本部

ハロウィンパーティーに名を借りて

和倉眞吹

形態
ショートEX
難易度
易しい
オプション
参加費
1,500
参加制限
-
参加人数
能力者
5人 / 4~10人
英雄
5人 / 0~10人
報酬
少なめ
相談期間
5日
完成日
2017/10/28 19:30

掲示板

オープニング

〈日本にある洋館で、ハロウィンパーティーを実施したいのですが〉

 この連絡をヨーロッパの仕事場で受けた時、徳村馨は全力で警戒した。
 以前、オレオレ詐欺ならぬ、パーティー開催詐欺にものの見事に引っかかったからだ。しかも、犯人は愚神で、彼が持って来た従魔憑きプレゼントにしてやられ、H.O.P.E.にも多大なる迷惑を掛けてしまった。
 ベテランエージェントにも、警戒心をもうちょっと持って行動しろ、という有り難い助言を貰った事もあり、この手の話はまず警戒、と馨の中で位置づけられてしまっている。
〈ハロウィンと言えば、発祥はケルトの伝承ですが、西洋のそれと日本のハロウィンでは、今時は趣旨が大分違っているでしょう〉
「はあ」
 警戒しながら聞く馨は、続く説明にも気の抜けたような返事しかできない。
〈日本ではハロウィンに託けて、それらしいパーティーを開くのも一つの楽しみ方になっていますからね。それに是非、H.O.P.E.でも協力をと打診がありまして。関連して徳村さんの特殊能力を思い出したので、ご連絡致しました。是非ご協力頂ければ〉
 そこまでが限界だった。馨は、返事もせずに通話を切り、深い溜息を吐く。直後、
「カオル? お茶が入ったわよ」
 と相棒のレーナ=ネーベル夫人が事務所に顔を覗かせた。
「電話、誰からだったの?」
「うん、何か……オレオレ詐欺」
「オレオレ……何それ」
「あー、レーナは知らないよね。こっちの世界の日本では有名なんだよ、親戚の子とか装って電話してきて、お金を巻き上げたり」
「お母様の偽物だったの?」
「ううん、H.O.P.E.……」
 言い掛けた途端、再びスマホが着信を告げ、馨は飛び上がる。
「えええっと、どうしよう」
 詐欺、意外にしつこい。半泣きになっていると、最近スマホの操作を覚えたらしいレーナが横からスマホを浚った。
「はい、こちらトクムラカオルの携帯です」
 レーナのおバカ――――――!!
 馨は声にならない絶叫を上げた。しかし、レーナの方はどこ吹く風だ。涼しい顔でスピーカーフォン状態にして、馨にも会話が伝わるようにしている。
〈あっ、徳村さん? 何かすいません、急に通信が切れちゃったみたいで……電波が悪いんですかね〉
「申し訳ございません。わたくし、カオルのパートナーでネーベルと申します。済みませんが、カオルは席を外しておりますので、わたくしが伺いますわ」
 いけしゃあしゃあとはこの事だ。
 詐欺師も〈そうですか〉と淡々と返事をして言葉を続ける。
〈さっき、徳村さんにもお願いしたんですが、日本にある洋館でハロウィンパーティーを開く事になりましてね〉
 途端、レーナも警戒する表情になったが、詐欺師はそれには気付かず、馨に向かって喋った内容を繰り返す。
〈――という訳で、是非ご協力を頂きたいのですが、如何でしょう〉
「生憎ですが、わたくしもカオルもその手の詐欺には辟易しておりますの」
〈へ?〉
 意外な返答だったのか、詐欺師の方は呆気に取られたらしい。
〈あ、あの、詐欺とは一体〉
「一度は引っかかりましたけど、二度目はありませんわ。ごめん遊ばせ」
 毅然とした口調で言ったレーナは、何か言い掛けている相手を無視してやはり通話を切り、ふう、と溜息を吐いた。
「……レーナ、格好良かった!」
 目をキラキラさせて飛び付く馨に、「次は自分で言えるようになるのよ」と付け加えて、レーナはスマホを返す。
 瞬間、三度そのスマホが震えた。
 たった今、レーナに言われた手前、馨はスマホを睨み付けて深呼吸を一つし、画面をタップする。
「わ、わ、わたくし達、そ、その手の詐欺には」
〈詐欺ではありません!〉
 遮るように金切り声がスマホから聞こえて、馨は思わずスマホを耳から遠ざけた。
〈本当なんです、信じて下さい。お疑いなら、そちらから掛け直して頂いても結構です。支部の番号を言っても信用されないでしょうから、支部と私の名前だけ言います。本部かネットで照会してお掛け直し下さい〉
 泣きそうな声で言葉通り、支部と自身の名前を告げて切れたスマホを見つめた馨は、レーナに視線を移す。
「……どう思う?」
「んー、これだけ言うんだから、本物じゃない? 掛けるだけ掛けてみたら? あ、勿論公衆電話からよ」
 すっかりこちらの世界に馴染んだレーナの方が、何故かキビキビと注意を飛ばした。

