本部

秋だ、芋煮だ、食育だ!

落花生

形態
ショート
難易度
易しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
能力者
10人 / 4~10人
英雄
9人 / 0~10人
報酬
無し
相談期間
5日
完成日
2017/09/09 16:10

掲示板

オープニング

「芋煮じゃー!! 芋煮に備えるのじゃー!!!」
 とある東北のH.O.P.E支部。
 野太い声が響き渡っていた。
「なんですか……あれ?」
 エステルは、目をぱちくりさせる。
「あれは、ここの支部の名物である食育の芋煮会が始まった合図よ」
 職員は、チラシを一枚見せた。
 そこには「大人も子供も食育!」と大きな文字で書かれたチラシがあった。内容としては、普段食べているものがいかに手間がかかっているかを実感するための企画であるという説明が乗っていた。
「芋煮……と呼ばれる鍋物に入れる食材は、購入禁止なんですね」
 作るのに手間がかかる調味料のみは運営側が容易するようで、そのほかの食材はスーパーなどで買うことを許されない。
 つまり、肉を食べたかったら自分でさばけ。
 野菜が食べたかったら、農家を手伝え。
 こんにゃくや豆腐を食べたかったら、自作しろ。
 〆にうどんやラーメンを入れたかったら、小麦を使って自分で作れ。
 という趣旨らしい。
「大きな農家と提携してて、一日仕事を手伝うと野菜をわけてくれるように話はつけてあるの。もし、参加するなら初心者はそっちがお勧めかな。肉の処理は慣れている人はいいけど、人によってはトラウマになったりするし」
 食の大切さ理解でき農業体験も出来て一石二鳥、と職員は言う。
「面白そう……」
 エステルは、小さく呟いた。
「アルメイヤも食べてくれると……いいな」
 ここ一週間ばかり「泊まり込みの依頼を果たしてくる」と言って出て行った英雄に、エステルは思いをはせていた。


「ふぅ……」
 アルメイヤは、鍬を持って一息ついた。
 仕事はないかとH.O.P.Eにたずねたら、人員が足りてない農家を手伝ってほしいと依頼されたのだ。もうリンカーもなにも関係ない仕事内容だと思うのだが、H.O.P.Eからはとあるイベントに協力してもらっている農家なので依頼を無碍にはできないのだと説明を受けた。
「しかし、農業というのは意外と体力勝負なのだな」
 アルメイヤが手伝っている農家は、乳牛や野菜を育てている。農家のなかでも手広くやっている部類にはいるが、昨今の後継者不足で労働力は常に足りないという。
「それにしても、この仕事内容は何だ? 基本的な牛の世話や作物の収穫手伝いに草刈はまだ分かるが……農業初心者への指導? 私も初心者なのだが」
 一週間ぐらいは、この農家でお世話になっているアルメイヤ。
 もうプロではないが初心者でもないぐらいの牛の世話のスキルと野菜収穫のスキルを得していた。
「アルメイヤさーん、体験農業の方がいらっしゃいましたよ」
 アルメイヤと同じようにバイトとして農家に雇われた若者が、農業体験を希望している客を引き連れてくる。あの客たちへの指導と監督が自分の仕事かと納得したアルメイヤであったが、次の瞬間には目を丸くした。
「え……エステル?」
 体験農業の客の一人に、エステルが混ざっていたのだ。
 アルメイヤは、今回のバイトもエステルに言っていない。危険ではないが、重労働だから心配されると思ったのだ。
「背は腹に変えられない。……変装するか」

解説

・食材を調達して、川原で芋煮をしてください。

ルール
・食材の購入は禁止。
・小麦、味噌、醤油など手作りが難しいものに限っては、運営側が用意している。
・調理器具は貸し出すが、薪やかまどは自分たちで製作。
・食材と労働に感謝して、食べるべし。

食材調達指定の場所(早朝~昼)
・肉処理場……鶏、豚、牛。なんでもさばいている、肉処理工場。とても清潔であり、希望者は動物の解体を行うことができる。なお、解体する動物はしめてある。農家の近くにある。

