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歌を取り戻せ~前哨戦~
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不穏なる前哨戦
最終発言2018/01/24 18:23:07 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/01/24 15:10:21
オープニング
● 場外にて
熱で湧くライブ会場。傍から見るとその箱は静かで静まり返り、むしろ寂しくすら見えるものだ。
そんな会場を外界から見つめる視線があることに、リンカーたちは気が付いていた。
会場周辺には海、浮かべられた船。
双眼鏡で周辺を観測するリンカー職員の頭が唐突に爆ぜた。
舞い散る脳漿、立ち込める生臭さ。
その血霧の向こうに、夜だというのに光を受けて輝く何かがちらりと見えた。
そして放たれる弾丸。
それは船のタンクに突き刺さりそして1隻の船が爆発した。
攻撃を受けている。それも、超長距離から。
「かえせ」
リンカーたちには聞こえないほど向こうで、水晶色の少女が口々につぶやく。
「かえせ」
その少女はざっと数えて九人存在する。
「かえせ」
一人が、体を長距離砲塔に体を接続。まるで戦車砲のようなそれは重すぎて持ちあがらない様だ。
もう一人が射角を調整、スポッターとしての役割を果たす単眼のルネ。
そしてもう一人が砲弾を装填しつつ、長距離砲塔を護衛するルネである。
「カエセ」
次いで放たれた弾丸が着水して巨大な水柱を立ち上らせる。たまらず船員たちはリンカーに助けを求めた。
君たちが目指す先は二キロ先に存在する巨大ボート。
そこに並ぶルネ達を倒すのが今回の任務である。
● どうすれば狙撃を阻止できるのか
今回は相当な長距離から狙撃してくる敵に接近するという内容の任務です。
そこで狙撃のスペシャリストを今回のお仕事では募集したいと思っています。
理由としては、具体的に何かあれば敵の狙撃を防ぎつつ、狙撃主の元までたどり着くためには狙撃主側の気持ち。つまりどのように立ち回られると狙撃しづらいのか。狙撃主側の心理など理解できると思われるからです。
相手の行動を予測して、うまく接近し、そしてルネを倒してください。
そのために必要な装備はH.O.P.E.側から支給されます。
障害物が必要であれば水上を走行する障害物や船と言ったものも用意可能です。
ただ、敵側に別の不穏な動きがあるようです。
それにも気を配っておいてください。
● 続く歌、反転する歌
希望の音。と呼ばれる歌をご存じだろうか。
かつて滅びの音と呼ばれ。一人の英雄が残し散ったその曲を、とある少女たちが願いを織り交ぜ再編させた曲である。
その曲には様々なバリエーションが存在するが、似通った旋律を含んでいたり、テーマがつながっていたりと、シリーズと呼ぶべき曲が複数存在している。
その曲は彼女たちのファンの中でも知れている。
それと同じ旋律が海の中に響き渡った。
突如光り輝く水底。その謎のシルエットは花開くように膨らみ。
そして成長しきると周囲の水を水晶化させながら空に立ち昇った。
水晶のオブジェが一瞬で生まれ。そしてそれが謳いだしたのである。
その歌がリンカーたちに及ぼす影響はまだない。
だが。ガデンツァによる伏線であることは確かだろう。
解説
目標 陽動への対応
巨大水晶の調査。
今回はガデンツァによるライブ阻止が目的でしょうが、また不穏なことをしてきています、うまく読み切って彼女の野望を阻止しましょう。
● 水晶の花について
巨大な柱については何の情報もありません。それがなにを意味するものなのか、それがどの様な影響を与えるのか全く分かっていませんが不吉である事には変わりないでしょう。
その花がどこから発生したものなのかも含めて調査をお願いします。
● 遠隔射撃型ルネについて
ガデンツァがかねてより開発していた。超長距離攻撃用のルネ。いつかの大戦の異種返しとてして開発された。
多大なる物理攻撃能力を持つが接近されると小回りが利かない上に、配備されているルネ二体については戦闘能力が皆無なため対応が難しい。
唯一、砲弾を装填するルネのみが戦闘を行うことができるが、それにしても三体。
デクリオ級にも満たない、魔法攻撃型の従魔で有るため。下手をすると高レベルリンカー一人で倒されてしまう可能性もある。
リプレイ
