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炎の悪夢で再会しましょう
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最終発言2017/10/15 01:16:49 -
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最終発言2017/10/12 20:51:43
オープニング
●現場
「むかし、むかし、あるところに怪物を退治しようとした正義のミカタがいました」
少女の声が、室内に響き渡る。
リンカーたちは、その声に剣や盾といった各々の武器をかまえた。
「でも、正義のミカタたちは火事を止められませんでした」
ごう、と絵本から登場したウサギが炎を吐き出した。
「全員、一度退避しろ!」
「だめだ、逃げられる!!」
隊長各の男が叫ぶが、一人従わない戦士がいた。彼は大太刀を担ぎ上げ、炎も恐れずに少女へと向かっていく。
「残念、時間切れ」
少女の体で、愚神は笑う。
戦士の刃が、少女に当たる寸前で脇にそれた。
「じゃあ、またね」
少女の体は力をなくし、次に瞬間には
「あれ? ママはどこ?」
とつぶやいた。
「また……取り逃がした。大丈夫だ、アサクラ次がある。おい、アサクラ?」
仲間が戦士に声をかけようとしたとき、すでにアサクラの姿はどこにもなかった。
「おい、アサクラを見なかったか?」
「先輩、アサクラなんて人はいませんでしたよ」
●会議室にて
「絵本になった愚神が、少女たちに取り付いているようです」
H.O.P.Eの職員は、集まったリンカーたちに今回の愚神について説明する。絵本の愚神はすでに3回姿を現しており、幼女に自分を読ませることによって「絵本にでてくる怪物」を現実に呼び出す能力を有しているようであった。
「絵本に関しては、おそらく出版されたものではないという見解です」
リンカーたちは、そろって首をかしげた。
出版された絵本ではないとすると、一体絵本の内容には何がかかれているのだろうか。
「おそらく、絵本の内容は三年前の愚神との戦いの内容だと思われます」
住宅地に愚神が出現し、H.O.P.Eはそれにリンカーを向かわせて対応した。いつも通りの事件であった。愚神が生み出した炎は民家に燃え移り、大規模な火災が発生した。それによって、民間人とリンカー双方に被害が出たのだ。
「英雄と共鳴中だったのに、火事で死亡したんですか?」
「人手がいるからと英雄との共鳴を解いたリンカーが死亡したんです」
会議室には、しばし沈黙が流れた。
「さらに厄介なことに、愚神を追って一人のリンカーが行方をくらませています。彼が持ち出した道具が問題で・・・・・・無貌の仮面というのですが、端的に説明をするならば被れば自分の気配を薄くできる道具です」
奇襲用に作られた道具だが、この道具には副作用があった。それが使用者の存在感をどんどんと薄くしてしまい、最終的には「いたことさえ他人が思い出せなくなる」という呪いじみた副作用である。すでにアサクラは何度もそれを使って、愚神に挑んでいる。副作用がでるのは、時間の問題であった。
「大変です! 三丁目の公園で絵本の愚神と思われる少女が出現しました」
●あの日のこと
アサクラは、あの日のことを思い出す。自分たちが戦っていた愚神の攻撃は、自分たちではなく民家を焼いた。民間人を避難させるためには、人手が多いほうがいい。そう判断したアサクラの友人ヒグチは、英雄との共鳴を解いた。
「大丈夫だ。避難はこっちに任せて、お前たちは戦いに専念しろ!」
それがヒグチとの最後の会話になった。
二人で戦えばよかった。
戦っていれば、ヒグチは死なずにすんだ。
「あの愚神は絵本のなかで、あの戦いを再現しようとしている。もう一度、あいつを殺そうとしている……」
次こそは仕留める。
たとえ、自分の存在が消えようとも。
敵が、幼い少女であろうとも。
解説
・少女の保護、愚神の討伐
三丁目の公園(昼)……遊具などがない小さな公園。人通りは少ないが住宅地の真ん中にある。障害物などはない。
