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奇跡のレシピが眠る島
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【相談卓】
最終発言2017/10/19 19:10:32 -
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最終発言2017/10/19 19:01:56
オープニング
●奇跡のレシピ
アフリカ東部。ソマリア沖に浮かぶ、ある無人の孤島。
見渡す限りに広がった美しいエメラルドグリーンの海をかきわけながら、H.O.P.E.のエージェントたちを乗せた一艘の船が、その島へと向かっていた。
「来た来た来た! テンション上がって来たあああああっ!!」
船の帆先で身を乗り出しながら、一人の少女が目を輝かせている。
彼女の名は『ポニー・テイルスープ』。その幼い見た目からは想像もつかないが、世界的に実力の知られた高名な料理人の一人である。
「反応してる! 私の料理人としての嗅覚が反応してるわ! あの島には! 絶対! 私を劇的に成長させる……最高の食材が眠っている!」
彼女の目的は一つ。それは「料理人として更なる高みへと至ること」。
その為にポニーが自らに課した挑戦とは、今まで自分が見たこともないような未知の食材に出逢い、己の全てをぶつけてその場で奇跡の料理を完成させるというものであった。
「奇跡の料理には奇跡の出逢いが不可欠! この挑戦が成功するかどうかは、アナタたちにかかっているわ!」
ポニーたちが向かっている孤島には、ユニークな独自の生態系が築かれ、市場には流通しないような未知の食材が眠っている。
しかし、同時に危険な野生生物も多数存在し、普通の人間が踏み込むにはあまりにも危険な島だという話だ。
それ故に、常人離れした力を持つリンカーたちに白羽の矢が立った。
彼女の言うとおり、この挑戦を成功させるには"あなた"たちの協力がなければ、非常に困難だろう。
「私は最高の料理人になる! その歴史の生き証人になりなさい!」
ビシィッ!
変なポーズを決めながら、ポニーはエージェントたちに向かって叫ぶ。
「いいこと!? すんばらしく! アメージングな! 最っ高ぉおおおおうの食材を頼むわよッ!」
解説
●目標
・未知の食材を「四つ以上」手に入れる。
・ポニーが奇跡の料理を完成させる。
●場所
『北』密度の高いジャングルが広がっている。多くの肉食獣の生息地。
『南』拓けた砂浜と海辺。海産物を狙うならココ。ポニーの待機するキャンプ地。
『東』密林の中にある沼地。特殊な食材が狙えるかもしれない。
『西』海岸沿いに大きな洞窟がある。何処と繋がっているかは不明。
●情報
・未知の生物や食材情報の一部。
『モンスター』
地元民から「怪物」と呼ばれている巨大な獣。ジャングルでの目撃情報が多い。
騒音や血の匂いに敏感らしいので、危険だが誘き寄せることは可能だろう。
『スイーツバード』
カラフルな鳥。果物だけを食べるのでその肉には上質な甘みがあるらしい。
水辺などでよく羽根を休めている。
『チーズラビット』
すばしっこいウサギ。その肉はチーズのようにまろやかな味がするらしい。
島の全域に生息している。逃げ足は速い。
『ミステリアスマンボウ』
あらゆる生態が謎に包まれているマンボウらしき魚。味も不明。
水中を徘徊しながら、定期的に水面へと浮上してくる。
『クリムゾンカジキ』
全身を真っ赤な鱗に覆われたカジキ。最速の肉食魚。
角のように伸びた上顎を持つ。通常のカジキよりも一回りほど大きい。
『ブルートリュフ』
高級食材としてお馴染みのトリュフ。美味。なぜか青い。
地面に生えているので採取は容易だが、これによく似た毒キノコがあるので注意。
『パラライズフルーツ』
湿地帯などに生えている木に実る黄色の果物。
しびれるような刺激的な味がする。隠し味に最適。
『エレガントフラワー』
洞窟の奥にだけ咲く神秘の花。
その気品溢れる香りは、あらゆる食材の旨味を引き出す。
●補足
・借りたい道具があれば申請は可能です。
・獲物や食材の処理はポニーが全てやってくれます。
・リンカーたちの集めてきた食材の「数と種類」によって完成する料理は「変化」します。
