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Die Geissel Gottes
掲示板
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暴走族止め隊(相談卓)
最終発言2017/09/09 00:03:16 -
質問卓
最終発言2017/09/09 01:17:45 -
依頼前の挨拶スレッド
最終発言2017/09/06 02:01:19
オープニング
●彷徨う炎
海沿いの道を、爆音を響かせ派手な装飾を施されたバイクの群れが疾走する。今時珍しい走り屋系の一般ヴィランズだ。ところにより珍走団などと呼ばれているとかいないとか言う状況に置かれても、彼らはただの道路を野良のサーキットに変えてスピードを競う事に喜びを感じ続けていた。
潮風を切り、若者達は夜の中を疾駆する。わざと五月蠅くなるように改造したマフラーは、速度が上がるごとにその音を激しくしていく。近くに住まう人々にとっては堪ったものではない。窓を閉め切ろうとカーテンを閉め切ろうと、その音は遮れないのだから。
しかしそんな爆音が、”それ”を引き寄せてしまったのかもしれない。
「……そうだねぇ。今回は”神の災い”にでも倣ってみよう」
ローブを頭から被り、全身を包み込んだ男がヴィランズを見下ろして呟く。その左手に提げたカンテラを掲げると、ふとその中に込められた石炭の炎が激しさを増す。辺りには目もくれずに走っていたバイクの群れが、突如その場に止まる。
「あん?」
先頭を走っていた若者が、間抜けな声を上げて山の方を見上げる。彼の眼にまず映ったのは、闇の中で揺らめく炎だった。人魂のように浮かぶ炎。若者は初め怪訝な顔をしていたが、やがてその目は虚ろになっていく。
「んだよ、これ……」
森の中からぬっと男が姿を現わす。その脇には、無数の霊魂を従えた紅い騎士が立っている。
「血気盛んな若者たち……我らの力になってもらうよ」
男の操る炎を前に意識朦朧とする若者達に、男の言葉は聞こえない。騎士が腰に差した刃を抜いた瞬間、霊魂はぼんやり立ち尽くす若者へめがけて一直線に飛んでいった。
●彷徨える魂
「ヒャッハー! ヒャッハヒャッハヒャッハー!」
休日の遊園地に爆音が響き渡る。派手なモヒカン、袖の千切れた革ジャン、まるで某愚神に倣ったかのような姿恰好で若者たちが続々とバイクで乗り込んでくる。その目は全員紅く輝き、いかにも狂気的な色を帯びていた。しかし悲鳴を上げて逃げ惑う市民はいない。プリセンサーがこの襲撃を事前に察知、手を回していたのである。
「大丈夫だ。こっちに来たら俺達が追い払ってやる」
「今、他のエージェントの皆が実際の戦闘へと向かってる。安心して待つんだ」
白と黒、テレビの中から出てきたヒーローのような装いを身に纏った二人のエージェントがレストランへと逃げ込んだ市民達に呼びかける。年端も行かない子どもが多かったが、彼らの姿に興味津々で外で従魔が暴れているとは気づいていない様子だった。
かくして避難の済んだ遊園地の広場にて、君達は爆走する走り屋達と対峙していた。彼らは短銃を引き抜くと、バイクで一直線に突っ込んでくる。素早く武器を構えた君達だったが、突如ヒャッハー達はバイクを百八十度転じ、急にエージェント達から距離を取りながら銃弾を撃ちかけてくる。咄嗟に躱して追いかけようとするが、従魔の力で強化されたバイクにはさすがに追いつけない。昔々から数で勝る農耕民族が幾度となく苦しめられてきた、遊牧民族の絶技パルティアンショットである。
「ヒャッハー!」
「ヒャッハー!」
