本部

花の冠・詩

紅玉

形態
シリーズ(新規)
難易度
不明
オプション
参加費
1,300
参加制限
-
参加人数
能力者
8人 / 4~8人
英雄
8人 / 0~8人
報酬
多め
相談期間
5日
完成日
2017/09/22 19:41

掲示板

オープニング

●春の君
 イギリス南部の都市サウサンプトン、そこは水道が通っており縮小はしたものの貿易港とてイギリス有数のコンテナターミナルが所在する。
「狂っても、なお……か」
 と、真田 雪は瞳を細めながら愚神を見上げた。
『蓮の記憶を辿ると此処の様じゃな』
 コンテナの上にそっと足を着け、幼い少女の愚神は鈴を転がす様な声で呟いた。
『器、返してもらうぞ』
 幼い少女の愚神はそう吠えると、鴉の様な頭に人の体を持つ従魔が槍を手にし倉庫へと向かって滑空した。
「仕方がない。倉庫のモノを移動させろ! 最悪、処分して構わない」
 雪は部下に向かって指示を出す。
『どう、動くのか?』
「知らん。しかし、支部のカンの良い奴は関わらぬだろう」
『被害が出るのに?』
 雪の言葉に英雄は首を傾げた。
「だから、こそな。愚神の目的が私であると知ったら、エージェント達はコチラに目を向けるだろう」
『代償は大きくないか?』
 と、問う英雄を見て雪は小さくため息を吐いた。
「欲張りは両方を追うだろうな。だが、そうそう上手くはいかないものだ」
「女王、準備完了しました。アレも念のために配備しておきました」
 部下が雪の元へと駆け寄り、耳元で現在の情況等を報告する。
「あぁ」
 雪は踵を返し、倉庫が破壊されていく音を背にその場から去った。
(それに、父上には私が命を落としても妾 の子が何人か居る……獅子の子は獅子のでならねばならない。静音、もう直ぐ貴女の側に行くかもしれんな)
 本当に愛していた少女の優しい笑みを脳内に映し出しながら、雪は何処か悲し気な笑みを浮かべた。

●感知
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。それでは内容をお話しします。イギリス南部にあるサウサンプトンの港にある倉庫が愚神に襲撃されるのを、プリセンサーが感知しました」
 ティリア・マーティスは、アナタ達の端末に資料を転送する。
『それと、梅姫に酷似した愚神の存在も感知されました。しかし、襲撃するのは人の様な姿の鴉……』
 トリス・ファタ・モルガナが従魔と愚神に関する話をする。
「あの、タイタニックが寄っていたという程で、現在ても大型客船がそれなりに来るという港です。もし、客船まで襲われたらかなりの被害が出ると予想されております。どうか、皆さんの手で守って下さい」
 アナタ達に向かってティリアは深々と頭を下げた。

解説

【目標】
一般人の避難と従魔の撃退
※従魔が撃退されたら愚神は撤退します。

【場所】
イギリス南部にあるサウサンプトンの港(昼)

【一般人】
客船に100人
倉庫に従業員が50人

【敵】
梅姫と酷似した愚神が1体
初めて見る愚神なので、データベースには何も載ってない。
圓 冥人も知らない様です。

従魔『黒翼』20体
全長約2m。ミーレス級。人の様な姿に、全身が黒羽に覆われている。
手には槍、風を操る魔法も使える。
・技
『疾風突き』
槍に風を纏わせ、力強く突いてくる。
『投擲(槍)』
槍を対象に向けて真っ直ぐに投げる。
『旋風』
対象を巻き込むように周囲に旋風を起こす。

【NPC】
圓 冥人のみ
英雄の指定可能です。

【PL情報】
・OP
真田 雪達の発言や行動は、プリセンサーは感知出来ないので知りません。

・愚神『春君(はるのきみ)』
梅姫が春の花の名を冠する姉妹を取り込んだ姿。
強いので注意してください。
関連シナリオ『梅姫』『桜華』

・選択
【普通に『目標』をこなす】
もしくは
【愚神と従魔が倉庫を襲うの目的を判明する為に調査】
の両方もしくはどちらかを選んでも構いません。
両方を選んだ場合は難易度が上がります。
2話の内容が変わる分岐となります。

