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夕暮れのダークヒーロー
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最終発言2017/12/05 07:38:31 -
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最終発言2017/12/05 07:35:32
オープニング
●とある漫画家の打ち合わせ風景
人気漫画「夕暮れのリンカー」をご存知だろうか。太陽が沈んでからしかリンカーとして活躍できないダークヒーローを描いた作品であり、とある月刊誌の看板作品でもあった。
「いやー。それにしてもモチヅキ先生はリンカーではないのに、リンカー同士の戦闘の描写が上手いですよね。もちろん、それだけじゃなくて主人公に影があるところもいいんですが」
担当編集者はネームの打ち合わせをしながらも、提出されたアイデアに感嘆のため息をつく。夕暮れのリンカーは、主人公の過去の影や葛藤、戦闘描写に定評がある作品である。大きな組織には属さずに正体を隠してヒーローを行なっているという設定も、いい感じにファンタジー入っていると現役のリンカーたちに高評価を得ていた。
「昔、リンカーの友人がいたんです。学校を卒業したら、それっきりになっちゃたけど……」
「連絡先とか交換しなかったんですか?」
「していたけど、相手が携帯の番号やメルアドをかえちゃったみたいで。どこかに遊びにいくばっかりで、実家もしらなかったし」
よくあることですよ、と漫画家のモチヅキは微笑んだ。
「でも、この作品の主人公は彼がモデルなんですよ」
●とある悪人の立ち読み風景
中学校のときにスバルは、リンカーとなった。当時はスバルの周囲にリンカーはあまりおらず、唯一の同族は地元のヤンキーたちであった。そのため、スバルがずるずるとそちらの道に入っていくのに時間はかからなかった。高校に上がることにはもう教師も恐れるほどの悪ガキになっており、スバルも自分は悪人なのだと自覚していた。
――君、リンカーなんだよね。
そんなスバルに話しかけてきた生徒がいた。
ノートとシャープペンだけを持って「どういうふうに、共鳴するのかを教えて!」と頼んできた漫画家の卵だった。
「おい、嘘だろ・・・・・・」
コンビニで、スバルは震えていた。
雑誌の漫画のなかに、高校生のころの自分がいた。いや、正確には高校のころになりたかった自分なのである。
――昼間はクラスに馴染めないどうしようもないヤンキーで、親の理解も友人もいないくてグレているヤンキー。一人になるのが怖くて、それでも自分は善良だと信じていたくて、日が沈んだ後はたった一人で正義のヒーローとして街をさまようリンカー――夕暮れのリンカーの主人公は、高校生のころにスバルがなりたいと思った姿だった。
「あいつ、漫画家になってたのかよ」
スバルの手が、震えた。
絵柄にも見覚えがあった。あのころよりも、はるかに上手くなっているが微かにモチヅキの画風の特徴があった。
「夢かなえたか……ははっ、俺はなにをやってるんだよ」
高校を退学したスバルは、結局はまともな道には進まなかった。悪い仲間と犯罪に手を染めて、どうにかこうにか生きているだけの生活。高校の頃に使っていた番号もメルアドも全て変えたのは、唯一の友人を自分の悪い人生に巻き込みたくはなかったから。
「おっ、モチヅキ先生の連載じゃん」
後ろから仲間が、声をかけてくる。
「ここの雑誌編集部ってさ。毎年、この季節になるとホテルで忘年会をやるらしいぜ。せっかくだから、モチヅキ先生にヴィランの怖さってやつを教えてやろうぜ。人気漫画たちと編集部なら、身代金もたんまりだろうし」
何を言っているのか、スバルには理解できなかった。
いいや、理解できていた。
編集部の忘年会に押し入って、漫画家と編集部を人質にとって身代金を要求する。バカな作戦であるし、すぐに失敗するだろう。だが、重要なのはそこではない。
仲間が忘年会を壊すというのならば、自分もそこにいかなければならない。
