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広告塔の少女~異国のサハラ~
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【相談】平和への行進曲ですの
最終発言2018/01/31 06:56:34 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/01/30 17:59:22
オープニング
● PV依頼と言ったな、その前に一悶着あるんだ
ECCOは早速、グロリア社の会議室で遙華に資料をみせました。
「次の撮影ではここを使いたい、思ってんねん」
映し出されたのは砂漠の中のオアシスで、吹きすさぶ砂嵐もまた強く。幻想的な一枚が映し出されていた。
「でも、曲はできてないのよね」
最近ECCOが仕事をする場合、曲のイメージだけがそこにあり曲は打ち合わせをしながら作っていくことが多いようだ。
いつも遙華は、そんなことで曲が作れるのか、と思ってしまうが、意外にイケてしまうところが実にプロらしい。
「ちなみに、場所はどこなの?」
そこでECCOは少しためらいがちに、地図のある一点を指さした。
「ここや」
可愛らしく告げるECCOだが、その指先の地点を見て、遙華は青ざめる。
遙華たちAGWを販売する戦争屋はその手の情報に詳しく、ちょっと有名な場所だったためだ。
「…………戦争ど真ん中じゃないの」
そのど真ん中という言葉の意味は、戦争の最中という意味でもあり。戦争国に挟まれたオアシスという意味でもあった。
いや、正しくは戦争しているのは国ではなく、その国に所属する人間達。
紛争と呼ぶに正しいそれは武器の入手と共に激化した。
国はそれを黙認している。国としての戦争ではないが、その戦争を止めようとはしない。
こういう意味では代理戦争だろうか。
さらに言うのであれば、停戦中。
ただし、いつ戦争が再開されてもおかしくない、組織と組織の、そのあいだ。
小さな戦争だ。日本のニュースには間違いなく流されない。アメリカの長も知っているかどうか怪しい。
それほどまでに小規模で、これくらいの戦争は日常茶飯事だからだ。
ただ、その戦争にはリンカーも関わっているため、遙華は知っていた。
ただそれだけだった。
「許可なんて下りるわけないじゃない、もしくは私達が戦争の火種になるわよ!」
「え、そうなん?」
しかしECCOは諦めきれず、うむうむと考えると告げる。
あっけらかんと、何のけなしに。
「せやったら戦争を止めようなぁ」
その、アイスが無ければケーキを食べましょうと言った平和ボケ空気に遙華は溜息をつき『だめよ!』と言った。
その後、二時間に渡る遙華とECCOの討論の末。
一度その国を訪れて、状態を見てから、考えるという妥協点に落ち着くことになる。
皆さんは今回ECCOの護衛。および、ECCOの発想の源泉、および、戦争を止めるための歌唱部隊として雇われたことになる。
● 歌で戦争なんて止まるわけないじゃん
今回のミッションは歌で戦争を止めることです。
ただそれは容易ではないです。
先ず間違いなく、皆さんの様な異邦人の話を聞いてくれるわけはありません。
けれどECCOは諦めるつもりはないようです。
「話、きいてくれへんやったら、聞いてもらえるようにしたらええねん」
簡単に言います。ECCOは話せば皆解ってくれると思っているようです。
ただ、それは真実でもあります。
ここまでに町の争いをどれだけ歌で止められたか。
町の人々を歌で幸せにできたかで、最終的に戦争が止まるかが決まります。
ECCOはは三日目の夜に、満月の下で行われるライブを企画しました。みなさんはそれに参加するか、宣伝を頑張ってください。
あるいは遙華と一緒にECCOを止めるかでしょう。
そのライブ。失敗すれば銃弾を撃たれ、ECCOは死ぬことでしょう。皆さんは共鳴していれば大丈夫ですが。
争うことのむなしさ。それを伝えることができればきっとこの小競り合いの様な戦争は止まる事でしょう。
● 名誉を稼ぐ
訪れた町の名前をAの国、Bの国としましょう。
二つの国は貿易路として栄え。特産品はありません。ただ他の国と他の国の陸路を中継とする国のため。人の行き来が盛んで、八割の職業がサービス業です。
二つの国は同じつくりをしています。
中心に噴水広場。北側に行政が集約され、入り口にあたる南方面は酒場宿屋が豊富です。
この国を行ったり来たりしながら話を進めることになります。
各国では下記のような問題が発生することになります。
Aの国
・噴水広場で殴り合いがある。Bの国を経由して買った商品を男が使っているのを見て、逆上した男が殴り掛かったらしい。
・寝たきりの老人が、Bの国へ行った生き別れの弟に会いたいと訴える。
・夜の酒場での歌い手が足りなくて困っている。
Bの国
・Aの国の人間であると思われる五人組が、銀行を襲う。
・飼っていた小鳥が死んでしまった少女にであう。彼女はさみしくて泣いている。
・物乞いの母が皆さんに話しかけてくる。お金が無ければ息子の薬を買えないという。
各事件への参加方法は自由です、巻き込まれてもいいですし、目の前で発生してもいい。
あとは、自分から町の人にアプローチを仕掛けることができますが。
電気には期待しないでください。グロリア社トラックには電気機材とバッテリーが山ほど積み込んであるので持ち出せば使えますが、町に電気は普及してません。
●砂漠が別たれた物語。
かつて砂漠で挟まれた街と街は仲が良かったそうです。
しかし、ある時、お互いの国のお姫様と王子様が共に自殺してしまいました。
それはお互いの国の王が結婚に反対したためです。
結婚に反対された王子様とお姫様は嘆き悲しみ、オアシスで命を立ちました。
なぜそんな悲劇を演じることになったのか。