絵本の愚神……三年前の事件を少女に朗読させ、下記の従魔を出現させる。なお、少女は愚神に操られており、愚神を倒すと救出可能。
・炎のうさぎ――体が燃えており、すばやい。炎を吐いて、攻撃する。一匹では弱いが、何十もの群れとなって攻撃してくる。
・炎の雨――空に雨雲を出現させ、そこから火の粉を降らせる。自身の近くでは発動させない。
・炎の壁――敵が接近時に使用。自分の周りにドーム状の炎の壁を出現させて、敵の攻撃を防ぐ。
炎の亡霊……剣と銃を持った人間型の従魔。過去の事件の被害者の姿を模倣しており、中盤に五体出現する。なお、戦力については死んだリンカーを模倣している。なお、体や弾丸を含む武器は全て炎で再現されている。
アサクラ……戦闘の中盤で参戦。愚神ごと少女を切ろうとする。しかし、炎の亡霊は切れない。愚神の討伐を邪魔すると敵と認識し、襲い掛かってくる。
・無貌の仮面――常時発動。自分の気配を限りなく薄くする道具であり、気配にはライブスも含まれる。攻撃にうつる一瞬は、気配が常時のものに戻る。
・悪夢の氷――切った相手を一時的に凍結させ、動きを封じる。ただし、熱に弱い。
・悪夢の槍――剣を地面につきたてて、地面から氷の槍を出現させる。武器が破壊された場合は、この槍を代わりの武器とする。熱に強い。
・悪夢は現実――自分に催眠をかけて、自分に近づく一切の敵を排除するために体力を大幅に削って攻撃力を向上させる。体力が尽きるまで、敵と味方の区別が曖昧になる。
ヒグチ……過去に死亡したリンカー。炎の亡霊の一人となっている。
PL情報
アサクラは中盤に突然姿を現し、愚神に奇襲しかける。
リプレイ
人気のない公園に、少女が降り立つ。
「――さぁ、今日も物語を始めましょうか」
その少女を遠くから見ている仮面の男がいた。
「――さぁ、今日こそ冒涜の物語を終わらそう」
だが、男が行動を起こす前に前にリンカーたちが現れた。
●絵本の愚神
「3年前の愚神は討たれたとは言ってなかったな」
公園で初めて愚神を見た月影 飛翔(aa0224)は、そう呟いた。情報どおり公園には、絵本を持った少女の姿があった。話を聞いてからずっと飛翔は、なぜ三年前の愚神が少女のライブスを吸い尽くさずに渡り歩いているのかが分からなかった。もっとも、それは今回の愚神と今の愚神が同一人物だという前提のもとの話であり、今回の愚神と3年前の愚神が違う存在である可能性も十分にあった。
『なら、今回の愚神と前の愚神は同一だと?』
ルビナス フローリア(aa0224hero001)は首を傾げる。
飛翔は小さく「どちらにしても目的はわからないが」と答えた。
「依り代を得て活動するタイプの愚神みたいね……厄介だわ。しかもこれだけで済まない感じだし、なかなか骨が折れそうよ」
水瀬 雨月(aa0801)は、愚神をそう評価した。情報から推測するに愚神はさほど強力な業は持っていないし、寄り代の絵本の朗読といった弱点も存在する。だが、立ち回りは厄介そうだ。寄り代はそのまま人質にもなりうるし、戦闘中に不利になれば逃走という方法も企てるかもしれない。
「どう思う?」
雨月は、アムブロシア(aa0801hero001)にたずねてみた。
だが、アムブロシアは『おまえの考えるとおりだろう』としか答えなかった。
どうやら、今回の事件に興味がないらしい。その返答に、雨月は肩をすくめる。何にも興味を抱かないパートナーに雨月はもう慣れっこになっていた。
「今日もお話を聞きに来たのね」
愚神は、少女の顔で本を開いた。
くる――と全員が臨戦態勢に入る。
「最優先で愚神を始末するぞ」
オルクス・ツヴィンガー(aa4593)は、キルライン・ギヨーヌ(aa4593hero001)と共鳴し、鎧をまとった姿となる。瞳は赤く染まり、よくよく見れば赤い十字が浮かんでいた。
『いたいけな少女を巻き込むなど、卑劣極まりない』
「本当に許せないよな」
オルクスはシャープニングポジションを使用し、ストライクで愚神を攻撃する。寄り代となってしまっている少女に負担はかけるべきではないと判断し、最短での愚神討伐を彼らは考えていたのだ。
「そんなの絵本の続きが気になるの? いいわ。むかし、むかし、あるところに怪獣が現れました。その怪獣は、空から炎を降らせることができました」