「――という具合で随分警戒されてしまったんですが、どうにか信じて頂きまして、近々徳村馨さんが一時帰国する事になりました」
 安堵と疲れが複雑に入り交じった顔で、女性オペレーターが続ける。
「改めてご説明しますと、支部近所で、館内公開が開始された洋館があります。そのお披露目を兼ねたハロウィンパーティーを開く運びになりました。その際、徳村さんの能力を使っての仮装パーティーにできたらという打診で、彼女にも帰国・協力を依頼します。ついては、皆様にも準備を手伝って頂ければ幸いです。勿論、当日も参加して是非楽しんで下さいね」

解説

▼目標
ハロウィンパーティーの準備をし、当日を楽しむ。

▼登場
■徳村 馨…『小トリアノンでティーパーティーを』『霧のお城で捕まえて』に登場。ひょんな事からH.O.P.E.に就職。
今は、欧州の城で観光促進を担っている。
■レーナ=ネーベル夫人…馨の相棒である英雄。中世ヨーロッパ貴族夫人風の女性。
※能力…霧を発生させて、特殊な空間に標的を誘い込む事ができる。普段はこの能力を制御し、観光の目玉として活用中。
結界の内部を把握する事も可能。

▼会場
近日公開された、とある洋館。
建物面積、480平方m。平屋建て。
間取り:バルコニー(幅5m)への階段を上がって玄関を入ると、広めの通路を挟んで右手が大広間(20×30m、設置された窓からも出入り自由)。左手が居間と寝室。
突き当りの通路を左手に行くと洗面所と風呂場。右は調理場(ここから奥はスタッフルームもあり、一般客は立ち入り禁止)。
その通路からも中庭に出られる。

▼主旨
馨達の能力により仮装はできるので、自分達で服をどうにかする必要はない、というのが目玉(個人の希望があれば、ある程度は融通します)。

▼その他、手伝い等必要事項
・会場の飾り付け。主に大広間が主会場なので、そこを重点的にハロウィン風の飾り付けを。他の部屋は、お客さんが歩いてもいい事にはなっているが、無理に飾る必要はない。
・立食パーティー形式なので、ハロウィン向けにスイーツと紅茶を提供予定。献立を考えたければ申し出て下さい(軽食程度までなら可)。
・出し物を考えてお客と一緒に楽しむもよし(例えばビンゴゲームなど)。
・客層:特に制限はない。近所の子供会に属する子供や、その保護者、その他近所の住人。
ホームページで告知がしてあるので、遠くから来る人も。

リプレイ

 翌日のパーティーの下準備の為に、調理場に立った大門寺 杏奈(aa4314)とレミ=ウィンズ(aa4314hero002)の前には、所狭しと調理台の上に材料が並んでいる。
 主に、スイーツを作る為のものだ。メニューには旬のフルーツ――林檎、キウイフルーツ、クランベリーなどをふんだんに使ったミニパフェや、フルーツタルトを予定している。
 杏奈は、パティシエの友人の指導のもと、簡単な菓子作りを何度も経験しているので、下準備を買って出たのだ。
「パーティーなんだから、皆が食べられるようにたくさん作らないとね」
 どこかウキウキとした口調で杏奈が言えば、レミもニッコリと笑って頷く。
『はい! わたくしも全力で手伝いますわ! 何なりと仰って下さいまし』
「ありがとう。頼りにしてるよ」
『うふふ、アンナのためなら何だってしますもの! これくらい当然ですわ』
 手先の器用さを発揮し、てきぱきと作業に掛かる杏奈の指示に、レミもクルクルと動いて手伝いに徹する。
「大掛かりなものはまだ難しいけど……余裕があればブラウニーやクレープも追加で作りたいね」
『名案ですわ』
 そこへ、キアラ・ホワイト(aa4347hero002)が顔を出す。
『杏奈ちゃーん、レミちゃん! 手伝いに来たよん』
 その後ろには、怖ず怖ずといった様子の無明 威月(aa3532)もいた。
「キアラさん。威月さんも、よろしくお願いしますね」
 ニコリと笑って言うと、キアラは『まーかせて』と答え、威月もコクリと頷く。威月は普段寡黙だし、武家の出という事もあって洋風の行事に参加した事はないが、年頃の少女らしくこう見えても内心では楽しんでいるようだ。
 ありがとう、と杏奈がもう一度言って、調理場に立った四人は改めて仕事に取り掛かった。