行けば――見られる。
未だにうだつ上がらないただのチンピラである自分自身の存在を、モチヅキに見られてしまう。だが、自分一人の力で仲間全員を止めるのは不可能だ。
「あら、困っているみたいね」
苦悩するスバルに、声をかけたのは愚神であった。
●とあるホテルの忘年会の風景
豪勢なホテルで行なわれた忘年間。一応は正装でとのお達しは作家たちには出しているが、忙しい漫画家たちは私服できているものも多かった。
「先生、来年も夕暮れのリンカーを盛り上げて生きましょうね。目指せ、アニメ化ですよ」
「が……がんばります」
担当に励まされながら、モチヅキも忘年会を緊張しながら楽しんでいた。彼と同世代の漫画家は何人かいたが、皆もモチヅキと似たような顔で忘年会を楽しんでいた。
「全員、手をあげろ!!」
そんなパーティー会場に、覆面をした男が現れる。手には拳銃を持っていて、一目で悪漢であると理解できる風貌であった。
「おとなしくしていれば、危害は加えないぞ。おとなしく――」
ばたり、と拳銃を持っていた男が倒れる。
男の背後にいたのは、夕暮れのリンカーの主人公であった。無論、本物ではない。それに近い格好をした、単なるコスプレである。
「俺のライブスを提供してやれば……編集者と漫画家たちには手を出さないで、仲間たちを大人しくさせてくれるんだよな」
夕暮れのリンカーの主人公の格好をした男――スバルは隣にいる愚神にささやく。
「ええ。でも、以外ね。あなたは、どうして仲間を痛めつけることを選んだの?」
愚神は、尋ねる。
スバルはここに来る前に、努力した。自分だけの力で、この襲撃を止めさせようとした。だが、駄目であった。スバルは、ヒーローではないから一人で戦えない。
ズルをして、もっと大きな力に頼らないといけない。
「俺の問題だ。もうたずねるな。約束どおり、俺と仲間はおまえにくれてやる。だから、この場にいる漫画家と編集者は逃がしてくれ」
愚神は微笑む。
「ええ、その約束だけは守ってあげるわ」
●とあるホテルの外の風景
「だから、愚神が出たんです!!」
編集者の一人が、ホテルの外からH.O.P.Eに電話をかけていた。あの愚神は、なぜかあの場にいた漫画家と編集者は襲わずに見逃した。そのおかげで、モチヅキはホテルの外に避難することができた。一般客も、無事に避難することが出来たようである。
「あの人って……」
モチヅキは、呟く。
自分の漫画の熱狂的なファンという可能性は捨てきれない。だが、だとしたら武器の種類が違う。今連載している主人公の武器は、銃と刀。だが、友人と担当編集者にしか見せていない本当の初期主人公のデッサンは日本刀のみを武器にしていたのである。
「まさか……」
解説
・愚神の討伐および、スバルと仲間の保護
場所……ホテル(夜)五階建てのホテルの最上階。ワンフロアが丸ごとパーティー会場になっている。テーブルや料理がまだ残っているが、立食式のパーティーだったので物は少なめ。フロアの真ん中に階段があり、外には避難用の階段がある。緊急事態であるためエレベーターは止まっている。一般客は避難済み
スバル……街のチンピラレベルのリンカー。喧嘩の数は豊富。愚神に操られ、傀儡となっている。黒いライダースーツを着ており、夕暮れのリンカーの主人公に近い格好をしているがフィルフェイスのヘルメットを被っているために顔は見えない。基本的に肉弾戦を好むが、場合によっては腰に収めた二本短刀も使用する。
悪の鉄槌――手足を一時的に強化し、肉弾戦を有利に進めるための業。防御手段としても有効。
悪の心得――二本の短刀を同時に振り下ろすことで、衝撃派を放つ。中距離用の技。威力はあまりなく、目くらましの要素が強い。
悪の残滓――黒い霧を発生させ、相手のライブスを奪う。奪ったライブスにて、回復が可能。
スバルの仲間(五人登場)
全員が銃器を手にしており、スバル同様に傀儡になっている。だが、スバルと比べると戦闘能力がやや落ちる。
欲望の塊――スバルに気を引かれている者に対して、銃を乱射。
欲望の鉄槌――敵の周囲を取り囲み、一斉掃射を行なう。
愚神
