本部

クローゼットの中から

花梨 七菜

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/12/18 19:41

掲示板

オープニング

●寝るのが怖い
「ねえ、今日、お母さんと一緒に寝ていい?」
「なに、言ってんの。もう10歳なんだから、一人で寝なさい」
「じゃあ、ここで寝ようかな」
 コウキは、パジャマ姿でリビングのソファに寝転がった。
「そんなところで寝たら、風邪ひくでしょ」
「だってさぁ……俺の部屋さぁ……夜中に変なのが出るんだよ」
「なによ、変なのって」
「小さい人みたいなもの。……クローゼットの中から出てくるんだ。最初は、クローゼットの前に立っていたんだけど、毎晩、少しずつ近づいてくるんだ。昨日は、ベッドのすぐ傍に立っていた」
「なにそれ? 怪談? 学校で流行っている怖い話?」
「違うよ。本当の話だよ」
「ママは怖い話、苦手なんだから、そういうのやめてよ。夢でも見ていたんじゃないの。おしゃべりはもういいから、早く寝なさい」

 二階の自分の部屋で、コウキは母親に対して腹を立てていた。
「どうして俺の話を信じてくれないんだ。まったく困った母親だよ」
 でも、毎晩見ているものが夢ではない、と断言はできないのだった。夜中にふっと目が覚めると、変なものが見えて、その後また眠ってしまうから……。
 豆電球の明かりでぼんやり見える黒い影。あれは一体なんなのだろう。
「今日は電気をつけたままで寝よう」
 電気をつけていたら、影の正体がはっきりするはずだ。明るかったら、影は出てこないのかもしれないが、それならそれでいい。
 コウキは、頭から布団をかぶって目を閉じた。

 深夜。
 コウキは、ふっと目を覚ました。
 気配を感じる。アレが、すぐ傍にいる。怖い。見たくない。でも……勇気を出せ、自分。
「……せーっの」
 コウキは小声で呟いて、かぶっていた布団をはねのけた。
 ……。
 コウキの悲鳴が、夜のしじまに響いた。

●子供を狙う影
 H.O.P.E.敷地内のブリーフィングルームで、職員が説明を始めた。
「男の子が自宅で従魔に襲われ、病院に搬送されました。男の子は頭部に怪我を負い、重傷です。従魔は、身長30cmくらいの人型で、爬虫類と人間を混ぜたような顔をしていたそうです。ミーレス級従魔だと思われます。従魔は、男の子の部屋のクローゼットから出てきて、男の子を襲いました。男の子の両親が悲鳴を聞いて駆けつけると、従魔は部屋のドアから逃げ出しました。従魔の現在の居場所は不明です。男の子の家のどこかに隠れているのか、他の場所に逃亡したのか……。男の子を追って、男の子が入院中の病院にやってくる可能性もあります。従魔を探して討伐して下さい。よろしくお願いします」

解説

●目標
 従魔の討伐

●登場
 ミーレス級従魔。
 人型。二足歩行。
 外見は、爬虫類と人間を混ぜたような感じ。
 身長約30cm。
 両手の長い爪や、鋭い歯で攻撃する。
 非常に素早い。
 ・スキル(PL情報)
  「あやしい踊り」
  見た人を脱力させる奇妙な踊りで、BS「狼狽」を付与する。

●状況
 晴天。午前7時。
 従魔の現在位置は不明。
 コウキは、重傷で個室に入院中。意識ははっきりしている。

リプレイ

●少年が見たもの
『こういう手合いは大凡、自分の獲物に対して執着するものではあるが……』
 英雄のベルフ(aa0919hero001)は、呟いた。
「まぁ分かっている事の方が少ないし、一概には当て嵌めきれないかも?」
 九字原 昂(aa0919)は、小首をかしげた。
『となれば、地道に調べるしか無いな』
 ベルフは、飄々と言った。

「クローゼットから飛び出して襲いかかるとか卑怯な奴もいたものね!」
 雪室 チルル(aa5177)は、プンスカと腹を立てていた。
『行方がわからないってことだからひょっとしたらまた襲ってくるかも』
 英雄のスネグラチカ(aa5177hero001)は言った。
「そんな奴はあたいがけちょんけちょんにしてやるんだから!」
『これ以上怪我人が出る前に何とかしないとね。男の子は急に攻撃されて大変だったみたいだね』
「そうね。ここはさいきょーのあたいがかっこよく敵をやっつけて、さいきょーであることをアピールして元気づけてあげよう!」
『いや、それ以前にまず元気づけるところから始めなよ……。ついでに相手の詳細な特徴とかがわかれば良いんだけど』
 スネグラチカは、チルルにツッコミを入れつつ、まだ見ぬ敵の姿を想像し始めた。

