本部

年の終わりを迎える前に

橘樹玲

形態
イベント
難易度
易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
能力者
15人 / 1~25人
英雄
15人 / 0~25人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/12/23 20:56

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掲示板

オープニング

  月は師走。それも終わりを迎える頃。多くのエージェントがここ居酒屋に集まっていた。

「やあやあ、諸君! お集まりいただき実に嬉しいぞ! 今日は日ごろの感謝を込めて沢山の料理を用意した。存分に楽しんでくれい!」

 居酒屋を貸し切りにし、今日は年内最後のイベント――そう忘年会だ。
 テーブルには、鍋物、刺身、揚げ物など様々な料理が並んでいる。それぞれ好きな飲み物を頼み、彼の言葉に耳を傾ける。

「今日は無礼講じゃ! 飲んで騒いで……いや、迷惑をかけるのはいかんのう。貸切ではあるがお店の方に迷惑にならん程度にな!」

 主催者である彼はにかっと笑う。そして手に持っているジョッキを掲げる。

「まだ、今年も少し残っているが……お疲れ様じゃった! では……乾杯!」

 彼の合図で皆一斉にそれぞれの飲み物を掲げた。
 飲めや歌えや、今宵は宴会。今年最後のイベントが始まるのである。

「今宵は飲み放題、食べ放題じゃ! ……限度はあるがの」

 彼は楽しそうにまた笑うのであった。

解説

●目的
それぞれ忘年会を楽しむ!

●忘年会
・居酒屋を貸し切りにしているため他の客はいない
・全員が一つのテーブルにつくのは難しいため、それぞれ座敷、テーブルに分かれて座る
※人数によっては少しつめて座ることになるだろう。
・料理はお鍋(ジビエ、みそ)、刺身、揚げ物、その他サラダやいろいろな料理がある
※和食が中心。

●NPCについて
H.O.P.E.本部にてオペレーターとして勤務している。
絡みはご自由に。むしろ絡むと喜んで会話に参加します!


~注意~
「他の人と絡む」など一文のみのプレイングですと、非常に採用困難になります。
『具体的』に『誰とどう絡むか』を『お互いに』描写して下さいますようお願い申し上げます。
相互の描写に矛盾などがあった場合はマスタリング対象となります。ですので、事前打ち合わせしておくことをオススメします。
リプレイの文字数の都合上、やることや絡む人を増やして登場シーンを増やしても描写文字数は増えません。
一つのシーン・特定の相手に行動を絞ったプレイングですと、描写率が上がります。

リプレイ

■忘年会A

 ――ワイワイ……ガヤガヤ……

 料理に交じりほんのりと煙草の香り。嫌悪感の抱かない騒がしさ。その中の片隅にて。
 知人たちと軽く挨拶をかわし、目の前にある料理に舌鼓を打つのであった。

「年の瀬までお前の顔を見て過ごす事になるとはな……」
 自分の頼んだ飲み物を片手に、正面に座る友人に真壁 久郎(aa0032)は呟いた。
「……なんだかんだ、いつもそうだよね」
 彼の呟きに、佐倉 樹(aa0340)はしれっと返す。

 もぐもぐもぐ……

 我関せずといった形で、二名は料理に夢中である。
『クリスマスも控えているというのに、ここ最近贅沢な食事をしてばかりですね』
 そんなことを言いながらも、見かけによらず大食いなアトリア(aa0032hero002)は箸を忙しなく動かす。
「まあ、休める時に休んでおくのがいい。いつ何があってもいいようにな」
 真壁は淡々と料理を口に運びながらそう返した。
『ねーねー! これ美味しいよ!』
 自分が先に食べて美味しかったものをシセベル(aa0340hero002)がアトリアに渡す。
『あ、本当です……美味しいですね、これ』
 会話そっちのけで食べる二人に、少々あきれ顔の真壁と佐倉。
「……美味しいか?」
 一生懸命頬張るアトリアに思わずそんなことを聞いてしまう。
『……もぐもぐ……ごっくん。美味しいですよ? クロウも食べたらいいじゃないですか』
 言われずとも、食べるけども。

 四人掛けテーブルに自分たちだけ。気を遣わない分楽に感じる。
『ふっふっふ……そろそろ鍋も食べ頃だよ! さあ、食べようか!』
 鍋奉行にでもなったつもりなのだろうか、シセベルが胸を張って鍋の蓋を開ける。
 グツグツという鍋の音が一層大きくなり、白い湯気がもわっと上がる。美味しそうな具材と汁の香りが辺りに充満する。
 肉、野菜、茸。どれも美味しそうだ。
『どれから食べましょうか』
『ふふーん……私がよそってあげよう!』
 シセベルが皆の取り皿にそれぞれ料理をよそう。
 樹は控えめ盛り、アトリには多め盛り、真壁にも普通盛り。自分はちょっと多めに盛る。
 一度会話を終え、料理に集中する。
 まずは、一口スープを味見。

「あち……」

 流石にに建った鍋は熱かった。フーフーと息を引きかけ、冷まし、また一口飲む。
 ほっとする味が口いっぱい広がる。薄めのみそ味。素材のうまみがギュッと詰まっている。

「はぁ……」

 一息ついて今度は素材を堪能する。
 大根には汁がしみて、噛むたび旨味が口いっぱい広がる。肉なんてもう、肉好きにはたまらないほど美味しかった。
 時々会話を挟みつつ、個々に好きな具材を楽しむ。
「私、豆腐食べたいな」
「あ、俺、肉食べたいから、いっちゃんのもよそうよ」
 お皿に盛ろうとした彼女にかわり真壁がよそう。
『あ、クロウ、私の分もお願いします』
『私も、私も!』
「はいよ」
 桜によそったモノを渡し、アトリアから空いている皿を受け取る。
「どんくらい?」
『大盛でお願いします』
「まだ食べるのか!?」
 驚きつつも、しっかり多めによそう。
『私は少なめにお願いしようかな』
 みんなのぶんをよそって、自分の分もようやくお皿に盛る。
 四人分の鍋だったがあっという間に間食しそうだ。
『そういえば、締めは何にする?』
 具材が少なくなって、そこが見えてきたところでシセベルが提案する。
『私はなんでもいいです』
「……もうお腹いっぱいかも」
「……俺も」
 能力者二人をおいといて、英雄は締めまでがっつり食べるつもりのようだ。

 ***

 なんだかんだ締めまで平らげた四人はまったり年末年始についての会話をする。
 クリスマスはお互いどう過ごすのか、年末年始はどういう予定なのか、なんだかんだ話す話題は尽きない。
「やあやあ、ちょいとお邪魔するぞい」
 途中で主催者である彼、剣太が挨拶をしに来る。それぞれ、軽く挨拶を交わした。
「久朗とアトリア、樹とシセベル……じゃったよな? 今宵は来てくれてありがとう! 料理は楽しんでくれたようでなによりじゃ」
 空になった鍋を見て、彼はにっこり笑う。
 そんな横でうずうずしているアトリアがいる。彼女を見て剣太は首を傾げた。
「どうしたんじゃ?」
『それは……本物ですか』
 剣太の耳をじっと見ていたかと思えば、突然立ち上がりにじり寄るアトリ。猫派の彼女だが犬も中々興味津々のようである。
「さ……触っても良いぞ?」
 許可が出た――キラリと彼女の瞳がハンターのように光ったかと思えば、がしっと彼の耳をつかむ。
「ふおぅ!?」