「こら、ちゃんと飾り付けやらなきゃ駄目だよ」
 調理場の出入り口から中をチラチラと見ているフローラ メルクリィ(aa0118hero001)を見つけた黄昏ひりょ(aa0118)は、彼女の手を引いて大広間の方へ歩いて行く。
『う~、だって、美味しそうなんだもん!』
 食欲魔神の異名を取るフローラは、半分涙目になりながらひりょに引きずられて飾り付けに戻った。
 そんな二人のすぐ傍で、ピピ・ストレッロ(aa0778hero002)が『ハロウィンパーティー!』とはしゃいでいる。
「俺達もお客さんも、皆が楽しめるといいね」
 皆月 若葉(aa0778)も頷いて、飾り付け作業に勤しんでいた。
『で、丁度良い依頼だったワケだが……』
 これ、俺が来る必要あったのか? と青槻 火伏静(aa3532hero001)は他のメンバーを見るともなしに見ながらぼやく。
 その格好は、化粧抜きの仮装だ。
 明日の予行演習の為、特に希望のないエージェントには徳村馨とレーナ=ネーベルの能力による仮装が施されている。火伏静のそれは、中世ヨーロッパの貴族女性を思わせるドレスだが、正直こっぱずかしい事この上ない。火伏静的には、警備任務をこなす方が万倍マシと言った所だ。
『……威月のヤロォ……騙しやがったな』
 物騒な呟きを漏らして、ふと辺りを見回すと、その肝心の相棒が見当たらない事に気付く。
 つい先刻まで、彼女もこの辺で飾り付けをやっていた筈だが――エントランスホールにでもいるのだろうか。
 普段、威月はH.O.P.E.総合練兵所「暁」で受付嬢をしている。元々は人見知りや男性が苦手なのを克服する為に、火伏静が勧めたものだった。しかし、慣れると一転、意外にそういう事が好きだったらしく、そこでもロビーの飾り付けなどはよくやっている。
 そう当たりを付けてエントランスに足を運ぶが、そこにも彼女の姿はない。代わりに、そこにはレーナ主体で共鳴中の馨がいた。表に出ているレーナは、火伏静に気付くと、軽く会釈する。そんなレーナに、お愛想程度の会釈を返し、他に威月の行きそうな場所はと考えて、ハタと思い当たった。
 そう言えば、威月は杏奈と仲がいい。そして、杏奈は今日の仕事で何をしているか――恐ろしい連想ゲームで行き着いた結論に、内心青くなりながら、火伏静は調理場へ急いだ。

「……そうだ、紅茶の用意もできる?」
 ひとまずある程度スイーツが出揃った所で、杏奈がふと思い付いたように言った。
『もちろんですわ!』
 とレミが頷く。
『わたくしの自慢の紅茶を皆様に振る舞って差し上げますの。キアラ様とイヅキ様も行きましょう?』
『今から? だってパーティーは明日なのに』
『味見もしないでお客様には出せませんわ。飾り付け担当の皆様も休憩を入れた方が宜しいでしょうし……ねっ、アンナ』
 同意を求めると杏奈も頷く。
『お菓子の甘さに合わせて調整する方が良いよねぇ。ダージリンとカモミールは持って来たけど』
 納得したのか、キアラは自分が持っていた茶葉を出してレミに渡す。それを受け取って、レミは『お任せを』と胸を叩いた。
『少々お時間下さいませ。その間に、キアラ様とイヅキ様で、ホールの方へ出来上がったスイーツをお持ち下さいますか?』
『オッケー』
 とキアラは言い、威月も無言でコクリと首肯する。
 そこへ、『威月、いるか!?』と火伏静が駆け込んで来た。
『まさかと思うがおめー、何か作ったりしてねぇだろうな』
 殴り込む勢いで問う火伏静に、威月は小首を傾げる。その手には、時既に遅し、彼女が作った幾ばくかのスイーツが皿に盛られていた。
『って、まさかコレ、作ったんじゃねぇだろうなっ!?』
 分かり切った事を訊かれて、威月は一つ頷く。円らな瞳で見上げられた火伏静は、らしくもなく目眩を覚えた。
 どういう訳だか、昔から威月の料理の腕は壊滅的だ。確率は二分の一で地獄行き、の一言で表現できる所から察してくれ、という味である。
『俺は散々、全力で止めたよな?』
 暗に『俺は食わねぇぞ!』とそれこそ全力で言っているのだが、威月は再度首を傾げた。彼女は彼女自身の料理を食べても平然としている。味覚がおかしいのかと思いきや、何か変だというのは分かるようで、味覚はまともらしいのだが。
『まあ、とにかく行こうよ。今日はお客さんが来る訳じゃないから、仲間内でロシアンルーレットみたいに楽しめば』
 ねっ、とキアラが笑って、スイーツの載った盆を手に調理場を後にする。はい、と返事をするように頷いた威月が続き、その彼女の後を火伏静も溜息と共に追った。