・農家……アルメイヤが働いている農家。ほとんどの野菜を育てており、労働の対価として希望した野菜を得ることができる。仕事内容は乳牛の世話(ブラッシング、乳搾り、牛舎の掃除)と畑の雑草除去、葉物野菜の収穫など。

・豆腐・こんにゃくの製作……農家と同じ敷地内で製作する。作る材料はそろえられているが、自分たちで作り方を調べて製作しなければならない。うどんなどもこの場で、製作可能。

川原(夕方)……芋煮の会場。アウトドアには遅い時間なので、他の人間はまばら。大小さまざまな石が転がっており、枯れ木も多い。

アルメイヤ……農家の雇われ指導員。エステルにばれたくないので、ジャージにアフロのカツラをつけて変装している。分からないことを聞くと、答えてくれる。だが、豆腐やこんにゃくの作り方はわからない。料理の味付けは普通だが、みじん切りが好き。

エステル……芋煮初体験。野菜の雑草とりなどをしている。料理のスピードはゆっくりだが、ごく普通のものを作れる。

以下、PL情報
農業体験者のなかには泥棒が混ざっており、収穫した野菜や肉、豆腐などを取っていってしまう。

リプレイ

「こうゆう経験もしてみたかったです。絵本の参考にもなると思うのです」
 想詞 結(aa1461)は、額に汗を浮かべて「ふぅ」と息を吐いた。農業体験と聞いたときはドキドキしたが、都会の喧騒を離れての作業は心癒されるものがある。何より牧歌的な雰囲気は絵本作りのネタとしてつかえそうだ。次に書く絵本は、子供たちと牛が一緒に暮らしている話なんてどうだろうか。皆で仲良く暮らしていると嵐がやってきて、それを仲間たち全員の力で乗り切る話なんてきっと素敵だ。
『泥仕事なんて久々ね。インドアの結にちゃんとできるかしら?』
 サラ・テュール(aa1461hero002)は「私は余裕よ」と呟いて、彼女は農家の手伝いに精を出していた。どうやら農業的な作業は故郷を思い出すらしく、今日は一段とはりきっている。話によるとサラは小さなことに巡回騎士の手伝をしていたらしい。子供だったサラがどの程度の仕事をしていたのかは分からないが、後で聞いてみて絵本に登場させるのも面白いのかもしれない。
「食材は自分で確保ねぇ……」
 一方で沖 一真(aa3591)は乗り気ではなく、言われるがままに収穫した野菜を所定の位置に運んだり雑草を抜いたりと言った作業を繰り返していた。
『働かざるもの食うべからず!』
「へいへい」
 月夜(aa3591hero001)はいつもの装いを捲り上げて、よっこらしょと雑草を引き抜く。その仕草を見ていた一真は思わず呟いた。
「……ブルームフレアで焼きはらうのはどうよ」
 それでは、収穫物も燃えてしまう。
「御屋形様、月夜殿、芋煮ですよ!! 私大好きです!! 頑張って手伝いまして早く頂きましょう!!」
 三木 弥生(aa4687)は張り切って、収穫したばかりの芋を持ち上げる。
『芋煮か……好き好んで食べたいってわけじゃあ無いんだけどなぁ……』
《アマリ、スキキライ、スルナヨ……》
 両面宿儺 スクナ/クシナ(aa4687hero002)は、はいはいとうなずきながら小さな主の手伝いをする。
「力仕事なら任せてくださいませです! 何時も鎧を着ながら筋トレをしている私にとって持ち上げれないものは何もありません」
 牛だって持ち上げて見せます、と意気込む弥生に農家の人々はさすがに牛はと困り顔である。
『牛は非常にデリケートな生物だからな。乱暴に持ち上げては暴れてしまう』
 ジャージにアフロのカツラを被ったアルメイヤは、それとなく弥生を注意する。そのあまりにも不審者まるだしの格好を、月夜はいぶかしむ。
『すごくスタイルいいのに、どうしてそんな髪型を……?』
「まぁ、趣味は人それぞれだからな」
 一真は我かんせずといった具合で、作業を続けていた。
『……良い子ですね……こんな感じですか?』
 ファルファース(aa0386hero001)はニコニコしながら、乳牛のブラッシングを手伝っていた。染井 桜花(aa0386)の父親の家庭菜園の手入れを手伝った事があるのでファルファースは手早く野菜の手入れをできたが、乳牛の世話というのもなかなかできない経験だったのでこちらにやってきたのだ。ぶもぉ、となく牛はテレビや本で見るとは違って個性がある。ブラッシング一つにしても、見慣れないファルファースたちを警戒する牛もいれば警戒もせずに暢気のブラッシングを受ける固体もいる。
『君は……私の知り合いに良く似ているね』
 なつかない牛相手にファルファースは苦笑いする。
『食育って何だ?』
 麦藁帽子にジャージという立派な農家ルックをばっちり決めたレオン(aa4976hero001)に、葛城 巴(aa4976)は微笑みながら答えた。
「良く食べると良く育つ、って意味だよ」
 そういういみだっけ、と疑問に思ったのは新納 芳乃(aa5112hero001)である。だが。彼女も食育の正しい意味をしらない。
「芋煮なんだから、要は芋が入ってればいいんでしょ?」
 巴の言葉に、レオンは考え込んだ。巴のおかしな行動をすることはないが、大雑把過ぎる行動をするのは日常茶飯事なのである。
『嫌な予感がする……』
「だって、ほら」
 巴が指差す方向には、「もっ! いもっ! いももももっ!!」と叫びつつサツマイモを収穫するマシーンと化した島津 景久(aa5112)の姿があった。ちなみに彼女は三食どころか一日五食(おやつ、夜食)を唐芋で過ごしており、食育という言葉から一番遠いところにいた。家庭科の授業からやり直すべきであろう。
『景久様、芋煮会で使うお芋は、里芋だそうですよ』
「も……っ!?」
 新納 芳乃(aa5112hero001)の言葉に、景久の動きはぴたりと止まる。
 ちなみに、東北地方はあれだけ芋煮に熱狂しているくせにサツマイモに対する情熱は今一である。歴史的、気候的な様々な問題があるのかもしれない。だが、唐芋以外の野菜を決して口にしたがらない景久にとって、それは衝撃的なことであった。
「なあば! 俺は! 唐芋ん芋煮をすっど!!」
 景久の力強い言葉に、東北地方出身者がいたら突っ込んでいるころであろう。
 ――それは、もう芋煮じゃねぇべ。


