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舞踏するテディベア
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相談&表明
最終発言2017/12/22 19:36:45 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/12/22 18:19:11
オープニング
●招かれざるコール
沼津のガラケーが着メロを流す。ガラパゴスケータイ、略して『ガラケー』。『着メロ』という言葉も今時は聞かなくなったが、沼津の選曲は平井堅の『瞳をとじて』だ。
その着メロがまさに瞳をとじてぐっすり熟睡していた沼津を起こす。
「……誰だ? こんな時間に」
かすむ目をこすって時計を見れば、夜の一時を回っていた。画面には090から始まる番号が表示されているのみで電話をかけてきた者の名前は表示されていない。つまり、沼津のガラケーには登録されていない者からの電話である。
「……はい?」
すこし緊張しながら受信ボタンを押して出ると、『やぁ、私だ』という聞き覚えのある声がした。その余裕たっぷりの声に沼津は眉間に深いしわを刻む。
「……有馬克也……」
……どうして、お前がこの電話番号を知ってるんだ?
沼津の心の声が聞こえたように有馬は答える。
『私と君の仲じゃないか。ぜんぜん不思議なことじゃないだろう?』
「誰から、この番号を?」
どうせ、なにか汚い手で入手したのだろうと思いながら沼津は聞いた。
●堂々真犯人
H.O.P.E.の会議室の一室、その扉をノックもせずに沙羅は開いた。
「沼津、あたしに任せたい仕事ってなに?」
沼津は窓の方を向き、沙羅に背中を向けて立っている。すこし重々しい空気を発しているが、そんなことには沙羅は気づかない。たとえ気づいていたとしても、沙羅は気にしなかっただろう。
「直接あたしを任命したってことは、やっぱり占いがらみ? もしくは、この美貌が必要ってことかしら?」
沙羅は磨き上げた角を自慢げに撫でる。
「……仕事の話の前に、ひとつ、確認したいことがある」
沼津は沙羅に背中を向けたまま言う。
「なに?」
「最近、誰かからなにか受け取ったか?」
「ええ。すっごく美しい&素晴らしい魔力のこもった水晶をもらったのよ〜! なに? 沼津も占ってほしいの?」
「……その水晶をもらう時、お前は引き換えになにを差し出したんだ?」
沼津はまだ振り返らない。
沙羅は沼津の質問に戸惑うことも、悪びれることもなく答える。
「沼津のケータイの番号よ」
沼津の背中がすこしだけ揺れる。
「……沙羅、個人情報漏洩という言葉を知っているか?」
「もちろん! 何年、H.O.P.E.で仕事してると思ってるのよ? その辺はばっちりよ!」
胸を張ってそう答えた沙羅に沼津が振り返って𠮟責した。
「ぜんっぜん、『ばっちり』じゃない!!」
沼津は鼻息荒く、沙羅に刑を言い渡す。
「お前に特別任務を科す!! 踊るテディベアを退治してこい!」
●刑罰詳細
有馬の依頼はこうだ。
例年行われる有馬の別荘でのクリスマスパーティーの準備のため、会場は何日もかけて飾り付けられる。子供向けの飾り付けとして、サンタの格好をした体長2メートルもある巨大テディベアや体長1メートルほどのうさぎやねこのぬいぐるみを飾っていたという。
数日前からそれらのぬいぐるみが夜の1時を回ると動き出し、会場の飾りを壊したり、プレゼントを散らかしたりする。
しかし、ぬいぐるみたちはクリスマスソングを聴くと踊りだし、暴れることがなくなるため、現在は夜中の1時になると自動で音楽が流れるように設定されている。
状況からしてぬいぐるみには従魔が憑いていると推測されるため、退治してほしい。
解説
●目標
踊るテディベア(体長2メートル)&数体の巨大ぬいぐるみ(体長1メートル)を退治せよ
●日時
夜中1時
●場所
有馬の別荘の大広間(ホテル並み)。テラスや広い中庭(花園)がある。
●PL情報
ぬいぐるみたちの戦い方は太い手によるパンチのみでシンプルです。しかし、耐久性は非常に優れています。
リプレイ
●奇怪で可愛い!
