本部

【屍国】連動シナリオ

【屍国】悪夢を打ち祓え

桜淵 トオル

形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
10人 / 0~10人
報酬
普通
相談期間
5日
完成日
2017/10/17 10:56

掲示板

オープニング

●屍の再来
「なんか……ちょっと、急にだるくなってきたかも。風邪かな……?」
「あたしも。ねえ、早退したほうがいいかなあ……?」
 昼下がり、休み時間の教室。
 級友達が次々に表情を曇らす。
 立っていられなくなって座ったり、机に突っ伏す人もいる。
 顔色は、悪いどころではない。ところどころ、斑に白くなっている。
 空気が重い。ねっとりと絡みつくよう。
(なんだろう……なんだっけ。駄目なんだ、このままじゃ……)
 望の心に、大きく不安がのしかかる。

「ああ、アァァァァアアア!!」
 突然、倒れこんでいた男子のひとりが叫び声を上げる。
 白く変色していた皮膚がぼろぼろと崩れ落ち、腐敗色へと変わる。
 悲鳴を上げる女子もいるが、動きは遅く、逃げ出すことも出来ない。

「アアァアアァア!!」
 腐敗した皮膚で凶暴な叫び声を上げるその姿は、まるでゾンビ。
 手当たり次第に級友に噛みつき、噛みつかれた人もまたゾンビの外見へと変化する。
 教室の外からも、ゾンビ化した同級生達が、次々と入ってくる。
 まだ無事な誰かを、仲間にするために。

(ぼやぼやしてちゃだめだ……無事な人を、逃がさないと)
 重い頭で考えをめぐらし、ポケットを探って、スマホを取り出す。
 指が震えて、たった三桁の救急番号をどうしても正しく入力することが出来ない。

「望のほうが、おかしいのよ」
 ふいにはっきりとした声がする。
 そこには制服のまま日本刀を持った剣道部のエース女子、ミナが悠然とした足取りで教室へ入ってくる。
 三本角の鬼の面で顔半分を隠し、憎々しげに望を睨みつけながら。
「あんなに沢山死んだのに、一人だけ生き残ってのうのうと暮らしてるなんて、変だわ」
 ミナはゆっくりと鞘から刀を抜き、中段に構える。
 安定感に満ちた構えから、気迫が立ち昇る。

(……違う、違う。これは……違う。思い出せ!)
 なにかがおかしいと、心が警鐘を鳴らす。
(……すぐに無事な皆を病院に運んで、ライヴス補充療法を……。そして、治療薬を)
 自分がよく知っているはずのこと。
 何度も繰り返し、訴えたはずのこと。
(……【Re-Birth】を)
 その言葉に辿りついたとき、望は目を覚ました。


●あれは夢、ただの夢
 望は、自分の机に座ってなどいなかった。
 立ったまま気を失って、近くにある机の角に、したたかに頭をぶつけたらしい。額がじんじんする。
 ゾンビ化した級友も、存在しなかった。もちろんミナも。
 ただ夢の中と同様に、誰もが机に突っ伏したり、倒れていたりする。

(私はあんな場面を、見ていない)
 望の通っていた高校では、ある日級友達が体調不良を訴え始め、望もすぐに気を失った。
 そして目を覚ましたときには、病院に運ばれた生徒のほとんどが死んだのだと聞かされた。
 いまもその爪跡は深く、そのとき通っていた高校は生徒の大半を失って暫定閉鎖、生き残った学生達は市内の別の高校へと振り分けられている。
 望がいま居るのも、別の高校、別の教室。
 ゾンビ化事件は、すべて解決した。
 治療薬も完成したし、原因となった愚神を倒したあとは、ウイルス自体がこの四国から消滅した。
 体の奥深くまでウイルスに侵されていた患者達はリハビリに時間を要したが、解決から1ヶ月経ったいまではほとんどの元患者が日常へと戻りつつある。
 そして望も日常へと戻り、今は看護師を目指して勉強中だ。

 一番手近な場所に倒れていた級友、アキを揺り動かす。
「アキ! 起きて! 寝てる場合じゃない!」
 大声で呼びかけても返答は無く、意を決してばしばしと頬を叩く。
「ん……?」
 目覚めかけたアキの体から、ふわりと球状の白い靄が飛び出す。
(これは、幽霊……じゃない! 従魔!)
 従魔事件に長く関わってきた望は、咄嗟にそう判断した。
 倒れている皆は、従魔に憑依されている。そしてときおりうなされた声を上げて……悪夢を見せられている。
 そして目を開けたアキにも、すぐに別の白い靄が寄ってきた。

「逃げよう、アキ!」
 教室の後ろの棚に立てかけてあった本を取り、ぶんぶん振り回す。 
 靄のように見える従魔は、本に当たれば押し返される。実体はあるようだ。

(靄のいない、鍵のかかる部屋……)
 廊下を走って、最初に行き当たった小部屋に入り、鍵を閉める。
 スマホを取り出し、登録してあるH.O.P.E.への通報番号へ電話を掛ける。
 夢の中と違ってスムーズに指は動き、難なく目的の通話先へと繋がった。
「高校に従魔らしき靄が出ました! 憑依されて、皆うなされています! 助けてください!」
 てきぱきと住所や現状を伝え、通話終える。
「なんか、意外と頼もしいタイプなんだね、望って」
 アキは感心した目で望を見る。
「こういうの、初めてじゃないから」
 クラスメイトに微笑みで返しながら、望はかつての事件を脳裏に蘇らせる。
 最初に感染事件があったとき、自分はすぐに倒れた。
 祖母宅に避難して狙われたときは、運良く助けが来た。
(化け物とは、特別な能力がないと闘えない。……でも)
 外国の医学研究所に保護されて、リンカーの戦いを助けるために働く多くの人がいると知った。
 なんの能力もなくとも、覚悟と知識があれば、できることはある。

