本部

御伽噺が示すもの

影絵 企我

形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/11/08 18:19

掲示板

オープニング

●隠れ蓑
「ドロップゾーンの反応が消えた……?」
「エージェントからの反応も、共に消失しています」
「そんな……一体何が」


「ふふ……」
 暗雲立ち込める鋼鉄の城。女王は玉座の間から闘技場と化した中庭を見下ろしている。粗末な武器を持たされた二人の少年が向かい合い、剣闘を繰り広げていた。太刀捌きも立ち回りもめちゃくちゃ、それでも一方がとうとうもう一方を地面に突き倒し、そのまま相手を滅多打ちにする。下手な一撃では一息に殺せない。何度も何度も頭に向かって剣を振り下ろす。相手が動かなくなるまで。
「ウサギを結局一人も殺せなかった女王様が剣闘見物とは、変わっちゃったねえ」
 紅、白、蒼が入り混じる奇怪なローブを纏った少年が、悪戯っぽく笑いながら女王に語り掛ける。女王は流し目で少年を見つめると、うっとりとした声音で語りかける。
「冷たい事を仰らないで。貴方がこうしてしまったのではないですか」
 振り向いた女王は、少年の隣に立つ、ローブを纏った異形に目を向けた。獣とも人ともつかない骸骨の奥から、深蒼に染まった瞳をぎらぎらと輝かせている。
「それは……今しがた入り込んできたネズミですか?」
「そうさ。モンタギューが死に、ウィルオウィスプも逝った今、僕の仲間は随分と減っちゃったからね。そろそろ新しい友達が欲しくなったんだ」
「私もおりますのに」
「勿論君の事も友達だと思っているよ。でも足りないんだ。……全てを無に帰すにはあまりにもね」
 少年は踵を返し、異形と共に歩き出す。
「さて。今度はもっと強力なリンカー達が来るよ。……だから、君には特別に紅と白を与える」
 愚神が両腕を広げた瞬間、ローブから赤と白が抜け落ち、指先から鋼鉄の床へと滴っていく。次の瞬間には、無数の眼を持った白馬に跨る弓騎士と、血の汗を流す赤馬に跨る剣騎士が一人の壮年を挟むようにして立っていた。
「新たな友を迎えるため、しばしここを離れる。私が戻ってくるまで耐え抜いてみせたまえ」

「……必ず耐えてみせます。マイロード」
 死神が消えた瞬間、世界は再び童話の世界へと還る。しかし、中庭の芝生は紅く染まったままだった。


●自警団の矜持
「……ご存知かもしれませんが、先日ドロップゾーンからの生徒救出任務を行い、そして失敗しました。突如としてドロップゾーンの反応が消失し、反応が復活した頃には、任務に参加した全てのエージェントからの応答が無くなりました。青木ヶ原樹海での従魔討伐任務で確認された、既存のレーダーでは把握することの出来ない愚神……現在調査中ではありますが、現地調査を行ったエージェントによって提出されたデータを見る限り、この件との関係は深いと考えられます」
 モニターには膨大なデータが次々と映し出されていく。
「最早一刻の猶予もありません。難しい任務になってしまいますが……ゾーンルーラーであるテイルクイーンの討伐、ドロップゾーンに囚われている生徒達の救出を、今回並行して行います。再びドロップゾーンの反応が消失した時、此方から打つ手が未だありません。そうなる前に、迅速に任務を行い、ドロップゾーンを破壊する必要があります……」
 オペレーターが説明していると、いきなりブリーフィングルームの扉が開き、三人のワイルドブラッドが中に入ってくる。住吉、調、高瀬。隠れ里の自警団だ。
「お願いです。僕達も戦列に加えてください」
「ダメです。何度も言っていますが、危険過ぎます。青木ヶ原樹海の件からもたらされた情報と今回の件を照合する限り、強烈なライヴス干渉能力を持つ愚神があのドロップゾーンに出入りしていることは明白です。……リンカーとはいえ、皆さんは我々が保護すべき一般人です。認める事は出来ません」
「ですが……! あそこは僕達の里です。そこで好き勝手されて、黙っているなんて無理です!」
 にべもないオペレーターの答えに、三人のウサギは顔を顰める。来るなと言って、素直に言う事を聞きそうな顔には見えない。
 君達は顔を見合わせる。そしてウサギ達に向かって……


●血の女王
「ふふ……来たのね。わかるのよネズミ達……」
 大広間に陣取り、女王は愉悦の笑みを浮かべた。紅白の騎士、七体の近衛兵、何十人もの雑兵が、列を揃えて立っている。どこからエージェントが現れても、確実に迎え撃つ構えでいる。
「御伽噺の女王なんてロクなもんじゃないわ。いつだって待つのは罰。所詮は可愛い可愛いお姫様の幸せの踏み台。割りに合わないわよねえ……」
 そばに立つ容姿端麗な少女の頬を撫で、女王は囁きかける。メイド服を着せられた少女は、虚ろな顔でただ頷くだけだった。女王は顔を顰めると、卒然少女を突き飛ばし、天を仰いで叫ぶ。
「でもこの世界に姫はいない! 私だけの世界! 私の主がくれた私だけの世界!」

