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古代の狩人
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最終発言2017/08/20 08:03:08 -
狩人になろう
最終発言2017/08/21 06:24:50
オープニング
「古代の狩人?」
H.O.P.Eの支部に置かれていたチラシには、そんなことが描かれていた。よく見れば、それは科学館の特別展示のチラシである。今は絶滅動物の展示をしているが、近い日取りで夜に絶滅動物の模型を見て回るツアーを企画するらしい。
今回博物館に展示されているのはマンモスやサーベルタイガーといった古代人と共に自然界を戦っていた模型で、夜に実物大の模型を見ることで当時の動物たちの恐ろしさを体験するというのがツアーの目的のようである。
「まぁ、暇だし」
ちょうど予定もないし、納涼だと思えばそれなりにヒヤリとするイベントかもしれない。
そのときは、そう思ったのだ。
●
「こちらが、マンモスの模型になります。隣にあるのがマンモスの骨ですが、模型を見ると全身が長い毛で覆われているのがわかりますね?」
マイクをもった学芸員が、模型の前で説明を始める。ツアー参加者はほとんどが子供だが、ちらほらと大人の姿も見える。全員が懐中電灯を持っていて、明かりは非常口案内ものぐらいしかなかった。懐中電灯がなかった古代の人々が夜中に狩りはしなかっただろうが、夜中に見るとマンモスはより一層巨体に思えた。こんなものを祖先たちは狩り尽くしてしまったのだから、人間と言うのはつくづく恐ろしい。
「隣にいるのがサーベルタイガーという名前で有名な、スミロドンです。隊長は二メートルですが体重は四百キロにもなったと言われて……」
突然学芸員の説明が途切れる。
暗くて分かりづらいが、どうやら別の学芸員が話しかけたらしい。
「……皆さん、この先の部屋では明りが付く予定だったんですけど機械が故障したようなので少しお待ちください。では、スミロドンの説明に戻りますね。あら?」
学芸員が、懐中電灯を向けた先にサーベルタイガーの模型はなかった。
「きゃー!!」
子供の一人が悲鳴を上げる。
それに連鎖するように子供たちが次々と悲鳴を上げて、大人たちもパニックになった。そして、でたらめに懐中電灯の光が周囲を照らすなかでツアーに参加していたリンカーの一人は見てしまった。
「おい……嘘だろ。サーベルタイガーが動いてるぞ」
懐中電灯の光の先には、ぐるるると威嚇する猫科の大形動物の姿があった。その姿は、一般客の目にも映ったのだろう。子持ちの親は我が子を抱きかかえて、必死に非常口まで走ろうとしていた。
解説
一般客の避難および従魔の討伐
・夜の科学館――機械の故障により、非常口の明かり以外はすべて消えている。
展示室……さまざまな絶滅動物の骨や模型があるエリア。模型により当時の自然の様子を忠実に再現されており、視界はかなり悪い。
川ゾーン……比較的視界は開けているが木々がわずかに密集しており、サーベルタイガーはそこに身を潜めている。
森ゾーン……もっとも見通しが聞かない場所。マンモスとホラアナライオンが出現する。
平野ゾーン……見通しがきく場所。ケブカサイが出現する。
一般客……子供十人。親五人。学芸員二人。全員がパニックを起こしており、非常口から逃げようとしている。
サーベルタイガー……三体出現。持久力はないが、瞬発力が高い。物陰に隠れていきなり襲いかかってくる。回避は難しい。大きな牙を持ち、一度噛みつかれると大ダメージ。川ゾーンで不利になると森ゾーンに移動し、子供たちを襲う。
マンモス……一体出現。巨体のため物陰に隠れることはない。長い毛によって遠距離攻撃をほぼ無効化することができる。長い牙を持ち、敵を串刺しにしようとする。ライオンが動きを止めた敵を踏みつぶそうともする。
