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最終発言2018/01/04 10:36:53 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2018/01/04 10:18:26
オープニング
この【初夢】シナリオは「IFシナリオ」です。
IF世界を舞台としており、リンクブレイブの世界観とは関係ありません。
シナリオの内容は世界観に一切影響を与えませんのでご注意ください。
●社内行事でGO!
名目上の仕事納めの次の日、パラダイム・クロウ社では恒例の社内イベントが行われる。
折角の貴重な年末の休みに何故……そう嘆いた誰かが尋ねたところ「全社員のほとんどが同時に休めて参加できるのがこの日だったから」という非常に胸糞悪い返答があったなどという話がまことしやかに流れている、そんな──仕事が終わらない者以外はほぼ全員強制参加のオリエンテーションが、行われる。
「これが終われば……明日から冬休みです。今年最後のお勤めとして精一杯こなしましょう」
営業部の新人ミュシャ・ラインハルトは、真新しいスポーツウェアに温かなジャケットを羽織って、十二月も終わりの寒々とした公園を睨む。
「そうだな……、ラインハルト君とはぶつかることも多いが、そこは同意だ。手早く進めてさっさと終わらせよう」
開発部の灰墨信義は同じ赤チームのチームメイトとなったミュシャを一瞥して、それとわかる作り笑いを浮かべてみせた。
「あら、今回は珍しくエルナー君とは別のチームなのね? このグループはどういう基準でわけたのかしら? エルナー君と一緒じゃないと不安よね?」
同じ開発部であり信義の妻でもあるライラ・セイデリアは人数の片寄りがみられるグループ編成に首を傾げた。
「さあ……? 確かにエルナー先輩が一緒じゃないと不安もありますが、オリエンテーションですから大丈夫です。
──あ、エルナー先輩!」
話をすればなんとやら。いつものスーツ姿ではなくカジュアルな私服姿の営業部のエルナー・ノヴァがジャケットの襟を寄せながら三人の元に歩いて来た。
「お疲れ様、ミュシャ。業務報告のメールが来なかったけど、今年の仕事はきちんと終わったみたいだね?」
「すみません! 無事、先方とも今年最後の挨拶を交わしました。……と言っても、また一週間後に打ち合わせがありますが」
苦笑するミュシャにエルナーはいつも爽やかさで言った。
「うん、まあそうなんだけど。実は一部でちょっと進捗が遅れているんだ。そこでさ……、ほら、このオリエンテーションって勝ったチームはひとつ、上に希望を出せるよね?」
「え、ああ……去年は確か宝探しで、確か優勝チームが食堂のデザートの種類を増やして貰った……んですよね……?」
訝しむミュシャにエルナーは──少し疲れたような顔に浮かべた笑みを深くした。
「そう。それで、僕たちの黒チームでは話し合って『年末年始に出勤を許可して欲しい』って願いにしたんだ」
「──は?」
ミュシャがヴィランと戦うエージェントだったら、きっと敵に向けたであろう殺気と侮蔑の篭った「は?」だった。
「……すみません、先輩。いや、でも、なに言ってるんですか」
「わかりやすく言うと。
オリエンテーションで黒チームが勝ったら、冬休みに全員『自主的に』出勤しようって話をしているんだ」
この場合の『自主的に』が、決して自由意志の下で個人の判断で能動的に出勤しようという話ではない、ということは、新人のミュシャでもわかった。
あれだ、学生の先輩から言い渡された「ヤル気のある人は明日学校へ来て自主練ね!」みたいな。
だから、もう先輩後輩の間柄を忘れて、彼女は言った。
「は?」
空咳をひとつして、信義が二人の話に割って入った。
「エルナー君……何言ってんだ。営業が正月に何やるんだ」
「──色々、営業にもあるんですよ」
疲れた目をしたエルナーが困ったように笑った。
「うん、まあ、後で楽をするためだよ。取引先が休みのうちに進めておけば、少しは楽になるんじゃないかなって話になったんだ。
──今は正月って言っても特に何も無いんだろう? テレビも特番ばかりだし、むしろ、通勤ラッシュもなくて働きやすいくらいだし、平日だけいつも通り出勤してちゃんといつも通り土日は休めるわけだから、今年の正月に無理して休まなくても、ね?」
そうして、エルナーはいつもの口癖を言った。
「休まなくたって大丈夫、明日は明日の風が吹く。人生は、長いんだから」
ばっしーん!