 ドロップゾーンに堂々と足を踏み入れた君達は、修復された隠れ里の守護石を城に向かって掲げる。新緑の輝きが石から放たれたかと思うと、固く閉ざされていた城門が音を立てて開いた。君達は頷き合うと、作戦に沿って動き始める。

 悪い事をした女王は最後に残酷な罰を下される。それが御伽噺の倣いなのだ。

「かかってきなさい! この世界は、誰にも渡さない!」



フィールド
4●★★●3
●▼□□▼●
□□●●□□
□●□□●□
□□11□2
(一マス3×3sq)
★…テイルクイーン&騎士達
▼…レギオン×3
●…一般人×10
1、2、3、4…大広間への侵入可能地点

解説

メイン テイルクイーンの討伐
サブ 囚われた人々を可能な限り生存させる(目標40人)

ボス
ケントゥリオ級愚神テイルクイーン
ウサギを失い暴走を始めた女王。速やかに討つべし。

ステータス
魔攻A、魔防B、その他C-D

スキル
通常攻撃
[近接単体物理or遠隔単体魔法]
血染めの刃
味方を一体消滅させる。そのキャラが持つ能力分、翌RのEPまで能力が向上する。
女王の宣告
BS洗脳状態のPCに対して発動。特殊抵抗判定にPCが敗北した場合、BS支配を付与される。

ゾーンルール
毎CPに一度支配者の言葉を使用できる。命令は全て「私に跪け」。

性向
狂気
自分を救ったタナトスに心酔している。[”死”は恐れない]
激昂
挑発に釣られやすい。[ヘイトが高くなりやすい]

ENEMY
ケントゥリオ級従魔ドミナートル
ステータス
物防C、その他D~E(PL情報)
スキル
・死の舞踏
 ドロップゾーンを構築する。[テイルクイーンに譲渡済み]
・支配者の言葉×∞
 PC側のスキルに準拠。

ケントゥリオ級従魔ベルーム
ステータス
物攻C、その他D~E(PL情報)
スキル
・死の舞踏
 味方の攻撃を50上昇させる。
・突進
 攻撃後、移動力が残っていれば直ちに移動する。

デクリオ級従魔レギオン(ニアガード)×6
ステータス
両防御B、物攻C、その他D~E
スキル
・密集陣形
 レギオン同士で隣り合っている時、ノックバック無効。

NPC
一般人×80
 イマーゴ~ミーレス級従魔に憑依された中学校の生徒その他。広間にすし詰めのように配備されている。
ステータス
生命E
スキル
特になし

TIPS
・広間は一般人があまりに多く、最早窮屈なレベル。乱戦エリアで戦闘となる。
・一般人の特殊抵抗はないも同然。
・女王は平気で攻撃に一般人を巻き込もうとする。
・大広間の北側には階段があり、その裏には小部屋が二つある。階段の上には控えの間と玉座の間がある。
・今回騎士達は生成されたばかりで本調子ではない。(PL情報)

リプレイ

●本陣強襲
「ぶっ潰すんじゃなかったのか?」
『……勿論そのつもりよ。つもりだけどね……』
 アリス・レッドクイーン(aa3715hero001)は僅かに地下通路の蓋をずらし、生徒の密集する大広間を窺っていた。一ノ瀬 春翔(aa3715)に尋ねられると、アリスは小さく頷く。作戦は入念に練った。剛腕ドレッドノート二人を先頭に立てた、電光石火の本陣強襲。自分達はその補佐に回った。“対して強くもない女王によってたかっても仕方ない”と理由をつけて。
『(あっちからも、そっちからも。これじゃあまるで……)』
 アリスは神妙な顔をする。心を薔薇の棘で掻かれたような気分だった。

「偽りの王国も今宵ここまでの定めと知れ」
『民草を顧みぬ王族の末路も、ですわ』
 一騎当千の鬼神が御伽噺の世界を驀進する。ヴァルトラウテ(aa0090hero001)と共鳴し、銀色の鎧を纏った赤城 龍哉(aa0090)は東の廊下から一気に大広間へと乗り込んだ。反応した生徒達が、虚ろな顔で粗末な槍を手に押し寄せてくる。龍哉が一瞬足を止めると、その背後から茶色の兎耳を靡かせた調が飛び出し、その身を翻す。
「ごめんよっ!」
 少年達を蹴り倒し、道を切り開く。女王ははっと振り向くと、血に染まった剣を振り上げる。
「貴様!」
 放たれる深紅の光。ヴァイオレット メタボリック(aa0584)はすかさず前へ飛び出し、紫色の鏡を展開する。鏡は光を跳ね返し、女王の傍に立っていた紅騎士に炸裂する。
「う゛ぁっひゃっひゃっ、死に恋い焦がれし女王よ。討って見せようぞ」
『調、そのまま行くのじゃ』
 ノエル メタボリック(aa0584hero001)の異様な風体に一瞬肩を震わせたが、調はそのまま駆け出す。女王は顔を顰め、レギオンに向かって指を差した。
「行け! 奴隷ともども刺し殺せ!」
 三体のレギオンは肩を並べ、槍を並べて突進の構えを見せた。イリス・レイバルド(aa0124)は密集する生徒を泳ぐように掻き分け、レギオンの前に立ちはだかる。
『そんな事をさせるわけにはいかないな』
「もう二度と、理不尽には負けたくないって誓ったから……!」
 アイリス(aa0124hero001)と呼吸を合わせ、イリスは盾を構えて金色のライヴスを放つ。翼が一際強く輝き、レギオンはまるで導かれるようにイリスへと突っ込んでいく。一体、二体、三体。衝突する度に荘厳なメロディーが響く。
『この背に庇えたのなら――』
「――全ての攻撃を、理不尽を、叩いて壊す! それがボクのできること!」
 イリスはその両足を踏ん張り、三体の兵士をその小柄な身で押し返す。
「赤城さん!」
「ああ、任せろ!」
 龍哉は大剣を担いで飛び出した。

