本部

甘い誘惑にはご用心を

三色 もちゃ

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
7人 / 4~8人
英雄
7人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/12/22 09:19

掲示板

オープニング

 ●降って湧いたような

 満月が天頂付近にまで近づいている時間帯ではあるが、街中にある広場では休日という事もあり、何組かの集団が広場のあちらこちらに見られた。それぞれがそれぞれの話題で冬の寒さに負けない熱気を上げている。

「いやー、今日のライブも最高でしたなー。もえぴーの笑顔と歌声に癒されましたぞ」
「確かに。某もゆきりんと目が合った時は心の臓が飛び出るかと思ったぜよ。しかし! そのチャンスを無駄にはせず! しかと某の熱い思いをゆきりんに届けることが出来て満足でござる!」
「はっはっは、そなたは今日も熱いのう。そんな我は元気ハツラツとしたあーやの姿を見られただけでも大変満足である」

 その内の若い男性三人組は大好きなアイドルグループのライブを見終え、大量の荷物を足元に置いて街頭の下でその余韻に浸っていた。
 しばし話が盛り上がり、三人は楽しげにやり取りを繰り広げた。

「さてさて、それではいつも通りアニメ、アイドルソング縛りでカラオケと洒落込みましょうぞ」
「そうでござるな。この寒さに冷やされぬうちに突撃ぜよ!」

 ひとりがそう言うともうひとりもそれに同意する。
 しかし、残ったひとりは何も言わずにじーっと広場全体を見ていた。

「おや、どうされた? もしや、声優さんでも発見されたのか?」

 心配したひとりが声をかけると、

「否……、我は怒りに満ちている……」

 低くそう呟いた。
 不思議に思った二人は同じように広場全体に視野を広げてみると、すぐに男性が怒っている原因を理解する。

「こ、これは……、いちゃつくリア充どもで溢れているではないか……」

 気がつくと多種多様な人々が居た広場も人が入れ替わり、今では男女のカップル達が広場のあちらこちらで時間をまったりと過ごしている姿が目に付くようになっていた。寧ろ、男性三人で集まって話をしているのが異質と思えるような空間が出来上がっている。

「くっ……、見てはいかんぜよ。巷ではクリスマスが近いこともあり、浮ついた輩が多くなっておる……。しかし! 某達はそんなクソイベに気を取られることなく時を過ごそうではござらんか!」
「その通りですぞ。私達には推しメンも居れば二次嫁も居るではないですか。汚れきった世の中を見る必要はない、と言い切れましょうぞ」

 二人がそう言うと怒っていた男性は震える手を止めて平静を取り戻した。

「そうであったな……、我としたことが面目ない……。では、気を改めてカラオケに向かうとしよう!」

 いつも通りに戻った男性に安心すると再び和やかな雰囲気に戻る。そして、移動しようと三人はそれぞれの荷物を持ち上げた。

「あのー、すみません……」

 その時、不意に背後から若い女性の声が三人にかけられる。

「へっ!?」「はひ!?」「ほへ!?」

 驚いた三人が素っ頓狂な声で返事をしながら振り向くと、そこには見た目には二十歳そこらと思われる綺麗な女性が立っていた。

「ああ、驚かせてしまい申し訳ありません」
「い、い、いえいえ! 謝ることはないですぞ! ど、どうか、されましたか?」

 女性から話を聞くと、女性は実家暮らしをしているが、財布を持たずにわずかな小銭だけで家出をしてきたらしい。大きな見得を切って家を出てきたので帰るにも帰れず、と言ってもお金もないのでどうすることも出来ずに困っていたと話す。
 男性三人は新手の詐欺ではないか、と最初は疑っていたが、女性と色々話している内に打ち解けてそんな疑いはどこかへ行ってしまっていた。

