本部

クリスマスへの模様替え

秋雨

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/12/26 11:44

掲示板

オープニング

●クリスマスは今年もやってくる

「……寒くなりましたね」
 四月一日 志恵(az0102)は先日従魔退治が行われた図書館同種施設を訪れていた。何かの仕事ではなく、純粋に本を読みたいという思いからである。
 あれからさほど日は経っていない。けれど能力者たちの助力もあったためか、散らばっていた本も元通り。普段通りに開放されている。
 今日はどんな本を読もうか。思えばこういった場所に来るのは久しぶりで、その感情の薄い表情と裏腹に志恵は少しわくわくしていた。
 室内に入ればふわり、と柔らかな空気が志恵を包む。その暖かさと本の匂いにほっと息をついた彼女は、挨拶もそこそこに黙々と細かな作業をする司書に目を瞬かせた。
「……何かの作業ですか?」
「え? ああ、これですか。もうすぐクリスマスですから、館内も飾りつけをしようかと思って」
 そう言って司書が手元のものを差し出す。見せられた折り紙の飾り切りに、志恵は目元を和ませた。
「雪の結晶……いいと思います。器用なのですね」
「ふふ、ありがとうございます。けれどなかなか進まなくて……」
 つい凝ったものを作りたくなってしまうからなのですけれど、と照れ笑いをする司書。ふと疑問が湧いた志恵は首を傾げた。
「……そういえば、クリスマスは毎年飾りつけされていないのですか? 前年に使ったものがあれば、それを使えばいいのでは……」
 彼女の言葉に司書が視線を泳がせた。
「……その、去年の大掃除の時に……今年また作ればいいかなぁ、と」
 捨ててしまいまして。
 一応クリスマスツリーは残っているそうだが、それ以外は今のように折り紙で作っていたそうだ。
 それを聞いた志恵はあることを思いついた。
「……よろしければ、私も手伝いましょうか? 人手があったほうが捗るでしょうし。他のリンカーたちにも声をかけてみれば、何人か集まると思いますよ」
「え、でも……なんだか申し訳ないですし、結構量がいると思いますよ?」
 そう口にしながらも、司書は迷っているようだ。視線があちらこちらと揺れている。
 と、そこに2人の間から第3の声。

「何か作るのー? シェルも、シェルもー!!」

 下からの声に志恵は溜息をついた。今、この場に自分たち以外の来客がいなくてよかったと思う。
「……シェル。図書館では?」
「あっ、静かにします!」
「初めて会う人には?」
「ごあいさつ! はじめまして、シェラザードですっ」
 最初よりは幾分か抑えめな声で挨拶をしたのは、志恵の英雄であるシェラザード(az0102hero001)だった。
 司書は2人のやりとりに目を瞬かせていたが、シェラザードの挨拶に小さく笑みを漏らす。
「ようこそ、可愛いお客様。本は好きかしら?」
「うんっ! シェル、知らないお話を知るのは大好き!」
 元気よく返事をした英雄に、志恵は小さく溜息をつき。視線を司書へ戻すと首を傾げた。
「……まあ、彼女がやりたがっているように。他のリンカーの中でもこういった手作業を好む方もいらっしゃるかと思います。手伝い、させてもらえませんか?」

解説

●目的
 図書館同種施設内に飾るものの製作、飾りつけ

●手段
1、飾りの自作、飾りつけ
 後述の道具などを使用し、飾りを作る。作り方は覚えてきても良いし、その場で探してもよい。
 【飾りつけ参考】本棚の高さは90センチと170センチの2種類があることが分かっている。

2、クリスマスツリーの設置
 140センチ程度のクリスマスツリーを組み立てる。
 とはいえ組み立て自体は簡単な作業のため、飾りつけが主となる。
 トップスターやカラフルなオーナメントボール、靴下のおもちゃ、電飾などが用意されている。

●施設について
 図書館同種施設という、図書館に近い施設。法律の関係で施設外への貸し出しはできない。当施設では軽い飲食物と共に読書を楽しめる憩いの場として近隣住民に利用されている。
 1階は本棚と本棚の間がやや広めに取られている。飲み食いは主に入り口付近の椅子や机で行われるため、そこは比較的広い場所となっている。
 2階は1階と比べて本棚と本棚の間が狭い。こちらは飲食禁止のため広く設けられた空間はなく、壁と本棚の間や通路に1人用のソファが点在している。