「……でも、なんでよりにもよってこの部屋なの? 怖い夢、見たばかりなのに」
 逃げ込んだ部屋は、生物準備室だった。
 定番の人体模型をはじめ、牛の眼球や小型生物のホルマリン漬けや、動物の骨格標本などが戸棚には所狭しと並んでいる。苦手な人は苦手なものだ。
「一番近い、鍵のかかる小さな部屋だったから……かな」
 気味悪がるアキをよそに、望は扉の隙間から靄が入ってこないか注視していた。
 いまのところ、その気配はない。
「別の方向見て、待っておこうよ。きっと長くはかからないよ」
 大きな教室の出入り口をすべて締め切るには時間がかかる。別に生徒指導室でも他の準備室でもよかったが、ここが最も手近だったというだけだ。
(引っぱたいた程度で憑依が解けるなら……)
 この部屋を出て、もっと誰かを起こすべきかとも思うが、再憑依の可能性を考えると、この場を死守すべきかとも思う。
「私は、アキがいるだけで心強いよ」
 望もひとりきりで心を強く保てたかどうかは、わからない。
 でも誰かがいれば、自分がしっかりせねばと思うし、気の持ちようも違う。
 アキを起こせてよかったと、心から思った。
「一緒に逃げてくれてありがとう、アキ」


【校舎模式図(ノンスケール)】

     校舎
 │ ロロロロロロ │
 裏      ロ 正
 門      ロ 門
 │ ロロロロロ☆ │


☆:望達の現在地(生物準備室;2階) 

解説

●目標
主に学生達に憑依して悪夢を見せている従魔を殲滅する。

●現場状況
・高知県K市にある高校。生徒約700名、教職員・事務員あわせて約80名
・1人につき1体までしか憑依できないので、あぶれた従魔が浮遊しているが、高校周辺での被害はまだ確認されていない。安全確認のためには別のエージェントが派遣されている。
・高校はコの字型に繋がった4階建て。1学年6クラス。
・望とアキが立て篭もった生物準備室は2階、場所は通報済み。
・望とアキは保護してもよし、案内や、憑依を解いた生徒の誘導を頼んでもよし。

●登場
麻鈴 望
通っている高校で大規模な感染事件があり、級友の多くが亡くなった。本人も一旦は新型感染症に罹患するも自然治癒し、治療薬作成のための突破口となる。いまは別の高校に編入し、勉学に励む。


ナイトメア・ミスト;ミーレス級
・白い霧状の従魔。
・恐怖に染まったライヴスが好物で、憑依した人間に悪夢を見せる。
・魔法攻撃は『悪夢』のみ、単体では雑魚。ただし数が多い。
・夢を見せる魔法能力意外は弱く、衝撃を与えると憑依は解ける。音のみの刺激では解けない。
・直径20cm程度だがライヴスを吸収するごとに大きくなる。
・物体のすり抜け能力はない。弱い飛行能力あり。遅い。
・数が多いので、共鳴中でも一瞬の隙を突いて憑依される可能性がある。その場合は、屍国事件とゾンビ映画が適当に混ざったような悪夢を見る。衝撃で憑依は解ける。
・高校敷地外のものはNPCが対応中。外に追い払わず敷地内のものは殲滅して欲しい。

リプレイ

●広がる混沌
 ぱたり、ぱたりと、白が黒に置き換わる。
 縦横斜め、無情に白を侵蝕する。
『(待って! いまのなし!)』
 ドロシー ジャスティス(aa0553hero001)は涙目でスケッチブックをぶんぶん振るが、鋼野 明斗(aa0553)は駒を返す手を止めない。
「オセロに待てはない」
 オセロでは、端のポイントだけ押さえ、途中までは相手に取らせてやるのが必勝戦略だ。
 そうとも知らず、毎度調子に乗ったうえで、後半に逆転されてわたわたするドロシーをからかうのが面白くて、つきあってやっているのだ。最後の逆転は獲物が有頂天のあいだにもう決まっている。
 そのとき、ふとスマホに届いた依頼に目が留まる。
 四国で事件発生。強大で困難な敵というわけではないが、数が多くて嫌らしい敵だ。
「四国か……折角なんとかしたのに、こういうのは気に食わないな……行くか?」
『(正義執行!)』
 いつもの言葉を載せたスケッチブックはしかし、振り上げたときにオセロの盤面も勢い良くひっくり返した。
 整然と並ぶ碁盤目は裏返り、白も黒も混ざり、あたりに広がるのは、混沌。
「……それは正義じゃないと思うぞ」
 明斗は怒っていた。静かに怒っていた。
 ゲームはやりきるべき。パズルは解ききるべき。
 混沌のまま投げ出すのは、主義に反する。
『(……♪♪♪)』
 しかしドロシーは、負けかけのゲームにはもはや興味を示さず、嬉々として戦いの準備に取り掛かる。
「……一週間ケチャップ禁止……!」
『!!!!!』
 明斗 の おしおきが さくれつした!
 ドロシー は しんこくな ダメージをうけた!