 もみもみ……さわさわ……

 無心に撫でるアトリアに、真壁が制止を掛ける。
「お、おい……あんまりやりすぎると――」
「いや、くろー…‥彼を見て」
 止めに入った彼に佐倉が剣太を見る様にいう。
 撫でられている彼は恍惚の表情を浮かべされるがままになっている。
『……なんかすごい嬉しそうに撫でられてるけど』
 そんな彼らを見てシセベルは苦笑を浮かべる。

 もみもみ……さわさわ……

 アトリアが耳を撫でるのはそれから数分間続いたのだった。
 『ふぅ……』と溜息をつき、生き生きした顔の彼女は手を止める。
 撫でられていた彼は、「テ、テクニシャン……」と言い残し、くてっと力を抜かしたように近くの椅子にしばらく座り込んでいた。
「楽しそうだったな……」
 真壁の問いに、彼女は「ええ」と満足そうに答えた。彼の耳の触り心地はお気に召したようだ。
『そんなによかったなら、私も触ってみようかな――』
「やめときなよ」
 シセベルも便乗して触ろうとするが、力の抜けた彼を見て佐倉が制止を掛ける。

「……まだ、年は変わらないが俺らは最後までこんな感じなんだろうな」
 忘年会とは言えど、いつもと変わらない三人を見て真壁がぽそりと呟く。
「まあ……年末だからって変わることもないよ」
 佐倉の返しに「そうだよな」とだけ返す。
「来年、か……」
 何かを思うようにまた呟く。
『次の年もまた充実した1年になると良いですね』
「ああ。また、皆で飯でも食べて――」
 変わらない平和が続くように願う。
「まぁ、来年もよろしくね」
『よろしく! その前にクリスマスも待ってるけどね!』
 四人はいつものように最後まで会話を楽しんだ。
 時々、近くのエージェント仲間と会話し、すっかり耳を撫でられるのに病みつきになった彼に撫でられるのを催促されたり。
 こうして、四人の忘年会は終わりを告げるのであった。

■忘年会B

 ……もぐもぐ――

 外見からはそんなに食べるとは思えないような女性が何やら一心で料理を食べている。
 近くの友人たちと挨拶、会話を楽しみつつ、空いている時間があれば胃に料理を流し込む。
 「ちょ……食べすぎじゃないか?」なんて、周りからの声を気にせず。
「あー、俺もそれ食べたい」
 相棒の英雄と共に料理に集中するのは、黄昏ひりょ(aa0118)である。
『だめー! あーげないっ!』
 食べようと手を伸ばす彼から、お皿を取り上げるのはフローラ メルクリィ(aa0118hero001)だ。二人の間に小さい火花が散っているように思える。
「俺らの分も食べるか?」
 料理は人数分。それぞれのテーブルに用意されているのだが、沢山食べる二人の元に他のテーブルから料理が寄付される。
『わーい! ありがとう!』
 それを嬉しそうにフローラは受け取るのであった。

***

「どうも! お二人さん! ……凄い食べとるのう」
 よく見知った彼――剣太が挨拶をしに来てくれたが、二人の大食いっぷりを見て苦笑いを浮かべる。
「あ、剣太さん、こんばんは。先日はご馳走様でした」
『思わず一杯食べちゃってごめんなさい』
 先日の事について二人がお礼を言ってくれたのを彼は「楽しかったぞ」とにこにこと返す。
「意外と二人は大食いなんじゃのう……美味しそうに……食べてくれて嬉しいぞ。今日は存分に楽しんでくれい!」
 挨拶だけ済ますと、彼は「……材料追加で買いに行くか」とぼそっと漏らしその場を去っていった。
「それにしてもフローラが虫が苦手とは、知らなかったな」
 剣太と話したことで、二人の会話は最近あった出来事の話になる。
『私だって初めて知ったもん。なんかもぞもぞ動くのとか、足が一杯ある奴って、なんか……ダメ』
 思い出しただけで彼女は涙目になりそうだ。
「まぁ、今後の為に覚えておこう」
『う~、なんか思い出したら無性に食べまくりたい気持ちになってきたよっ!』
「ちょ、やけ食いする気かっ! 底なしなんだからやめなさいっ!」
 すでに大量に食べていた二人だが、彼女はまだまだ食べるようだ。遅れを折らないように彼も箸を伸ばす。
 目の前の腹ペコ暴走魔人の進行を阻止しようと、話題を振り意識を逸らそうと試みる。
「あ、そういえば先日友達と遊びに行ったよな? どうだった?」
『あ、うん! すっごく楽しかったよ~♪ あのねあのね……』
「ふんふん……」
(よし今がチャンスだ。俺が食べよう……)
 相槌を打ちつつ、意識がそれている間に箸を進める。
『あー! ひりょだけ食べてる。ずるいっ!』
「いや、そんな事ないぞ?」
 楽しそうに話していた彼女だが、すぐにひりょだけが食べていることに気づき、すぐさま料理に飛びついた。
 勢いよく食べ進められた料理たちは、予想以上の速さで彼らの意に収まっていくのであった。

「ふう……食べた」
『美味しかったね! デザートがもうちょっと欲しいな』
 皿が空になったところで、二人の勢いは落ち着いた。
『とりあえず来年は虫は見ないで済めばいいな!』
 後はまったり会話を楽しむ。
「そうだね……困ってる人が助けに行かないとだけど」
 二人が今年の事を振り返っている後ろで、「虫が苦手……」と犬耳のかれはにやりと笑うのであった。
 大食い魔人二人の忘年会は皿が空になることで終わりを迎えるのであった。

■忘年会C
 主催者や他の仲間たちに挨拶を交わした後、席でまったり友人たちとの時間を過ごす。
「かんぱーい!」
『お疲れ様でした。お互い、今年もたくさん働きましたね』
 最初の全員での「乾杯」をした後、改めて友人と乾杯のあいさつを交わす。
 カツンッとグラス同士が当たる音が鳴り、カランと氷のぶつかる音が聞こえる。
『乾杯。今年もありがとね』
「ローロ」
 一口飲み、ふうっと息を吐く。年の瀬だと思うと、どこかしんみりしてしまう。
 お店の中はワイワイしているのに、こう思うのはなぜだろうか。