※リプレイ『本好きよ、集え』に登場した施設と同じ。リプレイを読まずとも行動可能。

●状況
 主な作業場所は一階の飲食スペースも兼ねた広めの場所。
 折り紙や厚紙、針金、文房具など。工作に使われそうな道具は、特殊なものでない限り一通り揃っていると想定して良い。

リプレイ

●Today’s Library

 本日の図書館同種施設は『CLOSE』と臨時休館の看板が下げられている。それは冬の冷たい風に小さくカラン、と音を立てた。

「クリスマスの飾りの制作、だそうだ」
「わー! 僕、こういうお仕事やってみたかったんです!」
 真壁 久朗(aa0032)の言葉に瞳を輝かせたのは彼の英雄、セラフィナ(aa0032hero001)だ。
「……そうか、良かった。楽しんでこい」
 彼らの後ろには、クリスマスをよく知らぬ2人。
「この時期は街がキラキラだよね……」
「んー……何かの………お祭り?」
 レイルース(aa3951hero001)とマオ・キムリック(aa3951)が揃って首を傾げる。
 2人の住んでいた村にはクリスマスという行事はなく、けれど街や人々の様子から何かの祭りなのだろうと考えているようだ。
 その後ろにはクリスマスを知る1人と、知らない1人。クリスマスについて聞いたアヴニール(aa4966hero001)は、その紅玉の瞳を楽し気に細めた。
「うむ。くりすますとやら、面白そうじゃの!」
「本当に分かったのかのう……」
 その様子にアクチュエル(aa4966)が小さく首を傾げる。
 実のところ、簡単な説明しかしていないのでをあまり分かってはいない。しかしこういった行事は楽しめればよいのである。
 最後尾を歩きながらきょろきょろと書架を見渡していた月鏡 由利菜(aa0873)に、隣を歩いていたリーヴスラシル(aa0873hero001)が声をかける。
「……本探しは依頼のクリスマスの飾り付けを終えた後だ、ユリナ」
「ええ……」
 これだけ蔵書されているのだ、異世界に関連する文献を探したい。けれど、依頼を済ませてしまうのが先だ。
「久朗さんや望月さんもご一緒ですし、飾り付けは捗りそうですね」
「ああ、そうだな。飾り付けが終わったら文献を探せばいい」
 司書が立ち止まったことで会話が止む。
「クリスマスに関連した書籍はここですね」
 案内されていたのはクリスマス関連の本が置かれた書架だった。四月一日 志恵(az0102)がふと首を傾げ、手を伸ばして1冊の本を取り出す。本というには薄い冊子に他の者も首を傾げる中、志恵がぽつりと呟いた
「ツリーの組み立て説明書ですね」
「あ、そのまま本棚に置いてあったの? なるほど、保管方法としては上手いね」
 声を上げたのは餅 望月(aa0843)だった。
「下手にどこかへ置いてしまうと忘れてしまって……」
 司書が頬を掻きながら苦笑して話す。望月は志恵の方を向いた。
「志恵さん、見せてもらってもいい? 間違ったやり方で変に接着剤とか使って、片付けできなくなったらいけないし」
「ああ、確かにそうなってしまったら一大事ですね。どうぞ」
 望月に説明書が手渡されると、その周りにツリーの飾りつけをしようと考えていた者達が集まってきた。
 ぱらり、と開いた冊子の中には文と絵で組み立て方法が書いてある。
「足を立てて、ツリーの上半分を差し込めば本体は完成なんだね」
「うん、これなら接着剤とかいらなさそうかな」
 横から覗き見た百薬(aa0843hero001)の言葉に望月は頷いた。
 また、それとは別に飾り作りの書籍を手に取るものもいる。
「折り紙の本はこちらかしら」
 リリィ(aa4924)は一冊の本を取り、丁寧にページをめくっていく。そこに載っているのはカラーで印刷されたクリスマスオーナメントの作り方だ。
 これなら作れそうかしら、と思っていた横からそう変わらぬ背丈の人物がひょこり。
「貴女、シェルと同い年くらい? 名前を聞いてもいいかしら!」
「ええ、年齢は近いと思いますわ。リリィと申しますの。貴女は?」
 リリィの問いかけに、小麦色の肌を持つ少女はにこりと笑いかけた。
「シェルはね、シェラザード(az0102hero001)って言うの!」
 シェラザードの笑顔に、リリィも笑みを浮かべる。
「シェラザードさま、よろしければリリィとオーナメントを一緒に作っていただけませんか?」
 同じ年頃であろう少女。親近感を覚えたリリィは持っていた本を見せて提案する。その言葉にシェラザードは目を丸くし、嬉しそうに頷いた。