●掃討開始
「ハロハロ~望ちゃん? おひさ~。俺ちゃんの事、覚えてるかな~?」
 依頼を受けたエージェント達は、被害に遭った高校の正門前に集結していた。
 校外での被害はないか、別のエージェント達が安全確認を行っている。
 その中で明るい声で通話しているのは、虎噛 千颯(aa0123)。
 今回の通報者である麻鈴望とは以前依頼で会ったことがあり、H.O.P.E.に望が通話した電話番号を聞いておいたのだ。
「緑髪の格好良いおにーさんだぜ~!! そう、助けに来たんだぜ!」
 電話の向こう側の少女は、彼を思い出したらしい。千颯は笑顔で受け答えする。
『緑髪の格好良い……? そんな人物……今回の参加者にいたでござるか?』
 白虎丸(aa0123hero001)のツッコミは、悪気も邪念も無しのゆえに、切れ味が鋭い。
 しかし以前高知の山奥にある望の祖母宅を訪ねたときも、千颯と白虎丸は目立ちすぎることを心配されたほどだ。望の記憶にも緑髪の千颯と白虎の組み合わせは鮮烈に残っているだろう。
「よっし! 望ちゃんも友達も無事なんだぜ! 強い子達だな!」
 通話を切り、千颯は校舎を見上げる。
 およそ700名の生徒、80名の教職員・事務員を収容しているはずの校舎は、静かに佇んでいる。
 
「従魔の数は800くらいか……局地的には結構な数だな」
『町ぐるみのような事態でないのが、幸いですわね』
 眉を顰めて語る赤城 龍哉(aa0090)にヴァルトラウテ(aa0090hero001)が応える。
『むー、よく分かんないけど、みんなかちんこちーん! って凍らせちゃえばいいのー?』
 Летти-Ветер(aa4706hero001)はふんわりとしたコートをはためかせながらつむじ風のような弧を描き、走り回った。
「えぇ、そうですね。頼みますよレティ」
 きっちりとしたメイド服に身を包んだГарсия-К-Вампир(aa4706)は微笑ましげにその姿を見詰める。

『もし他の味方が引っかかったら、直ちに小突いて起こしてあげないと!』
 元気少女、スネグラチカ(aa5177hero001)は雪室 チルル(aa5177)と顔を見合わせた。
「もちろんよ! まあ、あたいが前に出るんだから、そんなことは万に一つもありえないけどね!」
 さいきょーを目指すチルルと、スネグラチカは一見して仲の良い姉妹のよう。
『(これ、フラグ……?)』
 スネグラチカは声には出さずに思った。前に出るチルルが一番危なくはないのか、と。

 先に突入したのは、南側を担当する千颯、明斗、ガルシア、チルルと、あえて共鳴を避けた龍哉とヴァルトラウテ。
 正面玄関のすぐ左側に事務室、事務員がざっと15名ほど倒れている。
『目から出る青いビームで、憑依が解ければ良いですのに』
「追い出された従魔が、ばぁれたかぁ~ってやるのか? どこの金剛石な人だ、それは」
 ヴァルトラウテは近頃、古い特撮にはまっているようである。龍哉の合いの手にも反応せず、××××××光線! などと必殺技名を叫びながら、倒れている事務員をびしびしと叩く。
 大きめのケサランパサランに似た白い靄が、ほわん、と染み出すように事務員の体から立ち昇った。
 すかさず共鳴したガルシアのナイフが貫き、靄はそのまま蒸発するように消える。
「これで撃破……で、良いのでしょうか? 雑魚ですね」 
 手ごたえの無さに呆気に取られたガルシアが呟く。
「数が多くなければ、そうでしょう」
 明斗は倒れた事務員を引き起こし、平手でばしん! と背中を打つ。
 ほわっ、と現われた従魔も目を覚ましかけた事務員にも目もくれず、次の事務員を起こすために移動する。
 従魔を弱体化させるためのライヴス結界が、明斗により周囲に張ってあった。
 ××××××光線! の声と共に、別の場所からも靄が上がる。
 チルルは憑依防止に盾を構えつつ、そのまま盾の端で寝ている人を小突く。
「……最初の部屋で手間取っている場合ではないということですね」
 次の憑依先を探して漂う靄を、ガルシアの掲げた「白冥」から放たれる冷気のナイフが次々に凍らせ、滅する。

「……あぁ、大変なんだ、学校が、街が! ゾンビだらけに!」
 目を覚ました事務員は、まだ何が現実なのか把握できていない。だが浮き出した脂汗、見開かれた目、恐怖で引き攣った表情が、彼の恐怖が本物であることを物語っている。がたがたと震える手で何かを掴もうとする。
「それは、ただの夢なんだぜ」
 千颯は事務室脇に掲示してある校内見取り図をスマホで撮影し、同行者に送信していた。
 飛盾を周囲に浮遊させ、不意の襲撃に備える。
「ちゃんと起きて! 一連の事件は終わったんだよ! いまは悪い夢を見てただけ! あたい達が起こしに来たの!」
 神門は斃れ、ウイルス従魔も消え、ゾンビ達はすべて死体か土に戻った。
 過去の夢を見せ、恐怖を喰らおうという輩の存在が、チルルは気に入らない。
 龍哉は廊下側から声を掛ける。
「ここの生徒からH.O.P.E.に通報があったんだ。これから校内の生徒達を起こす。校外で別のエージェントが安全確保をしているはずだから、避難誘導を手伝ってくれないか」
「体調が悪ければ、先に避難してもいいですよ」
 悪夢を見せながらライヴスを吸収するのがこの従魔のやり方なら、体調不良を訴える者がいてもおかしくはない。明斗の意図するのはそういった合理性だったが、事務員と言えど学校関係者。生徒を放り出して自分だけ逃げることは出来ないと、全員が奮起したようだ。

