本部

前門の虎、後門の狼

高庭ぺん銀

形態
ショート
難易度
やや易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/11/06 19:40

掲示板

オープニング

●ここは、しろがね動物園
 最初に異変に気付いたのは、ペンギンコーナーを掃除していた飼育係たちだった。
「そうなんだよ白鳥。久々に今週末は家族サービスでぐわっ」
「鷺沼さん!?」
 ベテランの飼育員が突如、奇声を発して倒れ込んだ。先ほどまで彼がいた位置に悠然と立つのは、小型のペンギン。
「おいおいペン介、タックル激しすぎ~……って」
 ペンギンの前に片膝をついた若い職員――白鳥は青ざめた。
「待って。ペン介。お前どうやって鷺沼さんにタックルしたわけ?」
 フンボルトペンギンの大きさは成鳥でも、せいぜい自分の膝くらい。このペン介とて例外ではない。タックルが人間の腰には届くはずがない。振り返れば、大先輩の鷺沼は腰を抑えて倒れたまま。かなり痛そうだ。
 もう一度ペン介に向き直り、後ずさりを始めた、次の瞬間。
 嗚呼、空が青い。白鳥はスローモーションの景色を見ていた。彼の顎を見事にとらえたのはドルフィンキックならぬ、ペンギンキック。ペンギンは岩を足場に手すりを飛び越え、外へと飛び出していった。
「白鳥!」
 昏倒した後輩に代わって、手負いの鷺沼はスタッフルームへと連絡を飛ばした。

●正門にタイガー、裏門にフェンリル
 園の正面入り口に屈強な男が到着した。人気リンカーヒーローのタイガード=マックスだ。虎柄のボディスーツにマント、陽光を照り返す金髪が人目を惹く。ワンレンズのサングラスで素顔を隠しているが、なかなかの男前であるようだ。その手にはハンディカメラが握られ、胸元にはピンマイクがついていた。
「こちらタイガード=マックス。しろがね動物園の正面入り口にて待機を開始する」
 彼はドキュメンタリー番組『救命戦士タイガード=マックス』の出演者として有名である。タイトルからわかる通り、番組は彼の成長を記録することを趣旨としている。しかし主役でありながら彼の仕事は主に後方支援。ときにはカメラマンやレポーターを務めることもある。彼の能力は突然変異的に回復に特化した形で顕現したため、今のところほぼ戦闘の役には立たないのだ。
 そして裏口にはかつて暴走オオカミと呼ばれた少女、赤須 まこと(az0065)がいた。共鳴中の今は、頭に灰色の立ち耳が生えている。目立つのを避けるため、エージェントたちの侵入はこちらの裏口からである。
「た、た、タイガード=マックスから通信が……!」
 実は彼のファンであるらしいまことは、大きく深呼吸をしてから答える。
「赤須です。打ち合わせ通り、私はここで見張りをします」
 動物園を取り囲むのは、高いコンクリートの壁。裏口にはドアが一つだけ。何かが出てくれば見逃すことはないだろう。
(ねぇ亮次さん、もしオオカミさんが逃げてきちゃったらどうする?)
 意識の中でまことは呉 亮次(az0065hero001)に問いかける。彼女たちの誓約は『犬を大切にすること』。従魔に憑かれていたとしても、オオカミへの攻撃は多分まずい。
(んなヘマする奴らじゃねぇさ。……と思うと、退屈な仕事だなぁオイ)
 あくびでもせんばかりの亮次にまことは呆れた。
(今は弱い従魔でも、外に逃がしたら危ないんだからね? 通行人のライヴス奪ったりするかもだし)
 だから、猫の子一匹通すものか。オオカミ少女は気合を入れ直したのだった。

●園内簡易マップ
          裏門
     トラ  □□□□  オオカミ
        □□□□□□ 
 キリン  □□□□□□□□□□  ライオン
    □□□□□    □□□□□
   □□□□   サル   □□□□ 
ゾウ □□□          □□□ クマ
  □□□□          □□□□
 □□□□□□  ペンギン   □□□
 □□□□□□       □□□□倉庫
     □□□□□   □□□□
 ふれあい □□□□□□□□□□□売店・食堂
  コーナー □□□□□□□□□
        □□□□□□□
          正門
※□……通路
※ふれあいコーナー……ウサギ・モルモット・アルパカ・ヤギ・ミニブタ