『和風も久しぶりね……京子さんは好きなものあるかしら?』
 それぞれ、おとおしや好きな料理を食べつつ、ゆったりと会話を楽しむ。
「確かに久しぶりだよね。最近はあっちこっち海外を飛び回ってばかりだしね。今の季節なら、おでんとか? 魔女さんはそっちの世界の料理とかどうなの?」
 『んー』と考えこむ。
『こっちとあまり変わらないかと。猟などはしなくなりましたが』
 志賀谷 京子(aa0150)の問いに、構築の魔女(aa0281hero001)がそう返すのであった。
 猟という時点で変わるのではという疑問を彼女はそのまま口に出してしまう。
「それ変わらないって言わないと思うんだ……あ、でも――」
 ジビエ料理も狩猟だもんねと自ら納得する。
「それにしても……ほんとに世界中にいったわよね、観光する暇ないのが悲しいところだけど」
『もうちょっとゆっくり観光する時間もほしいものです』
 今まで言った国――何か国になるだろうか。
『いっそのこと、旅行としてだけでも行ってみるのもいいですね』
「いくとしたらどこがいいかなー」
 世界各国を任務の為、行き来してはいたがゆっくり見て回る暇なんてない。料理を食べたりすることはあったが、やはり物足りない。
 来年は観光として行ってみたい、そう思うのが普通だろう。
 「行けたらいいね」と交わしつつ、話題は次々と変わっていく。

「来年と言えば、誕生日で19だし、10代も最後だなあ……」
 10代もそれなりに楽しいが、20代は20代で楽しいものだと思う。実際、志賀谷ひとりだけがソフトドリンクというのも寂しいものだ。
「あら? じゃあ、再来年は一緒にお酒が飲めますね。夜景の見えるバーとかも楽しいですよ」
 「おすすめのお店とか一緒に行きたいものですね」と構築の魔女が言う。
「あはは、だいぶ先だけどね。バーか……ますますいい女になってしまうな。ちょっと大人の色気をだしてさ……」
 お色気ポーズをしながら志賀谷が言う。
「それならドレスアップしないといけませんね、どんなものが良いでしょう?」
 「うーん」と考え込む。
『まあ、妥当にいつものようなふんわりしたドレスが良いと思います』
 『一味違うのもありかもしれないですが』と付け足し、アリッサ ラウティオラ(aa0150hero001)が言った。
「だよねー……ピンクのふんわりしたのがいいかな」
 目を瞑り、想像する。うん。赤い真っ赤なドレスより、ふんわりドレスが合うだろう。
『なんにせよ。20歳になった記念に皆さんで飲みに行きたいですね』
 再来年。今から考えれば長いようで、実際はあっという間にその時は来るのだろう。
 今日は志賀谷は残念ながら未成年の為、烏龍茶だが他三人は日本酒。次は皆でお酒を飲むのが楽しみだと志賀谷はニコニコ笑った。

「それにしても辺是さん、美女に囲まれて食事とか嬉しいんじゃない?」
 不意に志賀谷が辺是 落児(aa0281)に絡みに行く。
『自分でいいますか、それ……』
 志賀谷の急な問いに、アリッサが鋭いツッコミを入れた。
 まったりと日本酒を嗜んでいた辺是は、突然の問いにびっくりしたように振り向く。
 構築の魔女は志賀谷の揶揄いに被せつつ、日本酒を傾ける辺是にマイクのように水の入ったグラスを向ける。
『花が両手では足りない程なんて落児は贅沢ですよね』
「……ロロ」
『あらら、戦場の勇ましい姿も素敵だが今日は一段と綺麗に見えるですって』
 揶揄う様に辺是の言葉を代弁する。
「わあ、ホント? やっぱり辺是さんは見る目があるよね!」
 構築の魔女の意図を汲み取り、志賀谷もそれに乗っかっていく。
「……ロロー?」
 普段は表情が見えない彼だが、この時ばかりは焦りと諦念を僅かばかり覗かせる。
『いや、明らかに戸惑われてますよね……?』
 常識人アリッサだけは、冷静にこの状況にツッコミを入れるのであった。

***

 楽しい会話はあっという間に時間を進ませ、終わりの時は近づいていく。
 帰る前に最後の一杯。明日のためにとお酒ではなく温かいお茶を。
「さて、来年はどうする? 抱負的なやつ!」
『ふむ、来年の抱負ですか……異世界との関係と愚神の王の事とかは気になりますね』
 最後の話題はやっぱり来年についてだろう。気になることは世界の脅威といったところか。
 ここ最近、殺伐とした事件が多い。誰しもが考えることだ。
「わたしは愚神たちがやってくる向こう側にお邪魔してみたいかな。やって来てもらう一方じゃ悪いじゃない?」
 愚神の向こう側。実際行けるかどうかは別として、気になる人も多いだろう。
『私は……京子に振り回されない、平穏な日々を目指したいですね』
 愚神ももちろん気になるが、今年こそはと願いを込める様にアリッサが言う。
『確かに来られてばかりでは癪だしいいわね。あと、アリッサさんは応援してるわ』
 彼女の言葉に構築の魔女は苦笑いだ。

 そして、一足お先にと辺是と構築の魔女を立つ。風邪ひかないようにしっかりとマフラーを巻いて。
『それじゃ、お疲れ様。ちょっと早いけどまた来年もよろしくお願いね』
 帰宅の準備をしつつ、忘年会を共に楽しんだ友人に年末の挨拶を送る。
「はーい、来年もまた一緒にビシっと決めようね!」
『良いお年を』
 まだ会う日もあるかもしれないが――

■忘年会D
「かんぱーいっ!」
 見知った顔の彼を最初に、皆で杯を掲げ挨拶をする。
 彼が挨拶している間の静かだった空間が、瞬く間に騒がしくなる。
 ワイワイガヤガヤとなる店内の一角にて、戦いの火花がここでも散っていた。
「薙、勝負だっ!」
 皆月 若葉(aa0778)の掛け声とともに、突如始まる蟹の殻剥き大会。
「負けない、よ!」
 それに答えるが如く、魂置 薙(aa1688)も勢いよく殻をむき始める。
「お姉さ~ん茹で蟹沢山持ってきてーー!」
 先の事を見越した荒木 拓海(aa1049)が店員さんに蟹をじゃんじゃん持ってくるように頼む。
『経費でなきゃ頼めないわね』
 相方のメリッサ インガルズ(aa1049hero001)は、運ばれてくる蟹の量と、次々に剥かれていく姿に苦笑いを浮かべた。

