本部

餓え乾くD

鳴海

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/11/17 14:08

掲示板

オープニング

● 丑三つ時に邪悪な柱。
 H.O.P.E.海上支部へ続く連絡通路。その遥か前方にて強大な霊力反応が検出された。
 異常な霊力数値だ。それも多種多様な愚神、英雄の反応が検知された。
 あれはいったいなんだというのか。
 その光景を目の当たりにして現場は混乱していた。
 一時期落ち着いたはずの子供たちが騒ぎ立てる。
「ああ、そんな! そんな、全部終りだ」
「食べにくる」
「ジェニーが」
「ラルゴが」
「ボックスが」
「マリーが」
「生き残った僕らを殺しにくる。嫌だ、逃げないと。嫌だ!」
 事の発端は数時間前に遡る。
 とある任務のために、ヴィランを護送していたリンカーたちだったが。
 その後を追いかけてやってきたのが刺客exhaust・D。彼は少年たちを先兵にリンカーたちに戦いを挑み。 
 結果。この状態となりはてた。
 黒い柱が世界を焼かんと立ち上りあたりに霊力をまき散らしている。 
「あ~あ、やってしまったね」
 その様子を眺めて言葉漏らすのは、護送されH.O.P.E.支部に拘留される予定のBuyer・D。
 彼はその柱を眺めてつぶやいた。
「彼はこの支部ごと私を殺すつもりだね。ただそれはあのEの力をもってしても難しいと思うが」
「Eの力ってなに、彼が強いのはわかるよ」
 春香はBuyer・Dに問いかける。彼は飄々とした姿勢を崩さずに視線だけ彼女に投げるとこう答える。
「彼はね、怨念の集合体なんだよ。その体に破壊衝動を束ねて詰め込んだ殺戮兵器。」
 そのDの返答に言葉を失う春香、そんな彼女走り出そうと拳を握りしめたが自分も任務中であることを思い出した。今Buyer・Dを野放しにすることはできない。
「さぁ、お前たちの正義は犠牲者の子供たちをどうするつもりだ?」
 だがBuyer・Dは春香に対してもう興味を示していない、彼は暗く立ち上る柱に向かってこう叫びをあげる。
「その怒りを鎮めるための人柱になる? 心の救済のために心を差し出す? それとも犠牲が出ないようにさっさと殺してしまうのか? 救いを求める指先を切り落として、お前たちは死を救済だと押し付けるか?」
 Buyer・Dは心から楽しそうにそう訴えかける。
「ああああああ! 見ものだ、君たちは私を悪だとさんざん罵ったね。そうさ、私は生粋の悪だね。正義に背くものすべてをかき集めた結果私になるだろう、だがね」
 Buyer・Dは告げる。満面の笑みを浮かべて、月に手を伸ばし吠えた。
「君たちだって悪だ! 偽善だ! 救えない、君たちは救いを求める者をすくうことはできない、いつだってそうさ!」

「ドクターDから問いを預かっているよ。救うことが善ならば、悪性を持つ者をすくうことも善なるか? あああ、ドクターに見せてやれよ、君たちの正義と言うやつをさ!!」

 戦いが始まろうとしている。泥にまみれた戦いが。
 単なる殺し合いと化した戦いが。

 
●戦闘フィールド。
 今回の戦闘フィールドは百メートル四方の一帯だと思ってください。
 この外に出ると瞬時にexhaust・Dを止めることが不可能になります。
 この戦闘フィールド三分の一が海。三分の二が森です。
 木がうっそうと生い茂っていて視界が悪く、草木に足をとられます。
 それを分断するように二車線道路が走り海側にはガードレール。
 そんなフィールドで地の利を生かしエグゾースドを打ち破らねばなりません。


● 正義のありかとは
  先ずexhaust・Dの戦闘能力について解説します。 
 彼は現在身長三メートルほどの黒い巨人の姿になっています。ステータスが大幅に増加し。さらに体から黒い霧を流しています。
 このエグゾースドの攻撃は肉弾戦以外に三種類。

・バインド
 黒い靄を硬質化させて動きを止めます。エグゾースドとの距離が25SQ以内だと確率で発動し、exhaust・Dの手番は消費されません。
 バインドが発動すると移動が不可能になる上に、回避のステータスが半分になります。
 このバインドを受けると、幻想が見えることでしょう。
 それは、生きながらにして体を引き裂かれる苦しみ。生きながらに薬に蝕まれる感覚、体の外、内から無数の刃毒薬にて壊されていく想像を絶する苦痛が、皆さんのPCを襲い、さらに断片的な拷問シーンを皆さんのPCに見せるでしょう。


・カースド
 これは自身に対して遠距離攻撃を行った物に恐怖の感情を与える呪いです。
 恐怖で足がすくみ、ステータスが微量低下します。さらにエグゾースドへ攻撃するためにはこの恐怖を振り払う必要があります。
 この恐怖は、得体のしれないものへの恐怖心からくるものです。
 彼を遠距離攻撃すると、その中に様々な脅威を見ます。
 それは千の人間を惨殺し、佇む王子の図。
 もしかしたら皆さんの英雄の邪悪性が見えるかもしれません。
 その恐怖に打ち勝てるものしか怪物を討伐する機会には恵まれません。