「南校舎の1階は下足室と特別教室。今の時間は教室は使ってない」
 フリー従魔の囮になるべく、龍哉は非共鳴のまま南校舎側を見回ってきた。
 そこに生徒の姿は無く、従魔もまたいない。
「退路確保、かな? ここは起きてくれた大人達に任せて、俺ちゃん達は2階に進むんだぜ!」


●職員室にて
「起きてくださーい……」
 キース=ロロッカ(aa3593)は、2階の職員室にて、平坦な口調と裏腹に容赦の無い往復ビンタを繰り出した。
 勿論手加減はしているが、全体数が多いので、一人あたりに時間を掛けていられない。
 それにまあ、教員はこの事態を前にさっさと起きろ。と思わないでもない。
 誘導できる大人をまず起こし、しかるのちに最小限の手数で起こし、最短の時間で最後の一人まで救出する。
 退路を確保しつつ、憑依を解いた生徒から順次避難誘導する。
 それが当面の最適解だ。
『(うわぁ。無表情でビンタしてる)』
 その横で匂坂 紙姫(aa3593hero001)は女性教諭に、揺すったり肩を叩いたりして起こす。
 手数は多いほうがいい。それに、若い女性なら顔に跡の残りそうな往復ビンタからは守ってあげたい。
「起きるでござるよー」
 天城 初春(aa5268)は本人も英雄である辰宮 稲荷姫(aa5268hero002)も女性であるのに、共鳴すると男の子の姿になる。
 もみじのような小さな手で、先生達の頬をぺちぺち叩く。
 頼りなげに見えるがこれでもれっきとしたリンカー、ちゃんと起こすだけの力はある。

 キース、初春、正宗達は正面関から右に進み、北校舎に入った。
 1階には人は少なく、午後で購買部も閉店し、短い休み時間に自販機コーナーに憩いを求めて来たらしき生徒が数名。
 そのほかは使われていない特別教室だった。
 眠っていた生徒数名を起こして沖 一真(aa3591)と三木 弥生(aa4687)に託し、正面の本校舎二階にある職員室へと進み、教員たちをまず起こそう、という計画だ。

「(この悪夢は、絶対に断ち切ってやる……!)」
 御剣 正宗(aa5043)は、今回は覚悟を決めて戦いに挑んでいた。
 自分の存在意義はなにか。エージェントとして為すべきことは何なのか。
 迷い抜いた末に辿りついた答えが、『自分らしく』。
 いかに外見が可愛らしく、共鳴中はより女らしくなるとしても、正宗は軍人である。
 以前はイギリスの軍隊に所属していた。
 愚神によって同僚も友人も家族もすべて奪われ、結果軍隊を離れてしまったが、心は今でも軍人だ。
 敵と相対すれば、すっと心が定まる。
 号令で自然に体が動くまで訓練を受けた日々を、忘れない。
『(何としてでも、悪夢から開放させますよ!)』
 CODENAME-S(aa5043hero001)は正宗の盾となり矛となり、正宗を助ける。
 正宗と共に、この世界を守り抜く。 
 ふわり、ふわりと大きな綿毛のように浮かび上がる従魔を、狙いを定め、五色布で強化したハンマーで叩く。
 従魔は、靄のように曖昧に見えても実体はあるのだろう、攻撃が命中すれば一撃で砕け散る。
 職員室は、壊してはいけない障害物が最も多い場所だが、敵の動きが遅いので落ち着いてやればその辺の見極めはできる。

「この従魔は、撃破よりも剥がすほうが難儀じゃな。妾も手を増やしたほうがよいかの?」
 いつのまにか共鳴を解いて二人になっていた初春と稲荷姫は、ぺちぺち、ばしばしとあたりに倒れる教諭達を叩いてゆく。
 初春の身長では刀を振り回すのにここの障害物が不利、という計算も勿論ある。
『先生達よ、起きるのじゃ。起きて子供らを導くのじゃ。悪夢の時間は終わりなのじゃ』
 稲荷姫の外見は高校生よりも子供だが、彼女は神獣であるので実年齢は高い。
 そして子供好き。子供達に憑いて、しかも悪夢を見せる従魔など、許せるものではない。
 初春も憑依を解いた従魔を袖ではたいて避けながら、振り返る。
「正宗殿、しばし従魔は任せたぞ。あとで替わってもらうでの」
 味方に任せる、と言われた正宗は、頬を染めて頷く。 
「わかった……! ボクも男だ……決してキミ達に再憑依させないよう、すべて仕留めてみせる!」