女性型の愚神であり、スバルやスバルの仲間たちからライブスを得ている。ピンチになると彼らからより一層ライブスを搾り取る。若い女性型の愚神であり、給仕のスタッフ用の服を着ている。武器は槍。
悪からの開放――槍に雷電をまとわせて、攻撃する。対象に当たると、火傷を負わせ徐々にダメージが蓄積する。
欲望からの開放――槍を床につきたて、自分の周囲に十秒だけ電撃を発生させる。
友情からの開放――スバルたちのライブスを使用し、自らの肉体に雷電をまとわせる。
リプレイ
夕暮れのリンカーの主人公は、今日も紙の上で孤独に悪と戦う。それは、かつてスバルがなりたと思い描いていたものであり、モチヅキが彼に見た憧れの結晶でもあった。
●突入前
「ホテルの最上階まで階段……老人にはキツいね!」
『階段を上ったのは、俺じゃんか!』
うっかり大声をだしそうになったルカ ロッシ(aa5159hero001)は周囲に注意を受ける。今はホテルに立てこもったヴィラン退治のために身を潜めているのだ。大声は確かにいただけない。
『……いまのは、じーさんが悪いのに』
「老人はいたわるものだよね」
ちゃめっけたっぷりのモーリス チェスターフィールド(aa5159)に対して、ルカは怒りを抱きつつあった。なにせ、ホテルのエレベーターは止まってしまっていたのだ。その五階建てのホテルの階段を駆け上がった疲労を、モーリスにも分けてあげたいぐらいだ。
「ヒーローが悪役に利用されて良い訳がないのです! あいは知ってるです! 本当のヒーローは……最後には絶対勝つのデス!!」
マフラーを巻いたあい(aa5422)は、ぐっと拳を握っていた。ちなみに、巻いているマフラーの色は、情熱の赤。別名リーダーの色だ。
『あいちゃんにヒーロー役とか似合わないと思うけど……ま、乗せられてあげるわ』
参謀役として青色のマフラーを巻かされてしまったリリー(aa5422hero001)は、微笑む。
「あいもヒーローだけど、あっちもヒーローデス!」
どういう意味だろうか、とリリーは首を傾げる。
「……あのヴィラン、ヘルメットを被っていますが、確かに任務前に見せて頂いたモチヅキさんの漫画の主人公とそっくりです!」
月鏡 由利菜(aa0873)が声を上げた。
『本当だね。コスプレにしては変だし、顔を隠すためにしてもフルフェイスのヘルメットで戦闘なんて動きづらいから普通は考えないよ』
ウィリディス(aa0873hero002)も首をひねりながら「故意なのかなぁ」と呟いた。
「ねぇ、夕暮れのリンカーって漫画を読んだことある?」
ウィリディスは、八朔 カゲリ(aa0098)に尋ねて見た。
だが、カゲリは首を振る。
「読んだことはないな」
『私も、読んだことはありません。どんな話なのでしょうか?』
夜刀神 久遠(aa0098hero002)も同じ言葉を返す。
「……ヒーローものらしいよ」
紀伊 龍華(aa5198)は、おどおどと答えた。ちょうど龍華の年代に流行っている作品だったので、龍華は作品の題名とストーリーは知っていた。ノア ノット ハウンド(aa5198hero001)が笑顔で提案する。
『せっかくだから、こっちも漫画の主人公の真似をすればいいんですぅ。ほら、少年漫画で流行っているヒーローの格好とか』
「おっ……俺には無理だよ」
そんなの恥ずかしすぎる、と龍華はさらにフードを深く被った。
「またヒーロー……ああ、鬱陶しい」
アリス(aa1651)は、小さく呟く。
その囁きをAlice(aa1651hero001)は聞き逃さなかった。
『調子悪そうだね。どうする、アリス?』
ここ最近、ヒーローという存在に足を引っ張られる。
今回は違うと思ってやってきたのに、ここでもヒーローと言葉を聞くとは思わなかった。
「どうするもない。依頼はこなす、それだけだよ」
これ以上の面倒は御免なだけ、とアリスは言った。
『今、ヒーローの話は関係ないネー。ワタシたちは、お仕事をしにきたんだから』
キャス・ライジングサン(aa0306hero001)の言葉に、鴉守 暁(aa0306)は顔をしかめる。この事件には、もうちょっとだけ複雑な理由があるような気がするのだ。
「んー愚神にーヴィラン? 操られてるの見るに事情があったんじゃないかとだけど」