『頭が高い!』
 中庭の方から大広間に乗り込むなり、狒村 緋十郎(aa3678)と共鳴したレミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)はかっと眼を見開いて一喝する。生まれついての本能が恐れをなし、少年少女は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。気付いたレギオンは揃って槍を構えるが、すかさず日暮仙寿(aa4519)が飛び出してライヴスの網を擲つ。
《そう簡単に人を傷つけさせはしない》
 武骨な鎧に身を包んだ兵士三体は、頭上から網を被せられてもがく。しかし、鋼よりも硬いその網を破る事は出来なかった。

「行こう! 住吉さん!」
「ああ。任せてくれ」
 住吉は派手に扉を蹴り開き、鞘に納めたままの長剣を振るって生徒達を次々に崩していく。その後を追いながら、氷鏡 六花(aa4969)は魔導書を開いた。
『(まずはレギオンを倒してしまうのが先決よ。その方が安全なはずだから……)』
「一撃で決めるよっ」
 アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)の助言に合わせ、六花は氷の竜を喚び出した。竜は鎌首をもたげると、兵士に向かって白く輝く炎を放つ。炎は兵士達を凍りつかせ、蔵王の樹氷に変えていく。一瞬の出来事に、女王は眼を剥いた。
「小娘――」
 弾丸のように龍哉が突っ込んでくる。咄嗟に白騎士が飛び出し大振りの一撃を籠手で受け止めるが、勢いは殺し切れず階段の上まで吹っ飛ばされる。女王が剣を構えた時には既にレミアが迫り、大剣を肩に担いでいた。
「こんにちは。身の程知らずの“女王”様」
 神速で振り抜かれた大剣は女王を階上まで思い切りかち上げる。空中でどうにか体勢を整えた女王は、新たに立つ二人の女を目にした。
「あなたは私たちをネズミという」
 十三月 風架(aa0058hero001)と共鳴し、聖獣の気を身に纏った零月 蕾菜(aa0058)は盾を構えて階段を駆け上がっていく。
「なら、ネズミに跪く貴方はいったい何なんでしょう」
 右手を振るうと、紅い翼の影が朱雀のような形を取って飛び出す。女王達の前まで飛ぶと、突然影は弾けて無数の紅い蝶へと変わる。敵意の込められたライヴスに浸され、女王は眼から血を流して叫んだ。
「おのれ……! またしても貴様達は私を愚弄するのか!」
「そのようなつもりはない」
八朔 カゲリ(aa0098)は銀色の髪を流して飛び出し、黒焔を宿した双剣を振るって紅騎士へと斬りかかる。騎士は深紅の長剣でそれに応じた。アリスはその隙に、騎士の死角から突っ込んで深紅の刃を振るい、騎馬の足を叩き折った。カゲリは馬から転げ落ちた騎士へすかさず斬りかかりながら、女王に一瞥を送る。
「おまえはおまえの道理を通そうとしている。だから俺は俺の道理を通す。それだけの事だ」
『(世界を犯すばかりの愚かな神が、己が世界を守らんと奮起するか……)』
 ナラカ(aa0098hero001)は蕾菜にレミアと対峙する女王を見つめて独り呟く。彼女にはその姿が滑稽に見える。とはいえ、そこに“何かの為に”という情動を見た彼女は女王に幾許の興味を抱いた。
『(ならば試してやろうとも。その祈りが真であるなら成し遂げてみせよ)』
「生意気な眼で見るんじゃないわよ!」
 女王は剣を振るって鋭く紅色の光を放つ。しかし素早く蕾菜が割って入ってその一撃を易く受け止めてしまう。女王が歯軋りすると、その背後に影が差す。
「貴方、騎士やレギオンがいないとなーんにも出来ないダメ女なのね」
 ハッと女王が振り向くと、世良 杏奈(aa3447)が得意げな顔で立っていた。
「兎さん達の集落を襲ったのも、身の周りの事をやる奴隷が欲しかったんでしょ?」
「召使いもいない貴族に何の価値があるというの! 召使いにやらせる事も無い貴族に!」
 女王は眼を見開いて言い返す。しかし杏奈は更に女王を煽っていく。
「そんな事を言ってる、御伽噺の女王の末路は知ってる? いつも決まって罰を受け、可愛いお姫様の引き立て役になるだけ。……でも、ここにお姫様はいないのよね」
「そうよ! ここは私の世界。私が主として封ぜられた世界だから!」
《それは夢だ。この世界は泡沫の夢に過ぎない。夢は何時か終わる。お前の夢見た世界は、ここで終わるんだ》
『悪役の女王は潔く倒されないと!』
 不知火あけび(aa4519hero001)が言い放つ。高瀬は手に握った香草に火を灯し、エージェントに向かって群がる生徒の一団に、濛々と立ち込める煙を吹きつけた。ライヴスを纏った眠りの香を嗅がされた生徒達は、直ぐにぱたぱたと倒れていく。唖然としている女王に向かって、杏奈は朗々と言い放った。
「私がお姫様になってあげる。貴方を思いっきり踏んづけてあげるわ!」
「そんな事認めると思うなぁッ!」
 女王は獣の顔で吼えると、ドレスに剣でスリットを入れて駆け出す。白騎士もそれに続いて階段を駆け登っていく。杏奈は決然と挑発すると、玉座の間を目指して走りだした。
「俺達も追う! こっちは任せた!」
 龍哉は仙寿達の方を振り返って叫ぶ。突っ込もうとするレギオンを槍とその巨体で押さえつけながら、ノエルが手を振る。
『任せよ。ここはわらわ達が必ず守ってみせるとも』
『頼みましたわ!』
 龍哉は玉座の間へ消える。カゲリ、イリス、レミア、蕾菜もその後へ続いた。それを見送ったアリスは、刀を構え直して目の前の赤騎士と対峙する。
『いい加減見飽きたわ。大人しく壊されなさいな』

