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掲示板
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『質問卓』
最終発言2017/11/15 08:48:15 -
【相談卓】
最終発言2017/11/16 14:44:48 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/11/13 20:25:54
オープニング
●支援部隊
「インカ支部のバリアが、破られました!」
以前よりインカ支部はラグナロク勢力による侵攻を受けていた。
だが新たに届く報にはバルドル、トール、フレイ、フレイヤの名前も混じる――敵幹部による総力戦の様相だ。
支部を守るバリアは破壊され、支部への侵入も始まっている。
敵陣営の、更なる援軍の情報もある。
勿論M・Aをはじめとしたインカ支部の面々も負けてはいない。
独特な技術を駆使したセキュリティ装置や発明品を駆使し、敵と交戦中。
あなたたちは支援部隊としてギアナ支部を出発した。
密林を縫うように細く続く道を二台のジープでひた走る。
樹冠は高く鬱蒼と茂り、強い日差しを遮る。
時折、森に棲む獣達の鳴き声が響く。
●戦乙女の襲撃
柏木 信哉は新米エージェントとして支援部隊のジープを運転していた。
未舗装の道路は凹凸だらけで、車はひどく揺れる。水溜りやぬかるみも随所にある。うかうかと何かを喋れば、舌を噛みそうだ。
ふと前方に何かを感じ、速度を緩める。
「何かがおかしい……暗雲と晴天……? 見通しも悪い……」
次の瞬間、光る何かが車体の下部を貫いた。
爆発音にブレーキを踏むが、既にハンドルが効かない。
ぬかるんだ泥の中を車体が激しくスピンし、道路脇の樹木にぶつかってようやく停止する。
後続車は咄嗟に反対側にハンドルを切り、衝突を免れたようだ。
「救済を! ラグナロクこそが新たな世界へと導くのです!」
道の遥か前方で、弓を構えたヴァルキュリアが朗々と謳う。
声色に込められているのは、明らかな敵意。
自分達に従わないものは抹殺する。言外にそう表明している。
「……あの弓で、タイヤを射たのか」
ようやく信哉は、状況を理解する。
速度を落としていなければ、危険な状態だった。
「ヴァルキュリアに襲撃されました! 道を塞がれている! それに……空がおかしい!」
通信機を使って、ギアナ支部に現状を報告する。
あたりには暗雲と晴天、濃霧と強風が入り乱れていた。
しかもそれは、不安定に前触れなく入れ替わる。
車外には、広範囲にぬかるみが発生していた。泥に靴を埋めながら車を調べると、右前輪が完全にパンクしている。しかしエンジンに異常はなく、予備のタイヤに替えれば走行できそうだ。
車の破損状況を調べる信哉の傍らに、ぼとり、と重たげなものが落ちる。
一瞬、何かの動物かと訝ったそれは――苗木。
高さ40cmほどの黒々とした苗木が、根を足のように使って、もぞもぞと動いている。
幹も葉も、光沢はなくどす黒い。根には炭の粉のように真っ黒な泥を纏わせ、信哉の足に絡み付こうとする。
「うわっ!」
反射的に装備していた剣を抜き、その物体を両断した。
苗木はしばらく蠢いたあと、ばらばらの木片となって泥の中に落ちる。
森の奥には霧が立ち込め、青く光る鬼火が浮かび上がる。
どこか禍々しい光が、それが善性のものでないことを告げている。
不規則に浮遊しながら獲物を探す鬼火が、吐息を吐くように、小さな火炎を放射する。
それは風に煽られ、林内の樹皮にぶつかって火の粉を飛ばした。
「やばいですね、これは」
未舗装の泥の道とはいえ、密林を移動するほぼ唯一の陸路。
ここを押さえられては、後続の支援部隊にも影響が出る。
