本部

【ドミネーター】独善

玲瓏

形態
シリーズ(新規)
難易度
難しい
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2017/12/24 19:23

掲示板

オープニング


 一ヶ月前、ちょうどドミネーターの拠点を掌握した月だ。作戦は成功に終わりドミネーターに対する打撃は大きかった。反撃は良い結果に終わり、詰将棋の形が微かに見えてきていた。
 作戦から三日後、不穏な意見がインターネット上に蔓延り始めた。
 発端は市長のテスがいる街だった。テスは表向きは市長という肩書で活動していたが、裏ではドミネーターと繋がっていた。恐らく発端の発端を辿れば彼が引き起こした良くない雰囲気である。
 一つの書き込みから始まった。
『あのH.O.P.Eが、最悪なテロ組織ドミネーターのリーダーを保護している』
 二つ目の書き込みが、市民の目を釘付けにした。
『独房という保護施設に放り込み裁判を起こさず、安定した衣食住を与えている。もう捕らえてから多くの時間が経っているのにもかかわらず処刑もされていない。一体これはどういう事か? 考えられる仮設は幾つか在る。ドミネーターの情報を引き出すために処刑を引き伸ばしている――以前H.O.P.Eはドミネーターの拠点を攻撃し成功させた。その時点で既にそいつの存在は不要じゃないのか。
 二つ目の仮設に、終身刑の可能性もある。
 この文章を見てくれた人間の中では閃いた者も多いだろう。そう、釈放の可能性があるのだ。笑える話ではない。何千人もの人間を殺した人間が釈放される? そんな馬鹿げた話が起きている可能性があるのだ。私はほぼ、八十パーセント位の確率で起きると想定している。精神異常者に対する特別措置という事で殺人を犯した者が無罪になるケースもある。勿論釈放後は特別な施設に入れられて我々の安全も保証はされるだろう。
 じゃあ子供を殺された親は? 親を殺された子供は? 恋人を殺された彼女は、彼は? 大事な人を殺した人物が精神異常者だからという理由で罰を受けない。この問題は今に始まった事じゃない。だが、何千人も殺してきた人間が今も! 今この瞬間ものうのうと美味しいご飯を食べ、寝ている! その事実を無視してはいけない。処刑されず、これからも生きていくかもしれないのだ。
 H.O.P.Eは何を考えている?
 三つの仮設に、H.O.P.Eの裏が出たという事だ。私もこれに関しては完璧に憶測でしかない。一つ目の仮設も間違っている、二つ目の仮設も間違っていると私は考えた。だとしたら考えられる最後の仮設はこうだ――H.O.P.Eは、ドミネーターに堕落させられた?
 この文章を見てくれている諸君は古龍幇をご存知だろうか。いわば最悪なヴィランズだ。彼らの罪はドミネーターと大差ない。多くの人間を殺し、反社会的方法で金を手に入れてきた。今ではその組織はどうだと思う。H.O.P.Eと手を組んでいる。表面上は和解という形だが、テロ組織を許した。
 第二次世界大戦では罪を償うために兵士や幹部の人間は処刑された。人を殺すということは、最後には自分も罪を償う覚悟をしなければならない。それはおおよそ、我々の信じる正義から鉄槌がくだされるべきだと、私は考えている。
 私の正義は、庶民達だ。この文章を見てくれている皆だ。何を言いたいか、分かると思う。今ここで、我々が手を組んでこれ以上の悲劇を生まないためにリーダーを処刑する。H.O.P.Eに代わって。処刑を終えたらドミネーターを潰すことも考えているが、勿論そこまで協力しなくていい。私の独善のようなものだ。ただ、出来れば奴の処刑の手伝いはしてほしい。色々質問や意見はあるだろう。ここに私のメールアドレスを記載しておく。協力してくれる市民がいたらメールを送って欲しい。
 迷走するH.O.P.Eに本物の正義を見せるのだ

 ――テス』
 街の市長が書いたというセンセーショナルな出来事、文章に書いてある事実性から記事が広まる速度は早かった。ただの戯言だと語って鼻で笑う人間も多かったが、中には彼の描く心情に大きく理解を示した人間もいた。
 ドミネーターに壊された街の市民、古龍幇に身内が巻き込まれた市民。その他、何らかのテロ組織に巻き込まれた人々。幾つもの同情が記事に集まり、気づけば多くの賛同者が現れていた。一番多いのはテスの治める街だ。彼らはリアルタイムでドミネーターの残虐性を知り、恐怖に苛まれている。信じられるのはテスという指導者だけなのだ。
 記事が投稿されてから一ヶ月でテスは動き始めた。処刑のために。