プロローグ
「またガデンツァ、か」
やや強い風にスカートをなびかせて『藤咲 仁菜(aa3237)』はつぶやいた。
その隣を夜に煌く水晶の砲弾が通過していく。
威嚇射撃であろうか『九重 依(aa3237hero002)』はさっきの感じられないその弾丸を見送ると仁菜の隣に立った。
「ゆっくりライブを見れると思ったらこれだ」
そうA席のチケットを悲しそうに眺める『麻生 遊夜(aa0452)』の代わりに『ユフォアリーヤ(aa0452hero001)』は殺気立っているようだ。
――…………ん、本当に…………相変わらず、嫌らしいねぇ。
「よくもまぁディスペアがいる所に涌き出るものねぇ」
『榊原・沙耶(aa1188)』の言葉に遊夜は力なく頷く。彼女らに直接もらったチケットがこういう形で無駄になるのは心が痛かった。
「むしろ、こじらせたファンなんじゃないかしら」
『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』が皮肉っぽく告げる。
「害のない所で、サイリウムでも持ってヲタ芸踊ってればいいのに」
そう告げると沙羅は仁菜を一瞥するが、仁菜は沙羅の言葉を意に介さないように冷たい視線を海へと送った。
――……冷静にな。
「冷静であれるように依と来たんでしょ」
仁菜が言葉を返すと、依は仁菜の手を取って共鳴する。
仁菜は思う、第一英雄と共鳴し戦う時、その時は自分自身すべてが炎になったような気がする。
仁菜の思いが燃え、彼の思いが燃え、熱い信念となる。
2人の気持ちを合わせて炎は何倍にも大きくなる。
けれど、今必要とされるのは違う。
正確無比な鋼の翼。
それは音もなく喉元につきつけられ。次の瞬間には同体と切り離されている。
だから依と来たのだ。
依と共に戦う時、仁菜はきっと刃だ。
仁菜の炎で依の刃を研ぐ。
熱い炎で研がれた鋭い刃は確実に目的を達するための一撃となりえるだろう。
そのためにいくら熱を奪われようと、外気にさらされようとかまわない。
敵を切り裂いた鮮血で、温もりが戻ればいい。
仁菜はすさんだ眼でそう思う。
その姿を『煤原 燃衣(aa2271)』はどうしようもなく見つめていた。
彼女を止めるつもりはない。だがその思いが危険であることも知っている。
燃衣は最近『ネイ=カースド(aa2271hero001)』の声が届かない。
怒り、怒りだ。ガデンツァを殺したい。そんな怒りに体が支配されている。
それと似たような感情が彼女に宿っていることを察して、燃衣はそのことに笑みを浮かべた。
「仁菜……たん……」
――……隊長。
『阪須賀 槇(aa4862)』と『阪須賀 誄(aa4862hero001)』はそうつぶやくと、二人に手を伸ばす。
だが違うと思い至った。
――……兄者。今は自分たちの仕事に集中しよう。
「で、でも弟者……」
――大丈夫、彼女たちは俺たちが思ってるよりずっと強いよ。
きっとこのままどこかへ行ったりはしない。そう阪須賀兄弟は不安を押し殺す。
――彼女を信じて、それでもダメならその時支えたら良いさ。それが【暁の絆】だろ? ねぇ隊長。
その時、槇は視線を感じたように振り返る。
鋭い悪寒が背中を駆けたのだ。しかし、広がるのは無人の広場と会場だけ。
次いで砲撃が放たれた音で槇は振り返る。武装を銃に変更。ありったけの弾丸で砲撃をそらすとそれは湾部に突き刺さって濛々と土煙を上げた。
――どう考えても倒してくれと言わんばかりですが。
『アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)』は砲撃のずさんさを一発で見抜いた。照準も甘い、砲弾も空気抵抗を受けすぎている。
「ふむ、狙撃というにはお粗末過ぎますよね?」
『構築の魔女(aa0281hero001)』も『辺是 落児(aa0281)』と共鳴すると告げる。
「狙撃において目標を達成するため意識する点が蔑ろです」
――それは私も思っていましたわ。
標的を射程にいれる、自身を隠蔽する、退路を確保する、標的を一撃目で仕留める。
それは狙撃主として最初に思い至る懸念事項。しかしあちらはそれを全く考慮していない。
「この狙撃の目的は何でしょう? ……陽動でしょうか?」
「どうだろう」
『志賀谷 京子(aa0150)』がふむと、考えながら告げる。
「難しいね……何を狙っているかは全く分からない。けど放置もできないと。ま、戦力がわたしたちだけってわけでもないし、速攻で黙らせるとしようか」