リプレイ
●孤島へ
島に上陸した一行をまず出迎えたのは、全身に纏わりつくような熱気だった。
踏みしめた砂浜の先には見渡す限り鬱蒼とした密林が広がり何処か遠くから不気味な鳥や獣の声が聞こえてくる。
「ケルルァッ! 高まってきたああっ!」
と思ったら叫んでいたのはポニーだった。
「キャンプ地はここで良さそうね! さっさと荷物を下ろすわよ!」
「……はい」
「また、行動的というか面白い人ですね……」
高まるポニーと正反対のテンションで静かに頷いたのは、シャノン(aa5485)と構築の魔女(aa0281hero001)だった。
傍には曲見(aa5485hero001)と辺是 落児(aa0281)が影のように控えている。
「変な料理人だな」
『一芸を極める者と言うのはどこかしらズレているのかも知れんな』
「ステータスが一芸に特化し過ぎたのか」
『まあ料理が美味ければ良かろう』
オルクス・ツヴィンガー(aa4593)が呟くとキルライン・ギヨーヌ(aa4593hero001)は肩をすくめた。
「ソマリアと仰いますから海賊退治かと思いきや、こんなに美しい島で美味しいものがいただけるなんて……お兄様、わたくし楽しみですの」
『うむ……ポニー小姐、今日はよろしく頼むぞ』
ファリン(aa3137)とヤン・シーズィ(aa3137hero001)の言葉にポニーは満面の笑みで答える。
「ふふん! 任せなさい! アナタたちにも期待してるわよ!」
何はともあれ、船から調理機材や荷物を下ろすと一同は手早く簡易キャンプの設営を始めることにした。
その間に魔女とファリンがキャンプ地の周囲を調査してみると、この付近には草食の動物が多く大型の危険な生物は存在していないことがわかった。
従魔や愚神の反応もない。やはりこの島を支配しているのは多数の野生生物たちのようだ。
そうしてスムーズに各自が準備を終える頃。
魔女から貸してもらった防虫電磁ブロックを誇らしげに装着したポニーが勢いよく叫んだ。
「準備完了! それじゃ、張り切ってえええ探索ううう開始ィィィッ!」
「お、おう」
「えいっ! えいっ! おーっ!」
えい、えい、おー。
危険生物が闊歩する孤島の空に、リンカーたちの戸惑い気味の掛け声が響き渡った。
●進め!探検隊!
島の西側。
大宮 光太郎(aa2154)とディスター(aa2154hero002)が見晴らしの良い海岸沿いを進んでいた。
「にゃふー、俺達は何時から美食ハンターになったのさ?」
『私が、貴様の英雄として呼ばれた時点でこの運命は決まってたのだ』
「そんな運命に巻き込まないで欲しいにゃねー」
海の反対側。緩やかな起伏の先には密林が広がっていた。
しかし、その風景は徐々に灰色の岸壁のようなものへと変わっていく。
「お?」
光太郎の視線の先。そこには洞窟の入口らしき場所が見えた。
中からは生温い風が吹き抜けてくる。
「ここかぁ……なんかじめじめしてるにゃー」
嫌そうな顔をする光太郎とは対照的に早くも高級食材の匂いを感じ取ったのか、ディスターが張り切って声をあげた。
『さぁ、飯狩りの時間だ!』
「変な造語を作らないの」
やれやれ。光太郎は一人肩をすくめた。
「猫好き系美食ハンター陰陽師とか需要無いんだけどなぁ……」
光を反射して輝くエメラルドグリーンの海。
揺らめく水は透き通っている。海上からでも俊敏に泳ぎまわる魚影がいくつか見えるほどだ。
「まぁ! お魚がいっぱいですわね」
『これは釣り甲斐がありそうだな』
その水面に浮かぶ一挺の小型ボートから、ファリンとヤンが釣り糸を垂らしていた。
気候は穏やかだ。心地よい潮風が通り抜けていく。
「お兄様とこうしてゆっくりする事って珍しいですわ」
『うむ。悪くないものだな。君が結婚するまで、時々こういう日があってよいと思える』
ファリンは静かに微笑んだ。
『……む、早くも引いているな』
「あら、私もですわ」
二人の間には、のんびりとした空気が流れていた。
一方、近くの砂浜ではオルクスがダイビング器材を装着して海に入っていく所だった。
『ところでその珍獣ハンター会員証は何故持って来た』
「意味はないが験担ぎに」
『クリムゾンカジキは珍獣か?』
「珍獣だろう」
二人の目的は真っ赤な鱗を持つというクリムゾンカジキである。
手に持った『竜髭の弓』には頑丈なワイヤーと錘が付けられ、狩りの態勢は万全だ。