 事態が想定よりも大きくなり始め焦りを帯びてきた現状に、坂山は唇を噛んだ。テスや一般市民達に言いたいことは山ほどあるが、今は堪えなければ。
 H.O.P.E日本支部の入り口には多くの賛同者達が集まって抗議デモをしていた。中には火炎瓶を作って投げつけてくる過激な者もいる。一同は揃って「処刑」の文字と声を掲げている。
「内部から攻めてきた、ということか」
 モニター越しに市民達の顔を見ながらスチャースが言った。
 ナタリアを攫うのはほぼ不可能だ。外から殺すこともできない。であれば市民の心をナタリアに向けさせ、ナタリアを処刑することで全て収まるように仕向けるのだ。
「大丈夫よ、スチャース。HOPEはそんな簡単な事でナタリアを処刑はしないわ。でも……どうすればいいかは」
 オペーレーター室に職員の男性が一人入ってきた。畏まった彼は軽く頭を下げてから言った。
「ナタリア様を護送する車の手配が完了しました」
「分かったわ、ありがとう」
 暴動が広がり過ぎて対処しきれなくなった時に備え、ナタリアを日本支部からロシア支部まで送ることになったのだ。ナタリアは安全のためテレポート装置は使わず、車と飛行機による移動を命じられた。
「しかし、ドミネーターの事です。移動中に攻撃を仕掛けてくる可能性も否定しきれません。何名かエージェントをつけておいたほうが」
「そのつもりよ。フランメスは頭の切れる男だから、私達の移動ルートを想定して行動を始めているかも」
 H.O.P.Eはナタリアを別の場所へと移送させるだろう。その可能性は高い。最初から移動中のナタリアを襲う計画をしていたとも、考えられなくない。
 だが移送は一時的な応急処置にすぎない。市民達の暴動を止めるためにどうしたらいいのか、これから考えなくてはならないのだ。
 面倒な一手を打ってくれたものだ。

解説

●目的
 ナタリアの護衛。
 市民達の沈静化。

●移動
 日本支部から車で羽田空港まで向かい、一時間車の中で待機後に飛行機の当日券を手配。飛行機でロシアまで移動した後バスに乗り、電車を使ってロシアのサンクトペテルブルク支部まで移動。

●暴動
 日本の支部では五百人の人間が暴動を起こし、中にはテスの姿も見えている。市民達は何人かは拳銃を持っており、彼らの怒りはトリガーを引く手の力を強めている。目的はナタリアの処刑で、処刑が行われれば退散する。
 ナタリアを移動させず処刑する手段もある。そうすれば、目的の一つである市民の沈静化は簡単に解決できる。

●襲撃
 移動中、どこかのタイミングでドミネーターの襲撃を受ける可能性がある。車、飛行機、バス、電車……どのタイミングで襲撃を受けるかは分からない。隊員は一般市民を装っているためだ。
 襲撃にはフランメスが直に参戦する。

●フランメス
 ドミネーターの福リーダー。魔法や特殊能力は使えないが、驚異的な身体能力を持つ。剣、リボルバーの二つを状況に合わせて使用。特にリボルバーの扱いが手慣れており、特殊効果の持つ銃弾を扱う。
 即時再生能力が基本的に備わっており、簡単な攻撃ではすぐに回復されてしまう。
 隊員からの連絡があり次第、現場にすぐ駆けつける。

●テス
 展開によってはテスとの戦闘も考えられる。テスはステルス迷彩を装備しており、姿を消すことができる。迷彩にはアーマード効果も含まれ誇らしい防御力も持つ。使用する武器は斧。
 体力が低くなると背中から二本の金属製アームが現れる。豪腕のアームは伸縮可能で武器を使った攻撃も可能。

リプレイ

  船の黄昏に立つ少女は、温室で林檎を育てていた。今日も水をやり、肥料を与える。
 部屋には少年が入ってきて、彼はこう言った。
「林檎は危ないよ。神様に追放されてしまう」
 彼に対し、少女はこう言った。
「もう追放されているわ」
 まだ実はなっていない。しかしもう後三ヶ月は立てば、人見知りの赤い実が顔を見せるだろう。
 少年は何も言わなかった。ただ少女の手を握って前を向いた。そして言った。
「そうだったな」
 海猫が後をついてくる。船を追いかけるように、ときに並走する。窓に遮られて声は聞こえないが、彼らも懸命に羽ばたいていた。


