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蔓延! 季節風邪F型
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F風邪対策本部掲示板
最終発言2018/01/28 16:09:55 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/01/28 14:43:26
オープニング
●季節風にはお気を付け
「やられたわ」
そう執務室でこんこんとせき込みながら、セーター、マフラー、ちゃんちゃんこ、ステテコ姿でキーボードを叩くのは遙華。
彼女は医者から季節風邪を言い渡され、いま自宅監禁中なのである。
「あー、視界がボーっとする」
もはや意味の分からないことをつぶやきながら赤ら顔でモニターを覗き込む遙華。
そんな彼女が、今突然仕事を休んでしまうと、立ち行かなくなってしまうお仕事が多々あるため、彼女はゆっくり療養とは行かなくなっているのである。
「これが終わったら、休みをもらわなきゃ」
そう、二月をめどに行うと宣言している温泉旅行。その企画を作りこみながら遙華はソファーにもたれかかり、ふとため息をついた。
この状態だとやけに喉が渇く。
水を飲もうとマスクを外すと、その時外気が喉にしみて遙華はまたせき込み始めた。
口を手で押さえ。水音のする咳を長く続けた。
するとである。
遙華は手のひらの中味を見つめて、目を見開いた。
血だ。しかも尋常な量ではない。咳のし過ぎで喉が傷ついたにしては滴るほどの血はおかしい。
「これは」
未知の病気の可能性は低い。この日本である。
だとすれば従魔被害を疑うのが最優先だろう。
「ロクト、調べてほしいことがあるの」
そう遙華はロクトに通話を繋ぐと、彼女に懸念を全て打ち明ける。
●愚神型季節風邪について
遙華の懸念は正しいものでありました。
現在では一般的にはやっている季節風邪とは別に、少し変わった特徴を持つ季節風邪が流行しており。
その患者を集め、血液検査など行うと、血の中に混じって従魔が発見されたとのことでした。
この季節風邪はすでに流行の兆しを見せており、一般的な季節風邪と同じ感染経路で皆に感染します。
場所は日本の首都を中心として、県外にはまだ出ていない様子。
今回はこの対処と、原因となる従魔の対応を行っていただきたいのです。
この季節風邪にかかると回復の兆しが訪れることは一切なく、緩やかに体力が奪われて死にます。
現在の感染者は推定で500人ほど、普通の季節風邪の感染力の半分程度しか感染しない見込み。
実はこの季節風邪については治療法が存在します。
1 ドレッドノートの血液からワクチンを生成する。
クラス・ドレッドノートの英雄と共鳴した能力者の血液はこの従魔に異常な耐性を持つことがわかりました。
男性で体重の約8%、女性で体重の約7%。その体内血液の15%前後までなら血を抜いても問題ないとされます。
血液10MLにつき一人分のワクチンを作成することができるそうです。
手法は謎に包まれています。
2 パニッシュメント
スキル『パニッシュメント』によって即座に症状を取り除くことができます
3 霊力による強いショック
患者に体力がある場合ですが、霊力による強いショックでインフル従魔は死滅するようです。
4 愚神の影響を弱める一部スキルの影響下での長期療養。
一日から三日間ほどで体内の従魔を除去しきることが可能なようです。
あとは体力低下を抑えたりすると、生存時間が伸びます。
● 季節風邪発生従魔
この従魔を蔓延させた存在が町のどこかに存在しているようです。
ただ、予想されるのは、人が多く行き交う場所、都市部のみに広がっていることから、公共の施設に存在するのではないかと憶測が飛んでいます。
皆さんが調査に乗り出せばすぐに見つかる事でしょう。
どこに従魔が存在していると思いますか?