・圓 冥人
『選択』の後者を選べば、雪に関する話を友好を結んでおり尚且つ親しいPCが聞いたら答えます。

リプレイ

●イギリス南部の都市『サウサンプトン』へ
「倉庫が狙われるのね。とはいえ、船にいるのも危ないか……」
 餅 望月(aa0843)がプリセンサーの情報を再確認し、サウサンプトンの地図を見つめながら言った。
『狙われたら逃げ場がないよ』
 と、海へ続く川を指しながら百薬(aa0843hero001)は眉をひそめた。
「うん、そっちから行こう」
 望月と百薬は駆け出した。
『(人の多い客船ではなく倉庫を狙うという事は、敵の狙いはライヴスではない!)』
 バルトロメイ(aa1695hero001)が真剣な表情で資料を握り閉めながら立ち上がる。
「……っ! バルトさん、急に立ち上がると驚きます!」
 椅子から飛び上がるとセレティア(aa1695)は、バルトロメイの巨体にドスッと拳を打った。
「2人の女王に迫られる王子様……ですか、……中々面倒ではありますね」
 その隣でГарсия-К-Вампир(aa4706)が頬杖をしながら言う。
『もってもてー? 羨ましいー!』
 その後ろでくるくる回るのはレティ(aa4706hero001)だ。
『おら、さっさと現場へ行くぞ!』
 と、熊の様に吠えるとバルトロメイは、セレティアとレティの首根っこを掴んだ。
「GOD SAVE THE KING!」
 唐突にアリソン・ブラックフォード(aa4347)が叫んだ。
『か、神様がいればおまかせしたいくらいだけど……そうも言っていられないわね。私が精一杯サポートするわ、アリソンちゃん』
 キアラ・ホワイト(aa4347hero002)がアリソンの手を取り微笑んだ。
「じゃあ、とつげきー!」
 ビシッと明後日の方向を指しアリソンは声を上げた。
『それはだめぇ!』
 駆け出しそうなアリソンをキアラは慌てて止める。
「スネグラチカはタイタニック号って知ってる?」
 雪室 チルル(aa5177)がスネグラチカ(aa5177hero001)に問う。
『えっと、確か豪華客船だっけ? 沈没しちゃったやつ』
 と、スネグラチカが答える。
「そうそう! 男女ペアで船首に立ってポーズを取るとカップルになれるんだよ!」
『いくらカップルになれると言っても、沈没しちゃ意味無いでしょ……』
 意気揚々と話すチルルに対し、スネグラチカはとても現実的な言葉を言った。
『冗談はさておき今回はどうするの?』
「基本的な方針としては敵を迎撃する役と、避難誘導をする役、そもそも何でここを襲ったのかを調べる役に別れて行動するよ」
 チルルは指を3本立てる。
『前2つはともかく、最後の1つも目指すとなると難しそうだね。大丈夫?』
「知らないの? あらゆる出来事には理由があるのよ?」
 と、スネグラチカの問いにチルルは人差し指を振る。
『(まーたテレビに影響されてるなこいつ……)』
 その行動を見てスネグラチカは呆れた様子でため息を吐いた。
「迎撃役は避難誘導が完了するまで相手を抑えて、避難誘導が終わったら迎撃役と避難誘導役は合流して敵を殲滅する感じね。その間に調査役が今回の襲撃の目的を調べるよ」
『藪をつついて蛇を出すなんてことがないと良いけど……』
 チルルが今回の襲撃に関して、己がとる行動内容を聞いたスネグラチカは首を傾げながら答える。
「あ、それってテレビの偉い人が言ってたのとまんまじゃん! テレビに毒されてる!」
『お前が言うな!』
 チルルがスネグラチカを指しながら声を上げると、スネグラチカは大声でツッコミを入れた。
「で、あたい達は今回敵を迎撃する役として行動するよ。具体的な作戦としては、接近してくる敵を範囲攻撃で狙って頭数を減らして、接近してきた所を剣と盾で迎撃する形になるかな。今回は味方に挑発系スキルの持ち主もいるみたいだから、ある程度移動先は予想しやすいし、当てるのには苦戦しないと思うわ。ただ、ある程度敵が接近してきたら、こっちも守るべき誓いを使用して相手を誘導するよ」
『兎にも角にも相手と接敵するまでに頭数を減らせないと苦戦は免れないね』
 スネグラチカは作戦を聞きながらこくりと頷いた。
「あと、従魔じゃない方の戦力は全くわからないけど、単騎でいる以上は相当な実力であることは間違いないわ。だからこっちについては避難誘導が終わるまで時間を稼いで、味方と合流後に本格的な戦闘にかかる感じが良いわね」
 うーんと低く唸りながらチルルは愚神の存在を危惧する。
『できれば従魔だけ狙いたいところだけど……』
 不安そうにスネグラチカは答えた。
「雪室様、現地に向かいますよ」
 Гарсияが珍しく真剣な表情のチルル達に声を掛ける。
「はーい! 兎に角、愚神とかち合わない様に祈るしかないね」
『うん』
 チルルがスネグラチカにそう言うと、Гарсияを先頭にイギリスの南部にある都市『サウサンプトン』へと向かった。