『見るからにチンピラヨー。シゴトに困ってたトカ?』
不況って怖いネー、とどこまで不況が分かっているのか分からない能天気な声でキャスは言う。
「さあなー。元々襲うつもりだったんじゃないかなー。逃がしたのは良心の呵責? ま、リンカーが愚神にただで耳を貸しちゃあいけないよねー」
『自我ヲ奪われテ約束守るハズナイデスネー』
二人は、戦闘の準備を整え終えた。
もう、合図一つでいつでも飛び出せる。
『皆さんの準備はいいみたいですね』
エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)は、仲間たちを見る。
「愚神に唆されて粋がっているヴィランという構図はよく見ますけど、今回もそうみたいですね。ただ、彼らを殺してしまわない為にもそれを放置する訳にはいきませんから……私達は正義の味方という訳ではないですが、仕事である以上は確実に仕留める事にします」
仕事をしましょう、と晴海 嘉久也(aa0780)は始まりの言葉をささやいた。
●チンピラ相手の作戦
『よーし、トウくん! 張り切っていこー!』
シエロ シュネー(aa1725hero001)は、「おー」と片手を振り上げる。
「張り切りすぎて飛び出すなよ」
なんか、もう色々と遅いような気がしたが白市 凍土(aa1725)は一応言っておいた。今回の自分たちの役割はチンピラの相手だから、よっぽどのことがない限りは負けないだろう。だが、そのよっぽどのことがシロエの張り切りすぎによって起きそうで怖くもある。
『シャンシャンシャーンといくよー!』
できるだけシロエは、チンピラの手足を狙う。
殺さないようにという嘉久也の言葉を覚えていたのだ。シロエは「えらい!」と自分で自分を褒めてあげる。だって、凍土は厳しいからこんなことぐらいでは褒めてくれないのだ。
「被害は抑え目にな……出来ればご馳走持ち帰りたい」
倒れたチンピラの下地になったメロンを見ながら、凍土は呟く。その言葉に、シエロはうるっときた。でも、ちょっと無理だ。
人の数が多いし、乱戦になりつつある。
いくらシエロが気をつけても、ご馳走は床に落ちて踏まれてしまうだろう。今だって、ローストビーフが床に落ちて踏まれてしまった。
「……はぁ」
『私のことは応援してくれないのかな?』
「してるって。あっ……ケーキがつぶれた」
段々と声が悲しげになっていく、凍土。
無自覚なのが、またシエロの涙を誘う。
「こっちは任せて……」
無音 冬(aa3984)は、敵と味方の位置に目を光らせる。
今はまだ、セーフティガスを使えない。
使ってしまえば、味方ごと巻き込むであろう。
だから、敵の半分を受け持った。
『白市って言ったわね……あの子いくつ?』
春(aa3984hero002)は、この場で関係ないことを尋ねてきた。自己紹介のときに年齢までは言っていなかったが、百五十センチ以下の身長からして冬よりは年下であろう。
「十四ぐらいなのかな……?」
冬の言葉に、春はかっと目を見開く。
『14!? 冬……あんたの方がお兄さんじゃない! 何楽しようとしてるのよ!』
もっと敵をひきつけなさい、と春は冬をしかりつけた。
冬は、無言になった。
そして、冷静に考える。
自分が敵四人をひき付ける、姿を――。
「あっ、無理」
想像の戦闘で、冬は敵に袋叩きになっていた。
そんな冬の脳裏など知らず、春は怒鳴った。
『何て顔してんのよ……年上なんだから当たり前でしょ!』
そういわれても、冬は少し困ってしまう。
「油断は禁物だろう」
危ない、とチンピラの攻撃から冬を庇ったのは暁であった。
彼女はチンピラをけん制しながらも、足元への攻撃を続ける。威嚇ではない。何発かに一発は、胴体も狙っている。キャスいわく『弱い奴が来たって思わせる作戦ネー』らしい。
「弱いと思われることに関しては、頭にこないんだなー」
暁は、尋ねて見る。
キャスはにやりと笑った。
『我等傭兵』
敵になんと思われようとも、最後に自分たちが立っていれば勝ちなのである。
その考え方に、暁はうなづいた。
「うん。たしかに、そうだな」
