本部

【電撃作戦】塔の真相

鳴海

形態
ショートEX
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
3日
完成日
2018/01/22 17:58

掲示板

オープニング


● 逃走するA
 塔が輝きを帯びる、その挑戦者を歓迎しているようにも、不正アクセスに抵抗しているようにも見えた。
 この場を去ったA。その後に残された、怪しい外見の愚神。
 その愚神がAbsorb・Dに手をかけると、彼は悲鳴を上げて苦しみ始めた。
 骨格が歪んでいく。それは筋肉肥大によるものだ。
 増強された身体能力と、そして愚神の加護。Aは飛び出し、海の向こうへと走る。
「おっと、行かせるわけにはいかないな」
 彼はそのカサカサに乾いた足を擦るように塔の入り口の前に移動すると、通せんぼされているのをゆっくり理解して、その場に魔法陣をしいた。
 血のように赤い輝き、それがくるくると回りながら外円に新しい文字を刻んでいく。そして魔方陣が拡大するごとに三度。
 すると愚神は君たちを見すえ一つため息をついた。
「リスクを追わねば獅子を手に入れることはできないか」
 次いで塔を見あげる愚神。
「ここに封じられている王はね、かの愚神が邪英化の際に制御しきれなかった存在なんだ。あまりの凶暴さ、そしてその胸のうちに秘めた悲しみ。それらが心を怖し、単なる破壊マシーンとさせてしまった。失敗作の愚神だ」
 愚神は自身の事をアレダと名乗った。『開錠のアレダ』と。
「しかし、それは不完全なだけだ。邪英化技術の不完全さが招いた悲劇。しかし我々であれば完全なる支配下におくことができる。そして、新たな破壊神として、この世界に破滅と混乱を」
 そう告げるとアレダは杖をとる。
「そのために君たちは邪魔だ」
「あなたで勝てると思ってるの?」
 少女は問いかける。少女は被害者だ。その組織が作り出した商品によって、計画によって、運命が数奇にねじ曲がってしまった。だが恨み言は言うまい。
 そう少女は自重して、宿敵を見すえる。
「勝つ? いや、もう勝っている、彼は行ってしまった」
「追っ手が向かってる。私の仲間たちは貴方の組織に負けないわ。それに苦しても、あなた達はもうかつての様な活動はできない」
「ああ、そうだね、もうかつてのように商いはできないだろう」
「もう好き勝手するのには満足したでしょ」
 少女が告げると、愚神はまだ光を湛えた瞳で少女を見返す。
「いや、まだだね。ここでこの塔を破壊する。そして追撃も失敗させればまだ、我々に勝利の目はある」
 告げると愚神は膨大な霊力を発する。
「殺し合おう、私の目的は常にそれだ」

● 状況説明
 今回は塔の立つ児島。半径500メートル程度の円状の島での戦いとなります。
 断崖絶壁の小島ですが、愚神は中心に佇む、塔の前から動くつもりはないようです。
 塔の入り口あたりに陣取って塔へのアクセスを続けています、早急に彼を倒してください。


● 助っ人の竜神

契約者 ○○○・○○○○○○
 立ちはだかるAにて助けに現れた少女。
 かつて、愚神の供物として捧げられそうになっていたところをリンカーたちに助けられた。しばらく孤児院に預けられていたが契約英雄が決まり、とりあえず契約だけ済ませてきて現在に至る。
 しかし彼女は今回皆さんを助けるために無断で塔に向かっており。
 塔への関連性が懸念される中、暴走。
 場合によっては討伐を指示されている。
 敵性は攻撃適性である。 
  
英雄 ○○○○○○○
 鋼の竜人、かつてハードモードトライアルにてリンカーたちを苦しめたあの従魔に酷似している。ただ、今回は間違いなく英雄として存在し、少女と契約している。
 その性格は武人のそれであり、誇り高き英雄、主武装は旗。
 クラスはブレイブナイトである。


●愚神 開錠のアレダ
 Aの契約愚神のうちの一体。今回逃走にあたり切り離して置いて行った。
 その能力は封鎖されている物をこじ開ける力。
 それは人間の中に封じられた記憶などでもある。
 基本的に痩せ細った男性の姿だが、体に布を巻きつけており、大粒のラピスラズリが飾られたネックレスを、地面にすれそうな長さで体に巻きつけている。
 物理防御に関しては低レベルだが、周囲に障壁を這っているので魔法防御は高めです。
 周囲に三層からなる円状の魔方陣が存在。
 この魔方陣は愚神側にとってなんでもないですが、リンカーは破壊しなければ通れません。光の壁で表現されているので、パワーで砕いてください。

 その力を戦闘に転用させるとしたなら暴走だろう。
 アレダは二つのアプローチでリンカーたちの霊力を暴走させることができる。

・過剰
 霊力を制御している、理性や体機能を暴走させることによって、体中を霊力でズタズタにする。
 このスキルは触れていなければ発動できず、発動されれば、リンカーはステータスを1割上昇させるでしょう。
 しかし、攻撃するたびに体力の二割から三割を失います。
 これはクリアレイなどで回復可能ですが、1ラウンド休憩することでも無理やり直すことができます。

・施錠
 これはアレダが放つ光玉。
 飛距離は20SQ前後です、込める力の度合いによって飛距離が変わりますが30SQ以上にはならないようです。
 この光の玉を受けると、ステータスが1割低下し。さらに無理やり戦闘行動をしようとすると、体力の1割を失います。 




