本部

【森蝕】連動シナリオ

【森蝕】謳い讃えて嵐あり

若草幸路

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 6~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/11/02 10:23

掲示板

オープニング

●歌は忌まわしく在り
 美しいといえば美しい光景だった。大樹の梢のまわりを美しい翼持つ乙女たちが飛び回り、鳥のさえずりにも似た甘く爽やかな声で歌を歌う。穏やかな陽差しはそれらを暖かく照らし、森はただコンサートホールのように静まりかえる。目の慣れていない者からすれば、そこは楽園のようだったろう。
 ――しかしながら実態はひどいものだ。大樹はその実、葉と蔦にその体を覆われた巨人。乙女達はただ壊れた目覚まし時計のように救済とあるべき世界の歪んだ理念を謳い讃える。乙女が携えるのは、ハルバードに似た、木と黒曜石を思わせる異形の槍だ。
『ああ、救済とは幸いなるかな!』
『……ゥ、オォ……ォウ……』
『そしてラグナロクは救済、すなわち是れ、ラグナロクは幸いなり!』
 巨人が紡ぐ禍々しいベースライン、乙女が歌う醜いポエトリー。しかしてもっとも悪辣なのは、彼らがライヴスに意図せぬ影響を与え、周辺に暴風が吹き荒れていることだった。さながら台風の目として存在する中心部で響く歌は、その嵐から生まれる種々の轟音を意にも介していない。

●静寂と前進を希求せよ
 その吹きすさぶ風の壁を抜け、エージェントたちが従魔に対峙する。このポイントを攻略してライヴスの安定化を図らなければ、周辺の仲間の前進が覚束ないものになる。風が凪いでいる範囲は狭く、混戦になることは必至だった。
 前門の敵、後門の嵐。直前までの轟音が嘘のように静まり返ったその地で、双方の鬨の声がこだました。

解説

●今回の任務
 敵勢力の撃破(敵勢力を撃破すれば嵐は止みます)

●敵勢力について
 ・従魔ヴァルキュリア×10(RGW所持。ハルバードに似ており、出力は高いが強度がない)
 ・愚神ヘイムダル×1
 ヴァルキュリアはある程度ダメージを与えたり武器を壊されたりすると鳥女に変貌します。

●フィールドと嵐について
 無風になっている場所は直径15メートルほどの円形で、足場が比較的良好な以外は通常の森です。
 無風地帯の外は視認できるほどに暴風が吹いており、ここに入った場合はとPC・敵の双方ともに移動・回避・命中にペナルティを受けます。 

