本部

作るぜ! 雪像!!

睦月江介

形態
イベントショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
寸志
相談期間
5日
完成日
2018/02/09 18:59

掲示板

オープニング

 暦の上では2月に差し迫り、寒さの厳しい中エージェント達が会議室に通される。会議室では苦々しい顔をした職員が『よく来てくれた』と頭を下げるが、その表情を見るとさぞ大変な事が起きたのかと緊張せずにはいられない。
「すまないが、札幌のHOPE支部に救援に行ってほしい」
 その表情の理由は救援が必要なほどの強敵の出現か、と更に緊張が走る。
「この季節だろう? 札幌の支部でインフルエンザが流行してパンデミック状態、職員の多数が動けなくなっている」
 それを聞いてずっこけるエージェント。確かに由々しき事態には違いないが、これまでの緊張を返せと言いたくなる。
「更にタイミングの悪いことに、この時期は人手が必要なイベントが控えていてな……ハッキリ言って猫の手も借りたいほどの状況なんだ」
「……人手が必要なイベント?」
「雪まつりだよ」
 さっぽろ雪まつり。カナダのケベック・ウィンター・カーニバル、中国のハルビン氷祭りに並ぶ『世界三大雪まつり』の1つ。北海道札幌市内の大通公園をはじめとする複数の会場で毎年2月上旬に開催される雪と氷の祭典である。
「HOPE札幌支部も数年前から雪像を作っていてな、メイン会場である大通公園の一角にスペースを借りているんだ。だが、模型やらを準備していざ作ろうという段になってこのざまだ……このままでは今年の雪像は諦めざるを得ないがスペースを借りている手前申し訳ないというのもあってな……この際デザインは君達に任せても良いから、作ってみないかという事なんだ」
 なるほど、事情は飲み込めた。荒事の心配もないイベントだし、最悪失敗しても元々諦めかけているのだからダメで元々だ。気楽に参加できると思っていいだろう。
「だが、防寒と風邪の予防はしっかりしろよ。雪像づくりでは雪に水をかけるし、北海道最大の都市札幌と言ってもこの時期は氷点下でも珍しくないから、寒いぞ」
 札幌支部の職員の二の舞になりたくなければ、この辺りの対策は必須と言えるだろう。
「作業が終わったら北海道の地酒の酒粕を使った、温かい甘酒を用意してくれるそうだ。報酬も少ない分せめてもの心遣いと言ったところだな……これも人助けと思って、手を貸してくれ」

解説

 インフルエンザでダウンしてしまった職員達の代わりに雪まつりの雪像を作るイベントになります。デザインはお任せで1~3種類用意してください。
 特に危険な事はありませんが、防寒対策が不十分だと風邪をひくことになりますのでご注意を。
 雪像づくりが一段落したら、甘酒を貰えます。

リプレイ

●雪山を前に
 さっぽろ雪まつりの雪像制作を手伝うべく北海道は札幌市大通公園を訪れたエージェント達は、目の前にどでん! と積まれた雪の山と、本州より幾分寒い気候はエージェント達のやる気に響きそうだったが、意外とそんな事は無かった。むしろはしゃいでいる程だった。
「すっごい雪! ですね!」
『雪など見慣れたものだと思ってはいたが、これは見事であるな』
 紫 征四郎(aa0076)がその雪の量に驚き、ユエリャン・李(aa0076hero002)も感嘆していたがその横でフィアナ(aa4210)がはしゃいでいると、余計に子供っぽく見える。
「雪ー」
『風邪ひかない様にね、フィアナ』
「はーいっ」
 ルー(aa4210hero001)がマフラー巻いてあげている様子を見るとなおさらである。しかし、はしゃいでばかりいるわけにもいかない……あくまで今回の仕事では雪像を3つも作ることになるし、目の前の大量の雪を積み上げ、固めていく都合で結構な力仕事である。今回作るのは、全員で話し合った結果きぼうさと札幌時計台と海上要塞「Ark」となった。
「きぼうさをセンターに、両脇を時計台とArkが固める。うん、完璧な配置じゃない?」
 志賀谷 京子(aa0150)の提案で、配置についても問題なく決定。いざ作業となり、リディア・シュテーデル(aa0150hero002)をはじめメンバーにも気合が入る。
『きぼうさは、すっごく可愛く作ってあげたいです!』
「まずは共鳴して、パワーに任せて大雑把な形を作る流れかな
『それから分かれての細かい作業ですねっ。やりましょう、京子姉さん」
『……ジャスティン、選考漏れ……作れない』
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)は大きなジャスティン像を作る野望を断たれて耳と尻尾をしんなりさせていた。資料としてフィギュアやブロマイドやらを張り切って用意してきた分ショックが大きかったようだ。しかしそこは麻生 遊夜(aa0452)がしっかりフォロー。
「機嫌直せって……後で作ってやるから、な」
 そう言って頭を撫でてやると、ひとまずは納得してくれた。
「さて、それじゃ一丁やるとするか」
『……ん、がんばろー』
 こうして、彼らの雪像作りは始まったのである。