それは理由があります。
お互いの国はもともと一つの家系だったのです。
つまり、二人が結婚すれば近親婚です。
日本では従妹以上離れていれば結婚できますが、彼らの宗教上そうはいきませんでした。
その死んでしまった二人はその秘密を知っていたか分かりません。
しかし、国民に愛されていましたし、王たちも娘、息子を愛していました。
その悲しみのやり場はどこにもなく、隣の国を怨むしかありませんでした。
そんな思いが積み重なり小競り合いが起き。
二人が死んだのは八十年前。
戦争が始まったのは五十年前。
そして休戦から十年たつ。このAの国、とBの国は。
何で争っていたのかも忘れてただただ、家族を傷つけた相手の国を怨むばかりです。
そう、今や戦争の理由はどうでもいい。戦争でうたれたから、相手が憎い。
家族を殺されたから敵の国が憎いのです。
こんな国を歌の力ではたして、救えるのでしょうか。
解説
目標 歌で地域を平和にする
サブ目標 ECCOの歌のヒントになるような、光景、情景を見せつける。
ECCOとお話をして、歌のヒントを与える。
今回はロケ地確保のためにちょっと砂漠の方へ行きますが、この砂漠、二つの国の間にあるようでして、しかもその国はとても仲が悪いそうなのです。
この国の中を取り持って、戦争状態の解除、仲直り。まで行かなくても、オアシスの使用許可、町の撮影許可をいただきましょう。
って感じのミッションです。
ただ、本命以外にもやることが多いので、今回は手分けして作業しないと槍残しが出るかもです。
目指すべきクリア条件は目標とサブ目標ですが。
それを達成するために。
町の調査。ECCOの護衛、歌の作成。エトセトラ。
いろいろです。
●サブ目標について。
ECCOが喜ぶのは皆さんのお話しや、光景です。
光景は、絵になる一枚絵。まさに皆さんが発注したくなるようなカッコいい絵をECCOさんに見せてあげてください。
さらにECCOさんに、物語にしたくなるような気持ち高ぶるお話をしてあげてください。
それは、今回の事件を通しての光景やお話でも。皆さんが過去に体感したものでもいいです。
ECCOさんに沢山の、歌の材料を与えてください。
ECCOさんは次回の歌のテーマを。
砂漠、恋、夜、温度差、仮面、言葉、歌をテーマに作りたいと考えていますので。
このテーマに関連したお話をしてあげても良いです。
ただ、こちらはちょっと難易度が高いと思いますので強制ではありません。
できたら……程度のお話です。
リプレイ
プロローグ
砂漠を吹き抜ける風は乾燥していて日本で生活する皆の肌には合わなかった。
あっという間に肌が乾燥して唇が切れる。
その血をぬぐうと、痛みなど無いかのように『エリーヌ・ペルグラン(aa5044)』はあたりを見渡した。
吹きすさぶ砂嵐、その向こうにぼんやり見える『カートゥス(aa5044hero001)』の背中。
その背中にエリーヌは語りかける。
「この二つの国の歴史を聞くと、百年戦争を思い浮かべますの…………」
照りつける日の光が肌を焼く。砂嵐は去ったようだ。立ち止まっていたリンカーたちはそれぞれ身を起こして、膨大に広がる砂漠と、左右に僅かばかりの点として見える二つの町を見た。
「ECCO、君が砂漠のジャンヌ・ダルクになろうというのなら、僕とエリーヌがエスコートするよ。……彼女と同じ結末を迎えさせない為にも、ね」
カートュスが告げる。
その言葉に頭を砂避けの布で覆ったECCOが振り向いた。
「頼りにしてるからなぁ」
そう告げるとECCOは微笑んだ。しかし『斉加 理夢琉(aa0783)』はまだ納得がいかないようだ。
「ECCOさん、どうしてもこの場所じゃないといけないんでしょうか」
苦しげに俯く理夢琉、ECCOが心配なのだろう。そんな少女の姿を『アリュー(aa0783hero001)』は見つめている。
「うち、絶対ほしいと思ったものは何をしても手に入れたいんよ。ここで最高の一曲を作り上げる。それができる、そんな予感がするんや」
「危ないですよ」
理夢琉が告げる、しかしそれを理夢琉に言いたいのはアリューの方である。
理夢琉は内心ECCOの為と張り切っているが、ここはいつも理夢琉が住む日本とは全く別の世界だ。油断をすれば予想外の危険にさらされるだろう。理夢琉を危険にさらしたくはないのだ。
思い付きや軽いノリだとわかったなら、なにがなんでも日本へ連れて帰る。そう心に決めるアリュー。
ただ、彼女が本当にやりたいという意志を見せ続けるなら応援しよう、そうも思っていた。
一行は様々なおもいを胸にまずAの村へと向かう。
そのECCOの両端を固めるのは『イリス・レイバルド(aa0124)』と『アイリス(aa0124hero001)』。
「上手く転べば英雄と呼ばれるタイプなのだろうね。上手く転べば」
アイリスはそう、告げた。
「殺伐としてる……素直に歌を聴いてくれるかな」
やがて大きく姿を見せた砂漠の中の街並みに『荒木 拓海(aa1049)』はホッと安心のため息をつく。
『メリッサ インガルズ(aa1049hero001)』が拓海のマントの中から歩み出た。
「不安が不安を煽って悲しみが憎しみへ変わり、崩壊が夢まで壊す。負の連鎖って強いのよね……」
メリッサがそう告げたくなるほどに、確かに町は暗い雰囲気に包まれている。
「聞いて貰えさえすれば、不安を和らげ、悲しみを暫し忘れ、新たな夢を育てられるかも知れないわ」
だがそれでもとメリッサは希望を謳った。
「目と耳を向けて貰う事か」
実際動き始めるのは明日からになる。そう案内を受けて一行は宿泊施設に通された。
時同じくしてB国に宿をとったリンカーたちも到着したようだ。
宿に入っていくリンカーたち。だが最後まで街並みを見つめ、家屋の中に入らないものがいる。