 むきむきむき……

 無心で殻をむく二人。彼らが剥いて食べやすくなった蟹を他の4人で頬張る。
『食べるのは任せよ!』
 剥かれた蟹をご機嫌で酒のつまみにするのは、エル・ル・アヴィシニア(aa1688hero001)である。
『……いい塩加減だ』
 同じく酒を片手に蟹を楽しむ、ラドシアス(aa0778hero001)は蟹のお味に満足しているようだ。
「ちょ、俺達のも残しといてよっ!」
 以前、依頼の時には剥いた蟹を全部食べられてしまったため、若干焦る――が、手を止めずにひたすら蟹をむき続ける。
「若葉、先に食べてもいいんだよ!」
「やーだねっ」
 楽しそうに剥き続ける二人に荒木が一言。
「蟹を剥くのにムキになる二人……剥くだけに……」
 突如、シーンとなり二人の手が止まる。
『拓海……もう酔ってるの?』
 呆れた顔のメリッサ。
『おおぅ……』
 エルも何も言えずにいる。ラドシアスは何もなかったかのように酒を口に含む。
「よ、酔ってないから! ほ、ほら! 勝負もいいけど二人も食べよう!」
 いたたまれない空気に荒木が慌てふためく。
「あはは!!」
 その姿に皆月が笑いだし、ようやく場の空気が元に戻る。
 酔いの為か、恥ずかしさのせいか、顔を赤らめた荒木も楽しそうに一緒に笑った。
「そうだね。勝負はいったんお預けにして、折角の料理を食べようか」
 笑って涙目になる皆月。
「二人ともオレの為にありがとう――」
「違うよ!」
 忘年会の空気にテンションが上がっているのだろう。荒木の度重なるボケに魂置が突っ込む。
 こうして、数十分の蟹剥き勝負にようやく終止符が打たれるのであった。

 ***

 話は進み、話題は最近の強化の話になる。
 段々と酔いが回ってきて、酒を飲んでる組は瞳がとろーんとしてきていた。周りも一層騒がしくなっている。
 蟹以外にも鍋、枝豆をつまみにし、タコ唐にはくすっと思い出し笑いをする。
「そういえば、最近強化ってしてる?」
 唐揚げをひょいっと口にいれ、皆月が質問する。
『費用が高すぎるのよ! 仕事道具なのに補助制度は無いの? 拓海が我慢出来ないから家計が……』
 なんて、メリッサは言う割に笑っている。仕方ないとは思っているのだろう。
『うちにも我慢できぬ子がおるの……一度、手持ちが尽きるのも気付かずやっておったわ』
 呆れ顔で魂置の顔をじいっと見る。彼は視線に気づくも黙ったまま上目遣いで見返し、そのまま枝豆を齧るのであった。
『反省しておらんの……』
 エリはやれやれといった感じでため息をついた。
『どこも似た感じだな』
「気づくと財布が空だよね」
 てへっと顔をする皆月にラドシアスも『はぁ……』とため息をつく。
「そうそう! どこもそんなモンだよな!」
 荒木もニコニコと強化話に加わる。自分を擁護するように「しょうがないしょうがない!」と繰り返す。
 誰が強化しても、高くつくのは変わりない。
 しかし、少しは抑えてくれればいいのにと、英雄三人はまた、小さくため息をつくのであった。

 ***

 時は刻み段々と静かになっていく。それも、騒いでいた者たちも酔いが回り大人しくなっていくからだろう。
「どうも! 若葉に拓海、それと薙……じゃったかの? お主の話は良く二人から聞いておるぞ」
 あと1時間後には解散だろう時間に、一通り挨拶を終えた主催者の剣太が挨拶をしに来た。英雄三人にも同じように挨拶をする。
「どうも! 幹事お疲れ!」
 荒木は剣太にノンアルのビールをお酌する。
「おお、すまんのう」
 「ぷはー」なんて、それを一気飲みする。あいさつ回りして喉が渇いていたのだろう。
「お疲れ様! 今日はお誘いありがとう!」
 皆月も空いたジョッキにまたお酌する。
「おう……ありがとう。して、薙や。ふらりには何かとお世話になっておる。二人と仲の良い薙とも仲良くしたいものじゃ。皆、今日は来てくれてありがとうな」
 「楽しんでくれたならなにより」とにっこり笑う彼に、魂置はぺこりとお辞儀した。
「さて! 邪魔してすまなかったな。残りも楽しんでくれい」
 数分話すと彼はこの場を立ち去るのであった。

 段々と酔いが回ってきたエルは突然がばっとメリッサにはぐをする。
『薙共々いつも世話になっておる! これからも宜しくじゃ!』
 かなり酔いが回ってるんだろう。抱き着かれたメリッサはそれに応えるように、ぎゅうっとエルに抱きつくのであった。
『私も~! ラドさんも~!』
 ご機嫌で、ラドシアスも巻き込んでいく。
『…っ!?』
 突然のハグに驚くも観念しされるがままに。
『あぁ、よろしくな』
 ラドシアスは滅多に見せない笑顔を見せた。
「あー! いいなー……オレもするー!」
 正面に座る三人を見て羨ましく思った荒木が、隣にいる魂置に腕を回し肩を抱く。
「お、いいね! うぇーい♪」
 皆月はノリノリでコップを掲げ、同じく魂置に腕を回し肩を抱いた。
 驚きつつも魂置もそれに応えようとする――が、ハッと止まる。
 ワタワタとしばらくするが、またハッとしたかと思えば二人の腕を取り、両腕に抱え一緒になってコップを掲げた。

 ***

 酔いも回りきって、さっきまで腕を組んで騒いでいた六人も終わりという時間には静かに来年について話していた。
 飲みすぎたのか荒木はくたっと椅子に座り、メリッサはそんな彼に微笑みつつ白湯を差し出す。
 普段はここまで酔うことがなかったラドシアスだが、気心知れた二人と飲むうちペース崩したのか、いつのまにか静かに船を漕ぎ始めていた。
『これは珍しい……』
 酔うラドシアスを見て笑みを浮かべるエルに対し、彼は『酔っていない』と小さく反論した。
「今年ももう終わりだねー」
 残った料理をちびちび食べつつ、まったり雑談する。
「そうだね。なんだかんだあっという間だったよ」
 初めて二人と会った以来、一緒に出掛けた場所。色々なことを思い出す。
「蟹楽しかったね……」
 突っ伏しつつ、拓海も会話に参加する。
「今年は最後まで蟹と蛸なのかな」
 ちょっとくすりと笑ってしまう。
『今日の蟹も美味しかったよね』
 メリッサは、満足できたようににっこり笑う。
「剣太さんが張り切ってたみたいだからね」
 話によると、今日の料理は主催者である彼が仕入れを担当したようで、朝早くから用意をしていたようだ。
「改めてお礼を言わないと」
 挨拶を流れでやってしまったため、次はちゃんとと礼儀正しい魂置はひっそり思う。
「来年も無事みんなで年末を迎えたいね」
『だな……』
 皆月の言葉に、うとうとしながらもラドシアスは返した。
「大丈夫だよ……」
『物騒な世の中だけど、わたしたちがしっかりすればね』
 気を抜かなければきっと大丈夫と荒木とメリッサが言う。
「二人のように強くなりたいな……」
『強くなれるさ』
 ぽそっと呟く魂置にエルは力強く答えた。
「さて、ぼちぼち帰ろうか」
 周りを見るとすでに席が空き始めている。店員さんと主催者である彼が、空いた皿をお片付け。
 それをみて、片づけやすいようにお皿をまとめて置いておく。
『もう……ほら、共鳴するわよ』
「んー……」
 すっかり酔いつぶれた荒木と半場強制的に共鳴する。意識はもちろんメリッサが主体だ。
「僕たちも帰らなきゃだね」
『だな……』
 楽しかった時間が終わり、少し寂しそうに魂置が言う。
「まーまー! また次もあるから!」
『来年も一緒に過ごせたらいいわね』
「……うん」