解説

【目標】
 動物の保護
 ※撮影への協力は任意

【味方】
まこと&亮次
 裏口で見張り役につく。事件解決後は動物園を見ていきたいと思っている。

タイガード=マックス
 正面入り口で見張りにつく。緊急事態にならない限りは、ハンディカメラを回し続ける。回復は得意だが戦闘は大の苦手で、ただいま訓練中。事件解決後、カメラに向かってコメントをしてあげると喜ぶ(任務の感想、視聴者へのアピールなど)。
 正体は一般人には非公開。解決後の予定は特になし。

テレビクルー(2名)
 共鳴中のリンカー。園内を移動して撮影を行う。あくまで任務が優先であるため、エージェントの指示には従う。生放送ではないので映像は編集可能。

【動物】
 イマーゴ級。見た目は変わっていないが身体能力が上がり、性格は凶暴になっている。顔つきも、どことなく怖く感じるかもしれない。人間を優先して襲ってくる。

ライオン(2頭)、トラ(2)、オオカミ(4)、ツキノワグマ(3匹)、ゾウ(1)、キリン(3)
 まだそれぞれのエリア内にいるが、フェンスを壊そうと体当たりや噛みつきなどを行っている。

ペンギン(15)、ニホンザル(8)
 柵の外に出て、園内を元気に走り回っている。園を囲む壁はのっぺりとしていて昇れないため、外に出るとすれば正門か裏門を通るしかない。

※ふれあいコーナー(ウサギ・モルモット・アルパカ・ヤギ・ミニブタ)は異常なし

【一般人】
・現場到着の時点で開園の1時間前であるため、まだ客はいない。
・鷺沼は白鳥を引きずって運び、ペンギンコーナー近くの倉庫に隠れている。スマホを所持。
・その他の飼育係は避難済み。正門近くにて待機。

【その他】
・檻の入り口はすべて通路側にある。
・高いコンクリートの壁が園の周りをぐるりと一周している。入り口は正門と裏門だけ。
・周辺住民はまだ異変に気付いていない。

リプレイ

■戦闘開始
 朝6時。普段なら無人に近い動物園に開園前から16人の男女が裏門で待機をしていた。
『シュエン、今日の目的は理解しましたか?』
「動物と遊ぶ」
『違います。従魔に憑かれた動物の保護です』
「おう、先に倒すんだよな!」
 これから思いっきり体を動かせると張り切って肩を回しているのは、シュエン(aa5415)である。今にも飛び出していきそうな彼をリシア(aa5415hero001)が制止をかける。
『……力任せに従魔に攻撃をして、動物を傷つけてはいけませんよ?』
 張り切る彼に、彼女は不安げな表情だ。
「従業員さんたちは無事なのでしょうか……気を失ってると聞きましたが」
 心配そうにナイチンゲール(aa4840)が呟いた。
『連絡してきた方によれば、問題はなさそうだと言っているが』
 その言葉に墓場鳥(aa4840hero001)が反応する。
「□―……□□……?」
『ええ、そうですね。その為に私たち四人はすぐ従業員さんの保護に向かい、早急に救出しないといけませんね』
 辺是 落児(aa0281)、構築の魔女(aa0281hero001)はナイチンゲール達と共に今回の任務は従業員の救出をメインに動くことになっている。
「動物園……けっこう広いね」
『見たことのない動物がいっぱいですわ! ……でも、先に従魔を片さないといけませんのよね』
「もちろん。なるべく急がなきゃね」
 初めて来た動物園に来たため、大門寺 杏奈(aa4314)とレミ=ウィンズ(aa4314hero002)は園内のマップを確認する。
「飼育員達にゃ災難だったろうが、ある意味運がいいな。これが開演中だとお客さんもいて現状よりもっと大惨事になっていたかもしれないからな」
『……壁に、フェンス……逃げなくて、とても楽』
 そう話す麻生 遊夜(aa0452)に対し、彼の英雄であるユフォアリーヤ(aa0452hero001)は『……確かに』とうんうん頷いた。
『従魔から解放させる為とは言っても、動物を攻撃するのは気が引けるよ……』
 任務で必要があるとはいえ、従魔に操られる動物を加減をするとは言え攻撃するのは嫌なものは嫌である。動物たちを思い眉を顰めるのは伊邪那美(aa0127hero001)である。
 そう呟く彼女の頭にポンっと御神 恭也(aa0127)が手を置く。
「放っておくと従魔に操られた動物たちがもっと傷つく可能性がある……早く解放して楽にしてやろう」
「そうなのです! 確かに可哀想かもしれないですが、そうすることで動物さんたちは救われるのですよ! 気に病むことはないのです」
 恭也に便乗し、紫 征四郎(aa0076)がフォローを入れる。
『今もこうして、ネコ科が苦しんでると思うと心が痛みますなぁ』
『それは俺も同意だな』
 ユエリャン・李(aa0076hero002)の呟きに、オリヴィエ・オドラン(aa0068hero001)もボソッと同意する。
「さて……各自現状確認、園内マップの確認が終わったようだし、動物さん達を早く解放してあげないとね?」
 木霊・C・リュカ(aa0068)の言葉に皆頷く。
 事前準備が終わった者のから、蝶のような光に包まれる。その場にいた16人が8人に変わる。共鳴したのだ。
 無言でアイコンタクトを取り頷く。そして、園内へと足を踏み入れたのだった。