『ロゼ=ベルトラン(aa4655hero001)』は夕闇に包まれる町を見渡し、佇んでいた。
その髪を風で揺らしながら。
「ロゼさん、そろそろ宿泊先のチェックインが…………」
『高野信実(aa4655)』が言葉を濁して告げる。
「あのね信実クン。アタシのワガママ、付き合ってくれるかしら」
振り返るロゼ。輝く髪と。切なげな眼差し。そしてロゼは信実をじっと見つめた。初めて見せる真剣な眼差しに信実は胸が締め付けられる思いを受ける。
「どうしたんですか?」
そう、ロゼが先ほど眺めていた視線の向こうに目をやると、信実はああと納得した。
第一章 阻むのは砂か、それとも
「……どうして、嫌いな国を通した品ではいけませんの?」
エリーヌは噴水広場にいた。
地下から水がわき出るこの町ではここが憩いの場所であり発展の証。
この水があるからこそ人々は生活できている。
その噴水広場の真ん中で真昼間から殴り合いがあったと聞いて、エリーヌはすっ飛んできたのだ。
「麻薬みたいなものなら問題があると思うけど、そうでないのなら……」
カートュスが間に入り、男たちを遠ざけるも、すでに殴られてしまった男も、殴った男も殺気だっており、カートュスを邪魔者扱いしている。
だが二人は一歩も引かなかった。
「重要なのは、必要なものが必要な人に行き渡るかだと思うけどね」
告げるカートュス、その言葉に合わせてエリーヌが穏やかに告げる。
「国の違いなんて些細なものですの。ただ、それに気づくまでが大変なだけですの」
そして一枚のチラシを差し出した。
「丁度……今度、異国の歌姫のライブがありますの。場所も教えますので、それに来れば、一歩を踏み出す喜びが伝えられると思いますの」
そのエリーヌの様子を見て、今後自分たちが対面する問題の根深さと厄介さをリンカーたちはひしひしと感じていた。
「あれをみてもやめる気にはならないの?」
『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』はコーヒーを『榊原・沙耶(aa1188)』に手渡してそうECCOへと問いかけた。
「もんだいやないなぁ」
そうのんきにサンドイッチを口に運ぶECCOである。
「言いたい事はあるけど、私は2度も友達を失う訳にはいかないの」
そう少し重たい口調でECCOへと告げる沙羅。
「私は化物だけど、今は守れる手や足がある。政治不介入のHOPEとしては出来る事がなくても、友人として必ず守るわ」
「うち、沙羅ちゃんのこと、怪物やとおもったことあらへんよ」
「そ、それは本当の私をあなたが知らないだけで」
「でも、ともだち~いうんのは嬉しかったし。ありがとなぁ、甘えさせてもらうからなぁ」
そんな沙羅とECCOの囲う食卓に調査を終えた『煤原 燃衣(aa2271)』と理夢琉がつく。
理夢琉は遙華に電話をしていたのだ。理夢琉は政治に明るくない。なので最悪のシナリオにしない為にどういう危険があるか、明確に教えてもらっていたのだ。
「結構わかった気がします」
そう理夢琉と燃衣はこの国の情報をECCOに語り始める。
そんな二人を尻目に『ネイ=カースド(aa2271hero001)』は燃衣の財布を手に取ってカウンターに向かった。
「いえ、この国のこと調べてたんですけどね」
調査自体は日本でも進めていたが、現地でもわかるものはないかと、いろいろ調べてきたのだ。
「ほら、これ、民族楽器で動物の骨を組み合わせて作ってるんですって。パズルみたいですよ、ほら」
そう人が座れる程度の大きさの打楽器をECCOに見せた、ECCOはそれに興味津々である。
「え! ええやん。ちょっとあとでセッションしよ」
三日後と、告知を進めているライブの打ち合わせも同時に行わなければならない。
実際ハードスケジュールなのだ。しかも命というリスクが存在する。
油断はできない。
しかし楽しむ心を失ってはいけないとECCOは言った。
まぁ、その言葉にイリスや沙羅や理夢琉はブーイングしたい気持ちだったろうが。
「もともと、二つの国は一つだったみたいですしね」
燃衣は建国から歴史、そこに形作られた民話・神話まで調べ尽くしてきた。
その中で気になったのは王子と姫の話。
「その、王子様と姫の悲劇の物語。劇にできないかな」
そうぽつりとつぶやいたのは理夢琉。
「ええなぁ」
「両国の音楽取り入れアレンジして。新しい何かを演出できればいいな。どうですか?」
「僕も一肌脱ぎますよ」
そう燃衣が笑顔で告げた。ただ時間はあまりない。
具体的な話に移ろう。そうECCOがノートをひろげる、すると。
「俺にもかしてみろ」
そうサンドイッチが大量に乗せられたトレイを抱え、ネイが現れた、彼女はひょいっと打楽器を手に取ると、トレイを置き、そして叩く。
見事にリズムをきざむものだから、ECCOだけではなく、店内の者もそちらを向く始末。
ひとしきり叩き終えると、ネイは満足したようにこう告げた。
「…………フム、癖はあるが……面白い。お前は『こう』か」
* *
時を同じくして実地調査に出ていた拓海はメリッサに体を支えられていた。
街中を散策していると、急に拓海は体調不良を訴え、家の壁にもたれかかったのだが。
なに、心配することはない、軽い熱中症であるが。
ただメリッサはうろたえ、当たりをきょろきょろと眺めている。
その時だ。
「これを、御飲み」
そう家の窓からにゅっと手が伸びてきて何かを突き出した。それは荒い色味のコップで中には透明な液体が注がれていた。
水だ。
それをメリッサは受け取ると拓海に飲ませる。
「ああ、生き返った」
「すぐに動くのは危ないよ、少し休んでいくと言い」
そう、老人が告げると家の入口を見やる。
拓海とメリッサは言葉に甘えることにした。
「珍しい肌の色だ。遠くから来なさったのかな?」
そう寝たきりの老人は告げる。メリッサは仲間たちへの連絡のため席を立っているが、彼女が見ればすぐにわかっただろう。