夜は暮れ、約束の時間に屋敷に集まったエージェントたちは大広間の扉の前で気配を消して待った。三つの両開きの扉の前に二組ずつ待機し、少しだけ開いた隙間から大広間のなかの様子をうかがう。
「踊るぬいぐるみとは……可わぃ……いや、奇怪だな」
扉の隙間からぬいぐるみの姿を確認して美咲 喜久子(aa4759)は小声で言った。
「おとぎ話みたいだよね!」とアキト(aa4759hero001)は笑う。
二人の横でカール シェーンハイド(aa0632hero001)も相棒に言う。
「クリスマスってさ、わくわくが詰まってんだろねー!」
カールの言葉の意味がわからなくてレイ(aa0632)は目で聞き返す。
「街は皆、幸せそーだったし? そりゃ従魔も踊り出すって!」
例年のクリスマス・イヴの街の様子を思い出したのだろう。カールは微笑む。
「迷惑千万な従魔も居たもんだな……」
従魔にまで肝要に理解を示すカールにレイはすこし呆れたが、そこが彼のいいところであることも認めている。
紫 征四郎(aa0076)は神妙な表情で扉の隙間から大広間のなかの巨大なぬいぐるみを見張っていた。クリスマス、それは征四郎にとっては家族と離れなければいけなかった悲痛な思い出のある日だった。
そんな征四郎の緊張した空気に気づかないふりをして、木霊・C・リュカ(aa0068)はおどけて言った。
「ねぇ、せーちゃん、沼津さんずるいと思わない?」
緊張感に入り込んできた思いがけない言葉に征四郎は「え?」と聞き返す。
「俺、有馬さんから電話番号聞かれてないのにさ!」
すねるようにぷうっと頬を膨らませたリュカの姿に征四郎の頬が緩む。
「リュカは有馬とお友達になりたいのですか?」
「うん。だって、有馬さんと仲良くしてたら、またクリスマスパーティーに招待してもらえるでしょ? そうしたら、またせーちゃんとダンスが踊れるもの」
リュカの言葉に征四郎はその頬を赤くする。
「……そうですね。楽しかったですよね。クリスマスパーティー」
リュカは微笑み、頷く。
「ちゃんとパーティが出来るように、絶対に守らなければいけませんね!」
征四郎の覚悟にユエリャン・李(aa0076hero002)と凛道(aa0068hero002)も頷いた。
他のエージェントたちの会話を聞きながら、キルライン・ギヨーヌ(aa4593hero001)はオルクス・ツヴィンガー(aa4593)に視線を向けた。
「そう言えばおぬしがクリスマスを祝っているのを見た事がないな」
「そんな余裕なかっただろうが」
オルクスは大広間のなか、テディベアから視線をそらすことなく答えた。
「今でもか?」
「……いや」
「では今年は祝ってみないか?」
オルクスは思わずギョーヌへ視線を向ける。
「何なんだいきなり……」
オルクスがギョーヌの提案にすこし戸惑っていると、大時計がボーンボーンと鳴り、夜中の一時を知らせた。
「時間だ。終わったらまた聞く」
「うむ。任務が先だな」
体長二メートル、巨大なテディベアがその太い足を一歩前に踏み出した瞬間、晴海 嘉久也(aa0780)は浦島のつりざおを使い、テディベアを大広間の真ん中へと導きだした。
「さぁ、ダンスのお手並みを拝見しましょうか?」
エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)がレコーダーのスイッチを入れると、ゆったりとしたテンポのクリスマスソングが流れ始めた。
●クルクルダンス
サンタクロースの衣装を着た二メートルのテディベアと四体の一メートルのぬいぐるみは大広間の真ん中で音楽に合わせて踊り始めた。四体のぬいぐるみはウサギ、リス、イヌ、パンダだ。