●篭城からの救出
「必ず二人以上で行動してください。白い人魂みたいな靄が現われたらすぐにこの番号へ。誰かが倒れた場合もお願いします」
 一真はてきぱきと事務員達に避難誘導の指示を飛ばし、千颯からスマホに届いた校内見取り図に目を落とした。
「キース達は職員室に回ったか」
『場所はこの真上だな』
 灰燼鬼(aa3591hero002)もスマホ画面を覗き込む。
「一般人を襲う卑劣な敵など、御屋形様には決して触れさせません! 私が御守りして見せます!」
 弥生はがっしゃがっしゃと鎧を鳴らし、周囲を警戒中だ。
「絶対、絶対にです! 家臣の誇りに掛けて!」
 骸骨鎧となった三木 龍澤山 禅昌(aa4687hero001)は、ときおりかかかと嗤う。
 今回の敵が綿毛のように弱そうなので、舐めているようである。
「(全方位に警戒してください! もしものことがあれば、一生の不覚です!)」
 弥生は禅昌に注意を喚起するが、聞いているかどうかもあやしい。
「別動の奴らは2階に上がったらしい、ちょっと行ってみるか」
 一真の提案に、灰燼鬼は頷いた。
『そうだな。私も会ってみたい。……その、麻鈴望という娘御に』


 千颯と龍哉が生物準備室に到着したとき、扉の前には5体ほどの靄が漂っていた。
「こういうところに居やがったか。道理で俺に寄って来ないわけだ」
 龍哉はヴァルトラウテと共鳴し、『皇羅』を構える。
 鬼面の籠手が闘気で青鈍色に輝く。
 目にもとまらぬ速さでパンチが繰り出される。三体が砕け、残り二体はふわりと漂って逃げようとした。
「鈍い!」
 攻撃力も無い、速くも無い、こんなものは龍哉の敵にすらならない。
 生徒達に憑依さえしていなければ。
「待たせてごめんな! 助けに来たんだぜ!」
 龍哉が従魔を相手取っている間に、千颯は扉の向こうに呼びかける。
 望は知り合いでもある。早く安心させてやりたい。
「千颯さん?!」
 扉の向こうでロックの開く音がして、そろそろと引き戸が開く。
 どこか儚げな印象さえ受ける、目鼻立ちの整った少女。
「もう大丈夫なんだぜ」
 そう言って千颯は、安心させるようににっと笑う。
 望と一緒にいたアキはリンカーを生で見るのははじめてらしく、しばらくぽかんとしていたが、望につつかれると慌ててお辞儀をした。

「麻鈴、望さん……かな。はじめまして。俺は一真」
 そこへ一真達も合流した。
 麻鈴望は、新型感染症からの治癒者として治療薬【Re-Birth】のアピール用にテレビに出演したことがある。だから一真は望のことを知っているが、望は知らないだろう。
 自然治癒であることは曖昧にしてあったが、H.O.P.E.のリンカーならば彼女を重要人物として保護する依頼があったことは知っている。
 望は一真と角の生えた灰燼鬼、骸骨の鎧をがっしゃがっしゃと鳴らしながらついてくる弥生を見て一瞬絶句したが、すぐに気を取り直してぺこりとお辞儀する。
「よく頑張ったな二人とも。ガッツがあるぜ!」
『その勇気を見込んで頼みがある。これから我々は生徒たちを起こす。彼らに声を掛け、逃げるよう促して貰えないだろうか』
 一真と灰燼鬼に、望は真剣な顔で訊き返す。
「みんな、怖い夢を見せられているんですか?」
「そうだな、俺達が起こした生徒は皆そうだった。憑依が解けても、完全に目を覚ますまでに時間が掛かる。夢は夢で、現実でないと気づくのにも」
 これまでに一真達が起こした生徒は一様に、恐怖の悪夢を訴えた。
 現状を把握し、避難が必要だと理解するまでにしばらくかかった。
「私、やります。やらせてください」
 望ははっきりと言う。
「あれは怖がらせるけど、本当に怖い奴じゃない。私もアキも平気です。はやく皆を、起こして欲しい」
 本当に怖い敵。
 望はその存在を知っている。
「俺ちゃんとしては安全なとこにいて欲しい気持ちもあんだけどな。でも俺ちゃんがいれば望ちゃんたちも安全なんだぜ」
「敵を滅する方は、俺達に任せな。言う通りだ、奴らは怖がるべき敵じゃない」
 千颯と龍哉も、頼りになる協力者が増えるなら異論はない。
 アキはひとりで逃げるより、望と共に行動する方がいいと言った。
 

●悪夢たち
 廊下にあぶれてくる従魔を警戒しながら、ガルシアはアンティーク意匠の施された銀の懐中時計を取り出した。『デスソニック』の改造品で、時を刻む針長短のは、この世の理に反するようにすべて逆周りに回る。
「眠っている生徒達を起こすのにこれでは、過剰攻撃になるでしょうか……」
 『目覚まし時計』と銘打ってはあるが、物理魔法、共に攻撃力がある。
「射程外からならあるいは……?」
 教室との距離を測るガルシアの足首に、ぬちゃり、と湿ったものが巻きつく。
 視線を落とすと、それは腐敗しきった手だった。
 床から生えるように突き出し、腐った肉汁を滴らせながらガルシアの足首を掴む。
 付近の教室の扉が開き、腐敗したゾンビ達が我先にとガルシアめがけて押し寄せる。
 両脚は掴まれ、縫い付けられたようにその場から動けない。
――べしゃり。
 窓のほうに目をやると、逆さに貼りつくゾンビ達で埋め尽くされていた。
 腐った眼球が、ガルシアを見ている。
「…………!」
 咄嗟に、左手を強く握りこんだ。