「――で、こここんな感じにしてー、この辺とあそことあそこ、写真スポットにしても良いと思いません?」
「ええ。お任せしますわ」
 若葉とレーナが装飾の相談をしていると、『ねーねー、ワカバっ』とピピが若葉の上着の裾を引っ張る。
「ん?」
『じゃーん、コウモリっ!』
 振り返ると、ピピが黒い色画用紙を切り抜いて作ったモノを自慢げに掲げて見せる。
「うん、いいんじゃないかな」
 上手にできたね、と頭を撫でると、ピピは『えへへ~』と嬉しそうに笑った。
「まあ、可愛らしい」
 レーナも加わってピピの手元を覗き込む。
「勝手して済みません、レーナさん。こちらの備品でも足りると思ったんですけど、こういうハロウィンぽいモノ作っても良いですよね?」
「ええ。わたくし達二人の考えだけではどうしても偏ってしまいますもの。遠慮なくご意見仰って下さいな」
 すると、背後から声が掛かる。
「あ、じゃあ、こっちの飾り付けのチェックもして下さいよ。皆月さんとピピも」
 手招いたのは、ひりょだ。フローラと共に飾り付けをしていたらしいが、近寄った若葉とレーナは言葉を失った。
 何というか、一言で現すなら“センスがない”と言ったところだろうか。しかし、本人を前にして、大人として社会人として、というか、何より人として、それをストレートに言う訳にもいかない。
 どうするどうする――と逡巡していると、
『うわぁ、変なの!』
 と歯に衣着せずに言い放った者がいた。ピピだ。
「こ、こら、ピピ!」
 慌ててピピを黙らせようとする若葉だが、ピピはとことん無邪気に、そして無惨に断じる。
『蜘蛛の巣に骸骨とお花が引っかかってるなんておかしいよー』
「うわぁあ、えええーっと、でもホラっ、常識に捕らわれない感じで良いんじゃないかなっ、ねえっ、レーナさん!」
「えっ、ええええ」
 若葉はピピの口を塞ぎ、話を振られたレーナは相槌だか悲鳴だか分からない一言を返す。
 大仰なフォローを貰ったひりょは、「あはは」と乾いた笑いを漏らすしかない。
「細かなデザインセンス的なのはちょっと苦手で」
『え~? これ、ちょっとかなぁ……』
 すると、フローラが目を細めて混ぜっ返したので、ひりょは彼女の飾り付けたモノに視線を向けた。
「フローラ、お前も人の事言えない気が……」
 ひりょの見ている先には、青いカボチャを象った画用紙の切り抜きが、やはり蜘蛛の巣に掛かっている。自覚はあったのか、フローラは『うっ』と声を詰まらせつつ、『ひ、ひりょよりはいいもん!』と言い返した。
 場の空気が何とも微妙になった所へ、『ちょっと休憩にしないー?』とキアラがやって来た。その後ろには威月と火伏静が続いており、キアラと威月は茶菓子の載った盆を手にしている。
「あ、キアラ!」
『で、アリソンは何やってんの』
 飾り付けを手伝っているのかと思いきや、アリソン・ブラックフォード(aa4347)は白い布のように見えるモノを幾つか持っていた。
「おばけの仮装! ハロウィンはおばけの楽園だよねー。どの衣装がいいかしら」
『どれも真っ白に見えるんだけど』
 身も蓋もない感想を述べるキアラに構わず、「ほら、なんかお堅い人がやるパーティーっぽいから、アニメのヒーローやるわけにもいかないよねー」と言いつつ、衣装を矯めつ眇めつしている。
 故郷のイギリスでは、仮装する人が少ないので、はしゃいでいるらしい。
『おばけの衣装も似たようなものでしょー』
 吐息混じりに言うキアラに構わず、アリソンは、「後は、手品の用意もしたの!」と大きな箱を示す。手品で人を驚かせるのも好きらしく、この依頼へ入ると聞いた時から張り切っていた。
 その頃、レミが『皆様、お茶が入りましたわ』と言いつつ大広間へ入って来る。杏奈も一緒だ。
 ワゴンに乗ったティーセットが、擦れ合ってカチャカチャと音を立てている。
 まだしっかりと場所の定まっていない丸テーブルの一つに、スイーツの載った盆が置かれ、レミがそこへワゴンを横付けした。
「スイーツの味見ついでなのですが、どちらかと言えば、レミのお茶を味わって欲しいですね。凄く美味しいの。彼女が淹れると、風味が豊かで味わい深い一品に早変わりする程なんです」
 杏奈が説明する横で、面映ゆそうにしながら、レミが人数分のティーカップを並べ、ポットから紅茶を注いでいく。
『元の世界で淹れ方を覚えただけです。特別な事は何もありませんわ』
 さあどうぞ、と紅茶の入ったティーカップを、一人一人に配っていく。カップを受け取った者は、思い思いに並んだスイーツを摘んだ。
『まあ、本当。美味しいですわ』
 レーナに絶賛されて、レミは『恐縮です』と微笑した。
 そんな中で、火伏静は『これは食わない方がいいぞ』と威月の持って来たスイーツの前で他のメンバーを牽制する。威月は仕方なく、自分の作った分だけを食べ、
(……ヘン、ですね?)
 と小首を傾げながらも、やはり平然としていた。