もうこれしか言わない。銃の一発一発は石ころをぶつけられた程度にしか感じないが、叫びと合わさり重なると煩い。若干イラついたりしたかもしれない。しかし油断する事も出来ない。そのバイクにも勝るとも劣らぬ速さで汗血馬を駆り、紅い鎧を纏った騎士が深紅の長剣を君達に向かって振り下ろそうとするのである。
「ふふ……来たねぇ、常世の兵士達。私は貴様達を待っていたのさ……戦をする相手を……」
ローブを纏った男が、遊園地を一望できる鉄骨の上に立ってヒャッハー軍団とエージェント達が衝突する様を見つめている。右手の剣を強く握りしめると、ローブの奥に隠れた目をギラギラと光らせ叫ぶ。
「寄せては返す”神の災い”を前に敗れるがいい!」
解説
メイン レギオンに囚われた一般ヴィランズをどうにかする
サブ 犠牲者を出さない
エネミー……[]内PL情報
ミーレス級従魔レギオン(走り屋)×30
レギオンに取りつかれた走り屋集団。プリセンサーの予測通り遊園地に襲い掛かってきた。
●ステータス
[物攻A、その他C~E]
●スキル
・パルティアンショット
巧みにバイクを操り攻撃。[バイク搭乗時:攻撃を行った後、直ちに最大移動力分まで移動する事が出来る。]
・転倒
盛大に事故る。[バイク搭乗時:戦闘不能になる時、直ちに10ダメージをこのキャラクターに与える。]
●装備
・短銃
[単体物理、射程0~10]
・バイク
[搭乗時:移動力を12にする]
ケントゥリオ級従魔ベルーム
レギオンを操る紅い騎士。バイクに勝るとも劣らぬ速さで疾駆する。
●ステータス
[移動S、物攻・生命B、その他C~E]
●スキル
・死の舞踏
血染めの旗が空に揺らめく。[レギオンの物攻・物防+50]
・再行動
[移動力を消費しきっていない場合、攻撃後に再度移動できる]
――以下PL情報――
ケントゥリオ級愚神ウィルオウィスプ
どこかから戦いの様子を見つめている愚神。やたらと戦術に拘っている。
●ステータス
ステータス:回避A、その他D以下、飛行
●スキル
・呪いの焔
魔法。前方範囲型。命中時劣化[攻撃‐50]を引き起こす。
フィールド
・遊園地(広場)
半径30sqの円形。地面はアスファルト。別働隊によって既に避難は完了している。
・晴れ
見通し良好。
Tips
・バイクから落ちるとレギオンに取りつかれていた走り屋は重篤なダメージを受ける。
・ウィルオウィスプはレギオンが全滅すると捨て台詞を残して撤退する。
リプレイ
●足を刈るのは常套手段
「ただのモヒカンか。“アイツ”ならただじゃおかねぇところだが……」
赤城 龍哉(aa0090)は仁王立ちして周囲をぶんぶん言わせるモヒカンバイカーを見渡す。その姿を見ていると、今やつるはげなトリブヌス級愚神を思い出す。ヴァルトラウテ(aa0090hero001)もまた呆れたように呟く。
『倒しても倒しても湧いて出ますものね。あとクリスマスにも似たようなヴィランズが居ましたわね』
「あーそうだな。とりあえず片づけるか」
街中をぶんぶん走り回ったクソジジイ軍団も思い出してしまった。溜め息をつくと、龍哉は釣竿を担いで駆けだす。
「ヒャッハーッ!」
銃に弾を込め、パカパカ撃ってくるモヒカン。さらりと躱しながら、氷鏡 六花(aa4969)は小さな拳を高く突き上げる。
「あなた達が現れなければ……皆、楽しく遊べてたはずなのに……。皆の楽しい時間を邪魔した事、絶対に許さない……!」
その拳を振り下ろした瞬間、周囲にいた全員に物理的なプレッシャーがのしかかる。
「ひゃは?」
ぶんぶんと耳障りな音を立てていたバイクも急に静かになり、急停止急加速の危険運転からロータリーを走るかのような安全運転へと変わってしまう。間抜け顔を晒すモヒカンどもに、ロケットランチャーの弾頭が向けられる。
「ヒャッハァーッ!」
彩咲 姫乃(aa0941)は入場口の上に立ち、それはそれはいい笑顔で引き金を引く。駆け巡るモヒカンの目の前で爆風が巻き上がり、思わずブレーキをかけてしまう。