解説
目標 感染を食い止める
従魔を倒す
今回は感染拡大の阻止と、従魔の撃破両方を視野に入れていただく医療ドラマチックな戦いになると思います。
感染阻止はワクチンや治療を効率よく行うこともそうですが。
どうすれば、感染を未然に防げるか、一般人に対して被害を減らすことができるかを考えていただければと思います。
そして従魔については、攻撃手段は皆無で、移動もしません。
というのが巨大なキノコの様な従魔で、呼吸をするように周囲にウイルスをばらまいているそうです。
接近すると皆さんでも季節風にかかる可能性があります。
この従魔の発見は難しくありません、モスケールと言ったアイテムも有効ですし。微弱な霊力から感覚で探知できるかもしれません。
問題は発見される場所が読めないことです。
どこでも発見できる可能性はありますが。
それが電車の中。オフィスの通気口などだった場合避難はどうしましょうか。
今回の戦いは一般人をどうするか、という面に重きが置かれております。
リプレイ
プロローグ
今回のパンデミックに対して対応するため、多数のリンカーが集められた。
彼らは病院につくなり、患者搬入口用の通路から目的の施設まで足を運ぶ。
早歩きになだれるように進むリンカーたちの足音がごつごつと響いた。
「愚神御門のウイルス従魔でもリンカーに耐性があった、それ以上の愚神の仕業か?厄介な」
『アリュー(aa0783hero001)』が患者たちで溢れかえる待合室を一瞥するとそう告げる。
「まさかガデンツァ?それとも別の……とにかく被害が広がる前に押さえ込まなくちゃ」
『斉加 理夢琉(aa0783)』はナース服に身を包み拳を胸の前でギュッと握る。
「人間という集団にダメージを与えるのならば、こういう手段の方が幾分効率的だ」
そう分析するのは『ベルフ(aa0919hero001)』。
「逆に言えば集団への影響に特化しているから、単体への影響力は控えめだね」
『九字原 昂(aa0919)』は階段を足早に駆け上がりながら。そう意見を述べる。
「さすがに、罹患したら即死ぬ様なものは、まだ用意できなかったんだろう」
そしてリンカーたちが最初に目指したのは、今回の事件の調査を進めていた医師団が待機する会議室。
その会議室に向かいいれられたリンカーたちは早速資料を眺めることになる。
「便宜上、この茸を「疫病茸」と呼ばせてもらいます」
『晴海 嘉久也(aa0780)』は『エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)』に読み終えた資料を渡すとそう告げた。
「今のところ……群体型従魔という扱いで、胞子に感染させたウイルスを散布する厄介な代物という認識になって、……消毒が通用しない以上はいかに民間人を近付けずに倒すかになってきていますね」
想定される従魔への対処法を次々に考え出していく、そこはさすがプロと言ったところだろう。
「ただ……正直いって、既に世界の危機レベルの状況だと、私は思います。それと同等の感染力と推測され、かつ致死率の低いSARSですらあの騒ぎになった訳で、一般の疫病対策チームでは今回で完全討伐に失敗すれば数日中に人類が滅んでもおかしくない状況だという覚悟はしていきましょう」
そう告げる晴海。
「既に従魔の風邪は数百人単位で感染しているということですか……。早く感染を食い止めないと多くの人々の命が失われ、社会も大混乱に陥ってしまいます」
『月鏡 由利菜(aa0873)』がそう告げる。
その後ろには理夢琉と同じナース姿の『ウィリディス(aa0873hero002)』と『天宮 優子(aa5045)』や『ミヅハノメ(aa5045hero001)』が控えている。
優子はもともと人手不足の要請を由利菜から受けて参加した身だが、自分にできることは何でもするという意志のようだった。
「それに……ラグナロクとの決戦直前なのに、東京海上支部にまで感染が広がってエージェントが大勢離脱したらヤバいよ!」