 チルルは倒れていた生徒を抱え起こし、平手で背中をばんっ! と叩いた。
 漫画でよくある、『魂が口から出る図』のように、ふわりと白い靄が出てくる。
 生徒のライヴスを吸収したためか、直径は30cmほどに成長していた。
「調子に乗ってんじゃないよ!」
 直剣『ウルスラグナ』で貫くと、柔らかそうな見た目の割に、脆いガラスのように砕け散る。
 チルルは最初のうちこそ盾や剣の柄でつついて起こしていたが、あまり効率がよくない上に後方から不意を突かれると弱いということがわかった。
 そう、気がつくと盾で防備しても憑かれていたのである。

 チルルが見た夢は、闇の中に棍棒を持った巨大な鬼が立ち上がる姿。
 何体も限りなく、街のあちこちで立ち上がる。
 味方はすでに疲弊しきっている。スキルも使用限度まで使い切った。傷は深く、立ち上がることさえ出来ない。
 しかし敵の数には限りがない。
 巨大な鬼が咆哮を上げ、振り上げた棍棒で周囲の建物を叩き壊す。
 粉塵が上がり、屋根瓦が飛び散る。
 抗いようのない敵……『絶望』が、チルルと味方の心を濃い闇に染める。

 ……そのあたりで明斗に背中を叩いて起こされた。
『(やはりフラグ……!)』
 目ざめたスネグラチカはひっそりと思ったが、口には出さない。
 それからチルルは、明斗を真似して平手で背中を叩く方式に切り替えた。
 衝撃を与えられる割に、当たる面積が広いのと脆い部位に影響が無いので、力を入れやすい。
 それに、万が一憑依されても単独行動さえしていなければ、起こしてもらえばいいのである。
 割り切ってしまえば、作業はぐっと進む。

――リンゴーン……リンゴーン……リンゴーン……

 学校のチャイムとは違う西洋風の刻告げの鐘の音が、あたりに鳴り響く。
「目覚まし時計です。誰か起きましたか」
 懐中時計を右手に持ったガルシアが、教室に入って来た。
「いいえ。音だけの刺激では、憑依は解けないようですね」
 明斗は振り返らず、ひたすらに生徒達を起こす『作業』を続ける。
「では、多少痛くても仕方ないでしょう」 
 ガルシアはまだ寝ている生徒の襟首を捕まえると、容赦のないビンタで叩き起こす。
「……何か怒ってるの?」
 チルルの問いにも、ガルシアは表情を動かすことはない。
「いいえ何も」

「(我ながら、安いホラー映画のような悪夢でした……!)」
 ガルシアは左手に握っておいたナイフで自傷することにより目を覚ました。
 気づくと目の前に浮遊していた白い従魔にはデスソニックを投擲したが、怒りは収まらない。
『(前も後ろも、ぜーんぶ凍らせちゃえばいいよ!)』
 レティの凍気が、冷たいナイフとなって乱れ飛ぶ。
 憑依を解かれ浮遊していた従魔達は、雪の切片のように細かく砕け落ちた。


●記憶に負けないで
「起きろ! 男なら! 従魔なんかに眠らされるな!」
 正宗は男子生徒には厳しかった。つまりは男卑女尊である。
 男の癖に従魔に憑かれて倒れている姿は、どこか以前の自分と重なる。
 敵の攻撃を受け、行動不能に陥ったときの。
 悔恨――それが、正宗の力になる。
「(二度と、味方の足手纏いにはならない!)」
 正宗の左腕は、既に血を流している。
 眠気を感じた瞬間に、手持ちの武器で自傷したのである。
「(無様を晒すくらいなら、死んだほうがましだ!)」
 軍人らしく今後も戦ってゆくなら、弱い敵相手でも気を抜くことは出来ない。
 むしろ、弱い敵だからこそ、不覚を取っている場合ではない。

『(男らしい正宗さん、おいしいです! 御飯三杯いけます!)』
 英雄のえすちゃんは共鳴を解いて、主に女子生徒を起こしていた。
 えすちゃんは正宗の女装姿が大好物である。
 しかし、普通の女子より女子力の高い正宗が、男らしく敵に立ち向かう姿もなかなかいける。
 いわゆるギャップ萌え。というやつである。
 嬉しさで背中の白黒の羽根がぱたぱた揺れる。

『(キース君……なんか、怖いよ)』
 共鳴を解いている間に、紙姫のほうだけ憑依され、悪夢を見た。
 洗脳効果により人々が絶望し、生きる努力を放棄する様を。
 助けの手すら振り払い、自ら死の前に体を投げ出す様を。
 そして、それらを見て哄笑する敵の姿を。
「二人なら大丈夫。行きましょう」
 キースは静かに怒っていた。
 こいつらは、思っていたよりたちが悪い。
 身体的にではなく、心にダメージを与えてライヴスを吸収する。
 その罪悪を、許さない。
「……外しません」
 もとより、憑依さえしていなければ、攻撃力もなく速くもない敵。
 キースの射撃から、逃れられるはずもない。
 ただし校舎へのダメージを最小にするため、すべて真芯を捉える。
 神界の法を刻んだ弓が銀光の矢を放ち、罪の存在である従魔を断罪した。