・ブリング
 偶数ラウンド、つまり2ラウンド目、4ラウンド目の最初に分身を生み出します。
 分身の数はそのラウンド数と同じになります。
 この分身は生命力が1ですが他のステータスは全てエグゾースドと同じです。
 さらにこの分身を作り出したラウンドは自身の防御力が半分になります。
 このブリングによって作り出される存在を『Eトークン』と呼称します。
 このEトークンを破壊すると、他者の意識が自身に流れ込んでくる感覚を味わいます。
 それは共鳴と感覚が似ていますが、全く別物の感覚。
 その後遺症でステータスが変わることはありませんがPCによっては嫌悪感があるのではないでしょうか。


 

解説


成功目標   exhaust・Dの撤退。
大成功目標  exhaust・Dの撃破。


● その力の源は    ***************PL情報

 exhaust・Dと戦闘を行う場合、彼の真実について知る可能性があります。
 それぞれは手がかり程度の情報量しかありませんが、全ての情報を繋ぎ合わせる、もしくは想像をめぐらせれることによって皆さんのPCは信実にたどり着けることでしょう。
 彼は怨念の集合体なのです。
 正確に言うと彼の体には三つの苦悩持つ魂が封印されています。
 いえ、三種類でしょうか

・実験体にされた子供たち
 彼らの目的は自分たちの救済、この苦痛からの救済。
 しかし攻撃を受けると痛覚が何倍にも増幅されて伝わるらしく、攻撃されればされるほどに苦痛を増し出力を増していきます。

・合成された英雄たち
 このエグゾースドを作り上げる際に、様々な英雄、愚神を統合し力としました。
 英雄と呼ばれるからには彼らには日常とは異なる凄惨な記憶があり、それが前面に押し出される結果、異常な殺意や威圧感と言った形で恐怖に変わるのです。
 
・エグゾースド自身の苦悩。
 エグゾースドは自身の体と心に様々な要素が継ぎ足され続け生まれたキメラです。

 そしてこの三つの情報を受け取る、もしくは受け取らず。皆さんが彼をどうするのが正義か結論を出した時。
 exhaust・Dの特殊効果が消えます。
 このexhaust・Dが張る結界は、心の迷いに反応し出力を弱める者なので。
 皆さんの正義が、そしてexhaust・Dの処遇がはっきりしているならばこの能力の影響を受けるものではないのです。

 皆さんはこのエグゾーストDの処遇を決めて。
 回答:○○という形でプレイイングに記載してください。

***********************ここまでPL情報

リプレイ

プロローグ

 黒い闇が嵐のように吹き荒れる。その様子をBDは興奮したように眺めていた。
「さぁ、全てが救われないその結末を、私に見せてくれ」
 そう自分に酔ったように高らかに告げるBD、だが彼を嘲笑う物がいた。
『ダグラス=R=ハワード(aa0757)』そして『紅焔寺 静希(aa0757hero001)』である。
「悪だ正義など、そんな物はこの世に存在せん」
 ダグラスは告げる。 
「寝言は寝て言え間抜け、俺がくれてやるのは絶対の死だけだ、ただ楽には殺さん。我欲を貪るだけ貪ったやつが救いだと?道化にも劣る間抜けが失笑すらも浮ばんな」
 その言葉に目をむくBD。
 そんなBDを尻目にいったん体制を立て直すリンカーたち。本部に待機していたメンバーも加えて、この事件の対処に当る。
 『晴海 嘉久也(aa0780)』は『エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)』と並んで吹きだす怨念の波動を感じていた。
「あれは死者ですか」
 晴海が告げた。
「ああ、この世に未練を残した怨念の塊だ」
 BDは答える。
「死者が残すのは『足跡と思い出』のみですね」
 そう晴海は強張った表情のエスティアの頬を叩く。
「まあ、どういう事情があれども死者がこの世界に留まる事自体が許されないのです。
 特に英雄が人を救わず人の害となるなら…………『力ある者』である以上、よりそれは確かなモノに……」
「ほう」
 その言葉にBDは顔をしかめた。
「正義か……サチコは今まで一度も正義を標榜したことは無いな?」
 そういつもと変わらぬトーンで告げたのは『リタ(aa2526hero001)』。
「どうしたの急に」
『鬼灯 佐千子(aa2526)』は装備の点検を終えると踵を返す。
「いっそ、性悪説で言う『悪性の存在』と言えるくらいだ」
 その言葉に佐千子は苦笑いを返した。
 確かにな……とおもうのだ。ついつい怠けたくなるし。ゲーム中にズルいこともするし。まぁそれはあくまでルールを逸脱しない程度にだが。
「だが、その上で、敢えてお前が何の味方か定めるならばそれは『公共の味方』だろう」
「今日は珍しく饒舌ね」
「あれほどべラべラと話されれば、もっと語りたい人間も出てくるのではないか?」
 そうリタが視線を向ける先には『榊原・沙耶(aa1188)』が立つ。
「ええ、そうかもね。でも私は無駄な言葉を重ねるつもりはない」
 直後佐千子は共鳴、いつもの銃装甲、城塞の乙女は今日も正義ではなく人命を守る。
 かつて、ライヴス能力を持たぬゆえに無法に晒されたからこそ。
 今、ライヴス能力を持つがゆえに法の前に晒されていると自覚すればこそ。
 一市民として、一エージェントとして、社会規範に基づいて行動するだけだ。
「あなたの問いにまず私が答えましょう」
 そう告げたのは晴海。
「回答、それは人事を尽くすです」
 BDは納得できないと言いたげに首を振った。
「ですから、EDを撃滅する事のみが救いとなるのです」
「つまらいなぁ。なんだその解答は……だいたい君たちは」
 そう何事かさらに言葉を重ねようとしたBD。その言葉を遮ったのは『小鳥遊・沙羅(aa1188hero001)』だった。
「どうでもいいけど、それ以上無駄口を叩くなら……怖いお兄さんたちが来るわよ」
 そう背後を示す沙羅。
 そこには燃えたつ憎悪を隠そうともせず『煤原 燃衣(aa2271)』が立つ。
「おい、燃衣」
『ネイ=カースド(aa2271hero001)』が腕を組みながらゆらりと燃衣の隣に立つ。
「力はいるか?」
「いえ、殺してしまうのでまだいいです」
 そんなBDへ向き直るリンカーたちと、早急に敵を止める舞台に別れ作戦は展開される。
『無月(aa1531)』は『ジェネッサ・ルディス(aa1531hero001)』と即座に共鳴。闇をかける。
「闇から災禍が溢れている……。止めなければ、これ以上の侵食を許す訳にはいかない……!」
――行こう! ボク達の力で闇の本来の姿を取り戻すんだ。
「死者には滅びこそが救いです……但し、手段は問いません」
 晴海はそう告げ、ナガトをかざす。
「幽霊どもに来世への自由を」
 そう二人は歩み出す。
「ただ、怨念の面倒な性質もあってそう簡単にはいかないみたいなので……その対処も必要ですね」
 戦いの第二幕が始まろうとしている。
 