●張りぼての女王
「この下賤な侵略者ども! 私に跪きなさい!」
 女王は龍哉に向かって叫ぶ。腐っても一城の主、支配者たらんとする気迫は龍哉の意識を絡め取ろうとした。しかしカゲリが駆けつけ、手刀で気付けを入れた。龍哉は頭をぶるっと振るうと、大剣を担ぎ直して叫ぶ。
「俺の頭を無理矢理下げさせようとは、高くつくぜ!」
『(最初から無視できればもう少し格好もついたのですが)』
「うるせっ」
 白騎士が龍哉の眼前へと駆け込み、金獅子の刺繍が施された旗を振るう。しかし、同じ手を二度も食ったりはしない。素早く取り出したロケットアンカーで騎士の腕を絡め取り、そのまま騎士を引きずり下ろす。砲身をそのまま脇に放ると、大剣で騎士へと斬りかかった。
「……騎士が本体と見せかけて、今回は馬が本体だったりするんじゃねえだろうな?」
『ならば一緒に倒せば良いだけですわ』
「なるほど。それも道理だ」
 鋭い剣閃。成す術も無く騎士は床に叩きつけられる。その様を見つめていたイリスは、杏奈やレミアが繰り返す挑発に翻弄されながらも食らいつく女王の方へと眼を向ける。
『(存外冷静さを保っている……やはり精神的支柱はここにはいないアレか)』
 アイリスは樹海で出会った歪な愚神を思い出す。にたりにたりと笑って、己を死の象徴そのものと名乗った愚神。彼女はイリスの口を借りると、女王に向かって語り掛けた。
『君の主への信頼……それとも信仰と言えばいいだろうか? その心意気は美しいと言えば言える。……だがその見返りとしてこの脆い騎士は雑すぎやしないかい?』
「雑! 主の写し身を指して何を言うの!」
 女王はイリスに向かって魔力の斬撃を飛ばす。イリスは盾で弾き返し、女王へ向かってずんずんと突き進んだ。
「タナトスが本当におまえを愛してるなら、ピンチのお前を放ってどこかに行ったりしないだろ! どうなんだよ!」
「主には為さなければならない事があるの! 生と死の形をあるべき姿へと還す定めが!」
 女王の反応がにわかに変わった。剣を構え、イリスへと突っ込んでいく。剣を振るい、荒々しくイリスに一撃を加えていく。その度に黄金の粒が弾け、激しいラプソディが響く。イリスの挑発に夢中になるあまり、女王は光の影から浮かび上がる漆黒に気が付かなかった。
「えいっ!」
 イリスは気合と共に女王の身を弾く。体勢を崩したところを、レミアが魔剣を振るって襲い掛かる。大上段から振り下ろされた一撃。女王は左手で払い、どうにか直撃を避ける。
「主、主と……それが上に立つ者の姿かしら? 見苦しい」
「うるさい! お前こそ何様のつもりよ、夜の女王。ここは私の世界よ。城に入ってその主に会えば相応の敬意を払うものでしょう! 貴族としての礼を果たしなさい!」
 女王はレミアへ向かって支配者の言葉を放つ。しかし、夜に憚った女王を従わせるには、その言葉はあまりにも頼りない。レミアはドレスを翻して蹴りを繰り出し、女王を突き倒す。
「残念だったわね。わたしは姫にして女王。誰の踏台にもならないし、罰を受けるつもりも無いわ。そうねえ。それでも賓客の礼にこだわれというのなら……」
 大剣を一度幻想蝶の中へと納めると、再び回し蹴りで女王を地面へ転がし、軽快な三段跳びで玉座の前へと立つ。そのまま身を翻すと、玉座にすとんと腰を下ろした。
「どうかしら。これでこの城は私のもの。貴方は敗者。……跪くべきは貴方よ」
「さあ、大人しく負けを認めなさい」
 王者の傍ら、宮宰の立つべき位置に立ち、杏奈も女王に向かって言い放つ。
「お……おのれ。ここは、ここは私の……」
「ここは跪こうじゃありませんか。あなたはもう既に私にも臣下の礼を取っているのですから、もう一度跪くくらい訳ないでしょう?」
 声を震わせる女王の傍らに、蕾菜がそっと歩み寄る。
「さあ、“レミアさんに跪きなさい”」
「いやあっ――」
 悲鳴は途切れる。女王はぶるぶると震えながら、静かに自らが愛した玉座に向かって膝を折った。