「起きた者から、逃げるのじゃ。退路は拙者が確保しておるでの。何かあったら呼ぶのじゃ」
 初春は共鳴して男児の姿になり、廊下を哨戒していた。
 窓はすべて閉じ、浮遊する従魔が外へ逃げ出すことのないよう見張りつつ、起きた生徒を誘導する。
 紅の太刀を抜き放ち、幼子を守護するように両脚を踏みしめる。
「前に進もうとする人々を恐怖に引き戻そうとするなど……拙者が許さん」


●悪夢の終わり
「御屋形様は、私が御守りいたします!」
 弥生の凍星がひらめき、黒い刀身が白い靄を切り裂く。
 守る覚悟が、彼女を強くする。
 星型の鍔が陽光を受け、光を放つ。
「弥生、俺より先生と生徒を守ってやってくれ!」
 職員室で起こした教師達は、生徒の安全が確保されていないのに自分達だけ安全なところで待つことは出来ないと言い張った。
 元々、教師というのは正義感の強い人間が多い。
 そして、あらゆる意味で生徒を預かっているのである。彼らの熱意を、押し留めることはできなかった。
 教師たちにも生徒達を起こして貰う。ただし、こちらも飛び道具は使わない。
 光宿る篭手で、悪しき夢を祓う。
『(……胸糞の悪い従魔だ)』
 高知では、状況のまったく掴めていない初期のうちに、大規模な感染事件が頻発した。
 原因不明のまま体が重くなり、皮膚が白変する。症状が進めば死ぬ。
 死んだあとは腐敗した化け物となり、新たな犠牲を求めて徘徊する。
 いつどこで事件が起こるかは不明。対処法も不明。
 どこででも起こりうるし、感染はあっけなく広がる。
 原因がウイルス従魔だと解明され、治療薬が開発されるまで、人々は恐怖の中にいた。
 目を覚ました教師達も、それがただの悪夢だとわかると一旦はほっとしたが、生徒がすべて悪夢の只中にいると知ると、その顔に浮かんだのは怒りだった。
 あれは終わったはずなのに、と。
「こいつらは、俺が祓う!」
 破邪の力を拳に込め、浮き上がる靄を次々に砕く。
 人の心に憑く従魔を、陰陽師として許しはしない。
「皆様、気を強く持ってください……戦いは、四国異変は終わったのです!」
 弥生は一真と背中合わせになり、後方を守る。
 前方は守る必要はない。敵は無限に湧くわけでなく、教師達が手作業で一人ずつ憑依を解いているのだから、慌てず一体ずつ仕留めればいい。
「私達が、終わらせたのです! なので……私達がまた皆様を御守りします故!」


「立って逃げろ! ここでまた憑かれたい訳じゃねえだろ?!」
 龍哉は闘気を込めた声で叫んだ。
 びりびりと空気が震え、ぼんやりしていた生徒たちもはっとする。
「男ならこういうときに、ビシっとして見せるんだ!」
 生徒が避難したのを見計らって黒色のヴァイオリン、Fantomeを構え、弓を引いて弦を掻き鳴らす。
 闇色の衝撃波が走り、残っていた従魔を砕く。

 生徒を起こすのに教師達の手を借りてから、一気に掃討が進んだ。
 再憑依された場合は……結局は起こせばいい。
 覚悟を決めた人々は、強い。
 敵の動きは遅く、通り抜け能力もない。
 常人でも、いくらでも防ぎようはあった。

「皆! 外に出てみて! 日常は何も変わっていない! 怖い夢はもう終わり!」
 望がよく通る声で誘導する。1階から順に始めた掃討は、最上階まで達していた。

「最後までしっかり、潰していくよ!」
 チルルは直剣を握り締め、バスケットボール大にまで肥大した従魔を両断する。
「退路は僭越ながら、私が御守りいたします」
 ガルシアがポイズンスローを構えつつ待機する。
 明斗は途中からあっさり避難誘導に回った。
 どこかに討ち漏らしの従魔が残っていれば、対処するためだ。

「そろそろ、終わりにするんだぜ!」
 赤熱したブレイジングランスで、周囲に散った従魔を千颯が薙ぎ払った。


●癒しの時間
「気分の悪い者がいたら、集まってくれないか。ボクの英雄が癒すよ」
 目覚めた生徒達の一部は、倦怠感や体調不良を訴えていた。
 H.O.P.E.によれば従魔によりライヴスを奪われたためであろうということで、避難先の広場で正宗はケアレインを試みる。
 えすちゃんの放つ桜色の光があたりに降り注ぎ、恵みの雨のように生徒のライヴスにとけてゆく。

「負傷したみんなも入ってくれよな! 先生達もよく頑張ったんだぜ!」
 千颯はケアレインに加え、ケアレイ、リジェネーションの回復スキルを残していたうえ、更にスキルにより回復効果を上乗せしてある。 
 特に負傷のひどいエージェントにはリジェネーションで、その他にはケアレイで対処する。
 明斗と正宗のケアレイもあり、今回はバトルメディックの充実したメンバーであった。

「紙姫お嬢様と皆様には紅茶を……キース様には珈琲をご用意してあります」
 ケアレインにより自傷痕も癒えたガルシアは、手慣れた手つきで紅茶を配り始める。
 普段からキースの小規模文庫でメイドとして働くガルシアは、キースをはじめ今回のメンバーは見知った人物も多い。