解説

目標 愚神『開錠のアレダ』の撃破

 今回はとある少女ととある英雄の力を借りて、愚神開錠のアレダを速攻で倒す必要があります。
 下記に詳しい条件をまとめました、確認してください。


●愚神 開錠のアレダ
 アレダの目的はここに存在し続けることである。彼自体が塔の封印を解除するための鍵となっているため、彼を倒さない限り塔が破壊される可能性がある。その場合封印されていた強大な愚神が目を覚ますだろう。
 制限時間は10ラウンドだが、一撃の衝撃が重たいと演算にエラーが生じるらしい。
 同じタイミングで攻撃を重ねることを意識するといい。同時攻撃系のスキルも有効である。

●契約したてのリンカー
 少女は契約したてのリンカーでレベルも心もとないです、何より竜人の力、そして旗の力を生かし切れていない。
 戦闘スタイルは大きな旗の柄を相手に叩きつけるだけだ。
 彼女に戦いながら、戦闘のなんたるかを教えてあげて欲しい。
 
 また、少女と竜人が存在する限り、塔のギミックの一部を借り受けることができる。
 それが合体攻撃機能である。
 これは全員に、相和のジェムというものが配られる。
 合体攻撃は一人から三人までのリンカーを選び、そのリンカーたちとスキルを同時使用することによって、予想外の効果を生んだ強力な攻撃となる。
 その場合、合体攻撃に参加した相和のジェムは砕けるので注意が必要だ。
 ちなみに少女を合体攻撃に選んだ場合、特別な演出が見られる。
 
 彼女らは普通に会話することができるので、何か気になることがあれば問いかけてみるといい。


リプレイ

プロローグ

「ADは逃がしたか……」
 『彩咲 姫乃(aa0941)』は『メルト(aa0941hero001)』と即座に共鳴をし直す。
 慣れた感覚、全身を熱いものが取り巻いて、やがて姫乃は炎をほうふつとさせるスタイルに変化する。体がやや重い。ただ、自分はこの重さを有用に扱えるそんな感覚。
「本来は足自慢の俺は追撃に向かうべきだったんだろうが……」
 そうちらりと少女を見た。今は仮面に包まれている素顔。鋼鉄の戦士。しかしあ無骨なフォルムの下に、華奢な少女がその肢体を隠していることを姫乃は知っている。
 ナイア・レイドレクス。
 そしてラジェルドーラ。数々の物語を秘める存在二人が出会った時に一体どうなってしまうのか。それを姫乃は測りかねていた。
 ただ、本命はそちらではない。
 痩せ細った異形が周囲に光を振りまくと、三重の霊力の壁が出現した。
 それを見て敵対行動ととった『御剣 正宗(aa5043)』は岸から上がりゆったりと愚神へと歩み寄る。
「絶対になにがなんでも阻止してみせるぞ……例えこの身に変えてもな!」
――はい、私も全力を尽くします!
 『CODENAME-S(aa5043hero001)』の言葉に頷き正宗は刃を構えた。
「たとえボクが弱くてもできることはあるんだ……!」
 その正宗の言葉を鼻で笑い、愚神アレダは最後通牒という風につげる。
「殺し合おう、私の目的は常にそれだ」
――殺し合うことでしか己の存在意義を見いだせないか……、かわいそうだね。
 そう反射的に告げたのは『ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)』。
「この世界、破壊と混乱の坩堝に巻き込む訳には行かない。貴方の野望、ここで終わらせてもらおう……!」
 『無月(aa1531)』が高らかに宣言すると、姫乃はナイアの前に立つ。
「ナイアは下がってろ!」
「なんでよ!」
 そう抗議の声を上げるナイアに正宗は告げた。
「ボクはおまえ達にはどうしても生きのびてほしいと思っている……」
「それは……ありがとうだけど。あなた達、ADを追わなくていいの?」
 姫乃は集中力を欠いた様子で海の向こうとナイアを交互に見る。
「そこは隊長たちが頑張ってくれるだろ」
 それは一つの信頼の形。姫乃はそう言い切った。
「ったく、誰の戦い方が危なっかしいだ。ルーキーでこんな場所に突っ込んでくるほうがよっぽど危なっかしいっての」
 ナイアの前でカッコ悪い姿は見せられない。
 姫乃はギュッと拳を握り直し宣言を。
「ここに残った理由はひとつだけここにナイアがいるそれだけだ!」
 飛び出した姫乃。戦いの火ぶたが切って落とされた。