「……ただ、狙撃対象を射程に捕らえている可能性もあることは忘れずにですね」
そしてリンカーたちの準備が整った、インカム越しに船を送ると連絡があり、そしてそれに合わせて槇が動く。
――……随分とまぁ、やってくれたよな。
誄が告げる。怒りに実を震わせて、毛を逆立てる誄。
――見てろよ、クソババア。
同じ捻くれ者としては非常にキナ臭く感じる誄だったが、このまま挑発行為を許すわけにはいかない。
人々の平穏を守るため、秘密裏に敵を処理する計画が始まった。
第一章 水上のワルツ
『楠 セレナ(aa5420)』は速度そのままに海上へと躍り出た。
「お嬢様はライブを楽しまれます! だからそのためにも私がお嬢様に代わってお掃除しちゃうのです!」
背後のドームを振り帰り、その意識を高め砲撃を真正面から受け止める。水晶のそれは弾かれると海に沈んで種の様な形状から花の様な形状へと徐々に変わっていった。
――……ほんとに大丈夫なのか……まぁ他の皆が優秀だから何とかはなるだろうな。ま、何でもいいけど。
そう皮肉に告げるのは『北条 鞠也(aa5420hero002)』。
「何でもよくありません! お嬢様方が心配しないで頑張ってくれるためにちゃんと頑張るんですー!」
――……そう言うのなら、頼むからドジするのだけは勘弁してくれよな。
こういう気合の入った時ほど危ない。そんな言葉を鞠也は胸に秘め会場をひた走る。
「装填……三秒前。3.2.1」
そう敵の行動を逐一周囲に報告するのは仁菜の役目。砲塔から自身の目は話さず。砲座の状況は放った鷹の目が逐一教えてくれる、これで敵の砲撃に対してかなり対応しやすくなった。
「次、ニウェウスさんの方向を狙ってるよ」
今のところ、敵におかしい動きはない。こちらの準備が整うまでこのままであればよいのだが。
そう仁菜は冷静に状況を読む。
そんな時、轟音と共に放たれた砲撃を……。
「結構、大きい音…………した?」
――こりゃ狙撃銃じゃないな。たぶん、砲の類だ。
「それで、狙撃とか…………強引だね」
――んむ。威力と射程に拘りすぎたか? ともあれ、機動力によるかく乱を続けよう。予想通りなら、迅速な照準修正は困難なはずだ!
『ニウェウス・アーラ(aa1428)』は砲塔がそちらを向いた時、海面にブルームフレアを打ち込んで自分の姿を隠した。
砲弾は見事にニウェウスに当らず『ストゥルトゥス(aa1428hero001)』はやんややんやとニウェウスを褒め称えている。
「ん~。でも結構近寄るの難しいな」
ニウェウスは水しぶきをあげながら水上を滑る。敵の砲撃を水面すれすれに屈んでやり過ごし、水面を削るようにブレーキをかけると、船の背に隠れた。
そう船、船である。
会場には多数の無人船。もしくは遠隔操作できるタイプのボートが数席浮かんでいた。
その船はある程度の規則性にしたがって動いている。それをセレナとニウェウスは頼りにルネに近づいていく。
だが、ルネ達も甘くはない。大威力の砲撃は霊力通わない壁など一撃で粉砕する。
目くらましにしかならない、だがそれでもいい。
ニウェウスは飛び散る水しぶき、船の破片。そして夜に紛れイメージプロジェクターを起動。
夜の海に紛れるダークブルーのマント。幻影を纏った。
一瞬でも見失ってしまえば再び発見するのは困難。
焦れたのか威嚇とばかりに放った砲撃がニウェウスの背後に突き刺さるも、ニウェウスは怯えた表情すら見せない。
その時、ニウェウスの体が明るく照らされた。
背後で何かがパキパキと花開く。先ほど放った砲弾がまるで蓮の花のように水面に浮かんで、さらにまだ成長を続けているではないか。
「危ないです! 近づかないでください」
セレナはニウェウスに向けてそう、鋭く告げた。
うち放たれる砲弾が行く手を阻むが砲弾を受け流すように対処。その水しぶきで体制を崩して思うように先に進めない。
そんなセレナを見て鞠也は告げた。
――……生憎私は暗殺業としてやってきても水上から狙った事は少なくてな……何せ足場はふらつくから砲身は揺れるし、水飛沫が激しくてとてもじゃないがやってられない。……水面を叩いて水柱を作れ、それと波もだ。適当なほどお前自身がブレまくって嫌らしく見える。
「は、はい!」
鞠也の指示に合わせてセレナは水面を叩くと、巨大な水柱となって姿を隠す。
砲弾が放たれた時そこにセレナはおらず、回避に成功した。
「やった!」
――喜んでいる場合か?