「(わかってるな? 討っても討っても馬は復活させようとする。だが……)」
『誰に聞いているのよ、春翔』
 アリスは紅騎士と向かい合うと、薔薇を象る盾を構える。騎士は深紅の剣を構えると、天井に向かって切っ先を掲げた。大広間でうろうろしていた生徒達が、槍を構えて階段に立つアリスの方へと殺到する。

「そっちに行ったらだめっ!」
 六花が冷気を纏わせた右手を赤絨毯に叩きつける。地を走る氷の風が少年少女の足を柔らかく掬い、つるりと彼らを転ばせる。彼らは、そのまま起き上がることが出来ない。
《よくやったぞ六花》
 仙寿はすかさず少年達の下へ駆け寄り、刀の柄で額や頬を打って従魔を引き剥がす。従魔から解き放たれた彼らは、ゆらりと傾いで倒れる。その眼は虚ろに見開かれ、ピクリとも動かない。
『(これじゃ、漁村で助けられたっていう男の子と同じだよ……)』

『行くわよ』
「はいっ」
 アリスと、階段を駆け登ってきた六花は目配せする。そこへ単騎駆けで突っ込んでくる紅騎士。アリスは盾を投げつけ、騎馬の足を搦め取って地面に倒す。六花は転げた馬を氷槍で貫き、早贄のように床へ縫い付けた。
 刀を抜くと、アリスは階段から転げ落ちてくる騎士へ斬りかかる。剣で応じる騎士。アリスは刀でその剣を払いのけ、鎧の隙、剥き出しの首に向かってその切っ先を突き立てた。
 騎士はアリスを振り払おうとその手を伸ばす。六花の飛ばした氷の短刀が、その手を貫き払い退ける。アリスは蔑むように騎士を見下ろすと、刀を振るってその首を掻っ切った。
 噴き出す赤い鮮血。騎士は一度ぶるりと震え、そのまま消滅した。
『……手ごたえ無いわね。全く』
「少し……前より弱かったような……」

「キリが無い! もう何人目かな……」
 調はぺしりぺしりと手刀を当てて生徒達を気絶させていく。ふと口から洩れた彼の呟きを聞きつけ、ヴァイオレットはちらりと振り向く。
「調よ、人使いの荒いばあさんで済まぬが、先に倒れてはならぬぞよ」
「別に倒れるほどの事はないですけど……」
 ノエルは突き出される槍をいなして逆に衛兵を短槍で打ち据え、ぐらりと仰け反らせる。そこをめがけて住吉が突っ込み、長剣で衛兵の首筋を貫く。
「これで止め!」
 住吉は衛兵を蹴りつける。力無く倒れ込み、衛兵はそのまま消滅した。ノエルは槍を振るい、油断なく構えを取って周囲を見渡す。
『ふむ……どうやらこれで最後になるようぢゃな』
《ここにいた人達は全員無事だ。攫われたのは百人だから、元々数は合っていないが……》
 仙寿も大広間を見つめる。生徒はみな倒れ、そのまま眠り続けていた。ノエルは槍を杖のようにつくと、腰を打ちながら頷く。
『無事は期待しない方がよいが、探すだけ探した方がいいかもしれんな』
 アリスは階段を駆け登り、広間のエージェント達を見下ろす。
『生徒の回収は貴方達に任せてもいいかしら?』
 彼女を見上げ、仙寿と六花は頷く。
《任せてくれ。俺達や住吉達で協力すればそう時間もかからないはずだ》
「後は六花達でみんなの事を助けておくよっ」
『なら……私も向こうへ行かせてもらうわ』
 アリスはふと表情を曇らせると、くるりと踵を返して大広間の奥へと消えた。