あなたたちはこの場で敵を撃破し、支援ルートの確保に努める覚悟を決めた。
場所は密林、敵はヴァルキュリアと未知の従魔、そして荒れ狂う異常気象。
加えて汗ばむほどの高温多湿。
あなたたちの行動が、密林に活路を切り拓く。
【現場模式図】
∥ ☆☆ ☆ ▽▽▽
∥◎◎◎ロ●●●▽▽▽
∥◎◎◎ロ●●●▽▽▽
密 ∥◎◎◎ロ●●●▽↓▽
∥○○○ロ■■■▽川▽
林 ∥○○○ロ■■■▽↓▽
∥○○○ロ■■■▽▽▽
∥ ▲ ▽▽▽
(※3マスでおよそ10sq;気象表示のある部分とその前後は密林)
▲:初期位置 ☆ヴァルキュリア
ロ:道路 ∥:崖(登り)△:川(↓側に流れあり)
天候;◎:晴天 ○:曇天 ●:濃霧 ■:強風
【現場状況】
・インカ支部へ救援に向かったエージェントが敵勢力と遭遇。
・天候がモザイク状に切り替わる異常状態が発生中。天候は前触れなく切り替わる。道路を含む境界域は両方の気象の影響を受ける。
◎:晴天;異常に蒸し暑い。命中・回避が若干低下する。
○:曇天;やはり蒸し暑い。命中・回避が若干低下、足元にぬかるみ発生。ぬかるみは他の天候に切り替わっても3ラウンドは残る。
●:濃霧;視界はおよそ1メートル。まっすぐに伸ばした手の先が見えなくなる。
■:強風;密林の中でも構わず風が吹き荒れる。火があれば燃え広がる。移動・命中・回避が低下。
・川は深く、危険生物の棲息可能性あり。
・崖(登り)の高さはおよそ20m。エージェントに登れない高さではないが、ヴァルキュリアの炎の矢に狙い撃ちされる上、登りきった先の危険度は未知数。
・乗ってきたジープのうち先行の1台のタイヤが道路を塞いでパンク中。予備タイヤに交換するまで2台とも動きが取れない。
【敵情報】
ヴァルキュリア×3
背に白い翼の生えたラグナロクの構成員。今回は最初から戦闘モード。
ただしなかなか近づいては来ない。
盾と炎の矢を所持(矢の射程25sq)。数はPL情報。
プイル×20
ミーレス従魔。物攻F 物防C 魔攻F 魔防C (20cm~40㎝)
悪の苗木。周囲にある木々から不意に落ちてきて根や枝で人体に絡みつく。樹皮が人の顔のように見えることがあり、大体ムカつく顔をしている。
・まとわりつき:体に張り付いて【劣化(移動)】
・易火炎:パッシブ。身体が異常に燃えやすく、燃えた場合半径1sqに及ぶ火炎となり、範囲内にあるものを無差別に燃やす。
ムバエ×60
ミーレス従魔。物攻F 物防E 魔攻C 魔防E (20cm~40㎝)
ふわふわと飛行する鬼火のような妖怪。球状。燃える体からランダムに火炎を飛ばす。知能も攻撃力もかなり低いが、5体以上の集合で一斉に自爆する。
・火炎攻撃:射程3
・集団自爆:半径2sq以内に集まったムバエの数×1を範囲内にいる対象に無差別/防御無視の固定ダメージとして与える。
解説
【目標】
目の前の敵を撃破し、インカ支部への支援ルートを確保する。
【NPC】
柏木 信哉
新米バトルメディック。実戦経験はこれが初。装備品は剣と盾、スキルはケアレイとクリアレイ。
特に指示がなければ移動手段である車両を守っている。
【貸与品】
フォレストホッパー(販売品ですが、当シナリオでは貸与も可能です。プレイングに書いてください)
※森林火災に適応した樹種は生木でも燃えやすく(例:マツ属)、フィールドの密林にも生息する。敵の火炎により森林火災の可能性あり。通常火炎でありPCはダメージは受けないが、足場に影響する。
※森林火災後は萌芽力が上昇することと、灰により土壌に栄養分が供給されるため比較的速やかに植生は回復する。火災に神経質になりすぎる必要はない。また付近では気象異常により豪雨も発生しているため、無秩序な延焼は起こりにくい。
リプレイ
●
進行方向とは関係のない方向を向いて停車する二台のジープ。
車外には、鬱蒼とした密林。