反射的に筒状に丸めた公園内の地図を、竹刀よろしくエルナーへ叩き付けたミュシャ。その一撃を受け止めるエルナー。
「この……っ、ワーカホリック先輩!
知ってるぞ、早めに上げた仕事の後に……また新たな仕事を取ってきて入れるつもりだ……」
「ははは、僕はミュシャに甘すぎたかなって反省してるところだったし、ちょっと厳しめに行こうかな」
ミュシャとエルナーのやり取りを見ていたライラは、額に青筋を浮かべた信義の隣でため息をついた。
「その口癖はこういう時に使うものじゃないと思うんだけど、ここでアナタ相手に話していても仕方ないようね?
じゃれてないで、実力(オリエンテーション)で決着を付けましょう?」
●自主的な通常出勤か、正月休みか
エルナー含む黒チームは、事前に『年末年始の自主的な通常出勤』こと『社屋の解放』を希望する社員が集まって結成していた。その理由は、「前倒しに仕事をしたい」というものから単に仕事が好きな人間、「正月に実家に帰りたくない」など様々だったが、黒チームには今回のオリエンテーションの運営スタッフが多く含まれており、このような偏ったチーム編成に一役買っていた。
一方、ミュシャや信義、ライラが与する赤チームは、その他の、正月に休めるものなら休みたい普通の社員たちだ。
双方、自陣の敵軍を拘束するための檻の前で持ち寄ったアイテムを前に計画を練る。
「共鳴してスキルで一網打尽に……大丈夫、多少の怪我は会社側の救護班が直してくれる……」
「投擲用ケーキ、持って来たので、視界を覆ってその間に他の皆さんが一斉に縛り上げて」
「罠を作るぞ」
「心理戦に持ち込んで、素晴らしさを問いて自主的にこちらの檻に入って頂こう」
新人から役員まで……、それぞれの年末年始をかけて彼らはそれぞれ策を練った。
スタート時刻を前に、社員全員に通話可能な通信機付ヘッドセットと腕時計が配られた。
ゲームの開始は午前十時。十一時半になったらゲーム終了。
その後、締めの役員の話を聞き、温かな豚汁とうどん、参加賞を貰って解散だ。
黒が勝てば、また通常通りの出勤の日々が始まるだろう。
赤が勝てば、正月休みに突入するだろう。
そうして──まばらに松林が点在する広いだけの冬の寂しい公園で、大人たちのガチな鬼ごっこが始まった。
解説
もしも、あなたが会社員リンカーだったら
その会社が正月休みをガチの追いかけっこで決めたなら
そんなifシナリオとなります
●プレイングについて
チーム(後述)と所属部署を必ずお書きください
所属部署は下記からお選びください
総務部、人事部、経理部、営業部、開発部、製造部
フレーバー的なものなので何を選んでも数値的な影響はありません
●チーム分け
PCの基本情報の性格傾向五マスをご覧ください。
中央より一つでも純真側にある場合は「出勤チーム」
中央及び狡猾側は「休日チーム」になります
NPC含めた参加者数×10名がPC&NPCを含めたチーム人数です
※その他の社員はリンカーではありません
現状
・赤(休日)チーム(30名):ミュシャ(営業)、灰墨(開発)、ライラ(開発)
・黒(出勤)チーム(10名):エルナー(営業)
●試合内容:鬼ごっこ
相手を捕まえて自軍の牢屋に放り込む
作戦は仲間との連携と携帯品で持ち込んだアイテムと心理戦による戦い
AGW類は共鳴後のみ使用可能
事前準備での貸出は不可
※パートナーが同じチームなら共鳴は可能
※初夢シナリオなのでアイテムは実際には消費しません
有効だと判断したプレイングは評価が入ります
牢屋に入った者は外には出れないが通信機での指示、牢屋内での会話はOK
通信機で敵チームと話すのもOK
●ステージ:羽衣峰自然公園(はごろもみね-)
広さは小学校の校庭くらい(5ヘクタール前後)。
芝生と多数の松の木が特徴のベンチと噴水がある程度の静かな公園。