●基本は同じ
 制作するものは3つ、といっても作り方は基本的には同じである。まずは土台となる雪のブロックを作り、そこから削り出したり、付け足したりと言う流れだ。つまり、どれをとってもまずは土台となるブロックを作る力仕事から始まる。
「当然、ディーノは力仕事だからねー分かってると思うけどォ」
『ぁん? はるな。お前ェ、俺様のひ弱さ知ってんだろ? 力仕事なんて願い下げだからな!』
 はるな(aa5571)にサラッと押し付けられたディーノ(aa5571hero001)は乗り気でなく不満を口にする。
「楽しそうだけど、けっこう体力勝負だよねえ」
『元気さなら負けませんよ! リディアに任せてくださいね!』
「うん、一緒に頑張ろっか」
「本来は自重で圧縮するんだが、リンカーの力を使えば人力での圧縮も可能だな」
『僕は英雄で、特に風邪もひきませんから』
「中々の力仕事じゃの、頑張って雪を集めないと……とはいえ……手が悴むのう」
『冬の晴れた日の空気は格別じゃが、こう寒いとのう』
「折角だから、大きく作りましょうね!」
 だが、リディアと京子をはじめ、御神 恭也(aa0127)や凛道(aa0068hero002)が作業する様子に触発されて何だかんだで相応の頑張りを見せる。参加していたメンバーに可愛い女の子が多いし、アクチュエル(aa4966)とアヴニール(aa4966hero001)や征四郎のような幼い女の子が頑張っている中で自分が何もしないわけにもいかない、という部分はそれなりにあった様子だがともあれきっちりやることをやっているのだから良い事である。
 基礎作りからして征四郎はユエリャンと共鳴して大剣で面取りをしているし、月鏡 由利菜(aa0873)とウィリディス(aa0873hero002)が大雑把に雪を分割するのに使ってるのはトマホークだしと人目を引いてしまう光景が広がっていたがその位はまあ可愛いものだろう。あくまでこれは全部に共通する基礎作りの作業に過ぎないのだ。