リプレイ

●その偽りの蒼天の中で
「この中心だけ静かだなんて、不思議な感じ」
 楠葉 悠登(aa1592)は扁平な円陣の中心付近に陣取り、そう呟きながら通信機の調子を確かめてみる。かすかに風切音が入るものの、それぞれが取った雑音対策のおかげか、通信状況は良好だ。それぞれの言葉が聞こえてくる。
「天使気取りとか偉そうな連中ね!」
 そう言いながら陣の様子をおさおさ怠りなく見回し、盾を構えるのは雪室 チルル(aa5177)だ。
『しかも変な歌歌ってるし』
 チルルと共鳴しているスネグラチカ(aa5177hero001)も、しげしげと敵影を見やりながら念話で呟く。あれが自覚的な発声なのか、それともラジオのようなものか。種々の交戦記録で言えば、後者だ。彼らは確たる自意識を持たず、ただルーチンに従って行動しているに過ぎない。しかしこのような振る舞いを見せているのは、そのルーチンを組んだ何者かの”趣向”であろうと推測はできた。
「……操られてあないな事歌わされるんは、御免ですわ」
『――自我を何と心得るか!』
 その”趣向”に否を唱えた弥刀 一二三(aa1048)とキリル ブラックモア(aa1048hero001)の姿が、赤い長髪の男からさらに変じる。そのありようは赤と銀がぱっきりと分かれた髪にオッドアイが輝く美丈夫。その様は、彼と彼女の怒りと戦意が互いに最高潮に達していることの証である。その様を見て、悠登は先刻のナイン(aa1592hero001)の言葉を思い出す。
『この暴風地帯で足止めをする気だろうが……耳障りな風もさえずりも、全て消させてもらう。手を貸すぞ、悠登』 
 今は共鳴している英雄の言葉を脳裏に蘇らせ、ひとり頷く。
「うん。行こう、ナイン」
 あとは言葉もなく、構えた。交戦姿勢を明らかにしたエージェント達の存在を判じ取った翼ある乙女――ヴァルキュリアは、ああ、ああ、ああ、と鴉のように謳い、巨樹の如きもの――ヘイムダルから飛び立った。
「おーおー飛んではる飛んではる。丁度ええ、迎え討ったろ!」
 そう言い放ち、一二三は盾を構えて《守るべき誓い》を発動した。ライヴスが巡り、チリチリとまだ静寂の残る空気の中で存在を主張する。それに引き寄せられるように、ヴァルキュリアたちは手にした槍を突き出しつつ突進してきた。悠登が一二三に《リジェネレーション》を付与し、なおも歌い続ける乙女達を待ち構える。
『――ああ、ああ、ラグナロクに叛意を持つ者、愚かなるかな愚かなるかな――』
 その歌に一歩踏み出すのは、迫間 央(aa1445)だ。
「……日本では、ラグナロクは”神々の黄昏”と訳される」
『自分達の終焉にレクイエムを自分で用意するなんて、ずいぶん殊勝じゃない』
 央の裡にあるマイヤ サーア(aa1445hero001)が言葉を継ぐと共に、央の周囲から影のごとき青薔薇が舞う。無風にもかかわらずごうごうと、しかし優雅に舞うそれらが、ヴァルキュリアのうち、一二三に最接近していた4体をまとめて薙いだ。花弁に切り刻まれることによるか細い叫びは、しかしやがて醜い絶叫に変じる。その姿は、鳥と人間を混ぜた滑稽絵にも近い、しかしおぞましさを秘めた異形だ。
 それを見て、艶やかな鎧を纏った青年――オルクス・ツヴィンガー(aa4593)がぼそりと呟いた。
「救済だのと口にする割にはおぞましい有様だな」
『そも、救済などと賢しらに喚く輩にまともな者はおらん』