「爆音爆風の強制背水の陣を味わえ!」
モヒカンは方向転換で凌ごうとしたものの、さらに速射砲の一撃が行く手を遮る。
「そう簡単に走り回らせると思うなよ」
晴海 嘉久也(aa0780)は次弾を装填しながらモヒカンを睨んだ。歴戦の戦士の気迫は、何も考えていないヒャッハーも本能的にビビらせる。銃口を向けて必死に弾丸を撃ち込むが、弾は脇へと逸れていく。
「……」
戦の権化たる深紅の騎士は、モヒカンの士気が半壊している中を単騎で駆け抜けエージェント達へと突っ込んでいく。深紅の剣を引き抜き、高々と掲げて。
『壊しても壊しても……ふふ、面白いね……』
「(“また”……か)」
一ノ瀬 春翔(aa3715)が考え込む前で、エディス・ホワイトクイーン(aa3715hero002)は薄笑いを浮かべ、薔薇を象る盾を構えた。斜めに突き出された盾は、振り下ろされた刃を表面でつるりと滑らせる。騎士はそのままエディスの脇をすり抜けようとしたが、そこへ御童 紗希(aa0339)――カイ アルブレヒツベルガー(aa0339hero001)が立ち塞がる。
『逃がしはしねえぞ、紅い騎士!』
大剣を振るって騎士を押さえに掛かったカイだったが、騎士は強引に高く跳び上がってその頭上を躱していく。紗希は思わず突っ込む。
「ちょっとカイ!」
『……チッ! こないだはほとんど動かなかったくせに!』
騎士はそのままカイ達の背後へと駆け抜けようとする。しかし、サイドからさらに世良 杏奈(aa3447)が突っ込んでいた。
「それで逃げられると思ったらダメよ!」
狂気の顕現“アルマギノミコン”を開いた瞬間、黒アゲハの大軍が騎士に押し寄せる。剣を振るって蝶を斬り払おうとする騎士だったが、物量に押し切られて蝶の渦へと呑み込まれていく。ルナ(aa3447hero001)は声を弾ませた。
『(よし、綺麗に決まったわね!)』
「どうして復活したのかは知らないけど、もう一度倒されなさい!」
『サンキュー! 索敵装備を持ってるメンバーは索敵してくれ! 近くにデカいのがもう一匹居るはずだ!』
カイはサムズアップを送ると、素早く周囲を見渡し叫ぶ。
「う゛ぁひゃっひゃっ。残念じゃがわらわは持っとらんわい」
年を取り弛んだ肉体を惜しげもなく晒しながら、ヴァイオレット メタボリック(aa0584)はオモチャみたいな雰囲気のバズーカから次々にミカンを撃ち込む。顔面に直撃を貰ったヴィラン達は次々に仰け反っていく。
『やれやれ、調子がいいのう』
ノエル メタボリック(aa0584hero001)は困ったように、楽しそうに呟く。肉体までも変えて自分探しを続ける相方の戦いを、ノエルは既に末まで見届けるつもりでいた。
動きの鈍ったバイクに向かって、六花は極点の氷気を巻き起こす。いくら従魔に憑かれて乗り手がヒャッハーになったといっても、バイクはただのバイク。瞬く間に凍りつき、慣性に取り残されたヒャッハーは次々に地面へと投げされていく。
「ヒャアーッ!」
「従魔が憑いたままなら転んでもダイジョブ……だよね?」
『(……大丈夫よ、多分。それよりもこの状況、猪豚を退治した時の事を思い出さない?)』
「うん……言われてみれば」
アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)に尋ねられ、六花は小さく頷く。
『(あの時といい、今といい、従魔だけが暴れるにしては集団に血が通い過ぎているわ。きっと指揮官役の愚神が居るはずよ。きっと、この戦いを一望できる位置に)』
六花はさっとジェットコースターの頂上を見上げる。共鳴して強化された視力が、70メートルの彼方にいる幽鬼の姿を捉えた。
「あんなところに……!」
「氷鏡、先に行くのぢゃ、あやつ自体はきっと弱い。放っておけば逃げてしまうぞ」