第一章 かつての敵

 ナイアは纏った英雄の鎧、その機能を使ってブースト。姫乃の背後について旗を構えた。
 そんな突進してくるリンカーめがけてアレダは光弾を放つ。小手調べというやつだろう。
 だがそれに対してナイアは回避行動をとることができない。ブースターの操作をしくじり、もろに受けてしまう。
「きゃ!」
「もう下がってろ!」 
 姫乃の怒声。
 そして吹き飛ばされたナイアのフォローに入る。
 『藤咲 仁菜(aa3237)』も続く。
――もう仲間は奪わせない!
「私達の思いは絶対砕けないんだから!」
 次いで正宗が雷神槍「ユピテル」をアレダのシールドに突き立てた。雷神槍「ユピテル」の輝きは徐々にアレダの防壁を分解していく。
 それとは別に姫乃が跳躍し直上方向からミョルニルを叩きつけた。
「最速最短でフルボッコにすれば全部の問題が解決。――わかりやすいってのは最高だ」
 軋むシールド。しかし放たれる光弾に姫乃は回避行動をとらざるおえない。
 地面を飛び跳ねるように光弾を避け、爆風の勢いを利用して転がった。
 そのまま反転すると、ミョルニルを真横からスイング。打ち抜くようにアレダの後方へと駆け抜けた。
 追撃として正宗の投擲した苦無「極」がバチバチと光壁を削り、はじかれたそれを正宗は回収して次の攻撃に備える。
――あれが、かの竜人とはね。
 『ナラカ(aa0098hero001)』が告げる。見れば堂々と『八朔 カゲリ(aa0098)』がアレダのシールドの前に立っている。
 あまりの至近距離、アレダは素早く近寄ると『過剰』のために掌底を放つ。だが天剱の峰打ちにて腕は弾かれた。返す刃での斬撃は壁に阻まれ愚神に届くことはなかったが衝撃で愚神は吹き飛び後退を余儀なくされる。
「興味を失ったか?」
 見れば背後でよろめいて立ち上がるナイア。
――いや、もともと……。まぁ、京子たちが思い入れするほどの人物かどうかが疑問でね。
 次いで放たれる施錠の光弾。
 それを弾いたのは『フィー(aa4205)』である。
「ほう」
 そして『志賀谷 京子(aa0150)』の二重射撃。体制を立て直す暇を確保する。
「あなたはどうか知らないけど、あの激闘をわたしは憶えているよ」
 京子は踊るように弾丸をばらまき、それを背後から放たれた弾丸がフォローする。京子はにやりと微笑んだ。。
「忘れたなら思い出せ、知らぬなら心に刻め、ってね。わたしたちは此処にいる!」
「さてさて、こんな雑魚に本気出すのは甚だ癪なんですがー」
 そうナイアを見下ろすフィーの瞳には疑いの色が滲んでいた。
「まぁ? アイツの為だったら吝かでもねーでしょーよ」
 そう重たい刃を軽々と持ち上げて、敵へと挑むその背中はナイアには遠く、冷たく見えた。
 その背が語っていたからだ。
 お前を守るのは、かつて戦った、”友”となり得たやもしれぬ者への敬意として。
 そしてその友と、このラジェルドーラは違う……。
 お前は弱い。そう言われている気がして。
「私は……」
「大丈夫か?」
 正宗が歩み寄りナイアの背に両手をあてる。癒しの光が柔らかく立ち上り、ナイアのダメージを癒した。
「初戦闘なら無理はしない方がいい」
 告げると正宗は戦線に戻って行った。
 その様子をナラカはじっと見つめている。
「おい。真面目にやれ」
 ガキィッとナラカ、いやカゲリの耳音で金属音。
 放たれた光弾をカゲリは寸前のところで切り裂いたのだ。
――いや、かの少女、竜人とどう接するのか、見ておかなければと思ってね。
 何よりまだ、ラジェルドーラは一言も発していない。
 彼は本当に、あのラジェルドーラなのか。
 全員の胸の中で疑問が高まる。
 そんな中京子は片割れの銃と再会していた。
 『構築の魔女(aa0281hero001)』だ。
 正確無比な射撃。それを見た時から彼女がいると思っていた。
「こちらを倒す必要も……自身の手で成し遂げる必要もないのですよね」
 そうアレダに告げる構築の魔女。彼女を見た瞬間、京子は華やぐように微笑んだ。
「魔女さん、心配かけちゃってごめん。でも、これで双銃が揃ったね」
「京子さん、無事でよかったわ。えぇ、この場所でまたですね」
 告げると構築の魔女は砲塔を構える。
「京子さん。今一度その銃をお借りします」
 京子の横に並び立つ構築の魔女。すでに『辺是 落児(aa0281)』と共鳴済み。
 次いで二人はわかれるように走った。
 走りながらも弾丸をこれでもかとお見舞いする二人。
 対象の視界を潰しつつ、意識を二人に向ける。単純だが効果的な戦術はラジェルドーラ戦でいやというほどに見せたコンビネーション。
――油断して捕まるのは無しですよ。
 アリッサの言葉に京子は頷いた。
「覗き見はされたくないものね。大変だったけど、大事な想い出だもの」
 放たれた弾丸。だが一点違うのは、二人の弾丸の多くがとある一点に収束していることである。
「演算を少しでも遅らせなければいけませんね」
 彼女らの弾丸は、テレポートショットによってアレダの死角へと跳躍し、アレダの視覚部分。
 後頭部とある一点を集中的に攻撃していた。
「一箇所でも穴を開ければ、その周囲が脆くなるでしょ!」
 さらに放たれるテレポートショット。
 京子の放った弾丸の真後ろから構築の魔女の弾丸がぶち当たり。ダメージを蓄積させていく。
「さぁ、頂に届くとまで称された武を! 私達の誇り高き闘争の牙を!!」
 直後バリンと景気のいい音が聞こえて、防壁が一枚食い破られた。
 それを好機と突っ込むリンカーたち。
 その中に当然ナイアも含まれているが。動きがぎこちない。
「ちょっと! ドーラ! ああああああ!」
 あからさまにコントロールできていない。
 駆けだしにしては高出力で暴れまわっているが、その力の大きさのほとんどが内に向かって自分自身を傷つけている。
――英雄としてのラジェルドーラとは驚きましたね。
 そう告げる『アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)』。
――あれは本当にドーラなのでしょうか。
 いぶかしむアリッサに、京子は嬉しそうに告げた。
「ドーラだよ」
 噛みしめるように告げた京子。
 京子には分かるのだ。あのちぐはぐな状態はドーラのテンションが上がっている証拠。ナイアがついてこれていないだけである。
「私たちの戦いを見て、きっとわくわくしてるんだ」
 それは、あのドーラだからだろうか。それとも武人としての魂ゆえか。
「合縁奇縁……これだから世界は面白いわね」
 構築の魔女の言葉に京子は頷いた。
「ほんとに。でも再会を祝す前にあの邪魔者を吹っ飛ばさないとね。何より、ドーラを名乗る英雄の前で無様は晒せないし!」
 二人は手を叩くと同じ意志を持ってまた別れる。
 あの時の光景を目の前で再現してやろう。
 そう悪戯っぽく笑って。