この老人からは死の香りがする。
先は長くないのだろう。
痩せ細った腕と脚。そして布団に沁みついた薬の香り。
「ええ、日本から」
「ほう、そんなに遠くから、いったい何をするために」
「この国と、あの国を繋ぐために」
そう拓海は真っ直ぐな瞳で告げる。
A国においてもB国においてもその言葉はタブーだろう。
だが拓海は屈託なく願いを口にした。だからだろうか、老人もまた涙ぐんでこういったのだ。
「それは本当に叶うと思うかね」
「まだ、わからない。けれど俺も、仲間たちもそのつもりです」
すると老人はポツリポツリと昔の話をしてくれた。
生き別れの弟がいると。
その昔、血縁関係の都合上。そして、戦争が本格化したことの都合上で弟はBの国へと連れて行かれてしまった。
それ以来。弟とはあえていないのだと。
人は容易に会えなくなるのだと老人は言った。
どれほど会いたいという意志があっても、天国とこの世よりも近い場所にいようとも。
大きな力がそれはだめだと言うならば、自分たちは会えないのだと。
老人は言った。
「だったら……」
拓海が立ち上がる。背後から足音。迎えが来たようだ。リンカーの仲間たちの声。
しかし、拓海はそれを気にせず老人に告げた。
「俺が、必ず会わせて見せます」
「どうしたの?」
そう、駆けつけた沙羅と理夢琉が首をかしげる。
すると、より詳細な情報を老人は語ってくれた。
幼いころに遊んだ平地、秘密基地。初恋の人を巡って殴り合ったこと。
全てがいい思い出だ。
そう、語った。
「おじいさん」
沙羅は柔らかく声をかける。
「お爺さんの願い事に関しては、先ずは相手の気持ちが大切だと思うわ」
それぞれの生活があるはずでしょう。そう老人の手を取り沙羅は言う。
「だからお爺さんから願いを聞いた後、その相手に会いたいという気持ちがあるかを確認するわ」
「直接会えないというのなら、手紙とかでもいいと思うの」
告げてその家を後にした一行。全員が難しい顔をしてはいたがそれでも沈んではいなかった。
「今思ったんですけど!」
理夢琉が三人を追い抜いて駆け出し、振り返る。
「悲劇とその後の国の動きを知っている生き証人かも!」
「可能性はあるわね」
「二つの国に別れた兄弟の再会とその国の人の言葉や経験は二つの国を繋げてくれないかな」
そう期待に胸を膨らませる理夢琉、さっそく一同はBの国へ向かい調査を始めるのだった。
第二章 夜の灯火
交易で栄えた町には必ずと言っていいほどに酒場がある。
それは旅で疲れた者達が求める最適解がそこにあるからであり、情報交換や仕事のやり取りとしての場も求められたためである。
ただ、その日の酒場は少々違う。いつもの五割増しの人だかり、老若男女集まっているのは一つ催し物があると町中に流れたためである。
踊り子が酒場で歌い踊る。
そんな噂を聞きつけた男たちは鼻息荒く、冷たいアルコール片手に踊り子の登場を待ったが、現れたのは幼女ではないか。
しかも背中に翼を生やしている。
これはいったい……。
そう首をかしげている観客をよそに、イリスは謳い、舞い始めた。
酒場に軽快な音楽が流れる。
新曲≪月華の音≫披露の時である。
月華(月光)とはイリス達にはルゥナスフィアを連想する言葉である。
夜の幻想的な静寂と子供の様に無垢な清らかさ、浄化の願いをこめて作られた心を静める曲は二人の歌声をらせん状に合わせて空へと届く。
そんな静謐な歌声に飲まれた会場を、ふよふよと渡り歩く姿があり。それこそアイリス。
「やぁ。うちのアイドルの歌声はどうかな」
「お姉ちゃん!」
謳っていてもアイリスの声はしっかり聞こえるようだ、イリスは間奏の合間に声をあげた。
そんな声も軽く流すとアイリスはいつもの、友好的かつ肯定的な態度で酒場の客の話し相手となった。
さり気に話を堀深めて情報収集するのもアイリスの手腕。お手の者である。
そんな酒場にリンカーたちも集まっていた。
「Bの国に向かった人たちから連絡がありましたよ。弟さんを見つけたのことでした」
そう告げたのは『黄昏ひりょ(aa0118)』である。『フローラ メルクリィ(aa0118hero001)』は隣でお肉を美味しそうに食べていた。
そして燃衣からは曲のヒントを聴いている。
民話、寓話。楽器について。国の風土。さらに細かく調べられた内容をECCOはナイフを動かしながら聞いている。
「ありがとぉな。えらく積極的に協力してくれはって」
そうECCOはいつもの胡散臭い関西弁で皆にお礼をいった。
「いいんです。僕も歌の力にかけていますから」
そう燃衣は告げるとECCOは興味深げな視線を送る。先を促されているのだと思い、燃衣は言葉を告げる。
「優……幼馴染が、言っていたんです」
『この世界は今は闇に包まれていて、人は闇に溺れている。だけど太陽はある、夜明けはある。だから立って行動するの、どんな運命が待っていても』
「いい思いね」
そうECCOは告げるとグラスを空にする。
「そして彼方ちゃんとの約束がボクを強くしたんです。黒い炎がボクを動かした、だけど今は白い光が芯には在る」
そう胸を抑える燃衣。
「だからボクは、こう定めた。『――されば立ち上がって戦え いかなる運命にも意志をもって』……と」
だが次の瞬間燃衣は、それを嘲笑う声がした気がして振り返る。
見ればそこにいるのは黙々と皿を平らげるネイのみ。
ただし扉が閉まりばたりと強い音をたてた。それはまるで燃衣を拒絶しているかのように燃衣の胸に響く。
そんな呆けた燃衣の前を通って演目を終えたイリスが悠々と凱旋を果たす。
ECCOが差し出したてにジャンプして手を重ね、そして席に座るとホットミルクを飲み始める。
「最後のライブに繋がる様に歌を浸透させて悪感情を和らげる狙いがあるんだよ」
いつの間にかアイリスもいた。ECCOの隣に座っていた。
