本部

平和と希望のフンガイ

一 一

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
6人 / 4~6人
英雄
6人 / 0~6人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/10/26 19:11

掲示板

オープニング

●通勤時の不運
 都内某駅。
 今日も世界のどこかに貢献するべく働いている企業戦士たちが、いつものように朝の戦場・通勤ラッシュへの心構えを整えていた。人を軽く圧殺できる密度になる時もある鉄の箱への突貫は、エージェントがDZに進入するくらいの覚悟と気合いが必要だ。
 夏が終わり、少し肌寒くなってきた朝に集結する戦士たち。
 そこには、いつもと同じ風景の中に、いつもと違う光景があった。
「何だ、コレ?」
 たまたま居合わせた1人のサラリーマンが、わずかに呆気にとられる。
 治安の善し悪しを意識したことがない駅前にたむろする、鳩の群れ。
 おおよそカラスほどの大きさがあるデカい鳥たちが、同じスーツ姿の男性たちにまとわりついていた。
 あるいは足に近づいて突っつき、あるいは羽ばたきながら顔の周りを旋回し、あるいは図々しくも頭の上に乗ってくつろいでいる風な鳥さえいる。
 まだ寝ぼけているのだろうか? などと考えながら目をこするも、目の前に展開する現実は変わらない。
「へ? ……どわぁ!?」
 すると、それまで対岸の火事だった男性にも、数羽の鳩が眼前に躍りかかる。
 一歩引いた場所から眺めるのとは違い、至近距離で迫るカラス大の鳥はかなりの威圧感があり、小さくない恐怖を覚える。
「ちょっ!? この、っ! やめろ!!」
 男性は慌てて両手を振り払い、逃げるように大鳩の包囲から抜け出す。そのまま駅へと直行し、急いで改札を通るとタイミング良く到着した電車に飛び込んだ。
(あ~、朝からとんでもない目にあった……いてぇっ!?)
 ため息をついた男性は電車の動き出しで生じた慣性で体が傾き、隣接する誰かに足を踏まれる。
 踏んだり蹴ったりとはまさにこのことか。
 男性はがくっと肩を落とした。
(今日は朝から、ほんとう、ついて、ない……な……)
 規則的な揺れに身を任せて数分後。
 空いていた吊革に体を預けていた男性は、言いようのない疲労感とともにゆっくりと視界が狭まっていく。
 そのまま男性は無自覚な眠気にあらがえないまま、あっさりと意識を手放してしまった。

「……はっ!? え? ――すっげぇ乗り過ごしてんじゃねぇかぁ!!」
 数時間後。
 車内で熟睡していた男性の遅刻が確定した。

●迷惑な鳥を始末せよ
「先ほど、都内のある駅にたむろする大きな鳩たちを何とかしてほしい、と通報がありました」
 サラリーマンが電車に飛び乗った時間の、少し前。
 大鳩の群れに縄張り認定された駅の駅員からH.O.P.E.に通報があったと、碓氷 静香(az0081)はエージェントたちに告げた。
「通報者によると、カラスくらいの大きさがある複数の鳩がいつの間にか現れ、駅を利用しようと集まってきた人々にちょっかいをかけているようです。通報者や利用客が追い払おうとしても逃げる素振りがなく、通報者の同僚が原因不明の体調不良を訴えているとのことから、その鳩は従魔と判断していいでしょう」
 すでに被害者も出ているということで、エージェントから具体的な被害を問われた静香は再度口を開く。
「現在確認されている中で、負傷した方はいないそうです。ただ、鳩に直接的な接触を受けた被害者は、次第に強くなる眠気と倦怠感を口にした後に眠ってしまうようです。ライヴス減少に伴う軽度の意識障害だと思われますが、どの程度のレベルかはわかりません」
 直接的な接触は、くちばしで靴や足を突っつかれたり、頭や肩に乗っかられたり、頭に近い高さの羽ばたきでビンタされたりと、聞くだけなら本当に些細な行動ばかり。
 だがその後に人々へ不調をもたらしているのもまた事実であり、実害は些細とはいえないだろう。
「他に注意すべき点は、『糞』だそうです」
 フン?
「通報者の同僚の方なのですが、強引に追い払おうと清掃用のモップを持ち出したところ、鳩たちはその方の頭上へ飛び立ち、糞による空対地攻撃を行ったそうです」
 汚っ!?
「その方は慌てて逃げたらしいのですが、いくつか体に当たった瞬間に痛みを訴え、すぐに倒れてしまった、という話でした。鳩たちが有する攻撃手段の1つだと考えるのが妥当でしょう」
 冷静かつ淡々と話す静香だったが、これから向かうエージェントたちは顔つきが微妙に苦くなっている。
「それと、鳩たちは小隊のように複数で行動しているそうなので、包囲されない立ち回りが必要になるでしょう。油断すれば、糞の時雨で秋を感じてしまうことになりかねません」
 それは絶対にイヤだ!
「概要は以上になります。1日の始まりからはた迷惑な話ですが、従魔を無視することなどできません。働く人々の平穏な朝を取り戻すため、彼らには速やかに退場してもらいましょう」
 説明を終えた静香は、現場へ向かうために背を向けたエージェントたちへ頭を下げた。
 ……糞のくだりから、やや苦い表情を見せたエージェントたちには、気づかないまま。