●マスコットって大事だよね
 まずはHOPEの認知度に貢献するマスコット、きぼうさの雪像だが、ここに取り組んだのは凛道、征四郎、ウィリディス、フィアナ、ルー、リディアに京子。
「北海道寒い、けどもこもこ着てる、し兄さんと一緒だから大丈夫っ。きぼうささん、きっとちっちゃい子気に入ると思うの!」
『そうだねぇ』
 精神年齢の低いフィアナをを見ているルーの目は穏やかでどこか緩い空気が漂っているが、制作メンバーの熱の入り方は本物だ。
「足が不安定そうなので、座った形の方が良いかもしれませんね」
 征四郎から出されたこの提案は、実は結構重要だ。真面目な話、バランスの悪さゆえに倒れてしまったり、部分的に折れて作り直しになってしまうというアクシデントは珍しくないのだ。安全面で言えば、座った形の方がずっと安全である。この提案が受け入れられ、同時に凛道からもデザインについて、そのままではなくちょっと雪国風への変更してはどうかと希望が出される。
『だってほら、雪39さんみたいに可愛い衣装に変えるの凄く可愛いじゃないですか。今年はあれですけど、来年から服案応募してもらって企画にすれば……ビジネスとしてもいいじゃないですか』
 雪まつりで再度そんな機会があるかと言うのは大きな疑問だが、言っていることに間違いもないし、こだわって作りたいのはみんな同じなのでこれもまた受け入れられる。
 そしていよいよ制作であるが、モデルも無しに作ると言うのは流石に無理がある。そこへウィリディスがぬいぐるみを取り出してみせる。
『ロンドンの時計祭の時のきぼうさちゃんぬいぐるみ、持ってきてるよ~。せっかく時計塔作るなら、衣装も時計祭バージョンに合わせてみたいな』
「ぬいぐるみでは、きぼうさが時計台の上に乗っているのですが…それも再現できそうですか?」
 メインで作りたいものは各々決まっているが、互いに連携はしている。時計台の制作に向けて準備をしていた由利菜は英雄の様子が気になりこちらへ来たのだが、丁度造形の話をしていたので聞いてみた。
『できれば屋根と足を氷で固めて再現したいけど……無理そうなら素直に近くへ置くよ』
 やはり要だけあって造形はなかなか議論が盛り上がる。あくまでメインはきぼうさだし、時計台は別に制作しているメンバーもいるので再現するならば土台をそれっぽく作るという事になる。ハードルは高そうだが、ここまで来たら行くところまで行きたくなるのがクリエイト魂というものだ。これもまた『やっちまえ』とばかりに勢いでやることになった。
 ここまで固まってしまえば、後は一直線だ。物事というのは不思議なもので、始める時こそ大きなエネルギーを必要とするがそこから先は結構勢いで進んでしまうものなのだ。
「甘酒が……飲みたいな……」
『作り始めてまだそんなにたってませんよマスター』
 できれば隅っこでじっとぬくぬくしてたい三十路である木霊・C・リュカ(aa0068)は手袋、マフラー、コート等防寒は万全、ついでにお腹と背中に貼るホッカイロまで装備している念の入れようだが正直体が冷える作業には違いないし、この日の気温も氷点下だったりするので案外過剰には感じられない。
「いや、ほんとあったかいし幸せになれるんだって……」
 リュカの主張は理解できるが、まだ大きな雪のブロックを削っている段階である。一息つくのはもう少し進めてからにしたいところだ。ちなみに、彼は大きい造形物を作るのは(視力の関係で)特に苦手ではあるため作業としては作業ででこぼこになった足下を整えたり、細かい所の雪をならしたりといったサポートに徹している。
「黙々と雪を彫るのは、精神修行にもなると思うのです」
 と征四郎が袖の中の動物たちも頑張って表現しようと雪を削っているところを、ウィリディスやフィアナが手伝う。その間にも全体の造形がはっきりとしてきて、そこでいったん手を止める。
『京子姉さん、ちょっと離れて見てもらえませんか? それで直したところがいいところ、教えてください!』
「大きさ違うと、そのまま縮尺を拡大しただけじゃ見え方変わっちゃうものね。やりすぎるとバランス悪くなりそうで怖いから、まだ何度か細かく確認していきたいところだけどもう少し削ろうか。可愛くするには丸みが大事だよね」
 こうして何人かで交代しながら全体のバランス調整を行っていくのだが、ここで意外なほどのこだわりを見せたのが凛道だった。特に、スカートのひらり表現具合等にはやけに厳しかった。
『いえ……もう少し……それだとひらりしすぎなのでもっとこう、貞淑n……』
 一度こだわり始めてしまうととことんこだわりたくなるのが人情。時間がたつのも忘れ、とにかく修正を繰り返すことで急遽作成することになったとは思えないほどの雪像が完成したのであった。