■VS Tiger.
『制圧が終わったら遊べるのか』
「えっ……トラとだよね……トラとは、どうかな……」
 頭の中で会話しつつオリヴィエは、担当エリアであるトラの檻へと向かう。
 トラの檻は門を出てすぐ左手にあるため、すぐに到着することができた。
 グルルルルという唸り声が聞こえてくる。時折ガシャンと金網が軋む音がする。
 中には2頭のトラがいた。操られているためかトラの瞳には光が宿っていない気がする。2頭が殺気立っている事は近づいてすにぐ分かった。檻の外に出ようと、網を何度も体当たりしたり爪で攻撃したりしている。
 力任せに攻撃しているせいか、体に擦り傷のようなものや爪が割れていたりしていた。それが確認できると同時にすぐに檻の中へ入る。すると、逃げ出そうとしていたトラの注意がこちらへと向いた。
『檻は、固い。あまりやると治らない傷になる。……すぐに、従魔ははがしてやる。来い!』
 その言葉と同時に、トラがこちらへと飛びかかろうとしてくる。すぐさま、戦闘態勢をとった―ピカッと強烈な閃光がトラの体を包む。飛びかかろうとしていた体は、それにより怯んだ。
(今のうちに……)
 オリヴィエは、トラが怯むのを確認するとすぐ従魔の位置を確認する。彼の瞳にライヴスが集中する。頭…‥体、足―そこか。
『……見つけた』
 彼はスキルを駆使し、敵の弱点を見ぬく。頸椎と肩甲骨の間。そこに明らかな反応が見られた。あとは加減さえ間違えなければ……。
 彼は通信機に急いで連絡を入れる。
『敵の弱点を発見。首の付け根を狙うと良い』
 仲間から了解の連絡が聞こえてくる。情報が伝達できたことを確認―間、約三十秒。
 トラの目が光に慣れたのか再び飛びかかろうとする―その時、二つの銃声が聞こえた。
 飛びかかろうとしていた2匹の体は勢いをなくしつつもオリヴィエの方へ飛んでくる。
『……っと』
 その体を彼は優しく受け止める。いくら意識を失っているとはいえ、トラの体だ。ずっしりとした重みを感じる。バランスをとりつつ優しく地面へ横たわらす。
 彼の放った銃弾は見事に従魔だけを打ち抜く。従魔に操られていた体は解放されたのだ。
 檻から逃げようとした際にできてしまった傷は多少なりともあるものの、大きな傷などは見当たらない。手当は必要になるだろうが、命の危険はないだろう。
『これで大丈夫だ…‥』
 気を失っているトラの体を優しく撫でる。直に目を覚ますだろう。
『ひとまずここは安心だな』
 トラの無事を確認し、彼はすぐさま別の場所へと向かうのであった。