敵に弱いリンカーがやってきたと思われようとも、それで隙が生まれるのならば好都合である。
『銃撃戦は望むところ! ……なんだけど実際そうそう突っ込んでいけないよなーっと』
『誘導、誘導』とルカは呟く。
倒れたテーブルの陰で身を隠しながら、転がってきたプチトマトをぽいっと口に放り込む。本当は肉が食べたかったけど、さすがに戦闘中に食事を済ませるわけにはいかない。
「戦闘中につまみ食いとは感心しないネ」
教師のような勤勉なモーリスの言葉に、ルカは舌を出す。
『もったいないじゃん?』
「私は食べられないのにずるいぞ、ルカ君!」
『知らねーよ! 階段嫌がって俺に任せたのじーさんだろ?!』
ぎゃあぎゃあと喧嘩する英雄とリンカーをうらめしそうな目でみている、凍土。
『あっ、チキンだよ。クリスマスにしか食べられない、大きなやつだよね』
摘み食いしちゃおうよ、とシエロはにまーと笑って見せる。
「戦闘中だ」
いい加減にしろ、と凍土はシエロを叱りつけた。
『今よ。年上の矜持を見せ付けて!』
春は叫んだ。
冬は、セーフティガスを使用する。
チンピラたちが眠りに付いたことを確認すると、キャスは号令を挙げた。
『うおーファイヤーマンズキャリー! がんばれアカツキー!』
リンカーたちは今まで戦っていたチンピラたちを担ぎ上げて、下のフロアへと走っていったのであった。
●愚神との戦い
「作戦通りだ。もうおまえにチンピラのライブスは供給されない」
カゲリが、愚神を見据える。
「おまえが、あのチンピラたちをどんな甘言で惑わせたのかは知らない」
たとえ彼らどんな理由があろうとも、それがカゲリが戸惑う理由にはならない。
彼の武器は、いつでも真っ直ぐと愚神に向う。
『カゲリ様。どうか、あの方々たちを弱いとそしらないください』
久遠は、そっと目を伏せる。
『人は弱いものです。そして、正しいことを真っ直ぐにできる光に耐えられるほど……頑丈でもないのです』
久遠は、人を愛している。
だからこそ、彼女は人が弱いことを理解している。
「俺は弱いとは言わない。ただ、彼らが気絶し、下に運ばれた結果があるということは――その結果に結びつき起承転結の起がどこかであったというだけだ」
俺は、それが気になっただけとカゲリは言う。
「起承転結の起か。事態鎮圧の助けにはならないが、たしかに気になるな」
嘉久也は、いつもの大剣は持たずに素手でスバルと向き合っていた。
パーティー会場では、いつもの武器ではアドバンテージは取れないと判断したからであった。
『あの格好は、ヒーローのものなんですよね。なにか、意味があるのでしょうか?』
エスティアは、首を傾げた。
「ここにいた人達を襲わず、襲った彼らの命を奪おうとするなんて効率的じゃない。ライブスの搾取以外に、目的は別にある……もしくはあったんじゃないかな」
龍華は口を開く。
『たしかにおかしいですぅ。して、その仮説にいくら賭けてみますか?』
ノアに言葉に、龍華は言葉に詰まった。別にお金がもったいないと考えたわけではなく、その仮説に自信があるのかとノアに言われたような気がしたのだ。
「……考えれば考えるほどに、やっぱり辻褄が合わなくなる。やっぱり、目的は別にあったんだと思う」
『どんな、理由なんですかね?』
龍華はそこまでは、と言うしかなかった。
ただ、この愚神はパーティー会場へと現れて、そこにいた漫画家と編集者の全員を逃がしている。それは、きっと目的に繋がるヒントのように思われのだ。
「弱い者を先に逃がすのは、ヒーローの仕事だからデス!」
元気のよい声が響いた。
あい、だ。
彼女は、テレビの変身ヒーローがとっているようなポーズで叫ぶ。
「いくデス! マジカル・ミラクル……えっと……なんちゃら、変身デェース!!」
『いや、初めて聞いたわそんな台詞』
リリーは冷静に突っ込んだ。
おかげで、味方のなかでも悪目立ちしている。そのせいなのか、愚神の攻撃があいに向った。
「雷の応酬になるなんて、私は想像してなかったけどね」
アリスは、あいを庇う。
「でも、本当にこの愚神はなにをしたかったのかな?」
『ヴィランのライブス目当てだったとしても、態々此処に来る必要なんてなかった筈だけど……』