 外に出て、寒空にブルっと体を震わせる。部屋と料理の温かさに温まっていた体から白い息があがり、それが一層冬を感じさせなんだか寂しさを際立てる。
 会話をしつつ途中まで一緒に歩いていく。
「そういえば……身長伸びたよね」
 隣に歩く薙ぎを見て、皆月が言う。
「いつの間にか追い越してたね」
 嬉しそうに皆月に返す。
「どうすれば俺も伸びるかな」
 彼は羨ましそうに小さく呟いた。
『楽しく飲めたわね……』
 共鳴中の彼、一緒に楽しい時間を過ごした友人たちに改めて楽しかったと彼女は言う。
『こんな日も悪くない……』
『たまにはな……』
 ラドシアスとエルも満足そうにそう答えた。
「よし、じゃあ、俺たちはここでお別れかな。来年もよろしくね」
 手を振りながら別れを告げる。
『わたしたちも丁度ここでお別れね。良いお年を』
 ぺこりとお辞儀をして。
「うん……来年も、よろしく」
 手を振りあう友人に、彼は滅多に見せぬ幸せそうな笑顔をして。
 寒空に体を震わせ、それでも心の中はぽかぽかにして、それぞれの家へと帰っていくのであった。

■忘年会E
「乾杯!」
 乾杯の音頭によって、一斉に杯を掲げる。

 ワイワイガヤガヤ……

 主催者のあいさつの後、お店の中が一層騒がしくなる。少しくらい騒いだところで問題ないだろう。
「かんぱーい!」
『乾杯……』
 店一番の大きいテーブルで複数人のエージェントたちと一緒に座る。
「いやー……今年も色々あったよね。アリューもお疲れ様」
 未成年の為、お酒が飲めない斉加 理夢琉(aa0783)はオレンジジュースの入ったグラスを相棒の方へ傾ける。
『まだ日付はあるけどな。お疲れ』
 自分の方へ向けられたグラスに軽くカツンッと当てるのはアリュー(aa0783hero001)である。
 付き合いがてら頼んだお酒、つまみにお通しをちびちびつまむ。
「アルコールって美味しいの?」
 お酒を飲めない彼女が、アリューに味の感想を聞く。
『美味しいと思う人は美味しいんだろう』
 特に好き好んで頼んだわけではないアリューは曖昧な受け答えをする。
「ちょーっと羨ましのよね……」
「おー? お酒がかのう?」
 アリューと会話をしていたところに、主催者である剣太が空いてる席に座り、会話に混ざってくる。
「あ、こんばんは! お疲れ様です!」
「おう、お疲れさまじゃ!」
 カツンッとグラスを当て挨拶をする。
『お疲れ』
「アリュー殿も久しいのう。あの時以来じゃろうか……二人とも元気そうでよかったぞ」
 元々依頼を一緒にこなしたことある彼は、二人のいつもと変わらない姿を見てニコニコと楽しそうに笑った。
「あの時のお土産の野菜はどうじゃったか? 実は、今日の野菜もあの時の畑の物もあるんじゃよ」
「そうなんですか! うわー……懐かしいですね。もちろん、美味しくいただきましたよ! ね、アリュー」
『そうだな』
 以前、お土産にと渡した野菜を美味しかったと言ってもらえた彼は、嬉しそうに「そーかそーか」と笑った。
「そうそう。理夢琉は歌が好きじゃったろう? どうじゃ、一緒に一曲でも。」
 隅っこに置いてあるデンモクとマイクを持ってくる。
「んー……どれがいいかな?」
『いつも口ずさんでるのでいいんじゃないか?』
「えー……どれだろ」
 機嫌がいいと良く口ずさむ斉加だが、それも種類が多いため選ぶに選べない。
「んーこれとか?」
 ピッと選んだのは『ときドキッハートフルライフ』という曲だった。
「お、これは知ってるぞ。あれじゃろ? 乙女ゲーの――」
 彼女が選んだ曲は、グロリア社作話題の乙女ゲーム主題歌である。
「振り付けも可愛いんですよね! ちょっと恥ずかしいですけど歌いましょ!」
 立ちあがって二人でモニターの近くに立つ。ヒューヒューやパチパチといった歓声が送られてくる。
 イントロが流れ、最初の出だしが色分けされて映し出される。
「どっち先に歌うんじゃ?」
「んー……じゃあ私が!」
 イントロが終わり「・・・」が色が変わる。
 ダンスも決め決め、息もぴったり、力尽きるまで二人は歌うのであった。
 もちろん、エリューも時々剣太に巻き込まれ歌わざる追えない状況になる。そんな姿を見て彼女は楽しそうにニコニコ笑うのであった。
 こうして二人の時間は過ぎてゆくのであった。

■忘年会F
 飲んで酔って騒ぐ中、まったりした空間があった。
 女性二人、友人たちと会話をしつつ忘年会を楽しんでいるのである。
『ユリナ、主が欲しい料理は私が持ってくる』
 大きいテーブルにたくさんの料理が並んでいるため、手の届かない場所のを運んでくれるとリーヴスラシル(aa0873hero001)が言ってくれる。
「まだ大丈夫よ。あ……これ、美味しいわね」
 食べていたカレイの煮つけの美味しさに、月鏡 由利菜(aa0873)は笑みを浮かべる。
『ああ……彼が張り切って用意した旬の魚らしいぞ』
 彼とは主催者の事。朝早くから市場でこの時期の旬の魚を選んできたそうだ。
「うふふ……後でお礼を言わないといけませんね」
 主催者であるのに騒いでいる彼をみて、ついつい笑ってしまう。
「今年も色々ありましたね……」
 一年間を振り返り、気分がちょっとしんみりしてしまう。
『ま……まだ解決できてない問題も山積みだからな』
「ええ……そうね」
 考えても仕方がないとは思っているが、ついつい従魔の事を考えてしまう。
『……今は考えても仕方ないさ。ほら、鍋がちょうどよく煮えたみたいだぞ』
 つい暗い顔をしてしまった月鏡にラシルが取り分けてくれる。
「ありがとう……」
 受け取って、スープを一口飲む。温かい。
『美味いな』
「ええ。ほっとする味ね」
 薄味のジビエ鍋。臭みもなく、どこか懐かしく感じる味だ。
(ほっとすると言えば……二人がここにいるからかしら……)
 良く知る赤髪の青年、共に過ごすラシルの間に座る月鏡。そのためだろうか。いつもより心が落ち着いているような気がする。
「ふぅ……」
 よそってもらった鍋を食べ終え一息つく。なんだか――