「梅姫に酷似……ですか?」
 プリセンサーが感知した内容を聞いた石井 菊次郎(aa0866)は眉を片方だけ上げた。
『主よ……調査済みの愚神に関わるなど危険だけ大きく上がりは少ないというもの。愚かだぞ』
 と、菊次郎の声色で察したテミス(aa0866hero001)は針の様に鋭い言葉を投げた。
「……愚神達がどの様に”遊ぶ”のか? 一連の彼女らに関わる事件はその性を知るのに格好の材料であると思うのです」
 そう菊次郎が呟くと、テミスは呆れた様子で小さくため息を吐いた。

「……どうして、なんの変哲もないような倉庫が狙われているのでしょう……?」
 花邑 咲(aa2346)の脳裏に昔の嫌な記憶がよぎり、不安で胸が苦しいのをこらえて気丈に振る舞う。
『そうですね……。考えられる事といえば、彼らにとって邪魔な物があるのから、でしょうか……?』
 ブラッドリー クォーツ(aa2346hero001)は愚神がこの様な行動を取るのかを考える。
「また母の母国に来ましたが、母ゆかりの地を観光とはいかないようですね……」
 月鏡 由利菜(aa0873)が愚神の襲撃を聞いて少し残念そうに言う。
『観光は別の機会にいつでもできる。今、私達は従魔から人々を守らねばならぬ』
 凛とした声でリーヴスラシル(aa0873hero001)が言った。
「圓さんには、真神さんとの共鳴をお願いしています」
 由利菜が踵を返し、圓 冥人を見上げた。
『うん、元々その心算でしたので』
 と、真神 壱夜が答える。
『戦闘でなければ交流する機会も』
 リーヴスラシルが2人を見て小さく頷く。
「そうだね。互いに無事に帰れることを祈って」
 冥人は笑顔で由利菜とリーヴスラシルに手を振った。
「冥人さん、わたし達も避難誘導しに行きましょうよー」
「はいはい……俺に何があっても自分を第一に考えてね?」
 と、冥人が咲に言う。
「無理です。つい、守ってしまうのがわたしなんですよー」
 冥人の言葉に咲は間髪入れずに答えた。
『そういう事ですので、無謀な事は避けてください』
 と、ブラッドリーが冥人に釘を刺す。
「分かったよ」
『僕が主導権を握っているので安心してください』
 答える冥人に対し、壱夜は笑いながらブラッドリーに言った。

●黒翼
「H.O.P.E.の者です、今、倉庫の方が襲われています。こちらはまだ時間がありますが、戦闘が飛び火する可能性がありますので、避難してください」
 望月が一番最初に来たのは客船だ。
「了解しました。出航まで時間が掛かりますが大丈夫でしょうか?」
 船員が不安げな表情で問う。
「避難マニュアルはありますね? 倉庫側を避けて、安全な場所へ移動してください。人が生きているからこその船です。倉庫側は、ワタシが死守します」
「は、はい! そういう事でしたら、エージェントの皆さんにご武運を!」
 テキパキと指示を出す望月に、船員達は敬礼すると声を上げた。
「みなさん、今すぐこの場を離れてください、愚神が接近しています! H.O.P.E.の指示に従って、退避してくださーい。おさない、かけない、しゃべらない、もどらない(Not,push,Not,run,Not,talk,Not,return.)を守ってねー」
 アリソンは拡声器を片手に声を上げた。
『み、み、み、みなさん、おちついて行動してくださーい! ま、まずはまとまって避難を。愚神到来まで十分時間はあるので、慌てないでください!』
 コンテナターミナルと街を繋ぐ門の前ではキアラが大きな声で誘導していた。