●Making

「えーっと……ここをこうして………あれっ?」
 マオは首を傾げた。先ほどまで本と睨めっこしていたのに、折り紙からまた逆戻りである。
 その隣でレイルースが見本として同じものを作っていく。
「折るの逆、そこは……こう」
 その言葉にマオが本から視線を移し、見様見真似。そうして試行錯誤すること暫し。
「できた♪」
 マオの声と共に猫耳がぴんっと立ち上がる。
 黄色の折り紙で作られたベルだ。折り線などに不器用さが出てしまっているが、それはご愛敬。
「レイくん、ちゃんと作れたよ!」
「……うん、その調子」
 ぱぁっと笑顔を見せるマオに、レイルースは目元を和ませて頷いた。
「……よくそんな細かい作業ができるな」
 2人に声をかけたのは久朗だ。小さな悲鳴をあげたマオがレイルースの後ろに隠れる。久朗が表情の薄い顔に申し訳ない、といった色を滲ませた。
「……すまない、驚かせてしまったか」
「い、いえ……その……人見知りで……こちらこそ、ごめんなさい」
 マオがレイルースの背中の陰から少しだけ顔を見せる。その耳は先ほどから一変、へにょりと垂れてしまっていた。
 しかし、安心できる背中の影から見えたものにマオは目を丸くする。
「うわぁ……上手ですね」
 それはセラフィナが作ったシルバープレートだった。

 少々時を遡る。
「施設内に空き缶のゴミ箱はありませんか?」
 セラフィナはそう言ってもらった空き缶を久朗と共に洗い、久朗はせっせと缶の底部をくり抜いていた。セラフィナは隣でくり抜いた底部のフチにヤスリがけを施している。
「……数はこれだけあれば十分か?」
 久朗がふと手を止め、隣に問う。
「わぁっ、十分です! クロさん、ありがとうございます!」
「ならよかった」
 セラフィナの反応に久朗が頷く。
 ヤスリがけの終わった底部には、久朗が端の方に錐で紐通しの穴を開けた。セラフィナがそれに雪の結晶を描き、乾いたら完成だ。
 次は柊の飾りを作ろうか、と楽し気なセラフィナ。その傍らでぐるりと辺りを見回した久朗は出来上がった折り紙にはしゃぐマオ達に思わず声が出たのだ。
 よくそんな細かい作業ができるな、と。

 時は戻る。
 2人に気づいたセラフィナがマオ達の手元を見てわぁ、と声を上げた。
「ベルのオーナメント! 素敵ですね」
「! で、でも私……不器用で……」
 褒められて一瞬嬉しそうにしたマオは、再びしゅんと耳を伏せる。
「上手いとか下手だとか、関係ないと思うんです。それに頑張った、って感じがあってやっぱり素敵ですよ!」
「そう、でしょうか……ありがとうございます」
 セラフィナが微笑んでかけた言葉に、マオがふわりと笑った。
「折角ですから、一緒に作りませんか? 僕教えますし」
「一緒に……」
 目を瞬かせたマオがレイルースを見上げ、彼は小さく微笑んで頷いた。