メタがただでさえクシャクシャな顔をさらにクシャクシャにして言い放つ。一瞬誰なのかすら分からなかった六花は、戸惑ったように目を瞬かせた。
「う、うん……ありがとっ」
六花は駆け出す。半分のモヒカンがエンジンをぶっ壊されたが、それでもまだ半分残っていた。
「ヒャァアアア――」
しかし、再び調子づこうとしたモヒカンの襟に鋭い釣り針が伸びていく。
「大人しくしな」
「いい加減煩いぞ」
龍哉と嘉久也が肩を並べて釣竿を引っ張ると、ぴゅんとヒャッハーが空へ舞い上がる。まるで鰹の一本釣りだ。龍哉は飛んできたモヒカンの鳩尾に寸勁を叩き込み、嘉久也は手刀で小銃を叩き落としそのまま絞め上げに掛かる。共に武術を極めた者、その動きは鮮やかである。
「……そういやこんな手のやり口、以前にも見た事がある気がするな」
『畑に猪豚の群れを仕掛けてきたやり口に似ていると言えば似ていますわね』
「前にも何かあったのか?」
龍哉とヴァルトラウテのやり取りを横で聞いていた嘉久也が尋ねる。龍哉は三体目のモヒカンを釣りあげながら頷く。
「まあな。似たような戦いを二月三月くらい前に見たんだ」
「ひとりめー、ふたりめー、さんにんめー……」
龍哉と嘉久也が脇へと放り出したヴィラン達に駆け寄ると、姫乃は手にしたガムテープでその足と手をぐるぐるに縛り上げていく。その纏う炎のオーラが残像を作るほどの速さで姫乃は戦場を駆け巡り、ヴィランの手足を封じていく。
「(虫で溢れたギアナ支部の掃除に比べりゃ、こんなの朝飯前だぜ)」
『(ヒメノー)』
「あん?」
魂の奥底でメルト(aa0941hero001)がもぞもぞと動く。少なくなったモヒカンと隊列を組んでカイ達に突撃する紅騎士が気になるらしい。メルトは元々脳味噌の無いスライムだ。つまるところ、騎士には本能に訴える何かがあるのだろう。姫乃は手を止めないまま首を傾げる。
「(……アイツめ、白騎士の兄弟か? あの旗といい、馬といい……)」
「のぉ、姉者、わらわはヴィランズを旗揚げするのじゃ」
地引網でもするかのように網を投げ打ち、地面に転がるヴィランズを捉えて引き寄せる。太ってオバハンになってとうとうババアになって。文字通り姿も形も変えてこの世を彷徨う彼女は、人生と向き合う事を拒んだ馬鹿者達をじっと見つめていた。
『その心はなんじゃ』
ノエルはメタに尋ねる。どんな答えが返ってこようと受け入れる用意は出来ているが。
「この世には、こうして暴れる事でしか自己表現出来んような奴もおるからぢゃ」
大きな口を開いて、メタはけらけらと笑う。浮いてきた総入れ歯を押し込みながら、そっと付け足した。
「……この姿の所為で、そんな事を考えてしまうのかもしれんのぢゃが」
姫乃はちらりとメタの方を見る。ヴィランズがどうのこうの聞こえた気がした。
「(……聞かなかったことにしとこ)」
「背中は貰ったわ!」
紅騎士が方向転換した隙を突き、杏奈は騎士の背後にさっとしがみつく。馬は嘶いて跳ね、騎士もまた全身を捩って杏奈を振り落とそうとするが、彼女は二重のロデオを上手い事乗りこなす。杏奈は懐から正八面体の朱緋に染まった結晶を取り出す。
「さあ、ぶっ飛ばしてあげる!」
『(杏奈、行っちゃえ!)』
さっと結晶を噛み砕くと、杏奈は騎士の後頭部に掌を押し付けた。彼女の手元で闇が集まり、不意に星屑の光を撒き散らしながら弾ける。身の防ぎようもなかった騎士は、つんのめって馬と共に地面に転げた。頭を振っている騎士に向かって、素早くエディスが踏み込む。
「ここだ……! エディス!」
『ふふ……全力全開。耐えてくれる?』
エディスが手を差し伸べると、騎士を取り囲むように次々に三本の炎を纏った斧が降ってくる。その様はまるで騎士を捕らえる檻のようだ。
「カイ! 行くぞ!」
『分かってる!』