第一章 この世の悲劇とそのヨドミ


「救済ねぇ。こんな訳の分からない化け物になっちまった以上、如何ほどの救いの道があると言うんだい?」
『飛龍 アリサ(aa4226)』はため息交じりにそう告げる、道端でのた打ち回る怨念の塊は苦しみ続けこちらの接近に気が付いていないようだった。
『黄泉(aa4226hero001)』はこれを絶好の機会だと諭す。
――サチコ。この戦場、どう動く?
 そう問いかけたのはリタ。
 そのリタの想いに反して、佐千子は冷静な視線をEDに向けていた。
「いい、リタ? 否定、よ」
 その言葉にリタは首をひねる。
「ここは戦場ではないし、ましてやあの男は敵ではないわ」
――……どういうことだ?
「ここは現場。そしてあの男は、傷害・器物損壊及び騒乱の現行犯よ。犯罪者であって敵兵ではなく、愚神でも従魔でもない」
 その言葉をかみ砕いて胃の中に落すように呼吸するリタ。
――…………。それで、どうする?
「現行犯逮捕――、の前に。まずはH.O.P.E.エージェントとしての責務を果たしましょう」
 告げた佐千子の言葉が開幕の号令となった。佐千子の背後から吐出する小柄な少女。黒い風となり駆け抜け接敵する。
「OK、鬼灯さん、援護よろしくな!」
 そう最速で動いたのは『彩咲 姫乃(aa0941)』である。
 そして姫乃の動きに合わせて晴海が敵を撃つ。
 まずは、EDの射程外から射砲による遠距離射撃。同時にワールドクリエイターをスタンバイ。
 濃い霞の中を切るように進みまずは一刀。そのEDの身にぶち当てた。
 直後EDの形状が変化。まるで黒い腕が生えたように彼の体を突き破って肉塊が手を伸ばす。
 それに『朱璃(aa0941hero002)』はあからさまに嫌そうな表情を向ける。
「ああああああ! 怖い。助けて。お姉ちゃん」
 その言葉に動きを止めた姫乃。三メートルにも及ぶ巨体から放たれた掌底は姫乃の体を覆うほどに大きく。
「くそ」
 しかし姫乃は、体の底から湧き上がってくるような痛みで動けない。
「やらせんよ」
 だがダグラスがその拳を止めた。
 黒い霧の中に体をさらし、その盾で敵の攻撃を止める。
 その表情には嘲笑が浮かんでいた。
「いい悲鳴(声)で絶叫(なけ)よ、それを俺の糧とし貴様の死も喰らい尽くしてやる」
 盾で敵を押し返し。その隙に四肢へと弾丸をみまう佐千子。
 アリサが背後から歩み寄り袈裟切りに刃を振り下ろす。
「くっそ、嫌なもんみた」
 まるで自分自身が毒に蝕まれたような感覚。口の中にたまった唾を吐きだして姫乃は敵を見すえる。
「あえて言うぞ!」
 アリサは叫ぶ。
「はっきり言って、EDを救う方法はこのまま奴を安楽死させるしかない」
 アリサは目の前に立ちふさがるように現れたEDの幻影、トークンを前に再び刃を構える。
「この世に現界させても奴にとって生き地獄でしかなかろうに」
 双方向から伸ばされる拳を盾で受け、一発をその身で受けるもアリサはわずかに吹き飛ばされるだけで体制を立て直す。はじかれたように走ってトークンを切り捨て、己の血を飲み下す。
「元が何であれ相手は愚神であり、生半可な憐れみや同情心は通用しないだろうし、理性を欠いた行動はこちらの精神が飲み込まれる可能性だってあるからねぇ」
「それは……あまりに無慈悲というもの」
 上空から落ちるような無月の一撃、ヒット&アウェイ。森に駈けこむと同時に姫乃が奇襲をかける。
「救い? 無いもの強請りは止めておけ」
 ダグラスが攻撃を受け流し吠える。
 機敏には動けないEDへの距離をじりじりと詰めた。
 あと一歩で攻撃が届く。その時拳に力を入れ。渾身の一撃を放つ。
「わかってる、それが最善なのはわかってる。けどさ!」
 姫乃は幻影に囚われていた。いや違う。幻影をその身に取り入れているのだ。
 ED幻視は何かを訴えている、それを理解した時点で姫乃の行動は変わっていた。
「名前も知らないんだ……なら、ちょっとでも覚えててやらないと墓も作ってやれないじゃないか」
――何をするつもりだニャ?
 姫乃はつぶやいた、誰もが危険視するバカな考えだと皆が言うだろう。
 だが、それでも、そうしたかった。姫乃自身がそうしたかったのだ。
 それは怨念をその体に刻むこと。
――火車も死に通ずる妖怪……できなくはないけど無理しすぎデスニャー。