ホラアナライオン……三体出現。マンモスの周辺に、出現。サーベルタイガーほどの攻撃力と瞬発力はない。
ケブカサイ……四体出現。全身が毛で覆われており、遠距離攻撃を無力化する。四メートルの巨体であるが、マンモスよりも素早く動くことができ敵に向かって突進してくる。
以下の技は絶滅動物が共通して使用する。
野生の勘――人間の気配に敏感になる。
絶滅の恨み――一回のみ使用し、体力の三分の一を回復。同時に、攻撃力を上げる。
古代生物――鳴声を上げることでライブスを衝撃波のように放つ。
以下PL情報
・非常口の向こう側には、上記の数の含まれていないサーベルタイガーが一匹いる。
・子供たち五人はパニックになり、森ゾーンに隠れてしまう。
リプレイ
●パニックは静まらない
明かりの消えた科学館に、絶命動物の声が響き渡る。
それはまるで「よくも滅ぼしてくれたな」と恨み言吐くような泣き声であった。
――ぐるうぅぅぅ。
「きゃぁぁ、あっちに何かがいるわ!!」
「逃げろ!!」
パニックになる一般客に踏み潰されないように伊邪那美(aa0127hero001)は、御神 恭也(aa0127)にしがみついた。
「不味いな……暗闇が混乱に拍車を掛けてる」
『あわわ、みんなボクらの話を聞いてくれそうにないよ』
ともかく、彼らを一度落ち着かせなければ二次被害が起こるかもしれない。伊邪那美は、声を張り上げた。
「みなさーん。おちつてくださいーい!!」
「落ち着いて!」
氷鏡 六花(aa4969)も負けじと声を張り上げていたが、一般客のパニックはひどくなるばかりだ。アルヴィナ・ヴェラスネーシュカ(aa4969hero001)は、声を張り上げるのをやめさせた。
『不安と恐怖で、我を忘れているわ』
「なら……少しでも安心してもらわないと……」
六花は、自分にできることを一生懸命に考える。
アルヴィナは仲間の行動を見ていて、と伝えた。
ニウェウス・アーラ(aa1428)は、身に着けているジェットブーツの調子を確かめる。戦闘になるとは思わなかったが、今日は最初からブーツの機動性に頼らなければならない。
『古代生物達の大・復・活! とか言ってる場合じゃないやねー、これ』
映画とれそうだよ、とストゥルトゥス(aa1428hero001)は目をぱちくりさせていた。暗闇の中から襲い掛かってくる古代生物は確かにB級映画っぽいが、自分自身で味わうよりも映画館で味わいたい恐怖である。
「ん……まずは、一般の人達を、避難させないと」
『あいあいさー。んじゃ、さくっと共鳴していきますか!』
共鳴すると同時に、ニウェウスはジェットブーツを起動させる。そして、パニックに陥る集団を先回りした。
「皆さん、落ち着いて、下さい……! 他の、エージェント達が、従魔を抑えています……。今の内に、落ち着いて。非常口から脱出、しましょう」
ニウェウスは、非常口の前に立つ。これで一般客が勝手に非常口から出て、敵に襲われる危険性はなくなった。だが、パニックは未だに収まらない。
『私達 H.O.P.E.エージェントが皆さんの安全を保証します! どうか落ち着いて、順に避難しましょう!』
いつの間にか非常口近くにいたPascal Fontaine(aa4786hero001)も、声を張り上げる。しかし、集団のパニックとは恐ろしく。一向に、一般客が冷静を取り戻す気配はなかった。
Pascalは、不安そうに東 直武(aa4786)を見つめる。この場で、一番の年長者は直武である。彼ならば、きっと模範的な行動で皆のパニックを納めてくれるはずだ。Pascalは、そんな希望を抱いた。
直武は、すぅっと息を吸った。
「しィィずゥまァれええええいッ!!!!」