西:大きな道路、東:大きな松林、北:紫峰山センター建物、南:パラダイム・クロウ社建物
まばらな松林が点在し、西の申し訳程度の松林が休日チーム、東の松林が出勤チームの牢屋(本拠地)
本当に共鳴後のリンカーでも壊せない巨大な牢屋が設置されている
●パラダイム・クロウ社
ライヴスによる新技術を研究・開発して、商品化している会社
リプレイ
●ゲームの報酬
状況を理解した伊邪那美(aa0127hero001)は悲鳴を上げる。
「休みの日に働くなんて嫌だ~!」
リシア(aa5415hero001)も力強く頷いた。
「休みは絶対死守するのです。ええ、なんとしても!」
だがしかし、シュエン(aa5415)は違った。
「三連休ですら気が休まらねえってのに」
「え」
「オレだって休みがいらないわけじゃない。ただ、四日以上休むと次の出勤が怖くなってくるんだ……」
──どうしてこんなになるまで放っておいたんだ。
そんな視線がシュエンに集中した。
「確かに前倒ししておけば後が楽になるんだがな……」
ぽつりと御神 恭也(aa0127)が呟いたが、盛り上がっている伊邪那美たちが気付くことはなかった。
経理部の花、月鏡 由利菜(aa0873)は可憐な唇で言った。
「私は休日プライベートで特にやりたいこともないので、お仕事でも問題ありませんが」
彼女がそう言えば、グラリと宗旨替えをする社員も出てくる。高嶺の花と年末年始を過ごせるならチャンスもあるかもしれないという下心。
だが、由利菜以上に美しいスタイルを持ちながらもその能力によって製造部の匠と呼ばれているリーヴスラシル(aa0873hero001)は首を横に振った。
「……ここ数年、私の方には顧客からオーダーメイド品の発注要望が相次いでいて負担が大きい。流石にそろそろ休みを取らせて欲しい」
年内納品のために死に体の製造部が敬愛する匠につく。
「エルナー、グロリア社を初めとして、この業界の社内労働効率化や環境改善は急速に進行しています。我が社も更なる社員の生産性向上の為、次世代IOT機器の導入を本格的に検討すべきです」
「それはいい。経理の月鏡君から提案してくれるのなら助かるな」
喜ぶエルナーに対して、リーヴスラシルは眉を顰めた。
「……ツキカガミ経理、言うのは簡単だが、機器の入れ替えコストは決して安くないぞ」
「ですが、リーヴスラシル……流れに乗り遅れれば、今後の業績に影を落としかねません。今後の社員の環境にも関わる問題ですよ」
ふたりはそれぞれの支持者を背に顔を見合わせた。
──妥結はなさそうだ。
「では、残念ですが」
「そうだな……」
ゆっくりと赤黒に別れていく社員。
黒チームのストゥルトゥス(aa1428hero001)はにこにこと周囲を見渡す。
「正月? そんな、炬燵の中から出たくないでゴザルゥってなる連休など、不用!」
「のーみそ、溶けるような、連休は……開発部には、いらないね。うん」
ニウェウス・アーラ(aa1428)の言葉に一部の開発部過激派たちが首肯する。
「同情するならDHAくれ」
「甘いおやつも、大歓迎……」
正月に社費で集中して思う存分開発を、怨嗟のような声が彼らを鼓舞する。
無論、赤チームも活気(さつい)に満ちていた。
「信義ちゃん、ミュシャちゃん、ライラちゃん……いいか絶対に休日をもぎ取るんだ」
グッと拳を握るのは虎噛 千颯(aa0123)だ。
白虎丸(aa0123hero001)は虎の被り物を寒風に晒しながら思慮深く口を開きたかった。
「しかし、千颯……エルナー殿の言い分も一理……」
「一理も千里もない!」
ピシャリ! 千颯が遮った。
「休日は休むものだ! 休日に英気を養い、そしてまた休み明けから仕事を頑張ろう! ってするもんなんだよ!」
口を挟む間もあらばこそ。
「そもそも、この年末までに確り仕事納め出来なかったというならそれはそいつらの能力が低いって事!