カイが水縹を担いで跳び上がった瞬間、エディスは斧を一本引き抜く。振り下ろされた一対の刃。騎士が両腕を突き出しカイの一撃を受けるも、その背後をエディスの刃が切り裂く。騎士がエディスの方へ振り返ると同時に、二人の横薙ぎが襲い掛かる。獣の牙のように、交差した横薙ぎは騎士の鎧を噛み砕く。
『えーい!』
「喰らえ!」
エディスは遠心力を載せた横薙ぎをもう一発、カイは前宙の勢いを乗せて袈裟切りを叩き込む。先の二発でフラフラの騎士は、立て続けに二発を喰らって力なく吹っ飛んでいった。
「……」
騎士はどうにか立ち上がり、指をパチリと鳴らす。倒れた馬が血霧となり、騎士の傍で再び新たな形を取り戻す。騎士はやっとこ馬に飛び乗り、再び戦闘態勢を取る。
「耐えられたね……ふらふらだけど」
『さっさと氷鏡の掩護に向かいてえとこなんだが!』
カイは剣を握りしめて騎士を威嚇する。しかし従魔は怖気づきすらしない。武器を構え直したカイだったが、その肩を背後から龍哉が叩く。
「おい、ここは俺達に任せて氷鏡の方に行ってやれ」
「任せとけって。後始末くらい済ませとくからさ」
ハングドマンを振り回しながら姫乃も得意げに笑みを浮かべる。カイ、エディス、杏奈はさっと目配せすると、小さく頷いた。
『止めを刺せなかったのは至極、本当に、残念ですが。此処はお任せします』
「頼みました!」
●間抜けな指揮官
「確かに動きは速いが、それだけじゃあな!」
龍哉の手から放たれたネビロスの繰糸を飛び跳ねて躱す騎士。しかしその攻撃はフェイク。素早く黒潮を手に取り、馬の足下に向かって素早く振り抜いた。跳んで宙に浮いた足はいとも簡単に刈られる。つんのめったところを、龍哉は一気に間合いを詰めた。
「仕掛けは大きいが大雑把に過ぎる。手前、目的は何だ?」
『このお粗末な仕掛けは誰の発案ですの?』
向かい合う騎士は何一つ言葉を発しない。
「だんまりか。……お前も操り人形らしいな」
龍哉は鋭くライヴスを纏わせた掌底を叩きつける。馬はぐらりとよろめき、騎士もまた体勢を崩す。満身創痍ながら武器を構え直そうとする騎士だったが、それよりも早く橙色の炎が襲い掛かる。
「持久走で勝てなくても、一瞬の速さで上回ってる限り俺の方が速い!」
姫乃は斧を大きく振るうと、その遠心力をも利用し目にも止まらぬ速さで騎士の死角から死角へ跳び回る。
「三閃、焔の如く!」
周囲を巡りながら、次々に叩き込まれる疾風怒濤の三連撃。全てのモヒカンを釣りあげられ、単騎となってもなお戦い続けていた騎士もとうとう限界を迎えた。全身を三枚おろしにされた瞬間、その全身は血霧へと変わって吹き飛ぶ。
「……よし。これでこの辺は終わったな」
姫乃は素早くジェットコースターの頂上を見上げる。二つの影が正面きって対峙していた。
「何だ、何だよ貴様ら!」
鉄骨の上にふよふよと浮かび、ローブを纏った愚神――ウィルオウィスプは喚く。その目の前では、細い鉄骨の上に器用に立ち、六花が魔導書をぱらりぱらりとめくっている。
「そのカンテラと剣があなたの武器?」
『戦術を弄するのが好きみたいだけど……かのナポレオンも冬将軍の前では無力だったわ。氷雪の女神の力、思い知りなさい……!』
六花の口を借りてアルヴィナが鋭く言い放つ。冬、の単語を聞いて愚神は一瞬肩をびくりと震わせたが、直ぐに彼は高らかに笑い始める。
「は、はっ。はっ! General Frostがいかほどのものか! 私はそんなものに怯まな――」
「えいっ!」
愚神の言葉を遮り六花は天に掲げた掌を地面へと振り下ろす。瞬間、ジェットコースターの頂上の重力が激しく歪み、宙に浮いていた愚神はバランスを崩して地面へと真っ逆さまに落ちていく。
「うわわわわ! 何だ何だ何だ! 一体何が――」
「吹き飛びなさい! バーティカルウィンドシア!」