●人、それを『浪漫』という
 HOPE東京支部所属艦「Ark」の雪像作りをメインで担当したのは、辺是 落児(aa0281)と構築の魔女(aa0281hero001 )、遊夜とユフォアリーヤ、ユエリャン、もう少し人手が欲しいという事で恭也と不破 雫(aa0127hero002 )。
「ロー……」
『東嵐以来ですか……なかなかに懐かしいですね』
『でかいプラモのようなものであろう、任せるが良いぞ』
『雪像作りは初めてだけど、面白そうだね』
「雪像作りも良いが、皆が風邪を引かんように気を付けないとな」
 やる気が目に見えるようではあるが、恭也の言うとおり風邪には気をつけなければいけない。寒さはもちろんだが、会場は北海道最大の都市札幌であり、この雪まつり目当ての観光客も多いので結構人通りも多いのだ。
「資料を漁り様々な角度から見た外観を基に設計図を描いてきた、万全である! 移動要塞と言うロマン……腕が鳴る、血が滾るというものよ!」
 遊夜の気持ちはわかる人にはわかるだろう。重厚感のある兵器、というのは浪漫を刺激してやまないものなのだ。だが、こちらには1つ、きぼうさにはない重大な問題が残っていた。
 資料を見て考え込む落児の懸念を、構築の魔女が感じ取ったように口にする、
『ふむ、改めてみると巨大かつなかなか面白い形ですよね。実物の迫力はすごいのですけど。相談中であったようにあまり戦闘を意識させないよう主要武装はなしにした方がいいかしらね? あと、機密関連になる部分にも注意しておきましょう』
 そう。あからさまな『兵器』であると同時に『機密』でもあるため、造形に相当気を配る必要があるのだ。だが、武装部分に関しては完全に排除してしまってはモデル選出の意味がない。そのため、とりあえず機密になるような部分だけをできる限り取り除いて作っていくことにする。
『さて、フィンランドの雪像作りとは違う部分があったりするのでしょうか?』
 詳しいところまではわからないが、雪像という点では変わらないので大筋では大差ないのではないだろうか。ともあれ、最初に全員で協力してベースとなるブロックはできているので基本的には後は削りだしていくだけである。
 大雑把な部分はチェーンソーで削り円錐状に整えて磨き、大きな曲線部分を表現しようとちゃっかふぁいやー君で焙ったりしてみたが、ちょっと出力が強すぎたようで必要以上に溶けてしまった。仕方がないので、改めて雪を集め、小さなブロックを作ってそれをベースに補修をしていく。
『おい竜胆。力仕事得意であろ、その箱を持ち上げるの手伝ってくれ』
 ユエリャンは親友の凛道を竜胆と呼ぶ。彼にも手を貸してもらい、補修を進めていくその表情は心なしか楽しそうだ。
 召喚前のユエリャンは雪深い国に住んでいたが、体が弱く雪は窓から見るばかりの生活だった。それがこちらの世界へきて、雪に触れられることには何とも言えない喜びを感じるのだ。
『とはいえ、こう随分冷たいのは頂けぬであるが』
 という苦笑交じりの声は白い吐息と共に消えた。
 そうしている間にも外円上のレールやレール上にある十八の推進炉、大型砲塔八門・中型砲塔十六門・小形迎撃用機関砲七十二門等の細かい所は七人の小人も活用してコツコツと、丁寧に仕上げていく。
「最も魅せる部分だ、手を抜くわけにはいかん」
 ここが要と特にレールや砲塔をピカピカに磨き上げていく遊夜を、楽しそうに見つめるユフォアリーヤ。
『……ん、ここが腕の……見せ所』
 きぼうさの制作班に負けず劣らず、こちらもこだわりが見て取れる。人数がそれなりにいる事ももちろんだが、共鳴したりAGWまで使ったりと能力者であることのアドバンテージを最大限活用しているからなのだが、正直なところ苦労して作っている一般の人が怒り出しそうなほどのスピードとクオリティであった。