そう陽動班の二人が頑張って攪乱している間に槇は情報整理にいそしんでいた。
ノートPCで無線LANを使用。携帯糧食をもそもそやりながらハイライトを失った瞳で情報処理にいそしんでいる。
航空衛生写真をH.O.P.E.本部から送ってもらい、また各種船舶の海中ソナーの情報を収集。
射角や速度の計算はもちろん、敵の伏兵がいないか周囲の状況を克明にデータ化することで、不安材料をかき消していく。
「周囲に敵影なし、霊力反応はないぞっと」
だが、おかしい、それでいいのか。ガデンツァがなにも次の作戦を用意していない、そんな状況があり得るのか。
そんな不安が募る。
そんな槇の耳に、特注品の準備が整ったと報告が入った。
「OK、志賀谷さん、そちらどうだお?」
「興ざめするくらい簡単に背後をとれたよ」
京子は陽動組がバシャバシャ水遊びに興じる中、障害物に紛れて大きく迂回していた。
まだ気が付かれていない、敵は目の前のリンカーを近づけさせないだけで低一杯だ。練度は低い。そう読み取れた。
「こっちに嫌がらせするならどうする?」
そんな風にボートに接近するのには理由がある。
――ボートに爆発物を仕込みますね。
「ありそうかも」
ボートの周囲、そして底の部分をややはなれば場所からチェック。
ルネ達が乗ったボートには何の仕掛けも見られない、少なくとも今は。
「障害なし、作戦の決行を要請する」
作戦決行に当って用意されたのは巨大な大砲。
人が照準をつけ発射する機構が別についている物で、リンカー以外は発射されるとバラバラになってしまう事だろう。
「人間大砲だってよ! かっこいいー!」
そんな人間大砲を恐れるどころか『雨宮 葵(aa4783)』はキラキラと気体の眼差しで見つめていた。
――……まさか、大砲の弾になる時がくるなんて……。
対して『燐(aa4783hero001)』はげんなりした調子でそう告げた。
「それにしても、近づけば倒せますよーっていう布陣がどう見ても怪しいよね」
葵が告げる。
――ん。今回のルネは囮、だろうね……。
燐の言葉に葵は拳を握った。
「囮上等! そっちが囮を使うなら、こっちも派手に囮になっちゃうよ!」
そう葵も前にでて仲間たちの準備の時間を稼ぐ。
砲撃主の調整にはまだ、ややしばらくの時間が必要だから。
第二章 砲塔攻略
船を模した人間大砲が射角調整のために水上で回った。
その上でルネ達の行動を見つめていた沙羅はぽつりと告げる。
「水晶を打ち込む、というよりはばらまいているみたいね」
実は沙羅は最初、囮として海上に出ていたのだが、敵の視認能力が低すぎてまったく構ってもらえないため、引き返してきたのだ。
そこで一つ気付いたことがあるのだが。敵は決して水晶に当りそうな起動で砲撃はしてこない、という事。
「とりあえず満足な調査はまだ行えないから、皆さんにお任せするわ」
そう、沙羅が告げると砲座に二人がつく。
この人間大砲、操るのは構築の魔女、そして遊夜である。
二人とも座席についた。
その準備完了の合図を持って京子も動く。
「私も行くよ!」
その瞬間、京子はアサルトユニットの出力を一気にあげた。
海を割るような圧を水面にかけて、京子は爆発的に加速する。
その音でやっと気が付いたルネ達。護衛のルネが一体、その腕を刃に変え立ちふさがる。
京子が攻め立てるその前に遊夜は観測主として双眼鏡で当たりを見渡していた。
「多方向からの接近と撹乱が有効だろうな」
――……ん、あれは……小回りが利かない。
自分たちの予測が正しかったことを噛みしめると、双眼鏡を外す。
「対象への射線を阻害する物や囮が定石か』
――……ん、水上を走行する……障害物や船、ハリボテ。
「あとは調整役や装填手の撃破、かね」
――……ん、砲塔を……支えてる奴が、狙い目。
次いで到着した大砲塔のスコープを覗くと、遊夜は静かに照準を絞る。