「こ、これから我々は、カラオケに向かおうとしていたのだが、よ、良ければあなたもご一緒されては、ど、どうか……?」

 男性達からすれば思い切った誘いに、男性達の間に言った本人を含めて動揺が広がる。

「まあ、本当ですか! でも、お金が……」
「そ、それぐらい、我々が持つ。あなたは気にせず、つ、ついてくれば良い……!」

 追い討ちをかける男性達の鼓動は最高潮に達する。

「では……、お言葉に甘えさせて頂きます」

 そう言ってお辞儀をした女性を見て、男性達は心が繋がっているかのように一同にハイタッチを交わした気分になった。

「で、では、寒いですし早く行きましょうぞ!」
「うむ。腹が減っているなら食べ物も注文されたらよろしい、ぜ、ぜよ」

 そうして三人の男性は、意気揚々としながら馴染みのカラオケ店へ女性を案内した。

 ●現実は……

「この行方不明の男性達は、最後に目撃されたカラオケ店の部屋に自分達の荷物を残したまま消えたそうです。カラオケ店の監視カメラの映像によると、男性が一人ずつ時間をおいて店の外に出て行き、最後に一緒に来店した女性が外に出た模様」

 H.O.P.E.東京海上支部の若い女性職員が淡々と手にした資料を読み上げていく。

「また、同様に行方不明になる男性が最近になって急に増えています。そして、街中にある監視カメラの映像を解析したところ、行方不明になる直前に今回と同じ女性がその男性達と接触していることがわかりました」

 女性職員は資料を置くと、街近辺の地図が部屋の壁に映し出されるように機械を操作した。

「プリセンサーからの報告によると、街の郊外にある廃工場にライヴスが集まっており、同時に比較的強いライヴスの出入りがあるようです。監視カメラの解析とも当てはめると、ここに行方不明者達が集まっていると考えられ、また、女性は愚神であり、何らかの力を使って男性達を集めていると思われます」

 女性職員がまた機械を操作して地図が消えると、女性職員は集まったエージェント達の顔を見渡しながら、

「今回の任務は、この廃工場に向かい、行方不明者達の救出及び原因となった愚神の討伐です。この愚神は夜間にしか活動しておらず、昼間は廃工場から動いていないという報告もあります。ですので、昼の間に廃工場へ向かい、愚神との接触をお願いします」

解説

 ●目的
 行方不明者の救出及び原因となった愚神の討伐

 ※PL情報※
 ●登場
 デクリオ級愚神。
 容姿端麗な人間の女性の姿に変わることも出来るが、実際は蝙蝠のような羽を持つ灰色肌の女性型愚神。
 イマーゴ級の蝙蝠型従魔を呼び出せる他に、男性PCにのみ効果がある魅了のスキルを持つ(洗脳付与。能力者が女性、英雄が男性で共鳴した状態でも効果あり)。
 ※ ※

 ●地形
 廃工場の入口からスタート。建物は二棟だけで大きい機械を入れて作業をしていた大きな建物と倉庫として使っていた一階と二階に分かれている建物がある。現在、建物内にあった物は全て撤去されている。
 ※PL情報※
 愚神は従魔を飛ばして周りを見張らせているので、PC達が敷地内に入ればそれを察知することが出来る。(昼間に蝙蝠が飛んでいるので不審ではあります)
 ※ ※

リプレイ

 ●集結

 昼下がりの郊外。太陽が雲に隠れて冬の寒さがより増している。
 最近になり頻発している行方不明者の捜索に六人のエージェントが何を作っていたのかはわからないが、現在使用されていない工場の入口に集まっていた。
 辺是 落児(aa0281)と構築の魔女(aa0281hero001)は事前準備として、H.O.P.E.職員から街の監視カメラの映像をより詳しく聴取していた。それを集まった仲間と共有する。

「被害者は男性主軸で……、カラオケ店で被害に遭った男性達の荷物や外套の状況、街の監視カメラからこの廃工場に食事が運び込まれた様子がない等を考えると正常な状態ではなさそうですね」