オルクスは足がつかない程度の深さまで進むと、そのまま一気に水底へ潜っていく。
『……ほう』
その目に映ったのはゴーグル越しに広がる鮮やかな世界。
海底に茂るサンゴ礁。そこには小魚やカニが集まっていて、それを捕食しようとする回遊魚の群れがぐるぐると泳ぎまわっている。
「綺麗なもんだ」
『危険そうな奴は……いないな』
「試してみるか」
すると腰元に装着した『ヒーローベルト』から七色の光が放たれる。
それに興味を示したのか、近くにいた魚たちがオルクスの動きに反応し始めた。
『よし、狙うは大物だ。上手く誘き寄せるぞ』
頭上からけたたましい鳥の鳴き声が響いた。
密林の足場は柔らかく、無数に垂れ下がる植物の蔓が視界を塞いでいる。
「ここら辺が良さそうだな。罠を張るぞ」
赤城 龍哉(aa0090)の言葉にヴァルトラウテ(aa0090hero001)が頷く。
『餌はこれでいいんですの?』
「あぁ」
龍哉が用意したのは血の滴る生肉だ。情報によればモンスターと呼ばれる怪物は血の匂いに敏感らしい。
「食ってみないと美味いかは分からんけどな。とりあえず一匹くらいは仕留めておこう」
念の為に周囲の蔦などを利用してロープトラップも仕掛けておく。
「これでよし……と」
そんな龍哉達の近くでは、ウォセ(aa5378hero001)と八角 日和(aa5378)がチーズラビットを捕獲するべく、密林を探索していた。
『まず通り道や巣を見つけ、そこから獲物を探すのがいいだろう』
「見つけたら、とりあえず……」
ウォセの言葉に頷いた日和は取り出した針金を手に持って、
「罠を仕掛けよう」
『走って追って、捕える』
二人の目が合う。
「『……』」
ウォセがあからさまに不満気な顔をした。
異界の狼であったウォセにとって、狩りとはあくまで自らの力のみで行うものだったのだ。
『必要ない、狼は罠など使わない』
しかし、そんなウォセに対して日和は冷静な態度を崩さないままさっさと準備を始めてしまう。
「罠は保険だよ、何匹か必要かもしれないし。私は罠の準備するから、通り道とか探してね」
『……仕方ない』
そんな龍哉と日和たちのいる場所から、更に東へ向かったところ。
見晴らしの良い空間に一つの大きな水たまりが広がっていた。
その水辺には様々な動物が集まり、中央に浮かぶ陸地では群れでやって来た鳥達が羽根を休めている。
「……あれが、フルーツバードですね」
その様子を樹木の上から観察していたのは構築の魔女だ。
イメージプロジェクターで投影した迷彩服に身を包み、その手には双銃が握られている。
魔女は銃に硬質ゴム弾を装填するとゆっくりと深呼吸をする。
「時間制限はありますが焦らずに……いきましょうか」
慎重に。確実に。獲物を仕留める。
逸る気持ちを抑え、魔女は静かに息を潜めた。
●狩る者と狩られるモノ
同時刻。島の東側。
密林の中でも特に独特の雰囲気を漂わせる湿地帯。
その場所に葛城 巴(aa4976)とレオン(aa4976hero001)。そしてシャノンと曲見が足を踏み入れようとしていた。
「……?」
きょろきょろと辺りを見回すシャノンに巴が声をかける。
「どしたの?」
「シャノンの……お家と、似てるのです」
「お家?」
補足するように曲見が説明する。
『この風景が以前に住んでいた地を思い出させる、ということかと』
「あぁ、なるほど。だからシャノンさんはこの依頼を受けたのかな?」
ちなみにねえ。巴は続けて、
「私はサバイバルとか未知との遭遇とかが楽しみだから、この依頼に参加したんだよ~」
『ボケたらツッコミ宜しくお願いします』
「ボケないってば」
そんなやり取りをする巴とレオンを見て、シャノンが表情を変えぬまま小首を傾げてから、小さくこくりと頷いた。
それから数分ほど歩くと、四人の前方に濁り水の溜まった沼地が見えてくる。
広さはそれほどでもないが、何か得体の知れない生物が住んでいそうな不気味な気配を感じる沼だ。
「……どろどろ、ですね」
『レディは迂闊に入ってはいけませんよ』
「うわ~……これどんくらい深いんだろう?」
『巴、アレを出せ』
「あ、そうだ!」
ごそごそと何やら取り出す巴。ついでにレオンにも何やら手渡す。
「完、全、装、備ッ!」
ジャーン。
巴が装着したのは用意しておいた手袋と長靴だった。おまけに捕獲用の網まで手にしている。