『芋煮会とな……貧民の為の炊き出しかの? わ・ら・わ、は全く興味が無かったが、家臣どもが勝手に妾の名前を使ってやっておった様じゃな』
 血濡姫(aa5258hero001)は「おほほほほ」と笑おうとするも、なにやら消毒液くさい建物に眉をひそめる。
「何、で全く興味が無いことを強調するんですか?……それに慈善や救荒の意味合いは多分無いですよ」
 どちらかといえば収穫祭的な意味合いですかね、と蝶埜 歴史(aa5258)はあたりを眺めていた。
『歴史の言う事は難しくてよく分からぬ。それで何でそれに参加するのじゃ?』
「ここを見てください」
 歴史が指差すのは、清潔な銀色の台である。一見すれば学校に調理室に似ているが、底よりももっと無機質である。そして、台に乗っているのはすでに息絶えた豚。
『動物の解体?……うっぷ……な、何じゃと!』
「動物型の従魔を攻撃する時に、実地の解剖学的知識があると効率的に組織を破壊出来ると思うんです。この会では哺乳類と鳥類の解体が出来る……」
 今の歴史の言葉を聞いているものがいたのならば「それは食料だ!」と誰かが突っ込んでくれただろう。だが、残念ながらそんな奇特な人間は周囲にはいなかった。
『な、何を言っておるのかさっぱり分からぬ! さっぱり分からぬのじゃが、何か忌まわしい事を言っておるのは分かるぞえ!』
「非論理的ですね」
 忌まわしいなんて言葉は、緊急時には何の役にも立たないでしょう。
 血濡姫は、解体所を逃げ出した。
『今、小さなお姫様が飛び出していったけど?』
 S(aa4364hero002)は、目を丸くする。
 人でが足りないところを手伝いにきたら、鞠のようなお姫さまがぽーんと外にはねていってしまった。
「きっと、ここが怖かった……のかな?」
 依雅 志錬(aa4364)も首をかしげる。
 ともあれ、今回自分たちにできることは多くない。
 なにせ、双方共に調理の経験が圧倒的にたりないのだ。
『でも、刃物の扱いはなれてるよ。任せて』
「私も……調理ならばともかく、解体なら」
 志錬は備え付けの道具を選びつつもポツリと呟く。
「味見も出来ないけど……ここなら役には立てる……よね」
 体質上滅多に食事を取れない志錬は、少しばかり申し訳なさそうに食事になる予定の豚に向き合った。自分は、この豚を食べない。けれども志錬のものではない人の食事になって、その命を繋ぐだろう。そう考えて、志錬はポツリと呟いた。
「いただきます」
 Sは、その隣でにこりと笑っていた。
「うん。いただきまーす」
 九重 翼(aa5375)もこれからさばく豚に手を合わせる。
「……将来……俺が教える子供たちに……命をいただくとは、どういう事か……伝えていきたいと思いますので……」
 翼は、銀色の台に乗る豚の短い体毛をなでる。
「……まだ……ほんのりと温かいのですね……。つぶらな瞳をしています……。食いもしないのに、愚神を殺すよりは……ずっと優しい事なのでしょうか……。せめて……少しでも美味しく、いただけるように……丁寧に切り分けましょう……」
 翼が食への感謝を継げていると「これも頼むのじゃ!」と天城 初春(aa5268)が入ってきた。天野 桜(aa5268hero001)がその後ろで、苦笑いしていた。
『朝からすっごいハイテンションで。とってきた獲物も川原で捌こうとしていたんだぜ』
 血で川原を汚してしまっては他の人間に迷惑になるし、不衛生である。だからこうして、獲物を解体所まで持ってきたのだ。
「さて、獲物はどこかの?」
『食い意地がですぎだぞ』
 芋煮会が開かれると聞いた瞬間から、初春の頭の中には芋煮一触になってしまったのだ。昨日から「芋煮! 会場はどこじゃ! 参加条件は!」と煩かったものである。『落ち着け初春!』と桜が止めなければ、きっと今でもハイテンションのままであろう。
「では……このお肉はありがたく使わせていただきます」
 翼の言葉に、初春は大喜びでうなずいた。
「では、もっと取ってくるのじゃ!」
「自分たちが食べる分だけでいいんですよ」
 翼が初春を止めるが、彼女は聞く耳を持たない。桜が『あたいが、ほどほどで止めさせるから』と言って初春の後を追う。