空に雨雲が出現する。
それだけなら無視できる問題であったが、その雨雲から振ってきたのは雨ではない火の粉であった。
「絵本型の愚神っていうのも変なやつよね!」
雪室 チルル(aa5177)は火の粉から逃げつつも、愚神をちらりと見た。スネグラチカ(aa5177hero001)は愚神の攻撃が気に入らないらしく、ほっぺたを膨らませて不機嫌そうであった。
『熱いなー……冬から最も遠い世界に来たみたいだー……』
「さっさと倒さないと他に被害が広がりそうだし、ここで仕留めるよ!」
3年前、愚神討伐の折に住宅街に火が燃え移って家事になっている。今回は同じ過ちを繰返してはいけない。
『そうだね! こんな熱いのは早く倒そう!』
逃げていた足を愚神のほうへと向きなおし、チルルは愚神へと近づく方法を考える。火の粉の雨は愚神の周辺では降ってはいないが、愚神の近くへたどり着くには火の粉の雨をどうしても浴びなければならない。
『絵本を見て朗読するって流れで攻撃するみたいだし、ちょっとあの爆弾を使ってみるのはどうかな?』
スネグラチカの言葉に、チルルは「名案!!」と答えた。
「この熱さだしすぐに乾いちゃうと思うけど、短期間でも隙を作ることができれば、その後気絶を狙って一気に畳み掛けることもできそうね」
そう言ってチルルが「えい!!」と投げたのは、ヤシの実爆弾である。対象に当たれば甘い蜜で体がベトベトになるが、それによって視界が塞ぐことができれば御の字である。
「面白い武器を持ってるな!!」
ヤシの実爆弾に興味を示したのは、シュエン(aa5415)であった。一方で、リシア(aa5415hero001)はふつふつと胸を焦がす怒りの炎を感じていた。
『愚神というのは碌な事をしないのですね』
普段のリシアは喋ることができない。故に朗読という行為を攻撃手段として用いる愚神に怒りを感じていた。
『炎も愚神も、全て燃やしてしまいましょう』
「頼んだよ、先生。俺、熱いの苦手」
リシアの怒りを察したシュエンは、彼女に勝利を託した。
「完全に乗っ取られていないなら、少女には攻撃を当てない方がいいだろうな」
飛翔は攻撃する隙をうかがいながら、そう呟いた。
ルビナスも同意見らしく、頷いた。
『朗読と言う形で力を行使しているなら、絵本を壊せば何かしら影響はでるかと』
「なら、多少無理をしてでも愚神に近づくぞ」
飛翔の言葉に、手を上げたのは餅 望月(aa0843)であった。
「回復なら、あたしたちに任せて」
『癒してあげるね』
百薬(aa0843hero001)も力強く頷いた。
「今回の愚神はリンカーを何人も倒してる強敵だから、あたしたちがしっかり皆を回復させないとね」
望月は、ブラックテールを握り締める。
『行方不明のリンカーさん、現れるかな』
「さてね、目の前に敵がいる以上、油断はできないよ。今は、こっちに集中」
いつでもいけるよ、と望月は飛翔に合図を送る。
炎の雨のなかを飛翔は、走った。
多少のダメージや火傷など気にせずに走り、愚神との距離を縮める。望月はケアレイを施しながらも、その背中を見守った。
「ここなら――」
『――届くはずです』
キリングワイヤーを使用した飛翔は、少女が持つ絵本に狙いを定めた。
動きを拘束することを狙ったわけではなく、ただ一撃で本を切り裂くつもりであった。少女は絵本を閉じて、それを背に回した。飛翔は少女にキリングワイヤーが当たる寸前で軌道を変えて、少女の体に傷がつくのを防いだ。
『こちらの意図は見透かされていますか』
「思った以上に、少女の体が使われているのは厄介だな」
●ウサギの炎
「怪物は、炎を吐きました。その炎はウサギになって、全てを焼いてしまいました」
少女の声が、残酷な絵本を朗読する。
愚神が出現させたのは、大量のウサギであった。小さな体がメラメラと燃えており、見るからに高温を放っている。
『どうやら、愛らしいのは見た目だけのようだ』
ナラカ(aa0098hero001)の言葉通り、炎のウサギの見た目は可愛らしい。だが、その炎は愚神の邪悪をまとっているように思われた。炎のウサギが跳ねた。
「……集まると厄介だな」
