に叩きつけられる。ジーヤはにんまり笑うと、ふんぞり返ってその場を去る。
「いかん、レミアっ!」
 起き上がった緋十郎、ようやく我に返った。慌てて後を追いかけ、ネズミの尻尾を押さえて今にも吸血しようとしていたレミアの肩を押さえる。レミアは暴れるが、ネズミの血を吸わせるわけにはいかない。
「くっ……駄目だ。俺には……殴れぬ!」
 だが、理由があってもレミアに手を上げることは出来ない。窮した緋十郎は、いきなり彼女を抱きしめ、そのまま彼女に口付けを施した。
 照れや歓び、様々な感情がレミアの中を駆け巡り、ようやくレミアは我に返った。そっと緋十郎の腕に手を添えると、彼を引き離して幻想蝶を手に取る。
『褒めてあげるわ、緋十郎。……この騒ぎの落とし前、つけさせてあげないとね』
 幻想蝶が、深紅の輝きを放った。

『ああ、面白い。いっそのこと、ずうっとこのままならよろしいのに』
 その頃、翼達は相変わらずの様相を呈していた。
「そんなの、困りますにゃー」
『いいではないですか。ほら、もう既に皆様見ていらっしゃいますよ』
 葉子が指差した先には、歌舞伎揚げを食べるテトラと、横でぐっすり寝ている杏樹がいた。翼は顔を覆ってもがく。
「ああ。これじゃ、生徒に示しが、つきません……にゃー」
『いいではないですか。ところで私、こんな事もあろうかとマタタビを――』
 翼は手を払ってマタタビの入った小瓶を叩き落し、そのまま遠くへ蹴り飛ばす。
『まあひどい。せっかく翼様のために御用意したのに、何てことを』
「まず、何からツッコめば良いのですか……にゃ」
 ここぞとばかりに翼を弄ぶ葉子。そんな光景を眺め、テトラはぼそりと呟く。
『仲いいにゃるなお前ら』
「ムフーッ」
 そこへジーヤがやってくる。不意打ちとはいえ緋十郎を下して調子に乗ったジーヤ、見覚えのある杏樹に向かってにじり寄っていく。強い雄をアピールしているのだ。
『邪魔にゃる』
 食事を邪魔されたテトラは顔を顰め、ジーヤの頭に拳骨を入れる。遠慮の無い一撃。ジーヤの眼を覚まさせるには十分だった。
「いったたた……何かヤバいことしてにゃ。ヤバい事!」
 まだ猫は抜けきってないが、人間に戻った。数十分にわたり繰り広げたしょうもない行為を思い出して真っ赤になるが、それ以上にヤバい事を思い出す。
「あ、まほらまはまだ……探すにゃん!」

●危険な領域
「だ、だめだお」
 その頃、まほらまは槇を押し倒すような形になっていた。高所からのジャンプ攻撃で、一瞬の隙を突いたのである。そっと顔を寄せ、口元を舐める。女性に免疫のない槇、じたばたする。そこへ駆けつけたジーヤ、その光景を目撃する。
「なんか……ムカムカするにゃん」
 怒りに満ちたジーヤは素早くまほらまを抱え上げ、そのまま彼女の手を取って共鳴した。拳を固めて槇を睨む。
「よくもやったな! 覚悟しろ!」
 そこへレミアも駆けつける。
『貴方が犯人? そうねえ……五体投地で許しを請いなさい。そうすれば減刑してあげても良くてよ』
 並び立つドレッドノート二人。本気で殴られたら磨り潰されてしまう。しかし、こんなところで果てる訳には行かない。
「……だが断るモナ。この阪須賀 槇の最も好きな事は……アベックに滅びをくれてやる事モナアアアッ!」
 槇は踵を返して走る。脱兎の如く。二人は素早く追いかけるが、その距離はどんどん離されていく。

「こんな使い方があるとは知らんかったぞよ。……耄碌したんかのう」
 一方、イメージプロジェクターで簡易迷彩を用意した杏子とノエルはロビーに向かって銃を撃ち続けている恭佳へ迫っていた。
「過去はどのようだったのぢゃ」
 ヴァイオレットが尋ねると、杏子は首を傾げる。
「過去? そうだねえ。河原で喧嘩する馬鹿を投げ飛ばす生活だったかねえ。あなたは?」
「それが、まともに年を取ったわけではないのぢゃ……」
 こそこそ、足音を忍ばせて二人は恭佳へ近づく。しかし彼女は不意に振り向いた。ゴーグルを掛けてニヤリと笑い、手を振ってくる。
「はんっ! その程度は予想済みよ!」
「おい待て! ただで済むと思うな!」
 恭佳はすたこらさっさと逃げ出す。してやられた二人は慌ててその後を追うが、その距離は離されていく。
『ヴィヴィアン! 俺の女神だにゃん!』
「うげぁっ」
 しかしその瞬間、廊下の横から飛んできたまもにゃんに恭佳は不意打ちタックルを喰らう。守は片腕を捻り上げ、地面に押さえつける。
『こんな悪戯っ子なんか置いておいて、フォンダンショコラのような熱いデートをしようだにゃん……』
「うるせー! 離れろ!」
「いいよ! そのまま押さえて!」