 キルライン・ギヨーヌ(aa4593hero001)と意識の中で言葉を交わしながら、オルクスは取り乱すように暴れている鳥女に狙いを研ぎ澄ます。
「ああ、救済と言うより地獄への誘いだろう」
 そう呟いて、引き金を絞る。放たれた弾丸は正確に、わめき立てるヴァルキュリアの頭蓋を撃ち抜いた。まず、1体。
『この戦場はおぬしの領分だ。任せるぞ』
「ああ」
 裡からの声に短く応え、オルクスは再び銃を構えた。その眼前には、盾を構えた少女が映る。
「こんのーっ!」
 チルルは飛来する乙女と鳥女に肉薄する。なにせ数が数なうえに、槍のリーチでこちらはどうしても不利を被る。何発か受けた感触からすると、槍は出力上昇に特化したAGWに相違なかった。
『先に鳥の方をやっちゃおう! やぶれかぶれが一番怖いってね!』
「おっけー! 」
 チルルは《ライヴスショット》を放って鳥女の体の正中を撃ち抜く。 倒れ伏したその体は翼を何度か痙攣させるが、飛び立つことはない。その一撃の隙を狙うかのようにチルルに飛び込んでいく新たな鳥女があったが――
「遅い!」
 ――御剣 正宗(aa5043)の苦無が狙いを過たず、その翼を断ち割った。地に墜ちた鳥女は、手にした槍を支えに立つことを思い付かないのか、四つ足のような体勢で槍を振り上げ、なおも一二三に襲いかかろうとする。すかさずもう一度苦無を放って止めを刺したが、最後のあがきにと振り回したその醜悪な爪は、正宗が嵐の用心にと羽織ったサバイバルブランケットに、掻き傷と泥、そして血をかすかに残した。正宗はそれを意に介さず、次へと狙いをつけようと周囲を見渡し、視界の中に近づいてくる緑の巨体を捉えた。
『そう、そうですよね、ヴァルキュリアだけじゃない』
 共鳴しているCODENAME-S(aa5043hero001)に言われるまでもなかった。暴風地帯の音がかすかに混じる通信回線に、声を張り上げた。
「聞こえるか? ヘイムダルも一二三さんを狙ってる!」
 それに呼応したのは月鏡 由利菜(aa0873)だ。
「私が相手取ります!」 
 その声に呼応するかのように、リーヴスラシル(aa0873hero001)が由利菜の内側から声を上げた。
『ああ、私達は偽りの光神を討つ……ヴァドステーナの出力は安定している! 怯まず行け!』
「ええ! ――刻め、月の輝き! ムーンライト・ローカス!」
 レーギャルンから居合いの型を伴って抜き放たれたフロッティの《ライヴスブロー》。ヘイムダルの片膝に炸裂した衝撃波は、たしかに苔むした巨体の皮膚を抉り、骨に肉薄している。しかし、まだ膝を付かせるどころか、歩みを止めさせることは叶わない。だが、一二三を狙っていたその拳が由利菜に向いたのは幸いだった。通信回線と肉声が重なるように、央の指示が飛ぶ。
「できれば暴風圏に誘導してくれ! あの大きさだ、風をまともに受ければ動けまい!」
「はい! ……いくら腕力があろうと、動きが鈍重なら!」
 するり、と優雅な舞にも見える動きで、巨体から放たれる拳をかわす。ヘイムダルは殴りつけたその拳を戻す際、風の壁へごとり、と一歩近づいた。由利菜はその動きを確かめながら、巨体をすみずみまで注視する。
『あの個体にも、結晶があるようだな』
「……中の影は形がぼんやりしてるわ。人に見えなくもない」
 ラシルの問いに、由利菜は悔しげに答えた。状況と結晶の様子からみて、回収は無理そうだ、と結論づけたのだ。せめて速やかに安らぎをと願いながら、由利菜は次撃のために納刀した。