 桜花は、豆腐とこんにゃくを作っていた。作り方は知っているので、出来るだけ材料は吟味して使うことにする。大豆を搾って作り出す豆乳の甘い香りや手作りゆえに不恰好に黒いこんにゃく。自分で作り出したものは、市販のものを買ったときとは違う満足感を生み出す。
「……うん。これは……なかなか」
 にがりをいれて固まった豆腐は、自分が想像していたよりも少しやわらかい。それでも一欠けだけ口に入れると、豆乳のときに感じた甘い味が口の中でほろほろと崩れていく。
「……良い食材だ」
 こんにゃくは、少しだけ硬い。
 きっと材料の分量とか混ぜ合わせるタイミングとかの問題なのだろう。それでも、十分に美味しい。そして、普段何気なく口にしているものはこんなにも手間暇かかっていたのだと実感できる。自分の体は、色々な人間の手間隙で生かされているのだなぁと実感した。
 畑のほうが、妙に騒がしい。
 気になって桜花は外に出てみた。
『44マグナム 改装霊弾……威力、知ってるよね?』
「頭なんか、綺麗に 吹き飛ばせる」
 Sと志錬は、見知らぬ人間に向って銃を突きつけていた。
 どうやら、野菜泥棒という不届きものが出現したらしい。
「うーん。食育はよくわからないけど、とりあえず泥棒はよくないね」
 捕まえるのに協力したらしい巴も「うんうん」とうなずく。
『お腹空いてるんですよね、一緒にどうですか?』
 月夜は、窃盗犯を芋煮にさそってみる。
「いいや……働かざるもの食うべからずだ!」
 それをきっぱりと否定したのは一真であった。
 数少ない男性労働力として、彼は名も知らぬアフロに散々こき使われた後だったのである。出来れば肉体労働はさけたかった一真なのに、彼はボロボロだった。翼も、怒りにまかせて窃盗犯を睨みつける。
「どれだけ多くのものが…この食材たちに捧げられているか、おわかりですか……! 汗水垂らして収穫した作物を、生き物たちがくださった命を、そのように横から掠め取っていくなど、不届き千万! 九重 翼……成敗いたす!」
『泥棒だなんて不届き者が出るなんてね……』
《ヒッシニツクッタモノヲ……ヌスンデイク………ウラメシヤ……》
『行けないなぁ……盗みを働き楽をしようとするその心……』
《……ウ―ラーメーシーヤ―――――!!!!》
 そろって泥棒を脅すスクナとクシナに、弥生が止めに入る。
「二人とも泥棒は許せないことですが、そこらへんでお願いします」