「コウキ君がそんな目に……親の方や周辺住民の為にも、早く安心させてあげたいですね」
 月鏡 由利菜(aa0873)は、心配そうに眉をひそめながら呟いた。
『子供を傷つけた従魔は許せない……! 容赦なくぶっ飛ばすよ……!』
 英雄のウィリディス(aa0873hero002)は、真剣な表情で言った。普段は明るく元気いっぱいの彼女だが、今回の従魔には尋常でない敵意を抱いているようだった。ウィリディスがこの世界に来る前の過去の記憶が、従魔への怒りに影響しているのかもしれなかった。

『見えない恐怖が現実の脅威に変わりましたか……どちらがましなのでしょうね?』
 辺是 落児(aa0281)の英雄である構築の魔女(aa0281hero001)は呟いた。
「ロローー」
 落児は言った。
『そう、私達の仕事は、現実の脅威を取り除くこと、ですね』
 構築の魔女は言った。

「従魔は本人すら無意識な不安につけ込む事が有るから、日常で苛めやネグレクトが無かったかもそれとなく確認もしたいな」
 荒木 拓海(aa1049)は、コウキの身を案じながら呟いた。
『憑依された品や生き物を手に入れたって可能性もあるわね』
 英雄のメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は言った。
 拓海は、コウキが従魔に狙われたのは偶然か別の理由があるかを調べ、この先の不安を取り除く為に捜査へ向うことにした。

 エージェント達は、ライヴス通信機やスマートフォンで適宜連絡を取り合えるように調整すると、コウキの護衛役と従魔の捜索役に分かれた。
 コウキの護衛役をすることになった黄昏ひりょ(aa0118)とチルル達は、すぐに病院に急行した。
 ひりょは、心中で呟いた。
(コウキ君は従魔に怪我をさせられたが、その影響は体の怪我だけじゃない。心も深く傷を伴ったはず。少しでもその傷に寄り添えるように、この依頼の間だけに限らず解決後もお見舞いに来られそうならば来たい所だ)
 英雄のフローラ メルクリィ(aa0118hero001)も、ひりょと同じ気持ちであり、ひりょとちょっとした漫才気味な話でもして、コウキに少しでも笑顔になってもらいたいと思っていた。
 ひりょ達が病室に入ると、少年はベッドに横になっており、その傍で少年の両親が椅子に座っていた。少年の頭に巻かれた白い包帯が痛々しい。
「君がコウキ君だね? 俺はひりょ。君に怖い思いをさせた存在を倒しに来たんだ。俺以外にも物凄く強い人達が沢山来てくれてるから、絶対君を守るよ」
 ひりょは、そう言ってコウキを安心させた。
「さいきょーのあたいがいるんだから、もう大丈夫だよ!」
 チルルは、にこっと微笑んだ。
『どーんと任せてちょーだい』
 スネグラチカも、笑顔で言った。
 コウキは、小さな声で、ありがとうと言った。
 コウキの両親は、コウキの服や身の回りの物を取りに自宅に帰りたいということだったので、そうしてもらうことにした。
 チルルは、病室を歩き回りながら、従魔の侵入路になると思われる入口・空調部分・窓のチェックを始めた。
「コウキ君、何があったのか話してもらえるかな。俺は絶対に君の話を信じるよ」
 コウキが夜中に出てくる影の話を母親にしても信じてもらえなかったということを考慮して、ひりょはコウキにそう約束した。
(俺は外見的に結構子供っぽい風貌だから、コウキ君より少し上くらいの頼れるお兄ちゃん、と思ってもらえるといいが……)
 ひりょは、そう思いながら、コウキの顔を見守った。
『大丈夫よ。このお兄さんは嘘つかないから』
 フローラが言って、励ますような笑みを浮かべた。
 コウキは、ぽつりぽつりと話し始めた。
「最初に影を見た日に、何か普段と違う出来事がなかったかな。その前の日でもいいけど。何かを拾ったとか、何かを壊してしまったとか」
 コウキは従魔に襲われてとても怖い思いをした後なので、ひりょは言葉を選びながら慎重に尋ねた。
「普段と違う出来事? うーん……」
 コウキが思い出そうとしている間、ひりょは辛抱強く待った。絶対にコウキの負担になるような聞き込みはしないと、ひりょは決めていた。昼間の内に話を聞いておきたいと思っていたが、まだ時間はたっぷりある。日が沈んで暗くなると、コウキが襲われた時の事を思い出して辛い思いをさせてしまう可能性があるので、それは絶対に避けたいと思っていた。
「そう言えば……関係あるかどうかわからないけど……」
 コウキは、最初に影を見た日にあった出来事について語り始めた。
 ひりょは、ライヴス通信機とスマートフォンを使って、仲間にコウキの話を伝えた。
「コウキ君は、最初に影を見た日に、近所の公園で友達と遊んでいたそうです。その時、砂場に二重丸の絵が描いてあるのを見つけて、友達は気味悪がって近づかなかったけれど、コウキ君は足でその絵を消したそうなんです。誰かのいたずらの可能性もありますが、念のため近所の公園の捜索もお願いします」
 仲間への連絡を終えると、ひりょとフローラはコウキと世間話を始めた。コウキの心に寄り添い、元気づけ励まして少しでも心のケアを行うために、楽しい話題を選んだ。