「確か雪の結晶とかやった覚えが……」
 望月が首を傾げながら思い出そうとする。
 でもうろ覚えだし作り方を確認した方がいいね、と広げたのは先ほどの書架から借りてきた折り紙の本。
「……あ、これかな。懐かしい。同じ折り方みたいだね」
「六角形にできるんだね」
 百薬が折り方の手順を眺め、納得したように頷いた。次いで小さく首を傾げる。
「他にはどんなのあるかな」
「調べてみようか」
 そう望月が答え、引き続き折り方を調べ始める2人。
 その傍らでリーヴスラシルはそうだな、と呟いた。
「私はステンドグラスアクセサリーを作るとしよう」
「ステンドグラスアクセサリー?」
「作れるものなのね」
 望月の聞き返しと百薬の呟きが間髪入れず返ってくる。由利菜が小さく笑みを漏らし、ラシルは手先が器用ですから、と答えた。
「私達の所ではAGW等の装備品の改造もラシルが行う事が多いですし、ラシルなら部屋のコーディネイトもお手の物です」
 その言葉の端々から、由利菜のリーヴスラシルに対する信頼が窺える。

 少し離れた机では、少女たちが仲良く折り紙を折っている姿。
「次はここを……こう折りますのよ」
「あ、こうするのね! リリィは教えるのが上手だわ」
(珍しいわね、リリィがべったりでないなんて)
 カノン(aa4924hero001)はリリィとシェラザードを見ながら、内心驚いていた。
 リリィは自分を『カノンねーさま』と慕ってくれている。そんな彼女が自分の傍にいないのは少しだけ寂しい、のかもしれない。
 けれど、積極的に同年代の子と仲良くするその姿はとても微笑ましいとも思った。
 そんな彼女たちに気づいたのは蒼玉と紅玉の瞳を持つ者達。その者達にカノンも気づいてあら、と口端が上がる。
「お主は……リリィではないか!」
 アヴニールがリリィの姿を見て目を丸くする。リリィも2人に花のような笑顔を見せた。
「アヴニールさま! それに、アクチュエルさまも!」
「久しいのう。カノンもまた会えて嬉しいのじゃ」
「ええ、こちらこそ」
 アヴニールの言葉にカノンが応える。アクチュエルはリリィと折り紙をしていたシェラザードに気づいた。
「お主も同い年っぽいかの? 我はアクチュエル、一緒にいるのはアヴニールじゃ」
「シェルはシェラザードよ。2人は双子なのかしら?」
 顔を見合わせ、2人はくすりと笑う。その姿は確かに双子のようだ。
「双子ではなく、アヴニールは英雄じゃのう」
「我らも最初は互いに驚いたのじゃ」
 同年代に見える4人が、一緒にオーナメントを作ろうという話になるのは自然の流れ。
「できたぞ! 雪の結晶じゃ」
「まあ、キラキラとしていて綺麗ですわ」
 アクチュエルが作ったオーナメントにリリィが感嘆の声を上げる。その一方でシェラザードがアヴニールの手元を覗きこんだ。
「アヴニールが作っているのは……星かしら!」
「正解じゃ」
 それはアクチュエルの作った雪の結晶と同様、メタリックな折り紙でできている。
「リースも作ってみたいのう」
「この本にはないようじゃの。どれ、本棚からもう少し探してみようぞ」
 アクチュエルの言葉にアヴニールがひょいと椅子から降りた。それに続こうとしたアクチュエルは、リリィの手元を見て目を瞬かせる。
「何を作っておるのじゃ?」
「靴下を折っておりますのよ」
 その手元には赤く可愛らしい靴下。机を見れば同様のそれが幾つか作られている。
「飾りの材料にしようと思いますの」
 これだけで完成ではない、ということがその言葉から窺える。
「ほう、それは完成が楽しみじゃな」
 その発想にアクチュエルは目を丸くし、にっこりと笑った。