 ふらり……ガタッ……

 目の前が一瞬暗くなり、椅子から落ちそうになってしまう。
 が、落ちる前にその体はラシルによって支えられる。
『大丈夫か』
 彼女は心配そうに顔を覗き込んできた。
「ラ、ラシル……大丈夫よ。私は平気だから」
『……ユリナ、連日依頼を受け続けていれば疲れも溜まる。大事に至らないとしても、たまにはゆっくり休め』
 心配そうな顔をする彼女に、申し訳なく思うのと同時にどこかほっとしてしまう自分もいた。
「ありがとう……こうしてゆっくりしてるんだもの。大丈夫…‥」
 安心させるようににっこり笑う。
『私も皆も、主の元気な姿が何より見たいのだからな』
 そう言って、彼女は店員に温かいお茶を注文した。
 ラシルの言葉に胸の奥がジーンと温まる。
 彼女にはいつも助けられる。いつもいつも……。
 彼女の心遣いが温かいと同時に、お返しをしなくてはと心のどこかで思っていた。
「ありがとう」
 お礼を言い、体制を整え彼女に渡された温かいものを口にする。
 色々思うところはあるが、今は考えることをやめることにした。
 ただ、確かなことはこうした時間を大切にしたい。これからも大切な人とずっと一緒に――

 彼女は安心させるに今日一番の笑顔を向ける。
 そして、来年はもっと貴方の力になれる様にと願うのであった。

■忘年会G
 忙しなく動き回る店員さんから、大皿に盛られたお肉を受け取りテーブルの中央に置く。
『ハイ皆さんお待ちかねぇ。美味そうな肉ドーンッ☆』
 ストゥルトゥス(aa1428hero001)が置いた料理に「おおー」と歓声が上がる。
「バランス良く、食べないと……ね」
 サラダと揚げ物をお皿に盛りまくるのはニウェウス・アーラ(aa1428)であった。
 黙々と料理を食べまくる。

 もぐもぐもぐ……

 表情こそは変わらないが、次々に食べているのを見ると美味しいとは思ってくれているのだろう。
『ところでマスター。バランス良く食べるって、どういう事か分かる?』
 ニウェウスの皿に盛られた料理を見て思ったことを口にする。
 お皿には綺麗に半分がサラダ、もう半分がお肉と盛られていた。
「サラダを、いっぱい食べれば……その分、お肉を、いっぱい食べられる」
 その問いに彼女は目を輝かせながら、サムズアップをするのであった。
『やっぱ、そういう認識かー』
 呆れたように呟くストゥルトゥス。
『バランスよくっていうのはねー……』
 今後の為にも一応説明をする――が、彼女はそれを聞き流し、料理を黙々と食べ続けるのであった。

 ***

「どうも、参加してくれてありがとうな! 料理は美味しいかの?」
 周りと会話し、料理を楽しむ二人の元に主催者の彼が訪れる。
『やぁやぁ、何時もお疲れさんです☆ これは俺のオゴリだぜ』
 鍋で煮た肉を盛った取り皿をスッと彼に差し出す。
「お肉で、染めすぎてない……? あの、こっちも」
 バランスよくと、お肉と同じ量のサラダをスッと差し出す。やはりさっきの『バランスよく』のくだりは聞いていなかったらしい。
『いやほら、オペって大変そうじゃん? お肉で力付けたほうがいいかなーって』
「……そういう、もの?」
 首を傾げ、彼を見る。
「そうじゃのう……確かに大変っちゃ大変じゃが……こうやって皆と楽しい時間を過ごせて、それだけで大変なことがどうでもよくなるもんじゃ」
 そう言って彼はにかっと笑う。
『お、嬉しいこと言ってくれるじゃん』
「……っは、お酌、しなきゃ」
 労いの意をこめてお酌するニウェウスに「ありがとう」といい、それを一気に飲み干した。
「さてさて、水入らずの時間に邪魔をしたな! 来年もよろしくのう」
 そういって彼はこの場を去る。
「耳……柔らかそうだったね」
 彼の感情を表すようにピクピクと動く耳に、彼女は興味津々だったらしい。
『次あったときに触らせてもらえば?』
 彼女はこくんと頷くのであった。

 ***

 店を出て寒空に体を震わせる。
『いやー、食った食った! これで、明日からまた頑張れマス』
 「ふぅー」と吐く息は真っ白だ。
「ん。次は、新年会、だね。頑張る」
 ガッツポーズをするニウェウス。いったい何を頑張るというのだ。
『合ってるけど、どっかズレてねーですかマスター?』
 ついつい突っ込んでしまう彼女に、「バランスよく、いっぱい、食べなきゃね」とさらりと答えた。
 若干呆れつつも、「ふふふっ」と笑ってしまう。
 確かに、こんな楽しい時間を過ごせれば疲れなんて吹っ飛んでしまうかもしれない。
 今年一年を振り返りつつ、彼女たちは自分たちの家へと帰っていくのであった。

■忘年会H
 騒がしい店内のお座敷の片隅に、そこだけは音が存在していないのではないか、そんな風に思うぐらい絵になるような綺麗な所作で食事をする二人がいた。
 特に何かを話すわけではなく、鍋をつつく。
 時折、少し離れたところにいる仲間たちにすぐ近くの料理をよそってあげたりしつつ、黙々と食べ続ける。
「……賑やかだね」
 アリス(aa1651)は周りをちらりと見渡す。
『忘年会らしいしね』
 Alice(aa1651hero001)も周りをちらりと見渡す。
 周りの賑やかな声についつい反応してしまう。口にはせずとも、たまにこういった賑やかなのも悪くないと思う。
「……一年あっという間だったね」
『気づいたらもう終わりだね』
 忘年会ということもあり、思うことは今年一年の出来事。
「どうも、お二人さん」
 声を掛けられ、そちらに視線を向けると見知った顔、主催者の彼がにっこりと笑っていた。
 二人してぺこりとお辞儀をする。
「先日もありがとう。虫……と食事の席で話すことではないな。今宵も参加してくれてありがとうなんじゃ」
 二人の横にいそいそと座り込む。
「……よそう?」
 彼に何か食べるのかとアリスが聞く。
『お酌する?』
 彼に何か飲むのかとAliceが聞く。
「お、おお……頼もうかの。いやはや、可愛い子にしてもらえるの照れるものが」
 彼の中で何かがツボだったのか、にやけた顔をする。
「こうして何度もご一緒で来て嬉しいぞ! どうじゃ? 料理は美味しいか?」
 にこにこと彼は言う。
「……うん、美味しいよ」
 こくんと頷くアリス。
『お鍋いい味してるね』
 同じくこくんと頷くAlice。
「そうかそうか! それならよかった! いーっぱい料理は用意しておるからたくさん食べるんじゃぞ!」
 そういって、二人から渡された飲み物と料理を持って他の者に挨拶しにいってしまう。
「……嵐みたいだね」
『寒くはないけどね』
 最初から挨拶しに来ただけだったのだろうが、急に来たかと思えばすぐにどこかへ行く彼は、荒れてはないが嵐と表現してもおかしくはないだろう。
 少し静かになった空間で、またふたりは黙々と食べ続けるのであった。