鼓膜が破れるのではないかというほどの大声に、Pascalは耳をふさぐ。ちなみに二人はまだ共鳴してはおらず、これはパワフル爺さんの素の肺活量であった。
「皆の者、狼狽えるでない! こと自然界に於いて、獣とは理性を棄てた者をこそ好んで喰らうもの!!」
Pascalは、さすが最年長と思った。
直武は、大声を出し続けたままでパニックを起こした人々を落ち着かせようとしていた。
「自ら理性を棄てるなどは人の恥! 儂がこの五体を以て、その性根叩き直してくれよう!!」
『……あれ、それだと一般人の人たちを攻撃するような口ぶりですけど』
Pascalの不安げな言葉を聴いていないかのように、直武は暗がりのなかで力コブを作って自分のボディを強調させていた。ムキムキの老人は普段だったらそれなりの抑止力になるだろうが、この場では親たちが少しばかり冷静になっただけである。
『この状況でパニックを鎮静化させるのは無理そうだな』
ベルフ(aa0919hero001)は、一般人を見ながらそうつぶやく。先ほどから、仲間がパニックの沈静化をはかっているがなかなか成功しない。
「だったら、この流れを維持したまま、脱出できるように調整しないと」
九字原 昂(aa0919)は、近くにいたリンカーを集めて簡単な作戦会議を始める。
「この場を収めるのは無理があります。ですから、この勢いを利用して一般客を非常口からどこかへ誘導しましょう。とりあえず、僕とベルフが先頭で誘導します」
「なら……しんがりは私が」
ニウェウスの申し出に、お願いしますと昂は頭を下げた。
「室内がこうも暗いとわしらだけでは、一般客を守れん。一度全部外に出して、駐車場あたりに非難させるのが得策かのう」
直武の言葉で、とりあえずの方針が決まった。
昂は非常口のドアを開け、まずは自分だけで周囲を確認する。非常口から先に続く暗がりに、彼は顔をしかめた。街灯などなかった古代の人々は、きっとこんな暗がりのなかで一夜を過ごしていたに違いない。それはきっと、現代人には想像もつかないような恐怖であったはずだ。
「こんなところまで、古代を再現しなくてもいいのに……」
『無駄口叩いている暇があるならキリキリ動け』
ベルフに言われた昴は「了解」と呟く。
とりあえず、目下の危険は暗さだけだ。
昂は通信機で仲間に、一般人を誘導するために非常口を開閉するように支持を出す。
「昂……はぐれた子供たちがいるみたいよ」
通信機から聞こえてきたニウェウスの声だったが、それに対して今の昴たちは対処の使用がなかった。はぐれた子供たちは、仲間を頼るしかない。
――ぐるぅぅぅ。
暗闇の奥から、獣のうなる声が聞こえた。
●川ゾーン
『ねえ、避難の手伝いか森に行かなくて良いの?』
「そっちには何人か向かっているようだし大丈夫だろ。それよりも敵の数を減らさないとこの暗闇で奇襲を掛けられかねん」
幸いにして、見学中にどんな古代生物の模型があったかは分かっている。そのなかで、奇襲されたときに一番厄介なのはサーベルタイガーであった。彼らは、他の絶滅動物と比べると俊敏そうである。恭也は、そう考えた。
『う~ん、元が模型だと軽いから足跡が無いかも知れないね』
そもそもこんなに暗いと足跡を探すのが大変かも、と伊邪那美は呟く。
「斥候なら、任せて」
恭也たちと合流したのは、依雅 志錬(aa4364)であった。暗がりのなかで捜敵を優先させた彼女は、瑠璃と呼ばれる杖を握っていた。
『一般のお客様と間違えないようにね』
S(aa4364hero002)の言葉に、志錬はうなずいた。
「わかってる。そのための、識別装置(レーダー)……」
がさり、と頭上から音がした。
「よけろ!!」
恭也たちは、転がるように木から離れてサーベルタイガーの必殺の一撃をかわす。隣を見れば、志錬たちも今の一撃をなんとか避けたようであった。
『あんなに大きいのに、木にも登れちゃうの!?』
びっくりした、とばかりに伊邪那美は目を見開いていた。