 窓の外では変わらず不満の声がこだましている。なぜナタリアを処刑しない? 全ての市民の言葉を要約すると、その一文字に収まった。

「……のやろ、何が“脅されて仕方なく”だよ。平然と被害者を装って、今度は正義の味方ごっこか?」 
 良くない事態が起こる前にナタリアをロシアの支部へと届けることが決定され一時間立ち、ようやく行動に移せるようになった。坂山は薫 秦乎(aa4612)と彼の英雄、名称不明(aa4612hero002)の彼を連れてナタリアのいる独房へと向かった。
 独房の中には、話を聞いていち早く駆けつけた氷鏡 六花(aa4969)が彼女の背中を撫ぜていた。独房に入ってきた坂山を見た氷鏡は、言葉無くして立ち上がった。
 坂山はナタリアに語りかけた。ナタリアは目元まで髪を降ろしていた。
「移動の準備が整ってるわ。……立ち上がれる?」
「ああ」
 短い返事を終えた彼女は立ち上がった。立ち上がった時、少しだけ体が蹌踉めいた。
 元々彼女の心は弱っていた。死にかけた心の心臓を貫くような一撃に、彼女も限界が近づいていたのだった。
 独房には暴動の音が届いていない。なるべくナタリアをその側まで近寄らせたくはないが、都合上一度だけ近くを通る時があるのだ。不安の鼓動が鳴るが、それを悟られないように坂山は歩き出した。
 道の最中、坂山は薫にUSBメモリを差し出した。
「ここにテスの正体を記すデータが入ってるわ。薫さん、皆によろしく。私はお見送りくらいしかできないけど、いつでもサポートするから」
「助かる。ナタリアの事なら任せろ。何とかする」
「あなたが言ってくれると心強いわね」
 迎えの車が来ている駐車場までは地下通路を通れば辿り着けるのだが、途中に暴動の真下を通らなければならず、静かな通路に音がよく響いてくる。更に駐車場にも人々の叫び声は届いていた。
 ナタリアはずっと氷鏡の手を離さなかった。それが命綱だったからだ。音が聞こえてくるに連れて、手に汗が滲んでいた。不意に感じた寒さから鳥肌は立ち、氷鏡に呼びかけられても彼女の耳には届いていない。
 護送車の前に迫間 央(aa1445)が立っていた。彼は運転手としてナタリアをフェリーの海港まで連れていくのだ。
 迫間の隣ではもう一人、独房でナタリアの友達を担っていたフォルトが見送りに携わっていた。
「暫く会えなくなるのは残念だけど、元気でね」
 とても元気に別れられるような精神状態ではない。フォルトはそれを分かって、返事を待たずにスマイル顔で手を振った。ナタリアは表情を変えずに車に乗り込んだ。扉を閉めてしまえば、外からの声は聞こえなくなる。
 フォルトは氷鏡に顔を向けてこう言った。
「彼女、僕と話す時は大体氷鏡さんが出てきてね。それくらい君はかけがえのない存在なのかもしれない。しっかり守ってあげてほしい」
「ん……勿論、です。立花が、守ります。絶対に……見捨てません」
 後部座席に乗ったナタリアの隣に座った氷鏡は、シートベルトを締めて再び手を重ね合った。
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は先に後部座席に乗っていて、ナタリアを二人で包むように座っていた。
 助手席にはマイヤ サーア(aa1445hero001)が座っていてカーナビの設定に勤しんでいた。
「央、こんな感じでいい……?」
 目的地は新潟を指していた。予定通りで問題はない。
「大丈夫だ。それじゃここを出よう」
 迫間はマイヤと共鳴して襲撃に備えた。
 装甲車が動き出し、出入り口の無機質な門番にお金を坂山が渡して門が開く。坂山とフォルトは手を振って五人を見送った。


 ――テロリストを処刑しろ!