湿度の高い熱気が、肺を暑苦しく満たす。
「(ロロ――……)」
『(ええ、気候まで変わるとは……危険ですが興味深いですね)』
辺是 落児(aa0281)からの問いかけに、構築の魔女(aa0281hero001)は声に出さずに答えた。
車外の道路は、足を踏み出せば足首まで軽く埋まる程に水分を吸ってぬかるんでいる。
そうかと思えば、右側からは強風が吹きつけ、視界の奥には真っ白な霧も見える。
空がおかしいと、H.O.P.E.に連絡した信哉が言ったとおりだった。
天候が命でも得たかのように入り乱れ、対立し、荒れ狂う。
魔女はいちはやくフォレストホッパーで最寄りの幹を蹴った。
高速演算装置が自動的に働き、立体機動を可能にする。
「随分と目まぐるしく変わる天気ね」
梶木 千尋(aa4353)は不機嫌そうに車の外に視線をやる。
『目立ちたがり屋の阿呆も、悪天候では形無しだな』
あえて挑発的に、豪徳寺 神楽(aa4353hero002)は嘯く。
「ふん、精々派手に戦ってやるわ」
英雄の言葉にはそっけなく顔を逸らしながら、千尋は次々に姿を現す鬼火たちを睨む。
ぼとり、と道路のぬかるみの上に黒い苗木が落下する。
その樹皮は不自然に歪んで、まるで嘲笑う人の顔のよう。
迎え撃つ間もなく、ヴァルキュリアの炎の矢が黒々とした苗木を射る。
燃えやすいガソリンが火を得たかのように、黒々とした苗木は瞬時に燃える炎の柱となる。
「うわ、燃えるんだアレ?! ただでさえ暑い密林で、燃える敵とかやってらんなーい!」
『ん。焼き鳥に、なっちゃう……?』
未知の敵を前につとめて元気に振舞う雨宮 葵(aa4783)に、燐(aa4783hero001)は淡々と容赦なく語る。
「シャレにならないよ!? 焼ける前にぶったおさなきゃ!」
あとインコは焼き鳥にしないから! と変な言い訳をする。
葵のワイルドブラッド特有の黄色から青へのグラデーションの髪は、熱帯の森にあざやかに映える。
森の中でも構わず吹き荒れる強風に煽られ、燃え上がった炎が乾いた下草や樹皮をちろちろと舐めてゆく。
霧の中から現われた青い鬼火達は、小さな火炎を撒き散らした。
「……邪魔」
ゆらりとゆらめく炎のように黒いアリス(aa1651)と赤いAlice(aa1651hero001)は溶け合い、ひとりのアリスとなる。紅い瞳が鬼火をねめつける。
螺旋を描く二匹の蛇の杖から放たれるのは、ブルームフレア。
動きの遅い敵を魔法の炎で迎撃し、燃やし尽くす。
「炎系の…苗木に鬼火、そして人型か」
嘆息するように、燃える炎の紅を具現化した少女は呟く。
「炎を纏った獣が復讐相手である私としては、獣じゃなかったのは良かったと見るべきか……? さて」
炎の獣の王が、彼女の宿敵。
今回はその練習相手と割り切ればいい。
支援ルートを妨害する敵は……殲滅する。
強風で狙いを乱されるよりは足場が悪いほうがましと曇天の森に踏み込み、味方との距離を取る。
ウィザードセンスでライヴスを活性化し、攻撃態勢に入る。
「これでこっちを狙ってくれればいいんだけど」
黒い苗木は、盛大に燃える。
どんどん出てくる鬼火は、爆発するヤツ。
アリスは魔法の杖を掲げる。
「それじゃあ、動きを止めてもらおう」
「緊張していますの?あなた」
エリーヌ・ペルグラン(aa5044)は怖気づいたように車の側で固まる信哉に声を掛けた。
「わたくしも依頼に出るのは初めてですの。でも、恐れはありませんの」
若いバトルメディックも実戦は初めてと聞いて、親近感を覚えたのだ。
きゅっと小さなこぶしを作り、新人仲間を励ます。
「お姉様の待つ涼風邸に胸を張って帰れるよう、初めての依頼、頑張りますの!」
テール・プロミーズの先輩でもある憧れのお姉様も、アマゾンで戦っている。
お姉様に恥ずかしくない戦果を勝ち取るべく、気合いは充分。