 犠牲者の体の保管も、弔いも一切していないに違いない。そう思うと姫乃はさみしくなったのだ。朱璃に手伝ってもらって積極的に怨念を記憶することとする。
 霧の中に姫乃は突き進む。
 その攪乱もあってか晴海やダグラスと言った前衛組は非常に動きやすかったと言える。
 武器をチェーンソーに切り替え、一旦間合いを外し見せ付けるようにけたたましくエンジンを始動する。
「念入りに解体してやる」
 森を揺らすようなエンジン音。
 その刃を叩きつける最中ダグラスは彼の叫びを聞いた。
 本当はこのようなことはしたくない。
 だが、だがそうせざるおえない。
 だって、だって誰も助けてくれなかったのだから。
 だから仕方ない。
 そんなEDの声が聞えた気がしてダグラスはそれを笑い飛ばす。
「もっと聴かせろ、笑わせろそれが俺の愉悦となる」
 EDがその双腕を振り上げたところで、ダグラスは回避の姿勢をとる。
 それをサポートするためにアリサそして佐千子が弾丸をみまう。
 突撃銃での牽制。そしてライブスリッパーによる気絶狙い。
 だがその頑強な体と釣り合ってEDは丈夫。その程度で意識は手放さない。
「油断していたわけではないんですが」
 バインドから逃れた晴海、そんな晴海は敵の悲鳴を聞く。
「あああああ! 殺したい! 殺さないといけない。だってさそれが普通のことだからさあああああああ!」
 EDが地面に手を突き刺すとそれをはがし、前方にいるリンカーたち全員の足場を崩す。
 そのまま攻撃に転じようとするEDへ佐千子は狙いをすませた。
「海上支部には保護した少年たちや戦闘能力を持たない職員が大勢いる。あなたの憎悪を彼らに向けさせるわけにはいかないわ」
 佐千子はその射程距離から最後の防衛線を買って出ている。
 彼女が突破された時、何百という被害が出るのだろう。
 そんなDが前衛部隊を突破してこちらに向かって走っている。
 だから佐千子は銃弾をばらまいた。
 その無数の弾丸はEDの脚部に殺到、激しい勢いを伴ってEDは土をめくりながら転がった。
 代わりに佐千子は見なくていいはずの光景を見る。
 それは愛する者の心臓を引きずり出す少年。その血を飲んで少年は英雄となった。
――お前の英雄にも、そのような一面があるかもしれんぞ。
 誰かの声が聞える。
 その声に、言葉に、思いに佐千子は激しい不安を感じた。しかしだ。
 それでスコープから敵を逃すほどに佐千子は甘くない。
「泣き言は、牢屋でたっぷり聞かせてちょうだい」
 捕縛のために、致命傷はさける、しかし的確に敵の手札を削るために四肢を打ち抜いていった。
 その体制を崩したEDへ姫乃が突撃、ハングドマンで複雑な機動を描き攻撃の軌跡を読ませない。
 敵の死角に素早く回り込み、そして一撃を加えるアサシンスタイル。
 そんな中無月がEDの動きを女郎蜘蛛にて縛る。
 わずかな時間に一行は体制を立て直し、再び敵を包囲した。
「闇に喰われたか……」
――まだ間に合うかも知れない。諦めずに最後まで頑張ろう。
 告げる無月に流れ込んでくるイメージがあった。
 それは子供たちが集められた部屋、それぞれに薬と武器が渡され、次の瞬間にはたった一人の少年が立っていた。少年が最後に抱いていたのは武器ではなく兄の首だった。
 それはバインドによる幻影、しかし無月には違和感があった。
 その苦しみは何か違和感がある。何故だ? そう無月は首をかしげる。
 無月は闇の中に言葉を吐いた。
「私やジェネッサは闇に生きる者の宿命として、幾度となく囚われ、責め苦を受けてきた。その時に受けた苦しみとは全く異質の苦痛……」
 その時よぎったのは、救えなかった子供たちの念、言葉。思い。
「そうだ、この胸を締め付けられる苦しみは罪なき魂の悲鳴を聞いた時のあの苦しみだ」
 無月は我に返る。痛みに震えるように唐突に動きを止めたED、その巨体を眺めて無月は思う。
(子供達……? この苦しみは君達が受けた苦しみだというのか。何故、罪なき子供達がこのような苦しみを受けなければならないのか)
――無月?
 ジュネッサが問いかけた。
「わかっているよ」
 無月は優しくつぶやいて雷切を握り直す。
「もう、君達に苦しい思いはさせはしない。君達を必ず闇から開放するから、少しだけ待っていてくれ」
 告げて伸ばされた腕を切りつけて無月は闇の中へと消える。