「見付けました。『Clematis』のリーダー真田 雪さん」
 菊次郎はサングラス越しに真田 雪を見る。
「おや、案外早く来たようだな」
 顔色一つ変えず雪は予想してたかのように返答した。
『捕縛する』
「……それだけか?」
 テミスの言葉に雪はきょとんとした声で言いながら首を傾げた。
「詳細は貴女を捕まえてから聞きます」
 共鳴すると菊次郎はラジエルの書を手にし、白いカード状の刃を生み出す。
「今、共鳴を解除するのであれば……見逃そう。そうでなければ、自害するのみ」
「その前に気絶させてしまえば問題ないでしょう?」
 余裕の笑みを浮かべる雪に対し菊次郎は口元を吊り上げた。
「いや、この港周辺を破壊したらどうなると思う?」
「やはり、武器の類でしたか」
 と、雪の言葉を聞いて菊次郎は呟いた。

「倉庫で作業中の皆さん、H.O.P.E.のエージェントです。愚神と従魔がこのコンテナターミナルを襲撃しに来ますので、街の方もしくは船で避難してください」
 全ての倉庫に届く様に配置されたスピーカーから咲の声が響く。
「現在エージェントが客船や倉庫を見回っておりますので、襲撃される前に避難してください」
 咲は言い終えると、マイクのスイッチをオフにし監視塔から出ると空から黒い羽がひらりと目の前に落ちてきた。
『聞こえる、ニオイがする。鳥じゃない、従魔と愚神のニオイだね』
 共鳴姿の壱夜は満月の様な瞳を細めて空を見上げた。
『サキ!』
「どんな理由で此処を襲っているのかは分かりませんが、一般人には近付けさせません」
 咲とブラッドリーは幻想蝶に触れて共鳴した。
 突風が吹いたかと思えば、近くの倉庫が粉塵を上げガラガラとコンクリートの破片がガレキの山となり果てた。
「私達は人々を守るのが役目。騎士の本分、果たさせて頂きます」
『ユリナ、ユキムロ殿もブレイブナイトだ。二人なら広い守備範囲を形成できる』
 共鳴姿の由利菜がイリヤ・メックを黒翼に向かって振り下ろした。
「あたい達が従魔を引き付ければ!」
 チルルと由利菜は『守るべき誓い』を発動すると、従魔『黒翼』達は自然と2人の方へと向かって翼を羽ばたかせた。
「やっほー、従魔さん、その羽ぜーんぶむしり取ってあげるからいらっしゃい?」
『皆はやらせないわ』
 共鳴姿のアリソンは雷神槍ユビテルを手にし声を上げると、続いてキアラが力強く言った。
『あちらさんは高見の見物する様だ。客船は出発したが、狙わないとは限らないだろう』
 まだ無傷の倉庫の屋根に登り、共鳴姿のバルトロメイは『梅姫』に酷似した愚神を横目で見ながら【Gabriel】という銘が刻まれた天使のラッパの吹き口に口を付けた。
 ライヴスが吹き込まれた息は音となり、音は大気を震わせる衝撃波となり従魔『黒翼』達やその周囲を無差別に襲う。
「っ! 石井さんが『Clematis』と交戦しそうです」
 由利菜は、神経接合マスク『EL』で倉庫内を見回すと近くいる仲間に言う。
「わたしが向かいます。壱夜さん、行きましょう」
 と、咲が返答と同時に駆け出した。
「皆様、頭上を注意しててください」
 Гарсияは目覚まし時計「デスソニック」を『ウェポンディプロイ』で複製し、従魔『黒翼』達に向かって投げる。
 黒い体に当たると、教会の鐘が大音量を響かせて鳴り響くと周囲の倉庫に亀裂が走り、粉塵を上げながら崩れ落ちる様子は範囲内の全てを破壊し尽くすかと思う程だ。
『セラフィック・ディバイダーだ、ユリナ!』
「了解です、ラシル! 熾天一閃、羽よ舞い散れ!」
 リーヴスラシルが声を上げると由利菜はイリヤ・メックを握り締め、周囲に集まった従魔『黒翼』達を大きくそして力強く横に『一閃』で倒す。
「あたいだって!」
 チルルは『ライヴスショット』でライヴスの衝撃波を従魔『黒翼』に向かって放った。
 それでもやっと半数近くしか倒せてない。
 すると、『梅姫』に酷似した愚神が『Clematis』と対峙している菊次郎の方向へ跳躍するのを由利菜は見た。
「大変です! 愚神が行動し始めました!」
 と、仲間に向かって由利菜は声を上げた。