第二章
アレダの周囲を煌き覆う障壁。その存在が三枚から二枚に減ったことによってアレダの表情、雰囲気に変化がみられた。
 アレダとしては侮っていたのだろう、リンカーの実力を。
 そして焦りからか、不得意な攻撃の手を早め。そして死角から浮上した無月により。デスマークをもらうことになる。
 無月の霊力によって暗く汚染されるアレダの障壁。
 夜が朝を飲み込むように静かにそれは浸蝕した。
 戸惑いの表情で呻くアレダ。しかし無月に構っている暇はない。
 左から、フィー。そして右からナイアが迫る。
「こんな薄っぺらい障壁でどうにかなっと思ってたんだったら相当頭がお花畑みてえですな?」
 一撃、フィーが軽く薙ぐと障壁が震える。
 ナイアによる三連続の刺突。それは障壁にはじかれてしまったが、細かなタイミングで左右に揺らされたことでアレダの体制が崩れる。
――のれ!
 その時ラジェルドーラが珍しく口を開いた。見ればナイアは両足を地面につけて旗を握っている。
 その柄を足場にフィーは飛ぶ。
 その影から姫乃が奇襲し。構築の魔女、京子が視界を封じるように顔面付近に弾丸を叩き込む。
 だがそれは全て敵の意識を封じるための手に過ぎない。本命はこの陣営で最強の火力を生かすため。
 フィーが頭上から刃を叩きつけた。
 アレダはその一撃に障壁の力を終息せざるおえない。
 繊細な防御壁の表面にギザギザとした粗がみえた。
 その隙間に刃を差し入れ、ひも解くように障壁を弾く、無月。
 二枚目の障壁がガラスをたたき割るような音と共にキラキラと周囲に飛び散った。
――まだだ!
 ラジェルドーラが告げ、ナイアが旗を立てると、はじかれたフィーがそれを足場として膝に力をためる。
「おおおおお! 許さん」
 アレダ両手に力を込めると迎え撃つために前方に伸ばした。
 それにフィーは臆することなく突っ込む。
 ナイアがたてた旗を強く振るうとフィーは弾丸のようにアレダへ。
 杭のように刃を構えると、障壁へと突撃し衝撃波が空間を震わせる。
――お前たちであれば”こう”だろう?
「へぇ」
 フィーは不敵に微笑むとパイルバンカーのように名もなき魔剣を打ち出す。
 腰を回転させ、肩を回転させ、腕でひねりをくわえて、打ち出したそれは高密度な霊力と共に斬撃の威力をアレダに知らしめる。
「見た目だけに拘って中身詰めねえとかバカの所業ですぜ?」
 障壁の表面に亀裂が走った。
 その障壁を細かくばらすように京子と構築の魔女が弾丸をばらまいた。
 それは難解なパズルを解くように小気味よく崩され、そしてアレダ本体が露わになる。
「な……に?」
 アレダが衝撃の表情を浮かべ、一気に奪われた霊力からか膝に力が入らず崩れ落ちそうになる体。
 それを支えたのはカゲリと仁菜だった。
 まぁ支えたと言ってもその手に持つAGWで挟み込むように無理やり立たせただけなのだが。
「ぶっ飛びなせぇ」
 告げるフィーの言葉は穏やかに、しかし眼光は鋭く、ただただその身を破壊するだけに研ぎ澄まされた一撃。
 渾身の力で持って振り回された大剣はアレダのか細い体をすくい上げると海の向こうに吹き飛ばした。
 まるで熟練者の水切り、その石のようにアレダの体は海面を何度もバウンドすると海面を削るように緩やかに速度を落として水の中に沈んでいった。
 フィーは次いで手の甲をなめる。アレダに触れられ、体内の霊力バランスを崩されたが、この程度負傷の内に入らない。
 なので正宗のクリアレイにフィーは苦笑いを返す。
「なおさねーでも、よかったんですがね」
「まだ、なにが起こるか分からない、だから回復も」
 そう正宗がメンバーを治療していく。
「ケアレインは必要なさそうだね」
 そう仁菜は告げると、カゲリと共に愚神を追った。
「大丈夫ですか?」
 そうナイアの傷を癒すと正宗はナイアに言葉をかけた。彼女の傷は癒えているはずだが、膝立ちになったまま地面を見つめ動かない。
 初めての戦いで緊張しているのだろうか。そう思い正宗はナイアに手を差し伸べるが。ナイアは空いた手で正宗の手を握り返すことなく地面に叩きつけた。
 甲高い音があたりに響く。
「なんで! 何で私の思うように動いてくれないの! このポンコツ」
 癇癪を起こすナイアは年相応の女の子である。それを知っている姫乃が走り寄ってきた。
「どうしたんだよ、ナイア」
 姫乃が問いかけるとナイアはメットを外して姫乃を見た。
 大人びた表情をしている。少なくとも自分と同世代に見えないあたり、ナイアは共鳴すると成長するタイプなのだろう。
 長い髪がこぼれて、瞳が潤み姫乃の不安げな表情を映し出す。
「私、もっと力になれる、そう思ってたのに、全然だめだ」
 現実と、理想の間にギャップを感じる。
 そう言ってしまえば簡単で、ひどくチープだが、その現実とやらは少女の心を致命的に傷つけるに十分だった。
「なんで、なんでもっと動けないの、ドーラ!」
 その言葉に名前を呼ばれたラジェルドーラは一切答えない。代わりに告げたのは苦言。
――練度の高い者ばかりだ。技術には感服する。一旦ひいてはどうだ?
 少女の瞳から光が消えるのが、姫乃には見て取れた。
 その瞳を姫乃は見たことがある。彼女が愚神に囚われた時、同じような目をしていた。
 だから姫乃は告げる。手を握って。本当はこんなこと言いたくない。だけど自分の想いに素直になれない。
 それがどれほど辛いか姫乃は知っているから。
「ナイアはどうしたい?」
「引けるわけないでしょ……」
 冷たい声でナイアが告げた。
「強くなりたい。もう虐げられないように、前を向いて生きるために、そう思うのは命にとって当然の義務よ」
――それが本音か?
 ラジェルドーラがナイアに問いかけた。
 ナイアはその言葉に少し考え首を振る。
「このまま帰るなんて悔しい! 強くなりたい。私は強く、なりたい」
 口から血を吐いて、思い通りにならない現実を見て。死の恐怖に実を震わせて。けれど少女は逃げたくない、強くなりたいと言った。この先どれほどの代償でもつぎ込む価値があると言ったのだ。
「たいへん申し上げにくいのだが、ここに集まる皆、そう言うわけだ、この子に戦い方を教えてやってはくれないか」
 構築の魔女、そして京子が歩み寄る。 
 その気配にナイアが気が付いて、一度伏せた視線を持ち上げるとそこにはフィーがいた。
 その瞳は少女には興味を向けていない。その先の竜人がどんな世迷い言を口にするか、それが気になったのだ。