 川原から程近い山の中に桜花はいた。友のファルファースを連れ立って、山の中で瞳を閉じる。山の中で跳ねる獲物の気配に全身系を集中させる。
「……狙うは大物」
『……ですね……もしくは数を……でしょうか?』
 ファルファースの言葉に、桜花はうなずく。
「……ん……行ってる傍から……いた」
『……みたいですね……参りましょうか……姫様』
 狙った獲物は逃がさない。
 けれども、その命には感謝を。
 桜花は、無言で祈りをささげる。
『芋煮……へと参りましょうか』
「……ん」
 祈るだけでは終われない。
 食べて、味わって、自分の糧にして、それでようやく食育はなる。


『狩には行けなかった分、こっちに全力を注ごうかしらね』
 サラは鼻歌でも歌いそうなほど上機嫌で、簡易竈を作っていた。火が好きらしいサラは上機嫌であり、結は少しはらはらしながら沈下用の水を用意していた。山火事になるようなことはしないだろうが、現代人からしてみれば野外で火をつけるという行為自体が結構ハラハラするものである。
「そうだ。お肉の下処理もしないと」
 結は肉の前で、どうしようかと悩みだす。肉の大まかな処理はされているが、それだってスーパーで売られているような姿にされているというだけだ。
「特にお肉とかジビエがあるそうなので臭み抜きとかしっかりしないとですね。いっぱい食べる人が多そうなのでいっぱい準備しとくです」
 三角巾にエプロン姿で、結は自分が調理する工程をまずが思い浮かべる。特に、今日は使い慣れていないお肉もいっぱいある。分からないことは人に聞くとしても、まずは自分が何が分からないのかを確認しなければならない。
「食材は食べる人が食べやすいようにですね。基本が大事ってお母さんも言ってたです。基本だと……やっぱり仙台風になるんですか?」
 結は、肉を運んできた翼にたずねてみる。
 彼は、どこか難しそうな顔をしていた。
「はっ、すみません。そうですね。風というのは、あくまでその地方で一番食べなれているという味というだけですから……今回は気にしなくてもよいと思いますよ。すみません、ちょっとぼうっとしてしまって」
 翼は苦笑いをする。
『肉を裁いてたら、食欲がなくなったのかしら』
 サラの言葉に、翼は首を振る。
「いえ……食欲が失せたわけでは、ないのです……。ただ何だか……普通のお肉だなあ、って……」
 解体し、血抜きした肉は、豚も牛も鳥も、スーパーで売っているものとなんら代わりはしない。だが、その変わらなさが少しばかり、今の自分には引っかかる。
「ああして解体されたお肉を……俺たちは普段いただいている……。知識として知ってはいても、普段触れられるのは……加工した後のもの、ばかりですので……。多くの人が、日頃お肉を食べているのに……そのお肉がどのように作られているのか、本当に見て知っている人は少ない……。ただグロテスクだからと……目を背けているかのようです」
 上手くはいえないんですけど、と翼は口にする。
 教師を目指す翼は、今日の体験のことをいつか自分が受け持つ生徒たちに話してあげたいとも思う。だが、今日のできごとを未だに自分のなかで上手く消化し切れていない。ありきたりな道徳的な言葉以外にも、自分が感じたことは確かにある。
 けれども、それが美味く外に出てこない。
「命をいただくって……いつもやっているのに……こんなに難しいことだったんですね」
 翼はもやもやとした気持ちを引きずらぬように、蓄魂碑に手を合わせたときの気持ちを思い出す。葛藤を抱えたままでも、今はこの食料に真剣に向き合おう。
「いえ……そういう話も、いつか絵本にできたら素敵なんですけど」
 今の自分では上手く話しに消化できる自信がない、と結も呟く。
『炎は準備よさそうだ。鍋の準備をしてくれ』
 サラの言葉に、結は竈に鍋を乗っけた。
「要は芋が入ってればいいんでしょ?」
 巴の手の中には、なぜかサツマイモがあった。
『嫌な予感がする……』
 そもそも巴は農家の手伝いで大豆、かぼちゃ、もち米といった普通ならば芋煮には使わない素材ばかりを選んでもらってきていた。