 四国では神門達が撃破されてからしばらく後に、従魔事件が頻発していた。
 この地に神門という強い愚神が現われ、四国全土を穢れた疫神の力で支配した。
 その間は神門一派以外の愚神と従魔は駆逐され、神門亡き後は空白地帯となった四国で、新たな縄張り争いが発生していると見られている。
 今回の従魔は恐怖を好む性質から感情の振れ幅の大きい思春期の若者を好んだのか、あるいは別の要因かは不明だが、憑依力・攻撃力共に弱いことから、隔離された場を群れで制圧する性質があったのかもしれない。 高校敷地外での被害は軽微に留まった。
 しばらくは流入する従魔に警戒が必要だが、いずれ落ち着くだろうという見通しだ。


「此度の依頼、朱天王との戦いで名を馳せた御屋形様方がおられて心強かったのですじゃ。皆も安堵しておりましょうの」
「なぜ誰も、名前で呼ばない……」
 にこにこと笑みながら話しかけてくる初春に、一真は頭を抱える。
 朱天王戦で共に戦った仲間は、何故か判を押したように一真のことを御屋形様と呼んだ。
 だが、一度も名前で呼ばれていなかったことは、先日会った誠に指摘されて初めて気づいた。
 なにか不思議な力が働いていたようにしか思えない。
「御屋形様は、御屋形様だからです!」
 そばにいた弥生がふんす! と鼻息を荒くする。
 一真と月夜に大きな怪我がなく、スキルで回復済みなことを確かめて安堵したところだ。

「よっ。望ちゃん。今回は大活躍だったんだぜ」
 千颯にそう話しかけられると、望は困ったような、泣き出しそうな顔をして、ゆるキャラ白虎丸の後ろに隠れた。
「私、弱くて……いつでも、誰かに助けて貰うばっかりなんです……」
『あなたの勇気は、賞賛に値するものですわ』
 銀の髪を揺らし、ヴァルトラウテが微笑みかける。
 望の第一報が、生徒達を軽傷で救った。
 望がいなければ、この高校は放課後まで誰にも気づかれずに従魔の餌場になっていたかもしれない。
「まあ俺ちゃんもできる男だけどな? でもいつも戦場では誰かに支えてもらってるんだぜ?」
 できる男? と周囲を探す白虎丸を、千颯は無視して続ける。
「あの時もそうだぜ。君のお陰で多くの人を助けることが出来たんだぜ」
 千颯は感染症の自然治癒者を探すグロリア社の依頼によって、望を迎えに行った。
 望がそれに応じた結果、彼女の血液を基に【Re-Birth】が開発され、多くの人を救った。
「治療薬を作ったのは、研究所の人達なんですよ……。何日も泊り込んで、それこそ心血を注いで作り上げたんです……。私は守られていただけ……」
『俺からも御礼を言わせて貰いたいでござる。麻鈴殿』
 白虎丸が声を掛けると、小さな肩が揺れる。
 そのまましばらく、白虎丸の後ろに隠れていた。

 
「さて、疲れたし帰って飯にするか」
 明斗は任務終了と共に即撤収を始めた。
『(チキンライス!)』
 嬉々として、ドロシーはリクエスト文字を掲げる。
「ケチャップ禁止だと言ったろ……焼き飯だな」
 明斗は言ったことは守る。禁止といったら禁止だ。
 ドロシーの顔色がみるみる変わる。震えながらスケッチブックに文字を書く。
『(悪夢だ!)』


結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
  • 愛するべき人の為の灯火
    御剣 正宗aa5043
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177

重体一覧

参加者

  • ライヴスリンカー
    赤城 龍哉aa0090
    人間|25才|男性|攻撃
  • リライヴァー
    ヴァルトラウテaa0090hero001
    英雄|20才|女性|ドレ
  • 雄っぱいハンター
    虎噛 千颯aa0123
    人間|24才|男性|生命
  • ゆるキャラ白虎ちゃん
    白虎丸aa0123hero001
    英雄|45才|男性|バト
  • 沈着の判断者
    鋼野 明斗aa0553
    人間|19才|男性|防御
  • 見えた希望を守りし者
    ドロシー ジャスティスaa0553hero001
    英雄|7才|女性|バト
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • Foe
    灰燼鬼aa3591hero002
    英雄|35才|男性|ドレ
  • 天秤を司る者
    キース=ロロッカaa3593
    人間|21才|男性|回避
  • ありのままで
    匂坂 紙姫aa3593hero001
    英雄|13才|女性|ジャ
  • 護りの巫女
    三木 弥生aa4687
    人間|16才|女性|生命
  • 守護骸骨
    三木 龍澤山 禅昌aa4687hero001
    英雄|58才|男性|シャド
  • 守りもてなすのもメイド
    Гарсия-К-Вампирaa4706
    獣人|19才|女性|回避
  • 抱擁する北風
    Летти-Ветерaa4706hero001
    英雄|6才|女性|カオ
  • 愛するべき人の為の灯火
    御剣 正宗aa5043
    人間|22才|?|攻撃
  • 共に進む永久の契り
    CODENAME-Saa5043hero001
    英雄|15才|女性|バト
  • さいきょーガール
    雪室 チルルaa5177
    人間|12才|女性|攻撃
  • 冬になれ!
    スネグラチカaa5177hero001
    英雄|12才|女性|ブレ
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 天より降り立つ龍狐
    辰宮 稲荷姫aa5268hero002
    英雄|9才|女性|シャド
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