「豹も木の上で待ち伏せをするらしいからな。サーベルタイガーが同じことをしてもおかしくは無い」
恭也の説明を聞いていたSは、納得がいっていないらしく唇を尖らせる。
『大きくて攻撃力があるのに、素早いなんてズルイよね!』
「でも……あれは、もう滅んだ動物」
志錬の言うとおり、今回の敵はすべてが絶滅動物である。ならば、現代まで生き残っている人間が負ける道理はない。
「―狩りの時間だね」
『相手に急所とか、あるといいなあ……』
志錬はサーベルタイガー相手に、テレポートショットを放つ。死角から攻撃され、サーベルタイガーは志錬に向かって走ろうとしていた。
「その牙は邪魔だな」
恭也は疾風怒濤を叩き込み、異様に発達したサーベルタイガーの牙を叩き折った。最大の武器である牙さえ折ってしまえば、攻撃力は大きく落ち込むはずだ。
「恭也……上に、もう二匹いる」
志錬の言葉に、恭也は木の上を照らす。
そこには二匹のサーベルタイガーがおり、次の瞬間には木の上から飛び降りて恭也を攻撃した。
「援護しないと……」
『待って!』
志錬は武器を構えたが、Sはそれを止めた。
『牙を折られたサーベルタイガーが森のほうに行くよ!』
「……こんなときに」
志錬は迷った。
このまま恭也の後衛をしていれば、サーベルタイガーは森へとたどり着くであろう。だが、負傷した恭也を置いてもいけない。
「……こちらの猫二匹は、俺に任せてもらおう。依雅さんは、逃げたサーベルタイガーを頼む」
志錬は、大丈夫と聞きそうになった。
だが、止めた。
恭也は、すでに攻撃の態勢に入っている。そんな彼に「大丈夫?」などと聞くのは、無粋であろう。志錬が逃げたサーベルタイガーを追ったのを確認し、伊邪那美はぼそりと呟いた。
『恭也のご先祖さまも、あれと戦ったりしたのかな?』
「さぁな。だが、今は勝つぞ」
恭也は抑えていた傷口から手を離し、拳を握った。
●森ゾーン
『マンモスのお肉って美味しいらしいよね』
漫画に出てくるような肉を思い出したらしく、百薬(aa0843hero001)の目がきらきら輝いていた。
「うーん、マンモスとも限らないけどゾウにしても部位によっては美味しいところは牛以上かもね。絶滅種なんだから食用なんて夢のまた夢ね」
そもそもゾウも法律的に守られている生物であるから、自分たちは一生その味を知ることはないだろう。「別に知らなくてもいいけど」と餅 望月(aa0843)は心の中で付け足した。テレビなどで人間の乱獲によって絶滅寸前という内容をよく見るせいなのか、ゾウを食用と見るのは何故だか可愛そうに思える。
『でも、マンモスと戦ったら、食べられる可能性も出てくるよね』
百薬は、そんなことは関係ないとばかりに舌なめずりをしていた。
『どうやら、五人の子供たちの姿が見えなくなっているようね』
レミア・ヴォルクシュタイン(aa3678hero001)の言葉に、狒村 緋十郎(aa3678)はうなずいた。一般客を安心させるためにもまずは従魔を殲滅しなければと動いた緋十郎たちであったが、子供たちの捜索もしなければならなくなったようだ。緋十郎は魔剣を担ぎ、マジックランタンであたりを照らした。
『こんな明かりを使ったら、動物に逃げられるんじゃないの?』
「……哺乳類は知能が高い。明かりなどを知らない場合は、逆に好奇心がうずいて見に来ると聞いたことがある。ましては、敵は従魔だ。明かりは、獲物がそこにいるサインだと考えるだろう」
緋十郎の言葉に、レミアはくすりと笑う。
『随分とやる気ね』
「本能なのかもしれないな……」
自分より大きな獣がいると思うと疼くのだ、と緋十郎は小さく呟いた。
「きたよー! マンモスだ!!」
『お肉―!!』
百薬の言葉に、望月は「だから、たべれないって」と思わず声を出してつっこむ。
『あれ? あそこにいるのって、もしかして子供なのかな?』