■VS wolf.
 トラの檻と反対側―門を出てすぐ左にある狼の檻。中にいるのは四頭。
「んー? やっぱり普通じゃない感じだな?」
 シュエンは檻の中の狼を見て眉を顰める。狼の顔つきは見る人からすると怖いが、今回はそうじゃない。明らかに従魔により、殺気立ち外見に怖さがにじみ出ているのだ。
『一対多です。囲ませないように気を付けて』
 頭の中でパートナの声がする。彼は素直にその言葉に対し頷き、檻の中へ入っていく。
 4頭の狼との位置取りに気をつけ、動けるよう距離を適度に保つ。
「すぐに楽にしてやる……!」
 いざというときに、通信機に連絡が入る。狼に気を配りつつ応答する。
「なるほどな! 首な!」
 仲間からの情報により、敵の弱点はわかった。
 狼は群れを成し行動する動物である。一匹一匹の攻撃力は低いが一度に攻撃されたら、いくらなんでも危険だ。
 蛇皮のような紐状の武具で狼の前足を絡めとり、自分の方へと引き寄せる。力加減を可能な限り気を付け首の付け根のあたりに蹴りを当てる。キャンっと鳴きその場に倒れこむ。
 やってしまったか? ―いや、力加減には気を付けている。多少の衝撃ばかりは避けようがないだろう。さっと倒れこんだ狼の隣にしゃがみ込み、脈と息を確認する。……大丈夫だ。
『焦って加減を間違わないよう、今のように一匹一匹慎重に倒しましょう』
「おう!」
 残りは三体。まだ囲まれる危険はある。
 すると、同時に三体が飛びかかろうとしてきた。すぐさま後方へ下がり、三体はそれぞれ飛びかかった方向に向かい着地する―今だ。後ろを向いた三体のうち二体に対し素早く蹴りを入れる。小さな鳴き声に心を痛めつつもすぐに体制を整え、残りの一体に集中する。
 足元には、三体の狼が倒れている。踏まないように気を付けないと。狼から目線をそらさず、少しスペースに余裕のある方へ移動する。最初の一匹度と同様武器で足を絡めとる―今度はバランスを崩し、その場に倒れこんだ。
「よし……!」
 すかさず攻撃を繰り出す―命中だ。綺麗に攻撃が辺り。最後の一匹も動きを止める。四匹の動きが止まったのを確認し、それぞれの状態を確認する。気を失ってはいるが、傷らしい傷はない。
『よかった……』
 彼女も安心そうに呟く。
「元気になったら遊ぼうな!」
 狼の無事を確認でき、彼も満面の笑みで狼たちを撫でるのであった。
 そしてすぐ、彼もまたこの場を後にした。

■VS Giraffe.
「了解」
『弱点は……首……』
 移動しつつ、仲間からの連絡を麻生とユフォアリーヤは相互で確認をする。
「弱点がわかったのはありがたいものだな。サルやペンギンの動向も気になるが……」
『……まず、きりんさんが……ボク達の、相手』
 二人は会話をしつつ目的地であるキリンの檻へと急ぐ。
「悪いな、すまんが大人しくしててくれ」
『……あら、怖い顔……すぐに戻して、あげるから……ね?』
 檻につくなり、中の異変はすぐにわかった。普段はあれだけのんびり温厚な動物園のキリンが、金網に対し重い蹴りを何度も食らわしているのだ―明らかに殺気立っている。ガシャンと蹴りによる激しい音は、近くにいなくても聞こえてくるほどだ。
「あれを食らったらひとたまりもないな」
 硬い脚から繰り出される蹴りの威力がヤバイとテレビでもよくやっている。
『遠距離でやりしかないね』
 檻の中のキリンは三頭。それぞれが射程内に入るように、距離感に気を付けつつ移動する。
 集中し、渾身の一撃を放つ。彼の放つ銃弾は目にもとまらぬ早さで敵三体を攻撃する。その一撃は綺麗にキリンの首へと命中するのだった。
 ―モォオウ……ドスン。
「よし……」
 牛のような鳴き声を上げ、キリンは長い首を垂らす。そしてゆっくりとその場に倒れこんだ。
『……命中だね……これでもう……きりんさんは大丈夫』
「遠距離武器を用意して正解だったな」
 一度、録画を一時停止し内容を確認する―提出用に個人でカメラを回していたのだ。
「……首が長いせいかところどころ見切れてしまってるな」
 キリンも彼もじっとしているわけではない。見切れてしまうのは仕方のないことだ。
『……ん、すごく大きかったから……しょうがない』
 まだすべての動物が解放されたわけではない。少し確認をして、すぐにまた録画を開始する。
『……つぎは、おさるさん達かな』
「ああ……」
 大人しくなったキリンに近づき改めて無事を確認したのち、すぐに園内中央に向かう。連絡によるとそこに、猿やペンギンが野放しになっているらしいが。
(まあ、この様子だと皆すぐに合流するだろうな……)
 彼は少し速足でこの場を後にするのだった。