 ***

「いっぱい食べたねAlice」
『そうだねアリス……少し食べ好きたかもね』
 まだ、周りは騒いでいたが一足お先にと帰る支度をする。
 お店の中は暖房がきいていて暖かいがその分外は寒く感じるだろう。しっかり、着込んで外の寒さに備える。
 酔っぱらってぐでんぐでんになる仲間たちを避けつつ、靴を履き外に出る。

 ヒュウ……

 寒い。
 体をぶるっと震わせる。
「早く春になるといいねAlice」
『そうだねアリス』
 寒さが嫌いな二人はそんなことを口にする。白い息が二つ空に上がった。
「その前に早く帰ろうよ」
『そうだね、凍える前に帰ろうよ』
 春が早く来てほしいと思う。でも今は、この寒さから逃れたい。早く温かい家に帰ろうと二人は速足でお店を後にするのであった。

■忘年会I
 お店の中央辺りで主催者の彼が乾杯の音頭を取り、「乾杯」の声が一斉に上がる。
 改めて共に一年を過ごした者と乾杯する。
「今年もいろいろ世話になった。今日は楽しもう」
 まずは一杯、グイッとビールを一気に飲むのは東江 刀護(aa3503)である。
『こちらこそ、お世話になりました。飲みすぎには気を付けてくださいね』
 彼が飲みすぎないよう気を配るのは、双樹 辰美(aa3503hero001)であった。
 最初は飲みつつお互いに一年を振り返る。
「今年も色々なことがあったな……」
『そうですね。依頼はもちろん、旅行に行ったりと……』
 思い出話をするだけでも、あっという間に時間が過ぎてしまいそうだ。

「やあやあ、刀護殿に辰美殿! 参加してくれて感謝するぞ!」
 他の参加者に挨拶を終えた主催者の剣太が彼らのすぐ横に座る。
「東江 刀護だ。忘年会のお誘い、ありがとう」
 顔は知っているとはいえ、こういった場で話すのは初めての為挨拶をする。
『双樹 辰美です。宜しくお願いします』
 正座をしてキリっとお辞儀をする。
「……二人とも背が高いのう」
 ぼそっと呟く彼の耳は垂れている。彼は160センチ丁度。男にしては低い方の為気にしているのだろう。羨ましそうに二人を見上げる。
「お? なんかいったか?」
「い、いや! なんでもないぞ!」
 ついつい心の声が出てしまったんだろう。慌ててごまかそうとしていた。
 本当に小さい声でつぶやいたため二人には聞こえていなかったようで、ほっと一安心する。
「剣太、お前、酒はいけるクチか? 俺と飲み比べしてみないか?」
 一升瓶を片手にコップを差し出す。
「ふふーん……こんななりじゃが、お酒は余裕じゃよ。なんなら、もう一本持ってこようじゃないか。ちょっと待っておくれ」
 そういって、彼は席を離れるのだった。
『飲みすぎに注意してくださいと言ったのに……倒れない程度にしてくださいよ』
 張り切る彼に『しょうがないですね』と双樹は小さく溜息をついた。
 戻ってきた剣太と一緒に東江は飲み比べを行うことになる。結果は――言うまでもない。
「ちょっと……ここらで……やめておこうか……」
「なんだ、意外と弱いじゃないか」
「いや……まさか……本当に2本目まで行くとは……ばたん」
 剣太はそう言って座敷にそのまま寝ころんでしまう。
『……大丈夫でしょうか』
 心配そうな顔をする双樹。
「なーに、主催者だ。なんだかんだセーブはしてるだろう。少し休ませてやればいい」
 「うー」と唸る彼を見て、東江は豪快に笑うのであった。

 飲んだ後は食い物だ。鍋はみそ、から揚げといった揚げ物、焼き鳥等を食べて楽しんだ。辰美はサラダ、刺身を。
『スイーツもあるようですね。食後のデザートに食べて良いですか?』
「食ってもいいが、メガ盛りにしてくれ注文はダメだ」
『……わかりました』
 素直に注文する彼女――と思いきや全種類を頼みだし、止めに入る東江。
 しばらくして起きた彼に茶々を入れつつ、二人の楽しい時間は過ぎてゆくのだった。

■忘年会J
 おっさんたちが飲んで酔って騒ぐ中、若い二人は自分たちのペースで忘年会を楽しんでいた。
 互いの一年の労を労い、烏龍茶で乾杯をする。
『居酒屋に入る事って中々無いから新鮮だね』
 周りにいる仲間たちで賑わう店内をキョロキョロと不知火あけび(aa4519hero001)が見渡す。
「そうだな。とりあえず何か頼むか」
 近くにいる店員に、とりあえず食べたいものを日暮仙寿(aa4519)が注文する。
 今日のメニューは特別仕様らしい。A4の用紙に手書きで書かれていた。隅に可愛らしい犬耳のイラストが描かれていた。
 すでに運ばれてきていたお通しをつまみつつ、雑談をする。
「今までいろいろなとこに行ったよな……」
 ぱっと思い出すのは新人だった去年の秋のこと。ドイツに行った時の依頼についてだ。
 ドイツでは16歳からビール可で日暮は飲むことになったんだが、思いのほか弱く酔ってしまったのが苦い思い出でもある。
 あけびは俺の二つ上。年齢差はどうにもならないが、何時でもこいつに頼られるような男でありたい。
(あの時は失敗したが……――)
 と思いつつ運ばれてきた刺身を食べる。
『私はお酒きっと強いよ! 仙寿様が酔い潰れてもちゃんと介抱するからね』
 考えてることを知ってか知らずかそんなことを言ってくる。
「絶対そんな事にはならない」
 ちょっとムキに言ってしまう。
『別に頼ってくれても良いのにー。あ、この焼き鳥美味しいよ!』
 そんなふうに会話をしつつ、まったり料理を楽しんだ。