つまり残業や休出=私は能力が低いです! って事なんだぜ!
休みは休み! 仕事は仕事っていう切り替えが大事なんだぜ!
決められた期間に決められた仕事をする事が大事なんだ! それ以上を望むなら給料上げろ!
低賃金の癖して何が『今やってる仕事以上の事をしろ』『今やってる仕事に一手間加えろ』だ!
だったらそれに見合った給料寄越せってんだよ!
需要と供給が成り立ってねぇんだよ! っていうかお前らがそういう事するからブラック企業が無くならねぇんだろうが!
自覚しろや! このブラック社員予備軍が!
こちとら正月は愛しの我が子達と毎日swi○chで遊ぶ約束してるんだよ!」
「ち……千颯……落ち着くでござる……」
──なんという気迫でござるか……其処までして休みたいのでござるか。
後半はともかく、まともな主張と迫力に言葉を失う白虎丸だったが注視するのはそこである。
なぜかバットにグローブを装備した人事部のサーフィ アズリエル(aa2518hero002)が赤チーム戦闘に進み出る。
「磯野、野球しようぜ」
「……磯野って誰さ」
同じ部署の海神 藍(aa2518)が突っ込む。
「たまには体を動かすのも悪くないと思いませんか?」
「はいはい、さっさと共鳴するよ」
共鳴した藍とサーフィは今年最後の『お掃除』のためにライヴスバット「甲子園のマモノ」を黒チームへと向けた。人事部のナカジマは本気だ。
それを合図に、休みを賭けた本気の鬼ごっこは始まった。
●開戦
休日を望む赤チームは、千颯、白虎丸、恭也、伊邪那美、リーヴスラシル、藍、サーフィ、リシア、信義、ライラ、ミュシャのリンカーを含む百十名。
出勤を望む黒チームは、由利菜、ニウェウス、ストゥルトゥス、シュエン、エルナーのリンカーを含む五十名。
うち、赤チームは千颯、恭也、藍、信義たちペアが共鳴して参加する。
一方、黒チームで少人数であり、共鳴して戦えるのはニウェウスたちだけだ。
戦力差は明らかに思えた。
「恭也?」
伊邪那美が慌てる。てっきり赤チームに居ると思っていた恭也が居ないのだ。
「まさか」
赤チームの前線で恭也は千颯と白虎丸と行動を共にしていた。
「本当にこれでいいと思うのか?」
千颯が席を外した隙に、恭也は(パートナーの奔放さによる)苦労人仲間である白虎丸へ語り掛けた。
「何がでござる?」
「正月働いて落ち着いてから代休を取れば、年末年始は東大通りの渋滞を避けてストレス無く仕事ができる。そして、平日に相方とゆっくりする事が出来るぞ」
「なんと」
「それに、千颯を不当に評価している連中に真面目さをアピールすることもできる」
「ほう」
「しかも、苦行からの千颯本人の成長も望める」
「それは!」
身を乗り出す白虎丸。
──これで、上手く此方に寝返ってくれれば良いんだがな……。
あと一押し。
「……ああ、いっそ黒チームに協力した方が千颯の」
恭也は身を翻した。代わりに千颯が降り立つ。
「恭也ちゃん、ウチの白虎ちゃんにナニ吹き込んでるのかな?」
「千颯……」
「真面目くんの恭也ちゃんがこっちに無条件参加なんておかしいと思ったんだよな~。目の付け所は良かったけど、共鳴しないで一人で行動する恭也ちゃんの不自然さに気付かないわけないよね」
「く……っ、見破られていたか」
そう、彼は──赤チームのふりをした黒チームだったのだ!