■VS Lion.
 門を出て右手へと走る。ライオンの檻もさほど離れていなかった。
 もうすぐ到着というところで、一足先についていた彼から連絡が入る。弱点は首の付け根だという。
「かしこまりましたのです」
 返事をしてすぐに通信を切った。
 征四郎もライオンの檻に到着する。中へ入り状況を確認する。ライオンは2頭。肉食とは言えどここまで殺気立っていることは普通はありえないだろう。情報によると首の付け根が弱点らしいが―鬣によって見えづらい。
(なんとか、弱点を突かないとです……!)
 狭い檻の中で2頭の距離はさほど変わらない。同時に行けるか……―不安になりつつも武器を構える。
「私が相手です、お覚悟を!」
 言葉で気合を入れつつ、距離を詰める。力加減に気を付けつつ、ライオンにダメージを与える。ライオン本体にダメージを与えすぎないように、慎重に、慎重に。
 じりじりと攻撃を与え続け、一匹が足にダメージをくらいバランスを崩す。
「今なのです……!」
 すかさず首付け根を狙い切りつける。弱点を攻撃されたライオンはそのままその場に横たわってしまう。足を引っかけないよう気を遣いつつ、残りの一匹に集中する。
「もうおやすみなさいしてもいいのですよ!」
 足元を狙い攻撃を繰り出す。先ほどと同様、一匹はバランスを崩したがタイミング悪く体を金網に打ち付けてしまう。
「……あっ、ごめんなさいです」
 ライオンの体を心配しつつも動きを止めているうちにと弱点を狙う―そして、もう一匹のも動きを止めた。従魔から解放されたが、気を失ったままその場に倒れこんだままだ。
 2匹の体を確認するも、どちらも命には別条はなさそうだ。ただ強く体を打ち付けているため、ちゃんとした確認も必要だろう。
「もう大丈夫なのですよ」
 赤い髪の彼女はにっこりと笑う。
 通信機で他の状況を確認したのち、彼女はすぐさまこの場を後にし力を必要とする場所へと向かうのだった。
『ハァハァ、我輩もっと近くで見ていたいというか、あわよくばライオンもふもふしたいのであるが』
「却下です!!!」
 ―頭の中で彼と会話をしつつ……。残るはペンギンと猿だけだ。皆で対応すればすぐに事は終わるだろう。

■VS Elephant.
 少し離れた位置にあるゾウの檻。駆け足で御神は向かうのであった。
 まだ距離はあるが、進行方向から激しい音が聞こえてくる。恐らく、ゾウがフェンスを壊そうとしている音だろう。
 しばらく移動したところで、仲間から連絡が入る。弱点についてだ。
「ゾウの首を狙うのは少々苦戦しそうだな……」
 どうにかして、ゾウの背中に乗るほかないだろう。
「単に倒すだけなら、苦労はしないんだがな」
『この子達が悪いんじゃないんだから、気を付けないと駄目だからね』
 檻へ着くと、暴れるゾウの姿が1頭見えた。フェンスの所々はへこんだり曲がったりしていたが、かろうじて原型は残っている。
「さて、早急に大人しくさせないとな」
『前に見た時は優しそうな目だったけど、今は何か怖い感じがする』
 殺気立っているのは誰の目から見ても明らかだろう。
「いくぞ……」
 武器を構え、フェンスに攻撃し続けるゾウのすぐそばの曲がってしまっているところを利用する―駆け足でフェンスを踏み台にして思いっきりゾウの背中へと飛び乗った。
「うわっ」
 急に背中に衝撃を感じたゾウは鼻を振り回しその場で暴れまわる。彼は振り落とされないようにしがみつき、大人しくなるのを待つ。
 体力を消耗し、一時的に動きが鈍くなる時を狙い、弱点である首に集中して打撃を加える。攻撃する度ゾウは暴れまわるが、その度振り落とされないように気を付け何度も攻撃する。そして、しばらくあと段々と動きが鈍くなりやがて大人しくなる―ゆっくりとゾウはその場に座り込んだ。
 従魔の消滅を確認すると、彼は象の背中から下りた。
「しばらく、休んでおくといい」
 操られたせいで暴れまくって体力を消耗したゾウに対し、優しい言葉をかける。
 振り回した鼻などところどころに擦り傷は見れるものの、目立つような傷はなかった。あともう少し遅かったら、このゾウまで園内に逃げてしまっていたかもしれない。少々破壊されてしまったフェンスを見て彼はそう思った。
「さて……残るは」
 ちょうど、通信機に連絡が入る。
『みんな向かい始めてるみたいだね』
 持ち場の動物たちを解放できたものから、ペンギンと猿の対応に向かっているらしい。曲がってしまった柵で直せる部分―斜めになってしまった部分を元に戻すなどした後、彼もすぐさま増援に向かうのだった。