『僕達も実戦は初めてだ。エリーヌ、異界探索やVBSと同じ感覚で突っ走らないでよ』
毛並みのよい血統書つきの猫を思わせるカートゥス(aa5044hero001)が、するりと側に寄る。
見かけはエリーヌよりも若い少年だが、精神年齢はカートゥスのほうが上のようだ。
「車が燃えるとマジでやばいから、コレで周辺の炎は消し止めてね!」
葵は信哉に消化器を渡す。
燃える敵に燃える武器。とりあえず移動手段は死守しなければ。
エリーヌも自分の幻想蝶から消化器を取り出す。
「でしたら、私の分も持っておいてくださいまし!」
そしてエリーヌはカートゥスと共鳴し、憧れのお姉様にどこか似たグラマラスな魔女となる。
猫耳と尻尾が、カートゥスの名残だ。
『エリーヌ、君も3~4年後くらいには素でそういうレディになっていることを望むよ』
共鳴姿はエリーヌの憧れであると同時に、カートゥスの好みの具現化でもあるのだ。
「(面倒だな……)」
不審な悪天候にも臆することなく車外に飛び出してゆく仲間達を見送りながら、鋼野 明斗(aa0553)は思案していた。
『(やる気! 元気! 正義!)』
やる気の見受けられない明斗に危機感を覚えたのか、ドロシー ジャスティス(aa0553hero001)は会話用のスケッチブックでばしばし叩いて車外に追い立てようとする。
不自然なほど狭い範囲に入り乱れる悪天候は何を意味するのか。
救済を謳うヴァルキュリアとは会話は可能なのか。
「……せめて、向こうから来てくれないかな……」
不確定要素が多すぎると遠い目をする明斗を、ドロシーが必死でぐいぐい押し出す。
『(やる! 準備!)』
無限の体力と気力を持つ幼児英雄には、明斗の思索など関係ない。
正義の執行を妨害する敵がいるなら、全力で排除するのみ。
「……やらないとまでは言ってない」
まるく見開かれた緑の瞳には、効率的戦略とか裏の裏を読むとかいった駆け引きは一切なく、ただ純粋に、正義の光が宿っている。
明斗が手を伸ばせば、ドロシーも満足げに微笑む。
そして共鳴する。
指揮を取っているのは誰だ? ――ヴァルキュリアだ。
ではそのヴァルキュリアに指示を出しているのは?
「もう少し、情報が欲しいな……」
銀晶の盾を構え、足首までを飲み込む泥に、一歩踏み出す。
速さも、華々しさも必要ない。着実に護り、着実に進む。
「柏木さんは車の守り頼むっす!」
久兼 征人(aa1690)はミーシャ(aa1690hero001)と共鳴し、明斗の後を追った。
彼はいかにも面倒そうにこの状況を睨んでいたが、征人もまったく同感だ。
謎の天候、狭窄した地形、最悪のコンディションの足場。
「足場の問題は、例のギアナ支部の開発品でどうにかなるんだろうけど」
足首に貼ったタトゥーシール、『フォレストホッパー』を起動させる。森林にのみ特化した超小型ライヴス式アビオニクス。
意識を向けるだけで、ジャンプして足が最寄りの幹を蹴る。密集した森で、幹から幹に飛び移るように上下の動きも加えながら跳ねる。
強風地帯の向こうの霧から、次々に鬼火が現われる。それらは強風に煽られ、螺旋を描くようにして森の中に散らばる。
『(征人、気をつけて……)』
ミーシャが内部から呼びかける。
「わかってる。あの鬼火、集まると自爆すんだっけ?」
薙刀「焔」を構え、強風に乗って流される鬼火を、すれ違いざまに切り裂く。
密集しそうな場所を優先して、数を減らす。
両断された鬼火は、チラチラと火の粉を舞い散らせながら風の向こうに消えた。
●
「……俺は正直、こういう自然の風景を美しいと思った事は無いっす」
九重 陸(aa0422)は足場の悪い曇天の気象を抜け、蒸し暑い晴天の森に立っていた。
燕尾服にマント、シルクハットに手袋といったヨーロッパ風の舞台で映える衣装は、熱帯の森ではいかにも暑苦しい。
「いかにも何か出そうだから、喜ぶ人はいそうですけど」