●家の捜索
 拓海は、ひりょの配慮の細かさを頼って、コウキへの聞き込みはひりょに任せ、自分は、メリッサ、昂、ベルフと一緒に、コウキの自宅へと向かった。インターホンを鳴らすと、既に病院から戻っていたコウキの両親が、エージェント達を出迎えた。
 昂は、従魔が出現した時の状況について両親に尋ねた。
「コウキの部屋のドアを開けたら、緑色の怪物が飛び出してきたんです。怪物は私の足下を走り抜けてどこかに行ってしまいました。とにかく素早くて、姿はよく見えませんでした。そして、ベッドの上を見たらコウキが血だらけで……。私があの子の言うことを信じていれば、こんなことには……」
 母親は、うっすらと涙を浮かべた。父親は慰めるように、彼女の肩に手を置いた。
 拓海は、日常生活でコウキに変わった様子や取得物が無かったか両親に尋ねた。
「変わったことは特にありませんでしたよ。爬虫類を隠れて飼ったり、ですか? それはありません。あの子は爬虫類が嫌いなので」
 拓海とメリッサは、母親からコウキの友達の家を教えてもらい、その子の家を訪ねることにした。
 昂とベルフは、コウキの自宅に残り、家の内部や周辺に愚神の痕跡が無いか調査することにした。

「え! 昨日の救急車、コウキだったの! コウキは大丈夫?」
 少年は、コウキの怪我を知って驚いていた。拓海がコウキの最近の様子について尋ねると、少年は言った。
「特に変わったことはなかったけど……」
「コウキ君って、どういう子なのかな?」
「どうって……いいヤツだよ。でも、すぐムキになるんだよな。皆で怖い話をしていた時に、本当は怖いくせに俺は怖くないって言い張ってたし。それが面白くて、ついからかっちゃうんだけど」
 少年に悪気はないようだったが、それがコウキの心を傷つけて従魔を引き寄せたのだろうか。
「怖がりであることは、悪いことではないよ。キミはからかうのが面白かったかもしれないけど、コウキ君はどう感じていただろう?」
 拓海がやんわりと注意すると、少年は頭をかいた。少年は反省しているようだから、この問題は当事者同士で解決できるだろうと拓海は考え、コウキの自宅に戻った。

「何の痕跡も残さずに、っていうのは難しいとは思うけど……」
 昂は、コウキの部屋を調べながら呟いた。血のついた掛布団がベッドの上でくしゃくしゃになっている。それ以外は、ごく普通の子供部屋だった。
『そもそもが、常識の通じない相手だからな』
 ベルフはそう言って、シャッとカーテンを開けた。窓からさしこむ光が、クローゼットの中を照らし出した。昂は、膝をついてクローゼット内の床を触った。
「これは……砂だね」
 細かい砂が、クローゼットの床の上に散らばっていた。
 昂とベルフは、部屋の中をくまなく調べてみた。ベッドの傍の床にも、ごく少量の砂粒が見つかった。
『従魔に付着していた砂ということか』
「問題はどこで付着したかということだね」
 ベルフと昂が話していると、拓海とメリッサがドアをノックして部屋に入ってきた。
 昂と拓海は、調査結果を報告しあった。
 共鳴した拓海はモスケールとライヴスゴーグルを使用して、クローゼットの周りを調べた。
「特に強いライヴスは感じられないな。ドロップゾーンを作られそうな気配も現れていない。コウキ君の家の調査は終了して、その砂の出どころを探ろうか」
 拓海がそう言った時、病院にいるひりょから皆に連絡が入った。
「私は、公園を調べてみます」
 由利菜は、ライヴス通信機を使って皆に伝えた。
「公園の砂場か。怪しいね。オレ達も行ってみよう」
 拓海の言葉に昂は頷いた。