●Christmas tree

「この辺りかな?」
「うん、本棚も動かさなくてよさそうだね」
 望月の言葉に百薬が頷く。
 説明書を一番読み込んだのは最初に手渡された望月だ。望月の指示と、説明書を見返しながらツリーを組み立てる。
「あら、やっぱり少しは汚れているみたいね」
 カノンは去年から仕舞われていたオーナメントの袋を出すと目を瞬かせた。
 予想通り汚れで少しくすんでいたり、子供らしき指紋が残されている。
 司書に用意してもらった布を手に取ると、カノンは1つずつ丁寧に磨き始めた。
 綺麗になったそれらを飾りつけるのは由利菜達だ。
「最初にクリスマスツリーに飾られたのは、りんごだそうです」
磨かれたオーナメントの中からりんごを模したものを手に取り、ツリーへ手を伸ばした。
「りんごは『知恵の木の実』ですから……」
 由利菜の手で飾られたりんごのオーナメントは、カノンに磨かれたこともあってキラリと照明の光に照らされた。
 それを見た望月と百薬も、オーナメントへ手を伸ばして飾りつけを始める。
「クリスマス飾り、こんなときめく依頼が意外と多いのは楽しいね」
「うん。天使の本領発揮だよ」
 百薬が同意し、小さく背の翼をはためかせる。飛ぶつもりはなく、実際はほとんど飛べないものの天使であることを主張しているようだ。
「そういえばグロリア社でもなんだかたくさん買ってきちゃったしね、ちょっとつけてみようか」
「全部AGWなんだから、装備してないと効果ないよ」
 百薬が不思議そうに首を傾げる。
「そりゃそうだね。まあ見た目だけでもいいのを飾ってみれば、来年も使いたくなるでしょ」
 あったあった、と持ち物から取り出したのはグロリア社で購入したボールオーナメントイヤリングだ。
「ここに自分の生きた証を刻み付けるのね」
「そんな大げさなものじゃないってば」
 ずれた英雄の納得理由に、望月は冷静なツッコミを返した。
 そんな2人の反対側で、由利菜はオーナメントを手に飾る場所を迷っていた。
 持っているのは付属のものではない、自分の英雄が作ったステンドグラスアクセサリー。
 付属のオーナメントも満遍なく飾り付けていたため、それらと少し違ったオーナメントを飾るというのは意外と難しい。
 由利菜はほんの少しだけ空間の空いていた場所へ、それを大事に飾った。


●Decorations

「ねえ、これってあなたが描いたの?」
 シェラザードに聞かれたセラフィナがはい、と頷いてそれを見せた。
 描かれているのはH.O.P.E.のマスコット『きぼうさ』がサンタ帽を被っている姿である。
「わ……上手だね」
 他の飾りを手に持ったレイルースが傍を通りかかり、それを見て目を瞬かせる。
「子供達にもきぼうささんに親しんで貰いたくて!」
 セラフィナは嬉しそうに微笑んでそう告げた。
 隣の書架に移ったセラフィナはきぼうさだけでなく、トナカイや小さなヒヨコの飾りも足していく。
 ふと、後ろでそれを見守っていた久朗が首を傾げた。
「……ヒヨコはクリスマスに関係あるのか?」
「僕の趣味だから良いのです!」
 そんなやり取りのされている書架の、数段隣では。
「んー……この辺り、とか?」
 マオが本棚の側面にオーナメントを貼り付ける。
 紙を切り折り作った立体型のツリーオーナメントは受付へ。セラフィナの作った小さなとんがり帽子は低い書架の上に置く。付けられたモールがキラキラと光った。
 リリィやアクチュエル、アヴニールも自分達が作ったオーナメントを飾り付けていく。カノンも手伝って、少女達ではやや届かない手を伸ばしていた。
 由利菜も同様に飾りつけをしながら、おもむろに口を開く。
「私の家では、日本とイギリスのクリスマスの過ごし方が混在していましたね」
「……サンタクロースからのプレゼントは貰えたのか、ユリナ?」
 隣にいたリーヴスラシルの問いに、由利菜は苦笑し、10歳頃まではと返す。
「最後のプレゼントには『君はもう充分大きくなったんだ。これから欲しいものは自分で見つけなさい』と言う手紙が封入されていましたね。ラシルは、クリスマスの記憶は……ありませんよね」
「……クリスマスは、キリスト教に深く関わる日だからな」
 恐らく、リーヴスラシルのいた世界にはなかった行事だろう。
 皆で飾りつけを行う中、高い場所へ飾っているのは高身長のレイルースや久朗、そして少々意外かもしれないが望月と百薬だ。
「さすが図書館だけに、高い所用の脚立は充実してるね」
 書架の上の方に折り紙を貼り付ける。脚立を降りたら、少し隣へ。
 そうして書架1列分を飾り終えた望月と百薬は、次はどこへ飾ろうかと辺りを見回す。
「天井もいけるかな」
 望月の言葉に2人は揃って天井を仰いだ。
「飾り付け、シェルも何かお手伝いするー?」
 声に視線を向ければいつの間に来たのやら。シェラザードが2人の間で小首を傾げていた。
「シェルちゃん、登る? 台を支えれば、百薬でも抱えて天井に手を伸ばしたりできるでしょ」
 望月の言葉にシェラザードがこてりと再び首を傾げる。
「背中の羽で飛ばないの?」
「天使の翼をはためかせると危ないからね」
 指摘を受けた百薬が答え、望月がうんうんと同調の意を示す。
「飛ばないのにばたばたさせていたら大変だね」
「ふぅん……わかった! シェル、上に登るー!」
 シェラザードがにぱっと笑って頷き、3人組は天井への飾りつけへ勤しむこととなった。
 そして高い場所の飾りつけを担当している他の2人はと言えば。
「この場所でどうだろうか」
「少し右……ええ、その辺りかと」
 志恵が久朗の飾る位置を見て頷く。久朗は窓の高い位置にオーナメントを飾り付けた。
「背の高い方がいて助かりました」
「いや、俺は図画工作が得意ではなかったからな」
 せめてもの手伝いがこうした飾りつけや加工に力のいる、セラフィナの作っていたシルバープレートのようなものだ。
 その反対側では、本棚の上からモールを吊るすレイルースの姿がある。
「……こんなものかな」
「うん。……ふふ、最初から素敵だったけど……ますます素敵になったね」
 傍に戻ってきたマオが辺りを見回す。