●哀れな女王の末路
「この私を侮辱して……生きて帰れると思うな!」
 エージェントに囲まれたまま、女王は白騎士に深紅の剣を突き立てる。騎士の姿はその瞬間にどろりと融け、女王は深紅のドレスの上から純白の胸当て、肩当てを纏う。深紅の髪にも一房の白い髪が混じり、エージェント達に刻まれた傷も癒えていく。
「その首刎ねる!」
 女王は玉座に座るレミアに向かって突っ込んでいく。蕾菜とイリスはそこへ素早く割って入ると、揃って盾を構える。女王は眼を剥くと、怒涛の一撃を二人へと見舞う。不協和音が鳴り響き、二人は勢いに負けて数歩下がった。
『ははっ。流石にケントゥリオ級一体を喰った一撃は重いな』
「ですが、問題はありません」
 しかし、二組は直ぐに体勢を立て直す。蕾菜は籠手に魔力を宿らせ、イリスは背中の光翼に刃のような鋭さを与え、女王に向かって突進する。
「この程度でボクは折れない! 煌翼刃・天翔華!」
 素早く身を転じ、女王は剣を払ってイリスの翼を撥ね退けようとする。イリスは構わず、その小さな体で弾丸のような体当たりを見舞った。細かい刃と化した羽根が女王の全身の至る所を切り裂く。
「それで終わりじゃないですよ」
 怯んだところに蕾菜の魔力が炸裂し、女王を数歩後退りさせた。
「ぐぅっ……!」
『(良き輝きだ)』
 二人の猛然とした連携に、ナラカは素直に称賛の言葉を贈る。双剣を握り直すと、カゲリも女王へと向かって突っ込んだ。二振りの刃が聖邪を問わずに呑み尽くす黒焔に包まれていく。
『(さあ覚者。汝もその意志の丈を女王へと示すが良い)』
 ナラカは女王へ斬りかかる。逆手に握った左の刃で女王の剣を受け、身を切り返して右の刃で切りつける。女王は左手を伸ばし、その籠手で刃を受け止める。
「……一所懸命。封建君主が己の領地を守ろうと、より高位の権力を肯定し、劣位に置かれた者を否定するのは当然のように行われた。おまえの行いも、否定されるものじゃない」
 女王は全身のバネを使って剣の切っ先を鋭く突き出す。カゲリは素早く後ろに宙返り、その一撃を飛んで躱す。そのまま床に屈んだ姿勢で降り立つと、陽炎に巻かれて歪む刃を握りしめる。
「だが、俺は今、全ての者に等しく権利と価値が名目上認められる時代に生きている。俺も、何者も等しく“そうしたもの”と肯ずるつもりでいる。……だから、俺とおまえは相容れない。だから俺は、おまえにこの刃を突き立てる」
 一気に飛び出す。一条の黒い光と変わると、女王の刃を弾き、そのまま鎧の脇腹を切り裂いた。深紅の血がぱっと舞い、白い大理石に薔薇の花を咲かせる。
「……私は“女王”よ。支配者たるべきを神によって宿命づけられた存在よ。無知蒙昧な民草と同じ存在ではないの!」
『王権神授説など、今時の流行ではありませんわね』
 喚く女王の言葉を、ヴァルトラウテはすっぱりと否定する。龍哉は黄金の槌を握りしめ、身を捻る。槌は炎と雷に包まれ、一際強い輝きを放つ。
「上に立つ者はその器量で自らの君臨を認めさせる。それが今の王の在り方だ!」
 槌を擲つ。限界まで練り上げられた一撃は、受けに回った女王の剣を一撃で叩き折る。高々と舞い上がった槌を跳び上がって掴むと、女王めがけて稲光輝くそれを振り下ろした。女王は両腕を伸ばして頭を庇う。籠手ごと右腕の骨が砕け、女王は悲鳴を上げた。真正面に降り立った龍哉は、その場で身を躍らせ、女王の鎧に最後の一撃を叩き込む。
「あああっ!」
 白い鎧が砕け散る。女王は吹っ飛ばされ、何度も大理石の床を転がり、無様に投げ出される。右の肺を軽く潰され、女王は口からごぼりと血を溢れさせる。玉座の傍に立ったままの杏奈の眼を通して、ルナ(aa3447hero001)はそんな女王の無様な姿を見つめていた。
『(心はだいぶ前から折られてたけど、さすがに勝負あった感じね……?)』
「(いいえ。まだよ)」
 それでも起き上がろうとする女王の前に歩き出し、杏奈は喉元に指をあてがい言い放つ。
「女王様。“貴方のロードは何を目指しているのかしら?”」
「……!」
 ダメ押しとばかりに放たれた支配者の言葉。瀕死の女王に拒む術は無い。口から血を零しながら、わなわなと口を振るわせ始める。
『(……杏奈がいつも以上にSっ気強い気がするわ……あたしも嫌いだけどこんな奴……)』
「神の国」
 言葉が途切れる。女王は舌を思い切り噛み、その激痛で四肢の痛みを誤魔化し無理矢理立ち上がろうとする。口から血を吐きながら、喘ぎ喘ぎ言葉を繰る。
「……そうよ。主は神の国を望んでおられるわ。命の形のあるべき姿を取り戻すために。……私には、主に所領を譲り受けた大恩がある。だから、私は、主の為に、この世界を守る。お前らなどに、明け渡しは……」
『あなたは弱すぎるのよ』
 大剣を振り上げ、レミアが女王を見下ろす。
『主たる器も無ければ、臣たる器も無し。大人しく滅びなさい』
 処刑人がそうするように、大剣の重みに任せて刃を振り下ろす。肩を切り裂き、胸元まで深々と刃は突き刺さる。断末魔の言葉はない。全身を血の紅に染め直し、女王はぐらりと傾いでその場に倒れた。
 控えの間に通じる扉が開く。刀を構えたアリスが飛び込んできた。しばし周囲を睥睨していたが、瀕死の女王に気付くとその顔は苦々しげな色を帯びる。
「(もう終わっちまってたか)」
 春翔の呟きに合わせて深く溜め息をつくと、アリスは刀を納めてつかつかと歩み寄る。
『こうして顔を突き合わせるのは初めてね。ご機嫌いかが?』
 女王は既に息も絶え絶えで、アリスの言葉に応える事など出来なかった。
『聞くまでも無いわね。紅の女王を名乗るなんて、気に食わないと思っていたけど……ただ今は哀れね。……それも通り越して呆れてしまうくらい』
 血塗れの身体で芋虫のように蠢くが、女王はついに立ち上がる事は出来なかった。神妙な顔でその哀れな姿を見下ろし、アリスは淡々と続ける。
『身の程知らずに、随分と多く敵まで作って……自業自得よ』
 女王の身体が徐々に薄れていく。アリスはふっと息を吐くと、陽の差し込む煌びやかな玉座の間を見渡す。女王の虚飾がよく現れていた。
『意地悪な女王様は、その行いによって罰を下される。まるで……』
 まるで、私のように。アリスは心の中でそっと呟いた。女王は虚ろな目でアリスを見上げていたが、やがて何かを納得したかのように頷き、消えていく。それを見届けると、アリスは自分に言い含めるかのように、そっと付け足す。