 構築の魔女がそう言うと百薬(aa0843hero001)が隣に居る餅 望月(aa0843)に目を遣る。

「望月もお金持ちのお兄さんにお誘いされれば良いのに」
「その発言は不穏当にも程があるでしょ。お金どころかライヴスまるごと吸い取る美人局ってところだね」

 百薬の発言に望月が物言い、今回の主犯と思われる監視カメラに映っていた愚神と思われる女性について感想を述べた。
 望月の言葉に思うところがあったのか灰燼鬼(aa3591hero002)が一考した様子を見せると顔を右下に向ける。

「女絡みか。月夜がここにいたらどうなって――」
「言うな、それ以上言うな……。考えただけでも恐ろしい」

 沖 一真(aa3591)が灰燼鬼の言葉を遮った。

「ん、強襲と救出ね。人数から言って監視しやすい場所に押し込めてるって事?」

 桜庭マナ(aa5183hero001)が本題へと戻す。それに答えるように、

「それにしても随分とまたベタな隠れ場所じゃな」
「というか昼間から蝙蝠とは、隠れる気あるのかの?」

 天城 初春(aa5268)と辰宮 稲荷姫(aa5268hero002)が上空を飛び交う数匹の蝙蝠を怪しみながらそう口にした。
 辺是と共鳴して主格となった構築の魔女がレーダーユニット「モスケール」を装着してその怪しい蝙蝠達に視線を向ける。

「確かにあれは従魔のようですね……。その動きも決まったルートを規則的に飛んでいて見張っているようにも思えます。敷地内に入れば、もしくは既に愚神に私達がここに居ることがバレているでしょう」

 そう皆に警戒を促せてから任務の遂行の合図を出した。
 エージェント達は共鳴し、廃工場の敷地内に足を踏み入れる。
 しかし、なぜか一組だけ共鳴をしていないままのエージェントがいた。

「桜庭さん方、共鳴はしないのですか?」

 何か理由があるのだろう、と構築の魔女が桜庭愛(aa5183)とマナに声をかける。

「私は、正義の美少女レスラーですから大丈夫です!」
「……すみません、愛はこういうタイプなんです」

 愛が元気に答えると横に居たマナが補足した。

「しかし、ここは敵の根城。いつ奇襲が来るやもしれませんから共鳴はしておいてください」

 柔らかく愛を諭すように構築の魔女が語りかけると、少し悩んだ姿を見せた愛であったが結局は素直にそれを聞き入れ、主格をマナに任せて共鳴した。

 ●囮作戦

 改めて敷地内に足を踏み入れたエージェント達。
 百薬と共鳴して主格の望月がライヴスゴーグルを装着する。

「力は弱まっているかも知れないけど、これで辿れるかな?」
『時々役に立たないけどね』
「時々じゃないことを願いましょう」

 ライヴス内で百薬が言い放つと望月がそれに答えながら辺りを見渡した。

「大きな建物の方向と倉庫らしい建物の方向、両方に強いライヴスが移動した跡が見えます。でも倉庫の方向の方が薄いですね」
「ふむ……。では、拙者が潜伏を使い一人で倉庫に潜入するでござる。何かあればライヴス通信機で伝えるでござる」

 望月の報告を聞いた稲荷姫と共鳴して主格の初春がそう提案する。

「よし! じゃあ、俺が囮として堂々とこっちの建物の正面から入ってやろう。話を聞くところに寄ると、行方不明者は全員男なんだろ? てことは愚神は男にしか興味がねえってことだ。俺が愚神を引きつけている間に初春以外の皆は裏からでも忍び込んでくれ!」