解説

●目標
 鳩従魔の討伐

●登場
 鳩従魔×20…ミーレス級。見た目はカラスほどの大きさがある鳩。群れでの行動を優先させ、個々の強さは大したことがない。敵意がある人が近づくと空に逃げるが、エージェントの身体能力(ジャンプなど)+近接武器が届く範囲にはいる。

 能力…回避↑↑、その他↓

 スキル
・糞撃…射程1、単体魔法、命中+100、頭上からライヴスを込めた糞を投下、命中→BS翻弄
・糞雨…射程3、範囲1、範囲魔法、命中+50~250、隣接sqにいる鳩従魔と連携した糞撃の雨(最大5体まで)、命中→BS狼狽

●状況
 都内の駅前、午前6時頃。通常の鳩に混じって人間に近づき、直接接触で徐々にライヴスを奪っている。被害者は倦怠感や眠気などの体調不良を訴えているが、重篤な症状がある者はいない。現場に混乱はないものの、目に見えた危険が小さいためか避難を促す声への反応はやや鈍い。

 現場到着時、従魔は避難を促す駅員や近くを通った通行人にちょっかいをかけている。従魔は5体1組で常に一定の距離を保ちながら行動し、1人を対象に襲撃。一般人でも追い払うなどすれば対象はそちらに変更され、ほぼ誰かに群がっている状態、