「Trick or treat! これ言わないと始まらないよねー、ハロウィンは!」
 翌日、おばけとハロウィンをこよなく愛するアリソンは、昨日の準備中から変わらないテンションのまま、会場へやって来た。
 その衣服は自前の、ドレスに仮面、やや大きめのシルクハットを被っている。帽子の中には、悪戯用に風船で作ったおばけを仕込んであった。イメージとしては仮面舞踏会だ。
 昨日の内に、若葉とピピの発案で壁や窓に飾り付けられた色画用紙の細工達も、ハロウィンらしい装いで客のみならずアリソンの気持ちをも煽り――基、盛り上げている。南瓜や蝙蝠、お化け、風船に目を付けたジャックオーランタンに毛糸で作った蜘蛛の巣と、三角形を繋ぎ合わせたガーランド――
「ああ、堪らないっ!」
『もー、アリソンちゃん!』
 いつものメイド服に身を包んだキアラは、暴走しがちなアリソンを追う。
『ハロウィンパーティーだからって悪戯は……』
 言い掛けるも、客の仮装にふと目を奪われ、『わぁ、あの人可愛い服!』と顔を輝かせた。アリソンが暴走しないように注意しようと思ってはいるが、自分も他の人の仮装を見て暴走しがちであった。

 その頃、若葉とピピも、魔法使い風の装いで、参加者に挨拶していた。
『じゃー、魔法で変身させちゃうよ♪』
「ハッピーハロウィン!」
 手にしたステッキを一振りすると、並ぶ客の衣装が一斉に中世ヨーロッパ風の貴族のモノに早変わりする。
 二人がステッキを振るタイミングに合わせて、馨と共鳴したレーナが能力を発動させたのだ。打ち合わせ通りである。
「楽しい時間をお過ごし下さい」
 歓声を上げた客達は、若葉の言葉に送られて、興奮した面持ちで中へと足を運んで行く。
 受付後はお任せで会場に合う衣装に変更する予定だ。ただ、それは客の希望にもよる。
 受付に来る客の人数に応じて、細かく希望を聞いたり、纏めて変身させたりを繰り返して暫く経った頃、漸く客足が落ち着き始めた。それを見計らって、若葉が口を開く。
「ピピ。そろそろ広間の方に行こうか」
『うんっ! 宝探しゲーム♪』
「宝探し、ですか?」
 一緒にいたレーナが首を傾げるのへ、「はい」と若葉が頷いた。
「昨日の内に、ハロウィン的なイラストを描いたカードを、会場に隠しておいたんですよ。小さい子向けにはいいかと思って。見つけやすいように、ピピの目線を目安にして、ね」
 ピピに視線を落とすと、ピピはやはり『うん!』と元気よく首肯する。
「そうですか。いいアイデアですわ」
 レーナの微笑を受けて、ピピは『えへへ……』と照れ笑いを浮かべ、肩を竦めた。
『みんな楽しんでくれるかなー♪』
「ええ、きっと。大丈夫ですわ」
 微笑んだレーナに頭を撫でられて、ピピはまた嬉しそうに顔を輝かせた。

 一方、内心浮かれながら当日を迎えた筈の威月は、スタッフルームの中で、無表情に見えつつも明らかに動揺していた。
 いざ着替えようと、持って来たバックを開けたら、中身は身体のラインが浮き出るミニスカ系の衣装になっていたのだ。見た所、胸元は明らかに大きくはだけている。
(えぇえええ~、何でっっ?? 確か昨日までローブ系の目立たない衣装だった筈が……)
 戸惑いつつ、火伏静に目をやると、彼女は明らかに面白がるような微笑を浮かべている。
(……ひ、火伏静さま、あぁあのあの、これ……)
 口には出せずに、衣装を翳してジタバタする威月に、火伏静は尚の事、笑み崩れた。
『んー? いい服じゃあ~ねーか。似合うぜ、きっと』
 じゃーな、と自分はシンプルなパンツスーツに身を包んだ火伏静は、威月を残してスタッフルームを後にした。
 姦計だ。絶っっ対に彼女の姦計だ。そうは判っても、どうしようもない。
 取り残された威月は、暫しそのセクシー系の衣装を睨んでいたが、意を決して、着替えを始めた。