示し合わせたかのように愕然とした表情の伊邪那美が現れた。
「そんな、まさか……恭也……」
「悪いな、伊邪那美。俺は正月にさっさと仕事を終わらせたい」
残酷な現実に伊邪那美の心は千々に乱れた。
「そんな──そんなことするくらいなら会社を破壊してやるーっ!」
「オイ、待て!?」
走り去るふたりを見送って、千颯は白虎丸の肩をむんずと掴んだ。
「共鳴するぞ、白虎丸」
「しかし、黒チームの言い分にも一理」
「一理も万里もありません! いい、白虎ちゃん。ウチの子が楽しみに待ってるの、それで充分でしょ? そんな子供心を裏切れる?」
「た、確かに」
気圧され頷く白虎丸。
遠目にそれを観察していたニウェウスにストゥルトゥスが問う。
「突くべき点が消えたかー。
まずは、数的劣勢を覆す。その為にはー?」
「一般人を、狙います」
「悪く思うなヨ?」
にまっと笑うストゥルトゥス。
防犯用に経理部に設置されていた能力者でも使える特別初夢仕様のカルンウェナンを使用し、影から敵を仕留めていた由利菜が振り返った。
「私達黒チームは戦力で劣ります。連携に勤めなくては」
こまめに仲間と連絡を取っていた由利菜は場の不利を感じていた。
「私に作戦があります。ニウェウスさんたちは遊撃をお願いします」
「了解……元々、自由にやるつもり」
「きゃー、怖ーい!」
過剰に怖がる新入社員たちを追い回していた赤チームの面々は恐怖を見た。
突然、そこにグラビティ―フィールドが展開されたのだ。
イメージプロジェクターの幻が外れ、その中の一人が共鳴したニウェウスに戻る。
『レッツ連行☆』
「おー」
動けない一般人を片端からチョップで気絶させると仲間と協力してキャンプ用テントに放り込むニウェウス。
「ん……飛んで火にいる、一般人」
『大漁じゃー!』
続け様に拡声器を取り出して、駆け付けた赤チームへ揺さぶりをかけ始めるストゥルトゥス。
『君達さぁ。帰ったら、家族や親戚にお年玉を渡さないといけないんじゃないかい?』
「今時の相場……1人につき、1万円。それ未満は、うん、何て言われる、かな」
『合計でいくら払う事になるかなー? 職場に残れば、それを払う必要もなくなるんだけどなぁー?』
「新型の、ゲーム機とか……豪華な食事とか……イイ、ね」
広がる動揺に声を揃える二人。
「『今なら、まだ間に合います』」
だが、そこへ覚悟の面持ちのリシアが立ちはだかる。
「お正月……それは一年で最も休める日。この日に休まず、いつ休むのです?」
彼女もまた黒チームへ対話を試みていた。
「『ちょっと残業すれば』『一回休日出勤すれば後が少し楽になる』……その積み重ねがデスマの元!!」
いや、それは言葉の拳であった。
『おっと、きみか。でも、明けないデスマはないものだよ。明けない夜が無いように!』
「多少の困難も仕事が楽しければ……仲間と一緒に年を、越せる」
ストゥルトゥスたちの反論(?)にリシアが声を荒げる。
「営業からの要望を通す為にどこがスケジュール調整してるか知ってますか……?