――私としては即刻対比させてやりたい。
 ドーラは言葉を続ける。
――しかしこの子が強くなることを望むのでね、死地にこそ成長の鍵がある。死地の恐怖で戦場から離れることもよいだろう。ただ、この子だけではすぐに死ぬ。
 その言葉にフィーは頷いた。この子は死ぬだろう、こんな無茶を続けていれば。
――胸を借りさせてはくれないだろうか。その刃相当な研鑽が見える。覚悟が乗っている。武人よ、甘えたことを言っているのは百も承知だ、だがこの子も強くならねばならない、頼めないだろうか。
「まさかあんたに頼みごとをされる日が来るとは、おもわねぇですよ、普通」
 フィーは思う、竜人も甘くなった、弱くなった。ひょっとするとフィーは竜人に失望すら抱いていたかもしれない。
 ただ、誰かを思う気持ちはわかるのだ。そのわがままを拒否しきれない気持ちもわかる。
「そうですね。教えるという事は慣れていますし。私も教わることがあるかもしれません。私は問題ありませんよ」
 構築の魔女は告げる、彼女の場合冷静に状況を分析して確実に守れると思ったために。
「私はいいよ、楽しそうだし」
 京子も頷いた。そしてその場の全員が頷いて、ナイアと言う少女の参戦が正式に認められた。
「さてー、そうなると」
 フィーが頭をかいてナイアを見つめる。教える、というのは何度やっても慣れないがこのまま送り出しても足手まといだ。ここで伝えられる言葉があるなら伝えたい。
「言っても私が示せんのは直感的な部分になんですがー」
 せめてこの先たどる道を示せればと言葉をかける。
「まず動きが単純すぎる。ただでさえ獲物がでけえんですからそこんとこ工夫してかねーとすぐ見切られちまいますぜ?」
「でもこんな武器、どう扱っていいか」
 旗というものは無駄が多い武装でもある、槍に余計なひらひらがついているのだ、攻撃の速度が遅くなるし。攻撃も妨害されやすい。
「ソレは攻防一体の武器。使い様によっちゃ武器にも盾にもなる」
 ただ、それは攻撃に使う場合のデメリットであり、うまく扱えれば驚異的な戦果を発揮するとフィーは身を持って知っている。
 かつて振るわれた旗、届きそうで届かない、その布の奥の瞳。
「双銃の扱いについちゃまた今度。ま、銃に関しちゃ私よか詳しい奴が居んでしょーよ」
 ちらりとフィーは双銃を見すえる、その時である。
――あ、そっちに行ったが……。まぁ大丈夫だろう。
 ナラカののんきな声が聞えた。
 次いでリンカーたちを照らしたのが大量のエネルギー弾、その光。
 京子は苦笑いを浮かべる。まさかこれも試練……と思いつつエネルギー弾を見逃したのではないかと。
「この武器って防御に使えるのね!?」
 ナイアが大声で告げると、フィーも京子も構築の魔女も頷いた。
「じゃあ! こういう事?」
 ナイアが全員の前に立つと旗を振りかざし回転させた。その傍によったエネルギー弾は弾かれ周囲に散って爆炎をあげる。
「ああああ!」
 ナイアの体が軋む、それに目をギュッと瞑って姫乃が駆けだした。無月も続く。
 構築の魔女と京子が左右に別れ弾丸を見舞い、フィーはナイアの肩を引いてゆったり歩きだす。
「まさか、もうへばったんですかい?」
「まだ、まだよ……」
 肩で息をしながら旗を構えるナイア。真っ直ぐ、ズタボロになった愚神へと視線を向ける。そしてナイアは駆けだした。
「おい! ナイア!」
 姫乃はあえてアレダの死角から声を出すことによってその存在を気付かせる。
 振り返るアレダ、しかし代わりにカゲリから視線を外してしまった。
 その斬撃を受けてあたりに血が飛び散った。
 それに乗じて姫乃と無月の連撃。
 体勢を立て直したアレダの魔術弾を受けると。次第にテンションが高まっていく。
 その全速度、全体重を乗せた一撃はアレダの細い体をナイアの方向へ吹き飛ばした。
「決めた事についてとやかく言わないし最初から全部できろとも言わない。だけどその武器は旗がついてる分重いんだから無闇に振り回すな」
「うん!」
 穂先だけでナイアはアレダの体を弾くことを意識。
「重い分自分の振り回す意識より微妙にスイングが遅いんだ。しっかり見て相手の行動を先読みしてギリギリまで引き付けて。そして相手より速く動け」
「うん」
「……ちゃんと無事に帰って安心して心配させろよ」
 最後にぼそりとつぶやかれた言葉はナイアには届かない。ナイアはぎこちなくも先ほどより手堅い動きでアレダに立ち向かう。
 防衛という事を覚えたのだ。
 であれば防衛のスペシャリストがここにいる。
――俺達なりの旗の使い方をみせようか!
 『リオン クロフォード(aa3237hero001)』の掛け声と共に仁菜は幻想蝶から旗を召喚。
「攻撃だけが全てじゃないんだよ」
 片手に盾を、そしてもう片手に輝く旗を持ち周囲にフィールドを展開する仁菜。
――聖旗は敵にダメージを与えられないけど。
 輝く旗が目の前でパタパタしてたら全然攻撃に集中出来ないだろう?
 リオンが告げると仁菜はアレダの目の前に体を滑り込ませる。
 常にアレダの視界の先にいて、アレダの腕が伸ばされればそれを傍で叩き落とした。
――かつて救国の聖女はその旗で仲間を鼓舞し勝利をつかんだ。
 かつて力ある武将はその旗で自分の力を誇示し敵を威圧した。
 だから、自分たちもそうなろう。愛すべき仲間たちのために、自分たちの目的のために。
「いくよ、リオン」
――ああ、一緒に行こうニーナ!
 二人の旗の輝きが増す。その姿を見てナイアは立ち上がり、駆けた。
「負けられない!」
 仁菜に伸ばされる腕。それをナイアは旗で巻き取り、仁菜は体制を崩させるように盾でタックルを。
 カゲリが切り抜け。その背に弾丸が浴びせられ。
 アレダは満身創痍の体をみせる。
――いい輝きを見せる。
 少しは興味が湧いたのかナラカが告げた。
――であれば、教鞭を振るうのもやぶさかではない。
「それをみせるのは俺なんだろう?」
 カゲリは天剣を構えた。その輝きはアレダの目をくらませ、そして解き放たれた斬撃がアレダを切り刻まんと襲い掛かる。
――戦い方に関しては、己に確固とした戦い方がある訳でもなければ英雄との兼ね合いだろう。
 カゲリは切り上げ、切り下げ、切り捨てる。瞬間に五度の斬撃はアレダを屠るのに十分な威力を持つ。
――共鳴での戦闘とは即ち、英雄の力を借りて戦うだけではなく英雄と共に戦う事であるのだから。