テディベアは中央でクルクルと回り、四体のぬいぐるみはその周りを回るように踊る。
その光景に凛道が感心したように言った。
「ふむ、成程。中々ファンシーな光景です」
「本当!? お兄さんも見たい!!」
リュカの言葉に凛道はリュカの手を取って共鳴し、その目の代わりとなる。
「……わぁお」
美しい大広間で踊るぬいぐるみたちの光景にリュカは「ツァラトゥストラかく語りき」の一説を思い出した。
「舞踏する星を生み出すには、人は自分のなかに混沌を持っていなくてはいけない……」
この世界の混沌が、自分にたくさんの物語を見せてくれているのかもしれないと、ふとリュカは思う。同時に、(けれど……)と、ユエリャンと共鳴した征四郎へ視線を向けた。
(この世には不要な混沌もある)
ただただ幸せであってほしい…… 混沌とは無縁であってほしい存在もある。
この場のすべての人の心を無視して、混沌をその身に宿したテディベアはその巨体とは似合わずに軽やかに踊る。
「ああ、やっぱり思った以上に可愛い~……」
踊るテディベアたちの姿に思わず本音を漏らした喜久子は慌ててその緩んだ表情を引き締めて言葉を言い直す。
「いや、奇怪だ」
喜久子と共鳴したアキトはテディベアにパニッシュメントを放った。するとテディベアは体を大きく揺らし、怒ったように一瞬その目を赤く光らせた。しかし、嘉久也がレコーダーのボリュームをあげるとテディベアはすぐにクリスマスソングに気を取られて再び踊り始めた。
「やっぱり従魔か。分ってても残念だなぁ」
そうため息を落としながらもアキトはブラッドオペレートを構えた。
リュカと征四郎が一メートルの四体のぬいぐるみたちを誘導してテディベアから引き離すと、アキトは助走をつけてテディベアの右足の縫い目を突き刺した。
その瞬間、まるで呼吸を合わせたようにレイは左足の縫い目をキリングワイヤーでからめとり、さらに嘉久也は一気呵成でイヤシロチをふるい、オルクスがラヴィーネWSをロングショットで放った。それだけの攻撃を一気にくらったテディベアは尻餅をつき、動きを止めた。
「……皆さん、テディベア狙いでしたか」
一気呵成の後に疾風怒濤で攻撃をしかけようと思っていた嘉久也は想定外の集中攻撃に苦笑した。
「これだけの集中攻撃をあびたら、従魔も消滅したんじゃないか?」
オルクスが慎重にテディベアに近づいてみたが、特に反応はない。
「……リュカたちの加勢に行こう」
レイの言葉に彼らは一メートルのぬいぐるみたちを中庭へと誘導して戦っているリュカと征四郎の加勢に向かった。
●きき耳たてて
「さぁさぁ、楽しいダンスの時間は終わりだよ。可愛いうさぎさん!」
浦島のつりざおでぬぐるみたちを誘導したリュカはウサギのぬいぐるみを挑発する。
ウサギが太くて真っ白でもふもふな拳を振り下ろしてきたところでリュカはスマートフォンからクリスマスソングを流す。次の瞬間、ウサギは拳を振り下ろすのを忘れてくるりと回転してダンスを始める。
「ふわぁ〜! 可愛いのです!!」
目の前で踊りだしたリスのぬいぐるみに征四郎はテンションをあげる。
「可愛いね〜。これはやりにくいね〜」
リュカは再び音楽を止めて、ウサギの動きが止まったところをオヴィンニクを使用する。現れた黒猫は炎を足元と尾先に灯しながらリュカの周りをひと回りすると、ウサギを睨みつけた。ウサギの右耳に火がつき、ウサギはバタバタと暴れる。
「やっぱり、火がついちゃったか!」
ぬいぐるみ自体を傷つけるつもりのなかったリュカも慌てて、ウサギの火を消すのを手伝ってあげる。無事に火が消えると、ウサギの目が赤く光り、怒りを見せた。