陸のもうひとりの英雄はオカルト話題が大好きである。こんな森では喜んでUMA捜索を始めたりしそうだ。
『(でもエリック、わたくしのお庭は喜んでくれたじゃありませんか)』
共鳴したオペラ(aa0422hero001)は不思議そうな返事をする。彼女は幻想蝶の中に好きな花を集めた庭園を拵えているのだった。
「人の手が入った庭園は別っすよ。こういうのは、何て言うか……落ち着かないっす。長いこと病院にいたから慣れてないのか、俺が機械の身体だから自然のものが妬ましいのかは、分かりませんけど」
陸は何度も大病を患い、その末にアイアンパンクとなった。管理された白い病室、チューブで繋がれた医療機器、そして自分の一部となった機械の体にはもう違和感を感じない。
だが、旺盛な生命力で大地から天へと伸びる自然の姿からは、どこか疎外感を感じる。
そうこうしているうちに梢の上でぎらぎらと輝いていた太陽を厚い雲が隠し、足元の土が急にどろりとした湿気を帯びる。
『(天候が……)』
大した前触れもなく、頭上の天候が晴天から曇天へと変わった。
晴天は逆に曇天へ、霧は風へ、風は霧へ。
「天気も生きてるみたいで、気味が悪いっすね。でも視界がなくなる霧や、命中とか悪くなる風よりはいいっすよ」
もともと怪しげな天候、驚くほどのことでもないと陸は改造した魔法杖を構える。『Carlotta』の銘が刻印された杖の先端はシャンデリアのように分かれ、冷たい火の灯る蝋燭が取り付けられている。
近くの森で霧の中に身を潜めていた鬼火達は、いまは強風に煽られていた。
そのなかからいくつかが、火炎を吐きながら陸をめがけてやってくる。
シャンデリアの火が集まり、逆巻く魔法の炎となって鬼火に襲い掛かる。
炎は周辺の樹も薙ぎ倒し、樹冠に風穴を開ける。
「上に掴まるもんなけりゃ、ムカつく顔の苗木も落ちてこれないよな?」
『天候が変わりましたか。どういう理屈で変化しているのか……』
構築の魔女はフォレストホッパーの機動力を生かし、濃霧に紛れて後方のヴァルキュリアに最短で迫ろうとしていた。
ライヴスゴーグルを使用し、途上にいる敵を二挺拳銃で撃ち落としながら進む。
霧のエリアの方が敵に悟られずに近づけるはず。
そう判断して跳躍により樹上を移動した。
ノイズキャンセラーにより集中を維持し、濃霧の中でもかすかに存在する葉ずれの音を頼りに跳ぶ。
しかし、濃霧は突然の強風に吹き飛ばされ、霧に潜んでいた鬼火が姿を現すのと同時に、魔女自身の姿も顕わになる。
クリアになった視界の奥では、炎の矢をつがえるヴァルキュリアがこちらを狙っていた。
「ラグナロクの救済を拒む愚者に、死を!」
魔女に向かって放たれた矢は、強風によってわずかに逸れる。
「(ロロ――……)」
『ええ、風で命中が下がる条件は互いに平等のようですね』
落児の呼びかけを笑顔で引き取り、高い枝から迷わず飛び降りる。
自由落下しつつもフォレストホッパーの機動力で幹を蹴り、樹木を盾とした高速移動を織り交ぜることによってヴァルキュリアに狙いをつける隙を与えない。
跳躍しながら二挺拳銃で敵を撃とうとした刹那、ヒュル、とつむじを巻く風に集められた鬼火たちが魔女の至近距離で爆発した。
『(自爆するのか。従魔ながら哀れだな)』
突然の濃霧に包まれた千尋に、遠くでの爆発音を聞いた神楽が呼びかける。
「アレに巻き込まれたら、こっちのほうが哀れよ」
『(違いない)』
霧が出る前に把握していた位置関係を頼りに、フォレストホッパーを使って木々と蹴り、濃霧を抜ける。
抜けた先は、晴天。
むっとする蒸し暑さに、汗が噴き出す。
しかも曇天から晴れたばかりらしく、足場はドロドロのぬかるみ。
「ムカつくわね! 風とか霧とか、暑いのとか!」
泥に足を取られている場合ではないと、垂直方向に移動して張り出した枝に乗る。