●口を噤みて墜ちよ鳥
 この一瞬の打ち合いで、数の上での不利は覆されつつある。が、一二三への負担は依然無視できないレベルにあった。
「っと、さすがにきっついわぁ……!」
 攻撃を難なくかわし、《クロスガード》で防ぎきっているように見えるが、鳥女の本能的な蹴りに加え、戦乙女がハルバードに似た槍のブレード部分である程度の連携をもって切りつけてくる。防御体勢や悠登がかけた《リジェネレーション》の回復をもってしても、じりじりと体力が奪われるほどの馬力だ。
「落ち着いて隣の奴の背中を守って、暴風に相手を追い込め! 数は多いが所詮は雑魚の群れだ!」
 央が《ターゲットドロウ》を使い、狙いを自分へと向けながら通信越しに叫ぶ。それを皮切りにエージェントたちは、敵の動線を利用して相手を暴風の中へ誘い込むように動き始めた。

「この槍、甘く見るなよ!」
 悠登はそう一喝し、一二三の横から真っ直ぐに突きを放ったヴァルキュリアの槍を狙って一撃を入れる。槍は柄の部分からあっさりと割れ砕けた。耐久度を犠牲に出力を上げた故のもろさだ。そして押し込まれた戦乙女の翼に風の壁が触れ、一気にその空中姿勢は崩れる。そして戦乙女の表情は歪み、醜い鳥に変じた。
『ラグナロクはさいわ、さいわ、わ、わキャァァア! 救済なれ、なれ、ナァァ!』
「遅い!」
 暴風に呑まれそうになりながらも放たれた蹴爪の一撃を紙一重でかわし、その勢いを利用してブラックテールを額に突き立てる。あぎぃ、と断末魔の声を上げた鳥女から素早く槍を引き抜き、そのまま一二三の横を守るべく構え直した。一二三は、チルルと共に己の守りを固めている。
「押し込み任せたで!」
「OK! さいきょーのあたしにおまかせっ!」
 チルルが盾でヴァルキュリアたちの斬撃を一二三と共に制し、じりじりと、しかし確実に暴風圏へと誘う。最初こそ不利に気付きなんとか突破を試みていた戦乙女たちだったが、やがて焦れたのかうちの3体が一斉攻撃に移る。その動作を見逃せるはずもなかった。
「今や!」
「えーいっ!」
 推進力を得るべく高く伸ばされた翼に、一二三の斬撃とチルルの《ライヴスショット》がそれぞれ炸裂した。羽根もろともその身命を失った2体の戦乙女は、そのまま近くの2体を巻き添えにしながら暴風の中に転げていく。武器を取り落としたのか傷のせいか、轟音にかき消されながらも断末魔を大きく長く叫ぶその顔は、品性とはほど遠い。残された1体は素早く距離を取り直し、再び機をうかがう体勢に入る。
『突然動きが変わるのは、ちょっと厄介かな』
「きっかけさえ掴めれば大丈夫。それに、どっちでも関係ないわ! だってあたいがやっつけるんだもの!」
『今回やけに気合入ってるなー。まあ、慢心するよりは良いか』
 動向油断なく注視するチルルとスネグラチカが、軽口のような評を交わしあう。そこに流れるのは、少し離れたところからでも朗々と禍々しく響くヴァルキュリアの歌だ。
『――愚かなるかな、愚かなるかな――』
「黙れ」
 オルクスが、空から突進しながらなおも歌い続けるヴァルキュリアへ弾丸を撃ち込む。相手はとっさにくるくると槍を回転させてそれらの跳弾を狙うが、いくつかはその体に刺さる。そしてたいした強度を持っていない槍の柄は、銃弾を浴びて砕け折れた。
『お、ろ……カキャアアアア!』
「武器を壊されても変化するのか」
『逆上のつもりなのだろうな』
 醜く変貌するヴァルキュリアに、身の内からキルラインが感想を述べる。やぶれかぶれの一撃を防ごうと構えた瞬間、鳥女は頸動脈から血しぶきを上げて横倒しになる。
「……まったく、戦乙女とは名ばかりだな」
 正宗が横から苦無を投げ放ったのだ。鱗も露わな首からは動脈血が吹き出し、正宗のブランケットを赤く染める。
『いくら飛べても、これじゃあよろしくないですね』
「ああ、このようなものなら、空など飛べなくてもいい」
 CODENAME-Sの声に応えるように正宗は呟き、背にある柔く小さな翼を動かした。視界を動かせば、残るヴァルキュリアは3体。それぞれが一二三を狙って動くが、その動線は精細を欠く。暴風に煽られている2体などは、翼を落とされているゆえに這って無風地帯に戻ろうとするのが精一杯だ。
 そして、守りがひとまず盤石であることを確認した由利菜が動く。
『追撃行くぞ、ユリナ!』
「やああっ!」
 再びフロッティを抜き放ち、ヘイムダルに斬撃を放った。狙うは先程とは逆の膝だ。足腰に打撃を与えれば、拳の力は自然弱くなる。それを狙ってのことだ。果たしてその通り、その衝撃波は肉を裂き骨を抉り、その巨体をよろめかせる。撃ち込む際に角度を調整したのが幸いし、ヘイムダルは地響きを成らしながら暴風の方向へとふらついていく。ヘイムダルが暴風の中へ片脚を踏み込む。その風にバランスを崩した。巨体は大きく傾ぐ。
 しかし――
「はっ……!?」
 ――身動きが取れなくなる前のあがきとばかりに、ヘイムダルは渾身の力で由利菜に蹴りを放った。ばしん、と由利菜の全身に衝撃が走る。
『ユリナ!』
「……大丈夫!」
 とっさに取った防御態勢で致命傷こそ免れたものの、その膂力は優美かつ頑健な鎧を通して無視できないダメージを通してきた。由利菜は吹き飛ばされそうになるところをこらえてたたらを踏み、なんとか体勢を保つ。
『……あと少しだというのに!』
 ラシルは痛みが満ちる由利菜の意識内で歯噛みした。外傷こそ目立ちにくいが、軽視できないダメージをその身に感じる。