『これで泥にハマっても大丈夫だな』
その少し間抜けな格好を見てレオンがにやついているが、もちろん自分も同じ格好である。
「大丈夫! 完全装備だし!」
そして、巴が鼻歌交じりに足を一歩踏み出して――
ズボッ。
「……」
思いっきりハマったまま、微動だにしない。
『……どうだ』
ゆっくりと巴の目がレオンに向けられる。
「う、動けません」
『……ったく。仕方ないな』
レオンはため息を吐くと、ロケットアンカー砲を発射。巴を掴んで引っ張り上げる。
「ふぬぬぬ!」
『ぐ……お、重い……』
「ぎゃああっ!」
『うおっ!?』
バランスを崩した巴に引っ張られて――
ズボッ。
『……』
無表情のレオン。眉だけがぴくぴくと動いている。
「……」
『……』
見つめ合う巴とレオン。
そんな二人を眺めながら、シャノンが真顔で言った。
「……ツッコんだほうが、いいですか?」
『レディ、あれはボケではないかと』
十分後。気を取り直して。
巴が水辺にしゃがみ込み、周囲を覆うように『セーフティガス』を散布する。
「ナマズとかウナギとかカエルとか捕まえられたらいいな~」
『デンキウナギは、気絶してたら発電しないよな……?』
すると、次々と水面へ浮かび上がってきたのは無数の水生生物達だ。
カエル、ナマズ、ヘビ……エトセトラ、エトセトラ。
人によってはモザイクが必要な光景である。
「おおう。効果抜群だね! こんな食べきれるかな~?」
『全部捕まえる気なのかよ……』
そこへ果物を採取していたシャノンがやって来て、おもむろに水面へ竹槍を突っ込む。
「……つんつん。カエルさん、いっぱいなのですよ。シャノンもお手伝いします」
「よし! 食べられるかどうかはこの際気にしない! ポニーさんなら何とかしてくれる! ってことで、面白そうな食材見つけるぞ~!」
一方、洞窟を探検している光太郎とディスターはというと。
「本当にこんな所に花なんて咲いてるのかにゃあ」
『洞窟の奥にだけ咲くという話だが……』
「お、謎のキノコ発見」
道中で怪しげな食材を採取しながらも、順調に洞窟内を踏破していた。
「そういや、何で今日は刀じゃないの?」
『洞窟内ではダガーの様な武器の方が有効的に戦えるからな』
とはいえ、洞窟内には大型動物の気配もほぼなく、動き回っているものといえば――
「にゃふっ!? ……またコウモリだよ」
飛び回るコウモリを眺めながら、光太郎は濡れた足場をずんずんと進んでいく。
暗闇の先はまだ見えない。だがわずかに洞窟内の空気が変わり始めていることに光太郎は気付いていた。
「とにかく今日の目的はエレガントフラワーだからね。それさえ見つければオッケーでしょ」
『あらゆる食材の旨味を引き出す、か……ふふ……ふふふ……楽しみだな』
「お、またもや謎のキノコ発見」
バシャンッ。
水面の跳ねる音と共に大きなカツオが釣り上げられる。
「お兄様、何匹目ですの?」
『数えていないな。とにかく大漁だ』
あれからのんびりと釣りを続けていたファリンとヤンだったが、その成果は上々だった。
クーラーボックスに魚を放り込むと、ヤンが立ち上がって水中を覗き込む。
『食材が豊富なのは良いことだが……折角の機会だ。俺達も潜って大物を狙うか』
「……! ペンギンですのね!」
『うむ』
ヤンの意図を汲み、ファリンが幻想蝶を取り出すと二人の姿を神秘的な輝きが包み込む。
次の瞬間。現れたのは純白の仙女――ではなく愛らしい着ぐるみペンギンであった。
『スペシャルズ・ペンギンドライヴ』を装着したファリンはよちよちとボートの縁まで進み、そのまま海へと飛び込んだ。
そして本物のペンギンのように水中をすいすいと泳ぎながら『イフリート』を銛代わりに構える。
『ファリン。もう少し深いところへ潜ろう。この姿ならばきっと目立つはずだ』
「分かりましたわ」
弾丸のような速度で泳ぐファリン。
それを見て驚いたのは、同じく近くで大物を探していたオルクスだった。
「何だ……あの奇怪な生物は……」
『この島は何でもアリか!』
そんなオルクスの姿に気が付いて、ファリンが何やらぶんぶんと手を振りながら近付いてくる。
「……!」
『ぬうっ!?』
思わず『パトリオットシールド』を構えるオルクス。
と、そこへ真下から突っ込んできたのは――全身を真っ赤な鱗に覆われた巨大なカジキだった。
「くっ……」
ドォンッ!