「……しかしなぜこんな脆い編成を?」
――……ん、不自然。
海に咲く花が輝きをまし、その不気味さを際立たせる。
「弱点があることくらい分かっているだろう、本気なら穴を埋めた編成をすればいいだけな筈。それをさらしている……」
「案外そうやってこちらを疲弊させる腹積もりかもしれないですよ」
燃衣は告げた。
その全身に緩衝剤代わりのジャケットを着こみ体の筋肉をのばしている。
そう、彼らが目指すのは砲撃による敵ボートへの奇襲。
大砲・ミサイル等の超長距離実弾兵器を乗り物にする高速移動である。
ただ、まさか本当に自分が砲弾として打ち出されるとは思わなかったのだが。
「だが、その観察をおろそかにして……」
死んだ人間がいることを遊夜は知っている。いや、伝え聞いていると言った方が正しいか。
「わざと欠陥を残してる? 水晶の花を調べさせるのが目的か?」
そう状況を分析する遊夜は腰にカメラを取り付けて自動で記録していた。
ライブ会場も盛り上がってきたのだろう。その歌に共鳴して輝く水晶。
「不用意に近づいたり触れたらガデンツァ辺りが擬態を解いて取り込みやシンクロニティ・デスをしてくることもありうる……」
体を内側から溶かすように血が全身から吹きだすらしい。
その一撃は数々のリンカーを戦闘不能に追い込んできた。
「あとは……破壊させることで何か別の効果がある可能性もあるな、本当にいやらしい敵だ」
「今はいろんな可能性を考慮に入れて、戦うしかありません」
そう燃衣は告げる。砲塔に詰め込まれながら。
「いくぞ」
遊夜は照準を絞る。ほとんどデジタル制御でロックオンさえすれば人を飛ばしてくれるシステムだが、タイミングは重要である。
結果敵の砲塔が放たれる瞬間の油断した隙を狙って、燃衣は放たれた。
「ああああああああああああああああああ!」
割と風圧がすごい、思わず叫んで開いた口に、空気の塊が詰め込まれて締めることができない。
ただし、体勢制御はアサルトユニットでしっかり行っている。
そのまま頬をプルプル言わせながら、ルネ達が唖然と見上げる空から燃衣が着弾した。
遅れてパージしたアサルトユニットがじゃぽんっと水の中に落ちる。
燃衣は素早く体制を立て直していたが船はかなり大きく揺れて、京子に水しぶきをかけていた。
京子は一瞬何が起こったか分からなかっただろう。
水しぶきのカーテンが髪を濡らし、その前髪を払うと視線の先には阿修羅を見に纏った燃衣が拳に炎を宿し佇んでいた。
次いで襲いくるルネの刃を腕でそらして、敵と向き直る。
その燃衣に向き直るルネ一体を。
「ストラーーーイク!」
大剣の腹で一撃。上空から放射線を描いて突っ込んできた葵が粉砕した。
それはひとえに砲撃主の腕前故である。
構築の魔女のヴェルグスナイピングにより、射角計算は十分。
遠距離型ルネの攻撃から旋回速度と射角と有効射程を概算したのだ。
「急旋回できないなら側面方向も死角ですよね……?」
また水面の揺らぎ、揺れも計算に入れる、リズムをとるようにタイミングを計り、トリガーを引けば葵はツバメのように夜を切り裂いた。
結果真正面にいたルネ、その体はあまりの威力に粉々に砕かれ、月明かりに輝き海に撒かれてしまう。
「え! ここまでするつもりじゃなかった!」
何をどう間違ったのだろう。大砲の精度がよかったことを喜ぶべきか。構築の魔女の腕前を湛えるべきか。
とりあえずと、戸惑いざわめくルネ達を一瞥すると葵は咳払いをして敵に向き直る。
完全に相手は意表を突かれているようだ。
ルネは本来プログラムされて動く存在のはず。
であれば、予想外すぎる行動には対処が遅れるのかもしれない。
なのでその様子を見るや否や、砲撃が止まったことをいいことにニウェウスはルネのもとに急いだ。
ボートへ人間が着弾したことにより発生する波を利用し大きく飛んで断章を構える。
――目立つ目印、有難う御座いますッ!