■VS Bear.
 初めての動物園に興味津々になりつつも任務のために急ぎ足でクマの檻へと向かう。
「終わった後はゆっくり見て回りたいね」
『そうですわね。でも、まずは動物たちを解放しないといけませんわね』
「うん」
 脳内で会話をしつつ目的地へと向かう大門寺に、他の仲間と同様に連絡が入る。
「首の付け根……」
『暴れまわるクマ相手にはなかなか難しいんじゃありませんの?』
「でも、やるしかないよね」
 全力移動したおかげか、あまり時間もかからずに到着することができた。クマの鋭い爪攻撃がフェンスに与えられ、近づくにつれ激しい音が大きくなっていく。
 すぐさまフェンス内に入り、クマに近づいていく。中にいるのは三頭。それぞれフェンスに向かって攻撃をしていた。中に入ってきたのがわかったのか、三頭クマは体制を変えこちらへと向かってくる―同時に、今までフェンスに与えていた攻撃をこちらへと繰り出してきた。
「っつ!」
 急な攻撃もしっかりと受け止める。
「流石にクマは大きいわね。でも、攻撃はちっとも痛くないわ」
 三頭それぞれの攻撃を受け流しつつ、盾にエネルギーをチャージする。
「大人しくなってもらうわよ!」
 溜め込まれたエネルギーを一気に放つ―近距離にいては避けようがない。その一撃は見事一頭のクマに与えられた。怯み倒れこんだところですかさず首の部分にとどめの一撃を食らわす。
「やったわ!」
 暴れまわっていたクマはその一撃を食らい大人しくなる。その場に倒れこんだクマはピクリとも動かない。
「……嘘」
 不安になり、クマの脈を確認する。
「……良かった。生きてる」
 一瞬、死んでしまったかと思ったが、ただ単に気を失ってしまっただけのようだ。
『傷はなさそうですから、とりあえず大丈夫ですわよね』
 さて、まだ二頭残っている―こちらも、先ほどと同様チャージからの攻撃を繰り返し怯んだところで弱点を攻撃する。そして、三頭すべて従魔の消滅が確認された。
「ごめんね……」
 生きてはいるものの、多少なりとも痛みを与えてしまった。気を失ってしまったクマに対し、詫びの言葉をかけ、彼女たちも皆に合流するためその場を後にするのであった。