「『あんたが言うならちょっとは考えてみるさ』くらいの信頼を勝ち取ればベストだと思うよ」
アイリスが告げる。
「それ行きずりの人間に対する信頼としては最上級なんじゃない?」
イリスがそう答えた。
「歌で戦争を止めるなんて、俺には思いつかない事」
ひりょは目を瞑ってしみじみとそうつぶやく。
「でも、可能な事なら俺も見てみたい。だから全力で護ります!」
「ありがとなぁ、護衛としてもココロ強いっておもってるよ」
そう一行と手を取るとECCOは立ち上がり告げた。
「指揮も高まったきたなぁ! せやったらいける気がするわ! この調子でガンガン知名度あげてこな! 明日はBの国にいくからなぁ!」
そんなECCOの声を聴いていた酒場の人間たちは静まり返る。
空気が変わってしまった酒場で罰が悪そうに席に着くECCO。そんな一幕を眺めてネイは告げる。
「まさかこんなところでまみえるとはな」
そしてちらりと視線を、扉の向こうに向けた。
* *
『火蛾魅 塵(aa5095)』は夜風にうたれていた。酒場の酒気を振り払い月に煙草の火を重ねる。
砂漠の夜は寒い、しかしそんなことは気にしない様子で彼は歩きだす。
それを『人造天使壱拾壱号(aa5095hero001)』がちょこちょこと追いかけた。
彼は別口でこの地にまつわる任務を受け。ここにいる。当然ECCOのライブなど眼中にない。
しかし、クライアントはECCOライブを気にかけていたようだ。できるだけ協力せよとのお達しである。
「……良いんだな? 俺は俺なりにコト構えるぜ?」
そう捨て台詞を吐いて煙草を投げ捨てる。
材料はそろっていた。
だからまず手始めに、目の前の怪しい五人組を締め上げるところから始めよう。
そう。
「愚神さま、さんじょーってな」
しばし男たちの悲鳴と肉のひしゃげる音、骨の折れる音が聞えたが、すぐにそれもやんで静かになる。
人造天使壱拾壱号は頬についた血をぬぐって塵に歩み寄る。
それが行動開始ののろしだと言わんばかりに、塵は男どもを転がしてその場を去った。
第三章 小鳥の謳うべきうた
イリスはECCOを抱えて砂漠を飛ぶように移動していた。
「おもぅない?」
ECCOが恐る恐る尋ねるもイリスは涼しい顔をしてスラスターの出力を上げる。
「装備の方がECCOさんより重たいです」
昨日苦労した砂漠もオアシスを楽々と突っ切って横断。
あっという間にB国へたどり着いた一行は、とりあえずイリスの武装解除を待った。
スラスターを収納したイリスは護衛としてECCOにつき従うため、軽装ながら最低限の戦闘が行える装備を整える。
――さぁ、イリス。まずあの子たちに声をかけるんだ。
そうアイリスが告げる先にはサッカーボールを蹴って遊ぶ子供たちが。
「え。僕が行くの?」
――子どもというのは意外と情報を持っているものなのだよ。
そうアイリスはイリスにポケットの飴を出すように指示する。
いつものアイリス蜜で作った飴であり、子供たちにうけないはずがない。
一瞬でイリスは人気者になっていたが、イリスはどう接していいか分からない様子を見せていた。
引きつった笑いが痛々しい。
「では、僕たちは弟さんを見つけた人たちと合流しに行きます」
「きをつけや」
そう、そよそよと手を振るECCOに見送られひりょは踵を返した。
「行こう、フローラ」
町は迷宮のように入り組んでいる。それはそうだろう。
都市計画など無く、住みたいものがすみたいように家を建てたのだ。こうなってしかるべきだろう。
そんな町を二人で探索しているとすすり泣きが聞こえてくるではないか。
「ひりょ?」
フローラが首をひねり、ひりょの袖を引く。しかしひりょは真剣な表情を向けたまま動かない。
「気になるんだ」
そう告げるひりょは白い石で切り出された階段をのぼって、鳴き声の方に歩んでいく。
曲がり角を三つ曲がった路地の行き止まり。そこには小さな女の子が肩を震わせて泣いていた。
覗き込むひりょ。その手には小さな鳥が乗っていて。その鳥はどう見ても息絶えているようだった。
そして漏れ聞こえる声。ごめんね。ごめんねと泣く声が、ひりょの胸に突き刺さる。
「どうしたの?」
そう、ひりょはしゃがみこんで少女に尋ねた。
少女は驚き振り返ると、涙を一筋流しながらほほえんだ。
「なんでもないの、今友達とお別れしていたところなのよ」
「友達? その小鳥がそうなんだね」
「うん」
「小鳥が友達だなんて、変だとおもう?」
「思わないよ、動物と心を通わせることができるなんて素敵なことだから」
驚いたような表情を見せる少女。
「そんなことを言ってくれたのは貴方がはじめてよ」
「よかったら、どんな存在だったかきかせてもらってもいいかな?」
「この子はね、ある日お父さんが買ってきてくれたの。僕のかわりに大事にしなさいって。お父さんはもういないけど。お父さんのかわりだなんて思ってないけど。私、すごく気が楽になったのよ。泣いてる私をいつも慰めてくれたの。寒い夜は私に温もりをくれたのよ」
そう言っている間に少女の目にはまた涙が浮かんできてしまう。
「けど、もう私の悲しいのを受け止めてくれる人はいないの。いないのよ」
「家族同然だったんだね。わかるよ。僕も家族を失ったんだ」
その言葉に驚き顔をあげる少女。フローラが気遣うようにひりょの手に手を重ねる。
「そんな存在が急にいなくなってしまったら、辛いよね。……それは辛く悲しく心が潰されてしまいそうな気持ちになるはずだから」
告げてひりょは笑みを作る。
「だから、悲しい時は悲しいでいいんだよ」
両目から涙をこぼす少女、かみ殺していた嗚咽が次第に口を押える手の隙間から聞こえるようになって、フローラがその肩を抱いた。
失ってしまった命は取り戻すことは出来ない。
残されたものはその失った悲しみを背負って生きて行かねばならない。
それが人であれ動物であれ……その違いは他人がどうこう言うことではない。