だいたい土台無理な納期で受けてくるからこうなるのです
後から後から聞いてない仕様が追加されるし……爆発しろ!! なのです! 受けたものはきっちり終わらせますけどね!」
『わかる! わかるけど、どうやら対話は無理のようだ』
そこへ信義、千颯が駆け付けた。
「これは、撤退……」
地面を対象にしたブルームフレアが炸裂、その隙にジェットブーツで飛び去るニウェウス。
闘志を燃やした千颯のライヴスフィールドが残された黒チームを弱体化させる。
「全力で休みをもぎ取りに行くぜ──信義ちゃん!」
敵の攻撃を千颯が飛盾「陰陽玉」で防ぐと、その影から信義が敵を屠る。
「信義ちゃんと手を組む日が来るなんてな……」
『千颯……笑顔が黒いでござるよ』
「ああ、俺も夢にも思わなかったぞ……」
白虎丸のツッコミを他所に苦笑する信義と拳を打ち合わせる千颯。
「信義ちゃん! 共鳴してない能力者狙って! ある程度ダメージ与えたら俺ちゃんが眠らすから」
「容赦ない仕事はこっちに回すな!?」
ぼやきながらも遠慮なく一般人を狙う信義。
「隙あり、タッチ──」
隙なんて無かった。黒チームのタッチをリフレックスが呪いの力で弾き返すと千颯は強く言い放った。
「徹底的に叩きのめすぜ。もう二度と休日出勤しようなんて戯言を言わせない様にな!」
一方的な戦いの後、戦意を無くした黒チーム社員を牢へと案内するリシア。
「流石、リシア君だな」
「あハイ」
声をかけた信義へリシアは光の消えた目で淡々と応えた。
「……がんばってくれ」
──開発が忙しくなるのはだいたい営業のせい。
声無き声に目を反らす信義。営業部だって頭下げるのは開発部のせいだって思うんだからお互い様だが。
『その瞬間、生まれた隙を見逃す我々では無かった!』
「リーサルダーク」
「っ!?」
昏倒した信義をさっさと担いで自陣へ撤退するニウェウス。
見送る千颯。
「よし、次行くぞ、白虎丸!」
「さて黒チームの皆さん。いくつか言っておこうか」
にこやかだがいつもと違う藍。
「”自主的に”とは言うが。実体として業務を行うのであれば給金が支払われないのは労働組合としても認められない」
人事部かつ労働組合の役員の藍は、このあまりに身勝手な報酬に苛立っていた。
一方、サーフィは楽しいオリエンテーションだと思ってはいたが、やはり人事部として一言言わずにはいられなかった。
『この件が前例となって上司に”自主的な”休日出勤を求められたらどうするのですか』
ざわ……ざわ……。
「そもそも自身の部署に業務があり、出勤が必要ならば所属の上司にその旨相談しなさい」
『全社の話にされては面倒です。ひとまず部内で話し合っていただきたいですね』
「というか労務管理等は人事部の仕事なんだ、面倒だからやめてほしい」
『ご了承いただけたならこちらの檻へお入りください。さもなくば実力行使を開始します』
覚悟を決めた黒チームが玉砕覚悟で、逃げ出す。
「マイクを……スピーカー側に、固定してー」
『音量を最大にすると同時にッ、おりゃぁ!』
そこへニウェウスとストゥルトゥスの声がしたかと思うと、音響兵器と化したハウリングさせた拡声器が放り込まれた。
「な、なんだ!?」
だが、投げ込まれた拡声器を藍は青春のグローブが辛うじて受け止める。
「バックホーム!」
どこからか聞こえた声の主を確認する間もなく返球される拡声器。
『にーげろー』
犯人のストゥルトゥスたちが再び姿を消す。
「神出鬼没だな……」
酔拳よろしく「ヴォトカはドコへいった?」を呑んでぐでぐでになりながら敵を屠るシュエン。
一般人相手なら能力者の身体能力でも充分過ぎる。
物陰に身を隠しつつ、敵の位置を正確に把握して仲間を背後を守る。
「三日以上の連休は要らない!」
相手の口にロシアンパインケーキを捻じ込むと、仕込んだ眠剤によって崩れ落ちる赤チーム。
「エグ……そこまでです!」
竹刀片手に飛び出したポニーテールに気を取られたその瞬間。
ミュシャの背後から開発部門外不出の試作品、初夢仕様ボディスーツ「アマゾンシャドウ」を纏ったリーヴスラシルがシュエンの背後を取った。
「ニ対一では流石に敵わないだろう。降参を勧める」
リーヴスラシルの宣言にシュエンが崩れ落ち、ふたりを見上げる。
「あくまで自主出勤なんだ。あんたに出ろって言ってるわけじゃない」
「うっ」
彼は狼のワイルドブラッドだ。ふさふさの耳をぺたんと倒して見上げるシュエンの懇願に心揺れる二人。
「な? 助けると思ってさ。いいだろ?」
その瞬間、サンタ用捕縛ネットがミュシャとリーヴスラシルを捉える。