八朔 カゲリ(aa0098)はライブスショットで、ウサギを撃ち抜く。愚神から絵本から出現させたウサギは波のように、リンカーたちに密集して襲い掛かる。
『数で押される厄介とみたぞ』
ナラカは、くすりと笑った。
「武器も胴体も炎で構成されているのか……接近しすぎれば此方にダメージが来る算段か」
御神 恭也(aa0127)は、炎のウサギを見ながら呟く。
どうにも厄介だが、戦えないことはない。
「うお。こうもたくさん出現されるといくらオレでも困るぞ」
鍵をかけた鞘から剣レーギャルンを抜いた逢見仙也(aa4472)は、ウサギを攻撃する。いちいち鞘に収めて鍵をかけるのが面倒な武器だが、効果は期待通りであった。
『敵が随分と弱いな……』
ディオハルク(aa4472hero001)は何か言いたげであったが、まだ確証を得られていないらしい。仙也は考えることはディオハルクに任せて、ウサギを切る。
『小さい子を巻き込ませるなんて、ボクが一番嫌いなタイプだよ』
従魔を出現させ続けている少女を見て、伊邪那美(aa0127hero001)は眉をひそめた。
「ふむ……常に同じ一件を読ませるのが少し気になるな」
恭也は怒涛乱舞を使用して、自分の側に集まったウサギの数を一気に減らす。それでも、まだ多くのウサギが残っていた。
『見た目は可愛いのに、こんなに集まられてもうれしくない!』
熱いのは勘弁してよ、と伊邪那美は悲鳴を漏らした。
その一方で、この状況を楽しんでいる者もいた。
「厄介ではあるが、そなたの初陣にはちょうどいい」
『そうですね。がんばります』
ソーニャ・デグチャレフ(aa4829)はにやりと不適に笑ってから、キルデスベイベ(aa4829hero001)と共鳴する。キルデスベイベにとっては初めての戦場であるから、まずは雑魚ちらしをやらせてみようとソーニャは考えていた。長大な魔術式パイルバンカーを手に持ち、ソーニャは狙いを定める。
「緊張などするなよ」
『はい。もちろんです』
キルデスベイベの言葉を聞きながら、ソーニャは炎のウサギを蹴散らしていく。そもそもが炎で形を作られたウサギたちである。あまり強くはないらしく、攻撃を受けた途端に散り散りになって消えていった。
『愚神への攻撃はいいんですか?』
キルデスベイベの言葉に、ソーニャは首を振る。
「そちらは仲間に任せる。覚えておけ、実践では分業こそが命綱なのだ」
ウサギの炎が飛び散り、ソーニャはそれを見つめていた。
「……」
ウサギを打ち抜きつつ、カゲリは考える。愚神や炎のウサギが弱すぎる、と彼は考えていたのだ。愚神の敵を近づけない戦闘スタイルは厄介ではあるが、時間と人数があれば突破できないものではない。何より前衛の兵隊の役割をするはずのウサギが弱すぎる。だが、それにしては愚神の態度は嫌に余裕があって不気味ですらあった。逃げ足に自身を持っているのか――それとも。
『覚者は、愚神の奥の手を警戒しているのか?』
ナラカの言葉に、カゲリは頷く。
「ああ……妙な感じがする」
カゲリは愚神のほうを見た。
愚神は、絵本をめくる。
「怪獣に立ち向かったのは、哀れな戦士たちでした。でも、戦士たちは怪物の炎に焼かれて、皆死んでしまったのでした」
愚神の朗読と共に、炎が発生する。その炎は徐々に大きくなり、やがて五体の人影となった。炎で作られていても、その顔かたちは個人を識別できるほどにリアルに作りこまれている。そして、それぞれが武器を持っていた。
「これは……まさか」
『3年前に犠牲になった、リンカーというところか』
ナラカの声が、カゲリの頭のなかに響いた。
●アサクラ出現
――後悔している。
3年前に、炎のなかで避難誘導するというのに英雄との共鳴を介助したヒグチを止めなかったこと。ヒグチに「共に戦ってくれ」と言わなかったこと。自分が避難誘導に回らなかったこと。
――その全てを後悔している。
「おまえだけは、俺が殺してやる」
仮面を被ったアサクラが、愚神の背後に一瞬にして現れた。
『えっ、今どこから来たの!!』
魔法でもつかったかのような出現に伊邪那美は目を丸くしたが、恭也は少女ごと愚神を切ろうとするアサクラに拳を振るった。アサクラは剣を収めて、また姿を消す。