●備考
 すでに駅前は従魔の糞がまき散らされている。異臭やトラップ等、戦闘における不都合は生じない。

リプレイ

●鳩への鬱憤と憤悶
「今朝、早くからさ……」
「洗車してたわね」
 エージェント業の他に自動車整備工場にも勤める荒木 拓海(aa1049)の語りだしに、メリッサ インガルズ(aa1049hero001)は淡々と相づちを打つ。
「ワックスも……」
「綺麗だったわよ」
 忙しい日々を過ごす中、時間に都合をつけて早朝から洗車をしていた拓海。
 そして、自画自賛する仕上がりの直後、悲劇は落ちてきた。
 従魔出現を知る、数分前のことである。
「それを……鳥め」
「判ってるわね? 倒すのは従魔のみよ?」
「――はい」
 私怨に瞳を濁らせた拓海はすぐに腕を掴まれ、メリッサから笑顔の圧力を食らう。
 従魔以外の鳩は、こうして救われた……かも。
「鳩の、糞……っ」
 同じく、概要を聞いて闘志を燃やした麻生 遊夜(aa0452)。拓海ほどタイムリーではないが、彼もまた鳥の糞害に憤る者の1人である。
 走行中だとライト・ハンドル・肩・腹・ヘルメットに直撃を受け、駐輪中も含めると被弾は数知れず。知らず拳を握って歯ぎしりする程度には積もった恨みがあった。
「…………ん」
 ユフォアリーヤ(aa0452hero001)はそんな遊夜に抱きつきつつ、相方の頭を撫でてなだめている。どちらも女性陣は冷静だ。
「鳩の群れに混ざった従魔に、通勤途中の人に……うーん、どう対処するのがいいんだろう?」
「……いくつか、対応策、ある。それで、何とかする」
 現場の状況を思い浮かべて頭をひねるS(aa4364hero002)だったが、依雅 志錬(aa4364)にはある程度の予測がたったらしい。
 そうして他のメンバーの元へ歩み寄り、戦闘の方針について話し合った。
「平和の象徴たる鳩が人を襲うのは見過ごせん。が、従魔鳩による被害と糞害……どちらも厄介だな」
「ふーん? その心は?」
 一方で、真剣な表情の東江 刀護(aa3503)に大和 那智(aa3503hero002)が真意を問う。
「病原菌の懸念だ。鳩の糞が乾燥すると風で広範囲に舞い上がり、呼吸から体内に入って増殖すれば、ぜんそくなどの症状が出る。最悪、原因不明の高熱を発症したり、肺や脳に障害が残ったりする。特に従魔鳩の糞なら、ライヴスによる危険性もあって尚更厄介なことになるかもしれない」
「あー、そりゃ確かにヤバいな」
 刀護の心配は、糞を媒介にした感染症の拡大にある。
 もし従魔のライヴスで感染力が強化され、大量の人間が密集する電車内に持ち込まれたら、と想像した那智も脅威を正しく理解した。
「鳩を平和の象徴なんて言ったのは誰か知らんけど、病原体の運び屋だという認識はまだまだ低いようだねぇ」
 刀護たちの会話を聞きつつ、医師でもある飛龍 アリサ(aa4226)は嘆息する。感染症への言及が刀護以外から挙がらなかったのが気になったらしい。
「公共の場所を汚す悪い鳩さんはボクが焼き鳥にしてやるのですよぉ~♪ それともアリサちゃんのモルモットになるのがいいですかねぇ~? どっち道、決定権はボクらにあるのですぅ~♪」
 それは隣の自称助手・黄泉(aa4226hero001)も同じらしく、従魔の処理方法しか頭になさそうで。アリサは人知れず、肩をすくめた。
 それからエージェントたちはいくつか静香に要望を伝え、意見共有を行いつつ現場へ向かう。すると通報通り、駅に集まる人々とやたら多い鳩の群れが目に入った。
「……なんとも、困る従魔ですね。被害が軽微なうちに対処してしまいましょう」
『ロロ――』
 人的被害はもちろん、糞的弊害を察して苦笑を深める構築の魔女(aa0281hero001)は、共鳴した辺是 落児(aa0281)の声を合図に動き出す。そんな彼女の手には、AGWではなく小さなゴムボールが握られていた。

●駅前の奮戦
 エージェントたちはまず、一般人や普通の鳩から従魔を引き離すために動き出す。
「H.O.P.E.です! 出現した従魔に対処するため、今から戦闘状態に移ります!」
 構築の魔女は人の間を縫うように駆け抜けながら避難を促す声を上げ、ライヴスゴーグルで周囲を確認する。
「従魔は鳩に混じっており、特に頭上からの糞に注意を! 昏睡被害も確認されているため、この場は十分危険な状況です!」
 その際、彼女は従魔の攻撃手段と具体的な被害も簡潔に告げ、自主的に避難するよう促した。
「鳩から離れろ! そいつら飛んだら糞を降らせて来るぞ! 今からどこに行くか知らないが、糞まみれで注目浴びたくなけりゃ離れるんだ! 服に付いたらなかなか取れねぇからな!!」
 遊夜もまたすでに共鳴し、鳩へと接近しながら拡声器片手に人々へ呼びかける。訴えがやたら糞に集中し、熱が入っているのは気のせいか。
『うげっ!』
 すると、『糞』というワードが効いたのか、先ほどより駅へと向かう人々の足が速まる。ただ、眠気から覚醒しきってないのか反応が鈍い者もまだまだいる。
 と、その時。
 ジリリリリリ!!!!
『えっ!? なんだ!?』
 駅構内の火災報知機が作動し、駅構内や周辺にいた全員の背が伸びた。
「従魔が出たと言っただろう? あまり悠長に構えていると、きみらも巻き添えになるよ……嫌なら走れ!」
『は、はいっ!!』
 そして、構内から出てきたアリサがキツい口調で外にいた通勤客へ一喝し、仲間の避難誘導を後押しする。
「そこのきみ。アナウンスで駅前の状況が緊急事態なのだと説明してくるといい。ついでに、消防や救急への連絡も頼んだよ。後はあたしたちが従魔を片づけるだけで済むからねぇ」
「わ、わかりました」
 続々と駅へ人が集まる中、アリサは避難誘導をしていた駅員の1人に火災報知器を鳴らした説明に加え、負傷者の救護の手配もするよう指示をした。自他ともに認めるドSとあってか、人使いがそこそこ荒い。