「全く、モテないからって、誄お兄ちゃんを眠らせてまで人様に迷惑かけないでください」
 仁菜は鞭を唸らせて地面に叩きつける。床が僅かにひび割れた。微笑んでいるが、その背後には般若のオーラ。槇は一瞬たじろいだが、すぐに銃を構え直す。
「……仁菜たん。『覚悟』して来てるのかお? 漏れを止めようとするって事は……漏れに! 『ニャア~ン』されるかもしれないって覚悟して来てるのかニャァアアン!?」
 バレンタインの鬼は無茶苦茶言って仁菜へと銃を向ける。しかし仁菜は鞭を背後にしてにっこり笑った。
「槇お兄ちゃんは私を攻撃したりしないでしょ?」
「おにぃ……ちゃん?」
 槇の脚が止まる。口元をゆるゆるさせて、覚束ない足取りで仁菜へと迫る。
「あ、あのう……もう一回言うお」
「うん。お兄ちゃん!」
 硬い鞭の柄を握り込んだ鋭いストレートが炸裂する。不意をつかれた槇は数メートル飛んでいく。その間に共鳴は解け、阪須賀兄弟は揃って床に倒れるのだった。
『わーよく飛ぶなぁ……。ニーナも【暁】に揉まれて、逞しくなったねー』
 両手を腰に当て、仁菜はむっと唇を結ぶ。リオンは中で兄弟の哀れな姿を見つめて呟くのだった。

●はっぴぃばれんたいん
『い、いてて。酷い目にあった……何で俺まで』
「う、うーん妹者ペロペロ……」
 仁菜は拳骨を槇と、それから誄にまで振り下ろす。兄弟は仲良く気絶。頬をぷっくり膨らませ、仁菜は共鳴時特有のパワーで無理矢理二人の脚を抱え上げる。
「帰りますよ! もうっ!」
「今年も……漏れは、バレンタインという犠牲の、犠牲になったのだ……」

「ぷきゅう……」
『……全く』
 恭佳に一通りのお仕置きを済ませて満足したレミア、ふと笑みを浮かべて緋十郎を見る。
『家に帰ったらチョコをあげるわ。わたしの脚に垂らしたチョコ、舐めたいでしょう?』
 突然ちらつかされたご褒美。緋十郎は尻尾を立てる。
「な……ッ、いや、はい、舐めたい……です……ッ」
 二人は連れ立って支部を出ていく。その姿を見送り、老婆二人は嘆息する。
「帰ったら美佐様にバレンタインデーの贈り物をしたいのぢゃが」
『美佐様は、御婆二人に貰っても嬉しくは、ないべさ』
「そうぢゃな……本人の気持ちも知らぬのぢゃものな」
 とはいえ子供らに配るチョコレートは要るだろう。老婆達も頷き合うと、車いすを転がして支部を後にした。

『どうしたのかしら? まだ何か、変なところでもある?』
 まほらまはジーヤに尋ねる。しかしジーヤは黙りこくっている。ちらりと自分を振り返るその姿を見ていると、猫のようにしなやかに跳ね回っていた姿が脳裏に蘇る。同時に、胸が小さく痛んだ。
「(……また、心臓が……)」
 人工心臓の副作用か。ジーヤはそんな事を考える。その真相は無意識の奥だ。まほらまは首を傾げた。ジーヤは考えるのをやめると、その手をそっと取る。息をするように、自然に。
「帰ろっか」
『……そうねぇ』

「ほら、目を覚まして」
「う、うん……」
 杏樹の頬を、杏子がそっと叩く。その周囲には、片頬を紅くした人々。皆々闘魂ビンタで目を覚ます事になったのである。眼を擦る杏樹を見下ろし、テトラはふっと息を吐く。
『とりあえず一件落着か』
『今回はご迷惑をお掛けしました』
 乙女は守に向かって頭を下げる。まもにゃんの被り物をどこへともなくしまいこみ、彼はにんまりと決め顔を作る。
『良いんだぜ。気にするなよ……』

 下ではそんなやり取りが繰り広げられている中、翼は小さく欠伸をした。
『あら、翼様がおねむだなんて、珍しいこと』
「猫は、明け方と夕暮れに活動する動物ですから、にゃー」
 眠さのせいで、頭を撫でまわされても逆らう元気が起きない。葉子は柔らかく微笑み、ぼんやり顔の翼を覗き込む。
『でもまあ、良かったではありませんか。せっかくです、少し昼寝をなさっては?』
「そう、ですね……眠れない日が続いていましたから……。では、少しだけ昼寝いたします……よろしくお願いします、にゃー……」

 かくてバレンタインデーの喜劇の幕は降りる。次は七夕に何か起きるのかもしれない。

 起きないかもしれない。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237

重体一覧

参加者

  • 藤の華
    泉 杏樹aa0045
    人間|18才|女性|生命
  • Black coat
    榊 守aa0045hero001
    英雄|38才|男性|バト
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • ハートを君に
    GーYAaa2289
    機械|18才|男性|攻撃
  • ハートを貴方に
    まほらまaa2289hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • Be the Hope
    杏子aa4344
    人間|64才|女性|生命
  • トラペゾヘドロン
    テトラaa4344hero001
    英雄|10才|?|カオ
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
  • リンカー先生
    九重 翼aa5375
    獣人|18才|男性|回避
  • エージェント
    樹々中 葉子aa5375hero001
    英雄|23才|女性|ドレ
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