リュカは「ごめんごめん」と謝りながら、繰り出されるウサギのパンチを避ける。
「これも素敵なクリスマスのためなのです!」
征四郎も罪悪感を抱きながらリスの足の縫い目を飛鷹で薙ぐ。
ウサギに気を取られていたリュカが背後に気配を感じて振り返ると、イヌのぬいぐるみが背後に立っていた。慌ててポルードニツァ・シックルを構えたが、イヌの丸みをおびた手がリュカのお腹にパンチを食らわした。
リュカの体は後ろに飛び、石畳に叩き付けられそうなところをレイが支えた。
「大丈夫か?」
そうレイが聞くと、凛道の人格が顔を出してへにゃりと笑った。
「重くはありますが、ふかふかしてるので若干幸せを感じるパンチですね」
「……のんきなやつだな」
レイはすこし呆れる。
オルクスがストライクで銃弾を放ち、イヌを弾き飛ばした。
嘉久也とアキトはパンダのぬいぐるみに一斉攻撃を加える。二メートルの巨体と比べると、自分たちよりも背の低い一メートルのぬいぐるみはかなりコンパクトに感じ、攻撃も加えやすい。
しかし、ぬいぐるみたちは片手や片足が切り離されたくらいではその動きを止めない。傷ついた体から綿が出るのもおかまいなしに、全力で重いパンチを繰り出してくる。
「ごめんなさい。あまり傷つけたくないので、おとなしくしてください!」
征四郎はリスのパンチを避けながら、飛鷹でその首の縫い目へと切り込んだ。一瞬、征四郎の祈りが通じたようにリスはその動きを止めたように見えた。
けれど、リスは体を大きく揺らしたかと思うと、いまにも落ちそうな腕をヌンチャクのように振り回してきた。
「あ、危ないのです!」
ぎりぎりのところで征四郎が避けると、レイが九陽神弓でリスの右耳の縫い目を射抜いた。すると、リスは今度こそその動きを止めた。
「凛道、黒猫は正しかったようだ。耳だ! 右耳を狙え!」
レイのアドバイスを聞いて、凛道もウサギの右耳の縫い目めがけて鎌を大きく薙ぎ、一気に右耳をつなぐ糸を切った。
オルクスとレイはイヌを、アキトと嘉久也はパンダの右耳を切り、一メートルのぬいぐるみはすべて動きを止めた。
「……終わったか」
そうオルクスが構えていた銃をおろしたその時、建物の方からガシャン! という何か壊れるような音が聞こえた。
「なんの音でしょうか……?」
嘉久也は嫌な予感を抱き、その声に緊張感を漂わせた。
●再テディ
エージェントたちが急いで大広間のテラスへ戻ると、窓から二メートルのテディベアが巨体を不安定に動かしながら、部屋のなかを荒らしているのが見えた。
「あいつ、まだ生きてたのか!」
アキトが急いで大広間のなかに入ると、次の瞬間、木製の椅子が飛んできた。
「うっわ!」
アキトは反射的に椅子を避ける。
「……ヤバいな」
レイは持参していた携帯音楽プレーヤーをオンにして、テディベアの目前へと走っていく。すると、テディベアは一瞬動きを止め、音楽に合わせて体を揺らし始めた。
「よしっ、こい!」
音楽プレーヤーから流れる『諸人こぞりて』を聞きながらアキトは口ずさむ。
「俺、この曲がクリスマスソングで一番好きなんだよね」
音楽プレーヤーから流れる音楽とアキトの歌声に気持ちよくなったテディベアは月明かりさすテラスでくるりと一回転した。
そんなテディベアの様子にユエリャンは機嫌良く口角をあげて、テディベアの前に出て会釈した。
「では、僭越ながら。一曲共に踊ろうではないか」
そんなユエリャンにテディベアは容赦なく丸太のようなパンチを振り下ろしてくる。ユエリャンは瞬時に意識を征四郎に代わってもらい、俊敏にパンチを避けた。
振り下ろされたテディベアの腕に嘉久也がチャージラッシュでイヤシロチを振り下ろす。続けて、嘉久也は疾風怒濤を使って連続攻撃を仕掛けた。