●周辺の捜索
『ふむ、被害者の彼を狙って追いかけている可能性は高そうですよね』
 落児と共鳴した構築の魔女は、レーダーユニット「モスケール」を使用して、コウキの家を起点に病院へ向かうように捜索を始めた。病院への搬送経路を辿るように移動しながら、塀の内側等の死角を警戒しつつ捜索した。
『ひとまず、野外に潜んでいないか確認して護衛のメンバーと合流しますか』
 レーダーユニットに反応が現れないまま、構築の魔女は病院に到着した。構築の魔女は、コウキの病室に顔を出してコウキとひりょ、フローラ、チルル、スネグラチカに挨拶をした後、病室からコウキの移動経路を逆に辿るようにレーダーユニットで捜査した。カーテンや扉・棚など子供の視点で死角になる部分を警戒し、周囲の状況の把握につとめた。コウキの病室は常にレーダーの範囲内であるように注意して、異常があればすぐに仲間に連絡するつもりだった。
『奇襲を受けないように早めに発見したいものですが……』
 構築の魔女は、地道に捜索を続けた。

●公園では
 拓海、メリッサ、昂、ベルフが公園に到着すると、マップラインプロジェクターを手にした由利菜とウィリディスが既に公園に来ていた。
 由利菜は、ウィリディスと共鳴して神経接合マスクを装備して公園内を捜索したが、従魔は見つからなかったことを皆に告げた。
 昂は、コウキの部屋で見つけた砂をティッシュペーパーに包んで持ってきていた。
「同じみたいだね」
 昂は、ティッシュペーパーに載っている砂と砂場の砂を比較しながら言った。
 拓海は、近くで遊んでいる子供達に、砂場で奇妙な物を見かけなかったか、夜中に変な影が現れたりしないか聞いてみたが、子供達の答えはどちらも「NO」だった。
「今までの情報を整理すると、公園の砂場に二重丸の絵が現れた。友達に怖がりだとからかわれていたコウキ君は、強がってその絵を消した。その行動によって、従魔の注意をひいて狙われるようになってしまった。そういうことかな」
 拓海が言うと、皆は頷いた。
「二重丸がなんなのかはわかりませんが、従魔は手あたり次第に子供を襲っている、というわけではないようですね」
 由利菜は、言った。
「従魔は再びコウキ君のところにやってくる可能性が高いですね」
 昂はそう言うと、ライヴス通信機で仲間に状況を説明した。
 エージェント達は、コウキの自宅に行き、コウキの両親にコウキが再び狙われる可能性があるが、コウキの安全は自分達が守るので任せてほしいと告げると、病院に急いだ。

●病室にて
 拓海、メリッサ、昂、ベルフ、由利菜、ウィリディスは、コウキの病室に到着した。構築の魔女も、病室にやってきた。
「お兄ちゃん達はみんなコウキ君を守るために集まったヒーローなんだぞ」
 拓海は、そう言ってコウキの頭を撫でた。
『やっつけちゃうから安心して良いのよ。それでも怖かったらお兄ちゃんを電話で呼び出しちゃってね』
 メリッサは、優しく微笑んだ。拓海とメリッサは、コウキに少しでも安心してもらえるように気を配っていた。
 昂と由利菜もコウキに話しかけて、コウキの不安を取り除くように努めた。
 皆が歓談している間に、拓海は、従魔の侵入路や逃げ道となりそうなダクト等を段ボールで塞いだ。そして、「轟け龍虎魂」を装備し、小柄で素早い従魔との室内戦を想定し小回りの効く武器を準備した。
『目に見える証拠もあった方がいいですよね』
 構築の魔女は、ヘッドセット型のビデオを頭につけた。従魔の討伐映像を撮影して、あとでコウキの安心材料としようと思ったのである。
 時刻は午後四時。日没が迫っていた。