 ただし、カゲリが駆け抜けて聞こえた音は、バリンと何かが砕かれる音。
 奥の手として、ちいさな防御壁をアレダは残していたのだ。
 だがそれももう、無意味に等しい。
 無月が背後からアレダを襲った。その貫通する刃から無月はアレダに霊力を送り込むと文様が浮かび上がる。
 そして。
――使うがいい。主からの贈り物だ。 
 ラジェルドーラが告げた瞬間、いつの間にか幻想蝶に収められていたジェムが光り輝いた。
 それに対して反射的に反撃を仕掛けるアレダ。
 放たれた光弾。しかしそれは仁菜の盾により跳ね返されてしまう。
 その魔法弾は無月の文様と重なり、白と黒の複雑な柄へと変化した。
 
 合体攻撃 黒白開印

 無月の分身が仁菜の光を飲み込んで輝き、無月自身はそのうちに夜の様な霊力を住まわせる。そして突きつけられた刃は重なり。
「うぐ、おおおおおお」
 アレダの中に吸い込まれるようにして消えて。
 そして背後から無月一人が排出された。
 次いでアレダの中で膨大な霊力が暴走、体のあちこちから霊力が噴出してくる。
 体内がでたらめに施錠、開錠させられているのだ。
「ああああ! お前たち!」
 噴出する霊力は暴力的な魔術の嵐となってナイアへと吹き付ける。
 今度ばかりは彼女の技量ではどうにもならないだろう。
 だから正宗が盾となって守った。
「そんな!」
 ナイアが何事かを告げようとしたが、正宗はそれを静止し。振り返り微笑む。
 戸惑っている暇はないから。それにこれは正宗の信念に基づく行動だ。
 誰一人、ここにいるみんなが傷ついてほしくない、生き延びてほしい。
 そのためならば自分が傷つくことなどいといはしない。
 それにだ。今正宗はアレダの開錠の力でステータスが増している。
「愚神は倒す」 
 正宗の手には流れ出た血が霊力と共に凝縮されている。暴力的に体内を駆け巡る霊力をあえて血と一緒に外にだし、コントロールする。
「そう決めたんだ!」
 正宗は渾身の一撃を放つ。痛みで目がくらみそうになりながら、驚くアレダを容赦なく施術する。
 体の表面を這う霊力のメスは肌の奥に潜り込み。
 それを撃ち放つとアレダの全身が切り裂かれた。
「行くんだ。僕は置いて」