 ちなみに、サツマイモは通りすがりの薩摩人からもらった。
「ももっ! いもっ、いももももももっ!」
 ちなみに、通りすがりの薩摩人こと景久は巴の隣で大興奮していた。サツマイモ料理と聞いて、我慢できなかったのだろう。
『こうなれば、妾とて負けてはおれぬ! 見ていよ……妾の全能を持って最強の劇辛具材を作り上げるのじゃ』
 こちらにも、本来の芋煮とは違ったものに熱を入れあげているものがいた。血濡姫であった。
『この真っ赤な輝き! ……おお! 何と言う刺激! 何と言う味わい! ……これでこの芋煮会は妾が征服したと言っても良かろうぞ!』
 自家製の唐辛子入りのこんにゃくをもった血濡姫は、不適に笑っていた。そのまま大量にこんにゃくを芋煮へと投入しようとする――しようとするがどこからかのっそりと現れたアフロに止められた。
「エステルは……辛いのがあまり好きではないんだ」
『ひぃ、なんじゃ。このアフロのお化けは!!』
 血濡姫は、悲鳴を上げながらアフロから逃げ回る。
 こんにゃくは、ぷるんぷるんと弾んで少量が芋煮のなかに落ちていった。
「なにやってるんだか……」
 アフロの不審者に追いかけられる血濡姫をみながら「やれやれ」と歴史は呟いた。
「あの……アフロさん。どこかで見たような?」
 エステルは、こてんと首をかしげる。
「……あれから……大事ない?」
 桜花は、エステルにたずねた。他の依頼のときに彼女と出会ってから、それからもう随分と長いあいだ会っていない。
「・・・元気なら ・・・それで良い。アルメイヤも……元気そうだ」
 少なくともアフロのカツラ被って全力疾走する人間は、絶対に元気である。
「アルメイヤは……ここにいませんよ」
「分からないなら……それでいい。……良い物を……作ろうか」
 気がつかないのならば、それでいい。
 桜花は、そう考えることにした。
「うむ、うまくできたの」
 初春は、満足げに出来上がった芋煮を見る。だが、そのできばえに桜は疑問を持つ。
『なあ初春? あたいが思うにこれって芋煮っていうか、芋(も煮ている)煮じゃねぇか?』
 うまいけど、と芋煮を食べながら桜は思う。
 新鮮なジビエは本来ならばやわらかく仕上げたいものだが、屋外での調理なので煮込んでやわらかくすることはできなかった。それでも噛めば噛むほど味が出る独特の食感が「命を食べている」という気にさせる。消毒と匂い消しもかねて酒でした湯でしたこともあり、ジビエ特有の獣くささはない。
 つまり、美味い。
 だが、ごった煮だ。
「まだまだ甘いのう。これこそが芋煮の真髄じゃ。収穫したものを鍋で煮込んで、皆で囲む。その工程を楽しむのが、粋というものじゃ」
 初春は、自分でしとめた猪の肉を食べつつも「ほう」と息を吐く。
 冷たくなり始めた風に、芋煮の湯気は心地よい。
 屋外での料理は、鍋のなかだけがご馳走ではない。風景や風もまた、料理を美味く感じさせるのである。
「こんな芋煮をいただけるとは、わらわたちは幸せだろう」
『だから、これは絶対にごった煮だって』
 巴が作ったいとこ煮もどきが、その粋たるもののような気がする。
「できた! もっと食べたい人には、レシピを渡すよ」
 書いといたの、と巴は自家製の芋煮(?)にご満悦である。
 ちなみに、巴が作ったのは大豆とかぼちゃと薩摩芋を一緒に煮たいとこ煮である。
『……これが芋煮なのか……?』
 レオンは自分の知識を総動員させるが、これはお世辞にも「一般的な芋煮」ではない。匂いは甘くてとてもおいしそうだけど、ぜんぜん違う。
「レオンは甘いの好きでしょ? はい!」
『……』
 巴は、笑顔で自称芋煮を手渡す。
 レオンは、それを無言でうなずいた。ちなみに、巴はというと他の人間が作った芋煮にもう興味を移していた。
「私、料理あまり得意じゃないから、少しは勉強しないとね」
 料理上手とかそういう問題じゃなくて、これはチョイスの問題じゃないだろうか。
 レオンは、人知れずそう思った。
 だが、この芋煮。