「何あれ? 新手の敵? 妨害?」
突然現れたアサクラを目撃した仙也も驚いていた。その様子にディオハルクは、思わずため息をついた。
『ブリーフィングにあったろ?』
気配を殺し、いつかは己の存在までもを消す無貌の仮面を被ったアサクラというリンカー。前回の愚神討伐から、連絡が付かなくなっていた一人である。
「最後は自分の存在まで消える仮面ね……」
仙也はそう口にしつつも、アサクラにそれ以上の興味は抱いていないようであった。
「……どういうつもりだ。今の一撃は放っていれば、操られている少女も巻き込み兼ねなかったぞ」
姿を消したアサクラに向って、恭也は言う。
だが、姿を消したままのアサクラは姿を現さない。
『復讐するつもりなのかも……あの感じは、復讐を果たす為なら他の人だけじゃなくって自分も犠牲にする感じだよ』
伊邪那美の言葉を聞きながら、恭也はアサクラの気配を探る。
姿が見えなくなるという仮面が、この上なく厄介だ。
「愚神に恨みを晴らすために、盲目になってますね。事情はよくわかりませんが、あなたの仲間は、戦果のための犠牲は、望まなかったはずです!」
望月はライブスゴーグルをかけつつ、アサクラに呼びかける。だが、答えは返ってこない。
『憎しみで何も聞こえなくなっているのかな?』
百薬の言葉に、望月は「そうかも……」と呟いた。
「御神君! 来るよ」
望月は、叫んだ。
恭也が構えると眼前には、アサクラの姿があった。大剣での一撃を恭也が受けると、腕が凍りつく。
「動きを止めるための攻撃か……」
カゲリはその光景を見ながら、呟く。
『死者は既に過去のもの。想うは良いが、枷に貶めるはいかんだろう……』
ナラカは、カゲリに問いかける。
答えなど分かりきってはいたが。
『覚者は、どう思う?』
ナラカの言葉に、カゲリは答えない。
カゲリは、アサクラがどのように動こうともどのような思いを抱こうとも自分の立ち居地を変える気はしない。
『それが覚者「らしい」ということか』
ナラカの声を聞きながら、カゲリはアサクラの気配を探す。見つければ、ためらいもなく攻撃をするつもりであった。
『女の子まで斬るつもりですか?!』
リシアは、恭也にもう一撃を食らわせようとして姿を現したアサクラに狙いを定める。
『愚神のやり口はあなたならよくわかっているでしょう? それとも己まで忘れてしまいましたか?』
ジェミニストライクで、リシアはアサクラの仮面を狙う。
「先生、すごい!」
シュエンは、邪気のない声で喜んだ。
『本当は仮面を弾き飛ばしたかったんですが……すこし狙いがずれたようです』
「そんなの分かってる……だから、忘れようとしていたんだ」
アサクラは、自分の剣は地面につきたてる。
――悪夢の槍、とアサクラは呟いた。
●炎の亡霊
『やはり来ましたね』
ルビナスは、アサクラを見やった。
まだ、彼は何かをする気らしい。
「向こうは任せよう。先にこっちの不愉快の奴らを片付ける」
飛翔は、炎の亡霊を見た。
ルビナスは、呟いた。
『魂が囚われてではなく、形を模してるだけとはいえ』
彼らの形は、恐らくは3年前に死んだリンカーたちの姿なのだろう。今は亡き、勇気ある戦士たちの姿。その冒涜を許すわけにはいかない。
「冒涜だな……形の模倣すら命を懸けた者たちへの冒涜だ。さっさと消えろ」
飛翔はキリングワイヤーでもって、亡霊の一人を追い込む。そして、その追い込んだ先で疾風怒涛を発動させる。
「実力もH.O.P.Eのリンカーを模倣ってことか」
仙也も炎の亡霊の相手をしながらつぶやく。アサクラがこちらにきたら撃ってやるつもりだったが、彼は仲間に妨害されているようであった。
『あの仮面は試作品としてもらったのか、あるいは盗ってきたのか、どちらにせよ面白い効果だな』
ディオハルクは、仮面の効果に歓心したようであった。
たしかに副作用ともいえるものがなければ、有効なアイテムである。
「その仮面使って突っ走って? 人手足りなくて死者の出た相手に孤独な戦い? 凄いなぁ。本当に……本当に人を馬鹿にするの上手いなぁ」
仙也は、小さく呟く。
「キルデスベイベ、基本は先ほどと変わらないぞ」
『分かっています』
ソーニャは氷牢を使用し、氷の杭を敵に向って打ち出す。