「うん」

 その脇を駆け抜けるナイア。彼女はこの戦いで成長した。そのことが倒れ伏す正宗にはとてもうれしかった。
「わたしたちリンカーはひとりで戦うんじゃないんだ」
 京子が装甲をパージして告げる。
 京子と構築の魔女は双銃に武装を変更して走った。
「内にある英雄を感じて、共鳴を高めてみて。あなたの英雄の経験が、己で学んだように活かせるはずだから」
 構築の魔女が最接近。アレダを背後から蹴りつけると空中に漂うその体に二人が銃弾を放った。
 その銃弾はアレダの体の中で完全にかみ合い。アレダを空中に縫いとめる。

合体攻撃 神の一刺し

「それは叩きつけるものじゃないわ、振るうものよ?」
 構築の魔女が告げる。
「貴女の英雄は戦闘技術と意思の在り方に関して信頼できる存在だわ……声を交わしてみて?」
 すると京子も口を開いた。
「大丈夫、わたしだって普通の少女だった。アリッサがいるから戦えてる。同じだよ」
 微笑み振り返る京子、構築の魔女。
「あなたの主も邪英化の犠牲者だったの? ともあれ、あなたと共闘できるとは思わなかったな。どう、鈍ってはいないでしょ?」
――私は、兄弟の記憶を持たない。
 ラジェルドーラが告げる。
――しかし、最高の賛辞を送ったのだろうという事はわかる。私の方が笑われていないか心配だ。
「むしろ、安心したよ」
 京子は思う。きっとあのドーラも、ゆがめられていなければ、武に誇りを抱いた教師の様な人物だったのだろう。そう思えるから。
「いくんだ」
 そのドーラと京子の会話で固まっていたナイアの肩を無月が押す。
「『共に協力し合う事の大切さ』一人では出来ない事も、仲間達と共に力を合わせれば出来てしまう」
 今がその時だ、と言わんばかりにアレダは無防備で空中に縫いとめられていた。
「それは、心を一つにして力を合わせれば、単純に力が人数分プラスされるのではなく、それよりも更に倍にも十倍にも大きくなるからだ」
――日本の諺に三人寄れば文殊の知恵って言うのがあるんだ。それは三人で力を合わせれば、神様にも負けない知恵が出て来るって言う意味さ。戦いでも同じだよ。皆で力を合わせれば、神様、そう愚神にも負けない力を出す事が出来るんだ。
「だから見せてくれ、君と仲間達の力を合わせた合体攻撃を……!」

「はい」

 告げると姫乃が滑り込んでくる。
「やるぞ! もう持ちそうにない!」
 姫乃が先陣を切り、フィーがその隣に並んだ。
「さて、時間もねえんでさっさと片付けちまいますかな」
「コンビネーション……絆の力」
 ナイアは真っ向から敵に接近。
 そして。
――感じるか、どうすればいいか。
「感じる。私が倒すんじゃない。みんなと一緒に倒すんだ」
 リンクコントロール。
 ナイア中で爆発的に霊力が増大していく。旗が輝きを帯びた。
 その傍でナイアはアレダを包みこみ。そして地面に叩きつける。
 ラジェルドーラお得意の業である。
 そのまま天にアレダを掲げると、旗の中でもがき苦しむアレダに。
「一つ! 二つ! 三つ!」
「善も悪も、我が前には等しく無価値也……」
 疾風怒濤の二連撃。
「焔の如く焼き尽くす!」
「っと。そんじゃグッバイ」
 まるで削られるような連続攻撃にアレダは悲鳴を上げる。
 旗の中で原型もないくらいに砕かれてしまったアレダ。
 その体は光となって天に上る。