第二章 Dという存在
「ドクターDから問いを預かっているよ。救うことが善ならば、悪性を持つ者をすくうことも善なるか? あああ、ドクターに見せてやれよ、君たちの正義と言うやつをさ!!」
 BDの演説は長く続いた。その狂気とも正気ともとれる声色はすっかり春香を怯えさせてしまう。
 そんな彼の演説に『阪須賀 槇(aa4862)』そして『阪須賀 誄(aa4862hero001)』はポカーンと立ち尽くしてしまった。
「テメェは一体……何を言っている?」
 そして唐突に告げたのはネイ。
「下らん事を……ならばお前は何だ? 純粋悪か?」
「ああ。私は悪だろうね、悪と知って手を止めることはしないがねぇ、はははh」
 その笑い声を黙らせたのは燃衣である。燃衣、暫し黙って聞いていたのだがシレっと右パンチをBDにブチ込んだ。
「…………いえあの突然、意味不明な事を騒いで。発狂か洗脳に陥ったかと思ったので」
「た、隊長ぉおおーー!?」
「わあああああああ! 燃衣さああああん」
 顎が外れそうなほどに口をあける春香と槇、沙耶は小さく微笑み、誄はガッツポーズを決めた。
「…………OK隊長、ナイスパーンチ」
 あわてて駆け寄ろうとする春香。そんな春香の行く手を遮ったのは『藤咲 仁菜(aa3237)』。
「……三船さん、これ内緒でお願いしますね。いくら気付けの一発? といっても怒られたら困りますから」
「え? あ……うん。それはいいけど、でも暴力はダメだよ!」 
「これだけの激戦なら、多少打撲があっても不自然ではないでしょう?」
 その冷ややかな言葉と視線に春香の背筋がぞくりと泡立った。
(あ、ヤバイ。ニーナぶちギレモードだ)
『リオン クロフォード(aa3237hero001)』が苦笑いを浮かべる。
「あのねBDさん。いつもの事なんですよ、難しい選択なんて」
 そう血を吐き捨て地面に転がるBDに手を差し伸べる燃衣。
 その手をとって立ち上がったBDを燃衣は再び殴った。
「うわああああああ! 何してるの!」
 春香が叫ぶと、燃衣は小さく笑って「これは藤咲さんのぶん」っと言った。
 仁菜はちょっとだけ落ち着いた。 
「もっと苦しい《生きてる命》の選択を迫られる事だってある」
 そして燃衣はBDの胸ぐらをつかみあげて告げる。
「その結果を責められる事も、裏切られる事もある。それも善良な人々からね」
「それは君らが悪だからさ。悪は常にせめられる、そうだろう? 殺人鬼」
 燃衣の視線が熱をおびる。
「否定はしません、ですが肯定もしません」
「御前とは価値観が異なるようだからな、お前を喜ばせるだけだ」
 ネイがBDを見下ろしながらつげた。
「戦いは何時でも生き物で判断は難しい…………それでも戦うんです、持てる力の全てを《出し尽くして》……ね?」
 その言葉に仁菜は頷いてBDに歩み寄る。
「私達は別に善や正義のために戦ってるわけじゃないんですよ」
 仁菜が告げる。さすがに殴ることはないが、傷を癒すこともしない。
「私は誰も失いなくない諦めたくない」
 仁菜の言葉に頷いて燃衣が言う。
「ボクは優しい人々の笑顔が好きだから。そして約束したから…………今は亡き愛する人達に」
「救いたい、守りたいと思うのも私の我儘です」
 その二人の異なる思い、しかし同じ方向を向いた思いにBDは眉をひそめた。
 その仁菜の言葉に燃衣は振り返って彼女を見る。
「優しい仲間は死にそうになっても、自分は守らなくてもいいというだろう。そんなの聞いてあげない」
 その言葉に燃衣は一瞬泣きそうな表情を見せた。
 自分があの時できなかった決断を、ここでしてくれる仲間がいた。それが嬉しかったのだ。
「私が守るって決めたから守る」
 あの時、そう言ってくれる人が誰かいたなら。