そのウィリディスの強い懇願に力強く頷く由利菜。そしてミヅハノメ。
「メディカルウォーズじゃぞ、優子や。わらわ達が手を尽くさねば、大勢の人間が死ぬ」
「そ、そんなことを言ってもどうすればいいの、由利菜ちゃん、ミヅハ?」
「……騒ぐでない。だから年の割に頼りなく見えるのじゃ」
「あたしが何とかして見せる、ユリナ! あたしと共鳴すれば、他の人に癒しの力が振るえる!」
「わらわ達に従魔風邪が移るのも迷惑じゃからのぉ。今のうちに手を打たねば」
英雄の気迫を真正面から受け止めて、由利菜は自分の中で決定した行動指針について話しだす。
第一章 状況調査
先ずは、初期感染者である人物の話を聴こう。
そう判断したリンカーたちはとある人物の病室を訪れた。
そう、遙華である。
「お嬢。元気か―」
そうがらりと扉を開けるのは『赤城 龍哉(aa0090)』と『ヴァルトラウテ(aa0090hero001)』。
その背後には『御童 紗希(aa0339)』と『カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)』が続く。
「ええ、よくはなってきてるわ。回復までもう少しと言ったところね」
「前にもカビ型従魔が居たが、とうとうウイルスまでとはな」
「どこにでも沸く事で定評がありますけれど、呆れたものですわね」
やれやれと首を振って見せるヴァルトラウテに微笑みかける遙華である。
ただ、回復してきたと言ってもまだ起き上がるのも辛いという状況。こんこんとせき込む姿を紗希はじっと凝視した。
「自然治療が見込めないようでしたら、私がスキルで治療致しますが……」
あまりにつらそうなので由利菜がそう持ちかける。しかしウィリディスがつげる。
「……大丈夫だって言うなら、治療スキルは一般の人に回すよ」
「あなたが思ってるとおり、その方が私もいいと思う」
遙華は告げる。
「接触感染か飛沫感染かな?」
『海神 藍(aa2518)』はそう自分の考えを話し始める。
「そういえば、遙華様はどこで感染を? 能力者であれば多少の耐性はあるのでは?」
『サーフィ アズリエル(aa2518hero002)』が問いかけると、遙華は熱で浮かされたような表情のまま考え始める。
「それがよくわからなくて、グロリア社からほとんど出てないはずなのだけど」
「感染源の近くを通っているかも知れないね」
藍が告げると龍哉が頷く。
「研究があると引き篭もるお嬢が感染したとなれば、その行動範囲から経路を絞り込む事も出来そうだ」
「とりあえず遙華さん、まだウイルス従魔消えてないですよね?」
理夢琉が告げるとマナチェイサーを発動、限りなく細い糸だが理夢琉の視界に霊力の残滓が表示されるようになった。
「病院が怪しいかな」
そこでサーフィと理夢琉は何か思い至ったのか。口をそろえてこう尋ねる。
「実はグロリア社内なんてことは……ありませんよね?」
「………………。可能性は高いわね」
調査をお願い、そう告げて遙華は権限をリンカーたちに与えようとパソコンを開いたのだが、そのパソコンすら手から滑り落してしまう始末。
「ああ、無理はなさらないで」
ヴァルトラウテが遙華に駆け寄ると龍哉はスマホを取り出す。
「ロクトさんでもできるんだろ? あの人にやってもらった方がいいだろ」
そう告げて、龍哉は病室から出て行った。
「忙しい所悪いね、ロクトさん。ちょいと手を貸して貰えると大助かりだぜ」
「あのよ、嬢ちゃん」
カイが何事か言葉をかける。
「確か霊力を送り込むだけでもウイルスは駆除できるんだよな?」
「あんたまさか」
紗希が言葉を失っている間にと、カイは本題を告げる。
「紗希のビンタは効くと思うが、どうだ?」
「え……」
「え!?」
絶句する少女二人。遙華に至っては紗希を一瞥しプルプル震えるほど。
「俺がやるのもなんだし」