「私も注意喚起を行います」
『それはいいけど、何やる気?』
 駅から少し距離がある場所では、静香が共鳴したレティ(az0081hero001)とともに警察と連携し、通勤客の足止めを行っていた。
 経緯は単純。
『任務って事で、大道芸風やパルクールとか、ともかく目立って欲しい。その美貌と能力なら自然と人が引き寄せられるよ』
『健康な肉体の必要性を市民に広める為の行動でも良いんじゃない?』
 と、拓海とメリッサからなるべく市民を現場から遠ざけるよう頼まれたのである。
 ひとまず静香は駅へと続く各通りに警察を配置。自身も数人の警官とともに一本の道に陣取っていた。
「荒木さんとインガルズさんの意見を参考にした結果――」
 そう言って静香が幻想蝶から取り出したのは、私物のダンベル×4。
「これがベストです」
 それらを指で挟むと、頭上へ思いっきり投げた。
『うぇっ!? し、静香!?』
「皆さん! この先の駅は現在――」
 度肝を抜かれたレティに答えず、静香はそのまま人々へ声を張りあg――ズドドドッ!!
「――頭上に注意です!」
 ……静香の足下に4本の鉄塊が突き刺さり、いろいろすっ飛ばした注意を発した。
 すると、異様な迫力に圧されたのか、人々の足は一応止まる。
「……レティ」
『な、なに?』
「案外、難しいのですね……ジャグリング」
『ジャグリングだったの、アレ!?』
 警官も引き気味な静寂の後、静香の神妙な台詞にレティは叫んだ。
 ダンベル落下まで静香の手がわちゃわちゃしていたのは知っていたレティだが、まさか『大道芸』狙いとは思わなかったらしい。
 その後改めて人々に経緯を説明した静香たちは、駅への通行規制に成功した。

「これで普通の鳩と従魔鳩を区別できないか?」
 一方、現場に来てから少し駅の構内にいた那智が持ってきたのは、売店で買ったというポップコーンの袋。
「餌を撒いて、寄ってくれば従来の鳩ということだな」
「そゆコト。――お、結構イケる」
「って、お前が食うな!」
 すぐに意図を察した刀護が口をモグモグさせる那智に突っ込みつつ、鳩と従魔の判別を試すことに。
「本来は禁止行為だが……」
「ポップコーン欲しけりゃ、そらやるぞ~♪」
 刀護は若干の後ろめたさを覚えながら、那智は鼻歌交じりの餌やり感覚で、堂々と居座る鳩へポップコーンを放る。
「鳩が来るのは良いが、糞をしないでくれよ……」
 その際、刀護はバサバサと勢いよく集まる鳩たちを警戒する。やはり、糞をかぶるのは嫌らしい。
「焼っき鳥、蒸っし鶏、サムゲタン~♪」
 彼らの近くでは、黄泉も同様にポップコーンを撒いて鳩と従魔の分断を行っている。が、こちらは彼女の歌のせいか怖い笑みのせいか、刀護たちより鳩の集まりがすこぶる悪い。
 それでもある程度鳩たちが集まると、餌への反応が悪い鳩が見え始めた。
『麻生さん』
『ああ、見えてる』
 通信機で確認した構築の魔女と遊夜は、静かに頷く。ライヴスゴーグルとモスケール、それぞれに浮かび上がったライヴス反応へ向けて駆けだした。
「『ウオオォォッ!! ……今朝、爆弾投下したの誰だー(ボソッ)』」
 呼応して動いたのは拓海。メリッサと共鳴して『臥謳』の咆哮を上げ、普通の鳩ならば恐怖心を煽られて逃げ出すと期待し、鳩の反応を見る。
 余韻の小声で私事が混ざったのはご愛敬だろう。
「わたしも……撃つ」
『拓海さんの『臥謳』と比べたら、効果はいまいちかもしれないけどね!』
 すかさず、志錬と共鳴したSも動く。
 それまでは日本の都市部を意識し、『よくわからないがとりあえず危険』だと認識させるため、あえてロシア語で避難指示を出していた志錬。そこからさらに、人と鳩に明確な危険を感知させようと、スカーレットレインを上空へ向けて発砲した。
 ――バサバサッ!
 放たれた2種の威嚇は鳩を一斉に飛び立たせ、正反対の行動をとらせた。
 1つは逃亡。
 もう1つは、襲撃。
 それが従魔の境界線だと、エージェントたちは瞬時に判断を下した。
「来たな!」
「ここから、離れる」
 最初に捕捉されたのは拓海と志錬。とはいえ、ここはまだ駅前。本格的な戦闘は避け、2人ともスカーレットレインを広げて攻撃を躱しながら移動を開始する。
「5体1組で来たか!」
「さぁて、せいぜい踊ってもらおうかねぇ」
 その間に刀護とアリサはそれぞれ共鳴し、味方に群がる上空の従魔へAGWの銃口を向けた。
 すると、エージェントの敵意に反応したように、従魔から一斉に『糞雨』がまき散らされた。
「こいつらは俺達が引きつける、すぐに移動するんだ!」
 連続する銃声の中、遊夜はまだ外にいた一般人をスカーレットレインでかばい、そのまま駅まで護衛していく。
「東江さん! オレも避難誘導に行きたい、こいつら頼めるか!?」
「任せろ!」
 また、1人では厳しいと見た拓海も一般人の護衛に向かう。入れ替わるように刀護が拓海に集まっていた従魔へリアールで射撃。注意を引きつけ、囮役を引き継いだ。
「こちらです!」
 その傍ら、構築の魔女はあらかじめ用意したゴムボールを従魔の群れへ投擲。意識を自身に向けて飛行姿勢も崩す。
「――ふっ!」
 もう片方の手からは、静香に依頼して得たカラーボールを放る。敵を判別する彩色を狙ったそれは見事命中し、破裂した飛沫(しぶき)が取り巻きの従魔も汚した。
 従魔に牽制しつつ駅と反対方向へ走る。そちらには小さい広場があることは確認済みであり、避難誘導により人通りもほぼない。
 エージェントたちの反撃は、そこまで誘い出してからだった。