 ――俺達は毎日怖い思いをしながら過ごしているんだぞ。女を殺せ、ナタリアを殺せ! 生きる資格なんてない!
「その通りだ。テロ組織の首謀者に生きる資格なんかあるはずがない。HO我々の眼の前で首を切り落とすなり、火で炙るなりしてくれれば、我々の心は落ち着くんだ」
 テスは自前の台に乗り、羅列するにしては醜い数々の悪意を集めている。民衆に混ざっていた赤城 龍哉(aa0090)は軽く拳を握った。
「盗人猛々しいとは良く言ったもんだな」
 HOPEの職員が暴動を鎮めるためにメガホンを使って呼びかけるが、止まる気配は一向になかった。ナタリアはドミネーターの被害者だと言えば馬鹿げた事と揶揄され、国外退去処分がくだされると言えば上等だと返される。
「我々の行動は論理的じゃあないそれは分かってる。感情的だ。だがHOPEよ、それほどまで我々は恐怖に苛まれている。怒りに蝕まれている。ドミネーターを潰す限り平穏は訪れないだろうが、せめて首謀者の首を見せしめればいい。元はといえばHOPEがもう少し有能ならばこんな悲劇をもたらさずに済んだんだ。奪われる命も無かった。いかなる理由があっても処刑をしないのは納得がいかない! ノコギリで首を引き裂いてやればいい!」
 職員がどんな理由を並べても処刑が遂行されるまでは帰らないと言っているのだ。テスの言葉につられて、市民達もより一層過激な悪意を吐き出す。テスが主張すればするほど、市民達は声を荒げた。
 一人の市民がナイフを取り出して職員の腕を切り裂いた。
「くッ……、何をするつもりだ!」
「そこを退けよ。お前には分かんねえだろうけど、俺は弟が殺されたんだよッ!」
「君たちの気持ちは分かる。でも、これ以上進んじゃいけない。これは君たちのことを思って言っているんだ!」
「俺達の事を思うならなんでナタリアって奴を殺さねえんだよ!」
 一人の市民が吠え終わったと同時に、一発の銃声が鳴って騒乱の波を止めた。
「静まれ!」
 王、アークトゥルス(aa4682hero001)はどこまでも届く声で叫んだ。市民達が再び声を上げる前に、目の前に用意された台に立ちテスを一つ睨み、市民たちを一瞥した。
「貴方がたの理不尽な暴力に対する怒り、悲しみ、憎しみは理解する」
 テスは不敵に笑みを浮かべ、アークトゥルスを視界に収めていた。
「しかしテスの話はテス自身の言葉にもあるように仮説であり、そこに真実は無い」
「確かに」
 テスはアークトゥルスがそれ以上何かを言う前に大きく声を出した。
「私の話は仮設だが、ドミネーターの首謀者を生かしているという事実に変わりはない。私はそれに納得をすべく、様々な仮設を提示しただけだ。今日ここに来たのは真実を教えにもらいにきた。さあ問おう、なぜ処刑が下されないのか?」
 今まではH.O.P.Eという概念に怒りをぶつけていた市民達は、目の前に出てきた男に視線を寄せていた。
 時を待つ市民たちに、アークトゥルスは静かに語った。
「今この時に限っては貴方がたのその正しい感情を利用しようとする者達がいる」
 市民達はその答えに戸惑う。何を意味しているのか分からず、一人の市民が「ちゃんと説明しろ!」と声をあげた。テスは無表情になっていた。
 アークトゥルスの後ろで、音を立てて大きな液晶モニターが立ち上がった。市民達の眼はアークトゥルスから映像に切り替わった。一体何が映し出されるというのか? 
 映像は地下鉄の拠点内部が映し出されている。それは掌握を行った際に入手した監視カメラの映像によるものだ。何人ものドミネーターの隊員達が出入りしている場面から始まり、仮面を被ったマフィアが画面に現れた。
 そして間もなく、彼らに護衛されるように廊下を歩いているテスが市民の眼に止まった。
「証拠もなく妄想だけを重ねに重ねて訳知り顔に一人の女性を吊るし上げようとする卑怯者。そして裏でドミネーターと結託し、世間を欺き非道を行ってきた者こそがテスの正体ですわ」
 ヴァルトラウテ(aa0090hero001)は五百人分の耳に届くように、大きな声で宣告した。
「騙されてはいけません。あなた方は今正に、非道なるドミネーターに不利な情報を持つ女性を消そうとする目論見に加担させられようとしているのです」
「ここから先に進むならテロだ。だがここで退けばただの抗議行動で済ませられるぜ。どうする?」
 赤城の言葉に、市民達は反論を失った。地面にナイフが落ちる音が聞こえた。騒乱の場は完全に静まり、人々はやがて自分に問いかけ始める。
 確かに、今自分が行っていることはテロ組織と同じことではないのか。
「あの映像は本物だ」
 テスはそう言って、民衆のざわめきを聞くと言葉を続けた。
「ナタリアを殺すためだけに、今日という一日を作った――民衆とは愚かだ。それが分かる作戦だろう?」
 テスの近くにいた男性が両手で足を掴み、台から引きずり降ろそうとした。
「てめえ、俺らを利用するためだけにあんな記事を書いたのか! クソッタレが!」
 男はテスの足にナイフを突きつけた。
「いかん……!」
 アークトゥルスはコルレオニスを構えて大きく跳躍した。テスはナイフを刺した男の首を突然に掴み、盾として掲げた。王は咄嗟に剣の攻撃線をテス、そして市民から逸した。
 市民をぞんざいに放り投げたテスは飛びかかるその躯体の腹部に強烈な拳を叩きつけた。アークトゥルスはモニターへと吹き飛ばされ、液晶のガラスが背中に突き刺さった。