 室内は、すっかりクリスマス色だ。


●Epilogue

 飾り付けが終わり、一同はほっと一息。
 リリィとカノンはスコーンやジンジャークッキーなど手作りの菓子を持ってきていた。皆に配りながら、リリィはふとツリーを眺める。
 望月や由利菜達によって飾られたそれには、更にリリィの作った折り紙が垂れ下がるモールがかけられている。カノンの磨いたオーナメントらも輝いていた。
「ふふ、こんな可愛らしいツリーもあるのですね」
 リリィの実家に飾られるツリーはもっと大きい。けれど、人の背丈ほどのツリーも十分綺麗で素敵だった。
 菓子を貰ったアクチュエルとアヴニールは、飾ったクリスマスオーナメントや室内を見て目を細める。
「クリスマスを楽しむなど、いつぶりじゃろう。また兄さまとも楽しみたいのう」
 その呟きは家族で過ごしたことを思い出したからだが、秘められているのは悲しみではない。
 一方のアヴニールは図書館という施設自体にも興味を抱いたようだった。ちょうどそこへシェラザードが通りかかり、アヴニールが咄嗟に呼び止める。
「ここは本が沢山じゃろう? シェラザードのお勧めはあるかの?」
 その問いにシェラザードは真剣な表情でうーん、と考え込み、異世界だとかふぁんたじーなものかしら、と答えた。
「ここにもあるかのう」
「きっとあるわ! 探してみましょう?」
 アクチュエルの呟きにシェラザードがにこりと笑い。3人は書架の中へ進んでいった。
 しかし、すでに異世界関連の本を探しまくっている女性が1人。
「ふふっ、以前の依頼を見た時から文献探しを楽しみにしていたのですよ」
 嬉しそうに選んだ本を幻想蝶へ仕舞っていく由利菜。
 その中にはすでに両手で持ち切れないくらいの本が仕舞われたことを、リーヴスラシルは知っている。
「ユリナ……いくら幻想蝶があるとは言え、どれだけ本を借りる気だ?」
 そんな呆れ声もなんのその。知識欲の塊となった由利菜を止めるすべとはならない。
 あとで返却を忘れずにな、とリーヴスラシルは声をかけた。