●偽の冠、本物の冠
「冥人さん、あの……」
 咲は走りながら口を開いた。
「真田さんについて、お聞きしたい事が……あります。彼女がどういう人で、なぜ今の様な状況(状態)になっているのかとか、冥人さんはどうしたいのかとか。本当は、冥人さんが自分から話してくださるのを待ちたかったのですが……」
「……彼女は、元々はエージェントとして活躍していた。穏やかな人で、慕われていたよ」
 咲の問いにぽつりぽつりと冥人は答えだした。
「どうして、あの様に?」
「全部、俺のせいだよ。妹さえ守れなかった不甲斐ない俺の、ね」
 そう言うと冥人は左手首をぎゅっと握りしめた。
「親同士が決めた相手、一言で断る事は可能だったよ。でも、彼女はこう言った『私が選ばれなくとも、父には子供が沢山いるので貴方が首を縦に振らない限り延々と、そして妹さんにまで被害は及びます。変な事を言うと、私は静音に一目惚れしました』と、衝撃的な告白をされてね」
 と、言うと冥人は瞳を閉じた。

『だから、頑張って好きになりますから! 私を選んで下さい』
 雪が降る中で雪は、ただ心の中に芽生えたモノの為に真っ直ぐな瞳で見つめれた。
 ただ、俺は『分かった』と言葉を紡ぎ彼女達が幸せに暮らせるように婚約者を演じた。

「咲、これから話すのは雪の嫌な思い出……そして、彼女が今何をしようとしているかの予想を話すよ」
「はい」
 冥人の言葉に咲は力強く頷いた。
「それから、暫くして妹が『とても綺麗で不思議な友達が出来た』と言った。最初は驚いたが、本人が嬉しいなら良いと思って俺は深く聞かなかった」
「その友達は……もしかして愚神ですか?」
 と、咲が問うと冥人は頷いた。
「知っての通り、その友達というのは花の女王。何も知らない妹と契約し、人を惑わし、妹を殺した。次の日、妹の亡骸は棺桶から無くなっていた」
「……どうして、抵抗しなかったのですかー?」
「一般人が、リンカーに勝てるわけないよ? 手際の良い事に、雪の父が翌日来て嘆き悲しむフリをしに来たね。全ての元凶は雪の父親……真田 豪雪」
 咲の言葉に苦笑しつつも冥人は答えた。
「真田 豪雪……」
「そして、ここらかは予測ね。豪雪は妹の亡骸をエサにし、雪を『獅子の子は獅子でなければならい』という言葉で縛り非道な事をさせている」
「でも、妹さんは死んでいるのですよねー?」
 咲は疑問を投げた。
「条件を完遂したら、蘇生してやると言われたら……雪はやるだろうね。腐っても裏の人間、他のヴィラン組織と繋がってる可能性だってある」
「……確かに、では冥人さんはどうしたいのですか?」
「償わせる、よ。どういう理由であれ、ね」
 そして、咲と冥人は、『Clematis』と対峙している菊次郎の所に着くと『梅姫』と酷似した愚神が倉庫の上に足を着けた。

『クソッ! 悪いが、黒翼達を任せる!』
 倉庫の屋根から降り、着地した衝撃で地面が震えるのも気にせずにバルトロメイは立ち上がった。
「バルト様、その前に私が空から攻撃しましょう」
『おう! 任せた!』
 バルトロメイは幻想蝶からドラゴンスレイヤーを取り出すと、Гарсияは音も立てずに大剣の刀身に乗る。
『うぉぉぉぉりゃぁぁぁぁ! Гарсия、後は任せた!』
「ええ、武装なされた烏の様なお客様……お覚悟を」
 ルビーをそのまま瞳に嵌め込んだ様な瞳で睨み、噛み締める唇の隙間から出る八重歯は夜の眷属ヴァンパイアの様なГарсияの周囲に多数の武器を召喚する。
 時が止まったかのように、Гарсияは宙に立ちギラリと瞳を輝かせると周囲に飛んでいる従魔『黒翼』達にウェポンズレインで無差別に攻撃をした。
「お待たせしました、怪我した方から回復します」
 客船が無事に港から出航完了したのを見届けた望月は、ケアレインで仲間の傷を癒す。
「はい、これでおーしまいっ!」
 アリソンが最後の一体に止めを刺すと、元気よく声を上げた。
「あ、早く愚神が行った場所へ急ぐんだよ!」
 チルルが仲間に言いながら駆け出した。