『うわわっ!? 汚いっ!』
「……後で、洗う!」
 開いた傘に糞が付着する音を聞き、Sは思わず叫ぶが志錬は意に介さず銃弾を返した。防御を展開しつつ、走りながらの射撃ではあったが、周囲から一般人がいなくなった今、遠慮をする必要はない。
『エミヤ姉! あんまり集めても危ないよ!』
「わかって、る!」
 背後上空で盛大に羽ばたく鳩たちを振り返りつつ、Sの注意が志錬へ向く。
 どうやら、従魔からの注目は群れ単位で集めてしまうようで、別の群れの鳩に攻撃をしてしまうと、2組10体の従魔を相手にする事になってしまう。そのことにSも志錬も気づき、途中から攻撃対象を選別するようになる。
「汚っ! やったな、おい!」
 志錬たちとは離れ、違う5体を引きつける刀護も『糞撃』に被弾し、顔をしかめつつリアールで反撃。大きなダメージはないが、何度も受ければ危険だろう。
「マーカーは、これで……最後です!」
 だが、その間に構築の魔女が移動と回避を繰り返しながら、従魔の連携の中心にいる鳩を見抜き、すべてにカラーボールを当てていた。常に駆け抜け、時に進路変更や急停止など緩急をつけた動きだった彼女もまた、糞は大きめに避けている。
 4人がやたら糞に見舞われているのは他でもない。従魔がエージェントに標的を移してから、ほぼ上空に居座っているからだ。降りてくるのは直接攻撃の時のみで、糞攻撃に必要なライヴスを作っているらしい。
 だが、ここまでくれば戦闘環境はほぼ整った。
「集まって来たな鳩ポッポ従魔。まとめて片付けてやんよ!」
 従魔との追いかけっこの末、刀護は存分に戦える広場まで到達。
「範囲攻撃、行くぞ! SMGリアールの弾、たらふく喰らいやがれ!」
 直後、短い警告を残して飛び上がると、刀護の頭上に『ウェポンズレイン』による無数の銃口が出現。今までの鬱憤を晴らすように、銃弾の雨を従魔に浴びせていく。
「そら、お返しだ!」
 たまらず従魔が高度を下げたところにはアリサが。ウルフバートに持ち替え踏み込み、『ライヴスリッパー』で1体を吹き飛ばし追撃をかける。
『ここまでくればっ』
「倒す、だけ……っ!」
 交通機関や一般人への配慮が消えた志錬も、攻勢に移る。AGWをニーエ・シュトゥルナの制御に切り替え、Sの声を引き金に範囲を広げた光線を打ち上げた。
「こちらは交戦中です。手が空き次第、応援をお願いします」
 そして、遊夜と拓海へ通信を行いつつ、構築の魔女は『トリオ』で従魔小隊を迎撃。間髪入れず『妨害射撃』の攪乱で連携を乱す。
「お待たせ! 一般人の避難は終わった、よっと!」
 地上から銃弾、空中から糞の撃ち合いがしばらく続き、数羽の従魔が消滅したころに拓海が参戦。装備を黒潮へ持ち替え、マーカーがついた従魔を群れから引き離すようにけしかけた。
『……貴方達に、直接関係はないけれど』
「溜まりに溜まったこの恨み、晴らさでおくべきか!」
 さらに、淡々としたユフォアリーヤと少々目つきが怖い遊夜も合流。彼の手にはアラター・カラバンが握られ、強力なライヴスが収束される。
「なるほど、色付きとはわかりやすい。遠慮はいらねぇな!」
『……ん、吹っ飛べ!』
 カラーボールの色も目印に、遊夜は積年の憤りを宿した『アハト・アハト』の引き金を、ユフォアリーヤの声とともに引いた。
 瞬間、ちょうど互いの近くをすれ違った2組の敵小隊の中心に着弾。込めに込めたライヴスが爆発し、一気に痛撃を与える。だが全滅には至らず、2小隊分の敵はそのまま遊夜に狙いを定めた。
「その程度の動きでは、ただの的です」
「ユーヤセンセ……援護、する!」
「ありがたい!」
 そのまま衝突するより早く、構築の魔女の双銃が従魔の1体を蜂の巣に仕立て上げ、怯んだ群れに志錬が玻璃による光線の弾幕をばらまいて、リロードを終えた遊夜が『トリオ』の連射で従魔の勢いを完全に削いだ。
 これにより従魔の数は半分以下にまで減ったが、戦意は衰えていない。残る鳩たちは『糞雨』で果敢に反撃、最後まで抵抗する。
「盛大な歓迎、ありがとうよ――」
『……お返しに、こっちも全力』
 が、憎き雨の中でも、遊夜は口角を上げて走り抜ける。
 服は汚れてもよいジャージ、予備にぼろぼろのローブ、他にも洗剤入りぬるま湯をINした水筒・ティッシュ・タオルと対策は万全。重なり聞こえる相棒の笑みで憂いがなくなった遊夜は、三度ライヴスをAGWへ凝縮させる。
「――遠慮なく喰らってくれや!」
 刹那、解放された『バレットストーム』が残った従魔すべてを捉えた。
「……意外と、しぶとい……けど」
 それでも動く従魔を見据え、志錬は数体を巻き込める位置まで移動し、玻璃の光線掃射で一気に飲み込んだ。
「おっと、逃がさないよ」
 すかさずアリサも孤立した従魔に『ライヴスショット』を浴びせつつ、ふらつき降りてきた敵に肉薄――『ライヴスブロー』で確実にとどめを刺す。
「低空だと、狙いが難しいですね」
 また姿勢を低く疾走する構築の魔女も、真上にきた従魔を駆け抜けざまに狙撃し、万一の流れ弾の可能性ごと殺していく。
「こいつで、終わりだ!」
 そのまま連携を許さず攻撃を続け、最後の1体は拓海の釣り糸が絡め取ることで消滅した。
「……あれ?」
『せ、先生!? どうしたんですか!?』
 が、そこで志錬とSが片膝をつく遊夜に気づいて近づく。
「い、いや、何でもない……」
『……ん、はりきりすぎ?』
 すると遊夜は冷や汗をかきつつ取り繕う。ライヴスの過剰消費による消耗をユフォアリーヤが予想するも、遊夜は弟子たちに詳細を告げず誤魔化した。
 ……さすがに、鳥の糞への怒りで無理をしすぎたとは、いえなかったようだ。