●深夜
 コウキは、夕飯を食べてから眠りについた。病室の電気は、コウキの希望通りにつけたままにしてある。エージェント達は、各自の英雄と共鳴した状態で、椅子や床に座って待機していた。
 従魔がコウキの部屋に出現していた時間帯になったので、そろそろ従魔の出現が近いと考えて、拓海は集中力を高めた。共鳴後も拓海の姿のままだが、髪は銀色でやや眺めになっている。
 構築の魔女は、レーダーユニットの反応に気づいた。
『窓の外にいます!』
 室内の空気が、一気に張りつめた。換気口に貼ってあった段ボールがベリッと剥がれ、従魔が換気口の隙間から部屋に侵入した。
 昂は、女郎蜘蛛を使用した。昂の顔から普段の柔和な笑みは消えていた。
 従魔は昂の攻撃を避けると、コウキの寝ているベッドに駆け寄った。
「これ以上、この子を傷つけさせない。絶対に、だ」
 エマージェンシーで従魔の奇襲に備えていたひりょは、ライヴスミラーを発動しコウキを庇うように立ち塞がった。共鳴したひりょは、本来の年齢に近い姿へと変化している。コウキが今のひりょの姿を見ても、誰だか気づかないかもしれない。
 従魔はひりょの作り出した反射鏡にぶつかって、床のうえを転がった。
『意外に小さいですね……注意しましょう』
 構築の魔女はそう呟くと、双銃を構え妨害射撃を行って、従魔の退路を塞ぎ仲間の攻撃を援護した。部屋の電気がついているので、ガンライトははずしてある。
 拓海にとって、コウキの安全が第一ではあるが、今は護衛役の仲間を信じ、自分は討伐に専念することにした。拓海は、一気呵成を使用し、従魔を転倒させた。
 従魔は素早く起き上がると、あやしい踊りを踊り始めた。手をひらひらさせながらぐるっと円を描くように回って、ジャンプして後退するとまたぐるっと一周。
(……あはは、何か変な踊りだね)
 ウィリディスは、思わず笑ってしまった。
「リディス、笑っている場合ではありませんよ」
 由利菜は、狼狽しながら呟いた。ひりょは、由利菜にクリアレイを放った。
 チルル、昂、構築の魔女は狼狽した。
 拓海は、あやしい踊りを見て狼狽したものの、「轟け龍虎魂」の力で狼狽から回復した。
 由利菜は、昂にクリアレイを放った。
 昂は、従魔に近接戦を挑んで圧力を掛け、従魔が動き回るのを妨害した。
 従魔は、昂の右足首に鋭い歯で噛みついた。
 拓海は、電光石火を使用した。従魔の動きが止まった。
 ひりょは、昂にケアレイを放った。
 構築の魔女は、シャープポジショニングを使用し、従魔の不意をついて攻撃し、仲間の攻撃を補助した。
「神の槍から逃げられますか!」
 天衣『アンゲルス・ストラ』を身に纏い聖女の姿となっている由利菜は、グングニルで従魔を攻撃した。槍が従魔の腰に刺さり、魔法陣が赤く染まった。
 ノイズキャンセラーで意識を明確化していた構築の魔女は、従魔の手の動きに気づいた。あやしい踊りが始まると見てとった構築の魔女は、レーダーユニットで従魔の位置情報を把握し、従魔の手足など末端を狙い見て、踊りの全体像を直視しないようにした。
『……確かに不意を突かれますが、二度も引っかかりはしませんよ?』
 構築の魔女は冷静に呟いた。
 昂、拓海は狼狽した。
 ひりょは、拓海にクリアレイを放った。由利菜は、昂にクリアレイを放った。
 従魔は、構築の魔女を長い爪で攻撃した。構築の魔女はその攻撃を回避した。
 その時、コウキが目を覚まし、おびえた様子で辺りを見回した。
 ひりょは、素早くベッドの周りのカーテンをひいて、コウキの視線を遮った。
「大丈夫だよ。あたいがすぐに悪者をやっつけてくるからね」
 チルルは、コウキに声をかけると、カーテンの外に出た。
「任せておいてコウキ君。こう見えても俺達はすっごく強いんだからさ!」
 ひりょは、力強い笑顔でコウキを励ました。コウキは戸惑った表情をしていたものの、頷いた。それを見届けてから、ひりょはカーテンの外に出た。
 チルルは、前衛に走り込んだ。共鳴後のチルルは、氷と雪を模した白色を基調としたロングコート姿で、冬の冷気のようなオーラを纏っている。
 チルルは、守るべき誓いを使用して、従魔の注意を引きつけた。
 従魔はチルルを長い爪で攻撃した。ひりょは、チルルにケアレイを放った。
 昂は、猫騙を使用して、従魔の行動を遅延させた。
 構築の魔女は、テレポートショットを使用した。死角からの攻撃に、従魔の動きが乱れた。
 拓海は、従魔に斧を振るった。
 従魔は、コウキのベッドに向かって走った。
 チルルは、ハイカバーリングで従魔の前に立ちはだかり、リフレックスで従魔の攻撃を防いだ。従魔は、カウンターをくらって唸り声を上げた。
 従魔は、チルルの横をすり抜けてコウキを襲おうとしたが、由利菜の神槍がそれを阻んだ。
 昂は、縫止を使用し、ライヴスの針を従魔に放った。
 拓海は、従魔を斧で攻撃した。
 従魔は、両手をひらひらと動かし始めた。
「こんな時こそライヴスリッパーの出番よ!」
 チルルは、ライヴスリッパーを使用して、あやしい踊りが始まる前に従魔を気絶させた。
 ひりょは、気絶した従魔に接近して刀で斬りつけた。
 構築の魔女は、従魔に接近し、従魔に銃弾を撃ち込んだ。
 昂は、従魔を攻撃し、更に【SW】ノーシ「ウヴィーツァ」で従魔に追加攻撃を行った。
 従魔は、息絶えた。
 構築の魔女は、従魔が複数体いる可能性を警戒し、従魔が息絶えてからもレーダーユニットは起動したままにしておいた。
『考えすぎでしょうけど……一応、警戒を』
 構築の魔女はそう言って、病院の廊下をしばらく歩いていたが、やがて病室に戻ってきて『反応はありませんでした。もう大丈夫ですね』と微笑んだ。