薔薇の箒に跨り突っ込んだ杏奈が、魔導書を開いて局所的な乱気流を生み出す。風に揉まれた愚神は為す術なくアスファルトに叩きつけられた。
「いたっ! いった!」
「貴方は一体何者? 騎士達や“死神”って奴とはどういう関係?」
自分はふわふわと浮かんだまま、杏奈は愚神をじっと見下ろす。よろよろと起き上がると、愚神は剣を振り回して叫んだ。
「いきなり攻撃してくるなんて! 何者か聞きたいのはこっちだ!」
『間に……合った!』
音も無く迫り、跳び上がったエディスが振り被った斧を愚神へ振り下ろす。愚神は咄嗟に身を引いてその一撃を躱し、肩を縮こまらせてエディスに振り返る。
「酷い! 酷いぞ! 敗軍の将にも情け容赦無しだなんて!」
「うるせえよ」
春翔は一言で斬り捨てると、エディスと共に愚神の全身を見渡す。左手にカンテラ、右手に剣。嫌というほど切って捨てたあの敵にそっくりだ。
「カンテラに……剣。テメェがリーパーの親玉か? ……にしちゃ随分セコい手ェ使いやがるな」
「親玉……? 親玉なんて恐れ多い! 私は常に主の僕であるとも。そう、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も――」
『ぺらぺらぺらぺらうるせえよ!』
またしても愚神の言葉を遮り、今度はカイが水縹を手に踏み込んだ。虚を突かれた愚神はすっぱりと背中を斬られて吹っ飛んでいく。
「いたーい!」
『(コイツなのか? こいつが騎士を再生し続けているのか? いやコイツじゃないだろうな……どう考えても騎士を束ねるようなタマには見えねえ)』
「(倒してみれば何かわかるかもね)」
「何だよこれぇ……はがせよぉ……」
手足がガムテープでぐるぐる巻きのままで目を覚ましたヴィランズは、うんうんと唸りながら芋虫のように身を捩る。エスティア ヘレスティス(aa0780hero001)は困ったような顔でじっと覗き込んだ。
『だめです。皆さんの意志じゃないかもしれませんが、この遊園地で暴れたのは間違いないんですから。警察で事情聴取してもらってくださいね』
「サツゥ? 何で? オレ達何にも悪い事してないじゃねえか!」
「……しているでしょう。この改造バイク……どれもこれも全部車検に通るような代物じゃないですよね?」
嘉久也が冷静に指摘すると、ヴィランズははっとなって広場の方をみる。エンジンも何もかもカチコチにされたバイク、転倒の衝撃でハンドルやら何やらがバラバラになったバイクが無残に転がされている。
「あ、あーっ! バイク全部ぶっ壊れてる! ああ……」
己の第二の愛人の惨劇を見つめ、ヴィランズは絶望してコロンと転がる。
『悪い事、してしまったでしょうか?』
「いいえ。仕方ない事です。ひとまずヴィラン達は集め終わりましたし、もう一度共鳴しておきましょう」
二人は頷くと、その手を重ねて一つに融け合う。漆黒の鎧を纏った偉丈夫となった嘉久也は、取り囲まれてわたわたしている愚神を見据える。
「……間抜けなようで、どうにも面倒な事をやられそうな気がするな」
「おかしい! おかしいじゃないか! 貴様ら私を一体どうしたいんだ!」
己を取り囲むエージェント達を見渡し、愚神は叫ぶ。
「決まってるだろうが!」
「貴方の企みを知りたいのよ!」
「貴方の後ろにいる愚神の事も!」
春翔、杏奈、六花が次々に叫んで攻撃を見舞う。大振りの斧、乱れ飛ぶ風の刃と氷の槍を愚神はするする飛び回って躱そうとするが、三人の攻勢を前にすっかり背後の注意が御留守になっていた。
『これでも喰らっとけ!』
カイが激しい燐光を放つ大剣を一息に三度振り抜く。はっと振り返った愚神は一撃、二撃とふらふら飛び回って躱すが、止めの横薙ぎはもろに喰らった。愚神は呻き、その場にくったりと崩れ落ちる。