Aliceも疑問符を浮かべる。
「聞いてみればいいじゃない」
愚神は、口を開いた。
「私と取引をした、スバルって子から聞いてみればいいじゃない。聞ければの話だけどね」
愚神の攻撃をアリスは受け止める。
『平気? アリス』
「ええ、でも一人だとちょっと危ないかも」
まだ一人、ライブスを提供しているチンピラも残っているし、とアリスはちらりとスバルを見た。ライダースーツのけったいな姿だが、あれもヒーローらしい。本当に最近になってヒーロー関連の事件が続けている。アリスは、思わずため息をついた。
「俺だけに攻撃を持ってきて欲しいね。給仕なんだし、簡単でしょ?」
アリスと愚神の間に入ったのは、龍華であった。
『もっとみんなの陰に』
また狙われてしまう、とリリーは叫ぶ。
いくらヒーローの格好をしていようとも、自分たちはまだ幼くて頼りない。仲間の足を引っ張らないように、ちょっとづつ慎重にいかなかなければ。だが、あいはそんなリリーの言葉にかぶりを降った。
「リリー! したい事をしてなんでダメなのDeathか!? なりたいと思って何が悪いのDeathか!!! あいはずっと……ずっと一人だったDeath、戦う相手も、助ける誰かも……いなかった! ずっとずっと独りぼっちだったDeeeath!!」
その叫びは、ずっと我慢していたあいの叫びだった。
痛烈な、叫びだった。
願いをこめた叫びだった。
『その叫び……気に入ったのです。彼女をまもるですぅ」
縛られることを嫌うノアにとって、あいの叫びは心を揺さぶるものであったらしい。龍華は飛び出すあいの背中を追いかけて、武器をふるう。
『ちょっと……あいちゃん目立ち過ぎ』
「ヒーローは目立ってなんぼDeath! これでバッチリなのDeeeath!!」
愚神の注目が、あいに向っている。
その理由は騒がしいから、という理由だろう。
だが、その注目はアリスにとっては都合がいい。
『好都合だね、アリス』
「そうだね、Alice」
他の仲間たちは、スバルの討伐をしている。
その仲間たちから、愚神の意識を引き離すことが出来る。
●ヒーローになりたかった
嘉久也は、スバルにタックルして壁に叩きつける。
やりすぎたか、と一瞬焦ったがスバルは予想以上の動きで反撃を返してくる。
『削りすぎても危ないですし、思ったより加減が難しいですね』
「だが、あくまで仕事は捕獲だ。やりすぎてはいけない」
相手が肉弾戦に有利な技をもっていることも嘉久也が手こずっている理由の一つだが、彼は明らかに他のチンピラたちとは何かが違かった。一人だけ、このパーティー会場で行なわれている出版者のヒーローの格好をしているなんて――まるで。
『どうしましたか?』
エスティアが尋ねる。
嘉久也は、分かってしまった。それを口に出すべきか、嘉久也は一瞬だけ迷う。だが、一度分かってしまえば口に出さなければならないような気がした。
「愚神」
仲間が、自分たちから愚神を遠ざけてくれている。
それが分かっていながら嘉久也は、あえて愚神に尋ねる。
「汝は、こいつと取引したんだな。その内容は――自分の仲間を売るから、出版社の人間は助けてくれではないのか?」
愚神は、にこりと微笑んだ。
正解と言っているような笑みに、嘉久也は一人納得する。だからこそ、スバルは一人だけこの出版社のヒーローの格好をしていたのだ。自分の仲間の敵であり、自分の獲物の見方であると示すために。
「……あなたの刃には迷いが見えます。罪の意識故ですか」
由利菜は、スバルと刃をぶつかり合わせる。
愚神に操られたスバルには、何を言っても聞こえないだろう。だが、あえて由利菜はスバルに聞こえているかのように振舞っていた。
「私とて一度は死の痛みと、別離の絶望を味わった身……。ですが、私は第一英雄の支えによって立ち直り……そして今ここにいる第二英雄と友の誓いを繋ぎ、ここまで来たのです」
あなたがどんな悲しみを抱いているのかは分からない、と由利菜は告げる。
だが、自分が築いたものは悲しみには負けないと剣に力をこめた。
『ユリナ。さっきちょっとだけモチヅキさんの漫画を見せてもらったの。そこには、すごくたくさんの憧れが詰まってたよ』