●堕ちる冠
「見た気がする顔が居るの……」
 梅姫に酷似した愚神は能力者達の顔を見回した。
「その瞳はお変わりない様で……ほっと致しました」
 と、菊次郎は、梅姫に酷似した愚神に向かって恭しくお辞儀をした。
「あぁ、口だけの若造じゃったな……お主は」
 訝し気な表情で梅姫に酷似した愚神は、菊次郎を見下ろした。
「御身よ、もはやここにその様な価値があるとは言えないでしょう。ご考慮を……かはっ!」
「下らぬ、実に、な」
 梅姫に酷似した愚神は、花弁を手の中に集めると薙刀の形状にし真っ直ぐに菊次郎の腹部を貫く。
『っち! 間に合わなかったか!』
 バルトロメイが吠えながら梅姫に酷似した愚神にドラゴンスレイヤーを振り下ろす、が。
 薙刀は元の花弁に戻ると、ピタッと宙に止まり全方位に向かって花弁が飛ぶ。
「危ない!」
 咲は冥人を庇うように前に両手を広げながら立つ。
『雪、器を……』
「あぁ、仕方がない……全員、リンクバーストせよ! 死んでも、器を守り抜け!」
 梅、桜、そして白い花弁が混ざり、前が見えぬほどの吹雪……否、梅姫に酷似した愚神の攻撃手段であろう。
 一枚、一枚、意思があるかのようにライヴスを保有している者に向かって飛んでいく。
「その一撃を止めなさい」
 と、菊次郎は支配者の言葉を言うが、梅姫に酷似した愚神は眉間にシワを寄せるだけ。
「望月さんやアリソンさんの回復術は、一般の方の治療に回すべきです」
 由利菜は賢者の欠片で傷を癒しながら望月に言う。
「分かりました。無理をしないでくださいね」
『主はああ言っているが……主が本当に危険な時は術を回してくれ』
 と、リーヴスラシルが望月に耳打ちをした。
「分かっています。由利菜ちゃんが怪我をしたら直ぐに回復しにいきますね!」
 笑顔で答える望月を見て、リーヴスラシルは安堵のため息を吐いた。