嘉久也の攻撃によってテディベアから右手が外れたが、テディベアはすかさず嘉久也に左手を振り下ろす。しかし、その拳が嘉久也にあたることはなかった。
アキトがテディベアの背後から左腕の縫い目へエヴァンジェリンを突き刺した。さらに、レイが九陽神弓でテディベアの右耳を射抜き、テディベアは倒れた。
「……今度こそ、倒したのか?」
オルクスの疑問にアキトは「試しに……」と再びパニッシュメントをかけたが、テディベアにはなにも起こらず、ただ静かにそこに倒れていた。
●縫い縫いグルミ
「まさか、耳に従魔の弱点があったとはね〜」
「だからこそ、音楽に敏感だったのかもしれないな」
テディベアの右耳を器用な手つきで縫い合わせていくカールの言葉にアキトが答えた。
「魔術とやらは寡聞故、占いは興味があるな」
ユエリャンは興味深そうに沙羅の水晶を覗く。これまで沙羅がどこにいたかというと、まさかの遅刻だ。
「征四郎、沙羅嬢になにか占って貰ったらどうかね。恋占いとか」
「にやにやして言わないでください!」
征四郎は顔を真っ赤にする。
「征四郎ちゃんかわい〜! 占いで遅刻したことが償えるなら、ぜひやらせて!」
「……では、お片づけが終わったら、ぜひに!」
「任せて!」と得意そうに笑んだ沙羅の頭にヴィクターが鉄拳を落とす。
「『任せて』ではない……夜に備えて昼寝したくせに夜中の一時に起きるとは……おまえこそ、従魔か?」
「ヴィクター君が怒るなんて珍しいね」
「怒る? 喜怒哀楽なんてものは機械の俺にはないが、今回は本当に悪かった……」
「いいよ。いいよ。でも、踊っているぬいぐるみたちをヴィクター君と一緒に見られなかったのはすこし残念だったなぁ〜」
そう肩を落としたリュカだったが、すぐに「あ!」と叫んでヴィクターの手をつかんだ。
「見れなかったんなら、一緒に踊ればいいんだ!」
「それなら、レイが音楽を!」とカールがレイに目配せした。
レイはアキトへ視線を送り、アキトは答える代わりにその目を閉じて、深呼吸をひとつして……そして、美しい声で歌いだした。
喜久子はパンダのぬいぐるみの修復をしながらアキトの声に耳を傾ける。
「それでだな」
片付けをしていたギョーヌが唐突に言った。
「何だ?」と、オルクスはギョーヌの唐突な言葉に戸惑うこともなく対応する。
「おぬし、我と出会う前はクリスマスを祝っておったのだろう」
「何故知ってる?」
「記録映像という便利なものがあってだな」
「見たのか」
「兄上の代わりなどとは言わん。我もクリスマスを祝ってみたいのだ」
「……まあ。別に嫌ではないが」
オルクスの返答にギョーヌは嬉しそうにその目を開いた。
「では、まずは料理だな! 肉を多めに頼む」
片付けを行うギョーヌの動きが機敏になり、オルクスはすこし呆れ、それからその頬を緩めた。
嘉久也はイヌのぬいぐるみをピコピコと動かしてみる。
「今度は従魔ではなく、楽しい妖精が魔法をかけてくれるといいですね」
エスティアは優しくイヌのぬいぐるみを撫でた。
刺繍を趣味とする凛道はウサギの修復を終えて、黒猫で焦がした耳にリボンをつけた。
「可愛がってもらってくださいね」
そうウサギの頭を撫でると、征四郎が横からひょこりと顔を出した。
「ウサギさん、可愛くなりましたね」
そう微笑んだ征四郎に凛道はテンションをあげる。
「いえ! エンジェルには敵いません!!」
征四郎にまでリボンを巻こうとした凛道をユエリャンが押さえる。
「やめろ! この変態!!」
賑やかな大広間を見つめながら征四郎は願う。
(どうかどうか、すべての人が……すべてのぬいぐるみたちも、素敵なクリスマスを迎えられますように!)