一息つこうとしたそのとき、首筋にぐしゃり……と湿った根の落ちてくる感触。
泥を帯びた根と、黒々とした枝が後ろから纏わりつく。
「絡んでくるんじゃないわよ!」
背中ごと幹に体当たりし、プイルの拘束が弱まったところで肩越しにWアクス・ハンドガンの弾をぶち込み、引き剥がす。
しかし、気づくと鬼火もまたそこここにいた。
吐き出す火炎が瀕死のプイルに燃え移り、大きな火柱となる。
千尋はぬかるんだ泥の上に飛び降りることで、かろうじて炎から離脱した。
体勢を立て直し、不機嫌そうにハンドガンを握りなおす。
「苗木と鬼火が合わさるとめんどくさいわ。ひとまず手当たり次第に鬼火を減らしておこうしら」
葵は木々の間を跳んでいた。
ワイルドブラッドの体質のせいか、フォレストホッパーによる空中移動にも、難なく馴染んでいる。
天候は曇天。ぬかるみにさえ気をつければ問題ない。
狙うのは、後方に控えるヴァルキュリア。
翼の生えた相手に、跳躍装置で回り込んで挑む。
「さあ、派手に吹っ飛べ!」
スカバードで加速した朱い妖刀に、更にストレートブロウの衝撃波を乗せてヴァルキュリアに向かって放つ。
後方には、ムバエの群れ。
「(あの鬼火、ヴァルキュリアを認識してるのかな?)」
あの鬼火が完全に自動で爆発するのなら、これでちょっと周囲から追い込んでやればヴァルキュリアすら巻き込んで自爆するはず。
「防御型に、防御無視固定ダメージは痛いよね!」
『(……うまくいけばね)』
冷静に、燐が応える。
衝撃で後退したヴァルキュリアを避けるように、密集していたはずのムバエは散っていく。
「さすがにヴァルキュリアは分かるかー。使えると思ったのになー」
口先ではそう言うが、さほど残念そうでもない。
あの鬼火には敵味方を判別する程度の知能はあるか? ――ある。明確にヴァルキュリアを避けた。
何かの方法で認識し、味方は攻撃しないようにしてあるのだ。
「じゃ、これならどうかな?」
にやりと笑う葵が大きな翼のように展開するのは、カチューシャMRL。鬼火もろともヴァルキュリアを狙う。
16連のロケット・ランチャーが次々と射出され、爆音が巻き起こる。
「魔女さん! 大丈夫ですか?!」
ムバエの自爆攻撃を受けた構築の魔女に、征人のエマージェンシーケアが届く。
ヒールアンプルも使用し、爆破による火傷を回復させる。
『ありがとうございます……。少し、独断で先行しすぎたようですね』
ヴァルキュリアとムバエ、プイルが何らかの形で連携しているのなら、こちらも連携して動かなければならない。
『ヴァルキュリアは三体。翼により高い機動力を持っています。ムバエ、プイルとも連携するようです。狙うなら援護が必要でしょう』
ライヴス通信機で、仲間と情報を共有する。
「あちゃあ、こっちも逃げられたかー」
葵の放ったロケット弾は、林内の樹木に当たって薙ぎ倒しまくったが、肝心のヴァルキュリアには届かなかった。障害物が多すぎたし、ヴァルキュリアは速すぎた。
「火力より、やっぱ速さが重要かな!」
パージしたカチューシャは後で回収することにして、妖刀『華樂紅』に手を掛ける。
『(それと、精度……ね)』
燐が分析する。
こちらがフォレストホッパーを使って跳ぶなら、あちらは元々生えている翼を使って回避する。
確実に当てる攻撃こそが必要だ。
そのとき、突然森のあちこちに、炎の柱が出現した。
その数、10本。
●
「まるで火炎爆弾のようですわね……」
『黒猫の書』で具現化した魔法の猫にムバエを狩らせていたエリーヌは、そう感想を漏らした。
おそらく、一斉に空高く飛んだヴァルキュリアが残っているプイルを炎の矢で射たのだ。
配下というよりは、道具。
炎柱の側にあった樹が、ばちばちと音を立てて激しく燃え上がる。
樹脂分の多い樹木は、生木でも燃えやすい。刺激性のある煙を噴き上げ、風の吹く場所では林床の枯葉を巻き込みながら延焼する。