「記憶、戦闘履歴、照合……桜竜形態が望ましい、か」
 愚神はパチンと指を鳴らすと、花弁は再び一ヵ所に収束し巨大な竜と成る。
「傷が深い者を優先だ!」
 と、バルトロメイは倒れている菊次郎を肩に担ぐ。
(回復の力有する者を優先が望ましいですよ、梅)
 観察者である蓮の意識が助言する。
「良かろう」
 大太刀を手にした愚神は跳躍すると、望月の前に着地した瞬間に背後から由利菜がイリヤ・メックを振り下ろす。
『奥の手を安売りはせん』
「あなたとて、まだ高みの見物をしているように見えますが」
 リーヴスラシルの言葉に由利菜が答える。
「そうか、こちらも手の内を全て明かす様な事をしては……つまらんじゃろう?」
 愚神は優しい笑みを浮かべると、イリヤ・メックを掴み剣ごと地面に叩きつけようとするが由利菜も同様の事をしようとしていた。
「敵には、です!」
「しかし、おぬしは妾よりひ弱に見えるがの」
 だが、由利菜の体は剣ごと軽々と持ち上げられ地面にへと叩きつけられた。
「回復を今!」
「うむ、一本釣りじゃな」
 由利菜の元へと駆け寄ろうとする望月を見た愚神は、大太刀を握り締め素早く横を通り抜けた。
「ぐっ……か、回復を……」
「つまらぬ」
 愚神が欠伸をすると、望月の体に沢山の切り傷が出来ており背中から腹部を大太刀が貫いていた。
「さぁ、この命を捨ててでも、倒す!」
 雪が十文字槍を振るう、が。
 巨大な桜竜によって阻まれてしまうが、彼女とその部下は死を恐れぬ様子を見せずにただ立ち向かう。
「わたしだけじゃ、皆を……回復しきれない!」
 アリソンは傷だらけの体を引きずりながら、ただ生死を掛けた愚神との戦いを見るしか出来ない。
「あっけない……人とはこうも脆いのか」
 部下達は壊れた人形の様に、体の一部が破損し灰色のコンクリートは赤く塗られてしまった。
『ヴィランを助けることになるのは悔しいよ! だが今回の依頼は従魔を倒せ、っていう指示なんだ!』
 まだ動けるバルトロメイは、ドラゴンスレイヤーを握り締め愚神と雪の間に入り吠えた。
「ええ、だから守れる命は守るのです」
『サキ……』
 咲は小銃「S-01」を両手で握り締め、銃口を愚神の方へと向けながら言った。
「……あぁっ! 静音……私、ダメ、みたい……ごめん……」
 雪の瞳から涙が1つ、地面に落ちると意識は英雄に呑み込まれてしまった。
「あ、くっ……!」
 咲の体に無数のナイフが刺さる。
『さぁ、パーティはここから。春君、これをお返しする』
 邪英化した雪は『器』を春君に手渡した。
「目的は果たした、が……少々兵が減ってしまったのう」
 と、春君は倒れているヴィランを見回すと、『器』から優しい声が聞こえてきた。
「あぁ、新しい妹。歓迎しますわ。春君、困っている様ですわね……『器』を使い邪英化させると良いですわ。新しい妹と春君の帰還をお待ちしておりますわ」
「招致、春君姉様。女王のいう通りに……」
 邪英化した雪は、女王の言葉を聞き終えると春君に視線を向けた。
「そうじゃな……H.O.P.E.の者よ。敵対しておる者と遠慮なく戦える場を作ってやろうぞ」
 と、楽し気に笑い声を上げながら春君は、桜竜に乗りその場から去った。
「クソッ! あいつら楽しんでいるじゃねーかー!」
 バルトロメイが地面に拳を振り下ろす。
「いまは支部に戻ろうよ! 怪我の手当てが最優先!」
 と、キアラがアリソンに肩を貸しながら言う。
『主、あれは梅姫であって梅姫ではない。前と同じ行動は取れないだろう、そして我らの事を知っている口ぶりだ。だが、次の戦いは厄介な事になるだろう』
「……どういう事、ですか?」
『邪英化したヴィランと、我らを戦わせて楽しむという悪趣味な事をする心算だろう』
 菊次郎の問いにテミスは淡々とした口調で答える。
「約束を破ってでも、俺は……覚悟を決めたよ」
 冥人が咲を抱え、壱夜はブラッドリーに肩を貸す。
「分かりました。その時は止めません……ですが、守りはしますからねー?」
「うん」
 エージェント達はロンドン支部へ帰還するや否や、医療スタッフが慌てて担架にエージェント達を乗せて治療室へと運ばれた。
 一般人は全員避難完了、倉庫の半分が崩壊、エージェントの半数が重体、そして『Clematis』のリーダー真田 雪と部下5名邪英化という良くない結果となった。
 春君が手にした『器』に関して詳細は不明だが、花の女王に繋がっているのは確かである。
 それぞれの考えを胸に抱いたまま、エージェント達はH.O,P.E.の病院の天井を見上げながら傷を癒す事に専念した。

結果

シナリオ成功度 普通

MVP一覧

  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
  • 幽霊花の想いを託され
    花邑 咲aa2346

重体一覧

  • まだまだ踊りは終わらない・
    餅 望月aa0843
  • 愚神を追う者・
    石井 菊次郎aa0866
  • 永遠に共に・
    月鏡 由利菜aa0873
  • 幽霊花の想いを託され・
    花邑 咲aa2346

参加者

  • まだまだ踊りは終わらない
    餅 望月aa0843
    人間|19才|女性|生命
  • さすらいのグルメ旅行者
    百薬aa0843hero001
    英雄|18才|女性|バト
  • 愚神を追う者
    石井 菊次郎aa0866
    人間|25才|男性|命中
  • パスファインダー
    テミスaa0866hero001
    英雄|18才|女性|ソフィ
  • 永遠に共に
    月鏡 由利菜aa0873
    人間|18才|女性|攻撃
  • 永遠に共に
    リーヴスラシルaa0873hero001
    英雄|24才|女性|ブレ
  • 黒の歴史を紡ぐ者
    セレティアaa1695
    人間|11才|女性|攻撃
  • 過保護な英雄
    バルトロメイaa1695hero001
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  • 冬になれ!
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    英雄|12才|女性|ブレ
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