 灰燼鬼と共鳴し主格の一真はそう買って出た。すると、三木 龍澤山 禅昌(aa4687hero001)と共鳴して主格の三木 弥生(aa4687)が前に進み出る。

「御屋形様! いくら御屋形様と言えども一人では危険です。私もご一緒します!」

 弥生の言葉を受けて一真は、

「まあ、弥生は動くとガシャガシャうるさいし囮にはもってこいかもな。よし、ついて来い!」
「はい! 任せてください!」

 弥生の同行を認めた。

「あー……、相変わらずたりぃな……、ピーピーうるせぇし黙って勝手にやってろてんだ……」

 弥生が身に着けている骸骨のような大鎧に付いている頭蓋骨がカタカタと鳴り禅昌がそう言ったが、弥生に気にした様子はなかった。
 その後、異論は出なかったので初春は紅炎を手にして倉庫に潜伏を使用しながら駆けて行く。一真と弥生は建物正面の大きな扉から、構築の魔女と望月とマナは建物の裏に回った。

「さぁ。どっからでも掛かってこいってんだ! 弥生、事前の情報から愚神は何らかの方法で相手を洗脳する能力を持っているかもしれねえ。もし俺に何かあれば殴ってでも止めてくれ」

 一真の申し出に弥生は慌てた様子を見せる。

「わ、私が御屋形様を……! ――わかりました。その何かが起こらないように心がけますが万一の時はそのようにします……!」
「よし! じゃあ行くぞ!」

 気を引き締めた表情をした弥生を確認すると一真は大きな扉を勢いよく開けて、ずんずんガシャガシャと建物内に入った。
 建物内は広々としており、窓から差し込む光は弱く薄暗い。しかし、柱がいくつか立っている以外は特に障害物がないので見通しは良かった。
 そして、何もないまま建物の中央付近まで進んだ時、

「助けてください!」

 突然背後から若い女性の声が上がり、一真と弥生が振り返る。そこにはショートカットで黒髪の綺麗な女性が目を潤ませて二人の前に居た。

「なんだなんだ?」
「御屋形様! 下がってください!」

 突然のことに戸惑った一真であったが、弥生は素早く凍星を構えて女性と対峙する。

「あ、あの、話を聞いてください! 私は危険な者ではありません! ここに巣食う愚神に連れて来られて逃げ出してきたところなのです!」

 女性が二人に対して必死に訴えかける。しかし、弥生は凍星を下げることなく女性に刃を向けていた。

「おい、弥生。武器を下ろせ」
「お、御屋形様……?」
『一真、敵を前にして武器を下ろさせるとは何事か?』

 不思議そうな顔を向ける弥生とライヴス内で灰燼鬼が疑問を呈する。そんな二人に一真は、

「敵? こんな綺麗な女性が敵なわけないだろ?」

 淀みのない言葉でそう言い放った。きょとんとする弥生にも聞こえそうなほど灰燼鬼がライヴス内でため息を吐いた。

『一真、本気で言っているのか? この状況で――』

 灰燼鬼が一真に言い聞かすように話そうとしたその時、弥生の頭の上で頭蓋骨がカタカタと鳴り始める。

「おっほぉー! ムッチムチのピッチピチのねーちゃんたちじゃねーか! おぃおぃおぃ、こんなとこフラフラしてっと危ねぇぞ、くっははは!」

 そして、弥生の大鎧についた骸骨が意思を持ったように動き出して弥生を引っ張って女性に近づく。

「こんな陰気臭ぇとこよりも俺様達と一緒に遊ぼうぜぇ! 俺様にかかりゃああっちゅうまにゴートゥーヘル、しゃうぜぇ。おぃ坊主ども、さっさと行くぞ! てめぇらにも俺様の遊びテクを伝授してやるぜ、くっはははははは……」

 禅昌はそう叫んで骨の腕が女性を掴んでその場を離れようとした。弥生は一真に助けを求めて泣き叫んでいる。

「ま、待ってください! 今出て行くと愚神に見つかるかもしれません。もう少し様子を窺った方が……」

 女性が困ったように声を上げた。見かねた一真が女性を掴んでいる骨の腕を引き剥がす。

「大丈夫、俺達はその愚神を倒しに来たんだ。あんたは俺達の影にでも隠れておいてくれ」
「そうだったのですね……。では、お二人ともお強いのですか?」
「くっははは! あったりめえじゃねえか。愚神なんて、あっちゅうまにゴートゥーヘルだぜえ……!」