水中に衝撃が走る。カジキの強靭な上顎が盾に衝突したのだ。
しかし、怯むこともなくカジキは勢いそのままに水面を目指して浮上していく。
「チャンスですわ!」
ファリンがその背中を追いかけるように飛び出した。
泳ぎながら槍を伸ばそうと試みるが、わずかに届かない。
「よくわからんが……このまま逃がすかッ」
態勢を立て直したオルクスは『竜髭の弓』を構え、カジキに狙いを定めてワイヤーを射出した。
それがカジキの背中に突き刺さり、目に見えてカジキの速度が落ちる。
『追い抜くぞ……!』
減速した隙を突いてカジキを追い抜くと、ファリンは水面近くまで浮上してカジキを待ち構える。
ワイヤーを引き千切ろうと身体を揺らすカジキ。
しかし、方向転換までは出来ないのか。そのまま突進を続けて――
「ぐっ……獲り、ました!」
ファリンの突き出した『イフリート』が正面から突き刺さった。
タァンッ! タァンッ!
散発的な銃声が響き、樹上から音もなく着地した魔女が息を吐く。
「……ふう」
ゴム弾で気絶させた鳥のくちばしと足を縛り、生きたままケージに捕獲していく。
すでに魔女が捕まえた数は一羽や二羽ではない。ケージはパンパンだ。
「出来るなら傷の少ない新鮮なものを持っていきたいですからね」
とはいえ。これだけ捕まえれば十分だろう。
そう判断した魔女は一旦狩りをやめて、付近の植物や果実を採取することにした。
幸い水場の近くには、多くの植物が群生している。未知の食材を発見することも容易だろう。
「有毒のものもあるかもしれませんし後で選別ですね」
魔女は植物辞典を取り出して、淡々と作業を続けるのであった。
密林の中で息を潜めながら、龍哉はついにその姿を確認した。
「あれがモンスターとやらか……」
『大きい……猪みたいですわね』
餌に釣られて密林の奥から姿を現したのは、角の生えた巨大な猪だった。
その大きさ。その威風。
あれこそが現地民からモンスターと呼ばれ、恐れられている怪物に違いない。
「警戒心は薄そうだな……一気に仕掛けるぞ」
そう言うと龍哉はブーメランを振りかぶり、怪物の背中めがけて力いっぱい投擲した。
バシィッ!
鞭のしなるような音が響き、怪物が悲鳴をあげる。
すかさずザンバーを構えて飛び出した龍哉はそのまま怪物に突撃する。
「うおおおおおっ!」
負けじと怪物も角を突き出して大地を駆ける。
――だが、龍哉の方がわずかに速い。
反撃を許す間もなく、一瞬にしてザンバーが空気ごと怪物の身体をなぎ払う。
ザンッ!