「まるで地獄絵図だな。パリは燃えているかどころではない。敵が全て燃えている」
くくく、とソーニャは笑った。
眼前の光景は、まさに戦場である。いたるところで敵が燃え、周囲を燃やしていく。
『アサクラさんは、こちらに来るでしょうか?』
攻撃をしながらも、キルデスベイベはたずねる。
ソーニャは、ふんと鼻をならした。
「いかなる法律に照らしても愚神と同化している子供を斬る事は看過できない」
どこか達観したような冷静な声でソーニャは語った。
彼女の目には、無残に燃え続ける亡霊の姿があった。
「理性無き正義は暴力と変わらぬ。キルデスベイベも英雄の端くれなら理性を友として愚神のみを討て」
『……はい』
キルデスベイベは、努めて冷静な声色でそれに答えた。
●炎は消える
『友を失った無念は分からんでもない。しかし、罪なき少女を巻き込むなどあってはならん』
キルラインは、冷徹な声でそう語った。
「愚神に憑りつかれたままにしておく事もな」
オルクスは、そう答える。
ストライクを使い切ったオルクスは、オートマチックに切り替える。アサクラより炎の亡霊より、まずは全ての根源である愚神を絶つ。オルクスとキルラインは、そう考えていた。
『今までの傾向から時間経過とかで逃走する可能性もあるし、なるべく逃さないように急いで仕留めたいところだね』
スネグラチカの言葉に、チルルは頷いた。
「そうだね。このまま逃がせば、アサクラっていう人も復讐から逃れられないよ」
戦いながら、チルルは炎の亡者を見た。
アレがある限り、おそらくはアサクラは戦い続けるだろう。
自分の存在が消滅することすら、恐れずに戦い続けるであろう。そのことに疑問すら抱くことなく。チルルは、それは駄目だと強く思った。
「近距離でいくわよ」
『炎の壁には、どう対処する』
雨月の言葉に、アムブロシアがたずねる。
「壁はあたいたちが、何とかするよ」
『そうね。炎より冷たい冬の力を見せてあげましょう!』
チルルとスネグラチカに、雨月は「まかせたわ」と伝える。
「そうなると雨月が愚神に近づくまでの露払いは私たちの仕事だな」
『おぬしの腕の見せ所ということか』
キルラインの言葉に、オルクスは頷いた。
「いっくよー!!」
チルルの言葉と共に、雨月は走り出す。
雨月を近づけまいと飛び跳ねるウサギをオルクスが打ち抜いた。
「あら、壁が消えてしまったみたいね」
身を守る盾がなくなったというのに、愚神があわてる様子はない。
雨月は、少女に向って手を伸ばした。
「出来の悪いおとぎ話は終わりにしましょう」
少女には傷一つ負わせない。
だから、本だけを狙う。
「聞こえるかしら? あの残響が、聞こえたなら――そこがあなたの終わり」
「あなたにこそ聞こえる? あの絶望が」
絵本を抱いた少女は、にこりと笑った。
●無貌の仮面
「あっ……あぶないなー」
望月は、目をぱちくりさせた。
突然地面から氷の槍が現れたのである。
その槍は動きを封じられた恭也へと向った。
「御神君、大丈夫なのかな?」
『直撃はしてないよね。うーん、氷の槍なんて飴細工みたいにきらきらしていて綺麗なのに、あんな使い方されたらもったいないよ』
百薬はプンプンと怒っていたが、望月は「問題はそこじゃないよ」とあきれた。
「まったく、おやつしか見えてないんだね」
『甘い物は別腹だよ』
「とにかく、隙を見て御神君の回復をしないとね」
愚神への攻撃を最初に妨害したからなのか、アサクラの殺意は恭也へと向っているようであった。回復しようにも、接戦が続いてしまえば難しい。
「アサクラの意識をこちらに向わせるしかないか」
カゲリは武器を持つ。
『覚者。アサクラの意識を私と汝に向わせたいのならば、ただの攻撃では無理だぞ。あれは、戦いなれている。故に横から攻撃しようと「ただの邪魔」としか認識されない。アサクラの心を逆なでするような攻撃でなければ――意識はこちらに向わないだろう』
それが覚者にできるか、とナラカは問うた。
「俺は、否定も賛成もしない」
『では、意識をこちらに向わせる適任は覚者ではないな』
それは、きっと――。
「本当に人を馬鹿にするの上手いなぁ」
ナラカの言葉をさえぎるように、仙也は口を開く。