■人命救助
 動物たちの解放は他の者たちに任せ、構築の魔女とナイチンゲールは、従業員が避難していると情報が入っている倉庫へと向かった。移動しつつ従業員と連絡をとり状況を確認する。
『なるほど……白鳥さんはまだ意識が戻っていないんですね』
 構築の魔女が避難している従業員の一人―鷲沼と連絡を取る。
「当たり前ですが、悠長にしている時間はないようですね。意識がないとなると万が一もありますから
 横耳で聞きつつ、ナイチンゲールが反応する。電話を切った後、二人はさらに加速する。
「□□……□?」
『ええ、そうですね。移動が困難と思われますので、ソリを使うことは頭に入れておかないと』
「運ぶ際は私が援護しますので……」
『助かります』
 救出した時の事を考え、どのように動くかを考える―従業員二人を構築の魔女がソリで運び、ナイチンゲールが援護するという形で想定しておく。
 そうこうしているうちに倉庫の前につく。幸いにもここまで従魔に遭遇しなかった。
 きっちり閉まる扉をノックし声をかける。内側から鍵がかかっているため、鍵を持っている二人は開けることができない。
『……いらっしゃいますか?』
「援護にきました。開けて頂けるでしょうか?」
 中から弱弱しく「……ハイっ!」という声がして、しばらくしてからカチャリと音がする―ゆっくりと扉が開く。
『大丈夫ですか?』
 すぐさま彼らの状況を確認する。
「私は腰が痛みますが、まだ動けはするので大丈夫です。しかし、白鳥が……」
 先ほど連絡を取ってからもいまだに起きる気配はないらしい。
「失礼します……」
 ナイチンゲールが彼の様子を確認する。呼吸は―以上ない。脈も落ち着いている。軽い脳震盪を起こしているのではないだろうか。
「……今のところは命に別状はなさそうですが、早急に病院に運ぶ必要はありますね」
 鷲沼の腰に霊符を張り付けている、構築の魔女に症状を報告する。
『そうですか。わかりました。これから園の外まで非難したいと思いますが、移動はできそうでしょうか?』
「……申し訳ないですが、多少の距離を動くことはできますが、ここから入口まで移動になると……」
 やはり、二人をそりで運ぶ必要になりそうだ。構築の魔女は『大丈夫ですよ。ソリを用意してますのでそちらに乗ってください』と優しく声をかけた。
 外の様子を確認しつつ、構築の魔女とナイチンゲールは二人で意識のない白鳥をそりに乗せる。動ける鷲沼は自分でそりに乗ってもらい、その上からプリズムマントを被せる。
『それでは、ナイチンゲールさん、頼みます』
「任せてください!」
 なるべく衝撃を与えないよう慎重に道を選び、ソリを運ぶ。倉庫から正面入り口はさほどはなれてはいないが……。
『っつ……。やはり、そううまくは事は運びませんよね』
 あと少しのところで、サルが立ちふさがろうとする。
「大丈夫です」
 ナイチンゲールが己のライヴスを活性化させ、周囲に拡散する―入り口付近にいた動物たちの視線は彼女に集まる。
「今のうちに……!」
『任せましたよ!』
 彼女が敵の意識を引くうちに、構築の魔女が従業員を避難させる。ここまでは良かった。だが、運悪くナイチンゲールは動物たちに囲まれてしまった。
「これは……まずいよね」
『大丈夫だ。避難は無事にできた。落ち着いて対処しよう』
 頭の中で墓場鳥の声がする。
「うん……」
 武器を構えどこか逃げ道がないか確認する。大丈夫。スキルによって防御力は上がっている―少しは耐えれるだろう。
「あそこ……」
 動物たちもこちらの行動を伺っているようですぐに飛びかかってくる様子はない。彼女はこの現状を打破しようと冷静に周りを見回した。

■正義は勝つ
 動物たちに囲まれた彼女に一匹のサルが飛びかかろうとした―その時、パンッという銃声と共にサルの体はその場に横たわる。
 タイミングのいいことに、それぞれ保護が終わった仲間たちがこちらへ集まってくれたのだ。
 一人は視線を集め、一人は敵の足を止める。お互いにフォローしつつ一匹一匹確実に対処する。いつの間にかテレビクルーが近くでこちらの戦闘を撮影している。もしかしたら集中して気づかなかっただけで今までもとっていたのかもしれない。
 八人のエージェントはすぐに集まり、彼らにより園内全ての動物たちが解放される。それぞれ、テレビクルーにインタビューを求められ順々に対応していく。他の者がインタビューを受ける間、手の空いている者は意識の失ったサルとペンギンをもとの檻へと運んでいった。中にはインタビューを受けている人の端に映り込んで笑顔でピースする者もいたり、淡々と答えたものもいただろう。