「はーい、Trick or treat!」
 アリソンの帽子の中に隠されていたおばけ型の風船が、一斉にパーティー会場となっている大広間に放たれる。
 歓声が、主に子供達から上がる中、「じゃ、行こうか」とメイド服に身を包んだ杏奈がレミを振り返る。
「それじゃあ、“ジャンヌ”を少し展開して……っと、いけない。AGWは共鳴しないと使えないんだったね」
『あ、そう言えばそうですわ』
 同じことを考えていたらしいレミも苦笑する。そのレミの格好を見て、杏奈が「あれ、レミもその服に?」と小首を傾げると、『勿論ですわ!』とレミは胸を張った。
『キアラ様がご親切に勧めて下さったので、お言葉に甘えてお借りしたんですの。アンナとお揃いの方が気合いが入りますもの♪ アンナも、キアラ様に言われませんでした?』
「ええ。“杏奈ちゃん達もこの服着てみない?”って」
 ふふっ、と二人は笑い合って、改めて背筋を伸ばす。
「さ、今日は忙しくなるけど、頑張ろうね」
『当然ですわ。さあ、行きましょう!』

 同様に給仕に回ったひりょの格好は、執事のようなそれだ。
 普段、喫茶店でバイトをしているので、それを生かして立候補した。
 衣装は、特にこういう時用の特別な衣服は持っていない、と話したら、レーナと馨がその能力で誂えてくれたものだ。希望を訊かれたがお任せにしたら、こういうことになったのだった。
 フローラは、『仮面舞踏会風に!』なんてレーナ達に頼んでいたが、どこにいるやら――と、ひりょはティーセットの載った丸いトレイを手に周囲を見回す。放っておくと、食欲魔神的な胃袋の持ち主の彼女は、参加客を差し置いて料理を全て平らげてしまいそうだ。
 ふと、仮面を顔の上半分に固定した女性らしき人物が、並んだスイーツを大喜びで端から平らげているのが目に入る。
「お茶は如何ですか?」
 さり気なく声を掛けると、「有り難うっ、頂きますわ」と返って来た。普段らしからぬ言葉遣いだが、「おぉ?」とひりょは目を見開いた。
「顔は見えないけど、その声は……食欲魔神フローラだな!」
『何でバレたの!?』
 ミニパフェを掬った匙を口に入れたまま、食欲魔神――基、フローラがショックを受けたような声を上げる。
『って言うか、食欲魔神って! うぅ、ちょっと食べ過ぎちゃうだけだもん!』
「お前のちょっとはちょっとじゃないんだよ! 他の人の分もちゃんと残しとかないと駄目だよ」
『わ、分かってるもん!』
 プン、と唇を尖らせた彼女は、ひりょの視界から離れるように背を向けた。ひりょも、仕事をしている以上、彼女にばかりひっついてはいられないが、時折彼女の手元を監視するのは忘れない。
 暫くすると、『はい、注目ー』とピピが大広間にスキップで入って来るのに気付いた。
『この部屋にボクの宝物を隠したんだ、見つけられるかな~♪』
「発見した人には、お菓子をプレゼントするよ」
 若葉も一緒になって、小さい子供達に声を掛けているのが微笑ましい。
『カードにね、ハロウィンの絵を描いて隠してあるの! 探して探して~』
 簡単な説明を続けるピピに、ひりょも思わず微笑を浮かべた。
 宝を探そうと、子供達が一斉に大広間に散らばる。
 やがて、次々にカードを見つけた子供達は、若葉の元へ走って行き、お菓子を貰っていた。それを横目に、泣きそうな顔でカードを探す子には、ピピがあからさまに『あそこあそこ♪』と隠してある場所を示したりしている。
 それにまた吹き出しながら、ひりょも仕事へ戻って行った。

 着替えを終えた威月も、案内を行っていた。
 はだけた胸元と出過ぎた足が恥ずかしい事この上ないけれども、仕方がない。
 色んな客層が来るとは聞いていたが、確かに子供から大人、地方の客に外国人までいて様々だ。
 話すのはやはり苦手で、小さな声しか出なかったが、練習したスマイルを懸命に顔に浮かべて誠意を込めて案内をする。
 しかし、開き過ぎた胸元と足に注目が集まっている気がして仕方がない。そこを通りがかったキアラは、目をキラキラさせて、
「あれ、威月ちゃん! うわぁ、その服可愛いねぇ」
 と、うっとりしている。
(いや……あまりジロジロ見ないでくれると……火伏静さまぁあ……!)
 こんな時は鉄壁の無表情が寧ろ幸いだ。でなければ、赤面した上に半泣きになっている所であろう。
 火伏静は、警備がてら会場内を回りつつ案内をし、時折ロビー付近に仕掛けたカメラで威月の様子を見つつ、ケラケラと笑い転げていた。
(……ま、楽しいも恥ずぃも、めい一杯楽しみなぁ。ソレがおめーの力になる筈だぜ)
 彼女が内心で呟いた半ば親心に、勿論威月が気付く筈もなかった。