ウィリディスは、言う。
この作者は戦えない。
でも、この作者には勇敢に悪と戦う人への憧れがある。
『……ユリナ、今ならまだ間に合うよ! 助けなきゃ!』
憧れが消えちゃう、ウィリディスは叫ぶ。
「憧れか……」
カゲリは呟く。
『人は弱いのです。だからこそ、都合のいい光――ヒーローに憧れて、夢想するのです』
それは弱い人だからこそできることなのでしょうね、と久遠は言う。
「たとえ、どんなに強い憧れがあろうとも――それを礎として未来があるのなら、今の結実もまた因果だ。過去のおまえに誰かが憧れた結果が今のおまえなのだから、過去のおまえに憧れた誰かの夢も所詮は今のおまえにすぎない」
ちがう。
ウィリディスには、スバルの唇がそう動いたような気がした。
●胸になにかを抱いて
「愚神と約束なんて、無意味だと思うけどね。どうせ守る気ないか、守ったとしてもそれ以外は約束の範囲外とか言うんでしょう。……信じるだけ無駄」
アリスは、そう呟きながらも攻撃の手は休めない。
『そろそろ決定打が欲しいね』
「そうね」
双子のように似ている二人は、攻撃にさらに力をこめる。
今、愚神と最前線で戦っているのは二人。
龍華とあいだ。
その片方、龍華の手が一瞬だけ止まった。
彼もまた、愚神とスバルの取引に思うことがあったようだ。
「わかった……礼を言うよ。貴方のお陰で彼らからの恐怖に晒されずに済んだ人達は確かにいたから」
もし、スバルが愚神の手を借りなかったら。
きっとこのパーティーはチンピラのヴィランに襲撃されて、自分たちはその収拾に終われたであろう。有象無象のヴィランたちであれば、人質たちにも被害がでたはずだ。愚神とスバルの取引は、このパーティーの参加者だけは守ったのである。
「でも逃すことは出来ない。貴方が差し伸べる手はきっと取ったものに破滅をもたらすものだ。……だから、今ここで、この世界から貴方を解放する」
『ヒーローではなくなって、愚神は見逃せないんですぅ』
龍華は、攻撃の構えを取る。
この敵は、何かを行なう。
愚神はそれを感じ取り、龍華の動きに集中する。
そのとき、愚神の後ろから現れたのはあいであった。
横なぎの一線が、愚神の背中に走る。
「……決まったDeath……」
今まで、ずっとあいがオトリの役割をしていた。
だが、最後の最後で役割が反転したのだ。
『いまだよ。アリス』
「うん、全力の雷電でいくよ。Alice」
二人のアリスが声を合わせて、愚神が倒れた。
「あいは知ってるDeath、名前の出てこない敵は……一話で完結する! これ常識Deeeath!!」
『……流石に漫画の読み過ぎ』
喜ぶあいに、リリーは頭を抑える。
ちょっと頭痛がしてきた。わが子の漫画の読みすぎを心配する親の気持ちが、よく分かってしまった。
「必殺! Deeeath!!」
変わらず、あいは上機嫌だ。
かつん、と音がした。
全員が、音をしたほうに視線を向ける。
スバルが、ヘルメットを取ったのである。
●パーティー会場の外
『ホテルから客みんな逃げてんだけど、襲撃に来たんじゃねーの?』
「わざわざ最上階に行ったということは、目的地はそこなのかもしれないね」
そんな話をしながら、ルカはホテルの階段を下った。
そして、今は別の話をしながらホテルの階段を上がっている。
モーリスはまたもや階段を拒否したために、再びルカ主体の共鳴中である。おかげで、地味にきつい運動を強いられているルカであった。
「パーティー会場に侵入してきたチンピラのなかに、漫画のキャラクターのコスプレをしたのがいたが……まさかその作者がパーティー会場にいたとわね」
モーリスは、ため息をつく。
「年寄りの勘は、悪いものばかりが的中して困るよ。あ、君はさっき拾い食いをしてたから一時間後にお腹を壊すよ」
『その流れで、俺の腹痛を予言するんじゃねーの!』
当たったら嫌だろ、とルカは言い返す。
「漫画家さん関係者だったんだな」
暁は、呟く。
モチヅキは、進入してきたチンピラ――夜明けのリンカーのコスプレをしていた人間が誰であるかを知っていた。彼の漫画の主人公のモデル、スバルだと。
『その人、どうなるんでしょうネ?』