 予想外というか、予想通りにとある人物に大うけであった。
『さぁ、出来上がりましたよ! お芋だけでなく、ニジマスも加えましたので、食べ応えが……』
 だが、景久は芳乃のニジマス入りの芋煮には目もくれずに、巴の芋煮を頬ばっていた。
『あの、景久様、お芋以外にも』
「ももっ! いもっ、いももももももっ!」
 最早、芋以外は見えていない。
 偏食のきわみ、ここにありである。
「この甘み! 小豆の甘みと控えめな薩摩芋も甘みが、懐かしい田舎のおやつの味に仕上がっている!!」
 巴は「いやぁ」と照れていた。
 レオンは人知れず「おおざっぱなおばあちゃんの味」と呟いた。
『あの……せっかくだから里芋でも』
「いらん! 芋じゃ、もっと芋よこさんか!」
 芳乃は他の食材も進めて見るが、景久は相変わらず狂ったように芋を求めた。芋を求め、芋を求め続けた結果、見も心もサツマイモに……。
 ――なるわけなかった。
『申し訳ありません、偏食なもので……。気を悪くされないでくださいね』
 という芳乃も自分で取ってきたニジマスしか食べていない。
 その光景は、残念ながら食育とは離れている。
 だが、巴はそれを注意しようともしなかった。
「同じ物を一緒に食べて友達になるのも楽しいよ、って感じるのも食育だと思っていいんじゃないかな?」
『そういうものか?』
 食べながら、レオンは首をかしげる。
 とりあえず、甘いのに飽きたらしょっぱいのもあり、レオン的には幸せな芋煮ではあった。
「組織の状態を見る為に切り刻み過ぎて食肉としては形がいびつで筋も残ってますが、まあ出汁は良く出るでしょう」
 歴史はお玉片手にアクを慎重にすくって、芋煮を仕上げていた。
「この大きさの刃物で此処まで効率的に解体出来るとは……やっぱり正解だった。AGWにも充分応用出来るな」
 ぼそり、と呟く歴史の言葉があまりに怖かったので、血濡姫はその言葉を聴かなかった振りをした。
『何と美味そうな匂いじゃ……くくく、ところどころに浮かぶ妾の自信作も美しく実に華やかじゃの』
 ピエロに追いかけられたことなど忘れてしまう、と血濡姫は言っているがアレはピエロではなくてアフロである。
『ふふ、大丈夫、ちゃんと弥生ちゃんのこと考えて野菜メインにしたからねー』
 月夜は葱や豆腐といったものをたっぷりつかって、肉なしの芋煮を作っていた。優しい味でまとめると、それはご馳走になった。風のときに作ったもらうような胃に優しくて、滋養たっぷりの味がする。
「肉が……」
 食べ盛りの一真は、鍋の中身を見て絶望する。
 食べたい肉はひとかけらも入ってない。野菜を良く煮込んでいるのでコクは十分だが、食べ応えがぜんぜんない。胃はほんわかあったかくなるが、年頃の「肉を食いたいぜ」という欲求はまったく満たしてくれなかった。
「月夜殿の作ってくれたお鍋はとっても美味しいのです!」
 だが、笑顔で芋煮をもきゅもきゅと頬ばる弥生の顔を見ると、肉が欲しいとは絶対にいえない。
『美味しいですよね』
《……オイシイ。オイシイ》
 スクナとクシナもご満悦である。
「とっても美味しかったですね、月夜殿……あ、あの……また頂きたくなったらその……作って下さいますか? 勿論またお手伝い致しますし……ずっとお守りしますから……」
 いじらしい弥生の言葉に、思わず月夜は微笑む。
『次は美味しく作るコツも教えてあげるよ』
 月夜の言葉に、その言葉に弥生は驚いた。
 そして、にっこりと笑顔を作る。
「おねがいします!!」
 物を食べられない志錬は、その光景を見て微笑ましく思った。
 自分で作ったもの、自分で取ったものが、大切な人々の栄養源になる。
 大切な人々が笑う、栄養になる。
「……いただきます。それで、ごちそうさま」
 一口も食べていなかった志錬がそういうのを聞いて、Sは自分の分の芋煮を飲み干した。そして、大きな鍋の前で自分のちゃわんを突き出す。
「ごちそうさまでした。それで――おかわりをお願いします!」
 明日も元気に走り回るために、リンカーたちは今日を《命》いっぱい食べた。