「芋砂に、未来は無い…………よ?」
それに京子も合わせて動いた。完全なる挟撃。
これによって砲塔に致命的な損害が生じ、護衛を想定したルネはニウェウスの魔術で海の中に叩きつけられてしまう。
次いでルネボートを揺らす水柱。そのふちに手をついて水から上がったのは遊夜である。
「さて、仕上げといくか」
構築の魔女は全員を送り届けたことを確認すると、すぐに踵を返す。
水晶と音の調査がまだだった。
「まずは現状確認を見えないもの聞こえないものを暴いていきましょうか」
戦闘は彼らだけいれば大丈夫だろう。
そう信頼するから戦場を預ける。
第三章 宵闇の海歌
狭いボート上、および水面にリンカーたちは展開して戦闘に専念する。
ルネは不利な近接戦闘を仕掛けられ、いまだに体勢を立て直せていなかった。
二体の護衛ルネだけでなく、砲塔を管理している他のルネもまとめて、葵が刃を振り回す。
巻き上げられたルネを空中に飛び上がった燃衣が叩いた。
鬼神招鬼の炎を纏った拳でルネを叩くと、ルネは海面に叩きつけられバウンドした。
その隙に葵は戦闘能力がほとんどない、ルネ達を処理していく。
まず、重たい砲弾を抱えて蹲っているルネから。
ぐしゃりと、岩を砕くよりも軽やかな手触りで砕け散るルネ。
だが敵を屠る葵の表情は明るくない。
なぜならあれだけ懸念されていたガデンツァからの横槍が発生しないからだ。
船に何か仕掛けられていたわけでもない、周辺を監視している槇からも異常なしの報告しかこない。
これは、いったい。どういうことだ。
――まだ。気を抜いてはだめ。
燐が告げる。その言葉に葵は頷いた。
「うん、わかってるよ。こんなに船におびき寄せようとするなんて、ルネごと私達を殺す算段があるのかもしれないし」
その時、大きな衝撃がボートを揺らした。燃衣が砲塔と接続されたルネを渾身の力で吹き飛ばしたのである。
「…………すみません、ルネさん…………貴方を殺します」
吹き荒れる暴虐、『空也』は溶け堕ちそうなほど熱され、ギアが上がっていく。燃衣はその衝動を抑えきれないように、ルネを屠った後の砲台にも攻撃を加えた。
「……消えて無くなれ! 《鬼神楽》ァアッ!!!」
強烈な霊力のバックファイアーがキラキラと水面に移り輝く。
それを後押しするように葵がカチューシャによる爆撃を振りまいた。
船底に穴が開いて沈み始める。
そんな、手が付けられないほどに大参事な戦場だったがルネもやられっぱなしではない。風を巻き起こし周囲に発射する。とりあえず距離をとろうという算段だろうが、そのために遊夜と京子がいるのだ。
Pride of foolsをくるりと回し、風を受けて飛びあがり銃撃。ルネが防御のために腕を使うと、風がやみ、京子は急降下からの銃撃。
「長距離射撃だけが射手の戦い方じゃないよ!」
――京子はじっと待ってるのが苦手ですしね。
「積極的と言ってほしいな」
さらに素早く背後にまわり、膝を蹴り体制が崩れたルネを回し蹴りで蹴り飛ばした。
そして海上に離脱しながらの銃撃。
結果京子は砲塔型ルネの攻撃範囲に入ってしまっているが、砲塔に繋がれたルネはすでに遊夜によって処理されている。
夜の闇にまぎれたスナイパーは耳をひょこりと動かしながら立ち上がる。
あとは任せていても大丈夫そうだと岸へ戻るために踵を返した。
「それにしても、何なんだろうね、この花は……」
そう京子は敵が動かなくなったことを確認すると海に浮かぶ水晶たちをみやる。
京子はそれを能力のブースターだと思っていた。
あるいはアイドルたちの歌に干渉させて歌の力を利用することだと思われる。
「ま、心配しなくても魔女さんたちがうまくやってくれるよ」
その視線の先には聡明な横顔を見せる女性がいる。
構築の魔女は会場から漏れ聞こえるビートや、僅かな旋律を計測しながら水晶に触れた。
何もおこらない。