「あっ」
ネットを放った由利菜、続いてエルナーが姿を現す。
盗聴を恐れて通信を最小限にしたのが仇となったか、とリーヴスラシルは唇を噛んだ。
『そこまでです』
共鳴した藍とサーフィだ。
「何故!」
「何故と言われても、不運だったと言うしかないかな。この公園の広さに対してこちらはリンカーが三名も居るし、もう大半が捕まっているよ」
リンカーの乱入に悔し気な由利菜。
「……というか。君ら、働きすぎで頭がおかしくなってるだろう?」
『さあ、ご自宅のベッドか、病室のベッドか。好きな方を選ぶのです』
起き上がったシュエンが藍を睨む。
「こっちだって好きで無茶言ってるわけじゃないんだよ! 一日二時間……いや、三時間! 休日も働かせてくれ!」
「年末年始に通常出勤するだけです!」
シュエン、由利菜へ同意する黒チームの面々。
……沈痛な表情を浮かべる藍。
──サフィ、もう説得(物理)に移行しよう……。彼らもだいぶ頭がおかしい。
『もはや我々には救えぬものです』
「昔、リアルな鬼ごっこっていうのがあったね? ……やってみようか」
言うや否や、藍の《一気呵成》によって目の前の一人が吹っ飛ばされる。
『ご安心を、峰打ちです』
峰うちとは何か。
あからさまな見せしめに戦慄する黒チームたちをシュエンが鼓舞する。
「外回りで培った体力なめんな!」
しかし、相手は物理攻撃の効かない共鳴したリンカー。
──藍がアイシクルチェインで引き寄せた最後の一人をライヴスバットで檻へとぶち込む。
『ほーむらんです』
サーフィの声と同時に檻の扉がガチャンと閉まった。
「……ゆっくり休んでくれ」
肩を落としたシュエンたちに藍が同情の眼差しを向けた。
『ワーカホリックとは罪深いものですね』
「そうだな、サフィ」
伊邪那美を追うのを諦めた恭也は松林に開発中の試作品を設置していた。恐らく、会社は施錠されているだろうし。
「威力等は最大……どれ程のダメージを与えるか、耐久力テストも行うか」
彼の目的は本来の鬼ごっこからすっかり評価試験へと変わっていた。
「時間は無駄にしたく無いしな。それに、此方が仮に負けても明日から休みなんだ病院送りにしても休み明けには退院出来るだろう」
その瞬間、天啓を得る。
「ふむ……良く考えたら俺達が勝っても病院送りにされれば、入院中は休めるし問題無いんじゃないか?」
問題有り有りである。
一方、恭也を振り切った伊邪那美は身長の低さを生かしてそっと社屋への侵入を試みていた。
はたして、施設は施錠され。
「粉追加です」
「コレがいいんだよ」
施錠されていたドアをアッサリと開けて出て来る役員たち。この後に行われる慰労会の準備中である。
もちろん、その隙に伊邪那美は中へと転がり込んだ。
「アッ、こら、そこの子!」
一目散に開発室を目指す伊邪那美。慌てて警備と応援を呼ぶ役員たち。
だが、一足先に伊邪那美は開発室のドアの鍵をカチャリと閉めた。
「よーし」
同時刻、やたら本格的な牢の中で黒チームに捉えられたリシアは青空を見上げていた。
けれど、それは決して諦めではない。
「完了ですね」
リシアが伊邪那美からのメールの指示に従うと、公園側に設置された監視カメラからの映像が現れた。
「牢からの通信はルール違反ではないはずです」
社用のノートPCで解析した敵チームの布陣を、リシアは仲間に知らせた。
一方、伊邪那美はと言うと、集まった役員以下お偉方からドア越しに説得を受けていた。
「取引だよ、条件は囚われた赤チームの解放!」
「そんな無茶苦茶な!」
「一方的な正月休みの撤回の方が無茶苦茶だよ! じゃないと開発部の書類やパソコン、試作品とかを破壊するからね」
「ま、待て!」
狼狽する開発部部長の声に伊邪那美はほくそ笑む。
──出勤チームの皆は恭也と同じで仕事の前倒ししたいんだろうからね~。修復作業で仕事が遅れるなんて本末転倒になるのは嫌なはずだよ。
何という小悪魔の所業。
果たして、伊邪那美の目論見通り、彼女の取引は(開発部の懇願により半ば無理矢理)有効と判断されリシアを含む数名だけ解放された。
勿論、解放を確認した伊邪那美は正体がバレる前にエアダクトを使って逃亡した。
「もう少しだったのに悔しいです」
「仕方ないよね、根回しが完全でなかったのは僕らの怠慢だった」
「あとは、ニウェウスさんとストゥルトゥスさんたちに頼るしか」
赤チームの牢屋内、由利菜とエルナーの隣で双眼鏡と通信機を手に仲間と通話するシュエン。
「牢の前に三人だな──え、まだ終ってな、あ! やられた!