 いや、仁菜がいてくれたなら、結末は変わっていただろうか。
 燃衣は思った。無残にも踏み潰された弟。消えてしまった幼馴染。砕け散る水晶。光の中に消える少女。
 その瞬間に仁菜がいてくれたなら。そう思わずにはいられなかった。
 それくらいに仁菜は難しく、険しい。けれど誰かがいかなくてはならない道を自ら歩むと宣言したのだ。
 燃衣は何も言えなくなった。
「どこかで見てるドクターに言ってあげたらどうです?
 正義なんて曖昧なものを振りかざしているから前回負けたのだと。
 そのままじゃ私達の信念には勝てませんよ」
 そうにじり寄る仁菜に、それを止めるリオン。
「ニーナちょっとクールダウンー。怒るのも分かるけど冷静にな」
「……」
 そのやり場を失った熱量が視線となってちりちりとリオンを焼くのだが、それについては知らないふりを決め込む。
「やれやれ。激情家はこれだから困るわねぇ」
 そうため息をついて。沙耶が動く。いつの間に用意していた救急セットでBDの傷を手当てした。
「まぁ挑発した貴方も貴方だし、血の気が多い人ばかりなのよ。HOPEもね」
「ああ、そのようだね。認識が甘かったよ」
 BDはそう返した。
「これに懲りたら、滅多なことは言わない事ね」
「それはどうだろうな。なかなか君たちの怒りは心地よかった」
 そのBDの言葉を、沙耶はぱたりと箱を閉じる音にて遮る。
「それと、私なりの答えだけど……正義だ悪だの議論なんて、世界で2番目に下らない質問よ」
「ほう」
「HOPEが正義だと言うけれど、そんな事思ってやっている人なんて一握り。
 他は、愚神が憎い。ヴィランが憎い。そんなものよ。勿論私も正義なんて名乗るつもりも毛頭ない」
 思わず身をひそめる燃衣と春香である。
「正義なんてものは、争いの為の大義名分じゃないかしらねぇ?」
「正解だ。女。お前は筋がいいな。名前を覚えておいてやろう」
 BDが告げると沙耶は穏やかに微笑みそれを拒絶した。
「身の程知らずに名乗る名前はないわぁ」
「とにかくです!」
 そうパンパンと燃衣は手をたたいて注目を集める。
 誰かが自分のかわりに怒ってくれるなら、自分が冷静になれる。
「…………如何なる事態にも! 《最善を尽くす》ッ! それが答えだ! 目標は目下暴走eDの撃破! 但し付随して逮捕は目指す事と、あの怨念をこのまま放置するのはマズい! 出来る限りの鎮静を図りましょうッ!」
「具体案は?」
 ネイが短く問いかけた。
「無いです、が……ネーさんは《怨念》には馴染みがあるでしょ?」
――…………分かった。呑まれるなよ。
「あの怨念は引き受けます! 皆は攻撃をッ! 隊員は援護をッ!」
「おーやったるお」
「OK隊長、俺らは出来る事しか出来ないしね」
 誄が銃を突き上げて告げる。
「逆に、俺等一般人こと阪須賀兄弟は、出来る事にはベストを尽くすぞっと」
「バストも尽くしたいお!」
 その発言に距離をとった春香と仁菜。
「…………OK、激しく同意」
 ちなみに誄は巨乳派なので少なくとも春香には興味が無い様子。
「お前たち、EDと戦いにいくのか?」
 BDが尋ねる。
 沙耶は立ち上がり、その言葉に頷いた。
――ねぇ沙耶。
「なにかしらぁ小鳥遊ちゃん」
――あの、わたし最近出番がその……。
 影の薄い友人張りにない……と訴える沙羅である。
「たまにはいいかしらぁ」
 そう沙耶は沙羅に主導権を渡すとAGWを召喚した。グランガチシールドが星の光を反射する。
 そしてもう片方の手には戦旗。出陣の扇動を切るにはふさわしい装備と言えよう。
「ここは人類の希望たるHOPE支部。貴様ら如きが敷居を跨いで良い場所ではない!人々の安心を護るため、ここで撃滅する!」