 力強い一真の言葉に女性が問うと、禅昌が相変わらずの調子で話した。

「それはとても心強いです。私ずっと怖くて……。あの、お願いがあります。私、手を握られると心がとても落ち着くのです。お二人とも私の手を握って頂いてもよろしいですか?」

 ●形勢立て直し

『こちら、行方不明者と思われる者達を眠っている状態で発見したでござる。愚神の姿は見当たらないのでこの者達の容態をもう少し確認したらそちらと合流するでござる』
「わかりました、引き続きお気をつけください」

 倉庫に向かった初春の報告を構築の魔女がライヴス通信機で受け取る。
 構築の魔女、望月、マナ達は建物に沿って一真と弥生が入って行った入口の裏手にある人が一人通れる大きさの一般的な扉の前で待機していた。

「倉庫に向かわれた天城さんから連絡がありました。あちらの建物に救助対象の方々が居られるようです。愚神の姿はないとのことですからおそらくこの建物内に」
「では今頃、一真さん達が愚神を誘き出しているはずですね。私達も突入しましょう」
「そうですね、なんだか嫌な予感がしますし」

 構築の魔女が報告にあった内容を二人に伝え、マナと望月がそれぞれ答える。
 三人は顔を合わせて頷き合うと扉の取っ手に手を掛けて順に建物内に足を踏み入れた。
 すると、見通しの良い屋内の中央付近に三つの人影を発見する。
 三人が駆け寄ると、背中を向けた黒髪の女性がこちらに身体を向けている一真と弥生の手を握っているのが目に入った。

「二人とも無事ですか!」

 マナが呼びかけたが二人に反応はない。三人はそれぞれ武器を手に取って女性に向ける。
 三人に気づいた女性が振り返ると慌てたように声を上げる。

「あっ! あなた方もこの方達のお仲間ですか? 私はここに巣食う愚神につれて来られて逃げ出してきたところなのです。危険な者ではありませんのでどうか武器を収めてください」

 しかし、それを聞いた三人は武器を収めることなく、より警戒する。

「あなたは行方不明になった男性達と一緒に監視カメラに映っていた方ですね。あなたが何を言ったところであなたが愚神であると私は判断します」
「後ろのお二人も反応がありませんし、状況的に見た目は普通の女性ですがどう考えても愚神ですよね。嫌な予感が当たりました」

 強い口調で構築の魔女と望月がそう言うと、懇願するような表情をしていた女性の顔が一変する。

「チッ。こっちの二人みたいにあっさりと騙されたら良いのに、めんどくさいわねえ」

 言葉の通り怠そうに女性がそう言うと未だに静かな二人の影に隠れるように下がった。

「もうこの二人は私の意のままよ。さあ、やりなさい」

 女性が一真の背中をトンッと触ると屠剣「神斬」を手にした一真がそれを構築の魔女達に向けて振り下ろして斬撃を飛ばす。
 突然の仲間からの攻撃に驚いた三人であったが、なんとかその斬撃を回避する。

「ハッ――、俺は何を――」
「はい、おとなしくしててね」

 一瞬、我を取り戻した一真であったが女性に背中を触れられると再び静かに佇んだ。

「完全に操られていますね。ワタシが洗脳を解いてもあの状態ではすぐにまた愚神に洗脳されてしまいます」
「うーん、私が撃ち抜きましょうか?」
「いえ、それだとあの二人に当たる可能性があります。もう少し様子を見ましょう」