カイにビンタされた日には壁に叩きつけられそうだ。それを想像して遙華はさらに震えた。
「えっと……どうします?」
遙華はそんな紗希の提案に涙目で頷くことになる。
* *
時同じくして他のリンカーも行動を開始している。
晴海はまず役場から『緊急事態宣言の発令』の準備を極秘裏に進めてもらう。
関係者にはこのキノコを見つけたら速やかにその場を離れてH.O.P.E.に通報を頼み、胞子が付いた服はビニール袋に包んで除去能力のあるリンカーに除去の依頼をする様に依頼した。
昂は現場の指揮を執っている。
基本方針としては、罹患者の把握と治療、及び敵の捜索と排除。
初動として今回の病気の罹患者の所在と現在の状態を調査し、病気の進行が著しい者から優先的に治療を行う。
そのための現場整備や誘導から行った。
治療のかたわら罹患者の普段の活動範囲も聴取し、罹患者同士で共通する活動範囲を聞き出す。そこから敵の所在を割り出す予定だ。
範囲の絞り込みが出来れば、そこから具体的な調査に移ることができる。
通気口や大人が入れないような小さな隙間も積極的に調べていく。
そうして敵が見つかったなら対処に移る予定だ。
常に一般人が避難できるように対応を。
情報はすでに集まりつつある。
昂は夜の冷たい風を切ながら商業区を走っていた、ビルの屋上から屋上に飛び移り。
目的の建物の見取り図を得て、調査をしていくという地味な作業をしらみつぶしに行う。
たとえ自分が入れないような隙間や高所でも昂には鷹の目があるし地不知で駆けあがることもできる。
「はやく対処しないと」
H.O.P.E.が動き出してから二日。
いまだ事件収束の糸口は見えない。
第二章 治療法
その日。事態への対処を命じられた病院では今年始まって以来の忙しさだったという。
患者の対応。事件の調査。そしてワクチンづくりという作業が必要でリンカーを足しても人手が間に合わなかったのである。
だが、血を抜きながらリンカーを働かせるわけにはいかない。献血台に括り付けられた龍哉や晴海。
その二人を見ながら順番を待つ藍とサーフィーだが、なぜか落ち着かない様子。
「ドレッドノートの血か……さて、サフィ。献血に……あれ? どこに……」
いつの間にか傍らにいたサーフィーが消え、当たりを見渡すと植木鉢の影に隠れているのを見つけた。
「け、献血……ち、注射ですか?」
見ればサーフィーがプルプル震えているではないか。
「えっと、針は刺すだろうけど……大丈夫?」
「だめ! ……注射は……やだ」
大きな瞳いっぱいに湛えた涙をぽろぽろこぼしながら首を振るサーフィー。
「……うん、無理はしなくていいよ」
そんなサーフィーを見て藍は頭を撫でた。
「やめておく?」
ナース衣装のロクトがそうサーフィに問いかける。
その言葉に藍が代わりに答えた。
「ごめん、力になれなくて」
「いいのよ、人助けは誰かを犠牲に行っちゃいけないもの」
「ロクトさん、グロリア社からH.O.P.E.に依頼を。H.O.P.E.所属のドレッドノート達に献血を依頼しよう。少し報酬を付ければ血は集まると思う」
「わかったわ、そう手配しましょう、グロリア社の宣伝にもなるでしょう」
「後は、マスコミには……明日位に連絡を。今すぐに医療機関に殺到されても満足な治療は行えない」
「ええ、もちろん。安心してそれは行ってるわ」
そうこうしている間に龍哉と晴海の献血が終わったようである。
「…………もうちょっと行っとくか?」
――いざという時に貧血で倒れられても困りますわ。
告げるとヴァルトラウテは共鳴を解いた。
そんな二人にも謝って藍は空いている休憩室を借りた。サーフィーを抱きかかえるように運び。様子のおかしいサーフィーに優しく言葉をかけた。
「……大丈夫かい? サフィ」
「サーフィは……注射だけはだめなのです。いつか、アルスマギカ様の夢でご覧になったでしょう?」
藍の中にとある記憶がよみがえる。それは以前。間違えたと言われ魅せられたサーフィーの記憶。