●悪い夢の終わり
 コウキは、白い布団を頭からかぶり震えていた。ベッドの周りのカーテンが開く音がした。
「コウキ君」
 面白い話をたくさん聞かせてくれた声がして、布団がゆっくりはがされた。
「もう大丈夫だよ」
 ひりょの優しい笑顔がそこにあった。
「よく眠っていたのに起こしてしまって、すみませんでした。どこか痛いところはありませんか」
 由利菜は、救急医療キットを手に話しかけた。
『従魔は退治しました。退治した時の映像がこの中に入っています。もしも、またクローゼットから影が出てくるんじゃないかと不安になったら、これを見て下さい』
 構築の魔女は、コウキにビデオを渡しながら言った。
「ありがとう」
 コウキは、ベッドの周りにいる頼もしいヒーロー達の顔を見回して微笑んだ。
「本当にどうもありがとう。これでゆっくり眠れるよ」

●朝が来た
 エージェント達は、H.O.P.E.とコウキの両親に、従魔討伐完了の報告をした。
 朝になり、コウキの両親が病院に来た。
 エージェント達は、コウキと彼の両親に別れを告げ帰路についた。
『コウキ君が笑顔になってくれてよかったよ』
 ウィリディスは、晴れやかな顔で呟いた。
「そうですね。本当によかったです」
 由利菜は頷いた。ウィリディスが、子供を傷つける従魔に対して怒りを持つようになったのはどうしてなのだろうと気になったが、あえて尋ねなかった。きっとその内に知る機会が来るだろう。
『コウキ君と仲良くなれてよかったね』
 フローラは、ひりょに言った。
「そうだね。また今度お見舞いに行こう」
 ひりょは、笑顔で言った。
『コウキ君が従魔は退治されたと納得してくれてよかったです。子供の成長にとって睡眠は大事ですからね』
 構築の魔女は言った。隣を歩く落児は頷いた。
「それにしても、変な踊りだったね。こんな感じだったかな」
 チルルは、従魔のあやしい踊りの真似をした。手をひらひらさせながら、ぐるっと一周。ジャンプしてまた一周。
 拓海は、ポンッと手を叩いて言った。
「砂場にあった二重丸の謎がわかったよ。その踊りだ」
『砂場で踊りの練習をしていたのかしらね』
 メリッサは、少し微笑んで言った。
「あやしい踊りで小動物を捕獲していたのかもしれませんね」
 昂は、おっとりと言った。
『そうかもしれないな』
 ベルフは、頷いた。
『その踊り、恥ずかしいからやめなよ』
「そんなこと言って、だんだん真似したくなってきたでしょ?」
 わぁわぁやり合っているスネグラチカとチルルを先頭に、エージェント達は歩いた。
 家に帰って一休みしたら、また次の依頼が待っている。次の敵がどれほど強敵かはわからないが、今はコウキの笑顔が与えてくれた幸せをかみしめていたい気持ちだった。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049

重体一覧

参加者

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 花の守護者
    ウィリディスaa0873hero002
    英雄|18才|女性|バト

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
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