「だからぁ、おかしいと言っているでしょーう。人の話を聞きたいくせにどうしてボコボコ殴ってくるんですかぁ!」
『当たり前でしょ? だってエディスは貴方の事ぶっ壊したいんだもん♪』
「何故! だったら言わないぞ! 主の為、何の口も割らずに死んでやるぞ! それでもいいのか? 貴様達は主の顔すら拝む事も出来ずに滅びの時を迎えるぞ。いいのか!」
愚神は必死に喚く。ハングドマンの先に結ばれた短剣を弄びながら、姫乃もやってきて囲いに加わる。
「何だコイツ。ザ・小物じゃねえか」
「お前みたいな奴から有益な情報を得られるとも思えないが?」
龍哉も加わり、凱謳を構えて早速臨戦態勢になる。仲間達も合わせて囲いを狭めていくが、春翔だけは輪に加わろうとするエディスを引き留めていた。
「(……主。こいつの言う主って……もしかして)」
ふと脳裏に過る、虚無を映したライヴスゴーグル。そして思い出す。そのUNKNOWNは、彼と仲間が戦うすぐ背後で、何者も気づかぬうちに勝手気儘をやってのけた事を。
「待ってくれ。……こいつにはキチンと口を割ってもらう」
「ん? なんか気になる事でもあったかよ?」
姫乃の問いには応えぬまま、春翔は愚神に向かって尋ねる。
「お前の言う“主”ってのは、“死神の主”か?」
愚神は鼻先まで隠すフードの下でにやりと笑みを浮かべる。
「答えて欲しいのなら私の身の安全を保障するのが先だ」
エージェント達はさっと目配せする。エディスに斧を下ろさせ、春翔は低く声を発した。
「……次はねえぞ」
「はっはっは。素直が大事、素直が大事……そうとも。私は死神。その主なのだから主は“死神の主”なのだ。肥え太った生を喰らう、痩せさらばえた死なのだ」
吟遊詩人にでもなったつもりか、愚神はぺらぺらと言葉を並べる。春翔は軽く唸った。何本も糸が交錯している。
「六花は、白い騎士も見た。蒼も、紅も。騎士は一体何なの。貴方が造れるような従魔じゃないでしょ」
六花は愚神を見据える。冷たい光がその瞳に宿っていた。
「その、“死神の主”が造ってるんでしょ」
「勘のいい子供は嫌いじゃないとも。そうだ。私は預けられたのだ。主は戦果を挙げた私を愚神として取り立て、紅騎士様を……主の写し身を預けてくださったのだ」
愚神は頷くなり、どこか誇らしげな口調で言い放つ。
『お前は戦い方に何か拘りがあるようだが、それに意味があるのか? ……この戦いはお前にとってゲームなのか? それとも、その“主”とやらの目的に関わっているのか?』
カイの質問を愚神は鼻で笑った。愚神は光を増していくカンテラを振り上げ、カイの鼻先へずいと迫る。
「何を言う。私如き、主の宿願を果たす力になどはなれない! 私は戦っているだけだ。私が誰に付き従っていたかを知るために。それが主の望みでもある故に!」
「随分と“主”とやらに心酔しているみたいだな」
「一体その“主”とは何者なの?」
大剣を担いだまま、魔導書を開いたまま龍哉と杏奈は尋ねる。愚神はだらしなく笑うと、二人に向き直って両腕を広げる。
「はっはっは。聞きたいだろう。ならば教えてやるとも。主は“14世紀”なのだ。“17世紀”でもある。“20世紀”でも、そして“今”でもある!」
「14世紀……?」
「ああ、そうだ。主は貴様らが“危機”と呼ぶ者さ。生と死を再びあるべき形へと蘇らせるために立ち上がったモロスであり、ケールでありそしてタナトスなのだ!」
半ば絶頂に至ったかのような恍惚の口調で愚神はエージェントの囲いの中で高らかに賛歌を唱える。狂っている。ただでさえ価値観が絶望的に転倒している愚神達だが、この愚神は分かりやすいくらいに狂っていた。
「貴様らは幸いである。絶対の滅びへと至る前に、我が主によって救済されるのだから! はっはっは……」
愚神は不意に浮かび上がる。ふわりふわりと漂い、天へと昇って行こうとする。