 車内は異様な沈黙が取り囲んでいた。ラジオが流れるわけもなく、流行りの歌謡曲が流れるでもない。タイヤがマンホールを踏んで小さく揺れる。無限にも感じる時間の中、氷鏡は沈黙を覆した。
「……ナタリアさん、喉……乾いてませんか?」
「大丈夫だ」
 億劫さから来る簡素な返事ではない。話したくても、どうしても出来ないのだ。喉に壁でも出来てしまったに違いない。いや出来てしまったのだ。
「……ん、何かあったら、なんでも言ってください……ね?」
 素直に優しさを受け入れられない。懐疑の壁が。人間の持つ毒に触れ続けてしまえば誰しもが抱く病だ。
 高速道路を抜けると目的地はすぐそこだった。結局、氷鏡の言葉以降は延々と、長い沈黙だけが続いていた。
 車は人気のない港で停車し、そこで待っていた九字原 昂(aa0919)、ベルフ(aa0919hero001)と合流した。他にナタリアを待っていたエージェントは既にフェリーに搭乗しているのだろう。
 後ろからバイクで装甲車を追いかけていた薫も到着した。名称不明の騎士も一緒だ。
「追っ手はいない。こっちも大丈夫そうだな」
「はい。敵影らしきものは何も」
 坂山が手配したフェリーの管理人の安全性は勿論のこと、海上や周囲のパトロールも問題が見つからなかった。氷鏡は手を取ってナタリアと車を降り、管理人の案内を通じて船に搭乗した。
 出入り口では風代 美津香(aa5145)とアルティラ レイデン(aa5145hero001)の二人が待っていて、礼で出迎えた。
「ひとまずは無事そうだね、良かった。日本支部の方は慌ただしくなってるみたいだけど……」
「向こうには赤城、アークトゥルス、晴海もいる。信頼のおけるメンバーだ、そんなに心配はしていない」
 搭乗手続きを事前に済ませていた迫間は、周囲の隙間を縫うように視線を船内に走らせていた。爆薬があったら只事じゃない。
 迫間はパトロールに出る前にナタリアを振り返りこう口にした。
「ゆっくり休め。体だけじゃない。心も休めた方がいい」
 迫間の言葉に彼女は頷く。目は明後日を向いていた。
 二人がパトロールに出掛けた後、氷鏡はナタリアとアルヴィナを連れて客室まで向かった。中ではアリス(aa1651)が椅子に座って本を読んでいる他、Alice(aa1651hero001)はトランプに興じている。そのお相手は雪室 チルル(aa5177)、スネグラチカ(aa5177hero001)の二人だ。
「あ、やっときたー! もう一時間以上はここで待ってるよー?」
「……ん、こんにちは。お待たせしてすみません」
「まあ、あたいが強いって分かったからいいんだけどねーアリス!」
 赤いアリスは「そうだね」とだけ言って微笑みを浮かべた。
 部屋の中は暖かく、冬の乾燥からも身を守ってくれるほどだった。スネグラチカは寒い方が性に合っているが、今は我慢してくれるみたいだ。
「でもあたいはまだ納得がいってないからねー! もう一戦! ナタリアも一緒にやればー?」
「私は、結構だ。遊戯の気分じゃなくて」
「ああそっかぁ。なら仕方ない。っていうかアリスも本ばっか読んでないでこっちくればいいじゃなーい! 三人より四人だよ!」
 黒いアリスは読んでいた本をそっと閉じて立ち上がり、地面に座った。
 本を読んでいたのはある意味手加減だったのだが、誘われたならば仕方がない。すると赤いアリスがこっそり耳打ちした。
「少しは手加減しようね」
「うん。出来る限り。……後わかってると思うけど、わたし達の目的はナタリアの護衛だからね」
「もちろん」
 雪室もただ単純に遊びたいからカードを床に広げているのではない。風代の提案だった。風代は坂山からナタリアの心境を聞いていて、その落ち込み具合を想像できるほどに聞かされていた。そこで、少しでも和やかな暖かい雰囲気を作っておけばナタリアも悪い思いはしないはずだと。陰鬱な顔で出迎えるのは正しくない。
「あー! アリス∪NOって言ってないやり直しいー!」
「……忘れてた」
 まあ、任務を忘れない程度に。