ライブスゴーグルでは確かに、この水晶の中に周囲の霊力が吸収されているのが見えるのだが。
「海水も構成の大半は水なのですよね……」
構築の魔女は水と音というキーワードが気になっていた。
水中では音速が増加する。
「気をつけましょう」
「うーん……でも結局どうしましょう?」
そう構築の魔女の隣でセレナが首をひねった。
「とりあえず壊してもって帰りますか?」
――そんな簡単に言うもんじゃない。
そう英雄に怒られて罰が悪そうな表情を見せるセレナである。
――まずは危険性が無いかの確認する必要がある。とりあえず指示を仰ごう。
そう鞠也の言葉に従って、周辺リンカー、および本部へと水晶の様子を伝え始めるセレナ。
「いえ、きっと削って大丈夫」
そうシールドで、水晶をバシバシ殴るのは沙羅である。
「ええ! 危ないですよ!」
「敵は全部倒し終えたし、会場からも異常の報告はされてないわ。だとしたらこの水晶。置き土産である可能性が高いんじゃないかしら。即刻破壊した方がいいと思うのだけど」
沙羅は常にライブ会場のリンカーと交信していた。
「こちらの水晶が囮の可能性もあるし、今のうちに会場全体を捜索してもらいましょう」
そう沙羅が的確に指示を出していく。
「水晶から、滅びの唄ではなく希望の唄が出ている事が少し気にかかるわ」
そう沙羅は次いで水の中の調査に移ろうと器具を体に装着し始める。
「私達の評判を下げる……なんて回りくどい事ではなく、Dの組織に拉致されて売られた子達や、英雄の何かとか、そんな感じが」
その時だ。
歌が響いた。
それは沙羅が謳ったこともある【解け合うシンフォニス】。
謳っているのは仁菜だった。
――おい、仁菜。
語気荒めの依の声で歌を止める仁菜。
「これも歌えば何かあるかもと思って」
――危ないと思うぞ。どう見ても怪しいだろう。
依はため息交じりにそう告げた。
「歌ってる間に何かあったらよろしくね」
――まだ、謳うのか……了解。
何を言ってもききはしないだろう。それは依も知るところであったためこれ以上の説得は諦めた。
ただ、その行為はみるみる成果を上げ始める。
歌を吸収して成長するのか、花はどんどん大きくなり、そして中心のおしべ、めしべに当る部分から何かが膨らみ生まれようとしていた。
その時である。
「こちらSKSG! 何かみょんな影が見えるお! これは、会場からすんごいでっかい、霊力の反応だお……これ……ガデ」
その後の通信が仁菜の耳に届くことはなかった。なぜならシャドウルーカーである彼女が反応できないほどの速度で花弁が花開き、仁菜に襲い掛かったからだ。
「え?」
その時、水に落とされたような幻惑が仁菜を包んだ。
くぐもった声が聞える。
音が聞こえる。
誰かの助けてと呼ぶ声が聞える。
だれかが、仁菜の中に入ってくる。
――仁菜!!
依のひび割れそうなほどに大きい声。だが手を伸ばす力もすでに仁菜には残っていなくて。
「ああ、ごめんなさい、わたし。もう」
だが。それだけは絶対に、やらせない。
そんな意志のこもった、言葉ではなく。弾丸が、仁菜のこめかみをわずかに裂いて飛び去った。
直後仁菜は空中に放りだされる。その時、水の眩惑は水晶に囚われていたからだと知った。
バラバラに砕ける水晶は遅れてガラス質な音を耳障りに響かせる。
甲高く音の波紋が広がる中。不思議と目に映ったのはサイトを覗く槇の姿。
――…………人類の歴史を嘗めんなよ、クソババア。
非共鳴状態であれば中指をたてているであろう誄の言葉に、助けてくれたのは阪須賀兄弟だと知る。
――伊達に十数年、兄者の横でFPSやってんじゃねーんだよっと。
告げる誄。振り返る槇。その背後に立っているのは水晶の乙女、ガデンツァ。
「………………」
黙り込む槇、そんな彼のかわりにと弟が口を開く。
――ださ! だっさ! 俺程度に出し抜かれてやんの! プゲラー!