「……あの中身がサーフィを変えました。あれ以前のことは何も、”わたし”の本当の名前すら思い出せなくて、なのに苦しかったことだけは覚えてる……”わたし”はどこに……」
「大丈夫、サフィは、私たちの妹はここにいるよ……」
静かに涙を流すサーフィー、その小さな肩を藍はじっと抱き留めていた。
* *
一方そのころ優子は大活躍である。
忙しく病院内を動き回る優子とミヅハノメ。
由利菜とは手分けをして対処に当っていた。
「ドレッドノートの方々のワクチンの量産体制が整えば治療も楽になるけれど、それまでは私達の手で何とかしなくちゃ……」
「培養速度を早められればいいんじゃがのう。アンプルの投与なり、スキル反応なりで……」
そう空っぽになったワクチンケースをナースステーションに返し、次のワクチンがまだできないことを確認する。
スキルにはまだ余裕がある。
仕方ない。そう踵を返して大部屋を目指した。スキルで片っ端から回復していくつもりだった。
「優子や……いくらわらわ達でも、数百人単位の病状を一度に見ることはできぬ。医療機関の協力は不可欠じゃて」
「由利菜ちゃんから、病気になった人々にも学校でのお勉強やお仕事と言った生活があるからって……」
もちろんリンカーも疲弊する。優子はこの数日間ロクに寝ていない。
寝ようとしたなら病院中に木霊するうめき声が耳について眠れないのだ。
「あなたは、体力に余裕がある?」
優子は男性に問いかけると胸に手を当てて霊力を流し込む。
若干嬉しそうだったその男性に言及している間もなく優子。
対して由利菜は町に出て患者を探していた。
モスケールの管理はウィリディスにまかせ、神経接合マスクの併用で従魔風邪の患者や感染源の潜伏位置を探し出す。
そう、あわよくば感染源も突き止められるかもしれないのだ。
「リディス、どうです?」
――思ったよりも感染が広がりすぎていて、マッピングは厳しいよ。
そうウィリディスは苦言を漏らす。モスケールや感染者の分布から従魔を追いこもうとしていたのだが、うまく行かない。
「窓、エアコン、加湿器、換気扇と言った空気の通り道は、ウィルスを拡散させる原因になりやすい……入念に調べましょう」
一度拠点に戻った方がいい、そう医者から指示を受けて救急車に乗り患者と共に運ばれる由利菜。
しかし彼女が向かったのは仮眠室ではなく、重篤患者が押し込められている個室。
「念の為、防疫ケプラーコートを着てきてるけどね」
「癒しの風よ、吹け!セラピア!」
そう力の限り治療に専念する。
第三章 活路
騒動が発生してから四日目。
治療のかいあってか完治患者が出始めたころ。
由利菜は新たに来院した軽度患者の説得にあたっていた。
「医療保険もききますし、休まれた方がいいですよ、外に出歩いて感染が広がる方が問題です」
だがその男は首を横にふる。会社を休むわけにはいかないという事だ。
「休むと学校や会社に迷惑がかかる? 無理に行って病気が広がったら、もっと迷惑かけちゃうよ」
ウィリディスが告げた。
「従魔の風邪は、ライヴスを介した治療でなければ治せません。慌てて動かず、私達の指示に従って下さい」
そんな中、従魔の居場所が分かったという知らせが届く。
場所はグロリア社のとある支店。
発見者はカイである。
それは二日ほど前に遡るのだが。
「どうやって従魔の居所調べるの?」
紗希がそうカイに問いかけた。彼は机の上に資料をばらまき、患者のカルテからデータを抜き取る作業中であった。
目的のデータを発見するとPCに打ち込んで表に直していく。
「患者の住所や勤め先。学校等からある程度従魔の生息地が特定できるはずだ」
紗希がカイの肩越しにPCの画面を覗くとこのように分類されている。
6歳未満→幼稚園児以下
10~20代→学生
20~60代→社会人
70代以上→老人