「さてさて、皆様ちゅうもーくっ! アリソンのマジックショーの始まりだよー!」
 宴もたけなわという頃合いで、アリソンはもう一つ準備してあった人間大の箱を引っ張り出し、客の注目を促す。
「さて、取りいだしたるは、種も仕掛けもない箱です。この箱に誰か二人、入って貰っちゃいたいんだけど、誰かいないかなー?」
 客を見回す振りをして、リンカー仲間に目配せする。『はいはーいっ』と積極的に手を挙げたのは、フローラだ。
『ホラ、ひりょもっ、早く来て来て!』
「えっ、えええっ?」
 給仕中の所を呼ばれ、半ば引きずられてアリソンの元まで歩くと、アリソンが「ではお二人共、中へどーぞっ」と箱の中へ放り込む。蓋が閉まる間際、「中に入ったら共鳴して下さいね、お二人さん」と囁かれるが、理解するより先に外の光が遮断される。
『こら、ひりょ変な所触らないで』
「いや、触ってないし! 冤罪や!」
 薄暗い中で揉み合いながら、どうにか共鳴する。ここ最近、見た目がフローラになるような共鳴の練習に付き合わされてきたが、今日はどうもそっちのバージョンらしい。
「はーい、中に二人が入りました! もう一度言うけど、種も仕掛けもありませんよー?」
 一つ壁を隔てた向こう側からアリソンの声がする。
「はい、ワン・ツー・スリー!」
 アリソンの掛け声に合わせて、共鳴したフローラは、蓋を持ち上げて両手を天に突き上げながら、箱の外へ出る。今日は、いつもと違ってフローラ主体の共鳴の為、見た目はフローラにしか見えない。
 わっと歓声が上がる。
『うわぁ、別の人になっちゃった!』
 一緒になって見ていたピピは、ひりょとフローラが共鳴しているとも気付かずに拍手を送っている。大喜びしている相棒に、若葉は敢えて訂正を入れずにおいてやった。
「はーい、箱の中よく見て下さいね! 誰もいませーん」
 アリソンが仕上げに客に箱の中身を見せているのを遠目に眺め、キアラは無言で呆れていた。
(え? なんか急に共鳴のバリエーション特訓とか言ってたけど、この為?!)
 ひりょが脳内で叫ぶのへ、
(そうだよ? 普段のままだとひりょの大人バージョンだもん。「誰よお前」ってなっちゃうよ)
 同じく脳内で答えるフローラに、「いや、その方が寧ろ手品っぽくなったのでは」と思ったけれど、伝える事はせずにおいた。とは言え、共鳴中なので伝わってしまったかも知れないが。
 フローラは特にそれに対して何か返す事もなく、アリソンと共に一礼する。客達の目線から外れた場所に移動し、共鳴を解くと、『さー、お食事再開っ♪』とドレスの裾を絡げてスキップで広間へ戻って行く。
「だから、食べ過ぎないようにね!」
 と背後からひりょが掛けた声に気付いたかどうか。
 ふう、と吐息を漏らし、ひりょも給仕に戻った。