『貴方が誰かの幸を願う事が出来たのなら、物語は終わらなかったのかもしれないわね』

●目覚めぬ少年少女
『ひとまずこの場は、これでひと段落というわけですか』
 森の外、風架は救急隊に運ばれていく少年少女の様子を見つめながら呟く。H.O.P.E.までもが車を駆り出し、次々に生徒達を担ぎこんでいる。目覚める者は誰一人としていなかった。
「とはいえ、全員が全員目覚めないままなんて……」
『ここは生きて助け出せたことにとりあえず満足しておくべきでしょうかね。死んでしまったら目を覚ますも何もありませんから』
「ですね」
 蕾菜はほうっと長い溜め息をつく。気がかりはそれだけではなかった。
「それにしても、消息を絶ったというリンカーの人、一人も見当たりませんでしたね……」
 風架は渋い顔をする。戦いの後に消え行く城の探索を試みたものの、中には仲間達の死体さえ存在しなかった。
『樹海の事を考えれば、その死体はあの愚神に食べられたというのが一番単純な理解になるでしょう。……あのように挑発的な行動を取る愚神が、それだけで済ませるかはわかりませんがね』

『なんかもう、あったまきた』
「何が?」
 女王モードが中々抜けきらないアリスは、しかめっ面で腕組みをしたまま呟く。煙草に火をつけながら、春翔は横目で彼女を一瞥する。
『無闇に力を与えて、後はお任せなんて、余りに無責任よ』
「……ああ、アイツか」
 春翔は夕陽を見つめてふっと煙を吐き出す。タナトス。自分達に土をつけた不倶戴天の敵。
『ハルト、分かってるわね?』
「当たり前だろ。ハナからそのつもりだ」
 春翔は口端に不敵な色を浮かべる。自分なりの答えは既に見出した。悪霊を潰した時に抱いた不安は、もう無い。
「……必ずブッ潰す」

「これで何とか終わりなんだね」
「ああ。お前達は自分の手で故郷を守ったんだ。誇っていい」
 住吉、高瀬に向かって仙寿は頷く。相変わらずぶっきらぼうな口調だが、彼なりに二人の事を労っているのだ。
「そうだ。お前達、H.O.P.E.に来る気はないか?」
 仙寿の言葉に住吉と高瀬は顔を見合わせる。高瀬は曖昧に首を振ったが、住吉は眉を開いて応えた。
「そうだね。……今回の事ではっきりした。愚神の脅威は年々増すばかりだ。皆さんに協力する事が、これからは里を守ることに繋がるんじゃないかって、そんな気がしてる」
「じゃあ……またお前と戦える時があるのかもしれないな」
「ああ。その時はよろしく頼むな」
 二人に友情が芽生える様子を見ていたあけびは、表情を少し緩めながら尋ねる。
『ねぇ、また耳もふもふさせて貰っても良いかな?』
「え? ……ああ、いいけど……」
「……」
 住吉はちらりと仙寿の方を見たが、あけびは構わず住吉の耳を撫で始めた。撫でる。撫でる。撫でる。頬がにやけている。仙寿は不満げに見つめていたが、やがて堪えきれずにあけびを住吉から引きはがした。
「……もういいだろ。住吉も困ってる」
『えー?』

「そちは、賢しいが若い。思い悩め。己の姿を見つめて、似合わぬことはするでない」
「は、はぁ……?」
 車椅子に乗り、入れ歯をはめ込んだヴァイオレットは調に向かってくどくどと持論を繰り広げる。神の説法というよりはただの老婆の説教だ。絡まれた調は曖昧な表情を浮かべる事しか出来ない。立派な豚鼻をしたノエルも車椅子に乗り、
『ぶぅひゃっひゃ。感謝するぞよ。妹も感謝しとるのじゃよ』
「ぼ、僕も感謝してますよ。これで里の皆も安心して過ごせますから」
「う゛ぁっひゃっひゃ。何かあれば相談するが良い。わらわは全てを受け入れようぞ」
「……は、はい……」
 老婆二人のパワーに、調はたじたじとなるのだった。