●後始末の糞戦
 その後、エージェントたちは静香や警察、駅員たちに従魔を倒し終えたことを報告する。
「ついでですし、普通の鳩の糞害も解消できるか、試してみましょうか?」
 その流れで、拓海が『臥謳』を用いた一般鳩の対処にも言及した。鳩は自分の糞がある場所を安全地帯と認識し、頻繁に訪れるようになってしまう。逆に、危険な場所として認識させれば寄りつかない、という理屈だ。
 事実、しばらくすると普通の鳩が集まりだしたので、対策は必要だろう。
『一応聞くけど、今朝の腹いせではないのよね?』
「……もちろんだ」
 駅員からも是非! とお願いされたため『臥謳』で鳩を追い散らした後。
 メリッサから突き刺さった念押しに、拓海は目をそらして頷いた。怪しい。
『うわ~、結構ひどいね』
「……がんばれば、落ちる……かも?」
 一息ついたところで周囲を見回したSと志錬は、至る所に糞がこびりつく惨事を見渡す。ついでに、幻想蝶へ収納していたスカーレットレインを取り出すと、こちらにも糞はべったりこびりついていた。
「不潔極まりないな。気分が悪いし掃除するぞ」
「超めんどい!」
「我慢しろ。駅の美化のためだ」
 同じ光景を前に刀護が早速動き出す。共鳴を解除した那智も即行渋面を浮かべるが、有無をいわさず刀護から強制参加を言い渡された。
 それから自然と、全員で駅前の掃除を行うことになった。道具は主に駅員から借り受け、後かたづけをしていく……のだが。
「何だ、これ?」
「……ん、落ちない」
 最初に気づいたのは、掃除の前に洗剤をつけた大量のティッシュでジャージの糞を取ろうと、強めに拭っていた遊夜。いくら擦っても汚れが薄まる気配がなく、ユフォアリーヤも首をひねる。
「ほう? どうやらこの糞、まだライヴスが残っているみたいだねぇ?」
 困惑の声が続々聞こえる中で、アリサは従魔の糞を観察しつつ、興味深そうな笑みを浮かべた。
 どうやら、鳩従魔が攻撃に込めた残留ライヴスの影響で、糞が亜世界化してしまっているらしい。
 すなわち、より強力かつしつこい糞汚れにレベルアップしていたのだ!
 それに気づいてからはエージェントたちは再び共鳴。静香も含め、ライヴスによる干渉を行いながらの除去作業を行うこととなった。
 仕方のないことではあるが、人手が半減したため作業速度はそう速くない。エージェントの応援を呼ぼうにも、運悪く他の依頼で手一杯らしく7人以上の人手はない。
 結局、ものすごくしつこい汚れとの格闘に手間取ったエージェントたちが撤収できたのは、昼前になってからだった。
 一部のエージェントに怒りが募ったのは、言うまでもない。
「拓海も教わったら? エージェント業に役立つかもしれないわよ?」
「……ハードそうだな」
「何時も私と似た事をしてるじゃない」
 帰り道、静香の足止めについて聞いたメリッサがからかいの笑みで拓海に水を向ける。
「オレはリサにだから習いたいんだよ? 辛くてもリサを守る立場になりたい、と我慢できるし、手応えを感じれたら嬉しいから」
 が、そこで拓海の真剣な表情の返答を受け、メリッサは大きくたじろいだ。
「……無自覚でしょうけど、恥ずかしい台詞を言ってないで習って来なさい!」
 思わぬカウンターに照れくさくなり、メリッサは拓海の背を押して誤魔化した。
「まず最初に、ダンベルを指で挟みます」
『失敗したのを教えない!』
 そして、メリッサから拓海をパスされた静香は、至極まじめな表情で失敗の解説をしようとする。こちらも、レティのつっこみでうやむやになった。