●倒れよ大樹、止み果てよ轟音風雷
 とはいえ、これで完全にヘイムダルは暴風に呑まれた。倒れ伏しこそしないものの身動きがまともに取れず、ただそこから脱出しようと風邪に抗っているのが、荒れ狂う木々を背景にしていてもわかる。
「ここが正念場だ!」
『ええ、一気呵成にいきましょう!』
 マイヤと呼びかけあい、最後の勢いをつけた央は、《ジェミニ》で自らの鏡像を形作ってヘイムダルに連撃を浴びせる。暴風で視界と機動性を殺された上での幻惑的な攻撃に、ヘイムダルはかぶりを振って吠えるしかない。
 その様子に形勢の確かさを感じ取り、一二三が鬨の声を張り上げる。応えるのは、悠登、オルクス、チルル。そして彼らが共にある英雄たちだ。
「これで終わりだ」
悠登はサルンガで最も遠いヴァルキュリアを撃ち落とす。
「心得た!」
『討ち漏らしはせん!』
オルクスが暴風に呑まれた鳥女を確実にヘッドショットで仕留め、
「もういっちょ頼むで!」
「やってやるわ!」
『任せて!』
 一二三が翼を切り落とした最後の一体はその禍々しい蹴爪でもって暴れ回るが、チルルの盾にその一撃を阻まれ、盾に展開されているリフレックスの呪いに蝕まれて声上げぬ亡骸となる。

 それを最後に、壊れたフレーズを歌い上げるメロディーが止んだ。残るは、重く響く歪んだベースラインのみ。
「ボクの声が聞こえるか? 回復は必要か?」
 正宗の問いに、由利菜はこくりと頷いた。正宗は素早く由利菜の姿勢を確かめ、庇っている部分に《ケアレイ》を施す。痛みが消え、足元がしっかと動く感触を確かめた由利菜は、自らの中に在る騎士に呼びかけた。
「……ラシル!」
 由利菜の決意に、呼応があった。
『ああ、誓約術に封じられた神技の封印を解く!』
 瞬間、由利菜の体にライヴスが凄まじい勢いで巡り始めた。《コンビネーション》によって高められたそれは、由利菜の相貌と鎧をラシルの青に染め上げ、光翼を背に展開させる。
「ヴァン神族と人の血を引きし者よ、我に神技の記憶を委ねよ!」
 詠唱とともに光翼は輝きを増し、剣は虹の光輝を帯びる。美しさそのもののようなその姿は、そのままヘイムダルに必殺の打撃を放った。
『「ディバイン・キャリバー、今ここに!」』
 重く迅(はや)い、という表現では生温い凄絶な連撃と、ラストの必殺の突きから迸るライヴスが、ヘイムダルの巨体をすみずみまで砕く。倒れ伏し、砕け、噴出するライヴスが由利菜のライヴスの奔流に合わせたベースラインとなり、暴風よりもなお低く高く歌い、爆音をとどろかせ――