『手品、すっごかったねぇー♪』
 心からそう言っているピピに、そうだねぇ、と曖昧に微笑して言葉を濁す若葉に、『お茶のお代わりは如何ですか?』とポットが視界に差し出される。
「有り難う。頂くよ」
 声を掛けてきたレミに、ソーサーごとティーカップを渡すと、受け取った彼女はポットを傾けた。やがてティーカップとポットの距離を大胆に開けて紅茶をカップへ注ぎ入れると、若葉に返す。
「何か、淹れ方がプロみたいだね」
『お褒めに与り恐縮です。でも、元いた世界でメイドの所作を見ていたというだけの事ですの。見様見真似ですわ』
「それにしては……味も完璧だけど」
『恐れ入ります』
 それにしても、とお茶請けに取ったフルーツタルトを囓って「これ、皆で作ったの?」とレミに視線を向ける。
「すごいね」
『甘くておいしー♪』
 ブラウニーを手にしたピピも、幸せそうな笑みを浮かべる。『有り難うございます』とレミは会釈するように一礼した。
『皆で、と言ってもわたくしは手伝っただけですわ。メインはアンナで、後はキアラ様が入って下さいましたの。ヒブセ様がどーしても駄目だと仰るもので、本番イヅキ様には外れて頂きましたけど……』
『当たり前だろー?』
 その時、当の火伏静が、ミニケーキを片手に会話に入って来る。
『威月の殺人的な味が出来上がる料理のどうしようもない腕は、あんただって承知の事だろうがよ』
『そ、そう仰られては身も蓋も……』
「だからこそ練習って考え方もあるよね」
 またしても、苦しいフォローを入れる若葉に、火伏静は、『それは俺が食べるんでない所でやって貰いたいぜ』と返して、新たなミニケーキを手に警護がてらの巡回に戻るべく、その場を後にする。
 ではわたくしも、とばかりに会釈を残して他の客に紅茶を振る舞いに行くレミを見送って、若葉はピピを見下ろした。
「そう言えば、ピピもお菓子配るんだって言ってなかった?」
『あっ、そうだ!』
 自身が食べるのに夢中で、すっかり忘れていたらしい。すると、「準備出来てましてよ」とレーナが後ろから、お菓子が山盛りに盛られたカボチャ型の籠を差し出した。
『わぁい、ありがとー!』
 満面の笑顔で受け取ったピピは、『トリックオアトリートッ!』と言いながら、参加客に元気よく菓子を配り始めた。
「……普通はお菓子貰うんですよね、あの台詞を言う側が」
 苦笑と共に漏らした若葉に、「まあ、宜しいじゃありませんか」とレーナが笑う。
「今日は、楽しむのが一番ですから」
「そうですね」
 クスリと笑って、若葉は一つ紅茶を口に含む。
「あのっ、スタッフの方……ですよね」
 その時、後ろから声を掛けられて、若葉は振り返りながら「はい」と返事をする。
 入場の際、出入り口で、レーナの能力との合わせ技の変身魔法もどきを見せていたので、そう思われたのだろう。
「すみません。写真、お願いしてもいいですか?」
 家族で来場したらしい家族の一人が、写真が撮れるようにした状態のスマホを差し出す。
「いいですよ」
 微笑してそれを受け取った若葉は、写真スポットに並んだ家族にスマホを向けて、「はい、チーズ」と言いつつシャッターボタンを押した。

 楽しいひとときが過ぎて、客も全て見送った後。
『とーっても、楽しかったね!』
 後片付けを手伝っているのか、単にはしゃいでいるのか分からないピピの声だけが響く大広間に、「し、しまった!」と突如、ひりょの悲鳴が横切った。
 どうしたんだ、という視線を向ける仲間達の中で、ひりょは頭を抱える。
「給仕役に専念しすぎて、食べるの忘れてたー!」
 尤も、彼の場合、こういう事は珍しくない。つい熱中すると、オンオフの切り替えが出来なくなってしまうのは、いつもの事だった。
『や~い、ひりょのどじっこ!』
 食欲魔神、などと揶揄された意趣返しなのか、そうフローラに切り替えされて、ひりょは一人がっくりと肩を落とす。
 皆が美味しいと言っていた、杏奈とレミお手製のスイーツを食べてみたかった気もした。が、周りが笑顔で一杯ならそれでいいか、とどうにか自分を宥めようとする。
 すると、「お疲れ様ー」と背後から声が掛かった。
 振り返ると、新しいお茶の入ったティーセットの載ったワゴンを押すレミと、スイーツが載ったトレイを持った杏奈とレーナが広間に入って来る所だった。
『お茶を淹れ直しましたの。スイーツも残り物で恐縮ですが、プチ打ち上げをやりませんか?』
『お、いいんじゃねぇの?』
『賛成!』
 火伏静とキアラが、口々に言う。スイーツのトレイが置かれたテーブルへ、他のメンバーが集まる中、今日初めてスイーツを口にするひりょも内心喜んでその後に続いた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ほつれた愛と絆の結び手
    黄昏ひりょaa0118
    人間|18才|男性|回避
  • 闇に光の道標を
    フローラ メルクリィaa0118hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 共に歩みだす
    皆月 若葉aa0778
    人間|20才|男性|命中
  • 大切がいっぱい
    ピピ・ストレッロaa0778hero002
    英雄|10才|?|バト
  • 暁に染まる墓標へ、誓う
    無明 威月aa3532
    人間|18才|女性|防御
  • 暗黒に挑む"暁"
    青槻 火伏静aa3532hero001
    英雄|22才|女性|バト
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 迷探偵アリソン
    アリソン・ブラックフォードaa4347
    機械|17才|女性|防御
  • 英国の治癒者
    キアラ・ホワイトaa4347hero002
    英雄|13才|女性|バト
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