前後して、天候も再び入れ替わった。
晴天は風に、曇天は霧に。霧は晴れに、風は曇りに。
「燻製にでもする気?」
アリスは眉根を寄せ、風で延焼しかけている炎に向けてディープフリーズを放つ。
螺旋の杖から放たれた冷気のライヴスが燃え盛る炎を砕き、火勢を弱める。
「全く……寒いのは嫌いなんだよ、私」
どれだけ通常の炎が燃え盛ろうと、エージェントには火傷ひとつ負わせることはできない。
しかし、煙による視界悪化と、森林火災による足場の悪化は痛いかもしれない。
燃えて脆くなった樹木では、フォレストホッパーの足場としては脆すぎるだろう。
「つまり、あとはムバエとヴァルキュリアをやればいいってことっすかね」
陸は魔法杖を16式60mm携行型速射砲に持ち替える。
立っていた場所が濃霧に包まれ、炎柱を目印として曇天域まで脱出してきた。
いままで燃える苗木には注意して火炎攻撃は避けてきたが、今の攻撃で苗木はかなり燃えつきたようだ。
「情報が足りない。ヴァルキュリアのうち一体くらいは捕獲できないでしょうか」
『試してみる価値は、ありそうですね』
明斗の提案に、構築の魔女も頷く。
ハストゥルで攻撃しながら、明斗も一度はヴァルキュリアに迫った。
だが、追い詰める寸前で上空に逃げられてしまった。
そのときに何度か「降伏しろ、時間の無駄だ」と投降を呼びかけてはみた。
返ってきた返答は、ただひとつの繰り返し。
「ラグナロクの救済を拒む愚者に、死を!」
――ヴァルキュリアの会話はウールヴへジンよりも高級なだけのプログラムで、「降伏」に対する返答は用意されていないのでは?
もしそうなら……そうであるとしても、得体の知れない敵のこと、サンプルが取れるに越したことはない。
『まずは……そうですね、高所を飛び回られると面倒ですから、高射程武器で翼、特に付け根のあたりを狙って撃ち落としましょう』
魔女の冷徹な戦略に使用可能な武器は、陸の16式と、魔女のPride of fools。魔女はフォレストホッパーで樹冠近くの枝に位置取りし、射程の短さを補う。
『その他の方は、ムバエ、特に自爆攻撃で妨害されないよう、援護をお願いします』
まだどこかに残っているかもしれないプイルにも引き続き注意を、と呼びかける。
「燃やすと面倒なものは燃えた。だからあとは、燃やし尽くせばいい」
アリスは淡々と言う。
「撃ち落したら……手負いのヴァルキュリアは任せてよ!」
葵は今度こそは! と『華樂紅』を手に張り切る。
「……私は、革命なんて嫌いですの。パリを燃やさせはしませんの」
生家であるペルグランがフランス革命の闘争に巻き込まれて没落したエリーヌは、ラグナロクの思想が根本的に気に入らない。
「鬼火ならさっきから蹴散らし続けてる。そろそろ弾切れになって欲しい頃だわ」
千尋はややうんざりした口調で言う。
「これ以上長居すると湿気で煙草が駄目になりそうっす。さっさと倒しちまいましょう」
場を和ませるように、征人は軽口を叩く。
合図と同時に、一斉攻撃が始まる。
強風と霧は避け、曇天か晴天エリアに各自位置取りをする。
『幽玄の風、荒ぶる邪炎を凪げ! ってね。ファントゥーム!』
カートゥスが呪文と同時に放つのは、ゴーストウィンド。
穢れの風が敵に災いを運ぶ。
「かかっておいでよ。どれだけの熱さか、見てあげよう……」
アリスは微笑みさえ浮かべ、渾身の炎を放つ。
ぬるい炎ではあの獣の王には届かない。
だから熱く。もっと熱く。
魂すら、溶かすほどに。
「いい加減に、燃え尽きてしまいなさい!」
炎剣に華やかに弾ける炎を纏わせ、千尋は鬼火を切り裂く。
『貴女達が何者か、私の手で明らかにしてあげます』
樹上で魔女は空の敵に狙いを定める。
視界に捉えたのは二体。もう一体はどこか死角にいる。