 赤城は民衆の中から飛び上がり、拳を掲げて上空から奇襲を仕掛けた。テスは腕で顔面を守るが、赤城の狙いは顔面ではない。そのまま拳は腕に打ち付けられ、二人はH.O.P.E日本支部の拠点から大きく逸脱した道へと飛び出した。職員は民衆達を外へと逃げないように、支部の中へと誘導した。しかし五百人もいれば時間は相応にかかる。
「来いよ。相手は俺が担ってやるぜ。だがすぐに俺を倒さねえと、第二第三の仲間が駆けつけてお前を捕まえるだろうがな」
「あまり私を舐めるんじゃない。老いは確かに体を蝕むだろうが、経験ではお前より私の方が上だ。そして、老いというデメリットを殺せば、お前は決して私には勝てんッ!」
 刹那にテスの姿が消えた。赤城は即座にブレイブザンバーを構え周囲を見渡した。何処にもいない。どこにいる? どこだ……。
 背中から気配を感じ、振り返るが先手はテスが早かった。腰を下げていたテスは斧の柄で赤城の溝内を強打し振り上げるように、顎へと追撃した。すると今度は斧を回転させ、宙に打ち上げられた赤城の胴体を切り裂き地面へと叩きつけた。
「終わりだ小僧」
 悦楽極まりないのだろう、醜悪な笑みを浮かべたテスは処刑人のように斧を手に持ち、赤城に振り翳した。
 金属と金属が弾かれる音が鳴った。一発の銃弾が斧の軌道を逸し、赤城の頭の真横に刃を向かわせたのだ。赤城は隙を使いテスの片足を両手で捻り、腹部を爪先で蹴るとすぐに立ち上がり、剣を構えて横に振った。テスは柄で刃を防ぐが、赤城の攻撃は続く。雄叫びを響かせながら、左右から何度も叩きつける。その全ては斧の刃に防がれるが、刃こぼれを起こさせるには十分な連撃だ。テスは連撃の最中に左腕を前に出し肘で刃を受けると、赤城の懐に入り込み右腕でボディブローを食らわし、距離を取った。
「見た目以上に力、スタミナはあるみたいだな。だがまだ甘い。やはり、経験では私には勝てんみたいだ」
「そうかよ。だがな……、まだ負けてねえんだぜ」
「じゃあ負けてみるか小僧」
 テスは後ろに下げていた足に力を入れて踏み込むと、再び姿を消した。赤城は目を閉じ音を聞く。何かが横切った、それは自然の風じゃない。
 目を開けて、赤城は言った。
「実力は拮抗してるか、お前の方が上かどちらかだってのは認めるぜ。だけどな、俺はお前よりも、仲間ってモンに恵まれてんだ!」
 後ろに振り返った赤城は大剣でテスの肩を突いた。
 テスは姿を消し、背後からの奇襲を仕掛けた。赤城は奇襲に気付いていたが油断を誘い振り返らなかった。もう一つの音を聞いたのだ。音は現実になった。後ろを振り返ればアークトゥルスがコルレオニスで赤城を守っていたのだ。
 赤城は肩を突くと柄を横に捻りすぐに抜いた。低く呻いだテスは無造作に斧を振り回し二人を遠ざけた。
「助かったぜアークトゥルス。傷は平気なのか?」
「問題ない。この程度で遅れを取る訳にはいかん」
「ナイスな台詞だぜ。……せっかく助けにきてもらったとこ悪いが、先にロシアに向かっててもらえねえか」
「決闘を張るつもりか?」
「晴海がいるから決闘じゃねえよ。それに、鉄道の視察はまだ完了してねえ。フェリーで到着にはまだ時間がかかるだろうが、こういうのは早い方がいい。頼めるか?」
「――分かった。無茶はするな」
 二人は拳を合わせた後、アークトゥルスは支部へと急いだ。
「一人で私を倒す度胸だけは、確かなようだな」
「一人じゃねえよ」
 背後から聞こえた足音、テスは後ろを振り向いた。エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)と共鳴した晴海 嘉久也(aa0780)がグランブレード「NAGATO」を手に立っていた。
「お仕事はどうなされたのでしょうか。日本に油を売りにきた割には、少し大胆な気もしますが」
「いや違うな。市長という仕事を辞めに来た」
「なるほど。確かにもうあなたは市長ではない。ただのテロリストの一人です」
 赤城はライヴスゴーグルを装着し、剣を構えた。テスは利き腕の関節を剣で潰されており、斧は左腕で支えている。
 晴海は先取の足を踏み出し、刀を構えて疾走した。しかし、何の前触れもなく発生した変異が彼の足を止めた。そして伸びてきた豪腕を刀で防ぎ、後方へと追いやられた。
 テスの背中から金属製のアームが二本生えてきたのだ。人間の腕より逞しく、人間の腕よりも二回り以上も大きな兵器だ。
「本番はこれからだぞ!」
 大きく吠えたテスは斧を振り回し、晴海に向かって飛びかかった。