「病原菌指定の微生物の数も、普通の糞と変わらないのですぅ」
「……つまらないねぇ」
 後日。
 自宅兼研究室で黄泉の報告を聞き、採取した鳩の糞を分析していたアリサは、ため息をこぼす。
「かつて日本では『軍神』と崇められたし、主に情報収集で軍事利用されるほど、鳩には平和の象徴よりお似合いの使い道がある。今回は爆撃機よろしく人の密集地を狙ったバイオテロが目的の、生物学や医学の造詣に深い愚神が背後にいるかと思ったんだけど、アテが外れたかねぇ?」
 糞を溶かした試験管を回しつつ、さらっと怖いことを呟くアリサ。
「まあ、面白いデータが取れただけ、よしとしようじゃないか」
 そうぼやくと、アリサは試験管を置いて肩をすくめた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 苦悩と覚悟に寄り添い前へ
    荒木 拓海aa1049
    人間|28才|男性|防御
  • 未来を導き得る者
    メリッサ インガルズaa1049hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • その背に【暁】を刻みて
    東江 刀護aa3503
    機械|29才|男性|攻撃
  • 最強新成人・特攻服仕様
    大和 那智aa3503hero002
    英雄|21才|男性|カオ
  • 愚者への反逆
    飛龍 アリサaa4226
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