「誰かに愛される人生はすごく幸せだよ、それは俺が保証する。だから小鳥もきっと幸せだったと思うんだ。それだけできっと十分だよ」
だって、『本人にとってどんな存在であったのか』が大事なのだから。
しばらくして泣きやんだ少女は涙を拭いて、ひりょに握手を求めてきた。
それに応じるひりょ。
「ありがとう、この子、オアシスに埋めてあげたいと思ってるのだけど」
「それならちょうどいい機会があるよ」
そうひりょは告げると、笑顔を取り戻した少女としばし歓談に興じる。
そんな姿を路地の影からECCOが眺めていた。
「ええはなしやんなぁ」
「どうどうと出て行けばよかったんじゃないですか?」
イリスが問いかける。
「いや、それは無粋やろ。さて、ちっちゃいアイドルさんの歌を広めにいこうなぁ」
「アイドルじゃないです」
そうイリスとECCOはその場を後にした。
第四章 喪失の挽歌
早朝。エリーヌが、ECCOがライブで歌う予定の曲を密かに特訓している。そんな音でカートュスは目を覚ました。
「カートゥス……わたくしも、ECCOさんと共に歌いたいですの」
「それでずっと、H.O.P.E.のCDを聴きながら練習してたのかい?」
その隣にカートュスは腰を下ろす。
万年筆、お絵かきセット、クレヨンで国の町の風景スケッチをするカートゥス。
「カートゥス……女性の描画に妙に力が入っていますの」
「当然だよ。女性を美しく描くのは、僕に課せられた使命だからね」
それに首をひねるエリーヌ。
「写真を撮るより描いた方が、絵に込められた人の思いは伝わりやすい。歌にも通じることさ」
* *
ロゼはとある女性を見下ろしていた。みすぼらしく痩せ細った女性。美しかったであろう長い髪はぼさぼさで、カサカサに乾いたくちびるで、ロゼに対して何事かを訴えている。
その壮絶な光景を信実はただ見守っているしかなかった。
ロゼに。
『私に、任せて。御願い』
そう止められてしまったから。
「お願いします。息子が、息子が死にそうなんです」
「お医者さんはどうしたの?」
ロゼが問いかけると女性は首を振った。
「そんなお金はどこにもありません、だからもうこれしかなくて」
「連れて行ってちょうだい。できるだけの事はさせてもらうわ」
そうロゼと信実が通されたのは、雨と風だけしのげればよい、といったようなあばら家。
そこには同じように痩せ細って、やっと息だけをしている少年が横たわっていた。
信実は察する。これはだめだ。
これはその場しのぎの治癒だけではどうにもならない。
それでもロゼは諦めることをしなかった。
「御願い、信実クン」
その言葉に信実は逆らえなかった、共鳴。
ありったけの治癒を施す。
そんな時だった。
「霊力の反応があると思えば。どうしたの?」
そう姿を見せたのは沙羅と沙耶。理夢琉。そして拓海。
「みなさん、どうしてここに」
沙耶は素早く少年に歩み寄ると、瞳孔脈拍、体温、呼吸、生きるシグナルを全て測っていく。
「一時しのぎにしかならないわ。そんなのわかってるでしょう?」
沙羅が告げる。それにロゼは視線を伏せた。
「でも、それでもアタシは。笑いあう時間を少しでも多く。持ってほしかった」
「あきらめちゃだめです」
そう告げたのは理夢琉。
「治療をしても、お金を稼ぐ手段がないと」
告げると拓海はメリッサに問いかけた。
「この国は仕事が在るのかな?」
「私がつける仕事は何も……」
その時である。沙耶が聴診器を外して皆を見た。
「栄養失調ね。失調する速度が速すぎるから寄生虫か。どちらにせよ大きな病院で見てもらう必要があるわぁ。けれど難しい病気にかかっている兆候はないから、持ちなおせば大丈夫だとおもうわぁ」
「けど! その方法が!」
泣き崩れる母。
「ねぇ、世の中には孤児を育ててくれる施設はいくらでもあるのよ」
沙羅がお母さんの肩を叩いて告げた。
「お子さんを一時的にでも行政に頼って孤児院に預けるのも、選択肢。お母さんの生活が安定したら、改めて引き取っても遅くはないと思うの」
涙を止めて顔をあげる母。その瞳には深い絶望が刻まれていた。
しかし。
「だめよ!」
それに反対したのはロゼ。
「お母さんと、子供は一緒にいないとダメよ! 捨てたんじゃないとしても。捨てられたと思ったら。捨てたんだと思ったら。それは一生お互いの傷になるの! そんなの正しい親子のあり方じゃないわ」
「じゃあ、死ねというの?」
沙羅が立ちあがってロゼを真っ向から見据える。
理夢琉は思う。お互いに間違ったことは言っていない。
なのに、なぜこんなにも選択というのは難しいのだろう。
「私がチャリティーコンサートを開く。そして」
「そのあとはどうするの? 私達が帰った後は?」
「それは……」
なぜ誰もが幸せになるというのはこんなにも難しいことなんだろう。
理夢琉がそう、視線を落としかけた。
「ねぇ、そう言えばAの国で酒場の歌い手が足りないって、言ってなかった?」
その時、メリッサが何気なくそう告げた。その一言に信実が手を叩く。
「それ、歌がうまかったらそこに就職できるってことじゃ!」
「メリッサ。彼女について詳しい情報がいるね。話を聴いてあげてくれないか」
「わかったけど、拓海はどうするの?」
「ECCOさんに資金援助と技術提供のお願いをしてくる。それに歌姫以外の選択肢もないか、例えば医療関係の下働きみたいな仕事を俺も探すよ」
「任せたわよ」
「ああ」
駆けだしていく拓海。自体が動きだし焦る信実。
「ああ、でもうまく行くかどうかなんて分からないんっすよ~」
そう不安がる信実をなだめるためにロゼが告げる。
「うまく行くかどうか、じゃなくて、うまくやるの。あなたがくれたチャンス、物にして見せるわ」
「まずは、体を綺麗にしないと。美しくない歌は誰にも聞いてもらえないものよ」
「私、歌なんて……」
「今のあなたの気持ちをそのまま表に出せばいいの、選曲は任せて、アタシはあなたの気持ちが痛いほどわかるから。大丈夫」