 船の中は静かだった。喧騒から離れて、もう何時間も経つ。氷鏡がずっと手を離さないでくれていたからか、ナタリアはいつしか微笑みを浮かべた。氷鏡はすぐに気付いて、微笑みを返した。
「どう、されたのですか?」
「分からない。分からないが、なんか可笑しくなった」
 そして不意に、氷鏡の背中に片手を回し、自分の体に引き寄せた。ハグだ。氷鏡は小さな体ながら、ナタリアの気持ちを受け止めた。不意だったから吃驚はしたものの。
「やったあ、すとれーと! フン、このあたいに勝てる奴なんているのー?」
「チルルー、残念だけど私フラッシュなんだあ」
「なあぁ! さっきフルハウスだったじゃん! 二連続でなんか強そうなもの引いちゃってさー、多分明日すごく運悪いよ。バナナの皮で転ぶよ!」
 部屋の中に風代が入ってきた。全員分のココアの乗ったトレーを持っている。
「もうすぐで到着するって。長旅お疲れ様!」
 約七時間ほどの船旅は中々の手応えがあった。
 フェリーから貸し切りの電車までは車で移動し、先に到着していたアークトゥルスと君島 耿太郎(aa4682)が船旅をお迎えした。
「お疲れ様っす! 鉄道周辺の安全確認は完了してるっす、いつでも乗れるっすよ」
「ご苦労様。護送は順調ね。このままナタリアさんを無事に届けられるといいんだけど」
 風代は電車に乗り込む彼女らを見て言った。安心は早い。
「大丈夫っすよ! まだ油断はできないっすけど、俺は何とかなると思うっす。いや、何とかするっす。何が起きても大丈夫なように」
「そうね。その時のための私達だもの」
 電車に全員が乗り、駅員の合図で電車は出発した。中は暖房が効いているが隙間から入ってくる風が肌に突き刺さる。
 ナタリアの隣で寄り添っている氷鏡の通信機に、迫間から連絡があった。
「テスは捕えられたと晴海から連絡があった。向こうは大丈夫そうだ」
「そう、ですか……良かった……」
「こっちももうすぐだが、油断はできない。気を引き締めるぞ」
 風代と迫間は見張りを他のエージェントと交代し、しばしの休息を挟んでいる。風代はナタリアの隣に座った。最初に顔を見せた時よりも、顔色は良くなっているみたいだ。
「氷鏡ちゃん、ずっとナタリアさんの側についてくれてるのよね。ありがとね」
「……私も、側にいたいので……」
 電車が定速まで上昇して揺れ始めた。
「ナタリアさんを見てると、昔の私を思い出すかも。潜入に失敗して落ち込んでる時、私も立ち直れなかったなーって」
 気さくに話しかけると、ナタリアは顔を窺って次の言葉を待った。
「生き残ってこれたのは奇跡にも近い……。でも、落ち込んでも大体その後立ち直っちゃって、今は元気。当時は失敗する自分を責めててね、何でこんな簡単な事もできないんだろうって。落ち込んだ時って、大体自分を責めちゃうのよね。気分が落ち込んでるから。でも元気になるとすぐにどうでもよくなるの。ナタリアさんの感じている罪は、そんな簡単なもんじゃないと思う。だけど太陽がまた昇るように、ナタリアさんも元気になったら積み荷はちょっとでも軽くなると思うわ」
 吊革に捕まっていたアルティラ レイデン(aa5145hero001)は風代の言葉に付け加えるように、ナタリアを見下ろして言った。
「氷鏡さんや貴女を命がけで守ってくれている皆さんが望んでいる事は貴女が幸せになる事。皆さんはその為に戦っているのです。もちろん、私や美津香さんも同じ想いです」
 ナタリアは氷鏡に顔を向けた。彼女は自信たっぷりに頷いた。
「ドミネーターとの一件が落ち着いたら貴女の笑顔を見せてくれないかな。それが私達の、ひいては皆の最大の報酬になると思うから――だから、心配はしなくていいよ。その時まで貴女は私達が守るからね」
 ナタリアは薄い笑みを浮かべた。
「ありが――」
 言葉が止まった。止めざるを得なかった。
 ナタリア達が乗っている車両の扉が開いた。無造作に開いた。
 フランメスが、立っていた。
 彼は両手の上で迫間を横向きに寝かせていた。迫間にはまだ意識があるが、服が所々破けていた。風代は椅子から立ち上がってアルティラと共鳴すると先頭車両、後部車両で護衛していたエージェント達に通信機をかけた。
「ナタリアさん逃げて! 前の車両へ、早く!」
 氷鏡は共鳴し、床を凍らせるとナタリアをおぶって滑りながら先頭車両へと急いだ。
「貴様……これまで以上に、何を……代償にした?」
 迫間は絞り出した声でフランメスに問いかけた。
「さあ。答え合わせは、この興が終わったらかなあ」
 フランメスは迫間を盾にする訳でもなく、椅子の上へ寝かした。
「君は興味深い信念を持っている。ここで殺すには惜しいんだ」
 咄嗟に扉が開き、同時に飛鷹がフランメスの胴体目掛けて投げられた。彼は刃を両手で挟み――扉からは九字原が飛び出して、瞬時に飛鷹のグリップを握って奥へと押し込んだ。刃は胴体を貫く。
「やるゥ」
「まだ終わりません!」
 飛鷹を手放した九字原はEMスカバードを抜き、電磁波を散らしながら足を切り裂いた。足だけでなくその高速の居合で首筋、腕を連続で斬りながら肋骨に回し蹴りをして距離を取った。
 救援に駆けつけた雪室が迫間の所まで駆け寄りクリスタルフィールドで守りながら頬を優しく叩いた。
「大丈夫? 息は、大丈夫そうだね! 良かったー」
「俺は、いい……。フランメスを、早く捕まえるんだ。奴は、再生能力を……持っている」
「再生……?! じゃあ、もしかして」
 蹴りの衝撃で横の壁に叩きつけられたフランメスの体は、どういう訳か垂れていた血が重力に反し、時間が逆行するように体内へと戻っていく。血の跡は消え失せ、最後に彼は笑って九字原を見返した。
 フランメスは後ろの壁を蹴って左右にステップを踏みながら九字原の頭上を飛ぶと、彼の腕を掴んで天井に叩きつけ落ちてきた背中に拳を叩きつけた。
 ファラウェイを抜いた風代は攻撃線をフランメスの頭部に定め、背後から縦に振った。フランメスは靴先で刃を弾くと両腕で風代の耳を叩き平衡を失わせ剣を持っていた片腕を捻って落とさせると両腕を握って社交ダンスをするような体勢で互いの額を重ねた。
「勇敢な女は好きなんだ。強ければ強い程、屈服させた時の優越感は偉大なものになるから」
 正面からの拘束を振り払うべく足で顎を狙ったが、足を脇に挟まれ仰向けに転倒を食らう。起き上がった九字原は飛鷹を手にしてフランメスを突き肩を貫くが、フランメスは瞬時にリボルバーを腰から引き抜き、九字原を狙いトリガーを引く。間一髪でしゃがみ銃弾を避けるが、金属に当たり跳弾した弾丸が九字原の背中を突き刺す。
 先頭車両からは薫とアークトゥルスがフランメスを追っていた。面倒事になる前に標的を片付けなければならない。フランメスはシリンダーの中に残った弾丸を全て撃って二人を牽制すると、ナタリアが逃げた車両へと急いだ。
「逃さねえよ!」
 ベグラーベンハルバードで全ての弾丸を防いだ薫は凍った地面を全て素早い速度で駆け出した。フランメスは扉を開けると即座にシリンダーを交換し接合部に撃ち込んだ。接合を外すと、フランメスは車両を足で三度も蹴り飛ばし勢いを殺す。
 離れていく車両に飛び移るように薫は跳躍したが、フランメスの剣と笑みが構えていた。
 切っ先は薫の脇腹を突き刺し、深くめり込む。
「く……そったれ……ッ!」
 アークトゥルスは線路に転がりこむ薫に近寄り、刺さった剣を抜いた。
「これくらいどうってこたねえよ……。お前は、早く追え」
「ここは危険だ。廃線にはなっているが、手違いで電車が来るといけない。追うのは雪室と九字原に任せ、私は救護に専念する。一人でも失いたくはない」
「……ッたく」
 電車は遠のいていく。ナタリアと氷鏡と、先頭車両を護衛していたアリスを遠ざけていく。