第三章 霧散、降り積もる悪意

 月明かりしかない夜に、闇がはびこるのだとすれば。
 それは涙の香りを纏っているだろう。
 切り捨てられた痛みと嘆きを叫ぶ化物は、膠着するこの状況にいらだちを見せ。分身を一直線に佐千子へと放ってきた。
 その突撃を止められる者はいない。
 ED自身が肉の壁となり全ての攻撃を阻むからだ。
 ここで、佐千子は二択を迫られることになる。
 この後ろに住まう沢山の人間を殺されるか。
 自分が奴を殺すのか。
「悪く思わないでね」
 佐千子は銃口をまっすぐ、ED本体の心臓に向けた。
 その時である。
「俺らが左足を撃つお!」
「鬼灯さんは右足をお願いします!」
 二人の声が聞えた。佐千子は反射的に照準を変更。EDの足をすくうように打ち飛ばした。
 その脇を燃衣が駆け抜ける。
「おせーぞ! 隊長!」
 姫乃が声高に告げると燃衣は両手を合わせるポーズをとった。
「OHANASIはすんだのか?」
「ええ、それはもうばっちり、取りあえず止めますよ。あの怨念の塊みたいなやつ」
 EDは度重なる攻撃ですでに体はぼろぼろだ。それでも動きを止めないのは彼の信念ゆえだろう。
 殺さなければ止まらない、その時にはもう誰もが理解していた。
 そんな中黒い靄が燃衣を捕える。
「その霧は!」
 姫乃が燃衣を助けようと走ったが、それを燃衣は静止する。
 姫乃は歯噛みしてその思いを口にした。
「そうやってお前は自分の言いたいことばっか言ってるけどな! 犠牲者はeDを作るために犠牲にされた人たちであって。eDは犠牲者でもなんでもない一個人だろうが!」
 燃衣が捕えられている好きに晴海とダグラスが切りかかっていく。
「つか『我殺す故に我あり』みたいなノリで好き勝手してた印象しかねえぞ」
――それで犠牲者なんです救ってあげてください。できなきゃ偽善者ですとか、どんな馬鹿話デスニャ?
 そんな朱璃の言葉に苛立ったような答えを返す姫乃。
「しらねえよBDも頭おかしいんだろ」
――挫折を味わったえりぃとなんて所詮そんなもんでしたかニャ。
「俺はああああ」
 体中から血を吹きだしながら、EDは告げる。
「殺すだけだ! 殺されてきたからだ。それ以外の事なんて知るか! お前らも殺してやるよ。だって全部死ぬんだろ? あははははは」
 支離滅裂、彼にはもう理性が無いらしい。
 そう誰もが感じられた。
 ただ、ひとつわかるのは、彼にとって殺すという事が唯一のコミュニケーションであること。
――今のお宅の語り口さ。俺ら良く見るんだよ。なぁ兄者?
 そんなEDに誄が言い放つ。そして槇が言葉を継ぐ。
「うむ、匿名掲示板の《名無しさん》だお」
――その中でも性根の暗いネット弁慶な。ソイツとアンタの共通点教えてやろうか?
 兄弟は共鳴を解いて並ぶ、そして拳を握りそれを撃ちつけ合った。
「お宅らの日常はコレ。俺等の日常は…………兄者」
 最後に親指を立てて拳を握ると、EDに視線を送る。
――絆なんだよ。俺等は人と繋がりあって生きてる。お宅らは、誰とも繋がっていない。損得と上下関係でしか動かない。
「…………あんた等は人に愛されなかったんだお」
 目の前でのた打ち回り、姿形も変容させた化け物へ、槇は語りかけた。
「あんた等はあんた等の生むお金や成果が全てで、ただ居るだけで嬉しいと思われなかったんだお」

「お前は誰だお?Dなんて所詮、HNだお? 名前は? 家族は? それともお前はただの《名無しさん》かお?」

「BカップだかEカップだか知らねーーけどウダウダ悩んでんじゃねぇぇーーーお!バケモンみたいに死にたい訳じゃないだろーがテメー誰だおおおーー!」
「俺は! 俺はもうだれでも、だれでも、があああああ」
 愛情のかわりに殺意を、思いやりのかわりに殺情を、手を差し伸べる代わりに殺害を、そんな存在が彼である。
 それを証明するかのように燃衣の目の前に現れた幻影たちは口々に訴えていた。
 殺されるから、殺す。
 殺されたくないから殺す。
 殺されてきたから殺されるしかない。
 殺されたくて殺してる。
――久しぶりだな…………《声》を聴くのは。
 その怨念の沼を闊歩するのはネイ。
「ネー…………さ、ん…………ッ」
 ネイは燃衣の体を離れ闇に溶けていく。
 その時見えたのはネイの邪性、その断片。
 怨念の声に従い、寿命すら喪い、殺意に身を委ねるしかない運命の魂、だが……。
――……フザけるなよ。
 それに飲み込まれることなくネイはそれを一蹴する。
「…………全くです、ね……」
――俺の知っている悪は、もっと己の道を誇っていたがな…………何だこの半端な怨念は?
 敵の腹の中でもネイは、それは違うと唱えて見せる。
――D、貴様もだ、自分で選択しておいて何だ? このザマは。俺は俺自身で道を選び、最善を尽くした。それを何だ…………揃いも揃って、この程度で惑い苦しむ怨念など片腹痛いぞ!