そうロゼは母親をとりあえず自室に連れて行った。
体を洗い、栄養のあるものを食べさせて、眠らせる。
子供は沙耶が看病することになった。
同時に信実は遙華と連絡を取り、機材や手続きを進めていく。
* *
その夜の事。Bの国の町の外にぼんやりとした灯りが灯った。
だがそれは町の人間が焚いた灯りではない。
愚神が灯した憎悪の炎である。
愚神『イブリース』を名乗るその青年は、髑髏を模した蝶をあたりに舞わせながら町へと一歩一歩、歩み寄ってきた。
引きずるローブは砂に痕をつける。
時同じくして、数日前に強盗に入られた店の前に数人の若者が倒れ込んだ。
その手の袋には盗み出した金品が全て入っており。
青年たちは店主に泣きながら許しを乞うた。
「お前たち、よく、のこのこと姿を現すことができたな。しかもA国の人間だと! ふざけるな! ぶち殺してやる」
その時だ。爆炎が立ち込めて店主も青年たちも吹き飛ばした。
石は破壊され砂はえぐれ。あたり一帯めちゃくちゃにされた。
霊力反応である。
それに反応しリンカーたちは宿を飛び出した。
「ごちゃごちゃうるせぇな。黙って受け取りゃいいだろぉがぉ」
そう告げるのはローブの男イブリース。
「たくよ! 予想通りのもんみせつけやがって。盗む方も盗む方だけどよぉ。許さねぇ方も許さねぇほうだぜ、おかげで悪意がうまいうまい」
その言葉に店主も青年も言葉を失った。
「あの愚神が俺達を殺すって! 盗ったもの戻して来いって脅したんだ」
「うっせぇ! そこは黙ってろよボンクラ。」
「よぉクソガキ。ちったぁ強くなったか?」
「塵……くん……?」
「お前、次その名前で呼んだらここにいる奴ら皆殺しにするからなぁ。おい」
塵は左手に炎を宿してそう告げる。
燃衣は眉をしかめて叫んだ。
「なんでそんなことするんですか。僕達がなにをしているか知っているんですか。邪魔するつもりなんですか!?」
だがその言葉に、イブリースは答えない。
「いつまでも争い続けてろ、糞ども。それでなくやつが増えるなら、俺は本望だからよ」
その姿を指さして拓海が告げる。
「みんな! 見てくれ。あれが愚神だ。俺達の敵だ!」
だが、ここで戦うわけにはいかない。そう燃衣はイブリースの前に立つ。
「殴るなら余所者のボクを殴れ、但しその後に彼女の歌を聞いてくれ」
そう燃衣が振り返った視線の先にはECCO。
ひりょと、イリスにがっちり守られている。
「……人の本質は光だ。ボクは彼ら歴史を……彼らの誇りを、光を信じる……ッ!」
「へぇ、そうかい」
そうイブリースは燃衣を鼻で笑うと。炎に包まれ姿を消した。
「望み通り、そのねーちゃんの歌は聞きに行ってやるよ」
そう、人をあざけるような笑い声を残して。
第六章 光
塵はその光景を砂漠の隅から見つめていた。月に雲がかかれば闇にまぎれるそんな暗所。
彼の体には傷が刻まれていた。少し前のリンカーとの戦闘でも傷を負ったが、大部分は『争いを煽る組織』との戦いの果てだった。
「……んあ? 何も言わなくてよかったのかだと?」
塵は相棒の言葉を口に出して噛みしめながらその場に座り込む。
「いいんじゃね? おれちゃん、感謝されてぇわけじゃねぇし」
代理戦争を煽る武器商人の存在は厄介だった。やはり国と国の間に根をはり、定期的にお互いの国に不和を招くような作戦を行っていた。文字通り生き血を啜る連中だ。
ただ、塵の力にかかれば、初期支給品程度しか与えられていないリンカー集団など、壊滅も簡単で。
適当にぶっ潰してきた。そう言うわけだった。
そうして伸ばした視線の先。
オアシスではすでに両国国民を集めてのライブが行われていた。
「私、ライブには反対……なんだけど、聞く耳持たなそうよね」
そうキーボードの準備を整えながら沙羅はECCOを見た。すでにステージ衣装に着替えたECCOだったが、まだ舞台袖で控えている。
ECCOよりも前にまずお披露目したいメンバーがいるのだ。
たとえば沙羅自身もここにいる全員に言いたいことがあった。
「歌で争いを止める。そんな壮大な歌馬鹿の友人のお供で来ました。
今日このライヴで争いが止まる。私はそんな事は考えていません。
この2国間にはびこる、影も形もない、でも愚神よりも恐ろしい、空気という魔物はあまりに強大です。
大衆の敵意、行き場のない怒りの空気、今まで犠牲になった故人。それが積もりすぎた。
他国を責めないと村八分にされる。隣人の顔色を伺い、異を唱えれば排除され、多数派が絶対的正義、そんな空気が蔓延している。
その空気に一石を投じられれば。議論の種に、この一夜がなれば、これ程嬉しいで事はありません」
その言葉にざわめく会場。それにあちゃーっという表情で顔を覆うECCO。だがすぐに指の隙間からにやついた表情を見せて、笑うと、沙羅は「あんたにそんな顔されたくないって」と口ぱくで告げた。
そして鍵盤に体重を乗せて引いた。
直後、ぱんっと軽快な音が鳴り響き理夢琉が登場する。
最初は事態に乗り気ではなかった理夢琉。しかし。
今ではECCOの手伝いができることが嬉しいという笑顔で満たされていた。
メンバーが楽器をかき鳴らしながら続々と登場する。
たとえば、ギターを担当するのは拓海。
彼は友人が果たせなかった思いを抱いてここにいる。
今回ECCOに危険はなかった。完璧に仕事を終わらせるため、舞台上でも気は抜かない。
そして、例の民族楽器を装備したネイと燃衣がベースで登場。
だが歌い手はここにいるだれでもない。
「日本から来た奇跡の美女!」
その時正装した信実がマイクを握り舞台前に登場した。
「超国民的マルチタレント、ロゼ=ベルトランと、息子を思う慈母アイドル。ネイリ・リントンのチャリティーコンサートっすよーー!」
そんなコールをしてしまった後になって信実は思う。
(……ロゼさん、流石に盛りすぎてませんか?)