●アレンジ……だと思う、多分
 残るは時計台の制作。こちらを主としたのは由利菜、アクチュエル、アヴニール、はるな、ディーノ。メインに据えて作業をした人数が少なかったものの、他の雪像を作っているメンバーも折を見て手伝ったため、全く問題はなかった。
「我らは、言い出しっぺでもあるし、札幌時計台を造るのじゃ!」
『実際の時計台も見ておきたいのう。あ、あくまで実地調査じゃ。観光ではないのじゃ!』
 アクチュエルが息巻く横で、そう進言するアヴニール。観光ではない、と言いつつもそわそわしている辺り気にはなっているらしい。幸いにして札幌時計台は大通公園から歩いて行ける場所にあり、結構近い。
「ちょ、実物が近場にあることだしィ、実物との差トカ面白そーじゃん?」
 とはるなも実物を見るべく同行。自然の中にあるのかと思いきや、コンクリートジャングルのど真ん中にあるためイメージするものとのギャップからがっかり名所と言われることも多いのだが彼女達はそれほど気にすることもなく、むしろ制作にあたって良い刺激を受けたようだった。
『見るとなかなか味があって良いのもじゃの。想像以上じゃ』
「うむ。これは作り甲斐がありそうじゃの!」
「実物に負けない位、リアルガチな勢いで頑張っちゃうかもぉー。どちゃくそパリピって行けたらいいよね~♪」
 だが、こうして受けた刺激に加えて、由利菜も工作作業の得意なリーヴスラシルが急遽年度末の仕事を追加されて行けなくなった分頑張らねばと張り切ったことでこの雪像は他の2つとは違い、別次元のレベルに進化を遂げる事になった。
「イメージはウェストミンスター宮殿のビッグ・ベンです。ロンドンの時計祭の時のことも思い出しましたから……内部の鐘も再現したいですね……別途、鐘の氷像を作りましょう」
『ユリナも、先生並に芸術への拘りが出てきた気がするね……』
「……彼女が出られないからこそ、私がその分頑張らなければなりません。それに、雪像を作るのは私一人ではありませんからね」
 雪像はみんなで作るものであるし、制作中に少し周囲を見回すときぼうさもArkもその過程からして気合がわかる。その情熱が伝播するのは、実に自然な事であった。
 大雑把な形は愚痴を漏らしつつもメインで作業を行う中では唯一の男手であるディーノが削り出し、細かい部分をはるなや由利菜が器用に整えていく。
「段々それらしきモノになってきたの!」
『うむ。本物よりも本物じゃ!』
 アヴニールの言葉通り、雪像のディティールは氷の鐘までつけたことも相まって本物よりも何割か荘厳さが増した何か別物じゃないかと言う仕上がりの時計塔となった。
「……ちょっと盛りすぎちゃった感じィ?」
「そう、ですね……ここまでするつもりはなかったのですが、気が付いたら……」
『まあ、いいんじゃない? これもアレンジってことで』
 ここまでやっておいて、崩してしまうのも少々もったいない。確かに若干やりすぎてしまった所はあるが、これもアレンジ……だと思う、多分。多少のアレンジは個性があっていいだろう……とりあえずはそういう事にしておく。決して楽な作業ではなかったが、こうして最終的には無事に3つの雪像が完成したのだった。