結果

シナリオ成功度 成功

MVP一覧

重体一覧

参加者

  • ー桜乃戦姫ー
    染井 桜花aa0386
    人間|15才|女性|攻撃
  • エージェント
    ファルファースaa0386hero001
    英雄|18才|女性|ドレ
  • ひとひらの想い
    想詞 結aa1461
    人間|15才|女性|攻撃
  • 払暁に希望を掴む
    サラ・テュールaa1461hero002
    英雄|16才|女性|ドレ
  • 御屋形様
    沖 一真aa3591
    人間|17才|男性|命中
  • 凪に映る光
    月夜aa3591hero001
    英雄|17才|女性|ソフィ
  • もっきゅ、もっきゅ
    依雅 志錬aa4364
    獣人|13才|女性|命中
  • 先生LOVE!
    aa4364hero002
    英雄|11才|女性|ジャ
  • 護りの巫女
    三木 弥生aa4687
    人間|16才|女性|生命
  • 愚神の監視者
    両面宿儺 スクナ/クシナaa4687hero002
    英雄|36才|?|ジャ
  • 新米勇者
    葛城 巴aa4976
    人間|25才|女性|生命
  • 食いしん坊な新米僧侶
    レオンaa4976hero001
    英雄|15才|男性|バト
  • 薩摩隼人の心意気
    島津 景花aa5112
    機械|17才|女性|攻撃
  • 文武なる遊撃
    新納 芳乃aa5112hero001
    英雄|19才|女性|ドレ
  • エージェント
    蝶埜 歴史aa5258
    機械|27才|男性|攻撃
  • エージェント
    血濡姫aa5258hero001
    英雄|13才|女性|カオ
  • 鎮魂の巫女
    天城 初春aa5268
    獣人|6才|女性|回避
  • 笛舞の白武士っ娘
    天野 桜aa5268hero001
    英雄|12才|女性|ドレ
  • リンカー先生
    九重 翼aa5375
    獣人|18才|男性|回避



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