そんな信実にロゼはウィンクを返した。
(あのね信実クン。こういう宣伝モノは言った者勝ちなのよ♪)
チャリティーコンサートと名打たれたライブでは信実が募金箱を首から下げあたりを練り歩く。
ハスキーながらも甘く響く声で歌うロゼと清らかな高音のネイリはなんともいえない色気があるとして男性たちから人気を博した。
続いてECCOの手を引いて壇上に上がったのはエリーヌ。
「……歌は広がること、わたくし自身が証明しなければなりませんの」
次いで水しぶきが上がると、可愛らしい音楽が鳴り響く。
「分かたれた二つの心、ひとつに! ですの」
――サウザンドソングが共鳴している……?
その時である、人ごみから悲鳴が上がった。人が避けて作られる道を塵、いやイブリースが闊歩してくる。
「おいおい、おまえらよ、このまま歌に流されてお涙ちょうだいでなかよくなる気かよ」
塵は高らかに告げた。その目の前に燃衣が立つ。
「もっとあるだろぉ。長年降り積もった恨みがさぁ。目の前にいる目障りな向かいの国の奴らを殺してぇってさぁ、叫べよ!」
それに負けじとエリーヌは演出を続けた。
「ふふふ……歌を暴力で抑え込むのは無粋ですの。さあ、一緒に歌を楽しむですの!」
だがその歌も、次第に沸き立つ会場の声にかき消されるようになってしまう。
ひりょとイリスがECCOの前に出た。
観客たちはイブリースの言葉に耳を課し。歌声が響かなくなりつつある。
そんな中拓海がそのテクニックのすべてを披露してギターをかき鳴らす。
足を踏み鳴らし、顔を振り、汗をまき散らして。息を荒げて、ライトに瞳を輝かせる。
そのパフォーマンスはその場を圧倒する勢いがあった。
そして観客の勢いがそがれたとみるな否や、エリーヌからマイクを受け取り告げる。
「俺達、愚神とずっと戦ってきたからわかるんだ」
拓海は塵を指さし告げる。
「心の弱さに漬け込み強くなる存在だ。この国は愚神にとって最高の生活環境。愚神がはびこるのにもってこいの場所なんだ」
会場が静まり返った、戸惑いの声が伝播する、それに拓海は微笑みかけてマイクをとある人に渡した。
「そう言われても、勇気の出し方、分からないよな。負の気持を少しでも動かしてくれ……未来へ!」
マイクを受け取るECCO。そんな彼女にいまだにイブリースは声を荒げ続けている。
「おまえ、本当に戦争を止められるって思ってんのかよ! 兄弟同士で殺し合いしてるこんなバカ共だぞ」
「なかようなることなんて、簡単や」
「それで救った気になるってか? 安いな」
「だれもそれが救いだとか、うちが救ってやろうだとか。そんなことは思っていないの」
ECCOは告げる、観客全員を見すえて。
そして燃衣は答えをECCOに預ける。
「みなさん、聞いてください」
ECCOは告げる。
「私は最初はこのオアシスを撮影で使いたいがために来ました。私のわがままです」
「けれど、皆さんの事を知るうちに好きになってしまいました。両国の人それぞれです。そこで私が思ったのは、何でみんないがみ合っているんだろうってことです」
「小鳥が死んで泣いている子がいました。弟に会いたいと願うおじいさんがいました。息子のために泥をかぶる母がいました。でもそれってありふれた普通にある光景だと思うんです。なのに何で人はいがみ合うのでしょうか」
「それは私は、辛く悲しいからだと思います」
「自分が辛くて、悲しくて、どうしようもない時、とても寒い時。人はひどく冷たくなってしまうものです」
「人は貧しきときに人に温かく接することはできません」
「どうか、私の歌が皆さんの温かさになることを祈って」
そう告げるのと同時に沙羅は伴奏を開始した。もうすでに引きなれた曲『氷の鯨』。
その曲の最中、A国で出会った老人を探し出した拓海は、その手を取って人ごみをかき分ける。
「さぁ、こちらへ」
そして拓海は振り返って何者かへ声をかけた。
「兄に会いたいですか?」
「私の想いは変わらない、逢わせておくれ」
次いで拓海は老人の手を取って。二人の老人を引き合わせた。
彼らこそ、生き別れになった弟と兄だ。
「まさか、あの世手前で会えるとは」
そう二人は肩を叩きあいながら涙を流す。
「こんな、こんなことがあるなんて、ありがとう、リンカーの皆さん。ありがとう」
「誰かに助けてもらうことが、涙が出るくらい嬉しいことは私も知っています」
間奏の最中ECCOが告げる。
「私もここにいるリンカーの皆さんに助けてもらいました」
そしてECCOは高らかに告げる。
「みんな、ありがとう。そして争いをやめてくれた人たちも、ありがとう。これからは手を取り合って生きていこう」
次いで光が分厚くECCOを照らす。眩い輝きの中に消えていくECCO。
それを塵は見送った。
エピローグ
その歌と光景を見て、塵はいつの間にか姿を消していた。
ボロボロ姿で相棒にアメ玉をやる。
夜の闇へと目を向けて、塵は迷いなくその歩みを進めた。