 アリスは獄炎を、フランメスの左右から伸ばした。それだけでは飽き足らずに地面からも噴火させ、ナタリアから遠ざけた。
「ここから先は、決して通さない……」
「君は、確か前にも会ったことがあったな」
 炎の向こう側から声が聞こえた。
 そして一発の銃声が響きアリスの足に噛み付いた。アリスは一瞬怯むが、炎は決して絶やさない。先ほどよりも高い火力で、今度は火球を放った。あんまり大きな攻撃はできない、この車両が止まったら終わりなのだ。
 この場所での戦いは、彼女にとっては不利とも言えた。
 火球はフランメスに当たり、一度だけ距離を遠ざけたが、次に訪れたのは弾丸の雨だ。続けざまに放たれる一つ一つがアリスの腕を居抜き、アルスマギカが地面に落ちた。
 その途端、火が消えて、気づけばフランメスが目の前にいて。
 醜いほどに綺麗な両手がアリスの頬を包んだ。
「君は人形のようなリンカーだ。その綺麗な顔が崩れていく様を、楽しみに見させてもらおうかな」
 するとフランメスはボディブローでアリスの体を沈めさせた。アリスはお腹を抑えながら地面に横たわった。
「ア、アリス!」
 フランメスは前を見た。そこには蹲るナタリアと、彼女を守るように両手を広げる氷鏡の姿があった。
「ゲームをしようか。いや、賭けかな」
 持っていたリボルバーを腰に下げてフランメスは言葉を続けた。
「さっき部下から連絡があってね。作戦は失敗に終わったと。彼はどうやらエージェントとの戦いの末、敗北して国に強制送還されるらしい。ロシアで罰せられる。いやいや無能な仲間を持つと大変だ。今彼は飛行機の中でリンカーに囲まれ、デモに参加した市民達と一緒にいるらしい」
「何を、言っているの?」
「実はテスを改造したのは僕なんだ。全身改造の手術をして体を強化してあげたんだが、その時にちょっとした細工をしてね。体の中に爆薬を詰めてあげた」
「……フランメスッ!」
 彼は胸ポケットの中から携帯端末を取り出した。そして携帯に向かって話し始めたのだ。
「今飛行機に乗っている諸君。君たちに一つだけチャンスをやろう」
 いつからか、いつからかフランメスは飛行機のモニターを乗っ取っていた。どうやって無線を飛ばしている? 氷鏡は最初は嘘なのかと疑ったが……。
「デモに参加した市民達。君たちは選択肢を間違えると死ぬ。その選択肢は二つだけ用意されている。新しいドミネーターの長になった僕は、今目の前でナタリアを殺すことができる。そして君たち一般市民も殺すことができるのだ。この問題の回答権はエージェントにあるんだが、そうだな。目の前にいるリンカーに聞いてみよう」
 そしてフランメスは、氷鏡を見て言った。
「そこにいるナタリアを殺せば市民たちは無事だ。しかしナタリアを助けようというのなら、市民達が死ぬ。どっちを選ぶ?」
 氷鏡は拳を握ってフランメスを睨んだ。

 念の為飛行機に乗ってテスと行動していた晴海は、突然の事態にも慌てなかった。彼からしてみれば想定内で、だからこそ飛行機に乗っていたのだ。油断はできない。
 機内食のアイスを食べていたエスティアと共鳴し、策を練った。どうやってこの状況を打破するか……。変装をしているからテスには気づかれていない。そのメリットを上手に使えれば。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 気高き叛逆
    薫 秦乎aa4612
    獣人|42才|男性|攻撃
  • エージェント
    ラモラックaa4612hero002
    英雄|35才|男性|カオ
  • 希望の格率
    君島 耿太郎aa4682
    人間|17才|男性|防御
  • 革命の意志
    アークトゥルスaa4682hero001
    英雄|22才|男性|ブレ
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 鋼の心
    風代 美津香aa5145
    人間|21才|女性|命中
  • リベレーター
    アルティラ レイデンaa5145hero001
    英雄|18才|女性|ブレ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
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