これがリンカーのリンカーたる所以。その圧倒的な力の前に怪物は為す術もなく崩れ落ちた。
「……ふぅ」
『やりましたわね』
「見掛け倒しだったな」
『従魔ならともかく、ただの動物でしたものね』
若干の肩透かし感を憶えながらも龍哉は手早く怪物の身体を処理した。
そして、その巨大な肉を収納するために幻想蝶を取り出すと、ヴァルトラウテが嫌そうな声をあげる。
『やめてくださいな』
「だが断る」
龍哉は間髪入れずに告げる。
「でかい荷物を抱えて猟を続けるとか無理だからな」
『美味しい料理で手を打ちますわ……』
ため息混じりにヴァルトラウテが返すと、そこへ日和とウォセがやって来た。
「うわあ! 大きいですね。モンスターの肉ですか?」
『くんくん。美味そうな匂いだ……』
「おう。八角、そっちはどうだ?」
龍哉がそう訊くと、日和は仕留めたチーズラビットを両手で掲げて見せる。
「ついさっきなんとか仕留めました。ダメになっちゃう前に処理しないとですけど」
『おれも捕まえた。美味いぞコレ』
「あっ! まだ食べちゃだめだってば」
「へえ、これがチーズラビットか。こっちの獲物は名前が判らんのも多くてな」
「はは。確かにみんな変な名前ですよね」
幻想蝶に怪物の肉を収納すると、龍哉はウォセの咥えていた兎を受け取った。
「処理しちまうんだろ? 手伝うよ」
「いいんですか? ありがとうございます!」
闇の中に荒い呼吸音が響く。
「……ふぅ、ふぅ……あーもう、しんど……」
序盤は順調だった洞窟探検も次第にその険しさを増し、道なき道を進むたびに暗闇はなお広がっていく。
そんな道中を潜り抜けて、急激に狭くなった岩壁の間を抜けると、光太郎はようやく顔を上げた。
「ここは……?」
前方から冷たい風が吹いた。湿った空気が一変する。
そこは広々とした空間だった。
「この、香りは……」
何と表現すれば良いだろうか。
熟成された果実のような、爽やかな緑のような。そんな芳しい香りが辺り一面に広がっている。
『……滝があるな』
ディスターの言うように、それは洞窟の中に突如として現れた大自然。
高さ二十メートルほどはある滝から激しく水が流れ落ちていた。
光太郎はその滝に近付くと、洞窟湖の付近に神秘的な輝きを放つ花々が咲き誇っていることに気が付いた。
「これがエレガントフラワーかにゃー?」
『うむ。この荘厳な香りは間違いないだろう』
ディスターがしゃがみ込み、地面ごと掘り返すと持参した飯盒にそれを詰めた。
「おー、採取の仕方にも拘るんだ」
『当然だ、どれ程良好な状態で運んだかで、食材の味も変わってくるからな』
そしてしっかりと蓋をすると立ち上がり拳を突き上げた。
『任務完了! 帰還するぞ!』
「え、もう帰るの? ちょっと休もうよ……」
『何を言っている! 飯だぞ! 飯が待っているんだぞ!』
「いやそうだけど、ってちょちょ、待っ、にゃああああ……!』
●奇跡の料理
――そんなこんなで、数時間後。
エージェントたちはそれぞれの成果を手にキャンプ地へと帰還していた。
「みんなっ! よくやったわね! エクセレントよ!」
調理用の白衣に着替えたポニーが、集められてきた食材の山を前にして高らかに叫ぶ。
「しっかーーし! ここからが私に課せられた真の挑戦! やってやろうじゃないの!」
ポニーの指示に従って一同は調理場に次々と食材を運びこんだ。
それらをポニーは真剣な眼差しで一つ一つ丁寧に吟味していく。
「ふむふむ……いいわね。これもいいわ。これはあっち。これは……難しいかも……いやでもこれがあれしてそれすれば……!」
数分後。
「よし! 決まったわ! まずは下拵えから始めるわよッ!」
『仕込みのお手伝いはお任せ下さいな』
『我も鱗や内臓を取るくらいなら手伝えるぞ』
「確かにギヨーヌは解体だけ妙に上手いな」
「シャノンもお料理のお手伝い、しましょうか……?」
『レディは此処に座っていてください』
そして。ついに奇跡の料理が始まった。
それは料理人『ポニー・テイルスープ』にとって――最高の挑戦となった。
――水平線の彼方に陽が沈む。
朝はあれだけ騒がしかった鳥達の声も止み、辺りには穏やかな静けさが漂っている。
鍋から立ち上る煙が周囲に食欲のそそる匂いを充満させ、一同は早くも御馳走の予感を感じ取っていた。
「待たせたわね! これで完成よ!」
胸を張りながらポニーが叫ぶと、次々と歓喜の声があがる。