百薬の言葉に、ライトアイを施していた望月は目を見開く。
マンモスから少し離れた場所で、子供たちがうずくまって震えている。
「このままじゃ、踏み潰されます! 狒村さん!!」
お願いひきつけて、と望月は叫んだ。
「わかった。おい、こっちだ!!」
緋十郎はマンモスに向かって叫びつつ、子供たちと反対方向に逃げた。そして、子供たちが自分の攻撃に巻き込まれないことを判断してから、疾風怒濤を叩き込む。
『もう一体くるわよ』
レミアの言葉通り、緋十郎にはもう一体のマンモスの牙が迫っていた。
緋十郎は、それを魔剣で払いのける。
漆黒の外套を翻し、彼は獣のように吼えた。森の中で木霊する声は、我こそが現代の猿の王であると主張しているかのようであった。
「絶滅したマンモス風情が調子に乗るなよ。俺とて野性をこの身に宿すワイルドブラッドだ……!」
緋十郎は、自分の全長よりも大きな剣を両手で握る。
そして、古代の生物に向かって再び吼えた。お前に負けるほど俺は弱くはない、と言っているかのようであった。そして、緋十郎は自分に向かってくるマンモスに向かって剣を振り上げる。大剣とマンモスの巨体がぶつかり合い、緋十郎は一瞬だけ押し負けそうになった。
「うぉぉぉぉぉ――!」
彼は、吼えた。
負けるな、と自身を叱咤するように。
そして、その剣はマンモスの体を両断していた。
『あっちも本気になったようね。仲間がきたわよ』
休憩する暇はないわよ、レミアが言う。
いつの間にか、マンモスの足元にはホラアナライオンらしき従魔がいた。現代のライオンとほとんど見分けがつかない格好である。
『さっき学芸員の人が説明していたけど、現代のライオンと同種という説もあるそうよ。猿とライオンは、戦えばどちらが強いかしら?』
レミアの言葉に、緋十郎は決まっていると答えた。
「賢いほうが勝つ。自然とは、そういうものだ」
ライオンたちが、咆哮をあげる。
ライブスによる衝撃派から子供たちを守るために、緋十郎はカバーリングを使用した。
『何度も食らったら、いくら狒村さんでも体が持たないかも』
「なら、逃げるしかないですよね」
望月は、緋十郎が戦っている隙に保護した子供たちの手を握る。子供たちがここにいるから、緋十郎は荒々しくは戦えない。だったら、望月が子供たちを安全なところまで連れて行かなければ。
「ワタシと一緒なら大丈夫です、安心してください。一緒にいたら安全ですからね」
安心させるように望月は子供たちに言い聞かせ、その場を離れようとした。
そして、はっとする。
眼前には、牙の折られたサーベルタイガーがいた。
子供たちを守るために、望月は進んで前へと出た。
大丈夫、と望月は自分に言い聞かせる。あのサーベルタイガーは、牙が折られていた。ならば、きっと攻撃力も大きく落ち込んでいるはずである――と。
「……あぶなかった」
志錬の攻撃が、サーベルタイガーにあたった。
彼女はサーベルタイガーを追ってきていたのだ。
『――? マンモスには攻撃が通らなかったけど、サーベルタイガーには攻撃が通ったよね?』
Sが首をかしげる。
「……マンモスにあって、サーベルタイガーにはないものが攻撃を遮断しているのかも? ……大口径弾なら、それも わかる」
志錬もう一度武器を構えて、マンモスを狙った。
●草原ゾーン
「あれが、サイなのかな?」
六花は、草原エリアにいるケブカサイを見つけて目をぱちくりさせていた。六花の知るサイと基本的には同じ形だが、全身が毛で覆われている。
『きっと寒いところにすんでいたのね』
と、アルヴィナは言った。
もしも、あのサイが本物の動物だったら友達になりたい。
六花は、そう思った。
だが、六花は首を振って自分の考えを追いやる。アレは、従魔である。そして、子供から親を。親から子供を引き離そうとする、悪でもある。
半年前、六花も両親を突然失った。