■終わった後は
『はー、可愛い、美しい……こんなにも素晴らしい場所が存在していようとは……』
 興奮する彼に、複雑そうな顔をしている者が一人。
『また来たときは触らせてもらおう』
「そうだねぇ~」
「さあさあ、一緒に救ったもの達を見に行きましょう!」
 四人は一緒に保護した動物たちの様子を見に行くようだ。

『保護した子達も一緒に回りたかったのにな~』
「後日、頼んでみてはどうだ?」
 安静の為、動物たちと触れ合えなかった伊邪那美は少々残念そうだ。

『お疲れ様です、取材ですか?若い子の方が花がありません?』
 構築の魔女はマックスにも取材を受けた。
『なるべく、もろもろが無事にすむように努めましたのですぐ開園できるといいですね』「□□……□……」
『ええ、本当……動物たちの命が無事でよかったです』
 辺是の言葉にボソッと言葉を返した。

 一方、麻生は撮った映像をテレビクルーに提出する前に確認する。
「従魔入りとは言え結構な迫力だったな」
『……ん、ペンギンとお猿さんが……元気だった、ね』
 見てる映像の動物相手に、ユフォアリーヤは手を振った。

「こんな動物もいるんだ! すごい毛並み……もふもふしてそう」
『ふふ、アンナも楽しそうですわね♪次はあちらを見ていきましょうか』
「うん、行こう!」
 大門寺とレミの二人は初めての遊園地をゆっくり二人で楽しんだ。

「まこと、一緒に回ろうよ」
「お、いいねえ! 見て回ろっか!」
(せっかくだから……タイガードマックスさん達や征四郎さん達、このメンバーと一緒の人達とも一緒に回りたいな)
 ナイチンゲールはこの後予定ない人を誘って園内を見て回るようだ。
 楽しそうにしている彼女に墓場鳥は小さく微笑んだ。

『次に来たときはライオンの肉球に触らせてもらえないでしょうか。あの前足を両手で上下に挟んでギュッと押してみたいのです…』
 ライオンの檻の前。うっとりした顔でリシアが言う。
(オレ肉球なくてよかった…)
 そんな彼女に内心ほっとするシュエンがいた。

 事が終わり、それぞれが各自動物園を楽しんだ。皆、気が済むまで動物園を見て回ったのではないだろうか。今回、残念ながら従魔による混乱で動物たちが気が立ってしまい、直接触ったりふれあうことはできなかったが、後日優先的に触らせてもらうことを約束してもらうのであった。こうして、エージェントの任務とドキュメンタリー番組の撮影は無事終了したのである。


担当: 橘樹玲

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • 『赤斑紋』を宿す君の隣で
    木霊・C・リュカaa0068
    人間|31才|男性|攻撃
  • 仄かに咲く『桂花』
    オリヴィエ・オドランaa0068hero001
    英雄|13才|男性|ジャ
  • 『硝子の羽』を持つ貴方と
    紫 征四郎aa0076
    人間|10才|女性|攻撃
  • 全てを最期まで見つめる銀
    ユエリャン・李aa0076hero002
    英雄|28才|?|シャド
  • 太公望
    御神 恭也aa0127
    人間|19才|男性|攻撃
  • 非リアの神様
    伊邪那美aa0127hero001
    英雄|8才|女性|ドレ
  • 誓約のはらから
    辺是 落児aa0281
    機械|24才|男性|命中
  • 共鳴する弾丸
    構築の魔女aa0281hero001
    英雄|26才|女性|ジャ
  • 来世でも誓う“愛”
    麻生 遊夜aa0452
    機械|34才|男性|命中
  • 来世でも誓う“愛”
    ユフォアリーヤaa0452hero001
    英雄|18才|女性|ジャ
  • 暗闇引き裂く閃光
    大門寺 杏奈aa4314
    機械|18才|女性|防御
  • 闇を裂く光輝
    レミ=ウィンズaa4314hero002
    英雄|16才|女性|ブレ
  • 明日に希望を
    ナイチンゲールaa4840
    機械|20才|女性|攻撃
  • 【能】となる者
    墓場鳥aa4840hero001
    英雄|20才|女性|ブレ
  • 仲間想う狂犬
    シュエンaa5415
    獣人|18才|男性|攻撃
  • 刀と笑う戦闘狂
    リシアaa5415hero001
    英雄|18才|女性|シャド
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