「ひゃっほう!」
「どんな料理になったのかな。ワクワクするね!」
「これで不味かったら詐欺だよ詐欺……」
『ふっ、あれ程の食材が集まったのだ……不味いわけが無い』
長机の上に人数分の食器が並べられ、待ちかねた面々が足早に席へつく。
曲見とヴァルトラウテが手伝い、ポニー自らが料理を配膳していく。
「まずはサラダね。甘みのある野菜と鶏肉をポン酢で和えてから、刻んだピリ辛のフルーツを混ぜてサッパリと仕上げてみたわ!」
瑞々しいサラダだ。
見た目も鮮やかで色味も良く、グリルした鶏もも肉からはほんのりとハーブの香りもする。
「スープはトリュフを贅沢に使ったから味付けもかなりシンプルね。素材の味を楽しんでちょうだい!」
美しく透き通ったスープには卵と薄い花びらが絡めてあり、優しく柔らかい香りと共に上品な高級感を漂わせている。
「こっちは海産物。量が多かったからカジキはムニエルとソテーにしたわ。身は淡白だけど濃厚なバターとトリュフのあんかけで濃い目の味わいにしてみたの。新鮮なお刺身も用意したから、良かったら赤身も食べてみて! そうそう、お米が欲しい人は海鮮丼もあるわよ!」
新鮮な海産物の香りとムニエルや唐揚げの香ばしい匂いが広がる。
もちろんカジキだけでなく、マグロやカツオやエビなどを使った様々な料理も用意されている。
「そしてお待ちかね……メインの肉料理よ!」
丹念に下味をつけてダッチオーブンでじっくりと焼いたローストチキン。
しっかりと柔らかくなるまで白ワインで煮込んだとろとろ兎肉の煮込み。
エレガントフラワーとモンスター肉の丸焼き。
食卓の中央にドーンと置かれた肉料理の威圧感たるや、実に凄まじいことになっている。
「面白い食材も多かったから他にも色々と挑戦してみたわ! 見た目はゲテモノでもすべて味は保証するから安心しなさい!」
ポニーは呆気に取られる一同の顔を満足そうに見てから、
「私の全身全霊をかけた最高のフルコースよ! さあ! 召し上がれ!」
そうして――いただきますの号令と共に賑やかな食事が始まった。
『こ、これは……美味い、尋常でなく美味いぞッ!』
「おお。確かに美味いにゃー」
『このコク……この舌触り……! これぞ、これぞまさしく奇跡の料理!』
「この鶏肉……本当に甘みがありますね」
『でかい奴のお肉も意外とイケますわよ。とても素敵な香りですわ』
「あぁ、怪物もこうやって食卓に並んじまえばただの御馳走だな」
「うわぁ、美味しい! 兎がとろっとろだよ」
『美味いが柔らかすぎて噛み応えがないな。はぐはぐ』
「ウォセはチキンのほうがいいんじゃないの?」
『あぐあぐ』
「これがクリムゾンカジキか」
『弾力が凄いな……噛むたびに旨味が広がっていくぞ』
「……これは?」
『レディ、それはカエルですな』
「……かえるさん」
「うん! このカエルすっごい美味しいよ! これはナマズ? ヘビかなぁ?」
『巴、あまり変なものばかり食べるなよ……』
「あの……お兄様、なぜご自分で釣ったお魚ではなく、お肉ばかり召し上がってらっしゃいますの?」
『あぁ……これを目当てに参加した故な。希少な兎の肉らしい』
「う、うさぎ……!? 珍しく食欲をお示しになると思ったら……!」
『君を食うわけにもいかぬ故な』
わいわいガヤガヤと食事を楽しむ面々を見て、ポニーは自分に課したこの挑戦について改めて考えていた。
料理人として更なる高みに至るため、未知の食材と出逢い奇跡の料理を作り上げる。
その挑戦は果たして成功したと言えるのだろうか。
手応えは確かに感じた。
中には調理の難しい食材もあったが、結果的には今までの技術と経験を活かした最高の料理に仕上がったと思う。
「……」
再び顔を上げて、しっかりと皆の顔を見る。
そこには――笑顔があった。
満足感。充実感。達成感。幸福感。
浮かぶ感情の種類は様々だが、皆に共通して言えることは、きっと全員が今この時間に何らかの価値を感じてくれているということだろう。
もしも、彼ら彼女らにとって、奇跡の料理を追い求めた今日という一日が意味のあるものであったのなら。
私の料理にも、私の目指した道にも。
確かな価値があったのだと。
胸を張って、そう言えるのではないだろうか。
「奇跡の料理には……奇跡の出逢いが不可欠、か」
ポニーは静かにそう呟くと、この瞬間にしか味わえない、まるで奇跡のような味をゆっくりと噛み締めた。