「んー。過去の犯罪は消えないにしろ、今回の件は愚神絡みだしまだ何もしてないからチャラかと」
個人的にはH.O.P.Eに所属してくれたら面白いと思っているよ、と暁は言った。
「お疲れ様とありがとう。上の騒ぎが収まっていたら、良かったらおでん一緒にどう?」
『おでんでんででん!』
凍土が冬を誘ったので、シエロは上機嫌になった。
「おでん……うん。行こうか……」
反応薄く、冬は答えを返す。
だが、隣にいた春は目をキラキラさせていた。
『何? 何!? おでんって……?』
言葉には出さないが、なにかすっごいおいしそうな気配がすると春のシックスセンスが告げていた。
「暖かいもの……僕は好きだから……」
冬の言葉に、春は一応はそっけない態度を返しておく。
だが、暖かいというキーワードはしっかりと聞いていた。
『暖かいもの……ふ、ふーん。……私もついて行ってあげるわね!』
おでん、おでん、どんな食べ物だろう。
春の頭の中は、すっかりおでん一触だ。
「うーん、さすがに未成年たちにおでんの美味しい居酒屋は教えられないな。年齢的に、色々と不味いだろうし」
年長者として、暁は思い悩む。
そんな彼らが、最上階にたどり着いたとき、思ったとおり愚神はもう倒れていた。
残されたのは、ライダースーツを着た男だけ。
●普通の男が目指すのは
『拘束したほうがいいのでしょうが……』
エスティアは、困ったようにおろおろとしていた。
共鳴を解いた嘉久也は、頷く。
「もう大丈夫です」
たぶん、という言葉は心の中にだけしまっておく。これ以上エスティアに、心配を掛けたくはなかった。
「……周囲の流れに逆らうことはとても勇気がいることです。愚神と手を組むことも許されないことであっても、決意が必要だったはず。スバルさんは決して弱くない」
『この人見知りに言われても説得力はないと思いますけど、人見知りなりに言わないと後悔しそうだたら言っているんですぅ。この言葉は、本心です』
ノアに背中を押されながら龍華は、勇気を振り絞ってスバルに話しかける。
人見知りの龍華にとっては、手に汗を握るほどにドキドキすることだった。
「……いいや、俺はダメだろ。俺は漫画の主人公みたいに夜でもヒーローにはなれなかったし、今だってやってることは餓鬼と変わらない。偽者のヒーローなんて、死んでたほうがマシなんだよ」
スバルの言葉を遮るように、由利菜は床に槍を突き立てる。
「私があなたを救いたいのは第一英雄の教え……そして、私のやりたいことだからです。でも、あなただって……本当は、モチヅキさんの思い描くようなヒーローになりたいのでしょう?」
「なれるわけがないだろう!!」
スバルの怒鳴り声に、嘉久也は身構える。
少しでもおかしなことすれば、エスティアと共鳴して彼を拘束するつもりであった。
だが、肝心のエスティアがそれを拒否する。
『大丈夫です』
彼女は自分と違って、心の中で「たぶん」なんて要らない三文字を付け足していたりはいなかった。心の底から、大丈夫と信じていた。
「なれるデス!」
あいが、微笑む。
「愛と勇気、人間が持っている当たり前のものを持っているならば、誰だってヒーローになれるのデス。だって、ヒーローは最初はいつだって普通の人なんデス」
幼い子供が信じる、その言葉。
誰もが、自分には出来ないと諦めて背中を向けるもの。
それに、馬鹿みたいに愚直に真っ直ぐに進んでいく存在。
それが、たぶんモチヅキが憧れたヒーローなのだろう。
「せっかくリンカーならさーHOPEで本物のヒーローを目指してもいーんじゃない? 力貸してる英雄にも聞いてみ?」
暁は、スバルに手を差し出す。
『彼はヒーローになれると思う? アリス』
「先のことは誰にも分からないよ、Alice」
ただ、と自分そっくりの顔の少女を見つめながらアリスは呟く。
「あの人が『人間としてあたりまえのもの』を持っていることを祈るぐらいことはしてあげるよ」
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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