 ***

 顔を赤らめた青年がよろよろとこちらに歩いてきた。
「どうも、今日はご参加くださりありがとうなんじゃー」
 主催者の彼が挨拶に来たんだろう。ぺこりとお辞儀をする。
「どうも……」
 日暮も彼に続いてお辞儀をする。
『お疲れ様です。今日はありがとうございました』
 不知火もきちっとお辞儀をする。
「おうおう。そうじゃ、料理はどうじゃった? 鍋は食べたかのう……」
 テーブルの上になかったのを見て、勝手に頼みだす彼。
「ジビエ鍋の二人用なんじゃか……良かったら食べてくれい!」
 用意されていた鍋がすぐに着て、鍋の蓋を彼があける。
『ありがとうございます』
 そんなにおススメならと二人は素直に受け取った。
「冬と言ったら鍋! 強引とは思うんじゃが……本当におススメでの。もし、いらないようならほれ、あやつらにでもあげると喜ぶぞ」
 彼の視線の先には大食いする男女が二人。
『ふふふ……わかりました。ありがたく頂戴しますね』
「さて、水入らずの時間に邪魔をしたの。今宵はゆっくり楽しんでおくれ」
 「ではな」とその場から立ち去る彼に、またペコリとお辞儀をする。
「せっかくだしな」
『うん、頂こっか!』
 「いただきます」とお鍋を口にする。温かい。出汁がきいて落ち着く味だ。
 彼にいただいた鍋をつつき、まったりと時間は進んでいった。

 しばらくして、静かになったかと思えば不知火が寄りかかってくる。

 ――トクン……

 内心の驚きを抑え黙々と烏龍茶を飲む。
(……動けない)
 疲れているんだろう。真っ赤になりつつ暫くそっとしておくことにする。
 終わるころまで二人の時間は静かに流れ続けるのであった。

■忘年会K
 段々と人が集まってくる店内にて、一足先に席に着く紳士と青年。
 最初の一杯を早めに注文しておく。
『俺も酒飲みたい』
 まだ未成年のルカ ロッシ(aa5159hero001)がメニューを見て呟いた。
「英雄はこの歳でも飲酒可能なのかね?え?ダメ?じゃあオレンジジュース1つね
 店員を呼んで飲み物を頼むモーリス チェスターフィールド(aa5159)。未成年はお酒が飲めないということで勝手に適当な飲み物を頼んでしまう。
『何勝手に頼んでんだよ?!』
 と言いつつ、何杯も飲むということで訂正はしなかった。
 忘年会のメンバーが全員揃ったところで、主催者が挨拶をする。そして「乾杯」の温度と共に宴会が始まるのであった。

「かんぱーい! いや~、今年はあんまり何もしなかったね!」
 仲間全員と乾杯をした後、相棒のルカに改めて乾杯をする。
『第一声がそれかよ!まあ、引きこもりがちだったのは確かだよな』
 話題にするのは一年の事。振り返って思い出すが――
「老人ホームと他所の忘年会に凸ったくらいだネ」
『突った言うな、仕事で行ったんだよ』
 若い子が使うような言葉をサラっというモーリスにルカは突っ込まずにはいられない。
 そんな彼にモーリスは愉快そうに笑うのであった。
「私が元気にはしゃいでいられるのも、ルカ君がいればこそだよ。いつもありがとう」
『じーさん……いや、こちらこそ――』
 改めて出会ったときから思い返す。
『……リンカーの痴呆に英雄相続、階段嫌がるじーさんに代わって俺主体で共鳴して……俺介護要員みたいになってる?!』
 世話になってると言いかけたところで言葉を止める。むしろ、世話をしてるのはこちらではないか。
 モーリスのてへぺろ&ウィンクが炸裂。

 ――イラッ

 そんな彼の目の前に無言でレモンを差し出す。そして、放出――

 プシャッ……

「目が~! 目が~!!」
 見事、放出された汁は彼の眼を射止め、モーリスは悶絶した。
『ふん』
 してやった、という顔をしてルカはにやりと笑う
 レモン汁の痛みに涙目になるも、モーリスもそのやりとりに楽しそうに笑うのであった。

 ***

 時刻は段々と終わりに近づいて行く。
 モーリスはビールをチェイサーにテキーラやウォッカを次々と空にしていく。
『待った、じーさん、飲みすぎじゃね?』
 テーブルの上に空の便が3本目になるところで、ルカが止めに入るのであった。
「ダイジョブ。私の若い頃なんかは……――」
 若干ろれつが回っていないモーリス。グダグダと昔話を話し始める。
『あ、これダメなやつだ。店員さん水ジョッキでくださーい!』
 すべてを察した彼は対応に急ぐ。このままだと大変な目に合うのは目に見えていた。
『酔い潰れたのを介抱するとか嫌だからな!!』
 彼の焦りを気にせずに、彼は同じ話を繰り返す。
「ダイ……ジョウブ……ダイジョウブ……」
『年の最後まで介護とか勘弁だって!』
(ああ、これは……――)
 最後の最後に彼は諦め、覚悟を決め、店員さんに食べれるだけの料理を注文し、やけ食いをするのであった。
 そんな彼を知ってか知らずか、モーリスは幸せそうな笑みを浮かべ船を漕ぎ始めるのである。


 こうして町の一角の居酒屋で、それぞれの楽しい時間が流れていった。
 酔いつぶれたものもいれば、飲み足りないものは2次会に行ったりとそれぞれの終わりを向かえる。
 今年一年はもう終わりだが、新しい年の始まりはすぐそこ。
 彼らのこうした時間はこれからもずっと続いていくのである。

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結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 此処から"物語"を紡ぐ
    真壁 久朗aa0032
    機械|24才|男性|防御
  • 傍らに依り添う"羽"
    アトリアaa0032hero002
    英雄|18才|女性|ブレ
  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 双頭の鶇
    志賀谷 京子aa0150
    人間|18才|女性|命中
  • アストレア
    アリッサ ラウティオラaa0150hero001
    英雄|21才|女性|ジャ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 深淵を見る者
    佐倉 樹aa0340
    人間|19才|女性|命中
  • エージェント
    シセベルaa0340hero002
    英雄|20才|女性|カオ
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 温もりはそばに
    ラドシアス・ル・アヴィシニアaa0778hero001
    英雄|24才|男性|ジャ
  • 希望を歌うアイドル
    斉加 理夢琉aa0783
    人間|14才|女性|生命
  • 分かち合う幸せ
    アリューテュスaa0783hero001
    英雄|20才|男性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • カフカスの『知』
    ニウェウス・アーラaa1428
    人間|16才|女性|攻撃
  • ストゥえもん
    ストゥルトゥスaa1428hero001
    英雄|20才|女性|ソフィ
  • 紅の炎
    アリスaa1651
    人間|14才|女性|攻撃
  • 双極『黒紅』
    Aliceaa1651hero001
    英雄|14才|女性|ソフィ
  • 共に歩みだす
    魂置 薙aa1688
    機械|18才|男性|生命
  • 温もりはそばに
    エル・ル・アヴィシニアaa1688hero001
    英雄|25才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 優しい剣士
    双樹 辰美aa3503hero001
    英雄|17才|女性|ブレ
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 柔軟な戦術
    モーリス チェスターフィールドaa5159
    獣人|65才|男性|命中
  • 無傷の狙撃手
    ルカ ロッシaa5159hero001
    英雄|17才|男性|ジャ
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