今でも両親を失ったときのことを思い出すことはあるし、両親との楽しかった思い出ももちろん思い出す。そして、双方を思い出すたびに六花の胸は痛んだ。今は、アルヴィナが側にいてくれる。
でも、それとは違う。
両親は、六花にとっていつまでも特別だ。
それを亡くしてしまったからだろうか、子供が親とはぐれてしまったという報告を仲間から聞いたときは胸が痛んだ。あんな悲しい思いを、誰かにさせたくなんかない。
そう心に決めて、六花はブルームフレアをサイに向かって打ち込む。
だが、サイには効いていないようだった。
「あれ?」
『あの長い毛が、遠距離攻撃を無効化しているみたいね』
少し分が悪い相手かもしれない、とアルヴィナは考えた。遠距離が効かないのならば近距離攻撃をするしかないが、相手は六花よりはるかに巨大なサイだ。近づくことが危険なのは明白だが、六花の経験にはなる。
『六花、あのサイには近くで攻撃しないと効かないみたい。危険だけど、できる?』
アルヴィナの言葉に、六花はうなずく。
「うん、やってみる」
サイは六花を敵だと認識したらしく、こちらに突進してくる。六花は、サイをじっと見つめていた。相手は、おそらくだが直進しかしない。
――テレビで見た、闘牛士みたいに!!
六花はひらり、とサイの攻撃をかわす。
そして、至近距離で終焉之書絶零断章を使用した。サイの毛が一部分だけ凍りつき、先ほどのように攻撃が防がれた気配はなかった。やはり、魔法攻撃であっても近距離ならば効くらしい。
『けど、六花一人では荷が重いかもね』
サイは四体もいるのだ。
「アルヴィナ、六花は大丈夫。絶対に負けないから」
心では、六花は負けていない。
サイは咆哮を揚げ、六花に向かって衝撃派を放つ。六花は拒絶の風を使用して、その衝撃派から逃れた。別のサイたちは絶滅の恨みを使用し、体力を回復させ攻撃力を上げていた。
『回復して、攻撃力まで上げるなんて本当にやっかいよね……』
最後の手段を使うように六花に支持を出すか、アルヴィナは迷う。
そのとき、ケブカサイの背に誰かが飛び乗った。
「御神さんだー!」
六花は、喜びの声を上げた。
「またせたな……」
恭也は素早くサイの頭に向かって、一撃粉砕を使用した。
●非常口
「みなさん、止まってください!」
暗がりのなかで、昂はいつでも女郎蜘蛛を使用できるように構える。
非常口のドアをあけ、外へと一般人を誘導している最中だったが――暗闇のなかになにかがいる。その正体はわからないがニウェウスのレーダーユニットは、ライブスを発するなにかの存在を彼女に知らせていた。
「敵の反応、確認――三時の方向、気を付けて……!」
構えていた昴は、すばやく女郎蜘蛛を使用する。
だが、しとめた気配はない。
『相手には、こっちの動きがよく見えているのかもな。だとしたら、猫科の動物だろうな』
ベルフの推測が当たっているとしたら、こちらの不利かもしれない。
「わしらが時間を稼いでいる隙に、一般人を屋外へ逃がせるじゃろうか?」
あたりを警戒する直武は、いざとなれば最高齢の自分が敵をまとめて引き受ける気でいた。だが、Pascalは首を振る。
『……この暗闇なかで一般の人たちだけで逃げるのは、ちょっと難しいですよね。ここで倒すしかないかと』
「そうか。若者の足を引っ張ることはしたくないのう」
それに、一般人を傷一つなくこの科学館から脱出させたい。パワフル老人は、ふんと力を入れて気合と筋肉を膨張させる。暗いなかでは、直武の低い命中率がさらに不安なものになる。なら、この老体にできることは時間稼ぎぐらいだ。自身の筋肉に疲労物質がたまって、動けなくなるまで酷使する。その誓いをこめての、筋肉の膨張であった。
『マスター、位置は分かってるよね』
「もちろん……あと、もう少しだけ待って」