 三人がどうしようもなくなっている様子を見て女性は高笑いを上げる。

「あはは! あなた達は仲間に殺されるの! さあ、あなたもやりなさい!」

 今度は女性が弥生の背中をトンッと触る。
 弥生は飛盾「陰陽玉」を出すとそれを飛ばした。
 すると、三人に向かった飛盾「陰陽玉」は急速に方向転換し、女性の側面からぶつかって女性をはじき飛ばした。
 不意の攻撃を受けた女性は床に倒れる。そして、素早く立ち上がると、

「何故なの! 私の魅了は効いていたはず……!」

 そう叫んだ女性を弥生が睨みつけると大鎧の頭蓋骨がカタカタと鳴る。

「……くっははは、わりぃな! 俺様は血も涙もねぇただの骸骨だ、俺様が女を食っても喰われる事はあり得ねぇのさ……、くっははは!」
「つまり、私は操られたフリをしていただけです!」

 そう種明かしをされて女性は悔しそうに唇を噛む。
 弥生は隣で佇んでいる一真の前に立つと、

「御屋形様、失礼します――!」
「ぐほっ!」

 弥生は一真の鳩尾にライヴスを込めたパンチを打ち込むと一真は呻き声を上げた。それにより、一真も正気を取り戻す。
 一真はまだ状況が把握出来ていない様子だが、他の四人は女性に武器を向けた。

「くそっ! もうなりふり構っていられないようだね」

 そう女性が口にすると、女性の肌が灰色に変色し始め、背中に蝙蝠のような羽を生やすと爪も鋭いものと変化した。
 正体を現した愚神にエージェント達の手にも力が入る。

「そこの金髪の男以外にもそこの赤髪の女から男の匂いがするねえ……。なら、こいつで私の下僕となってもらおうか!」

 愚神が叫ぶと建物内にキーンという高音が響いた。
 すると、一真が弥生に、構築の魔女がマヤに武器を向ける。
 一真が弥生に向けて攻撃しようとしたその時、

「相方たる方々がおられるのに、何を鼻の下を伸ばしておられるのですか!」
『お初、手加減無用じゃ。やれ!』

 ライヴス内で稲荷姫がけしかけると同時に初春は木刀の峰で一真の後頭部に一撃を加えた。それによりまた一真は呻き声を上げて正気を取り戻す。

「餅さん、ありがとうございます。けれど普通にクリアレイだけで十分でしたのに……」
「この方が良く効くんです!」
「……そうですか」

 構築の魔女の方は望月が素早くクリアレイを注入したピキュールダーツを刺して事無きを得ていた。

「ふん! 何度だって魅了してやるよ!」
「――させません!」

 再び愚神が超音波を発しようとしたので、マヤがロングボウの矢を放つと愚神はそれを回避したが超音波を阻止される。すかさず構築の魔女がテレポートショットを使用して愚神に攻撃を当てた。

「ぐっ!」
「一気に畳み掛けるでござる!」

 小さく呻いた愚神に向かって初春が紅炎を手にして駆け出す。

「くそっ! 行くんだよ、お前達!」

 愚神は向かってくる初春にライヴスで構築した蝙蝠型従魔を数匹飛ばした。
 初春が足を止めて打ち払おうとしたが、その前に全ての従魔は弾け飛ぶ。

「天城さんはそのまま愚神に攻撃を!」
「私の弓の腕前にかかればこんなものです!」

 構築の魔女がPride of foolsで撃ち落とし、マナがトリオを使用してロングボウで撃ち抜いたのだ。
 初春は止まることなく愚神を紅炎の間合いに収める。

「なら、引き裂いてやるよ!」

 愚神がなぎ払うように鋭い爪を振るった。しかし、初春はその攻撃を飛んで避けるとジェミニストライクを発動させて愚神に攻撃を加える。
 そして間髪入れずに一真が愚神に迫っていた。