「!?」
――……アンタが仁菜さんイジめたから、俺はアンタのこと徹底的に調べたよ。
「ルーカーであった故不要だと感じただけの事」
「あ……弟者。そのあたりにしておいたほうが……」
――思想も行動も趣向も『俺ら』と同じ。
【悲報】俺らと称された槇氏、すでに逃げられないと悟る。
――……高飛車な物言いとは裏腹に。『何から何まで惨め』だぜ、アンタ。
ぎらつくガデンツァの瞳。振り上げられた拳、周りに仲間はいない。
反射的に銃を構える槇。
そして。
エピローグ
「おおおおおお! させるかああああああああ!」
振り上げられたガデンツァの拳は空を切る。なぜなら燃衣が槇に突っ込む形で吹き飛ばしたためだ。
「お主……」
眉をひそめて重たくガデンツァは告げる。
対して地面に転がった燃衣と槇は毛糸玉のように絡まってすぐに立てない。
なぜ燃衣がここに到着できたか、絡繰りはこうである。
先ず、生きているルネの大砲を使って京子と遊夜が葵と燃衣を射出。
失速を始めた段階で葵が燃衣を吹き飛ばす。
現在に至る。
精度がいまいちなためにこんなことになってしまったが結果オーライだ。
「仁菜たんは……」
槇が視線を向けると、そこは沙羅が全力で治療している。命にかえて彼女は命をまもるだろう。
そんな仁菜はうっすらと目をあけてガデンツァの姿を見すえると、体を起こそうと沙羅の腕の中でもがいた。
「何やってるの! 死ぬわよ!」
霊力をごっそりと吸われたその体は鉛のように重たい。けれど、けれど彼女の存在を許せないのだ。体が勝手に動く。
「わかってる! わかってるよ!」
仁菜は思い出す、今自分は刃だ。そう自分が言ったのだ。
「今ここで殺してやりたい気持ちはあるけど」
――それが可能だと思うほど自惚れてはいない。
依が言葉を継ぐ。
その思いの無念を受け取ってか。ネイが口を開いた。
――心を折りたがる陰険野郎。似たような手合いを知ってるがな。
「陰険? 果たしてそうじゃろうか。簡単に命を奪ってしまってはつまらない、ただそれだけじゃがな」
――どうもお前は、人間に対して卑屈だな。
「なに?」
――羨ましいのか?
「焦がれたことなど一度もありはせんよ」
次の瞬間、燃衣の拳が飛んだ。ガデンツァもそれに対して拳をのばす。
クロスカウンターの形になったが。お互いに傷ついてはいなかった。
ガデンツァのゆびが燃衣の眼球の前で揺れる。
「…………こないだは、ウチの看板娘の一人を泣かしてくれたそうじゃないですか」
「お礼は倍返しにしますよ、今ここで」
――隊長!
誄が叫ぶ。
――はやく仁菜さんを病院に連れて行かないと。
「わらわも良い音楽の余韻に浸りたいものでのう。今日は返らせてもらうとしよう」
目を見開く燃衣。
「しかし、やはり奴らの音楽にはスパイスが足りんな。こうぴりりと悪が聞いていなければならん、その仕込はすでにすませたがの」
告げるとガデンツァは海に飛び込んで消えた。
浮かんだ水晶がまだ効力を発揮しているが。その後処理はおそらく、銃持ちの手にゆだねられるのだろう。
そんな後処理を尻目に、危ないからと岸に上げられたセレナはみんなのために紅茶を入れ始める。
「……大丈夫か? どこかでドジったりしてないだろうな……?」
鞠也の言葉にセレナは頬を膨らませて抗議する。
「だ、大丈夫だよー! そんな頻繁に失敗しませんー!」
まぁ、そう言いつつも石に足を引っ掛けてアツアツの紅茶を燃衣にかけてしまうという事件が発生したのだが。
そんな相棒の様子を尻目に鞠也はスマートフォンを耳に当てた。
「……こっちは無事片付いたわ。どう、楽しめたかしら?」
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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