「レイくん、世界中の子供にプレゼントだって……すごいね」
 レイルースに本を見せるマオの瞳は、純粋にその本の内容を信じきっていた。
 でも、とマオは小さく口を尖らせる。
 小さい頃、この時期にプレゼントを貰った記憶がないのだ。
「村は小さかったし……サンタさん、忘れちゃったのかな?」
「……さあ。今年は来るかもよ?」
 今日は依頼内容のせいか、クリスマスという行事のせいか。マオが少しだけ子供っぽく見える。
 そう思いながら、レイルースは穏やかに微笑んだ。
 場所は少し変わり。図書館の隅では望月と百薬が、司書に飲み物を貰っていた。他の者にも配るそうだから不平等にはならないだろう。
「「かんぱーい」」
 2人は小さく乾杯をする。
 ジュースを飲んでいると、百薬が声をかけてきた。
「良い子にしたからクリスマスプレゼントにも期待できるね」
「それは聞いてみないと」
 プレゼントとなるグッズを出すであろう、グロリア社に。
 受付前で全体を見渡していた久朗は、司書に飲み物の礼を言うと携帯を取り出した。
「撮影はしても問題ないか?」
「ええ、構いませんよ。記念ですか?」
 司書の問いに久朗は首を振る。
「友人達にも見せてやりたいと思ってな」
「司書さん、これを」
 セラフィナは1つの段ボールを司書へ差し出した。不思議そうに受け取られる。
「来年も使えそうなものがあったら、この中に保存をしてほしいと思ったんです」
 段ボールの中には厚紙が幾枚か。折り紙など長期保存の難しいものは、サンプルを厚紙に貼り付けて折り方を書いてあるのだ。
 本で探すよりずっと容易に来年は制作できるだろう。
「……あの」
 司書が後ろから声をかけられて振り向くと、レイルースの姿。……と、その陰に隠れてマオの姿もある。
 マオはレイルースの陰から出ると、たどたどしく喋りはじめた。
「本を読んで、自分で作れて……とても楽しかった、です。ここに来た子達も作れたら嬉しんじゃないかなって……でも、ここの本は貸出し禁止……だから、その……」
 皆が作った作品の一部を展示するスペースを作り、参考図書も合わせて提示する。興味を持った人がその場ですぐ作成できる環境を作ってはどうか。
 その言葉を聞いた司書はぽかん、とマオを凝視した。思わずマオは視線をあちらこちらと彷徨わせる。
「あの……なんだか、ごめんなさ」
「すっごくいいと思います!!」
「ひえっ!?」
 マオの言葉を遮り、司書がマオの手をがしっと掴んだ。その背後でばさりと音が響いたのはソラさんの驚いた羽音である。
「本当、私どうして気付かなかったんでしょう! 作り方の本があっても作るものがないなんてどうしようもないじゃない!」
「あの」
「とりあえず今日使った道具はそのまま貸し出しに回すとして、他にも何か作れそうな物ってあるのかしら。いえまずは探してみないと」
 はた、と司書が言葉を止める。その勢いで若干涙目なマオに気づいたからだった。
「す、すみません……! つい、熱くなってしまって」
「……あ、えっと、大丈夫……です。もっと、ここが……過ごしやすくなると、いいですね」


 そんなこんなで、無事に終わったクリスマスへの模様替え。
 年が明けたら、施設の隅には制作スペースが作られている……かもしれない。

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • 希望の守り人
    マオ・キムリックaa3951

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 告解の聴罪者
    セラフィナaa0032hero001
    英雄|14才|?|バト
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 希望の守り人
    マオ・キムリックaa3951
    獣人|17才|女性|回避
  • 絶望を越えた絆
    レイルースaa3951hero001
    英雄|21才|男性|シャド
  • Lily
    リリィaa4924
    獣人|11才|女性|攻撃
  • Rose
    カノンaa4924hero001
    英雄|21才|女性|カオ
  • 似て非なる二人の想い
    アクチュエルaa4966
    機械|10才|女性|攻撃
  • 似て非なる二人の想い
    アヴニールaa4966hero001
    英雄|10才|女性|ドレ
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