「まあ、復讐したい気持ちも分かるけど? やりたくなったらきっとやるけど? 仕事の合間に狙えれば……んで? 元仲間のため戦いました、倒しましたが昔と同じ様なことになりました。仮面男というかつての仲間の事が誰にも分からなくなりました。こんな事になってもその死んだ奴は幸せなんだな? そう思うからやったんだな?」
止まらない仙也の言葉に、ディオハルクさえ口を挟むことが出来なかった。
飛翔も、口を開く。
「お前の復讐は終わったんだ。現場で共鳴を解いて民間人を助けた人が、少女を犠牲にしても仇を討って欲しいと思うか?」
アサクラの動きが、一瞬止まった。
『――その隙が命取りです』
リシアは、アサクラに向って攻撃を放つ。
ジェミニストライクはアサクラに命中したが、さして効いているふうには見えなかった。やせ我慢か――それとも。
「なんか、嫌な予感がするよ」
シュエンの予感は当たった。
アサクラの悪夢は現実が発動し、彼の攻撃力が大きく跳ね上がる。
そして、彼の姿が再び消えた。
『構えていろ。どこから現れてもおかしくはない』
キルラインの言葉に、オルクスは頷く。
「姿と気配が消えるのは、厄介だな」
「本当、そうだよね!」
チルルもスネグラチカと共に、周囲を探っていた。
「復讐をするなとは言わん。あの愚神は確かにヒグチを冒涜しているからな。だがな、ヒグチをもう一度殺しているのはお前だ」
姿が見えなくなったアサクラに向って、恭也は口を開く。
「彼は民間人を助ける為に命を掛けた。だが、お前は復讐の元に民間人を犠牲にしようとしたんだ」
恭也の後ろに、アサクラが現れる。
『まさか、囮になったの! アサクラちゃんが、現れちゃったよ』
伊邪那美の言葉に恭也が返す前に、リシアの攻撃がアサクラの仮面を弾き飛ばした。
『今度こそ、狙い通りです』
アサクラの手はほとんど無意識に仮面を追いかけ、望月と目が合った。
「悪夢もいつか、終わります」
彼女の唇は、そう動く。
『変な力に頼ったら、だめだよ』
セーフティガスを浴びながら、アサクラは思った。
――終わるはずがない。
――あの日、ヒグチを一人で行かせてしまってからアサクラの悪夢はずっと続いている。
●消えたのは
「凄いねぇ、忘れ去られていく正義の味方? 誰も知らないなんて死んでるようなもんなのに省みないなんて」
目覚めたアサクラに、仙也は開口一番そう伝えた。
優しい言葉や慰めなど求めていないだろうと思ったし、仙也自身腹が立っていた。
「もう一度聞くけど、あんたがそうなっても死んだ奴はそうなっても幸せなんだよな?」
仙也の言葉に、アサクラは首を振る。
「これは……俺のための、俺が楽になるための復讐だった」
やっぱりな、と仙也は呟いた。
『一人で火事の現場に行かせた、後悔か……』
ディオハルクの言葉は、アサクラの心情を表したものであった。
――友人を一人で火事の現場に行かせて、殺してしまった。
――あの日、ヒグチを止めなかった自分など消えてしまえ。
そうアサクラは願っていたのだ。
「むなしいが……共感できてしまうな。同意はしないが」
ソーニャの小さな呟きに、キルデスベイベは首を傾げた。
「今のは、独り言だ。聞かなかった振りをしてくれ」
ソーニャの言葉に、キルデスベイベは「了解であります」と答えた。いつかソーニャと共に実戦を積み重ねていけば、ソーニャの心のうちも察することができるだろうかとキルデスベイベたちは考える。
「そういえば、あの仮面は?」
雨月はきょろきょろとあたりを探す。
アムブロシアも一緒に探したが、戦闘中にはじき飛ばされた無貌の仮面はどこにもなかった。
『……まさかな』
アムブロシアは自分の考えに、首を振る。
「あら、どうしたの?」
「持ち主もいつか消してしまう仮面ならば――仮面自体が消えて、私たちには認識できなくなったのではないかと考えていただけだ」
だが、アムブロシアの考えが当たっていたかのように無貌の仮面が発見されることはもうなかった。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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