「全部まとめて…………ボクらの血肉になって貰いますよ…………ボクもまだまだ、力が要りますからッ」
 ネイは強くあれるのだろう、だがしかし。燃衣はどうだろうか。
 燃衣の袖を引く影があった。その影は誰かに似ている気がした。その影は少女だった。
「だったら、あなたも片腹痛いね、燃衣?」
 その声はあの少女の声のようで、全ての少女の声のよう。
「あげるよ、私達を、そして強くなって、すべてを『殺害』できるように」
 直後闇が燃衣の体に吸い込まれていった。カースドを全吸収したのだ。
 厄介なEDのスキル。バインドが解除された。
 EDの体内で力の均衡がとかれた。EDの体が加速度的に大きくなる。
 これで近接職は思う存分に刃を振るうことができる反面、なにが起こるか分からない。
「隊長!」
 仁菜が駆け寄るが、それを沙羅が制する。
「あなたは私より護ることがとくいみたいだから彼は任せて、安心しなさい。私たちは治療には自信があるわ」 
 沙羅は武装を傍らにおくと燃衣の容態を見る。
 先ずはリンカー全員の過剰に蝕まれた体から霊力の取り払うため、癒しの雨を降らせた。
 クリアプラスによっての除染がすむ、それでも燃衣は目を覚まさない。
「治療と、搬送が必要ね」
 淀んだ霊力を過剰に吸い込み体のあちこちにが暴発している。
 それを瞬時に見定めた沙羅は的確に治療行動を施していった。
「私の前ではもう、誰一人死なせないわ」
 その背後で仁菜は突貫。暴れるEDを押さえつけるように立ち回った。
 隙を見てケアレイン。
 二人分のケアレインで戦場はほぼ持ち直したと言えるだろう。
「お願いします、煤原さんを守ってください。そして」
 仁菜の護りたい、救いたいという願いが、燃衣を繋ぐ。
 それだけではない。お守りはもう一つある。
 そのお守りに願う先は無月。
 彼女はEDの目の前にたち、その悲劇を、悲劇で終わらせないために語りかけているのだ。
 どれだけ無駄な行為と笑われても彼女はそれを貫こうとする。
 仁菜はそんな彼女の背中を純粋に応援したかった。
「2人が怨念に飲み込まれないよう、この世界と精神世界との<楔>となって、御願い」
 無月がEDの体に触れると無数の顔が浮かび上がる、これがバインドの力を生み出していた本隊だろう。
 彼らは苦しんでいた。
 EDへの攻撃がそのまま苦痛として反映されていたのだ。
 であれば。
「この身を彼らに委ねる、私の持つ闇、安らぎと静寂でその魂を包む為に」
――無月それは……。 
 ジュネッサは戸惑いの声を上げる、しかし思いは彼女と同じである。
 無数の怨念を無月は否定せずに取り込んだ。
「もういい、もういいんだ。もう貴方が戦う必要はない。貴方と囚われた魂がこれ以上苦しむ事も無い」
 子供たちが無月の体の内側を這って進んでくるのがわかる、それは体をバラバラにされるような苦痛だったが、幻痛なんだろう。
「貴方達の苦しみ、悲しみは全て私が引き受ける。貴方達はもう十分過ぎる程苦しんだ。貴方達はもう救われるべきなんだ、だから―」
 ともに生きよう。そう無月は告げる。
「貴方達の魂は私の持つ闇―安らぎと静寂―で最後まで守って見せる。貴方達の想いを私は決して忘れない。だから、私と共にいて欲しい」
「消えていく! 憎しみが、殺意が! おのれ!」
 EDがなけなしの力を籠めて腕を振り回す。
 それを止めたのは仁菜。
 悪意から守る盾を構え。聖なる旗を振り。聖騎士の証であるマントで身を守る。
「二人が守ろうとしたものを私も護りたい、だから、私は二人を守る!」
 仁菜は思う。幻想も恐怖もリオンが、みんなが一緒だから怖くない。
「そんなものに私達の守る意志は負けたりしない!」
 次いで晴海がその身を滑り込ませた。
 最接近してからのNAGATOによる、救いを祈る斬撃。来世での安寧の思いを込めて全力を持ってその体を切り裂く。
 その傷口から肉が溢れるが、これ以上の暴走を止めるために、槇も佐千子もありったけの弾丸を放つ。
「眠りなさい」
 沙羅が最後の一撃を加える。
 レイディアントシェルの輝きが全てを焼きつくし浄化した。
 闇が晴れる。しかし、黒い塊が一つ空へ上ったのにリンカーたちが気付く術はなかった。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 我王
    ダグラス=R=ハワードaa0757
    人間|28才|男性|攻撃
  • 雪の闇と戦った者
    紅焔寺 静希aa0757hero001
    英雄|19才|女性|バト
  • リベレーター
    晴海 嘉久也aa0780
    機械|25才|男性|命中
  • リベレーター
    エスティア ヘレスティスaa0780hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • 朝日の少女
    彩咲 姫乃aa0941
    人間|12才|女性|回避
  • 疾風迅雷
    朱璃aa0941hero002
    英雄|11才|?|シャド
  • 未来へ手向ける守護の意志
    榊原・沙耶aa1188
    機械|27才|?|生命
  • 今、流行のアイドル
    小鳥遊・沙羅aa1188hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • 夜を切り裂く月光
    無月aa1531
    人間|22才|女性|回避
  • 反抗する音色
    ジェネッサ・ルディスaa1531hero001
    英雄|25才|女性|シャド
  • 紅蓮の兵長
    煤原 燃衣aa2271
    人間|20才|男性|命中
  • エクス・マキナ
    ネイ=カースドaa2271hero001
    英雄|22才|女性|ドレ
  • 対ヴィラン兵器
    鬼灯 佐千子aa2526
    機械|21才|女性|防御
  • 危険物取扱責任者
    リタaa2526hero001
    英雄|22才|女性|ジャ
  • その背に【暁】を刻みて
    藤咲 仁菜aa3237
    獣人|14才|女性|生命
  • 守護する“盾”
    リオン クロフォードaa3237hero001
    英雄|14才|男性|バト
  • 愚者への反逆
    飛龍 アリサaa4226
    人間|26才|女性|命中
  • 解れた絆を断ち切る者
    黄泉aa4226hero001
    英雄|22才|女性|ブレ
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 槇aa4862
    獣人|21才|男性|命中
  • その背に【暁】を刻みて
    阪須賀 誄aa4862hero001
    英雄|19才|男性|ジャ
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