時計の時間が進んでた? 自分だって持ってるだろう……」
遠くに隠れていた黒チームの仲間を連行するリシアにシュエンは頭を抱えた。
「策士ですね」
複雑な面持ちで由利菜が評価する。
「……」
「あ、すみません」
大きくため息を吐いたシュエンが余ったロシアンパインケーキ差し出すと、牢番の赤チームの面々がそれを受け取る。
「んぐっ、げほっ」
激辛が当たった一人が激しく咳込むのを見て爆笑するシュエン。
「ヴォトカあるけど飲むか?」
「余計死ぬ!」
なんだかんだとまったりとし始めていた。
●決着、そして
パラダイム・クロウ社の一部役員たちは割烹着姿で豚汁とうどんを作りながら固唾を飲んで勝敗の行方を見守っていた。
黒チームの言動に迷いと慈悲は無い。
赤チームには数の力と恐ろしいほどの熱意がある。
役員としてどちらの社員も応援したい。したいが、彼らだって年末は休みたい。
そんな揺れる役員心とはまったく関係なく試合は終わった。
エアーホーンが鳴り響く。
人数のカウント、そして勝敗は決した。
「よっしゃ! 正月休みゲットだぜ~!」
「勝鬨をあげろですわ」
千颯が拳を天につき上げると、頬を紅潮させたリシアも釣られて声を上げてしまい、慌てて両手で口元を押さえる。
崩れ落ちる黒チーム、そして、歓喜に湧く赤チーム。
正月休みは守られたのだ。
うどんや豚汁を受け取って、社員たちは公園のあちこちで歓談していた。
負けたはずのシュエンもリシアと並んで晴れやかな顔でおかわりの手打ちうどんを啜る。
「運動して、ご飯も参加賞ももらって、けっこういい会社だよな」
「すっかり飼い慣らされて……。私は早く帰って寝たいのです」
ストゥルトゥスとニウェウスも上機嫌だ。
「まぁ、何だかんだでさー」
「楽しかった、ね。良い、気分転換に、なったし……」
「豚汁はウメェし」
「うどんも美味しい、よ」
毎年のことに慣れているのか、格別の味であった。
「俺は出勤でも良かったんだがな」
「恭也!」
伊邪那美が叫ぶ。
千颯はにこにことうどんを啜りながら、ふと気づく。
「あ、そう言えば参加賞って何かなー?」
「ふむ、ボールペンと卓上カレンダーか」
「意外と使いやすそうですね」
リーヴスラシルが包みを開き、魔法陣に似た会社のロゴが上品に刷られたそれらに由利菜が微笑む。
「見たことの無いデザインね」
営業でカレンダーを配布しているライラたちが首を傾げた。
「待って!」
伊邪那美が顔を強張らせる。
「ゴールデンウィークが」
「ごおるでんうぃーく、でござるか?」
白虎丸が訝し気に手元のそれをめくると五月に十日ほどあるはずの赤字の羅列が消えていた。
「あれ、言って無かったっけ?」
「GWなら別に無くても構わないよな」
涼し気な顔のエルナー。手を打ったシュエンへミュシャが抗議した。
「僕も聞いてないんだけど」
「ひとまず部内で、話はそれからだと」
藍とサーフィがグローブとバットを手に取った。
午後の部が始まる。
結果
シナリオ成功度 | 大成功 |
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