「散々俺を弄びやがって、礼を食らわせてやる! 歯ぁ食いしばれよ、トップギアからの――」

 初春の攻撃でよろめいていた愚神が一真を視界に捉えるとその瞳を光らせた。その光により一真の動きが止まりかけたが、

「何度洗脳されたら気が済むのですか! 殴られてばかりだったので特製です!」

 望月がそう言って投げたピキュールダーツが一真の首に刺さり、ケアレイとクリアプラスを注入される。

『全く、皆に助けられてばかりだな』
「うるせえ! これでチャラにしてやる。改めてトップギアからの疾風怒涛――、怒涛の百連突!」

灰燼鬼がライヴス内でやれやれといった様子で呟いた。
勢いよく一真の叫びとともに激しい攻撃が愚神に浴びせられる。

「ぐがああああ!」

 気力も戻った一真の攻撃を受けて愚神は断末魔を上げて吹っ飛んだ。建物の壁に叩きつけられて床の上に倒れた愚神はそのまま動かなくなったかと思うとその身体は霧散する。すぐに建物内にエージェント達の喜びの声が響いた。

 ●任務達成

 愚神討伐後、初春の案内で共鳴を解除したエージェント達が倉庫に駆けつける。
 すると、十数人の男性達が建物の二階部分に寝かされていた。

「わらわが確認したところ皆生きてはおる。愚神に深い眠りにつかされていたようじゃ」

 初春がそう言うと、何人かの男性が意識を取り戻したようで身体を起き上がらせようとしている。

「あっ、愚神を倒したから目を覚ましたみたい。みなさーん、愛の天使が救いに来たよ」

 そう百薬が呼びかけながら望月も手伝い男性達の救護に取り掛かった。

「搬送用の車両も要請しました。長い間眠られていて衰弱されている方もいらっしゃるようです。MM水筒に温かいスープを入れて来たので皆さんに配りましょう」

 そう言うと構築の魔女と辺是達も意識が朦朧としている男性達の側に寄り添い救護を始めた。

「ふむ。わしらは迎えが来るまで外で警戒しておくかのう。念には念をじゃ」
「そうじゃのう」

 稲荷姫の提案に初春も賛同し、倉庫の外に向かう。
 しかし、その後危険は起こらず緊急搬送用の車両が次々と廃工場に到着し、男性達は病院へ搬送されていく。エージェント達も救命士の人達に手伝って男性達を運んだ。
 そして、薄暗くなった空の下で最後の車両をエージェント達は見送った。

「助けた男の人たちはファンになってもらおうかな? プロレスファンに」
「いーやーよ。私は女の子大好きなの。願い下げだわ」

 愛とマナがそんなやり取りをしている後ろで弥生が一真を心配していた。

「御屋形様、お怪我はありませんか! 御屋形様の頼みだったとは言え、私は御屋形様に暴力を……」
「んー……、いいよ、気にするな」

 元気が無さそうな一真の様子を見て灰燼鬼が声をかけるが、

「月夜がいたらどうなって――」
「言うな、それ以上言うな……、殺される」

 怯えるように一真がその言葉を止める。

「これが今年最後の愚神事件とは思えないね」
「無事に年越しをするためにがんばるよ、そして美味しいおせちをいただくよ」

 雪がちらつき始めた空を見ながら望月と百薬がそんなやり取りを交わす。
 灯りがなくどこか寂しげな廃工場を後にして、エージェント達はそれぞれの帰路に着くのであった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • Foe
    灰燼鬼aa3591hero002
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 護りの巫女
    三木 弥生aa4687
    人間|16才|女性|生命
  • 守護骸骨
    三木 龍澤山 禅昌aa4687hero001
    英雄|58才|男性|シャド
  • 撃退士
    桜庭愛aa5183
    人間|18才|女性|防御
  • エージェント
    桜庭マナaa5183hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 天より降り立つ龍狐
    辰宮 稲荷姫aa5268hero002
    英雄|9才|女性|シャド
  • エージェント
    浅野 蓮aa5421
    機械|18才|女性|命中
  • エージェント
    ロータスaa5421hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
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