「タナトス……既存のレーダーでは捉えられず、好き放題に世界を跋扈する愚神か……」
 サイレンを鳴らして走り去る救急車を見送り、緋十郎は腕組みをしたまま呟く。樹海に居合わせたアイリスはさらりと応えた。
『その特性を考えると、これまでも他の愚神の陰で好き放題やっていた可能性がある』
「他の愚神がライヴスを吸い尽くして残した死体を、後からついていって食べる……とか」
『実は、そのせいで明らかになってない事件もあったりするのかしら……?』
 イリスの言葉に、ルナは顔を顰める。横で聞いていた龍哉とヴァルトラウテは、難しい顔を作って唸った。
「そんな事の出来る奴が、どうして大々的に行動するようになったんだか」
『わざわざ姿を見せてくれるのですから好都合には違いないのですが、何やら良からぬ気配もしますわね』
 四組が考え込むような仕草をしていると、そこへナラカとカゲリがやってくる。
『愚神ならぬ神を標榜する以上、それは損得勘定の外で動いているぞ』
「……あの女王が言っていた、“神の国”を目指すための機が熟したという事だろう。そのタナトスとかいう奴の行動、これからますます激しくなるのは間違いない」
 かつて神鳥であった者と、それと結んだ青年は、死神の力の断片に一度触れただけで、既に何かを悟ったらしい。その言葉には確信めいた色があった。隣でそれを聞いていた杏奈は、しばらく抱いていた疑問をふと口にする。
「そもそも、ライヴスの残らない死体を食べて、愚神であるタナトスがライヴスを得る事なんて出来るのかしら……」
『それは貴方達がいつもしているでしょう。食事というものは、突き詰めれば何かの屍をその身に取り込み、霊力を生むということなのだから』
 不死の女王は当たり前のように言う。身も蓋もない言い回しだが、杏奈には否定するべくもなかった。緋十郎は全身に静かな闘気を漲らせ、低い声で再び呟く。
「何であれ、その死神を見過ごすわけにはいかんな」

「……ん。最後まで、タナトス、姿を見せなかったね」
『今は、運が良かったと受け止めておくべきね。……悔しいけれど、奴に乱入されていたら生きて帰れていたか怪しいわ』
「……うん。わかってる」
 アルヴィナの言葉に六花は頷く。日暮れの果てを見つめるその眼は確かな決意に見開かれていたが。
「でも……いつかは、必ず倒さなきゃ。アバドンを唆したタナトスの思い通りには、絶対……させたくないから。あと……」
『騒速も、ね』
 たどたどしく呟く六花の言葉を引き取り、アルヴィナは優しく微笑んだ。
『彼は、タナトスの事を指して敵と言っていたようだけど。一体何があったのかしら……』
「うん。……でもね、アルヴィナ」
 六花はふと顔を曇らせる。
「何だか……嫌な予感がするの」

――全ては虚仮に過ぎない。私が人を救いたいと願う心も、私がライヴスを集めるがための虚仮に過ぎない。私ですら、私に裏切られる――

 苦悶の声色が脳裏に蘇る。六花に今もなお影響を与えている、紫色の愚神の言葉。今になって、その言葉が彼女の心に重くのしかかってきた。

「ソハヤも、そんな自分に裏切られちゃうんじゃないかって」



●運命=死に向かう行進
「……そうか。君も煉獄へと旅立ったんだね」
 紅と白が入り混じるローブを纏った青年は、月を見上げて無邪気に微笑む。その周りには異形の骸骨を鎧のように纏った者達が跪いていた。
「君はとても真剣だった。自分が支配者であることに。その魂はしかと受け止めたよ」
 手に持った骨を小刀で割ると、中の髄を口の中へと流し込む。青年は僅かに眉間へ皺をよせ、低い声で呟く。
「……それにしてもわからないのは彼らだ。どうしてそこまで生にばかりこだわる? その態度こそが均衡を破局させ、“私”を生み出したというのに」
 青年は髄を飲み込むと、にっこりと微笑み異形達を見渡す。
「ねえ。君達は彼らと同じ仲間だったのだろう。何か理由は知っているかい?」

 To be continued…

結果

シナリオ成功度 大成功

MVP一覧

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678

重体一覧

参加者

  • ひとひらの想い
    零月 蕾菜aa0058
    人間|18才|女性|防御
  • 堕落せし者
    十三月 風架aa0058hero001
    英雄|19才|?|ソフィ
  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 燼滅の王
    八朔 カゲリaa0098
    人間|18才|男性|攻撃
  • 神々の王を滅ぼす者
    ナラカaa0098hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 深森の歌姫
    イリス・レイバルドaa0124
    人間|6才|女性|攻撃
  • 深森の聖霊
    アイリスaa0124hero001
    英雄|8才|女性|ブレ
  • LinkBrave
    ヴァイオレット メタボリックaa0584
    機械|65才|女性|命中
  • 鏡の司祭
    ノエル メタボリックaa0584hero001
    英雄|52才|女性|バト
  • 世を超える絆
    世良 杏奈aa3447
    人間|27才|女性|生命
  • 魔法少女L・ローズ
    ルナaa3447hero001
    英雄|7才|女性|ソフィ
  • 緋色の猿王
    狒村 緋十郎aa3678
    獣人|37才|男性|防御
  • 血華の吸血姫 
    レミア・ヴォルクシュタインaa3678hero001
    英雄|13才|女性|ドレ
  • 生命の意味を知る者
    一ノ瀬 春翔aa3715
    人間|25才|男性|攻撃
  • 生の形を守る者
    アリス・レッドクイーンaa3715hero001
    英雄|15才|女性|シャド
  • かわたれどきから共に居て
    日暮仙寿aa4519
    人間|18才|男性|回避
  • たそがれどきにも離れない
    不知火あけびaa4519hero001
    英雄|20才|女性|シャド
  • 絶対零度の氷雪華
    氷鏡 六花aa4969
    獣人|11才|女性|攻撃
  • シベリアの女神
    アルヴィナ・ヴェラスネーシュカaa4969hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
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