●作業の合間、そして夜
 寒さが厳しい中、また雪まつりに向けての時間が無い中ということもあって、雪像作りは急ピッチで進められたのだが、エージェント達も全く休むことなく作業していたのかと言えば、そうではない。
『ううっ……寒い~』
「雪集めや荒取り時と違って動きが少ないからな体も冷えやすいんだろう。一緒にやっている者達にも適度に暖を取るように言っておいてくれ」
『了解したよ~』
 細かい作業の合間はどうしても体が冷える。恭也の伝言が雫経由で伝わったタイミングはまさに絶妙といえた。
「皆、一回休憩せんかの?」
 時計台の制作にあたっていたアクチュエルが声をかけて、アヴニール持参の紅茶が振舞われる。
『紅茶は淹れて貰う事はあったのじゃが、自分で淹れるのは初めてかもしれんの』
「美味しいし、温まるのじゃ」
『寒くはないかね、少し休憩したらどうだ」
「じゃあ、そうする、わ」
 ユエリャンの声に、きぼうさを作っていたフィアナも手を止めて休憩。征四郎が準備した大きな魔法瓶に入ったお茶を振舞う。
 意外と夢中になっているメンバーは多く、温かくしてじっとしていたいと言っていたリュカも結局集中していたので征四郎はお茶を差し入れる。
「おてて、冷たくなってませんか?」
「ん、大丈夫だよ。ありがとー」
「ん~……はるな的にはー皆の寒さが少しでも和らげば嬉しいかもぉ」
 同様に、夢中になっていたメンバーに休憩を呼びかけつつおしるこを振舞うはるな。こうした気配りのできる面々がいたおかげでスムーズに作業を進める事ができたというのは、忘れてはならないだろう。
 雪像が完成する頃にはすっかり日も落ちてあたりが暗くなっていたのだが、ここでマスクをしっかり装着したHOPE職員達が甘酒を配ったタイミングも、実によかった。これはリュカと恭也が早めに手配を頼んだのが大きかった。更に恭也は鮭等の材料を買い集めて粕汁も作っており、甘酒と一緒に振る舞われたそれは冷えた体をしっかりと温めてくれた。
「何か固形物を胃に入れた方が、体が温まりやすいからな」
「みんな、おつかれさまーっ!」
『みなさんのおかげで、すごい出来だと思いますっ』
 京子が皆を労い、リディアの賞賛に改めて雪像を見る。確かに、苦労しただけあって素晴らしいクオリティだが実はこれで終わりではない。むしろ、夜になってからが本番とも言えた。雪像がライトアップされ、イメージプロジェクターの技術を流用したプロジェクションマッピングが雪像表面に展開されたのだ。必要なコード類などは、白のビニールテープで目立たないようちゃんと隠されている。
 Arkは本来の色に彩色し推進器に火を入れ海上を疾走するような映像。波部分は水飛沫が上がるようにしてあり、臨場感が伝わった。
「ロー……!」
『無骨なかっこよさを出せたらよいのですが』
「しっかり出てるぞ、これこそ浪漫だ!」
 プロジェクションマッピングの映像は主に構築の魔女の提案で作られたものだが、その仕上がりに遊夜は思わずガッツポーズ。
 きぼうさはこだわりの衣装で雪像が作られたが、映像については本来の衣装や札幌雪祭りの法被などお祭りに合わせた衣装を投影された。特別凝った衣装も良いが、素直に本来の衣装と言うのもまた、良いものであった。
 札幌時計台は、実物を模した色合いや赤や青などの幻想的な色合いで光を投影し、時計の文字盤が進む、逆回転するといったの細やかな演出が絡られた。
「ビックベンの事をちょっと思い起こしてしまいますね」
「え、ええ……」
 これはこれで美しいのだが、札幌時計台のはずがどこかビッグベンの面影を残してしまっているのはやはり由利菜には複雑な気分である。
 こうして、雪像の夜の顔も表現されその様子を京子とアクチュエルが中心になって写真に収めていく。
「此処で知り合ったのもきっと何かの縁じゃろうしな……雪像造りの興奮は冷めやらぬの」
『折角じゃから、雪うさぎや雪だるまでも作ってみようぞ』
 アヴニールが近くの雪を集めて雪うさぎを作り始めると、それに便乗するように小さいきぼうさ雪兎系雪像を作り始めるリュカ。その横では更に遊夜が余った氷塊を使ってジャスティン像を作成していた。きぼうさ着ぐるみ会長やクリスマス仕様という、ある意味ですごいデザインの物まで作っていて、完成したそれを受け取ったユフォアリーヤは、実に満足げだった。
 作り終えてみればあっという間で、ウィリディスは完成した雪像を眺めながら由利菜に語り掛けた。
『ユリナを助けるつもりが、あたしの方が助けられちゃってたなぁ』
 それが少し残念、と言うように肩をすくめるが由利菜はそれを気にすることもなく微笑む。
「あの人に頼れない時も、リディスやみんながいれば心配ない……そう思えました」
 言ってしまえば、雪で彫刻を作っただけ……だが、京子の言葉を借りるなら想い出が何よりの報酬、でありみんなで作り上げたという満足感に、心が満たされているのを感じた。
「みんなで、一緒に作ったら、楽しい」
 と終始にこにこしていたフィアナを見れば、それでいいのだとはっきりわかる。
『いっくし!!」
 ほっと、落ち着いた気分で雪像を眺めているとディーノのくしゃみが聞こえた。心は温かいが、気温は夜になりさらに冷え込んでいる。あまり長居をしていると風邪をひいてしまう。名残惜しくもあるが、そう判断してその場を後にするエージェント達。
『……ん、ジャスティン……お家帰るよー』
 ユフォアリーヤをはじめ、何人かが小さな雪像を持っているのは気にするだけ野暮というものだろう。暖かい建物の中に入れば溶けてしまうが、小さく儚いながらもそれらも大切な思い出になるのだから。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 断罪者
    凛道aa0068hero002
    英雄|23才|男性|カオ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 久遠ヶ原学園の英雄
    不破 雫aa0127hero002
    英雄|13才|女性|シャド
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • 分かち合う幸せ
    リディア・シュテーデルaa0150hero002
    英雄|14才|女性|ブレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト
  • 光旗を掲げて
    フィアナaa4210
    人間|19才|女性|命中
  • 翡翠
    ルーaa4210hero001
    英雄|20才|男性|ブレ
  • 似て非なる二人の想い
    アクチュエルaa4966
    機械|10才|女性|攻撃
  • 似て非なる二人の想い
    アヴニールaa4966hero001
    英雄|10才|女性|ドレ
  • エージェント
    はるなaa5571
    人間|18才|女性|攻撃
  • ヴィジュアル系ツンデレ
    ディーノaa5571hero001
    英雄|27才|男性|ソフィ
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