その中から一番多い年代を調べ更に患者の多い地区を調べ更に所属先を確認したところ、社会人。しかも20から40代の人間が多いことが分かった、さらにその人物たちは全員グロリア社と何らかのかかわりがあり、多くあるグロリア社関連施設の中から、彼らと最も関連性のあるビルを特定すると。
他の患者たちはそのビルを利用していることも分かった。
そのビルはオフィスビルで、多くの企業が入っており、グロリア社の支社もその一つ。
そして元凶が判明するとリンカーたちは迷わず武器をとってビルへと向かった。
藍はとりあえず不発弾が見つかったことにして一般人を退避させる。
「こちらH.O.P.E.の者です。不発弾処理にご協力ください」
「なんで不発弾なんですか?」
サーフィが問いかけた。
「ここに感染源があることはいったん伏せた方がいいと思ってね。どうしても付近の医療機関が混乱するだろうからね」
「キノコ型らしいって話だが」
龍哉がビルの全体を眺めながらふむ、とつぶやく。
「元々の植生を考えると。湿度が高い。菌糸を育てる栄養が取れる植物の多い場所。光は当たるがやや暗がりといった所か?」
「けど、木は設置すればどうにでもなりますよ?」
理夢琉が告げる。そんなリンカーたちの相談の合間に晴海は、封鎖用のビニールシートで一般人の視界を遮り、搬送用の生物災害用の密閉式ドラム缶にウレタンスプレーを準備。そしてモスケールを所持している物で隊列を作って中に突入した。
――さあ、お掃除の時間です。
藍は共鳴するとほっと胸をなでおろす。
(良かった、いつものサフィだ)
――地下道など光を採れない場所は胞子を飛散させる場所として不適合ですわ。
ヴァルトラウテが告げると龍哉が頷いた。
「通気口は可能性として無くもないが、空気の通りが悪くなれば清掃などの手入れでバレるんじゃねぇか?」
「あ、でも私、場所わかりますよ」
そう理夢琉が声を上げると、スルスルと階段をあがったり、地下の扉をあけたりとリンカーたちを案内していく。
すると、理夢琉は空調室と書かれた場所で止まった。
扉に触れると、ばしりとはじかれる感触がある。
「どうする? 吹き飛ばすか?」
龍哉は告げると刃を構える。
しかし理夢琉は首を振ってその扉に指を押し当て。そして魔術的な仕掛けを解除しにかかった。
次の瞬間。ゆっくりと扉が開く。
そこにはまるで人が体育座りした様なキノコが大量に生えており、その背中から胞子……ウイルスを大量にまき散らしていた。
晴海は胞子が飛ばないようにビニールシートで現場を覆う。
そして理夢琉がフロストウルフを放つ。あわよくば凍らせることができたならそのまま拡散を防止できるかと思ったが、そうはうまく行かない様だ。
それをみて紗希と龍哉が従魔たちに切りかかった。
――『従魔の風邪』なら……特効薬はこれだよ、ユリナ!
ウィリディスの言葉に由利菜は頷くと両手を前に構えた。
――罪なき子羊に憑く、悪しき病原に審判を下せ! アルビテル!
吹き飛ぶキノコ型従魔。
「ペンテコステの時来たれり! 天よ、救い求める子羊達に聖霊の加護を! ゾーエ・ヒュエトス!」
地面から引きはがされて転がされた従魔たち。ただその従魔をそのまま運ぶのもはばかられたため、ワールドクリエイターで閉鎖空間を作成。
イグニスで焼きつくす。
「汚物は消毒だ」
――お約束の掛け声はありませんけれど。
めらめらと従魔が燃える最中。
龍哉の隣で理夢琉が小さなくしゃみをした。
――どうした、理夢琉……。まさか。
アリューが心配するとおりである。
エピローグ
今回の事件は一般人に相当な被害を出したものの、死者は〇名で収まった。これはひとえにリンカーたちの奔走のおかげで有ると言えよう。
ただ、リンカーたちへの負担は相当なもので。さらに従魔討伐に参加したリンカーは間近でウイルスを受けたわけで。
「あら? 理夢琉。あなたも病院服なの」
すでに退院していた遙華は理夢琉の病室を訪れた。
見ればアリューがリンゴをむいている。
「少し、のんびりしましょうか」
遙華がそう告げると、理夢琉は小さく微笑むのだった。