エピローグ

 掲げた旗を力なくおろし、ナイアはそれにもたれかかる、すると次の瞬間共鳴が溶け、ナイアとドーラは二人に分裂した。
 一人は少女、ナイア・レイドレクス。そしてもう一人が、竜機人ラジェルドーラ。
 その姿を見て京子は目を見張った。
「共闘なんて思いもしなかったけど私達との戦いは覚えているのよね?」
 そう構築の魔女は問いかけてみた、結果はわかっているのに。
「いや、申し訳ない。私は兄たちとは別の個体だ。記憶のやり取りはできるが、敵の手に落ちてしまう前に、情報汚染を懸念して情報伝達装置ごと破壊してしまっている」
 そう申し訳なさそうに語りだすラジェルドーラに京子は手を差し出した。
「初めまして、だね」
「ああ。初めましてだ」
 その言葉に京子は落胆する。その姿に彼の面影を見た。
「ここを作った愚神と武力王について聞かせてくれないかしら?」
「ああ、いいとも」
 ラジェルドーラは告げる。
 自分たち四体の龍はもともと王のための鎧だったこと。
 王と共に世界を守る戦いをしていたこと。
 しかし、闇が世界を覆い。そして自分たちは敗北したこと。
 王を守るためにラジェルドーラは一機、また一機と闇に飲まれ。
 自分は王と一緒にこの世界にたどり着いたこと。
 しかし。
「王はその力の強大さを見込まれ、女に連れ去られてしまった」
「女?」
 姫乃が眉根をひそめる。
 そう言えば、女。この事件。今回だけの事件ではない。
 一連のD事件に、女が関わってくることが、なかったような?
 いや、正しくは今までなかったのだが、つい最近イレギュラー的にポッと何かがでてきて、関わったような。
 もっというならば、この事件。Dのこと以外にも考えるべきことがあったような。
「主はこの塔に眠っている、それは間違いない、だが主を完全に汚染するには四基のラジェルドーラの破壊が必要だ。その四基目を私は探している。それが邪英でこの世界に召喚されたのか。英雄としてなのかはわかっていない」
「しっかし愚神から英雄への転化現象、ねえ」
 フィーがあくびをしながら剣にもたれかかり告げる。
「念のためにいっておくが、私は元から英雄として召喚されている」
 ただ、それにしてもだ。英雄と愚神、英雄の邪英化。それが非可逆的モノではないとすれば。
「あいつらが言ってた事もあながち間違っちゃいねえのかもしれねえですなー」
 想起するは愚神商人の零した王とやらの存在。想定するのはレガドゥス級以上の何か。
「んー、しかしこれでまたバカ共が騒ぎ出すのもめんどくさそうですなぁ。いざという時邪魔になんなきゃいいんですが」
 フィーは懸念しているのだ。リンカーの中にも愚神を救おうとする輩も居るだろうと。
 フィー自身は愚神すべからく殺すべし等と言う考えは持っていないが、愚神と共存できる等と考える程頭がお花畑でもない。
「ま、そん時はそん時ですかな」
 そう興味をなくしたように空を見る。そこにはリンカー回収用のヘリが見えた。
 その時である。
 ゆらりとリンカーたちの視界、その端にとある人物が見えた。
 髪を長く風にゆらし、ハットをかぶっているので人相を確認できない。
 仁菜はその人物を知っている。ここで組織Dに関する情報をくれた女性だった。
「あなたは……」
「どこから来たのかな?」
 京子が一気に殺気を全開にしてみせる。その言葉にナイアは瞬時に共鳴して見せた。
 それがまずかった。
「いや、すまんのう」
 女性の腕が伸びる。そしてその腕は、硬いラジェルドーラの装甲を貫いてナイアの胸に突き刺さっていた。
 血が噴出する。
「がら空き故。手が滑ってしもうた」
 伸びた腕は根元は確かに肌色だった。
 ただし、伸縮部分は綺麗に透き通った水色をしており。その声はガラスを弾くように透き通っていた。
「ガデンツァ……」
 仁菜が息をのむように告げる。
 その女性はいつの間にか水晶の乙女に変わっていた。その頬は血で彩られている。
 今もなお噴出する、血液によって、鮮やかに。
「てめぇ! その手を放しやがれ!」
 姫乃が切りかかる、するとガデンツァはすんなり腕を引っこ抜いた。
「その要望、承ろう」
 次いで投げ捨てられたその体を姫乃は抱き留める。
 血が止まらない。それどころかぱっくり空いた胸の奥には脈打つ者が無いように見えた。
「ひめの……」
「ナイア! ナイア!」
「これで、あと一機じゃな」
 ガデンツァはナイアから引き抜いたその赤い果実を舌先で撫でると、その五本の指を無情にも閉じた。
 熟れきった桃のように柔らかいそれはため込んだ血液をあたりに散らばらせると。
 びちゃびちゃと乾いた地面を濡らして地面の傾斜にならって滴った。
 京子の足元にスッと。血の筋が刻まれる。京子のブーツを濡らした。
 赤く。赤く。
「ひめの、だいすきだったよ。ひかりもそうだとおもう」
「なんで、何でそんなことをいうんだよ!」
「ありがとう」
 次の瞬間、ナイアの共鳴がとけた。竜人が機能を停止して溶けだす。
 竜人の最後の言葉はなかった。ナイアに限られた一言。二言を告げさせるだけで精いっぱいだったのだ。
 そしてナイアは最後に冷たくなった。心臓の損失。
 これ以上に圧倒的に死を象徴する言葉は有るだろうか。
「殺して……殺してやる!」
 姫乃が飛びかかろうとした瞬間、塔が揺れる。
 外壁が崩れ瓦礫が降り注ぐ。
 その瓦礫がリンカーへと降り注ごうとしていた。
――姫乃!
 リオンが叫ぶ。
――姫乃! そいつ頼んだ!
 そう仁菜が冷たくなった体を姫乃に押し付ける。
「でも、俺はあいつを殺さないと」
 混乱する姫乃。今にもガデンツァに飛びかかろうとしている。だがそれは自殺行為だ。だからリオンは、こういうしかなかった。
――まだ助かる! 姫乃なら逃げ切れる。
 変貌していく塔。そして解放される正面玄関。
 新しい戦いの風を構築の魔女は感じていた。
「奴らの妨害がなくなれば、グラノゼーテを邪英化させるのもたやすいじゃろう。感謝しておるぞ、リンカーたちよ」
 そう笑い狂うガデンツァは瓦礫の向こうにとどまり、リンカーたちはヘリから垂らされるロープにしがみついて、その場を去った。

 そしてナイアが運び込まれた病院で。
 ナイアは正式に死を言い渡されることになる。
 同時にラジェルドーラの消失も確認。

 ガデンツァの高笑いが聞こえてくるようだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941

重体一覧

参加者

  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 胃袋は宇宙
    メルトaa0941hero001
    英雄|8才|?|ドレ
  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 反抗する音色
    ジェネッサ・ルディスaa1531hero001
    英雄|25才|女性|シャド
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • Dirty
    フィーaa4205
    人間|20才|女性|攻撃
  • ボランティア亡霊
    ヒルフェaa4205hero001
    英雄|14才|?|ドレ
  • 愛するべき人の為の灯火
    御剣 正宗aa5043
    人間|22才|?|攻撃
  • 共に進む永久の契り
    CODENAME-Saa5043hero001
    英雄|15才|女性|バト
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