羽ばたいた翼が上を向く瞬間を狙って、Pride of foolsが火を噴く。
「捕獲とか難しいことは、魔女さんに任せます。俺は俺なりに、できることをするんで」
空に向けて、陸は16式の照準をあわせる。
全長2mに及ぶ対愚神火器が空高く舞う獲物を射抜く。
撃たれた二体は落下し、何度か枝に掛かりながらも地上に届く。
一体は綺麗に翼だけ折られていた。
背中から血を流しつつも、立ち上がり弓に炎の矢をつがえる。
「ラグナログこそガ……真なるセカイのみちビきテ……」
「投降しろよ、まだ助かるぞ」
明斗は盾を構え、長巻野太刀「極光」真打を抜きながら最後の警告をする。
治癒スキルがヴァルキュリア相手に有効かはわからないが、捕獲できれば試してもいい。
「救済ヲ! コノせかいニ、キュウさイヲ!」
放たれた炎の矢は銀晶の盾が受け、極光の輝きがひらめいて弓を持つ左手首を切り落とす。
「アアァァ……アアァァッッ!!」
ヴァルキュリアは燃えるような目で明斗を睨み、右手に残った炎の矢を握り締め――
そして、自分の喉に、突き立てた。
矢が喉を深々と貫き、炎が戦乙女の体を包み……。
その体は炎と共に崩れ去る。
明斗は眉を顰め、言葉もなくその最期を見ていた。
地上に落ちたもう一体は、葵が追った。
射落とされた鳥のように力無く、血塗れの翼が泥の中に広がる。
右胸を射抜かれ、肺から漏れる音がヒューヒューと風の音のように聞こえる。
どう見ても瀕死だが、葵の足音を聞くと、弾かれたように起き上がった。
炎の弓は落下する最中に失ったらしく、武器を探す手が虚しく空を掻く。
――あくまで捕獲を試みるべきか、苦しまずに逝かせてやるべきか。
そう葵が迷ったとき、ヴァルキュリアの体が揺れ、突然炎に包まれた。
隠れていた別のヴァルキュリアに射られたのだということがわかったのは、飛び去る羽音と共に、炎に灼かれた体が崩れ落ちたときだった。
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各人が戦闘で負った傷を明斗と征人が癒し、停まっていたジープの場所に戻ると、信哉ともうひとりの運転手と協力してジープをぬかるみから脱出させ、タイヤの交換も済ませていた。
『この天候はヴァルキュリアが引き起こしているものかと思ったら、そうでもないのですね』
相変わらずおかしな空模様を見上げて、構築の魔女が静かに感想を述べる。
「ギアナ支部に気象情報を調べて貰ったんですけど、このあたり一帯がこうみたいです」
それから消火剤は化学薬品で植物によくないので、道路周辺以外には撒かないように言われました、と信哉は付け加えた。
「雨雲が出てるから、もうじきこのあたりにも雨が降るだろうって……たぶん」
気象の予報が成り立つような状態ではないようだが、付近に雨は降っているようだ。
『何が起こっているんだろうな。この密林地帯で』
共鳴を解いた神楽が、厳しい表情で立っていた。
――ヴァルキュリアは一見言葉が通じるようで、実は命令以外の行動はできないのでは。
二体の戦乙女の最期を見届けたエージェント達は、誰からともなくそんな言葉を呟く。
「回収して調べられればよかったんだけどな」
明斗の手には、血のついた弓が握られていた。
共鳴を解いたドロシーが、いつもより小さな字で『正義は執行された』とスケッチブックに書く。
書いた字を掲げて困ったような顔をするドロシーの頭を、明斗の手が撫でる。
インカ支部はまだ混乱中で、直接の連絡は取れていない。
「車は走行可能です。急ぎましょう」
信哉が皆に声を掛ける。
そのときぽつり、と空から雫が落ちた。
いくつもの雫が落ちて雨となり、燃え上がった炎を消し、大地を潤す。
悪路仕様のジープは発進し、ぬかるんだ道も越えてゆく。
このあたりの土地は、そろそろ雨季に入る。
炎で傷ついた大地は、柔らかい新芽が埋め尽くすだろう。