 ――そして、止んだ。
 一点だけを照らしていた陽光は森をあまねく照らしはじめ、時折ぱきり、と折れて落ちる枝はいまはなき暴風の名残を思わせる。あたりを見渡しながら、共鳴を解いた悠登がふう、と息をついた。
「……これで先に進めるようになったかな」
「終わったのか」
 と、傍らのナインがきゅぽ、と耳から何かを取り出した。悠登は驚いて目を見開く。
「え、ナイン、今のなに?」
「ん? 耳栓だが?」
「えええ!?」
「あまりに音が耳に障ったのでな」
 悠登の脳裏に「そういうのってアリなの?」「そもそも共鳴してるとき、英雄の肉体で耳栓をして意味あるの?」 などという疑問がよぎるが、
「どうしたんだ、悠登。ドーナツ食べるか?」
「……帰ったらね!」
 深くは追求しないことにした。

 そのかたわらで、共鳴を解きつつも気を張っている者達もいる。風は止んだものの、周辺は薙ぎ倒された木々で状況が不透明な状態だ。様子見も兼ねたその軽い緊張の中に、悔しげな唸りがあった。
「何とか人に戻されへんのか……研究進んどんやろか?」
「……リンカーでなければ価値がないというような奴等だ」
 言外に希望が薄いことを悔しげに語調に滲ませながら、キリルはヴァルキュリアの骸を検分する手を止めずに答えた。AGWの破片、ヴァルキュリアやヘイムダルの体組織など、”万に一つの可能性”を探すためにHOPEへ提出するサンプルを集める。そして、2人はもうひとつの捜し物をしていた。
「あった」
「……ん、こっちもやな。――どうか安らかに」
 認識票とはいかずとも、”かつての誰か”を思い起こさせるものを見つけては、それぞれサンプルとは別な容器に入れる。そして、手短で我流ではあるが、冥福を祈る。墓標を立ててのしっかりした弔いは、事態が沈静化した後になるだろう。
 祈りを終え、一二三は物憂げに天を仰いだ。
「……ラグナロクはどないして人を従魔に変えとるんや? そもそも、なんで変えるんや?」
「ある程度、情報は集まっているはずだが……どうなのだろうな。どんな愚神が背後にいるのか……」
「……香港でのことを思い出したよ」
 ヘイムダルの骸を検分していたラシルが、キリルのその言葉にぼそりと返す。彼女の表情も、取り戻せなかった人命を背負っていることを示す暗いものだ。
「……愚神商人か」
「ああ。暗躍しているようだな」
「……仕事ワヤにして、信用なくしたろか」
 その会話に忌々しげに眉根を寄せ、一二三は首をゆるく左右に振った。
「こんな事態にしおったラグナロクは絶対許さん……ッ!」
「……無論だ。神の名を語る愚行、身を以て贖わせよう」
 怒りを隠しもしない一二三のぎらついた瞳に、キリルは訥々とした口調で、しかしはっきりと同意した。

 密林の中、謎と痛みはわだかまる。だからこそ、この謎を、この事態を、この企みを解きほぐすために、闇と嵐を晴らしながら彼らは進むのだ。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ

  • 九字原 昂aa0919
    人間|20才|男性|回避

  • ベルフaa0919hero001
    英雄|25才|男性|シャド
  • この称号は旅に出ました
    弥刀 一二三aa1048
    機械|23才|男性|攻撃
  • この称号は旅に出ました
    キリル ブラックモアaa1048hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 素戔嗚尊
    迫間 央aa1445
    人間|25才|男性|回避
  • 奇稲田姫
    マイヤ 迫間 サーアaa1445hero001
    英雄|26才|女性|シャド
  • 薩摩芋を堪能する者
    楠葉 悠登aa1592
    人間|16才|男性|防御
  • もふりすたー
    ナインaa1592hero001
    英雄|25才|男性|バト
  • エージェント
    オルクス・ツヴィンガーaa4593
    機械|20才|男性|攻撃
  • エージェント
    キルライン・ギヨーヌaa4593hero001
    英雄|35才|男性|ジャ
  • 愛するべき人の為の灯火
    御剣 正宗aa5043
    人間|22才|?|攻撃
  • 共に進む永久の契り
    CODENAME-Saa5043hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
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