「おい、待てよ」
しかし春翔達エージェントがそれを見逃すわけもない。待ち構えていたように武器を構える。姫乃は誰よりも素早くハングドマンを振るい、短剣を愚神に向かって飛ばした。
「何逃げようとしてんだ! お前みたいに面倒くさい奴逃がすわけねーだろ!」
「そう来るだろうと思っていたとも! ああまったく!」
だが、この愚神も腐ってもケントゥリオ級。激しく輝くカンテラを振るうと、紅の光が次々に飛び出した。光はすぐに朧げに人の形をとると、伸びてきた姫乃の短剣をその手で掴む。六花が氷槍を飛ばすが、それも別の人魂が身を挺して受け止める。
「吹き飛べ!」
愚神が言い放った瞬間、人魂は次々に弾けた。ダイナマイトのように激しい爆風がエージェント達を呑み込んでいく。
「やはり来たか」
『せっかく助けたんぢゃ、今更傷つけさせはせん』
嘉久也は大剣を、ノエルは盾を構えて爆風に対峙する。その背後に縮こまるヴィランズを守って。
『くそっ……おい、待てよ! 待ちやがれ!』
カイは必死に叫ぶ。しかし愚神は一目散に飛び、その行方をくらましてしまうのだった。
●死神の主
「ババァア! ありがとうございましたああ!」
ノエルに向かって、ヴィランズは額をアスファルトに擦りつけるかの勢いで平伏する。爆風から守られたことですっかり頭が上がらないらしい。
『これ、頭を上げい。無駄に己の時間を使わせるでない』
そう言いつつもノエルはその表情を緩める。ノエルもまた、このヴィランズを率いて一旗揚げるのも悪くない気がしてしまうのだった。
「それはいいですから、ひとまず警察のお世話になってくださいね」
『もう警察さんはお外で待ってますよ』
嘉久也とエスティアが苦笑しながら話しかけると、ヴィランズは慌てて向き直り、再び平伏する。
「お二人もありがとうございましたああ!」
額づくヴィランズを適度にあしらいつつ、嘉久也はふと仲間達の方を振り返る。
「(……それにしても、どうにも引っかかる話をしていましたね。あの愚神は)」
「とりあえず“今回”は一件落着ってわけね」
紗希は警察に引き立てられるヴィランを見つめて呟く。ルナも頷いた。
『そうね……これからどうするのかしら。あのヴィランズ』
「避難してた人はとりあえず落ち着いたみたいだぞ」
レストランの方角から、姫乃が駆けて戻ってきた。龍哉は難しい顔のまま出迎える。
「そうか。……いよいよ気になる事は出てきた感じだけどな」
「ん、ですね。“死神の主”……14世紀、とか、17世紀、とか、一体何のこと、でしょう」
『17世紀は小氷期のピークの一つね。世界の各地で飢饉が発生したのよ』
アルヴィナは六花に語る。氷期のサイクルはよくよく覚えていた。
『14世紀は黒死病で数え切れないほどの人が命を落としたそうですわね』
『20世紀には世界大戦ってか。じゃあ今は何だってんだよ……』
ヴァルもカイも自らの知恵を巡らせる。その横で、春翔は一人記憶を辿り続けていた。
「(“死神の主”……夜霧も、その主とやらと結んでたって事なのか?)」
『お兄ちゃん、考え事?』
春翔は煙草を携帯灰皿に押し込むと、エディスの髪をくしゃくしゃと撫でてやる。しかしその目は、愚神の消えた空を睨み続けていた。
「……ああ、まあな」
「くそ、くそ……こんな所で魂を無駄に使ってしまうなんて……これだけじゃあ騎士様を授けてくださらないぞ……」
昏い昏い森の中、ウィルオウィスプは火の弱ったカンテラを振る。歯を剥き出し、痩せた手で顔を押さえて呻く。騎士は主からの信頼の証。それを失うわけにはいかなかった。
「なら、その魂も必要ないだろう」
しかし、不意に金色の影がウィスプの目の前を横切る。
「何だ、貴様」
「寄越せ……その兵を私に……!」
外套の裾をはためかせ、脇差を手に影はウィスプへ斬りかかる。
その影は隻腕であった。