ニウェウスは、レーダーユニットで敵の位置を確認しながらも唾を飲み込む。この場では、彼女が、一番正確に敵の位置を把握しているだろう。だからこそ、ニウェウスの一撃は現状を打破する力を持っていた。
「チャンスは……今!」
ニウェウスは。リーサルダークを使用する。敵の動きを察知するレーダーユニットでは、敵が気絶しているのかどうかまでは分からない。もしかしたら、気絶した振りをして、こちらの油断を誘っているのかもしれない。
「昂、さっき女郎蜘蛛を放ったところに攻撃を!」
「分かりました!!」
ニウェウスの言葉に従い、昴は攻撃の態勢にはいる。
『ここまでお膳立てしてもらって外したら、男じゃないぜ』
ベルフの言葉に、昂はわかってるよと小さく答えた。
●駐車場にて
「南極の氷で作ったペンギン印のかき氷、おいしいよっ」
科学館の外で六花は、子供たちにカキ氷を振舞っていた。子供たちに良い思い出を残してあげたい、と六花が自分から言い出したことであった。男の子が多いだけあって、一番人気のシロップはブルーハワイだ。同じ年頃の子供たちが笑顔でカキ氷を食べている姿を見ると、六花もうれしくなる。
「東さんも……どうぞ」
一番人気のブルーハワイのシロップをかけて、六花は直武にもカキ氷を手渡す。Pascalの分はもう先に作っていて、そちらは六花とおそろいのイチゴ味にした。
「ありがたいのう。日本の夏は、やっぱりカキ氷じゃ」
『今日は疲れましたから、甘いものがおいしいです』
子供たちと一緒になって、カキ氷を食べる直武とPascal は心からほっとしていた。暗がりのなかを戦うことはなかなかの難しかったが、子供も大人も全てを守りきれたことが誇らしい。
『大事な模型が―とか言ってる場合じゃなかったけど、壊れた模型は本当に惜しかったかもね』
本物みたいにリアルだったし、とストゥルトゥスは呟く。
『でも、動き出したときはちょっと怖かったよね。特にマンモスが動いたときは踏み潰されるかと思った』
Sは肝試しみたいだったとしゃべり、それにショックを受けるものがいた。
『マンモスも居たんだ……漫画にあったみたいなお肉、食べたかったな~~』
ほら古い漫画に出てくるあの肉だよ、と伊邪那美は異様に残念がる。食べたことがないぶん好奇心が疼くのであろう。
『やっぱり食べてみたいよね。ロマンってそういうものだよね』
すごく気持ちは分かるよ、と百薬はうなずく。
『やっぱり、牛みたいな味なのかな? でも、牛よりももっと大きいから、もっと美味しいのかな。それとも、意外と筋肉質で硬いのかな?』
気になる、と百薬は拳を握っていた。
今からでもアフリカに行ってゾウ狩りをしよう、とでも言い出しかねない雰囲気である。そんなことをすれば、捕まってしまうが。野生が抜けていない緋十郎もちょっとうずうずしていた。今の彼なら、アフリカに誘ったら一緒に来てくれそうである。
「そんなに、美味しそうに見えるものかな?」
望月は首をかしげる。
なにかの番組で古代の人々がマンモスを刈っていた再現映像は見たこはあったが、望月はアレを見ても「美味しそう」と思ったことはない。今度、ためしに百薬にも見せてみよう。人知れず、望月はそう考えたのであった。
「……夢を壊すようで悪いが、元が模型だから食えんし、あんな部位は元から無いぞ」
恭也の現実的な一言に、伊邪那美は頬を膨らませた。
本当にお腹がすき始めたらしい百薬は『仕方ないね、美味しいご飯食べに行こう』と望月の袖を引っ張った。
「せっかくだから皆で行こうよ」
と望月は言うのに、は百薬あまり聞いているふうではない。
『緋十郎、あなたには自分の食事よりも優先させるべきものがあるわよね?』
レミアの言葉に緋十郎はうなずき、今日の戦いを一番近くで見守ってくれた妻に血をささげた。
結果
シナリオ成功度 | 成功 |
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